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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】ソレノイドのスリーブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220124BHJP
   B23K 20/00 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
H01F41/02 F
B23K20/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018542862
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2017035240
(87)【国際公開番号】W WO2018062396
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2016193747
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101351
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 好伸
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-263407(JP,A)
【文献】特開昭54-035151(JP,A)
【文献】特開2007-245211(JP,A)
【文献】国際公開第2009/066579(WO,A1)
【文献】特開平05-104259(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102233507(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B23K 20/00
H01F 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その軸方向の一端部側から他端部側に向かって縮径するように凹む第1テーパ部を含み略円盤状に形成される非磁性部材と、前記第1テーパ部に嵌合可能となるようにその軸方向の一端部側から他端部側に向かって縮径する第2テーパ部を含む第1磁性部材と、第2磁性部材とを準備する第1工程、
前記第2テーパ部を前記第1テーパ部に嵌合させて前記第1磁性部材を前記非磁性部材の軸方向の一端部に接続し、前記第2磁性部材を前記非磁性部材の軸方向の他端部に接続する第2工程、
前記第1テーパ部と前記第2テーパ部との嵌合部分を含む前記非磁性部材と前記第1磁性部材との接続部分を密封するように前記接続部分の外周部に沿って前記非磁性部材と前記第1磁性部材とを接合する第1接合部を形成し、前記非磁性部材と前記第2磁性部材との接続部分を密封するように前記接続部分の外周部に沿って前記非磁性部材と前記第2磁性部材とを接合する第2接合部を形成する第3工程、
前記第3工程によって接合された前記非磁性部材と前記第1磁性部材と前記第2磁性部材とに熱間等方圧加圧処理を施すことによって、前記非磁性部材と前記第1磁性部材とを拡散接合しかつ前記非磁性部材と前記第2磁性部材とを拡散接合する第4工程、ならびに
前記第1テーパ部と前記第2テーパ部との拡散接合部分の少なくとも一部が残るように、前記非磁性部材と前記第1磁性部材と前記第2磁性部材とを中空状に加工しかつ前記第1接合部と前記第2接合部とを除去する処理を経て、非磁性体を第1磁性体と第2磁性体とで挟んで形成される筒状のスリーブを得る第5工程を備え、
前記第5工程によって、前記非磁性部材は前記第1テーパ部の少なくとも一部を含む環状の前記非磁性体となり、前記第1磁性部材は前記第2テーパ部の少なくとも一部を含む中空状の前記第1磁性体となり、前記第2テーパ部の少なくとも一部は、前記非磁性体の軸方向の一端部において前記第1テーパ部の少なくとも一部に拡散接合され、前記第2磁性部材は前記非磁性体の軸方向の他端部に拡散接合される中空状の前記第2磁性体となる、ソレノイドのスリーブの製造方法。
【請求項2】
前記非磁性部材は、前記非磁性部材の軸方向の一端部側において環状に突出する第1環状部と、前記非磁性部材の軸方向の他端部側において環状に突出する第2環状部とを含み、
前記第2工程において、前記第1磁性部材は前記第1環状部に圧入されることによって前記非磁性部材に接続され、前記第2磁性部材は前記第2環状部に圧入されることによって前記非磁性部材に接続され
前記第5工程において、前記第1接合部および前記第2接合部を除去する処理は、前記第1環状部および前記第2環状部を全て除去する処理を含む、請求項1に記載のソレノイドのスリーブの製造方法。
【請求項3】
前記第3工程において、前記第1接合部と前記第2接合部とは、アーク溶接によって形成される、請求項1または2に記載のソレノイドのスリーブの製造方法。
【請求項4】
前記アーク溶接は、TIG溶接である、請求項3に記載のソレノイドのスリーブの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はソレノイドのスリーブの製造方法に関し、より特定的には、高圧ソレノイドのスリーブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に流体の流量制御などに用いられるソレノイド、特に比例ソレノイドについて、昨今、高耐圧化の要求が高まっている。ソレノイドの部材であるスリーブは、たとえば比例ソレノイドの場合、片方の端面がテーパ形状である筒状(環状)の非磁性部材を、その端面がそれぞれ非磁性部材の端面の形状に合った中空状の強磁性部材で挟んだような構造をしている。正確な流量制御のためには非磁性部材端部のテーパ形状(角度)の制御が重要である。また、高圧環境での使用に耐えるためにソレノイドのスリーブに要求される特性としては、非磁性部材と強磁性部材との接合強度が高いことがあげられる。
【0003】
この種の部材の従来の製造方法の一例として、特許文献1には、強磁性金属体と非磁性金属体とを交互に積層した組立て体を金属製のシースに挿入し、必要に応じて脱気や封着などの処理を行ってから熱間加工する方法が開示されている。熱間加工としては、熱間押出しが最適であるが、HIP処理等で接合した後、熱間鍛造もしくは熱間圧延により積層方向に延伸する二工程によって行うこともできる旨記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、その図6を参照して、被処理材全体を金属製のカプセルの中に真空封入してHIP処理して拡散接合部材を得る方法、また、その図7を参照して、被処理材同士の接合部の周囲を溶接によってシールした後、HIP処理して拡散接合部材を得る方法が、従来技術として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-251138号公報
