(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】静電チャック、これを含む成膜装置、基板の保持及び分離方法、これを含む成膜方法、及びこれを用いる電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20220124BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20220124BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20220124BHJP
C23C 14/50 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
C23C14/24 J
C23C14/24 G
C23C14/50 A
(21)【出願番号】P 2018161613
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】10-2017-0180339
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593075418
【氏名又は名称】株式会社アオイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【氏名又は名称】川口 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 一史
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
(72)【発明者】
【氏名】細谷 映之
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-253352(JP,A)
【文献】特開2004-158610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0100573(US,A1)
【文献】特開2007-073568(JP,A)
【文献】特開2004-006707(JP,A)
【文献】特開2007-251083(JP,A)
【文献】特開2008-235900(JP,A)
【文献】特開平06-204325(JP,A)
【文献】特表2017-516294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
C23C 14/24
C23C 14/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向下面において基板を保持するための静電チャックであって、
それぞれが電極部を含む複数の基板保持部と、
前記電極部に基板を保持させるための第1電圧及び基板を分離させるための第2電圧を印加する電圧印加部と、
前記電圧印加部を制御する電圧制御部と
を含み、
前記電圧制御部は、前記複数の基板保持部が基板を保持した順番に基づいて前記第2電圧の印加を前記基板保持部毎に独立して行うように、前記電圧印加部を制御
し、
前記電圧制御部は、前記複数の基板保持部がそれぞれ基板を保持した順番に基づいて、前記複数の基板保持部それぞれに印加される前記第2電圧の大きさを制御する
静電チャック。
【請求項2】
前記電圧制御部は、前記第2電圧の印加開始時点を前記基板保持部毎に独立して制御する請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記電圧制御部は、前記第2電圧の印加開始時点が前記基板保持部毎に異なるように制御する請求項1又は2に記載の静電チャック。
【請求項4】
前記電圧制御部は、前記複数の基板保持部がそれぞれ基板を保持した順番に基づいて、前記複数の基板保持部それぞれへの前記第2電圧の印加開始時点を制御する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項5】
前記電圧制御部は、前記第2電圧が、前記複数の基板保持部に順番に印加されるように制御する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項6】
前記電圧制御部は、前記第2電圧の維持時間を前記基板保持部毎に独立して制御する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項7】
前記電圧制御部は、前記第2電圧の維持時間が前記基板保持部毎に異なるように制御する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項8】
前記電圧制御部は、前記複数の基板保持部がそれぞれ基板を保持した順番に基づいて、前記複数の基板保持部それぞれへの前記第2電圧の維持時間を制御する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項9】
前記電圧制御部は、前記第2電圧の大きさを前記基板保持部毎に独立して制御する請求項1乃至8のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項10】
前記電圧制御部は、前記第2電圧の大きさが前記基板保持部毎に異なるように制御する請求項1乃至9のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項11】
前記第2電圧は、接地電圧又は第1電圧と逆極性の電圧である請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項12】
