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  • 特許-偏光フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017192583
(22)【出願日】2017-10-02
(65)【公開番号】P2019066681
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松久 英樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓弥
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-003834(JP,A)
【文献】特開2002-014224(JP,A)
【文献】特開2017-107162(JP,A)
【文献】特表2016-520881(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0068083(KR,A)
【文献】特表2006-509251(JP,A)
【文献】特開2017-107163(JP,A)
【文献】特開2017-107161(JP,A)
【文献】特開2017-209607(JP,A)
【文献】特開2019-066838(JP,A)
【文献】特開2019-066682(JP,A)
【文献】特開2019-066835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための方法であって、
処理液を収容する処理槽を通る搬送経路に沿って前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送させて、前記処理液に前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる工程と、
前記処理液の液滴を形成し、前記液滴からポリビニルアルコール系樹脂を含む固体を析出させる工程と、
前記析出させる工程の後に実施される、前記固体の少なくとも一部を除去する工程と、
前記除去する工程によって回収される液体の少なくとも一部を前記処理槽に戻す工程と、
を含み、
前記析出させる工程は、ガススプレー装置、スプレーノズル、エアブラシ、超音波霧化器、エレクトロスプレー装置、スピンスプレー装置又は沸騰装置を用いて前記液滴を形成する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記析出させる工程は、前記処理液又は前記液滴の温度を低下させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理液は、二色性色素及び架橋剤の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば偏光板の構成部材として用いることのできる偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムとして、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素のような二色性色素を吸着配向させたものが従来用いられている。一般に偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色する染色処理、架橋剤で処理する架橋処理、及びフィルム乾燥処理を順次施すとともに、製造工程の間にポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して延伸処理を施すことによって製造される〔例えば、特開2001-141926号公報(特許文献1)〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-141926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、偏光フィルムは、工業的には、長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、偏光フィルムの製造装置が有するフィルムの搬送経路に沿って連続的に搬送させながら、該搬送経路上にある上述の染色処理を行うための染色処理槽、及び架橋処理を行うための架橋処理槽に順次浸漬させる湿式処理工程を含んで製造される。
【0005】
上記方法に従って偏光フィルムを連続的に製造すると、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる処理液にポリビニルアルコール系樹脂が次第に溶け出す。この溶け出したポリビニルアルコール系樹脂が、何らかの要因で処理液から析出することがあり、析出が生じると、析出物が湿式処理中のポリビニルアルコール系樹脂フィルム、ひいては偏光フィルムの表面に付着して、偏光フィルムの外観や品質に悪影響を与え得る。
また、処理液中に溶け出したポリビニルアルコール系樹脂の濃度が次第に高まっていくと、該処理液に浸漬させた後に該処理液から引き出したポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面にポリビニルアルコール系樹脂を含む固体が析出することもある。このような析出物もまた、偏光フィルムの外観や品質に悪影響を与え得る。
【0006】
本発明の目的は、上記析出物のフィルムへの付着を抑制しながら、偏光フィルムを安定的に連続製造することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す偏光フィルムの製造方法を提供する。
