IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧 ▶ サージミヤワキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電気柵の監視装置 図1
  • 特許-電気柵の監視装置 図2
  • 特許-電気柵の監視装置 図3
  • 特許-電気柵の監視装置 図4
  • 特許-電気柵の監視装置 図5
  • 特許-電気柵の監視装置 図6
  • 特許-電気柵の監視装置 図7
  • 特許-電気柵の監視装置 図8
  • 特許-電気柵の監視装置 図9
  • 特許-電気柵の監視装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】電気柵の監視装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/24 20110101AFI20220124BHJP
【FI】
A01M29/24
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018070095
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019176848
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000105844
【氏名又は名称】サージミヤワキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100119987
【氏名又は名称】伊坪 公一
(72)【発明者】
【氏名】中尾 誠司
(72)【発明者】
【氏名】喜田 環樹
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 豊
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-105610(JP,A)
【文献】米国特許第05982291(US,A)
【文献】特開2014-131494(JP,A)
【文献】特開平02-027271(JP,A)
【文献】特開2008-157862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に所定間隔で立設される複数本のポスト、前記複数本のポストに掛け渡されて張設される導電性のワイヤ、及び前記ワイヤに1個所で接続して前記ワイヤに高電圧を印加する電源装置を備え、前記ワイヤに触れた動物に電気ショックを与える電気柵に設けられた、電気柵の監視装置であって、
前記ワイヤを流れる電流を所定位置で測定する少なくとも2つの電流測定装置と、前記電流測定装置から送信された信号を受信する管理装置とを備え、
前記電流測定装置には、
前記ワイヤを流れる電流を測定する電流センサと、
前記電流センサによって測定された電流測定値が、予め設定された閾値を越えるとトリガ信号を発生して送信装置に入力するトリガ信号発生装置と、
前記トリガ信号が前記トリガ信号発生装置から入力されると、前記トリガ信号及び前記電流測定値を外部に送信する送信装置と、
他の電流測定装置から送信された前記トリガ信号を直接受信或いは前記トリガ信号を受信した前記管理装置からの指令信号を受信し、受信した信号を自己の電流測定装置の送信装置に入力して自己の電流測定装置の電流センサが測定した電流測定値を外部に送信させる受信装置と、が設けられ、
前記管理装置は表示器を備え、各電流測定装置から送信された電流測定値を受信すると、受信した複数の電流測定値を前記表示器に表示することにより、前記電気柵における漏電個所を視認できるようにしたことを特徴とする電気柵の監視装置。
【請求項2】
前記管理装置は、受信した複数の電流測定値を比較し、比較した複数の電流測定値の値が最も大きい電流測定装置を、漏電個所に最も近いと特定して前記表示器に表示することを特徴とする請求項1に記載の電気柵の監視装置。
【請求項3】
前記管理装置は、受信した複数の電流測定値を比較し、隣接する前記電流測定装置の間のワイヤに流れる電流を計算して、流れる電流の値が最も大きいワイヤの部分に漏電個所があると特定することを特徴とする請求項1に記載の電気柵の監視装置。
【請求項4】
前記電流測定装置は、所定時間間隔で前記ワイヤを流れる電流を測定し、電流測定値が前記閾値を越えると基準時間内で前記ワイヤを流れる電流を測定し続け、前記基準時間経過後も電流測定値が前記閾値を越えていた場合に、前記トリガ信号発生装置がトリガ信号を発生することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【請求項5】
前記電流測定装置には電圧測定装置が併設されており、
前記電圧測定装置は前記受信装置と前記送信装置に接続していて、電圧測定値を送信できるように構成され、
前記電圧測定装置は、前記受信装置が前記トリガ信号を受信した時、所定時間毎、及び前記電圧測定値が別の閾値よりも低下した時に、前記電圧測定値を前記装置装置によって前記管理装置に送信するように構成されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【請求項6】
前記電流測定装置には固有番号が与えられており、
前記送信装置は送信時に、前記固有番号を前記管理装置に送信し、
前記管理装置は、受信した固有番号により、受信した前記電流測定値及び前記電圧測定値を送信した前記電流測定装置を特定することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【請求項7】