前記電圧制御部は、前記第1電圧の印加を前記基板保持部毎に独立して制御する請求項1乃至
11のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項13】
前記電圧制御部は、前記第1電圧の印加開始時点を前記基板保持部毎に独立して制御する請求項1乃至
12のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項14】
前記複数の基板保持部が1つのプレートに形成される請求項1乃至
13のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項15】
マスクを介して基板上に蒸着材料を成膜するための成膜装置であって、
基板を保持するための請求項1乃至請求項
14のいずれか1項に記載の静電チャックと、
前記静電チャックの下方に設置され、マスクを載置するためのマスク台と、
前記マスク台の下方に前記静電チャックと対向するように設置され、蒸着材料を収納する蒸着源を設置するための蒸着源設置台と
を含む成膜装置。
【請求項16】
複数の基板保持部を有する静電チャックの鉛直方向下面に基板を保持及び分離するための基板の保持及び分離方法であって、
前記複数の基板保持部に第1電圧を印加して、基板を前記複数の基板保持部に保持させる段階と、
前記複数の基板保持部に第2電圧を印加して、基板を前記複数の基板保持部から分離させる段階とを含み、
前記分離させる段階において、前記複数の基板保持部が基板を保持した順番に基づいて、前記第2電圧を前記基板保持部毎に独立的に制御して印加
し、
前記分離させる段階において、前記複数の基板保持部が基板を保持した順番に基づいて、前記複数の基板保持部それぞれに印加される前記第2電圧の大きさを制御する
基板の保持及び分離方法。
【請求項17】
前記分離させる段階において、前記第2電圧の印加開始時点を前記基板保持部毎に独立的に制御して印加する請求項
16に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項18】
前記分離させる段階において、前記第2電圧の印加開始時点が前記基板保持部毎に異な
るように制御する請求項
16又は
17に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項19】
前記保持させる段階において前記複数の基板保持部がそれぞれ基板を保持した順番に基づいて、前記分離させる段階において、前記複数の基板保持部それぞれへの前記第2電圧の印加開始時点を制御する請求項
16乃至
18のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項20】
前記分離させる段階において、前記第2電圧が、前記複数の基板保持部に順番に印加されるように制御する請求項
16乃至
19のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項21】
前記分離させる段階において、前記第2電圧の維持時間を前記基板保持部毎に独立して制御する請求項
16乃至
20のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項22】
前記分離させる段階において、前記第2電圧の維持時間が前記基板保持部毎に異なるように制御する請求項
16乃至
21のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項23】
前記保持させる段階において前記複数の基板保持部がそれぞれ基板を保持した順番に基づいて、前記分離させる段階において、前記複数の基板保持部それぞれへの前記第2電圧の維持時間を制御する請求項
16乃至
22のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項24】
前記分離させる段階において、前記第2電圧の大きさを前記基板保持部毎に独立して制御する請求項
16乃至
23のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項25】
前記分離させる段階において、前記第2電圧の大きさが前記基板保持部毎に異なるように制御する請求項
16乃至
24のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項26】
前記第2電圧は、接地電圧又は、第1電圧と逆極性の電圧である請求項
16乃至
25のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項27】
前記保持させる段階において、前記第1電圧の印加を前記基板保持部毎に独立して制御する請求項
16乃至
26のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項28】
前記保持させる段階において、前記第1電圧の印加開始時点を前記基板保持部毎に独立して制御する請求項
16乃至
27のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法。
【請求項29】
マスクを介して基板に蒸着材料を成膜する成膜方法であって、
マスクをマスク台に載置する段階と、
基板を基板支持台に載置する段階と、
請求項
16乃至請求項
28のいずれか1項に記載の基板の保持及び分離方法によって静電チャックに基板を保持及び分離させる段階と、
