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  • 特許-接着剤組成物及び接続体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】接着剤組成物及び接続体
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/06 20060101AFI20220125BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20220125BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220125BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220125BHJP
   C09J 7/10 20180101ALI20220125BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20220125BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220125BHJP
   H01B 5/16 20060101ALI20220125BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20220125BHJP
   C09J 171/12 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C09J4/06
C09J9/02
C09J11/04
C09J11/06
C09J7/10
H01L21/60 311S
H01B1/22 B
H01B1/22 D
H01B5/16
C09J175/04
C09J171/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020021361
(22)【出願日】2020-02-12
(62)【分割の表示】P 2018175012の分割
【原出願日】2014-09-05
(65)【公開番号】P2020109173
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2020-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2013215763
(32)【優先日】2013-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100190931
【弁理士】
【氏名又は名称】熊谷 祥平
(72)【発明者】
【氏名】工藤 直
(72)【発明者】
【氏名】藤縄 貢
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】森尻 智樹
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-081713(JP,A)
【文献】特開2010-248455(JP,A)
【文献】特開2011-057870(JP,A)
【文献】特開2011-032491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)熱可塑性樹脂、
(b)ラジカル重合性化合物、
(c)ラジカル重合開始剤、
(d)分子内に6個以上のチオール基を有するチオール化合物、
(e)導電性粒子、
シランカップリング剤、及び絶縁性の有機又は無機微粒子を含有し、
前記(a)熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂及びポリウレタン樹脂を含み、
前記(b)ラジカル重合性化合物が、リン酸基を有するラジカル重合性化合物及び単官能(メタ)アクリレート化合物(ただし、リン酸基を有するラジカル重合性化合物を除く)を含み、
前記チオール化合物の含有量が、前記(a)熱可塑性樹脂及び前記(b)ラジカル重合性化合物の総量100質量部に対して、500/103質量部~16質量部である、接着剤組成物。
【請求項2】
前記チオール基の少なくとも1個が1級チオール基である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
異方導電性を有する、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物をフィルム状に形成してなる、フィルム状接着剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物、又は請求項4に記載のフィルム状接着剤を含有し、
回路電極を有する回路部材同士を、それぞれの回路部材が有する回路電極同士が電気的に接続されるように接着するために用いられる回路接続材料。
【請求項6】
第一の回路基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、
第二の回路基板の主面上に第二の回路電極が形成され、前記第二の回路電極と前記第一の回路電極とが対向するように配置された第二の回路部材と、
前記第一の回路部材と前記第二の回路部材との間に設けられ、前記第一の回路部材と前記第二の回路部材とを電気的に接続する接続部材と、を備え、
前記接続部材が、請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物の硬化物である、接続体。
【請求項7】
前記第一の回路基板又は前記第二の回路基板のうちの一方がフレキシブル基板であり、他方がガラス基板である、請求項6に記載の接続体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物及び接続体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子又は液晶表示素子において、素子中の種々の部材を結合させる目的で従来から種々の接着剤組成物が回路接続材料として使用されている。この接着剤組成物には、接着性をはじめとして、耐熱性、高温高湿状態における信頼性等の多様な特性が要求される。
【0003】
