(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】光学素子の製造方法および光学素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20220121BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220121BHJP
G02F 1/1337 20060101ALI20220121BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02B5/30
G02F1/1337 520
G02F1/1335
G02F1/1335 520
G02F1/13 500
(21)【出願番号】P 2018098778
(22)【出願日】2018-05-23
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】二村 恵朗
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519327(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0377924(US,A1)
【文献】特開2005-274847(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194961(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02B 5/30
G02F 1/1337
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の表面に、液晶化合物に由来する光学軸が一方向となるように液晶化合物を配向するための配向処理を施し、
前記配向処理を施した基板の表面に、液晶化合物と、光の照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤と、を含む配向膜組成物を塗布して、塗膜を形成し、
前記配向膜組成物の塗膜の一部に前記キラル剤が感光する光を照射し、
前記光を照射した前記配向膜組成物の塗膜を硬化して配向膜を形成し、
前記配向膜の表面に、液晶化合物を含む組成物を塗布して硬化することで液晶層を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記配向膜組成物の塗膜に照射する光が、スポット光である、請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記スポット光のスポット形状が、円形または楕円形である、請求項2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記配向膜組成物の塗膜に照射する光が、線状の光である、請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記液晶層が、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
液晶化合物および光の照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤を用いて形成された配向膜と、前記配向膜に積層される
、液晶化合物を含む組成物を用いて形成された液晶層と、を有し、
前記配向膜は、一方の表面である第1面では、前記液晶化合物に由来する光学軸が一方向に配向しており、他方の表面である第2面では、前記液晶化合物に由来する光学軸の向きが、少なくとも1つの方向に向かって連続的に回転しながら変化し、かつ、途中で、前記液晶化合物に由来する光学軸の向きの回転方向が逆転する、液晶配向パターンを有し、
前記液晶層は、前記配向膜の前記第2面に積層されるものであり、前記配向膜の前記第2面側の表面において、
前記組成物に由来する前記液晶化合物が、前記配向膜の前記第2面における前記液晶配向パターンに応じて配向されていることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
前記液晶層が、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層である、請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記配向膜の前記第2面における前記液晶配向パターンが、
前記液晶化合物に由来する光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する方向を、複数、有し、かつ、
前記液晶化合物に由来する光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する、前記複数の方向が、1点で交差し、さらに、
前記複数の方向が交差する前記1点において、前記液晶化合物に由来する光学軸の向きの回転方向が逆転する、液晶配向パターンである、請求項6または7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記配向膜の前記第2面における前記液晶配向パターンが、
前記液晶化合物に由来する光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する方向を、1方向のみ有する、液晶配向パターンである、請求項6または7に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法、および、光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶化合物を含む組成物を用いて形成した液晶層において、液晶化合物に由来する光学軸の向きを制御することにより、入射した光を所望の方向に回折して透過する液晶レンズ(液晶回折レンズ)が得られる。
一例として、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、液晶層の面内における所定の方向に向かって、連続的に回転しながら変化するように液晶化合物を配向する、液晶配向パターンが例示される。この液晶配向パターンによれば、液晶層に入射した円偏光の旋回方向に応じて、光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する方向または逆方向に、光を回折できる。
【0003】
例えば、特許文献1には、光学的に透明な電極膜と配向膜とを有する2枚の透明基板が一定の隙間を保って保持され、透明基板の隙間に液晶化合物(液晶)が封入され、かつ、配向膜の片方または両方の表面に配向処理が施された、偏光分離機能を有するフレネルゾーンプレートが記載されている。
具体的には、特許文献1には、配向膜の表面に、液晶化合物の配向方位が一方向に左右対称に分布するように配向処理が施された、1次元のフレネルゾーンプレートが記載されている。言い換えれば、特許文献1には、液晶化合物に由来する光学軸の向きが一方向に向かって連続的に回転しながら変化し、かつ、一方向に向かう或る位置において、光学軸の向きの回転方向が逆転するように配向処理が施された、1次元のフレネルゾーンプレートが記載されている。
【0004】
また、特許文献1には、配向膜の表面に、液晶化合物の配向方位が点対称に分布するように配向処理が施された、2次元のフレネルゾーンプレートも記載されている。言い換えれば、特許文献1には、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、中心から放射状に、連続的に回転するように配向処理が施された、2次元のフレネルゾーンプレートが記載されている。この2次元のフレネルゾーンプレートでは、放射の中心点を通過する直線上における液晶化合物に由来する光学軸の回転方向は、中心で逆転する。
【0005】
特許文献1に記載されるフレネルゾーンプレートは、入射する円偏光の旋回方向に応じて、凸レンズまたは凹レンズとして作用する。
例えば、特許文献1に記載されるフレネルゾーンプレートは、左円偏光が入射した場合には、凸レンズとして作用して光を集光し、右円偏光が入射した場合には、凹レンズとして作用して、光を拡散する。
【0006】
また、特許文献2には、配向方向が一方向に向かって連続的に回転するように、表面がパターン化されたパターン配向膜を有し、このパターン配向膜の表面に、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を形成した反射構造体が記載されている。
この反射構造体においては、パターン配向膜の作用によって、コレステリック液晶層は、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、面内の一方向に向かって連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
その結果、特許文献2の反射構造体は、入射光(入射する円偏光)に対する光の反射方向が、鏡面反射に対して、光学軸が連続的に回転する一方向に変化する。例えば、特許文献2の反射構造体に、法線方向(コレステリック液晶層の表面と直交する方光)から光が入射した場合には、反射光は、鏡面反射(再帰反射)ではなく、光学軸が連続的に回転する一方向に向かって傾いて反射される。
【0007】
この光の反射方向は、コレステリック液晶層における、光学軸が連続的に回転する一方向に向かう光学軸の回転方向よって異なる。
例えば、特許文献2の反射構造体において、光学軸が連続的に回転する一方向をx方向として、法線方向から光(円偏光)が入射した際に、x方向に向かう光学軸の回転方向が時計回りである場合には、光はx方向に傾いて反射される。逆に、x方向に向かう光学軸の回転方向が反時計回りである場合には、光はx方向と逆方向に傾いて反射される。
従って、特許文献2の反射構造体では、光学軸が連続的に回転する一方向において、光学軸の回転方向を途中で逆転させることにより、光を集光反射または拡散反射する反射構造体を得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-274847号公報
【文献】国際公開第2016/194961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および特許文献2等に記載されるように、液晶化合物に由来する光学軸の向きを制御した液晶層によれば、入射した光を所望の方向に回折する液晶レンズおよび反射構造体等の光学素子が得られる。
【0010】
しかしながら、このように液晶化合物を配向する配向膜を形成するためには、微小領域において高精細な配向の制御を行う必要である。
これに対応するために、液晶レンズの製造における配向膜の形成では、例えば、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)のナノプローブを用いるナノラビング法、ダイヤモンド針およびサファイア針等のマイクロニードルを用いるマイクロラビング法、ND:YAGレーザ書き込みによる書き込み等による配向処理を行う必要がある。
そのため、液晶レンズの製造では、配向膜の形成に、非常に手間と時間がかかり、また、大掛かりな装置が必要になってしまう。
【0011】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、簡易な方法で液晶レンズ等の光学素子を製造できる光学素子の製造方法、および、この光学素子の製造方法で製造できるレンズ等の光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 基板の一方の表面に、液晶化合物に由来する光学軸が一方向となるように液晶化合物を配向するための配向処理を施し、
配向処理を施した基板の表面に、液晶化合物と、光の照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤と、を含む配向膜組成物を塗布して、塗膜を形成し、
配向膜組成物の塗膜の一部にキラル剤が感光する光を照射し、
光を照射した配向膜組成物の塗膜を硬化して配向膜を形成し、
配向膜の表面に、液晶化合物を含む組成物を塗布して硬化することで液晶層を形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
[2] 配向膜組成物の塗膜に照射する光が、スポット光である、[1]に記載の光学素子の製造方法。
[3] スポット光のスポット形状が、円形または楕円形である、[2]に記載の光学素子の製造方法。
[4] 配向膜組成物の塗膜に照射する光が、線状の光である、[1]に記載の光学素子の製造方法。
[5] 液晶層が、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層である、[1]~[4]のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
[6] 液晶化合物および光の照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤を用いて形成された配向膜と、配向膜に積層される液晶層と、を有し、
配向膜は、一方の表面である第1面では、液晶化合物に由来する光学軸が一方向に配向しており、他方の表面である第2面では、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、少なくとも1つの方向に向かって連続的に回転しながら変化し、かつ、途中で、液晶化合物に由来する光学軸の向きの回転方向が逆転する、液晶配向パターンを有し、
液晶層は、配向膜の第2面に積層されるものであり、配向膜の第2面側の表面において、液晶化合物が、配向膜の第2面における液晶配向パターンに応じて配向されていることを特徴とする光学素子。
[7] 液晶層が、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層である、[6]に記載の光学素子。
[8] 配向膜の第2面における液晶配向パターンが、液晶化合物に由来する光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する方向を、複数、有し、かつ、液晶化合物に由来する光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する、複数の方向が、1点で交差し、さらに、複数の方向が交差する1点において、液晶化合物に由来する光学軸の向きの回転方向が逆転する、液晶配向パターンである、[6]または[7]に記載の光学素子。
