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特許7012412カーボンナノチューブ複合線、カーボンナノチューブ被覆電線及びカーボンナノチューブ被覆電線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合線、カーボンナノチューブ被覆電線及びカーボンナノチューブ被覆電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/08 20060101AFI20220121BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20220121BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
H01B5/08
H01B1/04
H01B7/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018069830
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019179730
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】田中 彰
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-533158(JP,A)
【文献】実開平03-103511(JP,U)
【文献】特開2008-091214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/08
H01B 1/04
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数の前記カーボンナノチューブ集合体が束ねられて形成されている複数のカーボンナノチューブ線材と、
前記複数のカーボンナノチューブ線材よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材と、
を備えるカーボンナノチューブ複合線であって
前記カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する前記複数のカーボンナノチューブの断面積の割合が、75%以上85%以下であり、
前記1又は複数の導電性線材が、金属で構成されることを特徴とする、カーボンナノチューブ複合線。
【請求項2】
前記複数のカーボンナノチューブ線材と前記1又は複数の導電性線材とが撚り合わされて構成される、請求項1記載のカーボンナノチューブ複合線。
【請求項3】
前記金属は、銅又は銅合金である、請求項1又は2記載のカーボンナノチューブ複合線。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ複合線の円相当直径が、50μm以上3mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合線。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ複合線の断面において、前記複数のカーボンナノチューブ線材が、前記カーボンナノチューブ複合線の中央部に配置され、
前記複数の導電性線材が、前記複数のカーボンナノチューブ線材の外周部に配置されている、請求項1~のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合線。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ複合線の断面において、前記複数のカーボンナノチューブ線材と前記複数の導電性線材とがランダムに配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合線。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ複合線の断面において、前記1又は複数の導電性線材が、前記カーボンナノチューブ複合線の中央部に配置され、
前記複数のカーボンナノチューブ線材が、前記1又は複数の導電性線材の外周部に配置されている、請求1~のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合線。
【請求項8】
複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数の前記カーボンナノチューブ集合体が束ねられて形成されている複数のカーボンナノチューブ線材と、前記複数のカーボンナノチューブ線材よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材とを有するカーボンナノチューブ複合線と、
前記カーボンナノチューブ複合線を被覆する絶縁被覆層と、
を備え、
前記カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する前記複数のカーボンナノチューブの断面積の割合が、75%以上85%以下であり、
前記1又は複数の導電性線材が、金属で構成されることを特徴とする、カーボンナノチューブ被覆電線。
【請求項9】
