IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SUMCOの特許一覧

<>
  • 特許-FZ炉の多結晶原料把持具 図1
  • 特許-FZ炉の多結晶原料把持具 図2
  • 特許-FZ炉の多結晶原料把持具 図3
  • 特許-FZ炉の多結晶原料把持具 図4
  • 特許-FZ炉の多結晶原料把持具 図5
  • 特許-FZ炉の多結晶原料把持具 図6
  • 特許-FZ炉の多結晶原料把持具 図7
  • 特許-FZ炉の多結晶原料把持具 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】FZ炉の多結晶原料把持具
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20220125BHJP
   C30B 13/32 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C30B29/06 501A
C30B13/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018054160
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019167254
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】尼ヶ▲崎▼ 晋
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-148071(JP,A)
【文献】特開2004-345909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FZ(Floating Zone)炉のシリコン多結晶原料を把持するFZ炉の多結晶原料把持具
であって、
前記シリコン多結晶原料の荷重を支持する支持軸と、
前記シリコン多結晶原料を係止する複数の係止部と、
前記複数の係止部を介して前記シリコン多結晶原料を把持するチャック部と、
前記支持軸の下方に接続され、前記チャック部および前記複数の係止部を水平方向に位置調整する水平位置調整部と、
前記チャック部の下方に隙間を設けて配置され、前記シリコン多結晶原料からの輻射熱を遮蔽する遮熱部と、
を備え、
前記水平位置調整部は、
前記支持軸を囲むように設けられ、前記支持軸の回りに複数の雌ねじ孔が形成された位置調整部本体と、
前記雌ねじ孔のそれぞれに螺合され、先端が前記支持軸に当接する複数のボルトとを備え、
互いに対向する雌ねじ孔およびボルトのねじピッチが異なっていることを特徴とするFZ炉の多結晶原料把持具。
【請求項2】
請求項1に記載のFZ炉の多結晶原料把持具において、
前記複数の雌ねじ孔は、互いに直交する方向に一対形成され、
互いに直交する一対の雌ねじ孔は、一方のねじピッチが他方のねじピッチよりも小さくなっていて、
前記一対の雌ねじ孔に螺合するボルトの螺合位置を調整することを特徴とするFZ炉の多結晶原料把持具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のFZ炉の多結晶原料把持具において、
前記チャック部は、上板と下板からなり、
前記上板と下板には、それぞれ外周から径方向中心に向かう複数の長孔が形成され、
前記複数の長孔を介して前記複数の係止部が挿通されていることを特徴とするFZ炉の多結晶原料把持具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のFZ炉の多結晶原料把持具において、
前記遮熱部は、厚さ0.8mm以上のステンレス製の板状体から構成されていることを特徴とするFZ炉の多結晶原料把持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FZ(Floating Zone)炉の多結晶原料把持具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FZ(Floating Zone)法によりシリコン単結晶を製造する場合、シリコンの多結晶原料把持具にシリコン多結晶原料を保持させ、チャンバー内の下部に配置される種結晶ホルダーおよび高周波誘導加熱コイルを用い、シリコンの多結晶原料を溶融させてシリコン単結晶のインゴットを製造する。ここで、高周波誘導加熱コイルによるシリコン多結晶原料の溶融に際しては、シリコン多結晶原料を多結晶原料把持具に把持させた状態で溶融を行う。
