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特許7013869樹脂組成物およびそれを用いた成形物、ならびに多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれを用いた成形物、ならびに多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20220207BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20220207BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K5/101
B32B27/28 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017528605
(86)(22)【出願日】2017-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2017019451
(87)【国際公開番号】W WO2017204272
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2016104846
(32)【優先日】2016-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 穂果
(72)【発明者】
【氏名】可児 昭一
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-083376(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K5
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)およびソルビン酸エステル(B)を含有する樹脂組成物であって、上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A )の含有量が、樹脂組成物全体に対して70重量%以上であり、上記ソルビン酸エステル(B)の含有量が上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)および上記ソルビン酸エステル(B)の総重量に対して0.001~10ppmであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
上記ソルビン酸エステル(B)が、ソルビン酸メチルおよびソルビン酸エチルの少なく とも一方であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる樹脂組成物層を少なくとも1層有することを特徴とする多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH」と略記することがある。)を含有する樹脂組成物およびそれを用いた成形物、ならびに多層構造体に関するものであり、さらに詳しくは、複数回の溶融成形等により多くの熱履歴が掛かった場合であっても着色抑制に優れる成形物および樹脂組成物層を含む多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOHは、その高分子の側鎖に存在する水酸基同士の水素結合のため、非常に強い分子間力を有することから、結晶性が高く、非晶部分においても分子間力が高いため、気体分子等はEVOHを用いてなるフィルムやボトル等の成形物を通過することができない。このようなことから、EVOHを用いた成形物は優れたガスバリア性を示すものである。従って、従来、EVOHは、この優れたガスバリア性、さらには優れた透明性を有することから、広く包装材料に用いられている。
【0003】
例えば、上記包装材料としては、EVOHを用いたフィルム層を中間層とし、このEVOHからなるフィルム層の両面に、熱可塑性樹脂からなる樹脂層を内外層として形成してなる多層フィルムからなる構造体があげられる。このような多層構造体は、上述のとおり、その優れたガスバリア性および透明性を利用して、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の包装材料としてのフィルムやシート、あるいはボトル等の容器等に形成された成形物として利用されている。
【0004】
これらの包装材料、容器等はEVOHを公知の手法で溶融成形することにより得られる。一方で、EVOHは溶融成形を行うことで、しばしば着色することが知られている。これは、EVOHが水酸基を豊富に有することから、熱により水酸基が脱水し、EVOH主鎖にポリエン構造を生成するためと考えられる。
【0005】
かかる問題に対し、EVOHの前駆体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体の重合後の溶液に、沸点20℃以上の共役ポリエン化合物を0.000001~1重量%(0.1~10000ppm)添加することにより、得られるEVOHフィルムを加工した際の着色が抑制されることが知られている(特許文献1参照)。かかる文献における実施例3では、エチレン-ビニルエステル系共重合体の重合後の溶液に、所定量のソルビン酸を配合し、得られたEVOHを230℃に設定した押出機で溶融成形し、ソルビン酸が0.002重量%(20ppm)存在するフィルムを得、かかるフィルムの360nmの波長における吸光度が0.10未満であった旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-71620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術では、重合後のEVOHを加工した成形物においては着色が抑制されるものの、該成形物をリサイクルして他の成形物を得たり、溶融混練により他の樹脂や添加剤等と混合して樹脂性能を調節し、その後溶融成形に供することにより成形物を得たりする場合においては、EVOHに複数回の熱履歴が掛かるため、得られる成形物の着色がより発生しやすく、かつ着色度合も増大する傾向がある。しかしながら、このような厳しい条件下であっても着色が抑制されるEVOHが求められていた。
【0008】
そこで本発明は、このような背景下において、複数回の溶融成形等により多くの熱履歴が掛かった場合であっても着色抑制に優れる成形物を形成することのできる樹脂組成物およびそれを用いた成形物、ならびに多層構造体の提供をその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、EVOHおよびソルビン酸エステルの総重量に対して、ソルビン酸エステルを0.001~10ppmという特定微量含有する組成物とすることにより、溶融成形等により多くの熱履歴が掛かった場合であっても着色抑制に優れることを見出した。
【0010】
<本発明の要旨>
すなわち、本発明は、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)を含有する樹脂組成物であって、上記ソルビン酸エステル(B)の含有量が上記EVOH(A)および上記ソルビン酸エステル(B)の総重量に対して0.001~10ppmであることを特徴とする樹脂組成物を第1の要旨とする。
また、本発明は、ソルビン酸エステル(B)におけるアルコキシ基の炭素数が1~5であることを第2の要旨とする。
【0011】