[9] 配向膜の第2面における液晶配向パターンが、液晶化合物に由来する光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する方向を、1方向のみ有する、液晶配向パターンである、[6]または[7]に記載の光学素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な方法で液晶レンズ等の光学素子を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の光学素子の一例を概念的に示す図である。
【
図2】
図1に示す光学素子の配向膜を概念的に示す図である。
【
図3】
図1に示す光学素子の配向膜の下面を概念的に示す図である。
【
図4】
図1に示す光学素子の配向膜の上面を概念的に示す図である。
【
図5】
図1に示す光学素子の配向膜と液晶層との界面の近傍を概念的に示す図である。
【
図6】
図1に示す光学素子の液晶層の下面を概念的に示す図である。
【
図7】
図1に示す光学素子の液晶層の作用を説明するための概念図である。
【
図8】
図1に示す光学素子の液晶層の作用を説明するための概念図である。
【
図9】
図1に示す光学素子の作用を説明するための概念図である。
【
図10】本発明の光学素子の別の例を概念的に示す図である。
【
図11】
図10に示す光学素子の配向膜の上面を概念的に示す図である。
【
図12】
図10に示す光学素子の配向膜と液晶層との界面の近傍を概念的に示す図である。
【
図13】
図10に示す光学素子の液晶層の下面の概念的に示す図である。
【
図14】
図10に示す光学素子の液晶層の作用を説明するための概念図である。
【
図15】
図10に示す光学素子の液晶層の作用を説明するための概念図である。
【
図16】
図10に示す光学素子の作用を説明するための概念図である。
【
図17】
図1に示す光学素子の製造方法の一例を説明するための概念図である。
【
図18】本発明の光学素子の別の例を概念的に示す図である。
【
図19】
図18に示す光学素子の配向膜の下面を概念的に示す図である。
【
図20】
図18に示す光学素子の配向膜の上面を概念的に示す図である。
【
図21】
図18に示す光学素子の液晶層の下面を概念的に示す図である。
【
図22】
図18に示す光学素子の製造方法の一例を説明するための概念図である。
【
図23】本発明の実施例に用いたマスクの概念図である。
【
図24】本発明の実施例に用いたマスクの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の光学素子の製造方法および光学素子について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0016】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
【0017】
図1に、本発明の光学素子の一例を概念的に示す。
図1に示す光学素子10は、基板12と、配向膜14と、液晶層16とを有する。
【0018】
本発明の光学素子10において、配向膜14は、液晶化合物と、光の照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤とを用いて形成される。
また、配向膜14は、基板12側の表面14aでは、面内において、液晶化合物に由来する光学軸の向きが一方向すなわち図中の矢印X方向(図中横方向)に向かうように、配向している。さらに、配向膜14は、液晶層16側の表面14bでは、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、面内の少なくとも一方向すなわち矢印X方向に向かって、連続的に回転しながら変化し、かつ、途中で、液晶化合物に由来する光学軸の向きの回転方向が逆転する、液晶配向パターンを有する(
図2~
図4参照)。
なお、液晶化合物に由来する光学軸とは、液晶化合物において屈折率が最も高くなる軸であり、例えば、棒状液晶化合物の場合は長軸が該当する。
光学素子10においては、配向膜14の基板12側の表面14aが、本発明における第1面に対応し、配向膜14の液晶層16側の表面14bが、本発明における第2面に対応する。
【0019】
以下の説明では、
図1中の上方すなわち液晶層16側を『上』、図中下方すなわち基板12側を『下』とも言う。これに応じて、配向膜14の基板12側の表面14aを『下面14a』、配向膜14の液晶層16側の表面14bを『上面14b』とも言う。
また、以下の説明では、液晶化合物に由来する光学軸を、単に『液晶化合物の光学軸』または『光学軸』とも言う。
さらに、以下の説明では、光学軸の向きが回転することを、単に『光学軸が回転』とも言う。加えて、以下の説明では、光学軸が、一方向に向かって連続的に回転しながら変化することを、単に、『光学軸が一方向に向かって回転する』とも言う。
また、以下の説明では、『矢印X方向』を、単に『X方向』とも言う。
【0020】
本発明の光学素子10において、液晶層16の下面(配向膜14側の表面)では、液晶化合物が、配向膜14の上面14bにおける液晶配向パターンに応じて、配向される。
すなわち、光学素子10の液晶層16は、下面では、面内において、液晶化合物の光学軸が、X方向に向かって回転し、かつ、途中で光学軸の回転方向が逆になるように、液晶化合物が配向される、液晶配向パターンを有する。
【0021】
このような本発明の光学素子10は、後述する本発明の光学素子の製造方法で製造できる。
【0022】
基板12は、配向膜14および液晶層16を支持するものである。
基板12には、制限はなく、配向膜14および液晶層16を支持可能であれば、各種のシート状物(フィルム、板状物)が利用可能である。
一例として、ガラス、ならびに、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリルおよびポリオレフィンなどの樹脂製のフィルム等からなる基板12が例示される。
【0023】
基板12は、透明(光透過性)でも、不透明でもよい。
ただし、本発明の光学素子が、基板12を有する状態でレンズのように光を透過する用途に用いられる場合には、基板12は、透明であるのが好ましい。具体的には、基板12が透明である場合には、基板12は、JIS(Japanese Industrial Standards) K 7361-1(1996)に準拠する全光線透過率が、50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、85%以上であるのがさらに好ましい。
【0024】
図示例の光学素子10において、基板12の表面には配向処置が施されている。この配向処理は、配向膜14の下面14aにおける液晶化合物を、光学軸がX方向に一致するように配向するための、配向処理である。例えば、基板12の表面は、X方向にラビングによる配向処理が行われている。
すなわち、光学素子10において、基板12は、配向膜14の下面14aの液晶化合物を配向する、配向膜としての作用も有する。
基板12の表面の配向処理の方法には、制限はなく、ラビングによる配向処理、ならびに、光配向膜および無機化合物の斜方蒸着膜などの配向膜を設ける方法等、公知の方法が、各種、利用可能である。
【0025】
なお、本発明の光学素子は、基板12を有さなくてもよい。
すなわち、本発明の光学素子は、後述する本発明の光学素子の製造によって液晶層16を形成した後、基板12を剥離してもよく、あるいは、基板12を剥離した後、ガラス板等の他の支持体に貼着されてもよく、あるいは、後述する実施例に示すように、他の支持体に貼着した後、基板12を剥離してもよい。
【0026】
基板12の一方の表面には、配向膜14が設けられる。
なお、本発明の光学素子は、図示例の光学素子10のように、基板12の一方の面のみに配向膜14および液晶層16を有する構成に制限はされない。すなわち、本発明の光学素子は、基板12の両面に、上述のような配向処理を施し、さらに、後述する配向膜14および液晶層16を有する構成であってもよい。
【0027】
配向膜14は、後述する液晶層16の液晶化合物を配向するための膜である。
図2に、配向膜14を概念的に示す。なお、
図2は、配向膜14を
図1と同方向から見た図であり、すなわち、光学素子10を基板12の面方向に見た図である。
また、
図3に、配向膜14の下面14a(基板12側の表面)を、
図4に、配向膜14の上面14b(液晶層16側の表面)を、それぞれ、概念的に示す。すなわち、
図3は、配向膜14を、
図1および
図2の下方から見た図であり、
図4は、配向膜14を、
図1および
図2の上方から見た図であり、すなわち平面図である。
【0028】
上述のように、配向膜14は、液晶化合物と、光の照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤とを用いて形成される。以下の説明では、螺旋誘起力のことをHTPとも言う。なお、HTPとは、『Helical Twisting Power』の略である。
配向膜14は、下面14aでは、光学軸がX方向と一致するように、液晶化合物20が配向されている。なお、図示例において、液晶化合物20は、一例として、棒状液晶化合物であり、液晶化合物20の長手方向と光学軸の方向とが一致している。この点に関しては、
図10および
図18に示す光学素子の液晶化合物も同様である。
他方、配向膜14の上面14bでは、面内において、液晶化合物20の光学軸が、図中のX方向に向かって回転しており、かつ、X方向の途中で、光学軸の回転方向が逆転する、液晶配向パターンを有する。図示例においては、上面14bにおける液晶化合物20は、X方向に向かって、光学軸をX方向と一致した状態から、光学軸が反時計回りに回転して、180°回転した時点で回転方向が逆転し、下流に向けて時計回りに180°回転する、液晶配向パターンを有する。
液晶化合物20の光学軸がX方向(一方向)に回転しているとは、具体的には、X方向に沿って配列されている液晶化合物20の光学軸と、X方向とが成す角度が、X方向の位置によって異なっており、X方向に向かって、光学軸とX方向とが成す角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで、順次、変化していることを意味する。
なお、『液晶化合物の光学軸が一方向に回転している』とは、具体的には、『液晶化合物に由来する光学軸の向きが、一方向に向かって、連続的に回転しながら変化している』ことを示すのは、上述のとおりである。
【0029】
なお、本発明の光学素子において、配向膜14の上面14bにおける液晶化合物20の配向パターンは、この構成に制限はされず、各種の配向パターンが利用可能である。
例えば、X方向に向かって、光学軸が所定角度、回転して、その後、光学軸の回転方向を逆転して、X方向に向かって、光学軸が所定角度、回転することを、繰り返す液晶配向パターンであってもよい。すなわち、図示例であれば、X方向に向かって、光学軸が反時計回りに180°回転し、次いで、光学軸の回転方向を逆転して、光学軸が時計回りに180°回転することを、X方向に向かって繰り返すような液晶配向パターンであってもよい。
なお、後述するが、液晶化合物20の光学軸の回転角度は、180°に制限はされず、180°未満、例えば90°等でもよく、あるいは、180°超、例えば360°等でもよい。
【0030】
また、配向膜14の下面14aにおける液晶化合物20の光学軸の向きも、図示例のように、X方向すなわち上面14bにおいて光学軸の向きが変化する方向と、一致する方向に制限はされない。例えば、図示例であれば、配向膜14の下面14aの液晶化合物20の光学軸の向きが、全て、X方向と直交する方向(後述するY方向)と一致していてもよい。
【0031】
配向膜14は、キラル剤と、液晶化合物とを用いて形成される。従って、配向膜14に含まれる液晶化合物20は、キラル剤の作用によって、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って捩れ配向される。
図2に示すように、配向膜14において、液晶化合物20の螺旋軸の捩れ方向は、一例として、右捩れである。
上述のように、配向膜14の下面14aでは、液晶化合物20の光学軸の方向は、X方向に一致している。一方で、配向膜14の上面12bでは、液晶化合物20の光学軸が、X方向に向かって連続的に回転している。さらに、キラル剤は、光の照射によってHTPが変化するものである。
すなわち、配向膜14では、X方向に向かって、液晶化合物20の捩れ角が、漸次、変化している。
【0032】
図3および
図4に示すように、配向膜14において、液晶化合物20は、(矢印)X方向と、X方向と直交する矢印Y方向とに、二次元的に配列されている。従って、
図1および
図2において、矢印Y方向は紙面と直交する方向になる。以下の説明では、『矢印Y方向』を、単に『Y方向』とも言う。
また、
図3および
図4に示すように、Y方向に配列される液晶化合物20、すなわち、X方向の各列では、光学軸の方向が、等しい。すなわち、配向膜14において、Y方向に配列される液晶化合物20は、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿った捩れ配向において、液晶化合物20の捩れ角が等しい。従って、配向膜14は、X方向のみに、液晶化合物20の捩れ角が異なり、上面14bにおいて光学軸が回転する。
【0033】
具体的には、液晶化合物20のX方向の各列を、X方向に向かって、x1列、x2列、……、x13列とすると、配向膜14の液晶化合物20は、x1列では、下面14aにおいて光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って180°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向と一致している(液晶化合物20の捩れ角は180°)。