【0003】
たとえば、特許文献1には、下方に開口する円筒形の内部アダプタと、その外面側に設けられる外部アダプタとを備え、外部アダプタの外周壁にシリコン多結晶原料の外周部に押圧狭持する押さえアームが設けられた多結晶原料保持具が開示されている。
また、特許文献2には、下方に開口する円筒形のアダプタを備え、アダプタの下端に下方に回転すると次第に回転半径が増加する偏芯コマを設け、上方からのねじ締めによって、次第に偏芯コマの回転半径が増加して、シリコン多結晶原料を狭持する多結晶原料保持具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-148071号公報
【文献】特開平5-246792合公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1および特許文献2に記載の技術では、ステンレス製の押さえアームや偏芯コマが、シリコン多結晶の外周側面に当接して狭持する構造である。熱膨張係数は、ステンレス材よりもシリコン多結晶原料の方が高いため、シリコン多結晶の原料が短くなり、保持具に掛かる輻射熱の影響が大きくなると、偏芯コマやアーム部の変位による把持力の緩み、アーム部の押し付けボルトや偏芯コマの押さえねじの焼き付き等によるかじり等が生じるという課題がある。
また、中央に筒状の開口が存在するため、結合する上部回転軸に熱の影響が及ぶという課題もある。
以上の課題のため、結晶成長が進むにつれて回転軸中心のずれ(芯振れ)が増大してしまうという問題が生じていた。
【0006】
本発明の目的は、FZ法によるシリコン単結晶の製造において、シリコン多結晶原料が加熱されても熱影響を受けにくく、結晶成長に伴う芯振れの増大が小さいFZ炉の多結晶原料把持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のFZ炉の多結晶原料把持具は、FZ(Floating Zone)炉のシリコン多結晶原料を把持するFZ炉の多結晶原料把持具であって、前記シリコン多結晶原料の荷重を支持する支持軸と、前記シリコン多結晶原料を係止する複数の係止部が挿通されたチャック部と、前記複数の係止部を水平方向に位置調整する水平位置調整部と、前記複数の係止部および前記水平位置調整部の間に隙間を設けて配置され、前記シリコン多結晶原料からの輻射熱を遮蔽する遮蔽部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、多結晶原料把持具が遮蔽部を備えていることにより、シリコン多結晶原料が、高周波誘導加熱コイルによって熱せられ、発生する輻射熱の影響によりチャック部が熱歪みを生じて変位し、追従して把持ボルトが変位することを防止できる。さらに、シリコン多結晶原料の加熱による熱の影響が、水平位置調整部に伝熱することを抑制して、水平位置調整部の調整状態が変化することも抑制できる。
【0009】
本発明では、前記水平位置調整部は、前記支持軸を囲むように設けられ、前記支持軸の回りに複数の雌ねじ孔が形成された位置調整部本体と、前記雌ねじ孔のそれぞれに螺合され、先端が前記支持軸に当接する複数のボルトとを備え、互いに対向する雌ねじ孔およびボルトのねじピッチが異なっているのが好ましい。
本発明によれば、位置調整部本体の雌ねじ孔に螺合されるボルトの螺合量を変更することにより、支持軸への押込量を変化させて、支持軸に対するシリコン多結晶原料の把持位置を変化させることができる。しかも、互いに対向する雌ねじ孔およびボルトのねじピッチを変更することにより、ボルトの押込量の微調整を行うことができるので、支持軸に対するシリコン多結晶原料の把持位置を高精度に調整することができる。
【0010】
本発明では、前記複数の雌ねじ孔は、互いに直交する方向に一対形成され、互いに直交する一対の雌ねじ孔は、一方のねじピッチが他方のねじピッチよりも小さくなっていて、前記一対の雌ねじ孔に螺合するボルトの螺合位置を調整するのが好ましい。
本発明によれば、一対の雌ねじ孔が、互いに直交する方向に一対形成されているので、それぞれの雌ねじ孔に挿入されるボルトの螺合位置を調整することにより、シリコン多結晶原料の軸をFZ炉の中心に合わせることができる。特に、一方のねじピッチが他方のねじピッチよりも小さくなっていることにより、大きなピッチのボルトで概ねの位置を調整し、小さなピッチのボルトで微調整を行うことができるため、高精度に位置決めを行える。したがって、シリコン多結晶原料を高精度に位置決めすることにより、シリコン単結晶の育成中に、シリコン多結晶が所定径の円軌道を描くことを防止できる。
