(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220125BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220125BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220125BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2017547685
(86)(22)【出願日】2016-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2016079133
(87)【国際公開番号】W WO2017073238
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2015212239
(32)【優先日】2015-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016035788
(32)【優先日】2016-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016166489
(32)【優先日】2016-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015231220
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治朗
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
(72)【発明者】
【氏名】山地 浩司
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 亮三
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-152866(JP,A)
【文献】特開2012-256435(JP,A)
【文献】特開2012-028313(JP,A)
【文献】特開2015-088343(JP,A)
【文献】特開2013-125732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末
に、リチウムを含まない酸化物、前記酸化物の水和物、及び、リチウムを含まない無機酸塩からなる群より選択された少なくも1種である第1の化合物
の粉末と、水と、を混合することと、
前記混合して得られた混合物を乾燥することと、を備え、
前記焼成粉末は、一般式(1):Li
sNi
1-x-y-zCo
xMn
yM
zO
2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、
前記第1の化合物は、水の存在下でリチウムイオンと反応して、リチウムを含む第2の化合物を形成可能な化合物であり、
前記混合物における前記第1の化合物の含有量は、前記乾燥後に得られる正極活物質5gを100mlの純水に分散させて、10分間静置後の上澄み液を測定した際の25℃におけるpHが11以上11.9以下となるような量である、
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記リチウムを含まない酸化物は、酸化タングステン、酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化ニオブ、二酸化スズ、酸化マンガン、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化タンタル、酸化リン及び酸化ホウ素からなる群より選択された少なくとも1種を含む、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記第1の化合物は、酸化タングステン及びタングステン酸より選択された少なくとも1種を含む、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記焼成粉末に、前記第1の化合物を混合した後、前記水を混合する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記焼成粉末は、平均粒径が3μm以上15μm以下の範囲であり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.7以下である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記焼成粉末は、断面観察により計測される空隙が占める面積割合が該焼成粉末の断面積全体に対して4.5%以上60%以下である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記混合物における前記第1の化合物に含まれるリチウムイオンと反応可能な元素の量は、前記焼成粉末中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して、0.03mol%以上1.2mol%以下である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記混合物における前記水の含有量は、前記焼成粉末に対して0.5質量%以上である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥は、100℃以上300℃以下で行う、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなる非水系電解質二次電池用の正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物粉末は、一般式(2):Li
sNi
1-x-y-zCo
xMn
yM
zO
2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、リチウムを含む第2の化合物とを、含有し、
前記第2の化合物は、前記一次粒子表面
上で、リチウムを含まない酸化物、前記酸化物の水和物、及び、リチウムを含まない無機酸塩からなる群より選択された少なくとも1種である第1の化合物
の粉末が、水の存在下でリチウムイオンと反応して生成した化合物であり、
前記正極活物質5gを100mlの純水に分散させ、10分間静置後の上澄み液を測定した際の25℃におけるpHが11以上11.9以下である、
非水系電解質二次電池用の正極活物質。
【請求項11】
平均粒径が3μm以上15μm以下の範囲にあり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.7以下である、請求項10に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項12】
前記リチウム金属複合酸化物粉末の断面観察において計測される空隙が占める面積割合が該複合酸化物粒子全体の断面積全体に対して4.5%以上60%以下である、請求項10または請求項11に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項13】
前記第2の化合物に含まれる、リチウムおよび酸素以外の元素の量は、前記リチウム金属複合酸化物粉末中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して0.03mol%以上1.2mol%以下である、請求項10~請求項12のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項14】
レーザー光回折散乱法で計測した粒度分布における体積積算値から求めたd50に対するd90の比(d90/d50)が1.35未満である、請求項10~請求項13のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項15】
請求項10~請求項14のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池用正極合材ペースト。
【請求項16】
請求項10~請求項14のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を有する非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として出力特性と充放電サイクル特性が優れた二次電池の開発が強く望まれている。
【0002】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池がある。非水系電解質二次電池は、負極および正極と非水系電解液等で構成され、負極および正極の活物質は、例えば、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0003】
このような非水系電解質二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いた非水系電解質二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまで主に提案されている正極活物質としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。充放電サイクル特性のさらなる改善を図るためには、例えば、ニッケル、コバルト、マンガンなどの金属元素に対してリチウムを化学量論組成よりも過剰に含有させることが有効であることが知られている。
【0005】
ところで、非水電解質二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーや、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶剤とを混合して正極合材ペーストにし、アルミ箔などの集電体に塗布することで形成される。このとき、正極合材ペースト中の正極活物質からリチウムが遊離した場合、バインダーなどに含まれる水分と反応し水酸化リチウムが生成することがある。この生成した水酸化リチウムとバインダーとが反応し、正極合材ペーストがゲル化を起こすことがある。正極合材ペーストのゲル化は、操作性の悪さ、歩留まりの悪化を招く。この傾向は、正極活物質におけるリチウムが化学量論比よりも過剰で、且つニッケルの割合が高い場合に顕著となる。
