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特許7011591ポジ型感光性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、プリント配線板および半導体素子
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  • 特許-ポジ型感光性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、プリント配線板および半導体素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ポジ型感光性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、プリント配線板および半導体素子
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/023 20060101AFI20220119BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20220119BHJP
   G03F 7/075 20060101ALI20220119BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G03F7/023
G03F7/004 501
G03F7/075 501
G03F7/004 512
H05K3/28 D
H05K3/28 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018540942
(86)(22)【出願日】2017-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2017031248
(87)【国際公開番号】W WO2018056013
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2016182791
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】秋元 真歩
(72)【発明者】
【氏名】許 成強
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/081950(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/023
G03F 7/004
G03F 7/075
H05K 3/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体、
(B)光酸発生剤、
(C)メラミン系架橋剤、および、
(D)シランカップリング剤
を含むポジ型感光性樹脂組成物であって、
前記(D)シランカップリング剤として、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤および二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記(C)メラミン系架橋剤が、下記の化合物であり、
前記アリールアミノ基を有するシランカップリング剤が、下記の化合物であり、
前記二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤が、下記の化合物である、
ことを特徴とするポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)シランカップリング剤として、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤である下記の化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、t-ブチルカテコールを含むことを特徴とする請求項1に記載のポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1記載のポジ型感光性樹脂組成物を、フィルムに塗布、乾燥して得られる樹脂層を有することを特徴とするドライフィルム。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポジ型感光性樹脂組成物または請求項4記載のドライフィルムの樹脂層を、硬化して得られることを特徴とする硬化物。
【請求項6】
請求項5記載の硬化物を有することを特徴とするプリント配線板。
【請求項7】
請求項5記載の硬化物を有することを特徴とする半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポジ型感光性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、プリント配線板および半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水溶液で現像可能なポジ型感光性樹脂組成物として、ポリベンゾオキサゾール(PBO)前駆体とナフトキノンジアジド化合物等の光酸発生剤を配合した組成物が用いられている。このような組成物を熱硬化して得られるポリベンゾオキサゾール硬化物は、耐熱性および電気絶縁性に優れることから、電気材料の表面保護膜や層間絶縁膜、例えば、半導体素子のコーティング膜や、フレキシブルプリント配線板材料、耐熱絶縁性層間材への適用が進められている。
【0003】
上記のようなポリベンゾオキサゾール前駆体を含有するポジ型感光性樹脂組成物を熱硬化させるためには高温で処理する必要があるが、耐熱性に乏しい材料にも用いられるようにするために、また、環境面、コスト面、安全面における要求から、処理温度を低減することが求められている。そのような手段として、従来、架橋剤を配合することが知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-265520号公報
