IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京農工大学の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-ペルオキシダーゼ活性増大アプタマー 図1
  • 特許-ペルオキシダーゼ活性増大アプタマー 図2
  • 特許-ペルオキシダーゼ活性増大アプタマー 図3
  • 特許-ペルオキシダーゼ活性増大アプタマー 図4
  • 特許-ペルオキシダーゼ活性増大アプタマー 図5
  • 特許-ペルオキシダーゼ活性増大アプタマー 図6
  • 特許-ペルオキシダーゼ活性増大アプタマー 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】ペルオキシダーゼ活性増大アプタマー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20220121BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20220121BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
C12Q1/68
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2017087665
(22)【出願日】2017-04-26
(65)【公開番号】P2017200472
(43)【公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2016091390
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池袋 一典
(72)【発明者】
【氏名】山岸 恭子
(72)【発明者】
【氏名】金指 真菜
(72)【発明者】
【氏名】久野 斉
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/140681(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/141291(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/140629(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/005723(WO,A1)
【文献】特開平08-029430(JP,A)
【文献】特開平04-262796(JP,A)
【文献】Anal. Chem.,2012年,Vol. 84,p. 8383-8390
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基配列が式[I]:
ggg(n)1-2ggg(n)1-8ggg(n)1-2ggg [I]
で示されるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドから成り、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を増大させるアプタマーから成るヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項2】
前記式[I]が式[II]:
ggg(n)1-2ggg(n)1-6ggg(n)1-2ggg [II]
で示される請求項1記載のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項3】
前記式[II]が式[III]:
gggngggnnggg(n)1-2ggg [III]
で示される請求項1記載のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項4】
前記式[I]で示される塩基配列が、配列番号1~7のいずれかに示される塩基配列である請求項1記載のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項5】
前記式[I]で示される塩基配列が、配列番号1~4のいずれかに示される塩基配列である請求項1記載のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項6】
前記式[I]で示される塩基配列が、配列番号1又は2で示される塩基配列である請求項1記載のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項7】
式[I]の一端又は両端にそれぞれ0個~10個のヌクレオチドが付加された請求項1記載のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項8】
前記式[I]で示される塩基配列が、配列番号15~20、22及び23のいずれかに示される塩基配列である請求項1記載のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項9】
配列番号21で示される塩基配列から成るポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドから成り、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を増大させるアプタマーから成るヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項10】