【0006】
正極合材ペーストのゲル化を抑制する試みがいくつかなされている。例えば、特許文献1には、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と、酸性酸化物粒子からなる添加粒子とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。この正極組成物は、バインダーに含まれる水分と反応して生成した水酸化リチウムが酸性酸化物と優先的に反応し、生成した水酸化リチウムとバインダーとの反応を抑制し、正極合材ペーストのゲル化を抑制するとしている。また、酸性酸化物は、正極内で導電材としての役割を果たし、正極全体の抵抗を下げ、電池の出力特性向上に寄与するとしている。
【0007】
また、特許文献2には、リチウムイオン二次電池製造方法であって、正極活物質として、組成外にLiOHを含むリチウム遷移金属酸化物を用意すること;正極活物質1g当たりに含まれるLiOHのモル量Pを把握すること;LiOHのモル量Pに対して、LiOH1モル当たり、タングステン原子換算で0.05モル以上の酸化タングステンを用意すること;および、正極活物質と酸化タングステンとを、導電材および結着剤とともに有機溶媒で混練して正極ペーストを調製すること;を包含する、リチウムイオン二次電池製造方法が提案されている。
【0008】
一方、出力特性と充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得る試みもいくつかなされている。例えば、正極活物質を、小粒径であり、かつ、粒度分布が狭い粒子によって構成することにより、出力特性と充放電サイクル特性に優れることが知られている。これは、粒径が小さい粒子は、比表面積が大きく、正極活物質として用いた場合に電解液との反応面積を十分に確保することができるばかりでなく、正極を薄く構成し、リチウムイオンの正極-負極間の移動距離を短くすることができるため、正極抵抗の低減が可能だからである。また、粒度分布が狭い粒子は、電極内で粒子に印加される電圧を均一化できるため、微粒子が選択的に劣化することによる電池容量の低下を抑制することが可能となるためである。
【0009】
さらに出力特性と充放電サイクル特性のさらなる改善を図るためには、正極活物質を中空構造とすることが有効であることが報告されている。このような正極活物質は、粒径が同程度である中実構造の正極活物質と比べて、電解液との反応面積を大きくすることができるため、正極抵抗を大幅に低減することができる。
【0010】
例えば、特許文献3、4には、正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物粒子を、主として核生成を行う核生成工程と、主として粒子成長を行う粒子成長工程の2段階に明確に分離した晶析反応により、製造する方法が開示されている。これらの方法では、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で、核生成工程では12以上(例えば、12.0~13.4または12.0~14.0)の範囲に、粒子成長工程では、核生成工程より低く、かつ12以下(例えば、10.5~12.0)の範囲に制御している。また、反応雰囲気を、核生成工程および粒子成長工程の初期では酸化性雰囲気とするとともに、所定のタイミングで、非酸化性雰囲気に切り替えている。
【0011】
これらの方法により、得られる遷移金属複合水酸化物粒子は、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、微細一次粒子からなる低密度の中心部と、板状または針状一次粒子からなる高密度の外殻部とから構成される。このような遷移金属複合水酸化物粒子を焼成した場合、低密度の中心部が大きく収縮し、内部に空間部が形成される。そして、複合水酸化物粒子の粒子性状は、正極活物質に引き継がれる。これらの正極活物質を用いた二次電池では、容量特性、出力特性と充放電サイクル特性とを改善できるとされている。
【0012】
さらに出力特性の向上に関しては、例えば、特許文献5には、一次粒子および前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末に、タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液を添加、混合することにより、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面もしくは該粉末の一次粒子の表面にWを分散させる第1工程と0、混合した前記タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液とリチウム金属複合酸化物粉末を、熱処理することによりWおよびLiを含む微粒子を、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面もしくは該粉末の一次粒子の表面に形成する第2工程を有する非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提案されている。
【0013】
この提案によれば、電池の正極材に用いられた場合に高容量とともに高出力が実現可能な非水系電解質二次電池用正極活物質が得られるとされている。しかしながら、高出力化に関しては検討されているものの、正極合材ペーストのゲル化抑制については何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2012-28313号公報
【文献】特開2013-84395号公報
【文献】国際公開WO2012/131881号
【文献】国際公開WO2014/181891号
【文献】特開2012-079464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記特許文献1の提案では、酸性酸化物の粒子が残留することによってセパレータの破損およびそれにともなう安全性低下の恐れがある。また、ゲル化抑制が十分であるとはいえない。また、上記特許文献2の提案においても、酸性酸化物(酸化タングステン)の残留によるセパレータの破損、さらには、ゲル化の抑制に関する問題点が解消されているとはいえない。
【0016】
また、特許文献3~4の提案のように、出力特性と充放電サイクル特性を向上させるため、電解液との反応面積を大きくすると、正極合材ペーストのゲル化が促進されるという新たな問題点が生じることがある。また、出力特性と充放電サイクル特性についても更なる向上が求められている。さらに、上記特許文献5の提案では、出力特性に関しては検討されているものの、正極合材ペーストのゲル化抑制については何ら検討されていない。よって、上記いくつかの提案では正極合材ペーストのゲル化抑制に関して検討されているものの、問題点が十分に解消されているとは言えない。
【0017】
本発明は、上述の問題に鑑みて、正極合材ペーストのゲル化の抑制と、二次電池に用いられた場合に電池容量の維持、高い出力特性、及び、優れた充放電サイクル特性と、を高いレベルで両立させることができる非水系電解質二次電池用正極活物質、および、その製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような正極活物質を用いた正極合材ペーストと非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様では、層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末と、リチウムを含まない酸化物、酸化物の水和物、及び、リチウムを含まない無機酸塩からなる群より選択された少なくも1種である第1の化合物と、水と、を混合することと、混合して得られた混合物を乾燥することと、を備え、焼成粉末は、一般式(1):LisNi1-x-y-zCoxMnyMzO2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、第1の化合物は、水の存在下でリチウムイオンと反応して、リチウムを含む第2の化合物を形成可能な化合物であり、混合物における第1の化合物の含有量は、乾燥後に得られる正極活物質5gを100mlの純水に分散させて、10分間静置後の上澄み液を測定した際の25℃におけるpHが11以上11.9以下となるような量である、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0019】
また、リチウムを含まない酸化物は、酸化タングステン、酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化ニオブ、二酸化スズ、酸化マンガン、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化タンタル、酸化リン及び酸化ホウ素からなる群より選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。また、第1の化合物は、酸化タングステン及びタングステン酸より選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。また、焼成粉末に、第1の化合物を混合した後、水を混合することが好ましい。また、焼成粉末は、平均粒径が3μm以上15μm以下の範囲であり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.7以下であることが好ましい。また、焼成粉末は、断面観察により計測される空隙が占める面積割合が該焼成粉末の断面積全体に対して4.5%以上60%以下であることが好ましい。また、混合物における第1の化合物に含まれるリチウムイオンと反応可能な元素の量は、焼成粉末中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して、0.03mol%以上1.2mol%以下であることが好ましい。また、混合物における水の含有量は、焼成粉末に対して0.5質量%以上であることが好ましい。また、乾燥は、100℃以上300℃以下で行うことが好ましい。
【0020】