[1] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための方法であって、
処理液を収容する処理槽を通る搬送経路に沿って前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送させて、前記処理液に前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる工程と、
前記処理液の液滴を形成し、前記液滴からポリビニルアルコール系樹脂を含む固体を析出させる工程と、
を含む、方法。
[2] 前記析出させる工程は、前記処理液又は前記液滴の温度を低下させることを含む、[1]に記載の方法。
[3] 前記析出させる工程の後に、前記固体の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記除去する工程によって回収される液体の少なくとも一部を前記処理槽に戻す工程をさらに含む、[3]に記載の方法。
[5] 前記処理液は、二色性色素及び架橋剤の少なくとも1つを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む析出物のフィルムへの付着を抑制しながら、偏光フィルムを安定的に連続製造することのできる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】偏光フィルムの製造方法及びそれに用いる偏光フィルム製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を示しながら、偏光フィルムの製造方法について説明する。
【0011】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「PVA系樹脂フィルム」ともいう。)から偏光フィルムを製造するための製造方法に関する。偏光フィルムは、PVA系樹脂フィルムに対して、処理槽への浸漬処理(湿式処理)、乾燥処理等を含む一連の処理を施して製造される。
本発明に係る偏光フィルムは、延伸されたPVA系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向しているものである。
【0012】
偏光フィルム製造装置の一例を図1に示す。図1に示される偏光フィルム製造装置は、原料フィルムである長尺のPVA系樹脂フィルム10から連続的に長尺の偏光フィルム25を製造するための装置である。図1中の矢印は、フィルムの搬送方向又は液体等の流れ方向を示す。
図1に示される製造装置を用いた偏光フィルム25の製造においては、PVA系樹脂フィルム10を巻出ロール11から連続的に巻き出しつつ、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19に順次浸漬し、最後に乾燥炉21に通すことにより乾燥処理を行って偏光フィルム25を得る。長尺物として製造される偏光フィルム25は、巻取ロール27に順次巻き取ってもよいし、あるいは、巻き取ることなく、偏光フィルム25の片面又は両面に保護フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムを接着する偏光板作製工程に供されてもよい。
【0013】
偏光フィルム製造装置は、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19等を含む湿式処理部(フィルムが浸漬される処理液を収容する処理槽を用いて湿式処理を行うゾーン)と、乾燥炉21のような乾燥処理部(湿式処理後のフィルムに対して乾燥処理を実施するゾーン)とを通常有する。
図1に示される偏光フィルム製造装置は、湿式処理部と乾燥処理部とを含むPVA系樹脂フィルム10の搬送経路を有している。この搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルム10を搬送させることにより、湿式処理及び乾燥処理を含む一連の処理が施されて偏光フィルム25が得られる。
搬送経路に沿って搬送されるPVA系樹脂フィルム10の搬送速度は、通常1~50m/分であり、生産効率の観点から、好ましくは5m/分以上である。
【0014】
図1に示されるように上記搬送経路は、湿式処理部と乾燥処理部とを通るように、走行中のフィルム(PVA系樹脂フィルム10及び偏光フィルム25)を支持・案内する複数のロールによって構築される。複数のロールは、フィルムの片面を支持するフリーロールであるガイドロール、及び/又は、1対のロール(通常は駆動ロールを含む。)からなり、当該1対のロールは、例えば、フィルムを両面から挟み込む又は挟み込んで押圧するニップロールである。図1に示される例において偏光フィルム製造装置は、ガイドロール1a~1l及びニップロール2a~2fを含んでいる。搬送経路を規定する複数のロールは、駆動ロールの1種であるサクションロール(吸引ロール)を含んでいてもよい。通常、これらのロールはいずれも搬送経路内のフィルムの一方又は両方の表面(主面)に接して該フィルムを支持する。これらのロールは、各処理槽及び乾燥手段(乾燥炉)の前後や処理槽及び乾燥手段(乾燥炉)内等の適宜の位置に配置することができる。
【0015】
駆動ロールとは、それに接触するフィルムに対してフィルム搬送のための駆動力を与えることができるロールをいい、モーター等のロール駆動源が直接又は間接的に接続されたロール等であることができる。フリーロールとは、走行するフィルムを支持する役割を担い、フィルムの搬送に応じて自由に回転可能なロールをいう。
【0016】
本発明に係る偏光フィルムの製造方法は、次の工程:
