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特許7013015標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物、およびその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物、およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220207BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220207BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220207BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220207BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220207BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20220207BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20220207BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220207BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220207BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220207BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01K67/027
C12N9/16 Z
C07K19/00
A61K48/00
A61P3/10
A61P25/00
A61P35/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018041322
(22)【出願日】2018-03-07
(65)【公開番号】P2019154244
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的がん医療実用化研究事業に伴う「癌関連遺伝子の発現を多重制御するエピゲノム編集ベクターの開発と応用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
(72)【発明者】
【氏名】國井 厚志
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0057810(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0233762(US,A1)
【文献】医学のあゆみ,2015年,vol.254, no.8, p.527-533
【文献】Nature,2015年,vol.517, p.583-588
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)標的遺伝子に、第1の領域で特異的に結合するガイドRNAをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(B)ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(C)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(D)上記第1のエフェクタータンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、を含
上記第1のエフェクタータンパク質が、転写活性化因子であり、
上記第1のエフェクタータンパク質が、抗体を備え、当該抗体が、scFvであり、
上記タグとなるペプチドが、当該抗体と結合するための、抗原を4個以上備える、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項2】
(A’)標的遺伝子に第1の領域で特異的に結合するガイドRNA、
(B’)ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質、
(C’)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体、および
(D’)複数の上記第1のエフェクタータンパク質、を含
上記第1のエフェクタータンパク質が、転写活性化因子であり、
上記第1のエフェクタータンパク質が、抗体を備え、当該抗体が、scFvであり、
上記タグとなるペプチドが、当該抗体と結合するための、抗原を4個以上備える、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項3】
上記ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質が、第2のエフェクタータンパク質と融合している、請求項1または2に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項4】
上記ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質がdCas9である、請求項1~3のいずれか1項に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項5】
上記dCas9が、下記(a1)~(a3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる、請求項4に記載の標的遺伝子の発現を増強するための組成物:
(a1)配列番号1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(a2)配列番号1で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNA、上記(C)の融合体、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(a3)配列番号1で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNA、上記(C)の融合体、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【請求項6】
上記ガイドRNAの第2の領域が、ステムループ構造を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項7】
上記ガイドRNAの第2の領域が、下記(b1)~(b3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる、請求項6に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物:
(b1)配列番号2で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b2)配列番号2で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから転写したRNAが、上記(C)の融合体に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(b3)配列番号2で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから転写したRNAが、上記(C)の融合体に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【請求項8】
上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質が、MS2コートタンパク質である、請求項1~7のいずれか1項に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項9】
上記MS2コートタンパク質が、下記(c1)~(c3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる、請求項8に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物:
(c1)配列番号3で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(c2)配列番号3で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNAの第2の領域に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(c3)配列番号3で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNAの第2の領域に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【請求項10】
上記タグとなるペプチドが備える抗原または抗体同士の間にリンカーを有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項11】
上記リンカーが、5~60個のアミノ酸残基である、請求項10に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項12】
上記第2のエフェクタータンパク質がVP64である、請求項3に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【請求項13】
(A)標的遺伝子に、第1の領域で特異的に結合するガイドRNAをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(B)ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(C)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(D)上記第1のエフェクタータンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、を備え、
上記第1のエフェクタータンパク質が、転写活性化因子であり、
上記第1のエフェクタータンパク質が、抗体を備え、当該抗体が、scFvであり、
上記タグとなるペプチドが、当該抗体と結合するための、抗原を4個以上備える、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するためのキット。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物、請求項13に記載のキットが備える前記(A)~(D)に記載のポリヌクレオチド、または、請求項13に記載のキットが備える前記(A)~(D)に記載の発現ベクターを、インビトロで細胞へ導入する工程を含む、標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した細胞の製造方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物、請求項13に記載のキットが備える前記(A)~(D)に記載のポリヌクレオチド、または、請求項13に記載のキットが備える前記(A)~(D)に記載の発現ベクターを、哺乳動物(ただしヒトを除く)へ導入する工程を含む、標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した哺乳動物(ただしヒトを除く)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物およびキット、ならびに標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した細胞または哺乳動物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積させて、標的遺伝子の活性等を改変/修飾する技術が知られている。
【0003】
例えば、遺伝子発現活性化技術の分野では、ゲノム編集に利用されるCas9のヌクレアーゼ活性を不活性化させたdCas9タンパク質に転写活性化因子を融合させて、部位特異的に転写活性化因子を作用させることで、標的遺伝子の発現を活性化するシステムが開発されている。
【0004】
上述した第1世代の人工遺伝子発現増強システムでは、1つの標的箇所に対して一分子の転写活性化因子のみしか作用されず、十分な遺伝子発現増強効果がないことが多いという問題があった。これに対して、1つの標的箇所に複数の転写活性化因子を作用させられる第2世代の人工遺伝子発現増強システムが開発されている(図1の(a)を参照)。
【0005】
例えば、非特許文献1はSAM(Synergistic Activation Mediator)システム(以下、単にSAMと称する)を報告している。SAMでは、sgRNAのループ部分に、MS2コートタンパク質が認識するモチーフを付加することで、MS2コートタンパク質と融合した転写活性化因子を標的箇所に呼び込む。その結果、標的箇所に呼び込まれた転写活性化因子と、dCas9に直接融合させた転写活性化因子との相乗効果により、第1世代の人工遺伝子発現増強システムと比較して遺伝子発現増強効果が高くなっている(図1の(b)を参照)。
【0006】
非特許文献2は、SunTagシステム(以下、単にSunTagと称する)を報告している。SunTagでは、dCas9にSunTagと称される抗原を複数融合することで、当該抗原を認識する抗体scFvと融合した転写活性化因子を標的箇所に集積させる。その結果、第1世代の人工遺伝子発現増強システムと比較して遺伝子発現増強効果が高くなっている。
【0007】
非特許文献3は、SAMとSunTagとを比較すると、SAMが比較的優位であるものの、顕著な差は存在しなかったことを報告している。また、SAMとSunTagとを組み合わせても、それぞれ単独の場合の効果以上のより強い遺伝子発現増強効果はみられていない。
【0008】
上述した遺伝子発現活性化技術の他にも、転写活性化因子の代わりに他のエフェクタータンパク質を用いることにより、目的に応じて、標的遺伝子の発現等を改変/修飾する技術が開発されている。
【0009】
例えば、非特許文献4は、エフェクタータンパク質としてGFPを用いて、特定の染色体領域を効率的にラベリングするシステムを報告している。
【0010】
非特許文献5は、エフェクタータンパク質としてTET1を用いて、DNAの脱メチル化の効率を高めるシステムを報告している。
【0011】
非特許文献6は、エフェクタータンパク質としてデアミナーゼを用いて、塩基置換の効率を高めるシステムを報告している。
【0012】
非特許文献7は、エフェクタータンパク質としてp300cdを用いて、ヒストンのアセチル化の効率を高めるシステムを報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Konermann S et al. (2015) "Genome-scale transcriptional activation by an engineered CRISPR-Cas9 complex", Nature, 517, pp.583-588
【文献】Tanenbaum ME et al. (2014) "A protein-tagging system for signal amplification in gene expression and fluorescence imaging", Cell, 159, pp.635-646
【文献】Chavez A et al. (2016) "Comparison of Cas9 activators in multiple species", Nat Methods, 13, pp.563-567
【文献】Fu Y et al. (2016) "CRISPR-dCas9 and sgRNA scaffolds enable dual-colour live imaging of satellite sequences and repeat-enriched individual loci", Nat Commun, 7, pp.11707
【文献】Morita S et al. (2016) "Targeted DNA demethylation in vivo using dCas9-peptide repeat and scFv-TET1 catalytic domain fusions", Nat Biotechnol,34, pp.1060-1065
【文献】Hess GT et al. (2016) "Directed evolution using dCas9-targeted somatic hypermutation in mammalian cells", Nat Methods, 13, pp.1036-1042
【文献】Liu P et al. (2018) "CRISPR-Based Chromatin Remodeling of the Endogenous Oct4 or Sox2 Locus Enables Reprogramming to Pluripotency", Cell Stem Cell, in press
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来のシステムでは、標的遺伝子へのエフェクタータンパク質の集積が十分ではなく、さらなる次世代システムの開発が望まれている。
【0015】
本発明の一態様は、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する効果が高い標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質に、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドを融合した融合体を用いることにより、第2世代のシステムよりも標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する効果の高い第3世代のシステムを構築することに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の一実施形態は以下の構成を包含する。
【0017】
<1>(A)標的遺伝子に、第1の領域で特異的に結合するガイドRNAをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(B)Casタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(C)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(D)上記第1のエフェクタータンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、を含む、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0018】
