(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】極低温機器の冷却構造
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20220121BHJP
【FI】
F28D15/02 101L
(21)【出願番号】P 2018057402
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】中尾 健吾
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-257969(JP,A)
【文献】特開昭63-038862(JP,A)
【文献】特開平10-089867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機を備える極低温機器の冷却構造であって、
前記冷凍機と、前記冷凍機による冷却の対象との間に、内部に作動媒体が封入されたヒートパイプが配置されており、
前記ヒートパイプには、当該ヒートパイプ内の前記作動媒体を加熱するための加熱領域が設けられており、
前記加熱領域で加熱された前記作動媒体を前記ヒートパイプ内で対流させて前記対象を加熱することができるように構成されて
おり、
前記ヒートパイプは、閉ループ管と、その下端部分に迂回管が設けられて構成されており、当該迂回管に前記加熱領域が設けられていることを特徴とする極低温機器の冷却構造。
【請求項2】
前記冷凍機が、前記対象よりも上方に配置されており、
前記ヒートパイプの前記加熱領域が、前記対象よりも下方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の極低温機器の冷却構造。
【請求項3】
前記ヒートパイプの前記加熱領域を加熱する加熱装置が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の極低温機器の冷却構造。
【請求項4】
前記ヒートパイプの前記加熱領域が常温で温められることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の極低温機器の冷却構造。
【請求項5】
前記ヒートパイプの前記迂回管が前記閉ループ管から分岐した部分に開閉弁が設けられており、
前記開閉弁は、前記対象の冷却時には閉じられ、前記対象の加熱時には開放されることを特徴とする請求項
1から請求項4のいずれか一項に記載の極低温機器の冷却構造。
【請求項6】
前記ヒートパイプの前記作動媒体は、ネオン、窒素、酸素、二酸化炭素、水素のいずれか又は組み合わせで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の極低温機器の冷却構造。
【請求項7】
前記ヒートパイプに、前記冷凍機と熱的に接続された金属板が取り付けられていることを特徴とする請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載の極低温機器の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温機器の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、超電導コイルを用いた超電導フライホイール蓄電装置やシリコン単結晶引上げ(MCZ)装置等の極低温機器では、超電導コイル等の冷却対象を冷却するための冷凍機が設けられる場合がある。
そして、この場合、冷凍機を冷却対象の近傍(すなわち極低温機器の内部)に配置すると、超電導コイルの非常に強い磁場のために冷凍機の冷凍効率が低下したり、あるいは冷凍機のメンテナンスがしにくくなる等の問題が生じ得るため、冷凍機を極低温機器の外槽側に設けるように構成されることが多い。
【0003】
しかし、このように構成すると、冷凍機と超電導コイル等の冷却対象とが離れてしまい、冷凍機で冷却対象を直接冷却することができなくなる。
そのため、例えば、冷凍機と冷却対象との間に金属体を配置し、冷凍機で冷却対象がこの金属体を介した熱伝導により冷却されるように構成される場合がある(例えば特許文献1等参照)。
【0004】
具体的には、例えば
図4に示す超電導フライホイール蓄電装置100では、内槽容器101内に超電導コイル102が配置され、外槽容器103に冷凍機104が取り付けられている。そして、冷凍機104と、内槽容器101に取り付けられた銅ブロック105とがアルミ板等の金属板106で接続されている。
