(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】はんだ接合電極およびはんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲット
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20220125BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20220125BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220125BHJP
B23K 35/26 20060101ALI20220125BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C22C9/00
C23C14/14 D
C23C14/34 A
B23K35/26 310A
C22C13/00
(21)【出願番号】P 2018062501
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】特許業務法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】山岸 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大井川 欽哉
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 正和
(72)【発明者】
【氏名】仁藤 茂生
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/072297(WO,A1)
【文献】特開昭62-024892(JP,A)
【文献】特開昭57-171599(JP,A)
【文献】特開2016-172887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/06
C22C 9/00-9/10
C23C 14/00-14/58
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と銀とニッケルとパラジウムとの合金からなり、銅を主成分とし、銀が10質量%を超えて50質量%未満、ニッケルが0.05質量%を超えて1.0質量%未満、パラジウムが0.1質量%を超えて1.0質量%未満の割合で含有されている銅合金被膜を有することを特徴とするはんだ接合電極。
【請求項2】
銅と銀とニッケルとパラジウムとの合金からなり、銅を主成分とし、銀が10質量%を超えて50質量%未満、ニッケルが0.05質量%を超えて1.0質量%未満、パラジウムが0.1質量%を超えて1.0質量%未満の割合で含有されていることを特徴とするはんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲット。
【請求項3】
前記銅合金被膜は、浴温245℃のSn-3.5質量%Ag-0.5質量%Cuはんだ浴を用いて、JIS C 60068-2-54:2009に準拠した試験方法により測定したときの、該はんだ浴に浸漬後、該はんだ浴との接触角が90度以下となるまでのゼロクロスタイムが3秒以内となる、はんだ濡れ性を有することを特徴とする請求項1に記載のはんだ接合電極。
【請求項4】
スパッタリング成膜による、はんだ接合電極への銅合金被膜の形成に用いた場合に、前記はんだ接合電極に形成される該銅合金被膜が、浴温245℃のSn-3.5質量%Ag-0.5質量%Cuはんだ浴を用いて、JIS C 60068-2-54:2009に準拠した試験方法により測定したときの、該はんだ浴に浸漬後、該はんだ浴との接触角が90度以下となるまでのゼロクロスタイムが3秒以内となる、はんだ濡れ性を有することを特徴とする請求項2に記載のはんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品や半導体素子等をはんだ接合する場合の接合対象となる外部電極等の電極(以下、「はんだ接合電極」と表記する)およびはんだ接合電極の被膜形成に用いる銅合金ターゲットに関し、より詳しくは、電子部品や半導体素子の外部電極等の最外層に、はんだ接合するために好適な銅合金被膜が形成されたはんだ接合電極、およびその銅合金被膜を形成するために用いるはんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子部品や半導体素子等をはんだ接合する場合の接合対象となる外部電極等の電極表面には、接合に用いる、はんだとの濡れ性が高くなる状態にするための被膜が形成される。
