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特許7013731導電性ペースト、並びに、電子部品及び積層セラミックコンデンサの製造方法
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  • 特許-導電性ペースト、並びに、電子部品及び積層セラミックコンデンサの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】導電性ペースト、並びに、電子部品及び積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20220125BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20220125BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/12 450
H01G4/30 201C
H01G4/30 311D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017165893
(22)【出願日】2017-08-30
(65)【公開番号】P2019046581
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】中家 香織
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141332(JP,A)
【文献】特開2012-174797(JP,A)
【文献】特開2016-035914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01G 4/232
H01G 4/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、
前記分散剤は、第1の酸系分散剤及び第2の酸系分散剤を含み、
前記第1の酸系分散剤は、分子量が5000以下であり、分岐鎖を1つ以上有する分岐炭化水素基を有し、かつ、下記の一般式(1)で示される酸系分散剤であり、
前記第2の酸系分散剤は、前記第1の酸系分散剤以外の酸系分散剤である、
ことを特徴とする導電性ペースト。
【化1】
ただし、一般式(1)中、R は、炭素数10以上20以下の分岐アルキル基又は炭素数10以上20以下の分岐アルケニル基である。
【請求項2】
前記第2の酸系分散剤は、分子量が5000以下であり、かつ、炭素数10以上20以下の直鎖アルキル基又は炭素数10以上20以下の直鎖アルケニル基を含む、ことを特徴とする請求項に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記分散剤は、さらに、塩基系分散剤を含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記第1の酸系分散剤は、前記導電性粉末100質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下含有され、前記第2の酸系分散剤は、前記導電性粉末100質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下含有される、ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記分散剤は、塩基系分散剤を前記導電性粉末100質量部に対して、0.2質量部以上2.5質量部以下含有する、ことを特徴とする請求項又は請求項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を含む、ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下である、ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
セラミック粉末を含むことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記セラミック粉末は、ペロブスカイト型酸化物を含む、ことを特徴とする請求項に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
前記セラミック粉末は、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下である、ことを特徴とする請求項またはのいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
前記導電性ペーストの製造直後の粘度変化量を0%とした場合、60日間静置後の粘度変化量が50%以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項12】
積層セラミック部品の内部電極用であることを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の導電性ペーストを用いて形成される電子部品の製造方法。
【請求項14】
誘電体層と内部電極とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極は、請求項1~12のいずれか一項に記載の導電性ペーストを用いて形成されることを特徴とする積層セラミック積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、並びに、電子部品及び積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサなどを含む電子部品についても小型化および高容量化が望まれている。積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層した構造を有し、これらの誘電体層及び内部電極層を薄膜化することにより、小型化及び高容量化を図ることができる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、例えば、次のように製造される。まず、チタン酸バリウム(BaTiO)などの誘電体粉末及びバインダー樹脂を含有する誘電体グリーンシートの表面上に、導電性粉末、及びバインダー樹脂と有機溶剤などを含む内部電極用ペーストを、所定の電極パターンで印刷したものを、多層に積み重ねることにより、内部電極と誘電体グリーンシートとを多層に積み重ねた積層体を得る。次に、この積層体を加熱圧着して一体化し、圧着体を形成する。この圧着体を切断し、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて脱有機バインダー処理を行った後、焼成を行い、焼成チップを得る。次いで、焼成チップの両端部に外部電極用ペーストを塗布し、焼成後、外部電極表面にニッケルメッキなどを施して、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
