(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】立体造形物の製造方法、立体造形物、液体セット、及び立体造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/40 20170101AFI20220125BHJP
B29C 64/112 20170101ALI20220125BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220125BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220125BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220125BHJP
【FI】
B29C64/40
B29C64/112
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2018044899
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2021-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2017068064
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】松村 貴志
(72)【発明者】
【氏名】法兼 義浩
(72)【発明者】
【氏名】新美 達也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 典晃
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09399323(US,B1)
【文献】特開2015-131469(JP,A)
【文献】特開2017-030253(JP,A)
【文献】特開2017-024259(JP,A)
【文献】特開2018-062062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C64/40,67/00
B33Y10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデル部と該モデル部を支持するサポート部とを形成した後、前記サポート部を除去する、立体造形物の製造方法であって、
硬化後の強度が異なる、第一の活性エネルギー線硬化型液体及び第二の活性エネルギー線硬化型液体を用いて前記サポート部を形成
し、
硬化性材料を含み硬化後の強度が相対的に高い前記第一の活性エネルギー線硬化型液体、及び硬化性材料を含み硬化後の強度が相対的に低い前記第二の活性エネルギー線硬化型液体を吐出して、硬化後の強度が異なる、前記第一の活性エネルギー線硬化型液体、及び前記第二の活性エネルギー線硬化型液体を含む液膜を形成する工程と、
前記液膜を硬化して層を形成する工程と、
を繰り返し、前記層を積層させて前記サポート部を形成し、
前記第二の活性エネルギー線硬化型液体の硬化物は、ハイドロゲルであり、
前記液膜を形成する工程において、前記第一の活性エネルギー線硬化型液体と、前記第二の活性エネルギー線硬化型液体と、を同一の箇所に吐出して、該箇所で前記第一の活性エネルギー線硬化型液体と、前記第二の活性エネルギー線硬化型液体と、を混合させる
立体造形物の製造方法。
【請求項2】
前記第一の活性エネルギー線硬化型液体の硬化物の1%圧縮時の応力、及び前記第二の活性エネルギー線硬化型液体の硬化物の1%圧縮時の応力の差が、500Pa以上である請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項3】
前記第一の活性エネルギー線硬化型液体の硬化物は、80℃環境下で粘度が100mPa以下の液体である請求項2に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項4】
モデル部と該モデル部を支持するサポート部とを形成する造形装置であって、
硬化後の強度が異なる、第一の活性エネルギー線硬化型液体及び第二の活性エネルギー線硬化型液体をそれぞれ吐出する吐出手段と、
前記吐出手段によって吐出された、第一の活性エネルギー線硬化型液体及び第二の活性エネルギー線硬化型液体を硬化して前記サポート部を形成する硬化手段と、
を有し、
前記第二の活性エネルギー線硬化型液体の硬化物は、ハイドロゲルであり、
前記吐出手段により、前記第一の活性エネルギー線硬化型液体と、前記第二の活性エネルギー線硬化型液体と、を同一の箇所に吐出して、該箇所で前記第一の活性エネルギー線硬化型液体と、前記第二の活性エネルギー線硬化型液体と、を混合させる
立体造形装置。
【請求項5】
前記第一の活性エネルギー線硬化型液体の硬化物の1%圧縮時の応力、及び前記第二の活性エネルギー線硬化型液体の硬化物の1%圧縮時の応力の差が、500Pa以上である請求項4に記載の立体造形装置。
【請求項6】
前記第一の活性エネルギー線硬化型液体の硬化物は、80℃環境下で粘度が100mPa以下の液体である請求項5に記載の立体造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形物の製造方法、立体造形物、液体セット、及び立体造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元の立体物を造形する技術として、積層製造(AM: Additive Manufacturing)が知られている。この技術では、三次元モデルを所定間隔で切断した断面形状の二次元データに基づいて、各断面形状の層を形成し、積層することにより立体物を造形する。立体物を造形する手法としては、熱溶融積層法(FDM:Fused Deposition Molding)、インクジェット記録装置を用いたマテリアルジェット方式、バインダージェット方式、光造形(SLA:Stereo Lithography Apparatus)、及び粉末焼結積層造形(SLS:Selective Laser Sintering)などが知られている。マテリアルジェット方式では、モデル材として硬化性材料を吐出して液膜を形成し、液膜を硬化して一断面形状の層形成し、これを積層して立体物を造形する。ところが、マテリアルジェット方式では、原理的には、モデル材のみによりオーバーハング部を有する造形物を造形することができない。そこで、サポート部でオーバーハング部を支持しながら造形することが知られている。