前記電気柵が、前記電源装置が接続された始端と、前記ワイヤに何も接続されない終端とを備える構造であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【請求項8】
前記電気柵の前記ワイヤが、前記始端と前記ワイヤの分岐点との間に位置する基部ワイヤと、前記分岐点に一端が接続し、他端が何も接続されない終端である複数の分岐ワイヤとから形成された構造であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【請求項9】
前記電気柵が、外部と隔離する領域の境界に沿って、ループ状に設けられた電気柵であり、前記電源装置はループ状の前記ワイヤの1個所に接続されている構造であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【請求項10】
前記ループ状の前記ワイヤが、前記電源装置の前記ワイヤへの接続点から電気的に最も離れた位置までの左側に位置する第1区間のワイヤと右側に位置する第2区間のワイヤに分かれており、前記電流測定装置は前記第1区間のワイヤと前記第2区間のワイヤの夫々に対して、少なくとも1つ設けられていることを特徴とする請求項9に記載の電気柵の監視装置。
【請求項11】
前記電源装置は、前記第1区間のワイヤと前記第2区間のワイヤに対して独立に電源を供給可能に前記第1区間のワイヤと前記第2区間のワイヤに接続されており、
前記第1区間のワイヤと前記第2区間のワイヤのうちの一方のワイヤにだけ、前記電源装置から高電圧が印加されている場合は、高電圧が印加されていない区間のワイヤに設けられた前記電流測定装置は機能を停止していることを特徴とする請求項9に記載の電気柵の監視装置。
【請求項12】
Nを2以上の整数として、隔離する領域がN個あって隣接しており、各領域の境界部には共通のワイヤが張設されることを特徴とする請求項9に記載の電気柵の監視装置。
【請求項13】
前記電流測定装置に予め設定される閾値は変更が可能である請求項1から12の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【請求項14】
前記電流測定装置の1つが、前記電源装置に設けられていることを特徴とする請求項1から13の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【請求項15】
前記電流測定装置は、所定時間毎に前記ワイヤを流れる電流を測定することを特徴とする請求項1から14の何れか1項に記載の電気柵の監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気柵の監視装置に関し、特に、電気柵に電流測定装置を設けて電気柵の漏電もしくは通電不良個所を特定できる電気柵の監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気柵は、放牧している家畜の逃走防止や、野生動物による耕作地への侵入防止対策として、外部から隔離すべき領域の外縁に張り巡らされるものである。電気柵は、間隔を隔てて大地に立設される複数本のポスト(支柱)と、ポストの高さ方向に所定間隔で掛け渡されて張設される導電性のワイヤとを備える。このように、電気柵を隔離すべき領域の外縁に張り巡らせる場合は、電気柵はループ状をしている。一方、電気柵はループ状のもの以外にも、始点と終点を備えるライン状の電気柵もあり、始点と終点の途中で柵が分岐して、終点が複数ある電気柵もある。
【0003】
ポストはおよそ3~5mの間隔で地面に埋め込まれる。また、ボストに張設されるワイヤの本数及びワイヤの間隔は、電気柵で通過を防ぐ動物の種類によって異なり、例えば、イノシシ用の電気柵には地面から20cm間隔でポストに2段程度のワイヤが張設される。そして、ワイヤには電源装置から高圧の電圧が印加され、動物がワイヤに触れると電気ショックによって動物に心理的恐怖感を与えることができるので、以後、動物が電気柵に近付かないようになる。このような電気柵は、有刺鉄線、石垣、ネットフェンスなどの物理的な柵に比べて低コストであり、動物が柵を越えて移動することを確実に防止することができるため、近年、広く普及している。
【0004】
ワイヤに高電圧を一定の時間間隔で通電する電源装置は、100Vの交流電源や鉛蓄電池等のバッテリに接続されてワイヤに数千ボルト高電圧の電力を供給する。近年では、ソーラーパネルが接続された電源装置もある。電源装置には給電端子とアース端子があり、給電端子がワイヤに接続され、アース端子が地面に埋め込んだアース棒に接続される。ワイヤが電源装置の給電端子に接続されると、ワイヤには数千ボルト、具体的には5000V~8000Vの高電圧(高圧パルス)が印加される。ポストが導電性の場合、ワイヤはポストに取り付けられた絶縁碍子に架線されて張設される。また、ポストが絶縁材で形成されている場合は、ワイヤは直接ポストに張設される。
【0005】
ワイヤは地面に対して絶縁されるように架線され、ワイヤには数千ボルトの電圧が一定間隔、例えば0.75秒以上の間隔の低周波数で印加される。このとき、ワイヤが地面に対して完全に絶縁されている場合は、ワイヤの電圧は大きく上下するが、ワイヤを流れる電流値は、発生しないか、極めて小さい。これは、ワイヤの先にはワイヤに印加された電気によって作動する機器が接続されていないので、ワイヤには殆ど電流が流れないためである。
【0006】