配列番号21で示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから成る請求項9記載のペルオキシダーゼ活性増大剤
【請求項11】
生体から採取された、ヘムタンパク質を含む被検試料中のペルオキシダーゼ活性を、請求項1~7のいずれか1項に記載のペルオキシダーゼ活性増大剤の存在下で測定することを含む、被検試料中のヘムタンパク質の定量方法。
【請求項12】
前記ヘムタンパク質が、ミオグロビン又はヘモグロビンである請求項11記載の方法。
【請求項13】
生体から採取された、ヘムタンパク質を含む被検試料中のペルオキシダーゼ活性を、請求項8~10のいずれか1項に記載のペルオキシダーゼ活性増大剤の存在下で測定することを含む、被検試料中のヘムタンパク質の定量方法。
【請求項14】
前記ヘムタンパク質が、ミオグロビン又はヘモグロビンである請求項13記載の方法。
【請求項15】
ペルオキシダーゼ活性の測定を、リン酸バッファー又は酢酸バッファーの存在下で行う請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を増大させるアプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ミオグロビンは、筋組織内での酸素運搬の役割を担うタンパク質である。急性心筋梗塞発症後、破壊された心筋から流出するミオグロビンは、急性心筋梗塞発症後ごく早期のマーカーとして利用されている。また、ヘモグロビンは、赤血球中に含まれ、肺から吸入した酸素を各組織に運搬する役割を担うタンパク質である。血中ヘモグロビンは低値で貧血や白血病、尿中ヘモグロビンは高値で大腸がんのマーカーとなると考えられている。このため、ミオグロビンやヘモグロビンのようなヘムタンパク質の定量が行われている。
【0003】
ヘムタンパク質に補欠分子族として含まれるヘムは、ペルオキシダーゼ活性を有することが知られており、ヘムタンパク質の定量方法の1つとして、そのペルオキシダーゼ活性を測定する方法が知られている。ペルオキシダーゼは、酵素免疫測定(ELISA)における標識等として多用されており、その活性の測定方法は、種々のものが知られている。ペルオキシダーゼ活性の測定感度を向上させるために、主に基質が反応した際の発色を増感もしくは安定化する方法が種々開発されてきた。こうした手法では、ほとんどの場合で基質溶液と、増感剤または安定化溶液の2種類以上の試薬をアッセイのたびに混合する必要となり、操作が煩雑である上、試薬の保存にも留意する必要がある。また、そもそもペルオキシダーゼによる反応が起こっていない、あるいは反応生成物がごく微量である場合の検出は困難である。
【0004】
一方、ペルオキシダーゼ活性自体を増大させることにより、ペルオキシダーゼの検出感度を向上させる方法も知られている。例えば、ベタイン型代謝産物アナログを数十mM ~ 数百mM添加することで西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼ(HRP)を活性化できることが報告されている(日本生物工学会大会講演要旨集, 66, 76, 2014-08-05. http://ci.nii.ac.jp/naid/110009906315 (参照 2016-02-05))。さらに、グアニン四重鎖 (G4) 構造をとるアプタマーが、ヘミンのペルオキシダーゼ活性を増大させることが報告されている(非特許文献1)。すなわち、非特許文献1には、G4とヘミン(塩化物イオンが1個配位したポルフィリンの3価鉄錯体)が複合体を形成すると、ヘミン単体の場合と比べてペルオキシダーゼ様活性が250倍に向上することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chemistry and Biology, 1998, 5, 505-517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を増大することができる新規なアプタマー及びそれを用いたヘムタンパク質の定量方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、特定の構造を持つアプタマーが、ミオグロビンやヘモグロビンのようなヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を増大させる作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、塩基配列が式[I]:
ggg(n)1-2ggg(n)1-8ggg(n)1-2ggg [I]
で示されるポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドから成り、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を増大させるアプタマーを提供する。また、本発明は、配列番号21で示される塩基配列から成るアプタマーから成るヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性増大剤を提供する。さらに、本発明は、生体から採取された、ヘムタンパク質を含む被検試料中のペルオキシダーゼ活性を、上記本発明のアプタマーから成るヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性増大剤の存在下で測定することを含む、被検試料中のヘムタンパク質の定量方法を提供する。