そのため、銅ブロック105や金属板106を介して超電導コイル102の熱が冷却機104に伝導され、冷却対象(超電導コイル102)が冷凍機104で冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、上記のように構成された極低温機器を施設に設置して初めて冷凍機で冷却対象(例えば超電導コイル102)を冷却する場合や、極低温機器のメンテナンスが終了して冷凍機で冷却するような場合、極低温機器の規模や冷凍機の性能等にもよるが、冷却を開始して、冷却対象が常温から例えば20K等の所定の稼働温度まで冷却するまでに数日(例えば3日)かかる場合がある。
【0007】
しかし、このような場合、極低温機器のユーザは、例えば極低温機器のメンテナンスが終わってから極低温機器が稼働を開始するまでに何日も待たなければならなくなる。
また、冷却対象を高速に冷却するために液体窒素等の冷媒で冷却するように構成することも可能であるが、極低温機器内で冷媒を循環させるための構造が複雑になったり、極低温機器にそのような構造を新たに設けることが困難であったり、あるいは冷媒を極低温機器に供給するという新たな作業が必要になる等の種々の問題があり、実際上、極低温機器の冷却対象を冷却するために冷媒を用いることできない場合も少なくない。
【0008】
一方、反対に、極低温機器のメンテナンスを行う場合には、冷却対象の温度を20K等の稼働温度から常温(例えば20℃)等まで上昇させることが必要になる。
しかし、例えば上記のように構成された極低温機器では、冷凍機のスイッチを切った後は、超電導コイル等の温度は、外槽容器103等を介して熱輻射により外から入ってくる熱や太い配線等を介して入ってくる侵入熱等によって上昇するため温度上昇の速度が遅い。
【0009】
そのため、極低温機器のユーザは、メンテナンス等のために極低温機器の冷凍機のスイッチを切ってから超電導コイル等の温度が常温まで上昇してメンテナンスを開始するまでに、やはり何日も待たなければならなくなるといった問題があった。
極低温機器のユーザ等にとっては、極低温機器は、その内部が所定の稼働温度まで冷却されるまでの時間や、稼働温度から常温まで温度が上昇するためにかかる時間が短く、極低温機器を使用できない時間が短いものであることが望ましい。
【0010】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、極低温機器において冷凍機による冷却の対象の温度を速やかに下げたり上昇させて、極低温機器を使用できない時間を短縮することが可能な極低温機器の冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
冷凍機を備える極低温機器の冷却構造であって、
前記冷凍機と、前記冷凍機による冷却の対象との間に、内部に作動媒体が封入されたヒートパイプが配置されており、
前記ヒートパイプには、当該ヒートパイプ内の前記作動媒体を加熱するための加熱領域が設けられており、
前記加熱領域で加熱された前記作動媒体を前記ヒートパイプ内で対流させて前記対象を加熱することができるように構成されており、
前記ヒートパイプは、閉ループ管と、その下端部分に迂回管が設けられて構成されており、当該迂回管に前記加熱領域が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の極低温機器の冷却構造において、
前記冷凍機が、前記対象よりも上方に配置されており、
前記ヒートパイプの前記加熱領域が、前記対象よりも下方に設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の極低温機器の冷却構造において、前記ヒートパイプの前記加熱領域を加熱する加熱装置が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の極低温機器の冷却構造において、前記ヒートパイプの前記加熱領域が常温で温められることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の極低温機器の冷却構造において、
前記ヒートパイプの前記迂回管が前記閉ループ管から分岐した部分に開閉弁が設けられており、