複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数の前記カーボンナノチューブ集合体が束ねられて形成されるカーボンナノチューブ線材を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ線材の複数と、複数の前記カーボンナノチューブ線材よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材とを束ねてカーボンナノチューブ複合線を形成し、前記カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する前記複数のカーボンナノチューブの断面積の割合を75%以上85%以下とする工程と、
前記カーボンナノチューブ複合線を被覆する絶縁被覆層を形成する工程と、
を有し、
前記1又は複数の導電性線材が、金属で構成されることを特徴とする、カーボンナノチューブ被覆電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ線材と、導電性線材とが束ねられて形成されているカーボンナノチューブ複合線、及び該カーボンナノチューブ複合線を被覆してなるカーボンナノチューブ被覆電線、並びにカーボンナノチューブ被覆電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、様々な特性を有する素材であり、多くの分野への応用が期待されている。
【0003】
例えば、CNTは、六角形格子の網目構造を有する筒状体の単層、または略同軸で配された多層で構成される3次元網目構造体であり、軽量であると共に、導電性、熱伝導性、機械的強度等の諸特性に優れる。しかし、CNTを線材化することは容易ではなく、CNTを線材として利用する技術は提案されていない。
【0004】
また、複数のカーボンナノチューブが束ねられてなるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数のカーボンナノチューブ集合体が束ねられて形成されるカーボンナノチューブ線材を導体として様々な用途に適用する場合、外部との絶縁性を確保するために、カーボンナノチューブ線材を絶縁材料で被覆したカーボンナノチューブ被覆電線が用いられる。カーボンナノチューブ被覆電線を結線する際には、例えばカーボンナノチューブ被覆電線の長手方向端部における絶縁被覆層を除去してカーボンナノチューブ線材の長手方向端部を露出させ、この露出部分を外部端子等と接続することで、カーボンナノチューブ被覆電線と外部との電気的な接続が行われる。
【0005】
従来、線材を被覆する構成としては、例えば、炭素繊維を強化成分とする有機系線材の複数本からなる補強撚線の外周に、銅線の外周にアルミニウムを被覆してなる銅複合アルミ線の複数本を撚り合わせた低損失撚線が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、金属めっき処理を施した複数本の高引張強度有機繊維と複数本の合成繊維又は炭素繊維とを撚り合わせてなる撚線、金属めっき処理を施した複数本の高引張強度有機繊維と、金属めっき処理を施していない複数本の合成繊維又は炭素繊維とを撚り合わせてなる撚線、又は、銅線の外側に、金属めっき処理を施した高引張強度有機繊維を複数本撚り合せてなる撚線が提案されている(特許文献2)。
【0007】
また、銅又は銅合金からなる中心導体と、当該中心導体の外周上に形成されたカーボン複合めっき皮膜と、最外層に形成されたはんだ付け可能なめっき皮膜とを少なくとも有する複合被覆銅線が提案されている(特許文献3)。
【0008】
また、導電性単繊維からなる芯線の外周に金属層を有する導体と、前記導体の外周に設けられた絶縁層とを備え、導電性単繊維がCNTなどの導電性フィラーを5質量%以上30質量%以下で含有する組成物からなる絶縁電線が提案されている(特許文献4)。
【0009】
また、他の従来構成として、導電性の繊維材料よりなる導体と、導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線が螺旋形状をとっており、導体が、絶縁被覆よりも高い柔軟性を有し、有機繊維の外周を金属層で被覆してなるか或いは炭素繊維からなるカールコードが提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実開平2-22525号公報
【文献】特開2008-130241号公報
【文献】特開2007-42355号公報
【文献】特開2017-191698号公報
【文献】特開2017-157538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
カーボンナノチューブの素線(単線)は、それ自体の剛性或いは自立性が低いため、カーボンナノチューブ線材或いはカーボンナノチューブ撚り線の外周部に絶縁被覆層を設けたとしても、カーボンナノチューブ被覆電線の自立性は依然として低い。また、カーボンナノチューブ被覆電線を湾曲させて配線或いは巻き回してコイルとして用いる場合、その形状を保持し難いため、カーボンナノチューブ被覆電線を外部と固定する必要がある。このため、カーボンナノチューブ被覆電線の作製時あるいは取付け時などの作業性が悪い。
【0012】
特許文献1では、銅-アルミニウム複合線を線材の導体とする構成であり、CNT線材を導体とする構成ではないため、自立性が高く、上記のような課題は生じない。
【0013】
また、上記特許文献2では、金属めっき処理を施した高引張強度有機繊維を導体の主体とする構成であり、CNT線材を導体の主体とする構成ではないため、特許文献1と同様、上記のような課題は生じない。