【0006】
【文献】特開平5-228653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の製造方法では、HIP処理するためにはシースが必要になるので、その分コストが高くなる。また、組立て体をシースに挿入した後、必要に応じて脱気や封着など強磁性金属体/非磁性金属体間の接合を助ける処理を行わなければならず、手間がかかる。高圧ソレノイドのスリーブのように強い接合強度を必要とする場合には、この処理は必須である。さらに、シースは、HIP処理後には不要となるので削り落とす必要があり、その分加工に時間を要する。また、HIP処理後、熱間鍛造もしくは熱間圧延により積層方向に延伸し、さらに好ましくは、非磁性金属部分の形状を電磁コイル用スリーブとして好ましい形状とするために、延伸加工を施した熱間加工材に対してこれらの熱間加工とは逆の方向に冷間加工を施すとされている。しかしながら、これらの方法では非磁性金属体の端部のテーパ部の角度を制御するのが困難である。
【0008】
また、特許文献2には、特許文献1の強磁性金属体と非磁性金属体との異材の接合について開示がなく、得られた拡散接合部材をソレノイドのスリーブの製造に用いること、特に拡散接合する部材の形状を制御することや、溶接による変質の問題とその解決手段については開示も示唆もされていない。また、カプセルを用いる方法では、HIP処理後にカプセル部分を除去する加工の必要があるが、カプセルの位置精度が低いため、加工の寸法精度を出しにくい。また、カプセルの材質によっては非常に加工しづらい、という問題がある。
【0009】
それゆえにこの発明の主たる目的は、所望の形状の非磁性体を有しかつ高圧環境での使用に適したソレノイドのスリーブが容易かつ低コストで得られる、ソレノイドのスリーブの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の或る見地によれば、その軸方向の一端部側から他端部側に向かって縮径するように凹む第1テーパ部を含む非磁性部材と、第1テーパ部に嵌合可能となるようにその軸方向の一端部側から他端部側に向かって縮径する第2テーパ部を含む第1磁性部材と、第2磁性部材とを準備する第1工程、第2テーパ部を第1テーパ部に嵌合させて第1磁性部材を非磁性部材の軸方向の一端部に接続し、第2磁性部材を非磁性部材の軸方向の他端部に接続する第2工程、第1テーパ部と第2テーパ部との嵌合部分を含む非磁性部材と第1磁性部材との接続部分を密封するように接続部分の外周部に沿って非磁性部材と第1磁性部材とを接合する第1接合部を形成し、非磁性部材と第2磁性部材との接続部分を密封するように接続部分の外周部に沿って非磁性部材と第2磁性部材とを接合する第2接合部を形成する第3工程、第3工程によって接合された非磁性部材と第1磁性部材と第2磁性部材とに熱間等方圧加圧処理を施すことによって、非磁性部材と第1磁性部材とを拡散接合しかつ非磁性部材と第2磁性部材とを拡散接合する第4工程、ならびに第1テーパ部と第2テーパ部との拡散接合部分の少なくとも一部が残るように、非磁性部材と第1磁性部材と第2磁性部材とを中空状に加工しかつ第1接合部と第2接合部とを除去する処理を経て、非磁性体を第1磁性体と第2磁性体とで挟んで形成される筒状のスリーブを得る第5工程を備え、第5工程によって、非磁性部材は第1テーパ部の少なくとも一部を含む環状の非磁性体となり、第1磁性部材は第2テーパ部の少なくとも一部を含む中空状の第1磁性体となり、第2テーパ部の少なくとも一部は、非磁性体の軸方向の一端部において第1テーパ部の少なくとも一部に拡散接合され、第2磁性部材は非磁性体の軸方向の他端部に拡散接合される中空状の前記第2磁性体となる、ソレノイドのスリーブの製造方法が提供される。
【0011】
この発明では、第3工程によって、第1テーパ部と第2テーパ部との嵌合部分を含む非磁性部材と第1磁性部材との接続部分を密封するように非磁性部材と第1磁性部材とを接合する第1接合部を形成し、非磁性部材と第2磁性部材との接続部分を密封するように非磁性部材と第2磁性部材とを接合する第2接合部を形成する。その後、第4工程によって、熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing:HIP)処理を施して、非磁性部材と第1磁性部材とを圧縮しつつ拡散接合し、非磁性部材と第2磁性部材とを圧縮しつつ拡散接合する。したがって、第1テーパ部および第2テーパ部の角度を変更することなく非磁性部材と第1磁性部材と第2磁性部材との接合強度を大きくできる、また、熱間等方圧加圧処理を施すために別途カプセル等を用いて真空封止する必要がないので、スリーブの製造が容易になりかつコストを削減できる。さらに、熱間等方圧加圧処理後の加工では、不要となるカプセル等を削り落とす必要がないので精度よく容易に加工できる。また、第1接合部および第2接合部に接合処理によって変質や変形が生じても、第1接合部および第2接合部は第5工程によって除去されるので、スリーブひいてはソレノイドの品質が低下することを防止できる。したがって、所望の形状の非磁性体を有しかつ高圧環境での使用に適したソレノイドのスリーブが容易かつ低コストで得られる。
【0012】
好ましくは、非磁性部材は、非磁性部材の軸方向の一端部側において環状に突出する第1環状部と、非磁性部材の軸方向の他端部側において環状に突出する第2環状部とを含み、第2工程において、第1磁性部材は第1環状部に圧入されることによって非磁性部材に接続され、第2磁性部材は第2環状部に圧入されることによって非磁性部材に接続される。この場合、たとえば、第1環状部および第2環状部をある程度長く形成したり、第1環状部および第2環状部の外径をある程度大きくすることによって、すなわち、第1テーパ部および第2テーパ部のうち少なくとも第5工程による切削後に残る部分と第1接合部とがより離れるように第1環状部を形成し、かつ非磁性部材の第2磁性部材側主面および第2磁性部材の非磁性部材側主面のうち少なくとも第5工程による切削後に残る部分と第2接合部とがより離れるように第2環状部を形成することによって、第1テーパ部および第2テーパ部のうち少なくとも第5工程による切削後に残る部分にまで第1接合部が形成されることを防止できるとともに、非磁性部材の第2磁性部材側主面および第2磁性部材の非磁性部材側主面のうち少なくとも第5工程による切削後に残る部分にまで第2接合部が形成されることを防止できる。これによって、第1テーパ部および第2テーパ部のうち少なくとも第5工程による切削後に残る部分が変形や変質することなくその形状および特性を維持できるとともに、非磁性部材の第2磁性部材側主面および第2磁性部材の非磁性部材側主面のうち少なくとも第5工程による切削後に残る部分が変形や変質することなくその形状および特性を維持でき、後の熱間等方圧加圧処理による拡散接合が良好となる。