そして、本発明は、上記樹脂組成物を用いて形成してなる成形物を第3の要旨とし、上記樹脂組成物からなる樹脂組成物層を少なくとも1層有する多層構造体を第4の要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)を含有する樹脂組成物であって、上記ソルビン酸エステル(B)の含有量がEVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)の総重量に対して0.001~10ppmであるため、着色抑制に優れる。
【0013】
また、上記ソルビン酸エステル(B)におけるアルコキシ基の炭素数が1~5であると、より着色抑制に優れる。
【0014】
そして、上記樹脂組成物を形成して得られる成形物は、着色抑制に優れる。
【0015】
また、上記樹脂組成物から得られる樹脂組成物層を少なくとも1層有する多層構造体であると、着色抑制に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0017】
本発明は、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)を含有する樹脂組成物である。そして、本発明は、上記EVOH(A)と上記ソルビン酸エステル(B)の総重量に対して、上記ソルビン酸エステル(B)を0.001~10ppmという特定微量含有することを特徴とするものである。
【0018】
<EVOH(A)>
本発明で用いるEVOH(A)について説明する。
本発明で用いるEVOH(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行ない得る。
すなわち、本発明で用いるEVOH(A)は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。EVOHはエチレン-ビニルアルコール共重合体とも称される。
【0019】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物の処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0020】
EVOH(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができ、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が少なすぎると、高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0021】
EVOH(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定することができ、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0022】
また、上記EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが高すぎると、製膜性が低下する傾向がある。また、MFRが低すぎると溶融押出が困難となる傾向がある。
【0023】
また、本発明に用いられるEVOH(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい(例えば、EVOH(A)の20モル%以下)。
上記コモノマーは、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類や、2-プロペン-1-オール、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類や、そのエステル化物である、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類のアシル化物等の誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0024】
特に、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOHは、二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも側鎖に1級水酸基を有するEVOH、特には、1,2-ジオールを側鎖に有するEVOHが好ましい。
【0025】
上記1,2-ジオールを側鎖に有するEVOHは、側鎖に1,2-ジオール構造単位を含むものである。上記1,2-ジオール構造単位とは、具体的には下記の一般式(1)で示される構造単位である。
【0026】
【化1】
【0027】
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等があげられる。
【0028】
中でも、上記一般式(1)中、R1~R3は通常炭素数1~30、特には炭素数1~15、さらには炭素数1~4の飽和炭化水素基または水素原子が好ましく、水素原子が最も好ましい。また、上記一般式(1)中、R4~R6は通常炭素数1~30、特には炭素数1~15、さらには炭素数1~4のアルキル基または水素原子が好ましく、水素原子が最も好ましい。特に、R1~R6がすべて水素原子であるものが最も好ましい。
【0029】
また、上記一般式(1)で表わされる構造単位中のXは、代表的には単結合である。
なお、本発明の効果を阻害しない範囲であれば上記Xは、結合鎖であってもよい。上記結合鎖としては、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、-O-、-(CH2O)m-、-(OCH2)m-、-(CH2O)mCH2-等のエーテル結合部位を含む構造、-CO-、-COCO-、-CO(CH2)mCO-、-CO(C64)CO-等のカルボニル基を含む構造、-S-、-CS-、-SO-、-SO2-等の硫黄原子を含む構造、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-等の窒素原子を含む構造、-HPO4-等のリン原子を含む構造等のヘテロ原子を含む構造、-Si(OR)2-、-OSi(OR)2-、-OSi(OR)2O-等の珪素原子を含む構造、-Ti(OR)2-、-OTi(OR)2-、-OTi(OR)2O-等のチタン原子を含む構造、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-等のアルミニウム原子を含む構造などの金属原子を含む構造等があげられる。なお、Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましい。また、mは自然数であり、通常1~30、好ましくは1~15、さらに好ましくは1~10である。その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で-CH2OCH2-、および炭素数1~10の炭化水素鎖が好ましく、さらには炭素数1~6の炭化水素鎖、特には炭素数1であることが好ましい。
【0030】
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R1~R6がすべて水素原子であり、Xが単結合であるものである。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【0031】
【化2】
【0032】
上記一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位をEVOH(A)に含有する場合、その含有量は通常0.1~20モル%、さらには0.1~15モル%、特には0.1~10モル%が好ましい。
【0033】