【0003】
特許文献1には、三次元モデルの成形が完了した時点で、モデル材、及びサポート材が一体的に形成されていること、このサポート材は、水溶解性の材料からなるため、成形物を水に浸けることにより、モデル材のみが得られることが記載されている。特許文献2には、モデル材が炭化水素ワックスを含み、サポート材が炭化水素アルコールワックスを含み、それぞれを熱溶解積層成形した後、成形物を極性溶媒に浸けてサポート材を取り除くことが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ワックス等により形成されるサポート部は、収縮により反りが発生し易い。また、支持性能を得るため、重合性を高め、強度を向上させたサポート部は、クラックが発生し易い。反り、又はクラック等が発生したサポート部を用いて造形すると、造形精度が得られなくなるという課題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、モデル部と該モデル部を支持するサポート部とを形成した後、前記サポート部を除去する、立体造形物の製造方法であって、硬化後の強度が異なる、第一の活性エネルギー線硬化型液体及び第二の活性エネルギー線硬化型液体を用いて前記サポート部を形成する立体造形物の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、造形精度の優れた立体造形物が得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る造形装置を示す概略図である。
【
図2】
図2は、立体造形物を製造する工程を説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、造形装置によって形成される層をヘッド側から見た概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態における立体造形物の製造方法によると、モデル部とモデル部を支持するサポート部とを形成した後、サポート部を除去する立体造形物の製造方法であって、硬化後の強度が異なる第一の液体(第一の活性エネルギー線硬化型液体)及び第二の液体(第二の活性エネルギー線硬化型液体)を用いてサポート部を形成する。第一の液体は、硬化性材料を含み硬化後の強度が相対的に高く、第二の液体は、硬化性材料を含み硬化後の強度が相対的に低い。なお、硬化性材料は、可視光、紫外線、及び赤外線等の光エネルギーを含む活性エネルギー線を加えることにより硬化する液体の材料である。この製造方法における第一の工程では、第一の液体、及び第二の液体を吐出して、第一の液体、及び第二の液体を含む液膜を形成する。続いて、第二の工程では、第一の液体、及び第二の液体を含む液膜を硬化して層を形成する。本実施形態の立体造形物の製造方法によると、第一の工程と、第2の工程と、を繰り返し、上記の層を積層させて造形する。本実施形態の製造方法は、モデル部をサポート部によって支持しながら造形する各種の積層製造(AM: Additive Manufacturing)において好適に用いられる。以下、立体造形物の製造方法について詳細に説明する。
【0009】
<<<モデル材、サポート材>>>
本発明の一実施形態において、モデル部は、モデル材によって形成され、サポート部は、サポート材によって形成される。サポート材は、上記の第一の液体、及び上記の第二の液体を含む液体セットである。一実施形態において、第一の液体の硬化物は、サポート部の主体となる。造形後のサポート部の除去を容易にするため、第一の液体の硬化物は、好ましくは所定の溶媒に溶解し、又は所定の温度で溶融する。一実施形態において、第二の液体の硬化物は、サポート部の一部を構成する。第二の液体の硬化物は、所定の溶媒に溶解せず、又は所定の温度で溶融しなくてもよい。一実施形態において、モデル材の硬化物は、所定の溶媒に溶解せず、又は所定の温度で溶融しない。
【0010】
第一の液体の硬化物、及び第二の液体の硬化物に強度差を設けることができれば、モデル材、並びにサポート材における第一の液体、及び第二の液体の材料の選択に制限はない。サポート材における第一の液体、及び第二の液体は、それぞれ異なる組成であってもよいし、同一組成でモノマー等の配合比が異なっていてもよい。モデル材、並びにサポート材における第一の液体、及び第二の液体として好適な材料としては、下記で示されるワックス、又はゲルを形成するための材料が例示される。ただし、モデル材、並びにサポート材における第一の液体、及び第二の液体は、下記で示される材料に限定されるものではなく、その他の材料を含んでもよい。その他の材料としては、各種物性を調整するための材料が例示される。
【0011】
<<ワックス>>
モデル材、若しくはサポート材における第一の液体、又は第二の液体として、ワックスを用いることができる。ワックスをサポート材として用いる場合、特に限定されないが、造形後の除去を容易にするため、低融点、例えば、融点が60℃以下であり、かつモデル材を支持可能な強度を有することが好ましい。好適なワックスとしては、エステルワックス、及びパラフィンワックスが例示される。
【0012】
低融点のエステルワックスとしては、WEP-2(日油株式会社製)、M9676(日油株式会社製)その他各社商品が例示され、パラフィンワックスとしては、PF115(日本精鑞株式会社製)、PF125(日本精鑞株式会社製)、PF140(日本精鑞株式会社製)などが例示される。これらの融点は、いずれも60度以下である。
【0013】
<<ゲル>>
モデル材、若しくはサポート材における第一の液体、又は第二の液体として、硬化後にゲルを形成する材料が好適に用いられる。ゲルを形成する材料としては、モノマー、及び溶媒を含み、必要に応じてその他の成分を含むものが例示される。ゲルは、ポリマーで構成される網目構造中に溶媒を取り込んだ物である。取り込まれる溶媒が水の場合はハイドロゲル、有機溶媒の場合はオイルゲルと呼ばれる。なお、有機溶媒は、常温で液体状態の有機物である。
【0014】
-溶媒-
水は、ハイドロゲルの主な溶媒として用いられる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等が例示される。水には、保湿性付与、抗菌性付与、導電性付与、或いは圧縮応力や弾性率の調整などの目的で、有機溶媒、又はその他の成分が溶解ないし分散されていてもよい。なお、所望の物性が得られれば、オイルゲルに水が含まれていてもよい。