【0013】
また好ましくは、第3工程において、第1接合部と第2接合部とは、アーク溶接によって形成される。この場合、アーク溶接は、溶融ワイヤから発生させたアークをアルゴンや炭酸ガス等で覆い溶接するので、大気が混入せず、第1磁性部材と非磁性部材の接合面および第2磁性部材と非磁性部材の接合面が大気により酸化しにくくなる。したがって、後の第4工程の熱間等方圧加圧処理によって第1磁性部材と非磁性部材および第2磁性部材と非磁性部材を良好に拡散接合することができる。
【0014】
さらに好ましくは、アーク溶接は、TIG溶接である。TIG(Tungsten Inert Gas)溶接は、タングステン電極を材料に近づけて放電の熱で材料を溶かし、熱が広がりやすい溶接のため、外周側の接続部分を広く、確実に接合できる。この場合、非磁性部材と第1磁性部材との接続部分、および非磁性部材と第2磁性部材との接続部分を、容易かつ確実に密封することができる。したがって、熱間等方圧加圧処理によって、非磁性部材と第1磁性部材、および非磁性部材と第2磁性部材を、確実に拡散接合させることができる。また、TIG溶接は、熱が面方向に広がりやすい溶接であり、接続部分内部へ深く接合されにくいため、必要なところだけ確実に接合できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、所望の形状の非磁性体を有しかつ高圧環境での使用に適したソレノイドのスリーブが容易かつ低コストで得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の一実施形態に係るソレノイドのスリーブの製造方法によって製造されるスリーブを備えるソレノイドを示す断面図である。
図2】(a)は第1磁性部材を示す断面図であり、(b)は非磁性部材を示す断面図であり、(c)は第2磁性部材を示す断面図である。
図3】第1磁性部材と第2磁性部材とを非磁性部材に接続した状態を示す断面図である。
図4】非磁性部材と第1磁性部材とを接合しかつ非磁性部材と第2磁性部材とを接合した状態を示す断面図である。
図5】熱間等方圧加圧処理中の非磁性部材と第1磁性部材と第2磁性部材とを示す断面図解図である。
図6】非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材の切削箇所を示す断面図解図である。
図7】この発明の一実施形態に係るソレノイドのスリーブの製造方法によって製造されるスリーブを示す断面図である。
図8】他の実施形態に係る非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材を示す断面図解図である。
図9】その他の実施形態に係る非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材を示す断面図解図である。
図10】さらにその他の実施形態に係る非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材を示す断面図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照してこの発明の好ましい実施形態について説明する。
【0018】
図1は、この発明の一実施形態に係るソレノイドのスリーブの製造方法によって製造されるスリーブ10を備えるソレノイド100を示す断面図である。ソレノイド100は、スリーブ10、蓋部材12、コイル14、樹脂部材16、ケース18、可動鉄心20、ロッド22、およびスペーサ24を備える。スリーブ10は、非磁性体26を第1磁性体28と第2磁性体30とで挟んで筒状に形成され、固定磁極として機能する。蓋部材12は、ストッパとして機能し、第2磁性体30に取り付けられる。コイル14は、樹脂部材16によってモールドされた状態でスリーブ10に巻回される。ケース18は、筒状に形成されかつコイル14と樹脂部材16とを外方から覆うようにスリーブ10と蓋部材12とに取り付けられる。可動鉄心20は、筒状に形成されかつスリーブ10と蓋部材12とによって形成される空間S内に設けられる。ロッド22は、棒状に形成され、可動鉄心20を貫通しかつ可動鉄心20に固定される。ロッド22は、可動鉄心20とともにスリーブ10内を往復動可能に設けられる。スペーサ24は、たとえば、環状に形成され可動鉄心20の軸方向の一端部においてロッド22の外周に設けられる。
【0019】
このようなソレノイド100において、コイル14に電流を流すと磁界Hが発生し、可動鉄心20、第1磁性体28および第2磁性体30が磁化される。このとき、非磁性体26を設けていることによって、コイル14により発生した磁界Hの磁束が第1磁性体28、第2磁性体30を経由して可動鉄心20に及んでいく。これによって、可動鉄心20を強く磁化することができる。コイル14に電流を流す前、可動鉄心20の蓋部材12側の端面が蓋部材12に接しているが、コイル14に電流を流し発生した磁界Hにより磁化された可動鉄心20は、磁化された第1磁性体28に引きよせられ、可動鉄心20およびロッド22が、スリーブ10内を図1に示す位置まで移動する。なお、ロッド22は、図示しないバネ等によって蓋部材12側に常時付勢されており、コイル14への電流の供給を止めると、可動鉄心20およびロッド22が、蓋部材12側に移動する。
【0020】
ソレノイド100は、たとえば、流量や圧力の細やかな制御により無駄なエネルギーを低減する観点から比例ソレノイドとして、高圧環境下で油圧ソレノイドバルブに好適に用いられる。ソレノイド100を比例ソレノイドとして用いる場合、第1磁性体28の端部のテーパ部(後述する第2テーパ部50の一部51:図7参照)の形状は重要である。なぜなら、この場合、第1磁性体28の端部のテーパ部の形状と付加されるスプリングとによって得られる特性に従って、コイル14に流れる電流の大きさにより可動鉄心20の位置が制御されるが、テーパ部が変形、変質すると特性が変わってしまうからである。また、ソレノイド100は、比例ソレノイドとして用いられるか否かに拘わらず、第1磁性体28の端部にテーパ部があることで可動鉄心20への吸引力が増加する。
【0021】
以下、この発明の一実施形態に係るスリーブ10の製造方法について説明する。
【0022】
まず、第1工程として、図2(a)~(c)に示すように、第1磁性部材34と、非磁性部材32と、第2磁性部材36とを準備する。
【0023】
