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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】真空処理装置及び希ガス回収装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 23/00 20060101AFI20220203BHJP
   F25J 3/08 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C01B23/00 Z
C01B23/00 M
F25J3/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016218189
(22)【出願日】2016-11-08
(65)【公開番号】P2018076194
(43)【公開日】2018-05-17
【審査請求日】2019-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(73)【特許権者】
【識別番号】591176306
【氏名又は名称】アルバック・クライオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】小平 周司
(72)【発明者】
【氏名】沼田 幸展
(72)【発明者】
【氏名】森平 淳志
(72)【発明者】
【氏名】日高 康祐
(72)【発明者】
【氏名】降矢 新治
(72)【発明者】
【氏名】村山 吉信
(72)【発明者】
【氏名】山崎 周一
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-081857(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102538393(CN,A)
【文献】特開平08-219019(JP,A)
【文献】特開平08-061232(JP,A)
【文献】特開平06-031104(JP,A)
【文献】特表2015-508882(JP,A)
【文献】特表2001-522982(JP,A)
【文献】特表2007-507635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 23/00
F25J 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、この真空チャンバ内を所定圧力に真空排気する真空排気手段と、排気ガス中に含まれる特定の希ガスを捕捉する第1捕捉体を備える希ガス回収手段とを備える真空処理装置において、
前記第1捕捉体が、前記真空チャンバから前記真空排気手段に通じる排気ガス通路に設けられ、前記真空チャンバ内の圧力に応じて前記希ガスの蒸気圧曲線から定まる第1温度に冷却されて当該希ガスを凝集させて捕捉するものであり、
前記希ガス回収手段は、前記排気ガス通路内で前記第1捕捉体の上流側に配置される第2捕捉体と、前記第1捕捉体を冷却する第1冷却手段と、前記第2捕捉体を冷却する第2冷却手段とを更に備え、第2捕捉体が、前記第2冷却手段により、第1温度より高く、前記排気ガス中に含まれる水及び二酸化炭素が凝集し且つ前記希ガスが凝集しない第2温度に冷却されることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記希ガス回収手段は、前記第1捕捉体が配置される前記排気ガス通路の部分を選択的に密閉する開閉バルブと、当該排気ガス通路の部分に接続される希ガス回収通路と、前記開閉バルブの下流側に配置される昇圧ポンプと、前記第1捕捉体を加熱する加熱部とを更に備えることを特徴とする請求項1記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記第1捕捉体は、前記排気ガス通路の部分を流れる排気ガスが接触した後、下流側への排気ガスの流出を許容する冷却パネルで構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記真空排気手段は、冷却パネルを有する高真空用ポンプを有し、この冷却パネルを前記第1捕捉体として用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の真空処理装置。