ところが、電気柵は野外に設置されるため、風雨、倒木、降雪によってワイヤが断線する可能性があると共に、ワイヤに地面に生える雑草が触れて漏電する可能性がある。そして、ワイヤが断線するとワイヤに電圧が印加されなくなって電気柵の機能が失われ、ワイヤに漏電が発生するとワイヤの電圧が降下して電気柵の機能が損なわれる。電気柵の機能が損なわれるこれ以外の原因としては、ワイヤの接続不良、ワイヤ自体の導通不良などがある。
【0007】
そこで、電気柵のワイヤに印加される電圧を監視することにより、電気柵のワイヤの断線や漏電を検出する提案がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示の電気柵用電圧測定装置では、電圧測定部で測定した電圧を、無線通信部によって無線LANを介して外部の電圧監視端末に送信して電圧を監視している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6161901号
【0009】
【文献】特開2011-30452号公報
【0010】
【文献】特開2009-14583号公報
【0011】
【文献】実用新案登録第3073508号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、特許文献1に提案の電気柵のワイヤの断線や漏電を検出する方法では、漏電でワイヤに印加された電圧が低下すると、ワイヤは電気柵全体が繋がっているので、電気柵全体のワイヤの電圧が下がる。このため、電気柵に電圧測定部が複数あっても、同時に多くの電圧測定部から同様の電圧低下信号が送信され、漏電個所が特定できないという課題があった。
【0013】
例えば、電源装置から最も近い場所に第1電圧センサがあり、そこから所定距離離れた場所に第2電圧センサがあり、最も遠い場所に第3電圧センサが設けられている場合を考える。ワイヤに漏電が発生していない場合でも、ワイヤにはインピーダンスがあり、電源装置から離れるほど電圧降下が発生する。このため、第1電圧センサの測定値が8000Vである場合、第2電圧センサの測定値が7900V、第3電圧センサの測定値が7800Vのように、電源装置からセンサまでの距離がある程、電圧降下が大きい。
【0014】
ここで、第2電圧センサと第3電圧センサの間の区間で雑草による漏電が発生した場合を想定した実験を行って、各電圧センサの測定値を検証した。漏電を僅かにした場合の測定結果は、第1電圧センサの測定値が7000V、第2電圧センサの測定値が6900V、第3電圧センサの測定値が6800Vであった。また、漏電を大きくした場合の測定結果は、第1電圧センサの測定値が2000V、第2電圧センサの測定値が1900V、第3電圧センサの測定値が1800Vであった。このように、ワイヤに漏電が発生すると、漏電が大きくなるほど電圧センサの測定値は低下するが、電源装置からの距離に応じた電圧降下の傾向は、漏電が無い場合と変わらないので、漏電の発生個所を特定することができなかった。
【0015】
更に、電圧センサの周囲の地面の導電性により、電源装置から遠い電圧センサの電圧測定値の方が高く表示される場合がある。これに加えて、電気柵の電源装置から遠い末端部分の電圧は、反射波の影響で他の部分の電圧よりも上昇する場合があり、電圧のみの監視では、漏電個所の特定を困難にしていた。
【0016】
本発明の目的は、ループ状、直線状を問わず、電気柵において漏電が発生した場合に、電気柵のワイヤに流れる電流を測定することにより、ワイヤの漏電個所を特定することができる電気柵の監視装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1つの形態によれば、地面に所定間隔で立設される複数本のポスト、複数本のポストに掛け渡されて張設される導電性のワイヤ、及びワイヤに1個所で接続してワイヤに高電圧を印加する電源装置を備え、ワイヤに触れた動物に電気ショックを与える電気柵に設けられた、電気柵の監視装置であって、ワイヤを流れる電流を所定位置で測定する少なくとも2つの電流測定装置と、電流測定装置から送信された信号を受信する管理装置とを備え、電流測定装置には、ワイヤを流れる電流を測定する電流センサと、電流センサによって測定された電流測定値が、予め設定された閾値を越えるとトリガ信号を発生して送信装置に入力するトリガ信号発生装置と、トリガ信号がトリガ信号発生装置から入力されると、トリガ信号及び電流測定値を外部に送信する送信装置と、他の電流測定装置から送信されたトリガ信号を直接受信或いはトリガ信号を受信した管理装置からの指令信号を受信し、受信した信号を自己の電流測定装置の送信装置に入力して自己の電流測定装置の電流センサが測定した電流測定値を外部に送信させる受信装置と、が設けられ、管理装置は表示器を備え、各電流測定装置から送信された電流測定値を受信すると、受信した複数の電流測定値を表示器に表示することにより、電気柵における漏電個所を視認できるようにしたことを特徴とする電気柵の監視装置が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電気柵の監視装置によれば、電気柵に漏電が発生した場合に、各電流測定装置が測定した電流測定値を管理装置において比較すれば、電流測定値の大きさから漏電個所を特定することができる。この結果、ワイヤに印加された電圧がワイヤ全体で低下しても、ワイヤの漏電個所を迅速に特定することができるという効果がある。また、漏電や切断等の状況把握が正確に把握できるようになり、保守維持管理が迅速に行えるようになる。更に、検出した電流変化の大きさにより、漏電の深刻さを判断できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は一般的な電気柵の構造を示す説明図、(b)は(a)に示した電気柵の電源部分の詳細な構造を示す構造図である。