【0015】
有機溶媒は、オイルゲルの主な溶媒として用いられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、及びエタノール等のアルコール類;オレイルアルコール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ヘキサノール、及びヘキシルデカノール等の高級アルコール;エチレングリコール、及びプロピレングリコール等のジオール類;ジメチルホルムアミド、及びジメチルアセトアミド等のアミン類;アセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン類;並びにジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び無水酢酸等が例示される。有機溶媒は、一種の有機物の単独溶媒であってもよく、二種以上の混合溶媒であってもよい。なお、所望の物性が得られれば、ハイドロゲルに有機溶媒が含まれていてもよい。ゲルにおいて、モノマーと反応しない溶媒の含有量は、10質量%以上であることが好ましい。
【0016】
ハイドロゲルは、水分散性鉱物、単官能モノマー、及び多官能モノマーを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有することが好ましい。
【0017】
--水分散性鉱物--
水分散性鉱物は水に分散可能な鉱物である。水分散性鉱物は、ハイドロゲルの強度、及び柔軟性を保持するために用いられる。水分散性鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、水膨潤性層状粘土鉱物などが例示される。水膨潤性層状粘土鉱物は、水中で一次結晶のレベルで均一に分散可能な層状粘土鉱物である。水膨潤性層状粘土鉱物としては、水膨潤性スメクタイト、及び水膨潤性雲母などが例示され、より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリナイト、水膨潤性サポナイト、及び水膨潤性剛性雲母などが例示される。水膨潤性層状粘土鉱物は、一種単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよく、また、市販品であってもよい。水膨潤性層状粘土鉱物の市販品としては、合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)、SWN(Coop Chemical Ltd.製)、フッ素化ヘクトライトSWF(Coop Chemical Ltd.製)などが例示される。水分散性鉱物の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、モデル材、若しくはサポート材における第一の液体、又は第二の液体の全量に対して、1質量%以上40質量%以下が好ましい。
【0018】
--単官能モノマー--
上記の単官能モノマーを重合させることにより、ポリマーが得られる。ハイドロゲルを形成するための単官能モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N-置換アクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換アクリルアミド誘導体、N-置換メタクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換メタクリルアミド誘導体などが例示される。単官能モノマーとして、具体的には、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミドなどが例示される。
【0019】
その他の単官能モノマーとしては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート(EHA)、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート(HPA)、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレートなどが例示される。
【0020】
これらの単官能モノマーは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。単官能モノマーの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、モデル材、若しくはサポート材における第一の液体、又は第二の液体の全量に対して、0.5質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0021】
--多官能モノマー--
上記の多官能モノマーとしては、二官能のモノマー、及び三官能以上のモノマーが例示される。二官能のモノマーとしては、例えば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート(MANDA)、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート(HPNDA)、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BGDA)、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BUDA)、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA)、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(DEGDA)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート(NPGDA)、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(TPGDA)、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化オペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレートなどが例示される。三官能以上のモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)、トリアリルイソシアネート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールの(メタ)アクリレート、トリス(2ーヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレートエステルなどが例示される。これらの多官能モノマーは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0022】