本発明の第2の態様では、層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなる非水系電解質二次電池用の正極活物質であって、リチウム金属複合酸化物粉末は、一般式(2):LisNi1-x-y-zCoxMnyMzO2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、リチウムを含む第2の化合物とを、含有し、第2の化合物は、一次粒子表面に存在し、リチウムを含まない酸化物、酸化物の水和物、及び、リチウムを含まない無機酸塩からなる群より選択された少なくとも1種である第1の化合物が、水の存在下でリチウムイオンと反応して生成した化合物であり、正極活物質5gを100mlの純水に分散させ、10分間静置後の上澄み液を測定した際の25℃におけるpHが11以上11.9以下である、非水系電解質二次電池用の正極活物質が提供される。
【0021】
また、正極活物質は、平均粒径が3μm以上15μm以下の範囲にあり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.7以下であることが好ましい。また、正極活物質は、リチウム金属複合酸化物粉末の断面観察において計測される空隙が占める面積割合が該複合酸化物粒子全体の断面積全体に対して4.5%以上60%以下であることが好ましい。また、第2の化合物に含まれる、リチウムおよび酸素以外の元素の量は、リチウム金属複合酸化物粉末中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して0.03mol%以上1.2mol%以下であることが好ましい。また、正極活物質は、レーザー光回折散乱法で計測した粒度分布における体積積算値から求めたd50に対するd90の比(d90/d50)が1.35未満であることが好ましい。
【0022】
本発明の第3の態様では、上記の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストが提供される。
【0023】
本発明の第4の態様では、上記の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を有する非水系電解質二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、正極合材ペーストのゲル化の抑制と、二次電池を構成した場合の電池容量の維持、高い出力特性、及び、優れた充放電サイクル特性と、を高いレベルで両立させることができる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。さらに、その製造方法は、容易で工業的規模での生産に適したものであり、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一例を示した図である。
【
図2】
図2は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一例を示した図である。
【
図3】
図3は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一例を示した図である。
【
図4】
図4は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【
図5】
図5は、電池評価に使用したコイン型二次電池の概略断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1で得られた非水系電解質二次電池用正極活物質のXRDパターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池について、説明する。また、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。
【0027】
1.正極活物質
図1は、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質10(以下、「正極活物質10」ともいう。)の一例を示した模式図である。正極活物質10は、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末1(以下、「複合酸化物粉末1」ともいう。)からなる。複合酸化物粉末1は、一般式(2):Li
sNi
1-x-y-zCo
xMn
yM
zO
2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子2が凝集して形成された二次粒子3と、リチウムを含む第2の化合物Aと、を含有する。
【0028】
第2の化合物Aは、一次粒子2の表面に存在し、リチウムを含まない酸化物、この酸化物の水和物、及び、リチウムを含まない無機酸塩からなる群より選択された少なくとも1種の第1の化合物(以下、「酸化物等」ともいう。)が、水の存在下でリチウムイオンと反応して生成した化合物である。第1の化合物(酸化物等)は、例えば、水の存在下でオキソアニオンを形成し、リチウムイオンと反応することができる化合物であり、第2の化合物Aは、例えば、オキソアニオンのリチウム塩である。以下、第2の化合物Aを「リチウム塩」ともいう。
【0029】
従来公知の複合酸化物粉末は、例えば、ニッケル複合水酸化物又はニッケル複合酸化物と、リチウム化合物と、を焼成して得ることができる。従来公知の製造方法で得られた複合酸化物粉末は、二次粒子や一次粒子の表面に、未反応のリチウム化合物が存在している。未反応のリチウム化合物、特に水酸化リチウムは、正極合材ペースト(以下、「ペースト」ともいう。)中に溶出してpHを上昇させ、ペーストをゲル化させることがある。また、ペーストを作製した際、未反応のリチウム化合物以外にも、複合酸化物粒子中に存在する過剰のリチウムが、ペースト中に溶出し、水酸化リチウムとなってペーストをゲル化させると考えられる。
【0030】
本発明者らは、水酸化リチウムと反応して化合物を形成することができる第1の化合物(酸化物等)に着目し、第1の化合物(酸化物等)と、未反応のリチウム化合物又は複合酸化物粒子中の過剰なリチウム(以下、「未反応のリチウム化合物」及び「複合酸化物粒子中の過剰なリチウム」の両者をまとめて「余剰リチウム」ともいう。)と、を反応させ、一次粒子表面に、第2の化合物A(リチウム塩)として固定化することにより、ペースト中へのリチウムの溶出を抑制し、ペーストのゲル化を抑制するという新規の発想を基に、本発明を完成させた。
【0031】
本実施形態の正極活物質10は、例えば、母材となる複合酸化物粉末(原料)中の余剰リチウムを、特定量の第1の化合物(酸化物等)と反応させて、一次粒子2の表面に第2の化合物A(リチウム塩)を形成している。これにより、ペースト中へのチリウムへの溶出が抑制され、ペーストのゲル化が抑制される。さらに、後述するように、第2の化合物Aを、一次粒子2表面に有することにより、ペーストのゲル化の抑制と同時に、出力特性及びサイクル特性をより向上させることができる。
【0032】
本発明者らの検討によれば、例えば、酸性酸化物を、水と混合せず、正極活物質に直接添加した場合においても、ペースト中へ溶出する余剰リチウムの少なくとも一部と、酸性酸化物とが反応(中和)して、pHの上昇を抑制し、ペーストのゲル化をある程度、抑制することができるものの、その効果は十分なものではなかった(比較例6参照)。一方、本実施形態の正極活物質10のように、複合酸化物粉末(原料)中の余剰リチウムを、水の存在下、あらかじめ第1の化合物(酸化物等)と反応させ、一次粒子2の表面に第2の化合物Aとして固定した場合、ペーストのゲル化がより抑制され、かつ、充放電容量を維持しつつ、出力特性及びサイクル特性にもより優れることができる。
【0033】
ここで、一次粒子2の表面とは、二次粒子3の外面で露出している一次粒子2の表面と二次粒子3外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子3の表面近傍及び内部の空隙4に露出している一次粒子2の表面を含むものである。さらに、一次粒子2表面は、一次粒子2間の粒界であっても、一次粒子2の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態の一次粒子2間の粒界を含む。すなわち、ペースト中、未反応のリチウム化合物および過剰なリチウムの溶出は、電解液との接触面で生じるため、電解液との接触面である一次粒子2表面に、第2の化合物A(リチウム塩)を形成させることで抑制できる。なお、複合酸化物粉末1は、二次粒子3以外に、単独で存在する一次粒子を含んでもよい。
【0034】
なお、第2の化合物Aは、二次粒子3を構成する複数の一次粒子2の表面の一部に形成されてもよく、複数の一次粒子2表面の全体に形成されてもよい。例えば、電解液との接触面に存在する未反応のリチウム化合物と第1の化合物(酸化物等)とが反応し、又は、リチウム金属複合酸化物粒子中の過剰なリチウムを引き出して第1の化合物(酸化物等)と反応し、その結果、第2の化合物A(リチウム塩)が一次粒子2表面上で部分的に形成された場合も、ゲル化抑制の効果が得られる。また、第2の化合物Aは、
図1に示すように、一次粒子2の表面に微粒子状に存在してもよく、一次粒子2の表面に層状に存在してもよい。
【0035】
正極活物質10は、正極活物質5gを100mlの純水に分散させ、10分間静置後の上澄み液を測定した際の25℃におけるpH(以下、単に「正極活物質のpH値」ともいう。)が11以上11.9以下である。正極活物質5gを100mlの純水に分散させ、10分間静置後の上澄み液のpHを測定することにより、正極活物質10を用いてペーストを作製した際における、ペースト中への余剰リチウムの溶出の度合いについて評価することができる。
【0036】
上述したように、正極活物質中の余剰リチウムは、ペースト中に溶出しpHを上昇させると考えられる。本発明者らは、後述する実施例にも示されるように、ペーストのゲル化には正極活物質のpHが大きく影響していること、及び、リチウム塩(第2の化合物)を一次粒子表面に形成して、正極活物質のpHを特定の範囲に制御することにより、ペーストのゲル化を抑制し、かつ、電池特性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。本実施形態の正極活物質10では、一次粒子2の表面にリチウムを含む第2の化合物Aを形成させることにより、正極活物質のpH値を上記範囲に制御する。なお、例えば、特許文献5などに記載されるように、一次粒子表面にリチウムを含む微粒子を有する正極活物質は、いくつか報告されているが、正極活物質10のように、第2の化合物Aを形成することにより、正極活物質のpHを特定の範囲となるように制御することについては、一切、検討されていなかった。