【文献】特開2011-053458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、架橋剤を配合すると、アルカリ現像後の未露光部の残膜率が低下するという問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、残膜率に優れたポジ型感光性樹脂組成物、該組成物から得られる樹脂層を有するドライフィルム、該組成物または該ドライフィルムの樹脂層の硬化物、該硬化物を有するプリント配線板および該硬化物を有する半導体素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記に鑑み鋭意検討した結果、特定の架橋剤とシランカップリング剤を用いることによって、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体、(B)光酸発生剤、(C)メラミン系架橋剤、および、(D)シランカップリング剤を含むポジ型感光性樹脂組成物であって、前記(D)シランカップリング剤として、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤および二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、前記(D)シランカップリング剤として、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤を含むことが好ましい。
【0010】
本発明のドライフィルムは、前記感光性樹脂組成物を、フィルムに塗布、乾燥して得られる樹脂層を有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の硬化物は、前記感光性樹脂組成物または前記ドライフィルムの樹脂層を、硬化して得られることを特徴とするものである。
【0012】
本発明のプリント配線板は、前記硬化物を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の半導体素子は、前記硬化物を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、残膜率に優れたポジ型感光性樹脂組成物、該組成物から得られる樹脂層を有するドライフィルム、該組成物または該ドライフィルムの樹脂層の硬化物、該硬化物を有するプリント配線板および該硬化物を有する半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例におけるスカムの確認方法の評価〇の評価例を示す写真図である。
図2】実施例におけるスカムの確認方法の評価△の評価例を示す写真図である。
図3】実施例におけるスカムの確認方法の評価×の評価例を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のポジ型感光性樹脂組成物が含有する成分について詳述する。
【0017】
[(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体]
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体を含有する。(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する方法は特に限定されず、公知の方法で合成すればよい。例えば、アミン成分としてジヒドロキシジアミン類と、酸成分としてジカルボン酸ジクロリド等のジカルボン酸のジハライドとを反応させて得ることができる。
【0018】
(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体は、下記の繰り返し構造を有するポリヒドロキシアミド酸であることが好ましい。
(式中、Xは4価の有機基を示し、Yは2価の有機基を示す。nは1以上の整数であり、好ましくは10~50、より好ましくは20~40である。)
【0019】
(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体を上記の合成方法で合成する場合、前記一般式(1)中、Xは、前記ジヒドロキシジアミン類の残基であり、Yは、前記ジカルボン酸の残基である。
【0020】
前記ジヒドロキシジアミン類としては、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。中でも、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0021】
前記ジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、5-tert-ブチルイソフタル酸、5-ブロモイソフタル酸、5-フルオロイソフタル酸、5-クロロイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’-ジカルボキシテトラフェニルシラン、ビス(4-カルボキシフェニル)スルホン、2,2-ビス(p-カルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等の芳香環を有するジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、1,2-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等の脂肪族系ジカルボン酸が挙げられる。中でも、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテルが好ましい。
【0022】
前記一般式(1)中、Xが示す4価の有機基は脂肪族基でも芳香族基でもよいが、芳香族基であることが好ましく、2つのヒドロキシ基と2つのアミノ基がオルト位に芳香環上に位置することがより好ましい。前記4価の芳香族基の炭素原子数は、6~30であることが好ましく、6~24であることがより好ましい。前記4価の芳香族基の具体例としては下記の基が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、ポリベンゾオキサゾール前駆体に含まれうる公知の芳香族基を用途に応じて選択すればよい。
【0023】
【0024】
前記4価の芳香族基は、前記芳香族基の中でも下記の基であることが好ましい。
【0025】
前記一般式(1)中、Yが示す2価の有機基は脂肪族基でも芳香族基でもよいが、芳香族基であることが好ましく、芳香環上で前記一般式(1)中のカルボニルと結合していることがより好ましい。前記2価の芳香族基の炭素原子数は、6~30であることが好ましく、6~24であることがより好ましい。前記2価の芳香族基の具体例としては下記の基が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、ポリベンゾオキサゾール前駆体に含まれる公知の芳香族基を用途に応じて選択すればよい。
【0026】
(式中、Aは単結合、-CH-、-O-、-CO-、-S-、-SO-、-NHCO-、-C(CF-、-C(CH-からなる群から選択される2価の基を表す。)
【0027】
前記2価の有機基は、前記芳香族基の中でも下記の基であることが好ましい。
【0028】