図2】(a)は図1(a)、(b)に示した電気柵に外部から動物が侵入しようとしてワイヤに接触し、電気ショックを受けた時の電流の流れを示す説明図、(b)は図1(a)、(b)に示した電気柵に雑草が触れて漏電が生じた時の電流の流れを示す説明図である。
図3】(a)は本発明の電気柵の監視装置の第1の実施例の構造を示す平面図、(b)は、(a)に示した電流測定装置の内部構成の一例を示すブロック構成図である。
図4】(a)は図3(a)に示した電流測定装置に使用される電流センサの一例の構造を示す斜視図、(b)は図3(a)に示した電流測定装置に使用される電流センサの他の例の構造を示す斜視図である。
図5】本発明の電気柵の監視装置の第2の実施例の構造を示す平面図である。
図6】本発明の電気柵の監視装置の第3の実施例の構造を示す平面図である。
図7】(a)は電流測定装置に電圧測定装置と通信機が設けられた実施例の、電流測定装置の構造例を示すブロック図、(b)は電気柵の監視装置に電圧測定装置が単独で設けられた実施例の電圧測定装置の構造例を示すブロック図である。
図8】本発明の電気柵の監視装置の第4の実施例の構造を示す平面図である。
図9】本発明の電気柵の監視装置の第5の実施例の構造を示す平面図である。
図10】(a)は、本発明の電気柵の監視装置の第6の実施例の構造を示す平面図、(b)は、本発明の電気柵の監視装置の第7の実施例の構造を示す平面図、(c)は、本発明の電気柵の監視装置の第8の実施例の構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を用いて本出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の実施例を説明する前に、本発明を為すに至った経緯について、従来の電気柵を例にとって説明する。
【0021】
図1(a)は一般的な電気柵10の構造を示すものである。電気柵10は、耕作地のような領域Rに外部から野生動物Aが侵入して耕作物を食い荒らされるのを防ぐために設置される。電気柵10は、外部と隔離する領域Rの境界に沿って、地面に所定間隔で複数本のポスト1が立設され、この複数本のポスト1に導電性のワイヤ2が掛け渡されて張設される。ポスト1が金属製等の導電性を備える場合は、碍子等の絶縁体を介してワイヤ2が掛け渡される。図1(a)には、矩形状の領域Rの境界にそって立設されたポスト1にワイヤ2が張設されている状態が示されている。
【0022】
領域Rの周囲に立設されたポスト1に張設されたワイヤ2には、ワイヤ2に高電圧を印加する電源装置3が接続される。通常、電源装置3はワイヤ2に1個所の接続点4で接続されるが、複数の電源装置3がワイヤ2に複数個所の接続点4で接続される場合や、1つの電源装置3のワイヤ2への接続点4が複数ある場合もある。この例の電源装置3は交流電源5、例えば、100Vの商用電源5に接続されており、電源装置3の内部で高電圧(例えば8000V)のパルス状の交番電圧に変換される。電源装置3には+端子31と-端子32があり、+端子31が給電線34でワイヤ2との接続点4に接続される。また、-端子32は、アース線35で接地される。
【0023】
図1(b)は、図1(a)に示した電気柵10の電源装置3とワイヤ2との接続部分の詳細な構造を示すものである。ポスト1にはワイヤ2が碍子のようなワイヤ保持具6を介して複数段に掛け渡されており、電源装置3の+端子31は給電線34で複数段のワイヤ2の1本に接続点4で接続されている。電源装置3と接続されない他の段のワイヤ2は、電源装置3に接続されるワイヤ2に接続線2Aによって接続しており、複数段のワイヤ2には同じ電圧が印加される。電源装置3は支柱8で地面Gに立設されており、電源装置3の近傍の地面Gにはアース棒30が埋め込まれている。アース棒30は、電源装置3に合わせた必要本数が埋め込まれ、各アース棒30は連絡棒30Cで接続されている。アース棒30は、アース線35により電源装置3の-端子32に接続される。符号33は電源装置3のオンオフスイッチである。
【0024】
図2(a)は、図1(a)、(b)に示した電気柵10に外部からイノシシのような動物Aが領域Rに侵入しようとしてワイヤ2に接触し、電気ショックを受けた時の電流の流れを示す説明図である。例えば、動物Aの鼻がワイヤ2に触れると、ショックを与えるパルス電流が、太い線で示すように動物の鼻から体内を抜けて地面Gに流れる。地面Gに流れた電流は、アース棒30、アース線35で回収され、電源装置3に戻る。この電流経路で動物Aがショックを受け、以後は電気柵10に近付かなくなる。
【0025】
図2(b)は、図1(a)、(b)に示した電気柵10に、地面Gに生えた雑草Wが触れて漏電が生じた時の電流の流れを示す説明図である。耕作地のような領域Rは人手により雑草が取り除かれるが、領域Rの外部に雑草Wが生えると、成長した雑草Wが電気柵10のワイヤ2に触れることがある。すると、ワイヤ2から電流が破線で示すように雑草Wを介して地面Gに流れ、アース棒30から電源装置3に戻る漏電が発生する。ワイヤ2に漏電が発生すると、ワイヤ2の電圧が低下し、電気柵10の動物排除能力が損なわれる。そこで、本発明は、電気柵10に雑草W等による漏電が発生した時に、確実に漏電個所を特定できて漏電の原因を取り除くことができる電気柵の監視装置を提供するものである。