【請求項5】
前記高真空用ポンプは、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ及びディフュージョンポンプから選択されることを特徴とする請求項4記載の真空処理装置。
【請求項6】
特定の希ガスを含む混合ガスを真空排気する真空排気手段と、排気ガス中に含まれる特定の希ガスを捕捉する第1捕捉体を備える希ガス回収手段とを備える希ガス回収装置において、
前記第1捕捉体が、前記真空排気手段に通じる排気ガス通路の前記真空排気手段の上流側に設けられ、前記排気ガス通路内の第1捕捉体の下流側の圧力に応じて前記希ガスの蒸気圧曲線から定まる第1温度に冷却されて当該希ガスを凝集させて捕捉するものであり、
前記希ガス回収手段は、前記排気ガス通路内で前記第1捕捉体の上流側に配置される第2捕捉体と、前記第2捕捉体の上流側に配置され、前記第2捕捉体が配置される排気ガス通路の圧力を調整するコンダクタンス可変バルブと、前記第1捕捉体を冷却する第1冷却手段と、前記第2捕捉体を冷却する第2冷却手段とを更に備え、第2捕捉体が、前記第2冷却手段により、第1温度より高く、前記排気ガス中に含まれる水及び二酸化炭素が凝集し且つ前記希ガスが凝集しない第2温度に冷却されることを特徴とする希ガス回収装置。
【請求項7】
前記希ガス回収手段は、前記第1捕捉体が配置される前記排気ガス通路の部分を選択的に密閉する開閉バルブと、当該排気ガス通路の部分に接続される希ガス回収通路と、前記第1捕捉体を加熱する加熱部とを更に備えることを特徴とする請求項6記載の希ガス回収装置。
【請求項8】
前記第1捕捉体は、前記排気ガス通路の部分を流れる排気ガスが接触した後、下流側への排気ガスの流出を許容する冷却パネルで構成されることを特徴とする請求項6または請求項7記載の希ガス回収装置。
【請求項9】
前記真空排気手段は、冷却パネルを有する高真空用ポンプを有し、この冷却パネルを前記第1捕捉体として用いることを特徴とする請求項6~8のいずれか1項記載の希ガス回
収装置。
【請求項10】
前記高真空用ポンプは、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ及びディフュージョンポンプから選択されることを特徴とする請求項9記載の希ガス回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバと、この真空チャンバ内を所定圧力に真空排気する真空ポンプと、排気ガス中に含まれる特定の希ガスを捕捉する第1捕捉体を備える希ガス回収手段とを備える真空処理装置、及び特定の希ガスを含む基体を真空排気する真空排気手段と、排気ガス中に含まれる特定の希ガスを捕捉する第1捕捉体を備える希ガス回収手段とを備える希ガス回収装置に関し、より詳しくは、キセノンガスやクリプトンガスといった高価な希ガスを捕捉するのに適したものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイスの製造工程において、真空チャンバ内に配置される処理対象物に対して成膜処理、熱処理やエッチング処理といった各種処理を施す真空処理装置が広く用いられている。このような真空処理装置では、例えば、その真空チャンバ内にプラズマを形成したり、真空チャンバ内に導入されるプロセスガスを希釈したりするために希ガスを用いることがあり、その中には、キセノンガスやクリプトンガスを用いることもある。ここで、このように真空チャンバ内に導入された希ガスは、真空ポンプにより真空チャンバから真空排気されることになるが、キセノンガスやクリプトンガスといった特定の希ガスは、アルゴンガスやヘリウムガスに比べて非常に高価である。このため、このような特定の希ガスは回収して再利用できるように真空処理装置を構成しておくことが望まれる。
【0003】
従来、排気ガス中に含まれる特定の希ガスを回収する希ガス回収手段を備える真空処理装置は例えば特許文献1で知られている。このものは、真空チャンバ内を所定圧力に真空排気する真空排気手段の下流側に希ガス回収通路が接続され、この希ガス回収通路に、希ガスを捕捉、回収するゲッタ式精製装置が設けられている。このようなゲッタ式精製装置は、特定の希ガスだけでなく、窒素、酸素、二酸化炭素や水蒸気といった不純物も捕捉するため、排気ガス中の不純物濃度が高い場合(特定の希ガスの濃度が低い場合)、もはや特定の希ガスのみを効率よく捕捉して回収できないという問題がある。