処理液を収容する処理槽を通る搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルムを搬送させて、上記処理液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる工程(湿式処理工程S101)、及び
上記処理液の液滴を形成し、該液滴からPVA系樹脂を含む固体を析出させる工程(固体析出工程S201)
を含む。
【0017】
得られる偏光フィルム25は、延伸処理(通常は一軸延伸処理)されたものである。このために偏光フィルムの製造装置は、PVA系樹脂フィルム10の延伸手段(湿式延伸手段)を含むことができ、また偏光フィルムの製造方法は、PVA系樹脂フィルム10の延伸処理工程(湿式延伸処理工程)を含むことができる。
【0018】
(1)PVA系樹脂フィルム
湿式処理工程S101に供される(湿式処理部に導入される)PVA系樹脂フィルム10は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」ともいう。)で構成されるフィルムである。PVA系樹脂とは、ビニルアルコール由来の構成単位を50重量%以上含む樹脂をいう。PVA系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が例示される。
酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。その他の「(メタ)」を付した用語においても同様である。
【0019】
PVA系樹脂のケン化度は、80.0~100.0モル%の範囲であることができるが、好ましくは90.0~100.0モル%の範囲であり、より好ましくは94.0~100.0モル%の範囲であり、さらに好ましくは98.0~100.0モル%の範囲である。ケン化度が80.0モル%未満であると、得られる偏光フィルム25及びこれを含む偏光板の耐水性及び耐湿熱性が低下し得る。
【0020】
ケン化度とは、PVA系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基(アセトキシ基:-OCOCH)がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式:
ケン化度(モル%)=100×(水酸基の数)/(水酸基の数+酢酸基の数)
で定義される。ケン化度は、JIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。
【0021】
PVA系樹脂の平均重合度は、好ましくは100~10000であり、より好ましくは1500~8000であり、さらに好ましくは2000~5000である。PVA系樹脂の平均重合度もJIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。平均重合度が100未満では、好ましい偏光性能を有する偏光フィルム25を得ることが困難であり、10000を超えると溶媒への溶解性が悪化し、PVA系樹脂フィルム10の形成(製膜)が困難となり得る。
【0022】
PVA系樹脂フィルム10の一例は、上記PVA系樹脂を製膜してなる未延伸フィルムである。製膜方法は、特に限定されるものではなく、溶融押出法、溶剤キャスト法のような公知の方法を採用することができる。
PVA系樹脂フィルム10の他の一例は、上記未延伸フィルムを延伸してなる延伸フィルムである。この延伸は通常、一軸延伸、好ましくは縦一軸延伸である。縦延伸とは、フィルムの機械流れ方向(MD)、すなわちフィルムの長手方向への延伸をいう。
湿式処理工程S101に供される(湿式処理部に導入される)PVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムである場合において、この延伸は、好ましくは乾式延伸である。乾式延伸とは空中で行う延伸をいい、通常は縦一軸延伸となる。
【0023】
乾式延伸としては、表面が加熱された熱ロールと、この熱ロールとは周速の異なるガイドロール(又は熱ロールであってもよい。)との間にフィルムを通し、熱ロールを利用した加熱下に縦延伸を行う熱ロール延伸;距離を置いて設置された2つのニップロール間にある加熱手段(オーブン等)を通過させながら、これら2つのニップロール間の周速差によって縦延伸を行うロール間延伸;テンター延伸;圧縮延伸等を挙げることができる。
延伸温度(熱ロールの表面温度や、オーブン内温度等)は、例えば80~150℃であり、好ましくは100~135℃である。
【0024】
上記延伸の延伸倍率は、後述する湿式処理工程S101において湿式延伸を実施するか否か、及び当該湿式延伸での延伸倍率にもよるが、通常は1.1~8倍であり、好ましくは2.5~5倍である。
【0025】
PVA系樹脂フィルム10は、可塑剤等の添加剤を含有することができる。可塑剤の好ましい例は多価アルコールであり、その具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。PVA系樹脂フィルム10は、1種又は2種以上の可塑剤を含有することができる。
可塑剤の含有量は、PVA系樹脂フィルム10を構成するPVA系樹脂100重量部に対して、通常5~20重量部であり、好ましくは7~15重量部である。
【0026】
湿式処理工程S101に供される(湿式処理部に導入される)PVA系樹脂フィルム10の厚みは、PVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムであるか否かにもよるが、通常10~150μmであり、得られる偏光フィルム25の薄膜化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは65μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは35μm以下(例えば30μm以下、さらには20μm以下)である。