(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体は、上記のポリヒドロキシアミド酸の繰り返し構造を2種以上含んでいてもよい。また、上記のポリヒドロキシアミド酸の繰り返し構造以外の構造を含んでいてもよく、例えば、ポリアミド酸の繰り返し構造を含んでいてもよい。
【0029】
(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体の数平均分子量(Mn)は5,000~100,000であることが好ましく、8,000~50,000であることがより好ましい。ここで数平均分子量は、(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで換算した数値である。また、(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体の重量平均分子量(Mw)は10,000~200,000であることが好ましく、16,000~100,000であることがより好ましい。ここで重量平均分子量は、(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで換算した数値である。Mw/Mnは1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。
【0030】
(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体の配合量は、組成物固形分全量基準で60~90質量%であることが好ましい。
【0031】
[(B)光酸発生剤]
(B)光酸発生剤としては、ナフトキノンジアジド化合物、ジアリールスルホニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、ジアルキルフェナシルスルホニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、アリールジアゾニウム塩、芳香族テトラカルボン酸エステル、芳香族スルホン酸エステル、ニトロベンジルエステル、芳香族N-オキシイミドスルフォネート、芳香族スルファミド、ベンゾキノンジアゾスルホン酸エステル等を挙げることができる。(B)光酸発生剤は、溶解阻害剤であることが好ましい。中でもナフトキノンジアジド化合物であることが好ましい。
【0032】
ナフトキノンジアジド化合物としては、具体的には例えば、トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンのナフトキノンジアジド付加物(例えば、三宝化学研究所社製のTS533,TS567,TS583,TS593)や、テトラヒドロキシベンゾフェノンのナフトキノンジアジド付加物(例えば、三宝化学研究所社製のBS550,BS570,BS599)等を使用することができる。
【0033】
(B)光酸発生剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(B)光酸発生剤の配合量は、組成物固形分全量基準で3~20質量%であることが好ましい。
【0034】
[(C)メラミン系架橋剤]
(C)メラミン系架橋剤としては、メラミン構造を有する架橋剤であれば特に限定されないが、下記一般式(2)で表されるメラミン系架橋剤であることが好ましい。
(式中、R21A、R22A、R23A、R24A、R25AおよびR26Aはそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましい。R21B、R22B、R23B、R24B、R25BおよびR26Bはそれぞれ独立に水素原子、または、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。)
【0035】
上記一般式(2)中、R21A、R22A、R23A、R24A、R25AおよびR26Aはそれぞれメチレン基であることがより好ましい。また、R21B、R22B、R23B、R24B、R25BおよびR26Bはそれぞれ独立にメチル基または水素原子であることがより好ましい。
【0036】
(C)メラミン系架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(C)メラミン系架橋剤の配合量は、組成物固形分全量基準で1~15質量%であることが好ましい。1~15質量%であると、未露光部の残膜率を高くでき、露光部の現像残りを防止することができる。
【0037】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、(C)メラミン系架橋剤以外の他の架橋剤を含有することが好ましく、以下の架橋剤2、架橋剤5および架橋剤6の少なくともいずれか一種を含有することが好ましい。(C)メラミン系架橋剤と、架橋剤2、架橋剤5および架橋剤6の少なくともいずれか一種とを含むことにより、溶解促進効果が得られ、現像性が良好となる。
【0038】
架橋剤2
架橋剤5
架橋剤6
【0039】
(C)メラミン系架橋剤以外の他の架橋剤の配合量は、組成物固形分全量基準で1~15質量%であることが好ましい。特に、架橋剤2、架橋剤5および架橋剤6の合計配合量が、組成物固形分全量基準で1~15質量%であることが好ましい。
【0040】
[(D)シランカップリング剤]
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、(D)シランカップリング剤として、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤および二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0041】
前記アリールアミノ基のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等の芳香族炭化水素基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基等の縮合多環芳香族基、チエニル基、インドリル基等の芳香族複素環基が挙げられる。
【0042】
前記アリールアミノ基を有するシランカップリング剤は、下記一般式(3)で示される基を有する化合物であることが好ましい。
(式中、R31~R35はそれぞれ独立に水素原子または有機基を表す。)
【0043】
前記一般式(3)中、R31~R35が水素原子であることが好ましい。
【0044】
前記アリールアミノ基を有するシランカップリング剤は、ケイ素原子とアリールアミノ基とが、炭素数1~10の有機基、好ましくは炭素数1~10のアルキレン基で結合していることが好ましい。
【0045】
前記アリールアミノ基を有するシランカップリング剤の具体例としては下記の化合物であることが好ましい。