内部電極層の形成に用いられる導電性ペーストは、経時的に粘度が増加しやすいという問題がある。このため、印刷当初は、所望粘度でセラミックグリーンシート上に所定厚みの電極パターンを形成することができるが、時間経過と共に増粘していき、印刷当初の印刷条件では既定の範囲内に厚みを維持できない場合がある。
【0005】
そこで、導電性ペーストの経時的な粘度増加を改善する試みがなされている。例えば、導電性ペースト中のバインダー樹脂や有機溶剤の種類、配合割合等を選択することにより、粘度特性を向上させることがいくつか報告されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、バインダー樹脂として疎水性エチルヒドロキシエチルセルロース誘導体を含む有機ビヒクルと特定の有機溶剤を組み合わせることにより、シートアタックを生じさせず、経時変化の小さい導電性ペーストが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、ブチラール樹脂を含む厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートと組み合わせて使用される条件下で、導電性粉末と、有機ビヒクルとを含み、前記有機ビヒクル中の溶剤が、ターピニルアセテートを主成分とする、経時的な粘度変化が少ない導電性ペーストが記載されている。
【0008】
一方、内部電極用に用いられる導電性ペーストは、導電性粉末などの分散性を向上させるために分散剤を含むことがある(例えば、特許文献3など)。近年の内部電極層の薄膜化に伴い、導電性粉末も小粒径化する傾向がある。導電性粉末の粒径が小さい場合、その粒子表面の比表面積が大きくなるため、導電性粉末(金属粉末)の表面活性が高くなり、分散性の低下や、粘度特性の低下が生じる場合がある。
【0009】
例えば、特許文献4には、少なくとも金属成分と、酸化物と、分散剤と、バインダー樹脂とを含有する導電性ペーストであって、金属成分は、その表面組成が、特定の組成比を有するNi粉末であり、分散剤の酸点量は、500~2000μmol/gであり、バインダー樹脂の酸点量は、15~100μmol/gである導電性ペーストが、良好な分散性と粘度安定性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-159393号公報
【文献】特開2006-12690号公報
【文献】特開2012-77372号公報
【文献】特開2015-216244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1~4には、経時的粘度変化の少ない導電性ペーストが記載されている。しかしながら、導電性ペーストの経時的な増粘は、内部電極層の薄膜化に伴って、より問題が顕在化するため、近年の電極パターンの薄膜化に伴い、より粘度特性の改善された導電性ペーストが求められている。
【0012】
本発明は、このような状況に鑑み、経時的な粘度変化が非常に少なく、粘度安定性により優れ、かつ、ペースト分散性に優れた導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様では、導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、分散剤は、第1の酸系分散剤及び第2の酸系分散剤を含み、第1の酸系分散剤は、分子量が5000以下であり、かつ、分岐鎖を1つ以上有する分岐炭化水素基を有する酸系分散剤であり、第2の酸系分散剤は、前記第1の酸系分散剤以外の酸系分散剤である、導電性ペーストが提供される。
【0014】
第1の酸系分散剤は、カルボキシル基を有する酸系分散剤であることが好ましい。第1の酸系分散剤は、下記の一般式(1)で示されることが好ましい。
【0015】
【化1】
ただし、上記一般式(1)中、Rは、炭素数10以上20以下の分岐アルキル基又は炭素数10以上20以下の分岐アルケニル基である。
【0016】
また、第2の酸系分散剤は、分子量が5000以下であり、かつ、炭素数10以上20以下の直鎖アルキル基又は炭素数10以上20以下の直鎖アルケニル基を含むことが好ましい。また、分散剤は、さらに、塩基系分散剤を含むことが好ましい。また、第1の酸系分散剤は、導電性粉末100質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下含有され、前記第2の酸系分散剤は、前記導電性粉末100質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下含有されることが好ましい。また、塩基系分散剤は、前記導電性粉末100質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下含有されることが好ましい。
【0017】
また、導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を含むことが好ましい。導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下であることが好ましい。また、導電性ペーストは、セラミック粉末を含むことが好ましい。また、セラミック粉末は、ペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。また、セラミック粉末は、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。また、バインダー樹脂は、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂及びブチラール系樹脂のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。また。導電性ペーストの製造直後の粘度変化量を0%とした場合、60日間静置後の粘度変化量が50%以下であることが好ましい。また、上記導電性ペーストは、積層セラミック部品の内部電極用であることが好ましい。
【0018】
本発明の第2の態様では、上記導電性ペーストを用いて形成された電子部品の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の第3の態様では、誘電体層と内部電極とを積層した積層体を少なくとも有し、前記内部電極は、上記導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の導電性ペーストは、経時的な粘度変化が非常に少なく、粘度安定性により優れ、かつ、ペーストの分散性に優れる。また、本発明の導電性ペーストを用いて形成される積層セラミックコンデンサなどの電子部品の電極パターンは、薄膜化した電極を形成する際も導電性ペーストの印刷性に優れ、精度良く均一な幅及び厚みを有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す斜視図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態の導電性ペーストは、導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0023】