前記開閉弁は、前記対象の冷却時には閉じられ、前記対象の加熱時には開放されることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の極低温機器の冷却構造において、前記ヒートパイプの前記作動媒体は、ネオン、窒素、酸素、二酸化炭
素、水素のいずれか又は組み合わせで構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の極低温機器の冷却構造において、前記ヒートパイプに、前記冷凍機と熱的に接続された金属板が取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ヒートパイプを用いて、極低温機器において冷凍機による冷却の対象の温度を速やかに下げることが可能となるだけでなく、速やかに上昇させることが可能となる。
そのため、極低温機器のメンテナンス等にかかる時間を短縮することが可能となり、ユーザが極低温機器を使用できない時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る極低温機器の冷却構造の構成を表す図であり、(A)は正面から見た図、(B)は側方から見た図である。
【
図3】ヒートパイプの加熱領域と外槽容器とを金属体で熱的に接続した構成を表す図である。
【
図4】従来の極低温機器の冷却構造の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る極低温機器の冷却構造について説明する。ただし、以下に述べる各実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態や図示例に限定するものではない。
【0022】
なお、以下では、極低温機器が超電導フライホイール蓄電装置である場合について説明するが、極地温機器は、このほか、前述したシリコン単結晶引上げ装置や、核磁気共鳴分析装置(NMR)や磁場共鳴診断装置(MRI)等であってもよく、超電導フライホイール蓄電装置に限定されない。
また、超電導フライホイール蓄電装置を、以下、フライホイール装置という。
【0023】
[構成]
図1は、本実施形態に係る極低温機器の冷却構造の構成を表す図であり、(A)は正面から見た図、(B)は側方から見た図である。
ここで、極低温機器としてのフライホイール装置10について説明すると、フライホイール装置10は、
図4に示したものと同様に、内槽容器11内に冷却の対象としての超電導コイル12が配置されており、外槽容器13に冷凍機2が取り付けられている。また、内槽容器11には、銅ブロック14が取り付けられており、図示しない金属体を介して超電導コイル12と銅ブロック14とが熱的に接続されている。
【0024】
そして、銅ブロック12を冷却することで超電導コイル12を冷却することができるようになっている。
なお、本実施形態で、以下、極低温機器の冷却構造1で冷却の対象を冷却するという場合、上記のフライホイール装置10の場合には銅ブロック14を冷却することで冷却の対象である超電導コイル12が冷却される。また、後述するように、ヒートパイプ3で対象を加熱するという場合、上記のフライホイール装置10の場合には銅ブロック14を加熱することで対象の超電導コイル12が加熱される。
【0025】
図1(A)、(B)に示すように、本実施形態に係る極低温機器の冷却構造1は、冷凍機2を備えている。冷凍機2は、例えばギフォード・マクマホン(GM)冷凍機やスターリング冷凍機等の公知の冷凍機を用いることが可能である。
また、極低温機器の冷却構造1では、冷凍機2と、冷凍機2による冷却の対象(この場合は超電導コイル12)との間にヒートパイプ3が配置されている。ヒートパイプ3は、内部に作動媒体が封入されており、冷凍機2で冷やされた作動媒体を内部で対流させて冷却対象を冷却することができるようになっている。
【0026】
本実施形態では、
図1(A)、(B)に示すように、冷凍機2が冷却対象よりも上方に設けられている。
そのため、後述するように、冷凍機2で温度が下がり液化したり密度が高くなった作動媒体31が自然に降下して下方の冷却対象の所に移動する。また、冷却対象の熱を奪って気化したり密度が低くなった作動媒体31が自然に上昇して上方の冷凍機2の所に移動するようになる。そのため、ヒートパイプ3内で効果的に作動媒体31の対流を生じさせることが可能となり、冷却対象を効率良く冷却することが可能となる。
【0027】