【0046】
前記二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤が有するトリアルコキシシリル基はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、また、これらの基が有するアルコキシ基はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられるが、中でも、メトキシ基、エトキシ基であることが好ましい。
【0047】
前記二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤は、少なくとも二つのケイ素原子が、炭素数1~10の有機基、好ましくは炭素数1~10のアルキレン基で結合していることが好ましい。
【0048】
前記二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤の具体例としては下記の化合物であることが好ましい。
【0049】
(D)シランカップリング剤は、解像性に優れることから、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【0050】
(D)シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(D)シランカップリング剤の配合量は、組成物固形分全量基準で1~15質量%であることが好ましい。1~15質量%であると露光部の現像残りを防止することができる。
【0051】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のシランカップリング剤を含有してもよい。
【0052】
以下に、本発明のポジ型感光性樹脂組成物に配合可能な他の成分を説明する。
【0053】
(t-ブチルカテコール)
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、t-ブチルカテコールを含有することが好ましい。t-ブチルカテコールを含有することにより、現像残渣(スカム)が少なく現像性に優れる。
【0054】
t-ブチルカテコールの配合量は、組成物固形分全量基準で0.1~2質量%であることが好ましい。
【0055】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物には、溶媒を配合することができる。溶媒としては、(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体、(B)光酸発生剤、(C)メラミン系架橋剤、(D)シランカップリング剤、および、他の添加剤を溶解させるものであれば特に限定されない。一例としては、N,N’-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンタノン、γ-ブチロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリノン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、ピリジン、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらは単独で用いても、二種以上を混合して用いてもかまわない。使用する溶媒の量は、塗布膜厚や粘度に応じて、(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体100質量部に対し、50~9000質量部の範囲で用いることができる。
【0056】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物には、更に光感度を向上させるために公知の増感剤を配合することもできる。
【0057】
また、本発明のポジ型感光性樹脂組成物には、基材との接着性向上のため公知の接着助剤を添加することもできる。
【0058】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物に加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機または無機の低分子または高分子化合物を配合してもよい。例えば、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子が含まれる。また、本発明のポジ型感光性樹脂組成物に各種着色剤および繊維等を配合してもよい。
【0059】
[ドライフィルム]
本発明のドライフィルムは、本発明のポジ型感光性樹脂組成物を塗布後、乾燥して得られる樹脂層を有する。本発明のドライフィルムは、樹脂層を、基材に接するようにラミネートして使用される。
【0060】
本発明のドライフィルムは、キャリアフィルムに本発明のポジ型感光性樹脂組成物をブレードコーター、リップコーター、コンマコーター、フィルムコーター等の適宜の方法により均一に塗布し、乾燥して、前記した樹脂層を形成し、好ましくはその上にカバーフィルムを積層することにより、製造することができる。カバーフィルムとキャリアフィルムは同一のフィルム材料であっても、異なるフィルムを用いてもよい。
【0061】
本発明のドライフィルムにおいて、キャリアフィルムおよびカバーフィルムのフィルム材料は、ドライフィルムに用いられるものとして公知のものをいずれも使用することができる。
【0062】
キャリアフィルムとしては、例えば2~150μmの厚さのポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムが用いられる。
【0063】
カバーフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等を使用することができるが、樹脂層との接着力が、キャリアフィルムよりも小さいものが良い。
【0064】
本発明のドライフィルム上の樹脂層の膜厚は、100μm以下が好ましく、5~50μmの範囲がより好ましい。
【0065】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物を用いて、その硬化物であるパターン膜は、例えば下記のように製造する。
【0066】
