(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】タンパク質及び/又はペプチド修飾用分子
(51)【国際特許分類】
C07D 213/48 20060101AFI20220124BHJP
C07K 1/113 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
C07D213/48 CSP
C07K1/113 ZNA
(21)【出願番号】P 2020503651
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2019008142
(87)【国際公開番号】W WO2019168164
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2018038030
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 高史
(72)【発明者】
【氏名】小野田 晃
(72)【発明者】
【氏名】井上 望
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/057822(WO,A1)
【文献】特表2017-502010(JP,A)
【文献】特表2010-529965(JP,A)
【文献】特開2015-030702(JP,A)
【文献】特開昭52-046094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 213/48
C07K 1/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1AA):
【化1】
[式中:
R
1
は単結合、アルキレン基、ヘテロアルキレン基、配位原子を含む二価の基、又は含窒素環を含む二価の基を示す。R
2
は同一又は異なって、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。nは0、1、又は2を示す。実線と点線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
3、R
4、R
5、及びR
6は同一又は異なって、炭素原子又は窒素原子を示す。]
で表される化合
物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【請求項2】
前記化合物が、一般式(1AAA):
【化2】
[式中:R
1、R
2、及びnは前記に同じである。]
で表される化合物である、請求項
1に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【請求項3】
前記nが0である、請求項
1又は2に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【請求項4】
前記R
1がアルキレン基である、請求項1~
3のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物を含有する、試薬。
【請求項6】
タンパク質及び/又はペプチド修飾用試薬である、請求項
5に記載の試薬。
【請求項7】
一般式(2):
【化3】
[式中:Aは含窒素ヘテロ芳香環を示す。R
1は単結合、アルキレン基、ヘテロアルキレン基、配位原子を含む二価の基、又は含窒素環を含む二価の基を示す。R
2は同一又は異なって、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。nは0、1、又は2を示す。実線と点線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。 R
8はタンパク質又はペプチドからN末端アミノ酸残基及びそれに隣接する-NH-が除かれてなる基を示す。R
9は前記タンパク質又はペプチドのN末端アミノ酸残基の側鎖を示す。]
で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【請求項8】
タンパク質又はペプチドと、請求項1~
4のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物とを反応させる工程を含む、請求項
7に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物を製造する方法。
【請求項9】
一般式(3):
【化4】
[式中:Aは含窒素ヘテロ芳香環を示す。R
1は単結合、アルキレン基、ヘテロアルキレン基、配位原子を含む二価の基、又は含窒素環を含む二価の基を示す。R
2は同一又は異なって、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。nは0、1、又は2を示す。実線と点線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。 R
8はタンパク質又はペプチドからN末端アミノ酸残基及びそれに隣接する-NH-が除かれてなる基を示す。R
9は前記タンパク質又はペプチドのN末端アミノ酸残基の側鎖を示す。 R
10及びR
11は同一又は異なって、水素原子、有機基、又は無機材料を示す(但し、R
10及びR
11が共に水素原子である場合を除く)。]
で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【請求項10】
前記有機基が同一又は異なって、医薬化合物由来の基、発光分子由来の基、高分子化合物由来の基、リガンド由来の基、リガンド結合対象分子由来の基、抗原タンパク質由来の基、抗体由来の基、タンパク質由来の基、核酸由来の基、糖類由来の基、脂質由来の基、細胞由来の基、ウイルス由来の基、標識物質由来の基カーボン電極由来の基、又は、カーボンナノ材料由来の基である、請求項
9に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【請求項11】
前記無機材料が電極材料、金属微粒子、半導体粒子、又は磁性粒子である、請求項
9又は
10に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【請求項12】
請求項
7に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物と、エチニル基及び/又はエチニレン基を有する有機分子、有機分子複合体、生体分子、又は無機材料とを反応させる工程を含む、請求項
9~
11のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物を製造する方法。
【請求項13】
前記工程が銅イオンの存在下で行われる工程である、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質及び/又はペプチド修飾用分子等に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質及び/又はペプチド(以下、「タンパク質等」と示すこともある。)に対して化学修飾を施す技術は、抗体-ドラッグコンジュゲート、蛍光プローブをラベリングしたタンパク質試薬、タンパク質固定化無機材料等の作製において重要な技術である。なかでも、タンパク質等に対するアジド基修飾は、アルキン-アジド環化付加反応(CuAAC)による様々な機能性分子の導入を可能にするための技術であり、生体直交性を有しているため、バイオイメージング等の分野で広く応用されている。このような背景のもと、アジド基の導入を足掛かりとした化学修飾や酵素反応を用いて、タンパク質等の修飾を行った研究例が多数報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Metal-free and pH-controlled introduction of azides in proteins, Sanne Schoffelen, Mark B. van Eldijk, Bart Rooijakkers, Reinout Raijmakers, Albert J. R. Heck and Jan C. M. van Hest, Chemical Science, 2011, 2, 701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タンパク質等にアジド基を導入する場合の導入位置について検討を進める中で、本発明者は次の3点に着目した。1点目は、N末端は全ての単量体タンパク質が1つのみ有する位置であり、普遍的な修飾基点である点である。2点目は、タンパク質活性部位(分子結合部位・触媒反応中心)にN末端が関わることは少なく、修飾に伴った構造変化などによる影響が小さいと考えられる点である。3点目は、N末端は、pKaの差異から他のアミノ酸残基(リシン、システイン、グルタミン等)と反応が競合しにくいと考えられる一方、C末端では、このようなpKaに基づく反応選択性の発現が困難であると考えられる点である。そこで、本発明者は、アジド基を導入する位置として、タンパク質等のN末端に着目した。
【0005】
一方、これまでにもタンパク質等のN末端にアジド基を導入する手法が各種報告されているものの(非特許文献1)、これらはその簡便性、又はN末端修飾選択性において不十分であると考えられた。例えば、脂質修飾酵素法及び非天然アミノ酸導入法は、N末端特異的にアジド基を導入できるものの、特殊なアミノ酸配列又は特殊なアミノ酸残基が挿入されたタンパク質等を用いる必要があるので、その調製に労力を要し、また天然のタンパク質等に対して適用することができない。また、ジアゾ転移反応法は、操作は簡便得あり、天然のタンパク質等に対しても適用できるものの、リジン残基等にもアジド基が導入されるので、N末端特異的にアジド基を導入することができない。
【0006】
そこで、本発明は、天然のタンパク質等に対しても、N末端に対してより選択性にアジド基を簡便且つ効率的に導入することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、一般式(1)で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物と、タンパク質及び/又はペプチドとを反応させることにより、天然のタンパク質等に対しても、N末端に対してより選択性にアジド基を簡便且つ効率的に導入できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1.一般式(1):
【0010】
【0011】
[式中:Aは含窒素ヘテロ芳香環を示す。R1は単結合、アルキレン基、ヘテロアルキレン基、配位原子を含む二価の基、又は含窒素環を含む二価の基を示す。R2は同一又は異なって、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。nは0、1、又は2を示す。実線と点線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0012】
項2.前記化合物が、一般式(1AA):
【0013】
【0014】
[式中:R1、R2、n、及び実線と点線との二重線は前記に同じである。R3、R4、R5、及びR6は同一又は異なって、炭素原子又は窒素原子を示す。]
で表される化合物である、項1に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0015】
項3.前記化合物が、一般式(1AAA):
【0016】
【0017】
[式中:R1、R2、及びnは前記に同じである。]
で表される化合物である、項1又は2に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0018】
項4.前記nが0である、項1~3のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0019】
項5.前記R1がアルキレン基である、項1~4のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0020】
項6.項1~5のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物を含有する、試薬。
【0021】
項7.タンパク質及び/又はペプチド修飾用試薬である、項6に記載の試薬。
【0022】
項8.一般式(2):
【0023】
【0024】