【0011】
本発明では、前記チャック部は、上板と下板からなり、前記上板と下板には、それぞれ外周から径方向中心に向かう複数の長孔が形成され、前記複数の長孔を介して前記複数の係止部が挿通されているのが好ましい。
本発明によれば、上板の長孔および下板の長孔のそれぞれに係止部を挿通するので、上板および下板を相対的に回転させることにより、係止部の径方向位置および周方向位置を変更することができる。
【0012】
本発明では、前記遮熱部は、厚さ0.8mm以上のステンレス製の板状体から構成されているのが好ましい。
本発明によれば、遮蔽部が厚さ0.8mm以上のステンレス製の板状体から構成されることにより、位置調整部本体および係止部の隙間を小さくすることができる。したがって、狭い隙間で熱の遮蔽効果を確保することができ、水平位置調整部の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係るFZ炉の構造を示す模式図。
図2】前記実施の形態における多結晶原料把持具の構造を示す平面図および側面図。
図3】前記実施の形態における多結晶原料把持具の構造を示す平面図および断面図。
図4】前記実施の形態における遮熱板の構造を示す平面図。
図5】前記実施の形態における水平位置調整部の構造を示す平面図および断面図。
図6】比較例における多結晶原料把持具の構造を示す側面図。
図7】比較例の測定結果を示すグラフ。
図8】実施例の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1]FZ炉1の全体構成
図1には、本発明の実施の形態に係るFZ炉1の模式図が示されている。このFZ炉1は、FZ(Floating Zone)法により、シリコン多結晶原料2からシリコン単結晶3を育成する装置である。FZ炉1は、結晶保持具4、高周波誘導加熱コイル5、保温筒6、製品単結晶重量保持具8、および多結晶原料把持具9を備える。
【0015】
結晶保持具4は、シリコン単結晶3の先端部分を保持する部材であり、上部に種結晶が固定され、シリコン単結晶3の育成とともに、下方に引き下げられる。製品単結晶重量保持具8は、シリコン単結晶3の肩部に当接し、シリコン単結晶3の重量を保持する。
多結晶原料把持具9は、詳しくは後述するが、シリコン多結晶原料2の上端の胴部をチャッキングする。
【0016】
高周波誘導加熱コイル5は、リング状体から構成され、図示を略したが、高周波電源に接続され、高周波誘導加熱によってシリコン多結晶原料2を溶融し、シリコンの溶融帯域3Aを形成する。
保温筒6は、育成されたシリコン単結晶3の周囲を囲むリング状体から構成される。保温筒6は、溶融帯域3Aが固化する過程におけるシリコン単結晶3の温度を制御する。
【0017】
このようなFZ炉1では、シリコン多結晶原料2の上端を、多結晶原料把持具9で保持し、炉内に固定された高周波誘導加熱コイル5により、シリコン多結晶原料2の下端が溶融される。シリコンの溶融帯域3Aに、結晶保持具4に固定された種結晶を接触させ、下方に引き下げつつ、所望の直胴径となるように増径させながら融液を凝固させ、直胴径に達した後は、その直胴径を維持するように融液を凝固させてシリコン単結晶3を製造する。このとき、同時にシリコン多結晶原料2を回転させながら、下方に移動させることにより、連続的にシリコン多結晶原料2の下端を溶融させ、単結晶化に必要な量の融液を供給する。
結晶は、ある程度成長したところで、製品単結晶重量保持具8により保持される。
【0018】
[2]多結晶原料把持具9の構造
図2および図3には、多結晶原料把持具9の構造が示されている。図2(A)は、後述する水平位置調整部12の上方から見た平面図であり、図2(B)は、側面図である。図3(A)は、後述するチャック部15の上方から見た平面図であり、図3(B)は、断面図である。
多結晶原料把持具9は、シリコン多結晶原料2を把持する装置である。多結晶原料把持具9は、図2(A)および図2(B)に示すように、上軸10、支持軸11、水平位置調整部12、吊下部13、傾き調整ボルト14、チャック部15、把持ボルト16、および遮熱板17を備える。
【0019】
上軸10は、図示しない昇降機構および回転機構に接続され、シリコン多結晶原料2をチャンバー中で昇降および回転させる。
支持軸11は、上軸10の中心に接続され、支持軸11の回りには、水平位置調整部12が設けられ、支持軸11の下端には、吊下部13が接続され、シリコン多結晶原料2の荷重を支持する。