まず、ステップ1として、ポジ型感光性樹脂組成物を基材上に塗布、乾燥する、或いはドライフィルムから樹脂層を基材上に転写することにより塗膜を得る。ポジ型感光性樹脂組成物を基材上に塗布する方法としては、従来から感光性樹脂組成物の塗布に用いられていた方法、例えば、スピンコーター、バーコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷機等で塗布する方法、スプレーコーターで噴霧塗布する方法、さらにはインクジェット法等を用いることができる。塗膜の乾燥方法としては、風乾、オーブンまたはホットプレートによる加熱乾燥、真空乾燥等の方法が用いられる。また、塗膜の乾燥は、感光性樹脂組成物中の(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体の閉環が起こらないような条件で行うことが望ましい。具体的には、自然乾燥、送風乾燥、あるいは加熱乾燥を、70~140℃で1~30分の条件で行うことができる。好ましくは、ホットプレート上で1~20分乾燥を行う。また、真空乾燥も可能であり、この場合は、室温で20分~1時間の条件で行うことができる。
【0067】
基材に特に制限はなく、シリコンウェハー等の半導体基材、配線基板、各種樹脂、金属等に広く適用できる。
【0068】
次に、ステップ2として、上記塗膜を、パターンを有するフォトマスクを介して、あるいは、直接露光する。露光光線は、(B)光酸発生剤を活性化させ、酸を発生させることができる波長のものを用いる。具体的には、露光光線は、最大波長が350~410nmの範囲にあるものが好ましい。上述したように、適宜増感剤を用いると、光感度を調製することができる。露光装置としては、コンタクトアライナー、ミラープロジェクション、ステッパー、レーザーダイレクト露光装置等を用いることができる。
【0069】
続いて、ステップ3として、加熱し、未露光部の(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体の一部を閉環してもよい。ここで、閉環率は、30%程度である。加熱時間および加熱温度は、(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体、塗布膜厚、(B)光酸発生剤の種類によって適宜変更する。
【0070】
次いで、ステップ4として、塗膜を現像液で処理する。これにより、塗膜中の露光部分を除去して、本発明のポジ型感光性樹脂組成物のパターン膜を形成することができる。
【0071】
現像に用いる方法としては、従来知られているフォトレジストの現像方法、例えば回転スプレー法、パドル法、超音波処理を伴う浸せき法等の中から任意の方法を選択することができる。現像液としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の四級アンモニウム塩類等の水溶液を挙げることができる。また、必要に応じて、これらにメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒や界面活性剤を適当量添加してもよい。その後、必要に応じて塗膜をリンス液により洗浄してパターン膜を得る。リンス液としては、蒸留水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等を単独または組み合わせて用いることができる。また、現像液として上記溶媒を使用してもよい。
【0072】
その後、ステップ5として、パターン膜を加熱して硬化塗膜(硬化物)を得る。このとき、(A)ポリベンゾオキサゾール前駆体を閉環し、ポリベンゾオキサゾールを得ればよい。加熱温度は、ポリベンゾオキサゾールのパターン膜を硬化可能なように適宜設定する。例えば、不活性ガス中で、150~350℃で5~120分程度の加熱を行う。加熱温度のより好ましい範囲は、200~300℃である。加熱は、例えば、ホットプレート、オーブン、温度プログラムを設定できる昇温式オーブンを用いることにより行う。このときの雰囲気(気体)としては空気を用いてもよく、窒素、アルゴン等の不活性ガスを用いてもよい。
【0073】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物の用途は特に限定されず、例えば、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、光回路部品、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、光学部材等、樹脂材料が用いられる公知の種々の分野・製品などが挙げられる。特にポリベンゾオキサゾール膜の耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の特性が有効とされる広範な分野・製品、例えば、塗料または印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体素子の被覆膜、電子部品、層間絶縁膜、ソルダーレジストなどのプリント配線板の被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材または建築材料の形成材料として好適に用いられる。
【0074】
特に、本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、主にパターン形成材料(レジスト)として用いられ、それによって形成されたパターン膜は、ポリベンゾオキサゾールからなる永久膜として耐熱性や絶縁性を付与する成分として機能し、例えば、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、半導体素子の被覆膜、層間絶縁膜、ソルダーレジストやカバーレイ膜などのプリント配線板の被覆膜、ソルダーダム、光回路、光回路部品、反射防止膜、その他の光学部材または電子部材を形成するのに適している。
【実施例
【0075】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0076】
(ポリベンゾオキサゾール(PBO)前駆体の合成)
攪拌機、温度計を備えた0.5リットルのフラスコ中にN-メチルピロリドン212g仕込み、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシアミドフェニル)ヘキサフルオロプロパン28.00g(76.5mmol)を撹拌溶解した。その後、フラスコを氷浴に浸し、フラスコ内を0~5℃に保ちながら、4,4-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロリド25.00g(83.2mmol)を固体のまま5gずつ30分間かけて加え、氷浴中で30分間撹拌した。その後、室温で5時間撹拌を続けた。撹拌した溶液を1Lのイオン交換水(比抵抗値18.2MΩ・cm)に投入し、析出物を回収した。その後、得られた固体をアセトン420mLに溶解させ、1Lのイオン交換水に投入した。析出した個体を回収後、減圧乾燥してカルボキシル基末端の下記の繰り返し構造を有するポリベンゾオキサゾール(PBO)前駆体A1を得た。ポリベンゾオキサゾール前駆体A1の数平均分子量(Mn)は12,900、重量平均分子量(Mw)は29,300、Mw/Mnは2.28であった。