蒸着源の蒸着材料をマスクを介して基板上に成膜する段階と
を含む成膜方法。
【請求項30】
電子デバイスの製造方法であって、
請求項
29に記載の成膜方法を用いて電子デバイスを製造する
電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜装置に関するものであり、特に、成膜装置で基板を保持するのに用いる静電チャック及び静電チャックへの基板の保持及び分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、フラットパネル表示装置として有機EL表示装置が脚光を浴びている。有機EL表示装置は自発光ディスプレイであり、応答速度、視野角、薄型化などの特性が液晶パネルディスプレイより優れており、モニタ、テレビ、スマートフォンに代表される各種携帯端末などで既存の液晶パネルディスプレイに対する代替が加速している。また、自動車用ディスプレイ等にも、その応用分野を広げている。
【0003】
有機EL表示装置の素子は2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に発光を起こす有機物層が形成された基本構造を持つ。有機EL表示装置素子の有機物層及び電極層は、成膜装置の真空チャンバーの下部に設けられた蒸着源を加熱することで蒸発された蒸着材料を画素パターンが形成されたマスクを介して真空チャンバー上部に置かれた基板(の下面)に蒸着させることで形成される。
【0004】
このような上向蒸着方式の成膜装置の真空チャンバー内において、基板は基板ホルダによって保持されるが、基板(の下面)に形成された有機物層/電極層に損傷を与えないように基板の下面の周縁を基板ホルダの支持部によって支持する。この場合、基板のサイズが大きくなるにつれて基板ホルダの支持部によって支持されない基板の中央部が、基板の自重によって撓み、蒸着精度を落とす要因となっている。
【0005】
基板の自重による撓みを低減するための方法として静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板ホルダの支持部の上部に静電チャックを設け、静電チャックを基板の上面に近接乃至接触させた状態で静電チャックに吸着電圧を印加し、基板の表面に反対極性の電荷を誘導することで、基板の中央部が静電チャックの静電引力によって引っ張られるようになり、基板の撓みを低減することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の基板ホルダの支持部上に置かれた基板は自重によって基板の中央部が撓み、基板の周縁部が基板の中央部より静電チャックに近い形状で支持される。この場合、平板形状の静電チャックを基板に近接又は接触させた後、静電チャック全体に吸着電圧を印加すると、基板ホルダの支持部によって支持された基板の周縁部がほぼ同時に静電チャックから静電引力を受けて静電チャックに吸着され、基板の中央部は一番遅く静電引力を受けるようになる。
【0007】
すなわち、基板の静電チャックへの吸着が基板の周縁部から基板の中央部に向かって進むので、基板が平らに静電チャックに吸着されるのではなく、基板の中央部に基板と静電チャックとの隙間が残のり、基板にしわができた状態で吸着される。
【0008】
なお、静電チャックに吸着電圧を印加して、基板を静電チャックに吸着した後、静電チャックから基板を分離するため、静電チャックに分離電圧を印加しても、基板吸着時に加えた吸着電圧により基板に誘導された電荷が放電するまでに時間がかかるので、静電チャックに分離電圧を印加した時点から、実際に基板が静電チャックから分離される時点まで
は相当な時間がかかる。これは工程時間(Tact)を増加させて生産性を低下させる。
【0009】
しかも、静電チャック全体に分離電圧を加えたとき、基板が分離され始める位置が安定せず、分離後に基板ホルダの支持部上に基板が置かれる姿勢や位置などが一様にならなくなり、分離工程以降の基板ハンドリングに影響を及ぼす。
【0010】
本発明は、基板が平らに静電チャックに吸着され、基板の静電チャックからの分離が一様になれる静電チャック及び静電チャックへの基板の保持及び分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様による静電チャックは、それぞれが電極部を含む複数の基板保持部と、前記電極部に基板を保持させるための第1電圧及び基板を分離させるための第2電圧を印加する電圧印加部と、前記電圧印加部を制御する電圧制御部とを含み、前記電圧制御部は、前記複数の基板保持部が基板を保持した順番に基づいて前記第2電圧の印加を前記基板保持部毎に独立して行うように、前記電圧印加部を制御し、前記電圧制御部は、前記複数の基板保持部がそれぞれ基板を保持した順番に基づいて、前記複数の基板保持部それぞれに印加される前記第2電圧の大きさを制御する。
【0012】
本発明の第2態様による静電チャックは、複数の基板保持部と、前記複数の基板保持部
への基板の保持及び前記複数の基板保持部に保持された基板の分離を制御する制御部とを含み、前記制御部は、前記複数の基板保持部が基板を保持した順番に基づいて、基板の分離の順番を前記基板保持部毎に独立して制御する。
【0013】
本発明の第3態様による成膜装置は、基板を保持するための本発明の第1態様又は第2態様による静電チャックと、前記静電チャックの下方に設置され、マスクを載置するためのマスク台と、前記マスク台の下方に前記静電チャックと対向するように設置され、蒸着材料を収納する蒸着源を設置するための蒸着源設置台とを含む。