<2>(A’)標的遺伝子に第1の領域で特異的に結合するガイドRNA、
(B’)Casタンパク質、
(C’)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体、および
(D’)複数の上記第1のエフェクタータンパク質、
を含む、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0019】
<3>上記Casタンパク質が、第2のエフェクタータンパク質と融合している、<1>または<2>に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0020】
<4>上記Casタンパク質がdCas9である、<1>~<3>のいずれかに記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0021】
<5>上記dCas9が、下記(a1)~(a3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる、<4>に記載の標的遺伝子の発現を増強するための組成物:
(a1)配列番号1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(a2)配列番号1で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNA、上記(C)の融合体、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(a3)配列番号1で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNA、上記(C)の融合体、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【0022】
<6>上記ガイドRNAの第2の領域が、ステムループ構造を有する、<1>~<5>のいずれかに記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0023】
<7>上記ガイドRNAの第2の領域が、下記(b1)~(b3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる、<6>に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物:
(b1)配列番号2で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b2)配列番号2で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから転写したRNAが、上記(C)の融合体に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(b3)配列番号2で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから転写したRNAが、上記(C)の融合体に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【0024】
<8>上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質が、MS2コートタンパク質である、<1>~<7>のいずれかに記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0025】
<9>上記MS2コートタンパク質が、下記(c1)~(c3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる、<8>に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物:
(c1)配列番号3で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(c2)配列番号3で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNAの第2の領域に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(c3)配列番号3で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNAの第2の領域に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【0026】
<10>上記第1のエフェクタータンパク質が、抗原または抗体を備え、
上記タグとなるペプチドが、当該抗原または抗体と結合するための、抗体または抗原を備える、<1>~<9>のいずれかに記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0027】
<11>上記タグとなるペプチドが、4~24個の抗原を備える、<10>に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0028】
<12>上記第1のエフェクタータンパク質が、抗体を備え、
当該抗体が、scFvである、<10>に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0029】
<13>上記タグとなるペプチドが備える抗原または抗体同士の間にリンカーを有する、<10>に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0030】
<14>上記リンカーが、5~60個のアミノ酸残基である、<13>に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0031】
<15>上記第2のエフェクタータンパク質がVP64である、<3>に記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0032】
<16>上記第1のエフェクタータンパク質が、転写活性化因子である、<1>~<15>のいずれかに記載の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物。
【0033】
<17>(A)標的遺伝子に、第1の領域で特異的に結合するガイドRNAをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(B)Casタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(C)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(D)上記第1のエフェクタータンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、を備える、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するためのキット。
【0034】
<18><1>~<16>のいずれかに記載の組成物、<17>に記載のキットが備えるポリヌクレオチド、または、<17>に記載のキットが備える発現ベクターを、インビトロで細胞へ導入する工程を含む、標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した細胞の製造方法。
【0035】
<19><1>~<16>のいずれかに記載の組成物、<17>に記載のキットが備えるポリヌクレオチド、または、<17>に記載のキットが備える発現ベクターを、哺乳動物(ただしヒトを除く)へ導入する工程を含む、標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した哺乳動物(ただしヒトを除く)の製造方法。
【発明の効果】
【0036】
本発明の一態様によれば、標的遺伝子の発現を増強する効果が高い標的遺伝子の発現を増強するための組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】(a)は、dCas9にVP64を融合した、第1世代の人工遺伝子発現増強システムを模式的に示す図である。(b)は、dCas9にVP64を直接融合し、sgRNAにMS2コートタンパク質が結合するステムループを備え、MS2コートタンパク質に転写活性化因子を融合した、第2世代の人工遺伝子発現増強システムを模式的に示す図である。(c)は、dCas9にVP64を直接融合し、sgRNAにMS2が結合するステムループを備え、MS2コートタンパク質に22sTagを融合し、22sTagに結合する、scFvに第1の転写活性化因子を融合した、本発明の一実施形態に係る第3世代の人工遺伝子発現増強システムを模式的に示す図である。
図2】(a)は、実施例において用いたMS2-4×22sTagの構成を模式的に示す図である。(b)は、実施例において用いたMS2-8×22sTagの構成を模式的に示す図である。(c)は、実施例において用いたMS2-16×22sTagの構成を模式的に示す図である。(d)は、実施例において用いたMS2-24×22sTagの構成を模式的に示す図である。
図3】(a)は、実施例において用いたsgRNA2.0およびdCas9-VP64オールインワン発現ベクターの構成を模式的に示す図である。(b)は、実施例において用いたMS2-n×22sTag(n=4、8、16、24)の発現ベクターの構成を模式的に示す図である。(c)は、実施例において用いたscFv-Effectorの発現ベクターの構成を模式的に示す図である。
図4】実施例において行った、MS2-n×22sTag(n=4、8、16、24)の発現ベクターをNotIで処理したアガロースゲル電気泳動の結果である。
図5】(a)は、実施例において用いた5つのsgRNAの、CDH1遺伝子のプロモーターに対応する領域を模式的に示す図である。(b)は、実施例において用いたルシフェラーゼレポーターベクターの構成を模式的に示す図である。
図6】実施例において行った、dCas9-VP64、MS2-4×22sTag、およびscFv-p65-HSF1の3つのベクターの存在下/非存在下におけるアッセイの結果を示す図である。
図7】実施例において行った、5つの各sgRNA、および5つの全sgRNAを用いたときの、第1世代、第2世代、および第3世代の人工遺伝子発現増強システムにおけるアッセイの結果を示す図である。
図8】実施例において行った、dCas9-VP64と、MS2-n×22sTag(n=4、8、16、24)と、p65-HSF1またはVPRとを用いた、構築したシステムの発現ベクターの全量が100ngであるときの、CDH1遺伝子を標的としたアッセイの結果を示す図である。
図9】実施例において行った、dCas9-VP64と、MS2-n×22sTag(n=4、8)と、p65-HSF1またはVPRとを用いた、CDH1遺伝子に対するmRNA発現誘導の評価の結果を示す図である。
図10】左列は、実施例において行った、免疫染色によるHCT116細胞におけるE-Cadherinの検出の結果を示す図である。中列および右列は、実施例において行った、免疫染色によるMIA-PaCa2細胞におけるE-Cadherinの検出の結果を示す図である。
図11】実施例において行った、免疫染色によるMIA-PaCa2細胞におけるE-Cadherinの検出の結果を示す図である。
図12】実施例において行った、ウエスタンブロッティングによるHCT116細胞およびMIA-PaCa2細胞におけるE-Cadherinの検出の結果を示す図である。
図13図5の(a)において、実施例において用いた、CDH1遺伝子のプロモーター領域を含む配列および5つのsgRNAのCDH1遺伝子のプロモーターに対応する領域の配列を具体的に示す図である。
図14】実施例において行った、dCas9-VP64と、MS2-n×22sTag(n=4、8、16、24)と、p65-HSF1またはVPRとを用いた、構築したシステムの発現ベクターの全量が50ngおよび100ngであるときの、CDH1遺伝子を標的としたアッセイの結果を示す図である。
図15】実施例において行った、ウエスタンブロッティングによるHCT116細胞およびMIA-PaCa2細胞におけるE-Cadherinの検出の結果を示す図である。
図16】実施例において行った、免疫染色によるMIA-PaCa2細胞におけるE-Cadherinの検出の結果を示す図である。
図17】実施例において行った、免疫染色によるMIA-PaCa2細胞におけるE-Cadherinの検出の結果を示す図である。
図18】(a)は、実施例において用いた2つのsgRNAの、RANKL遺伝子のプロモーターに対応する領域を模式的に示す図である。(b)は、実施例において用いたルシフェラーゼレポーターベクターの構成を模式的に示す図である。
図19】実施例において行った、dCas9-VP64と、MS2-n×22sTag(n=4、8、16、24)と、p65-HSF1またはVPRとを用いた、構築したシステムの発現ベクターの全量が100ngであるときの、RANKL遺伝子を標的としたアッセイの結果を示す図である。
図20】実施例において行った、dCas9-VP64と、MS2-n×22sTag(n=4、8)と、p65-HSF1またはVPRとを用いたRANKL遺伝子に対するmRNA発現誘導の評価の結果を示す図である。
図21図18の(a)において、実施例において用いた、RANKL遺伝子のプロモーター領域を含む配列および2つのsgRNAのRANKL遺伝子のプロモーターに対応する領域の配列を具体的に示す図である。
図22】実施例において行った、dCas9-VP64と、MS2-n×22sTag(n=4、8、16、24)と、p65-HSF1またはVPRとを用いた、構築したシステムの発現ベクターの全量が50ngおよび100ngであるときの、RANKL遺伝子を標的としたアッセイの結果を示す図である。
図23】実施例において行った、dCas9-VP64またはdCas9-n×22sTag(n=4、8)と、MS2-VP64、MS2-n×22sTag(n=4、8)、MS2-p65-HSF1、またはMS2-VPRと、scFv-VP64、scFv-p65-HSF1、またはscFv-VPRとを用いた、RANKL遺伝子を標的としたアッセイの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。
【0039】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0040】
本明細書において、用語「遺伝子」とはヌクレオチドの重合体を意図し、用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と同義で使用される。遺伝子は、DNAの形態(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)でも存在しうるし、RNA(例えば、mRNA)の形態でも存在しうる。DNAまたはRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。遺伝子は化学的に合成してもよい。また、本明細書において「ポリヌクレオチド」と記載した場合、DNAであってもよいし、RNAであってもよい。
【0041】
本明細書において、用語「タンパク質」は、「ペプチド」または「ポリペプチド」と同義で使用される。
【0042】
本明細書中、塩基およびアミノ酸の表記は、IUPACおよびIUBの定める1文字表
記または3文字表記を適宜使用する。
【0043】
〔1.標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物〕
本発明の一実施の形態に係る標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物(以下、適宜「本発明の一施形態に係る組成物」と称する。)は、(A)標的遺伝子に、第1の領域で特異的に結合するガイドRNAをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(B)Casタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(C)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および(D)上記第1のエフェクタータンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、を含む。
【0044】
本明細書において、本発明の一実施形態に係る組成物を用いて人工的に標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積させるシステムを、第3世代のシステムと称することもある。また、本明細書において、本発明の一実施形態に係る組成物を用いて人工的に標的遺伝子の発現を増強させるシステムを、第3世代の人工遺伝子発現増強システムと称することもある。
【0045】
本発明の一実施形態に係る第3世代のシステムは、ガイドRNA(sgRNAとも称する)、Casタンパク質、ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体、および第1のエフェクタータンパク質が協同して機能することにより、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積させる効果を奏する。上記の標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積させる機構をより具体的に説明すると、以下の通りである。
1.ガイドRNAとCasタンパク質とが結合して複合体を形成する。
2.上記複合体が、ガイドRNAの第1の領域で、標的遺伝子に結合する。
3.ガイドRNAの第2の領域に、ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体の、当該ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質が結合する。
4.上記融合体のタグとなるペプチドに、第1のエフェクタータンパク質が結合する。標的遺伝子に第1のエフェクタータンパク質が集積される。
【0046】
ガイドRNAが結合する「標的遺伝子」は、標的とする遺伝子のみならず、当該遺伝子の発現を制御する配列(例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列)も含む。
【0047】
ガイドRNAは、標的遺伝子に特異的に結合する第1の領域と、特定のタンパク質が結合する第2の領域とを有する。ガイドRNAは、第1の領域が、結合させたい標的遺伝子の一部の配列に相補的な配列を有し、かつ、第2の領域が、特定のタンパク質が結合する配列を有するように設計される。