水平位置調整部12は、詳しくは後述するが、支持軸11を水平方向に移動させ、把持されたシリコン多結晶原料2の径方向中心位置を、上軸10の軸中心に合わせる。
【0020】
吊下部13は、水平位置調整部12の下端に一体に設けられ、ステンレス製、特にSUS304製の円形板状体から構成される。吊下部13の中心には、吊下棒13Aが回転可能に取り付けられている。
また、吊下部13の外周近傍には、図示を略したが、支持軸11の回りに120°のピッチで3箇所雌ねじ孔が形成される。
傾き調整ボルト14は、吊下部13のそれぞれの雌ねじ孔に螺合され、傾き調整ボルト14の先端が、チャック部15の上面に当接する。そして、それぞれの傾き調整ボルト14の突出量を変更することにより、チャック部15の傾きが変更され、シリコン多結晶原料2の吊り下げ姿勢が調整される。
【0021】
チャック部15は、図3(A)および図3(B)に示すように、ステンレス製の特にSUS304製の円形板状体から構成され、チャック部15の円板の中心には、シリコン多結晶原料2の回転機構とは別に、吊下棒13Aが水平方向に自由度を持たせて回転可能に接続される。
チャック部15は、上板15Aおよび下板15Bを重ねた2層から構成される。上板15Aには、外周から径方向中心に向かう長孔151が、吊下棒13Aの回りに5箇所形成されている。下板15Bには、下板15Bの外周から内側に向かって螺旋状に形成された長孔152が、吊下棒13Aの回りに5箇所形成されている。
【0022】
係止部としての把持ボルト16は、モリブデン、若しくはステンレス製、特にSUS304製の材料から構成され、シリコン多結晶原料2を把持する。把持ボルト16は、ボルト161、位置決めナット162、押さえナット163、遮熱板支持ナット164、および原料保持プレート165を備える。なお、押さえナット163、遮熱板支持ナット164、および原料保持プレート165は一体形状でもよい。
ボルト161は、上板15Aの長孔151と下板15Bの長孔152の重なる複数の位置のそれぞれ、本実施形態では、支持軸回りに5箇所挿通される。上板15Aおよび下板15Bを吊下棒13A回りに相対的に回転させることにより、ボルト161の径方向位置および周方向位置が変更される。
【0023】
位置決めナット162は、ボルト161の上端に螺合され、ボルト161の径方向位置、周方向位置が決定したら、下部の押さえナット163にチャック部15を支持させた状態で、位置決めナット162を締め込むことにより、把持ボルト16の把持位置の位置決めをする。
遮熱板支持ナット164は、押さえナット163の下部に離間して螺合され、チャック部15から離間した状態で遮熱板17を支持する。
【0024】
原料保持プレート165は、ボルト161の下端に設けられるステンレス製の円形板状体である。原料保持プレート165は、ボルト161の径よりも大きな径の円形板状体である。原料保持プレート165の端縁が、シリコン多結晶原料2の上端部に形成された溝部2Aに挿入されることにより、シリコン多結晶原料2は、多結晶原料把持具9に係止される。
【0025】
[3]遮熱板17の構造
図4には、本実施の形態の遮熱部としての遮熱板17が示されている。
遮熱板17は、ステンレス製、特にSUS304製の円形板状体から構成され、板厚0.8mm以上とされる。遮熱板17は、外周縁から中央方向に向かって、スリット171が5箇所形成され、それぞれのスリット171には、把持ボルト16のボルト161が挿入される。遮熱板17には、ボルト161に螺合された遮熱板支持ナット164が、遮熱板17の下面に当接し、遮熱板17は、チャック部15と離間した状態で支持される。
【0026】
遮熱板17を0.8mm以上の厚さのSUS304製の円板状体としたのは、SUS304の材質における機械的強度の物性において、引張強さが400℃程度から低下する傾向がある点を考慮したためである。したがって、遮熱板17で遮蔽すれば、シリコン多結晶原料2の加熱による輻射熱を遮断し、上部のチャック部15、吊下部13、水平位置調整部12への輻射熱による熱の伝播を防止して、チャック部15、吊下部13、水平位置調整部12が熱によって変形することが防止できる。厚さ0.8mm以上であれば遮蔽効果が見込まれ、0.9~1.1mmが好ましい。1.2mmより厚いと重量の増大や、熱歪み変形が把持ボルト16の変位に関係し、結果的に原料芯振れに影響を与えるため好ましくない。
【0027】
[4]水平位置調整部12の構造