また、上記EVOH(A)は、異なる他のEVOHとの混合物であってもよく、上記他のEVOHとしては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、上記一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、メルトフローレート(MFR)が異なるもの、他の共重合成分が異なるもの等をあげることができる。
【0034】
さらに、本発明で用いるEVOH(A)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0035】
<ソルビン酸エステル(B)>
本発明の樹脂組成物においては、ソルビン酸エステル(B)を特定微量にて配合することにより、着色抑制に優れるという顕著な効果が得られるものである。すなわち、EVOHを含む成形物をリサイクルして他の成形物を得たり、EVOHを他の樹脂や添加剤等と溶融混練することにより樹脂性能を調節し、その後溶融成形に供することにより成形物を得たりする等の、EVOHに複数回の熱履歴がかかる場合であっても着色が抑制される。
【0036】
ソルビン酸エステルは共役二重結合をもち、かかる共役二重結合が加熱時に発生したラジカルを捕捉することで、樹脂組成物の着色が抑制されると推測される。ソルビン酸エステルの含有量を特定微量にすることで着色抑制の効果が得られる理由としては、ラジカルの発生した早い段階でラジカルを捕捉しているためと考えられる。また、ソルビン酸エステルはソルビン酸よりも極性が低く、樹脂中に均一分散しやすいと推測される。
【0037】
本発明においては、配合剤としてソルビン酸エステル(B)を選択することで、本発明の樹脂組成物を用いて得られた成形物、特に本発明の樹脂組成物と他の樹脂(例えばポリアミド系樹脂や公知の接着性樹脂)層を有する多層構造体を再度溶融成形しリサイクルに供するような場合に、他の樹脂とEVOH(A)との反応を抑制し、着色発生の抑制に寄与するものと推測される。
加えて、かかるソルビン酸エステル(B)の配合量を特定微量とすることで、複数回の溶融成形等によりEVOH(A)に多くの熱履歴が掛かった場合や、上記リサイクル時等、他の樹脂が共存した場合であっても、ソルビン酸エステル(B)が加水分解してソルビン酸が発生し、このソルビン酸により着色を引き起こすリスクを低下させることが可能になるものと推測される。本発明においては、これらの要因により、顕著な着色抑制効果が得られるものと推測される。
【0038】
本発明において使用されるソルビン酸エステル(B)としては、例えば、ソルビン酸とアルコールやフェノール誘導体の縮合によって得られるソルビン酸エステルがあげられる。具体的にはソルビン酸メチル、ソルビン酸エチル、ソルビン酸プロピル、ソルビン酸ブチル、ソルビン酸ペンチル等のソルビン酸アルキルエステルや、ソルビン酸フェニル、ソルビン酸ナフチル等のソルビン酸アリールエステル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0039】
なかでも、ソルビン酸エステル(B)として、加水分解した場合に発生するアルコール類の酸性度が比較的低い場合、樹脂の着色が起こりにくいことから、好ましくはソルビン酸アルキルエステルであり、より好ましくはアルコキシ基の炭素数が1~5のソルビン酸アルキルエステルであり、特に好ましくはアルコキシ基の炭素数が1~3のソルビン酸アルキルエステルであり、最も好ましくはソルビン酸メチルである。
【0040】
ソルビン酸エステル(B)の分子量としては、通常120~220であり、好ましくは120~200であり、特に好ましくは120~160である。分子量が上記範囲である場合、着色抑制効果が効果的に得られる傾向がある。
【0041】
上記ソルビン酸エステル(B)の含有量は、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)の総重量に対して、0.001~10ppmである。好ましくは0.001~5ppm、さらに好ましくは0.003~4ppmである。ソルビン酸エステル(B)の含有量を上記範囲とすることにより、着色抑制効果が効果的に得られる。ソルビン酸エステルの含有量が多すぎると、共役二重結合量が増えすぎ着色してしまうと考えられる。
【0042】
<他の熱可塑性樹脂(C)>
本発明の樹脂組成物には、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)以外に、さらに樹脂成分として、他の熱可塑性樹脂(C)を、EVOH(A)と他の熱可塑性樹脂(C)の総重量に対して、通常30重量%以下となるような範囲内で含有してもよい。
【0043】
上記他の熱可塑性樹脂(C)としては、具体的には例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独または共重合体、ポリ環状オレフィン、あるいはこれらのオレフィンの単独または共重合体を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0044】
<無機フィラー(D)>
本発明の樹脂組成物には、ガスバリア性を向上させる目的で、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)の他、さらに無機フィラー(D)を含有してもよい。
【0045】
上記無機フィラー(D)としては、よりガスバリア性を発揮させる点から、板状無機フィラーであることが好ましく、例えば、含水ケイ酸アルミニウムを主成分とし、粒子が板状となっているカオリン、層状ケイ酸鉱物である雲母やスメクタイト、水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなるタルク等があげられる。これらのうち、カオリンが好ましく用いられる。カオリンの種類としては、特に限定せず、焼成されていても、いなくてもよいが、好ましくは焼成カオリンである。
【0046】
上記無機フィラー(D)の配合により、樹脂組成物のガスバリア性が一層向上する。特に板状無機フィラーの場合は、多層構造をしていることから、フィルム成形の場合には、板状無機フィラーの板状面がフィルムの面方向に配向されやすくなる。こうして、面方向に配向した板状無機フィラーが樹脂組成物層(例えば、フィルム)の酸素遮断に特に寄与することが推測される。
【0047】
上記無機フィラー(D)の含有量は、EVOH(A)100重量部に対して、通常1~20重量部であり、好ましくは3~18重量部であり、より好ましくは5~15重量部である。かかる含有量が少なすぎるとガスバリア性向上効果が低下する傾向があり、多すぎると透明性が低下する傾向がある。
【0048】
<酸素吸収剤(E)>
本発明の樹脂組成物には、熱水殺菌処理(レトルト処理)後のガスバリア性を改善する目的で、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)の他、さらに酸素吸収剤(E)を含有してもよい。
【0049】
上記酸素吸収剤(E)とは、包装される内容物よりも素早く酸素を捕捉する化合物または化合物系である。具体的には、無機系の酸素吸収剤、有機系の酸素吸収剤、無機触媒(遷移金属系触媒)と有機化合物とを組み合わせて用いる複合型酸素吸収剤等があげられる。
【0050】