【0027】
(2)湿式処理工程S101
湿式処理工程S101が実施される湿式処理部は、PVA系樹脂フィルム10の搬送経路上に配置されるゾーンであり、PVA系樹脂フィルム10が浸漬される処理液を収容する処理槽を含む。この湿式処理部において、PVA系樹脂フィルム10を搬送させながら処理液にPVA系樹脂フィルム10を浸漬させる湿式処理工程S101が実施される。
【0028】
湿式処理部は、上記処理槽として、通常は染色処理槽15及び架橋処理槽17を含んでおり、好ましくはさらに、膨潤処理槽13及び洗浄処理槽19を含む。これらの処理槽は通常、搬送経路の上流側から順に、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17、洗浄処理槽19の順で配置される(図1参照)。
図1には、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19をそれぞれ1槽ずつ設けた例を示しているが、必要に応じて染色処理槽15を2槽以上を設けてもよく、架橋処理槽17を2槽以上を設けてもよい。膨潤処理槽13、洗浄処理槽19についても同様であり、それぞれ2槽以上設けてもよい。
【0029】
(2-1)膨潤処理工程
膨潤処理は、PVA系樹脂フィルム10の異物除去、可塑剤除去、易染色性の付与、フィルムの可塑化等の目的で必要に応じて実施される処理である。
図1を参照して、膨潤処理工程は、PVA系樹脂フィルム10を巻出ロール11より連続的に巻き出しながら、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、PVA系樹脂フィルム10を、膨潤処理液を収容する膨潤処理槽13に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。
【0030】
膨潤処理槽13に収容される処理液(膨潤処理液)は、例えば水(純水等)であることができるほか、アルコール類等の水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。また、膨潤処理液は、ホウ酸、塩化物、無機酸、無機塩等を含有することもできる。
膨潤処理液の温度は、通常10~70℃、好ましくは15~50℃、より好ましくは15~35℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(膨潤処理液中での滞留時間)は、通常10~600秒、好ましくは15~300秒である。
【0031】
膨潤処理中に、PVA系樹脂フィルム10に対して湿式延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。その場合の延伸倍率は、通常1.2~3倍、好ましくは1.3~2.5倍である。図1を参照して、例えば、ニップロール2aとニップロール2bとの周速差を利用して膨潤処理槽13中で一軸延伸処理を施すことができる。
図1に示される例において、膨潤処理槽13から引き出されたフィルムは、ガイドロール1c、ニップロール2bを順に通過して染色処理槽15へ導入される。
【0032】
(2-2)染色処理工程
染色処理は、PVA系樹脂フィルム10に二色性色素を吸着、配向させる等の目的で実施される処理である。
図1を参照して、染色処理工程は、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、PVA系樹脂フィルム10を染色処理槽15に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。染色処理槽15は、それに収容される染色処理液にPVA系樹脂フィルム10を浸漬させるための槽である。染色処理液に浸漬されるPVA系樹脂フィルム10は、好ましくは膨潤処理工程(膨潤処理槽13に浸漬された)後のフィルムである。
染色処理槽15に収容される染色処理液は、二色性色素を含有する液(通常は水溶液)である。二色性色素は、ヨウ素又は二色性有機染料であることができ、好ましくはヨウ素である。二色性色素は、1種のみを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0033】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、上記染色処理液には、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等を共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合は、ヨウ素を含む点で後述する架橋処理液と区別される。例えば、水溶液が水100重量部に対し、ヨウ素を約0.003重量部以上含んでいるものであれば、染色処理液とみなすことができる。染色処理液におけるヨウ素の含有量は、水100重量部あたり、通常0.003~1重量部である。染色処理液におけるヨウ化カリウム等のヨウ化物の含有量は、水100重量部あたり、通常0.1~20重量部である。
【0034】
染色処理液の温度は、通常10~45℃であり、好ましくは10~40℃であり、より好ましくは20~35℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(染色処理液中での滞留時間)は、通常20~600秒、好ましくは30~300秒である。
【0035】