(導電性粉末)
導電性粉末は、特に限定されず、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、およびこれらの合金から選ばれる1種以上の粉末を用いることができる。これらの中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、Ni、またはその合金の粉末が好ましい。Ni合金としては、例えば、Mn、Cr、Co、Al、Fe、Cu、Zn、Ag、Au、PtおよびPdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とNiとの合金を用いることができる。Ni合金におけるNiの含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また、Ni粉末は、脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、数百ppm程度のSを含んでもよい。
【0024】
導電性粉末の平均粒径は、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。導電性粉末の平均粒径が上記範囲である場合、薄膜化した積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストとして好適に用いることができ、例えば、乾燥膜の平滑性及び乾燥膜密度が向上する。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、粒度分布における積算値50%の粒径をいう。
【0025】
導電性粉末の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは30質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上65質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0026】
(セラミック粉末)
導電性ペーストは、セラミック粉末を含んでもよい。セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストである場合、適用する積層セラミックコンデンサの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択される。セラミック粉末としては、例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物が挙げられ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO)である。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0027】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nbおよび希土類元素から選ばれる1種類以上からなる酸化物が挙げられる。
【0028】
また、セラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zrなどで置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末を挙げることもできる。
【0029】
内部電極用ペースト中のセラミック粉末としては、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラック発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記のBa及びTiを含むペロブスカイト型酸化物以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al、Bi、R(希土類元素)、TiO、Ndなどの酸化物が挙げられる。
【0030】
セラミック粉末の平均粒径は、例えば、0.01μm以上0.5μm以下であり、好ましくは0.01μm以上0.3μm以下である。セラミック粉末の平均粒径が上記範囲であることにより、内部電極用ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、粒度分布における積算値50%の粒径をいう。
【0031】
セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上30質量部以下である。
【0032】
セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上20質量%以下である。
【0033】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されず、公知の樹脂を用いることができる。バインダー樹脂としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂などが挙げられる。中でも、溶剤への溶解性、燃焼分解性の観点などからエチルセルロースを含むことが好ましい。また、内部電極用ペーストとして用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点から、バインダー樹脂として、ブチラール樹脂を含む、又は、ブチラール樹脂を単独で使用してもよい。バインダー樹脂は、1種類を用いてもよく、又は、2種類以上を用いてもよい。また、バインダー樹脂の分子量は、例えば、20000~200000程度である。
【0034】
バインダー樹脂の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上8質量部以下である。
【0035】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上6質量%以下である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0036】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、特に限定されず、上記バインダー樹脂を溶解することができる公知の有機溶剤を用いることができる。
【0037】
有機溶剤としては、例えば、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート、イソボルニルイソブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3-メトキシー3-メチルブチルアセテート、1-メトキシプロピル-2-アセテートなどのアセテート系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタン、イソホロンなどのケトン系溶剤、ターピネオール、ジヒドロターピネオールなどのテルペン系溶剤、トリデカン、ノナン、シクロヘキサンなどの脂肪族系炭化水素溶剤、エチレングリコールエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。なお、有機溶剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0038】