【0004】
このため、上記従来例では、排気ガス中に含まれる不純物濃度を測定する測定手段を設け、この測定手段で測定した不純物濃度に応じて特定の希ガスを捕捉、回収するようにしている。然し、これでも、真空チャンバより排気される排気ガスの不純物濃度によっては特定の希ガスを捕捉、回収できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-157814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、排気ガスの不純物濃度に関係なく、常時、排気ガスから特定の希ガスのみを捕捉、回収できるようにした真空処理装置及び希ガス回収装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の真空処理装置は、真空チャンバと、この真空チャンバ内を所定圧力に真空排気する真空排気手段と、排気ガス中に含まれる特定の希ガスを捕捉する第1捕捉体を備える希ガス回収手段とを備え、前記第1捕捉体が、前記真空チャンバから前記真空排気手段に通じる排気ガス通路に設けられ、前記真空チャンバ内の圧力に応じて前記希ガスの蒸気圧曲線から定まる第1温度に冷却されて当該希ガスを凝集させて捕捉するものであり、前記希ガス回収手段は、前記排気ガス通路内で前記第1捕捉体の上流側に配設される第2捕捉体と、前記第1捕捉体を冷却する第1冷却手段と、前記第2捕捉体を冷却する第2冷却手段とを更に備え、第2捕捉体が、前記第2冷却手段により、第1温度より高く、前記排気ガス中に含まれる水及び二酸化炭素が凝集し且つ前記希ガスが凝集しない第2温度に冷却されることを特徴とする。
【0008】
本発明の真空処理装置によれば、真空チャンバから真空排気される排気ガスは、排気ガス通路を通って真空排気手段へと真空排気されていく。このとき、排気ガス通路の最上流側に位置する第2捕捉体に排気ガスが到達すると、特定の希ガスよりも蒸気圧が低いもの(水や二酸化炭素といった不純物)が第2捕捉体で凝集し、このような不純物が除去された状態の排気ガスとして下流側に流れる。そして、第2捕捉体の下流側に位置する排気ガス通路の第1捕捉体に排気ガスが到達すると、当該排気ガス中の特定の希ガスが第1捕捉体で凝集する。最後に、上記不純物及び特定の希ガスが除去された状態の排気ガスとして第1捕捉体の下流側に流れ、アルゴン、酸素や窒素といった他の不純物が真空排気される。このように本発明では、真空チャンバより排気される排気ガスの不純物濃度に関係なく、常時、排気ガス中の特定の希ガスを捕捉、回収できる。なお、本発明において、「第1温度」は、真空チャンバの圧力を基に設定することができるが、真空チャンバから第1捕捉体が位置する部分までの排気ガス通路が長く、排気ガス通路の排気コンダクタンスが無視できないような場合には、排気コンダクタンスを考慮して真空チャンバ内の圧力を補正し、この補正した圧力に応じて前記希ガスの蒸気圧曲線から第1温度を設定するようにしてもよい。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の希ガス回収装置は、特定の希ガスを含む混合ガスを真空排気する真空排気手段と、排気ガス中に含まれる特定の希ガスを捕捉する第1捕捉体を備える希ガス回収手段とを備え、前記第1捕捉体が、前記真空排気手段に通じる排気ガス通路の前記真空排気手段の上流側に設けられ、前記排気ガス通路内の第1捕捉体の下流側の圧力に応じて前記希ガスの蒸気圧曲線から定まる第1温度に冷却されて当該希ガスを凝集させて捕捉するものであり、前記希ガス回収手段は、前記排気ガス通路内で前記第1捕捉体の上流側に配置される第2捕捉体と、前記第2捕捉体の上流側に配置され、前記第2捕捉体が配置される排気ガス通路の圧力を調整するコンダクタンス可変バルブと、前記第1捕捉体を冷却する第1冷却手段と、前記第2捕捉体を冷却する第2冷却手段とを更に備え、第2捕捉体が、前記第2冷却手段により、第1温度より高く、前記排気ガス中に含まれる水及び二酸化炭素が凝集し且つ前記希ガスが凝集しない第2温度に冷却されることを特徴とする。