図2(b)を参照して、非磁性部材32は、略円盤状に形成され、本体38と、第1環状部40と、第2環状部42とを含む。本体38は、円盤状に形成され、本体38の軸方向の一端部(第1磁性部材34側の端部)から他端部側(第2磁性部材36側)に向かって縮径するように凹む第1テーパ部44を有する第1凹部46を含む。第1環状部40は、本体38の軸方向の一端部において、本体38の外周部から本体38の軸方向に突出し、環状に形成される。第2環状部42は、本体38の軸方向の他端部(第2磁性部材36側の端部)において、本体38の外周部から本体38の軸方向に突出し、環状に形成される。このように、第1テーパ部44は、非磁性部材32の軸方向の一端部側(第1磁性部材34側)から他端部側(第2磁性部材36側)に向かって縮径するように凹む。第1環状部40は、非磁性部材32の軸方向の一端部側において環状に突出するように形成される。第2環状部42は、非磁性部材32の軸方向の他端部側において環状に突出するように形成される。
【0024】
ここで、第1環状部40および第2環状部42はそれぞれ、図2(a)の第1磁性部材34の第1凸部48および図2(c)の第2磁性部材36の第2凸部52を圧入し、嵌合したとき、側面から挟み込む突起部を指している。
【0025】
図2(a)を参照して、第1磁性部材34は、円柱状に形成され、第1凸部48を含む。第1凸部48は、第1磁性部材34の軸方向の一端部側(非磁性部材32側の反対側)から他端部側(非磁性部材32側)に向かって円盤状に突出するように形成され、第1磁性部材34の軸方向の他端部に位置する。また、第1凸部48は、第1凸部48の先端外周部に、第1テーパ部44に嵌合可能となるように第1磁性部材34の軸方向の一端部側から他端部側に向かって縮径する第2テーパ部50を有する。第1凸部48の直径D1は、第1凸部48が第1環状部40に圧入可能となるように、第1環状部40の内径D2よりもやや大きく設定される。第1凸部48を第1環状部40に圧入したとき第1テーパ部44と第2テーパ部50とが嵌合可能となるように、第1テーパ部44と第2テーパ部50とは略同一の勾配を有する。
【0026】
図2(c)を参照して、第2磁性部材36は、円柱状に形成され、第2凸部52を含む。第2凸部52は、第2磁性部材36の軸方向の一端部(非磁性部材32側の端部)に位置し、第2磁性部材36の軸方向の他端部側(非磁性部材32側の反対側)から一端部側(非磁性部材32側)に向かって円盤状に突出する。第2凸部52の直径D3は、第2凸部52が第2環状部42に圧入可能となるように、第2環状部42の内径D4よりもやや大きく設定される。
【0027】
この実施形態では、非磁性部材32、第1磁性部材34および第2磁性部材36の表面粗度は、Raが3.2程度に設定され、非磁性部材32としては、ステンレス(たとえばSUS304)が用いられ、第1磁性部材34および第2磁性部材36としては、軟鋼(たとえばSS400)が用いられる。また、以下の工程において、非磁性部材32と第1磁性部材34との間や、非磁性部材32と第2磁性部材36との間に、異物(ゴミ、油、洗浄液、錆など)がなるべく入らないように、非磁性部材32、第1磁性部材34および第2磁性部材36を予め洗浄しておく。洗浄方法としては一般的な方法を用いることができるので、詳細は省略する。
【0028】
つぎに、第2工程として、図3に示すように、非磁性部材32に第1磁性部材34と第2磁性部材36とを嵌合して接続する。まず、非磁性部材32の第1環状部40側と第1磁性部材34の第1凸部48側とを対向させる。ついで、第1磁性部材34を非磁性部材32の方に移動させて第1凸部48を第1環状部40に圧入する。上述したように、第1凸部48の直径D1は、第1環状部40の内径D2よりもやや大きく設定される(図2参照)。したがって、第1凸部48は、第1環状部40によって隙間がほとんどなく嵌合される。そして、第2テーパ部50が第1テーパ部44に嵌合し第1磁性部材34が非磁性部材32の方に移動できなくなるまで、第1磁性部材34をしっかりと奥まで挿し込む。このとき、第1凸部48の先端と本体38との隙間がない又はなるべく小さくなるように、非磁性部材32および第1磁性部材34の寸法を設定しておく。これによって、第4工程において、非磁性部材32と第1磁性部材34とを確実に拡散接合させることができる。このように、第1磁性部材34を第1環状部40に圧入し、第2テーパ部50を第1テーパ部44に嵌合させて、第1磁性部材34を非磁性部材32の軸方向の一端部に接続する。
【0029】
同様に、非磁性部材32の第2環状部42側と第2磁性部材36の第2凸部52側とを対向させる。ついで、第2磁性部材36を非磁性部材32の方に移動させて第2凸部52を第2環状部42に圧入する。上述したように、第2凸部52の直径D3は、第2環状部42の内径D4よりもやや大きく設定される(図2参照)。したがって、第2凸部52は、第2環状部42によって隙間がほとんどなく嵌合される。そして、第2磁性部材36が非磁性部材32の方に移動できなくなるまで第2磁性部材36をしっかりと奥まで挿し込む。このとき、第2凸部52の先端と本体38との隙間がない又はなるべく小さくなるように、非磁性部材32および第2磁性部材36の寸法を設定しておく。これによって、第4工程において、非磁性部材32と第2磁性部材36とを確実に拡散接合させることができる。このように、第2磁性部材36を第2環状部42に圧入して、第2磁性部材36を非磁性部材32の軸方向の他端部に接続する。
【0030】
第3工程として、一例として、接合部の作製には溶接を行う。図4を参照して、熱間等方圧加圧を行ったときに、非磁性部材32と第1磁性部材34との接続部分(第1凸部48と第1凹部46および第1環状部40とが対向する部分)に大気が混入しないように、当該接続部分の外周部54に沿って溶接を施す。非磁性部材32と第1磁性部材34との接続部分は、第1テーパ部44と第2テーパ部50との嵌合部分(第1テーパ部44と第2テーパ部50とが対向する部分)を含む。
【0031】
熱間等方圧加圧により第1磁性部材34と非磁性部材32とを拡散接合するためには、第1磁性部材34と非磁性部材32との接合面が酸化しないようにしなければいけない。大気の混入による酸化を防ぐため、時計回りまたは反時計回りにアルゴンや炭酸ガス等で覆いながら非磁性部材32と第1磁性部材34との接続部分を外周部54に沿って溶接にて接合して、大気が混入せず密封することが好ましい。時計回りまたは反時計回りにアルゴンや炭酸ガス等で覆いながら溶接にて接合することで非磁性部材32と第1磁性部材34との接続部分に、熱間等方圧加圧による拡散接合を妨げる大気が残らないようにできる。
【0032】