x2列では、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って150°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸がX方向に対して30°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は150°)。
x3列では、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って120°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向に対して60°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は120°)。
x4列では、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って90°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向に対して90°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は90°)。
x5列では、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って60°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向に対して120°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は60°)。
x6列では、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って30°捩れ配向されて、上面では光学軸はX方向に対して150°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は30°)。
x7列では、液晶化合物20は、捩れ配向されておらず、下面14a側で光学軸をX方向と一致した状態のまま、上面14bでも光学軸はX方向に一致している(液晶化合物20の捩れ角は0°)。
x8列では、x6列と同様、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って30°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向に対して150°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は30°)。
x9列では、x5列と同様、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って60°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向に対して120°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は60°)。
x10列では、x4列と同様、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って90°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向に対して90°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は90°)。
x11列では、x3列と同様、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って120°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向に対して60°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は120°)。
x12列では、x2列と同様、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って160°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向に対して30°傾いた状態になっている(液晶化合物20の捩れ角は160°)。
x13列では、x1列と同様、液晶化合物20は、下面14aで光学軸をX方向と一致した状態から、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って180°捩れ配向されて、上面14bでは光学軸はX方向と一致している(液晶化合物20の捩れ角は180°)。
【0034】
なお、本発明において、捩れ配向した液晶化合物20の捩れ角とは、配向膜14における、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って捩れ配向された液晶化合物20の、下面14aから上面14bに到るまでの捩れ角度である。
【0035】
すなわち、配向膜14の液晶化合物20は、X方向に向かって、x1列~x7列の間では、捩れ角が、最大の180°から、漸次、減少して最小の0°になり、x7列~x13列の間では、捩れ角が、最小の0°から、漸次、増加して最大の180°となる。
従って、配向膜14の上面14bにおける液晶化合物20の光学軸の回転方向は、x1列~x7列では、X方向に向かって反時計回りで、x7列で回転方向が逆転して、x7列~x13列では、X方向に向かって時計回りとなる。
【0036】
本発明の光学素子10において、配向膜14における液晶化合物20の捩れ角は、図示例の0~180°に制限はされず、任意の捩れ角が利用可能である。
配向膜14における液晶化合物20の最大捩れ角および最小捩れ角は、配向膜14におけるキラル剤の種類、配向膜14に添加するキラル剤の添加量、後述する本発明の製造方法における配向膜組成物の塗膜に照射する光の大きさ(スポットサイズ、線幅)、および、同光の光量等によって調節可能である。
【0037】
また、配向膜14の上面14bにおいて、液晶化合物20の光学軸の回転方向が逆転するまでの光学軸の回転角度も、図示例の180°に制限はされず、任意の回転角度が利用可能である。
配向膜14の上面14bにおける、液晶化合物20の光学軸の回転方向が逆転する光学軸の回転角度は、配向膜14におけるキラル剤の種類、配向膜14に添加するキラル剤の添加量、後述する本発明の製造方法における、配向膜組成物の塗膜に照射する光の大きさ、同光の間隔、および、同光の光量等によって調節可能である。
【0038】
配向膜14の厚さにも、特に制限はなく、配向膜14を形成する液晶化合物の種類、キラル剤などの配向膜14に添加される成分等に応じて、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って捩れ配向した液晶化合物20の、目的とする最大の捩れ角を実現できる厚さを、適宜、設定すればよい。
配向膜14の厚さは、0.1~10μmが好ましく、0.1~5μmがより好ましく、0.1~1μmがさらに好ましい。
【0039】
配向膜14は、一例として、重合性液晶化合物を、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿った捩れ配向した状態とした上で、紫外線照射、加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、外場または外力によって配向形態に変化を生じさせることない状態に変化させて形成する。
なお、本発明においては、上面14bにおいてのみ、液晶化合物20の光学軸が、X方向(一方向)に向かって回転してればよい。従って、配向膜14が完成した時点では、液晶化合物20は液晶性を示さなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、液晶性を失っていてもよい。
【0040】
配向膜14の形成に用いる材料としては、一例として、液晶化合物およびキラル剤を含む、配向膜14を形成するための液晶組成物、すなわち、本発明の製造方法における配向膜組成物が挙げられる。液晶化合物は重合性液晶化合物であるのが好ましい。
また、配向膜組成物に添加されるキラル剤は、上述のように、光の照射によってHTPが変化するキラル剤である。
【0041】
--重合性液晶化合物--
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよいが、図示例のように棒状液晶化合物であるのが好ましい。
配向膜14を形成する棒状の重合性液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類等が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0042】
重合性液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、およびアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基がより好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。重合性液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~3個である。
重合性液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、米国特許第5622648号明細書、米国特許第5770107号明細書、国際公開第95/22586号、国際公開第95/24455号、国際公開第97/00600号、国際公開第98/23580号、国際公開第98/52905号、特開平1-272551号公報、特開平6-16616号公報、特開平7-110469号公報、特開平11-80081号公報、および、特開2001-328973号公報等に記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0043】
また、これ以外の重合性液晶化合物としては、特開昭57-165480号公報に開示されているようなコレステリック相を有する環式オルガノポリシロキサン化合物等を用いることができる。さらに、高分子液晶化合物としては、液晶性を呈するメソゲン基を主鎖、側鎖、あるいは主鎖および側鎖の両方の位置に導入した高分子、コレステリル基を側鎖に導入した高分子コレステリック液晶、特開平9-133810号公報に開示されているような液晶性高分子、および、特開平11-293252号公報に開示されているような液晶性高分子等を用いることができる。
【0044】
また、配向膜組成物中の重合性液晶化合物の添加量は、配向膜組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、75~99.9質量%であるのが好ましく、80~99質量%であるのがより好ましく、85~90質量%であるのがさらに好ましい。
【0045】
--界面活性剤--
配向膜14を形成する際に用いる配向膜組成物は、界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤は、液晶化合物を安定的にまたは迅速にプレーナー配向とする効果を寄与する、配向制御剤(水平配向剤)として機能できる化合物が好ましい。
界面活性剤としては、例えば、シリコ-ン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤が好ましく例示される。
【0046】
界面活性剤の具体例としては、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物、特開2012-203237号公報の段落[0031]~[0034]に記載の化合物、特開2005-99248号公報の段落[0092]および[0093]中に例示されている化合物、特開2002-129162号公報の段落[0076]~[0078]および段落[0082]~[0085]中に例示されている化合物、ならびに、特開2007-272185号公報の段落[0018]~[0043]等に記載のフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、などが挙げられる。
なお、界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
フッ素系界面活性剤として、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物が好ましい。
【0047】
配向膜組成物中における、界面活性剤の添加量は、液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%がさらに好ましい。
【0048】
--キラル剤(光学活性化合物)--
キラル剤(カイラル剤)は配向膜14における液晶化合物20の螺旋構造を誘起する機能を有する。本発明では、光の照射によって、HTP(螺旋誘起力)が変化するキラル剤を用いる。
光の照射によってHTPが変化するキラル剤を用いることにより、後述するように、マスクを介した配向膜組成物の塗膜への光照射など、配向膜組成物の塗膜の一部にキラル剤が感光する光を照射することによって、照射した光の中心から外方向に向かって、キラル剤のHTPを連続的に変化させることができる。これにより、配向膜14の面内で、例えばX方向に液晶化合物20の捩れ角を変化させることができ、上述したように、配向膜14の上面14bにおいて、液晶化合物20の光学軸がX方向に向かって回転し、かつ、X方向の途中で光学軸の回転方向が逆転する、液晶配向パターンを形成できる。
光照射によってHTPが変化するキラル剤は、光照射によってHTPが低下するキラル剤でも、光照射によってHTPが増加するキラル剤でもよい。なお、HTPが変化するキラル剤は、光照射によってHTPが低下するキラル剤が、一般的である。
【0049】
キラル剤は、光の照射によってHTPが変化するものであれば、公知の化合物が利用可能である。
なお、キラル剤は、化合物によって誘起する螺旋の捩れ方向および/または螺旋ピッチが異なる。従って、配向膜組成物に用いるキラル剤は、目的とする液晶化合物20の螺旋ピッチ、目的とする液晶化合物20の捩れ角、光学素子10の主たる用途(集光または光拡散など)等に応じて、適宜、選択すればよい。この点に関しては、後述する液晶組成物でも同様である。
