(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】生体電極および衣類
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20220124BHJP
【FI】
A61B5/256 220
(21)【出願番号】P 2021023048
(22)【出願日】2021-02-17
(62)【分割の表示】P 2019124307の分割
【原出願日】2015-12-07
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2014247860
(32)【優先日】2014-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】高河原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】川野 龍介
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆子
(72)【発明者】
【氏名】瀬山 倫子
(72)【発明者】
【氏名】笠原 亮一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康博
(72)【発明者】
【氏名】堀内 篤
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅伸
(72)【発明者】
【氏名】石川 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】竹田 恵司
(72)【発明者】
【氏名】長井 典子
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/116816(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0183990(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0284134(US,A1)
【文献】特表2008-536542(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0343391(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣類の生体と接触する面に固定された半透膜からなる取り付け部材と、
この取り付け部材の生体と接触する面に固定された導電性の部材からなる電極部と、
生体電気信号測定装置との接続用の導電部を含み、この導電部が前記衣類の生体と接触する面と反対側の面に露出するように前記取り付け部材に固定され、前記電極部と電気的に接続されたコネクタと、
前記コネクタの表面のうち、生体と接触する部分を被覆する半透膜からなる第1の絶縁部材と、
前記コネクタと前記衣類との間を絶縁する半透膜からなる第2の絶縁部材とを備え、
前記第2の絶縁部材は、前記コネクタの衣類と接触する部分の表面に予め形成されることを特徴とする生体電極。
【請求項2】
請求項1記載の生体電極において、
さらに、前記衣類の素材よりもヤング率の大きい補強部材を備え、
前記コネクタは、前記衣類の表裏を貫通して衣類に固定される形態のコネクタであり、
前記補強部材は、補強部材に厚さ方向に沿って形成された孔と前記衣類に厚さ方向に沿って形成された孔とを前記コネクタが貫通した状態で、前記衣類に固定されることを特徴とする生体電極。
【請求項3】
請求項1または2記載の生体電極において、
さらに、前記取り付け部材と前記衣類との間に設けられた固定補助布を備えることを特徴とする生体電極。
【請求項4】
請求項3記載の生体電極において、
前記固定補助布は、前記取り付け部材の固定に接着剤を用いる場合に、前記接着剤との接着力が前記衣類と前記接着剤との接着力よりも大きいものであり、織物、編物、不織布のうちのいずれか1つであることを特徴とする生体電極。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の生体電極を備え、前記生体電極は、前記電極部が生体と接触するように固定されたことを特徴とする衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図をはじめとする生体電気信号を測定するための生体電極、および生体電極が固定された衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳波、事象関連電位、誘発電位、筋電位、心電位等の生体電気信号の記録、及び生体に対する電気刺激のために、体表面に装着する生体電極が広く使用されている。近年、個人の健康管理の手法の一つとして、長期間にわたって心電波形を記録し、その波形の変化を解析することで、自律神経の乱れや心臓病の兆候を早期に発見することができ、予防医学において有効であることが知られている。長期間にわたって心電波形を取得するため、生体電極の取り付けられた着衣(ウェアラブル電極)が注目されている(文献「David M.D.Ribeiro,et al.,“A Real time, Wearable ECG and Continous Blood Pressure Monitoring System for First Responders”,33rd Annual International Conference of the IEEE EMBS,pp.6894-6898,2011」参照)。
【0003】