有機溶剤は、例えば、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート及びイソボルニルイソブチレートから選ばれる少なくとも1種のアセテート系溶剤(A)を含んでもよい。これらの中でもイソボルニルアセテートがより好ましい。有機溶剤がアセテート系溶剤(A)を主成分として含む場合、アセテート系溶剤(A)は、有機溶剤全体に対して、好ましくは90質量%以上100質量%以下含有され、より好ましくは100質量%含有される。
【0039】
また、有機溶剤は、例えば、上記のアセテート系溶剤(A)と、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1種のアセテート系溶剤(B)とを含んでもよい。このような混合溶剤を用いる場合、容易に導電性ペーストの粘度調整を行うことができ、導電性ペーストの乾燥スピードを速くすることができる。
【0040】
アセテート系溶剤(A)とアセテート系溶剤(B)とを含む混合液の場合、有機溶剤は、有機溶剤全体に対して、アセテート系溶剤(A)を好ましくは50質量%以上90質量%以下含有し、より好ましくは60質量%以上80質量%以下含有する。上記混合液の場合、有機溶剤は、有機溶剤全体100質量%に対して、アセテート系溶剤(B)を10質量%以上50質量%以下含有し、より好ましくは20%以上40質量%以下含有する。
【0041】
有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは40質量部以上90質量部以下であり、より好ましくは45質量部以上85質量部以下である。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0042】
有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全量に対して、20質量%以上50質量%以下が好ましく、25質量%以上45質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0043】
(分散剤)
本実施形態の導電性ペーストは、分岐炭化水素基を有する第1の酸系分散剤を含む。第1の酸系分散剤の分岐炭化水素基は、分岐鎖を1つ以上有する。本発明者は、導電性ペーストに用いる分散剤について、種々の分散剤を検討した結果、分岐炭化水素基を有する第1の酸系分散剤を含むことにより、その理由は不明であるが、導電性ペーストの経時的粘度変化が非常に抑制されることを見出した。
【0044】
また、第1の酸系分散剤は、カルボキシル基を有することが好ましい。このような分散剤を用いることにより、詳細は不明であるが、カルボキシル基が導電性粉末等の表面に吸着して、表面電位を中和、あるいは水素結合部位を不活性化し、かつ、カルボキシル基以外の部位の上記のような特定の立体構造が、効果的に導電性粉末等の凝集を抑制し、ペースト粘度の安定性をより向上させることができると推察される。また、第1の酸系分散剤は、アミド結合を有する化合物であってもよい。
【0045】
また、第1の酸系分散剤は、分子量が5000以下であり、好ましくは分子量が1000以下であり、分子量が500以下である酸性を示す低分子量の分散剤であることがより好ましい。一方、第1の酸系分散剤の分子量の下限は、好ましくは100以上であり、より好ましくは200以上である。なお、上記第1の分散剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0046】
例えば、第1の酸系分散剤中の炭化水素基は、主鎖に対して1つの分岐鎖を含んでもよいし、2つ以上の分岐鎖を含んでもよい。分岐鎖の数は、好ましくは1つ以上3つ以下である。また、分岐鎖の数は、4つ以上であってもよい。
【0047】
第1の酸系分散剤は、分岐の位置が異なる分岐炭化水素基を有する複数の酸系分散剤を含む混合物であってもよい。第1の酸系分散剤が複数の酸系分散剤を含む混合物である場合、経時的なペースト粘度安定性をより向上させることができる。
【0048】
また、第1の酸系分散剤は、複雑な分岐構造(例えば、分岐鎖が2つ以上)を有する酸系分散剤であってもよい。このような複雑な分岐構造を有する酸系分散剤である場合、経時的なペースト粘度安定性をより向上させることができる。
【0049】
第1の酸系分散剤酸系分散剤として、例えば、下記の一般式(1)で示される酸系分散剤が挙げられる。
【0050】
【化2】
【0051】
上記、一般式(1)中、Rは、炭素数10以上20以下の分岐アルキル基又は炭素数10以上20以下の分岐アルケニル基を示す。Rは、好ましくは、炭素数15以上20以下であり、より好ましくは炭素数が17である。また、Rは、分岐アルキル基でもよく、炭素の二重結合を有する分岐アルケニル基であってもよく、好ましくは分岐アルキル基である。
【0052】
なお、分岐鎖の有無は、例えば、13C-NMR又はH-NMRのスペクトルに基づいて計算される炭化水素基の末端のメチル基(-CH)の含有割合により確認できる。なお、例えば、上記一般式(1)で示される酸系分散剤が混合物である場合や、一般式(1)中のRの構造が複数の分岐を有する複雑な構造である場合などでは、R部分を示す明確なピークが検出されない場合があってもよい。この場合においても、末端のメチル基(-CH)を示すピークは明確に観察される。
【0053】
第1の酸系分散剤酸系分散剤は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上2質量部以下含有され、より好ましくは、0.05質量部以上1.5質量部以下含有され、さらに好ましくは0.05質量部以上1.0質量部以下含有される。第1の酸系分散剤の含有量が上記範囲である場合、導電性ペースト中の導電性粉末の分散性、及び導電性ペーストの経時的粘度の安定性に優れる。
【0054】
特に、経時的粘度の安定性をより向上させるという観点からは、第1の酸系分散剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上2質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上2質量部以下である。また、導電性の向上や、シートアタックを抑制するという観点からは、第1の酸系分散剤の含有量は少ない方が好ましく、上記酸系分散剤の含有量の上限は、例えば、1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下とすることができる。本実施形態の導電性ペーストでは、例えば、第1の酸系分散剤を0.1質量部以上0.5質量部以下含む場合においても、経時的粘度の安定性に十分優れる。
【0055】