【0010】
本発明の希ガス回収装置によれば、真空排気される排気ガスは、排気ガス通路を通って真空排気手段へと真空排気されていく。このとき、排気ガス通路の最上流側に位置する第2捕捉体に排気ガスが到達すると、特定の希ガスよりも蒸気圧が低いもの(水や二酸化炭素といった不純物)が第2捕捉体で凝集し、このような不純物が除去された状態の排気ガスとして下流側に流れる。そして、第2捕捉体の下流側に位置する排気ガス通路の第1捕捉体に排気ガスが到達すると、当該排気ガス中の特定の希ガスが第1捕捉体で凝集する。最後に、上記不純物及び特定の希ガスが除去された状態の排気ガスとして第1捕捉体の下流側に流れ、アルゴン、酸素や窒素といった混合ガスに不純物として含まれる他のガスが真空排気される。このように本発明では、排気ガスの不純物濃度に関係なく、常時、排気ガス中の特定の希ガスを捕捉、回収できる。なお、本発明において、「第1温度」は、圧力調整機構によって調整される圧力を基に設定することができるが、真空チャンバから第1捕捉体が位置する部分までの排気ガス通路が長く、排気ガス通路の排気コンダクタンスが無視できないような場合には、排気コンダクタンスを考慮して真空チャンバ内の圧力を補正し、この補正した圧力に応じて前記希ガスの蒸気圧曲線から第1温度を設定するようにしてもよい。
【0011】
また、本発明においては、前記希ガス回収手段は、前記第1捕捉体が配置される前記排気ガス通路の部分を選択的に密閉する開閉バルブと、当該排気ガス通路の部分に接続される希ガス回収通路と、前記開閉バルブの下流側に配置される昇圧ポンプと、前記第1捕捉体を加熱する加熱部とを更に備えることが好ましい。これによれば、開閉バルブにより第1捕捉体が配置される排気ガス通路の部分を密閉した後、第1捕捉体を加熱すれば、当該第1捕捉体に凝集している希ガスを再度気化でき、この気化した希ガスが希ガス回収通路を介して回収すれば、特定の希ガスは回収して再利用できるように真空処理装置が実現できる。
【0012】
更に、本発明においては、前記第1捕捉体が、前記排気ガス通路の部分を流れる排気ガスが接触した後、下流側への排気ガスの流出を許容する冷却パネルで構成されることが好ましい。これによれば、排気ガス中に含まれる特定の希ガスの大部分を冷却パネルに接触させて凝集させることができ、特定の希ガスを効率的な捕捉に有利である。
【0013】
なお、前記真空排気手段は、冷却パネルを有する高真空用ポンプを有し、この冷却パネルを前記第1捕捉体として用いることで、装置構成が簡単になり、有利である。この場合、高真空用ポンプは、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ及びディフュージョンポンプから選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の真空処理装置の模式図。
図2】希ガスを捕捉、回収するために設定する第1温度を説明する蒸気圧曲線のグラフ。
図3】本発明の効果を確認する実験結果を示すグラフ。
図4】本発明の効果を確認する実験結果を示すグラフ。
図5】本発明の真空処理装置の変形例を示す模式図。
図6】本発明の他の実施形態の希ガス回収装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、捕捉する特定の希ガスをキセノンガスとし、このキセノンガスを真空チャンバ内に導入してスパッタリングにより処理対象物の表面にタングステン膜を成膜するスパッタリング装置を例として本発明の実施形態の真空処理装置を説明する。
【0016】