--オイルゲルを形成するためのモノマー--
オイルゲルを形成するためのモノマーとしては、オイルゲルにおける有機溶媒に溶解し、ゲル化によりポリマーのネットワークを形成するものであれば、特に限定されない。オイルゲルを形成するためのモノマーとしては、例えば、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体、アクリレート、メタクリレート、アクリロニトリル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸などが例示される。
【0023】
上記のアクリルアミド誘導体としては、例えば、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどが例示される。メタクリルアミド誘導体としては、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリンなどが例示される。アクリレートとしては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、アルキルアクリレートなどが例示される。アルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートラウリルアクリレートなどが例示される。メタクリレートとしては、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、アルキルメタクリレートなどが例示される。アルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどが例示される。
【0024】
また、オイルゲルを形成するための材料として、重合によりネットワークを形成するモノマーに代えて、溶媒との静電相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、又はπ-π相互作用などによりゲル化する低分子オイルゲル化剤を用いてもよい。低分子オイルゲル化剤としては、例えば、1,3,2,4-ジベンジリデン-D-ソルビトール、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-ビス-n-ブチルアミド、ベンゾイルグルコンアミド誘導体、O-メチル-4,6-ベンジリデン-D-ガラクトース、2,3-O-イソプロピリデングリセルアルデヒド誘導体、L-イソロイシン誘導体、Lバリル-11バリン誘導体、trans-1,2-シクロヘキサンジアミンから合成したジアミドとジ尿素誘導体、双頭型アミノ酸誘導体、L-リシン誘導体などが例示される。
【0025】
--その他の成分--
ゲルを形成する材料に用いられるその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、安定化剤、表面処理剤、重合開始剤、着色剤、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、分散剤などが例示される。
【0026】
その他の成分における安定化剤は、例えば、水膨潤性層状粘土鉱物の分散を安定させ、ゾル状態を保つために用いられる。また、インクジェット方式において、安定化剤は、液体としての特性を安定化するために必要に応じて用いられる。安定化剤としては、高濃度リン酸塩、グリコール、及び非イオン界面活性剤などが例示される。
【0027】
その他の成分における表面処理剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、クマロン樹脂、脂肪酸エステル、グリセライド、ワックスなどが例示される。
【0028】
その他の成分における重合開始剤としては、熱重合開始剤、及び光重合開始剤が例示される。これらの中でも、保存安定性、及びインクジェット方式における造形のプロセスの点から、光重合開始剤が好ましい。
【0029】
光重合開始剤としては、光、特に波長220nm乃至400nmの紫外線の照射によりラジカルを生成する任意の物質を用いることができる。このような光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェノン、p,p-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシドなどが例示される。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0030】
熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、及びレドックス(酸化還元)開始剤などが例示される。
【0031】
アゾ系開始剤としては、VA-044、VA-46B、V-50、VA-057、VA-061、VA-067、VA-086、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 33)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(VAZO 50)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 52)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(VAZO 64)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(VAZO 67)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO 88)(いずれもDupont Chemical社から入手可能、なお、「VAZO」は商標である。)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)(V-601)(和光純薬工業株式会社より入手可能)などが例示される。
【0032】