上記無機系の酸素吸収剤としては、金属、金属化合物があげられ、これらと酸素が反応することにより酸素を吸収するものである。上記金属としては、水素よりもイオン化傾向の大きい金属(鉄、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、錫等)が好ましく、代表的には鉄である。これらの金属は、粉末状で用いられることが好ましい。鉄粉としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉等、その製法等によらず、従来公知のものに特に限定されることなくいずれも使用可能である。また、使用する鉄は、一旦酸化された鉄を還元処理したものであってもよい。また、上記金属化合物としては酸素欠損型金属化合物が好ましい。ここで、酸素欠損型金属化合物としては、酸化セリウム(CeO2)や、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)等があげられ、これらの酸化物が還元処理により結晶格子中から酸素が引き抜かれて酸素欠損状態となり、雰囲気中の酸素と反応することにより酸素吸収能を発揮するものである。このような金属および金属化合物は、反応促進剤としてハロゲン化金属等を含有することも好ましい。
【0051】
上記有機系の酸素吸収剤としては、例えば、水酸基含有化合物、キノン系化合物、二重結合含有化合物、被酸化性樹脂等があげられる。これらに含まれる水酸基や二重結合に酸素が反応することにより、酸素を吸収することができる。上記有機系の酸素吸収剤としては、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体およびその環化物等が好ましい。
【0052】
上記複合型酸素吸収剤とは、遷移金属系触媒と有機化合物との組合せをいい、遷移金属系触媒によって酸素を励起し、有機化合物と酸素が反応することにより酸素を吸収するものである。包装対象の内容物である食品等よりも早く、複合型酸素吸収剤中の有機化合物が酸素と反応することにより、酸素を捕捉、吸収する化合物系である。上記遷移金属系触媒を構成する遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ルテニウム、パラジウムから選ばれる少なくとも一種があげられ、中でも樹脂との相溶性、触媒としての機能性、安全性の点でコバルトが好ましい。上記有機化合物としては、有機系酸素吸収剤であるポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体およびその環化物等が好ましく、その他の有機化合物としては、メチルキシリレンジアミン(MXD)ナイロン等の窒素含有樹脂、ポリプロピレン等の三級水素含有樹脂、ポリアルキレンエーテルユニットを有するブロック共重合体等のポリアルキレンエーテル結合含有樹脂、アントラキノン重合体が好ましい。
【0053】
上記複合型酸素吸収剤における遷移金属系触媒と有機化合物との含有比率(重量比)は、有機化合物の重量を基準として、金属元素換算で0.0001~5重量%、より好ましくは0.0005~1重量%、より好ましくは0.001~0.5重量%の範囲で含有される。
【0054】
このような酸素吸収剤(E)の含有量は、EVOH(A)100重量部に対して、通常1~30重量部であり、好ましくは3~25重量部であり、より好ましくは5~20重量部である。また、酸素吸収剤(E)は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0055】
<乾燥剤(F)>
本発明の樹脂組成物には、熱水殺菌処理(例えば、ボイル処理、レトルト処理等)後のガスバリア性を改善する目的で、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)の他、さらに乾燥剤(F)を含有してもよい。
本発明で用いられる乾燥剤(F)としては、一般に公知の吸湿性化合物、水溶性乾燥剤を用いることが可能である。EVOHとの親和性の点で好ましくは水溶性乾燥剤、より好ましくは水和物形成性の金属塩である。
【0056】
上記吸湿性化合物としては、シリカゲル、ベントナイト、モレキュラーシーブ、高吸水性樹脂等が挙げられる。
上記水溶性乾燥剤としては、例えば、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、砂糖、リン酸三リチウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムや、各種水和物形成性の金属塩等が挙げられる。
【0057】
上記水和物形成性の金属塩とは、結晶水として水分を吸収しうる塩で、その製造法は限定されないが、例えば、水和物として合成し、それを乾燥脱水したものを用いることができる。乾燥脱水により、完全脱水物(無水物)となっていることが吸湿性の点で好ましいが、部分脱水物(飽和量未満の水和物)であってもよい。
【0058】
上記水和物形成性の金属塩を構成する金属としては、1価、2価、または3価の金属であり、1価の金属としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属があげられる。また、2価の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、銅、亜鉛、鉄等の2価イオンを形成できる遷移金属があげられる。さらに、3価の金属としては、アルミニウム、鉄等があげられる。この中で好ましい金属は、ナトリウム、マグネシウムである。
また、水和物形成性の金属塩を構成する酸としては、硫酸、カルボン酸、リン酸、ホウ酸、硝酸、炭酸、亜硫酸等があげられる。この中で好ましい酸は、硫酸、カルボン酸、リン酸である。
【0059】
水和物形成性の金属塩を構成する塩の具体例としては、塩化コバルト、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩化物、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム等のリン酸塩、コハク酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等のカルボン酸塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩があげられる。これらのうち、レトルト処理後のガスバリア性回復の点から、硫酸塩が好ましく、特に硫酸マグネシウムの部分脱水物または完全脱水物が好ましく用いられる。
【0060】
上記水和物形成性の金属塩とは、結晶水を有する金属塩の脱水物である。例えば、結晶水を持つ硫酸金属塩としては、硫酸ナトリウム(Na2SO4・10H2O)、硫酸カリウム(K2SO4・1H2O)などの1価金属塩;硫酸ベリリウム(BeSO4・4H2O)、硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)、硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)等のアルカリ土類金属塩;硫酸銅(CuSO4・5H2O)、硫酸亜鉛(ZnSO4・7H2O)、硫酸鉄(FeSO4・7H2O)等の遷移金属塩;硫酸アルミニウム(Al2(SO43・16H2O)などがあげられる。なお、括弧内に示す化合物は、各金属の飽和水和物の化学式である。
【0061】
水和物形成性の金属塩としては、当該金属塩の飽和水和物の部分脱水物または完全脱水物を用いることができる。かかる部分脱水物とは飽和水和物の結晶水の一部が脱水されたものであり、通常、金属塩の飽和水和物が有する結晶水量を重量基準にて100%とした場合、結晶水量が90%未満の結晶水を有する該金属塩の水和物が該当する。常温で、飽和水和物の方が安定に存在できるような部分脱水物を用いることが好ましいことから、結晶水量が70%未満にまで脱水された部分水和物を用いることが好ましい。より好ましくは完全脱水物すなわち結晶水量が0%の水和物形成性の金属塩である。
【0062】