接着される被着体は、プリント配線板、ポリイミドフィルム等の有機材料、銅、アルミニウム等の金属、ITO、SiN、SiO等の金属化合物のように、種々の材料から形成された多様な表面を有する。そのため、接着剤組成物は、各被着体に合わせて設計される。
【0004】
半導体素子又は液晶表示素子用の接着剤組成物として、高接着性且つ高信頼性を示すエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。かかる接着剤組成物は、一般に、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂と反応するフェノール樹脂等の硬化剤、及びエポキシ樹脂と硬化剤との反応を促進する熱潜在性触媒を含有する。このうち、熱潜在性触媒は、硬化温度及び硬化速度を決定する重要な因子である。そのため、熱潜在性触媒として、室温での貯蔵安定性、及び加熱時の硬化速度の観点から種々の化合物が用いられている。この接着剤組成物は、一般に170~250℃の温度で1~3時間加熱することにより硬化して所望の接着性を発揮する。
【0005】
また、アクリレート誘導体又はメタクリレート誘導体と過酸化物とを含む、ラジカル硬化型接着剤が注目されている(例えば、特許文献2参照。)。ラジカル硬化型接着剤は、反応活性種であるラジカルが反応性に富むため、短時間硬化の点で有利である。
【0006】
また、特許文献3には、チオール化合物が含まれるラジカル硬化型接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平1-113480号公報
【文献】国際公開第98/44067号
【文献】国際公開第2009/057376号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近の半導体素子の高集積化及び液晶素子の高精細化に伴い、素子間及び配線間ピッチが狭小化しており、回路接続のための硬化時の加熱が、周辺部材に悪影響を及ぼす可能性が高くなってきている。
【0009】
さらに、低コスト化のためには、スループットを向上させる必要性があり、より低温且つ短時間で硬化する接着剤組成物、換言すれば、「低温速硬化」の接着剤組成物の開発が要求されている。
【0010】
接着剤組成物の低温速硬化を達成するために、例えば、上記熱硬化性樹脂組成物において、活性化エネルギーの低い熱潜在性触媒が使用されることもあるが、この場合、室温付近での貯蔵安定性を維持することが非常に難しい。
【0011】
これに対しラジカル硬化型接着剤は、比較的容易に低温速硬化を達成することができる。しかし、ラジカル硬化型接着剤をもってしても、従来よりもさらなる低温短時間条件(例えば、130℃で5秒間の硬化条件等)では十分な硬化反応が認められない。この場合の対策として、ラジカル重合開始剤の含有量を増やすことも考えられるが、室温付近での貯蔵安定性を維持することが難しいという問題が生じる。
【0012】
特許文献3のラジカル硬化型接着剤は、接着剤組成物にチオール化合物を有することで、当該組成物中においてラジカル活性種が効率的に反応し、従来よりも比較的低温短時間条件で十分な特性が得られることが開示されている。しかし、さらなる低温短時間条件での反応においても、特に十分な接続信頼性を獲得し得る接着剤組成物がなお必要とされる。
【0013】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ラジカル硬化型接着剤において、従来よりも低温且つ短時間の接続条件でも十分な接続信頼性を維持することが可能な接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、(a)熱可塑性樹脂、(b)ラジカル重合性化合物、(c)ラジカル重合開始剤、及び(d)分子内に6個以上のチオール基を有するチオール化合物、を含有する接着剤組成物に関する。このような構成の接着剤組成物によれば、従来よりも低温短時間の接続条件でも十分な接続信頼性を維持することが可能である。
【0015】
チオール基の少なくとも1個が1級チオール基であることが好ましい。このようなチオール化合物を含有する接着剤組成物は、特に低温短時間接続時に良好な接続信頼性が得られる傾向がある。
【0016】
チオール化合物の含有量は、(a)熱可塑性樹脂及び(b)ラジカル重合性化合物の総量100質量部に対して、1.5~16質量部であることが好ましい。チオール化合物の含有量を上記の範囲とすることにより、上述した効果がより大きくなる。
【0017】
本発明の接着剤組成物は、(e)導電性粒子をさらに含有していてもよい。導電性粒子をさらに含有することにより、接着剤組成物に導電性又は異方導電性を付与することができるため、接着剤組成物を回路接続材料としてより好適に使用することができる。また、当該接着剤組成物を介して電気的に接続した回路電極間の接続抵抗を、より容易に低減することができる。
【0018】
本発明はまた、第一の回路基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板の主面上に第二の回路電極が形成され、第二の回路電極と第一の回路電極とが対向するように配置された第二の回路部材と、第一の回路部材と第二の回路部材との間に設けられ、第一の回路部材と第二の回路部材とを電気的に接続する接続部材と、を備え、当該接続部材が、本発明の接着剤組成物の硬化物である、接続体を提供する。また、ここで、上記第一の回路基板又は上記第二の回路基板のうちの一方がフレキシブル基板であり、他方がガラス基板であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る接続体は、第一の回路部材と第二の回路部材とを電気的に接続する接続部材が、上記本発明の接着剤組成物の硬化物により構成されているため、従来よりも低温且つ短時間の接続時においても十分な接続信頼性を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ラジカル硬化型接着剤において、従来よりも低温且つ短時間の接続条件でも十分な接続信頼性を維持することが可能な接着剤組成物及びこの接着剤組成物を用いた接続体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る接着剤組成物からなるフィルム状接着剤の一実施形態を示す模式断面図である。