上述のように、偏光フィルム製造装置は、染色処理槽15を2槽以上含むことができる。この場合、各染色処理液の組成及び温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
二色性色素の染色性を高めるために、染色処理に供されるPVA系樹脂フィルム10は、少なくともある程度の延伸処理(通常は一軸延伸処理)が施されていることが好ましい。染色処理前の延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の延伸処理に加えて、染色処理を行いながら延伸処理を施してもよい。染色処理までの積算の延伸倍率(染色処理までに延伸工程がない場合は染色処理での延伸倍率)は、通常1.6~4.5倍であり、好ましくは1.8~4倍である。図1を参照して、例えば、ニップロール2bとニップロール2cとの周速差を利用して染色処理槽15中で一軸延伸処理を施すことができる。
図1に示される例において、染色処理槽15から引き出されたフィルムは、ガイドロール1f、ニップロール2cを順に通過して架橋処理槽17へ導入される。
【0037】
(2-3)架橋処理工程
架橋処理は、架橋による耐水化や色相調整(補色)等の目的で実施される処理である。
図1を参照して、架橋処理は、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、染色処理工程S101(染色処理槽15に浸漬された)後のPVA系樹脂フィルム10を架橋処理槽17に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。架橋処理槽17は、それに収容される架橋処理液にPVA系樹脂フィルム10を浸漬させるための槽である。
架橋処理槽17に収容される架橋処理液は、架橋剤を含有する液(通常は水溶液)である。この架橋処理液に染色処理工程後のPVA系樹脂フィルム10を浸漬することによって架橋処理を行う。
【0038】
架橋処理液に含有される架橋剤としては、例えば、ホウ酸、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられ、好ましくはホウ酸である。2種以上の架橋剤を併用することもできる。
架橋処理液における架橋剤の含有量は概して、水100重量部あたり、通常0.1~15重量部であり、好ましくは1~12重量部である。
【0039】
二色性色素がヨウ素の場合、架橋処理液は、架橋剤に加えてヨウ化物を含有することが好ましい。
ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。
架橋処理液におけるヨウ化物の含有量は概して、水100重量部あたり、通常0.1~20重量部であり、好ましくは5~15重量部である。
【0040】
架橋処理液は、ヨウ化物以外の化合物を含有していてもよい。該化合物としては、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
架橋処理液の温度は概して、通常20~85℃であり、好ましくは30~70℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(架橋処理液中での滞留時間)は概して、通常10~600秒、好ましくは20~300秒である。
【0042】
上述のように、偏光フィルム製造装置は、架橋処理槽17を2槽以上含むことができる。この場合、各架橋処理液の組成及び温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。架橋処理液は、PVA系樹脂フィルム10を浸漬させる目的に応じた架橋剤及びヨウ化物等の濃度や、温度を有していてもよい。架橋による耐水化のための架橋処理及び色相調整(補色)のための架橋処理を、それぞれ複数の工程で行ってもよい。
一般に、架橋による耐水化のための架橋処理及び色相調整(補色)のための架橋処理の双方を実施する場合、色相調整(補色)のための架橋処理を実施する槽(補色槽)が後段に配置される。補色槽に収容される処理液の温度は、例えば10~55℃であり、好ましくは20~50℃である。補色槽に収容される処理液における架橋剤の含有量は、水100重量部あたり、例えば1~5重量部である。補色槽に収容される処理液におけるヨウ化物の含有量は、水100重量部あたり、例えば3~30重量部である。
【0043】
架橋処理を行いながら延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。図1を参照して、例えば、ニップロール2cとニップロール2dとの周速差を利用して架橋処理槽17中で一軸延伸処理を施すことができる。
図1に示される例において、架橋処理槽17から引き出されたフィルムは、ガイドロール1i、ニップロール2dを順に通過して洗浄処理槽19へ導入される。
【0044】
(2-4)洗浄処理工程
偏光フィルムの製造方法は、架橋処理工程後の洗浄処理工程をさらに含むことができ、このために偏光フィルム製造装置は、架橋処理槽17の下流側に配置される洗浄処理槽19をさらに含むことができる。洗浄処理は、架橋処理工程後のPVA系樹脂フィルム10に付着した余分な薬剤を除去する等の目的で実施される処理である。
図1を参照して、洗浄処理は、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、架橋処理工程(架橋処理槽17に浸漬された)後のPVA系樹脂フィルム10を洗浄処理槽19に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。あるいは、洗浄処理は、架橋処理工程後のPVA系樹脂フィルム10に対して洗浄液を例えばシャワーとして噴霧する処理であってもよく、洗浄処理槽19への浸漬と洗浄液の噴霧とを組み合わせてもよい。図1には、PVA系樹脂フィルム10を洗浄処理槽19に浸漬して洗浄処理を施す場合の例を示している。