ここで好ましい接合方法は、アーク溶接であり、さらに好ましくはTIG溶接である。アーク溶接は、溶融ワイヤから発生させたアークをアルゴンや炭酸ガス等で覆い溶接するので、大気が混入せず、第1磁性部材34と非磁性部材32の接合面および第2磁性部材36と非磁性部材32の接合面が大気により酸化しにくくなる。TIG溶接は、タングステン電極を材料に近づけて放電の熱で材料を溶かし、熱が面方向に広がりやすい溶接のため、外周側の接続部分を広く、確実に接合できる。
【0033】
溶接を外周部54の全周に施すことによって、非磁性部材32と第1磁性部材34との接続部分を密封するように、外周部54に沿って非磁性部材32と第1磁性部材34とを接合する第1接合部56が形成される。ここで、第1接合部56が形成される部分では、非磁性部材32および第1磁性部材34が接合部の形成により変形や変質してしまうことがある。そのため、第1環状部40の軸方向の寸法L1(図2参照)および第1凸部48の円盤部分49の軸方向の寸法L2(図2参照)を、ある程度長く(非磁性部材32および第1磁性部材34の材質や溶接方法にもよるが、たとえば、2~10mm程度)かつ互いに略同一寸法に設定しておく。すなわち、第1環状部40を設けない場合と比較して第1テーパ部44および第2テーパ部50と第1接合部56とがより離れるように、第1環状部40が形成される。これによって、第1テーパ部44および第2テーパ部50にまで第1接合部56が形成されることを防止でき、第1テーパ部44および第2テーパ部50が変形や変質することなくその形状および特性を維持でき、後の熱間等方圧加圧処理による拡散接合が良好となる。
【0034】
同様に、非磁性部材32と第2磁性部材36との接続部分(本体38の他端部側の主面39および第2環状部42と第2凸部52とが対向する部分)に大気が混入しないように、当該接続部分の外周部58に沿って溶接を施す。溶接を外周部58の全周に施すことによって、非磁性部材32と第2磁性部材36との接続部分を密封するように、外周部58に沿って非磁性部材32と第2磁性部材36とを接合する第2接合部60が形成される。ここで、第2接合部60が形成される部分では、非磁性部材32および第2磁性部材36が溶接部の形成により変形や変質してしまうことがある。そのため、第2環状部42の軸方向の寸法L3(図2参照)および第2凸部52の軸方向の寸法L4(図2参照)を、ある程度長く(非磁性部材32および第2磁性部材36の材質や溶接方法にもよるが、たとえば、2~10mm程度)かつ互いに略同一寸法に設定しておく。すなわち、第2環状部42を設けない場合と比較して本体38の主面39および第2凸部52の主面53と第2接合部60とがより離れるように、第2環状部42が形成される。これによって、本体38の主面39および第2凸部52の主面53にまで第2接合部60が形成されることを防止でき、本体38の主面39および第2凸部52の主面53が溶接部の形成により変形や変質することなくその形状および特性を維持でき、後の熱間等方圧加圧処理による拡散接合が良好となる。
【0035】
第1環状部40の軸方向の寸法L1、第1凸部48の円盤部分49の軸方向の寸法L2、第2環状部42の軸方向の寸法L3、および第2凸部52の軸方向の寸法L4を、長くすることによって、後述する第5工程における加工代を少なくできる。
【0036】
なお、第1接合部56および第2接合部60は、最終形状であるスリーブ10に影響しない(含まれない)ように、第5工程において全て除去される大きさ(深さ)および位置に形成される。後述する図8図10に示す他の実施形態における第1接合部56a,56bおよび第2接合部60a,60bについても同様である。
【0037】
第4工程として、図5を参照して、前記工程により第1接合部56および第2接合部60によって接合された非磁性部材32と第1磁性部材34と第2磁性部材36とを炉(図示せず)に投入し熱間等方圧加圧処理を施す。たとえば、非磁性部材32にステンレス(SUS304)、第1磁性部材34および第2磁性部材36に軟鋼(SS400)を用いた場合、熱間等方圧加圧処理の条件は、より確実な接合と加圧熱処理炉への影響を考慮して、温度が850℃~1100℃、圧力が100MPa~130MPa、時間が1hr~3hrに設定される。熱間等方圧加圧処理により、非磁性部材32と第1磁性部材34と第2磁性部材36とは、外方から圧力Pを受ける。そして、第1接合部56で密封された非磁性部材32と第1磁性部材34との接続部分においては、第1磁性部材34と非磁性部材32とが高温高圧で加熱加圧されることで、第1磁性部材34と非磁性部材32とが圧縮されるとともに第1磁性部材34と非磁性部材32との間で原子の拡散が生じる。これによって、非磁性部材32と第1磁性部材34とが強固に接合される。このとき、第1テーパ部44と第2テーパ部50も高圧で圧縮されつつ相互拡散されることにより強固に接合される。
【0038】
同様に、第2接合部60で密封された非磁性部材32と第2磁性部材36との接続部分においても、第2磁性部材36と非磁性部材32とが高温高圧で加熱加圧されることで、第2磁性部材36と非磁性部材32とが圧縮されるとともに第2磁性部材36と非磁性部材32との間で原子の拡散が生じる。これによって、非磁性部材32と第2磁性部材36とが強固に接合される。
【0039】
なお、ステンレス(SUS304)は軟鋼(SS400)より硬度が高いので、非磁性部材32にステンレス(SUS304)、第1磁性部材34と第2磁性部材36とに鉄(軟鋼(SS400))を用いて、上述した条件で熱間等方圧加圧処理を施した場合、非磁性部材32は軟化しにくく、第1磁性部材34および第2磁性部材36は軟化しやすい。したがって、熱間等方圧加圧処理を施した後は、非磁性部材32の形状は維持され、第1磁性部材34および第2磁性部材36は、非磁性部材32の形状にならうようにやや変形する。このように、第1磁性部材34および第2磁性部材36の形状は、非磁性部材32の形状にならうため、非磁性部材32の寸法精度を良くしておくことが好ましい。また、非磁性部材32の硬度より第1磁性部材34および第2磁性部材36の硬度が低いことが好ましい。このような非磁性部材32と第1磁性部材34および第2磁性部材36との組み合わせとしては、非磁性部材32として、上記SUS304の他、SUS303、SUS316、SUS321などの非磁性ステンレス、黄銅、青銅などのCu系合金、アルミニウム合金、第1磁性部材34および第2磁性部材36として、上記SS400などの鉄の他、SUS430などの磁性ステンレスがあげられる。
【0040】
最後に、第5工程として、図6を参照して、二点鎖線で示すスリーブ10が残るように、非磁性部材32と第1磁性部材34と第2磁性部材36とに切削加工を施す。第1接合部56と第2接合部60とを除去するために非磁性部材32と第1磁性部材34と第2磁性部材36との外周部分を切削する。また、第1磁性部材34の軸方向の一端部および第2磁性部材36の軸方向の他端部を切削する。さらに、第2磁性部材36の軸方向に第2磁性部材36の他端部側から第1磁性部材34の第1凸部48の一部まで円柱状に削る。そして、そこから第1磁性部材34の軸方向の一端部まで貫通する貫通孔をあける。このようにして、非磁性部材32と第1磁性部材34と第2磁性部材36とを中空状に加工する。このとき、第1テーパ部44と第2テーパ部50との拡散接合部分の少なくとも一部は残るように切削する。