[式中:Aは含窒素ヘテロ芳香環を示す。R1は単結合、アルキレン基、ヘテロアルキレン基、配位原子を含む二価の基、又は含窒素環を含む二価の基を示す。R2は同一又は異なって、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。nは0、1、又は2を示す。実線と点線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。R8はタンパク質又はペプチドからN末端アミノ酸残基及びそれに隣接する-NH-が除かれてなる基を示す。R9は前記タンパク質又はペプチドのN末端アミノ酸残基の側鎖を示す。]
で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0025】
項9.タンパク質又はペプチドと、項1~5のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物とを反応させる工程を含む、項8に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物を製造する方法。
【0026】
項10.一般式(3):
【0027】
【0028】
[式中:Aは含窒素ヘテロ芳香環を示す。R1は単結合、アルキレン基、ヘテロアルキレン基、配位原子を含む二価の基、又は含窒素環を含む二価の基を示す。R2は同一又は異なって、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。nは0、1、又は2を示す。実線と点線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。R8はタンパク質又はペプチドからN末端アミノ酸残基及びそれに隣接する-NH-が除かれてなる基を示す。R9は前記タンパク質又はペプチドのN末端アミノ酸残基の側鎖を示す。R10及びR11は同一又は異なって、水素原子、有機基、又は無機材料を示す(但し、R10及びR11が共に水素原子である場合を除く)。]
で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0029】
項11.前記有機基が同一又は異なって、医薬化合物由来の基、発光分子由来の基、高分子化合物由来の基、リガンド由来の基、リガンド結合対象分子由来の基、抗原タンパク質由来の基、抗体由来の基、タンパク質由来の基、核酸由来の基、糖類由来の基、脂質由来の基、細胞由来の基、ウイルス由来の基、カーボン電極由来の基、又は、カーボンナノ材料由来の基である、項10に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0030】
項12.前記無機材料が電極材料、金属微粒子、半導体ナノ粒子、又は磁性粒子である、項10又は11に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物。
【0031】
項13.項8に記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物と、エチニル基及び/又はエチニレン基を有する有機分子、有機分子複合体、生体分子、又は無機材料とを反応させる工程を含む、項10~12のいずれかに記載の化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物を製造する方法。
【0032】
項14.前記工程が銅イオンの存在下で行われる工程である、項13に記載の方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、天然のタンパク質等に対しても、N末端に対してより選択性にアジド基を簡便且つ効率的に導入することができる技術を提供することができる。具体的には、該技術におけるアジド基の導入に用いられる化合物、該技術によりアジド基が導入されたタンパク質及び/又はペプチド、さらには該タンパク質及び/又はペプチドにヒュスゲン環化付加反応により他の物質が連結してなる複合物質、これらの製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】化合物5の
1H NMRスペクトル (重クロロホルム中)を示す。
【
図2】化合物5の
13C NMRスペクトル (重クロロホルム中)を示す。
【
図4】(a)実施例2の反応スキームを示す。(b)実施例2で評価した修飾率(N末端アジド化RNaseの割合)の評価結果を示す。グラフの横軸は、N末端アジド化反応時のpHを示す。
【
図5】(a)実施例3の反応スキームを示す。(b)実施例3で評価した変換率(クマリン修飾RNaseの割合)の評価結果を示す。グラフの横軸は、反応時間を示す。
【
図6】化合物10の
1H NMRスペクトル (重クロロホルム中)を示す。
【
図7】化合物10の
13C NMRスペクトル (重クロロホルム中)を示す。
【
図8】化合物14の
1H NMRスペクトル (重アセトニトリル中)
【
図9】化合物14の
13C NMRスペクトル (重アセトニトリル中)
【
図10】(a) angiotensin IのN末端へのアジド基導入反応、(b) 各ペプチドのLC/MSスペクトル(上段:未修飾angiotensin I、下段:N末端にイミダゾリジノン骨格を介してアジド基が導入されたangiotensin I)
【
図11】(a) N末端にイミダゾリジノン骨格を介してアジド基が導入されたangiotensin Iの構造、(b) N末端にイミダゾリジノン骨格を介してアジド基が導入されたangiotensin IのLC/MS-MSスペクトル。図中に、ペプチドのフラグメンテーションに由来する化学種(b
n, y
n)を示した。
【
図12】(a) N末端アジド基導入化合物によるRNase N末端のアジド化反応、(b) 化合物5、(c) 化合物10、(d) 化合物14によりN末端にイミダゾリジノン骨格を介してアジド基が導入されたRNaseのLC/MSスペクトルと修飾率。ここでは全体のスペクトルのうち9価([M+9H]
9+)のピークを示す。修飾率は全体のスペクトルより算出した。
【
図13】化合物18の
1H NMRスペクトル (重クロロホルム中)
【
図14】化合物18の
13C NMRスペクトル (重クロロホルム中)
【
図15】化合物21の
1H NMRスペクトル (重クロロホルム中)。上段に1.2~4.0 ppmの範囲を拡大したスペクトルを示す。
【
図16】化合物21の
13C NMRスペクトル (重クロロホルム中)
【
図17】N末端アジド基導入化合物によるRNase N末端のアジド化反応。修飾率は全体のスペクトルより算出した。
【
図18】実施例9で評価した転換率(クマリン修飾RNaseの割合)の評価結果を示す。修飾率は蛍光スペクトルならびにLC-MSより算出した。
【
図19】実施例10で用いたアルキン基質構造ならびに修飾率(クマリン修飾RNaseの割合)の評価結果を示す。修飾率は蛍光スペクトルならびにLC-MSより算出した。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0036】
1.アジド基導入用化合物
本発明は、その一態様において、一般式(1):
【0037】
【0038】
で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物(本明細書において、これらを総称して、「本発明のアジド基導入用化合物」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0039】
<1-1.Aについて>
Aは含窒素ヘテロ芳香環を示す。
【0040】
含窒素ヘテロ芳香環としては、特に制限されず、例えば環構成原子数(炭素原子数及びヘテロ原子数)が、例えば5~15、好ましくは5~10、より好ましくは5~7、さらに好ましくは6の、単環又は多環(例えば2環、3環等)が挙げられる。含窒素ヘテロ芳香環が含む窒素原子の数は、特に制限されないが、例えば1~3、好ましくは1~2、より好ましくは1である。含窒素ヘテロ芳香環は窒素原子以外のヘテロ原子(例えば酸素原子、硫黄原子等)を含んでいてもよく、この場合の窒素原子も含むヘテロ原子の総数は、特に制限されないが、例えば1~3、好ましくは1~2である。
【0041】
含窒素ヘテロ芳香環として、具体的には、例えばピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、ベンゾトリアゾール、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン等が挙げられ、好ましくはピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン等が挙げられ、より好ましくはピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン等が挙げられ、さらに好ましくはピリジンが挙げられる。
【0042】
Aとして、好ましくは式(A1)で表される環が挙げられ、より好ましくは式(A2)で表される環が挙げられ、さらに好ましくは式(A3)で表される環が挙げられる。
【0043】
【0044】
上記式中、R3、R4、R5、R6、及びR7は同一又は異なって、炭素原子又は窒素原子を示す。
【0045】
A中、-R1-N3が連結する原子は、式(A1)であれば好ましくはR7及びR6(より好ましくはR7)であり、式(A2)であれば好ましくは*1で示される原子及びR6(より好ましくは*1で示される原子)であり、式(A3)であれば好ましくは*1で示される原子及び*2で示される原子(より好ましくは*1で示される原子)である。
【0046】
一般式(1)、式(A1)、式(A2)、及び式(A3)中、実線と点線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。
【0047】
<1-2.R1について>
R1は単結合、アルキレン基、ヘテロアルキレン基、配位原子を含む二価の基、又は含窒素環を含む二価の基を示す。R1として、好ましくはアルキレン基が挙げられる。
【0048】
R1で示されるアルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれのものも包含し、好ましくは直鎖状である。該アルキレン基の炭素数は、特に制限されず、例えば1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。該アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基等が挙げられる。アルキレン基は、オキソ基等で置換されていてもよい。
【0049】
R1で示されるヘテロアルキレン基は、鎖構成原子としてヘテロ原子(例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等、好ましくは窒素原子)を含むものであれば特に制限されず、直鎖状又は分岐鎖状のいずれのものも包含し、好ましくは直鎖状である。該ヘテロアルキレン基の炭素数は、特に制限されず、例えば1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。ヘテロアルキレン基は、オキソ基等で置換されていてもよい。
【0050】
R1で示される配位原子を含む二価の基は、配位原子を含む二価の基である限り特に制限されない。配位原子としては、特に制限されないが、例えば-NH2、-NH-、-N=、カルボキシ基、水酸基、-O-、含窒素ヘテロ芳香環等の原子団中の原子、好ましくは-NH2、-NH-、-N=、含窒素ヘテロ芳香環等の原子団中の窒素原子が挙げられる。ここでいう含窒素ヘテロ芳香環とは、窒素原子を1~3個含むヘテロ芳香環(例えば、ピリジン環、イミダゾール環、ピロール環等)を意味する。配位原子を含む二価の基は、上記原子団のみからなる基であってもよいし、上記原子団に、上記アルキレン基及び/又は上記へテロアルキレン基が組み合わされてなる基であってもよい。後者の場合、-R1-N3の具体例としては、一般式(1B)で表される基、一般式(1C)で表される基等が挙げられる。
【0051】
【0052】
上記式中、R1a、R1b、及びR1cは同一又は異なって、単結合、アルキレン基(R1で示されるアルキレン基と同様である。)、又はヘテロアルキレン基(R1で示されるヘテロアルキレン基と同様である。)(好ましくは単結合又はアルキレン基)を示し、環B及び環Cは同一又は異なって、含窒素ヘテロ芳香環(環Aと同様である。)を示す。
【0053】