【0014】
上記特許文献3では、銅又は銅合金を導体の主体とする構成であり、CNT線材を導体の主体とする構成ではないため、引用文献1と同様、上記のような課題は生じない。
【0015】
上記特許文献4では、CNTを導電性フィラーとして含有する導電性単繊維及びその外周に設けられた金属層を導体とする構成であり、CNT線材を導体とする構成ではないため、引用文献1と同様、上記のような課題は生じない。
【0016】
また、上記特許文献5では、有機繊維の外周を金属層で被覆してなるか或いは炭素繊維からなる素線を導体とする構成であり、CNT線材を導体とする構成ではないため、引用文献1と同様、上記のような課題は生じない。
【0017】
本発明の目的は、自立性を持たせて作業性を向上することができるカーボンナノチューブ複合線、カーボンナノチューブ被覆電線及びカーボンナノチューブ被覆電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明のカーボンナノチューブ複合線は、複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数の前記カーボンナノチューブ集合体が束ねられて形成されている複数のカーボンナノチューブ線材と前記複数のカーボンナノチューブ線材よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材と、を備え、前記カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する前記複数のカーボンナノチューブの断面積の割合が、65%以上95%未満であることを特徴とする。
【0019】
前記複数のカーボンナノチューブ線材と前記1又は複数の導電性線材とが撚り合わされて構成されていてもよい。
【0020】
また、前記1又は複数の導電性線材が、金属で構成されてもよい。
【0021】
前記金属は、銅又は銅合金であるのが好ましい。
【0022】
前記カーボンナノチューブ複合線の円相当直径が、50μm以上3mm以下であってもよい。
【0023】
前記カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する前記複数のカーボンナノチューブの断面積の割合が、65%以上90%以下であるのが好ましい。
【0024】
前記カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する前記複数のカーボンナノチューブの断面積の割合が、75%以上85%以下であるのがより好ましい。
【0025】
前記カーボンナノチューブ複合線の断面において、前記複数のカーボンナノチューブ線材が、前記カーボンナノチューブ複合線の中央部に配置され、前記複数の導電性線材が、前記複数のカーボンナノチューブ線材の外周部に配置されていてもよい。
【0026】
また、前記カーボンナノチューブ複合線の断面において、前記複数のカーボンナノチューブ線材と前記複数の導電性部材とがランダムに配置されていてもよい。
【0027】
また、前記カーボンナノチューブ複合線の断面において、前記1又は複数の導電性線材が、前記カーボンナノチューブ複合線の中央部に配置され、前記複数のカーボンナノチューブ線材が、前記1又は複数の導電性線材の外周部に配置されていてもよい。
【0028】
上記目的を達成するために、本発明のカーボンナノチューブ被覆電線は、複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数の前記カーボンナノチューブ集合体が束ねられて形成されている複数のカーボンナノチューブ線材と、前記複数のカーボンナノチューブ線材よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材とを有するカーボンナノチューブ複合線と、前記カーボンナノチューブ複合線を被覆する絶縁被覆層と、を備え、前記カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する前記複数のカーボンナノチューブの断面積の割合が、65%以上95%未満であることを特徴とする。
【0029】
上記目的を達成するために、本発明のカーボンナノチューブ被覆電線の製造方法は、複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数の前記カーボンナノチューブ集合体が束ねられて形成されるカーボンナノチューブ線材を作製する工程と、前記カーボンナノチューブ線材の複数と、複数の前記カーボンナノチューブ線材よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材とを束ねてカーボンナノチューブ複合線を形成し、前記カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する前記複数のカーボンナノチューブの断面積の割合を65%以上95%未満とする工程と、前記カーボンナノチューブ複合線を被覆する絶縁被覆層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、カーボンナノチューブ複合線が、複数のカーボンナノチューブ線材よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材を備えており、カーボンナノチューブ複合線の断面積に対する複数のカーボンナノチューブの断面積の割合が65%以上であるので、カーボンナノチューブ複合線の剛性が全体として高くなり、自立性を持たせることができる。よって、カーボンナノチューブ複合線やカーボンナノチューブ被覆電線の作製時或いは取付け時に作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ被覆電線の構成を示す断面図である。