一般に、ウェアラブル電極は、生体に接触する電極部、生体電気信号を測定する端末を取り付けるコネクタ、電極部とコネクタを接続する配線、電極部とコネクタと配線とを取り付けるベースとなる身生地部分とに分けられ、電極部とコネクタと配線のみに導電性が付与され、身生地は電気絶縁体で形成される。このような構成とすることで、電極部のみから所望の生体電気信号を取得することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に着衣の素材は、着用時の快適さを確保するために汗や雨などの水分を吸収する素材が用いられる。電解液を含んだ着衣は電気絶縁性が失われる。このため、関連するウェアラブル電極は、着用者が発汗した時や雨天での使用時において、電極部、コネクタ、配線などの導電体と着衣との電気的な絶縁が確保できず、電極部以外の着衣部分で検出された生体電気信号が電極部から取得した生体電気信号に混入することで所望の生体電気信号を取得できなくなったり、複数の電極間が電気的に短絡することにより生体電気信号が劣化したりするといった問題点があった。なお、本来、雨は電解液ではないが、酸性雨等の影響により雨が電解液として作用する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、生体電極を着衣に取り付けた後で、着衣が汗等で濡れた状態になったとしても、所望の生体電気信号を取得可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の生体電極は、衣類の生体と接触する面に固定された半透膜からなる取り付け部材と、この取り付け部材の生体と接触する面に固定された導電性の部材からなる電極部と、生体電気信号測定装置との接続用の導電部を含み、この導電部が前記衣類の生体と接触する面と反対側の面に露出するように前記取り付け部材に固定され、前記電極部と電気的に接続されたコネクタと、前記コネクタの表面のうち、生体と接触する部分を被覆する半透膜からなる第1の絶縁部材と、前記コネクタと前記衣類との間を絶縁する半透膜からなる第2の絶縁部材とを備え、前記第2の絶縁部材は、前記コネクタの衣類と接触する部分の表面に予め形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、電気絶縁性の取り付け部材に電極部とコネクタと配線とを取り付け、配線の表面のうち、生体と接触する部分を電気絶縁性の第1の絶縁部材で覆う。これにより、本発明では、取り付け部材を衣類に取り付けた後で、衣類が汗等で濡れた状態になったとしても、配線と生体との間の短絡、あるいは複数の電極部間の短絡を防ぐことができ、所望の生体電気信号を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施例に係るウェアラブル電極を生体に装着した様子を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施例に係るウェアラブル電極の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施例に係るウェアラブル電極の他の例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施例に係るウェアラブル電極を生体に装着した様子を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施例に係るウェアラブル電極の断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2実施例に係るウェアラブル電極の他の例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施例に係るウェアラブル電極の他の例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第3実施例に係るウェアラブル電極を生体に装着した様子を示す模式図である。
【
図9】
図9は、本発明の第3実施例に係るウェアラブル電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施例]
以下、本発明に係るウェアラブル電極(生体電極)を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本発明が限定されるものではない。
【0010】
図1は本発明の第1実施例に係るウェアラブル電極を生体に装着した様子を示す模式図、
図2は
図1のウェアラブル電極のA-A’線断面図である。なお、
図2では、1組の電極部と配線とコネクタのみについて記載している。
本実施例のウェアラブル電極は、生体1000(着用者)に接触する導電性繊維構造物からなる2つの電極部1101a,1101bと、電極部1101a,1101bが取得した生体電気信号を検出処理する生体電気信号測定装置を接続するためのコネクタ1102a,1102bと、電極部1101a,1101bとコネクタ1102a,1102bとを電気的に接続する配線1103a,1103bと、配線1103a,1103bの表面のうち、生体1000と接触する部分を被覆する防水性かつ電気絶縁性の絶縁部材1105と、電極部1101a,1101bとコネクタ1102a,1102bと配線1103a,1103bとを固定するための防水性かつ電気絶縁性の部材からなる取り付け部材1106と、取り付け部材1106が固定される着衣1100とから構成される。
【0011】