【0014】
本発明の第4態様による基板の保持及び分離方法は、複数の基板保持部に第1電圧を印加して、基板を前記複数の基板保持部に保持させる段階と、前記複数の基板保持部に第2電圧を印加して、基板を前記複数の基板保持部から分離させる段階とを含み、前記分離させる段階において、前記複数の基板保持部が基板を保持した順番に基づいて、前記第2電圧を前記基板保持部毎に独立的に制御して印加し、前記分離させる段階において、前記複数の基板保持部が基板を保持した順番に基づいて、前記複数の基板保持部それぞれに印加される前記第2電圧の大きさを制御する。
【0015】
本発明の第5態様による基板の保持及び分離方法は、複数の基板保持部に第1電圧を印加して、基板を前記複数の基板保持部に保持させる段階と、前記複数の基板保持部に第2電圧を印加して、基板を前記複数の基板保持部から分離させる段階とを含み、前記分離させる段階において、前記複数の基板保持部が基板を保持した順番に基づいて、基板の分離の順番を前記基板保持部毎に独立して制御する。
【0016】
本発明の第6態様による成膜方法は、マスクをマスク台に載置する段階と、基板を基板支持台に載置する段階と、本発明の第4態様又は第5態様による基板の保持及び分離方法によって静電チャックに基板を保持及び分離させる段階と、蒸着源の蒸着材料をマスクを介して基板上に成膜する段階とを含む。
【0017】
本発明の第7態様による電子デバイスの製造方法は、本発明の第6態様による成膜方法を用いて電子デバイスを製造する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、静電チャックが複数の基板保持部を持ち、基板の保持及び分離の際に、静電チャックの基板保持部毎に電圧を独立的に制御することで、基板の静電チャックへの保持及び分離が基板保持部毎に行われるようにする。これにより、基板を静電チャックに平らに保持できるだけでなく、基板を静電チャックから分離する時も、分離開始位置が
安定するようになる。その結果、基板が静電チャックから分離されて基板支持部に置かれる姿勢及び位置を一様にして、基板の分離後のハンドリングへの影響が低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、有機EL表示装置の製造ラインの一部の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の静電チャックの平面構造を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の静電チャックへの基板の保持及び分離方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の成膜方法を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、有機EL表示装置の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
本発明は、基板の表面に真空蒸着によってパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好適に適用することができる。基板の材料としては、硝子、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選択することができ、また、蒸着材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機EL表示装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、有機EL表示装置の製造装置においては、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機EL表示素子を形成しているので、本発明の好適な適用例の一つである。
【0022】
<電子デバイス製造ライン>
【0023】
図1は、電子デバイスの製造ラインの構成の一部を模式的に示す上面図である。
図1の製造ラインは、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば約1800mm×約1500mmのサイズの基板に有機ELの成膜を行った後、該基板をダイシングして複数の小サイズのパネルに作製される。
【0024】
電子デバイスの製造ラインは、一般に、
図1に示すように、複数の成膜室11、12と、搬送室13とを有する。搬送室13内には、基板10を保持し搬送する搬送ロボット14が設けられている。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板を保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットであり、各成膜室への基板10の搬入/搬出を行う。
【0025】
各成膜室11、12にはそれぞれ成膜装置(蒸着装置とも称する)が設けられている。搬送ロボット14との基板10の受け渡し、基板10とマスクの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板10の固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置によって自動で行われる。
【0026】
以下、成膜室の成膜装置の構成について説明する。
【0027】
<成膜装置>
【0028】