図1を参照して、SMは、本実施形態のスパッタリング装置である。スパッタリング装置SMは、処理室10を画成する真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1の側壁には、真空排気手段Pに通じる排気ガス通路11としての排気管11が接続されている。真空排気手段Pは、大気圧から低真空状態に真空引きするドライポンプやロータリーポンプ等の低真空用ポンプP1と、低真空状態から高真空状態(1×10-1Pa以下の圧力)に真空引きするターボ分子ポンプ、クライオポンプやディフュージョンポンプ等の高真空用ポンプP2とで構成され、真空チャンバ1内を所定圧力に真空排気できるようになっている。また、真空チャンバ1の側壁には、スパッタガスたるキセノンガスのガス源12に通じるガス管13が接続され、このガス管13にはマスフローコントローラ14が介設されている。これにより、流量制御されたキセノンガスを真空チャンバ1内(処理室10)に導入できるようになっている。真空チャンバ1の天井部にはカソードユニットCが取付けられている。以下においては、図1中、真空チャンバ1の天井部側を向く方向を「上」とし、その底部側を向く方向を「下」として説明する。
【0017】
カソードユニットCは、ターゲット2と、ターゲット2の上面にインジウム等のボンディング材(図示省略)を介して接合されるバッキングプレート3と、バッキングプレート3の上方に配置された磁石ユニット4とを有する。ターゲット2は、処理対象物Wの輪郭に応じて、公知の方法で平面視円形の板状に形成されたタングステン製のものである。バッキングプレート3は、その内部に冷媒通路30を有して、この冷媒通路30を流れる冷媒(例えば冷却水)との熱交換でターゲット2を冷却できるようになっている。ターゲット2を装着した状態でバッキングプレート3下面の周縁部が、絶縁体Iを介して真空チャンバ1の側壁上部に取り付けられる。ターゲット2にはスパッタ電源Eからの出力が接続され、成膜処理時、ターゲット2に負の電位を持つ直流電力やパルス電力が投入される。磁石ユニット4は、ターゲット2のスパッタ面(下面)21の下方空間に磁場を発生させ、スパッタ時にスパッタ面21の下方で電離した電子等を捕捉してターゲット2から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化する公知の構造を有するものであり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0018】
真空チャンバ1の底部には、ターゲット2に対向させて例えば金属製のステージ5が配置され、処理対象物Wがその成膜面たる上面を開放した状態で位置決め保持されるようにしている。
【0019】
ところで、真空チャンバ1内に導入されるキセノンガスは、排気ガス通路11に排気される。上記スパッタリング装置SMは、排気ガス通路11を流れる排気ガス中に含まれるキセノンガスを捕捉する第1捕捉体61を備える希ガス回収手段6を備える。
【0020】
第1捕捉体61は、真空排気手段Pに通じる排気ガス通路11に設けられ、真空チャンバ1内の圧力に応じてキセノンガスの蒸気圧曲線から定まる第1温度に冷却される。図2を参照して、例えば、第1捕捉体61の下流側65の圧力が1×10-5Paである場合、第1温度は50Kに設定することができる。この場合、キセノンガスよりも蒸気圧が高い酸素、窒素やアルゴンガスは、第1捕捉体61で凝集されず、第1捕捉体61の下流側の真空排気手段Pへ真空排気される。
【0021】
希ガス回収手段6は、排気ガス通路11内で第1捕捉体61の上流側に配設される第2捕捉体62を更に備える。第2捕捉体62は、第1温度より高く、キセノンガスが凝集しない第2温度に冷却される。例えば、第1捕捉体61の下流側65の圧力が1×10-5Paであり、第1温度が50Kに設定される場合、第2温度は70~85Kに設定することができる。これにより、キセノンガスよりも蒸気圧が高い水や二酸化炭素といった不純物が第2捕捉体62で凝集され捕捉される。これらの第1捕捉体61及び第2捕捉体62を夫々冷却する冷却手段63,64としては、冷媒を循環させる公知の冷凍機を用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0022】
第1捕捉体61及び第2捕捉体62の形状は特に限定されないが、同一のものを用いることができる。第1捕捉体61を例に説明すると、第1捕捉体61は、板状の基部61aと、基部61aの外縁から排気ガス通路11の上流側に向けて起立する壁部61bとで構成することができる。壁部61bの外面(図中の下面)に冷凍機63のヘッド部63aが当接しており、基部61a及び壁部61bが冷却される。これら基部61a及び壁部61bは、排気ガス通路11を流れる排気ガスが接触した後、下流側への排気ガスの流出を許容する、特許請求の範囲の冷却パネルを構成する。