電極部1101a,1101bの数は、1つ以上であれば特に限定されない。電極部1101a,1101bの位置は、本発明においては特に限定されず、検出対象とする生体電気信号の種類に応じて変えればよい。例えば、検出対象が心電波形であれば、生体1000の心臓を挟んだ左右に1つずつ電極部1101a,1101bを設置すればよく、検出対象が筋電位であれば、生体1000の対象とする筋肉上に2つの電極部1101a,1101bを設置すればよいが、電極部1101a,1101bの配置及び数は本発明を規定するものではない。
【0012】
電極部1101a,1101bを構成する導電性繊維構造物は、特に限定されないが、銀、銅、金、ステンレス等の金属を細線に加工して柔軟性を付与し、布帛として構成したものや、上記金属を繊維素材にメッキしたもの、カーボンファイバー、導電性高分子を繊維素材に含浸したものなどを用いることができる。特に、導電性高分子としてポリ3、4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)にポリスチレンスルホン酸(ポリ4-スチレンサルフォネート;PSS)をドープしたPEDOT/PSSを用い、この導電性高分子を繊維素材に含浸したものは、安全性、加工性の観点から電極部として特に好適である。
【0013】
電極部1101a,1101bは、取り付け部材1106の生体1000と接触する面に固定される。電極部1101a,1101bの取り付け部材1106への固定方法としては、電解液を含んだ際に導電体となる着衣1100と電極1101a,1101bとが電気的に短絡することを防止するため、取り付け部材1106の表裏を貫通する孔を開けない手法を取ることが望ましい。具体的には、電極部1101a,1101bの外周部の少なくとも一部を粘着テープで押さえて固定する方法、接着で固定する方法などがある。
【0014】
電極部1101a,1101bの接着に用いる接着剤としては、特に限定されないが、100~180℃で融着可能な樹脂を用いることができる。この樹脂の種類はポリエステル、ナイロン、ポリウレタンまたはこれらの混合物が挙げられるが、これらの樹脂に限定されるものではない。
【0015】
電極部1101a,1101bの固定に使用される粘着テープとしては、厚みが10~100μmのポリウレタン、ポリエステル、ナイロン等の合成樹脂からなる無孔フィルム、気孔周辺が撥水化された微多孔フィルム、あるいは繊維間の空隙をポリウレタン、ポリエステル、ナイロン等の防水性かつ絶縁性の樹脂で予め埋めたフィルムを基材とするものが使用される。この基材の少なくとも片面にホットメルト等の接着材層を積層した防水テープが粘着テープとして特に好適である。
【0016】
配線1103a,1103bとしては、取り付け部材1106に導電性樹脂を印刷したものや、取り付け部材1106に導電性樹脂のフィルムを貼り付けたもの、導電性繊維構造物からなる配線1103a,1103bの外周部の少なくとも一部を粘着テープで押さえて取り付け部材1106に固定したもの、あるいは導電性繊維構造物を取り付け部材1106に接着したものを用いることができる。
【0017】
配線1103a,1103bとして導電性樹脂を印刷する場合には、取り付け部材1106に電極部1101a,1101bを固定した後で、電極部1101a,1101bとの電気的接続が得られるように導電性樹脂を印刷してもよいし、導電性樹脂を印刷した後で、この導電性樹脂との電気的接続が得られるように電極部1101a,1101bを取り付け部材1106に固定してもよい。
【0018】
配線1103a,1103bとして導電性樹脂のフィルムを用いる場合には、取り付け部材1106に電極部1101a,1101bを固定した後で、電極部1101a,1101bとの電気的接続が得られるように導電性樹脂のフィルムを取り付け部材1106に貼り付けてもよいし、導電性樹脂のフィルムを貼り付けた後で、この導電性樹脂のフィルムとの電気的接続が得られるように電極部1101a,1101bを取り付け部材1106に固定してもよい。
【0019】
配線1103a,1103bとして導電性繊維構造物を用いる場合も同様に、電極部1101a,1101bの後に配線1103a,1103bを固定してもよいし、電極部1101a,1101bよりも前に配線1103a,1103bを固定してもよいが、導電性繊維構造物を用いる場合には、電極部1101a,1101bと配線1103a,1103bとを一体成形することも可能である。
【0020】
配線1103a,1103bの固定に使用される粘着テープとしては、上記と同様にポリウレタン、ポリエステル、ナイロン等の合成樹脂からなる無孔フィルム、気孔周辺が撥水化された微多孔フィルム、あるいは繊維間の空隙をポリウレタン、ポリエステル、ナイロン等の防水性かつ絶縁性の樹脂で予め埋めたフィルムを基材とするものが使用される。この基材の少なくとも片面にホットメルト等の接着材層を積層した防水テープが粘着テープとして特に好適である。
【0021】
配線1103a,1103bが生体1000と接触すると、電極部1101a,1101bで取得する生体電気信号の信号経路に対してシャント抵抗が挿入されることとなり、測定装置に入力される所望の生体電気信号が減衰してしまう。そのため、
図2に示すように配線1103a,1103bを絶縁部材1105で覆い、生体1000と接触しないようにするとよい。ここで、絶縁部材1105として上記の粘着テープを用い、配線1103a,1103bの固定と絶縁被覆とを同時に達成してもよい。
【0022】
本実施例では、コネクタ1102a,1102bは、生体電気信号測定装置との接続用の導電部が生体1000と接触する面に露出するように取り付け部材1106に固定される。コネクタ1102a,1102bとしては、着用者に違和感を与えないため、金属製ドットボタンや導電性を有する線ファスナー、導電性面ファスナー等、従来、着衣の脱着部に用いられる部材を用いることが好ましい。