図5には、多結晶原料把持具9を構成する水平位置調整部12が示されている。図5(A)は、水平位置調整部12の上方から見た平面図であり、図5(B)は、水平位置調整部12の断面図である。
水平位置調整部12は、図5に示すように、位置調整部本体121、ボルト125,126、および吊下棒支持部127を備える。
位置調整部本体121は、支持軸11を囲むように設けられる上面が閉塞されたステンレス製の円筒状体から構成される。位置調整部本体121の上面には、支持軸11が挿入される孔122が形成される。孔122は支持軸11の径よりも大きく形成される。支持軸11が、孔122のどこに挿入されるかによって、支持軸11に対する水平位置調整部12の水平位置が変更される。
【0028】
位置調整部本体121の側面には、雌ねじ孔123、124が形成されている。雌ねじ孔123、124は、図5(A)における左右方向(仮に、X軸方向という)と、図5(A)における上下方向(仮にY軸方向という)とに形成される。つまり、雌ねじ孔123、124は、互いに対向配置され、2組の雌ねじ孔123、124の組み合わせは、X軸方向およびY軸方向に互いに直交する方向に形成される。
また、互いに対向配置される雌ねじ孔123と、雌ねじ孔124とは、ねじピッチが異なる。具体的には、雌ねじ孔123は、JIS B 0205規格に準拠したM8ねじとされ、雌ねじ孔124同規格に準拠したM6ねじとされている。
【0029】
ボルト125は、雌ねじ孔123に螺合し、ボルト126は雌ねじ孔124に螺合する。すなわち、雌ねじ孔123には、M8のボルト125が螺合し、雌ねじ孔124には、M6のボルト126が螺合する。
ボルト125、126の先端は、支持軸11に当接し、互いに向き合うボルト125、126の螺合位置を変更することにより、水平位置調整部12の水平位置が変更され、これに伴い、吊下棒支持部127の水平方向位置が変更される。具体的には、ボルト125およびボルト126による水平方向値の送り量が、(M8×1P)-(M6×0.75P)=0.25mmを最小単位とする調整が可能となる。
【0030】
吊下棒支持部127には、吊下部13が支持される。吊下部13に螺合する傾き調整ボルト14により吊下部13に対してチャック部15を押し下げると、チャック部15は、吊下部13の中心に回転可能に取り付けられた吊下棒13Aを支点として回転し、吊下部13およびチャック部15間の相対姿勢が変化する。
【0031】
[5]実施の形態の作用および効果
このような本実施の形態では、以下のようにして、シリコン多結晶原料2の吊り下げ位置を調整する。
多結晶原料把持具9のチャック部15にシリコン多結晶原料2を把持すると、おおよその中心位置を把握することができる。シリコン多結晶原料2を把持させながら、傾き調整ボルト14により、シリコン多結晶原料2の垂直方向の姿勢を調整する。
【0032】
水平位置調整部12のボルト125およびボルト126の螺合位置を調整し、シリコン多結晶原料2の水平方向位置の微調整を行って、シリコン多結晶原料2の回転時にシリコン多結晶原料2が、ある半径を持つ円軌道を描かないようにする。
FZ炉1によるシリコン単結晶3の製造時には、把持ボルト16の原料保持プレート165が、シリコン多結晶原料2の溝部2Aに挿入されているため、加熱中にシリコン多結晶原料2が熱膨張しても、原料保持プレート165を外に押し出す方向であり、かつ、チャック部15の上板15Aおよび下板15Bに形成された、外周から径方向中心に向かう長孔151および長孔152によって食い込むことがないため、把持ボルト16の把持力が低下したり、かじり等が生じたりするような問題は生じない。
【0033】
遮熱板17が、上部のチャック部15と隙間を設けて配置されているので、シリコン多結晶原料2が、高周波誘導加熱コイル5によって熱せられ、発生する輻射熱の影響によりチャック部15が熱歪みを生じて変位し、追従して把持ボルト16が変位することを抑制できる。したがって、FZ炉1におけるシリコン単結晶3の製造後半になって、高周波誘導加熱コイル5の熱が、多結晶原料把持具9に熱を伝達し易い状況となっても、遮熱板17により遮熱され、多結晶原料把持具9が熱変形等して把持力が減少することがない。さらに、水平位置調整部12への熱伝達が抑制されることにより、把持位置が偏芯することがなく、結晶成長に伴って芯振れが増大するのを抑制することができる。
【0034】