【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を増大させることが可能な新規なアプタマーが提供された。下記実施例において具体的に記載されるように、本発明のアプタマーの存在下では、ミオグロビンやヘモグロビンのようなヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性が最大で十数倍にも増大される。このため、本発明のアプタマーの存在下でヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を定量することにより、測定感度が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】パラレル型とアンチパラレル型のG4アプタマーの構造を模式的に示す図である。
図2】下記実施例で作製した本発明の実施例のアプタマーの円偏光二色性スペクトルを示す図である。
図3】下記比較例のDNA配列の円偏光二色性スペクトルを示す図である。
図4】下記実施例のアプタマー及び比較例のDNA配列の存在下又は非存在下においてミオグロビン及びヘモグロビンのペルオキシダーゼを測定した際の化学発光シグナルの強度を示す図である。
図5】下記実施例のアプタマー及び比較例のDNA配列の終濃度が1nM、10nM及び100nMである場合のミオグロビンのペルオキシダーゼ活性を測定した際の化学発光シグナルの強度を示す図である。
図6】下記実施例において測定した、リン酸バッファー中でのアプタマーによる化学発光強度の増幅を示す図である。
図7】下記実施例において測定した、酢酸バッファー又はリン酸バッファー中でのアプタマーによるペルオキシダーゼ活性増幅計数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記の通り、本発明のアプタマーは、塩基配列が式[I]:
ggg(n)1-2ggg(n)1-8ggg(n)1-2ggg [I]
で示される。ここで、nは、a、c、g又はt(RNAの場合にはu)である。
【0012】
式[I]で示される塩基配列のうち、[II]:
ggg(n)1-2ggg(n)1-6ggg(n)1-2ggg [II]
で示されるものが好ましく、さらには、式[III]:
gggngggnnggg(n)1-2ggg [III]
で示されるものが好ましい。
【0013】
前記式[I]で示される塩基配列の好ましい具体例としては、下記実施例で作製され、効果が具体的に確認された、配列番号1~7のいずれかに示される塩基配列を挙げることができる。これらの中でも、配列番号1~4のいずれかに示される塩基配列が好ましく、さらには、配列番号1又は2で示される塩基配列が好ましい。また、前記式[I]で示される塩基配列の好ましい具体例としては、下記実施例で作製され、効果が具体的に確認された、配列番号15~20、22及び23のいずれかに示される塩基配列も好ましい。
【0014】
本発明のアプタマーは、式[I]で示される塩基配列又は配列番号21に示される塩基配列から成るものであってもよいが、その5'末端及び3'末端の少なくともいずれか一方に、1個又は複数個のヌクレオチドが付加されたものであってもよい。アプタマーが標的物質と特異的に結合する理由は、アプタマーが特定の構造(立体構造又は平面構造)を呈することによるものであると考えられている。したがって、式[I]で示される塩基配列の一端又は両端に、特定の構造を呈さない塩基配列が付加されていてもペルオキシダーゼ活性の増大作用は維持される。DNAが何らかの構造を呈するか否かは、コンピューターソフトによる解析(例えば、http://bioinformatics.ramapo.edu/QGRS/analyze.phpで公開されているRAMAPO COLLEGEのMapper(Nucleic Acids Research 2006 July; 34 (Web Server issue):W676-W682)により知ることができるので、特定の構造を呈さない塩基配列は、当業者によって容易に設定可能である。例えば、ポリt配列は、特定の構造を呈さないDNA配列として広く知られており、式[I]で表されるアプタマーの一端又は両端にポリt配列が付加されたものも、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼを増大する作用を有し、本発明の範囲に含まれる。もっとも、下記実施例で具体的に示されるように、式[I]で示される塩基配列の5'末端及び3'末端にヌクレオチドが付加されていなくても優れた効果を発揮し、また、アプタマーの長さが長くなると合成のコストも手間もかかるので、式[I]の一端又は両端にそれぞれ0個~10個、好ましくは0個~6個、さらに好ましくは0個~3個のヌクレオチドが付加されたアプタマーが好ましい(なお、「0個のヌクレオチドが付加された」は、ヌクレオチドが付加されていないことを意味する)。
【0015】