【0041】
図6および図7を参照して、上述した第5工程によって、非磁性部材32は、その軸方向の一端部に第1テーパ部44の一部45を含む環状の非磁性体26となる。第1磁性部材34は、第2テーパ部50の一部51を含む中空状の第1磁性体28となる。第1磁性体28に含まれる第2テーパ部50の一部51は、非磁性体26の軸方向の一端部において、非磁性体26に含まれる第1テーパ部44の一部45に拡散接合される。第2磁性部材36は、非磁性体26の軸方向の他端部に拡散接合される中空状の第2磁性体30となる。このようにして、非磁性体26を第1磁性体28と第2磁性体30とで挟んで形成される筒状のスリーブ10が得られる。
【0042】
なお、ソレノイド100に組み立てる際、蓋部材12との接地面を増やし、蓋部材12とスリーブ10とが溶接により強固に接続できるように、第2磁性体30側端部には段部31を形成している。
【0043】
このようなスリーブ10の製造方法によれば、第3工程によって、第1テーパ部44と第2テーパ部50との嵌合部分を含む非磁性部材32と第1磁性部材34との接続部分を密封するように非磁性部材32と第1磁性部材34とを接合する第1接合部56を形成し、非磁性部材32と第2磁性部材36との接続部分を密封するように非磁性部材32と第2磁性部材36とを接合する第2接合部60を形成する。その後、第4工程によって、熱間等方圧加圧処理を施し、非磁性部材32と第1磁性部材34とを圧縮しつつ拡散接合し、非磁性部材32と第2磁性部材36とを圧縮しつつ拡散接合する。したがって、第1テーパ部44および第2テーパ部50の角度を変更することなく非磁性部材32と第1磁性部材34と第2磁性部材36との接合強度を大きくできる、また、熱間等方圧加圧処理を施すために別途カプセル等を用いて真空封止する必要がないので、スリーブ10の製造が容易になりかつコストを削減できる。さらに、熱間等方圧加圧処理後の加工では、不要となるカプセル等を削り落とす必要がないので精度よく容易に加工できる。また、第1接合部56および第2接合部60に接合処理によって変質や変形が生じても、第1接合部56および第2接合部60は第5工程によって除去されるので、スリーブ10ひいてはソレノイド100の品質が低下することを防止できる。したがって、所望の形状の非磁性体26を有しかつ高圧環境での使用に適したソレノイド100のスリーブ10が容易かつ低コストで得られる。
【0044】
第1磁性部材34を第1環状部40に圧入することで、第1磁性部材34を非磁性部材32に外れにくいように接続できる。したがって、非磁性部材32と第1磁性部材34とに熱間等方圧加圧処理を施したとき、より確実に非磁性部材32と第1磁性部材34とを拡散接合させることができる。同様に、第2磁性部材36を第2環状部42に圧入することで、第2磁性部材36を非磁性部材32に外れにくいように接続できる。したがって、非磁性部材32と第2磁性部材36とに熱間等方圧加圧処理を施したとき、より確実に非磁性部材32と第2磁性部材36とを拡散接合させることができる。
【0045】
第1環状部40および第2環状部42をある程度長く形成することによって、第1テーパ部44および第2テーパ部50と第1接合部56とが十分に離れるようになるとともに、本体38の主面39および第2凸部52の主面53と第2接合部60とが十分に離れるようになり、非磁性部材32の直径、第1磁性部材34の直径および第2磁性部材36の直径が大きく設定されなくてもよくなる。したがって、非磁性部材32、第1磁性部材34および第2磁性部材36のサイズ(外径)を抑制できるので、熱間等方圧加圧処理後に不要となる部分を削り落とす手間を減らすことができる。
【0046】
第1接合部56および第2接合部60の形成にアーク溶接を用いることによって、第1磁性部材34と非磁性部材32の接合面および第2磁性部材36と非磁性部材32の接合面が大気により酸化しにくくなり、後の第4工程の熱間等方圧加圧処理によって第1磁性部材34と非磁性部材32および第2磁性部材36と非磁性部材32を良好に拡散接合することができる。
【0047】
アーク溶接としてTIG溶接を用いることによって、外周側の接続部分を広く、確実に接合でき、非磁性部材32と第1磁性部材34との接続部分、および非磁性部材32と第2磁性部材36との接続部分を、容易かつ確実に密封することができる。したがって、熱間等方圧加圧処理によって、非磁性部材32と第1磁性部材34、および非磁性部材32と第2磁性部材36を、確実に拡散接合させることができる。また、TIG溶接は、熱が面方向に広がりやすい溶接であり、接続部分内部へ深く接合されにくいため、必要なところだけ確実に接合できる。
【0048】
本発明に係るソレノイドのスリーブを用い、自体公知の製造方法によって、たとえば、図1記載の比例ソレノイドに適するソレノイドの他、各種ソレノイドを作製することができる。本発明に係るスリーブを用いたソレノイドは高圧環境での使用に適している。
(実施例)
【0049】
以下の条件にて、本発明に係るスリーブを作製し、引張強度試験と漏れ試験とから本発明の接合強度を評価した。
(引張強度)
【0050】
まず、図2と同様に軸方向の一端部側から他端部側に向かって縮径するように凹む第1テーパ部(テーパ角度 45度)を有する非磁性ステンレス(SUS304)からなる非磁性部材、その軸方向の一端部側から他端部側に向かって縮径する第2テーパ部を有する軟鋼(SS400)からなる第1磁性部材、そして第1磁性部材と同じ軟鋼(SS400)からなる第2磁性部材を準備した。
【0051】
次に、図3と同様に前記第2テーパ部を前記第1テーパ部に嵌合させて前記第1磁性部材を前記非磁性部材の軸方向の一端部に接続し、前記第2磁性部材を前記非磁性部材の軸方向の他端部に接続した。
【0052】
次に、図4と同様に前記第1テーパ部と前記第2テーパ部との嵌合部分を含む前記非磁性部材と前記第1磁性部材との接続部分を密封するように前記接続部分の外周部に沿って前記非磁性部材と前記第1磁性部材とを接合する第1接合部を形成し、前記非磁性部材と前記第2磁性部材との接続部分を密封するように前記接続部分の外周部に沿って前記非磁性部材と前記第2磁性部材とを接合する第2接合部を形成した。このとき、接合部の溶接はTIG溶接にて行った。
【0053】
次に、図5と同様に前記第3工程によって接合された前記非磁性部材と前記第1磁性部材と前記第2磁性部材とを直接にHIP処理装置に投入し、熱間等方圧加圧処理を施すことによって、前記非磁性部材と前記第1磁性部材とを拡散接合しかつ前記非磁性部材と前記第2磁性部材とを拡散接合した。