図2図1のカーボンナノチューブ被覆電線の変形例を示す斜視図である。
図3】(a)及び(b)は、図1のカーボンナノチューブ被覆電線の他の変形例を示す断面図である。
図4図1のカーボンナノチューブ被覆電線の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図5図1のカーボンナノチューブ複合線の自立性を評価するための試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合線及びカーボンナノチューブ被覆電線を、図面を参照しながら説明する。
【0033】
[カーボンナノチューブ被覆電線の構成]
図1に示すように、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ被覆電線(以下、「CNT被覆電線」ともいう。)1は、カーボンナノチューブ複合線(以下、「CNT複合線」ともいう。)2と、CNT複合線2を被覆する絶縁被覆層21とを備えている。すなわち、CNT複合線2の長手方向に沿って絶縁被覆層21が形成されている。CNT被覆電線1では、CNT複合線2の外周面全体が、絶縁被覆層21によって被覆されている。また、CNT被覆電線1では、絶縁被覆層21はCNT複合線2の外周面と直接接した態様となっている。
【0034】
CNT複合線2は、複数のカーボンナノチューブ線材(以下、「CNT線材」ともいう)10,10,・・・と、複数のカーボンナノチューブ線材10,10,・・・よりも剛性が高い複数の導電性線材12,12,・・・とを備える。CNT複合線2は、例えば複数のCNT線材10,10,・・・と複数の導電性線材12,12,・・・とが撚り合わされて構成されるCNT複合撚線である。CNT複合線2を、素線(単線)であるCNT線材10の複数を撚り合わせた撚り線の形態とすることで、CNT複合線2の円相当直径や断面積を適宜調節することができる。CNT複合線2の円相当直径は、特に限定されないが、例えば、50μm以上3mm以下である。円相当直径は中心を通るように引いた線分の距離を円周方向に3箇所測定した平均の値から算出した。
【0035】
CNT複合線2は、CNT線材10の長手方向とCNT複合線2の長手方向が同一或いは実質的に同一である状態を含んでいてもよい。すなわち、CNT複合線2は、CNT線材10の複数が撚り合わされていない状態で束ねられているものを含んでいてもよく、また、導電性線材12の複数が撚り合わされていない状態で束ねられているものを含んでいてもよい。
【0036】
CNT複合線2を構成する複数のCNT線材10,10,・・・及び複数の導電性線材12,12,・・・は、幾つかのパターンで配置することができる。例えば、図1では、CNT複合線2の断面において、複数のCNT線材10,10,・・・が、CNT複合線2の中央部に配置され、複数の導電性線材12,12,・・・が、複数のCNT線材10,10,・・・の外周部に配置されている。この場合、複数の導電性線材12,12,・・・は、例えば複数のCNT線材10,10,・・・の外周部の全体を覆うように周方向の全体に亘って配列されている。
【0037】
CNT線材10は、複数のCNT11a,11a,・・・で構成されるカーボンナノチューブ集合体(以下、「CNT集合体」ともいう。)11の単数から、または複数が束ねられて形成されている。図1では、CNT線材10は、複数のCNT集合体11,11,・・・が束ねられて形成されている。ここで、CNT線材とはCNTの割合が90質量%以上のCNT線材を意味する。なお、CNT線材におけるCNT割合の算定においては、メッキやドーパントの質量は除く。CNT集合体11の長手方向が、CNT線材10の長手方向を形成している。従って、CNT集合体11は、線状となっている。CNT線材10における複数のCNT集合体11,11,・・・は、その長軸方向がほぼ揃って配されている。従って、CNT線材10における複数のCNT集合体11,11,・・・は、配向している。素線であるCNT線材10の円相当直径は、特に限定されないが、例えば、5μm以上200μm以下である。CNT線材10の円相当直径を上記範囲内の値とすることで、金属線や炭素繊維で形成することが困難な細い線径を有するCNT複合線2を形成することができる。
【0038】
CNT集合体11は、1層以上の層構造を有するCNT11aの束である。CNT11aの長手方向が、CNT集合体11の長手方向を形成している。CNT集合体11における複数のCNT11a,11a、・・・は、その長軸方向がほぼ揃って配されている。従って、CNT集合体11における複数のCNT11a,11a、・・・は、配向している。CNT集合体11の円相当直径は、例えば、20nm以上1000nm以下であり、より典型的には、20nm以上80nm以下である。CNT11aの最外層の幅寸法は、例えば、1.0nm以上20nm以下である。
【0039】
CNT集合体11を構成するCNT11aは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれ、SWNT(single-walled nanotube)、MWNT(multi-walled nanotube)と呼ばれる。CNT集合体11には、3層構造以上の層構造を有するCNTや単層構造の層構造を有するCNTも含まれていてもよく、3層構造以上の層構造を有するCNTまたは単層構造の層構造を有するCNTから形成されていてもよい。