第1の酸系分散剤は、導電性ペースト全体に対して、例えば、3質量%以下含有される。上記の酸系分散剤の含有量の上限は、好ましく2質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。第1の酸系分散剤の含有量の下限は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上である。第1の酸系分散剤の含有量が上記範囲である場合、経時的粘度変化がより安定して抑制される。また、有機溶剤の中には、バインダー樹脂と組み合わせて用いたとき、シートアタックやグリーンシート剥離不良を生じさせるものもあるが、第1の酸系分散剤を特定量含有することで、これらの問題を抑制できる。
【0056】
第1の酸系分散剤は、例えば、市販の製品から、上記特性を満たすものを選択して用いることができる。また、第1の酸系分散剤は、従来公知の製造方法を用いて、上記特性を満たすように製造してもよい。
【0057】
導電性ペーストは、第1の酸系分散以外の第2の酸系分散剤を含む。第2の酸系分散剤は、分岐炭素水素基を有さない分散剤である。本実施形態の導電性ペーストは、第1の酸系分散剤と合わせて、第2の酸系分散剤を含むことにより、ペーストの分散性がより向上する。この理由は特に限定されないが、第1の酸系分散剤は、粘度安定化効果は高いが、分散性が従来使用してきた分散剤より低い場合があるため、第2の酸系分散剤として、分散効果の高い酸系分散剤を併用することで、粘度・分散安定化効果の高い混合酸系分散剤を得ることができる、と考えられる。
【0058】
第2の酸系分散剤は、好ましくは分子量が5000以下であり、より好ましくは分子量が1000以下であり、さらに好ましくは分子量が500以下である。第2の酸系分散剤は、例えば、直鎖の炭化水素基を有する酸系分散剤である。直鎖の炭化水素基としては、炭素数10以上20以下の直鎖アルキル基又は炭素数10以上20以下の直鎖アルケニル基を含むことが好ましい。また、第2の酸系分散剤は、カルボキシル基を有することが好ましい。第2の酸系分散剤が、第1の酸系分散剤と同様に、上記のような構造を有する場合、第1の酸系分散剤のペースト粘度の安定性の向上という効果を維持しつつ、ペースト分散性をより向上させることができる。
【0059】
第2の酸系分散剤としては、例えば、高級脂肪酸や高分子界面活性剤等の酸系分散剤などが挙げられる。第2の分散剤は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0060】
高級脂肪酸としては、不飽和カルボン酸でも飽和カルボン酸でもよく、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸など炭素数11以上のものが挙げられる。中でも、オレイン酸、またはステアリン酸が好ましい。
【0061】
それ以外の酸系分散剤としては、特に限定されず、モノアルキルアミン塩に代表されるアルキルモノアミン塩型、N-アルキル(C14~C18)プロピレンジアミンジオレイン酸塩に代表されるアルキルジアミン塩型、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩型、ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩型、アルキル・ジポリオキシエチレンメチルアンモニウムクロライドに代表される4級アンモニウム塩型、アルキルピリジニウム塩型、ジメチルステアリルアミンに代表される3級アミン型、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンアルキルアミンに代表されるポリオキシエチレンアルキルアミン型、N、N’、N’-トリス(2-ヒドロキシエチル)-N-アルキル(C14~18)1,3-ジアミノプロパンに代表されるジアミンのオキシエチレン付加型から選択される界面活性剤が挙げられ、これらの中でもアルキルモノアミン塩型が好ましい。
【0062】
アルキルモノアミン塩型としては、オレオイルザルコシン、ラウリロイルザルコシン、ステアリン酸アミドなどが好ましい。
【0063】
第2の酸系分散剤は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上2質量部以下含有され、より好ましくは、0.05質量部以上1.5質量部以下含有され、さらに好ましくは0.05質量部以上1.0質量部以下含有される。第1の酸系分散剤と併せて、第2の酸系分散剤を上記範囲で含む場合、導電性ペースト中、特に導電性粉末の分散性により優れる。
【0064】
また、第2の酸系分散剤は、例えば、第1の酸系分散剤100質量部に対して、50質量部以上200質量部程度、好ましくは50質量部以上150質量部含有されることができる。
【0065】
また、分散剤は、第1及び第2の酸系分散剤以外の分散剤を含んでもよい。第1及び第2の酸系分散以外の分散剤としては、塩基系分散剤、非イオン系分散剤、両性分散剤などが挙げられる。これらの分散剤は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0066】
塩基系分散剤としては、例えば、ラウリルアミン、ロジンアミン、セチルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミンなどの脂肪族アミンなどが挙げられる。導電性ペーストは、上記第1の酸系分散剤及び第2の酸系分散剤と合わせて、さらに塩基系分散を含有する場合、経時的な粘度安定性と、ペーストの分散性とを非常に高いレベルで両立させることができる。
【0067】
塩基系分散剤は、例えば、導電性粉末100質量部に対して、0.2質量部以上2.5質量部以下含有されてもよく、好ましくは0.2質量部以上1質量部以下含有されてもよい。また、塩基系分散剤は、例えば、上記の第1の酸系分散剤100質量部に対して、10質量部以上300質量部程度、好ましくは50質量部以上150質量部含有されることができる。塩基系分散を上記範囲で含有する場合、ペーストの経時的な粘度安定性により優れる。
【0068】
塩基系分散剤は、例えば、導電性ペースト全体に対して、0質量%以上2.5質量%以下含有され、好ましくは0質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下含有され、より好ましくは0.1質量%以上0.8質量%以下含有される。塩基系分散を上記範囲で含有する場合、ペーストの経時的な粘度安定性により優れる。
【0069】
導電性ペーストにおいて、第1の酸系分散剤及び第2の酸系分散剤を含む分散剤(全体)の含有量は、例えば、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上3質量部以下であり、より好ましくは、0.5質量部以上2質量部以下である。分散剤(全体)の含有量が上記範囲を超える場合、導電性ペーストの乾燥性が悪化したり、シートアタックが生じたりすることがある。
【0070】
(その他の成分)
本実施形態の導電性ペーストは、必要に応じて、上記の成分以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、消泡剤、分散剤、可塑剤、界面活性剤、増粘剤などの従来公知の添加物を用いることができる。