【0077】
【0078】
(実施例1、2、比較例1~11)
上記で合成したベンゾオキサゾール前駆体100質量部に対して、ジアゾナフトキノン(DNQ)10質量部と下記表1に記載の架橋剤5質量部、シランカップリング剤5質量部を配合した後、ベンゾオキサゾール前駆体が30質量%になるようにN-メチルピロリドン(NMP)を加えてワニスとし、スピンコーターを用いてシリコン基板上に塗布した。ホットプレートで120℃3分乾燥させ、感光性樹脂組成物の乾燥塗膜を得た。得られた乾燥塗膜に高圧水銀ランプを用い、パターンが刻まれたマスクを介して200mJ/cmのブロード光を照射した。露光後2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液にて60秒現像し、水でリンスし、ポジ型パターン膜を得た。
【0079】
尚、下記表1中、メラミン系架橋剤として架橋剤1(三和ケミカル社製ニカラックMW390)を用いた。また、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤、および、二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤として、それぞれカップリング剤1(信越シリコーン社製KBM-573)および2(信越シリコーン社製KBM-3066)を用いた。
【0080】
(未露光部残膜率の評価)
現像後のパターン膜において膜厚を測定し、現像前の膜厚との比をとることで未露光部残膜率をそれぞれ求め、下記基準で評価した。
○:未露光部残膜率が75%以上
×:未露光部残膜率が75%未満
【0081】
(解像度の評価)
現像後のパターン膜を電子顕微鏡(SEM“JSM-6010”)で観察し露光部をスカムなくパターニングできる最少パターンの大きさを解像度(L(μm)/S(μm))とした。
【0082】
【表1】
*:現像後に残膜しなかった。
【0083】
架橋剤1 架橋剤2
架橋剤3 架橋剤4
架橋剤5 架橋剤6
【0084】
カップリング剤1
カップリング剤2
カップリング剤3
カップリング剤4
カップリング剤5
カップリング剤6
カップリング剤7
カップリング剤8
【0085】
表1に示す結果から、前記の特定の架橋剤とシランカップリング剤を含有する本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、残膜率に優れることがわかる。
【0086】
(実施例3~6)
上記で合成したベンゾオキサゾール前駆体100質量部に対して、ジアゾナフトキノン(DNQ)10質量部と下記表2に記載の各架橋剤5質量部、シランカップリング剤5質量部、t-ブチルカテコール0.5質量部を配合した後、ベンゾオキサゾール前駆体が30質量%になるようにN-メチルピロリドン(NMP)を加えてワニスとし、スピンコーターを用いてシリコン基板上に塗布した。ホットプレートで120℃3分乾燥させ、感光性樹脂組成物の乾燥塗膜を得た。得られた乾燥塗膜に高圧水銀ランプを用い、パターンが刻まれたマスクを介して200mJ/cmのブロード光を照射した。露光後2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液にて60秒現像し、水でリンスし、ポジ型パターン膜を得た。
【0087】
尚、下記表2中、メラミン系架橋剤として上記架橋剤1(三和ケミカル社製ニカラックMW390)を用いた。また、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤として、上記カップリング剤1(信越シリコーン社製KBM-573)を用いた。メラミン系架橋剤以外の他の架橋剤として、上記架橋剤2、5および6を用いた。
【0088】
下記表2中、上記と同様の方法で未露光部残膜率および解像度を評価した。
【0089】
(スカムの確認方法)
現像後パターンの断面画像を確認し、パターンの裾引きがなくスカムがきれいになくなっているものを〇、パターンの裾引きはあるがシリコン基板面まで現像できているものを△、スカムが残っているものを×とした。また、〇、△、×の評価例をそれぞれ図1~3に示す。
【0090】
表1中の実施例1の感光性樹脂組成物についても同様に評価し、実施例3~6と共に結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
t-ブチルカテコール
【0093】
(実施例7、8、比較例12~25)
上記で合成したベンゾオキサゾール前駆体100質量部に対して、ジアゾナフトキノン(DNQ)10質量部と下記表3に記載の架橋剤5質量部、シランカップリング剤5質量部、t-ブチルカテコール0.5質量部を配合した後、ベンゾオキサゾール前駆体が30質量%になるようにN-メチルピロリドン(NMP)を加えてワニスとし、スピンコーターを用いてシリコン基板上に塗布した。ホットプレートで120℃3分乾燥させ、感光性樹脂組成物の乾燥塗膜を得た。得られた乾燥塗膜に高圧水銀ランプを用い、パターンが刻まれたマスクを介して200mJ/cmのブロード光を照射した。露光後2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液にて60秒現像し、水でリンスし、ポジ型パターン膜を得た。
【0094】
尚、下記表3中、メラミン系架橋剤として上記架橋剤1(三和ケミカル社製ニカラックMW390)を用いた。また、アリールアミノ基を有するシランカップリング剤、および、二つ以上のトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤として、それぞれ上記カップリング剤1(信越シリコーン社製KBM-573)および2(信越シリコーン社製KBM-3066)を用いた。
【0095】
下記表3中、上記と同様の方法で未露光部残膜率、解像度およびスカムを評価した。
【0096】
【表3】
*:現像後に残膜しなかった。
【0097】
カップリング剤9
カップリング剤10
カップリング剤11
【0098】
表2、3に示す結果からも、前記の特定の架橋剤とシランカップリング剤を含有する本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、残膜率に優れることがわかる。また、本発明のポジ型感光性樹脂組成物にt-ブチルカテコールを配合することによって、現像残渣が少なく、現像性がより優れることがわかる。さらに、本発明のポジ型感光性樹脂組成物に他の架橋剤を配合することによって、現像性がより優れることがわかる。
図1
図2
図3