図1に示されるように、G4アプタマーには、パラレル型G4とアンチパラレル型G4があることが知られているが、本発明のアプタマーは、下記実施例に具体的に記載するように、円偏光二色性 (circular dichroism; CD) スペクトル測定の結果、パラレル型G4であることが確認されている。なお、G4アプタマーでは、グアニンが平面に4つ並ぶことで形成されるG-カルテットが平行に並んでおり、標的物質は、このG-カルテット嵌入される形で結合することが知られている。
【0016】
本発明のアプタマーは、DNAでもRNAでもよいが、化学的に安定なDNAが好ましい。また、本発明のアプタマーは、市販のDNA合成装置等を用いた化学合成により容易に調製することができる。
【0017】
ヘムタンパク質と、本発明のアプタマーが共存すると、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性が増大する。ヘムタンパク質の例としては、ミオグロビン、ヘモグロビン、メトミオグロビン、カタラーゼ、シトクロムP450などが挙げられる。これらのうち、ミオグロビン及びヘモグロビンが好ましい。
【0018】
本発明のアプタマーの共存下で、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を測定すると、ペルオキシダーゼ活性が増大されているので、ヘムタンパク質の測定感度が向上し、検出下限が下がる。したがって、本発明はまた、生体から採取された、ヘムタンパク質を含む被検試料中のペルオキシダーゼ活性を、上記本発明のアプタマーの存在下で測定することを含む、被検試料中のヘムタンパク質の定量方法をも提供する。ここで、被検試料としては、血清、血漿、全血等の血液試料や尿等の体液、並びにその希釈物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。被検試料に添加されるアプタマーの量は、想定されるヘムタンパク質の量等に応じて適宜設定することができ、想定されるヘムタンパク質中のヘムのモル数以上のモル数であることが好ましく、通常、終濃度が0.5nM~200nM程度、好ましくは1nM~100nM程度の範囲となるように添加される。
【0019】
ペルオキシダーゼは、酵素免疫測定の標識等として汎用されているため、活性の測定方法自体は周知であり、種々の試薬や装置が市販されているので、市販の試薬や装置を用いた周知の方法により容易に測定することができる。例えば、ペルオキシダーゼの基質であって、ペルオキシダーゼ活性により分解されて化学発光する基質が市販されているので、このような基質を被検試料に加え、生じる化学発光を測定することによりペルオキシダーゼ活性を測定することができる(下記実施例参照)。
【0020】
ペルオキシダーゼ活性の測定は、バッファーの存在下で行うことが好ましく、特に、リン酸バッファー又は酢酸バッファーの存在下で行うことが好ましい。例えば、血液や尿等の体液を、バッファー(緩衝液)で希釈したものを被検試料として好ましく用いることができ、バッファーの中でもリン酸バッファー又は酢酸バッファーを用いると、他のバッファーを用いた場合と比較して、ペルオキシダーゼ活性が特に大幅に増大される(下記実施例8、19、20参照)ので好ましい。ここでリン酸バッファーとは、K2HPO4とKH2PO4を含むバッファーであり、酢酸バッファーとは、酢酸と、酢酸カリウム又は酢酸ナトリウムとを含むバッファーである。これらのバッファーのpHは4~7が好ましく、特には4~6.5が好ましい。
【0021】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1~7、比較例1~6
1. アプタマーの合成
下記表1に示す塩基配列から成るDNAアプタマーを、市販のDNA合成装置により化学合成した。なお、アプタマーはいずれも5'末端ビオチン修飾の配列を使用し、TBSバッファー(50 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 5 mM KCl, pH 7.4) 中にて95℃で10分間熱処理し、25℃まで徐冷することでフォールディングしてから実験に用いた。
【0023】
【表1】
(「mer」は塩基数)
【0024】
2.円偏光二色性 (circular dichroism; CD) スペクトル測定によるアプタマーの構造評価
TBS バッファーで終濃度2μMとなるように調製したアプタマー (Myo_1R04, 06, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 19, 20, Myo7N24#07. 配列は表1参照) について、石英セル (光路長1 cm) を用い、J-720型円二色性分散計 (JASCO) にて波長220~320 nmにおけるCDスペクトル測定を行った。
【0025】
3.アプタマー存在下におけるペルオキシダーゼ活性測定
(1) 配列依存性:96穴プレートに終濃度100 nMのミオグロビンまたはヘモグロビン50μL、終濃度100 nMのアプタマー (Myo1R06, 11, 13, 16, 19, 20, Myo7N24#07. 配列は表1参照) 50μLを添加し、室温にて1時間振とうした。その後ペルオキシダーゼ基質 (BM Chemiluminescence ELISA Substrate (POD), Roche) 100μLを添加し、10分後にプレートリーダーを用いて化学発光強度を測定した。なお、DNAなし (No DNA) の場合、またはpoly T (24 merまたは32 mer) を用いた場合についても同様の操作を行った。