位置調整部本体121の一対の雌ねじ孔123が、互いに直交するX-Y方向に形成されている。したがって、それぞれの雌ねじ孔123に挿入されるボルト125の螺合位置を調整することにより、シリコン多結晶原料2の軸をFZ炉1の中心に合わせることができる。特に、前述したように、M6の雌ねじ孔124のピッチが、M8の雌ねじ孔123よりも小さくなっていることにより、M8のボルト125で概ねの位置を調整し、M6のボルト126で微調整を行うことができる。したがって、シリコン多結晶原料2を高精度に位置決めをすることができるため、シリコン単結晶3の育成中に、シリコン多結晶原料2が所定径の円軌道を描くことを防止できる。
厚さ0.8mm以上のステンレス製等の遮熱板17により、位置調整部本体121および把持ボルト16の隙間を小さくすることができる。したがって、狭い隙間で熱の遮蔽効果を確保することができ、水平位置調整部12の変形を抑制することができる。
【0035】
[6]実施の形態の変形
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、以下に示すような変形をも含むものである。
前述した実施の形態では、前述した水平位置調整部12は、互いに直交するX軸方向およびY軸方向に雌ねじ孔123、124を形成し、二軸で水平方向位置を調整するようにしていたが、本発明はこれに限られない。たとえば、位置調整部本体121に支持軸11を囲むように6箇所の雌ねじ孔を形成し、それぞれの雌ねじ孔にボルトを螺合させて水平方向位置を調整するようにしてもよい。また、支持軸11の回りに3箇所の雌ねじ孔123、124を形成してそれぞれの雌ねじ孔123、124にボルトを螺合して水平方向位置を調整してもよい。
【0036】
前述した実施の形態では、互いに対向する雌ねじ孔123をJIS B0205に準拠したM8ねじとし、雌ねじ孔123を同規格に準拠したM6ねじとしていたが、本発明はこれに限られない。たとえば、ISO規格に準拠した異なるピッチのねじを採用してもよく、さらには、JIS B 0206に準拠したインチねじの規格に準拠したねじで構成してもよい。
【0037】
前述した実施の形態では、把持ボルト16をチャック部15に5箇所設ける構成としていたが、本発明はこれに限られない。すなわち、把持ボルト16を6箇所設けてシリコン多結晶原料を保持するような構造としてもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例
【0038】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、実施例に限定されるものではない。
[実施例]
本発明の実施の形態で説明した通り、水平位置調整部12および遮熱板17を備えた多結晶原料把持具9を用い、水平位置調整部12によってシリコン多結晶原料2の水平位置を調整したものについて、シリコン単結晶3の育成を行った。
[比較例]
図6に示すように水平位置調整部および遮熱板を設けない多結晶原料把持具100を用いてシリコン単結晶3の育成を行った。
【0039】
結果を図7および図8に示す。比較例となる図7の場合、結晶成長に伴い、特にその後半長さにおいてグラフで右肩上りに芯振れが大きくなる傾向にあることが確認された。
実施例となる図8の場合、水平位置調整部12および遮熱板17を用いることにより、グラフは平坦に推移しており、芯振れが引き上げ長さによらず安定していることが確認された。
また、図示を略したが、CFD(熱流体解析)による把持ボルト16の変位量の確認でも、チャック部15の熱変形が抑制されることで、把持ボルト16の変位量が従来よりも60%程度抑えられる結果が得られていることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1…FZ炉、2…シリコン多結晶原料、2A…溝部、3…シリコン単結晶、3A…溶融帯域、4…結晶保持具、5…高周波誘導加熱コイル、6…保温筒、8…製品単結晶重量保持具、9…多結晶原料把持具、10…上軸、11…支持軸、12…水平位置調整部、13…吊下部、13A…吊下棒、14…傾き調整ボルト、15…チャック部、15A…上板、15B…下板、16…把持ボルト、17…遮熱板、121…位置調整部本体、122…孔、123…雌ねじ孔、124…雌ねじ孔、125…ボルト、126…ボルト、127…吊下棒支持部、151…長孔、152…長孔、161…ボルト、162…位置決めナット、163…押さえナット、164…遮熱板支持ナット、165…原料保持プレート、171…スリット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8