【0045】
洗浄処理槽19に収容される洗浄処理液や噴霧される洗浄液は、例えば水(純水等)であることができるほか、アルコール類等の水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。洗浄浴の温度は、例えば2~40℃である。
【0046】
洗浄処理を行いながら延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。図1を参照して、例えば、ニップロール2dとニップロール2eとの周速差を利用して洗浄処理槽19中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0047】
(2-5)延伸処理工程
湿式処理工程においてPVA系樹脂フィルム10に対して湿式延伸を実施してもよい。湿式延伸は通常、一軸延伸であり、膨潤処理、染色処理、架橋処理、洗浄処理のいずれかの処理を行いながら、又はこれらから選択される2以上の処理中に行うことができる。
湿式延伸は、好ましくは、架橋処理工程又はそれより前の1又は2以上の段階でなされる。上述のように、二色性色素の染色性を高めて良好な偏光特性を有する偏光フィルム25を得るために、染色処理工程に供されるPVA系樹脂フィルム10は、少なくともある程度の延伸処理が施されていることがより好ましい。
湿式延伸の延伸倍率は、得られる偏光フィルム25の偏光特性の観点から、好ましくは、偏光フィルム25の最終的な累積延伸倍率(湿式処理に供されるPVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムである場合には、この延伸も含めた累積延伸倍率)が3~8倍となるように調整される。
【0048】
湿式延伸処理工程を実施する場合、偏光フィルム製造装置は、PVA系樹脂フィルム10の湿式延伸手段を含む。湿式延伸手段は、好ましくはロール間延伸を行う延伸手段である。架橋処理工程中に湿式でロール間延伸を行う場合を例に挙げると、ロール間延伸を行う延伸手段は、架橋処理槽17の前後に配置される2つのニップロール2c,2dである。他の湿式処理中に延伸を行う場合についても同様に、離間して配置された2つのニップロールを湿式延伸手段とすることができる。
【0049】
(3)乾燥処理工程
乾燥処理工程が実施される乾燥処理部は、PVA系樹脂フィルム10の搬送経路上であって湿式処理部の下流側に配置される、湿式処理工程S101後のPVA系樹脂フィルム10を乾燥させるためのゾーンである。湿式処理工程S101後のPVA系樹脂フィルム10を引き続き搬送させながら、乾燥処理部に当該フィルムを導入することによって乾燥処理を施すことができ、これにより偏光フィルム25が得られる(図1参照)。
【0050】
乾燥処理部は、フィルムの乾燥手段(加熱手段)を含む。乾燥手段の好適な一例は乾燥炉である。乾燥炉は、好ましくは炉内温度を制御可能なものである。乾燥炉は、例えば、熱風の供給等により炉内温度を高めることができる熱風オーブンである。また乾燥手段による乾燥処理は、凸曲面を有する1又は2以上の加熱体に湿式処理工程後のPVA系樹脂フィルム10を密着させる処理や、ヒーターを用いて該フィルムを加熱する処理であってもよい。
【0051】
上記加熱体としては、熱源(例えば、温水等の熱媒や赤外線ヒーター)を内部に備え、表面温度を高めることができるロール(例えば熱ロールを兼ねたガイドロール)を挙げることができる。上記ヒーターとしては、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等を挙げることができる。図1には、乾燥炉21内に湿式処理工程S101後のPVA系樹脂フィルム10を導入して乾燥処理する例を示している。
【0052】
乾燥処理の温度(例えば、乾燥炉21の炉内温度、熱ロールの表面温度等)は、通常30~100℃であり、好ましくは50~90℃である。
【0053】
偏光フィルム25は、延伸(通常は一軸延伸)されたPVA系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向されているものである。偏光フィルム25の厚みは、通常2~40μmである。偏光フィルム25を含む偏光板の薄膜化の観点から、偏光フィルム25の厚みは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。
【0054】
得られる偏光フィルム25の視感度補正単体透過率Tyは、視感度補正偏光度Pyとのバランスを考慮して、40~47%であることが好ましく、41~45%であることがより好ましい。視感度補正偏光度Pyは、99.9%以上であることが好ましく、99.95%以上であることがより好ましい。
Ty及びPyは、積分球付き吸光光度計を用い、得られた透過率、偏光度に対してJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行うことによって測定することができる。
【0055】
得られた偏光フィルム25は、巻取ロール27に順次巻き取ってロール形態としてもよいし、巻き取ることなくそのまま偏光板作製工程(偏光フィルム25の片面又は両面に熱可塑性樹脂フィルム(保護フィルム等)を積層する工程)に供することもできる。
【0056】
(4)固体析出工程S201
本工程は、湿式処理工程S101で用いる処理液の液滴を形成し、該液滴からPVA系樹脂を含む固体を析出させる工程である。