乾燥剤(F)の含有量は、EVOH樹脂(A)との混合重量比率(F/A)で、通常、50/50~1/99、より好ましくは30/70~1/99、さらに好ましくは20/80~5/95、特に好ましくは15/85~5/95である。なお、前記乾燥剤(F)が結晶水を持つ金属塩の部分脱水物である場合は、完全脱水物としての重量における混合重量比率(F/A)である。
【0063】
乾燥剤(F)の含有量が多すぎる場合、透明性が損なわれたり、凝集により形成時に成型機のスクリーンメッシュが閉塞しやすくなるなどの傾向があり、少なすぎる場合にはEVOH樹脂(A)に入り込んだ水分を除去する効果が不足し、ボイル処理やレトルト処理などの熱水殺菌処理後のガスバリア性が充分とならない傾向がある。また、乾燥剤(F)は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0064】
<その他の添加剤(G)>
本発明の樹脂組成物には、上記各成分のほか、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内にて(例えば、樹脂組成物全体の5重量%未満にて)、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えば、ステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えば、オレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えば、エチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;熱安定剤;光安定剤;難燃剤;架橋剤;硬化剤;発泡剤;結晶核剤;防曇剤;生分解用添加剤;シランカップリング剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);界面活性剤、ワックス;分散剤(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸モノグリセリド等)等の公知の添加剤を適宜配合することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0065】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩等の塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩等の添加剤を配合してもよい。
これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を配合することが好ましい。
【0066】
酢酸を配合する場合、その配合量は、EVOH(A)100重量部に対して通常0.001~1重量部、好ましくは0.005~0.2重量部、特に好ましくは0.01~0.1重量部である。酢酸の配合量が少なすぎると、酢酸の含有効果が充分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
【0067】
また、ホウ素化合物を配合する場合、その配合量は、EVOH(A)100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001~1重量部である。ホウ素化合物の配合量が少なすぎると、ホウ素化合物の含有効果が充分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
【0068】
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の配合量としては、おのおのEVOH(A)100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005~0.1重量部である。上記配合量が少なすぎるとその含有効果が充分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。なお、EVOH(A)に2種以上の塩を配合する場合は、その総量が上記の配合量の範囲にあることが好ましい。
【0069】
EVOH(A)に、酢酸、ホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩等の熱安定剤を配合する方法については、例えば、i)含水率20~80重量%のEVOH(A)の多孔性析出物を、熱安定剤の水溶液と接触させて、前記EVOH(A)の多孔性析出物に熱安定剤を含有させてから乾燥する方法;ii)EVOH(A)の均一溶液(水/アルコール溶液等)に熱安定剤を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、ついで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法;iii)EVOH(A)と熱安定剤を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法;iv)EVOH(A)の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の有機酸類で中和して、残存する酢酸等の有機酸類や副生成する塩の量を水洗処理により調整する方法等をあげることができる。
中でも、本発明の効果をより顕著に得るためには、熱安定剤の分散性に優れるi)、ii)の方法、有機酸およびその塩を含有させる場合はiv)の方法が好ましい。
【0070】
本発明の樹脂組成物全体におけるベース樹脂はEVOH(A)である。従って、EVOH(A)の量は、樹脂組成物全体に対して通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。かかる量が多すぎる場合、上記(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)の配合効果(これらを併用する場合も含む)が低下する傾向があり、少なすぎる場合、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0071】
<樹脂組成物の調製方法>
本発明の樹脂組成物は、特に限定するものではないが、例えば、つぎのようにして調製される。すなわち、EVOH(A)、ソルビン酸エステル(B)を所定割合で配合して、溶融混練等により樹脂組成物を調製してもよいし(溶融混練法)、各成分を所定割合でドライブレンドしてもよい(ドライブレンド法)。
【0072】
また、本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)、ソルビン酸エステル(B)を所定割合で配合し、あらかじめソルビン酸エステル(B)濃度の高い組成物(マスターバッチ)を作製し、かかる組成物(マスターバッチ)をEVOH(A)と配合することにより、所望の濃度の樹脂組成物を得ることも可能である。
【0073】
混合方法は、例えばバンバリーミキサー等でドライブレンドする方法や単軸または二軸の押出機等で溶融混練し、ペレット化する方法等任意のブレンド方法が採用される。上記溶融混錬温度は、通常150~300℃、好ましくは170~250℃である。
【0074】
本発明の樹脂組成物は、原料を溶融混練した後に直接溶融成形品を得ることも可能であるが、工業上の取り扱い性の点から、上記溶融混練後に樹脂組成物製ペレットを作製し、これを溶融成形法に供し、溶融成形品を得ることが好ましい。上記のペレットを作製する方法としては、経済性の点から、押出機を用いて溶融混練し、ストランド状に押出し、これをカットしてペレット化する方法が好ましい。