R1で示される含窒素環を含む二価の基は、含窒素環を含む二価の基である限り特に制限されない。含窒素環としては、例えば窒素原子を1~3個(好ましくは1~2個)含む5~7員環が挙げられる。含窒素環として、具体的には、例えばピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等が挙げられる。含窒素環を含む二価の基は、含窒素環のみからなる基出会ってもよいし、該環に、上記アルキレン基及び/又は上記へテロアルキレン基が1つ又は2つ以上組み合わされてなる基であってもよい。含窒素環を含む二価の基の一例として、上記一般式(1B)で表される基、一般式(1C)で表される基において、環B及び環Cを上記含窒素環に置換えてなる基が挙げられる。
【0054】
<1-3.R2、nについて>
R2は同一又は異なって、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。R2として、好ましくはヒドロキシ基が挙げられる。
【0055】
R2で示されるアルキル基には、直鎖状、分岐鎖状、又は環状(好ましくは直鎖状又は分枝鎖状、より好ましくは直鎖状)のいずれのものも包含される。該アルキル基の炭素数は、特に制限されず、例えば1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。
【0056】
R2で示されるアルコキシ基には、直鎖状又は分枝鎖状のいずれのものも包含される。該アルコキシ基の炭素数は、特に制限されないが、例えば1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2、よりさらに好ましくは1である。該アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。
【0057】
R2で示されるハロゲン原子としては、特に制限されず、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0058】
nは0、1、又は2を示す。nは好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0059】
<1-4.好ましい化合物>
本発明の一態様において、一般式(1)で表される化合物としては、好ましくは一般式(1A):
【0060】
【0061】
[式中、R1、R2、n、R3、R4、R5、R6、及びR7は前記に同じである。]
で表される化合物が挙げられ、より好ましくは一般式(1AA):
【0062】
【0063】
[式中、R1、R2、n、R3、R4、R5、及びR6は前記に同じである。]
で表される化合物が挙げられ、さらに好ましくは一般式(1AAA):
【0064】
【0065】
[式中、R1、R2、及びnは前記に同じである。]
で表される化合物が挙げられる。
【0066】
一般式(1)で表される化合物の好ましい具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0067】
【0068】
上記具体的な化合物の中でも、好ましくは以下の化合物が挙げられる。
【0069】
【0070】
上記具体的な化合物の中でも、より好ましくは以下の化合物が挙げられる。
【0071】
【0072】
<1-5.異性体>
一般式(1)で表される化合物には、立体異性体及び光学異性体が含まれ、これらは特に限定されるものではない。
【0073】
<1-6.塩、水和物、溶媒和物>
一般式(1)で表される化合物の塩は、特に制限されるものではない。該塩としては、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、塩基性塩の例としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニアとの塩;モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0074】
一般式(1)で表される化合物は水和物、溶媒和物とすることもできる。溶媒としては、例えば有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0075】
<1-7.製造方法>
一般式(1)で表される化合物は、様々な方法で合成することができる。一例として、一般式(1)で表される化合物は、一般式(1a):
【0076】
【0077】
[式中、R1、R2、及びnは前記に同じである。Lは脱離基を示す。]
で表される化合物(以下、「化合物1a」と示す。)とアジ化物とを反応させる工程を含む方法によって、製造することができる。
【0078】
Lで示される脱離基としては、特に制限されず、例えば-O-Ms(Ms=メシル基)、-O-Ts(Ts=トシル基)、ハロゲン原子(例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは-O-Ms、-O-Ts等が挙げられ、より好ましくは-O-Ms(Ms=メシル基)が挙げられる。
【0079】
アジ化物としては、特に制限されず、例えばアジ化ナトリウム等が挙げられる。
【0080】
アジ化物の使用量は、収率などの観点から、化合物1aの1モルに対して、通常、1~10モルが好ましく、2~6モルがより好ましい。
【0081】
本反応は、通常、反応溶媒の存在下で行われる。反応溶媒としては、特に制限されないが、例えばアセトニトリル、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、好ましくはアセトニトリルが挙げられる。溶媒は単独で使用してもよく、また、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0082】
本反応においては、上記成分以外にも、反応の進行を著しく損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0083】
反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、通常、0~80℃(特に40~70℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、4時間~24時間、特に8時間~16時間とすることができる。
【0084】
反応の進行は、クロマトグラフィーのような通常の方法で追跡することができる。反応終了後、溶媒を留去し、必要に応じて生成物をクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(ESI-MS)分析、IR分析、1H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0085】
<1-8.用途>
本発明のアジド基導入用化合物は、タンパク質又はペプチドのN末端にアジド基を導入するために、例えば後述の本発明のアジド基含有タンパク質又はペプチド(一般式(2)で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物)を製造するために有用である。このため、本発明のアジド基導入用化合物は、試薬として、特にタンパク質及び/又はペプチド修飾用試薬の有効成分として好適に利用することができる。該試薬は、本発明のアジド基導入用化合物を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0086】
2.アジド基含有タンパク質又はペプチド
本発明は、その一態様において、一般式(2):
【0087】
【0088】
で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物(本明細書において、これらを総称して、「本発明のアジド基含有タンパク質又はペプチド」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0089】
A、R1、R2、及びnは前記に同じである。
【0090】
R8はタンパク質又はペプチドからN末端アミノ酸残基及びそれに隣接する-NH-が除かれてなる基を示す。
【0091】
タンパク質又はペプチドは、N末端アミノ基が未修飾であり、且つN末端から2番目のアミノ酸残基がプロリン以外のアミノ酸残基であるタンパク質又はペプチドである限り特に制限されない。このようなタンパク質又はペプチドとしては、一般式(2a)で表されるタンパク質又はペプチドが挙げられる。
【0092】
【0093】
R9は上記タンパク質又はペプチドのN末端アミノ酸残基の側鎖を示す。アミノ酸残基としては、天然アミノ酸残基、合成アミノ酸残基のいずれでもよく、例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基;アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基等が挙げられる。
【0094】
タンパク質又はペプチドは、特に制限されず、天然のものであっても、合成・人工のものであってもよい。
【0095】
タンパク質又はペプチドは、化学修飾されたものであってもよい。タンパク質又はペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。タンパク質又はペプチドは、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。さらに、タンパク質又はペプチドには、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているものも包含される。
【0096】
タンパク質又はペプチドは、公知のタンパク質タグ、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドや、標識物質が付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。シグナル配列としては、例えば核移行シグナル等が挙げられる。
【0097】
タンパク質又はペプチドは、一分子単独で存在するものであってもよいし、他の分子と連結して複合体を形成しているものであってもよい。該連結の態様は、特に制限されないが、例えば水素結合、静電気力、ファンデルワールス力、疎水結合、共有結合、配位結合等が挙げられる。
【0098】
一般式(2)で表される化合物には、立体異性体及び光学異性体が含まれ、これらは特に限定されるものではない。
【0099】
一般式(2)で表される化合物の塩は、特に制限されるものではない。該塩としては、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、塩基性塩の例としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニアとの塩;モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0100】
一般式(2)で表される化合物は水和物、溶媒和物とすることもできる。溶媒としては、例えば有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0101】
一般式(2)で表される化合物は、様々な方法で製造することができる。一例として、一般式(2)で表される化合物は、タンパク質又はペプチドと本発明のアジド基導入用化合物とを反応させる工程を含む方法によって、製造することができる。
【0102】
本発明のアジド基導入用化合物の使用量は、収率などの観点から、タンパク質又はペプチドの1モルに対して、通常、50~400モルが好ましく、150~300モルがより好ましい。
【0103】
本反応は、通常、反応溶媒の存在下で行われる。反応溶媒としては、特に制限されないが、例えば水等が挙げられる。溶媒は単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。また、溶媒には、リン酸緩衝剤等の緩衝剤を添加することが好ましい。水を使用する場合、本反応のpHは、アジド基導入のN末端選択性の観点から、中性付近が好ましく、具体的には6~8.5が好ましく、6.5~8がより好ましく、7~7.5がさらに好ましい。
【0104】
本反応においては、上記成分以外にも、反応の進行を著しく損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0105】
反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、通常、タンパク質又はペプチドが著しく変性しない程度の温度、例えば0~45℃(特に0~40℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、8時間~36時間、特に12時間~24時間とすることができる。
【0106】