【0023】
本実施例では、電解液を含んだ際に導電体となる着衣1100とコネクタ1102a,1102b及び配線1103a,1103bとが電気的に短絡することを防止するため、コネクタ1102a,1102bの固定方法として、取り付け部材1106の表裏を貫通する孔を空けない方法を採ることが望ましい。具体的には、コネクタ1102a,1102bとして導電性面ファスナーを用いる場合には、導電性面ファスナーを粘着テープで押さえて固定する方法、あるいは接着で固定する方法などがある。導電性面ファスナーの固定に使用される粘着テープとしては、上記の防水テープが特に好適である。
【0024】
一方、金属製ドットボタンのように、基材を貫通したボタンの表裏をかしめることで固定されることを前提とした形態のコネクタの場合、その本来の固定方法を採ることはできない。したがって、導電性面ファスナーと同様に、粘着テープで押さえて固定するか、接着で固定することになる。なお、金属製ドットボタンの場合は、導電性面ファスナーよりも面積が小さいので、十分な固定強度を得られない可能性がある。
【0025】
取り付け部材1106は、防水性かつ電気絶縁性の部材であれば特に限定されず、例えばポリウレタン、ポリエステル、ナイロン等の合成樹脂素材を用いることができる。ただし、取り付け部材1106が繊維素材の織物や編物といった形態であると、多量の水分に暴露された際に、織り込まれた繊維と繊維の間隙に水分が担持され水滴となり、担持された水滴同士が数珠繋ぎに連結されることで、複数の電極部の間が電気的に短絡する恐れがある。
【0026】
そのため、取り付け部材1106は、フッ素樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル等の樹脂からなる無孔フィルム、気孔周辺が撥水化された微多孔フィルム、あるいは繊維間の空隙をポリエステル、ナイロン等の防水性かつ電気絶縁性の樹脂で予め埋めたフィルムであることが望ましい。また、取り付け部材1106は、多量の水分に暴露された際にも、電気絶縁性を維持できる部材であってもよいし、半透膜であってもよい。
【0027】
取り付け部材1106の大きさは、電極部1101a,1101bとコネクタ1102a,1102bと配線1103a,1103bとを含む大きさであれば良い。ただし、取り付け部材1106表面に担持された水分同士が数珠繋ぎに連結されることで、ウェアラブル電極の導電性を有する部分(電極部1101a,1101b、コネクタ1102a,1102b、配線1103a,1103b)と着衣1100とが電気的に連結されることを防ぐため、
図2に示すように、生体1000の皮膚表面に沿って取り付け部材1106の外縁がウェアラブル電極の導電性を有する部分の外縁よりも外側に距離d以上張り出すようにすることが望ましい。
【0028】
距離dは、取り付け部材1106の材質や表面形状によって設計すべき値であり、本発明を規定するものではないが、例えば取り付け部材1106としてポリウレタン無孔膜を用いた場合には、距離dを3mm以上とすることで所期の目的を達成することができる。
また、着用者が着衣1100を着た際に防水性の取り付け部材1106が肌に触れると、汗が吸収されず不快感が生じる恐れがあるため、取り付け部材1106の大きさは上記の条件を満たし、かつなるべく小さくなるように設計することが望ましい。
【0029】
取り付け部材1106の着衣1100への固定方法としては、取り付け部材1106の外縁部を着衣1100に縫い付ける方法、あるいは接着で固定する方法などがある。取り付け部材1106を接着剤によって着衣1100に固定する場合、着衣1100の素材(例えば綿、レーヨン、毛などの混紡品)と接着剤との組み合わせによっては接着力が小さく、容易に取り付け部材1106が剥離してしまうことがある。そのため、
図3に示すように、取り付け部材1106と着衣1100との間に、着衣1100よりも接着材との接着力が大きい固定補助布1110を備えるとよい。
【0030】
固定補助布1110は、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ウレタンの少なくとも1つを含む織物、編物、不織布のうちのいずれか1つであり、特にポリエステル、ナイロン等の合成繊維を好適に用いることができる。固定補助布1110は、着衣1100に縫い付けることで固定することができる。固定補助布1110として、接着剤との接着力が着衣1100と接着剤との接着力よりも大きいものを用いることにより、着衣1100に使用する素材を快適性や機能性を考慮して選択することができ、着衣1100と接着剤との接着力が小さい場合でも、洗濯などによる剥離耐久性を維持する効果が得られる。
【0031】
絶縁部材1105は、防水性かつ電気絶縁性の部材であれば特に限定されず、例えばポリエステル、ナイロン等の合成樹脂素材を用いることができる。取り付け部材1106の場合と同様に、絶縁部材1105が繊維素材の織物や編物といった形態であると、多量の水分に暴露された際に、織り込まれた繊維と繊維の間隙に水分が担持され水滴となり、水に含まれるイオン分を通して複数の電極部の間が電気的に短絡する恐れがある。
【0032】
そのため、絶縁部材1105は、フッ素樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ナイロン等の樹脂からなる無孔フィルム、気孔周辺が撥水化された微多孔フィルム、あるいは繊維間の空隙をポリエステル、ナイロン等の防水性かつ電気絶縁性の樹脂で予め埋めたフィルムであることが望ましい。また、絶縁部材1105は、多量の水分に暴露された際にも、電気絶縁性を維持できる部材であってもよいし、半透膜であってもよい。