【0048】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記ガイドRNAの第2の領域が、ステムループ構造を有する。これにより、当該ステムループ構造を認識するタンパク質がガイドRNAの第2領域に結合することができる。ガイドRNAの第2の領域は、ステムループ構造を少なくとも1つ有していればよいが、複数有していることがより好ましい。ガイドRNAの第2領域が複数のステムループ構造を有していることにより、当該ステムループ構造に結合するタンパク質の数を増やすことができる。これにより、標的遺伝子により多くのエフェクタータンパク質を集積させることができる。
【0049】
ガイドRNAは、1種類であっても複数種類を組み合わせてもよい。本発明の一実施形態に係る第3世代のシステムでは、1種類のガイドRNAであっても、第1世代および第2世代のシステムと比較して、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積させることができる。複数種類のガイドRNAを用いる場合、1種類のガイドRNAを用いる場合と比較して、標的遺伝子により多くのエフェクタータンパク質を集積させることができることから、ガイドRNAは複数種類であることがより好ましい。
【0050】
Casタンパク質とは、ゲノム編集技術に用いられるCRISPR-Casシステムの構成要素であるタンパク質であり、ガイドRNAと結合して複合体を形成する。当該複合体は、ガイドRNAの第1の領域で標的遺伝子に結合する。
【0051】
Casタンパク質は、ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質であっても、ヌクレアーゼ活性型のCasタンパク質であってもよく、ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質であることが好ましい。ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質とは、ガイドRNAとの結合能は維持しつつ、かつ、ヌクレアーゼ活性を不活性化してDNA切断が起こらないように改変させたCasタンパク質である。
【0052】
Casタンパク質としては、例えば、Cas12a、Cas9等が挙げられる。また、ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質としては、例えば、上記Casタンパク質のヌクレアーゼ不活性型(すなわち、ヌクレアーゼ不活性型のCas12a、ヌクレアーゼ不活性型のCas9(以下、適宜「dCas9」と称する。))等が挙げられる。Casタンパク質がヌクレアーゼ活性型のCasタンパク質である場合、ガイドRNAの長さを適宜調節することにより、ヌクレアーゼ不活性型のCasタンパク質と同様の機能を有するCasタンパク質とすることができる。
【0053】
本発明の一実施形態に係る組成物は、Casタンパク質がdCas9であることが好ましい。
【0054】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記dCasタンパク質が、第2のエフェクタータンパク質と融合している。これにより、第1のエフェクタータンパク質に加えて、第2のエフェクタータンパク質も標的遺伝子に集積することができる。
【0055】
上記第2のエフェクタータンパク質は、目的の機能を有するものであれば特に限定されないが、分子量が1~60kDaであることが好ましく、5~10kDaであることがより好ましい。
【0056】
本発明の一実施形態に係る組成物は、第2のエフェクタータンパク質が、VP64であることが好ましい。VP64は分子量が5.5kDaと小さいため、Casタンパク質と融合体を形成したときに当該融合体の分子サイズの巨大化を抑えつつ、標的遺伝子に第1のエフェクタータンパク質に加えて標的遺伝子にVP64を集積することができる。VP64は転写活性化因子であるため、より標的遺伝子の発現を増強させることができる。
【0057】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質は、ガイドRNAの第2領域に結合することができれば特に限定されないが、MS2コートタンパク質であることが好ましい。MS2コートタンパク質は、RNAの第2の領域が有するステムループ構造を認識するため、RNAの第2領域に結合することができる。
【0058】
第1のエフェクタータンパク質は、目的の機能を有するものであれば特に限定されないが、分子量が1~60kDaであることが好ましく、32~56kDaであることがより好ましい。
【0059】
第1のエフェクタータンパク質と第2のエフェクタータンパク質とは、同様の機能を有するものであることが好ましいが、異なる機能を有するものであってもよい。
【0060】
第1のエフェクタータンパク質と第2のエフェクタータンパク質は、標的遺伝子に集積し、当該標的遺伝子の発現等を改変/修飾するタンパク質であれば、特に限定されない。
上記第1のエフェクタータンパク質としては、例えば、転写活性化因子、蛍光タンパク質(例えば、GFP)、DNAの脱メチル化因子(例えば、TET1)、ヒストンのアセチル化因子(例えば、p300cd)、デアミナーゼ等が挙げられる。
【0061】
エフェクタータンパク質が転写活性化因子である場合、当該エフェクタータンパク質が集積した標的遺伝子の発現が増強される。したがって、本発明の一実施形態に係る組成物は、標的遺伝子の発現を増強するための組成物であり得る。また、エフェクタータンパク質が蛍光タンパク質である場合、当該エフェクタータンパク質が集積した標的遺伝子の領域がラベリングされる。したがって、本発明の一実施形態に係る組成物は、標的遺伝子の領域をラベリングするための組成物であり得る。また、エフェクタータンパク質がDNAの脱メチル化因子である場合、当該エフェクタータンパク質が集積した標的遺伝子の脱メチル化の効率が高められる。したがって、本発明の一実施形態に係る組成物は、標的遺伝子の脱メチル化を促進するための組成物であり得る。また、エフェクタータンパク質がヒストンのアセチル化因子である場合、当該エフェクタータンパク質が集積した標的遺伝子周辺のヒストンのアセチル化の効率が高められる。したがって、本発明の一実施形態に係る組成物は、標的遺伝子周辺のヒストンのアセチル化を促進するための組成物であり得る。また、エフェクタータンパク質がデアミナーゼである場合、当該エフェクタータンパク質が集積した標的遺伝子周辺の塩基置換の効率が高められる。したがって、本発明の一実施の形態に係る組成物は、標的遺伝子周辺の塩基置換を促進するための組成物であり得る。
【0062】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記第1のエフェクタータンパク質が、転写活性化因子であることが好ましく、p65-HSF1、VPR、およびVP64(いずれも、転写活性因子)からなる群より選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記第1のエフェクタータンパク質が、抗原または抗体を備え、上記タグとなるペプチドが、当該抗原または抗体と結合するための、抗体または抗原を備える。好ましくは、上記第1のエフェクタータンパク質が、抗原を備え、上記タグとなるペプチドが、当該抗原と結合するための、抗体を備える。これにより、第1のエフェクタータンパク質がタグとなるペプチドと結合力を有さない場合であっても、第1のエフェクタータンパク質が備える抗原または抗体と、タグとなるペプチドが備える抗体または抗原との結合により、第1のエフェクタータンパク質をタグとなるペプチドに結合することができる。その結果、標的遺伝子に第1のエフェクタータンパク質を集積することができる。
【0064】
上記タグとなるペプチドが抗原を備える場合、当該抗原は、GCN4であることが好ましい。GCN4のアミノ酸配列がタンデムに並んだアミノ酸配列を有するペプチドをSunTagと称することもある。
【0065】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記タグとなるペプチドが、4~24個の抗原を備えることが好ましく、8個の抗原を備えることがより好ましい。これにより、当該抗原に結合する抗体を備える第1のエフェクタータンパク質を、上記個数結合させることができる。
【0066】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記タグとなるペプチドが備える抗原または抗体同士の間にリンカーを有することが好ましい。当該リンカーは、5~60個のアミノ酸残基であることが好ましく、22~51個のアミノ酸残基であることがより好ましく、22個のアミノ酸残基であることが好ましい。また、上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、抗原または抗体との間にリンカーがあってもよい。上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、タグとなるペプチドとの融合体が当該リンカーを有することにより、結合する第1のエフェクタータンパク質を最適な間隔で抗原に結合させることができる。
【0067】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記第1のエフェクタータンパク質が、抗体を備え、当該抗体が、scFv(一本鎖抗体)であることが好ましい。
【0068】
〔1-1 ポリヌクレオチド〕
〔dCas9をコードする配列〕
本発明の一実施形態に係る組成物は、好ましくは、上記dCas9が、下記(a1)~(a3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる:
(a1)配列番号1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(a2)配列番号1で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNA、上記(C)の融合体、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(a3)配列番号1で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNA、上記(C)の融合体、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【0069】
(a1)は、
1.野生型のCas9をコードする塩基配列を人工的に改変することにより、ガイドRNAとの結合能は維持し、かつ、ヌクレアーゼ活性を不活性化してDNA切断が起こらないようにしたポリヌクレオチド(配列番号1)である。
【0070】
(a2)は、
2.(a1)と一定以上の配列同一性を有する。
3.(a1)がコードするタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする。
の両条件を満たしているポリヌクレオチドである。
以下、2および3のそれぞれを説明する。
【0071】
(2について)
塩基配列の配列同一性は、塩基配列全体(またはdCas9の機能に必要な部分をコードしている領域)において、少なくともは90%以上、より好ましくは95%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)でありうる。
【0072】
塩基配列の同一性は、BLASTNなどのプログラムを利用して、決定することができる([Altschul SF (1990) "Basic local alignment search tool", Journal of Molecular Biology, Vol.215 (Issue 3), pp.403-410]を参照)。BLASTNによって塩基配列を解析する場合のパラメータの一例としては、score=100、wordlength=12の設定が挙げられる。BLASTNによる解析を行うための具体的な手法は、当業者に知られている。比較対象の塩基配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(ギャップなど)を許容してもよい。
【0073】
(3について)
「(a1)がコードするタンパク質と同等の機能を有する」か否かは、(a2)の配列番号1で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドから発現したタンパク質(dCas9)が、(A)のガイドRNA、(C)の融合体、および(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有するか否かを試験することにより判定できる。そのような試験は、当分野における通常の方法を用いて行うことができる。
【0074】
ここで、上述の遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性とは、上述したヌクレオチドを導入した細胞における標的遺伝子に集積したエフェクタータンパク質量が、導入していない細胞における該エフェクタータンパク質量、好ましくは第1世代および第2世代のシステムを適用した細胞における該エフェクタータンパク質量よりも上回っていることを意図する。
【0075】
本発明の一実施形態に係る第3世代のシステムは、第3世代の人工遺伝子発現増強システムであることが好ましい。本発明の一実施形態に係る第3世代の人工遺伝子発現増強システムは、標的遺伝子の発現を増強することが好ましい。標的遺伝子から転写されたmRNAの発現量を確認する方法としては、例えば、実施例に記載されているqPCRが挙げられる。また、標的遺伝子の転写活性化の結果、標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量も増強されるため、当該タンパク質の発現量を確認してもよい。タンパク質の発現量を確認する方法としては、例えば、実施例に記載されているレポーターアッセイ、免疫染色、ウエスタンブロッティングが挙げられる。
【0076】
(a3)は、
4.(a1)と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする。
5.(a1)がコードするタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする。
の両条件を満たすポリヌクレオチドである。以下、4について説明する。5に関する説明は、上記の(3について)と同様であるため、省略する。
【0077】
(4について)
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、2本のポリヌクレオチド鎖が、塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドを形成するが、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドは形成しない条件をいう。「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、換言すれば、配列同一性が高い核酸同士(例えば完全にマッチしたハイブリッド)の融解温度(Tm値)から15℃低い温度、好ましくは10℃低い温度、より好ましくは5℃低い温度までの温度範囲において、ハイブリダイズできる条件ともいえる。
【0078】
ストリンジェントな条件の一例を示すと、以下の通りである。まず、0.25M NaHPO、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液(pH7.2)中、60~68℃(好ましくは65℃、より好ましくは68℃)にて、16~24時間、2種類のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる。その後、20mM NaHPO、1% SDS、1mM EDTAからなる緩衝液(pH7.2)中、60~68℃(好ましくは65℃、より好ましくは68℃)にて、15分間の洗浄を2回行う。
【0079】
他の例としては、以下の方法が挙げられる。まず、25%ホルムアミド(より厳しい条件では50%ホルムアミド)、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes(pH7.0)、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃にて、一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することにより、2種類のポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行う。次に、下記の条件のいずれかで洗浄を行う。
(通常の条件)1×SSCおよび0.1% SDSを洗浄液として、37℃程度で洗浄する。
(厳しい条件)0.5×SSCおよび0.1% SDS洗浄液として、42℃程度で洗浄する。
(さらに厳しい条件)0.2×SSCおよび0.1% SDSを洗浄液として、65℃程度で洗浄する。
【0080】
このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。なお、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは、単なる例示に過ぎない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上述の要素、または他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することができる。このことは、例えば、[Joseph Sambrook & David W. Russell, "Molecular cloning: a laboratory manual 3rd Ed.", New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001]などに記載されている。
【0081】
以下、(a1)~(a3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをまとめて(a)のポリヌクレオチドとも称する。
【0082】
〔ガイドRNAの第2の領域をコードする配列〕
本発明の一実施形態に係る組成物は、好ましくは、上記ガイドRNAの第2の領域が、下記(b1)~(b3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる:
(b1)配列番号2で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b2)配列番号2で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから転写したRNAが、上記(C)の融合体に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(b3)配列番号2で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから転写したRNAが、上記(C)の融合体に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【0083】