【0040】
2層構造を有するCNT11aでは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(Double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0041】
次に、CNT複合線2を構成する導電性線材12について説明する。
複数の導電性線材12,12,・・・は、それぞれ素線の単体、又は複数が束ねられて形成されており、複数のCNT線材10,10,・・・とは異なる材料で構成されている。複数の導電性線材12,12,・・・は、例えば金属で構成される。金属とは、金属の単体又は該金属を主成分とする合金を指し、例えば銅又は銅合金である。複数の導電性線材12,12,・・・が金属で構成されることで、CNT複合線2の導電性を向上することができる。また、図1に示すように、複数の導電性線材12,12,・・・が、複数のCNT線材10,10,・・・の外周部に配置されている構成において、複数の導電性線材12,12,・・・が銅又は銅合金で構成されることで、圧縮などの外力に因るCNT複合線2の変形を防止することができる。また、絶縁被覆層21を形成する際に、密着性の観点からCNTとの相性が悪くCNT複合線2を被覆するのが難しい被覆材を用いる場合であっても、銅又は銅合金などの金属と相性が良い被覆材であれば、当該被覆材でCNT複合線2を被覆することが可能となる。
【0042】
導電性線材12は、1本の導体からなる素線(単線)となっているが、導電性線材12は、複数本の導電性線材12を撚り合わせた撚り線の状態でもよい。導電性線材12を撚り線の形態とすることで、導電性線材12の円相当直径や断面積を適宜調節することができる。導電性線材12の円相当直径は、特に限定されないが、例えば、10μm以上1mm以下である。
【0043】
上記のように構成されるCNT複合線2において、CNT複合線2の断面積に対する複数のCNT11a,11a,・・・の断面積の割合は、65%以上95%未満であり、好ましくは65%以上90%以下、更に好ましくは75%以上85%以下である。CNT複合線2の断面積に対する複数のCNT11a,11a,・・・の断面積の割合を65%以上95%未満とすることで、CNT複合線2に剛性を持たせることができる。また、CNT複合線2の断面積に対する複数のCNT11a、11a,・・・の断面積の割合を65%以上90%以下とすることで、軽量で且つ高剛性を有するCNT複合線2を実現することができる。更に、CNT複合線2の断面積に対する複数のCNT11a,11a,・・・の断面積の割合を75%以上85%以下とすることで、軽量と高剛性が高いレベルでバランスされたCNT複合線2を実現することができる。
【0044】
次に、CNT複合線2の外周部を被覆する絶縁被覆層21について説明する。
【0045】
絶縁被覆層21の材料としては、芯線として金属を用いた被覆電線の絶縁被覆層に用いる材料を使用することができ、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン等を挙げることができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えばポリイミド、フェノール樹脂等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0046】
CNT被覆電線1が高圧電線の場合、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルが好ましく、特に、架橋ポリエチレン、軟質ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0047】
絶縁被覆層21は、図1に示すように、一層としてもよく、これに代えて、二層以上としてもよい。また、必要に応じて、絶縁被覆層21上に、さらに、熱硬化性樹脂の層が設けられていてもよい。また、上記熱硬化性樹脂が、繊維形状或いは粒子形状を有する充填材を含有していてもよい。
【0048】
図1のCNT複合線2は、複数の導電性線材12,12,・・・が、複数のCNT線材10,10,・・・の外周部に配置されている構成となっているが、図2に示すように、CNT複合線2の断面において、複数のCNT線材10,10,・・・と複数の導電性部材12,12,・・・とがランダムに配置されている構成であってもよい。
【0049】
また、図3(a)に示すように、CNT複合線2の断面において、導電性線材12が、CNT複合線2の中央部に配置され、複数のCNT線材10,10,・・・が、導電性線材12の外周部に配置されている構成であってもよい。この場合、複数のCNT線材10,10,・・・は、例えば、導電性線材12の外周部の全体を覆うように周方向の全体に亘って配列されている。また、図3(b)に示すように、CNT複合線2の断面において、単数の導電性線材12が、CNT複合線2の中央部に配置され、複数のCNT線材10,10,・・・が、単数の導電性線材12の外周部に配置されている構成であってもよい。この場合、複数のCNT線材10,10,・・・は、単数の導電性線材12の外周部の全体を覆うように周方向の全体に亘って配列されている。
【0050】
[カーボンナノチューブ被覆電線の製造方法]