【0003】
例えば、接合部品の骨格を構成する下地合金がFe-42質量%Ni合金(42アロイ)の場合には、接合部の表面に金めっきを施したり、Cu-2.4質量%Fe-0.03質量%P-0.12質量%Zn(アロイ194)の場合には、銀めっき上にさらに錫めっきを施したり、あるいはニッケルめっき上にさらにパラジウムめっきを施したりすることにより、いずれもはんだ接合時における溶融はんだとの濡れ性が高くなる表面状態になるように被膜が形成される。
接合部の表面に、はんだとの濡れ性を高める被膜を形成する方法としては、上述のように、めっきによる成膜が多く用いられてきたが、近年、電子部品は小型化が進むことにより、はんだ接合電極に形成する被膜の厚みも可能な限り薄くすることが求められており、めっき成膜よりも薄く被膜を形成することのできるスパッタリング成膜へと被膜の形成方法が変化している。
接合部の表面にスパッタリング成膜により被膜を形成する技術に関しては、例えば、特許文献1には、Agを主体とし、希土類元素を0.02~2原子%含有するAg合金系スパッタリングターゲットが開示されている。
しかしながら、銀等の貴金属は金属価格が高いため、市場では銀よりも安価な金属を主成分とする合金ターゲットを用いてスパッタリング成膜による被膜を形成することが強く求められている。
特許文献2には、銅を主成分とし、銀が10質量%を超えて25質量%未満、ニッケルが0.1質量%以上3質量%以下の割合で含有されてなることを特徴とするはんだ接合電極成膜用銅合金ターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-043868号公報
【文献】国際公開第2016/072297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子部品の小型化がますます進むことにより、その電子部品をはんだ接合する場合の接合部品接合部である外部電極等のサイズや形状も微細化が進み、従来よりもはんだ濡れ性が低下してしまうという問題が生じている。
このため、近年のサイズや形状が微細化した接合部には、特許文献2に記載のはんだ接合電極成膜用銅合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜により形成した被膜に比べて、さらに良好なはんだ接合性を有することが望まれる。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、銀を主成分とする合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜に比べて被膜形成コストを低減でき、かつ、近年のサイズや形状が微細化した接合部においても、良好なはんだ接合性を示す、優れたはんだ濡れ性を有する銅合金被膜を有するはんだ接合電極、および、その銅合金被膜を形成することができる、はんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、銅を主成分とする銅合金において、所定の割合で銀を含有させるとともに、所定の割合でニッケル及びパラジウムを含有させることによって、より優れたはんだ濡れ性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下のものを提供する。
【0007】
(1)本発明の第1の発明は、銅と銀とニッケルとパラジウムとの合金からなり、銅を主成分とし、銀が10質量%を超えて50質量%未満、ニッケルが0.05質量%を超えて1.0質量%未満、パラジウムが0.1質量%を超えて1.0質量%未満の割合で含有されている銅合金被膜を有することを特徴とするはんだ接合電極である。
【0008】
(2)本発明の第2の発明は、銅と銀とニッケルとパラジウムとの合金からなり、銅を主成分とし、銀が10質量%を超えて50質量%未満、ニッケルが0.05質量%を超えて1.0質量%未満、パラジウムが0.1質量%を超えて1.0質量%未満の割合で含有されていることを特徴とするはんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲットである。
【0009】