【0071】
(導電性ペースト)
本実施形態の導電性ペーストの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。導電性ペーストは、例えば、上記の各成分を、3本ロールミル、ボールミル、ミキサーなどで攪拌・混練することにより製造することができる。その際、導電性粉末表面に予め分散剤を塗布すると、導電性粉末が凝集することなく十分にほぐれて、その表面に分散剤が行きわたるようになり、均一な導電性ペーストを得やすい。また、予め、バインダー樹脂を有機溶剤の一部に溶解させて、有機ビヒクルを作製した後、ペースト調整用の有機溶剤へ、導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、及び、有機ビヒクルを添加した後、攪拌・混練し、導電性ペーストを作製してもよい。
【0072】
また、有機溶剤中、ビヒクル用の有機溶剤としては、有機ビヒクルの馴染みをよくするため、導電性ペーストの粘度を調整するペースト用の有機溶剤と同じものを用いることが好ましい。ビヒクル用の有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、例えば、5質量部以上30質量部以下である。また、導電性ペースト用の有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全体量に対して、好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0073】
導電性ペーストは、下記式で求められる60日間静置後の粘度の変化量が、例えば、-20%以上50%以下であり、好ましくは-15%以上40%以下であり、さらに好ましくは-10%以上20%以下である。
式:[(60日間静置後の粘度-製造直後の粘度)/製造直後の粘度]×100
【0074】
すなわち、導電性ペーストは、導電性ペーストの製造直後の粘度を100%とした場合、60日間静置後の粘度が、例えば、80%以上150%以下であり、好ましくは85%以上140%以下であり、より好ましくは90%以上120%以下である。
【0075】
なお、導電性ペーストの粘度は、導電性ペーストの用途に応じて、バインダー樹脂、有機溶剤の種類、含有量等を調整することにより、所望の範囲内に調整することができる。スクリーン印刷に用いる場合、導電性ペーストの粘度を、例えば、ずり速度4sec-1で20Pa・s以上に調整することができる。また、グラビア印刷に用いる場合、導電性ペーストの粘度を、例えば、ずり速度4sec-1で5Pa・s以下とすることができる。
【0076】
導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサなどの電子部品に好適に用いることができる。積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートを用いて形成される誘電体層及び導電性ペーストを用いて形成される内部電極層を有する。
【0077】
積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートに含まれる誘電体セラミック粉末と導電性ペーストに含まれるセラミック粉末とが同一組成の粉末であることが好ましい。本実施形態の導電性ペーストを用いて製造される積層セラミックデバイスは、誘電体グリーンシートの厚さが、例えば3μm以下である場合でも、シートアタックやグリーンシートの剥離不良が抑制される。
【0078】
[電子部品]
以下、本発明の電子部品等の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向などを、適宜、図1などに示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0079】
図1A及びBは、実施形態に係る電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層した積層体10と外部電極20とを備える。
【0080】
以下、上記導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシートからなる誘電体層12上に、導電性ペーストからなる内部電極層11を印刷法により形成し、この内部電極層を上面に有する複数の誘電体層を、圧着により積層させて積層体10を得た後、積層体10を焼成して一体化することにより、セラミックコンデンサ本体となる積層セラミック焼成体(不図示)を作製する。その後、当該セラミックコンデンサ本体の両端部に一対の外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0081】
まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0082】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷等の公知の方法によって、上述の導電性ペーストを印刷して塗布し、導電性ペーストからなる内部電極層11を形成したものを複数枚、用意する。なお、導電性ペーストの印刷法としては、スクリーン印刷以外を用いてもよく、形成したい電極パターンの線幅、厚さ、生産速度などに合わせて適宜選択することができる。印刷法としては、例えば、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。なお、導電性ペーストからなる内部電極層11の厚みは、当該内部電極層11の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0083】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートからなる誘電体層12とその片面に形成された導電性ペーストからなる内部電極層11とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体10を得る。なお、積層体10の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0084】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、積層セラミック焼成体を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気またはNガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0085】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラッミック製の誘電体層12が形成される。また内部電極層11中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極が形成され、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0086】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極20を設けることにより、積層セラミックコンデンサ1が製造される。例えば、外部電極20は、外部電極層21及びメッキ層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続する。なお、外部電極20の材料としては、例えば、銅やニッケル、またはこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品は、積層セラミックコンデンサ以外の電子部品を用いることもできる。