【0054】
熱間等方圧加圧処理の条件は、温度1000℃、圧力113MPa、処理時間2hrとした。
【0055】
その後、拡散接合した第1磁性部材、非磁性部材および第2磁性部材を、軸方向の長さ105mm、直径6mmになるよう加工し、試料を作製した。ここで、非磁性部材の中央部における軸方向の長さは2.5mmであった。
【0056】
前記試料の引張強度を引張試験機にて測定したところ、SS400の一般値に相当する445N/mm2の引張強度が得られた。破断は接合部ではなく、磁性部材であるSS400で起こっており、非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材は強固に接合していた。
(漏れ試験)
【0057】
また、上記引張試験で作製したのと同様に前記第1磁性部材、前記非磁性部材および前記第2磁性部材を拡散接合した後、前記第1テーパ部と前記第2テーパ部との拡散接合部分の少なくとも一部が残るように、前記非磁性部材と前記第1磁性部材と前記第2磁性部材とを中空状に加工しかつ前記第1接合部と前記第2接合部とを除去する処理を経て、図7と同様に非磁性体を第1磁性体と第2磁性体とで挟んで形成される筒状のスリーブを別に作製した。
【0058】
断面を確認したところ、筒状スリーブの寸法としては、軸方向の長さが105mm、外径が22mm、内径が17mm(可動鉄心が移動する部位)および9mm(ロッドが移動する部位)、非磁性体の軸方向の長さ(可動鉄心に接する内径側)が2.5mm、非磁性体のテーパ部の角度は45°であった。テーパ部の角度に変化はなかった。
【0059】
また、軸方向の両端を封止した前記筒状のスリーブをリークテスターのチャンバー内に置き、チャンバー内を125MPaに加圧したところ、接合部からは漏れが検出されず、軟鋼(SS400)で割れが発生していた。このことから非磁性体、第1磁性体および第2磁性体は強固に接合していることがわかった。
【0060】
上記より本発明に係るスリーブは、高圧ソレノイドのスリーブの仕様に充分耐えうることがわかった。
(ソレノイドの作製)
【0061】
上記実施例で作製したスリーブを用いて、図1に記載のソレノイドを作製した。具体的には、上記筒状のスリーブに、スペーサ24を配置し、可動鉄心20および可動鉄心20を貫通するロッド22からなる組立体を軸方向に移動可能に挿入した状態で、蓋部材12をスリーブに溶接した。そして、スリーブの非磁性体の部分を取り囲むように樹脂部材16によってモールドされたコイル14を配置し、ケース18で覆うことによりソレノイドを作製した。作製したソレノイドには上記実施例で作製したスリーブを用いているので、当該ソレノイドは高圧環境での使用に適している。
【0062】
従来技術では高圧に耐えられるようにテーパ部で非磁性材と磁性材とを接合できなかったため、従来のソレノイド(たとえば特開2012-38780に記載)のスリーブでは、第1磁性材と第2磁性材の外周部に窪みを設け、その窪みに非磁性材を嵌合し、TIG溶接等により接合していた。
【0063】
このような従来のスリーブでは、図7に示す本発明に係るスリーブと比べると、可動鉄心と第1磁性材との対向面積(吸着面積)が小さくなり、そのスリーブを用いたソレノイドの吸引力特性は本発明に係るスリーブを用いたソレノイドより劣ってしまう。
【0064】
本発明では非磁性体、第1磁性体および第2磁性体の接合強度を大きくできるので、本発明に係るスリーブのうち、ソレノイドの可動鉄心の外側に位置する部分の厚みを比較的小さくできる。したがって、同サイズのソレノイドであれば、ソレノイドの軸方向における可動鉄心と第1磁性体との対向面積(吸着面積)を大きくできるので、本発明に係るスリーブを用いることによって大きな吸引力を得ることができる。また、同じ吸引力を得る場合には、本発明に係るスリーブを用いることによってソレノイドのサイズを小さくできる。また、本発明に係るスリーブを用いることによってテーパ形状を所望の角度に容易に設定できることから、吸引力の比例特性のよいソレノイドを得ることができる。
【0065】
なお、非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材として、図8に示すような非磁性部材32a、第1磁性部材34aおよび第2磁性部材36aが用いられてもよい。図8に示す構成要素については、先の実施形態の対応する構成要素の符号の末尾に「a」を付加したものを符号として用いることによって、詳細な説明は省略する。
【0066】
図8を参照して、この実施形態では、第1テーパ部44aおよび第2テーパ部50aのうち第5工程における切削後に残る部分(図7を参照して、非磁性体26および第1磁性体28相互の接続面、すなわち第1テーパ部44の一部45および第2テーパ部50の一部51に相当)と、第1接合部56aとが、より離れるように、第1テーパ部44aおよび第2テーパ部50aの径方向の寸法L9、ひいては非磁性体32a(第1環状部40a)の外径および第1磁性部材34aの外径がある程度大きく(非磁性部材32aおよび第1磁性部材34aの材質や溶接方法にもよるが、たとえば、第1テーパ部44aおよび第2テーパ部50aのうち第5工程における切削により除去される部分の径方向の寸法L10が1~3mm程度に)設定されている。これによって、第1テーパ部44aおよび第2テーパ部50aのうち第5工程における切削後に残る部分が、第1接合部56aによって変形や変質することなくその形状および特性を維持できる。
【0067】
また、本体38aの主面39aおよび第2凸部52aの主面53aのうち第5工程における切削後に残る部分(図7を参照して、非磁性体26および第2磁性体30相互の接続面に相当)と、第2接合部60aとが、より離れるように、非磁性部材32a(第2環状部42a)の直径および第2磁性部材36aの直径が大きく設定されている。これによって、本体38aの主面39aおよび第2凸部52aの主面53aのうち第5工程における切削後に残る部分が、第2接合部60aによって変形や変質することなくその形状および特性を維持できる。
【0068】
第1テーパ部44aおよび第2テーパ部50aの径方向の寸法L9を大きくすることにともなって、非磁性部材32a(第1環状部40aおよび第2環状部42a)の直径、第1磁性部材34aの直径、および第2磁性部材36aの直径を大きくしているので、第1環状部40aおよび第2環状部42aの軸方向の寸法によらずに、第1テーパ部44aおよび第2テーパ部50aのうち第5工程における切削後に残る部分と第1接合部56aとを十分に離れるようにでき、かつ本体38aの主面39aおよび第2凸部52aの主面53aのうち第5工程における切削後に残る部分と第2接合部60aとを十分に離れるようにできる。したがって、第1環状部40aの軸方向の寸法L5、第1凸部48aの円盤部分49aの軸方向の寸法L6、第2環状部42aの軸方向の寸法L7、および第2凸部52aの軸方向の寸法L8を長くしなくても、第1接合部56aおよび第2接合部60aを、最終形状であるスリーブ10に影響しない(含まれない)ように容易に形成できる。