反応の進行は、クロマトグラフィーのような通常の方法で追跡することができる。反応終了後、溶媒を留去し、必要に応じて生成物をクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(ESI-MS)分析、IR分析、1H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0107】
本発明のアジド基含有タンパク質又はペプチドは、アジド基を利用した反応(例えば、ヒュスゲン環化付加反応、歪み促進型アジド‐アルキン環化付加反応、Staudinger-Bertozziライゲーション)により他の物質(例えば、有機分子、有機分子複合体、無機材料等)を連結させるために、例えばヒュスゲン環化付加反応を利用して後述の本発明の複合物質(一般式(3)で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物)を製造するために、有用である。
【0108】
3.複合物質
本発明は、その一態様において、一般式(3):
【0109】
【0110】
で表される化合物、又はその塩、水和物若しくは溶媒和物(本明細書において、これらを総称して、「本発明の複合物質」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0111】
A、R1、R2、n、R8、及びR9は前記に同じである。
【0112】
R10及びR11は同一又は異なって、水素原子、有機基、又は無機材料を示す(但し、R10及びR11が共に水素原子である場合を除く)。好ましくは、R10及びR11の一方のみが有機基又は無機材料であり、他方が水素原子である。より好ましくは、R10が水素原子であり、R11が有機基又は無機材料である。
【0113】
有機基としては、有機分子又は有機分子複合体由来の基、例えば有機分子又は有機分子複合体から1つの原子又は複数の原子が除かれてなる基である限り、特に制限されない。有機分子は、特に制限されず、天然のものであっても、合成・人工のものであってもよい。有機分子複合体としては、特に制限されないが、例えば有機分子を含む複数の分子が連結してなる複合体(或いは生命体)が挙げられる。該連結の態様は、特に制限されないが、例えば水素結合、静電気力、ファンデルワールス力、疎水結合、共有結合、配位結合等が挙げられる。有機分子又は有機分子複合体の具体例としては、医薬化合物、発行分子、高分子化合物、リガンド、リガンド結合対象分子、抗原タンパク質、抗体、タンパク質、核酸、糖類、脂質、細胞、ウイルス、標識物質(例えば、放射性同位元素標識物質等)、カーボン電極、カーボンナノ材料、これらと適当な長さのスペーサー分子(例えば、ポリエチレングリコール又はその誘導体、ペプチド(一例として細胞内で酵素により切断されるアミノ酸配列を含むペプチド)等)との連結体、スペーサー分子等が挙げられる。
【0114】
無機材料としては、金属原子を含む又は含まない材料であって、特に制限されるものではない。無機材料としては、例えば電極材料、金属微粒子、半導体ナノ粒子、磁性粒子等が挙げられる。無機材料は、有機分子又は有機分子複合体を保持するものであってもよい。
【0115】
一般式(3)で表される化合物には、立体異性体及び光学異性体が含まれ、これらは特に限定されるものではない。
【0116】
一般式(3)で表される化合物の塩は、特に制限されるものではない。該塩としては、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、塩基性塩の例としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニアとの塩;モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0117】
一般式(3)で表される化合物は水和物、溶媒和物とすることもできる。溶媒としては、例えば有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0118】
一般式(3)で表される化合物は、様々な方法で製造することができる。一例として、一般式(3)で表される化合物は、本発明のアジド基含有タンパク質又はペプチドと、エチニル基及び/又はエチニレン基を有する有機分子、有機分子複合体、生体分子、又は無機材料とを反応させる工程を含む方法によって、製造することができる。
【0119】
エチニル基及び/又はエチニレン基を有する有機分子、有機分子複合体、生体分子、又は無機材料の使用量は、エチニル基及び/又はエチニレン基のモル数として、収率などの観点から、本発明のアジド基含有タンパク質又はペプチドの1モルに対して、通常、0.1~10モルが好ましく、1.5~7モルがより好ましい。
【0120】
本反応は、通常、反応溶媒の存在下で行われる。反応溶媒としては、特に制限されないが、例えば水、メタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。溶媒は単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。また、溶媒には、リン酸緩衝剤等の緩衝剤を添加することが好ましい。水を使用する場合、本反応のpHは、中性付近が好ましく、具体的には6~8.5が好ましく、6.5~8がより好ましく、7~7.5がさらに好ましい。
【0121】
本反応は、好ましくは適当な触媒の存在下で行うことが好ましい。触媒としては、例えば銅触媒が挙げられる。銅触媒を使用する場合は、例えば、硫酸銅などの2価の銅と、還元剤(例えばヒドロキノン、アスコルビン酸ナトリウム)を系内に導入し、一価の銅を反応させる方法が挙げられる。
【0122】
銅触媒の使用量は、収率などの観点から、本発明のアジド基含有タンパク質又はペプチドの1モルに対して、通常、0.1~20モルが好ましく、3~10モルがより好ましい。
【0123】
本反応においては、上記成分以外にも、反応の進行を著しく損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0124】
反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、通常、本発明のアジド基含有タンパク質又はペプチドが著しく変性しない程度の温度、例えば0~45℃(特に0~40℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、30分間~3時間、特に1時間~2時間とすることができる。
【0125】
反応の進行は、クロマトグラフィーのような通常の方法で追跡することができる。反応終了後、溶媒を留去し、必要に応じて生成物をクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(ESI-MS)分析、IR分析、1H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0126】
本発明の複合物質は、タンパク質又はペプチドに他の物質が連結されてなる構造を有しており、連結対象の物質に応じて多様な分野において、例えば抗体-ドラッグコンジュゲート、蛍光プローブをラベリングしたタンパク質試薬、タンパク質固定化無機材料、タンパク質を連結した融合タンパク質、核酸を融合したタンパク質等として、利用することができる。
【実施例】
【0127】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0128】
実施例1.化合物の合成1
<1-1.使用機器>
核磁気共鳴 (NMR) スペクトルはBruker DPX400 核磁気共鳴装置あるいはBruker AVANCE III HD 核磁気共鳴装置を用いて測定し、測定溶媒の残存シグナルを内部基準に化学シフトを算出した。エレクトロスプレーイオン化法による飛行時間型質量分析(ESI-TOF MS) にはBruker micrOTOF focus III 質量分析装置を使用し、移動相にメタノールもしくはアセトニトリル (ともにHPLCグレード)を用いた。フーリエ変換型赤外吸収 (FT-IR)スペクトルはJasco FT/IR-4000 フーリエ変換型赤外分光光度計を使用し、ガリウムプリズムを用いたATRモードで測定を行った。
【0129】
<1-2.試薬・溶媒等>
合成に用いた試薬・溶媒は、市販品をそのまま用いた。
【0130】
<1-3.6-(azidomethyl)-2-pyridinecarbaldehyde 6AzPC (化合物5)の合成>
化合物5は以下のスキームに従い合成した。
【0131】
【0132】
<1-3-1.Dimethyl 2,6-pyridinedicarboxylate (1) の合成>
化合物1は既報 (W. Q. Ong, H. Zhao, Z. Du, J. Z. Y. Yeh, C. Ren, L. Z. W. Tan, K. Zhang, H. Zeng, Chem. Commun. 2011, 47, 6414-6418) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0133】
2,6-ピリジンジカルボン酸 (6.0 g, 35.9 mmol) のメタノールの溶液 (20 mL)に対し、窒素雰囲気下、0℃で硫酸 (5 mL) を滴下し、その後反応溶液を40℃で12時間撹拌した。反応溶液を室温まで空冷したのちに減圧下で濃縮した。残渣を塩化メチレン (100 mL) に溶解後、純水 (50 mL x 4) および飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (50 mL x 2) で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、化合物1 (白色固体) を得た。Yield, 89%: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.32 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 8.03 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 4.03 (s, 6H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ165.2, 148.4, 138.5, 128.2, 53.4; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C9H9NaNO4 [M+Na]+ 218.04, found 218.02。
【0134】
<1-3-2.2,6-Pyridinedimethanol (2) の合成>
化合物2は既報 (K. Yu, K. Li, J. Hou, X. Yu, Tetrahedron Lett. 2013, 54, 5771-5774およびM. Mateescu, I. Nuss, A. Southan, H. Messenger, S. V. Wegner, J. Kupka, M. Bach, G. E. M. Tovar, H. Boehm, S. Laschat, Synthesis 2014, 46, 1243-1253) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0135】
化合物1 (5.0 g, 25.6 mmol) のエタノール分散液 (80 mL)を、0℃に冷却し、水素化ホウ素ナトリウム (3.86 g, 102 mmol) を少量ずつ加えた。反応懸濁液を0℃で1時間、室温で2時間、還流条件で16時間撹拌した。反応懸濁液を室温まで空冷後、減圧下で濃縮し、得られた残渣を飽和炭酸カリウム水溶液 (100 mL) に溶解させ、60℃で2時間撹拌した。反応溶液を室温まで空冷後、クロロホルム (100 mL x 3) で抽出し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減溶媒を減圧留去し、化合物2 (白色固体) を得た。Yield, 79%: 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ7.77 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.31 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 5.36 (t, J = 5.7 Hz, 2H), 4.52 (d, J = 5.5 Hz, 4H); 13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ160.8, 137.0, 18.1, 64.2; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C7H9NaNO2 [M+Na]+ 162.05, found 162.03。