次に、本実施形態に係るCNT被覆電線1の製造方法例について、図4を参照しながら説明する。まず、CNT11aを製造し、複数のCNT11a,11a,・・・で構成されるCNT集合体11の単数から、又は複数のCNT集合体11,11,・・・が束ねられて形成されるCNT線材10を作製する(ステップS1)。
【0051】
CNT11aは、浮遊触媒法(特許第5819888号)や、基板法(特許第5590603号)などの手法で作製することができる。CNT線材10の素線は、例えば、乾式紡糸(特許第5819888号、特許第5990202号、特許第5350635号)、湿式紡糸(特許第5135620号、特許第5131571号、特許第5288359号)、液晶紡糸(特表2014-530964)等で作製することができる。
【0052】
このとき、CNT線材10を構成するCNTの配向性、或いはCNT集合体を構成するCNTの配向性、又は、CNT集合体11やCNT11aの密度は、例えば乾式紡糸、湿式紡糸、液晶紡糸等の紡糸方法と該紡糸方法の紡糸条件とを適宜選択することで調節することができる。
【0053】
次に、CNT線材10の複数と、複数のCNT線材10,10,・・・よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材12とを束ねてCNT複合線2を形成し、CNT複合線2の断面積に対する複数のCNT11a、11a、・・・の断面積の割合を65%以上95%未満とする(ステップS2)。
【0054】
CNT複合線2が、複数のCNT線材10,10,・・・と複数の導電性線材12,12,・・・とが撚り合わされて構成されるCNT複合撚線である場合、例えば、CNT複合線2の断面積に対する複数のCNT11a,11a,・・・の断面積の割合が65%以上となるようにCNT線材10の素線径及び本数、並びに導電性線材12の素線径及び本数を決定する。そして、複数のCNT線材10,10,・・・及び複数の導電性線材12,12,・・・の配置を決定した後、CNT線材10の複数本及び導電性線材12の複数本をS方向或いはZ方向に撚り合わせてCNT複合線2を形成する。CNT複合撚線は、例えば、作成した複数のCNT線材10,10,・・・の両端を対向配置された2つの基板にそれぞれ固定し、対向する基板の一方を回転させることで作製することができる。
【0055】
CNT複合線2が、複数のCNT線材10,10,・・・と1つの導電性線材12,12,・・・とで構成される場合、例えば、上記割合に基づいてCNT線材10の素線径及び本数、並びに導電性線材12の素線径及び断面積を決定し、導電性線材12の外周部にCNT線材10の複数本をS方向或いはZ方向に撚り合わせてCNT複合線2を形成する。
【0056】
次いで、CNT複合線2を被覆する絶縁被覆層21を形成する(ステップS3)。このとき、絶縁被覆層21は、CNT複合線2の外周部全体を覆うように、CNT複合線2の長手方向の全体に亘って形成される。絶縁被覆層21を形成する方法としては、アルミニウムや銅の芯線に絶縁被覆層を被覆する方法を使用でき、例えば、絶縁被覆層21の原料である熱可塑性樹脂を溶融させ、CNT複合線2の周りに押し出して被覆する方法や、或いはCNT複合線2の周りに塗布する方法を挙げることができる。上記工程を経ることにより、本実施形態に係るCNT被覆電線1が製造される。
【0057】
本実施形態に係るCNT被覆電線1は、ワイヤハーネス等の一般電線として使用することができ、また、CNT被覆電線1を使用した一般電線からケーブルを作製してもよい。
【0058】
上述したように、本実施形態によれば、CNT複合線2が、複数のCNT線材10よりも剛性が高い1又は複数の導電性線材12を備えており、CNT複合線2の断面積に対する複数のCNT11a、11a,・・・の断面積の割合が65%以上95%未満であるので、CNT複合線2の剛性が全体として高くなり、自立性を持たせることができる。よって、CNT複合線2やCNT被覆電線1の作製時或いは取付け時に作業性を向上することができる。
【実施例
【0059】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、下記実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1~6及び比較例1~4について)
浮遊触媒法で作製したCNTを直接紡糸する乾式紡糸方法(特許第5819888号)または湿式紡糸する方法(特許第5135620号、特許第5131571号、特許第5288359号)でCNT線材の素線(単線)を得て、その後CNT線材を束ねるか、或いは撚り合わせて円相当直径1mm~2mmのCNT線材を得た。
【0061】
次に、CNT複合線の断面積に対する複数のCNTの断面積の割合を表1に示す値となるように調整し、更に、表1に示すような撚り構造となるようにCNT線材及び導電性線材である銅線を配置し、その後上記CNT線材の複数本と銅線の1本又は複数本とを束ね、束ねたCNT線材と銅線を所定の巻き数になるように撚り、CNT複合線である試験線を得た。
【0062】
次に、上記のようにして作製した試験線について、以下の測定、評価を行った。
【0063】
(a)自立性評価