また、本実施形態では、ヒートパイプ3には、冷凍機2と熱的に接続されたアルミ板等の金属板15が取り付けられており、例えば金属板15に形成した溝にヒートパイプ3をろう付け等で取り付けられている。
このようにヒートパイプ3に金属板15を取り付けることで、冷却対象の熱の一部が金属板15を介して冷凍機2に伝導されるようになり、冷却対象の冷却が促進されるため好ましいが、金属板15は必ずしも設けられていなくてもよい。
【0028】
一方、本実施形態では、極低温機器の冷却構造1は、上記のように冷却対象(この場合は超電導コイル12)の冷却に用いられるヒートパイプ3に、当該ヒートパイプ3内の作動媒体を加熱するための加熱領域が設けられている。そして、このヒートパイプ3を用いて、加熱領域で加熱された作動媒体をヒートパイプ3内で対流させて、冷却対象を加熱することができるようになっている。
以下、この点について詳しく説明する。
【0029】
図2は、ヒートパイプ3の構成例を表す図である。
本実施形態では、ヒートパイプ3は、閉ループ管3Aで構成されている。そして、閉ループ管3Aの下端部分に迂回管3Bが設けられており、迂回管3Bに加熱領域αが設けられている。
なお、以下では、このように、ヒートパイプ3が閉ループ管3Aと迂回管3Bとを有する8の字型(あるいは日の字型)に形成されている場合について説明するが、ヒートパイプ3は、その機能を適切に発揮できるものであれば、例えば棒状等の他の形状に形成されていてもよい。
【0030】
そして、ヒートパイプ3の加熱領域αにヒータ等の加熱装置4を取り付けて、加熱装置4で加熱領域αを加熱して内部の作動媒体31を加熱するように構成することが可能である。
また、冷凍機2による冷却時には、ヒートパイプ3内の作動媒体31の温度は所定の稼働温度(例えば20K等)近くまで冷えている。そのため、そのような作動媒体31を常温(例えば20℃)等の雰囲気下に置けば、常温と例えば20Kの作動媒体31との温度差が273K程度あるため、常温側から作動媒体31に熱が加わり、作動媒体31が加熱される。そのため、上記のようにヒートパイプ3の加熱領域αをヒータ等の加熱装置4で加熱する代わりに、ヒートパイプ3の加熱領域αを常温で温めるように構成することも可能である。
【0031】
すなわち、例えば
図1(A)、(B)に示すように、ヒートパイプ3の迂回管3Bをフライホイール装置10の外槽容器13に近接する位置まで延ばせば、外槽容器13からの熱輻射で迂回管3Bが温められ、加熱領域αを常温で温めることができる。なお、この場合は、迂回管3B全体、あるいはフライホイール装置10の外槽容器13に近接する部分が加熱領域αになる。
また、
図3に示すように、例えば、ヒートパイプ3の迂回管3Bの加熱領域αと、フライホイール装置10の外槽容器13等の常温になる部分とを、例えば金属体等の熱伝導性を有する部材5で熱的に接続するように構成すれば、部材5を介して常温になる部分から迂回管3Bに熱が伝わり、加熱領域αを常温で温めることができる。この場合は、迂回管3Bと部材5との接続部分が加熱領域αになる。
【0032】
一方、本実施形態では、
図1~
図3に示すように、ヒートパイプ3の加熱領域αが、冷却対象(超電導コイル12や銅ブロック14)よりも下方に設けられている。
そのため、後述するように、作動媒体31が加熱領域αで温められると気化したり密度が低くなって自然に上昇して上方の冷却対象の所に移動する。また、作動媒体31が低温の冷却対象で冷やされると液化したり密度が高くなって自然に降下して下方の加熱領域αの所に移動する。そのため、ヒートパイプ3内で効果的に作動媒体31の対流を生じさせることが可能となり、冷却対象を効率良く温めることが可能となる。
【0033】
また、本実施形態では、
図2等に示すように、ヒートパイプ3の迂回管3Bが閉ループ管3Aから分岐した部分に開閉弁3C、3Cが設けられている。また、閉ループ管3Aの下端部分(閉ループ管3Aの下方で左右を結ぶ部分)に開閉弁3Dが設けられている。
そして、冷却対象の冷却時には、迂回管3Bの開閉弁3C、3Cは閉じられ、閉ループ管3Aの開閉弁3Dは開放される。また、冷却対象の加熱時には、迂回管3Bの開閉弁3C、3Cが開放され、閉ループ管3Aの開閉弁3Dが閉じられるようになっている。
開閉弁3C、3Dの開閉を、メンテナンスを行う作業者等が手動で行うように構成してもよく、また、制御装置の制御により行うように構成してもよい。
【0034】
