(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】温度センサ
(51)【国際特許分類】
G01K 7/16 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
G01K7/16 B
(21)【出願番号】P 2018008138
(22)【出願日】2018-01-22
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】竹井 邦晴
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075854(JP,A)
【文献】特開2009-109221(JP,A)
【文献】特表2015-523297(JP,A)
【文献】特開2014-207421(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0297891(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗部の電気抵抗の変化を利用する温度センサであって、
前記抵抗部は、酸化スズ粒子とカーボンナノチューブの混合体からなり、
前記混合体は、酸化スズ粒子と、カーボンナノチューブと、不可避不純物だけから構成され
ることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
前記抵抗部に含まれる酸化スズ粒子は、1nm以上500nm以下の平均粒径を有し、
前記抵抗部に含まれるカーボンナノチューブは、0.5μm以上50μm以下の平均長さを有する請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
基板と、カバー部材と、第1及び第2電極とをさらに備え、
前記抵抗部は、前記基板と前記カバー部材との間に挟まれ、
第1及び第2電極は、前記抵抗部の電気抵抗を測定できるように前記抵抗部に接続される請求項1又は2に記載の温度センサ。
【請求項4】
前記基板及び前記カバー部材は不通気性を有し、
前記抵抗部は、前記基板と前記カバー部材との間に密閉されている請求項3に記載の温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサ及び温度センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度センサを有するフレキシブル基板を生体に取り付けて生体情報を計測する生体情報計測装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。生体情報計測装置を用いると、生体情報をモニタリングすることができ、体調管理、病気の早期発見、患者の病状管理、などが可能になる。これらの装置では通常、熱電対や半導体センサが温度センサとして搭載されている。
また、カーボンナノチューブの集合体を用いた抵抗型温度センサが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-154903号公報
【文献】特開2014-217707号公報
【文献】特開2012-122864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フレキシブル基板に搭載する従来の温度センサは製造コストが大きい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、低減された製造コストで製造でき、正確に温度を測定することができる温度センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、抵抗部の電気抵抗の変化を利用する温度センサであって、前記抵抗部は、酸化スズ粒子とカーボンナノチューブの混合体からなることを特徴とする温度センサを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の温度センサに含まれる抵抗部は塗布法や印刷法により形成できる。このため、温度センサの製造コストを低減することができる。
本発明の温度センサは優れた温度感度及び高い安定度を有するため、正確な温度測定が可能である。このことは、本発明者が行った実験により実証された。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)~(c)はそれぞれ本発明の一実施形態の温度センサの概略断面図である。
【
図2】電気抵抗測定実験の測定結果を示すグラフである。
【
図3】電気抵抗測定実験の測定結果を示すグラフである。
【
図4】電気抵抗測定実験の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の温度センサは、抵抗部の電気抵抗の変化を利用する温度センサであって、前記抵抗部は、酸化スズ粒子とカーボンナノチューブの混合体からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の温度センサの抵抗部に含まれる酸化スズ粒子は、1nm以上500nm以下の平均粒径を有することが好ましく、抵抗部に含まれるカーボンナノチューブは、0.5μm以上50μm以下の平均長さを有することが好ましい。このことにより、温度センサが優れた温度感度と高い安定度を有することができる。
本発明の温度センサは、基板と、カバー部材と、第1及び第2電極とを備えることが好ましく、前記抵抗部は、前記基板と前記カバー部材との間に挟まれることが好ましく、第1及び第2電極は、前記抵抗部の電気抵抗を測定できるように前記抵抗部に接続されることが好ましい。温度センサがこのような構成を有することにより、抵抗部の電気抵抗を容易に測定できる。また、温度センサを薄くすることができる。さらに、温度センサの製造コストを低減することができる。
【0010】