図2】本実施形態に係る接着剤組成物の硬化物からなる接続部材を備える接続体の一実施形態を示す模式断面図である。
図3】本実施形態に係る接着剤組成物により接続体を製造する一実施形態を概略断面図により示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は適宜省略する。また、本明細書において、(メタ)アクリル酸はアクリル酸又はそれに対応するメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリレート等の他の類似表現についても同様である。
【0023】
本実施形態に係る接着剤組成物は、(a)熱可塑性樹脂、(b)ラジカル重合性化合物、(c)ラジカル重合開始剤、及び(d)分子内に6個以上のチオール基を有するチオール化合物、を含有する。
【0024】
上記(a)熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂及びポリビニルブチラール樹脂から選ばれる1種又は2種以上の樹脂が挙げられる。
【0025】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、5000~400000が好ましく、5000~200000がより好ましく、10000~150000が特に好ましい。熱可塑性樹脂の重量平均分子量が5000以上であると、接着剤組成物の接着力が向上する傾向がある。また、熱可塑性樹脂の重量平均分子量が400000以下であれば、他の成分との良好な相溶性が得られやすい傾向があり、接着剤の流動性が得られやすい傾向がある。
【0026】
熱可塑性樹脂として、応力緩和及び接着性向上を目的として、ゴム成分を用いることもできる。ゴム成分は、例えば、アクリルゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、カルボキシル基末端ポリブタジエン、水酸基末端ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、カルボキシル基末端1,2-ポリブタジエン、水酸基末端1,2-ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、水酸基末端スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシル化ニトリルゴム、水酸基末端ポリ(オキシプロピレン)、アルコキシシリル基末端ポリ(オキシプロピレン)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリオレフィングリコール及びポリ-ε-カプロラクトンが挙げられる。ゴム成分は、接着性向上の観点から、高極性基であるシアノ基又はカルボキシル基を側鎖基又は末端基として有することが好ましい。これらのゴム成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
熱可塑性樹脂の含有量は、(a)成分及び(b)成分の総量100質量部に対して、20~80質量部であることが好ましく、30~70質量部であることがより好ましく、35~65質量部であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が20質量部以上であると、接着力が向上したり、接着剤組成物のフィルム形成性が向上したりする傾向があり、80質量部以下であれば、接着剤の流動性が得られやすい傾向がある。
【0028】
本実施形態に係る接着剤組成物は、(b)ラジカル重合性化合物として任意のものを含んでいてもよい。当該ラジカル重合性化合物は、例えば後述する化合物のモノマー及びオリゴマーのいずれであってもよいし、両者を併用したものであってもよい。
【0029】
上記化合物としては、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する1種又は2種以上の多官能の(メタ)アクリレート化合物が好ましい。このような(メタ)アクリレート化合物は、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性2官能(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性3官能(メタ)アクリレートが挙げられる。上記エポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテルの2つのグリシジル基に(メタ)アクリル酸を付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテルの2つのグリシジル基にエチレングリコール及び/又はプロピレングリコールを付加させた化合物に(メタ)アクリロイルオキシ基を導入した化合物が挙げられる。
【0030】
また、接着剤組成物は、流動性の調節等を目的として、(b)ラジカル重合性化合物として、単官能(メタ)アクリレート化合物を含んでいてもよい。単官能(メタ)アクリレート化合物は、例えば、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、複数のグリシジル基を有するエポキシ樹脂のグリシジル基の一つを(メタ)アクリル酸を反応させることで得られるグリシジル基含有(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
さらに、接着剤組成物は、橋架け率の向上等を目的として、(b)ラジカル重合性化合物として、アリル基、マレイミド基、ビニル基等のラジカル重合性の官能基を有する化合物を含んでいてもよい。そのような化合物は、例えば、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルカプロラクタム、4,4’-ビニリデンビス(N,N-ジメチルアニリン)、N-ビニルアセトアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドが挙げられる。
【0032】
接着剤組成物は、接着力の向上を目的として、(b)ラジカル重合性化合物として、リン酸基を有するラジカル重合性化合物を含有することが好ましい。リン酸基を有するラジカル重合性化合物は、例えば、下記式(1)、(2)又は(3)で表される化合物から選ばれる。