【0033】
絶縁部材1105の大きさは、電気的に絶縁したい配線1103a,1103bを含む大きさであればよい。ただし、取り付け部材1106の場合と同様に、着用者が着衣1100を着た際に防水性の部材が肌に触れると、汗が吸収されず不快感が生じる恐れがあるため、絶縁部材1105はなるべく小さいことが望ましい。
【0034】
絶縁部材1105の取り付け部材1106への固定方法としては、絶縁部材1105を縫い付ける方法、あるいは接着で固定する方法などがある。上記のとおり、絶縁部材1105として粘着テープを使用すれば、配線1103a,1103bの固定と絶縁被覆とを同時に達成することができる。
【0035】
着衣1100の素材及び形状は特に限定されず、検出対象とする生体電気信号の種類に応じて変えればよい。例えば、心電位の取得を目的とする場合は生体1000の心臓に近い胸部を含む着衣形状が望ましく、例えばシャツやブラジャー、腹巻きといった形状が望ましい。下肢部の筋電位の取得を目的とする場合はスパッツやパンツ、ズボンといった形状が望ましいが、本発明はかかる着衣の形状に限定されるものではない。なお、電極部1101a,1101bが0.1kPa以上2.0kPa以下の圧力で生体1000の皮膚に密着することが望ましく、外部からベルトなどを用いて密着させてもよい。
【0036】
以上のように、本実施例では、防水性かつ電気絶縁性の取り付け部材1106に電極部1101a,1101bとコネクタ1102a,1102bと配線1103a,1103bとを取り付け、配線1103a,1103bの表面のうち、生体1000と接触する部分を防水性かつ電気絶縁性の絶縁部材1105で覆うことにより、着衣1100が汗等で濡れた状態であっても、配線1103a,1103bと生体1000との間の短絡、あるいは複数の電極部1101a,1101b間の短絡を防ぐことができ、所望の生体電気信号を取得することができる。
【0037】
また、本実施例では、電極部1101a,1101bとコネクタ1102a,1102bと配線1103a,1103bよりも取り付け部材1106の面積を大きくし、生体1000の皮膚表面に沿って取り付け部材1106の外縁が電極部1101a,1101bとコネクタ1102a,1102bと配線1103a,1103bの外縁よりも外側に所定の距離d以上張り出すようにしたので、着衣1100が汗等で濡れたときに、着衣1100の部分で検出された生体電気信号が、電極部1101a,1101bで取得する生体電気信号に混入することを防ぐことができる。
【0038】
なお、本実施例では、取り付け部材1106の生体1000と接触する面にコネクタ1102a,1102bを配置するため、コネクタ1102a,1102bと接続される生体電気信号測定装置側のコネクタは、生体1000と接触しないようにコネクタ1102a,1102bを絶縁部材で覆う形態であることが望ましい。
【0039】
[第2実施例]
次に、本発明の第2実施例について説明する。
図4は本発明の第2実施例に係るウェアラブル電極を生体に装着した様子を示す模式図、
図5は
図4のウェアラブル電極のB-B’線断面図であり、
図1、
図2と同様の構成には同一の符号を付してある。なお、
図5では、1組の電極部と配線とコネクタのみについて記載している。
【0040】
本実施例のウェアラブル電極は、電極部1101a,1101bと、コネクタ1102c,1102dと、配線1103a,1103bと、絶縁部材1105と、取り付け部材1106と、コネクタ1102c,1102dと着衣1100との間を絶縁する防水性かつ電気絶縁性の絶縁部材1107と、取り付け部材1106が固定される着衣1100とから構成される。
【0041】
電極部1101a,1101bと配線1103a,1103bについては、第1実施例と同じにすればよい。
本実施例では、コネクタ1102c,1102dは、生体電気信号測定装置との接続用の導電部が、着衣1100の生体1000と接触する面と反対側の面に露出するように配置される。コネクタ1102c,1102dの素材については第1実施例のコネクタ1102a,1102bと同等である。
【0042】
金属製ドットボタンのように、基材を貫通したボタンの表裏をかしめることで固定されることを前提とした形態のコネクタ1102c,1102dを用いる場合、少なくとも着衣1100の表面(生体1000と接触する面と反対側の面)とコネクタ1102c,1102dとの間、およびコネクタ1102c,1102dを設けるために着衣1100に形成された貫通孔1200の側面とコネクタ1102c,1102dとの間を電気的に絶縁する防水性かつ電気絶縁性の絶縁部材1107を設ける。
【0043】
絶縁部材1107は、防水性かつ電気絶縁性の部材であれば特に限定されず、例えばポリエステル、ナイロン等の合成樹脂素材を用いることができる。絶縁部材1105の場合と同様に、絶縁部材1107が繊維素材の織物や編物といった形態であると、多量の水分に暴露された際に、織り込まれた繊維と繊維の間隙に水分が担持され、水に含まれるイオン分を通して複数の電極部の間が電気的に短絡する恐れがある。
【0044】
そのため、絶縁部材1107は、フッ素樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ナイロン等の樹脂からなる無孔フィルム、気孔周辺が撥水化された微多孔フィルム、あるいは繊維間の空隙をポリエステル、ナイロン等の防水性かつ電気絶縁性の樹脂で予め埋めたフィルムであることが望ましい。また、絶縁部材1107は、多量の水分に暴露された際にも、電気絶縁性を維持できる部材であってもよいし、半透膜であってもよい。