(b1)は、
1.例えば、MS2コートタンパク質が結合するステムループ構造を2つ備えるRNAをコードするポリヌクレオチド(配列番号2)である。
【0084】
(b2)は、
2.(b1)と一定以上の配列同一性を有する。
3.(b1)がコードするガイドRNAの第2の領域と同等の機能を有するガイドRNAの第2の領域をコードする。
の両条件を満たしているポリヌクレオチドである。2については(a2)と同様である。以下、3を説明する。
【0085】
(3について)
「(b1)がコードするガイドRNAの第2の領域と同等の機能を有する」か否かは、(b2)の配列番号2で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドから転写したRNAが、上記(C)の融合体に結合する活性を有するか否かを試験することにより判定できる。そのような試験は、当分野における通常の方法を用いて行うことができる。
【0086】
(b3)は、
4.(b1)と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする。
5.(b1)がコードするガイドRNAの第2の領域と同等の機能を有するガイドRNAの第2の領域をコードする。
の両条件を満たすポリヌクレオチドである。4に関する説明は、(a3)の(4について)と同様であり、5に関する説明は、上記の(3について)と同様であるため、省略する。
【0087】
以下、(b1)~(b3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをまとめて(b)のポリヌクレオチドとも称する。
【0088】
〔MS2コートタンパク質をコードする配列〕
本発明の一実施形態に係る組成物は、好ましくは、上記MS2コートタンパク質が、下記(c1)~(c3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる:
(c1)配列番号3で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(c2)配列番号3で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNAの第2の領域に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(c3)配列番号3で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNAの第2の領域に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【0089】
(c1)は、
1.ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質の一例であるMS2コートタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号3)である。
【0090】
(c2)は、
2.(c1)と一定以上の配列同一性を有する。
3.(c1)がコードするタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする。
の両条件を満たしているポリヌクレオチドである。2については(a2)と同様である。以下、3を説明する。
【0091】
(3について)
「(c1)がコードするタンパク質と同等の機能を有する」か否かは、(c2)の配列番号3で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、上記(A)のガイドRNAの第2の領域に結合する活性を有するか否かを試験することにより判定できる。そのような試験は、当分野における通常の方法を用いて行うことができる。
【0092】
(c3)は、
4.(c1)と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする。
5.(c1)がコードするタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする。
の両条件を満たすポリヌクレオチドである。4に関する説明は、(a3)の(4について)と同様であり、5に関する説明は、上記の(3について)と同様であるため、省略する。
【0093】
以下、(c1)~(c3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをまとめて(c)のポリヌクレオチドとも称する。
【0094】
〔GCN4をコードする配列〕
本発明の一実施形態に係る組成物は、好ましくは、上記GCN4が、下記(d1)~(d3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる:
(d1)配列番号4~7のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(d2)配列番号4~7のいずれかで示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したペプチドを含む上記(C)の融合体が、上記(A)のガイドRNA、上記(B)のCasタンパク質、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(d3)配列番号4~7のいずれかで示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したペプチドを含む上記(C)の融合体が、上記(A)のガイドRNA、上記(B)のCasタンパク質、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【0095】
なお、配列番号4~7のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドから翻訳されるタンパク質(GCN4)は、全て同一のアミノ酸配列を有する。
【0096】
(d1)は、
1.タグとなるペプチドに備えられた抗原の一例であるGCN4をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号4~7のいずれか)である。
【0097】
(d2)は、
2.(d1)と一定以上の配列同一性を有する。
3.(d1)がコードするタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする
の両条件を満たしているポリヌクレオチドである。2については(a2)と同様である。以下、3を説明する。
【0098】
「(d1)がコードするタンパク質と同等の機能を有する」か否かは、(d2)の配列番号4~7のいずれかで示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドから発現したペプチドを含む上記(C)の融合体が、上記(A)のガイドRNA、上記(B)のCasタンパク質、および上記(D)の第1のエフェクタータンパク質と協同して標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する活性を有するか否かを試験することにより判定できる。そのような試験は、当分野における通常の方法を用いて行うことができる。
【0099】
(d3)は、
4.(d1)と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする。
5.(d1)がコードするタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする。
の両条件を満たすポリヌクレオチドである。以下、4に関する説明は、(a3)の(4について)と同様であり、5に関する説明は、上記の(3について)と同様であるため、省略する。
【0100】
以下、(d1)~(d3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをまとめて(d)のポリヌクレオチドとも称する。
【0101】
〔タグとなるペプチドのリンカーの配列〕
タグとなるペプチドのリンカーの配列は、タグとなるペプチドの抗原または抗体が、第1のエフェクタータンパク質が備える抗体または抗原と結合する機能を妨げない配列であれば、特に限定されない。
【0102】
本発明の一実施形態に係る組成物は、好ましくは、上記リンカーが、下記(e1)~(e3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる:
(e1)配列番号8~11で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(e2)配列番号8~11で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド、および
(e3)配列番号8~11で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0103】
以下、(e1)~(e3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをまとめて(e)のポリヌクレオチドとも称する。
【0104】
なお、配列番号8~11のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドから翻訳されるリンカーは、全て同一のアミノ酸配列を有する。
【0105】
〔scFvをコードする配列〕
抗体は、タグとなるペプチドが備える抗原に結合するものであれば特に限定されない。
【0106】
本発明の一実施形態に係る組成物は、例えばタグとなるペプチドが備える抗原がGCN4である場合、好ましくは、上記scFvが、下記(f1)~(f3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる:
(f1)配列番号12で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(f2)配列番号12で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、タグとなるペプチドが備える抗原に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド、および
(f3)配列番号12で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであり、かつ、該ポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、タグとなるペプチドが備える抗原に結合する活性を有する、ポリヌクレオチド。
【0107】
(f1)は、
1.GCN4に結合するように設計されたscFvをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号12)である。
【0108】
(f2)は、
2.(f1)と一定以上の配列同一性を有する。
3.(f1)がコードするタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする
の両条件を満たしているポリヌクレオチドである。2については(a2)と同様である。以下、3を説明する。
【0109】
(3について)
「(f1)がコードするタンパク質と同等の機能を有する」か否かは、(f2)の配列番号12で示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドから発現したタンパク質が、タグとなるペプチドが備える抗原に結合する活性を有するか否かを試験することにより判定できる。そのような試験は、当分野における通常の方法を用いて行うことができる。
【0110】
(f3)は、
4.(f1)と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする。
5.(f1)がコードするタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする。
の両条件を満たすポリヌクレオチドである。以下、4に関する説明は、(a3)の(4について)と同様であり、5に関する説明は、上記の(3について)と同様であるため、省略する。
【0111】
以下、(f1)~(f3)のいずれかで示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをまとめて(f)のポリヌクレオチドとも称する。
【0112】
〔1-2 ポリヌクレオチドを含む発現ベクター〕
本発明の一実施形態に係る組成物は、上述したヌクレオチドを含んだものであってもよいし、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含んだものであってもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係る組成物は、上述したポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む。
【0113】
本発明の一実施形態に係る組成物において、発現ベクターに含まれるポリヌクレオチドは、〔1-1〕で示したものと同様である。
【0114】
本発明の一実施形態に係る組成物に含まれる発現ベクターは、基材ベクターとして、一般的に使用される種々のベクターを用いることができ、導入される細胞または導入方法に応じて適宜選択されうる。具体的には、プラスミド、ファージ、コスミドなどを用いることができる。ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。
【0115】
上述した発現ベクターの例としては、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクターおよびウイルス由来ベクター(細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソームなど)、酵母染色体エレメントおよびウイルス(バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスなど)、および、それらの組み合わせに由来するベクター(コスミド、ファージミドなど)を挙げられる。
【0116】
本発明の一実施形態に係る組成物に含まれる発現ベクターは、さらに、転写開始および転写終結のための部位を含んでおり、かつ、転写領域中にリボソーム結合部位を含んでいることが好ましい。ベクター中の成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチドの始めに転写開始コドンAUGを含み、そして終わりに適切に位置される終止コドンを含むことになる。
【0117】
RNAまたはタンパク質を発現させるために、本発明の一実施形態に係る組成物に含まれる発現ベクターは、プロモーター配列を含んでいてよい。上記プロモーター配列は、宿主細胞の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0118】
本発明の一実施形態に係る組成物に含まれる発現ベクターは、DNAからの転写を亢進させるための配列を含んでいてよい。一実施形態において、上記DNAからの転写を亢進させるための配列は、エンハンサー配列である。上記エンハンサーとしては、例えば、SV40エンハンサー(これは、複製起点の下流の100~270bpに配置される)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の下流に配置されるポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
【0119】
本発明の一実施形態に係る組成物に含まれる発現ベクターは、転写されたRNAを安定化させるための配列を含んでいてよい。一実施形態において、上記転写されたRNAを安定化させるための配列は、ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、polyA)である。ポリA付加配列の例としては、成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、ウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、ヒト成長ホルモン遺伝子由来ポリA付加配列、SV40ウイルス由来ポリA付加配列、ヒトまたはウサギのβグロビン遺伝子由来のポリA付加配列が挙げられる。
【0120】
本発明の一実施形態に係る組成物に含まれる発現ベクターの構造は、適宜設定されうる。例えば、「基材ベクター中のどこにRNAまたはタンパク質をコードする塩基配列を配置するか」「RNAまたはタンパク質をコードする塩基配列の前後に、どのような機能を有する配列を配置するか」などの事項は、目的により、適宜設定しうる。
【0121】
また、同一のベクター内に組み込まれるRNAまたはタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドの数は、発現ベクターを導入した宿主細胞内で第3世代の人工遺伝子発現増強システムの機能を発揮しうる限りにおいて、特に限定されない。例えば、「上記(a)~(f)のポリヌクレオチドを1種類の(同一の)ベクターに搭載する」という設計が可能である。また、「上記(a)~(e)のポリヌクレオチドを1種類の(同一の)ベクターに搭載し、上記(f)のポリヌクレオチドを別のベクターに搭載する」という設計が可能である。ただし、(c)および(d)のポリヌクレオチドは連続的に1種類の(同一の)ベクターに搭載し、(e)のポリヌクレオチドが含まれる場合、(d)および(e)のポリヌクレオチドは連続的に1種類の(同一の)ベクターに搭載する。なお、「連続的に」とは、別々のタンパク質として発現させずに、融合体として発現させることを意図し、融合体を発現することができれば両者の間に更なるリンカーを形成するための配列有するポリヌクレオチドを搭載してもよい。さらに、「各ポリヌクレオチドを別々の4種類のベクターに搭載する」という設計が可能である。ガイドRNAの安定化の観点から、(a)および(b)のポリヌクレオチドは1種類の(同一の)ベクターに搭載することが好ましい。発現効率等の観点から、(a)および(b)のポリヌクレオチドを含むベクターと、(c)および(d)(および(e))のポリぺプチドを含むベクターと、(f)のポリぺプチドを含むベクターとは、別々の3種類のベクターに搭載する方法が用いられる。
【0122】
その他、発現量を調節するなどの目的のために、同一のベクター中に、同じRNAまたはタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを複数搭載してもよい。例えば、「上記(a)のポリヌクレオチドを1種類の(同一の)ベクター内の2箇所に配置する」という設計が可能である。
【0123】
なお、上記したポリペプチドのベクターへの搭載方法は、あくまでも例示であり、目的等に応じて、当業者により適宜設計・変更され得る。
【0124】