【0026】
図3(a)は、本発明の電気柵の監視装置20の第1の実施例の構造を示すものである。電気柵10の構造は、図1(a)で説明した一般的な電気柵10の構造と同じであるので、同じ構成部材には同じ符号を付してその説明を省略する。電気柵10には、領域Rの周囲に立設された複数本のポスト1、複数本のポスト1に張設されたワイヤ2、ワイヤ2に高電圧を印加する電源装置3が備えられている。
【0027】
第1の実施例では、領域Rの周囲に張り巡らされたワイヤ2の所定個所、例えばこの実施例では4か所に電流測定装置21を設け、ワイヤ2を流れる電流を測定することができるようにしている。電流測定装置21を設ける間隔は任意であるが、ワイヤ2の均等な長さ毎に設けるようにすることができる。また、ワイヤ2を、電源装置3のワイヤへの接続点4から電気的に最も離れた位置Pまでの左側に位置する第1区間のワイヤ2Lと、右側に位置する第2区間のワイヤ2Rに分けた場合に、電流測定装置21は第1区間のワイヤ2Lと第2区間のワイヤ2Rの夫々に対して、少なくとも1つ設置すれば良く、設置数は第1区間と第2区間で異なっていても良い。
【0028】
図3(b)は各電流測定装置21の構造の一例を示すものである。ワイヤ2を流れる電流は電流センサ21Sによって測定され、電流測定装置21の内部には、トリガ信号発生装置22、受信装置23及び送信装置24があり、受信装置23と送信装置24にはアンテナ7が接続されている。
【0029】
トリガ信号発生装置22には、電流センサ21Sからの電流測定値IMが入力される。トリガ信号発生装置22には予め閾値Tが設定されており、電流測定値IMが閾値Tと比較される。トリガ信号発生装置22は、入力された電流測定値IMが閾値Tを越えるとトリガ信号TSを出力する。閾値Tは固定値ではなく、変更できるようにしても良い。なお、トリガ信号発生装置22は、入力された電流測定値IMが1回だけ閾値Tを越えるとトリガ信号TSを出力するのではなく、複数回閾値Tを越えた場合、或いは連続して電流測定値IMが閾値Tを越える状態が続いた場合にトリガ信号TSを出力するようにできる。また、電流センサ21SがH型コイルを使用する場合には、漏電時にワイヤを流れる電流によりH型コイルが生成した電力の大きさで、トリガ信号発生装置22にトリガ信号TSを出力させることができる。また、漏電時にワイヤを流れる電流がそれほど大きくない場合は、H型コイルが生成する電力も大きくないので、トリガ信号発生装置22に設けた図示を省略したコンデンサにH型コイルが生成した電力を蓄えておき、コンデンサに溜まった電力が所定量に達したら、トリガ信号発生装置22にトリガ信号TSを出力させることもできる。
【0030】
トリガ信号発生装置22から出力されたトリガ信号TSは、送信装置24に入力される。送信装置24にトリガ信号TSが入力されると、送信装置24は、アンテナ7を通じてトリガ信号TSと、電流センサ21Sによって測定された電流測定値IMを、電流の流れる向きと共に外部に送信する。各電流測定装置21には、固有番号が割り振られており、送信装置24は、トリガ信号TSと電流測定値IMを外部に送信する際に、電流測定装置21に割り振られた固有番号も合わせて送信する。なお、各電流測定装置21がトリガ信号TS、電流測定値IM及び固有番号を外部に送信する際には電力が必要であるが、各電流測定装置21における消費電力の削減については適宜行うことができるので、ここでは説明を省略する。
【0031】
一方、電流センサ21Sによって測定された電流測定値IMが閾値Tを越えていない電流測定装置21では、トリガ信号発生装置22がトリガ信号TSを発生しないので、送信装置24は動作をしない。そこで、少なくとも1つの電流測定装置21のトリガ信号発生装置22からトリガ信号TS、電流測定値IM及び固有番号が送信された場合は、トリガ信号TSを送信していない他の電流測定装置21からも電流測定値IM及び固有番号が送信されないと、ワイヤの漏電個所の特定が困難である。そこで、或る電流測定装置21からトリガ信号TSが送信された場合は、トリガ信号TSを送信していない他の電流測定装置21からも電流測定値IM及び固有番号を送信させる。
【0032】
この場合、トリガ信号TSを送信していない他の電流測定装置21の受信装置23にトリガ信号TSを受信させ、他の電流測定装置21から電流測定値IM及び固有番号を送信させることができる。また、トリガ信号TSを受信した管理装置25が、トリガ信号TSを送信していない他の電流測定装置21に電流測定値IM及び固有番号を送信させる指令を送信することにより、他の電流測定装置21に電流測定値IM及び固有番号を送信させることもできる。このように、複数ある電流測定装置21の中の少なくとも1つの電流測定装置21がトリガ信号TSを電流測定値IM及び固有番号と共に送信を送信すると、トリガ信号TSを送信していない他の電流測定装置21からも電流測定値IM及び固有番号が外部に送信され、これらは全て管理装置25で受信される。
【0033】