【0033】
【化1】

式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、w及びxはそれぞれ独立に1~8の整数を示す。なお、同一分子中の複数のR、R、w及びxは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0034】
【化2】

式(2)中、Rは(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、y及びzはそれぞれ独立に1~8の整数を示す。同一分子中の複数のR、y及びzは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0035】
【化3】

式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、b及びcはそれぞれ独立に1~8の整数を示す。同一分子中の複数のR及びbは同一でも異なっていてもよい。
【0036】
リン酸基を有するラジカル重合性化合物は、例えば、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2,2’-ジ(メタ)アクリロイロキシジエチルホスフェート、EO(エチレンオキサイド)変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、リン酸変性エポキシ(メタ)アクリレート及びリン酸ビニルが挙げられる。
【0037】
リン酸基を有するラジカル重合性化合物の含有量は、(a)成分及び(b)成分の総量100質量部に対して、0.1~15質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましい。リン酸基を有するラジカル重合性化合物の含有量が0.1質量部以上であれば、高い接着強度が得られやすい傾向があり、15質量部以下であると、硬化後の接着剤組成物の物性低下が生じにくく、信頼性向上の効果が良好となる。
【0038】
接着剤組成物に含まれる(b)ラジカル重合性化合物の総含有量は、(a)成分及び(b)成分の総量100質量部に対して、20~80質量部であることが好ましく、30~70質量部であることがより好ましく、35~65質量部であることがさらに好ましい。この総含有量が20質量部以上であれば、耐熱性が向上する傾向があり、80質量部以下であると、高温高湿環境に放置後の剥離抑制の効果が大きくなる傾向がある。
【0039】
(c)ラジカル重合開始剤は、過酸化物及びアゾ化合物等の化合物から任意に選択することができる。安定性、反応性及び相溶性の観点から、1分間半減期温度が90~175℃で、且つ分子量が180~1000の過酸化物が好ましい。「1分間半減期温度」とは、過酸化物の半減期が1分である温度をいう。「半減期」とは、所定の温度において化合物の濃度が初期値の半分に減少するまでの時間をいう。
【0040】
ラジカル重合開始剤は、例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジラウロイルパーオキサイド、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-アミルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、3-メチルベンゾイルパーオキサイド、4-メチルベンゾイルパーオキサイド、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(3-メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキシトリメチルアジペート、t-アミルパーオキシノルマルオクトエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート及びt-アミルパーオキシベンゾエートから選ばれる1以上の化合物である。
【0041】
回路部材の接続端子(回路電極)の腐食を抑えるために、ラジカル重合開始剤中に含有される塩素イオン又は有機酸の量は5000ppm以下であることが好ましく、さらに、分解後に発生する有機酸が少ないものがより好ましい。また、作製した接着剤組成物の安定性が向上することから、室温、常圧下で24時間の開放放置後に20質量%以上の質量保持率を有するラジカル重合開始剤が好ましい。
【0042】
ラジカル重合開始剤の含有量は、(a)成分及び(b)成分の総量100質量部に対して、1~15質量部であることが好ましく、2.5~10質量部であることがより好ましい。
【0043】
(d)チオール化合物は、分子内に6個以上のチオール基を有する化合物である。(d)チオール化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基を有さないことが好ましい。このようなチオール化合物としては、例えば、複数のペンタエリスリトール骨格がエーテル結合を介して形成される化合物が好ましく挙げられる。ここで、「ペンタエリスリトール骨格」とは、下記式(4)に示す部分構造を表す。
【化4】
【0044】
特に、上記チオール基の少なくとも1個が1級チオール基であることが好ましく、すべてのチオール基が1級チオール基であることがより好ましい。これら1級チオール基を有するチオール化合物を用いることにより、低温短時間接続時に良好な接続信頼性を有する接着剤組成物が得られる傾向がある。
【0045】
チオール化合物として、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトブチレート)等が挙げられる(下記式(5)及び(6)を参照。)。
【化5】

式(5)中、アスタリスク*は置換基Rの結合点を示す。
【化6】

式(6)中、アスタリスク*は置換基Rの結合点を示す。
【0046】
チオール化合物の分子量は特に制限されないが、好ましくは400~5000、より好ましくは600~2500である。分子量が400以上であれば、フィルム状接着剤として用いる場合に乾燥工程での揮発を抑制することができる。また、分子量が5000以下であると、他の成分との相溶性が得られやすくなる傾向があり、また接着剤の流動性が向上する傾向がある。