【0037】
本実施形態の正極活物質10は、上澄み液の25℃におけるpHが11以上11.9以下となるように制御されることにより、ペーストのゲル化が非常に抑制され、かつ、充放電容量を維持しつつ、高い出力特性及び優れたサイクル特性を有することができる。正極活物質のpHが11未満である場合、第2の化合物A(リチウム塩)が多く形成され過ぎ、必要以上に金属複合酸化物粒子中からリチウムが引き出され、電池の正極に用いられた際に充放電容量の低下や正極の反応抵抗の上昇が生じることがある。一方、正極活物質のpHが11.9を超えた場合、ペースト作製時、リチウムの溶出が多い状態となり、ペーストのゲル化を抑制することが困難となる。
【0038】
一次粒子2表面に存在する第2の化合物Aは、ペーストのゲル化を抑制するとともに、出力特性を向上させることができる。第2の化合物Aは、リチウムイオン伝導性があり、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、金属複合酸化物の一次粒子2表面に第2の化合物Aを形成させることで、二次電池において、電解液との界面でLiの伝導パスを形成し、正極活物質の反応抵抗(以下、「正極抵抗」ということがある。)を低減させることができる。そして、正極抵抗が低減されることにより、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。さらに、二次電池において、負荷側への印加電圧が高くなることにより、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池の充放電容量(以下、「電池容量」ということがある。)を維持又は向上させることができ、サイクル特性も向上する。
【0039】
第2の化合物Aは、リチウム塩であり、例えば、タングステン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、バナジン酸リチウム、ニオブ酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、ルテニウム酸リチウム、レニウム酸リチウム、タンタル酸リチウム、リン酸リチウム及びホウ酸リチウムなどが挙げられる。第2の化合物Aは、1種単独の化合物であってよく、2種以上の化合物であってもよい。これらの中でも、第2の化合物Aとしては、タングステン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、バナジン酸リチウム、ニオブ酸リチウムからなる群より選択される少なくとも一つを含むことが好ましく、タングステン酸リチウムおよびモリブデン酸リチウムより選択される少なくとも一つを含むことがより好ましい。
【0040】
タングステン酸リチウムとしては、例えば、Li2WO4、Li4WO5、Li6W2O9またはこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、少なくとも一部がLi4WO5の形態で存在することが好ましく、Wの65%以上が、Li4WO5あるいはLi2WO4の形態で存在することがより好ましい。Li4WO5は、タングステン酸リチウムの中でもLiイオンの伝導パスが多く、Liイオンの移動を促進する効果が高いため、一次粒子表面にWがLi4WO5の形態で存在する場合、さらに高い反応抵抗の低減効果を得ることができる。
【0041】
第1の化合物(酸化物等)は、リチウムを含まない酸化物、この酸化物の水和物、及び、リチウムを含まない無機酸塩からなる群より選択された1種以上である。第1の化合物(酸化物等)は、リチウムを含まない化合物であり、第2の化合物Aの原料となることができる。第1の化合物(酸化物等)は、水の存在下で、リチウムイオンと反応して、第2の化合物A(リチウム塩)を形成可能な化合物であれば、特に限定されない。第1の化合物(酸化物等)は、例えば、酸性の酸化物が好ましく、固体状のものがより好ましい。
【0042】
リチウムを含まない酸化物としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化ニオブ、二酸化スズ、酸化マンガン、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化タンタル、酸化リン及び酸化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む酸化物が挙げられる。これらの中でも、酸化タングステン、酸化モリブデンおよび五酸化バナジウムからなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。このような酸化物と反応して形成された第2の化合物A(リチウム塩)は、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がより大きい。したがって、ペーストのゲル化を抑制するとともに、二次電池の出力特性と電池容量をより向上させることができる。
【0043】
酸化物の水和物としては、例えば、タングステン酸、モリブデン酸、バナジン酸、ニオブ酸などが挙げられる。
【0044】
無機酸塩としては、例えば、前記酸化物の水和物からなる無機酸と塩基との化合物が好ましく、タングステン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、バナジン酸アンモニウム、ニオブ酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0045】
一次粒子2の表面には、上述したように、第2の化合物A以外にも未反応のリチウム化合物(例えば、水酸化リチウムなど)を含む余剰リチウムが存在する。余剰リチウムの含有量は、正極活物質10の全量に対して0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましい。ここで、余剰リチウムの含有量は、正極活物質10をスラリー化した際に、上澄み液中に溶出したリチウム量を、無機酸により滴定することで求めることができる。すなわち、リチウム金属複合酸化物粒子中(結晶内)に存在する過剰なリチウムもスラリー中に溶出するため、余剰リチウムに含まれる。余剰リチウムの含有量を0.05質量%以下とした場合、ペースト中へのリチウムの溶出がより低減され、ペーストのゲル化をさらに抑制でき、さらに、高い充放電容量を維持するとともに、高い出力特性と優れたサイクル特性を得ることができる。
【0046】
余剰リチウムは、リチウムの伝導性が悪く、リチウム金属複合酸化物からのリチウムイオンの移動を阻害することがある。すなわち、余剰リチウムを低減することで、リチウム塩によるリチウムイオンの移動促進効果を高め、充放電時のリチウム金属複合酸化物への負荷を低減してサイクル特性を向上させることができる。また、余剰リチウム量を制御することで、リチウム金属複合酸化物粒子間でのリチウムイオンの移動も均一化され、特定の金属複合酸化物粒子に負荷がかかることが抑制され、サイクル特性を向上させることができる。
【0047】
余剰リチウムの含有量の下限は、電池特性の低下を抑制するという観点から、正極活物質の全量に対して0.01質量%以上であることが好ましい。余剰リチウムが少なくなり過ぎることは、第2の化合物(リチウム塩)が形成される際に複合酸化物の結晶中から過剰にリチウムが引き抜かれていることを示す。
【0048】
複合酸化物粉末1は、一般式(2):LisNi1-x-y-zCoxMnyMzO2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される二次粒子3を含む。上述の一般式を有する二次粒子3を含む複合酸化物粉末10は、高い出力特性と電池容量を有することができる。さらに、上述のように、一次粒子2の表面に第2の化合物Aを形成させた正極活物質10は、ペーストのゲル化が抑制され、二次電池に用いられた際により優れた出力特性と電池容量を示す。なお、上記式(2)中、αは、リチウム金属複合酸化物1に含まれるリチウム以外の金属元素の価数、及びリチウム以外の金属元素に対するリチウムの原子数比に応じて変化する係数である。
【0049】
第2の化合物Aに含まれる、リチウムと酸素以外の元素の量(以下、「リチウム塩形成元素」ということがある。)は、複合酸化物中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して、0.03mol%以上1.2mol%以下であることが好ましい。なお、リチウム塩形成元素の量は、酸素と結合して第1の化合物(酸化物等)中の酸化物または無機酸を構成する元素の量を示し、第1の化合物の混合量を調製することにより、上記範囲とすることができる。
【0050】
正極活物質全体は下記一般式(3)で表されることが好ましい。なお、正極活物質全体とは、上記一般式(2)で表される二次粒子と、第2の化合物Aとを含むリチウム金属複合酸化物粉末1全体をいう。
一般式(3):LisNi1-x-y-zCoxMnyMzAtO2+α(上記式(2)中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0.0001≦t≦0.03、0≦α≦0.2であり、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素であり、Aは、第2の化合物を構成するリチウムと酸素以外の元素である。)
【0051】
上記一般式(3)におけるtは、第2の化合物(リチウム塩)を形成しているリチウム塩形成元素(A)の量を示す。上記式(3)中、tは、0.0001≦t≦0.03であり、好ましくは0.0003≦t≦0.02であり、より好ましくは0.0003≦t≦0.012である。tが上記範囲である場合、ペーストのゲル化をより抑制するとともに正極抵抗を低減し、出力特性及びサイクル特性を改善することができる。一方、tが0.0001未満である場合、第2の化合物(リチウム塩)の形成が不足してゲル化抑制および正極抵抗低減の効果が十分得られない。一方、tが0.03を超える場合、形成される第2の化合物(リチウム塩)が多くなり過ぎてリチウム金属複合酸化物と電解液のリチウム伝導が阻害され、電池容量が低下することがある。なお、上記式(3)中、αは、リチウム金属複合酸化物1に含まれるリチウム以外の金属元素の価数、Aの含有量と価数、及びリチウム以外の金属元素に対するリチウムの原子数比に応じて変化する係数である。