上述した、本発明の一実施形態に係る組成物に含まれる発現ベクターは、公知の手法によって作製することができる。このような手法としては、ベクターを作製用のキットに付属する実施マニュアルに記載の手法に加え、種々の手引書に記載の手法が挙げられる。
【0125】
〔1-3 RNAおよびタンパク質〕
本発明の一実施形態に係る組成物は、(A’)標的遺伝子に第1の領域で特異的に結合するガイドRNA、(B’)Casタンパク質、(C’)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体、および(D’)複数の上記第1のエフェクタータンパク質、を含む。
【0126】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上記〔1-1〕に記載のポリヌクレオチドによりコードされるRNAおよびタンパク質を含むものであってもよい。
【0127】
〔2.標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するためのキット〕
本発明の一実施形態に係る標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するためのキット(以下、適宜「本発明の一施形態に係るキット」と称する。)は、(A)標的遺伝子に、第1の領域で特異的に結合するガイドRNAをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(B)Casタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(C)上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および(D)上記第1のエフェクタータンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、を備える。
【0128】
本態様において、〔1.標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物〕で説明した事項は、同じ説明を繰り返さない。
【0129】
本発明の一実施形態に係る「キット」とは、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュ等)を備えた包装物が意図される。本発明の一実施形態に係るキットは、そこに含まれる各々の材料が独立して存在している形態であってもよく、複数の材料が混在している形態(例えば、組成物の形態)であってもよい。キットは、各材料を使用するための指示書を備えていることが好ましい。
【0130】
〔3.標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した細胞および哺乳動物(ヒトを除く)の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した細胞の製造方法は、上述した組成物、上述したキットが備えるポリヌクレオチド、または、上述したキットが備える発現ベクターを、インビトロで細胞へ導入する工程を含む。また、本発明の一実施形態に係る標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した哺乳動物(ただしヒトを除く)の製造方法は、上述した組成物、上述したキットが備えるポリヌクレオチド、または、上述したキットが備える発現ベクターを、哺乳動物(ただしヒトを除く)へ導入する工程を含む。
【0131】
本発明の一実施形態に係る製造方法により得られた細胞または哺乳動物は、当該細胞内または哺乳動物体内で標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した結果、当該標的遺伝子の発現等が改変/修飾されている。すなわち、本発明の一実施形態において、エフェクタータンパク質を目的に応じて選択することにより、標的遺伝子の発現等を、適宜、改変/修飾することができる。なお、エフェクタータンパク質については、上述した通りである。
【0132】
本態様において、〔1.標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積するための組成物〕で説明した事項は、同じ説明を繰り返さない。
【0133】
〔3-1.標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した細胞の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る細胞は、特に限定されず、例えば、細菌、酵母、昆虫、動物、植物等の細胞が挙げられる。本発明の一実施形態に係る細胞は、好ましくは動物細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞であり、特に好ましくはヒト細胞である。
【0134】
本発明の一実施形態に係る組成物、ポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを細胞に導入する方法は、特に限定されない。例えば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、ウイルベクターを用いた感染などの方法が挙げられる。このような方法は、[Leonard G. Davis et al., "Basic methods in molecular biology", New York: Elsevier, 1986]など、多くの標準的研究室マニュアルに記載されている。また、導入する細胞の種類により、適宜、導入方法を選択可能である。
【0135】
本発明の一実施形態において、上記ポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターの細胞への導入は、インビトロで行われる工程である。この場合、上述した導入方法の中では、エレクトロポレーション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、ウイルスベクターを用いた感染を採用することが好ましい。
【0136】
本発明の一実施形態に係るガイドRNA、Casタンパク質、上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体、および複数の上記第1のエフェクタータンパク質を、細胞に導入する方法は、特に限定されない。例えば、エレクトロポレーション、カチオン性脂質媒介トランスフェクションなどが挙げられる。
【0137】
〔3-2.標的遺伝子にエフェクタータンパク質が集積した哺乳動物(ヒトを除く)の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る組成物、ポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、またはガイドRNA、Casタンパク質、上記ガイドRNAの第2の領域に結合するタンパク質と、第1のエフェクタータンパク質を複数結合するためのタグとなるペプチドとの融合体、および複数の上記第1のエフェクタータンパク質を哺乳動物(ヒトを除く)に導入する方法は、〔3-1〕に記載した通りである。
【0138】
〔4.第3世代のシステムを用いた疾患の処置方法〕
本発明の別の一実施形態において、本発明の一実施形態に係る組成物、ポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、当該対象の疾患の処置方法を提供する。上記組成物、ポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを対象に投与することにより、当該対象の体内で標的遺伝子にエフェクタータンパク質の集積が生じ、その結果、当該対象の疾患を処置することができる。
【0139】
本発明の一実施形態において「処置」とは、処置を必要とする対象に対して処置効果をもたらす行為を意味する。処置効果とは、予防効果および治療効果を包含する概念であり得る。
【0140】
本発明の一実施形態において、処置の対象となる疾患は、第3世代のシステムにより遺伝子発現が増強した結果、処置効果が生じる疾患であれば特に限定されない。処置の対象となる疾患は、例えば、癌、神経疾患、糖尿病等が挙げられる。例えば、処置の対象となる疾患が癌の場合には、細胞接着に関与するE-Cadherin(CDH1遺伝子によりコード)を標的としてその発現を増強することにより、癌化した細胞の移動および浸潤を防ぐことができる。
【0141】
本発明の一実施形態において、上記組成物、ポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドの対象への投与は、遺伝子治療等の分野で用いられる任意の方法が使用できる。
【0142】
本発明の一実施形態において、処置の対象となる疾患は、特に限定されないが、例えば、哺乳動物、好ましくは、ヒトである。
【0143】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0144】
以下、本発明の第3世代のシステムの一例として、エフェクタータンパク質として転写活性化因子を用いた第3世代の人工遺伝子発現増強システムの実施例を説明するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、上述したように、エフェクタータンパク質は目的に応じて選択可能であるため、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積する機能を有する第3世代のシステムであれば、遺伝子発現増強効果以外の目的の効果を示す第3世代のシステムも本発明の技術範囲に含まれる。
【0145】
[1 細胞の培養に関する基本操作]
[1.1 細胞の培養]
本実施例では、MIA-PaCa2細胞、HEK293T細胞およびHCT116細胞を使用した。培養細胞は、37℃、5%COの条件下で培養した。e-Myco(商標) Mycoplasma PCR Detection Kit(iNtRON Biotechnology製)を用いて、培養中の細胞がマイコプラズマに汚染されていないことを試験した。さらに、STR分析(TaKaRaによる受託解析)により、細胞株の認証を行った。
【0146】
[1.1.1 完全培地の作製]
[1.1.1.1 MIA-PaCa2細胞用の完全培地の作製]
培地の総体積に対して、L-グルタミンおよびフェノールレッドを含むD-MEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)(High Glucose)(Wako製)が86.5体積%、FBS(ウシ胎児血清、Thermo Fisher Scientific製)が10体積%、Horse Serum(馬血清、Thermo Fisher Scientific製)が2.5体積%、ST-PN(ペニシリン-ストレプトマイシン、Wako製)が1体積%となるように混合して、MIA-PaCa2細胞用の完全培地を作製した。
【0147】
[1.1.1.2 HEK293T細胞およびHCT116細胞用の完全培地の作製]
培地の総体積に対して、D-MEM(High Glucose)が88体積%、FBSが10体積%、NEAA(非必須アミノ酸、Thermo Fisher Scientific製)が1体積%、ST-PNが1体積%となるように混合して、HEK293T細胞およびHCT116細胞用の完全培地を作製した。
【0148】
[1.1.2 細胞の継代]
[1.1.2.1 MIA-PaCa2細胞およびHCT116細胞の継代]
培養中の培地をアスピレータ―で吸引し、0.25%トリプシンを含むEDTA-PBS(-)を3ml加えた。37℃、5%COインキュベータに入れ、3~4分間反応させた。完全培地を9ml加え、液を電動ピペッターで吸ってディッシュの底に吹きつけることを繰り返し、細胞を剥がした。剥がした細胞の懸濁液を電動ピペッターで吸い、ピペットの先をディッシュの底に軽く当てて吹き出すことを繰り返して細胞の塊を細かくした。懸濁液を50mlチューブに入れ、20℃、1,000rpmで3分間遠心した。上清をアスピレータで吸引し、完全培地を10ml加えて懸濁した。細胞懸濁液の一部を、あらかじめ完全培地を計12mlになるように入れた新しいディッシュに移した。移す量は、次の継代を翌日行う場合は3ml、2日後に行う場合は1.5ml、3日後に行う場合は700μlを目安とし、細胞の増殖の度合いによって調整した。細胞が均一になるように振盪し、37℃、5%COインキュベータで培養した。
【0149】
[1.1.2.2 HEK293T細胞の継代]
培養中の培地を電動ピペッターで吸い、ディッシュの底に吹きつけることを繰り返して細胞を剥がした。剥がした細胞の懸濁液を電動ピペッターで吸い、ピペットの先をディッシュの底に軽く当てて吹き出すことを繰り返して細胞の塊を細かくした。細胞懸濁液の一部を、あらかじめ完全培地を計12mlになるように入れた新しいディッシュに移した。移す量は、次の継代を翌日行う場合は3.6ml、2日後に行う場合は1.2ml、3日後に行う場合は500μlを目安とし、細胞の増殖の度合いによって調整した。細胞が均一になるように振盪し、37℃、5%COインキュベータで培養した。なお、細胞数を計測する必要がある場合は、MIA-PaCa2の継代と同様の操作で行ったが、トリプシンの処理時間は1分間とした。
【0150】
[1.2 リポフェクションによる、培養細胞へのプラスミドの導入]
96ウェルプレートの使用するウェルに、何も加えていないD-MEM(以下、「無血清D-MEM」と称する)を25μl入れた。導入するプラスミド混合液を全量が6μlになるようにあらかじめ調整しておき、無血清D-MEMに加えた。1ウェルあたり、25μlの無血清D-MEMと0.7μlのLipofectamine(商標)LTX(Thermo Fisher Scientific製)とを混合したものを25μl加え、室温で30分間静置した。この間に、継代操作の項目に記載した手法で細胞の懸濁液を作製し、細胞計測スライドに10μlアプライしてCell counter(LUNA製)で細胞の濃度を測定した。細胞が目的の濃度になるように、懸濁液と完全培地を混合した。静置終了後、濃度を調製した懸濁液を各ウェルに100μlずつ加え、37℃、5%COインキュベータで培養した。
【0151】
[2 プラスミド構築に関する基本操作]
[2.1 PCR増幅]
[2.1.1 PrimeSTAR(登録商標)Max(TaKaRa製)を用いたPCR]
テンプレート溶液0.2μl、2×PrimeSTAR(登録商標) Max Premix(TaKaRa製)5.0μl、10μMフォワードおよびリバースプライマー各0.5μl、オートクレーブしたMilli-Q水(以下、「滅菌水」と称する)3.8μlを混合した。サーマルサイクラーを用いて、94℃で2分間のプレヒートの後、98℃で10秒間の熱変性、適切な温度で5秒間のアニーリング、72℃で1kbあたり5秒間に予備時間として30秒間を加えた時間の伸長反応、を25~35サイクル行った後、72℃で2分間のポストヒートを経て、4℃で保存した。
【0152】
[2.1.2 PrimeSTAR(登録商標)GXL(TaKaRa製)を用いたPCR]
テンプレート溶液1.0μl、PrimeSTAR(登録商標)GXL DNA Polymerase(TaKaRa製)0.2μl、2.5mM each dNTP Mix(TaKaRa製)0.8μl、10μMフォワードおよびリバースプライマー各0.3μl、滅菌水5.4μlを混合した。サーマルサイクラーを用いて、94℃で2分間のプレヒートの後、98℃で10秒間の熱変性、適切な温度で30秒間のアニーリング、68℃で1kbあたり20秒間に予備時間として30秒間を加えた時間の伸長反応、を25~35サイクル行った後、72℃で2分間のポストヒートを経て、4℃で保存した。
【0153】
[2.1.3 KOD FX Neo(東洋紡製)を用いたPCR]
テンプレート溶液1.0μl、KOD FX Neo(東洋紡製)0.2μl、KOD FX Neoのための2×PCR Buffer(東洋紡製)5.0μl、2mM各dNTP Mix2.0μl、10μMフォワードおよびリバースプライマー各0.3μl、滅菌水1.2μlを混合した。サーマルサイクラーを用いて、94℃で2分間のプレヒートの後、98℃で10秒間の熱変性、適切な温度で30秒間のアニーリング、68℃で1kbあたり30秒間に予備時間として30秒間を加えた時間の伸長反応、を25~35サイクル行った後、4℃で保存した。
【0154】
[2.2 制限酵素処理]
DNA溶液(プラスミドの場合は400ng)、制限酵素原液0.3μl、10×バッファー1.0μl、必要であれば10×BSA1.0μl、全量10μlとなるように滅菌水を混合し、37℃インキュベータで(制限酵素としてBssHIIを用いる場合はサーマルサイクラーまたはハイブリオーブンを用いて50℃で)、1時間~一晩、インキュベートした。必要な場合は、反応後の液にrAPid Alkaline Phosphatase(Roche Life Science製)0.5μlを加え、37℃でさらに1時間インキュベートした。
【0155】
[2.3 アガロースゲル電気泳動]
電子レンジで加熱しながら、1×TAEバッファーに1~3%(w/v)のAgarose S(ニッポンジーン製)を溶解させ、ゲルメーカーに流し込み、コームを挿入した。室温で30分間程度静置してゲルを固め、泳動槽に固めたゲルと1×TAEバッファーを入れた。サンプル溶液およびDNAサイズマーカーにローディングバッファーを終濃度が1×以上になる量加えてウェルにアプライし、後にゲルからDNAを抽出する必要がある場合は50Vで1時間程度、ない場合は100Vで30分間程度泳動した。タッパーにゲルが浸る程度の脱イオン水を張って臭化エチジウムを2μl加え、泳動を終えたゲルを入れて20分間程度振盪した。ゲルをUVトランスイルミネータで撮影してバンドを確認し、DNA抽出が必要な場合は目的のバンドを剃刀で切り出した。
【0156】
[2.4 ゲル片からのDNAの抽出]
[2.4.1 NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up(TaKaRa製)を用いた方法]
切り出したアガロースゲルの質量を測定し、ゲル片100mgあたり200μlのBuffer NTI(TaKaRa製)を加えた。切り出したサンプルが複数ある場合は、加えるBuffer NTI(TaKaRa製)の量を最も重いゲル片に合わせた。2~3分間おきにボルテックスしながら、ヒートブロックを用いて50℃で10分間インキュベートし、ゲル片を溶解させた。カラム(NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-up Column、TaKaRa製)を2mlのコレクションチューブにセットし、ゲル片の溶液をアプライした。20℃、11,000×gで30秒間遠心し、濾液を捨てた。Wash Buffer NT3(TaKaRa製)700μlをカラムにアプライし、20℃、11,000×gで30秒間遠心し、濾液を捨てた。カラムに何もアプライせずに20℃、11,000×gで30秒間遠心してメンブレンを乾燥させ、濾液を捨てた。カラムを回収用の新しい1.5mlチューブに移し、滅菌水15μlをアプライした。室温で1分間インキュベートし、20℃、11,000×gで30秒間遠心した。濾液をカラムの上に戻し、20℃、11,000×gで30秒間遠心した。濾液を-20℃で保存した。