【0136】
<1-3-3.6-(Hydroxymethyl)-2-pyridinecarbaldehyde (3) の合成>
化合物3は既報 (E. L. Romero, A. Cabrera-Espinoza, N. Ortiz-Pena, M. Soto-Monsalve, F. Zuluaga, R. F. D’Vries, M. N. Chau, J. Phys. Org. Chem. 2017, 30, e3601) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0137】
化合物2 (1.2 g, 8.62 mmol) の1,4-ジオキサン溶液 (50 mL) に、MnO2 (3.0 g, 34.5 mmol) を加え、窒素雰囲気下、40℃で12時間撹拌した。反応混合物を室温まで空冷後、クロロホルム (40 mL) およびメタノール (6 mL) を加え、沈殿物をセライトろ過により除き、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム:メタノール = 99:1 ~90:10)により精製し、化合物3 (油状、冷却により白色固体化)を得た。Yield, 66%: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ10.1 (s, 1H), 7.89 (d, J = 4.4 Hz, 2H), 7.52 (t, J = 4.4 Hz, 1H), 4.88 (d, J = 3.4 Hz, 2H), 3.50 (s, 1H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ193.2, 160.1, 151.8, 137.9, 124.9, 120.6, 64.2; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C7H7NaNO2 [M+Na]+ 160.04, found 160.04。
【0138】
<1-3-4.(6-Formylpyridin-2-yl)methyl methanesulfonate (4) の合成>
化合物4は既報 (J. I. MacDonald, H. K. Munch, T. Moore, M. B. Francis, Nat. Chem. Biol. 2015, 11, 326-331) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0139】
化合物3 (508 mg, 3.70 mmol) およびトリエチルアミン (1.53 mL, 10.5 mmol) のアセトニトリル溶液 (10 mL) に、窒素雰囲気下、0℃でメタンスルホニルクロライド (425 μL, 5.49 mmol)を滴下し、1時間撹拌した。反応溶液を塩化メチレン (50 mL) で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (25 mL) および飽和塩化ナトリウム水溶液 (25 mL x 2) で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、化合物4 (油状、褐色)を得た。Yield, 88%: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ10.1 (s, 1H), 7.96 (m, 2H), 7.72 (m, 1H), 5.43 (s, 2H), 3.15 (s, 3H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ192.9, 154.8, 152.6, 138.5, 126.5, 121.7, 70.8, 38.2; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C8H9NaNO4S [M+H]+ 238.01, found 238.01。
【0140】
<1-3-5.6-(Azidomethyl)-2-pyridinecarbaldehyde: 6AzPC (5) の合成>
化合物4 (700 mg, 3.25 mmol) のアセトニトリル溶液 (20 mL) にアジ化ナトリウム (890 mg, 13.7 mmol) を加え、窒素雰囲気下、60℃で12時間撹拌した。反応溶液を0℃まで冷却後、純水 (20 mL)を加え反応を停止させ、有機溶媒を減圧留去した。得られた水溶液を酢酸エチル (50 mL x 3) で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、化合物5 (油状、褐色) を得た。Yield, 96%: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ10.1 (s, 1H), 7.92 (d, J = 4.5 Hz, 2H), 7.59 (t, J = 4.5 Hz, 1H), 4.60 (s, 2H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ192.2, 156.9, 152.8, 138.3, 126.2, 121.0, 55.3; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C7H6NaN4O [M+Na]+ 185.04, found 185.02; FT-IR (ATR mode, Ge prism), ν cm-1: 2835, 2099, 1709, 1591, 1286, 1255, 1212, 987, 777, 642。
【0141】
<1-4.化合物5の同定>
図1、2および3に
1H NMR、
13C NMRおよびFT-IRスペクトルを示す。
1H NMRスペクトルにおけるδ = 10.1 (ppm)の吸収ならびにIRスペクトルにおける1708 (cm
-1)の吸収からホルミル基の存在が、またIRスペクトルにおける2099 (cm
-1)の吸収からアジド基の導入が確認できた。
【0142】
実施例2.タンパク質N末端修飾1
<2-1.試薬・溶媒等>
ウシ膵臓由来リボヌクレアーゼA (RNase)はRoche社より購入した。超純水はMillipore Integral3により精製したものを用いた。その他の試薬・溶媒は、市販品をそのまま用いた。
【0143】
<2-2.タンパク質N末端アジド化>
本手法では、タンパク質N末端を標的としている。対象となりうるタンパク質はN末端アミノ基が未修飾であること加え、N末端から2番目のアミノ酸残基がプロリン以外のアミノ酸であるものである。具体的な実施例として、ウシ膵臓由来リボヌクレアーゼA (RNase)のN末端アジド化について示す。
【0144】
RNaseのアミノ酸配列を示す(PDB: 1FS3)。
KETAAAKFER QHMDSSTSAA SSSNYCNQMM KSRNLTKDRC KPVNTFVHE SLADVQAVCS QKNVACKNGQ TNCYQSYSTM SITDCRETGS SKYPNCAYKT TQANKHIIVA CEGNPYVPVH FDASV(配列番号1)。
【0145】
タンパク質N末端修飾は、既報 (J. I. MacDonald, H. K. Munch, T. Moore, M. B. Francis, Nat. Chem. Biol. 2015, 11, 326-331) を参考に行った。以下に具体的な実験項を示す。
【0146】
化合物5のジメチルスルホキシド (DMSO)溶液 (200 mM, 40 μL, 8 μmol, 終濃度100 mM) をリン酸カリウム緩衝液 (25 mM, pH 7.5(又はpH 8.0、pH 8.5), 720 μL) で希釈し、ここにRNase超純水溶液 (1 mM, 40 μL, 40 nmol, 終濃度50 μM) を加え、37℃で16時間振とうした。反応溶液を超純水で希釈し、アミコンウルトラ-0.5 (Millipore社, MWCO: 10 kDa) を用いた濃縮操作を繰り返す (計5回) ことで未反応の化合物5を取り除き、N末端アジド化RNaseを得た。LC/MSを用いて、修飾率[=アジド基を有するRNase量/(総RNase量)]を評価した。
【0147】
結果を
図4に示す。pH7.5における修飾率は80%であり、反応溶液のpHをより塩基性(~8.5) にすることで修飾率は90%に向上することが分かった。ただし、より高いpHにおいてはリジン残基と化合物5のイミン形成が競合しうるため、中性に近い反応条件が望ましいと考えられる。
【0148】
実施例3.配位型CuAAC反応による機能性分子の導入1
<3-1.試薬・溶媒等>
Tris(3-hydroxypropyltriazolylmethyl)amine (THPTA)は既報 (A. A. Kislukhin, V. P. Hong, K. E. Beitenkamp, M. G. Finn, Bioconjugate Chem. 2013, 24, 684-689)に従い合成した。超純水はMillipore Integral3により精製したものを用いた。その他の試薬・溶媒は、市販品をそのまま用いた。
【0149】
<3-2.配位型CuAAC反応>
リン酸カリウム緩衝溶液 (25 mM, pH7.5, 139 μL)、N末端アジド化RNase溶液 (0.1 mM, 40 μL, 4 nmol, 終濃度20 μM)、アルキン基質(
図5の上段:エチニル基を有するクマリン誘導体) (DMSO溶液, 10 mM, 0.8 μL, 8 nmol, 終濃度40 μM)、アミノグアニジン塩酸塩水溶液 (100 mM, 10 μL, 1 μmol, 終濃度5 mM)、アスコルビン酸ナトリウム水溶液 (100 mM, 10 μL, 1 μmol, 終濃度5 mM)を混合し、ここに硫酸銅五水和物溶液 (20 mM, 1.0 μL, 20 nmol, 終濃度100 μM) とTHPTA 水溶液 (50 mM, 2.0 μL, 100 nmol, 終濃度500 μM)を加え、室温において反応を行った。反応溶液を超純水で希釈し、アミコンウルトラ-0.5 (Millipore社, MWCO: 10 kDa) を用いた濃縮操作を繰り返す (計5回) ことで未反応のアルキン基質や銅触媒を取り除き、トリアゾール付加体を得た。変換率[=クマリン修飾RNase量/総N末端修飾RNase量 (アジド基を有するRNaseおよびクマリン修飾RNaseの総和)]はLC/MSを用いて評価した。
【0150】
結果を
図5に示す。本反応条件 (アルキン基質がアジドに対し2当量)において、トリアゾール付加体への変換率が2時間で約80%となった。
【0151】
また、アルキン基質濃度がより高い条件 (アルキン基質がアジドに対し5当量)で試験を行ったところ、1時間で90%の変換率が得られた。
【0152】
実施例4.化合物の合成2
化合物10は以下のスキームに従い合成した。使用機器、試薬、溶媒等は実施例1と同様である。
【0153】
【0154】
<4-1.Dimethyl 2,6-pyridinedicarboxylate (6) の合成>
化合物6は既報 (G. Bozoklu, C. Marchal, C. Gateau, J. Pecaut, D. Imbert, M. Mazzanti, Chem. Eur. J. 2010, 16, 6159-6163) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0155】