【0052】
リチウム塩形成元素(A)は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)、マンガン(Mn)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、タンタル(Ta)、リン(P)及びホウ素(B)からなる群より選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0053】
正極活物質10は、複合酸化物粉末1を構成する一次粒子2表面に第2の化合物A(リチウム塩)を存在させ、正極活物質10のpH値を制御するものである。正極活物質10中のNi、Co、MnおよびMの組成は、公知のリチウム金属複合酸化物の組成を用いることができ、電池に要求される特性に応じて適宜、組成を選択することができる。上記式(2)又は式(3)中のMは、要求される特性に応じて上述のように複数元素(V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)から選択でき、例えば、リチウム塩形成元素(A)とは別に、複合酸化物中への添加元素として、V、Mo、Nb、Wから少なくとも1種の元素を選択することができる。特に、Wを添加することによりリチウム金属複合酸化物自体の電池容量や出力特性を向上させることができるため、効果的である。
【0054】
正極活物質10(複合酸化物粉末1)の粉体特性及び粒子構造は、二次電池に要求される特性に応じて、公知のリチウム金属複合酸化物から選択できる。なお、正極活物質10の粉体特性等は、後述するように、第2の化合物Aを含まないこと以外は、原料として用いられる焼成粉末の粉体特性等を継承するため、所望の粉体特性等を有する焼成粉末(原料)を選択することにより、所定の粉体特性等を有する正極活物質10を得ることができる。
【0055】
例えば、正極活物質10の平均粒径は、3μm以上15μm以下の範囲にあり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕は0.7以下であることが好ましい。これにより、充填性を高めて、二次電池の容積当たりの電池容量をより高いものとすることができる。また、複合酸化物粒子間の印加電圧を均一化し、粒子間での負荷を均一化してサイクル特性をさらに高めることができる。
【0056】
粒度分布の広がりを示す指標〔(d90-d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。平均粒径や、d90、d10は、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。平均粒径としてはd50を用い、d10およびd90と同様に累積体積が全粒子体積の50%となる粒径を用いればよい。
【0057】
また、正極活物質10は、レーザー光回折散乱法で計測した粒度分布における体積積算値から求めたd50に対するd90の比(d90/d50)は、1.35未満であることが好ましい。d50に対するd90の比が1.35を超える場合、複合酸化物粒子同士が凝集して形成された粗大な粒子の割合が多くなり、電池特性が低下する傾向がある。
【0058】
また、複合酸化物粉末10の断面観察において計測される空隙が占める面積割合(以下、「空隙率」ともいう。)は、二次粒子3の断面積全体の4.5%以上60%以下であることが好ましい。空隙率が上記範囲である場合、ペーストのゲル化を抑制しながら、正極抵抗の低減効果をより高くすることができる。空隙率が断面積全体の4.5%未満である場合、正極抵抗のより高い低減効果が得られないことがある。一方、空隙率が60%を超える場合、充填密度が低下して、電池の容積当たりの電池容量が十分に得られないことがある。なお、二次粒子3の断面積全体とは、二次粒子3中の空隙4を含む断面積である。
【0059】
空隙率は、二次粒子の任意断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、画像解析することによって測定できる。具体的には、複数の複合酸化物(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより断面試料を作成し、走査型電子顕微鏡により二次粒子の断面観察が可能な状態とした後、画像解析ソフト(例えば、WinRoof 6.1.1等)により、任意(無作為)に選択した20個以上の二次粒子に対して、二次粒子中の空隙の部分を黒で検出し、二次粒子の輪郭内の緻密部を白で検出し、上記20個以上の二次粒子の黒部分および白部分の合計面積を測定し、[黒部分/(黒部分+白部分)]の面積比を計算することで空隙率を算出できる。
【0060】
さらに、正極活物質10の比表面積は、1m2/g以上50m2/g以下であることが好ましい。比表面積が1m2/g未満では、電解液との接触が少なく、高い出力特性が得られないことがある。また、比表面積が50m2/gを超えると、電解液との接触が多くなり過ぎ、ゲル化の抑制が十分でないことがある。なお、比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法で求めることができる。
【0061】
2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」ともいう。)は、層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末と、リチウムを含まない酸化物、この酸化物の水和物、及び、リチウムを含まない無機酸塩からなる群より選択された少なくも1種の第1の化合物と、水と、を混合すること(ステップS01)と、混合して得られた混合物を乾燥することと(ステップS02)と、を備える。正極活物質の製造方法は、上述したような正極活物質10を、簡便に、高い生産性で得ることができる。以下、各ステップについて
図2、3を参照して説明する。
【0062】
図2は、本実施形態の正極活物質の製造方法の一例を示す図である。なお、以下の説明は、正極活物質の製造方法の一例であって、この方法に限定するものではない。
図2を説明する際に、適宜、
図3を参照する。
【0063】
まず、
図2に示すように、正極活物質の製造方法は、層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末と、第1の化合物(酸化物等)と、水と、を混合する(ステップS01)。この際、第1の化合物(酸化物等)を、得られる正極活物質5gを100mlの純水に分散させ、10分間静置後の上澄み液を測定した際の25℃におけるpH(以下、「正極活物質のpH値」ともいう。)が11以上11.9以下となるように、混合する。
【0064】
第1の化合物(酸化物等)は、リチウムを含まず、水の存在下で、余剰リチウム(水酸化リチウムなど)に由来するリチウムイオンと反応して第2の化合物を形成可能な化合物であれば用いることができる。例えば、第1の化合物としてタングステン化合物を選択した場合、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、タングステン化合物としては、酸化タングステン及びタングステン酸の少なくとも一方が好ましく、リチウムとの反応時に水が生成しにくい酸化タングステンを用いることがより好ましい。なお、酸化タングステン及びタングステン酸を合わせて、以下、「酸化タングステン等」ともいう。
【0065】
また、例えば、第1の化合物(酸化物等)としてモリブデン化合物を選択した場合、酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウムなどが挙げられ、酸化モリブデン及びモリブデン酸の少なくとも一方が好ましく、酸化モリブデンを用いることがより好ましい。なお、第1の化合物(酸化物等)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
混合工程(ステップS01)では、乾燥後に得られる正極活物質のpH値が11以上11.9以下となる量で第1の化合物(酸化物等)を混合する。すなわち、混合物中における第1の化合物(酸化物等)の含有量は、乾燥後に得られる正極活物質5gを100mlの純水に分散させて、10分間静置後の上澄み液を測定した際の25℃におけるpHが11以上11.9以下となるような量である。
【0067】
第1の化合物(酸化物等)は、混合工程(ステップS01)における水分が存在する状態から、後の乾燥する工程(ステップS2)にかけて、未反応のリチウム化合物や複合酸化物粒子中の過剰なリチウム(以下、両者をまとめて「余剰リチウム」ともいう。)と反応して、第2の化合物A(リチウム塩)を形成する。この第2の化合物Aを形成することにより、上述したように、ペースト中へのリチウムの溶出を抑制し、かつ、高い電池容量を維持しつつ、高い出力特性と優れたサイクル特性を有する正極活物質を得ることができると考えられる。
【0068】
第1の化合物(酸化物等)の添加量については、予め少量の焼成粉末を分取して予備試験を行って、正極活物質が上述のpHの範囲となるような添加量を確認することで、容易に決めることができる。また、Li/Meや焼成粉末の製造条件が安定した系においては、予備試験で決めた添加量を用いることにより、その後に行う製造工程においても、上述の範囲に正極活物質のpH値を制御することができる。
【0069】
なお、リチウム金属複合酸化物の焼成粉末におけるNi、Co、MnおよびMの合計に対するLiの原子比(Li/Me)、あるいは該焼成粉末の製造条件によって、焼成粉末中に存在する余剰リチウム量は変動する。したがって、余剰リチウムとリチウム塩を形成して正極活物質のpH値を上述の範囲に制御できる量の第1の化合物(酸化物等)を添加すればよい。すなわち、乾燥後に得られる正極活物質5gを100mlの純水に分散させて、10分間静置後の上澄み液を測定した際の25℃におけるpHが11以上11.9以下となるような量の第1の化合物(酸化物等)を添加すればよい。
【0070】