【0023】
また、排気ガス通路11内には筒状部材11aが設け、筒状部材11aの上流側の部分の外面と排気ガス通路11の内面とを閉塞板11bで閉塞し、排気ガスが筒状部材11a内部を流れるようになっている。この場合、筒状部材11aの下流側の部分の外面と排気ガス通路11の内面との間の隙間に、第1捕捉体61の壁部61bの先端を位置させることで、ラビリンス構造を形成することが好ましい。これによれば、筒状部材11aの内部を流れた排気ガスが基部61aに接触した後、壁部61bにも接触するため、第1捕捉体61に対する排気ガスの接触回数を増やすことができ、キセノンガスを効率良く捕捉することができる。
【0024】
また、希ガス回収手段6は、第1捕捉体61が配置される排気ガス通路11の部分110を選択的に密閉する開閉バルブV1,V2と、当該排気ガス通路11の部分110に接続される希ガス回収通路66と、第1捕捉体61を加熱する加熱部とを更に備える。本実施形態では、冷凍機63を循環する冷媒を温媒に切り換えることで、第1捕捉体61を加熱することができるため、冷凍機63が加熱部を兼用しているが、冷凍機63は別個の加熱部を設けてもよい。両開閉バルブV1,V2を閉弁した状態で第1捕捉体61を加熱することで、第1捕捉体61に捕捉されているキセノンガスが気化して排気ガス通路11の部分110に放出される。そして、開閉バルブV3を開弁すると、当該排気ガス通路11の部分110に放出されたキセノンガスが希ガス回収通路66に流れる。
【0025】
希ガス回収通路66の開閉バルブV3の下流には昇圧ポンプP3が設けられ、昇圧ポンプP3の下流側の希ガス回収通路66の部分には切換バルブV4を介して回収タンク67が設けられている。これにより、所定圧力まで昇圧されたキセノンガスを回収タンク67内に回収することができる。また、希ガス回収通路66の他端(下流端)はガス管13に接続されているため、昇圧したキセノンガスを回収タンク67内に回収せずにガス管13を介して真空チャンバ1内(処理室10)に導入したり、回収タンク67からガス管13を介して真空チャンバ1内に導入することができる。
【0026】
上記スパッタリング装置SMは、公知のマイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた制御手段Crを有し、制御手段Crによりスパッタ電源Eの稼働、マスフローコントローラ14の稼働、真空排気手段P(低真空用ポンプP1,高真空用ポンプP2)の稼働、冷凍機(加熱部)63,64の稼働(第1温度及び第2温度の制御)、昇圧ポンプP3の稼働、各種バルブV1,V2,V3,V4の開閉操作等を統括管理するようになっている。以下、上記スパッタリング装置SMを用いて、処理対象物Wとしてシリコン基板を用い、シリコン基板Wの表面にタングステン膜を成膜する成膜処理中、排気ガス中に含まれるキセノンガスを回収する方法について説明する。
【0027】
先ず、真空チャンバ1内のステージ5にシリコン基板Wをセットした後、真空排気手段Pを作動させて真空チャンバ1内(処理室10)を真空引きする。真空チャンバ1内の圧力が所定圧力に達すると、マスフローコントローラ14を制御してキセノンガスを所定の流量(例えば、1~20sccm)で導入する(このとき、真空チャンバ1内の圧力が1×10-2~2×10-1Paの範囲となる)。これと併せて、スパッタ電源Eからターゲット2に直流電力(例えば、2~20kW)を投入して真空チャンバ1内にプラズマを形成する。これにより、ターゲット2のスパッタ面21をスパッタし、飛散したスパッタ粒子をシリコン基板W表面に付着、堆積させることによりタングステン膜が成膜される。このような成膜中、真空チャンバ1より排気される排気ガスは、排気ガス通路11を通って真空排気手段Pへと排気されていく。
【0028】