特に本発明においては、上記の様に複数回にわたって溶融混練を行う場合においても、最終的に得られる成形物における着色が抑制される樹脂組成物とすることができる。
【0075】
上記ペレットの形状は、例えば、球形(球状、オーバル状)、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、球形または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、球形の場合は径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、高さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。なお、球形において径が短径、長径とある場合は、長径の長さをいう。円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0076】
溶融成形時のフィード性を安定させる点から、得られた樹脂組成物製ペレットの表面に滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸金属塩(高級脂肪酸のアルミニウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等、またはその酸変性品)、高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられ、好適には高級脂肪酸およびその金属塩の少なくとも一方、エステル、アミドが、さらに好適には高級脂肪酸金属塩および高級脂肪酸アミドの少なくとも一方が用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0077】
上記滑剤の性状としては、固体状(粉末、微粉末、フレーク等)、半固体状、液体状、ペースト状、溶液状、エマルジョン状(水分散液)等、任意の性状のものが使用可能であるが、本発明の目的とする樹脂組成物製ペレットを効率よく得るためには、エマルジョン状のものが好ましい。
【0078】
上記滑剤を樹脂組成物製ペレットの表面に付着させる方法としては、ブレンダー等で滑剤と樹脂組成物製ペレットを混合させて付着させる方法、滑剤の溶液または分散液に樹脂組成物製ペレットを浸漬させて付着させる方法、樹脂組成物製ペレットに滑剤の溶液または分散液を噴霧して付着させる方法等をあげることができる。好適には、ブレンダー等に樹脂組成物製ペレットを仕込んで撹拌下にエマルジョン状の滑剤を、樹脂組成物製ペレット100重量部に対して滑剤の固形分として0.001~1重量部/hr、さらには0.01~0.1重量部/hrの速度で徐々に配合することが、滑剤の均一付着のためには好ましい。さらに、ペレット表面に付着させた滑剤が全てペレット表面に密着し、溶融成形機内で滑剤が遊離することがない樹脂組成物製ペレットを得るためには、樹脂組成物製ペレットの表面温度を、上記滑剤の融点-50℃以上の高温とし、かつ上記EVOHの融点未満にて滑剤と接触させる方法が最も好ましい方法である。
【0079】
上記滑剤の含有量としては、樹脂組成物製ペレットの総重量に対して通常10~1000ppmであり、さらには20~500ppm、特には50~250ppmであることが、溶融成形時のフィード性が安定する点で好ましい。
【0080】
<成形物>
本発明の樹脂組成物は、溶融成形法により、各種成形物、例えば、フィルム、さらにはカップやボトル等に成形することができる。上記溶融成形方法としては、押出成形法(T-ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法等があげられる。溶融成形温度は、通常150~300℃の範囲から適宜選択され、より好ましくは180~250℃の範囲である。なお、本発明において、「フィルム」とは、特に「シート」、「テープ」と区別するものではなく、これらも含めた意味として記載するものである。
【0081】
本発明の樹脂組成物を含む溶融成形物はそのまま各種用途に用いてもよい。このとき、樹脂組成物の層(単層としてフィルムを作製する場合にはフィルム)の厚みは通常1~5000μm、好ましくは5~4000μm、特に好ましくは10~3000μmである。
【0082】
なお、上記樹脂組成物の層(単層としてフィルムを作製する場合にはフィルム)は、EVOH(A)および特定微量のソルビン酸エステル(B)を含有するものである。また、樹脂組成物の層は、上記のようにして得られる樹脂組成物から形成される層であり、通常、上記のような溶融成形を行なうことにより得られる。上記樹脂組成物中におけるソルビン酸エステル(B)の含有量(ppm)は、例えば、樹脂組成物を用いて液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)により測定を行ない、定量することができる。
【0083】
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、上記本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有するものである。本発明の樹脂組成物からなる層(以下、単に「樹脂組成物層」という。)は、他の基材と積層することで、さらに強度を上げたり、他の機能を付与することができる。
【0084】
上記基材としては、EVOH以外の熱可塑性樹脂(以下「他の基材樹脂」という。)が好ましく用いられる。
【0085】
多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、他の基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とする場合、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。
なお、上記層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を介層してもよい。また、上記多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と他の基材樹脂もしくは他の基材樹脂と接着性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。本発明の多層構造体の層数は、のべ数にて通常2~15層、好ましくは3~10層である。
【0086】
本発明の多層構造体における、多層構造の層構成として、好ましくは、本発明の樹脂組成物層を中間層として含み、その中間層の両外側層として、他の基材樹脂層を設けた多層構造体の単位(b/a/b、またはb/接着性樹脂層/a/接着性樹脂層/b)を基本単位として、この基本単位を少なくとも構成単位として備える多層構造体が好ましい。
【0087】
上記他の基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。
【0088】
これらのうち、疎水性を考慮した場合、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特に好ましくはポリ環状オレフィン系樹脂である。
【0089】
また、上記接着性樹脂層形成材料である接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、他の基材樹脂層(b)に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等であり、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0090】