前記基板及び前記カバー部材は不通気性を有することが好ましく、前記抵抗部は基板とカバー部材との間に密閉されていることが好ましい。このことにより、水などが抵抗部に吸着することを抑制することができ、抵抗部の電気抵抗を安定化することができる。
また、本発明は、第1及び第2電極が形成された基板上に、酸化スズ粒子とカーボンナノチューブと含む分散液又はペーストを塗布又は印刷する工程を含む温度センサの製造方法も提供する。
【0011】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0012】
図1(a)~(c)はそれぞれ本実施形態の温度センサの概略断面図である。
本実施形態の温度センサ20は、抵抗部2の電気抵抗の変化を利用する温度センサであって、抵抗部2は、酸化スズ粒子とカーボンナノチューブの混合体からなることを特徴とする。
【0013】
抵抗部の電気抵抗の変化を利用する温度センサにおいて抵抗部の材料には、(1)測定温度域において抵抗部が高い温度感度を有すること(温度の変化に応じて抵抗部の電気抵抗が変化すること)、(2)抵抗部の電気抵抗値が測定回路によって測定可能な範囲内にあること、(3)測定温度域において抵抗部の電気抵抗が安定していることが求められる。
【0014】
本実施形態の温度センサ20に含まれる抵抗部2は、酸化スズ(SnO2)粒子とカーボンナノチューブの混合体である。この抵抗部2は、上記の3つの条件を満たす特性を有している。このことは本発明者が行った実験により実証された。このため、温度センサ20は、正確な温度測定が可能である。
温度センサ20の測定温度域は、例えば0℃以上60℃以下の温度範囲に含まれる温度範囲とすることができる。
抵抗部2を構成する酸化スズ粒子とカーボンナノチューブの混合体は、酸化スズ粒子の表面とカーボンナノチューブの表面とが直接接触するように設けることができる。このことにより、酸化スズ粒子とカーボンナノチューブとを電気的に相互作用させることができ、抵抗部2の温度感度を高くすることができる。
抵抗部2を構成する混合体は、酸化スズ粒子、カーボンナノチューブ及び不可避不純物だけから構成されてもよい。不可避不純物は、例えばカーボンナノチューブ合成時に不純物として生成する炭素物質(アモルファスカーボン、カーボンブラックなど)、カーボンナノチューブの合成時に用いた触媒の微粒子などである。
また、この混合体は、抵抗部2の形成時に利用する分散剤(界面活性剤)などの残留不純物を含んでもよい。
【0015】
抵抗部2に含まれるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよいが、単層カーボンナノチューブであることが好ましい。抵抗部2に含まれるカーボンナノチューブの平均長さは、0.5μm以上50μm以下とすることができる。
抵抗部2に含まれる酸化スズ粒子は、1nm以上500nm以下の平均粒径を有することが好ましく、5nm以上100nm以下の平均粒径を有することがさらに好ましい。
抵抗部2を構成する混合体に含まれるカーボンナノチューブと酸化スズ粒子の重量比は例えば、1:100~1:2000とすることができる。つまり、混合体は、混合体に含まれるカーボンナノチューブの総重量の100~2000倍の重量の酸化スズ粒子を含むことができる。
【0016】
抵抗部2は、基板3上に形成された薄膜又は厚膜であってもよい。また、抵抗部2は、塗布法又は印刷法により形成された膜であってもよい。例えば、酸化スズ粒子とカーボンナノチューブの分散液を調製し、この分散液を第1電極8及び第2電極9が設けられた基板3上に塗布し塗布膜を乾燥させることにより抵抗部2を形成することができる。また、この塗布及び乾燥を複数回繰り返すことにより所望の厚さの抵抗部2を形成することができる。分散液は、分散剤(界面活性剤)を含んでもよい。このことにより、液体中に酸化スズ粒子及びカーボンナノチューブを均一に分散させることができ、酸化スズ粒子とカーボンナノチューブが均質に混合した抵抗部2を形成することができる。また、分散液の溶媒は、例えば水である。なお、分散剤は、乾燥させた塗布膜を洗浄することにより除去することが可能である。
抵抗部2の厚さは、例えば、0.01μm以上1mm以下とすることができる。
【0017】
基板3は、フレキシブル基板であってもよい。このことにより、皮膚上、曲面上などに基板3を取り付けることができる。基板3は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどである。また、基板3は、金属層が高分子フィルムで挟まれたラミネートフィルムであってもよい。このことにより、基板3が高いガスバリア性を有することができ、水などが抵抗部2に吸着し抵抗部2の電気抵抗に影響を与えることを抑制することができる。また、基板3の熱伝導率を向上させることができ、温度センサ20の温度感度を向上させることができる。ラミネートフィルムの金属層は、金属箔であってもよく、蒸着金属膜であってもよい。
また、基板3は、1μm以上500μm以下の厚さを有することができる。また、基板3は不通気性を有することができる。
【0018】
温度センサ20は、抵抗部2の電気抵抗を測定できるように抵抗部2と接続する第1電極8及び第2電極9を有することができる。第1電極8及び第2電極9は、基板3と抵抗部2との間に設けられてもよく、抵抗部2とカバー部材6との間に設けられてもよい。また、抵抗部2は、第1電極8上、第2電極9上及び第1電極8と第2電極9との間に設けられてもよい。
第1電極8及び第2電極9は、2端子測定法で抵抗部2の電気抵抗を測定するように設けられてもよく、4端子測定法で抵抗部2の電気抵抗を測定するように設けられてもよい。例えば、温度センサ20に含まれる第1電極8及び第2電極9が
図1(a)、(c)のような構造を有することにより、2端子測定法により抵抗部2の電気抵抗を測定することができる。例えば、第1電極8と第2電極9との間に電流を流したときの電流値及び電圧値から抵抗部2の電気抵抗値を算出することができる。