【0157】
[2.4.2 Wizzard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega製)を用いた方法]
切り出したアガロースゲルの質量を測定し、ゲル片100mgあたり100μlのMembrane Binding Soultion(Promega製)を加えた。切り出したサンプルが複数ある場合は、加えるMembrane Binding Soultionの体積を最も重いゲル片に合わせた。2~3分間おきにボルテックスしながら、ヒートブロックを用いて55℃で10分間インキュベートし、ゲル片を溶解させた。カラム(SV Column、Promega製)をコレクションチューブにセットし、ゲル片の溶液をアプライした。室温で5分間インキュベートし、4℃、13,000rpmで1分間遠心して濾液を捨てた。Membrane Wash Soultion(EtOH中)700μlをカラムにアプライし、4℃、13,000rpmで1分間遠心して濾液を捨てた。Membrane Wash Soultion(EtOH中)500μlをカラムにアプライし、4℃、13,000rpmで1分間遠心して濾液を捨てた。カラムを回収用の新しい1.5mlチューブに移し、滅菌水15μlをカラムにアプライして室温で1分間インキュベートした。4℃、13,000rpmで1分間遠心した。濾液をカラムに戻し、4℃、13,000rpmで1分間遠心した。濾液を-20℃で保存した。
【0158】
[2.5 In-Fusion(登録商標)反応による線状DNAの連結]
ゲルから抽出したベクター側のDNA溶液およびインサート側のDNA溶液をIn-Fusion(登録商標)反応させた。反応液の組成は5×In-Fusion(登録商標)Mix(TaKaRa製)0.4μl、ベクター側のDNA溶液0.8μl、インサート側のDNA溶液0.8μlを基本としたが、コロニーの形成が少なく再度行う場合は、スケールを大きくしたりインサート側のDNA溶液の割合を大きくしたりした。サーマルサイクラーまたは恒温槽を用いて、50℃で15分間インキュベートした。
【0159】
[2.6 ライゲーション反応による線状DNAの連結]
アガロースゲルから抽出したベクター側のDNA(末端を脱リン酸化済み)溶液0.4μl、インサート側のDNA溶液0.6μl、2×Ligation Mix(NIPPON GENE製)1.0μlを混合し、16℃インキュベータで1時間インキュベートした。
【0160】
[2.7 大腸菌へ形質転換]
1.5 mlチューブ内で、サンプル溶液と10倍量以上のコンピテントセル(XL10-Gold(Agilent Technologies製)またはStable Competent E.coli(New England Biolabs製))とを混合した。氷上で10分間以上静置し、ヒートブロックまたは恒温槽を用いて42℃で30秒間インキュベートし、2分間以上氷冷した。SOC回復培養を行う場合は、菌液にSOC培地を400μl~1ml加え、1.5mlチューブごと50mlチューブに入れ、37℃で1時間以上振盪培養した。培養液を20℃、3,000rpmで5分間遠心し、上清を一部残して捨て、残りは懸濁した。サンプルがアンピシリン耐性遺伝子を持つ場合はアンピシリンを含むLBプレート(以下、「LB+アンピシリンプレート」と称する)に、スペクチノマイシン耐性遺伝子を持つ場合はスペクチノマイシンを含むLBプレート(以下、「LB+スペクチノマイシンプレート」と称する)に菌液を塗り広げ、37℃インキュベータで14~16時間培養した。
【0161】
[2.8 コロニーPCR]
[2.8.1 KOD FX Neoを用いたコロニーPCR]
KOD FX Neo0.16μl、KOD FX Neoのための2×PCR Buffer4.0μl、2mM各dNTP Mix1.6μl、10μMフォワードおよびリバースプライマー各0.24μl、滅菌水1.76μlを混合して反応液を作製した。チップで大腸菌のコロニーをつつき、レプリカプレート(LB+アンピシリンプレート)に触れた後、チップを反応液にしばらく浸けておいた。1つのコロニーから複数のコロニーPCRを行う場合は、コロニーをつついたチップを一度5μlの滅菌水にしばらく浸けて置き、その液を2本のチップで触れ、それぞれのPCR反応液にしばらく浸けた。サーマルサイクラーを用いて、94℃で2分間のプレヒートの後、98℃で10秒間の熱変性、適切な温度で30秒間のアニーリング、68℃で1kbあたり30秒間に予備時間として30秒間を加えた時間の伸長反応、を27サイクル行った後、68℃で2分間のポストヒートを経て、4℃で保存した。産物の全量または一部をアガロースゲルで電気泳動し、目的の長さのバンドが出ていることを確認した。
【0162】
[2.8.2 SapphireAmp(登録商標)Fast PCR Master Mix(TaKaRa製)を用いたコロニーPCR]
2×SapphireAmp(登録商標)Fast PCR Master Mix(TaKaRa製)4.0μl、10μMフォワードおよびリバースプライマー各0.16μl、滅菌水3.68μlを混合した。KOD FX Neoを用いる場合と同様の操作で、大腸菌のコロニーを添加し、レプリカプレートでクローンを生育させた。サーマルサイクラーを用いて、94℃で2分間のプレヒートの後、98℃で10秒間の熱変性、60~66℃(プライマーにより異なる)で5秒間のアニーリング、72℃での1kbあたり10秒間に予備時間として30秒間を加えた時間の伸長反応、を27サイクル行った後、72℃で2分間のポストヒートを経て、4℃で保存した。産物の全量または一部をアガロースゲルで電気泳動し、目的の長さのバンドが出ていることを確認した。
【0163】
[2.9 大腸菌の少量培養]
試験管に入ったLB液体培地3mlに、サンプルがアンピシリン耐性遺伝子を持つ場合は25mg/mlアンピシリン12~30μlまたは10mg/mlカルベニシリン30μl、スペクチノマイシン耐性遺伝子を持つ場合は10mg/mlスペクチノマイシン20μlを加えた。コロニーPCRによって目的のバンドが得られたクローンの、レプリカプレートのコロニーをチップでつつき、チップごと試験管内の培地に落とした。既存のプラスミドを再増幅する場合は、複数のコロニーをチップでかき集め、チップごと試験管内の培地に落とした。試験管を37℃で14~16時間振盪培養した。
【0164】
[2.10 大腸菌からのプラスミドの少量調製]
[2.10.1 少量培養からの大腸菌ペレットの作製]
少量培養の培養液(3ml)を、1.5mlチューブに入るだけ入れ、4℃、13,000rpmで1分間遠心した。上清を捨て、培養液の残りをチューブに入れ、4℃、13,000rpmで1分間遠心した。上清を捨て、次の処理に進むか、-20℃で一時的に保存した。
【0165】
[2.10.2 GenElute(商標)Plasmid Miniprep Kit(Sigma-Aldrich製)によるプラスミドの少量調製]
4℃で冷却した、RNase Aを含むResuspension Solution(Sigma-Aldrich製)200μlを加え、ボルテックスで沈殿を懸濁した。Lysis Solution(Sigma-Aldrich製)200μlを加えて転倒混和し、室温で3分間静置した。Neutralization/Binding Buffer(Sigma-Aldrich製)350μlを加えて転倒混和し、4℃、13,000rpmで10分間遠心した。ライセートの遠心中に、カラムを準備するため、コレクションチューブにカラムをセットし、Column Preparation Solution(Sigma-Aldrich製)500μlをカラムにアプライして4℃、13,000rpmで1分間遠心した。濾液を捨て、遠心したライセートの上清をカラムにアプライして4℃、13,000rpmで1分間遠心し、濾液を捨てた。Wash Solution 1(Sigma-Aldrich製)500μlをカラムにアプライして4℃、13,000rpmで1分間遠心し、濾液を捨てた。EtOHを含むWash Solution 2(Sigma-Aldrich製)750μlをカラムにアプライして4℃、13,000rpmで1分間遠心し、濾液を捨てた。カラムに何もアプライせずに、4℃、13,000rpmで1分間遠心し、メンブレンを乾燥させた。カラムを回収用の1.5mlチューブに移し、Elution Buffer(Sigma-Aldrich製)40μlをアプライして4℃、13,000rpmで1分間遠心した。濾液をカラムに戻し、4℃、13,000rpmで1分間遠心した。濾液を保存した。
【0166】
[2.10.3 プラスミドの濃度・体積の測定と調整]
少量調製したプラスミド溶液をNanoDrop(NanoDrop Technologies製)に1μlアプライし、DNA濃度を測定した。残りの溶液を200μlピペットマンで全量吸い、ダイヤルを回して空気を抜くことで、体積を測定した。これらの結果をもとに、DNA濃度が200ng/μl(測定結果が200ng/μl以下の場合は100ng/μl)にするために必要な滅菌水の量を計算して加え、希釈した。
【0167】
[2.11 シーケンス解析]
[2.11.1 ABIシーケンスによる解析]
[2.11.1.1 サイクルシーケンス反応]
プラスミド400ng、BigDye(登録商標)Terminator Ready Reaction Mix(Applied Biosystems製)1.0μl、5×Sequence Buffer(Applied Biosystems製)1.5μl、3.2μMプライマー1.0μl、全量が10μlとなるように滅菌水を混合した。サーマルサイクラーを用いて、96℃で1分間のプレヒートの後、96℃で10秒間の熱変性、50℃で5秒間のアニーリング、60℃で4分間の伸長反応、を25サイクル行い、4℃で保存した。
【0168】
[2.11.1.2 サイクルシーケンス反応物の精製]
この操作は、なるべく遮光しながら行った。操作の直前に3mM酢酸ナトリウムと500mMEDTAとを混合し、1.5mM酢酸ナトリウム/250mMEDTAを作製した。サイクルシーケンス反応物(10μl)と、1.5mM酢酸ナトリウム/250mMEDTA1.0μlを混合した。100%エタノール40μl加え、ボルテックスで懸濁した。室温で15分間静置し、20℃、14,500rpmで15分間遠心した。デカントで上清を捨て、70%エタノール100μlを加えて転倒混和し、20℃、14,500rpmで5分間遠心した。デカントで上清を捨て、再び70%エタノール100μlを加えて転倒混和し、20℃、14,500rpmで5分間遠心した。上清を丁寧に取り除き、10分間程度真空乾燥させた。
【0169】
[2.11.1.3 ホルムアミド処理とABIシーケンス解析]
精製して真空乾燥させたサイクルシーケンス反応物に、Hi-Diホルムアミド20μlを加えた。そのうちの10μlを96ウェル-プレートに分注し、サーマルサイクラーを用いてプレートごと95℃で2分間インキュベートして氷冷した。尚、ヒートブロックを用いて先に熱処理を行ってからプレートに分注した場合がある。プレートを氷冷・遮光しながら遺伝子実験施設に運び、ジェネティックアナライザ3130×1(Applied Biosystems製)にかけ、シーケンス解析を行った。
【0170】
[2.11.2 外注によるシーケンス解析]
プラスミド400 ng、3.2μMプライマー2.0μl、滅菌水10μlを96ウェルプレートで混合し、FASMACにシーケンス解析を依頼し、シーケンス解析を行った。
【0171】
[3 sgRNA2.0およびdCas9、ならびに、sgRNA2.0およびdCas9-VP64オールインワン発現ベクターの作製]
scaffoldの領域にMS2ステムループを有する複数のsgRNA発現カセットと-dCas9またはdCas9と転写活性化因子との融合体の発現カセットとが統合されたオールインワン発現ベクターを作製した(図3の(a))。
【0172】
[3.1 STEP1用 pX330A-MS2-1×n-dCas9-VP64およびpX330S-MS2-2~7の作製]
〔3.1.1 pX330A-MS2-1×nの作製〕
通常のsgRNAおよびCas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および2を有するプラスミド(pX330A-1×2、Addgene #58766)から、インバースPCRにより増幅した、Cas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および2を有するベクター側のテンプレートと、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAの発現カセットを有するプラスミド(sgRNA(MS2) cloning backbone(Addgene #61424))から、PCRにより増幅した、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAの発現カセットを有するインサート側のテンプレートを、In-Fusion(登録商標)により連結し、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAおよびCas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および2を有するプラスミド(pX330A-MS2-1×2)を作製した。上記で作製したpX330A-MS2-1×2から、XhoIおよびBglIIにより切り出した、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAの発現カセットおよびBsaIの切断配列1を有するベクター側のテンプレートと、通常のsgRNAおよびCas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および3、4、5、6、または7を有するプラスミド(pX330A-1×3~7、Addgene #58767~58771)から、XhoIおよびBglIIにより切り出した、Cas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列3、4、5、6、または7を有するインサート側のテンプレートを、ライゲーションにより連結し、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAおよびCas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および3、4、5、6、または7を有するプラスミド(pX330A-MS2-1×3~7)を作製した。
【0173】
〔3.1.2 pX330A-MS2-1×n-dCas9-VP64の作製〕
通常のsgRNAおよびdCas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および5を有するプラスミド(pX330A-dCas9-1×5、Addgene #63599)をインバースPCRすることにより、dCas9の下流側を開いたベクター側のテンプレートに、VP64配列をIn-Fusion(登録商標)によって連結し、通常のsgRNAおよびdCas9-VP64の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および5を有するプラスミド(pX330A-1×5-dCas9-VP64)を作製した。上記で作製したpX330A-1×5-dCas9-VP64を、BsaIの切断配列2、3、4、6、または7を有する配列を5’側に付加したプライマーを用いて、BsaIの切断配列5を除くようなインバースPCRによって開き、In-Fusion(登録商標)により自己閉環させ、通常のsgRNAおよびdCas9-VP64の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および2、3、4、6、または7を有するプラスミド(pX330A-1×2~4、6、7-dCas9-VP64)を作製した。上記で作製したpX330A-MS2-1x2から、NotIおよびXhoIにより切り出した、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAの発現カセットおよびBsaIの切断配列1を有するベクター側のテンプレートと、上記で作製したpX330A-1×2~7-dCas9-VP64から、NotIおよびXhoIにより切り出した、dCas9-VP64の発現カセットおよびBsaIの切断配列2、3、4、5、6、または7を有するインサート側のテンプレートを、ライゲーションによって連結し、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAおよびdCas9-VP64の発現カセットおよびBsaIの切断配列1および2、3、4、5、6、または7を有するプラスミド(pX330A-MS2-1×2~7-dCas9-VP64)を作製した。
【0174】
〔3.1.3 pX330S-MS2-2~7の作製〕
通常のsgRNAおよびCas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列2を有するプラスミド(pX330S-2、Addgene #58778)からPCR増幅した、Cas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列を有するベクター側のテンプレートと、sgRNA(MS2) cloning backbone(Addgene #61424)からPCR増幅した、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAの発現カセットを有するインサート側のテンプレートを、In-Fusion(登録商標)によって連結し、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAおよびCas9の発現カセットおよびBsaIの切断配列2を有するプラスミド(pX330S-MS2-2)を作製した。上記で作製したpX330S-MS2-2を、BsaIの切断配列3、4、5、6、または7を有する配列を5’側に付加したプライマーを用いて、BsaIの切断配列2を除くようなインバースPCRによって開き、In-Fusion(登録商標)により自己閉環させ、ScaffoldにMS2ステムループを有するsgRNAおよびdCas9-VP64の発現カセットおよびBsaIの切断配列3、4、5、6、または7を有するプラスミド(pX330S-MS2-3~7)を作製した。
【0175】
[3.2 Webツールを活用したsgRNAの設計]
sgRNAの設計を所望する範囲の塩基配列をCRISPR-Direct(https://crispr.dbcls.jp/)に入力し、候補となるsgRNAを出力させた。それらがゲノム上のどの配列にどの程度作用しやすいかを、COSMID(https://crispr.bme.gatech.edu/)によって調べた。オフターゲット効果を回避するために、小さい値ほど作用しやすいことを示すパラメータが、標的以外の配列で0.5以上のものを採用した。
