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特許7014952マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/66 20060101AFI20220126BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20220126BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20220126BHJP
【FI】
C09K11/66
C09K11/08 B
H01L33/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017137685
(22)【出願日】2017-07-14
(65)【公開番号】P2019019190
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】坂本 昌章
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145316(JP,A)
【文献】特開2015-113431(JP,A)
【文献】特開2011-006501(JP,A)
【文献】特開平10-102054(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102585812(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム及びフッ化マグネシウムを含むマグネシウム源と、酸化ゲルマニウムを含むゲルマニウム源と、炭酸マンガンを含むマンガン源と、第一フラックス及び第二フラックスとを含む混合物を準備することと、
前記混合物を1000℃以上1300℃以下で熱処理することと、を含むマグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体の製造方法であり
前記第一フラックスは、フッ化リチウム及びフッ化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記第二フラックスは、フッ化カルシウムを含み、
前記混合物は、マグネシウム源、ゲルマニウム源及びマンガン源の総量に対して、前記第一フラックスの含有率が0.1重量%以上3重量%以下であり、前記第二フラックスの含有率が5重量%以上10重量%以下であり、
前記マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体は、下式で表される基本組成を有する、製造方法。
sMgO・tMgF ・uGeO :vMn 4+
(式中、s、t、u及びvは、3≦s≦3.7、0.3≦t≦0.9、0.95≦u≦0.99、0.01≦v≦0.02、3.7≦s+t≦4.2を満たす。)
【請求項2】
前記マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体は、前記基本組成に加えて、リチウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である第一金属成分と、カルシウムである第二金属成分と、を更に含み、
前記基本組成中のゲルマニウムとマンガンの組成比の合計を1モルとする場合に、前記第一金属成分の含有率が0.8モル%以上25モル%以下であり、前記第二金属成分の含有率が10モル%以上50モル%以下である、請求項1に記載の製造方法
【請求項3】
前記熱処理の時間が0.5時間以上20時間以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化ゲルマニウム及びマンガンを含み、下式で表される基本組成を有し、
前記基本組成に加えて、リチウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である第一金属成分と、カルシウムである第二金属成分とを更に含み、
前記基本組成中のゲルマニウムとマンガンの組成比の合計を1モルとする場合に、
前記第一金属成分の含有率が0.8モル%以上25モル%以下であり、
前記第二金属成分の含有率が10モル%以上50モル%以下である、マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体。
sMgO・tMgF ・uGeO :vMn 4+
(式中、s、t、u及びvは、3≦s≦3.7、0.3≦t≦0.9、0.95≦u≦0.99、0.01≦v≦0.02、3.7≦s+t≦4.2を満たす。)
【請求項5】
659nmにおけるリン酸水素カルシウムを基準とする相対反射率が、93%以上である、請求項4に記載のマグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light Emitting Diode:以下「LED」と呼ぶ。)と蛍光体とを組み合わせた発光装置は、照明装置、液晶表示装置のバックライト等へと広く応用されている。例えば、照明装置に用いる蛍光体には、発光効率が高い蛍光体が求められている。また、バックライト用途に用いる蛍光体にはカラーフィルターとの組合せの相性が求められ、発光スペクトルの半値幅が狭い蛍光体が求められている。
【0003】
発光スペクトルの半値幅の狭い赤色蛍光体の一つとして、Mn4+で賦活されたマグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体、その組成が例えば、3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mn4+で表される赤色発光の蛍光体(以下、「MGF蛍光体」ともいう。)が知られている。このMGF蛍光体は、波長254nm付近の光で効率的に励起されるが、より長波長の青色光で励起される赤色蛍光体が検討されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-006501号公報
【文献】中国特許出願公開第102585812号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、MGF蛍光体の基本的な特性を有しながら、赤色領域における反射率が高く、波長350nmから500nmの励起光による発光効率に優れる赤色蛍光体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本開示は以下の態様を包含する。