自立性の評価方法として、図5に示すような試験装置100を用い、得られた試験線101の線径をD(mm)、試験装置100から横方向に延出した試験線101の延出長さをL(mm)としたときに、L/Dが75000となるように、試験線101の長手方向端部を試験装置100の載置面100aに載置した状態で固定し、自重によって垂れ下がった試験線101の長手方向端部101aの元の位置(載置面100aの高さ方向位置を基準として試験線101がたわまないと仮定したときの位置)からの距離Xを(cm)としたとき、X/Lを自重たわみ度として測定した。X/Lが0.05未満である場合を極めて良好「◎」、0.05以上0.1未満である場合を良好「〇」、0.1以上である場合を不良「×」とした。
【0064】
(b)抵抗評価
抵抗測定機(ケースレー社製、装置名「DMM2000」)にCNT線材を接続し、4端子法により抵抗測定を実施した。体積抵抗率は、r=RA/L(R:抵抗、A:CNT撚線の断面積、L:測定長さ)の計算式に基づいて算出した。体積抵抗率が2×10Ωcm未満である場合を極めて良好「◎」、2.0×10Ω・cm以上5.0×10Ω・cm未満である場合を良好「〇」、5.0×10Ω・cm以上である場合を不良「×」とした。
【0065】
(c)密度評価
単位当たりの質量を、マイクロスコープから計測される断面積および長さで割ることで試験線の密度を測定した。密度が3g/cm未満である場合を極めて良好「◎」、3g/cm以上5g/cm未満である場合を良好「〇」、5g/cm以上である場合を不良「×」とした。
【0066】
CNT複合線の上記各測定及び評価の結果を、下記表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例1では、複数のCNT線材をCNT複合線の中央部、複数の銅線を外周部に配置した構造において、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が90%であり、自重たわみ度X/Lが0.06であり、自立性が良好であった。また、CNT複合線の体積抵抗率は2.1×10Ω・cmであり、良好であった。更に、CNT複合線の密度は2.5g/cmと軽量であり、極めて良好であった。
【0069】
実施例2では、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が85%、自重たわみ度X/Lが0.04、CNT複合線の体積抵抗率が1.9×10Ω・cm、密度が2.8g/cmであり、自立性、抵抗及び密度のいずれも極めて良好であった。
【0070】
実施例3では、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が75%、自重たわみ度X/Lが0.03、CNT複合線の体積抵抗率が1.5×10Ω・cm、密度が3.6であり、自立性及び抵抗のいずれも極めて良好であった。また、CNT複合線の密度が3.6g/cmであり、良好であった。
【0071】
実施例4では、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が65%、自重たわみ度X/Lが0.02、CNT複合線の体積抵抗率が1.4×10Ω・cmであり、自立性及び抵抗のいずれも極めて良好であった。また、CNT複合線の密度が4.3g/cmであり、良好であった。
【0072】
実施例5では、複数のCNT線材と複数の銅線をランダム配置した構造において、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が85%、自重たわみ度X/Lが0.04、CNT複合線の体積抵抗率が1.9×10Ω・cm、密度が2.8g/cmであり、自立性、抵抗及び密度のいずれも極めて良好であった。
【0073】
実施例6では、1本の銅線をCNT複合線の中央部、複数のCNT線材を外周部に配置した構造において、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が85%、自重たわみ度X/Lが0.04、CNT複合線の体積抵抗率が1.9×10Ω・cm、密度が2.9g/cmであり、自立性、抵抗及び密度のいずれも極めて良好であった。
【0074】
一方、比較例1では、複数のCNT線材をCNT複合線の中央部、複数の銅線を外周部に配置した構造において、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が55%であり、CNT複合線の密度は5.1g/cmと不良であった。
【0075】
また、比較例2では、NT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が95%であり、自重たわみ度X/Lが0.12であり、自立性が劣った。
【0076】
比較例3では、複数のCNT線材と複数の銅線をランダム配置した構造において、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が95%、自重たわみ度X/Lが0.14であり、自立性が劣った。
【0077】
比較例4では、1本の銅線をCNT複合線の中央部、複数のCNT線材を外周部に配置した構造において、CNT複合線の断面積に対するCNT断面積の割合が95%であり、自重たわみ度X/Lが0.15であり、自立性が劣った。
【符号の説明】
【0078】
1 カーボンナノチューブ被覆電線(CNT被覆電線)
2 カーボンナノチューブ複合線(CNT複合線)
10 カーボンナノチューブ線材(CNT線材)
11 カーボンナノチューブ集合体(CNT集合体)
11a カーボンナノチューブ(CNT)
12 導電性線材
21 絶縁被覆層
100 試験装置
100a 載置面
101 試験線
101a 長手方向端部
図1
図2
図3
図4
図5