図2は成膜装置2の構成を概略的に示す断面図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板10が水平面(XY平面)と平行に固定されると想定したときに、基板10の短辺に平行な方向をX方向、長辺に平行な方向をY方向とする。またZ軸周りの回転角をθで示す。
【0029】
成膜装置2は、成膜工程が行われる空間を定義する真空チャンバー20を具備する。真空チャンバー20の内部は真空雰囲気、或いは、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で維持される。
【0030】
成膜装置2の真空チャンバー20内の上部には、基板を支持する基板支持台21、マスクが置かれるマスク台22、基板を静電引力によって保持する静電チャック23、金属製のマスクに磁力を印加するためのマグネット24などが設けられ、成膜装置の真空チャンバー20内の下部には、蒸着材料が収納される蒸着源25などが設けられる。
【0031】
基板支持台21には、搬送室13の搬送ロボット14によって真空チャンバー20内に搬入された基板10が載置される。基板支持台21は、真空チャンバー20に固定されるように設けられてもよいし、鉛直方向に昇降可能に設けられてもよい。基板支持台21は基板の下面の周縁部を支持する支持部211,212を含む。
【0032】
基板支持台21の下には、フレーム状のマスク台22が設置され、マスク台22には、基板10上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有するマスク221が置かれる。特に、スマホ用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(FineMetalMask)とも称する。
【0033】
基板支持台21の支持部211、212の上方には、基板を静電引力によって保持し、固定させるための静電チャック23が設けられる。静電チャック23は、例えば、誘電体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電圧が印加されると、誘電体マトリックスを通じて基板に金属電極と反対極性の分極電荷が誘導され、これら間の静電引力によって基板が静電チャック23に保持・固定される。静電チャック23は一つのプレートで形成されることもでき、複数のサブプレートを持つように形成されることもできる。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に電気回路を複数含み、一つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御することができる。
【0034】
本発明において、静電チャック23は、
図3を参照して後述するように複数の基板保持部を含み、基板の保持及び分離を基板保持部毎に独立的に行うことができる。
【0035】
静電チャック23の上部には、金属製のマスク221に磁気力を印加してマスクの撓みを防止し、マスク221と基板10とを密着させるためのマグネット24が設けられる。マグネット24は永久磁石又は、電磁石からなることができ、複数のモジュールに区画されることができる。
【0036】
図2には図示されていないが、静電チャック23とマグネット24との間には、基板を冷却するための冷却板が設けられる。冷却板は静電チャック23又は、マグネット24と一体に形成されてもよい。
【0037】
蒸着源25は、基板に成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸着源からの蒸発レートが一定になるまで蒸着材料が基
板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。蒸着源25は、点(point)蒸着源、線形(linear)蒸着源、リボルバ蒸着源など用途によって多様な構成を持つことができる。
【0038】
図2には図示されていないが、成膜装置2は基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含む。
【0039】
成膜装置2の真空チャンバー20の外部上面には、基板支持台21、静電チャック23、マグネット24などを鉛直方向(Z方向)に移動させるための駆動機構、及び基板とマスクとのアラインメントのために水平面に平行に(X方向、Y方向、θ方向に)静電チャック23及び/又は基板支持台21などを移動させるための駆動機構などが設けられる。
また、マスクと基板とのアラインメントのために、真空チャンバー20の天井に設けられた窓を通じて、基板及びマスクに形成されたアラインメントマークを撮影するアラインメント用カメラ(不図示)も設けられる。
【0040】
成膜装置は制御部26を具備する。制御部26は、基板10の搬送及びアライメント、蒸着源の制御、成膜の制御などの機能を有する。制御部26は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成可能である。この場合、制御部26の機能はメモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては汎用のパーソナルコンピュータを使用しても、組込み型のコンピュータまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。または、制御部26の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部26が設置されていてもよいし、一つの制御部26が複数の成膜装置を制御するものとしてもよい。