混合物における第1の化合物の含有量は、正極活物質のpH値を上記範囲に制御できればよいが、第1の化合物に含まれるリチウムイオンと反応可能な元素の量が、焼成粉末中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して、0.01mol%以上3mol%以下となるように添加することが好ましく、0.02mol%以上2mol%以下とすることがより好ましく、0.03mol%以上1.2mol%以下とすることがさらに好ましい。なお、混合物中における上記第1の化合物に含まれるリチウムイオンと反応可能な元素の量は、正極活物質まで維持され、かつ、第1の化合物の大部分は、余剰リチウムと反応して、第2の化合物(リチウム塩)を形成するため、上述したリチウム塩形成元素(A)の量と同量となるといえる。上記リチウムイオンと反応可能な元素の量が上記範囲である場合、形成される第2の化合物(リチウム塩)の量を適正なものとして、正極活物質のpH値を制御するとともに、電池容量や出力特性をさらに向上することできる。
【0071】
混合工程(ステップS1)において混合する水の量は、焼成粉末の粉体特性や粒子構造に応じて、適宜調整することができ、焼成粉末中の余剰リチウムと、第1の化合物(酸化物等)とを溶解させ、両者を十分に反応できる量であればよい。混合する水の量は、例えば、焼成粉末に対して0.5質量%以上40質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以上35質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以上34質量%以下とすることがさらに好ましく、1質量%以上30質量%以下とすることが特に好ましい。これにより、第1の化合物(酸化物等)と、余剰リチウムとの反応を容易にして、第2の化合物(リチウム塩)を形成させ、リチウムの溶出をさらに低減することができる。
【0072】
混合する水には、焼成粉末中のリチウムが溶出するとともに、第1の化合物(酸化物等)が溶解するため、混合する水を十分な量とした場合、複合酸化物粒子の内部の一次粒子表面まで、第1の化合物を十分に浸透させるとともに、リチウム金属複合酸化物粒子間でも均一に分散させることができ、出力特性やサイクル特性をより向上させることができる。空隙率が10%以上の複合酸化物からなる焼成粉末を用いる場合は、混合物中における水の量は、焼成粉末に対して、例えば、10質量%以上35質量%以下としてもよい。
【0073】
混合工程(ステップS01)において、第1の化合物(酸化物等)と水とは、同時に焼成粉末に添加してもよい。また、
図3に示すように、第1の化合物(酸化物等)を添加して混合(ステップS11)した後、水を添加して混合(ステップS12)してもよい。焼成粉末と第1の混合物(酸化物等)とを先に混合した場合、焼成粉末中での混合状態の均一性をより高めることができる。第1の混合物(酸化物等)の添加量が少ない場合、焼成粉末と第1の混合物(酸化物等)とを先に混合することが特に好ましい。
【0074】
焼成粉末は、一般式(1):LisNi1-x-y-zCoxMnyMzO2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含む。焼成粉末の粉体特性や粒子構造は、乾燥後に得られる正極活物質まで継承されるため、焼成粉末の組成、粉体特性及び粒子構造などは、リチウム塩を含まないこと以外については、上述した正極活物質10と同様のものとすることができる。また、焼成粉末は、得ようとする正極活物質に合わせて選択することができる。上記式(1)中、αは、リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の価数、及びリチウム以外の金属元素に対するリチウムの原子数比に応じて変化する係数である。
【0075】
焼成粉末の好ましい態様として、上記正極活物質と同様に、平均粒径が3μm以上15μm以下の範囲にあり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕は0.7以下が選択できる。また、焼成粉末の断面観察において計測される空隙が占める面積割合が該リチウム金属複合酸化物粒子の断面積の4.5%以上60%であることが好ましい。
【0076】
次いで、混合して得られた混合物を乾燥する(ステップS02)。このステップは、第1の化合物(酸化物等)と水と焼成粉末とを混合した混合物を乾燥させ、この混合物中の水に溶解している余剰リチウムと、第1の化合物(酸化物等)とから、一次粒子表面に第2の化合物(リチウム塩)を形成させることにより、上述した正極活物質10を得ることができる。
【0077】
乾燥温度は、450℃以下とすることが好ましい。450℃を超えると、リチウム金属複合酸化物の結晶内から、さらにリチウムが遊離してペーストのゲル化抑制が十分でない場合がある。より十分に乾燥させ、リチウム金属複合酸化物からのリチウムの遊離を防止するという観点から、乾燥温度は100℃以上300℃以下とすることがより好ましい。
【0078】
また、乾燥時の雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸と、複合酸化物粒子の表面に残留した未反応のリチウム化合物との反応を避けるため、脱炭酸空気、不活性ガスまたは真空雰囲気とすることが好ましい。さらに、乾燥時の雰囲気の圧力は1気圧以下とすることが好ましい。1気圧よりも気圧が高い場合には、正極活物質の水の含有量が十分に下がらない恐れがある。また、乾燥時間は、リチウム金属複合酸化物からリチウムの遊離を防止できる程度に、水分を除去できる時間であれば特に限定されないが、例えば、1時間以上24時間以下であることが好ましく、2時間以上15時間以下であることがより好ましい。
【0079】
乾燥後に得られる正極活物物の水分率はとくに限定されないが、0.2質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。正極活物物の水分率が0.2質量%を超えると、大気中の炭素、硫黄を含むガス成分を吸収して表面にリチウム化合物を生成することがある。なお、上記水分率の測定値は、気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定した場合の測定値である。
【0080】
3.非水系電解質二次電池用正極合材ペースト
本実施形態の正極合材ペースト中では、正極活物質からのリチウムの溶出が低減され、ペーストのゲル化が非常に抑制される。したって、長期間の保存でもペーストの粘度変化が少なく、高い安定性を有するペーストとなっている。このようなペーストを用いて正極を製造することで、正極も安定して優れた特性を有するものとなり、最終的に得られる電池の特性を安定して高いものとすることができる。本実施形態のペーストの粘度変化は、例えば、後述する実施例に記載の条件で作製されたペーストにおいて、作製直後のペースト粘度に対する76時間保管後のペースト粘度(76時間保管後のペースト粘度/作製直後のペースト粘度)が、1に近い程好ましく、例えば、0.6以上1.4以下であることが好ましく、0.7以上1.3以下であることがより好ましい。ペーストの粘度変化が上記範囲である場合、ゲル化が非常に抑制され、安定性の高いペーストを得ることができる。
【0081】
正極合材ペーストは、上述した正極活物質10を含む。正極合材ペーストの構成材料は特に限定されず、公知の正極合材ペーストと同等なものを用いることができる。正極合材ペーストは、例えば、正極活物質10、導電材及びバインダーを含む。正極合材ペーストは、さらに溶剤を含んでもよい。正極合材ペーストは、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60~95質量部とし、導電材の含有量を1~20質量部とし、結着剤の含有量を1~20質量部とすることが好ましい。
【0082】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0083】
バインダー(結着剤)は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0084】
なお、必要に応じ、正極活物質10、導電材、活性炭を分散させ、バインダー(結着剤)を溶解する溶剤を正極合材に添加してもよい。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。正極合材ペーストは、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製できる。
【0085】
4.非水系電解質二次電池
本実施形態の非水系電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)は、特に限定されず、公知の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。二次電池は、例えば、正極、負極、セパレータおよび非水系電解液を備える。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本実施形態の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0086】
(1)正極
上記正極活物質を含む正極合材ペーストを用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
【0087】
正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0088】
(2)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0089】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0090】
(3)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0091】
(4)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0092】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0093】