(3)本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記銅合金被膜が、浴温245℃のSn-3.5質量%Ag-0.5質量%Cuはんだ浴を用いて、JIS C 60068-2-54:2009に準拠した試験方法により測定したときの、該はんだ浴との接触角が90度以下となるまでのゼロクロスタイムが3秒以内となる、はんだ濡れ性を有するはんだ接合電極である。
【0010】
(4)本発明の第4の発明は、第2の発明において、スパッタリング成膜による、はんだ接合電極への銅合金被膜の形成に用いた場合に、前記はんだ接合電極に形成される該銅合金被膜が、浴温245℃のSn-3.5質量%Ag-0.5質量%Cuはんだ浴を用いて、JIS C 60068-2-54:2009に準拠した試験方法により測定したときの、該はんだ浴に浸漬後、該はんだ浴との接触角が90度以下となるまでのゼロクロスタイムが3秒以内となる、はんだ濡れ性を有するはんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲットである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銀を主成分とする合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜に比べて被膜形成コストを低減でき、かつ、近年の微細な接合部においても、良好なはんだ接合性を示す、優れたはんだ濡れ性を有するはんだ接合電極およびはんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】銅合金試料を溶融はんだ浴中に垂直に浸漬したときの接触角(θ)に基づく、その銅合金のはんだ濡れ性の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のはんだ接合電極および接合電極の被膜形成用銅合金ターゲットの具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0014】
<1.銅合金被膜及び被膜形成用銅合金ターゲット>
本実施形態のはんだ接合電極に備わる銅合金被膜及び被膜形成用銅合金ターゲット(以下、「銅合金ターゲット」と表記する)は、銅と銀とニッケルとパラジウムとの四元素で構成された合金であって、銅を主成分として、銀が10質量%を超えて50質量%未満の割合で含有され、ニッケルが0.05質量%を超えて1.0質量%未満の割合で含有され、パラジウムが0.1質量%を超えて1.0質量%未満の割合で含有されている。
【0015】
純銅ターゲットを用いたスパッタリング成膜により接合電極の表面に形成された被膜は、銀ターゲットを用いて形成した被膜よりもコストを格段に低くすることができる。しかしながら、純銅ターゲットによる被膜は、成膜当初は明るく淡い銅色を有し良好なはんだ濡れ性を示しているが、保管環境等やはんだ接合のためのリフロー時における予備加熱等により表面に酸化被膜が形成されて薄褐色等に変色することにより、はんだ濡れ性が著しく低下し、良好にはんだ接合することができなくなる場合がある。このため、はんだ付け処理を行うに際しては、接合電極の表面を清浄にするだけでなく、塩素を含むいわゆる活性フラックスを用いて、表面に形成された酸化膜の除去処理が必要となるなど、手間のかかるプロセス管理となっていた。
【0016】
これに対して、本実施形態のはんだ接合電極に備わる銅合金被膜及び銅合金ターゲットのように、銅と銀とニッケルとパラジウムの四元素の合金で構成され、所定の割合で銀を含有するとともに、所定の割合でニッケル及びパラジウムを含有してなる組成にすることにより、その銅合金ターゲットやその銅合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜により形成された銅合金被膜は、その銅合金の組成により、大気中における酸化等を効果的に抑制することができ、はんだ濡れ性がより向上する。このため、本実施形態の銅合金ターゲットを用いて形成された銅合金被膜を有するはんだ接合電極にはんだ付け処理を行う際には、塩素を含まないいわゆる非活性フラックス処理による、はんだ接合電極の表面の清浄処理のみで、はんだ合金とのはんだ濡れ性が、純銅や純銅による成膜と同等以上の良好なはんだ濡れ性を示す表面状態にすることができ、簡便なプロセス管理で良好にはんだ接合を行うことができる。
【0017】