上記他の基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲内(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来公知の可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。
【0091】
本発明の樹脂組成物を他の基材樹脂と積層させて多層構造体を作製する場合(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)の積層方法は公知の方法にて行なうことができる。例えば、本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に他の基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材樹脂に本発明の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本発明の樹脂組成物と他の基材樹脂とを共押出する方法、本発明の樹脂組成物からなるフィルム(層)および他の基材樹脂(層)を各々作製し、これらを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の基材樹脂上に本発明の樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出する方法が好ましい。
【0092】
上記多層構造体は、ついで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となる傾向があり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる傾向がある。
【0093】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行なってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば、上記延伸した多層構造体(延伸フィルム)を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で、通常2~600秒間程度熱処理を行なう。
【0094】
また、本発明の樹脂組成物を用いて得られてなる多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば、延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行なえばよい。
【0095】
さらに、場合によっては、本発明の多層構造体からカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。多層容器の作製方法としては、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。さらに、多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用され、具体的には押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。本発明の多層積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行なうことができる。
【0096】
本発明の多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成する樹脂組成物層、他の基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により適宜設定されるものである。なお、下記の数値は、樹脂組成物層、接着性樹脂層、他の基材樹脂層のうち少なくとも1種の層が2層以上存在する場合には、同種の層の厚みを総計した値である。
【0097】
本発明の多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。多層構造体の総厚みが薄すぎる場合には、ガスバリア性が低下する傾向がある。また、多層構造体の総厚みが厚すぎる場合には、ガスバリア性が過剰性能となり、不必要な原料を使用することとなるため経済的でない傾向がある。そして、樹脂組成物層は、通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、他の基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0098】
さらに、多層構造体における樹脂組成物層と他の基材樹脂層との厚みの比(樹脂組成物層/他の基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0099】
上記のようにして得られたフィルム、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【0100】
中でも、本発明の樹脂組成物からなる層は、複数回の溶融成形等により多くの熱履歴が掛かった場合であっても着色抑制に優れることから、一般的な食品、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、スープ、飲料、化粧品、医薬品、洗剤、香粧品、工業薬品、農薬、燃料等各種の容器として有用である。特に、マヨネーズ、ケチャップ、ソース、味噌、わさび、からし、焼肉等のたれ等の半固形状食品・調味料、サラダ油、みりん、清酒、ビール、ワイン、ジュース、紅茶、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、牛乳等の液体状飲料・調味料用のボトル状容器やチューブ状容器、フルーツ、ゼリー、プリン、ヨーグルト、マヨネーズ、味噌、加工米、調理済み食品、スープ等の半固形状食品・調味料用のカップ状容器や、生肉、畜肉加工品(ハム、ベーコン、ウインナー等)、米飯、ペットフード用の広口容器等の包装材料として特に有用である。
【0101】
[ソルビン酸エステル(B)の測定方法]
樹脂組成物製ペレット中のソルビン酸エステル含有量を測定する場合は、該ペレットを任意の方法で粉砕(例えば凍結粉砕)して炭素数1~5の低級アルコール系溶媒に溶解し、試料を得る。かかる試料を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)を用いて測定することで、ソルビン酸エステルの定量を行う。なお、多層構造体等の成形物におけるソルビン酸エステル含有量を測定する場合は、例えば多層構造体であれば測定する樹脂組成物層を任意の方法で多層構造体より取り出し、任意の方法で粉砕して炭素数1~5の低級アルコール系溶媒に溶解し、試料を得て、かかる試料を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)を用いて測定することで、ソルビン酸エステルの定量を行う。
【実施例
【0102】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」とあるのは重量基準である。
【0103】
(1)着色評価方法
評価サンプル用のペレットをタバイエスペック社製 ギヤーオーブン GPHH-200で230℃で20分または30分加熱してそれぞれ評価サンプルを得た。かかる評価サンプルを日本電色工業社製 分光色差計 SE6000にてYI値を測定した。かかるYI値が低い場合、着色が抑制され良好な効果が得られたことを意味する。