2,2’-bipyridine-6,6’-dicarboxylic acid (805 mg, 3.30 mmol)のエタノール溶液(20 mL)に対し、窒素雰囲気下、0℃で濃硫酸 (1 mL)を滴下し、その後反応溶液を12時間還流させた。反応溶液を室温まで空冷したのちに、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (30 mL x 2)を加え、有機溶媒を減圧留去した。残渣を塩化メチレン(30 mL × 3)で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、化合物6 (白色固体) を得た。Yield, 94%: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.77 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 8.15 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 7.99 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 4.50 (q, J = 7.1 Hz, 4H), 1.48 (t, J = 7.1 Hz, 6H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 165.4, 155.6, 147.9, 138.1, 125.5, 124.9, 62.1, 14.5; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C16H17N2O4 [M+H]+ 301.12, found 301.12。
【0156】
<4-2.[2,2’-bipyridine]-6,6’-dimethanol (7) の合成>
化合物7は既報 (V. Ganesan, D. Sivanesan, S. Yoon, Inorg. Chem. 2017, 56, 1366-1374) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0157】
化合物6 (805 mg, 2.68 mmol)のTHF溶液 (20 mL)に対し、0℃で水素化ホウ素ナトリウム (640 mg, 17 mmol) を少量ずつ加え、続いてメタノール (6 mL)を加え12時間還流させた。反応溶液を室温まで空冷したのちに、有機溶媒を減圧留去した。反応溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液 (20 mL)を加え、未反応の水素化ホウ素ナトリウムをクエンチ処理し、水層を純水 (30 mL)で希釈したのち、酢酸エチル (50 mL x 3)で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、化合物7 (白色固体) を得た。 Yield, 89%: 1H NMR (400 MHz, methanol-d4): δ8.24 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.91 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 7.53 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 4.78 (s, 4H); 13C NMR (100 MHz, methanol-d4): δ 162.1, 156.6, 147.9, 138.9, 121.7, 120.9, 66.0; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C12H12NaN2O2 [M+Na]+ 239.08, found 239.08。
【0158】
<4-3.6'-(hydroxymethyl)-[2,2'-bipyridine]-6-carbaldehyde (8) の合成>
化合物8は既報 (R. Ziessel, P. Nguyen, L. Douce, M. Cesario, C. Estournes, Org. Lett. 2004, 6, 2865-2868) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0159】
化合物7 (98 mg, 0.46 mmol)およびMnO2 (158 mg, 1.82 mmol)のクロロホルム分散液 (100 mL)を窒素雰囲気下、5日間還流させた。反応混合物を室温まで空冷後、沈殿物をセライトろ過により除き、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム:メタノール = 99:1~90:10)により精製し、化合物8 (褐色固体)を得た。Yield, 40%: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ10.2 (s, 1H), 8.68 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 8.50 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 8.04-7.99 (m, 2H), 7.89 ( t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 4.86 (s, 2H), 3.83 (s, 1H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 193.8, 158.6, 156.3, 153.9, 152.5, 138.1, 138.0, 125.2, 121.7, 121.3, 120.1, 64.2; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C12H10NaN2O2 [M+Na]+ 237.06, found 237.07。
【0160】
<4-4.6'-(azidomethyl)-[2,2'-bipyridine]-6-carbaldehyde (10) の合成>
化合物10は既報 (J. I. MacDonald, H. K. Munch, T. Moore, M. B. Francis, Nat. Chem. Biol. 2015, 11, 326-331) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0161】
化合物8 (20 mg, 0.093 mmol) およびトリエチルアミン (40 μL, 0.28 mmol) のアセトニトリル溶液 (5 mL) に、窒素雰囲気下、0℃で塩化メタンスルホニル(11 μL, 0.14 mmol)を滴下し、1時間撹拌した。反応溶液を塩化メチレン (30 mL) で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (10 mL) および飽和塩化ナトリウム水溶液 (10 mL x 2) で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、化合物9 (油状、褐色)を得た。化合物9は、精製操作をせず、続く反応へと用いた。
【0162】
化合物9のアセトニトリル溶液 (5 mL) にアジ化ナトリウム (24 mg, 0.37 mmol) を加え、窒素雰囲気下、60℃で12時間撹拌した。反応溶液を0℃まで冷却後、純水 (10 mL)を加え反応を停止させ、有機溶媒を減圧留去した。得られた水溶液を酢酸エチル (30 mL x 3) で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、化合物10 (褐色固体) を得た。Yield, 63% (2段階の反応後): 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ10.2 (s, 1H), 8.71 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 8.54 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 8.04-7.98 (m, 2H), 7.90 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.38 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 4.53 (s, 2H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ193.8, 156.4, 155.7, 155.1, 152.5, 138.3, 138.2, 125.6, 122.6, 121.8, 120.6, 55.4; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C12H9NaN5O [M+Na]+ 262.07, found 262.07。
【0163】
図6及び7に
1H NMR及び
13C NMRスペクトルを示す。
【0164】
実施例5.化合物の合成3
化合物10は以下のスキームに従い合成した。使用機器、試薬、溶媒等は実施例1と同様である。
【0165】
【0166】
<5-1.2-Azido-1-ethylamine (11) の合成>
化合物11は既報 (I. A. Inverarity, A. N. Hulme, Org. Biomol. Chem. 2007, 5, 636-643) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0167】
2-chloro-1-ethylamine hydrochloride (1.01 g, 8.71 mmol)の純水溶液 (6 mL)にアジ化ナトリウム (1.78 g, 27.4 mmol)を加え、窒素雰囲気下、80 ℃で16時間撹拌した。反応溶液を室温まで空冷したのち、水酸化カリウム水溶液 (1 M) を溶液のpHが12~14となるまで加え、ジエチルエーテル (20 mL x 4)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、化合物11 (油状、透明色)を得た。精製操作を省き、続く反応へと用いた。 Yield, 99%: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ3.37 (t, J = 5.7 Hz, 2H), 2.90 (t, J = 5.7 Hz, 2H)。
【0168】
<5-2.2-azido-N-(pyridin-2-ylmethyl)ethan-1-amine (12) の合成>
化合物12は既報 (J. J. Lee, S. A. Lee, H. Kim, L. Nguyen, I. Noh, C. Kim, RSC Adv. 2015, 5, 41905-41913) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0169】
化合物11 (745 mg, 8.66 mmol)および2-pyridinecarbaldehyde (861 mg, 8.04 mmol)のエタノール溶液 (9 mL)を室温で3時間撹拌し、0 ℃で水素化ホウ素ナトリウム (334 mg, 8.84 mmol)を加え、2時間撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、残渣を純水 (10 mL)に溶解し、ジエチルエーテル (30 mL x 5)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー (塩基性、活性度III、クロロホルム:メタノール = 99: 1~90: 10)で精製し、化合物12 (油状、褐色)を得た。Yield, 29%: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.57 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 7.66 (td, J = 1.8,7.7 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 7.18 (dd, J = 5.0, 7.5 Hz, 1H), 3.95 (s, 2H), 3.46 (t, J = 5.8 Hz, 2H), 2.86 (t, J = 5.8 Hz, 2H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3):δ159.6、149.6、136.7、122.4、122.2、55.0、51.7、48.3。
【0170】
<5-3.(6-(((2-azidoethyl)(pyridin-2-ylmethyl)amino)methyl)pyridin-2-yl)methanol (13) の合成>