キラル剤としては、例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(twisted nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載のキラル剤、イソソルビド、および、イソマンニド誘導体等を用いることができる。
【0050】
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。キラル剤と液晶化合物とがいずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であるのが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であるのが好ましく、不飽和重合性基であるのがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であるのがさらに好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0051】
キラル剤は、光異性化基を有してもよい。キラル剤が光異性化基を有する場合には、光の照射によってキラル剤のHTPを変化させることができるので、好ましい。
光異性化基としては、フォトクロッミック性を示す化合物の異性化部位、アゾ基、アゾキシ基、または、シンナモイル基が好ましい。具体的な化合物として、特開2002-80478号公報、特開2002-80851号公報、特開2002-179668号公報、特開2002-179669号公報、特開2002-179670号公報、特開2002-179681号公報、特開2002-179682号公報、特開2002-338575号公報、特開2002-338668号公報、特開2003-313189号公報、および、特開2003-313292号公報等に記載の化合物を用いることができる。
【0052】
配向膜組成物における、キラル剤の含有量は、捩れ配向される液晶化合物20の最大の捩れ角を実現できる量を、キラル剤の種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
キラル剤の含有量は、液晶化合物の含有モル量に対して0.1~30質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましい。
【0053】
--重合開始剤--
配向膜組成物が重合性化合物を含む場合は、重合開始剤を含有しているのが好ましい。紫外線照射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。
光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、米国特許第2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、米国特許第2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、ならびに、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
配向膜組成物中の光重合開始剤の含有量は、液晶化合物の含有量に対して0.1~20質量%であるのが好ましく、0.5~12質量%であるのがより好ましい。
【0054】
--架橋剤--
配向膜組成物は、硬化後の膜強度向上、耐久性向上のため、任意に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、紫外線、熱、および、湿気等で硬化するものが好適に使用できる。
架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレートおよびエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]および4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネートおよびビウレット型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ならびに、ビニルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物;などが挙げられる。また、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いることができ、膜強度および耐久性向上に加えて生産性を向上させることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋剤の含有量は、配向膜組成物の固形分質量に対して、1~20質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、架橋密度向上の効果が得られやすく、配向膜14の安定性がより向上する。
【0055】
--その他の添加剤--
配向膜組成物には、必要に応じて、さらに、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学的性能等を低下させない範囲で添加することができる。
【0056】
配向膜組成物は、配向膜14を形成する際には、液体(塗料)として用いられるのが好ましい。
配向膜組成物は溶媒を含んでいてもよい。溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有機溶媒が好ましい。
有機溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、および、エーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が好ましい。
【0057】
光学素子10は、配向膜14(上面14b)の上に、液晶層16を有する。
図5に、配向膜14と液晶層16との界面の近傍を概念的に示す。
本発明の光学素子10において、液晶層16は、下面(配向膜14側の表面)では、液晶化合物24が、配向膜14の上面14bの液晶化合物20によって配向されて、配向膜14の上面14bにおける液晶配向パターンと同様の液晶配向パターンを有する。すなわち、光学素子10の液晶層16は、下面では、液晶化合物24の光学軸が、X方向に向かって回転し、かつ、途中で回転方向が逆になる、液晶配向パターンを有する。
図示例の液晶層16では、液晶化合物24は、厚さ方向には捩れ配向されない通常の配向状態になっているので、液晶層16の液晶化合物24は、厚さ方向の全域にわたって、配向膜14の上面14bと同じ液晶配向パターンで、配向される。
【0058】
本発明の光学素子10において、液晶層16は、一例として、液晶化合物を含む組成物(液晶組成物)を用いて形成される。
液晶層16は、好ましい態様として、液晶層16の厚さと、液晶層16の形成に用いた液晶組成物中の液晶化合物の波長550nmにおけるΔn(屈折率差)との積が、200~350nmである場合、すなわち液晶層16の厚さと上記液晶化合物のΔnとの積が約λ/2である場合、液晶層16に入射した光に含まれる互いに直交する2つの直線偏光成分に半波長すなわち180°の位相差を与える機能を有している。
【0059】
図6に、液晶層16の下面を概念的に示す。
なお、
図6は、液晶層16の下面の液晶化合物24の配向状態を示しているが、液晶層16は、
図5に示すように、厚さ方向には、この下面の液晶化合物24から、同じ配向状態の液晶化合物24が積み重ねられた構造を有するのは、上述のとおりである。
【0060】
液晶層16は、面内において、液晶化合物24の光学軸の向きX方向に向かって連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
一方、液晶層16を形成する液晶化合物24は、配向膜14の上面14bと同様、X方向と直交するY方向、すなわち光学軸が回転する一方向と直交するY方向では、光学軸の向きが等しい液晶化合物24が等間隔で配列されている。言い換えれば、液晶層16においては、Y方向に配列される液晶化合物24同士では、光学軸の向きとX方向とが成す角度が等しい。
【0061】
光学軸とX方向とが成す角度が等しい液晶化合物24が、Y方向に配置された領域を、領域Rとする。
この場合に、それぞれの領域Rにおける波長550nmにおける面内レタデーション(Re)の値は、半波長すなわちλ/2であるのが好ましい。なお、ここでλ/2とは、面内レタデーションが、200~350nmであることを意図する。これらの面内レタデーションは、領域Rの屈折率異方性に伴う波長550nmにおける屈折率差Δnと液晶層16の厚さとの積により算出される。ここで、液晶層16における領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差とは、領域Rの面内における遅相軸の方向の屈折率と、遅相軸の方向に直交する方向の屈折率との差により定義される屈折率差である。すなわち、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差Δnは、光学軸の方向の液晶化合物24の屈折率と、領域Rの面内において光学軸に垂直な方向の液晶化合物24の屈折率との差に等しい。つまり、上記屈折率差Δnは、液晶化合物の屈折率差に等しい。
【0062】
このような液晶層16に円偏光が入射すると、光は、屈折され、かつ、円偏光の方向が変換される。
この作用を、
図7および
図8に概念的に示す、液晶化合物24の光学軸がX方向に向かって回転するが、X方向の途中で光学軸の回転方向が逆転しない、液晶層16Aを参照して、説明する。
なお、液晶層16Aは、液晶化合物24の屈折率差と液晶層16Aの厚さとの積の値がλ/2であるとする。なお、ここでλ/2とは、上記値が、200~350nmであることを意図する。
また、
図7および
図8では、図面を簡略化して作用を明確にするために、液晶層16Aは、配向膜14側の表面の液晶化合物24(液晶化合物分子)のみを示す。しかしながら、液晶層16Aも、
図5に示す液晶層16と、同様に、同方向に配向された液晶化合物24が厚さ方向に積層された構成を有する。
【0063】
図7に示すように、液晶層16Aの液晶化合物の屈折率差と液晶層16Aの厚さとの積の値がλ/2の場合に、液晶層16Aに左円偏光である入射光L
1が入射すると、入射光L
1は、液晶層16Aを通過することにより180°の位相差が与えられて、透過光L
2は、右円偏光に変換される。
また、入射光L
1は、液晶層16Aを通過する際に、それぞれの液晶化合物24の光学軸の向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光学軸の向きは、X方向に向かって回転しながら変化しているため、光学軸の向きに応じて、入射光L
1の絶対位相の変化量が異なる。さらに、液晶層16Aに形成された液晶配向パターンは、X方向に周期的なパターンであるため、液晶層16Aを通過した入射光L
1には、
図7に示すように、それぞれの光学軸の向きに対応したX方向に周期的な絶対位相Q1が与えられる。これにより、X方向に対して逆の方向に傾いた等位相面E1が形成される。
そのため、透過光L
2は、等位相面E1に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L
1の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、左円偏光の入射光L
1は、入射方向に対してX方向に一定の角度だけ傾いた、右円偏光の透過光L
2に変換される。
【0064】
一方、
図8に概念的に示すように、液晶層16Aの液晶化合物の屈折率差と液晶層16Aの厚さとの積の値がλ/2のとき、液晶層16Aに右円偏光の入射光L
4が入射すると、入射光L
4は、液晶層16Aを通過することにより、180°の位相差が与えられて、左円偏光の透過光L
5に変換される。
また、入射光L
4は、液晶層16Aを通過する際に、それぞれの液晶化合物24の光学軸の向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光学軸の向きは、X方向に沿って回転しながら変化しているため、光学軸の向きに応じて、入射光L
4の絶対位相の変化量が異なる。さらに、液晶層16Aに形成された液晶配向パターンは、X方向に周期的なパターンであるため、液晶層16Aを通過した入射光L
4は、
図8に示すように、それぞれの光学軸の向きに対応したX方向に周期的な絶対位相Q2が与えられる。
ここで、入射光L
4は、右円偏光であるので、光学軸の向きに対応したX方向に周期的な絶対位相Q2は、左円偏光である入射光L
1とは逆になる。その結果、入射光L
4では、入射光L
1とは逆にX方向に傾斜した等位相面E2が形成される。
そのため、入射光L
4は、等位相面E2に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L
4の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、入射光L
4は、入射方向に対してX方向とは逆の方向に一定の角度だけ傾いた左円偏光の透過光L
5に変換される。
【0065】
絶対位相の方向および等位相面の傾斜方向は、X方向(一方向)に向かう液晶化合物24の回転方向が逆になると、逆になる。すなわち、液晶層16に入射した円偏光の屈折方向は、X方向に向かう液晶化合物24の回転方向が逆になると、逆方向になる。
図7および
図8に示す例では、液晶層16AにおけるX方向に向かう光学軸の回転方向は、時計回りである。
従って、X方向に向かう光学軸の回転方向が反時計回りである場合に、
図7に示すように左円偏光である入射光L
1が液晶層16Aに入射すると、入射光L
1はX方向とは逆方向に屈折されて、入射光L
1に対してX方向と逆方向に傾いて出射される。すなわち、この場合には、透過光は、
図8の透過光L
5と同方向に向かって出射される。
また、X方向に向かう光学軸の回転方向が反時計回りである場合に、
図8に示すように右円偏光である入射光L
4が液晶層16Aに入射すると、入射光L
4はX方向に屈折されて、透過光は入射光L
4に対してX方向に傾いて出射される。すなわち、この場合には、透過光は、
図7の透過光L
2と同方向に向かって出射される。
【0066】