過酸化物開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(Perkadox 16S)(Akzo Nobel社から入手可能、なお「Perkadox」は商標である。)、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート(Lupersol 11)(Elf Atochem社から入手可能、なお、「Lupersol」は商標である。)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(Trigonox 21-C50)(Akzo Nobel社から入手可能、なお、「Trigonox」は商標である)、過酸化ジクミルなどが例示される。
【0033】
過硫酸塩開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムなどが例示される。レドックス(酸化還元)開始剤としては、例えば、過硫酸塩開始剤と、メタ亜硫酸水素ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤と、の組み合わせ、有機過酸化物と第3級アミンに基づく系、例えば、過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンに基づく系、有機ヒドロパーオキシドと遷移金属に基づく系、クメンヒドロパーオキシドとコバルトナフテートに基づく系などが例示される。
【0034】
<<色材>>
モデル材、若しくはサポート材における第一の液体、又は第二の液体には、色材が含まれていてもよい。色材としては、任意の顔料、及び染料が例示される。モデル材として、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、及びホワイト等の各色のものを用いることで、フルカラーのモデル部を造形することができる。
【0035】
<<粘度>>
モデル材、並びにサポート材における第一の液体、及び第二の液体の粘度は、特に制限はなく、温度により調製してもよいが、好ましくは、25℃環境下、3mPa・s以上20mPa・s以下であり、より好ましくは、6mPa・s以上12mPa・s以下である。粘度が、3mPa・s未満であると、造形の際に、吐出方向が曲がる、或いは吐出しないなど吐出が不安定になることがあり、20mPa・sを超えると、吐出しないことがある。なお、粘度は、例えば、回転粘度計(VISCOMATE VM-150III、東機産業株式会社製)などを用いて25℃の環境下で測定することができる。粘度は、例えば、モノマー、溶媒に分散させる鉱物、又は異なる粘度の溶媒の混合により調整することができる。
【0036】
また、第一の液体の硬化物は、80℃環境下、粘度が100mPa・s以下の液体になることが好ましい。これにより、第一の液体を用いてサポート部を形成したときに、加熱によるサポート部の除去が容易になる。
【0037】
モデル材、並びにサポート材における第一の液体、及び第二の液体は、それぞれ、50℃環境下、2週間放置する前後の粘度変化率が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。粘度変化率が、20%以下、より好ましくは10%以下であると、保存安定性が適正であり、例えば、インクジェット方式を用いるときの吐出安定性が良好となる。
【0038】
粘度変化率は、以下のように測定することができる。なお、以下、第二の液体の粘度変化率の測定方法について説明するが、第一の液体、又はモデル材の粘度変化率についても同様に測定することができる。まず、保存前の第二の液体の粘度を室温(25℃)で測定する。続いて、第二の液体をポリプロピレン製広口瓶(50mL)に入れて、50℃の恒温槽中に2週間放置した後、恒温槽から取り出して室温(25℃)になるまで放置して、粘度測定を行う。恒温槽に入れる前の第二の液体の粘度(mPa・s)を保存前粘度、恒温槽から取り出した後の第二の液体の粘度(mPa・s)を保存後粘度とし、下記式により粘度変化率を算出する。なお、保存前粘度及び保存後粘度は、R型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、25℃で測定することができる。
粘度変化率(%)=[(保存後粘度)-(保存前粘度)]/(保存前粘度)×100
第一の液体、及び第二の液体の保存後粘度は、それぞれ、25℃で、3mPa・s以上10mPa・s以下が好ましい。
【0039】
<<第一の液体、及び第二の液体のセット>>
第一の液体、及び第二の液体のセットを用いてサポート部を造形することで、第一の液体のみを用いて造形する場合と比較して、形成されるサポート部に柔軟性を持たせ、サポート部の反り、及びクラックを防ぐことができる。第一の液体、及び第二の液体は、それぞれ、UV(Ultraviolet)硬化性材料等の活性エネルギー線硬化型液体であって、それぞれの硬化物の25℃環境下における1%圧縮時の応力の差は、500Pa以上であることが好ましい。応力の差を500Pa以上にすることで、サポート部における第一の液体の第一の硬化物の内部応力が、第二の液体の第二の硬化物によって緩和され、サポート部の反り、及びクラックを防ぐことができるので、造形精度の高い造形物が得られる。第一の硬化物の内部応力の緩和の点から、第二の硬化物はハイドロゲルであることが好ましい。
【0040】
1%圧縮とは、測定対象のサンプルに一方向の圧力を加え、一方向の長さを1%短くすることを表す。1%圧縮時の応力は、25℃環境下、30mm×30mm×10mmのサンプルを、ダイナミック超微小硬度計(DUH-W201S、株式会社島津製作所製)に微小圧縮試験機(MCT-W、株式会社島津製作所製)のソフトを搭載した装置で、圧縮速度1mm/secの条件を用いて測定することで得られる。
【0041】
第一の液体、及び第二の液体のそれぞれの硬化物の圧縮時の応力を変える方法としては、第一の液体、及び第二の液体におけるモノマーの比率を変える方法、若しくは第一の液体、及び第二の液体に異なる溶媒を添加する方法などが例示される。
【0042】
なお、上記では、強度のパラメータとして、25℃環境下における1%圧縮時の応力を用いる場合について説明したが、強度のパラメータは、同じ単位を用いるヤング率などに置き換え可能である。
【0043】
<<<造形装置>>>