本実施形態によれば、例えば、第1捕捉体61の下流側65の圧力が1×10-5Paである場合、図2に示す飽和蒸気圧曲線から求めた第1温度(50K)に第1捕捉体61を冷却し、この第1温度より高く、キセノンガスが凝集しない第2温度(70K)に第2捕捉体62を冷却する。これによれば、第2捕捉体62に排気ガスが到達すると、キセノンガスよりも蒸気圧が低いもの(水や二酸化炭素といった不純物)が第2捕捉体62で凝集され、この不純物が除去された状態の排気ガスとして第2捕捉体62の下流側に流れる。そして、第1捕捉体61に排気ガスが到達すると、当該排気ガス中のキセノンガスが第1捕捉体61で凝集され、上記不純物及びキセノンガスが除去された状態の排気ガスとして第1捕捉体61の下流側に流れ、アルゴン、酸素や窒素といった他の不純物が真空排気手段Pへ排気される。このように、真空チャンバ1より排気される排気ガスの不純物濃度に関係なく、常時、排気ガス中のキセノンガスを捕捉することができる。
【0029】
次に、上記効果を確認するために、上記スパッタリング装置SMを用いて次の実験を行った。本実験では、真空チャンバ1内にキセノンガスを流量10sccmで導入し(このときの真空チャンバ1内の圧力は1×10-1Pa)、第1捕捉体61の第1温度を40K~300Kの間で変化させ、このときの第1捕捉体61の下流側のキセノンガスの圧力を測定した。その測定結果を図3に示す。図3に示すように、第1温度が90Kより高いと、第1捕捉体61でキセノンガスは捕捉されず、第1温度が90Kから50Kまで低くなるのに連れて第1捕捉体61でのキセノンガスの捕捉量が増加し、第1温度が50K以下になると捕捉量に変化が無いことが確認された。これより、第1温度を50Kに設定すれば、キセノンガスを効率良く捕捉できることが判った。
【0030】
次に、第2捕捉体62の第2温度を150K~30Kの間で変化させたときの第1捕捉体61に捕捉されるキセノンガスと不純物ガスの比率を夫々測定した。その結果を図4に示す。尚、上記実験と同様に、真空チャンバ1内に導入するキセノンガスの流量を10sccmとした(このときの真空チャンバ1内の圧力は1×10-1Pa)。図4に示すように、第2温度が85Kよりも高いと、キセノンガスよりも蒸気圧の低いもの(水や二酸化炭素といった不純物)の全てが、第2捕捉体62で凝集せず、凝集しなかった不純物が第2捕捉体2の下流側に流れて第1捕捉体61で凝集することが確認された。また、第2温度が70Kよりも低いと、一部のキセノンガスが第2捕捉体62で凝集され、下流側の第1捕捉体61で凝集するキセノンガスの比率が低くなることが確認された。これより、第2温度を70~85Kに設定すれば、キセノンガスを第2捕捉体62で凝集させずに、第1捕捉体61のみで凝集させることができることが判った。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態では、特定の希ガスがキセノンガスである場合を例に説明したが、特定の希ガスをクリプトンガスとする場合にも本発明を適用することができる。この場合、第1捕捉体61の下流側65の圧力を1×10-5Paとすると、第1温度を30~40Kに設定すれば、上記実施形態と同様に、第1捕捉体61によりクリプトンガスを捕捉することができる。そして、第2温度を70~85Kに設定すれば、クリプトンガスを第2捕捉体62で凝集させずに、第1捕捉体61のみで凝集させることができる。
【0032】
上記実施形態では、1つの真空チャンバ1からの排気ガス通路11に第1捕捉体61及び第2捕捉体62を夫々設ける場合を例に説明したが、複数の真空チャンバ1からの各排気ガス通路を合流させ、合流後の排気ガス通路に第1捕捉体61及び第2捕捉体62を夫々設けるように構成してもよい。これによれば、複数の真空チャンバ1に対して希ガス回収手段6を1つ設ければよいため、装置構成を簡単にすることができ、装置コストを低くすることができる。また、1つの真空チャンバ1からの排気ガス通路11を2つに分岐し、分岐後の各排気ガス通路に第1捕捉体61及び第2捕捉体62を夫々設けるように構成してもよい。これによれば、一方の第1捕捉体61を加熱して特定の希ガスを気化させて回収する間、他方の第1捕捉体61で特定の希ガスを捕捉することができるため、装置の稼働率を向上させることができる。
【0033】
また、高真空用ポンプP2として、公知の冷却パネルを有するターボ分子ポンプを用いてもよい。この場合、冷却パネルを第1捕捉体61として用いれば、装置構成がより簡単になり、装置コストをより低くすることができる。また、図5に示すように、第2捕捉体62aとして、冷却パネルを有するターボ分子ポンプを用いてもよい。これによれば、真空チャンバ1内の到達圧力をより低くすることができる。