上述のように、光学素子10の配向膜14の上面14bにおいて、液晶化合物20の光学軸は、X方向に向かって、x1~x7の領域では反時計回りに回転し、x7~x13の領域では、時計回りに回転する。また、液晶層16の面内における液晶配向パターンは、配向膜14の上面14bと同じである。
従って、例えば、光学素子10(液晶層16)に右円偏光の入射光L
1が入射した場合には、液晶層16における、配向膜14の上面14bのx1~x7に対応する領域では、入射光はX方向に屈折され、x7~x13に対応する領域は、X方向と逆方向に屈折されて、透過光は、
図9に概念的に示すように、集光される。
また、光学素子10に左円偏光の入射光L
2が入射した場合には、逆に、配向膜14の上面14bのx1~x7に対応する領域では、入射光はX方向と逆方向に屈折され、x7~x13に対応する領域は、X方向に屈折されて、透過光は、広がる。
【0067】
なお、
図6に示すように、光学素子10の液晶層16において、液晶化合物24の光学軸は、Y方向に向かっては回転しておらず、一定の向きを向いている。そのため、光学素子10(液晶層16)に円偏光が入射しても、光はY方向には屈折されない。すなわち、光学素子10は、Y方向には、いわゆるレンズパワーを有さない。
従って、光学素子10は、Y方向に稜線を有する、シリンドリカルレンズのように作用する。
【0068】
液晶層16による光の屈折は、面内においてX方向に液晶化合物24の光学軸が180°回転する長さ、すなわち、
図5に示す周期Λによって、調節できる。言い換えれば、周期Λとは、X方向に隣接する、X方向に対する角度が等しい2つの液晶化合物の、中心間距離である。
具体的には、周期Λが短いほど、互いに隣接した液晶化合物24を通過した光同士が強く干渉するため、透過光を大きく屈折させることができる。
液晶層16の周期Λは、配向膜14に添加するキラル剤の種類、配向膜14に添加するキラル剤の添加量、後述する本発明の製造方法における、配向膜組成物の塗膜に照射する光の大きさ、同光の間隔、および、同光の光量等によって調節可能である。
【0069】
液晶層16において、複数の領域Rの面内レタデーションの値は、半波長であるのが好ましいが、波長が550nmである入射光に対する液晶層16の複数の領域Rの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dが下記式(1)に規定される範囲内であるのが好ましい。ここで、Δn550は、入射光の波長が550nmである場合の、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差であり、dは、液晶層16の厚さである。
200nm≦Δn550×d≦350nm・・・(1)
すなわち、液晶層16の複数の領域Rの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dが式(1)を満たしていれば、液晶層16に入射した光の十分な量の円偏光成分を、X方向またはX方向と逆方向に傾いた方向に進行する円偏光に変換できる。面内レタデーションRe(550)=Δn550×dは、225nm≦Δn550×d≦340nmがより好ましく、250nm≦Δn550×d≦330nmがさらに好ましい。
なお、上記式(1)は波長550nmである入射光に対する範囲であるが、波長がλnmである入射光に対する液晶層16の複数の領域Rの面内レタデーションRe(λ)=Δnλ×dは下記式(1-2)に規定される範囲内であるのが好ましく、適宜設定することができる。
0.7λnm≦Δnλ×d≦1.3λnm・・・(1-2)
【0070】
また、液晶層16における、複数の領域Rの面内レタデーションの値は、上記式(1)の範囲外で用いることもできる。具体的には、Δn550×d<200nmまたは350nm<Δn550×dとすることで、入射光の進行方向と同一の方向に進行する光と、入射光の進行方向とは異なる方向に進行する光に分けることができる。Δn550×dが0nmまたは550nmに近づくと入射光の進行方向と同一の方向に進行する光の成分は増加し、入射光の進行方向とは異なる方向に進行する光の成分は減少する。
【0071】
さらに、波長が450nmの入射光に対する液晶層16の領域Rのそれぞれの面内レタデーションRe(450)=Δn450×dと、波長が550nmの入射光に対する液晶層16の領域Rのそれぞれの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dは、下記式(2)を満たすのが好ましい。ここで、Δn450は、入射光の波長が450nmである場合の、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差である。
(Δn450×d)/(Δn550×d)<1.0・・・(2)
式(2)は、液晶層16に含まれる液晶化合物24が逆分散性を有していることを表している。すなわち、式(2)が満たされることにより、液晶層16は、広帯域の波長の入射光に対応できる。
【0072】
液晶層16は、一例として、液晶化合物24を含む液晶組成物を硬化することで形成できる。図示例において、液晶化合物24は棒状液晶化合物であるが、液晶化合物としては、円盤状液晶化合物も利用可能である。
基板12上に配向膜14を形成し、配向膜14上に液晶組成物を塗布して、硬化することにより、液晶組成物の硬化層からなる液晶層16を得ることができる。なお、いわゆるλ/2板として機能するのは液晶層16であるが、本発明は、基板12および配向膜14を一体的に備えた積層体がλ/2板として機能する態様を含む。
また、液晶層16を形成するための液晶組成物は、棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物を含有し、さらに、レベリング剤、配向制御剤、重合開始剤および配向助剤などのその他の成分を含有していてもよい。
【0073】
また、液晶層16は、入射光の波長に対して広帯域であることが望ましく、複屈折率が逆分散となる液晶材料を用いて構成されるのが好ましい。また、液晶組成物に捩れ成分を付与することにより、また、異なる位相差層を積層することにより、入射光の波長に対して液晶層16を実質的に広帯域にすることも好ましい。例えば、液晶層16において、捩れ方向が異なる2層の液晶を積層することによって広帯域のパターン化されたλ/2板を実現する方法が特開2014-089476号公報等に示されており、本発明において好ましく使用することができる。
【0074】
―棒状液晶化合物―
棒状液晶化合物としては、上述した配向膜14において例示した棒状の重合性液晶化合物が、各種、利用可能である。
―円盤状液晶化合物―
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報および特開2010-244038号公報に記載のものを好ましく用いることができる。
なお、液晶層16に円盤状液晶化合物を用いた場合には、液晶層16において、液晶化合物24は厚さ方向に立ち上がっており、液晶化合物に由来する光学軸は、円盤面に垂直な軸、いわゆる進相軸として定義される。
【0075】
図1~
図9に示す光学素子は、入射光を屈折して透過して、透過光を集光または拡散させる、いわゆるレンズ(液晶レンズ)のような光学素子であるが、本発明の光学素子は、これに制限はされない。
すなわち、光学素子は、入射光を反射する反射素子、すなわち、反射鏡のような光学素子であってもよい。
図10に、その一例を示す。なお、
図10に示す光学素子30は、上述の光学素子10と同じ部材を、多数、用いるので、同じ部材には同じ符号を付し、以下の説明は、異なる部位を主に行う。
【0076】
光学素子30は、基板12と、基板12の一方の表面に形成される配向膜32と、配向膜32の上に形成される液晶層34とを有する。
基板12は、光学素子10の基板と同様のものである。
【0077】
配向膜32は、基本的に、上述した光学素子10の配向膜14と同様の物である。
ただし、配向膜32は、光学素子10の配向膜14とは、液晶化合物20の厚さ方向に沿う螺旋軸の捩れ方向が逆で、螺旋軸は左捩れである。従って、配向膜32は、キラル剤として、液晶化合物20を、光学素子10の配向膜14とは逆の旋回方向に捩じる、左捩れを誘起するキラル剤を含有する。
従って、配向膜32は、下面32aは、配向膜14と同様に、液晶化合物20の光学軸の向きはX方向に一致している。
これに対し、上面32bでは、配向膜14と同様に、液晶化合物20の光学軸はX方向に向かって回転しているが、
図11に概念的に示すように、X方向に向かう光学軸の回転方向は、x1~x7では、時計回りで、x7において回転方向を逆転して、x7~x13では反時計回りである。すなわち、上面32bにおけるX方向に向かう光学軸の回転方向は、光学素子10の配向膜14の上面14bとは逆である。
【0078】
光学素子30において、配向膜32の上に設けられる液晶層34は、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層である。すなわち、液晶層34は、コレステリック構造を有する液晶化合物(液晶材料)からなる層である。
以下の説明では、液晶層34を、コレステリック液晶層34とも言う。
【0079】
周知のように、コレステリック液晶相は、液晶化合物36が螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有し、液晶化合物36が螺旋状に1回転(360°回転)して積み重ねられた構成を螺旋1ピッチとして、螺旋状に旋回する液晶化合物36が、複数ピッチ、積層された構造を有する(
図12参照)。
【0080】
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。選択反射の中心波長(選択反射中心波長)λは、コレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、この螺旋構造のピッチを調節することによって、選択反射中心波長を調節することができる。コレステリック液晶相のピッチは、コレステリック液晶層34の形成の際、液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、またはその添加濃度に依存するため、これらを調節することによって所望のピッチを得ることができる。
なお、ピッチの調節については富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載の方法を用いることができる。
【0081】
なお、コレステリック液晶相の反射光は円偏光であり、右円偏光および左円偏光のいずれかを選択的に反射する。
従って、コレステリック液晶層34を有する光学素子30は、所定の波長帯域の右円偏光または左円偏光のみを選択的に反射して、それ以外の光は透過する。
コレステリック液晶層34の反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
なお、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向は、コレステリック液晶層34を形成する液晶化合物の種類および/または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0082】
一例として、光学素子30のコレステリック液晶層34は、
図12に示すように、右捩れのコレステリック液晶相を固定してなる層である。
従って、コレステリック液晶層34は、所定の波長帯域の右円偏光を選択的に反射し、それ以外の光は透過する。
【0083】
また、選択反射を示す選択反射帯域(円偏光反射帯域)の半値幅Δλ(nm)は、コレステリック液晶相のΔnと螺旋のピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射帯域の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。Δnは、コレステリック液晶層34を形成する液晶化合物の種類およびその混合比率、ならびに、配向固定時の温度により調節できる。
【0084】
このようなコレステリック液晶層34は、基本的に、上述した配向膜14を形成するための液晶組成物(配向膜組成物)と同様の液晶組成物を用いて形成できる。ただし、キラル剤は、光の照射によってHTPが変化するものに制限はされず、公知のキラル剤が、全て、利用可能である。
また、コレステリック液晶層34の厚さは、液晶化合物36等に応じて、光学素子30に要求される反射率を得られる、液晶化合物36の螺旋のピッチ数を確保できる厚さを、適宜、設定すればよい。
【0085】
図13に、光学素子30のコレステリック液晶層34の下面すなわち配向膜32の上面32b側の表面を概念的に示す。
なお、
図13では、コレステリック液晶層34の構成を明確に示すために、液晶化合物36は配向膜32の上面32b側の液晶化合物36のみを示している。しかしながら、コレステリック液晶層34は、厚さ方向には、
図12に示されるように、この配向膜32の表面の液晶化合物36から、液晶化合物36が螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有するのは、上述のとおりである。
【0086】
図13に示すように、コレステリック液晶層34の下面(配向膜32の上面32b側の表面)では、配向膜32の上面32bにおける液晶化合物20に応じて、液晶化合物36は、X方向およびY方向に二次元的に配列された状態になっている。
コレステリック液晶層34の下面では、液晶化合物36は、配向膜32の上面32bにおける液晶化合物20の液晶配向パターンに応じて、配向される。
従って、コレステリック液晶層34において、液晶化合物36の光学軸は、配向膜32の上面32bと同様に、X方向に向かって回転している。すなわち、コレステリック液晶層34における面内の液晶化合物36の光学軸の回転方向は、X方向に向かって、配向膜32のx1~x7に対応する領域では、時計回りで、x7において回転方向を逆転して、配向膜32のx7~x13に対応する領域では、反時計回りである。
一方、コレステリック液晶層34を形成する液晶化合物36は、X方向と直交するY方向、すなわち、光学軸が連続的に回転する一方向と直交するY方向では、光学軸の向きが等しい。言い換えれば、コレステリック液晶層34を形成する液晶化合物36は、Y方向では、液晶化合物36の光学軸とX方向とが成す角度が等しい。