本実施形態において、モデル材、並びにサポート材としての第一の液体、及び第二の液体を含む液体セットは、それぞれ、造形装置に搭載される。以下、本実施形態の製造方法において、好適に用いられる造形装置(立体造形装置の一例)について説明する。以下、UV硬化性を有するモデル材、及びサポート材を用いる造形装置について説明するが、本発明の造形装置は、これに限定されない。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係る造形装置を示す概略図である。造形装置30は、ヘッドユニット31,32、紫外線照射機33、ローラ34、キャリッジ35、及びステージ37を有する。ヘッドユニット31は、モデル材1を吐出する。ヘッドユニット32は、サポート材2を吐出する。紫外線照射機33は、吐出されたモデル材1、及びサポート材2に紫外線を照射して硬化する。ローラ34は、モデル材1、及びサポート材2の液膜を平滑化する。キャリッジ35は、ヘッドユニット31,32等の各手段を
図1におけるX方向に往復移動させる。ステージ37は、基板36を、
図1に示すZ方向、及び
図1の奥行方向であるY方向に移動させる。
【0045】
モデル材が色ごとに複数ある場合、造形装置30には、各色のモデル材を吐出するための複数のヘッドユニット31が設けられていてもよい。また、造形装置30には、サポート材における第1の液体、又は第2の液体を吐出する複数のヘッドユニット32が設けられている。
【0046】
ヘッドユニット31,32におけるノズルとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるノズルを好適に使用することができる。インクジェットプリンターとしては、例えば、リコーインダストリー株式会社製のMH5420/5440などが好適である。このインクジェットプリンターは、ヘッド部から一度に滴下できるインク量が多く、塗布面積が広いため、塗布の高速化を図ることができる点で好ましい。
【0047】
ローラ34を使用する場合、造形装置30は、ローラ34と造形面のギャップを一定に保つため、積層回数に合わせて、ステージ37を下げながら積層する。ローラ34は紫外線照射機33に隣接している構成が好ましい。また、ローラ34の回転方向はヘッドユニット31,32の進行方向と逆向きであることが好ましい。
【0048】
また、休止時のインクの乾燥を防ぐため、造形装置30には、ヘッドユニット31,32におけるノズルを塞ぐキャップなどの手段が設けられていてもよい。また、長時間連続使用時のノズルの詰まりを防ぐため、造形装置30には、ヘッドをメンテナンスするためのメンテナンス機構が設けられていてもよい。
【0049】
モデル材1、及びサポート材2の硬化に用いられる紫外線照射機33としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、LED、及びメタルハライドなどが例示される。超高圧水銀灯は点光源であるが、光学系と組み合わせて光利用効率を高くしたDeepUVタイプは、短波長領域の照射が可能である。メタルハライドは、波長領域が広いため、光重合開始剤の吸収スペクトルに合わせて選択される。紫外線照射機33としては、具体的には、FusionSystem社製のHランプ、Dランプ、又はVランプ等のような市販されているものが例示される。
【0050】
<<<造形処理>>>
-サポート材の形成-
図2は、立体造形物を製造する工程を説明するための概念図である。
図2の(A)は、三次元モデルの一例を示す斜視図である。三次元モデル100は、例えば、三次元CADで設計された三次元形状、或いは三次元スキャナやディジタイザで取り込んだ三次元形状のサーフェイスデータ、ソリッドデータ等の三次元データである。三次元データは、例えば、三次元モデルの表面が三角形の集合体として表現されたSTLフォーマット(Standard Triangulated Language)に変換されていてもよい。三次元データは、例えば、造形装置に設けられた情報処理装置に入力される。
【0051】
情報処理装置は、入力された三次元データから底面を特定する。底面を特定する方法は、特に限定されないが、三次元モデルを三次元座標系に配置したときに、長さが最も短くなる方向をZ軸とし、Z軸に直交する面と三次元モデルとの接点を底面とする方法が例示される。情報処理装置は、Z軸方向の所定間隔ごとに、底面と平行方向に三次元モデルがスライスされた切断面を示す二次元データを生成する。
【0052】
なお、
図2の(A)におけるグラデーションで示された曲面のように、三次元モデルがオーバーハング部を有する場合、造形装置は、オーバーハング部のモデル部をサポート部で支持しながら造形する。
図2の(B)は、オーバーハング部のモデル部10がサポート部20によって支持された造形物の一例を示す斜視図である。
【0053】
情報処理装置は、生成された各二次元データに対し、オーバーハング部の底面側に、サポート部を示す画素を追加する。最終的に生成される二次元データは、造形物の一断面を示し、モデル部を示す画素、及びサポート部を示す画素が含まれている。
図2の(C)は、
図2の(B)の造形物の一断面を示す断面図である。
【0054】
造形装置30のエンジンは、情報処理装置によって生成された二次元データを入力する。造形装置30のエンジンは、最も底面側の断面を示す二次元画像データに基づいて、キャリッジ35、又はステージ37を移動させながら、入力された二次元データのうち最も底面側の断面を示す二次元データに基づいて、ヘッドユニット31からモデル材1の液滴を吐出させ、ヘッドユニット32からサポート材2の液滴を吐出させる。これにより、最も底面側の断面を示す二次元データにおけるモデル部を示す画素に対応する位置にモデル材1の液滴が配され、サポート部を示す画素に対応する位置にサポート材2の液滴が配され、隣り合う位置の液滴同士が接した液膜が形成される。
【0055】
このとき、造形装置30は、サポート材2として第一の液体、及び第二の液体の両方を所定のパターンで吐出する。所定のパターンとしては、第一の液体、及び第二の液体を、例えば、画素ごと、又は数画素ごとに、交互に吐出するパターン、或いは第一の液体、及び第二の液体を同一の画素に吐出して、吐出位置で混合させるパターンが例示される。
【0056】
造形装置30のエンジンは、キャリッジ35により紫外線照射機33を移動させて、液膜に、モデル材、及びサポート材に含まれる光重合開始剤の波長に応じた紫外線を照射する。これにより、造形装置30は、液膜を硬化して、層を形成する。
【0057】