【0047】
チオール化合物におけるチオール基の数は20個以下であることが好ましく、16個以下であることがより好ましい。チオール基の数が20個以下であると、他の成分との相溶性が得られやすい傾向があり、また、接着剤の流動性が向上する傾向がある。
【0048】
チオール化合物の含有量は、(a)成分及び(b)成分の総量100質量部に対して、1.5~16質量部であることが好ましく、2.5~12.5質量部であることがより好ましく、3.5~10質量部であることが特に好ましい。チオール化合物の含有量が1.5質量部以上であれば、本発明の効果が得られやすくなる傾向があり、16質量部以下であれば、接着信頼性が向上する傾向がある。
【0049】
本実施形態に係る接着剤組成物は、シランカップリング剤を含有していてもよい。シランカップリング剤は、好ましくは、下記式(7)で表される化合物である。
【化7】

式(7)中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のアルコキシカルボニル基又はアリール基を示す。R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。Rは(メタ)アクリロイル基、ビニル基、イソシアナート基、イミダゾール基、メルカプト基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、フェニルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、モルホリノ基、ピペラジノ基、ウレイド基又はグリシジル基を示す。aは1~10の整数を示す。
【0050】
式(7)のシランカップリング剤は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0051】
シランカップリング剤の含有量は、(a)成分及び(b)成分の総量100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.25~5質量部であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.1質量部以上であれば、回路部材と回路接続材料の界面の剥離気泡発生を抑制する効果がより大きくなる傾向があり、シランカップリング剤の含有量が10質量部以下であると、接着剤組成物のポットライフが長くなる傾向がある。
【0052】
本実施形態に係る接着剤組成物は、導電性粒子をさらに含有していてもよい。導電性粒子を含有する接着剤組成物は、異方導電性接着剤として特に好適に用いることができる。
【0053】
導電性粒子は、例えば、Au、Ag、Pd、Ni、Cu、はんだ等の金属粒子、カーボン粒子などが挙げられる。また、導電性粒子は、ガラス、セラミック、プラスチック等の非導電性材料からなる核体粒子と、該核体粒子を被覆する金属、金属粒子、カーボン等の導電層と、を有する複合粒子であってもよい。金属粒子は、銅粒子及び銅粒子を被覆する銀層を有する粒子であってもよい。複合粒子の核体粒子は、好ましくはプラスチック粒子である。
【0054】
上記プラスチック粒子を核体粒子とする複合粒子は、加熱及び加圧によって変形する変形性を有するので、回路部材同士を接着する際に、該回路部材が有する回路電極と導電性粒子との接触面積を増加させることができる。そのため、これらの複合粒子を導電性粒子として含有する接着剤組成物によれば、接続信頼性の点でより一層優れる接続体が得られる。
【0055】
上記導電性粒子と、その表面の少なくとも一部を被覆する絶縁層又は絶縁性粒子とを有する絶縁被覆導電性粒子を、接着剤組成物が含有していてもよい。絶縁層は、ハイブリダイゼーション等の方法により設けることができる。絶縁層又は絶縁性粒子は、高分子樹脂等の絶縁性材料から形成される。このような絶縁被覆導電性粒子を用いることで、隣接する導電性粒子同士による短絡が生じにくくなる。
【0056】
導電性粒子の平均粒径は、良好な分散性及び導電性を得る観点から、1~18μmであることが好ましい。
【0057】
導電性粒子の含有量は、接着剤組成物の全体積を基準として、0.1~30体積%であることが好ましく、0.1~10体積%であることがより好ましく、0.5~7.5体積%であることがさらに好ましい。導電性粒子の含有量が0.1体積%以上であれば、導電性が向上する傾向がある。導電性粒子の含有量が30体積%以下であれば、回路電極間の短絡が生じにくくなるという傾向がある。導電性粒子の含有量(体積%)は、硬化前の接着剤組成物を構成する各成分の23℃での体積に基づいて決定される。各成分の体積は、比重を利用して質量を体積に換算することで求めることができる。体積を測定しようとする成分を溶解したり膨潤させたりせず、その成分をよくぬらすことができる適当な溶媒(水、アルコール等)をメスシリンダー等に入れ、そこへ測定対象の成分を導入して増加した体積をその成分の体積として求めることもできる。
【0058】
接着剤組成物は、導電性粒子の他に、絶縁性の有機又は無機微粒子を含有していてもよい。無機微粒子は、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、シリカ-アルミナ微粒子、チタニア微粒子、ジルコニア微粒子等の金属酸化物微粒子の他、窒化物微粒子などが挙げられる。有機微粒子は、例えば、シリコーン微粒子、メタクリレート-ブタジエン-スチレン微粒子、アクリル-シリコーン微粒子、ポリアミド微粒子、ポリイミド微粒子などが挙げられる。これらの微粒子は、均一な構造を有していてもよいし、コア-シェル型構造を有していてもよい。
【0059】
有機微粒子及び無機微粒子の含有量は、(a)成分及び(b)成分の総量100質量部に対して、5~30質量部であることが好ましく、7.5~20質量部であることがより好ましい。有機微粒子及び無機微粒子の含有量が5質量部以上であれば、相対する電極間の電気的接続を維持することが比較的容易になる傾向があり、30質量部以下であれば、接着剤組成物の流動性が向上する傾向がある。
【0060】