本発明の4元系はんだ合金組成における銀の含有量に関しては、本実施形態のはんだ接合電極に備わる銅合金被膜及び銅合金ターゲット中の銀の含有量が10質量%以下であると、その銅合金ターゲットやその銅合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜によりはんだ合金電極に形成された銅合金被膜の酸化を十分に抑制することができず、経時変化によってはんだ濡れ性が悪化してしまい、煩雑なプロセス管理が必要になってしまう場合があるため好ましくない。一方、銀の含有量を50質量%以上にした場合も、はんだ濡れ性向上の効果が徐々に悪化する上、コスト高にもなってしまうため好ましくない。
【0018】
ニッケル及びパラジウムの含有量に関しては、本実施形態のはんだ接合電極に備わる銅合金被膜及び銅合金ターゲット中のニッケルの含有量が0.05質量%以下、もしくはパラジウムの含有量が0.1質量%以下であると、その銅合金ターゲットやその銅合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜によりはんだ合金電極に形成された銅合金被膜の酸化を十分に抑制することができず、はんだ濡れ性が著しく劣り、簡便なプロセス管理では良好なはんだ接合を行うことができないため好ましくない。一方、ニッケルやパラジウムの含有量が1.0質量%以上となっても、その銅合金ターゲットやその銅合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜によりはんだ合金電極に形成された銅合金被膜の酸化抑制効果が減少し、はんだ合金電極のはんだ濡れ性が劣ってしまうため好ましくない。また、パラジウムの含有量が1.0質量%以上になるとコスト高にもなってしまうため好ましくない。
【0019】
<2.はんだ濡れ性の評価>
図1に、スパッタリング成膜により表面に形成された被膜10Aを有するはんだ接合電極の試料10を、溶融はんだ浴11中に垂直に浸漬したときのはんだ濡れ性の様子を模式的に示す。溶融はんだ浴11の表面が、試料10の表面に形成された銅合金被膜10Aに接する角度θを接触角(θ)とした場合、はんだが、試料10の表面に形成された銅合金被膜10Aと十分しっかりと接合するためには、
図1(A)及び(B)に示すような状態になる必要があるため、試料10の表面に形成された銅合金被膜10Aに対する溶融はんだ浴11の表面の接触角が90度以下(θ≦90度)の状態になることが必要となる。
【0020】
試料10の表面に形成された銅合金被膜10Aに対する溶融はんだ浴11の表面の接触角が小さくなるほど良好なはんだ濡れ性を示す。なお、銅合金被膜10Aに対する溶融はんだ浴11の表面の接触角(θ)が90度(θ=90度)となる
図1(B)の状態は、θ<90度の
図1(A)の状態に比べて若干劣るものの、表面被膜10Aとはんだがしっかり接合した状態であり、はんだ濡れ性が良好と判断される。一方、
図1(C)の状態は、銅合金被膜10Aに対する溶融はんだ浴11の表面の接触角(θ)が90度を超え(θ>90度)た場合の状態であり、はんだが試料10の表面の銅合金被膜10Aに濡れ広がらず避けてしまう状態であり、はんだ濡れ性が不良であり、接合面積も十分に得られず接合性にも劣ると判断される。
【0021】
本実施形態における濡れ性の評価は、
図1に示す試料10を溶融はんだ浴11に垂直に一定長さ浸漬させてから、試料10の表面の銅合金被膜10Aに対する溶融はんだ浴11の表面が、はんだ濡れ性が良好と判断される状態となるまでに要する時間を測定することにより行う。すなわち、濡れ性を有する試料を、溶融はんだ浴11に浸漬すると、浸漬直後は
図1(C)に近く溶融はんだ浴11表面が試料10によって押し込まれた状態となる。その後、溶融はんだが試料10の表面の銅合金被膜10Aに沿って濡れ広がることにより、
図1(B)の状態を経て
図1(A)の状態となり安定する。試料10が溶融はんだ浴11に接触した時から、溶融はんだ浴11の表面が押し込まれた
図1(C)に近い状態を経て、接触角(θ)が90度となる
図1(B)の状態になるまでの時間をゼロクロスタイムという。ゼロクロスタイムが短いほど、はんだが濡れ広がる時間が短くはんだ濡れ性が良好となり、良好なはんだ接合が得られる。
【0022】
具体的には、本実施形態の銅合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜により形成された銅合金被膜の評価では、浴温245℃のSn-3.5質量%Ag-0.5質量%Cuのはんだ浴を用いて、JIS C 60068-2-54:2009(IEC 60068-2-54:2006)に準拠したはんだ付け性試験方法(はんだ槽平衡法)より、銅合金被膜が形成された試料をはんだ浴に浸漬後、はんだ浴の表面の銅合金被膜に対する接触角(θ)が90度以下となるまでの時間を測定する。