化合物13は既報 (M. Tajbakhsh, R. Hosseinzadeh, H. Alinezhad, S. Ghahari, A. Heydari S. Khaksar, Synthesis, 2011, 3, 490-496) を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
【0171】
化合物3 (50.0 mg, 0.365 mmol)の2,2,2-トリフルオロエタノール溶液 (1 mL)を40 ℃で1時間撹拌し、続いて化合物12 (64.6 mg, 0.365 mmol)を加え、反応混合物を40 ℃で1時間撹拌した。反応混合物に水素化ホウ素ナトリウム (16.6 mg, 0.438 mmol)を加え、40 ℃で2時間撹拌した。反応混合物を室温まで空冷したのち、有機溶媒を減圧留去し、残渣をクロロホルム (20 mL)に溶解させ、飽和食塩水 (30 mL x 3)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー クロロホルム:メタノール = 99: 1~95: 5)で精製し、化合物13 (油状、黄色)を得た。Yield, 38%: 1H NMR (400 MHz, CD3CN): δ8.47 (s, 1H), 7.71 (m, 2H), 7.55 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 7.42 (d, J = 6.2 Hz, 1H), 7.26-7.19 (m, 2H), 4.61 (s, 2H), 3.81 (m, 4H), 3.34 (m, 2H), 2.77 (m, 2H); ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C15H18NaN6O [M+Na]+ 321.14, found 321.10。
【0172】
<5-4.6-(((2-azidoethyl)(pyridin-2-ylmethyl)amino)methyl)pyridinecarbaldehyde (14) の合成>
化合物13 (41.9 mg, 0.14 mmol)のクロロホルム溶液 (1 mL)にMnO2 (55.5 mg, 0.64 mmol)を加え、反応混合物を40 ℃で5時間撹拌した。反応混合物を室温まで空冷したのち、沈殿物をセライトろ過により除き、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム:メタノール = 100: 0~90:10)により精製し、化合物14 (油状、黄色)を得た。Yield, 52%: 1H NMR (400 MHz, CD3CN): δ 9.97 (s, 1H), 8.48 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 7.93 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.84-7.80 (m, 2H), 7.72 (td, J = 1.8, 7.7 Hz, 1H), 7.55 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.20 (dd, J = 4.8, 7.4 Hz, 1H), 3.95 (s, 2H), 3.86 (s, 2H), 3.37 (t, J = 5.9 Hz, 2H), 2.82 (t, J = 5.9 Hz, 2H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 194.6, 161.6, 160.1, 153.1, 149.9, 138.7, 137.4, 128.4, 123.98, 123.1, 121.0, 61.0, 60.1, 54.2, 49.7。
【0173】
図8及び9に
1H NMR及び
13C NMRスペクトルを示す。
【0174】
実施例6.ペプチドN末端修飾1
<6-1.使用機器>
LC/MSおよびLC/MS-MS測定には、HITACHI LaChrom ELITE (UV検出器: L-2400、ポンプ: L-2100)を液体クロマトグラムに、Bruker micrOTOF focus III 質量分析装置を質量分析に用い、移動相に0.1%ギ酸 超純水、アセトニトリルを用いた。
【0175】
<6-2.試薬・溶媒等>
Angiotensin I (Human)はペプチド研究所より購入した。超純水はMillipore Integral3により精製したものを用いた。その他の試薬・溶媒は、市販品をそのまま用いた。
【0176】
<6-3.ペプチドN末端アジド化>
本手法では、生理活性N末端を標的としている。対象となりうるタンパク質はN末端アミノ基が未修飾のものに加え、N末端から2番目のアミノ酸残基がプロリン以外のアミノ酸であるものとなる。具体的な実施例として、Angiotensin I (human) のN末端アジド化について示す。
【0177】
Angiotensin I のアミノ酸配列を示す。DRVYIHPFHL(配列番号2)。
【0178】
ペプチドN末端修飾は、既報 (J. I. MacDonald, H. K. Munch, T. Moore, M. B. Francis, Nat. Chem. Biol. 2015, 11, 326-331) を参考に行った。以下に具体的な実験項を示す。
【0179】
化合物5 (A-1-5で合成したもの) のジメチルスルホキシド (DMSO)溶液 (200 mM, 1.0 μL, 0.2 μmol, 終濃度10 mM) をリン酸カリウム緩衝液 (10 mM, pH 7.5, 17 μL) で希釈し、ここにAngiotensin I超純水溶液 (1.0 mM, 2.0 μL, 2.0 nmol, 終濃度100 μM) を加え、37℃で2.5時間振とうし、その後LC/MSおよびLC/MS-MSにより修飾の進行を評価した。
【0180】
LC/MSの結果を
図10に、LC/MS-MSの結果を
図11に示す。LC/MS測定から、修飾の進行に伴ってN末端修飾ペプチドの分子量に相当するピークが確認された。またLC/MS-MS測定から、N末端にイミダゾリジノン骨格を介してアジド基が導入されたペプチドのアミノ酸配列に一致するフラグメントイオンが観測され、N末端へのアジド基導入が確かめられた。
【0181】
実施例7.タンパク質N末端修飾2
<7-1.使用機器>
LC/MS測定には、HITACHI LaChrom ELITE (UV検出器: L-2400、ポンプ: L-2100)を液体クロマトグラムに、Bruker micrOTOF focus III 質量分析装置を質量分析に用いた。移動相に0.1%ギ酸 超純水、アセトニトリルを用いた。
【0182】
<7-2.試薬・溶媒等>
実施例2と同様である。
【0183】
<7-3.タンパク質N末端アジド化>
特に断りの無い限り、実施例2と同様にして行った。化合物5, 10, 14 (A項で合成したもの) のジメチルスルホキシド (DMSO)溶液 (200 mM, 40 μL, 8 μmol, 終濃度10 mM) をリン酸カリウム緩衝液 (25 mM, pH 7.5, 720 μL) で希釈し、この溶液にRNase超純水溶液 (1 mM, 40 μL, 40 nmol, 終濃度50 μM) を加え、37℃で16時間振とうした。化合物5, 10, 14によるRNase N末端修飾率の比較は反応混合物のLC/MS測定により評価した(修飾率[=アジド基を有するRNase量/(総RNase量)])。
【0184】
化合物5, 10, 14によるRNaseの修飾率評価の結果を
図12に示す。化合物5が最も高い修飾率(98%)を示した。続いて化合物14, 10の順(90%, 79%)と化合物の水溶性に一致する結果となり、反応混合物中における実効濃度がN末端修飾に重要であることが示唆された。溶解性の低い化合物10についてもDMSO濃度を調節することで、修飾率の向上が期待できる。
【0185】
実施例8.化合物の合成4
使用機器、試薬、溶媒等は実施例1と同様である。
【0186】
<8-1. 5-(Azidomethyl)-2-pyridinecarbaldehyde(18)の合成>
化合物18は以下のスキームに従って合成した。
【0187】
【0188】
<8-1-1. 化合物15の合成>
化合物15の合成は、2,5-ピリジンジカルボン酸を前駆体として実施例1-3-1と同様に行った。Yield 62%; 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.31 (s, 1H), 8.45 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 8.21 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 4.04 (s, 3H), 4.00 (s, 3H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 165.1, 165.0, 151.0. 150.9, 138.5, 128.8, 124.8, 53.4, 52.9; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C9H9NO4Na [M+Na]+ 218.04, found 218.05。
【0189】
<8-1-2. 化合物16の合成>
化合物16の合成は、化合物16を前駆体として実施例1-3-2と同様に行った。 Yield 80%; 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 8.45 (s, 1H), 7.84 (dd, J = 1.2, 8.0 Hz, 1H), 7.55 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 4.69 (s, 3H), 4.65 (s, 3H); 13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 151.7, 138.6, 128.1, 127.9, 112.4, 55.9, 52.9; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C7H10NO2 [M+H]+ 140.07, found 140.07。
【0190】
<8-1-3. 化合物17の合成>
化合物17の合成は、化合物16を前駆体として実施例1-3-3と同様に行った。 Yield 46%; 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 10.1 (s, 1H), 8.74 (d, J = 1.0 Hz, 1H), 7.95 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.89 (dd, J = 1.0, 8.0 Hz, 1H), 4.85 (d, J = 3.4 Hz, 2H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 193.1, 152.2, 148.7, 141.3, 135.5, 121.9, 62.3; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C7H7NO2Na [M+Na]+ 160.04, found 160.04。
【0191】
<8-1-4. 化合物18の合成>
化合物18の合成は、化合物17を前駆体として実施例4-4と同様に行った。
図13および14に
1H NMR、
13C NMRスペクトルを示す。Yield 80% (after 2 steps);
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 10.1 (d, J = 0.56 Hz, 1H), 8.75 (d, J = 1.4 Hz, 1H), 8.0 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.86 (dd, J = 1.4, 8.0 Hz, 1H), 4.53 (s, 2H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 192.9, 152.8, 149.7, 136.6, 136.0, 121.8, 52.0; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C
7H
6N
4ONa [M+Na]+ 185.04, found 185.04。
【0192】
<8-2. 化合物21の合成>
化合物21は以下のスキームに従って合成した。