【0041】
<静電チャックの構造及び基板の保持及び分離方法>
【0042】
以下、
図3および
図4を参照して、本発明の静電チャック23の構造及び静電チャック23への基板の保持及び分離方法について説明する。
【0043】
本発明の静電チャック23は、
図3(a)に示すように、誘電体部30、電極部31、電圧制御部32、電圧印加部33を含む。電圧印加部33は、静電チャック23の電極部31にプラス(+)電圧及びマイナス(-)電圧を印加する。電圧制御部32は、成膜装置2の成膜工程の進行に応じて、電圧印加部33から電極部31に加えられる電圧の大きさ、印加開始時点、維持時間などを制御する。本実施形態においては、電圧制御部32が成膜装置2の制御部26と別途に設けられるが、成膜装置2の制御部26に統合されてもよい。この場合、静電チャック23の電圧制御は、成膜装置2の制御部26によって行われる。
【0044】
電極部31は、複数のサブ電極部を含むことができる。例えば、本発明の電極部31は、
図3(a)に示すように、二つのサブ電極部、即ち、第1サブ電極部311及び第2サブ電極部312を含むが、これに限らず、三つ以上のサブ電極部を有することもできる。
【0045】
本発明の静電チャック23は、複数のサブ電極部に対応する複数の基板保持部を含む。例えば、本発明の静電チャック23は、
図3(b)に示すように、2つのサブ電極部311、312に対応する2つの基板保持部231、232を含むことができるが、これに限らず、基板の保持及び分離をより精密に制御するため、これより多い基板保持部を含むこともできる。例えば、サブ電極部の数に応じて、3つ以上の基板保持部を含むこともできる。
【0046】
基板保持部は、基板の長辺方向(Y軸方向、第1方向)に細長い形状を持ち、基板の短辺方向(X軸方向、第2方向)に分離されるが、これに限定されず、基板の長辺方向にも分離されてもよい。複数の基板保持部は、物理的に一つであるプレートが複数のサブ電極部を含むことで具現してもよく、物理的に分離された複数のサブプレートのそれぞれが一つまたはそれ以上のサブ電極部を含むことで具現してもよい。複数の基板保持部のそれぞれに独立的に基板保持や分離のための電圧が印加されることができる限り、その物理的な構造及び電気回路的な構造が異なるようにすることができる。
【0047】
以下、
図4を参照して、本発明の静電チャック23への基板の保持及び分離のための電圧制御について説明する。
【0048】
図4(a)は基板を静電チャック23に保持する工程での電圧制御を示す。本発明の電圧制御部32は、基板の保持する工程で、複数の基板保持部中、基板のある一つの長辺(第1辺)側に配置された第1基板保持部231から、基板の他の長辺(第2辺)側に配置された第2基板保持部232に向かって、順番に(
図3(b)の矢印参照)基板を保持するための第1電圧(保持電圧)が印加されるように制御する。つまり、
図4(a)に示すように、第1基板保持部231に先に第1電圧が印加され、次いで、第2基板保持部232に第1電圧が印加される。第1電圧は、基板を静電チャック23によって保持するのに十分な保持力を提供できる大きさに設定される。
【0049】
第1基板保持部231に第1電圧(V1)が印加されると、静電チャック23の第1基板保持部231に対応する基板上面に第1基板保持部231の電荷と反対の極性の分極電荷が誘導される。これにより、基板の第1辺側の周縁部から基板の中央部が第1基板保持部231に吸着されて保持される。これによって、基板の中央部の撓みは、基板の中央部から基板の第2辺側に向かって移動する。
【0050】
そして、第2基板保持部232に第1電圧(V2)が印加されると、静電チャック23の第2基板保持部232に対応する基板上面に第2基板保持部232の電荷と反対の極性の分極電荷が誘導される。これにより、基板の中央部から基板の第2辺側の周縁部が、第2基板保持部232に吸着されて保持される。これによって、基板の中央部と基板の第2辺側の周縁部との間に移動された撓みは、基板の第2辺側の周縁部に向かって移動しながら、伸びるようになり、基板は静電チャック23に平らに吸着されて保持される。
【0051】
このように、本発明の静電チャック23によると、基板保持部毎に基板の保持を独立的に制御できるので、基板中央部の撓みを効果的に基板の第2辺側の周縁部側に伸ばせることができるようになる。従来においては、静電チャック23全体にわたって吸着電圧が同時に印加されるため、基板の第1辺側及び第2辺側の周縁部が静電チャック23にほぼ同時に吸着され、基板の中央部が最も遅れて吸着された。これに比べて、本発明においては、複数の基板保持部に対応する基板の上面部が順番に(例えば、3つの基板保持部が第1辺側周縁部、中央部、第2辺側周縁部に対応するように設置される場合、基板の第1辺側周縁部、中央部、第2辺側周縁部の順番に)静電チャック23に吸着されて保持されるため、基板中央部の撓みを第2辺側の周縁部側に伸ばせることができるようになり、基板中央部にしわが残る問題を解決することができる。
【0052】
以下では、基板を静電チャック23から分離する工程における電圧制御について説明する。
【0053】
本発明の電圧制御部32は、基板を静電チャック23から分離する場合においても、静電チャックの基板保持部毎に独立的に電圧を制御する。例えば、電圧制御部32は、分離