【0023】
<3.銅合金ターゲットの製造方法>
本実施形態の銅合金ターゲットは、例えば高周波真空溶解炉等の密閉可能なチャンバー内を真空引きした後に、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを導入して、該チャンバー内に準備した、上述した所定の組成成分となる配合の金属材料を溶解して銅合金溶湯を作製し、作製した銅合金溶湯を用いて鋳造することによって製造することができる。なお、鋳造処理により得られる鋳塊の形状は、特に規定されるものではないが円柱状に製造するのが一般的である。得られた円柱状の鋳塊を、所望とする直径、厚さの円盤状に切り出すことによって、円盤状の銅合金ターゲットを作製することができる。なお、ターゲットの形状は円盤状に限定されず、得られた円柱状の鋳塊を、鍛造や圧延を経て板状に作製することもできる。
【0024】
なお、金属材料を溶解して銅合金溶湯とする際、及び該銅合金溶湯を鋳造する際、密閉可能なチャンバー内の圧力を0.01Pa以下まで真空引きした後に不活性ガスを導入してチャンバー内の圧力を1Pa以上90,000Pa以下にすることが望ましい。
【0025】
チャンバー内の圧力を0.01Pa以下まで真空引きすることによって、そのチャンバー内の酸素を可能な限り除去することにより、得られる銅合金ターゲット内の含有酸素量(含有酸素濃度)や含有水素量(含有水素濃度)を好ましい含有量まで低減することができる。
【0026】
また、チャンバー内を真空引きした後に、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを導入してチャンバー内の圧力を1Pa以上90,000Pa以下に調整し、その圧力下で溶解及び鋳造を行うことによって、チャンバー内で銅を蒸発させることなく、酸化を防止しながら溶解及び鋳造をすることができ、また、銅合金溶湯内へバブリングすることで銅合金内に含まれる水素や酸素等のガス成分を除去することができ、鋳塊表面の酸化を防ぐだけでなく、鋳塊の内部、すなわち銅合金ターゲット内部における巣(鋳造内部欠陥である空洞)の形成も抑制されることにより、銅合金ターゲットを用いたスパッタリングの際に異常放電の発生を防止することができる。
【0027】
不活性ガス導入後のチャンバー内の圧力が1Pa未満であると、金属材料を溶解している間に、銅がチャンバー内で蒸発して覗窓を曇らせてしまうため作業性が悪くなり、また、チャンバー内に設けられている、金属材料が溶解する温度に加熱するための発振コイルや電極端子等のあらゆる部分に蒸発した銅が蒸着してしまうことにより、鋳塊内の銅組成がばらつき、特に鋳塊上部の銅組成が低くなってしまう場合があるため、作製した銅合金ターゲットの歩留まりが低下して生産性が悪化する場合がある。一方で、チャンバー内の圧力が90,000Paを超えると、金属材料の溶解及び銅合金溶湯を用いた鋳造時に銅合金に含まれるガス成分がほとんど除去されず、鋳塊の内部、すなわち銅合金ターゲット内部に巣が多数形成されてしまい、スパッタリングの際に異常放電が頻発するようになる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
≪実施例及び比較例≫
<銅合金ターゲットの製造>
実施例及び比較例の夫々において、銅以外の金属材料が下記表1に示す含有率の成分組成となる銅合金ターゲットの試料を製造した。なお、比較例の試料8、9、10は、特許文献2に記載のはんだ接合電極成膜用銅合金ターゲットの実施例の試料9、1、5に近い成分組成である。
【0030】
より具体的には、高周波溶解炉を用いて、チャンバー内を0.009Pa以下まで真空引きした後、アルゴンガスを500Paまで導入し、そのチャンバー内で銅以外の金属材料が下記表1に示される成分組成となるように、夫々の含有量を調整した、銅、銀、ニッケル及びパラジウムからなる金属材料を溶解して銅合金溶湯を作製し、上記圧力下で10分間保持した後に黒鉛鋳型に鋳込んで円柱状の鋳塊を作製した。そして、作製した円柱状の鋳塊を、厚さ5mm、直径75mmの円盤状に切り出して評価用の銅合金ターゲット試料とし、夫々の試料を以下に示す評価に用いた。
【0031】
<評価>