【0176】
[3.3 STEP1:各sgRNA発現カセットの作製]
オールインワン発現ベクターに統合する各sgRNA発現カセットを、まずは別々のベクター上で作製した。n個のsgRNA発現カセットを連結させる場合、1個目のテンプレートを、上記の項目で作製したpX330A-MS2-1×n-dCas9、pX330A-MS2-1×n-dCas9-VPRおよび本発明者の研究室に既存のpX330A-MS2-1×n-dCas9-VP64に、2~n個目のテンプレートを本発明者の研究室に既存のpX330S-MS2-2~nにそれぞれ挿入した。
【0177】
[3.3.1 標的配列のテンプレート用オリゴDNAのアニーリング]
sgRNAの標的配列のテンプレート用に注文した、センス鎖とアンチセンス鎖のオリゴDNA(100μM)各0.5μl、10×アニーリングバッファー1.0μl、滅菌水8.0μlを混合した。サーマルサイクラーを用いて、95℃で5分間インキュベートした後、スロープ機能によって90分かけて25℃まで温度を下げ、2つのオリゴDNAをアニーリングさせた。使用したオリゴDNAの配列を表1に示す。
【0178】
【表1】
【0179】
[3.3.2 sgRNA発現カセットへのテンプレートの挿入]
50ng/μlベクター0.3μl、アニーリングさせたオリゴDNA0.5μl、BpiI0.1μl、Quick Ligase0.1μl、10×T4 Ligase Buffer0.2μl、滅菌水0.8μlを混合した。37℃で5分間の制限酵素反応後、16℃で10分間のライゲーション反応を1サイクルとして、サーマルサイクラーを用いて3サイクル行い、4℃で保存した。反応液(2.0μl)に、BpiI0.1μl、10×Buffer G0.2μlを加え、サーマルサイクラーを用いて37℃で60分間インキュベートしてライゲーションが起こらなかったベクターを切断した。その後、80℃で5分間インキュベートして酵素を失活させ、4℃で保存した。反応液を大腸菌に形質転換し、1つ目のテンプレートのものはLB+アンピシリンプレート上、2~n個目のテンプレートのものはLB+スペクチノマイシンプレート上にコロニーを形成させた。コロニーをLB培地に移してプラスミドを抽出した。
【0180】
[3.3.3 BpiI処理によるテンプレートの挿入の確認]
テンプレートを挿入したプラスミドまたは挿入前のプラスミドをBpiIで1時間処理し、反応液を1%のアガロースゲルで電気泳動した。BpiIは、DNAの認識配列と切断箇所が異なり、テンプレート挿入後は、BpiIの認識配列が失われるように設計されている。したがって、BpiIによる切断が起こらないことで、テンプレートが挿入されたことを確認した。また、テンプレートを挿入する前のプラスミドがBpiIで切断されることで、制限酵素処理を正しく行えたことを確認した。
【0181】
[3.4 Golden-Gate AssemblyによるsgRNA発現カセットの連結]
2個目以降のsgRNA発現カセットを、1個目のsgRNA発現カセットとdCas9発現カセットとを有するベクター、および1個目のsgRNA発現カセットとdCas9-Effector発現カセットとを有するベクターに挿入・統合した。
【0182】
[3.4.1 Golden-Gate Assemblyおよび形質転換]
テンプレートを挿入した5ng/μlのpX330A-MS2-1×n-dCas9(またはpX330A-MS2-1×n-dCas9-VP64、pX330A-MS2-1×n-dCas9VPR)0.3μl、テンプレートを挿入した100ng/μlのpX330S-MS2-2~n各0.3μl、BsaI-HF0.2μl、Quick Ligase0.2μl、10×T4 Ligase Buffer0.4μl、全量が4.0μlとなるように滅菌水を混合した。37℃で5分間の制限酵素反応後、16℃で10分間のライゲーション反応を1サイクルとして、サーマルサイクラーを用いて、sgRNA発現カセットを2個連結させる場合は6サイクル、4個連結させる場合は25~35サイクル行い、4℃で保存した。反応液を大腸菌に形質転換し、SOC培地75μl、IPTG5.0μl、x-gal20μlをあらかじめ塗り広げたLB+アンピシリンプレートに塗り広げ、37℃で16時間インキュベートした。
【0183】
[3.4.2 コロニーPCRによる、sgRNA発現カセットの連結の確認]
pX330A-MS2-1×n-dCas9(dCas9-VP64-VPR)は、大腸菌内でLacZ遺伝子を発現し、X-galを含む培地からは青色のコロニーが形成される。一方、これにsgRNA発現カセットが挿入されると、LacZ遺伝子が分断されて機能しなくなり、白色のコロニーが形成される。白色のコロニーに対し、sgRNA発現カセットが並ぶ領域を挟むようなプライマーペアを用いて、アニーリング温度66℃でコロニーPCRを行い、1~1.8%のアガロースゲルで電気泳動した。そのバンドの長さから、目的の個数のsgRNA発現カセットが入っていることを確認した。確認できたクローンからプラスミドを抽出した。
【0184】
[4 MS2-22sTag発現ベクターの作製]
[4.1 MS2-4×および8×22sTag発現ベクターの作製]
まず、MS2に従来型のSunTagが連結したものを発現するベクター(MS2-10×SunTag)を作製した。MS2-10×SunTagベクターは、CMVプロモーターとpolyA付加配列を有するベクター(ptCMV-136/63-VR-NG、Addgene #50700)に、コード配列としてMS2部分をMS2-P65-HSF1_GFP(Addgene #61423)より、10×SunTag部分をpHRdSV40-dCas9-10xGCN4_v4-P2A-BFP(Addgene #60903)よりそれぞれ増幅してIn-Fusion(登録商標)によって挿入することで作製した。その後、10×SunTagの配列を、4×および8×22sTagの配列にそれぞれ置換した(図3の(b))。
【0185】
[4.1.1 In-Fusion(登録商標)による、10×SunTag配列から4×22sTagおよび8×22sTagへの置換]
MS2-10×SunTagから10×SunTagの領域を除くようなプライマーを設計し、アニーリング温度67℃、35サイクルでインバースPCRを行い、ベクター側の配列を増幅した。また、異なるプライマーの組み合わせにより、MS2-4×22sTag用、MS2-8×22sTagの1~4番目用およびMS2-8×22sTagの5~8番目用の計3種類のインサート配列を人工合成(IDT、gBlock(登録商標))した4×22sTagから、アニーリング温度63℃、25サイクルでPCR増幅した。MS2-4×22sTagについては、5×In-Fusion(登録商標)Mix1.0μl、ベクター側DNA溶液1.6μl、インサート側DNA溶液1.6μlを混合した。各反応液を電気泳動してバンドを切り出し、DNAを抽出した。MS2-8×22sTagについては、5×In-Fusion(登録商標)Mix1.0μl、ベクター0.5μl、1~4番目のTagのインサート3.0μl(バンドのシグナルが弱かったため、増量)、5~8番目のTagのインサート0.5μlを混合した。それぞれIn-Fusion(登録商標)反応を行い、大腸菌に形質転換した。使用したプライマーを表2に示す。
【0186】
【表2】
【0187】
[4.1.2 コロニーPCRによるスクリーニング]
インサートの4×および8×22sTagは、似たような配列の繰り返しになっているため、組み換えによってTagの数が変わる可能性がある。そのため、インサート領域を挟むようにベクター側に設計したプライマーペアを用い、アニーリング温度60℃でコロニーPCRを行った。2%のアガロースゲルで産物を電気泳動し、目的の長さとみられるバンドが得られたクローンからプラスミドを抽出した。
【0188】
[4.1.3 制限酵素処理によるスクリーニング]
抽出したプラスミドをSacI(ベクター側とインサート側の両方を切断)で一晩処理し、1.6%アガロースゲルで電気泳動して目的のバンドが出ていることを確認した。結果を図4に示す。
【0189】
[4.1.4 シーケンス解析によるIn-Fusion(登録商標)領域およびインサートの配列の確認]
2箇所のIn-Fusion(登録商標)領域からそれぞれ200bp程度離れたベクター側の領域に、In-Fusion(登録商標)領域に向かう方向のプライマーを設計し、シーケンス解析を行った。解析の結果、全てのサンプルにおいて、最後のTagとNLS配列を繋ぐリンカーに51bpの挿入が入っていた。後に、In-Fusion(登録商標)のプライマー設計を誤っていたことがわかり、これが原因と考えられた。しかし、51bp内に終止コドンはなく、フレームシフトも起こらないため、機能性には影響しないと判断し、そのまま使用することにした。実際に使用したところ、機能性は確認できた。
【0190】
[4.2 MS2-16×および24×22sTag発現ベクターの作製]
上記項目のMS2-8×22sTagに8×22sTagの配列を1個または2個挿入し、MS2-16×および24×22sTagを発現するベクターを作製した(図3(b))。
【0191】
[4.2.1 In-Fusion(登録商標)による配列の挿入]
ベクター側の増幅には、MS2-8×22sTagの下流を開くようなプライマーを設計した。また、インサート側の増幅には、In-Fusion(登録商標)用の付加配列をつけて、MS2-8×22sTagから8×22sTagを増幅するためのプライマーを、MS2-16×22sTag用、MS2-24×22sTagの9~16番目用およびMS2-24×22sTagの17~24番目用にそれぞれ設計した。これらを用いて、アニーリング温度67℃、25サイクルでPCR増幅した。各反応液を電気泳動してバンドを切り出し、DNAを抽出した。MS2-16×22sTagについては、ベクター側溶液とインサート側溶液を体積比1:1、MS2-24×22sTagについては、ベクター側溶液と2種類のインサート側溶液を2:1:1で混合し、In-Fusion(登録商標)反応を行って大腸菌に形質転換した。
【0192】
[4.2.2 コロニーPCRによるスクリーニング]
MS2-4×および8×22sTagと同様の手法で、コロニーPCRを行った。1%のアガロースゲルで産物を電気泳動した。バンドが不明瞭であったため、目的の長さのバンドが出ている可能性のあるクローンからプラスミドを抽出した。
【0193】
[4.2.3 制限酵素処理によるスクリーニング]
抽出したプラスミドをNotI(n×22sTagの両側を切断)で一晩処理して1%のアガロースゲルで電気泳動し、目的のTagの数に一致する長さのバンドが出ていることを確認した(図4)。
【0194】
[4.2.4 シーケンス解析によるIn-Fusion(登録商標)領域の配列の確認]
最も3’側のIn-Fusion(登録商標)配列は、ベクター側のプライマーを用いたシーケンス解析によって確認した。残り1箇所または2箇所のIn-Fusion(登録商標)領域は、22sTagの繰り返し配列の中に存在する。そこで、8×22sTag1個あたり2箇所で切断するBssHIIで一晩処理して電気泳動し、In-Fusion(登録商標)領域を含む長さのバンドを切り出してDNAを抽出した。その中にはベクター内の複数箇所の断片が入っているが、すべて同じ配列であるため、まとめてシーケンス解析を行い、In-Fusion(登録商標)配列に変異がないことを確認した。また、読める範囲でその他の領域の配列も確認した。
【0195】
[5 MS-EffectorおよびscFv-Effector発現ベクターの作製]
MS2-p65-HSF1(Addgene #61423)をCMV発現ベクターにクローニングしてMS2-p65-HSF1の発現ベクターを作製した。CMV発現ベクターにクローニングしたMS2-p65-HSF1のp65-HSF1を、VPR(VP64-p65-Rta)(Addgene #63798)に置換して、MS2-VPRの発現ベクターを作製した。scFv-sfGFP-VP64-GB1(Addgene #60904)をCMV発現ベクターにクローニングしてscFv-sfGFP-VP64-GB1の発現ベクターを作製した。CMV発現ベクターにクローニングしたscFv-sfGFP-VP64-GB1のVP64を、p65-HSF1およびVPRにそれぞれ置換し、scFv-sfGFP-p65-HSF1-GB1およびscFv-sfGFP-VPR-GB1の発現ベクターを作製した(図3の(c))。
【0196】
[6 ルシフェラーゼレポーターベクターの作製]
標的遺伝子のプロモーター配列および5’UTR配列の下流に、Luc2のcDNA(Promega製)を連結した(図5の(b)および図18の(b))。
【0197】
[6.1 培養細胞からのゲノムの抽出]
[6.1.1 細胞の回収]
上記のMIA-PaCa2細胞の継代と同様の操作を遠心後の懸濁まで行った。懸濁液10μlを細胞計測スライドにアプライし、Cell Counterで細胞の濃度を測定した。後述のキットで処理の限界とされている5×10cells以下になるように、懸濁液を1.5mlチューブにとり、20℃、1,000rpmで3分間遠心して上清を捨てた。PBS(-)1mlを加えて懸濁し、20℃、1,000rpmで3分間遠心して上清を捨てた。沈殿をPBS(-)200μlに懸濁した。
【0198】
[6.1.2 DNeasy Blood & Tissue kit(Quiagen製)による、細胞からのゲノムの抽出]
細胞懸濁液にProteinase K(Quiagen製)20μlとBuffer AL(Quiagen製)200μlとを加え、ボルテックスで懸濁した。恒温槽を用いて、56℃で10分間インキュベートした。100% EtOH200μlを加えてボルテックスで懸濁し、2mlコレクションチューブにセットされたカラム(DNeasy Mini Spin Column、Quiagen製)にアプライした。20℃、8,000rpmで 1分間遠心し、溶出液を捨てた。EtOHを含むBuffer AW1(Quiagen製)500μlをカラムにアプライし、20℃、8,000rpmで1分間遠心して濾液を捨てた。EtOHを含むBuffer AW2(Quiagen製)500μlをカラムにアプライし、20℃、14,000rpmで3分間遠心し、濾液を捨てた。カラムに何もアプライせずに20℃、14,000rpmで3分間遠心し、メンブレンを乾燥させた。カラムを回収用の1.5mlチューブに移してBuffer AE(Quiagen製)50μlをアプライし、20℃、8,000rpmで1分間遠心した。濾液をカラムに戻し、20℃、8,000rpmで1分間遠心した。上記のプラスミドの濃度調整と同様の手法でDNAの濃度と体積の測定を行い、100ng/μlになるように滅菌水を加えて希釈した。
【0199】
[6.2 In-Fusion(登録商標)による配列の置換]
pminCMV-Luc2からpminCMVの配列を除くようなプライマーにIn-Fusion(登録商標)用の付加配列をつけたものを用い、アニーリング温度62℃、35サイクルでインバースPCRを行い、ベクター側の配列を増幅した。また、標的遺伝子のプロモーター配列(最上流の標的配列から開始コドンの直上流まで)を増幅するプライマーを設計し、HEK293T細胞から抽出したゲノムから、アニーリング温度68℃、35サイクルでPCRを行い、インサート側の配列を増幅した。各反応液を電気泳動してバンドを切り出し、DNAを抽出した。ベクター側とインサート側のDNA溶液を混合してIn-Fusion(登録商標) 反応を行い、大腸菌に形質転換した。
【0200】
[6.3 コロニーPCR によるスクリーニング]
ベクター側とインサート側に片方ずつ設計したプライマーペアを用いてコロニーPCRを行った。産物を電気泳動し、目的の長さのバンドが出ていることを確認した。確認できたクローンからプラスミドを抽出した。
【0201】
[6.4 制限酵素処理によるスクリーニング]
pCDH1-Luc2はEcoT14I、pRANKL-Luc2はSacIで処理し(いずれもベクター領域とインサート領域をそれぞれ1箇所以上切断)、反応液を電気泳動して目的の長さのバンドが出ていることを確認した。
【0202】
[6.5 シーケンス解析による配列の確認]
インサート領域を挟むようにベクター側に設計したプライマーから配列を読み、In-Fusion(登録商標)領域およびインサートの配列が正しいことを確認した。1塩基単位でデータベースと異なる配列が複数箇所見られたが、標的とする場所ではないため、そのまま用いることにした。
【0203】
[7 ルシフェラーゼレポーターアッセイ]
上記で構築したシステムが機能しているかどうかをルシフェラーゼレポーターアッセイによって調べた。
【0204】
[7.1 細胞へのトランスフェクション]
6で作製したルシフェラーゼレポーターベクター100ng、補正用のR-Luc発現ベクター20ngと、構築したシステムの発現ベクターの全量100ngとを、1.2の手法で、6.0×10細胞に導入した。
【0205】
[7.2 Dual-Glo(登録商標)Luciferase Assay System(Promega製)による活性の測定]
培養プレートの各ウェルの培地150μlのうち75μlを除去し、Luciferase substrate(Dual-Glo(登録商標)Luciferase buffer(Promega製)中)75μlを加えた。遮光して10分間以上静置し、TriStar LB941 Multimode Mikroplattenleser(Berthold Technologies製)を用いてルシフェラーゼの活性を測定した。続いてR-Luc substrate(Dual-Glo(登録商標)Stop % Glo(登録商標)buffer(Promega製)中)を75μl加えて遮光しながら10分間以上静置した。その後、TriStar LB941でR-Lucの活性を測定し、Luciferaseの活性を補正した。
【0206】
[8 内在遺伝子に対するmRNA発現誘導の評価]
上記で構築したシステムの内在遺伝子座に対してのmRNAレベルでの転写誘導活性について、リアルタイムPCRによる評価を行った。
【0207】
[8.1 細胞へのトランスフェクション]
上記で構築したシステムの発現ベクターの全量200ngを、1.2の手法で3.0×10細胞に導入した。
【0208】
[8.2 SuperPrep(登録商標)Cell Lysis Kit for qPCR(東洋紡製)による、細胞からのcDNAの合成]
[8.2.1 細胞ライセートの作製]
96ウェルプレートで培養中の細胞の培地を除き、PBS100μlを入れた。PBSを吸引し、Lysis Solution(東洋紡製)49.7μlとgDNA Remover(東洋紡製)0.3μlの混合液を加えて室温で5分間インキュベートし、細胞の破砕とゲノムDNAの分解を行った。Stop Solution(東洋紡製)9.5μlとRNase inhibitor(東洋紡製)0.5μlとの混合液を加えて溶解反応を止め、室温で2分間以上インキュベートし、氷上に置いた。