【実施例
【0087】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
[評価方法]
(導電性ペーストの粘度の変化量)
導電性ペーストの製造直後と、室温(25℃)で60日間静置後における、それぞれのサンプルの粘度を下記の方法で測定し、製造直後の粘度を基準(0%)とした場合の、各静置後のサンプルの粘度の変化量を百分率(%)で表した値を求めた([(60日間静置後の粘度-製造直後の粘度)/製造直後の粘度]×100)。なお、導電性ペーストの粘度の変化量は少ないほど好ましい値であり、-20%以上50%以下が好ましく、-15%以上40%以下がより好ましく、-10%以上20%以下がさらに好ましい。
導電性ペーストの粘度:ブルックフィールド社製B型粘度計を用いて10rpm(ずり速度=4sec-1)の条件で測定した。
【0089】
(導電性ペーストの分散性)
製造した導電性ペーストをガラス基板に塗布して、乾燥させて、乾燥膜を作製する。得られた乾燥膜の表面粗さ(算術平均高さ:Sa)および乾燥膜密度の測定を行い、分散性の評価を行った。表面粗さ(Sa)及び乾燥膜密度の測定は以下の方法で行った。
【0090】
(表面粗さ)
アプリケーター(ギャップ厚5μm)を用いてガラス基板上にニッケルペーストを塗布後、120℃で5分間、空気中で乾燥させ、膜厚約3μmの乾燥膜を得る。次いで、乾燥膜について、表面粗さ計(株式会社キーエンス 形状解析レーザ顕微鏡 VK-X120)を用いて、乾燥膜の平均表面粗さ(Sa)を測定した。
【0091】
(乾燥膜密度)
ニッケルペーストをPETフィルム上に5x10cmの面積で膜厚30μmとなるように印刷後、120℃で40分間、空気中で乾燥させる。乾燥後に得られたニッケルペースト乾燥膜を1x1cmに切断し、厚みと質量を測定して、下記式にて乾燥膜密度を算出する。測定数は30箇所とし、得られた乾燥膜密度の平均値をその導電性ペーストの乾燥膜密度とした。
式:乾燥膜密度=試料の質量/試料の面積×厚み
【0092】
なお、乾燥膜密度の測定はPETフィルム上に導電性ペーストを印刷して行うが、本実施形態の導電性ペーストを誘電体層グリーンシートに印刷しても同様の特性が当然発揮される。なお、乾燥膜密度とは、導電性ペーストを乾燥させた後の密度のことをいう。
【0093】
分散性の評価は、分散性に優れる従来品相当の比較例8の評価結果を基準(100%)とし、上記方法で算出された表面粗さ(Sa)、及び、乾燥膜密度を用いて、表面粗さ(Sa)については、表面粗さ(Sa)が低くなる変化量を+として、乾燥膜密度については、乾燥膜の密度が高くなる変化量を+として、基準に対する相対値を、それぞれ求めて評価を行った。なお、乾燥粗さ(Sa)は、低くなるほど分散性が向上し、乾燥密度は、高くなるほど分散性が向上する。また、それぞれの値は、従来品相当以上となる100%以上の値となるのが好ましい。
【0094】
[使用材料]
(導電性粉末)
導電性粉末としては、Ni粉末(平均粒径0.3μm)又は、Ni粉末(平均粒径0.2μm)を使用した。
【0095】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、チタン酸バリウム(BaTiO;平均粒径0.06μm)を使用した。
【0096】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、エチルセルロースを使用した。
【0097】
(分散剤)
表1に用いた分散剤を示す。
(1)分子量5000以下の分岐炭化水素鎖を有する酸系分散剤Aとして、下記一般式(1)(R=C1735)で示される酸系分散剤を用いた(表1:No.1)。分岐鎖の有無は、H-NMRのスペクトル及びフーリエ変換型赤外分光(FT-IR)を用いて確認した。これらの結果から、直鎖分岐鎖(直鎖炭化水素基)で検出されるピークが観察されず、末端のメチル基(-CH)を示すピークが観察され、Rが1以上の分岐を有することを確認した。
【0098】
【化3】
【0099】
(2)分子量5000以下の直鎖炭化水素鎖を有する酸系分散剤として、オレイン酸(C1834)、ステアリン酸(C1836)、ベヘン酸(C2244)、オレオイルザルコシン(C2139NO)、ラウリン酸(C1224)、リノール酸(C1832)を用いた(表1:No.2~7)。
(3)塩基系分散剤として、ラウリルアミン、オレイルアミンミリスチルアミンを用いた(表1:No.8~10)。
【0100】
【表1】
【0101】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、ターピネオールを使用した。
【0102】
[実施例1]
導電性粉末であるNi粉末100質量部に対して、セラミック粉末5.3質量部と、第1の酸系分散剤として酸系分散剤A0.5質量部と、第2の酸系分散剤としてオレイン酸と、バインダー樹脂5質量部と、有機溶剤49質量部とを混合して導電性ペーストを作製した。作製した導電性ペーストの粘度(60日後)及びペーストの分散性を上記方法で評価した。ペースト粘度の変化量、及び、ペーストの分散性の評価結果を、Ni粉末100質量部に対するそれぞれの分散剤の含有量と共に表2に示す。
【0103】
[実施例2~6]
第2の酸系分散剤を、それぞれステアリン酸(実施例2)、ベヘン酸(実施例3)、オレオイルザルコシン(実施例4)、ラウリン酸(実施例5)、リノール酸(実施例6)とした以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。ペースト粘度の変化量、及び、ペーストの分散性の評価結果を、Ni粉末100質量部に対するそれぞれの分散剤の含有量と共に表2に示す。
【0104】
[実施例7]
さらに、塩基系分散剤としてラウリルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部混合して導電性ペーストを作製した以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0105】
[実施例8]
さらに、塩基系分散剤としてオレイルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部混合して導電性ペーストを作製した以外は、実施例2と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0106】
[実施例9]