第一の態様は、マグネシウム源と、ゲルマニウム源と、マンガン源と、第一フラックス及び第二フラックスとを含む混合物を準備することと、前記混合物を熱処理することと、を含み、前記第一フラックスは、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、ハロゲン化物及び炭酸塩の少なくとも一方を含み、前記第二フラックスは、カルシウム、ストロンチウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含むハロゲン化物並びに酸化亜鉛の少なくとも一方を含み、前記混合物は、マグネシウム源、ゲルマニウム源及びマンガン源の総量に対して、前記第一フラックスの含有率が5重量%未満であり、前記第二フラックスの含有率が50重量%未満である、マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体の製造方法である。
【0007】
第二の態様は、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化ゲルマニウム及びマンガンを含む組成を有し、前記組成が、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種である第一金属成分と、カルシウム、ストロンチウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である第二金属成分とを更に含み、前記第一金属成分の含有率が0.5モル%以上25モル%以下であり、前記第二金属成分の含有率が2モル%以上110モル%以下である、マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、MGF蛍光体の基本的な特性を有しながら、赤色領域における反射率が高く、波長350nmから500nmの励起光による発光効率に優れる赤色蛍光体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例6、比較例1及び参考例に係る蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図2】実施例6及び比較例1に係る蛍光体の反射スペクトルを示す図である。
図3】本実施態様に係る蛍光体のフッ化カルシウム添加量に対する相対エネルギーの変化を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係るマグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体及びその製造方法を、実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すマグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体及びその製造方法に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。また本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。平均粒径は、空気透過法を基本原理として測定されるF.S.S.S.N.(Fisher Sub Sieve Sizer's No.)であり、例えば、Fisher Scientific社製Fisher Sub-Sieve Sizer Model95を用いて測定される。反射率は、固体試料について分光光度計を用い、リン酸水素カルシウム(CaHPO)を基準として測定される。すなわち反射率はリン酸水素カルシウムを基準試料とした相対反射率として求められる。
【0011】
マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体の製造方法
本実施形態の製造方法は、マグネシウム源と、ゲルマニウム源と、マンガン源と、第一フラックス及び第二フラックスとを含む混合物を準備することと、前記混合物を熱処理することとを含む。前記第一フラックスは、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、ハロゲン化物及び炭酸塩の少なくとも一方を含む。前記第二フラックスは、カルシウム、ストロンチウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含むハロゲン化物並びに酸化亜鉛の少なくとも一方を含む。前記混合物は、マグネシウム源、ゲルマニウム源及びマンガン源の総量に対して、前記第一フラックスの含有率が5重量%未満であり、前記第二フラックスの含有率が50重量%未満である。
【0012】
蛍光体の原料化合物に、特定の第一フラックスと第二フラックスとをそれぞれ特定の含有率で含有させた混合物を熱処理してMGF蛍光体を製造することで、得られるMGF蛍光体の励起波長350nmから500nmにおける発光効率が向上する。また赤色領域における反射率が高く、つまり、赤色領域における光の吸収が小さくなる。これらの理由は、例えば、以下のように考えることができる。第一フラックスと第二フラックスの融点が異なるため、それぞれのフラックスによる効果が相乗的に発現し、得られるMGF蛍光体の結晶性が向上するためと考えることができる。また、例えば、以下のようにも考えられる。第一フラックスに含まれる一価の陽イオンとなり得る金属元素は、第二フラックスの金属元素に比べてMGF蛍光体の組成に入り難い。一方、第二フラックスに含まれる二価の陽イオンとなり得る金属元素は、MGF蛍光体に元々含まれる二価のMgサイトに置換され易い。このような傾向により、フラックスとして機能は、第一フラックスよりも第二フラックスのほうが高いと考えられる。しかし、第二フラックスにおけるフラックスとしての機能にも限界があり、この限界を超えたところで、第一フラックスが更なるフラックスとして機能すると考えられる。これにより、MGF蛍光体の結晶性が更に向上するためと考えることもできる。
【0013】
本実施形態の製造方法で得られるMGF蛍光体は、励起波長350nmから500nmにおける発光効率が向上する。励起波長450nmにおける発光効率の向上率は、特定量の第一フラックス及び第二フラックスを使用しない場合に比べて、例えば5%以上であり、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。発光効率の向上率は、発光スペクトルにおける460nm以上830nm以下の範囲における積分値を用いて相対的に評価される。
【0014】
本実施形態の製造方法で得られるMGF蛍光体の最適励起波長は、例えば350nm以上500nm以下の範囲にあり、好ましくは400nm以上470nm以下の範囲であり、より好ましくは410nm以上460nm以下の範囲である。また本実施形態の製造方法で得られるMGF蛍光体では赤色領域における反射率が向上する。これにより励起された蛍光体からの光束がより向上する。赤色領域における反射率は、例えば659nmにおける蛍光体の反射率として評価される。659nmにおける反射率が高ければ、赤色領域における吸収が小さいと判断され、結果として蛍光体からの光束が向上する。なお、蛍光体の分光反射率は、分光蛍光光度計、例えば、F-4500(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、リン酸水素カルシウム(CaHPO)を基準とする相対反射率として測定することができる。MGF蛍光体の659nmにおける相対反射率は、例えば93%以上であり、好ましくは93.5%以上である。