電圧である第2電圧の印加開始時点、大きさ、第2電圧の維持時間などを基板保持部毎に異なるように制御することができる。第2電圧(V2)は、ゼロ(0)電圧(つまり、接地電圧)又は、第1電圧(V1)の逆極性の電圧であることができる。
【0054】
本発明の電圧制御部32は、
図4(b)に示すように、第1基板保持部231に先に第2電圧(V2)を印加し、次いで、第2基板保持部232に第2電圧(V2)を印加するように制御する。つまり、基板の保持工程においての保持の順番に、複数の基板保持部に分離電圧である第2電圧を印加する。
【0055】
これは、先に第1電圧が印加された第1基板保持部に対応する基板の上面部が後に第1電圧が印加された第2基板保持部に対応する基板の上面部に比べて、より多くの分極電荷が誘導され、これによって、分極電荷の放電にも時間が相対的に長くかかるためである。また、第1基板保持部231側に先に第2電圧を印加することにより、基板が第1基板保持部231側から先に分離されるようになり、静電チャック23からの基板の分離の位置及び姿勢を一様にすることができる。
【0056】
また、
図4(c)に示すように、第2電圧として第1電圧と逆極性の電圧を加える際、第1基板保持部231に印加される第2電圧の大きさを第2基板保持部232に印加される第2電圧の大きさより大きくすることができる。これを通じて、分極電荷を第1基板保持部231に対応する基板の上面部からさらに早く放電させることができる。また、基板が確実に第1基板保持部231から先に分離されるようにすることができる。
【0057】
また、
図4(d)や4(e)に示すように、第1基板保持部231への第2電圧の維持
時間を第2基板保持部231への第2電圧の維持時間より長くすることができる。
【0058】
この他にも、基板が第2基板保持部232より第1基板保持部231から先に分離できるよう、第2電圧の印加開始時点、大きさ及び維持時間を多様な組み合わせで制御することが可能である。例えば、第2基板保持部232より第1基板保持部231にさらに大きい逆極性の第2電圧を先に、そしてより長く印加してもよいし、第1基板保持部231に第2基板保持部232より小さい逆極性の第2電圧を加えるが、印加開始時点を十分に早くすることで、基板が第1基板保持部231から先に分離するように制御することもできる。
【0059】
本実施形態では、保持電圧である第1電圧を印加した後に、分離電圧である第2電圧を印加するものと説明したが、第1電圧を印加した後、第2電圧を印加する前に、第3電圧を印加してもよい。この際、第3電圧は第1電圧より小さい大きさの電圧であることが望ましい。これによって、静電チャック23の電極部31に第2電圧を印加した後から、実際に基板が静電チャック23から分離されるまでにかかる全体的な時間を短縮させることができる。
【0060】
本実施形態においては、静電チャック23の複数の基板保持部に保持電圧(第1電圧)を印加する順番と分離電圧(第2電圧)を印加する順番とを同じ順番にすることを前提として説明したが、本発明はこれに限らず、複数の基板保持部に印加される電圧(第1電圧及び/又は第2電圧)を独立的に制御できる限り、その印加の順番を変えることもできる。例え
ば、静電チャック23の複数の基板保持部に第1電圧を印加する順番と反対の順番に、第2電圧を印加してもよい。
【0061】
<成膜プロセス>
【0062】
以下、本発明の静電チャック電圧制御を採用した成膜方法について
図5を参照して説明
する。
【0063】
真空チャンバー20内のマスク台22にマスク221が置かれた状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって成膜装置2の真空チャンバー20内に基板が搬入される(
図5(a))。
【0064】
真空チャンバー20内に進入した搬送ロボット14のハンドが降下し、基板10を基板支持台21の支持部211、212上に載置する(
図5(b))。
【0065】
次に、静電チャック23が基板10に向かって降下し、基板10に十分近接、或いは、接触した後に、静電チャック23に第1電圧(V1)を印加し、基板10を保持する(
図5(c))。この時、本発明においては、静電チャック23の複数の基板保持部に同時に第1電圧(V1)を印加するのではなく、基板保持部毎に独立的に第1電圧(V1)を印加する。例えば、基板の第1辺側の周縁部に対応する第1基板保持部231から基板の第2辺側の周縁部に対応する第2基板保持部232に向かって順番に第1電圧(V1)を印加する。
【0066】
静電チャック23に基板10が保持された状態で、基板のマスクに対する相対的な位置ずれを計測するため、基板10をマスク221に向かって下降させる(
図5(d))。
【0067】
基板10が計測位置まで下降すると、アライメント用カメラで基板10とマスク221に形成されたアライメントマークを撮影して、基板とマスクの相対的な位置ずれを計測する(
図5(e)参照)。
【0068】
計測の結果、基板のマスクに対する相対的位置ずれが閾値を超えると判明すると、静電チャック23に保持された状態の基板10を水平方向(XYθ方向)に移動させて、基板をマスクに対して、位置調整(アライメント)する(
図5(f)参照)。
【0069】
このようなアラインメント工程後、静電チャック23に保持された基板10をマスク221上に載置し、マグネット24を降下させて、マグネット24のマスクに対する磁力によって基板とマスクとを密着させる(
図5(g))。
【0070】
次に、蒸着源25のシャッタを開け、蒸着材料をマスクを介して基板10に蒸着させる(
図5(h))。
【0071】