【0045】
絶縁部材1107には、コネクタ1102c,1102dが通る貫通孔が予め形成されている。着衣1100に取り付け部材1106を固定し、取り付け部材1106に電極部1101a,1101bと配線1103a,1103bとを固定した後で、着衣1100と取り付け部材1106と配線1103a,1103bとに貫通孔を空ける。このとき、少なくとも着衣1100に設けられる貫通孔1200については、コネクタ1102c,1102dの着衣1100を貫通する部分よりも大きな径の孔となるようにする。
【0046】
そして、貫通孔1200に差し込むように絶縁部材1107を装着した後で、絶縁部材1107と取り付け部材1106と配線1103a,1103bとの貫通孔にコネクタ1102c,1102dを挿入し、コネクタ1102c,1102dの表裏をかしめる。これにより、コネクタ1102c,1102dおよび絶縁部材1107の固定と、コネクタ1102c,1102dの絶縁被覆と、コネクタ1102c,1102dと配線1103a,1103bとの電気的接続を同時に達成することができる。
【0047】
また、着衣1100と取り付け部材1106と配線1103a,1103bとに事前に貫通孔を設けずに、着衣1100の生体1000と接触する面と反対側の面にシート状の絶縁部材1107を載せた状態で、着衣1100と取り付け部材1106と配線1103a,1103bとを一度に貫通するようにコネクタ1102c,1102dを設置してもよい。この場合、コネクタ1102c,1102dの取り付け時の摩擦力によって取り付け部材1106及び絶縁部材1107が、コネクタ1102c,1102dの取り付けで出来た着衣1100の貫通孔の中に引き込まれるので、コネクタ1102c,1102dと着衣1100とが接触しないようにすることができ、
図2の場合と同等の構造を実現することができる。
【0048】
また、
図6に示すように、生体電気信号測定装置との接続用の導電部を除く、コネクタ1102c,1102dの着衣1100と接触する部分の表面に絶縁部材1107を予め形成しておいてもよい。この場合、絶縁部材1107としては、上記の素材の他、ポリエステル系、ウレタン系、アクリレート系の絶縁材料を用いることができる。絶縁部材1107の形成方法としては、塗布や電着等といった方法がある。絶縁部材1107を予め形成しておくことにより、絶縁部材1107を固定する工程を簡略化することができる。
【0049】
また、金属製ドットボタンのように、基材を貫通したボタンの表裏をかしめることで固定されることを前提とした形態のコネクタ1102c,1102dを用いる場合、コネクタ1102c,1102dに接続する生体電気信号測定装置を脱着する際の力によってコネクタ1102c,1102dが着衣1100から外れる可能性がある。そこで、
図7に示すように、着衣1100よりもヤング率の大きい補強部材1108を、コネクタ1102c,1102dと着衣1100との間に設けるようにするとよい。
【0050】
補強部材1108の着衣1100への固定方法としては、補強部材1108の外周部の少なくとも一部を粘着テープで押さえて固定する方法、接着で固定する方法などがある。補強部材1108の固定に使用される粘着テープとしては、上記の防水テープが特に好適である。また、補強部材1108を着衣1100に掛止するための爪1400を補強部材1108に設けるようにしてもよい。
【0051】
補強部材1108が爪1400を備え、かつコネクタ1102c,1102dと接するように配置される場合、補強部材1108は防水性かつ電気絶縁性の素材からなる。この補強部材1108の素材としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート等の公知の有機樹脂を用いることができる。
【0052】
絶縁部材1107と同様に、補強部材1108には、コネクタ1102c,1102dが通る貫通孔が予め形成されている。上記と同様に、着衣1100の貫通孔1200に差し込むように絶縁部材1107を装着した後で、絶縁部材1107の上から補強部材1108を上記のように着衣1100に固定する。そして、補強部材1108と絶縁部材1107と取り付け部材1106と配線1103a,1103bとの貫通孔にコネクタ1102c,1102dを挿入し、コネクタ1102c,1102dの表裏をかしめる。これにより、コネクタ1102c,1102dと絶縁部材1107と補強部材1108の固定と、コネクタ1102c,1102dの固定の補強と、コネクタ1102c,1102dの絶縁被覆と、コネクタ1102c,1102dと配線1103a,1103bとの電気的接続を同時に達成することができる。
【0053】
なお、補強部材1108を絶縁部材1107と着衣1100との間に配置することも可能である。この場合、補強部材1108がコネクタ1102c,1102dと接することはないので、補強部材1108を導電性を持つ素材から形成してもよく、ステンレス、アルミ、真鍮等の公知の金属素材を用いることができる。また、補強部材1108として、着衣1100よりもヤング率の大きい布生地を用いてもよい。
【0054】
絶縁部材1105の素材は第1実施例と同じである。ただし、
図5~
図7のようにコネクタ1102c,1102dの一部が生体1000と接触する側に露出する場合、コネクタ1102c,1102dの生体1000と接触する部分を絶縁部材1105で覆う必要がある。コネクタ1102c,1102dに金属製ドットボタンボタンを用いる場合、取り付け金具の生体1000と接触する側が予め絶縁性の樹脂で被覆されているものを用いれば、コネクタ部の絶縁部材1105の代わりとして用いることができる。