さらに、塩基系分散剤としてステアリルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部混合して導電性ペーストを作製した以外は、実施例3と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0107】
[実施例10]
さらに、塩基系分散剤としてラウリルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部混合して導電性ペーストを作製した以外は、実施例4と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0108】
[実施例11]
さらに、塩基系分散剤としてオレイルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部混合して導電性ペーストを作製した以外は、実施例5と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0109】
[実施例12]
さらに、塩基系分散剤としてステアリルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部混合して導電性ペーストを作製した以外は、実施例6と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0110】
[比較例1]
導電性粉末であるNi粉末100質量部に対して、セラミック粉末5.3質量部と、第1の酸系分散剤として酸系分散剤A1質量部と、バインダー樹脂5質量部と、有機溶剤49質量部とを混合して導電性ペーストを作製した。作製した導電性ペーストの粘度(60日後)及びペーストの分散性を上記方法で評価した。ペースト粘度の変化量、及び、ペーストの分散性の評価結果を、Ni粉末100質量部に対するそれぞれの分散剤の含有量と共に表2に示す。
【0111】
[比較例2~4]
酸系分散剤Aを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部とし、さらに、塩基系分散剤として、それぞれ、ラウリルアミン(比較例2)、オレイルアミン(比較例3)、ステアリルアミン(比較例3)を、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部混合して導電性ペーストを作製した以外は、比較例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。ペースト粘度の変化量、及び、ペーストの分散性の評価結果を、Ni粉末100質量部に対するそれぞれの分散剤の含有量と共に表2に示す。
【0112】
[比較例5]
第1の酸系分散剤を用いずに、第2の酸系分散剤として、Ni粉末100質量部に対して、オレイン酸0.5質量部、及び、ステアリン酸0.5質部を用いた以外は、実施例3と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0113】
[比較例5]
第1の酸系分散剤を用いずに、第2の酸系分散剤として、Ni粉末100質量部に対して、オレイン酸0.5質量部、及び、ステアリン酸0.5質部を用いた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0114】
[比較例6]
第1の酸系分散剤を用いずに、第2の酸系分散剤として、Ni粉末100質量部に対して、オレイン酸0.5質量部、及び、ベヘン酸0.5質部を用いた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0115】
[比較例7]
第1の酸系分散剤を用いずに、第2の酸系分散剤としてオレイン酸を、Ni粉末100質量部に対して0.5質量部、塩基系分散剤としてオレイルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部を用いた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0116】
[比較例8]
第1の酸系分散剤を用いずに、第2の酸系分散剤としてステアリン酸を、Ni粉末100質量部に対して0.5質量部、塩基系分散剤としてステアリルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部を用いた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0117】
[比較例9]
第1の酸系分散剤を用いずに、第2の酸系分散剤として、Ni粉末100質量部に対して、オレイン酸を0.5質量部、及び、ステアリン酸を0.5質量部、塩基系分散剤としてオレイルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部を用いた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0118】
[比較例10]
第1の酸系分散剤を用いずに、第2の酸系分散剤として、Ni粉末100質量部に対して、オレイン酸を0.5質量部、及び、ベヘン酸を0.5質量部、塩基系分散剤としてステアリルアミンを、Ni粉末100質量部に対して、0.5質量部を用いた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。
【0119】
【表2】
【0120】
(評価結果)
実施例の導電性ペーストは、60日経過後のペースト粘度の変化量が、第1の酸系分散剤を含まない比較例5~10の導電性ペーストと比べて、非常に小さかった。また、本実施例の導電性ペーストは、第2の酸系分散剤を含まない比較例1~4の導電性ペーストが従来品と比べて分散性に劣っているのに対し、ペーストの粘度の変化量を同程度に維持しつつ、かつ、ペーストの分散性が従来品よりも良好であった。中でも、第1及び第2の酸系分散剤のみを含む実施例1~6の導電性ペーストは、十分な粘度変化量を維持しつつ、ペーストの分散性をより向上させることができた。また、第1及び第2の酸系分散剤と、塩基系分散剤とを含む実施例7~12の導電性ペーストは、ペースト粘度の変化量を非常に小さく保ちつつ、かつ、良好なペースト分散性を示すことができた。よって、分子量5000以下の分岐炭化水素鎖を有する第1の酸系分散剤及びそれ以外の第2の酸系分散剤を含む導電性ペーストは、良好な粘度安定性及びペースト分散性を両立できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の導電性ペーストは、経時的な粘度安定性に非常に優れており、かつ、ペーストの分散性が良好である。よって、特に携帯電話やデジタル機器などの電子機器のチップ部品である積層セラミックコンデンサの内部電極用の原料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0122】
1 積層セラミックコンデンサ
10 セラミック積層体
11 内部電極層
12 誘電体層
20 外部電極
21 外部電極層
22 メッキ層
図1