(5)電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本実施形態の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0094】
(6)特性
本実施形態の正極活物質10を用いた二次電池は、高容量で高出力であり、かつ、充放電サイクル特性に優れる。好ましい実施形態で得られた正極活物質を用いた二次電池は、例えば、後述する実施例に記載される条件で作製された2032型コイン電池CBA(
図5参照)の正極に用いた場合、145mAh/g以上、好ましい実施形態で得られた場合には150mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られる。また、この二次電池は、例えば、後述する実施例に記載の条件で測定された放電容量維持率を90%以上とすることができる。
【0095】
なお、初期放電容量は、実施例で使用したコイン型二次電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を測定した値である。また、サイクル試験(放電容量維持率)は、60℃に保持して初期放電容量測定後、10分間休止し、初期放電容量測定と同様に充放電サイクルを、初期放電容量測定も含めて500サイクル(充放電)繰り返し、500サイクル目の放電容量を測定して、1サイクル目の放電容量(初期放電容量)に対する500サイクル目の放電容量の百分率を容量維持率(%)として求めた値である。
【0096】
好ましい実施形態で得られた正極活物質10を用いた二次電池は、例えば、上記コイン型二次電池CBAを用いて、後述する実施例に記載される条件で測定した正極抵抗を4Ω以下とすることができる。なお、本実施形態における正極抵抗の測定方法を例示すれば、次のようになる。電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、および正極抵抗と正極容量に基づくナイキスト線図が
図4のように得られる。電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。この等価回路を用いて測定したナイキスト線図に対してフィッティング計算を行い、各抵抗成分、容量成分を見積もることができる。正極抵抗は、得られるナイキスト線図の低周波数側の半円の直径と等しい。以上のことから、作製される正極について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。本実施形態により得られた正極活物質およびこの正極活物質を用いた正極合材ペースト、非水系電解質二次電池について、その性能(ペーストの安定性、初期放電容量、正極抵抗、放電容量維持率)を測定した。なお、本実施例では、複合水酸化物製造、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【0098】
(二次電池の製造および評価)
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の評価は、以下のように二次電池を作製し、それぞれの電池特性を測定することで行なった。
【0099】
(二次電池の製造)
非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して正極PE(評価用電極)を作製した。その作製した正極PEを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。そして、この正極PEを用いて、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で、
図5に示すような2032型のコイン型二次電池CBAを作製した。
【0100】
負極NEには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用い、電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータSEには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型二次電池CBAは、ガスケットGAとウェーブワッシャーWWを有し、正極缶PCと負極缶NCとでコイン状の電池に組み立てられた。製造したコイン型二次電池CBAの性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
【0101】
(初期放電容量)
初期放電容量は、コイン型二次電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0102】
(正極抵抗)
正極抵抗は、コイン型二次電池CBAを充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図4に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0103】
(サイクル特性)
サイクル特性(放電容量維持率)の評価は、サイクル試験後の容量維持率により行った。サイクル試験は、60℃に保持して初期放電容量測定後、10分間休止し、初期放電容量測定と同様に充放電サイクルを、初期放電容量測定も含めて500サイクル(充放電)繰り返した。500サイクル目の放電容量を測定して、1サイクル目の放電容量(初期放電容量)に対する500サイクル目の放電容量の百分率を容量維持率(%)として求めた。
【0104】
(pH測定)
得られた正極活物質5gを100mlの純水に分散させた後、10分間静置させ、上澄み液の25℃におけるpHを測定した。
【0105】
(ペーストの粘度安定性)
正極活物質25.0gと、導電材のカーボン粉1.5gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.9gとを遊星運動混練機により混合し正極合材ペーストを得た。得られたペーストを76時間保管して、保管前後の粘度比(76時間保管後のペースト粘度/作製直後のペースト粘度)を評価した。粘度は、振動式粘度計(セコニック社製VM10A)にて測定した。
【0106】
(水分率)
得られた正極活物質の水分率を、気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定した。
【0107】
(X線回折)
得られた正極活物質を、単色X線回折(XRD)装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、D8 DISCOVER Vario-1)を用いて、ターゲット:Cu(CuKα1線に単色化)、電圧:40kV、電流:40mAの条件で測定した。
【0108】
(実施例1)
晶析時に核生成工程と粒子成長工程に分離するとともに雰囲気を酸化性から非酸化性に切り替えて得られたNiを主成分とする水酸化物粉末と、水酸化リチウムとを混合して、焼成する公知技術で焼成粉末(母材)を得た。得られた焼成粉末(母材)は、Li1.20Ni0.35Co0.35Mn0.30O2で表される平均粒径5.1μm、〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.55のリチウム金属複合酸化物の焼成粉末であった。この焼成粉末(母材)を樹脂に埋め込み、任意(無作為)に選択した20個以上の二次粒子について、倍率5000倍で走査型電子顕微鏡により断面観察し画像解析することによって空隙率を測定したところ、35%であった。
【0109】
焼成粉末(母材)に、第1の化合物(酸化物)として酸化タングステン(日本無機化学工業社製)を、添加し、混合した。酸化タングステンの添加量は、焼成粉末(母材)中に含有されるNi、CoおよびMnの合計に対する酸化タングステン中のタングステン量で0.2mol%となる量を添加した。焼成粉末(母材)と酸化タングステンとを混合した後、水を、焼成粉末(母材)に対して10質量%添加して、さらに混合した。その後、150℃で12時間乾燥することによって正極活物質を得た。得られた正極活物質を走査型電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認された。この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。
図6に得られた正極活物質のXRDパターンを示す。XRDにより、リチウムタングステン化合物(第2の化合物)が形成されていることを確認した。また、XRDでは、原料として用いた酸化タングステン(第1の化合物)は検出されなかった。得られた正極活物質の評価結果を表1に示す。
【0110】
[電池評価]
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有するコイン型二次電池の電池特性を評価した。得られた二次電池の評価結果を表1に示す。
【0111】
(実施例2)
酸化タングステンをタングステン量で0.04mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0112】
(実施例3)
酸化タングステンをタングステン量で0.84mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0113】
(実施例4)
水の添加量を1質量%とした以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0114】
(実施例5)
水の添加量を30質量%とした以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0115】
(実施例6)
水の添加量を7質量%とした以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0116】
(実施例7)
水の添加量を15質量%とした以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0117】
(実施例8)
水の添加量を35質量%とした以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0118】
(比較例1)
酸化タングステンおよび水を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0119】