【0069】
図6に示す実施形態および図8に示す実施形態のいずれを用いるかについては、非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材の材質、接合手段ならびに加工手段を考慮して、適宜望ましいほうを選定すればよい。
【0070】
上述の実施形態では、第1環状部および第2環状部が形成される場合について説明したが、第1環状部および第2環状部は必ずしも形成されなくてもよい。また、位置決めのための凹凸部を、非磁性部材、第1磁性部材、第2磁性部材の後に切削除去される部分に設けてもよい。
【0071】
たとえば、非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材として、図9に示すような非磁性部材32b、第1磁性部材34bおよび第2磁性部材36bが用いられてもよい。図9に示す構成要素については、図8に示す実施形態の対応する構成要素の符号の末尾の「a」を「b」に変更したものを符号として用いることによって、詳細な説明は省略する。
【0072】
非磁性部材32bは、第1環状部40aおよび第2環状部42aを有さず第3凹部62および第4凹部64を有する点で、非磁性部材32aと異なる。第1磁性部材34bは、円盤部49aを有さず第3凸部66を有する点で、第1磁性部材34aと異なる。第2磁性部材36bは、第2凸部52aを有さず第4凸部68を有する点で、第2磁性部材36aと異なる。なお、第1テーパ部44bおよび第2テーパ部50bの径方向の寸法L11は、第1テーパ部44aおよび第2テーパ部50aの径方向の寸法L9(図8参照)よりも大きく設定される。第3凹部62は、第1凹部46bの中央に形成され、第4凹部64は、非磁性部材32bの主面39bの中央に形成される。第3凸部66は、第3凹部62に圧入可能になるように、第1凸部48bの先端面中央に形成され、第4凸部68は、第4凹部64に圧入可能となるように、第2磁性部材36bの主面53bの中央に形成される。
【0073】
この実施形態では、第3凸部66を第3凹部62に圧入することで、第1磁性部材34bを非磁性部材32bに容易に位置決めでき、第4凸部68を第4凹部64に圧入することで、第2磁性部材36bを非磁性部材32bに容易に位置決めできる。
【0074】
また、図10を参照して、第1磁性部材34bの代わりに第1磁性部材34cが用いられ、第2磁性部材36bの代わりに第2磁性部材36cが用いられてもよい。
【0075】
第1磁性部材34cは、中空部70を有する点で、第1磁性部材34bと異なる。第2磁性部材36cは、中空部74を有する点で、第2磁性部材36bと異なる。中空部70は、第1磁性部材34cの軸方向の一端部側の主面72の中央から、第1磁性部材34cの軸方向に延びる。中空部70が形成されている箇所は、第5工程において切削される部分である。中空部74は、第2磁性部材36cの軸方向の他端部側の主面76の中央から、第2磁性部材36cの軸方向に延びる。中空部74が形成されている箇所は、第5工程において切削される部分である。その他の構成要素については、図9に示す実施形態と同様である。
【0076】
この実施形態では、予め中空部70および中空部74を形成しておくことによって、第5工程において切削する部分を減らすことができ、加工時間を短縮することができる。
【0077】
上述の実施形態では、最終形状のスリーブ10を得るために、第5工程において第1テーパ部および第2テーパ部の一部が除去されたが、これに限定されず、第1テーパ部および第2テーパ部が除去されないように、第1テーパ部、第2テーパ部および最終形状のスリーブが形成されてもよい。たとえば、第1テーパ部および第2テーパ部と第1接合部とが十分離れるように第1環状部の厚みを大きくすることにより、第1テーパ部および第2テーパ部が除去されなくても第1環状部を除去するだけで最終形状のスリーブを形成することができる。
【0078】
上述の実施形態の例では、第1接合部と第2接合部とがTIG溶接によって形成される場合について説明したが、これに限定されず、たとえば、アーク溶接として、MIG(Metal Inert Gas)溶接、プラズマ溶接が用いられてもよい。また、接合部を形成する方法として、ろう付け、レーザー溶接、電子ビーム溶接が用いられてもよい。
【0079】
非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材の表面粗度は、良好に接合するためにはRaで0.4以上あればよい。より好ましくはRaで3.2以上である。
【0080】
また、非磁性部材と第1磁性部材と第2磁性部材との表面粗度は同一でなくてもよい。
【0081】
熱間等方圧加圧処理の条件は、作製するスリーブの大きさ、非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材に用いる材料、非磁性部材、第1磁性部材および第2磁性部材それぞれの厚さ比、得ようとする特性に応じた磁性部材と非磁性部材との境界部の形状等に応じて適宜設定されればよい。
【0082】
以上、この発明の好ましい実施形態について説明されたが、この発明の範囲および精神を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能であることは明らかである。この発明の範囲は、添付された請求の範囲のみによって限定される。
【符号の説明】
【0083】
10 スリーブ
12 蓋部材
14 コイル
16 樹脂部材
18 ケース
20 可動鉄心
22 ロッド
24 スペーサ
26 非磁性体
28 第1磁性体
30 第2磁性体
32,32a,32b 非磁性部材
34,34a,34b,34c 第1磁性部材
36,36a,36b,36c 第2磁性部材
38,38a,38b 本体
40,40a 第1環状部
42,42a 第2環状部
44,44a,44b 第1テーパ部
46,46a,46b 第1凹部
48,48a,48b 第1凸部
50,50a,50b 第2テーパ部
52,52a 第2凸部
54,54a,54b,58,58a,58b 外周部
56,56a,56b 第1接合部
60,60a,60b 第2接合部
62 第3凹部
64 第4凹部
66 第3凸部
68 第4凸部
70,74 中空部
100 ソレノイド

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10