基板上に所望の厚さの膜が成膜すると、蒸着源25のシャッターを閉じ、成膜工程を終了する。
【0072】
成膜工程が終了すると、マグネット24が上昇して、マスクと基板の密着が解除される(
図5(i))。
【0073】
次に、静電チャック23と基板支持台21の上昇により、基板がマスクから分離されて上昇する(
図5(j))。
【0074】
次に、搬送ロボットのハンドが成膜装置の真空チャンバー内に進入し、静電チャック23には分離電圧である第2電圧が印加され、静電チャック23の吸着力が十分に弱まった以降に、静電チャック23を基板から分離させて上昇させる(
図5(k))。本発明においては、静電チャック23から基板を分離するため、第2電圧を印加することにおいて、静電チャック23の複数の基板保持部毎に独立的に第2電圧の大きさ、印加開始時点、維持期間などを制御して、基板が静電チャックから分離される位置及び姿勢などを一様にす
る。
【0075】
この後、蒸着が完了した基板を真空チャンバー20から搬出する。
【0076】
本実施形態においては、基板の静電チャック23からの分離工程が、基板とマスクの密着が解除されて基板がマスクから分離された以後に行われるものと説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、位置調整された基板がマスク上に載置されてマグネット24が下降して基板とマスクが互いに密着した段階以降であり、成膜工程が開始される前に静電チャック23に分離電圧である第2電圧を印加してもよい。これは基板はマスク上に載置された状態であり、マグネット24による磁力によって基板とマスクが密着した状態に維持されるためである。
【0077】
<電子デバイスの製造方法>
【0078】
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0079】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図6(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図6(b)は1画素の断面構造を示す。
【0080】
図6(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指す。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組み合わせにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0081】
図6(b)は、
図6(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0082】
図6(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、第1電極64と正孔輸送層65との間には第1電極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極68と電子輸送層67の間に
も電子注入層が形成されてもよい。
【0083】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0084】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板63を準備する。
【0085】
第1電極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0086】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、基板支持台及び静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0087】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、基板支持台及び静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0088】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0089】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極68を成膜する。
【0090】
本発明によれば、静電チャック23が複数の基板保持部を含み、これらに印加される保持電圧(第1電圧)および分離電圧(第2電圧)を基板保持部毎に独立して制御することで、基板をより平らに静電チャックに吸着することができ、基板が静電チャックから分離される位置や姿勢を一様にすることができる。
【0091】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0092】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。したがって、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0093】
上記実施例は本発明の一例を示し、本発明は上記実施例の構成に限定されず、また、その技術思想の範囲内で適切に変形されてよい。
【符号の説明】
【0094】
21:基板支持台
22:マスク台
23:静電チャック
24:マグネット
31:電極部
32:電圧制御部
33:電圧印加部
211:第1支持部材
212:第2支持部材
231:第1基板保持部
232:第2基板保持部