本実施形態に係る接着剤組成物は、常温(25℃)で液状である場合は、ペースト状接着剤として使用することができる。接着剤組成物が常温で固体である場合には、加熱して使用してもよいし、溶剤を加えることによりペースト化して使用してもよい。ペースト化のために使用する溶剤は、接着剤組成物(添加剤も含む。)との反応性を実質的に有さず、且つ接着剤組成物を十分に溶解可能なものであれば特に制限されない。
【0061】
本実施形態に係る接着剤組成物は、フィルム状に成形して、フィルム状接着剤として用いることもできる。フィルム状接着剤は、例えば、接着剤組成物に必要に応じて溶剤等を加えるなどして得られた溶液を、フッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、離型紙等の剥離性支持体上に塗布し、溶剤等を除去する方法により得ることができる。フィルム状接着剤は、取扱い等の点から一層便利である。
【0062】
図1は、本実施形態に係る接着剤組成物からなるフィルム状接着剤の一実施形態を示す模式断面図である。図1に示す積層フィルム100は、支持体8と、支持体8上に剥離可能に積層されたフィルム状接着剤40とを備える。フィルム状接着剤40は、絶縁性接着剤層5と、絶縁性接着剤層5中に分散した導電性粒子7とから構成される。絶縁性接着剤層5は、上述の接着剤組成物のうち導電性粒子以外の成分から構成される。このフィルム状接着剤によれば、取り扱いが容易であり、被着体へ容易に設置することができ、接続作業を容易に行うことができる。フィルム状接着剤は、2種以上の層からなる多層構成を有していてもよい。フィルム状接着剤が導電性粒子を含有する場合、フィルム状接着剤を異方導電性フィルムとして好適に用いることができる。
【0063】
本実施形態に係る接着剤組成物及びフィルム状接着剤によれば、通常、加熱及び加圧を併用して被着体同士を接着させることができる。加熱温度は、好ましくは100~250℃である。圧力は、被着体に損傷を与えない範囲であれば特に制限されないが、一般的には0.1~10MPaであることが好ましい。これらの加熱及び加圧は、0.5~120秒間の範囲で行うことが好ましい。本実施形態に係る接着剤組成物及びフィルム状接着剤によれば、例えば、130~200℃、1MPa程度の条件にて、5秒間の短時間の加熱及び加圧でも被着体同士を十分に接着させることが可能である。
【0064】
本実施形態に係る接着剤組成物及びフィルム状接着剤は、熱膨張係数の異なる異種の被着体の接着剤として使用することができる。具体的には、異方導電接着剤の他、銀ペースト、銀フィルム等の回路接続材料、CSP用エラストマー、CSP用アンダーフィル材、LOCテープ等の半導体素子接着材料として使用することができる。
【0065】
以下、本実施形態に係るフィルム状接着剤を異方導電性フィルムとして使用して、回路基板及び回路基板の主面上に形成された回路電極を有する回路部材同士を被着体として接続し、接続体を製造する一例について説明する。
【0066】
図2は、本実施形態に係る接着剤組成物の硬化物からなる接続部材を備える接続体の一実施形態を示す模式断面図である。図2に示す接続体1は、対向配置された第一の回路部材20及び第二の回路部材30を備えている。第一の回路部材20と第二の回路部材30との間には、これらを接着及び接続する接続部材10が設けられている。
【0067】
第一の回路部材20は、第一の回路基板21と、第一の回路基板21の主面21a上に形成された第一の回路電極22とを備える。第一の回路基板21の主面21a上には、絶縁層が形成されていてもよい。
【0068】
第二の回路部材30は、第二の回路基板31と、第二の回路基板31の主面31a上に形成された第二の回路電極32とを備える。第二の回路基板31の主面31a上にも、絶縁層が形成されていてもよい。
【0069】
第一の回路部材20及び第二の回路部材30は、電気的接続を必要とする回路電極を有するものであれば特に制限はない。第一の回路基板21及び第二の回路基板31は、例えば、半導体、ガラス、セラミック等の無機材料の基板、ポリイミド、ポリカーボネート等の有機材料の基板、ガラス/エポキシ等の無機物と有機物とを含む基板が挙げられる。第一の回路基板21がガラス基板であり、第二の回路基板31がフレキシブル基板(好ましくは、ポリイミドフィルム等の樹脂フィルム)であってもよい。
【0070】
接続される回路部材の具体例としては、液晶ディスプレイに用いられている、ITO(indium tin oxide)膜等の電極が形成されているガラス又はプラスチック基板、プリント配線板、セラミック配線板、フレキシブル配線板、半導体シリコンチップ等が挙げられる。これらは必要に応じて組み合わせて使用される。このように、本実施形態に係る接着剤組成物によれば、プリント配線板及びポリイミドフィルム等の有機材料から形成された表面を有する部材の他、銅、アルミニウム等の金属、ITO、窒化ケイ素(SiN)、二酸化ケイ素(SiO)などの無機材料から形成された表面を有する部材のように、多種多様な表面状態を有する回路部材を接着するために用いることができる。
【0071】
例えば、一方の回路部材が、フィンガー電極、バスバー電極等の電極を有する太陽電池セルであり、他方の回路部材がタブ線であるとき、これらを接続して得られる接続体は、太陽電池セル、タブ線及びこれらを接着する接続部材(接着剤組成物の硬化物)を備える太陽電池モジュールである。
【0072】
接続部材10は、本実施形態に係る接着剤組成物の硬化物からなる。接続部材10は、絶縁層11及び絶縁層11中に分散した導電性粒子7を含有している。導電性粒子7は、対向する第一の回路電極22と第二の回路電極32との間のみならず、主面21a、31aの間にも配置されている。第一の回路電極22及び第二の回路電極32は、導電性粒子7を介して電気的に接続されているため、第一の回路電極22及び第二の回路電極32間の接続抵抗が十分に低減される。したがって、第一の回路電極22及び第二の回路電極32間の電流の流れを円滑にすることができ、回路の持つ機能を十分に発揮することができる。接続部材が導電性粒子を含有していない場合には、第一の回路電極22と第二の回路電極32とが接触することで、電気的に接続される。
【0073】
接続部材10が本実施形態に係る接着剤組成物の硬化物によって形成されていることから、第一の回路部材20及び第二の回路部材30に対する接続部材10の接着強度は十分に高い。そのため、信頼性試験(高温高湿試験)後においても接着強度の低下及び接続抵抗の増大を十分に抑制することができる。