(比較例2)
酸化タングステンをタングステン量で0.02mol%添加とした以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることは確認されなかった。評価結果を表1に示す。
【0120】
(比較例3)
酸化タングステンをタングステン量で1.3mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0121】
(比較例4)
母材となる焼成粉末としてLi1.00Ni0.35Co0.35Mo0.30O2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0122】
(比較例5)
母材となる焼成粉末としてLi1.30Ni0.35Co0.35Mo0.30O2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にタングステンを含む化合物が形成されていることが確認され、この化合物はリチウムタングテン化合物と考えられた。評価結果を表1に示す。
【0123】
(比較例6)
水を添加せず、乾燥せずに混合した状態のままで正極活物質とした以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質を走査電子顕微鏡で観察したところ、複合酸化物粉末と酸化タングステン粉末の混合物となっていることが確認された。評価結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
(評価)
実施例の正極活物質を用いた二次電池は、初期放電容量、正極抵抗、放電容量維持率のいずれも良好な結果が得られた。また、走査電子顕微鏡による観察により、正極活物質(リチウム金属複合酸化物)の粒子表面にリチウムタングテン化合物と考えられる化合物が形成されていることが確認された。実施例の正極合材ペーストの粘度比は、1をやや下回る程度で大幅に上昇することがなく、ゲル化せずペースト粘度が安定していることが確認された。なお、実施例8では、少量の凝集粒子の存在が確認され、d90/d50が、他の実施例1~7よりやや大きかった。このため、実施例8は、他の実施例と比べた場合、正極抵抗がやや高くなり、放電容量維持率もやや低下した。
【0126】
一方、酸化タングステン及び水を混合していない比較例1の正極活物質は、純水に分散させた際のpHが11.9を超えており、これを用いた正極合材ペーストは、粘度の上昇が大きかった。比較例2の正極活物質は、酸化タングステンの添加量が少ないため、純水に分散させた際のpHが11.9を超えており、これを用いた正極合材ペーストは、比較例1と同様に、粘度の上昇が大きかった。また、比較例2の正極活物質を用いた二次電池は、正極抵抗が実施例よりも高く、出力特性があまり改善されていない。
【0127】
酸化タングステンの添加量の多い比較例3の正極活物質は、純水に分散させた際のpHが11未満と低くなっており、必要以上にリチウム金属複合酸化物からリチウムが引き出された状態となっていると考えられた。比較例3の正極活物質を用いた二次電池は、初期放電容量が低下した。また、比較例3の正極合材ペーストは、粘度比の低下が大きく、ペースト粘度が安定しているとは言えない。
【0128】
Li/Me比が低い比較例4の正極活物質は、純水に分散させた際のpHが低くなっており、粘度比の低下が大きく、ペースト粘度が安定しているとは言えない。また、比較例4の正極活物質を用いた二次電池は、正極抵抗が高く出力特性が悪化している。一方、Li/Me比が高い比較例5の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物中に過剰なリチウムが残り、初期放電容量が低下している。また、正極抵抗も比較的高く出力特性があまり改善されていない。
【0129】
酸化タングステンを混合する際に水を添加しなかった比較例6の正極活物質は、未反応のリチウム化合物や過剰なリチウムとが反応することによるタングステンを含む化合物の形成が確認されなかった。比較例6のペーストは、比較例1のペーストと比べると粘度比が低下しているものの、水を添加している実施例のペーストと比較すると、粘度比が高く、ペースト粘度の安定性は十分とはいえなかった。また、正極抵抗が比較的高く、出力特性もあまり改善されなかった。
【0130】
(実施例9)
酸化物を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で0.34mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表2に示す。
【0131】
(実施例10)
酸化物を酸化タングステンから酸化バナジウムに変更し、酸化バナジウム(日本無機化学工業社製)をバナジウム量で0.4mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表2に示す。
【0132】
【0133】
(評価)
実施例9および10の正極活物質では、第1の化合物(酸化物)として酸化モリブデンおよび酸化バナジウムを用いており、酸化タングステンを用いた場合と同様、純水に分散させた際の正極活物質のpHを11以上11.9以下に制御できること、および、pHをこの範囲に制御することにより、正極合材ペーストの粘度を安定化させることが可能であることが確認された。また、これらの実施例の正極活物質を用いた二次電池は、初期放電容量、正極抵抗、放電容量維持率のいずれも良好な結果が得られた。
【0134】
以下の実施例及び比較例では、第1の化合物(酸化物)として、酸化モリブデンを用いた。なお、上記の実施例1~10、比較例1~6によって、純水に分散させた際のpHと、正極ペーストの粘度比とは、関連しており、正極活物質のpHを11以上11.9以下とすることによってペースト粘度が安定することが確認されたことから、以下の実施例および比較例では、正極活物質を純水に分散させた際のpHを測定し、ペースト粘度は測定しなかった。
【0135】
(実施例11)
第1の化合物(酸化物)を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で0.07mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表3に示す。
【0136】
(実施例12)
第1の化合物(酸化物)を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で0.34mol%添加したこと、水の添加量を1質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表3に示す。
【0137】
(実施例13)
第1の化合物(酸化物)を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で0.34mol%添加したこと、水の添加量を30質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表3に示す。
【0138】
(比較例7)
第1の化合物(酸化物)を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で0.03mol%添加した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表3に示す。
【0139】
(比較例8)
第1の化合物(酸化物)を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で1.36mol%添加した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表3に示す。
【0140】
(比較例9)
第1の化合物(酸化物)を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で2.04mol%添加した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表3に示す。
【0141】
(比較例10)
焼成粉末(母材)としてLi1.00Ni0.35Co0.35Mo0.30O2を用いたこと、酸化物を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で0.34mol%添加した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表3に示す。
【0142】
(比較例11)
焼成粉末(母材)としてLi1.30Ni0.35Co0.35Mo0.30O2を用いたこと、酸化物を酸化タングステンから酸化モリブデンに変更し、酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)をモリブデン量で0.34mol%添加した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表3に示す。
【0143】
【0144】
(評価)
表3には、比較を容易にするため、実施例9および比較例1を合わせて示した。実施例11~13では、第1の化合物(酸化物)として酸化モリブデンを用いており、純水に分散させた際のpHを11以上11.9以下に制御できることが確認された。また、これらの正極活物質を用いた二次電池は、初期放電容量、正極抵抗、放電容量維持率のいずれも良好な結果が得られた。
【0145】
一方、比較例8~10の正極活物質では、純水に分散させた際のpHが11未満、もしくは11.9を超えており、これらの正極活物質を用いた二次電池は、初期放電容量、正極抵抗、放電容量維持率のいずれかにおいて実施例より評価結果が悪化していることが確認された。
【0146】
なお、法令で許容される限りにおいて、日本特許出願である特願2015-212239、特願2016-035788、特願2016-166489、及び上述の実施形態などで引用した全ての文献、の内容を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0147】
10…正極活物質
1…複合酸化物粉末
2…一次粒子
3…二次粒子
4…空隙
A…第2の化合物
CBA…コイン型二次電池
PE…正極(評価用電極)
NE…負極
SE…セパレータ
GA…ガスケット
PC…正極缶
NC…負極缶