一旦、処理液の液滴を形成し、この液滴から固体を析出させる方法によれば、効率良く固体を析出させることが可能である。この固体を除去し、残部の液体を処理槽に戻すことにより、処理槽内の処理液におけるPVA系樹脂の濃度を、PVA系樹脂を含む析出物がフィルムに付着するという上述の不具合を抑制できる程度に低減あるいは維持することができる。
【0057】
固体析出工程S201に供される処理液は、膨潤処理液、染色処理液、架橋処理液及び洗浄処理液からなる群より選択される1又は2以上の処理液である。例えば架橋処理槽17が2槽以上ある場合、これらから選択される2槽以上の槽に収容されているそれぞれの架橋処理液について、固体析出工程S201を実施してもよい。膨潤処理槽13、染色処理槽15、洗浄処理槽19についても同様である。
上記の処理液の中でも、PVA系樹脂が析出しやすいか、又はPVA系樹脂の濃度が高まりやすいことから、二色性色素及び架橋剤の少なくとも1つを含む処理液であることが好ましく、すなわち、染色処理液及び架橋処理液の少なくとも1つであることが好ましい。同様の理由で、少なくとも架橋処理液について固体析出工程S201を実施することがより好ましく、少なくとも補色槽に使用される架橋処理液について固体析出工程S201を実施することがさらに好ましい。
なお、固体析出工程S201に供される処理液におけるPVA系樹脂の濃度は、例えば、重量基準で5ppm~5000ppm程度であってよい。
析出する固体は、PVA系樹脂のほか、処理液に含まれる他の成分(例えば、架橋処理液であれば、架橋剤やヨウ化物等)をさらに含んでいてもよい。
【0058】
固体析出工程S201は、処理槽内の処理液の少なくとも一部を該処理槽から抜き出し、これを液滴発生部に導入して液滴を生じさせることによって実施することができる。固体は、該液滴が気化する過程で析出する。図1には、架橋処理槽17に接続路(接続ライン)29を介して液滴発生部30が接続されている例を示している。
【0059】
固体析出工程S201は、特に限定されないが、例えば次の方法によって実施することができる。
〔a〕液滴発生部30としてガススプレー装置を用い、ガスによって圧力を加えた処理液をノズルの先から噴射させて液滴を形成する方法。
ガスとしては、例えば、空気のほか、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。
〔b〕液滴発生部30としてスプレーノズルを用い、ピストンやポンプ等を用いて処理液を加圧し、ノズルの先から噴射させて、ミスト(霧)状の液滴を形成する方法。
〔c〕液滴発生部30としてエアブラシを用い、処理液を噴射させて、ミスト(霧)状の液滴を形成する方法。
エアブラシは、ガスの供給に伴うベンチュリ効果を利用した噴霧器である。ガスとしては、例えば、空気のほか、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。
〔d〕液滴発生部30として超音波霧化器を用い、処理液に超音波を照射することによってミスト(霧)状の液滴を形成する方法。
〔e〕液滴発生部30としてエレクトロスプレー装置を用い、処理液を静電気力の作用によって噴霧し、ミスト(霧)状の液滴を形成する方法。
〔f〕液滴発生部30としてスピンスプレー装置を用い、処理液又はその液滴からより微小な液滴を形成する方法。
スピンスプレー装置は、高速回転可能な回転板を有しており、そこに液体を配置させることによって、遠心力により該液体を散布する装置である。
〔g〕液滴発生部30として沸騰装置を用い、処理液を沸騰又は突沸させて液滴を形成する方法。
沸騰装置としては、例えば、処理液を接触させることによって沸騰又は突沸を生じさせる加熱体(加熱されたプレート等)処理液が置かれる環境の気圧を低下させることによって沸騰又は突沸を生じさせる減圧装置等が挙げられる。
【0060】
処理液を液滴化させることによって固体の析出が生じやすくなる。ただし、液滴のサイズがあまりに大きいと、固体析出が起こりにくい。したがって、処理液の液滴のサイズは、例えば1nm~1mm程度の範囲であることが好ましい。
【0061】
固体析出工程S201によって得られた固液物(固体が析出した処理液)を容易に回収できるようにするために、処理液の液滴化(及び固体析出)は通常、閉じた空間内で実施される。
【0062】
固体析出工程S201は、処理液又はそれから形成される液滴の温度を低下させる工程を含んでいてもよい。処理液の温度を低下させてから、若しくは処理液の温度を低下させながら、又は液滴の温度を低下させながら固体を析出させると、水に対するPVA系樹脂の溶解度が下がるため、固体の析出量を増加させやすい傾向にある。固体の析出量を増加させることにより、処理液中に溶出しているPVA系樹脂の除去効率を高めることができる。
処理液又は液滴の冷却温度は、例えば0~25℃であり、好ましくは0~15℃である。
上記処理液又は液滴の温度の低下は、液滴の一部が気化する際、気化熱として熱が奪われることによって生じる温度低下を含む。
【0063】
固体析出工程S201は、処理槽から処理液を抜き出すための接続路内で行われてもよい。すなわち、上記接続路自体が液滴発生部30を兼ねていてもよい。
【0064】
(5)固体除去工程S202
偏光フィルムの製造方法は、固体析出工程S201で生じた固体(PVA系樹脂を含む固体)の少なくとも一部を除去する工程をさらに含むことができる。
固体を除去する方法としては、特に制限されず、活性炭処理など物理吸着を利用して固体を除去する方法や、濾過フィルタ等の固液分離装置を用いた固液分離(濾過)によって固体を除去する方法等が挙げられる。
図1には、固体析出工程S201によって得られた固液物(固体が析出した処理液)を、接続路(接続ライン)31を通して濾過フィルタ40に導入することによって固体を除去する例を示している。接続路(接続ライン)31は、液滴発生部30と濾過フィルタ40とを接続している。