【0193】
【0194】
<8-2-1. 化合物19の合成>
5-azidopentanoic acid (657 mg, 4.59 mmol)のテトラヒドロフラン溶液 (30 mL)に、(2(1H-benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium hexafluorophosphate (1.74 g, 4.59 mmol), N,N-diisopropylethylamine (1.68 mL, 9.5 mmol), N-Boc-piperadine (708 mg, 3.8 mmol)を加え、反応混合物を窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。続いて有機溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチル (50 mL)に溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム溶液 (30 mL x 2), 5% クエン酸水溶液 (30 mL x 2), 飽和食塩水 (30 mL x 2)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン:酢酸エチル = 99: 1~50: 50)で精製し、化合物19 (油状、黄色)を得た。Yield 71%; 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.59 (t, J = 5.1 Hz, 2H), 3.44-3.39 (m, 6H), 3.31 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.37 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 1.77-1.62 (m, 4H), 1.47 (s, 9H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 171.1, 154.7, 80.5, 51.4, 45.5, 41.2, 32.7, 28.7, 28.5, 22.5; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C14H25N5O3Na [M+Na]+ 334.19, found 334.19。
【0195】
<8-2-2. 化合物20の合成>
化合物19の1,4-ジオキサン溶液 (10 mL)に、4 M HCl/1,4-ジオキサン溶液 (3 mL)を加え、反応混合物を室温で2時間撹拌した。続いて有機溶媒を減圧留去し、残渣をジエチルエーテル (10 mL)に分散し、溶媒を再度減圧留去し、化合物20 (白色固体)を得た。Yield quant.; 1H NMR (400 MHz, CD3CN): δ 3.79 (dt, J = 4.4, 16 Hz, 4H), 3.31 (t, J = 6.2 Hz, 2H), 3.09 (dt, J = 4.9, 16 Hz, 4H), 2.35 (t, J = 7.1 Hz, 2H), 1.62-1.60 (m, 4H); 13C NMR (100 MHz, CD3CN): δ 172.0, 51.9, 44.1, 44.0, 42.9, 38.8, 32.6, 29.0, 22.9; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C9H18N5O [M-Cl]+ 212.15, found 212.15。
【0196】
<8-2-3. 化合物21の合成>
化合物3 (229 mg, 1.67 mmol) およびトリエチルアミン (700 μL, 5.01 mmol) のアセトニトリル溶液 (10 mL) に、窒素雰囲気下、0 ℃で塩化メタンスルホニル(194 μL, 2.50 mmol)を滴下し、1時間撹拌した。反応溶液を塩化メチレン (40 mL) で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (20 mL) および飽和塩化ナトリウム水溶液 (20 mL x 2) で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。
【0197】
続いて、アセトニトリル (10 mL)に溶解させ、ここに化合物20 (557 mg, 2.25 mmol),トリエチルアミン (100 μL)および炭酸カリウム (621 mg, 4.5 mmol)を加え、反応混合物を窒素雰囲気下、60℃で終夜撹拌した。続いて有機溶媒を減圧留去し、残渣を塩化メチレン (40 mL)に溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム溶液 (40 mL)、飽和食塩水 (20 mL x 2)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム:メタノール = 99: 1~90: 10)で精製し、化合物21 (油状、黄色)を得た。
図15および16に
1H NMR、
13C NMRスペクトルを示す。Yield 56% (after 2 steps);
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 10.1 (s, 1H), 7.87-7.86 (m, 2H), 7.69 (dd, J = 3.5, 5.4 Hz, 1H), 3.79 (s, 2H), 3.67 (t, J = 4.9 Hz, 2H), 3.50 (t, J = 4.9 Hz, 2H), 3.30 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.53 (m, 4H), 2.36 (t, J = 7.1 Hz, 2H), 1.62-1.60 (m, 4H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 193.6, 170.9, 159.3, 152.6, 137.7, 127.5, 120.6, 64.1, 53.6, 53.2, 51.4, 45.6, 41.7, 32.6, 28.7, 22.5; ESI-TOF MS (positive mode) m/z calcd. for C
16H
23N
6O
2 [M+H]
+ 331.19。
【0198】
実施例9. タンパク質N末端修飾3
<9-1.使用機器>
LC/MS測定には、HITACHI LaChrom ELITE (UV検出器: L-2400、ポンプ: L-2100)を液体クロマトグラフィーとして装着したBruker micrOTOF focus III 質量分析装置を質量分析に用いた。移動相に0.1%ギ酸 超純水、アセトニトリルを用いた。
【0199】
<9-2.試薬・溶媒等>
実施例2と同様である。
【0200】
<9-3.タンパク質N末端アジド化>
特に断りの無い限り、実施例2と同様にして行った。化合物18, 21 (A項で合成したもの) のジメチルスルホキシド (DMSO)溶液 (200 mM, 40 μL, 8 μmol, 終濃度10 mM) をリン酸カリウム緩衝液 (25 mM, pH 7.5, 720 μL) で希釈し、この溶液にRNase超純水溶液 (1 mM, 40 μL, 40 nmol, 終濃度50 μM) を加え、37℃で16時間振とうした。化合物5, 10, 14によるRNase N末端修飾率の比較は反応混合物のLC/MS測定により評価した(修飾率[=アジド基を有するRNase量/(総RNase量)])。
【0201】
化合物18, 21によるRNaseの修飾率評価の結果を
図17に示す。
【0202】
実施例10.配位型CuAAC反応による機能性分子の導入2
<10-1. 使用機器>
LC/MS測定には、HITACHI LaChrom ELITE (UV検出器: L-2400、ポンプ: L-2100)を液体クロマトグラフィーとして装着したBruker micrOTOF focus III 質量分析装置を質量分析に用いた。移動相に0.1%ギ酸 超純水、アセトニトリルを用いた。蛍光測定には、JASCO FP-8600 蛍光分光装置を用いた。
【0203】
<10-2.試薬・溶媒等>
特に断りのない限り、実施例3と同様にして行った。
【0204】
<10-3.配位型CuAAC反応2>
リン酸カリウム緩衝溶液 (100 mM, pH7.0, 138 μL)、化合物5, 18, 21により処理したN末端アジド化RNase溶液 (0.1 mM, 40 μL, 4 nmol, 終濃度20 μM)、アルキン基質(エチニル基を有するクマリン誘導体) (DMSO溶液, 10 mM, 0.8 μL, 8 nmol, 終濃度40 μM)、アミノグアニジン塩酸塩水溶液 (100 mM, 10 μL, 1 μmol, 終濃度5 mM)、アスコルビン酸ナトリウム水溶液 (100 mM, 10 μL, 1 μmol, 終濃度5 mM)を混合し、ここに硫酸銅五水和物溶液 (20 mM, 0.4 μL, 20 nmol, 終濃度100 μM) とTHPTA 水溶液 (50 mM, 0.8 μL, 100 nmol, 終濃度500 μM)を加え、室温において反応を行った。反応経過を蛍光スペクトル測定により評価した。一時間後、反応溶液を超純水で希釈し、アミコンウルトラ-0.5 (Millipore社, MWCO: 10 kDa) を用いた濃縮操作を繰り返す (計5回) ことで未反応のアルキン基質や銅触媒を取り除き、トリアゾール付加体を得た。修飾率はLC-MS測定により評価した。
図18に結果を示す。配位性アジド部位を有する化合物5によって修飾されたRNaseは非配位性アジド部位を有する化合物18、21によって修飾されたRNaseに比べてCuAAC反応の反応効率が向上していることが示された。
【0205】
実施例11.配位型CuAAC反応による機能性分子の導入3
<11-1. 使用機器>
LC/MS測定には、HITACHI LaChrom ELITE (UV検出器: L-2400、ポンプ: L-2100)を液体クロマトグラフィーとして装着したBruker micrOTOF focus III 質量分析装置を質量分析に用いた。移動相に0.1%ギ酸 超純水、アセトニトリルを用いた。
【0206】
<11-2.試薬・溶媒等>
特に断りのない限り、実施例3と同様にして行った。化合物22は既報(T. P. Curran, A. P, Lawrence, T. S. Murtaugh, W. Ji, N. Pokharel, C. B. Gober, J. Suitor, J. Organomet. Chem., 2017, 846, 24-32)を参考に合成したものを用いた。化合物23は既報(F. M. Cordero, P. Bonanno, M. Chioccioli, P. Gratteri, I. Robina, A. J. M. Vargas, A. Brandi, Tetrahedron, 2011, 67, 9555-9564) を参考に合成したものを用いた。化合物24は既報を(X. Chen, Q. Wu, L. Henschke, G. Weber, T. Weil, Dyes Pigm., 2012, 94, 296-303)を参考に合成したものを用いた。
【0207】
<11-3.配位型CuAAC反応3>
リン酸カリウム緩衝溶液 (100 mM, pH7.0, 138 μL)、化合物5により処理したN末端アジド化RNase溶液 (0.1 mM, 40 μL, 4 nmol, 終濃度20 μM)、アルキン基質 (DMSO溶液, 10 mM, 0.8 μL, 8 nmol, 終濃度40 μM)、アミノグアニジン塩酸塩水溶液 (100 mM, 10 μL, 1 μmol, 終濃度5 mM)、アスコルビン酸ナトリウム水溶液 (100 mM, 10 μL, 1 μmol, 終濃度5 mM)を混合し、ここに硫酸銅五水和物溶液 (20 mM, 0.4 μL, 20 nmol, 終濃度100 μM) とTHPTA 水溶液 (50 mM, 0.8 μL, 100 nmol, 終濃度500 μM)を加え、室温において反応を行った。一時間後、反応溶液を超純水で希釈し、アミコンウルトラ-0.5 (Millipore社, MWCO: 10 kDa) を用いた濃縮操作を繰り返す (計5回) ことで未反応のアルキン基質や銅触媒を取り除き、トリアゾール付加体を得た。修飾率はLC-MS測定により評価した。
図19に結果を示す。
【配列表】