取り付け部材1106と着衣1100については、第1実施例と同じにすればよい。
【0055】
以上のように、本実施例では、防水性かつ電気絶縁性の取り付け部材1106に電極部1101a,1101bと配線1103a,1103bとを取り付けると共に、着衣1100にコネクタ1102c,1102dを取り付け、コネクタ1102c,1102dと配線1103a,1103bの表面のうち、生体1000と接触する部分を防水性かつ電気絶縁性の絶縁部材1105で覆い、着衣1100とコネクタ1102c,1102dとの間を防水性かつ電気絶縁性の絶縁部材1107で絶縁することにより、着衣1100が汗等で濡れた状態であっても、配線1103a,1103bと生体1000との間の短絡、複数の電極部1101a,1101b間の短絡、あるいは着衣1100とコネクタ1102c,1102dとの間の短絡を防ぐことができ、所望の生体電気信号を取得することができる。また、本実施例では、コネクタ1102c,1102dが着衣1100の表側に取り付けられるため、着用者にとって生体電気信号測定装置の取り付け/取り外しが容易になる。
【0056】
また、本実施例では、補強部材1108を設けることにより、コネクタ1102c,1102dの固定を補強することができる。本実施例では、伸縮性のある着衣1100を用いた場合でも、生体電気信号測定装置をコネクタ1102c,1102dから脱着する際の力によってコネクタ1102c,1102dが着衣1100から外れてしまう事象を防止することができ、生体電極の耐久性を向上させることができる。また、本実施例では、着衣1100に伸縮性のある素材を用いることができるので、電極部1101a,1101bの生体の皮膚への接触を安定させることができ、所望の生体電気信号を長期間安定して取得することができる。
【0057】
[第3実施例]
次に、本発明の第3実施例について説明する。
図8は本発明の第3実施例に係るウェアラブル電極を生体に装着した様子を示す模式図、
図9は
図8のウェアラブル電極のC-C’線断面図であり、
図1~
図7と同様の構成には同一の符号を付してある。なお、
図9では、1組の電極部と配線とコネクタのみについて記載している。
【0058】
本実施例のウェアラブル電極は、電極部1101a,1101bと、コネクタ1102c,1102dと、配線1103c,1103dと、絶縁部材1105と、取り付け部材1106と、絶縁部材1107aと、着衣1100とから構成される。
【0059】
電極部1101a,1101bについては、第1実施例および第2実施例と同じにすればよい。
第2実施例と同様に、コネクタ1102c,1102dは、生体電気信号測定装置との接続用の導電部が、着衣1100の生体1000と接触する面と反対側の面に露出するように配置される。
【0060】
配線1103c,1103dの素材については、第1実施例および第2実施例の配線1103a,1103bと同じでよいが、本実施例では、
図9に示すように、電極部1101a,1101bとコネクタ1102c,1102dとの間の着衣1100に形成された貫通孔1201を通して配線1103c,1103dを、着衣1100の生体1000と接触する側と反対側に引き出すようにしている。
【0061】
取り付け部材1106aの大きさと素材については、第1実施例および第2実施例の取り付け部材1106と同じでよいが、取り付け部材1106aは、着衣1100の生体1000と接触する面と配線1103c,1103dとの間を電気的に絶縁するだけでなく、配線1103c,1103dを通すために着衣1100に形成された貫通孔1201の側面と配線1103c,1103dとの間を電気的に絶縁するように設けられる。これにより、着衣1100と配線1103c,1103dとが接触しないようにすることができる。
【0062】
絶縁部材1107aの素材については、第1実施例および第2実施例の絶縁部材1107と同じでよいが、絶縁部材1107aは、少なくとも着衣1100の表面(生体1000と接触する面と反対側の面)とコネクタ1102c,1102dとの間、コネクタ1102c,1102dを設けるために着衣1100に形成された貫通孔1200の側面とコネクタ1102c,1102dとの間、および配線1103c,1103dを通すために着衣1100に形成された貫通孔1201の側面と配線1103c,1103dとの間を電気的に絶縁するように設けられる。
【0063】
なお、
図9の例では、貫通孔1201の側面のうち電極部1101a,1101b側の側面を取り付け部材1106aで被覆し、コネクタ1102c,1102d側の側面を絶縁部材1107aで被覆しているが、これに限るものではなく、貫通孔1200の場合と同様に、貫通孔1201の側面を全て絶縁部材1107aで被覆してもよい。
また、取り付け部材1106aが配線1103c,1103dの表裏両面を被覆するようにしてもよい。
【0064】
コネクタ1102c,1102dを取り付けるためには、第2実施例と同様に、着衣1100に取り付け部材1106aを固定し、取り付け部材1106aに電極部1101a,1101bと配線1103c,1103dとを固定した後で、配線1103c,1103dを貫通孔1201から着衣1100の生体1000と接触する側と反対側に引き出し、着衣1100の貫通孔1200,1201に差し込むように絶縁部材1107aを装着する。
【0065】
そして、絶縁部材1107aの上に配線1103c,1103dを沿わせるように配置した後、配線1103c,1103dと絶縁部材1107aとの貫通孔にコネクタ1102c,1102dを挿入し、コネクタ1102c,1102dの表裏をかしめる。これにより、コネクタ1102c,1102dと配線1103c,1103dと絶縁部材1107aの固定と、コネクタ1102c,1102dの絶縁被覆と、コネクタ1102c,1102dと配線1103c,1103dとの電気的接続を同時に達成することができる。