【0087】
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層は、通常、入射した光(円偏光)を鏡面反射する。
これに対して、面内において、X方向(所定の一方向)に沿って光学軸が連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34は、入射した光を、入射光に対してX方向またはX方向と逆方向に角度を有した方向に反射する。
以下、
図14および
図15の概念図を参照して、液晶化合物36の光学軸がX方向(一方向)に向かって回転するコレステリック液晶層の作用を説明する。
図14は、液晶化合物36の光学軸がX方向に向かって時計回りに回転する例、
図15は、液晶化合物の光学軸がX方向に向かって反時計回りに回転する例で、コレステリック液晶層34Aにおいては、両者共に、X方向に向かう光学軸の回転方向は一定である。
【0088】
なお、以下に示す例は、コレステリック液晶層が右円偏光を反射する場合を例にするが、コレステリック液晶層が左円偏光を反射する場合も、絶対位相の方向、等位相面の傾斜方向、および、光の反射方向等が逆になる以外は、同様の作用を生じる。
【0089】
上述のように、コレステリック液晶層は、所定の波長帯域の右円偏光を選択的に反射するコレステリック液晶層である。従って、コレステリック液晶層34Aに光が入射すると、コレステリック液晶層34Aは、所定の波長帯域の右円偏光のみを反射し、それ以外の光を透過する。以下の説明では、『所定の波長帯域』は省略する。
【0090】
図14に示す例において、コレステリック液晶層34Aに入射した右円偏光の入射光Lrは、コレステリック液晶層34Aによって反射される際に、各液晶化合物36の光学軸の向きに応じて絶対位相が変化する。
ここで、コレステリック液晶層34Aでは、液晶化合物36の光学軸がX方向(一方向)に向かって時計回りに回転している。そのため、光学軸の向きによって、入射した右円偏光の入射光Lrの絶対位相の変化量が異なる。
これによって、コレステリック液晶層34Aに入射した右円偏光の入射光Lrには、
図14に示すように、それぞれの光学軸の向きに対応したX方向に周期的な絶対位相Q1が与えられる。
また、液晶化合物36の光学軸のX方向に対する向きは、X方向と直交するY方向の液晶化合物36の配列では、均一である。
これによりコレステリック液晶層34Aでは、右円偏光の入射光Lrに対して、XY面に対してX方向とは逆に傾いた等位相面E1が形成される。
そのため、右円偏光の入射光Lrは、等位相面E1の法線方向に反射するように反射され、右円偏光の入射光Lrは、入射光Lrの入射方向に応じた鏡面反射方向に対して、X方向に傾いた方向に反射される(反射光Lr1)。
【0091】
これに対して、液晶化合物36の光学軸の回転が、
図14に示すコレステリック液晶層34Aのように時計回りではなく、
図15に示すコレステリック液晶層34BのようにX方向に向かって反時計回りである場合には、光学軸の向きに対応したX方向に周期的な絶対位相Q2は、
図15に示すように、光学軸が時計回りである場合とは逆になる。
その結果、液晶化合物36の光学軸の回転が反時計回りである場合には、光学軸の回転が時計回りである場合とは逆に傾斜した、XY面に対してX方向に傾いた等位相面E2が形成される
そのため、液晶化合物36の光学軸の回転が反時計回りであるコレステリック液晶層34Bに入射した右円偏光の入射光Lrは、等位相面E2の法線方向に反射するように反射され、右円偏光の入射光Lrは、入射光Lrの入射方向に応じた鏡面反射方向に対して、X方向とは逆方向に傾いた方向に反射される(反射光Lr2)。
【0092】
上述のように、光学素子30の配向膜32の上面32bにおいて、液晶化合物20の光学軸は、X方向に向かって、x1~x7の領域では時計回りに回転し、x7~x13の領域では、反時計回りに回転する。また、コレステリック液晶層34の下面における液晶配向パターンは、配向膜32の上面32bと同じである。
そのため、上述のように、コレステリック液晶層34の配向膜32におけるx1~x7に対応する領域では、液晶化合物36の光学軸はX方向に向かって時計回りに回転し、コレステリック液晶層34の配向膜32におけるx7~x13に対応する領域では、液晶化合物36の光学軸はX方向に向かって反時計回りに回転する。
従って、光学素子30(コレステリック液晶層34)に右円偏光の入射光Lrが入射した場合には、コレステリック液晶層34における、配向膜32の上面32bのx1~x7に対応する領域では、反射光は、入射光に対してX方向に傾いて反射され、x7~x13に対応する領域は、反射光は、入射光に対してX方向と逆方向に傾いて反射されて、反射光は、
図16に概念的に示すように、集光される。
なお、
図13に示すように、光学素子30のコレステリック液晶層34において、液晶化合物36の光学軸は、Y方向に向かっては回転しておらず、一定の向きを向いている。そのため、光学素子30(液晶層34)に円偏光が入射しても、光はY方向には傾かずに反射される。
【0093】
コレステリック液晶層34による光の反射角度も、上述した光学素子の液晶層16と同様、面内においてX方向に液晶化合物24の光学軸が180°回転する長さ、すなわち、
図13に示す周期Λによって、調節できる。言い換えれば、周期Λとは、X方向に隣接する、X方向に対する角度が等しい2つの液晶化合物36の、中心間距離である。
具体的には、周期Λが短いほど、入射光に対する反射光の角度を大きくできる。なお、コレステリック液晶層34における周期Λは、先と同様に調節できる。
【0094】
このようなコレステリック液晶層を有する本発明の光学素子30においては、配向膜32に用いるキラル剤を変更して、配向膜30における厚さ方向に沿う螺旋軸の捩れ方向を逆方向(左捩れ)にして、配向膜32の上面32b(すなわちコレステリック液晶層34の下面)におけるX方向に向かう液晶化合物36の光学軸の回転方向を逆方向にすることにより、特定帯域の右円偏光をX方向およびX方向と逆方向に反射して、拡散させる光学素子を得られる。
また、以上の説明は、コレステリック液晶層が右円偏光を反射する例であるが、本発明の光学素子は、コレステリック液晶層が左円偏光を反射する場合にも利用可能である。なお、コレステリック液晶層が左円偏光を反射する際には、光を集光する場合でも光を拡散する場合でも、配向膜の上面(すなわちコレステリック液晶層の下面)において、一方向に向かう液晶化合物の光学軸の回転方向を、上述した右円偏光を反射する場合と、逆にする必要がある。
以上の点に関しては、後述する、
図18に示す放射状の液晶配向パターンを有する光学素子において、コレステリック液晶層を利用する場合でも、同様である。
【0095】
このような本発明の光学素子は、本発明の光学素子の製造方法で製造できる。以下、本発明の製造方法による、光学素子10の製造方法を説明する。
なお、以下の製造方法は、カットシート状の基板12を用いるバッチ式の処理で行ってもよく、あるいは、長尺な基板12を用いて、基板12を長手方向に搬送しつつ処理を行う、いわゆる、ロール・トゥ・ロールで行ってもよい。
【0096】
光学素子10を製造する際には、まず、光学軸の向きが一方向となる状態で液晶化合物20(液晶化合物36)が配向されるように、基板12の表面に配向処理を施す。
上述のように、基板12の配向処理の方法には、制限はない。従って、配向処理は、基板12の表面のラビング処理、基板12の表面に光配向膜を形成して直線偏光の光を照射する配向処理、無機化合物の斜方蒸着膜などの配向膜を設ける方法等、公知の方法で行えばよい。
【0097】
次いで、配向処理を施した基板12の表面に、上述した液晶化合物および光照射によってHTPが変化するキラル剤等を含む配向膜組成物を塗布して、乾燥し、配向膜組成物の塗膜を形成する。上述のように、基板12の表面は、液晶化合物20の光学軸が一方向に向くように配向処理がされているので、液晶化合物20は、基板12の表面すなわち配向膜14の下面14aにおいて、
図3に示すように、光学軸すなわち長手方向を一方向(図示例ではX方向)に一致して配向される。
配向膜組成物の塗布方法は、バーコート、グラビアコート、および、スプレー塗布等、公知の各種の方法が利用可能である。また、配向膜組成物の塗膜の厚さは、配向膜組成物の組成等に応じて、目的とする厚さの塗膜の厚さ(塗布厚)を、適宜、設定すればよい。
【0098】
配向処理を施した基板12の表面に、配向膜組成物の塗膜を形成したら、配向膜組成物の一部に、キラル剤が感光する光を照射して、配向膜組成物中のキラル剤のHTPを変化させる。
本例においては、
図17に概念的に示すように、基板12の配向処理の方向をX方向として、長尺なスリット40aを有するマスク40を用い、スリット40aの長手方向がX方向と直交する方向すなわちY方向と一致する状態として、スリット40aを透過した線状の光を、配向膜組成物の塗膜14Aに照射する(塗膜14Aの露光)。
図17に示すマスク40は、スリット40aを、1個のみ有するものであるが、後述する実施例で示すように、複数のスリットを有するマスクを用いることで、複数のレンズを有するレンズアレイ等を作製できる。
なお、配向膜組成物の塗膜に照射する線状の光(すなわちスリット40a)は、長手方向に配向膜組成物の塗膜14Aを超える長尺な線状の光を、塗膜14Aに照射するのが好ましい。すなわち、本発明において、線状の光とは、好ましくは、配向膜組成物の塗膜14Aの領域を超える長尺な光を示す。また、線状の光は、幅(短手方向)の長さが長手方向の全域に渡って均一であるのが好ましい。
【0099】
後述するが、光学素子10のように、配向膜14の上面14bにおいて、液晶化合物20の光学軸が一方向のみに向かって回転する光学素子を製造する際には、スリット40aすなわち線状の光の長手方向と直交する方向が、光学軸が回転する方向(光学軸の向きが回転しながら変化する方向)すなわちX方向となる。
このX方向の設定において、先に基板12に施した配向処理の方向は、すなわち、配向膜14の下面14aにおける液晶化合物20の光学軸の向きは、無関係である。例えば、基板12における配向方向がX方向と直交するY方向であっても、配向膜14の上面14bにおける液晶化合物の光学軸の方向が90°異なるだけで、それ以外は、同様に、配向膜14の上面14bにおける液晶化合物20の光学軸がX方向の一方向のみに向かって回転する光学素子を製造できる。
【0100】
スリット40aの幅(短手方向の長さ)には、制限はなく、配向膜組成物に添加するキラル剤の種類および/または添加量、光学素子10のサイズ、ならびに、照射する光の光量等に応じて、配向膜14の上面14bにおけるX方向に向かう液晶化合物20の光学軸の回転が目的とする回転角(
図2および
図4では0~180°)になる等、配向膜14が所望の状態となる幅を、適宜、設定すればよい。
【0101】
スリット40aは、必要に応じて、濃度分布を有してもよい。例えば、スリットは、幅方向の中央から外側に向かって、漸次、濃度が高くなるような濃度分布を有してもよい。
【0102】
照射する光は、紫外線でも、可視光でも、赤外線でもよい。すなわち、マスク40を介して照射する光は、配向膜組成物が含有するキラル剤に応じて、キラル剤が感光する光、すなわち、キラル剤のHTPを変化させることができる光を、適宜、選択すればよい。
照射光の光量にも、制限はない。例えば、キラル剤が光の照射によってHTPが低くなるキラル剤であれば、キラル剤のHTPを目的とする最小値にできる光量を、適宜、設定すればよい。
マスク40を介した光の照射時には、必要に応じて、雰囲気を、酸素雰囲気および窒素雰囲気等の所定の雰囲気にしてもよい。
【0103】
マスク40を介して、配向膜組成物10aの塗膜14Aに光を照射(マスク露光)したら、次いで、加熱等によって、液晶化合物20を、螺旋軸に沿って捩れ配向した液晶相の状態とする。
この際に、熱による作用等によって、露光でHTPが変化したキラル剤がスリット40aの幅方向すなわちX方向およびX方向と逆方向に連続的に拡散する。また、マスク40を介した露光は、スリット40aを通過した光が照射されなかった領域にも影響を与える。
その結果、スリット40aを介した塗膜14Aの露光では、スリット40aのX方向(幅方向)の中央が最も露光量が多く、X方向およびX方向と逆方向に向かって、漸次、露光量が低下したような状態となる。
【0104】
従って、例えば配向膜組成物に含まれるキラル剤のHTPが露光によって低下する場合には、配向膜組成物の塗膜14Aでは、X方向におけるスリット40aの中心が最もキラル剤のHTPが低く、X方向およびX方向と逆方向に向かって、漸次、キラル剤のHTPが高くなる状態となる。
そのため、塗膜14Aにおける厚さ方向に沿う液晶化合物20の捩れ角は、スリット40aのX方向の中央が最も小さく、X方向およびX方向と逆方向に向かって、漸次、大きくなる。すなわち、塗膜14Aにおける液晶化合物20の捩れ角は、X方向の上流側が最も大きく(図示例ではx1の180°)、X方向の上流側から中央に向かって、漸次、小さくなり、X方向の中央において最も小さくなり(図示例ではx7の0°)、X方向の中央から下流側に向かって、漸次、大きくなり、X方向の下流側において、再度、最も大きくなる(図示例ではx13の180°)。
【0105】
ここで、キラル剤による厚さ方向に沿う液晶化合物20の螺旋の捩れ方向(センス)は、塗膜14Aの全域で同じである。また、上述のように、基板12は、X方向に配向処理されており、塗膜14Aの液晶化合物は、下面(基板12側の表面)では、光軸の向きをX方向に一致している。
従って、キラル剤による液晶化合物20の捩れ角が、X方向の上流側から中央に向かって、漸次、小さくなり、中央で最小になり、その後、X方向の中央から下流側に向かって、漸次、大きくなることにより、配向膜組成物の塗膜14Aの上面(基板12と逆側の面)すなわち配向膜14の上面14bでは、例えば
図4に示すように、X方向に向かって、液晶化合物20の光学軸が反時計回りに回転し、中央(x7)において、X方向に向かう捩れ角の大小の関係が逆転するので、此処で光学軸の回転方向が逆転し、中央からX方向に向かって、光学軸が時計回りに回転する、液晶配向パターンを形成できる。
【0106】
液晶化合物20を捩れ配向して液晶相の状態にしたら、光照射および/または加熱等によって、配向膜組成物の塗膜14Aを硬化して、配向膜14を作製する。