なお、前述したように冷却対象を冷却する際には、ヒートパイプ3の加熱領域αを加熱する必要がないため、加熱領域αにヒータ等の加熱装置4が取り付けられている場合は、加熱装置4の電源はオフにする。
また、ヒートパイプ3の加熱領域αを常温で温めるように構成されている場合は、冷却対象の冷却中も加熱領域αが常温で温められているが、上記のように開閉弁3C、3Cが閉じられているため、加熱領域αの部分の常温の作動媒体31が閉ループ管3A側に入り込むことがない。そのため、冷却対象の冷却中に加熱領域αが常温で温められていても、上記のヒートパイプ3による冷却動作に支障はない。
【0035】
また、冷却対象の冷却時にヒートパイプ3の管構造を介して迂回管3B(加熱領域α)の温度(熱)が閉ループ管3A側に伝わらないようにするために、例えば、開閉弁3C、3Cを熱伝導率が低い材料で形成することも可能である。
あるいは、閉ループ管3Aと迂回管3Bとの間に熱伝導率が低い管構造を挟むように構成することも可能である。
【0036】
[動作]
次に、本実施形態に係る極低温機器の冷却構造1の動作について説明する。
冷却対象(この場合は超電導コイル12)の冷却時には、上記のように、ヒートパイプ3の迂回管3Bの開閉弁3C、3Cが閉じられ、閉ループ管3Aの開閉弁3Dが開放される。
そして、その状態で冷凍機2を稼働させると、冷凍機2の温度が下がり、冷凍機2に接触しているヒートパイプ3の閉ループ管3Aの部分で作動媒体31の温度が下がる。そのため、作動媒体31が液化したり密度が高くなって閉ループ管3A中を下降する。
【0037】
また、閉ループ管3A中を下降した作動媒体31は、閉ループ管3Aが冷却対象と接している部分で対象から熱を奪い、気化したり密度が低くなって、今度は閉ループ管3A中を上昇する。
このように、本実施形態では、作動媒体31がヒートパイプ3の閉ループ管3A内を下降したり上昇したりしながら冷却対象から奪った熱を冷凍機2に放出することで、冷却対象を冷却するようになっている。
【0038】
図4に示した冷却構造では、冷凍機104と冷却対象(超電導コイル102)が金属板106で熱的に接続されているだけであり、他に冷却対象から冷凍機104に熱を伝えるものがない。
そのため、冷凍機104が稼働すると、冷凍機104だけが先に冷えて極低温になるが、冷却対象の熱が凍機104に伝わりづらく、冷却対象の温度はなかなか下がらない。そのため、結局、冷却を開始してから数日(例えば3日)経たないと冷却対象の温度が所定の稼働温度(例えば20K)まで冷却しない状況になっていた。
【0039】
それに対し、本実施形態に係る極低温機器の冷却構造1では、上記のように、冷凍機2を稼働させると、ヒートパイプ3の閉ループ管3A内を作動媒体31が下降したり上昇したりして、いわば積極的に冷却対象から熱を奪って冷凍機2に放出する。
そのため、冷凍機2を稼働させると冷却対象の温度が速やかに低下し、冷却を開始してから短時間(例えば1日)で冷却対象の温度を所定の稼働温度(例えば20K)まで冷却することが可能となる。
【0040】
なお、
図1(A)に示すように、冷凍機2と熱的に接続された金属板15にヒートパイプ3の閉ループ管3Aの一部が取り付けられており、閉ループ管3Aの他の部分は金属板15には取り付けられていない。
そのため、金属板15に取り付けられている閉ループ管3Aの部分の作動媒体31は、他の部分の作動媒体31よりも金属板15で冷却が促進されるため、閉ループ管3Aを下降する作動媒体31の流れが他の部分よりも強くなる。
【0041】
そのため、ヒートパイプ3の閉ループ管3Aでは、金属板15に取り付けられている部分で作動媒体31が下降し、他の部分で作動媒体31が上昇する流れ(すなわち
図1(A)中では閉ループ管3Aを反時計回りに回る流れ)が生じる。
そのため、閉ループ管3A内を下降する作動媒体31と上昇する作動媒体31とが閉ループ管3A内でぶつかることなく循環するようになるため、冷却対象を効率良く冷却することが可能となる。
【0042】
一方、本実施形態に係る極低温機器の冷却構造1では、冷却対象(この場合は超電導コイル12)の加熱時には、冷凍機2の稼働が停止される。そして、上記のように、ヒートパイプ3の迂回管3Bの開閉弁3C、3Cが開放され、閉ループ管3Aの開閉弁3Dが閉じられる。
なお、迂回管3Bの加熱領域αに加熱装置4が取り付けられている場合は、加熱装置4の電源が投入される。
【0043】