【0034】
また、上記実施形態では、スパッタリング装置SMを例として真空処理装置について説明したが、CVD装置、熱処理装置やエッチング装置のように真空チャンバから排気ガス通路に排気される排気ガスに特定の希ガスを含むものに対して本発明を適用することができる。
【0035】
また、上記実施形態では、希ガス回収手段を備える真空処理装置について説明したが、図6に示すように、真空処理装置とは独立した希ガス回収装置RMとして構成することができる。以下、容器Ctに接続され、この容器Ctの内部空間に存する混合ガスに含まれるキセノンガスを捕捉、回収するものを例として本発明の他の実施形態の希ガス回収装置RMを説明する。尚、図1に示す真空処理装置SMと同一の構成要素については、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0036】
希ガス回収装置RMは、希ガス回収手段60備える。希ガス回収手段60は排気ガス通路11を有し、この排気ガス通路11は図示省略する公知のフランジ等を介して容器Ctに接続されている。排気通路11の開閉バルブV1と第2捕捉体62との間には圧力調整機構としてのコンダクタンス可変バルブVcが設けられ、コンダクタンス可変バルブVcの下流側の圧力を調整できるようになっており、当該圧力を測定する圧力計68が設けられている。また、開閉バルブV1とコンダクタンス可変バルブVcとの間には、開閉バルブV5が介設されたバイパス通路69の一端が接続されている。このバイパス通路69の他端は、開閉バルブV2とターボ分子ポンプP2との間に接続されており、特定の希ガスを回収しない場合には、バイパス通路69を介して真空排気できるようになっている。
【0037】
次に、上記希ガス回収装置RMを用いた希ガス回収方法について説明する。先ず、容器Ctに排気ガス通路11を接続した後、真空排気手段Pを作動させて容器Ct内を真空引きする。これにより、容器Ctから排気される排気ガスは、排気ガス通路11を通って真空排気手段Pへと排気されていく。このとき、圧力計68により測定される圧力が所定圧力(例えば1Pa程度)となるように、コンダクタンス可変バルブVcの開度を制御する。
【0038】
本実施形態によれば、第1捕捉体61の下流側65の圧力が2×10-3Paである場合、図2に示す飽和蒸気圧曲線から求めた第1温度(65K)に第1捕捉体61を冷却し、この第1温度より高く、キセノンガスが凝集しない第2温度(75K)に第2捕捉体62を冷却する。これによれば、第2捕捉体62に排気ガスが到達すると、キセノンガスよりも蒸気圧が低いもの(水や二酸化炭素といった不純物)が第2捕捉体62で凝集され、この不純物が除去された状態の排気ガスとして第2捕捉体62の下流側に流れる。そして、第1捕捉体61に排気ガスが到達すると、当該排気ガス中のキセノンガスが第1捕捉体61で凝集され、上記不純物及びキセノンガスが除去された状態の排気ガスとして第1捕捉体61の下流側に流れ、アルゴン、酸素や窒素といった他の不純物が真空排気手段Pへ排気される。このように、容器Ctより排気される排気ガスの不純物濃度に関係なく、常時、排気ガス中のキセノンガスを捕捉することができる。
【0039】
尚、特定の希ガスであるキセノンガスを含む混合ガスが存する空間としては、容器Ctのような密閉容器によって画成される内部空間に限らず、隔絶又は区画された空間であれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
RM…希ガス回収装置、SM…スパッタリング装置(真空処理装置)、V1,V2…開閉バルブ、Vc…コンダクタンス可変バルブ(圧力調整機構)、1…真空チャンバ、11…排気ガス通路、110…第1捕捉体が配置される排気ガス通路11の部分、P…真空排気手段、6,60…希ガス回収手段、61…第1捕捉体、61a…基部(冷却パネル)、61b…壁部(冷却パネル)、62,62a…第2捕捉体、63…冷凍機(加熱部)、65…第1捕捉体の下流側、66…希ガス回収通路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6