【0074】
接続体1は、例えば、回路電極を有し対向配置された一対の回路部材を、接着剤組成物からなるフィルム状接着剤を間に挟んで配置する工程と、一対の回路部材及びフィルム状接着剤を、フィルム状接着剤の厚み方向に加圧しながら加熱して硬化することにより、一対の回路部材を接着剤組成物の硬化物を介して接着する工程(本接続工程)と、を備える方法により、製造することができる。
【0075】
図3は、本実施形態に係る接着剤組成物により接続体を製造する一実施形態を概略断面図により示す工程図である。図3の(a)に示されるように、フィルム状接着剤40が、第一の回路部材20の第一の回路電極22側の主面上に載せられる。フィルム状接着剤40が上述の支持体上に設けられている場合、フィルム状接着剤40が第一の回路部材20側に位置する向きで、フィルム状接着剤及び支持体の積層体が回路部材に載せられる。フィルム状接着剤40は、フィルム状であることから取り扱いが容易である。このため、第一の回路部材20と第二の回路部材30との間にフィルム状接着剤40を容易に介在させることができ、第一の回路部材20と第二の回路部材30との接続作業を容易に行うことができる。
【0076】
フィルム状接着剤40は、フィルム状に形成された上述の接着剤組成物(回路接続材料)であり、導電性粒子7及び絶縁性接着剤層5を有する。接着剤組成物は、導電性粒子を含有しない場合も、異方導電性接続のために回路接続材料として使用できる。導電性粒子を含有しない回路接続材料は、NCF(Non-Conductive-FILM)又はNCP(Non-Conductive-Paste)と呼ばれることもある。接着剤組成物が導電性粒子を有する場合、これを用いた回路接続材料は、ACF(Anisotropic Conductive FILM)又はACP(Anisotropic Conductive Paste)と呼ばれることもある。
【0077】
フィルム状接着剤40の厚さは、10~50μmであることが好ましい。フィルム状接着剤40の厚さが10μm以上であれば、第一の回路電極22及び第二の回路電極32間が、接着剤により充填されやすくなる傾向がある。フィルム状接着剤の厚さが50μm以下であれば、第一の回路電極22及び第二の回路電極32間の接着剤組成物を十分に排除しきることができ、第一の回路電極22及び第二の回路電極32間の導通を容易に確保することができる。
【0078】
フィルム状接着剤40の厚み方向に、図3の(a)に示されるように圧力A、Bを加えることにより、フィルム状接着剤40が第一の回路部材20に仮接続される(図3の(b)を参照。)。このとき、加熱しながら加圧してもよい。ただし、加熱温度はフィルム状接着剤40中の接着剤組成物が硬化しない温度、すなわちラジカル重合開始剤がラジカルを急激に発生する温度よりも十分に低い温度に設定される。
【0079】
続いて、図3の(c)に示されるように、第二の回路部材30を、第二の回路電極が第一の回路部材20側に位置する向きでフィルム状接着剤40上に載せる。フィルム状接着剤40が支持体上に設けられている場合は、支持体を剥離してから第二の回路部材30をフィルム状接着剤40上に載せる。
【0080】
その後、フィルム状接着剤40を、その厚み方向に圧力A、Bを加えながら、加熱する。このときの加熱温度は、ラジカル重合開始剤がラジカルを十分に発生する温度に設定される。これにより、ラジカル重合開始剤からラジカルが発生し、ラジカル重合性化合物の重合が開始される。本接続により、図2に示す接続体が得られる。フィルム状接着剤40を加熱することにより、第一の回路電極22と第二の回路電極32との間の距離を十分に小さくした状態で絶縁性接着剤が硬化して絶縁層11を形成する。その結果、第一の回路部材20と第二の回路部材30とが、絶縁層11を含む接続部材10を介して強固に接続される。
【0081】
本接続は、加熱温度が100~250℃、圧力が0.1~10MPa、加圧時間が0.5~120秒の条件で行われることが好ましい。これらの条件は、使用する用途、接着剤組成物、回路部材によって適宜選択される。本実施形態に係る接着剤組成物によれば、130℃以下のような低温条件でも、十分な信頼性を有する接続体を得ることができる。本接続後、必要に応じて、後硬化を行ってもよい。
【実施例
【0082】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<ポリウレタン樹脂の合成>
還流冷却器、温度計及び撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、エーテル結合を有するジオールであるポリプロピレングリコール(Mn=2000)1000質量部及び溶媒としてのメチルエチルケトン4000質量部を加え、40℃で30分間撹拌した。溶液を70℃まで昇温した後、触媒としてのジメチル錫ラウレート12.7mgを加えた。次いで、この溶液に対して、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート125質量部をメチルエチルケトン125質量部に溶解して調製した溶液を、1時間かけて滴下した。その後、赤外分光光度計でNCOの吸収ピークが見られなくなるまでこの温度で撹拌を続けて、ポリウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液の固形分濃度(ポリウレタン樹脂の濃度)が30質量%となるように調整した。得られたポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による測定の結果、320000(標準ポリスチレン換算値)であった。以下にGPCの分析条件を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
<ウレタンアクリレートの合成>