なお、かかる評価サンプルは、EVOHを溶融成形して得られる成形物をリサイクルに供する場合など、熱履歴が多く加わった状態のEVOHを想定し、20分または30分の長時間熱に晒した場合の着色度合を評価するものである。
【0104】
〔実施例1〕
EVOH(A)として、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物[エチレン構造単位の含有量32モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2160g)]を用いた。また、ソルビン酸エステル(B)として、東京化成工業社製のソルビン酸メチルを用いた。
上記ソルビン酸メチルを、EVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)の総重量に対して3000ppmとなるように添加し、20mm径の二軸押出機を用いて下記の押出機条件1にて溶融混練し、マスターバッチを作製した。得られたマスターバッチをソルビン酸メチルが表1に記載の含有量になるように上記EVOH(A)で希釈し、下記の押出機条件1にて溶融混練して、樹脂組成物ペレットを得た。
【0105】
(樹脂組成物の押出機条件1)
スクリュー内径 :20mm
L/D :25
スクリュー回転数:100rpm
ダイス :2穴 ストランドダイス
押出温度 C1: 180℃ C3: 240℃
C2: 240℃ C4: 240℃
【0106】
次に、ポリプロピレン(日本ポリプロ社製 ノバテックPP EA7AD[MFR1.4g/10分(230℃、荷重2160g)])90重量部に対して、得られた上記樹脂組成物ペレットを5重量部、接着性樹脂(lyondellbasell社製 Plexar PX6002[MFR2.7g/10分(230℃、荷重2160g)])を5重量部添加し、20mm径二軸押出機で下記の押出機条件1’にて溶融混練し、後記表1記載の実施例1のモデルリサイクルペレットを作製し、かかるペレットを前記の着色評価方法により評価した。結果を後記表1に示す。
なお、かかるモデルリサイクルペレットは、EVOHを溶融成形して得られる成形物をリサイクルに供する場合を想定した組成である。
【0107】
(モデルリサイクルペレットの押出機条件1’)
スクリュー内径 :20mm
L/D :25
スクリュー回転数:100rpm
ダイス :2穴 ストランドダイス
押出温度 C1: 150℃ C3: 240℃
C2: 240℃ C4: 240℃
【0108】
〔比較例1〕
上記実施例1においてソルビン酸メチルを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、モデルリサイクルペレットを作製し、かかるペレットを評価した。結果を後記表1に示す。
【0109】
〔比較例2〕
上記実施例1においてソルビン酸メチルの含有量をEVOH(A)とソルビン酸エステル(B)の総重量に対して30ppmとした以外は、実施例1と同様にして、モデルリサイクルペレットを作製し、かかるペレットを評価した。結果を後記表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例1は、ソルビン酸エステルを特定微量含有する本発明のEVOH組成物に関するものである。驚くべきことに、実施例1にて得られた組成物は、ソルビン酸エステルが3ppmと微量であるにもかかわらず、20分加熱した場合のYI値が10、30分加熱した場合のYI値が35となった。かかる結果は予想外にも、ソルビン酸エステルを30ppm配合した比較例2の結果より低い値であった。
【0112】
上記実施例からわかるように、本発明の組成物は、予想外にも、ソルビン酸エステルの含有量が特定微量の場合にのみ、非常に良好な着色抑制効果が得られることがわかる。
【0113】
続いて、押出機の条件を変更し、下記のように樹脂組成物ペレットおよびモデルリサイクルペレットを作製し、同様に評価を行った。
【0114】
〔実施例2〕
上記実施例1においてマスターバッチのソルビン酸メチル含有量をEVOH(A)およびソルビン酸エステル(B)の総重量に対して500ppmとなるようにし、20mm径の二軸押出機を用いて下記の押出機条件2にて溶融混練し、マスターバッチを作製した。得られたマスターバッチをソルビン酸メチルが表2に記載の含有量になるようにEVOH(A)で希釈し、下記の押出機条件2にて溶融混練して、樹脂組成物ペレットを得た。
【0115】
(樹脂組成物の押出機条件2)
スクリュー内径 :20mm
L/D :50
スクリュー回転数:300rpm
ダイス :2穴 ストランドダイス
押出温度 C1: 180℃ C3: 230℃ C5:240
C2: 210℃ C4: 240℃ C6:240
【0116】
次に、実施例1において押出機の条件を下記の押出条件2’に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のモデルリサイクルペレットを作製し、かかるペレットを前記の着色評価方法により評価した。結果を後記表2に示す。
【0117】
(モデルリサイクルペレットの押出機条件2’)
スクリュー内径 :20mm
L/D :50
スクリュー回転数:300rpm
ダイス :2穴 ストランドダイス
押出温度 C1: 150℃ C3: 230℃ C5:240
C2: 180℃ C4: 240℃ C6:240
【0118】
〔実施例3〕
上記実施例2においてソルビン酸メチルをソルビン酸エチル(東京化学工業社製)に変更した以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。その後、ソルビン酸エチルの含有量をEVOH(A)とソルビン酸エステル(B)の総重量に対して5ppmとした以外は、実施例2と同様にして、モデルリサイクルペレットを作製し、かかるペレットを評価した。結果を下記表2に示す。
【0119】
〔比較例3〕
上記実施例2においてソルビン酸メチルの含有量をEVOH(A)とソルビン酸エステル(B)の総重量に対して15ppmとした以外は、実施例2と同様にして、モデルリサイクルペレットを作製し、かかるペレットを評価した。結果を下記表2に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
実施例2および実施例3は、ソルビン酸エステルを特定微量含有する本発明のEVOH組成物に関するものである。実施例2にて得られた組成物は、ソルビン酸エステルが0.5ppmと非常に微量であるにもかかわらず、20分加熱した場合のYI値が15、30分加熱した場合のYI値が23となった。また、実施例3にて得られた組成物は、ソルビン酸エステルが5ppmと微量であったが、20分加熱した場合のYI値が17、30分加熱した場合のYI値が24となった。かかる結果は、ソルビン酸エステルを15ppm配合した比較例3の結果より低い値であった。
【0122】
上記実施例からわかるように、本発明の効果は、ソルビン酸エステルの種類または押出機の条件にかかわらず得られるものである。
【0123】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)に特定微量のソルビン酸エステル(B)を含むことにより、EVOHを含む成形物をリサイクルして他の成形物を得たり、EVOHを溶融混練することにより他の樹脂や添加剤等と混合して樹脂性能を調節し、その後溶融成形に供することにより成形物を得たりする等の、EVOHに複数回の熱履歴がかかる場合であっても着色が抑制される。従って、本発明の樹脂組成物からなる成形物および樹脂組成物層を含む多層構造体は、食品の各種包装材料として特に有用である。