ヒートパイプ3の加熱領域αが常温で温められる場合も含め、作動媒体31が加熱領域αで温められると気化したり密度が低くなって自然に上昇して上方の冷却対象の所に移動する。また、作動媒体31が低温の冷却対象で冷やされると液化したり密度が高くなって自然に降下して下方の加熱領域αの所に移動する。
このように、本実施形態では、作動媒体31がヒートパイプ3の閉ループ管3A内を下降したり上昇したりしながら加熱領域αで得た熱を冷却対象に放出することで、冷却対象を加熱する(温める)ようになっている。
【0044】
図4に示した冷却構造では、冷却対象(超電導コイル102)には、フライホイール100の外槽容器103等を介して熱輻射により外から入ってくる熱や太い配線等を介して入ってくる侵入熱等しか入ってこない。
そのため、冷凍機104の稼働を停止させた後、冷却対象の温度がなかなか上がらず、冷凍機104の稼働を停止してから数日(例えば3日)経たないと冷却対象の温度が常温まで上昇しない状況になっていた。
【0045】
それに対し、本実施形態に係る極低温機器の冷却構造1では、上記のように、冷凍機2の稼働を停止させると、作動媒体31がヒートパイプ3の閉ループ管3A内と迂回管3B内を上昇したり下降したりして、いわば積極的に加熱領域αの熱を冷却対象に伝える。
そのため、冷凍機2の稼働を停止させた後、冷却対象の温度が速やかに上昇し、冷凍機2の稼働を停止してから短時間(例えば1日)で冷却対象の温度を常温まで上昇させることが可能となる。
【0046】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る極低温機器の冷却構造1によれば、ヒートパイプ3を用いて、極低温機器(例えばフライホイール10)において冷凍機2による冷却の対象(例えば超電導コイル12)の温度を速やかに下げることが可能となるだけでなく、速やかに上昇させることが可能となる。
そのため、極低温機器のメンテナンス等にかかる時間を短縮することが可能となり、ユーザが極低温機器を使用できない時間を短縮することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態に係る極低温機器の冷却構造1では、上記のように冷却対象(超電導コイル12)の冷却に用いるヒートパイプ3を使って、冷却対象の加熱を行うことができる。
そのため、冷却対象を加熱するための構造を新たに設ける必要がなくなるため、冷却構造1をコンパクトに構成することが可能となるとともに、低コストで製造することが可能となる。
【0048】
なお、冷却対象を冷却したり加熱したりする際の温度の変動範囲が広い(例えば常温(例えば20℃=約293K)~20K)ため、ヒートパイプ3に用いられる作動媒体31は適切な媒体が選択されて用いられる。
例えば、作動媒体31は、ネオンや窒素、酸素、二酸化炭素等で構成することが可能であり、それらを組み合わせて構成することも可能である。
【0049】
また、ヒートパイプ3内で作動媒体31がすべて液化したり凝固したりすると、ヒートパイプ3内の圧力が大きく低下してしまい、ヒートパイプ3が所定の機能を発揮できなくなる可能性がある。
そのため、ヒートパイプ3を使用する温度範囲では液化しない水素等を、作動媒体31として用いたり作動媒体31に加えたりすることで、ヒートパイプ3を使用する温度範囲でヒートパイプ3内の圧力を適切な圧力に保ち、ヒートパイプ3が所定の機能を発揮できるように構成することも可能である。
【0050】
なお、本発明が上記の実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0051】
例えば、ヒートパイプ3の迂回管3Bの内径を太くしたり球等の形状に膨らませる等して作動媒体31が溜まる気体溜まりを形成するように構成することも可能である。
また、
図1(B)や
図3等ではヒートパイプ3の加熱領域αが形成される迂回管3Bを、閉ループ管3Aの略鉛直下方の位置に設けた場合を示したが、例えば、鉛直方向から傾斜させて、迂回管3Bの下端部分が極低温機器(フライホイール10)の外槽容器13の近傍に位置するように(あるいは外槽容器13に接するように)構成することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 極低温機器の冷却構造
2 冷凍機
3 ヒートパイプ
3A 閉ループ管
3B 迂回管
3C 開閉弁
4 加熱装置
10 超電導フライホイール蓄電装置(極低温機器)
12 超電導コイル(冷却の対象)
15 金属板
31 作動媒体
α 加熱領域