最も底面側の層の形成後、造形装置30のエンジンは、ステージを一層分、下降させる。造形装置30のエンジンは、キャリッジ35、又はステージ37を移動させながら、底面側から二つ目の断面を示す二次元画像データに基づいて、モデル材1の液滴を吐出させ、サポート材2の液滴を吐出させる。吐出方法は、最も底面側の液膜を形成するときと同様である。これにより、最も底面側の層上に、底面側から二つ目の二次元データが示す断面形状の液膜が形成される。更に、造形装置30のエンジンは、キャリッジ35により紫外線照射機33を移動させて、液膜に紫外線を照射することにより、液膜を硬化して、最も底面側の層上に、底面側から二つ目の層を形成する。
【0058】
造形装置30のエンジンは、入力された二次元データについて、底面側に近いものから順に利用して、上記と同様に、液膜の形成と、硬化と、を繰り返し、層を積層させる。繰り返しの回数は、入力された二次元画像データの数、或いは三次元モデルの高さ、形状などに応じて異なる。すべての二次元画像データを用いた造形が完了すると、サポート部に支持された状態のモデル部の造形物が得られる。
【0059】
-除去-
サポート部は、造形後に造形物から除去される。除去方法には、物理的除去、及び化学的除去がある。物理的除去には、造形物に機械的な力を加え、モデル部からサポート部を剥がす操作が行われる。
【0060】
モデル部が、例えば、軟質造形体である場合など、機械的な力で形状が崩れたり、割れたりしやすい場合、化学的除去は、好適である。化学的除去には、モデル部、及びサポート部を含む造形物のうち、サポート部を溶媒に溶解させる方法、相転移を利用して、サポート部を液体状態で流れ出させて除去する方法がある。溶媒に溶解させる方法では、サポート材として水溶性ポリマーを用いる。これにより、サポート部を造形物ごと水に浸漬させると、水溶性ポリマーを含むサポート部が溶解する。この方法によると、造形物を長時間水に浸漬させるので、モデル部が、軟質造形体である場合に、膨潤することがある。
また、サポート部が有機溶媒に溶解する材料の場合、溶解液として有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒に溶解させる方法ではサポート材として有機溶媒に溶解するポリマーを用いる。これにより、サポート部を造形物ごと有機溶媒に浸漬させると、有機溶媒溶解性ポリマーを含むサポート部が溶解する。この方法によると、造形物を長時間有機溶媒に浸漬させるので、モデル部が、有機溶媒に反応性を保つ場合に形状が変形することがある。
【0061】
他方、相転移を利用する方法では、サポート材として、ワックスなどの材料が用いられる。ワックスなどの材料は、常温では固体状態であるが、加温した場合に溶融し液体状態に転移する。この方法は、熱エネルギー以外のストレスがモデル材に付加されない点で好ましい。ただし、モデル材が、軟質造形体である場合、熱により変形を防ぐため、サポート材のワックスの融点は、60℃以下であることが好ましい。
また、相転移性を示すオイルゲルをサポート材に用いてもよい。相転移性を示すオイルゲルは常温では固体状態であるが、加温した場合に溶融し液体状態に転移する。この方法は、熱エネルギー以外のストレスがモデル材に付加されない点で好ましい。ただし、モデル材が、軟質造形体である場合、熱により変形を防ぐため、サポート材のオイルゲルの融点は、60℃以下であることが好ましい。
相転移性を示す材料を加熱溶解し、除去するには、ホットプレートや密閉構造を持つオーブン、熱風などで造形物全体を20℃~100℃に加熱することで可能になる。熱エネルギーを加えることでサポート構造が崩壊し、除去が容易になる。ただし、加熱融解したのみでは残渣が造形物に付着し、完全に残渣を除去することができない。有機溶剤に浸漬し、残渣を除去するのが好ましい。造形物がハイドロゲルである場合、オイルに浸漬し、20℃~100℃に加熱するのが好ましい。このようにすることで、サポート構造をオイル中で溶解させつつ、サポート材が構造物に残渣として付着することを抑制することができる。また、表面に付着したオイルは添加したエタノール、メタノールなどの低級アルコールで除去することができる。低級アルコールに界面活性剤を加えてもよい。
【0062】
<<<変形例>>>
続いて、実施形態の変形例について上記の実施形態と異なる点を説明する。変形例では、第一の工程で第一の液体を吐出して、第一の液体を含む第一の液膜を形成する。第二の工程で、第一の液膜を硬化して第一の層を形成する。第三の工程で、第二の液体を吐出して、第二の液体を含む第二の液膜を形成する。第四の工程で、第二の液膜を硬化して第二の層を形成する。変形例では、第一乃至第四の工程を繰り返し、第一の層、及び前記第二の層を交互に積層させて造形する。
【0063】
上記の実施形態では、第一の液体、及び第二の液体を含む液膜を硬化させた層を積層させるのに対し、変形例では、第一の液体を含む液膜を硬化させた第一の層、及び第二の液体を含む液膜を硬化させた第二の層を交互に積層させる点で異なる。変形例において、第二の層は、第一の層にかかる応力を緩和することができるので、上記の実施形態と同様の効果が得られる。なお、変形例において、第一の液体、及び第二の液体は、同一組成であり、第一の液体、及び第二の液体の各硬化条件として、例えば、層ごとのUV照射量を変えてもよい。これにより、第一の液体、及び第二の液体のそれぞれの硬化物の強度を変えることができる。更に、他の変形例として、第一の液体を含む液膜を硬化させた第一の層を所定の数、積層させ、これに第二の液体を含む液膜を硬化させた第二の層を所定の数、積層させる処理を繰り返してもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
<サポート材:第一の液体の調製>
アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製)25質量部、1-ヘキサノール(東京化成工業株式会社製)72質量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[商品名:イルガキュア184](BASF株式会社製)2.9質量部を撹拌し、ろ過により不純物等を除去し、最後に真空脱気を10分間実施し、均質な液体として、サポート材の第一の液体を得た。
【0066】
<サポート材:第二の液体の調製>
純水20質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]-
0.66Na+