【0065】
(6)再利用工程S203
偏光フィルムの製造方法は、固体除去工程S202によって回収される液体(固体が除去された後の処理液)の少なくとも一部を処理槽に戻す工程をさらに含んでいてもよい。
上記液体は、必要に応じて、温度調整等が行われた後に処理槽に戻される。
図1を参照して、濾過フィルタ40と処理槽(架橋処理槽17)とを接続する接続路41を通して、上記液体を処理槽に戻すことができる。
【0066】
処理槽に戻される上記液体は、固体除去工程S202を経てPVA系樹脂の濃度が低減されたものである。したがって、固体析出工程S201、固体除去工程S202、及び再利用工程S203の一連の工程を連続的に実施することにより、処理槽内の処理液におけるPVA系樹脂の濃度を、PVA系樹脂を含む析出物がフィルムに付着するという上述の不具合を抑制できる程度に低減あるいは維持することができる。
【0067】
処理槽内の処理液の量を調整するために、固体除去工程S202によって回収される液体の少なくとも一部を処理槽に戻しながら、又は固体除去工程S202によって回収される液体の少なくとも一部を処理槽に戻す工程とは別のタイミングで、フレッシュな処理液を処理槽を補充してもよい。
【0068】
(7)実験例
架橋処理槽を2槽(それぞれ第1架橋処理槽17a、第2架橋処理槽17bという。)有すること以外は図1に示される装置と同様の偏光フィルム製造装置を用いて、長尺のポリビニルアルコールフィルム(PVA系樹脂フィルム10)から偏光フィルム25を連続製造した。用いたポリビニルアルコールフィルムは、厚み60μmのポリビニルアルコールフィルムであり、フィルムを構成するポリビニルアルコールのケン化度は99.9モル%以上、平均重合度は2400であった。
【0069】
〔a〕膨潤処理工程
巻出ロール11よりPVA系樹脂フィルム10を連続的に巻き出しながら搬送し、30℃の純水が入った膨潤処理槽13に浸漬しながら、フィルムが弛まないようにニップロール2a,2b間に周速差をつけて2.5倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行って膨潤処理した。
【0070】
〔b〕染色処理工程
次に、ニップロール2bを通過したPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水(重量比)が0.05/2/100である30℃の染色処理槽15に120秒間浸漬した。この染色処理では、ニップロール2b,2c間に周速差をつけて1.1倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。
【0071】
〔c〕架橋処理工程
次に、耐水化を目的とする第1の架橋処理を施すため、ニップロール2cを通過したPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水(重量比)が12/4.4/100である56℃の第1架橋処理槽17aに30秒間浸漬した。この第1の架橋処理においても、ニップロール間に周速差をつけて、1.9倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。次いで、第1の架橋処理後のPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水(重量比)が9/2.9/100である40℃の第2架橋処理槽17bに15秒間浸漬した(第2の架橋処理)。この第2の架橋処理においても、ニップロール間に周速差をつけて、1.05倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。
その後、第2の架橋処理後のPVA系樹脂フィルム10を15℃の純水が入った洗浄処理槽19に浸漬し、次いで乾燥炉21を通過させることにより70℃で3分間乾燥させて、偏光フィルム25を作製した。
【0072】
上記の偏光フィルムの連続製造を実施した後の第2架橋処理槽17bから、架橋処理液をサンプリングし、下記の固体析出実験を行った。サンプリングした架橋処理液中のポリビニルアルコール濃度を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したところ、重量基準で約1300ppmであった。
【0073】
(1)40℃の架橋処理液(400mL)を常温で放置した。30分間放置したところ、架橋処理液の温度は37℃となったが、固体の析出は見られなかった。
(2)40℃の架橋処理液(400mL)を30分かけて15℃まで冷却したが、固体の析出は見られなかった。
(3)プラスチック製の袋内で40℃の架橋処理液(400mL)を、スプレーノズルを用いて20分かけて噴霧した。袋内に溜まった架橋処理液にはPVA系樹脂を含む固体が多量に析出していた。袋内に溜まった架橋処理液の温度は19℃であった。
【符号の説明】
【0074】
1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h,1i,1j,1k,1l ガイドロール、2a,2b,2c,2d,2e,2f ニップロール、10 ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(PVA系樹脂フィルム)、11 巻出ロール、13 膨潤処理槽、15 染色処理槽、17 架橋処理槽、19 洗浄処理槽、21 乾燥炉、25 偏光フィルム、27 巻取ロール、29 接続路、30 液滴発生部、31 接続路、40 濾過フィルタ、41 接続路。
図1