【0209】
[8.2.2 RT-PCR]
5×RT Master Mix(東洋紡製)8.0μl、Nuclease-free Water24μl、ライセート8.0μlを混合した。no-RT Controlをとる場合は、5×no-RT8.0 μl、Nuclease-free Water24μl、ライセート8.0μlを混合した。サーマルサイクラーを用いて、37℃で15分間、50℃で5分間、98℃で5分間反応させ、4℃で保存した。その後、-20℃に移した。
【0210】
[8.3 リアルタイムPCR]
[8.3.1 反応液の調製]
テンプレートは、Standard Sample(検量線)、Unknown Sample、Negative Controlの3つに分けられる。Standard Sampleには、その遺伝子がある程度発現している細胞のcDNAを用い、ない場合は最も発現が上昇すると期待されるサンプルのcDNAを用いた。2~10分の1ずつ段階的に希釈し、6点プロットして検量線を作製した。Unknown Sampleは、測定したいサンプルのcDNAを、CT値が検量線のプロットの中に収まるように、適宜RNase-free waterを希釈して用いた。Negative ControlにはRNase-free waterおよびno-RT Controlを用い、no-RT ControlはUnknown Sampleと同じ倍率で希釈した。2×KOD SYBR(登録商標)qPCR Mix(東洋紡製)10μl、50×Rox Reference Dye(東洋紡製)0.4μl、10μMフォワードおよびリバースプライマー各0.2μl、テンプレート1.0μl、RNase-free water8.2μlを混合した。使用したプライマーを表3に示す。
【0211】
【表3】
【0212】
[8.3.2 StepOnePlus(商標)Real-time PCR System(Applied Biosystems製)によるリアルタイムPCR]
98℃で2分間のプレヒートの後、98℃で10秒間の熱変性、検討した温度で10秒間のアニーリング、68℃で30秒間の伸長反応を40サイクル行った。各サイクルにおいて、伸長反応時にインターカレーターの蛍光強度を測定した。40サイクルの後、融解曲線分析を、95℃で15秒間、60℃で1分間、95℃で15秒間の条件で行った。60℃から95℃へ温度を上げる過程で蛍光強度を段階的に測定することで、目的以外の配列が増幅されていないことを確認した。測定終了後、標的遺伝子の発現量をInternal controlのRPL8の発現量で割り、補正した。
【0213】
[9 免疫染色]
MIA-PaCa2細胞でのCDH1遺伝子について、上記で構築したシステムによってタンパク質(E-Cadherin、Abcam製(ab40772))が発現したかどうかを、免疫染色によって評価した。
【0214】
[9.1 細胞へのトランスフェクション]
上記で構築したシステムの発現ベクターの全量200ngを、1.2の手法で6.0×10細胞に導入した。
【0215】
[9.2 96ウェルプレートから24ウェルプレートへの移動]
トランスフェクションから24時間経過後、ウェルから培地を除き、0.25%トリプシンを含むEDTA-PBS(-)50μlを加え、37℃、5%COインキュベータで3分間反応させた。完全培地を150μl加えて反応を止め、あらかじめ300μlの完全培地を入れておいた24ウェルプレートに全量を加えた。37℃インキュベータに入れて培養した。また、24時間経過後に培地を交換した。
【0216】
[9.3 免疫染色]
トランスフェクションから72時間経過後、ウェルから培地を除去し、1×PBS(-)1mlで細胞を2回洗浄した。4%パラホルムアルデヒド250μlを入れて15分間静置し、細胞を固定した。1×PBS(-)1mlで3回洗浄し、1% Triton X-100を含むPBS(-)250μlを入れて20分間静置し、細胞を透過処理した。1% PBS(-)で5回洗浄し、1% BSAを含むPBS250μlを入れて1時間静置し、ブロッキングした。一次抗体反応液(1% BSAを含むPBS中、1:100)200μlを入れ、4℃で一晩反応させた。1×PBS(-)で5分間×3回洗浄し、蛍光物質がコンジュゲートされた二次抗体の反応液(Alexa647-conjugated anti-rabbit secondary antibody(Thermo Fisher Scientific製)、BSAを含むPBS中、1:1,000)200μlを入れ、室温で1時間反応させた。1×PBS(-)で3回洗浄し、DAPI(1×PBS(-)中、1:100)200μlを入れ、室温で15分間反応させた。1×PBS(-)で2回洗浄した。PBSが入っている状態で、OLYMPUS FV-1000共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0217】
[10 ウエスタンブロッティング]
上記で構築したシステムによって標的の遺伝子がタンパク質レベルで発現したかどうかを、ウエスタンブロッティングによって評価した。
【0218】
[10.1 細胞へのトランスフェクション]
96ウェルプレートの4ウェル分を1つのサンプルの単位とした。1ウェルあたり、構築したシステムの発現ベクターの全量200ngを、1.2の手法で6.0×10細胞に導入した。
【0219】
[10.2 96ウェルプレートから6ウェルプレートへの移動]
トランスフェクションから24時間経過後、8.2と同様の手法でウェルから細胞を剥がした。6ウェルプレートに完全培地を1.2ml入れ、96ウェルプレートの4ウェル分の細胞懸濁液を加えた。37℃インキュベータに入れて培養した。また、24時間後に培地を交換した。
【0220】
[10.3 タンパク質サンプルの調製]
[10.3.1 細胞からのタンパク質の抽出]
トランスフェクションから72時間経過後、ウェルから培地を除き、1×PBS(-)1mlで2回洗浄した。Lysis Buffer(50mMTris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、1% Triton X-100、1×Protease inhibitor cocktail(Roche製))60μlを入れ、セルスクレーパーで細胞を剥がし、1.5mlチューブに回収した。チューブを氷冷しながら超音波を10回フラッシュし、4℃、12,000rpmで1分間遠心した。上清を新しい1.5mlチューブに回収し、-70℃で保存した。
【0221】
[10.3.2 タンパク質濃度の測定]
Protein assay溶液と5倍量のMilli-Q水とを混合し、4℃、3,000rpmで5分間遠心した。上清500μlとタンパク質溶液5μlを混合して室温で5分間静置し、分光光度計で595nmの吸光度を測定した。このとき、0.5μg/mlまでの様々な濃度のBSAを含むPBSの吸光度も測定して検量線を作成した。また、タンパク質サンプルは検量線のプロットの範囲に収まるように適宜1×PBS(-)で希釈して測定した。
【0222】
[10.4 ウエスタンブロッティング]
[10.4.1 SDS-PAGE]
Separation gel buffer(10% Acrylamide、380mM Tris-HCl(pH8.8)、0.1% SDS、0.1% APS)を作製し、TEMED6.0μlを加えてガラス板に流し込んだ。上から滅菌水1mlを注いで空気との接触による重合阻害を防ぎ、室温で1時間または37℃で15分間静置し、4℃で一晩保存した。滅菌水を除いてStacking gel buffer(4.9% Acrylamide、125mM Tris-HCl(pH6.8)、0.1% SDS、0.1% APS)を作製し、TEMED8.0μlを加えてStacking gelの上に流した。コームを挿入し、室温で1時間または37℃で30分間静置した。その間に、濃度を調製したタンパク質溶液に1/3倍量の4×サンプルバッファー(250mM Tris-HCl(pH6.8)、8% SDS、40% Glycerol、0.02% BPB(ブロモフェノールブルー)、40mM DTT(ジチオスレイトール))を加え、ヒートブロックを用いて98℃で5分間熱処理した。完成したゲルを、下層に1×ランニングバッファー(25mM Tris、192mM Glycine、0.1% SDS)を適量入れた泳動装置に設置し、上層にも1×ランニングバッファーを入れた。コームを外してウェルを清掃し、目的に応じた量のタンパク質サンプルまたはタンパク質サイズマーカー2.5μlをアプライした。また、空のレーンには4×サンプルバッファー2.5μlをアプライした。泳動装置を電源装置に繋ぎ、定電流10mA/gelで180分間泳動した。
【0223】
[10.4.2 PVDFメンブレンへのブロッティング]
PVDFメンブレンを100%メタノールに5分間浸し、続いて1×ブロッティングバッファー(48mM Tris、39mM グリシン、0.037% SDS、27% メタノール)に10分間浸して活性化した。負電極の上に、1×ブロッティングバッファーで湿らせた濾紙3枚、活性化したPVDFメンブレン、泳動を終えたSeparation gel、1×ブロッティングバッファーで湿らせた濾紙3枚の順にのせ、上から正電極をのせた。電極を電源装置に繋ぎ、定電流150mA/gelで90分間通電した。
【0224】
[10.4.3 抗体反応]
ブロッティングを終えたメンブレンを、5%のスキムミルクを含むPBSに浸し、1時間振盪し、ブロッキングした。メンブレンを1×PBST(1×PBS、0.05% Tween-20)で2回リンスし、さらに15分間×1回、5分間×2回振盪洗浄した。ハイブリバッグにメンブレンを挟み、一次抗体反応液(Can Get Signal(登録商標)Solution 1(東洋紡製)中、1:1000)3mlとともに封入した。4℃で一晩反応させた。翌日、メンブレンを1×PBSTで5分間×3回振盪洗浄し、ハイブリバッグに挟んで二次抗体反応液(Can Get Signal(登録商標)Solution 2(東洋紡製)中、1:250)3mlとともに封入した。室温で1時間反応させた。
【0225】
[10.4.4 バンドの検出]
二次抗体反応を終えたメンブレンを1×PBSTで5分間×3回振盪洗浄してパラフィルムの上に置き、SuperSignal(商標)West Pico PLUS Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific製)の反応混合液(Luminol/Enhancer Solution:Peroxide Solution=1:1)2mlをのせて5分間静置した。メンブレンをハイブリバッグに挟み、暗室でX線フィルム(富士フィルム製)に感光させ、現像液に浸した。バンドが見えてきたところで定着液に移し、フィルムが青くなったところで停止液に移した。感光する時間を変えながら、比較可能な強さのバンドになるまで何度か繰り返した。現像したフィルムをスキャナで読み込み、Image J(http://imagej.nih.gov/ij/)でバンドの強度を測定した。
【0226】
[11 CDH1遺伝子を標的とした第3世代の人工遺伝子発現増強システムの機能性検証]
本項の検証において、特別の断りがない限りは、上記1~9の項目において記載した方法により行った。
【0227】
[11.1 検証-1]
本発明の一実施形態における第3世代システムの機能性検証のために、dCas9-VP64、MS2-4×22sTag、およびscFv-p65-HSF1の3つのベクターの存在下/非存在下におけるアッセイを行った。また、CDH1遺伝子のプロモーター領域を標的とし、図5の(a)および図13に示すように5種類のsgRNAを設計した。設計した5種類のsgRNAを用いて、プラスミドベースのレポーターアッセイによる第1世代および第2世代の人工遺伝子発現増強システムとの機能性の比較を行った。細胞は、MIA-PaCa2細胞を用いた。結果を図6および図7に示す。
【0228】
dCas9-VP64、MS2-4×22sTag、およびscFv-p65-HSF1を全て含む第3世代の人工遺伝子発現増強システム(図1の(c))は、MS2-4×22sTagおよびscFv-p65-HSF1を含む第1世代の人工遺伝子発現増強システム(図1の(a))ならびにMS2-4×22sTagおよびscFv-p65-HSF1の替わりにMS2-p65-HSF1を含む第2世代の人工遺伝子発現増強システム(図1の(b))と比較して、ルシフェラーゼの活性が高くなることが明らかとなった。すなわち、5つのsgRNAであっても単一のsgRNAのみであっても、第1世代および第2世代の人工遺伝子発現増強システムと比較して、遺伝子の発現を増強する効果が高くなることが明らかとなった。
【0229】
[11.2 検証-2]
続いて、dCas9-VP64と、22sTagの数を4、8、16、24にしたMS2-n×22sTag(n=4、8、16、24)(図2の(a)~(d))と、scFv-p65-HSF1またはscFv-VPRとを用いて、10.1と同様の方法で、レポーターアッセイを行った。構築したシステムの発現ベクターの全量を50ngおよび100ngとした。結果を図8および図14に示す。
【0230】
4種類のMS2-n×22sTagの中で、MS2-8×22sTagが最もルシフェラーゼの活性が高かったため、遺伝子の発現を増強する効果が高くなることが明らかとなった。また、発現ベクターの量に関して、用量依存的に、遺伝子の発現増強効果が高まることが分かった。
【0231】
[11.3 検証-3]
CDH1遺伝子の発現を、定量的RT-PCR法によってmRNAレベルで確認した。dCas9-VP64と、MS2-n×22sTag(n=4、8)またはMS2-p65-HSF1と、scFv-p65-HSF1またはscFv-VPRとを用いた。sgRNAは、5種類全て用いた。結果を図9に示す。
【0232】
dCas9-VP64のみを含む第1世代の人工遺伝子発現増強システムでは、mRNAが殆ど発現していなかった。第1の転写活性化因子としてp65-HSF1を用いた場合、第2世代の人工遺伝子発現増強システムでは、構築した発現ベクターをトランスフェクションしていないポジティブコントロールと比較して、1.6倍程度のmRNAが発現していた。第3世代の人工遺伝子発現増強システムでは、ポジティブコントロールと比較して、2.7~3.7倍程度のmRNAが発現していた。第1の転写活性化因子としてVPRを用いた場合、第2世代の人工遺伝子発現増強システムでは、ポジティブコントロールと比較して0.5倍程度のmRNAが発現していた。第3世代の人工遺伝子発現増強システムでは、ポジティブコントロールと比較して、1.7~2.2倍程度のmRNAが発現していた。したがって、mRNAレベルからも、第3世代の人工遺伝子発現増強システムが、第1世代および第2世代の人工遺伝子発現増強システムと比較して、遺伝子の発現を増強する効果が高くなることが明らかとなった。
【0233】
[11.4 検証-4]
構築したシステムによって標的の遺伝子がタンパク質レベルで発現したかどうかを評価した(図10図11図16および図17)。
【0234】
10.3と同様のサンプルにおいて、免疫染色により、CDH1遺伝子にコードされるE-Cadherinの発現状態を確認した。その結果、第3世代の人工遺伝子発現増強システムにおいて、E-Cadherinの発現が確認できた。
【0235】
また、10.3と同様のサンプル(VPRを含むサンプル以外)において、ウエスタンブロッティングにより、E-Cadherinの発現状態を確認した(図12および図15)。その結果、第3世代の人工遺伝子発現増強システムにおいて、E-Cadherinの発現が確認できた。
【0236】
[12 RANKL遺伝子を標的とした第3世代の人工遺伝子発現増強システムの機能性検証]
本項の検証において、特別の断りがない限りは、上記1~9の項目において記載した方法により行った。
【0237】
[12.1 検証-5]
本発明の一実施形態における第3世代の人工遺伝子発現増強システムの優位性が、異なる標的遺伝子でもみられるかどうか、および、より少ない数のsgRNAで内在遺伝子の発現を効率的に活性化させられるかを検証した。そのために、RANKL遺伝子のプロモーター領域を標的とし、図18の(a)および図21に示すように2種類のsgRNAを設計した。設計した2種類のsgRNAを用いて、プラスミドベースのレポーターアッセイによる第1世代および第2世代の人工遺伝子発現増強システムとの機能性の比較を行った。細胞はHEK293T細胞を用いた。標的とした遺伝子、sgRNA、細胞を変更した以外は10.2と同様にしてレポーターアッセイを行った。結果を図19に示す。
【0238】
また、標的とした遺伝子、sgRNA、細胞を変更した以外は10.3と同様にして定量的RT-PCR法によってmRNAの発現量を確認した。構築したシステムの発現ベクターの全量を50ngおよび100ngとした。結果を図20および図22に示す。
【0239】
RANKL遺伝子を標的とした場合であっても、CDH1遺伝子を標的とした場合と同様に、第3世代の人工遺伝子発現増強システムが、第1世代および第2世代の人工遺伝子発現増強システムと比較して、遺伝子の発現を増強する効果が高くなることが明らかとなった。
【0240】
また、2種類のsgRNAを用いた場合であっても、第3世代の人工遺伝子発現増強システムが、第1世代および第2世代の人工遺伝子発現増強システムと比較して、遺伝子の発現を増強する効果が高くなることが明らかとなった。
【0241】
さらに、発現ベクターの量に関して、用量依存的に、遺伝子の発現増強効果が高まることが分かった。
【0242】
[12.2 検証-6]
dCas9に22sTagを融合させた第2世代の他の人工遺伝子発現増強システムとの比較を行った。dCas9-VP64またはdCas9-n×22sTag(n=4、8)と、MS2-VP64、MS2-n×22sTag(n=4、8)、MS2-p65-HSF1またはMS2-VPRと、scFv-VP64、scFv-p65-HSF1またはscFv-VPRとを用いて、11.1と同様にしてレポーターアッセイを行った。結果を図23に示す。
【0243】
VP64、p65-HSF1-VPRの3種類を用いて検討した結果、いずれの場合においても、dCas9に直接n×22sTag(n=4、8)を融合させた場合よりも、MS2コートタンパク質を介してn×22sTag(n=4、8)を融合した場合の方が高い活性を示した。したがって、第3世代の人工遺伝子発現増強システムがdCas9に22sTagを融合させた第2世代の他の人工遺伝子発現増強システムと比較しても、遺伝子の発現を増強する効果が高くなることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0244】
本発明の第3世代のシステムは、標的遺伝子にエフェクタータンパク質を集積することができるため、医薬、農林水産、生命科学、生命工学、遺伝子治療などの分野に広く利用することができる。
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【配列表】
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