配向膜組成物10aの硬化は、光照射が好ましく、中でも、紫外線照射による硬化が好ましい。配向膜組成物10aを硬化する際には、必要に応じて、雰囲気を、酸素雰囲気および窒素雰囲気等の所定の雰囲気にしてもよい。
【0107】
図4に示す例では、キラル剤による液晶化合物の最大捩れ角を180°とし、最小捩れ角を0°として、配向膜14の上面14bおいて回転方向が逆転するまでの液晶化合物20の光学軸の回転角を180°、すなわち配向膜14の上面14bにおいて光学軸が半回転×2する液晶配向パターンとしたが、本発明は、これに制限されないのは、上述のとおりである。
例えば、キラル剤による液晶化合物20の最大捩れ角を720°とし、キラル剤のHTPが0になる露光量の線状の光を照射することで、配向膜14の上面14bおいて回転方向が逆転するまでの液晶化合物20の光学軸の回転角が720°、すなわち、X方向に向かって、上面14bにおいて光学軸が反時計回りに720°回転し、次いで、回転方向を逆転して、次いで、光学軸が時計回りに720°回転する、液晶配向パターンを有する配向膜14が得られる。
【0108】
このようにして配向膜14を形成したら、上述したような、棒状液晶化合物等の液晶化合物24を含む液晶層16を形成する液晶組成物を塗布して乾燥し、次いで、加熱等によって、液晶化合物24を液晶相の状態とする。
この際において、液晶組成物の塗膜中の液晶化合物24は、配向膜14の上面14bの液晶化合物20によって配向される。すなわち、液晶組成物の塗膜中の液晶化合物24は、面内において、配向膜14の上面14bにおける液晶化合物20の液晶配向パターンと同じ、X方向に向かって光学軸が回転し、かつ、途中で回転方向が逆転する液晶配向パターンに配向される。
この後、液晶組成物の組成に応じて、光照射および/または加熱等によって、液晶組成物の塗膜を効果して、液晶層16を形成する。
これにより、基板12、配向膜14および液晶層16を有し、液晶層16の面内において、液晶化合物24の光学軸が、X方向に向かって光学軸が回転し、かつ、途中で回転方向が逆転する液晶配向パターンを有する、入射する円偏光の旋回方向に応じて、透過光を集光または拡散する、光学素子10を製造できる。
【0109】
または、配向膜14とは、液晶化合物の螺旋の旋回方向が逆であるキラル剤を含む配向膜組成物を用いて、同様に配向膜32を形成する。次いで、上述した、液晶化合物36およびキラル剤を含有する液晶組成物を用いて、配向膜32の上に、同様にコレステリック液晶層34を形成する。
これにより、基板12、配向膜32よびコレステリック液晶層34を有し、コレステリック液晶層34において、液晶化合物36の光学軸が、X方向に向かって光学軸が回転し、かつ、途中で回転方向が逆転する液晶配向パターンを有する、特定の波長帯域の右円偏光または左円偏光を集光する、光学素子30を製造できる。
【0110】
特許文献1にも記載されるように、少なくとも一方向に向かって液晶化合物の光学軸が回転し、かつ、途中で光学軸の回転方向が逆転する液晶層によって、回折によって円偏光の旋回方向に応じて、光を集光または拡散できる、液晶レンズが知られている。
このような液晶レンズを製造するためには、液晶層において、光学軸が所定方向に向かって回転する液晶配向パターンとするために、液晶化合物を配向するための配向膜を形成する必要がある。しかしながら、このような配向膜の形成には、AFMのナノプローブを用いるナノラビング法、ダイヤモンド針等のマイクロニードルを用いるマイクロラビング法、ND:YAGレーザ書き込みによる書き込み等による配向処理等によって、微小領域において高精細な配向の制御を行う必要がある。その結果、配向膜の形成に、非常に手間と時間がかかり、また、大掛かりな装置が必要になってしまう。
【0111】
これに対して、本発明の製造方法によれば、液晶化合物と光照射によってHTPが変化するキラル剤とを含有する配向膜組成物を用い、配向膜組成物の塗膜を形成した後に、塗膜の一部に、マスク等を用いて上述した線状の光または後述するスポット光を照射して、配向膜を形成することで、少なくとも一方向に向かって液晶化合物の光学軸が回転し、かつ、途中で光学軸の回転方向が逆転する液晶層に対応する、微小領域において高精細に配向を制御した配向膜を形成できる。
そのため、本発明の製造方法によれば、一般的な装置で、かつ、簡易な製造方法によって、回折によって円偏光の旋回方向に応じて光を集光または拡散できる液晶レンズ等の光学素子を製造できる。
【0112】
図18に、本発明の光学素子の別の例を概念的に示す。
なお、
図18に示す光学素子50は、形状が円盤状で、かつ、配向膜および液晶層における液晶化合物の配向が異なる以外には、上述した光学素子10等と同様の構成を有するので、同じ部材には同じ符号を付し、以下の説明は、異なる部位を主に行う。
【0113】
図18に示す光学素子50は、基板12と、配向膜52と、液晶層34とを有する。
基板12は、上述した光学素子10等の基板12と同様のものであり、一方向に配向処理されている。
【0114】
基板12の上には、配向膜52が形成される。
光学素子10の配向膜14と同様、配向膜52も、液晶化合物20と、光の照射によってHTPが変化するキラル剤とを用いて形成されるものであり、液晶化合物20と、光の照射によってHTPが変化するキラル剤とを含む配向膜組成物を用いて、形成される。従って、配向膜52においても、液晶化合物20は、厚さ方向に沿う螺旋軸に沿って捩れ配向されている。
【0115】
ここで、配向膜52は、下面52a(基板12側の表面)では、液晶化合物20は、基板12に施された配向処理に応じて、光学軸が一方向に向かうように配向される。図示例においては、
図19に概念的に示すように、配向膜52の下面52aでは、光学軸が図中上下方向に向かうように、液晶化合物が配向されている。
【0116】
これに対して、配向膜52の上面52bは、液晶化合物20の光学軸の向きが、1つの方向のみならず、複数の方向に向かって、連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
具体的には、配向膜52の上面52bは、
図20に概念的に示すように、或る中心から放射状に液晶化合物20の光学軸が一定方向(時計回りまたは反時計回り)に回転する、液晶配向パターンを有する。従って、この液晶配向パターンでは、放射の中心点を通過する直線に着目すると、直線と一致する一方向に向かって光学軸が回転し、かつ、光学軸の回転方向が、放射の中心点で逆転する。
言い換えれば、配向膜52の上面52bは、複数の直線が或る一点で交差し、各直線と一致する矢印の方向に向かって、液晶化合物20の光学軸が回転し、かつ、交点において光学軸の回転方向が逆転する、液晶配向パターンを有する。さらに言い換えれば、この配向膜52の上面52bにおける液晶配向パターンは、液晶化合物20の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有し、同心円の中心を通過する直線上の一方向において、同心円の中心で光軸の回転方向が逆転する、液晶配向パターンである。
以下の説明では、
図20に示すような、液晶配向パターンを、便宜的に、『放射状の液晶配向パターン』とも言う。
【0117】
なお、
図19および
図20においては、配向膜52の面内において液晶化合物20の光学軸が回転する方向を、6方向のみ示しているが、この6つの各方向の間にも、同様に、光学軸が回転する方向が、多数、存在する。
【0118】
例えば、配向膜52の上面52bにおいて、放射の中心点(直線(矢印)の交点)を通過する矢印X1方向を見ると、液晶化合物20の光学軸は、矢印X1方向の中心よりも上流側から中心までは、矢印X1方向に向かって反時計回りに回転し、中心において、回転方向を逆転し、中心から矢印X1方向に下流に向かって、時計回りに回転している。
また、中心を通過する別の矢印X2方向でも、同様に、液晶化合物20の光学軸は、矢印X1方向の上流端から中心まで、矢印X1方向に向かって反時計回りに回転し、中心において、回転方向を逆転して、中心から矢印X1方向の下流に向かって、時計回りに回転している。
すなわち、放射状の液晶配向パターンを有する、
図18に示す光学素子50の配向膜52の上面52bは、
図4に示す配向膜14の上面14bにおける、Y方向に配列された、X方向に向かう液晶化合物20の各列が角度を有して設けられ、光学軸の回転方向が逆転するx7において交差したような液晶配向パターンを有する。
【0119】
配向膜52の上には、液晶層54が形成される。
図示例の光学素子50において、液晶層54は、液晶化合物24の配向が異なる以外は、上述した光学素子10の液晶層16と同様のものであり、液晶化合物24を含む液晶組成物を用いて形成される液晶層である。
光学素子10と同様、光学素子50の液晶層54の液晶化合物24も、配向膜52の上面52bにおける液晶化合物20によって配向される。従って、液晶層54における液晶化合物も、配向膜52の上面52bにおける液晶化合物20と同様、
図21に概念的に示すように、面内において放射状の液晶配向パターンを有する。
すなわち、液晶層54において、放射の中心点を通過する或る矢印X1方向に見ると、配向膜52の上面と同様、液晶化合物24の光学軸は、面内において、矢印X1方向の上流側から中心まで、矢印X1方向に向かって反時計回りに回転し、中心において回転方向を逆転し、中心から矢印X1方向の下流側に向かって、時計回りに回転する。
【0120】
上述のように、面内において、一方向に向かって光学軸が回転する液晶配向パターンを有する液晶層は、入射する円偏光の旋回方向に応じて、入射光を屈折して透過させる。また、この液晶配向パターンを有する液晶層において、透過光の屈折方向は、一方向に向かう光学軸の回転方向が逆になると、逆方向になる。
さらに、上述したように、
図18に示す光学素子50の配向膜52においては、上面52bは、
図6に示す液晶層16の配向膜14側の面における、Y方向に配列された、X方向の液晶化合物24の各列が、光学軸の回転方向が逆転するx7において交差したような液晶配向パターンを有し、液晶層54における液晶化合物24も、同様の液晶配向パターンになる。
従って、光学素子50に円偏光が入射すると、円偏光の旋回方向に応じて、光学素子50は、凸レンズのように作用して、入射して透過する光を、中心(矢印の交点)を通過する光学素子50の垂線に向かって光を集光し、または、凹レンズのように作用して、入射して透過する光を放射状に外方向に向かって拡散する。
【0121】
本発明の光学素子において、このような液晶配向パターンを有する光学素子は、図示例のように透過光を屈折する光学素子のみならず、
図10に示す光学素子のように、コレステリック液晶層によって、入射光を反射して集光する光学素子にも利用可能である。
すなわち、光学素子30と同様に、配向膜における液晶化合物20の螺旋の捩れ方向を逆方向にし、すなわち、配向膜の上面における液晶化合物20の光学軸の回転方向を、光学素子50の配向膜とは逆方向にする。
その上に、液晶化合物に加えてキラル剤を含む液晶組成物を用いて、
図12に示すような、液晶化合物36が厚さ方向に螺旋軸に沿って捩れ配向されたコレステリック液晶層を形成することで、入射した、特定の波長帯域の右円偏光または左円偏光を、集光または拡散するように反射する、光学素子が得られる。
【0122】
このような上面52bが放射状の液晶配向パターンである配向膜52を有する光学素子50も、基本的に、上述した光学素子10(光学素子30)と、同様に作製できる。
すなわち、基板12を、液晶化合物20の光学軸の向きが一方向となるように配向処理をした後に、基板12の配向処理面に配向膜組成物を塗布し、硬化して、配向膜組成物の塗膜を形成する。
次いで、塗膜の一部にキラル剤が感光する光を照射する。
【0123】
ここで、上述した光学素子10では、スリット40aを有するマスク40を用いて、線状の光を塗膜に照射する。
これにより、線状の光の幅方向に、露光量の差が生じた状態となり、線状の光の幅方向と一致するX方向(1つの方向)に、キラル剤のHTPが変化して、液晶化合物20の捩れ角が変化する。その結果、配向膜14の上面14bにおいて、X方向に、上流から中央に向かって液晶化合物20の光学軸が反時計回りに回転し、中央で光学軸の回転方向が逆転し、中央からX方向の下流に向かって、光学軸が時計回りに回転する、液晶配向パターンを形成している。
【0124】
これに対し、一点で交差する多数の方向に向かって液晶化合物の光学軸が回転する、放射状の液晶配向パターンを形成する場合には、線状の光ではなく、配向膜組成物の塗膜の一部にスポット光(塗膜に内包される光)を照射する。
なお、スポット光のスポット形状には、制限はなく、円形、楕円形、三角形、四角形および六角形などの多角形、星型、ならびに、不定形等の任意の各種のスポット形状が利用可能である。中でも、円形および楕円形は好適に利用され、その中でも円形は特に好適に利用される。
【0125】
図22に、配向膜組成物の塗膜に、スポット形状が円形のスポット光を照射した場合を示す。
図22に概念的に示すように、配向膜組成物の塗膜52Aに、円形のスポット光Sを照射すると、上述のスリット40aを通過した線状の光と同様の作用効果により、スポット光Sの中心から放射状に、漸次、露光量が低下したような状態になる、
従って、上述の例と同様、例えば、配向膜組成物に含まれるキラル剤のHTPが露光によって低下する場合には、配向膜組成物の塗膜52Aでは、スポット光Sの中心から、放射状の外方向に向かって、漸次、キラル剤のHTPが高くなる状態となる。
そのため、塗膜52Aにおける液晶化合物20の厚さ方向の螺旋軸に沿う捩れ角は、スポット光Sの中心が最も小さく、放射状に外方向に向かって、漸次、大きくなる。すなわち、塗膜52Aにおける液晶化合物20の捩れ角は、直線に乗る2本の放射状の線において、一方の外方向の端部が最も大きく、外方向の端部からスポット光Sの中心に向かって、漸次、小さくなり、スポット光Sの中心で最も小さくなり、他方の外方向の端部に向かって、漸次、大きくなり、他方の外方向の端部で、再度、最も大きくなる。
【0126】
上述の例と同様、キラル剤による液晶化合物20の捩れ方向(センス)は、塗膜52Aの全域で同じである。また、上述のように、基板12は、液晶化合物の光学軸が一方向に向かうように配向処理されており、塗膜52Aの液晶化合物は、下面(基板12側の面)では、光軸の向きを図中上下方向に一致している。