管理装置25は、全ての電流測定装置21から受信した電流測定値IMを比較し、比較結果から隣接する電流測定装置21の間のワイヤ2に流れる電流値を計算する。比較した2つの電流測定装置21を流れる電流が同じ向きの場合は、ワイヤ2に流れる電流値は比較した電流測定値IMの差である。一方、比較した2つの電流測定装置21を流れる電流が逆向きの場合は、ワイヤ2に流れる電流値は比較した電流測定値IMの和となる。電流測定装置21の位置は受信した固有番号により特定できるので、管理装置25はワイヤ2に流れる電流値が大きい個所を漏電個所と特定できる。管理装置25は、全ての電流測定装置21から電流測定値IMを受信した時に、漏電警報を出力するように構成することができる。また、管理装置25に表示器を設けておき、どの電流測定装置21の間のワイヤ2で漏電が発生しているかを表示するようにしても良い。更に、漏電が発生した場合、管理装置25はその表示器に各電流測定装置21からの電流測定値IM及び固有番号だけを表示し、漏電個所の特定は表示器を見た管理者が行うようにすることもできる。
【0034】
図4(a)は、図3(a)に示した電流測定装置21に使用される電流センサ21Sの一例の構造を示すものである。この例の電流センサ21Sでは、ケーブル2の周囲に磁性体コア41が配置され、ケーブル2が磁性体コア41を貫通している。磁性体コア41には巻線42が巻かれており、巻線42の両端部が抵抗43で接続されている。ケーブル2に交流電流が流れると磁束が発生し、磁性体コア41に電流が流れるので、抵抗43の両端に電圧が発生する。この電圧を測定することにより、ケーブル2に流れる交流電流値を測定することができる。
【0035】
図4(b)は図3(a)に示した電流測定装置21に使用される電流センサ21Sの他の例の構造を示すものである。この例の電流センサ21Sでは、ケーブル2の周囲に磁性体コア41が配置され、ケーブル2が磁性体コア41を貫通している。磁性体コア41の一部にはホール素子44が組み込まれており、ホール素子44は、ケーブル2を流れる電流の周りに発生する磁界をホール効果によって電圧に変換する。ホール素子44から出力される電圧は小さい(数十mV)ので、電源45とアンプ46で増幅することにより、ケーブル2に流れる電流(直流、交流、パルス電流)の値を測定することができる。
【0036】
更に、図示は省略するが、ケーブルの近傍にH型コイルを配置し、H型コイルに発生する誘導電流を用いた電流測定装置や、ケーブルに直接接続する回路を設ける電流測定装置もある。よって、電流測定装置は、ワイヤを流れる電流を測定できるものであれば、その形式にこだわるものではない。
【0037】
図5は、本発明の電気柵の監視装置20の第2の実施例の構造を示すものであり、電気柵10の構造は、図3(a)で説明した電気柵10の構造と同じである。第2の実施例では、領域Rの周囲に張り巡らされたワイヤ2の6か所に電流測定装置21が設けられている点が第1の実施例と異なる。即ち、第2の実施例では、電源装置3のワイヤ2への接続点4から電気的に最も離れた位置Pまでの左側に位置する第1区間のワイヤ2Lに3つの電流測定装置21が設けられており、右側に位置する第2区間のワイヤ2Rにも3つの電流測定装置21が設けられている。電気柵10は固定ではなく、囲う領域Rの変更によりワイヤ長が延長されたり、短縮されたりする。第2の実施例では第1の実施例に対して電流測定装置21の数を増やしているが、逆に減らすことも可能である。そして、ワイヤ2の長さが変更されれば、電源装置3のワイヤ2への接続点4から電気的に最も離れた位置Pの位置も変わる。電気柵10における位置P,第1区間、第2区間は、電気柵10の構造を説明するための便宜上のものである。
【0038】
図6は、本発明の電気柵の監視装置20の第3の実施例の構造を示すものである。第3の実施例では、電気柵10の構造が、図3(a)で説明した電気柵10の構造と異なる。第3の実施例では、電気柵10のポスト1の配置は第1の実施例と同じであるが、ワイヤ2が、電源装置3から電気的に最も離れた位置Pの左側に位置する第1区間のワイヤ2Lと、右側に位置する第2区間のワイヤ2Rの2つに分断されている。電源装置3の+端子31は2つに分岐され、オンオフスイッチ33Lを介して接続点4Lで第1区間のワイヤ2Lに接続され、オンオフスイッチ33Rを介して接続点4Rで第2区間のワイヤ2Rに接続されている。第1区間のワイヤ2Lと第2区間のワイヤ2Rは、電源装置3から電気的に最も離れた位置Pにおいて接続されていない。
【0039】
4つの電流測定装置21の配置は第1の実施例と同じであり、第1区間のワイヤ2Lに2つ、第2区間のワイヤ2Rに2つ配置されている。第3の実施例の電気柵の監視装置20では、電気柵10の一方のワイヤ2L又は2Rがオンオフスイッチ33L,33Rによって電源装置30と切り離されている場合、通電されていない方のワイヤに設置された電流測定装置21の警報発生装置22と送信器23の電源はオフされる。なお、ワイヤ2の分断は2つに限定されるものではなく、領域Rの周囲で3か所以上に分断しても良い。また、1つの電気柵10の中のワイヤ2を部分的に電源装置30と切り離す実施例の他に、隣接する電気柵10がある場合は、それぞれの電気柵10を独立に電源装置30から切り離す構造が可能である。
【0040】
ここで、電気柵の監視装置20に、電流測定装置21の他に電圧測定装置を組み込んだ実施例を説明する。電圧測定装置は、図7(a)に示すように、電圧測定装置27として各電流検出装置21の内部に設けても良く、また、図7(b)に示すように、単独の電圧測定装置27として電気柵10のワイヤ2に取り付けても良い。
【0041】
各電流測定装置21に電圧測定装置27を内蔵させる場合は、図7(a)に示すように、各電流測定装置21に電圧センサ27Sが接続されており、電圧センサ27Sが測定した電圧測定値VMが電流測定装置21に入力される。電流測定装置21に内蔵された電圧測定装置27は、受信装置23と送信装置24に接続している。また、電圧測定装置21には閾値RVが設定されており、電圧測定値VMが閾値TVを下回った場合には、電流測定値IMに関係なく、電圧測定装置21は送信装置24を通じて電圧測定値VMを外部に送信することができる。