スパッタリング成膜した被膜の評価として、作製した銅合金ターゲットを用いて銅板の表面にスパッタリング法により銅合金を成膜したものを試料とし、銅板の表面に形成された銅合金被膜のはんだ濡れ性の評価を行った。
【0032】
銅板への銅合金の成膜は、スパッタリング装置を用いて行った。具体的には、チャンバー内の真空度が1×10-3Paに到達した後、アルゴンガスを15SCCMになるように供給しながらスパッタリングを行い、0.3mm×5mm×15mmの短冊状銅板の全面に0.5μm厚となるように成膜した。
【0033】
はんだ濡れ性の評価は、ソルダーチェッカを使用して評価した。はんだ濡れ性の試験では、フラックスとして、ロジン25%とイソプロパノール75%とからなる非活性化ロジンフラックスを用いた。また、はんだ浴としては、Sn-3質量%Ag-0.5質量%Cuを溶解して245℃に保持した溶融はんだ浴を用いた。なお、銅板の全面に銅合金被膜が形成された試料のはんだ浴への浸漬速度は5mm/s、浸漬深さは2mm、浸漬時間は15秒とした。
【0034】
ソルダーチェッカは、銅合金被膜が形成された試料に働く浮力Bと表面張力Sとの差を濡れ力F(F=S-B)とし、その濡れ力Fを経時観測するものである。そこで、スパッタリング成膜試料(銅合金被膜が形成された試料)のはんだ濡れ性については、JIS C 60068-2-54:2009に準拠した試験方法にて、評価することとし、銅合金被膜が形成された試料をはんだ浴に垂直に浸漬後、はんだ浴の表面の銅合金被膜に対する接触角が90度以下となるまでの時間、いわゆるゼロクロスタイムを測定し、測定したゼロクロスタイムの数値で評価した。なお、評価時間の15秒になっても接触角が90度以下とならなかった場合は、下記表1中のゼロクロスタイムの欄に『×』と記した。
【0035】
<結果>
下記表1に、はんだ濡れ性の評価結果を示す。なお、表1には、上述したように、各実施例、比較例における銅合金ターゲット及び銅合金ターゲットを用いて形成された銅合金被膜の成分組成についても併せて示した。
【表1】
【0036】
表1に示すように、実施例の試料1~9は、ゼロクロスタイムが3.2秒以下となり、比較例の試料7に示す銅のみの試料におけるゼロクロスタイム5秒を基準とした場合のゼロクロスタイムの短縮率が36%~66%となり、はんだ濡れ性が非常に良好であることが認められる結果となった。
【0037】
一方、比較例の試料1、3、5の、本発明に必須の元素のうち銅以外の元素である、銀、ニッケル、パラジウムのいずれかの元素の含有率が本発明の範囲の下限値よりも低い試料(比較例の試料1)、もしくは本発明に必須の元素のうち銅以外の元素である、銀、ニッケル、パラジウムのいずれかを含まない試料(比較例の試料3、5)は、はんだ浴に垂直に浸漬後、15秒を過ぎても接触角が90度にならず、はんだ濡れ性に劣ることが認められる結果となった。また、貴金属元素である銀やパラジウムを本発明の範囲の上限を超えて含有する比較例の試料2や比較例の試料6は、ゼロクロスタイムが夫々4.8秒、4.1秒かかり、比較例の試料7に示す銅のみの試料におけるゼロクロスタイム5秒を基準とした場合のゼロクロスタイムの短縮率が夫々4%、18%に留まり、実施例の試料1~9のゼロクロスタイムの短縮率36%~66%のような、顕著なはんだ濡れ性の向上効果は得られないことが認められる結果となった。ニッケルを本発明の範囲の上限を超えて含有する比較例の試料4も、ゼロクロスタイムが4.7秒かかり、比較例の試料7に示す銅のみの試料におけるゼロクロスタイム5秒を基準とした場合のゼロクロスタイムの短縮率が6%に留まり、実施例の試料1~9のゼロクロスタイムの短縮率36%~66%のような、顕著なはんだ濡れ性の向上効果は得られないことが認められる結果となった。また、特許文献2の実施例の試料9、1、5に近い成分組成にした比較例の試料8、9、10も、ゼロクロスタイムが夫々3.6秒、4.2秒、3.8秒かかり、比較例の試料7に示す銅のみの試料におけるゼロクロスタイム5秒を基準とした場合のゼロクロスタイムの短縮率が16%~28%に留まり、実施例の試料1~9のゼロクロスタイムの短縮率36%~66%のような、顕著なはんだ濡れ性の向上効果は得られないことが認められる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のはんだ接合電極およびはんだ接合電極の被膜形成用銅合金ターゲットは、小型化された部品の、サイズや形状が微細化した接合部をはんだ接合することが求められる分野に有用である。
【符号の説明】
【0039】
10 試料
10A 被膜
11 溶融はんだ浴