従って、直線に乗る2本の放射状の線において、厚さ方向の螺旋軸に液晶化合物20の捩れ角は、一方の外側からスポット光Sの中心に向かって、漸次、小さくなり、スポット光Sの中心で最も小さくなり、他方の外側に向かって、漸次、大きくなる。これにより、配向膜組成物の塗膜52Aの上面(基板12と逆側の面)すなわち配向膜52の上面52bでは、例えば、
図20における矢印X1方向に対応する、直線に乗る2本の放射状の線では、
図20に示すように、X方向の上流側からスポット光Sの中心に向かって、液晶化合物20の光学軸が反時計回りに回転し、スポット光Sの中心において、X方向に向かう捩れ角の大小の関係が逆転するので、此処で光学軸の回転方向が逆転し、スポット光Sの中心からX方向の下流側に向かって、光学軸が時計回りに回転する、液晶配向パターンとなる。
【0127】
上述したように、このような露光量の変化、すなわちキラル剤のHTPの変化、すなわち液晶化合物20の捩れ角の変化は、スポット光Sの中心から放射状に生じる。
従って、配向膜組成物の塗膜54Aにスポット光Sを照射することにより、
図20に示すような、放射状に光学軸が一方向に回転する、複数の直線が一点で交差し、各直線上の一方向すなわち各直線による矢印の方向に向かって、液晶化合物20の光学軸が回転し、かつ、交点において光学軸の回転方向が逆転する、放射状の液晶配向パターンを形成できる。
【0128】
なお、配向膜組成物の塗膜54Aへのスポット光の照射においては、例えば、円形の開口を、複数、有するマスクを用いて、配向膜組成物の塗膜54Aに複数のスポット光を照射することで、複数のレンズを有するレンズアレイ等を作製できる。
【0129】
上述の光学素子は、いずれも、基板、配向膜および液晶層のみを有しているが、本発明の光学素子は、これに制限はされず、これらの部材以外にも、必要に応じて、各種の部材を有してもよい。
一例として、本発明の光学素子は、さらに、λ/4板を有してもよい。上述したように、本発明の光学素子は、いずれも円偏光を透過もしくは反射するものである。そのため、光の出射側にλ/4板を有することにより、出射光を変換して、直線偏光を出射できる。また、光の入射側にλ/4板を有することにより、入射光する直線偏光を本発明の光学素子が作用する円偏光に変換できる。
【0130】
以上、本発明の光学素子の製造方法および光学素子について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0131】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0132】
[実施例1]
(配向膜組成物の調製)
以下に示す各成分を混合し、配向膜組成物を調製した。
・液晶化合物1(下記構造): 1g
・キラル剤1(下記構造): 73.5mg
・水平配向剤1(下記構造): 0.4mg
・水平配向剤2(下記構造): 0.15mg
・光ラジカル開始剤1(下記構造): 20mg
・ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、A-TMMT(Tetramethylol Methane Tetaacrylate)): 10mg
・メチルエチルケトン(MEK): 1.09g
・シクロヘキサノン: 0.16g
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
光ラジカル開始剤1(BASF社製 IRGACURE907(下記構造))
【化5】
【0138】
(配向膜の形成)
基板として、厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100)を用意した。
支持体の片面に、レーヨン布によってラビング処理を施した。ラビング処理の条件は、圧力:0.1kgf(0.98N)、回転数:1000rpm、搬送速度:10m/min、回数:1往復、とした。
【0139】
PETフィルムのラビング処理面に、ワイヤーバーを用いて、配向膜組成物を室温にて塗布した後、乾燥することにより、塗膜を形成した。なお、塗膜は、乾燥後(乾膜)の厚さが1μmとなるように調節した。
【0140】
図23に概念的に示すような、黒色の遮光板に、直径500μmの円形の開口を10mm間隔で、3×5個(合計15個)、形成したマスク58を用意した。
形成した配向膜組成物の塗膜に、酸素雰囲気下、室温にて、マスク58を介して、紫外線を照射した(マスク露光)。
紫外線の照射は、光透過部における露光量が33mJ/cm
2、となるように時間を調節した。紫外線照射の光源は、フナコシ社製の『2UVトランスイルミネーターLM-26型』を、波長365nmで用いた。
【0141】
次いで、紫外線を照射した基板を、90℃のホットプレート上に1分間静置することにより、塗膜に熱処理を施し、液晶相の状態とした。
その後、熱処理を行った塗膜に対し、窒素雰囲気下(酸素濃度500ppm以下)、80℃で、500mJ/cm2、紫外線を照射して配向膜組成物の塗膜を硬化することにより、基板の表面に配向膜を形成した。なお、紫外線の光源は、HOYA CANDEO OPTRONICS社製の『EXECURE3000-W』を用いた。
【0142】
形成した配向膜について、下面および上面における液晶化合物の光学軸の方向(配向方向)を、各面にGH型二色性液晶(ZLI-1842、メルク社製)を塗布し、偏光顕微鏡下で観察することで確認した。
その結果、配向膜は、下面(基板側)では、
図19に示すように、液晶化合物の光学軸の方向は基板のラビングの方向に一致していた。他方、配向膜は、上面では、マスク58の開口に対応する15個所において、
図20に示すように、開口の中心から放射状に液晶化合物の光学軸が時計回りに回転しており、従って、開口の中心を通過する複数の直線上において、一方向に向かって液晶化合物の光学軸が回転しており、かつ、開口の中心において、光学軸の回転方向が逆転する液晶配向パターンを有していた。
【0143】
(液晶組成物1の調製)
以下に示す各成分を混合し、液晶組成物1を調製した。
・液晶化合物1: 1g
・水平配向剤1: 0.4mg
・水平配向剤2: 0.15mg
・光ラジカル開始剤1: 20mg
・ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、A-TMMT(Tetramethylol Methane Tetaacrylate)): 10mg
・メチルエチルケトン(MEK): 1.09g
・シクロヘキサノン: 0.16g
【0144】
(液晶層(液晶レンズアレイ1)の形成)
形成した配向膜上に、ワイヤーバーを用いて、調製した液晶組成物1を室温にて塗布した後、乾燥することにより、塗膜を形成した。なお、塗膜は、乾燥後の塗膜(乾膜)の厚さが2μmとなるように調節した。
次いで、90℃のホットプレート上に1分間静置することにより、塗膜に熱処理を施し、液晶相の状態とした。
その後、熱処理を行った塗膜に対し、窒素雰囲気下(酸素濃度500ppm以下)、80℃で、500mJ/cm2、紫外線を照射して液晶組成物1の塗膜を硬化することにより、液晶層を形成した。
これにより、15個の液晶レンズを持つ液晶レンズアレイ1を作製した。
【0145】
(積層体の作製)
板ガラス上にOCAテープ(日栄化工社製、MHM-UVC15)を貼着した。
このOCAテープ上に、作製した液晶レンズアレイ1を、液晶レンズアレイ1側(液晶層側)がOCAテープ側になるようにして貼着した。積層体とOCAテープとの貼着は、ローラを用いて行った。
その後、基板を剥離して、液晶レンズアレイ1と、ガラス板との積層体を作製した。
【0146】
作製した積層体について、偏光顕微鏡を用いてクロスニコル状態で確認したところ、液晶レンズアレイ1のガラス板側の表面は、
図21に示すように、配向膜の上面の液晶配向パターンに対応して、1点から放射状に液晶化合物の光学軸が時計回りに回転する液晶配向パターン、すなわち、放射の中心点の1点を通過する直線上で、一方向に向かって液晶化合物の光学軸が回転しており、かつ、放射の中心点において、光学軸の回転方向が逆転する液晶配向パターンを、3×5個で合計15個、有していた。
また、液晶配向パターンにおける放射の中心点は、いずれも、配向膜の形成において露光を行ったマスク58の円形の開口の中心に一致していた。
【0147】
作製した液晶レンズアレイ1とガラス板との積層体に、円偏光板を介して、右円偏光および左円偏光を照射した。
その結果、右円偏光を照射した際には、液晶レンズ(液晶配向パターン)の中心を通過する液晶レンズアレイの垂線に光を集光し、左円偏光を照射した際には、液晶レンズの中心から外方向に光を拡散した。
【0148】
[実施例2]
図24に示すような、黒色の遮光板に、幅500μmで長さ50mmの線状(長方形)の開口を、10mm間隔で、5列、形成したマスク60を用意した。
実施例1において、配向膜の形成の際に配向膜組成物の塗膜のマスク露光に用いたマスク58を、
図24に示すマスク60に変更した以外は、実施例1と同様にして、線状の液晶レンズを、5個、有する液晶レンズアレイ2を作製し、さらに、液晶レンズアレイ2とガラス板との積層体を作製した。
【0149】
配向膜を形成した後に、形成した配向膜について、実施例1と同様に確認した。
その結果、配向膜は、下面(基板側)では、
図3に示すように、液晶化合物の光学軸の方向は基板のラビングの方向に一致していた。他方、上面では、マスク60の開口に対応する領域において、
図4に示すように、マスク60の開口の幅方向(長手方向と直交する方向)に向かって液晶化合物の光学軸が回転しており、かつ、マスク60の開口の幅方向の中心において、光学軸の回転方向が逆転する配向パターンを、5つ、有していた。
【0150】
さらに、作製した積層体について、実施例1と同様に確認したところ、液晶レンズアレイ2のガラス板側の表面は、
図6に示すように、液晶化合物の光学軸が一方向に向かって回転しており、かつ、一方向の途中で回転方向が逆転する液晶配向パターンを、5つ、有していた。
また、光学軸の回転方向は、マスクの開口の幅方向に一致しており、かつ、光学軸の回転方向が逆転する位置は、マスクの開口の幅方向の中心であった。
【0151】
実施例1と同様に、作製した液晶レンズアレイ2とガラス板との積層体に、円偏光板を介して、右円偏光および左円偏光を照射した。
その結果、右円偏光を照射した際には、液晶レンズ(液晶配向パターン)の幅方向の中心を通る液晶レンズアレイの垂線に向かって光を集光し、左円偏光を照射した際には、液晶レンズの幅方向の中心から外方向に光を拡散した。なお、各液晶レンズは、長手方向には光を屈折しなかった(レンズパワーを有していなかった)。
【0152】
[実施例3]
(液晶組成物2の調製)
以下に示す各成分を混合し、液晶組成物2を調製した。
・液晶化合物1: 1g
・キラル剤2(下記構造) 55mg
・水平配向剤1: 0.4mg
・水平配向剤2: 0.15mg
・光ラジカル開始剤1: 20mg
・ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、A-TMMT(Tetramethylol Methane Tetaacrylate)): 10mg
・メチルエチルケトン(MEK): 1.09g
・シクロヘキサノン: 0.16g
【0153】
【0154】
(液晶層(液晶レンズアレイ3)および積層体の作製)
実施例2において、液晶層の形成に用いた液晶組成物1を液晶組成物2に変更し、かつ、乾燥膜厚を5μmとした以外は、実施例2と同様に、液晶レンズアレイ3を形成し、さらに、液晶レンズアレイ3とガラス板との積層体を作製した。
液晶レンズアレイ3は、5個の反射型レンズ(反射鏡)を有する、反射型の液晶レンズアレイである。
【0155】
作製した積層体について、実施例1と同様に確認したところ、液晶レンズアレイ3のガラス板側の表面は、
図6に示すように、液晶化合物の光学軸が一方向に向かって回転しており、かつ、一方向の途中で回転方向が逆転する液晶配向パターンを、5つ、有していた。
また、光学軸の回転方向は、マスクの開口の幅方向に一致しており、かつ、光学軸の回転方向が逆転する位置は、マスクの開口の幅方向の中心であった。
【0156】
さらに、実施例1と同様に、作製した液晶レンズアレイ3とガラス板との積層体に、円偏光板を介して、右円偏光を照射した。
その結果、反射光は、液晶レンズ(液晶配向パターン)の幅方向の中心を通る液晶レンズアレイの垂線に向かって光を集光された。なお、各液晶レンズは、長手方向には光を屈折しなかった。
【0157】
[比較例1]
実施例1において、配向膜の形成時における、マスク58を用いた紫外線の照射を行わなかった。
これ以外は、実施例1と同様に、配向膜を形成し、液晶層を形成し、さらに、液晶層とガラス板との積層体を作製した。
配向膜を形成した際に、配向膜を実施例1と同様に確認した。その結果、配向膜は、下面(基板側)では、
図3に示すように、液晶化合物の光学軸の方向は基板のラビングの方向に一致していた。他方、上面では、全面的に、液晶化合物の光学軸の方向は一方向に揃っていた。
さらに、作製した積層体について、実施例1と同様に確認したところ、液晶層のガラス板側の表面は、液晶化合物の光学軸の方向が、配向膜の上面における液晶化合物の光学軸の方向と同方向に揃っていた。
【0158】
実施例1と同様に、作製した液晶層とガラス板との積層体に、円偏光板を介して、右円偏光および左円偏光を照射した。
その結果、右円偏光および左円偏光共に、積層体は、レンズとしての作用を、全く発現しなかった。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0159】
集光または光拡散用のレンズおよび反射鏡の製造等に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0160】
10,30,50 光学素子
12 基板
14,32,52 配向膜
14A,52A 塗膜
14a,32a,52a 下面
14b,32b,52b 上面
16,16A,54 液晶層
20,24,36 液晶化合物
34,34A,34B コレステリック液晶層
40,58,60 マスク
40a スリット
L1,L4,Lr 入射光
L2,L5 透過光
Lr1,Lr2 反射光
Q1,Q2 絶対位相
E1,E2 等位相面
S スポット光