【0042】
電圧測定装置27を電流測定装置21の電流検出動作に関連させる場合は、電圧測定装置27に、受信装置23が受信したトリガ信号TSが入力されるようにする。そして、受信装置23からトリガ信号TSが入力されたら、電圧測定装置27は送信装置24を通じて電圧測定値VMを外部に送信することができるようにすれば良い。こうすれば、管理装置25は各電流検出装置21からの電流測定値IMの受信時に、各電流検出装置21の位置におけるワイヤの測定電圧値VMも受信することができるので、漏電判定の精度が向上する。
【0043】
一方、単独の電圧測定装置27をワイヤ2に取り付ける場合は、図7(b)に示すように、受信装置28と送信装置29を電圧測定装置27に内蔵させる。受信装置28は、各電流測定装置21から発信されたトリガ信号TSを受信できるものであり、送信装置29は測定した電圧測定値VMを外部に送信できるものである。受信装置28を設ける理由は、電圧測定装置27は、電気柵10が正常状態の時は、ワイヤ2の電圧を測定する必要がないためである。電圧測定装置27がワイヤ2の電圧を測定するのは、電気柵10に漏電が生じてトリガ信号TSが何れかの電流測定装置21から発信され、これを受信装置28が受信した電気柵10の異常状態の場合のみで良い。
【0044】
図8は、本発明の電気柵の監視装置20の第4の実施例の構造を示す平面図である。第4の実施例では、ポスト1の配置により、領域Rの周囲に円弧状にワイヤ2が張り巡らされている。電源装置3は、電源接続用の1つのポスト1Aから引き出された延長ワイヤ2Eに接続点4で接続している。この実施例には5つの電流測定装置21A~21Eが設けられており、電流測定装置21Aは、延長ワイヤ2Eの接続点4とポスト1Aの間の部分に設けられている。また、電流測定装置21B,21Cは、ポスト1Aの両側に位置するワイヤ2に設けられており、電流測定装置21D,21Eは、円弧状のワイヤ2を略三等分する位置に設けられているが、電流測定装置21D,21Eのワイヤ2における位置は限定されるものではない。
【0045】
第4の実施例の電気柵の監視装置20では、電流測定装置21Aが検出した電流測定値により電気柵10の全体に流れる電流値を測定することができる。また、電流測定装置21B,21Cが検出した電流測定値により、漏電がポスト1Aに対して右方向か左方向かのどちらの方向に多く流れるかが分かる。更に、電流測定装置21D,21Eが検出した電流測定値により、漏電がどの電流測定装置21の間の部分のワイヤ2で発生しているのかが分かる。
【0046】
第4の実施例では、例えば、電気柵10の全体個所で漏電が発生している場合を考えるが、流れる電流値は電気柵10の構造によって異なるので、電流値の大きさはレベルと記載する。また、各電流測定装置21は、流れる電流の向きも測定できるものである。電流測定装置21Aに流れる電流をレベル27、電流測定装置21Bに矢印の向きに流れる電流をレベル17、電流測定装置21Cに矢印の向きに流れる電流をレベル10、電流測定装置21Dに矢印の向きに流れる電流をレベル8、電流測定装置21Eに矢印の向きに流れる電流をレベル4とする。この場合、電流測定装置21Bと電流測定装置21Dの間にはレベル9の漏れ電流があり、電流測定装置21Cと電流測定装置21Eの間にはレベル6の漏れ電流があることが分かる。一方、電流測定装置21Dと電流測定装置21Eに流れる電流の向きは逆なので、電流測定装置21Dと電流測定装置21Eの間には合計レベル12の漏れ電流があることになり、この区間の漏電が最も深刻であることが分かる。このように、各電流測定装置21A~21Eの電流検出値を比較することにより、漏電個所の特定、及び漏電が大きい場所の特定を行うことができる。
【0047】
図9は、本発明の電気柵の監視装置20の第5の実施例の構造を示す平面図である。第5の実施例では、電気柵10で守るべき3つの領域R1,R2,R3が隣接してあり、それぞれの領域R1,R2,R3の周囲に3つのループ状の電気柵10があるが、領域R1,R2,R3の隣接部分の電気柵10のワイヤ2は共用ワイヤ2Dとなっている。また、領域R1,R2,R3の周囲に3つのループ状の電気柵10には全て1つの電源装置3から電圧が印加されている。なお、本図には管理装置の図示は省略してある。
【0048】
電流測定装置21は、領域R1を囲む電気柵10には2つ設けられているが、領域R2と領域R3には共用ワイヤ2Dがあるために、共用ワイヤ2Dの部分には1つの電流測定装置21だけが設けられている。また、電源装置3から最も遠い部分のワイヤ2には電圧測定装置27が設けられている。このように、電気柵10で守るべき領域が隣接する場合は、隣接する部分のワイヤ2と電流測定装置は共通に使用することができる。なお、図9における符号9はドアを示しており、このドア9は、領域R1~R3を行き来する場合に開けられるものである。
【0049】
図10(a)は、本発明の電気柵の監視装置20の第6の実施例の構造を示す平面図である。これまでに説明した電気柵はループ状であったが、第6の実施例の電気柵は始端(電源装置3が接続される側)と終端(自由端)を備えるライン状をしている。電気柵がライン状の場合は、電流測定装置21は始端と終端の間に配置されたポスト1に張設されたワイヤ2に等間隔に近い間隔で設けることができる。この実施例では、複数の電流測定装置21の電流測定値に差がある場合、差の最も大きい電流測定装置21の間の区間が最大の漏電個所を示すことになる。