【0026】
(2) アプタマー濃度依存性:96穴プレートに終濃度100 nMのミオグロビン50μL、終濃度1, 10, 100 nMのアプタマー (Myo1R06, 11, 13, 16, 19, 20, Myo7N24#07. 配列は表1参照) 50μLを添加し、室温にて1時間振とうした。その後、(1)と同様の操作によりペルオキシダーゼ活性を測定した。なお、Myo_1R04, 12, 14, 15を用いた場合、またはDNAなしの場合についても同様の操作を行った。
【0027】
4.結果
(1) CDスペクトル測定によるアプタマーの構造評価
G4はグアニンが平面に4つ並ぶことで形成されるG-カルテットが平行に並ぶことで形成される。一般に、G-カルテットの形成に寄与するグアニンの並び方により、パラレル型とアンチパラレル型の二種類に大別されることが知られている。CDスペクトル測定において、260nmにおける正のピークと240nmにおける負のピークが観察されればパラレル型G4、290nmにおける正のピークと260nmにおける負のピークが観察されればアンチパラレル型G4が形成されていると考えられる (図1)。今回構造を評価した配列の中では、本発明の実施例になるMyo_1R06, 11, 13, 16, 19, 20, Myo7N24#07において260nmにおける正のピークと240nmにおける負のピークが観察された (図2)。従って、これらの配列はパラレル型G4を形成していると考えられる。一方、比較例になるMyo_1R04, 12, 14, 15では顕著なピークが観察されなかった (図3)。
【0028】
(2) アプタマー存在下におけるペルオキシダーゼ活性測定
(i) ミオグロビン及びヘモグロビンのペルオキシダーゼ活性による化学発光シグナルが特に高かったのは、本発明の実施例になるMyo_1R06, 11, 13, 16, 19, 20及びMyo7N24#07を用いた場合であった (図4)。 (1)より、高いペルオキシダーゼ活性が確認されるのはパラレル型のG4を形成し得る配列であった。また、DNAなしの場合のペルオキシダーゼ活性に対して各アプタマー存在下でのペルオキシダーゼ活性の比を化学発光シグナルによって算出すると、ミオグロビンでは最大でその活性が13.7倍、ヘモグロビンでは7.5倍にも増感されていることが示された (表2、表3)。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
(ii)本発明の実施例になるMyo_1R06, 11, 13, 16, 19, 20及びMyo7N24#07を用いた場合、アプタマー濃度依存的にミオグロビンのペルオキシダーゼ活性が向上した (図5)。一方、比較例のDNA配列を用いた場合、ペルオキシダーゼ活性は、DNA配列を添加しない場合とほとんど同じであった。
【0032】
実施例8、9、比較例7 リン酸バッファー中での測定
TBSバッファーをリン酸バッファー(組成:10mM K2HPO4, KH2PO4, pH6.5)に変更したことを除き、実施例5(Myo_1R19)及び実施例6(Myo_1R20)と同じ操作を行った(終濃度100nMのミオグロビンのペルオキシダーゼ活性を測定(実施例8及び9))。また、31T (polyT(31mer))についてもリン酸バッファー中で同様に測定を行った(比較例7)。結果を下記表4及び図6に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
表4及び図6に示されるように、測定をリン酸バッファー中で行うことにより、TBSバッファー中で行う場合と比べて、ペルオキシダーゼ活性が約5倍~約8倍に増幅された。
【0035】
実施例10~18
下記表5に示す塩基配列から成るDNAアプタマーを、実施例1~7と同様にして化学合成し、ミオグロビンのペルオキシダーゼ活性の増幅計数を測定した。結果を表5に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
実施例19、20、比較例8
上記実施例7のアプタマーMyo7N24#07(実施例19)、上記実施例10のアプタマーmPOD_2-01(実施例20)及びpolyT(24mer、配列番号24)(比較例8)について、酢酸バッファー(10mM CH3COOK/CH3COOH、pH3.5~5.5)又はリン酸バッファー(10mM K2HPO4/KH2PO4, pH5.5.0~8.0)中で、上記と同様にしてミオグロビンのペルオキシダーゼ活性の増幅計数を測定した。結果を図7に示す。
【0038】
図7に示すように、本発明のアプタマーでは、酢酸バッファー又はリン酸バッファー中で高いペルオキシダーゼ活性増幅が観測された。また、pH7以下の酸性側で増幅計数が高く、すなわちプロトン濃度が高くなった際に特にそのペルオキシダーゼ活性の増強効果が高くなることがわかった。プロトン濃度が高い時にはプロトンの授受がペルオキシダーゼ反応の律速になると考えられるが、アプタマーの存在によりプロトンの授受に関与する官能基がヘム近傍に配置され、ペルオキシダーゼ活性が向上したと考察している。このことから、G4形成アプタマーがプロトンの授受に寄与していることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
0007012299000001.app