【0019】
温度センサ20に含まれる第1電極8及び第2電極9が
図1(b)のような構造を有することにより、4端子測定法により抵抗部2の電気抵抗を測定することができる。この場合、温度センサ20は抵抗部2に電流を流すための第3電極10、第4電極11を備える。例えば、第3電極10と第4電極11との間に電流を流し、第1電極8と第2電極9との間の電圧を測定したときの電流値及び電圧値から抵抗部2の電気抵抗値を算出することができる。
抵抗部2の電気抵抗は、抵抗部2にパルス電流を流すことにより測定してもよい。このことにより、抵抗部2に電流を流すことにより抵抗部2が発熱することを抑制することができる。また、温度センサ20の消費電力を低減することができる。
第1~第4電極は、例えば銀電極、金電極などである。第1~第4電極は、印刷法などにより基板3上又は抵抗部2上に形成されたものであってもよい。
また、第1電極8と第2電極9との間隔は、0.05mm以上2cm以下とすることができる。
【0020】
温度センサ20は、抵抗部2を覆うカバー部材6を備えることができる。また、基板3とカバー部材6は、その間に抵抗部2を密閉するように設けることができる。このことにより、水などが抵抗部2に吸着することを抑制することができ、抵抗部2の電気抵抗を安定化することができる。カバー部材6は、不通気性を有してもよい。
カバー部材6は、例えば、
図1(a)(b)に示したような保護層5であってもよい。保護層5は例えばポリマー樹脂層である。ポリマー樹脂層の材料には、ガス透過性の低い材料を用いることができる。
カバー部材6は、例えば、
図1(c)の示したような保護フィルム4であってもよい。保護フィルム4は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレート(PENフィルム)などである。また、保護フィルム4は、金属層が高分子フィルムで挟まれたラミネートフィルムであってもよい。基板3と保護フィルム4をその間に抵抗部2を挟んで貼り合わせることにより、基板3と保護フィルム4との間に抵抗部2を密閉することができる。
【0021】
温度センサの作製
表1に示した各抵抗部材料を用いて試料1~11の温度センサを作製した。
まず、抵抗部材料の原料と分散剤と水とを混合して分散液を調製した。分散剤には、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)を用いた。カーボンナノチューブ(CNT)には外径が約1.8nmで平均長さが5μm以上の単層カーボンナノチューブを用い、SnO2ナノ粒子には平均粒径が100nm以下のものを用いた。試料2、3、11では、水に分散されたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)から成る導電性ポリマー(PEDOT:PSS)を用い、試料7、8のITOナノ粒子には平均粒径が100nm以下のものを用い、Siナノ粒子には平均粒径が100nm以下のものを用い、TiCNナノ粒子には平均粒径が150nm以下のものを用いた。
【0022】
次に、2つの銀電極(第1電極8及び第2電極9)を設けたPETフィルム(基板3)を110℃のホットプレートで加熱した状態でPETフィルム上に調製した分散液を塗布し、この塗布膜を乾燥させた。この塗布及び乾燥を複数回繰り返して抵抗部2を作製した。
次に抵抗部を設けたPETフィルムを水に浸漬することにより抵抗部を洗浄し、分散剤を除去した。その後、90℃のオーブン中に1時間入れることにより乾燥させ温度センサを作製した。なお、カバー部材6は設けていない。また、第1電極と第2電極との間隔は、0.6mm~5mmとした。
【0023】
電気抵抗測定実験
作製した試料1~11の温度センサを常温付近で温度制御できる環境試験機内に設置し、試験機内の温度を25℃~45℃で変化させたときの抵抗部の電気抵抗を2端子測定法で測定した。また、抵抗部の近くに熱電対を配置し、抵抗部の電気抵抗の測定と同時に温度も測定した。
抵抗部の電気抵抗の安定度及び抵抗部の電気抵抗の温度感度についての試料1~11の評価結果を表1に示す。また、
図2は試料1、2の抵抗部の電気抵抗の変化を測定温度と共に示すグラフである。
図3は試料4の抵抗部の電気抵抗の変化を測定温度と共に示すグラフである。
図4は試料5の抵抗部の電気抵抗の変化を測定温度と共に示すグラフである。
【0024】
【0025】
図2のグラフに示した試料1の電気抵抗は、温度が上昇すると抵抗値は低下し、温度が低下すると抵抗値が上昇した。従って、試料1は優れた温度感度を有することがわかった。また、試料1の電気抵抗は、時間の経過と共に変化することがなかった。従って、試料1は高い安定度を有することがわかった。このため、試料1は、優れた抵抗型温度センサとして利用できることがわかった。なお、試料1の電気抵抗値は約9kΩであった。また、試料1の抵抗部に含まれるSnO
2ナノ粒子とカーボンナノチューブの重量比は、1000:1とした。
【0026】
図2のグラフに示した試料2では、温度が上昇すると抵抗値は低下し、温度が低下すると抵抗値が上昇した。しかし、試料2の電気抵抗は、時間の経過と共に低下していく傾向があった。このため、試料2の安定度は低いことがわかった。
図3のグラフには、試料4のCNTのみによる電気抵抗の温度変化に対する変化を示している。温度変化に対する安定度は良好であるが、試料1と比べると温度変化に対する電気抵抗の変化率は小さかった。従って検出感度が低いことがわかった。
図4のグラフには、試料5のSnO
2のみによる電気抵抗の温度変化に対する変化を示している。電気抵抗値が非常に高く、安定度にバラツキがあった。従って、試料5では特性にバラツキがあることがわかった。
【符号の説明】
【0027】
2:抵抗部 3:基板 4:保護フィルム 5:保護層 6:カバー部材 8:第1電極 9:第2電極 10:第3電極 11:第4電極 20:温度センサ