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)0.8質量部を少しずつ添加し、撹拌して分散液を作製した。
【0067】
次に、作製した分散液に、モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ、重合禁止剤を除去したN,N-ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)を4質量部添加した。次に、分散液に、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を0.01質量部添加し、混合した。
【0068】
次に、分散液に、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、商品名:イルガキュア184)0.015質量部添加し、混合した。次に、得られた混合液を氷浴で冷却しながらテトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)0.1質量部添加し、混合撹拌して、ハイドロゲルを形成するための均質な液体として、サポート材の第二の液体を得た。
【0069】
(立体造形)
図1の造形装置30により、テストパターンに従って、サポート材をステージ上に吐出して液膜を生成した。紫外線照射機33としてウシオ電機株式会社製、SPOT CURE SP5-250DBを用い、350mJ/cm
2の光量を、サポート材の液膜に照射して硬化した。その後、硬化膜である層に対してローラ34で平滑化処理を行った。なお、ローラ34としては、表面をアルマイト処理した直径25mmのアルミニウム合金からなる金属ローラを用いた。上記の吐出、及び硬化の処理を繰り返し、平滑化された層をインクジェット成膜として一層ごと積層させ、テストパターンに基づくゲル立体造形物を作製した。
【0070】
実施例1では、サポート材の第一の液体の液膜を硬化させた層、及びサポート材の第二の液体の液膜を硬化させた層を20μm厚ずつ交互に積層し、100mm×100mm×10mm(幅(X方向)×奥行(Y方向)×高さ(Z方向)、高さは500層積層させたときの理論値)の造形物を作製した。
図3の(A-1)、及び
図3の(A-2)は、実施例1において形成される層をZ方向から見た概念図である。
図3における矩形は画素を表す。実施例1では、第一の液体2-1の液膜を硬化させた層と、第二の液体2-2の液膜を硬化させた層と、が20μm厚ずつ交互に積層した造形物が得られる。なお、第一の液体、第2の液体を単体で硬化させた各硬化物の、25℃環境下での1%圧縮時の応力の差は30kPaであった。
【0071】
<実施例2>
図3の(B)は、実施例2において形成される層をZ方向から見た概念図である。
図3の(B)に示すように、実施例2では、造形装置30にて各層の液膜を形成するときに、同一層中の10区画のドットパターンのうち、第一の液体2-1が8割、第二の液体2-2が2割になるように各液体を吐出した。その他の条件は実施例1と同様にして、100mm×100mm×10mm(理論値)の造形物を作製した。実施例2の造形物の各層は、
図3の(B)のドットパターンを有する。
【0072】
<実施例3>
図3の(C)は、実施例3において形成される層をZ方向から見た概念図である。
図3の(C)は、第一の液体、及び第二の液体の混合液2-3によるベタ画像を示す。
図3の(C)に示すように、実施例3では、造形装置30にて各層の液膜を形成するときに、第一の液体、及び第二の液体を同一の箇所に吐出し、吐出位置で混合した。第一の液体、及び第二の液体の混合比率(質量比)は1:1である。その他の条件は実施例1と同様にして、100mm×100mm×10mm(理論値)の造形物を作製した。
【0073】
<比較例1>
サポート材として、第2の液体を用いず、第1の液体のみ用いた以外は、実施例1と同様にして、第一の液体によって形成される層が積層された100mm×100mm×10mmの造形物を作製した。比較例1の造形物の各層は、
図3の(A-1)のドットパターンを有する。
【0074】
<実施例4>
層の厚さを100μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、交互に第一の液体の液膜を硬化させた層、第二の液体の液膜を硬化させた層を積層し、100mm×100mm×10mm(理論値)の造形物を作製した。
【0075】
<実施例5>
図3の(D)は、比較例3において形成される層をZ方向から見た概念図である。
図3の(D)に示すように、比較例3では、造形装置30にて各層の液膜を形成するときに、
図3の(D)に示すように同一層中の10区画のドットパターンのうち、第一の液体が6割、第二の液体が4割になるよう繰り返し打ち分けた以外は、実施例1と同様にして、100mm×100mm×10mm(理論値)の造形物を作製した。
【0076】
<実施例6>
第2の液体として、実施例1における第一の液体に、更に、ドデカノールを10質量部混合し、第一の硬化物と第2の液体の硬化物の1%圧縮応力差が400Paである液体を用いた以外は、実施例1と同様にして、100mm×100mm×10mm(理論値)の造形物を作製した。
【0077】
[評価]
各実施例、比較例により造形した100mm×100mm×10mm(理論値)の造形物について、高さの理論値との差(%)、及びクラックの有無を比較した。結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示されるように、実施例1乃至6のサポート材は、高さ方向の理論値との差が0.1%乃至4.0%と小さく、クラックもなく造形精度が非常に高いことがわかる。実施例1,4から、積層膜厚は、100μmより10μmの方が好適である。また、実施例2,5から、ドットパターンの割合は、第一の液体の液体が8割、第2の液体が2割よりも、第一の液体の液体が6割、第2の液体が4割の方が好適である。
【符号の説明】
【0080】
1 モデル材
2 サポート材
10 モデル部
20 サポート部
30 造形装置
31 ヘッドユニット
32 ヘッドユニット(吐出手段の一例)
33 紫外線照射機(硬化手段の一例)
34 ローラ
35 キャリッジ
36 基板
37 ステージ
100 三次元モデル
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【文献】特開2012-111226号公報
【文献】米国特許第8575258号公報