温度計、撹拌機、不活性ガス導入口、及び還流冷却器を装着した2リットルの四つ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(アルドリッチ社製、数平均分子量2000)4000質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート238質量部と、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.49質量部と、錫系触媒4.9質量部とを仕込んで反応液を調製した。70℃に加熱した反応液に対して、イソホロンジイソシアネート(IPDI)666質量部を3時間かけて均一に滴下し、反応させた。滴下完了後、15時間反応を継続し、電位差自動滴定装置(商品名AT-510、京都電子工業株式会社製)にてNCO含有量が0.2質量%以下となったことを確認した時点で反応を終了し、ウレタンアクリレートを得た。GPCによる分析の結果、ウレタンアクリレートの重量平均分子量は8500(標準ポリスチレン換算値)であった。なお、GPCによる分析は前述のポリウレタン樹脂の重量平均分子量の分析と同様の条件で行った。
【0086】
<導電性粒子の作製>
ポリスチレン粒子の表面に、厚さ0.2μmのニッケル層を形成し、さらにこのニッケル層の外側に、厚さ0.04μmの金層を形成させた。こうして平均粒径4μmの導電性粒子を作製した。
【0087】
<フィルム状接着剤の作製>
表2に示す原料を、表2に示す質量比で混合した。そこに上記導電性粒子を1.5体積%の割合で分散させて、フィルム状接着剤を形成するための塗工液を得た。この塗工液を厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗工装置を用いて塗布した。塗膜を70℃で10分間熱風乾燥して、厚み18μmのフィルム状接着剤を形成させた。
【0088】
表2に示す、ポリウレタン樹脂、ウレタンアクリレートは上述のとおり合成したものである。フェノキシ樹脂は、PKHC(ユニオンカーバイト社製、商品名、平均分子量45000)40gをメチルエチルケトン60gに溶解して調製した40質量%溶液の形態で用いた。アクリレート化合物は、シクロヘキシルアクリレート(商品名アリックスCHA、東亞合成株式会社製)を用いた。チオール化合物Aとして、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(分子量783.0、チオール当量130.5、純度99%)、チオール化合物Bとして、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトブチレート)(分子量797.0、チオール当量132.8、純度99%)、チオール化合物Cとして、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(分子量567.7、チオール当量189.2、純度99%)を用いた。リン酸エステルとして、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(商品名ライトエステルP-2M、共栄社化学株式会社製)を用いた。シランカップリング剤として、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名KBM-503、信越化学工業株式会社製)を用いた。ラジカル重合開始剤として、ラウロイルパーオキサイド(商品名パーロイルL、日油株式会社製、分子量398.6)を用いた。無機微粒子として、シリカ粒子(商品名R104、日本アエロジル株式会社製)10gをトルエン45g及び酢酸エチル45gの混合溶媒に分散させて調製した10質量%の分散液を調製し、これを塗工液中に配合した。
【0089】
【表2】
【0090】
<接続体の作製>
上記フィルム状接着剤を回路接続材料として用い、ライン幅75μm、ピッチ150μm及び厚さ18μmの銅回路を2200本有するフレキシブル回路版(FPC)と、ガラス基板及びガラス基板上に形成された厚さ0.2μmの酸化インジウム(ITO)の薄層を有するITO基板(厚さ1.1mm、表面抵抗20Ω/□)とを接続した。接続は、熱圧着装置(加熱方式:コンスタントヒート型、東レエンジニアリング株式会社製)を用い、130℃、3MPaで5秒間の加熱及び加圧により行った。これにより、幅1.5mmにわたりFPCとITO基板とがフィルム状接着剤の硬化物により接続された接続体を作製した。
【0091】
<接続抵抗、接着強度の測定>
得られた接続体の隣接回路間の抵抗値(接続抵抗)を、マルチメーターで測定した。抵抗値は、隣接回路間の抵抗37点の平均で示した。また、この接続体の接着力を、JIS-Z0237に準じて90度剥離法で測定した。接着強度の測定装置として、テンシロンUTM-4(東洋ボールドウィン株式会社製、商品名、剥離強度50mm/min、25℃)を使用した。接続抵抗及び接着力強度は、接続直後、85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に250時間保持後、及び40℃で3日間処理後の接続体について測定した。接続体の評価結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
各実施例のフィルム状接着剤によれば、低温且つ短時間の効果条件によって、接続直後及び高温高湿試験後のいずれの場合も、良好な接続抵抗(5Ω以下)及び接着強度(8N/cm以上)を示すことが確認された。これらに対し、チオール化合物を含有しない比較例1では接続抵抗が高くなり、接着力が低くなる傾向が見られた。また、チオール化合物を含まずに過酸化物を増やした比較例2では、ポットライフ処理前は良好な特性が得られたものの、40℃3日間処理後に抵抗値が高くなり、接着力が低くなる傾向がみられた。また、分子内にチオール基を6個以上有さないチオール化合物を用いた比較例3では、接続抵抗が高くなり、接着力が低くなる傾向がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、ラジカル硬化型接着剤において、従来よりも低温且つ短時間の接続条件でも十分な接続信頼性を維持することが可能な接着剤組成物、及びこの接着剤組成物を用いた接続体を提供することができる。
【符号の説明】
【0095】
1…接続体、5…絶縁性接着剤層、7…導電性粒子、8…支持体、10…接続部材、11…絶縁層、20…第一の回路部材、21…第一の回路基板、21a…主面、22…第一の回路電極、30…第二の回路部材、31…第二の回路基板、31a…主面、32…第二の回路電極、40…フィルム状接着剤、100…積層フィルム。
図1
図2
図3