【0066】
絶縁部材1105の素材は第1実施例と同じであるが、第2実施例と同様に、コネクタ1102c,1102dの生体1000と接触する部分を絶縁部材1105で覆う必要がある。
着衣1100については、第1実施例と同じにすればよい。なお、第1実施例で説明した固定補助布1110を第2実施例および第3実施例に適用してもよい。また、第2実施例で説明した補強部材1108を第3実施例に適用してもよい。
【0067】
[第4実施例]
次に、本発明の第4実施例について説明する。本実施例は、第1実施例の具体例を示すものである。なお、本発明が以下の例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0068】
[サンプル1]
図1、
図2に示した構造のウェアラブル電極を次に示す部材で作製した。電極部1101a,1101bは、導電成分としてPEDOT/PSSを1wt%、バインダーとしてアクリル系熱硬化性樹脂5wt%を分散した分散液を、ポリエステルナノファイバーのスムース組織の丸編物に対してグラビアコーティング法で薬剤塗布量が15g/m
2になるように塗布して作製した。
【0069】
着衣1100には、84T-36Fのポリエステル仮撚り加工糸と33Tのポリウレタン弾性糸を引きそろえたものを32ゲージ丸編み機で作製したベア天生地を使用した。配線1103a,1103bとしては、三ツ冨士繊維工業(株)製の銀メッキ糸「AGposs」の110T-34をリボン状にしたものを使用した。絶縁部材1105としては、東レコーテックス(株)製のポリウレタン防水シームテープ「αE-110」を使用した。取り付け部材1106としては、絶縁部材1105と同じ防水シームテープの接着面でない面にホットメルト接着剤を用いて使用した。
【0070】
[サンプル2]
上記のサンプル1と同じ部材を用いて、
図3に示した構造のウェアラブル電極を作製した。電極部1101a,1101bとコネクタ1102a,1102bと配線1103a,1103bとを取り付け部材1106を介して固定補助布1110に取り付けた後、固定補助布1110をホットメルト接着剤により着衣1100に固定した。固定補助布1110には、着衣1100と同じ素材を用いた。
【0071】
[サンプル3]
上記のサンプル2と同じ構造で、着衣1100のみ天然素材である40番手の綿紡績と33Tのポリウレタン弾性糸を引きそろえたものを32ゲージ丸編み機で作製したベア天生地を使用した。固定補助布1110は、縫い付けることにより着衣1100に固定した。
【0072】
[比較例]
上記のサンプル1と同じ部材を用いて、電極部1101a,1101bを取り付け部材1106を用いずに着衣1100にホットメルト接着剤により固定したウェアラブル電極を作製した。
【0073】
サンプル1~3と比較例のウェアラブル電極を酸性人工汗液に24時間浸漬した後、以下の通電部と絶縁部の電気抵抗及び着用時の心電図波形を測定した。その結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
通電部A抵抗は電極部1101aとコネクタ1102a間の電気抵抗、通電部B抵抗は電極部1101bとコネクタ1102b間の電気抵抗、絶縁部A抵抗は電極部1101aと電極部1101b間の電気抵抗、絶縁部B抵抗は電極部1101aと着衣1100間の電気抵抗、絶縁部C抵抗は電極部1101bと着衣1100間の電気抵抗である。心電図波形の減衰の数値は、ウェアラブル電極を酸性人工汗液に浸す前の心電図波形のピーク・トゥ・ピーク(Peak to Peak)の振幅値を基準としたときの値を示している。
【0076】
測定に使用した人工汗については、JIS L 0848(2004年)で規定された酸性人工汗液を次のとおり調整した。具体的には、酸性人工汗液は、L-ヒスチジン塩酸塩一水和物0.5g、塩化ナトリウム5g及びりん酸二水素ナトリウム二水和物2.2gを水に溶かし、これに0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液約15mlと水を加えてpHが5.5で全容が約1Lになるように調整した。
【0077】
表1によると、関連するウェアラブル電極と同様の構造を有する比較例では、絶縁部の抵抗値が低下し、絶縁部としての機能が損なわれており、心電図波形も約90%減衰した。これに対して本実施例に係るサンプル1~3では、絶縁部の絶縁性が維持されており、良好な心電図波形を示した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、着衣が汗などの水分を含有する状態であっても、所望の生体電気信号を取得可能とする技術に関するものである。本発明は、日常生活の健康管理、ジョギング、マラソンやその他スポーツ時の生体データの把握、建設現場や道路工事、架線保全などの屋外作業での労務管理、バスやトラックの運転手、炭鉱労働者、消防士、救助隊員などの労務管理に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1000…生体、1101a,1101b…電極部、1102a,1102b,1102c,1102d…コネクタ、1103a,1103b,1103c,1103d…配線、1105,1107,1107a…絶縁部材、1106,1106a…取り付け部材、1108…補強部材、1100…着衣、1110…固定補助布、1200,1201…貫通孔、1400…爪。