【0050】
図10(b)は、本発明の電気柵の監視装置20第7の実施例の構造を示す平面図である。第7の実施例の電気柵も始端と終端を備えるライン状をしているが、第6の実施例の電気柵との相違は、ワイヤ2が途中の分岐点2Dで分岐されて2つの終端を備える点である。ワイヤ2は、始端から分岐点2Dまでに設けられた基部ワイヤ2Bと、分岐点2Dの先に設けられた2つの分岐ワイヤ2Eとを備えている。この実施例では、電流測定装置21は、基部ワイヤ2Bの電源装置3の接続点4の近傍の分岐点2D側に1つ設けられ、2つの分岐ワイヤ2Eの分岐点2Dに近い部分にそれぞれ1つずつ設けられている。この構造では、分岐ワイヤ2Eに設けられた電流測定装置21の測定値の比較により、どちらの分岐ワイヤ2Eに漏電が発生したかを特定することができる。
【0051】
図10(c)は、本発明の電気柵の監視装置20の第8の実施例の構造を示す平面図である。第8の実施例の電気柵は第7の実施例と同様に、ライン状のワイヤ2が途中の分岐点2Dで分岐されて2つの終端を備える点である。ワイヤ2は、始端から分岐点2Dまでに設けられた基部ワイヤ2Bと、分岐点2Dの先に設けられた2つの分岐ワイヤ2Eとを備える点も同様である。第8の実施例が第7の実施例と相違する点は、電流測定装置21が、2つの分岐ワイヤ2Eのうちの一方にだけ分岐点2Dに近い部分にだけ設けられている点である。この構造では、基部ワイヤ2Bに設けられた電流測定装置21が電流を検出し、分岐ワイヤ2Eに設けられた電流測定装置21が電流を検出した場合に、分岐ワイヤ2Eに漏電が発生したかを特定することができる。
【0052】
ところで、電流測定装置21には何らかの電源が必要になる。一般にテスター等で電流を測定する場合は、9Vの電圧で30~40mAの電流が必要である。電流測定装置21にテスターと同様の電流が必要であるとすると、電流測定装置21を単三型の乾電池6本で常時稼働させた場合は、3,4日で電池が消耗し、電流計測ができなくなる。
【0053】
このため、電流測定装置21をバッテリで動作させる場合の電池寿命を延ばす方法としては、2通り考えられる。1つは、電流測定装置21の待機中の消費電力を下げる方法である。この方法では、H型コイルを用意し、ワイヤ2に沿わせる。コイルの先には逆流防止ダイオードを設け、コイル両端にはオペアンプを設ける。待機中にワイヤに漏電が発生すると、ワイヤに多くの電流がワイヤを流れ、誘導によってコイルに起電力が発生するので、これを一定時間、または一定回数、電流測定装置21内のトリガ信号発生装置に内蔵されたコンデンサに蓄え、蓄えた電力でオペアンプを介して電流測定回路を稼働させて電流測定を行わせる。更に、起電力発生回数をカウントして、カウント数が所定数に達したら、バッテリで電流測定回路を稼働させて電流測定を行わせることも可能である。この方法では、バッテリの消費電流が150μA以下に抑えることができる。もう1つの方法は、一定時間毎に電流センサを稼働させる方法である。この方法では、リアルタイムで電気柵の漏電を監視することはできないが、節電が可能になる。そして、電流測定回路は、閾値を上回る電流を所定回数以上検出した場合にトリガ信号を出力するようにすれば、省電力化が可能になる。
【0054】
ワイヤの電流値の測定結果には、(a)電流値が通常域を上回った場合、(b)全く発生していないところから電流値が測定できた場合、(c)電流値がある値から0になった場合がある。(a)の場合は、草等の接触により漏電がひどくなってきた場合であり、(b)、(c)の場合は意識的に電気柵の電源を切った場合と、事故等でワイヤが途中で切断された場合である。(b)、(c)の場合では、電源が意識的に切られた場合は、電流センサがこれを認識して、この状態が変化しない限り待機し、電流測定は行わない。逆に、電気柵の電源装置によりパルス電気の通電が開始されていた場合は、電気柵の監視モードに入れば良い。
【0055】
この(a)から(c)の動作で、電流センサの実稼働時間と、送信時間を少なくすることができ、効率的、かつ省電力のシステムが構築できる。また、電流測定時に必要なのは、電流波形の波高の最高値のみであるので、ピークホールド回路を設けて、必要以外の電流測定を行わないようにすることで、更に節電が可能となる。
【0056】
また、電気柵の監視装置に電圧センサを併用する理由は、電気柵の監視装置では、電気柵に電圧が印加されていないと電流センサは機能しないからである。そこで、電源装置から最も遠方にあるところ、ワイヤの終端付近に取り付ける電流センサには電圧センサも内蔵させれば、末端まで必要な電圧が印加されて電気柵が機能しているかをチェックできるようになる。
【0057】
以上説明したように、本発明の電気柵の監視装置は、比較的大規模な電気柵の維持管理にも利用できるが、同時に、地域に分散する小規模な電気柵の管理にも利用でき、経済的価値は大きい。
【符号の説明】
【0058】
1 ポスト
2 ワイヤ
3 電源装置
6 ワイヤ保持具
7 アンテナ
10 電気柵
20 監視装置
21 電流測定装置
21S 電流センサ
22 トリガ信号発生装置
23、28 受信装置
24、29 送信装置
25 管理装置
27 電圧測定装置
30 アース棒
33、33L、33R オンオフスイッチ
34 給電線
35 アース線
A 動物
TS トリガ信号
G 地面
R 領域(耕作地)
W 雑草
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10