【0015】
蛍光体原料となる混合物は、マグネシウム源、ゲルマニウム源及びマンガン源である原料化合物を含む。マグネシウム源、ゲルマニウム源及びマンガン源としては、それぞれの元素を含む酸化物、水酸化物等の含酸素化合物;フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ素化物等のハロゲン化物;炭酸塩等を挙げることができる。原料化合物の純度は、発光効率の観点から、例えば90%以上であり、好ましくは92%以上である。また、原料化合物の平均粒径は例えば10μm以下であり、好ましくは5μm以下である。原料化合物の平均粒径の下限は例えば0.05μm以上である。
【0016】
マグネシウム源として具体的には、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、炭酸マグネシウム(MgCO)、フッ化マグネシウム(MgF)等を挙げることができる。マグネシウム源は少なくとも酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム等を含むことが好ましい。ゲルマニウム源として具体的には、酸化ゲルマニウム(GeO)等を挙げることができる。マンガン源として具体的には、炭酸マンガン(MnCO)、酸化マンガン(MnO)、フッ化マンガン(MnF、MnF)等を挙げることができる。マンガン源は少なくとも炭酸マンガンを含むことが好ましい。これらの原料化合物の混合比は、目標とする蛍光体組成に合わせて選択すればよい。
【0017】
第一フラックスは、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属を含むハロゲン化物、並びに前記アルカリ金属の少なくとも1種を含む炭酸塩の少なくとも一方を含む。第一フラックスは、リチウム及びナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属を含むことが好ましい。第一フラックスの融点は例えば1200℃以下であり、好ましくは1000℃以下である。第一フラックスの融点の下限は例えば500℃以上である。第一フラックスとして具体的には、フッ化リチウム(LiF、融点848℃)、炭酸リチウム(LiCO、融点726℃)、塩化リチウム(LiCl、融点605℃)、フッ化ナトリウム(NaF、融点993℃)、炭酸ナトリウム(NaCO、融点851℃)、塩化ナトリウム(NaCl、融点801℃)、フッ化カリウム(KF、融点860℃)、炭酸カリウム(KCO、融点891℃)、塩化カリウム(KCl、融点770℃)等を挙げることができる。第一フラックスは、好ましくはフッ化リチウム、炭酸リチウム及びフッ化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である。第一フラックスは1種の化合物を単独で用いてもよく、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
第一フラックスの含有率は、原料化合物の総量に対して5重量%未満であるが、好ましくは3重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下であり、また例えば0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.3重量%以上である。第一フラックスの含有率が前記範囲内であると、発光効率がより向上する傾向がある。
【0019】
第二フラックスは、カルシウム、ストロンチウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含むハロゲン化物並びに酸化亜鉛の少なくとも一方を含む。第二フラックスの融点は例えば2000℃以下であり、好ましくは1500℃以下である。第二フラックスの融点の下限は例えば250℃以上である。第二フラックスとして具体的には、フッ化カルシウム(CaF、融点1418℃)、塩化カルシウム(CaCl、融点772℃)、臭化カルシウム(CaBr、融点370℃)、フッ化ストロンチウム(SrF、融点1477℃)、塩化ストロンチウム(SrCl、融点873℃)、臭化ストロンチウム(SrBr、融点643℃)、フッ化亜鉛(ZnF、融点872℃)、塩化亜鉛(ZnCl、融点283℃)、酸化亜鉛(ZnO、融点1980℃)等を挙げることができ、好ましくはフッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化ストロンチウム及び酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である。第二フラックスは1種の化合物を単独で用いてもよく、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
第二フラックスの含有率は、原料化合物の総量に対して50重量%未満であるが、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、特に好ましくは8重量%以下であり、また例えば0.01重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、更に好ましくは5重量%以上である。第二フラックスの含有率が前記範囲内であると、発光効率がより向上し、赤色領域における反射率がより向上する傾向がある。
【0021】
混合物における第一フラックスに対する第二フラックスの含有比(第二フラックス/第一フラックス)は重量比で、例えば0.002以上であり、好ましくは0.3以上、より好ましくは3以上である。また含有比は、例えば5000以下であり、好ましくは800以下であり、より好ましくは200以下、更に好ましくは30以下である。含有比が前記範囲内であると、発光効率がより向上し、赤色領域での反射率がより向上する傾向がある。
【0022】
混合物は、原料化合物を目的とする蛍光体の組成比に合わせて秤量し、所定量の第一フラックス及び第二フラックスを加えて混合することで調製することができる。混合は、公知の混合装置を用いて行うことができる。公知の混合装置としては、高速せん断型ミキサー、ボールミル、V型混合機、羽根撹拌式混合機等が挙げられる。
【0023】
得られる混合物は熱処理に供される。混合物の熱処理は、例えば上記で得られる混合物をるつぼ、ボート等の容器に収容し、容器ごと熱処理炉中で加熱することで行われる。容器は例えばアルミナ製とすることができる。
【0024】
熱処理の温度は例えば900℃以上、好ましくは950℃以上、より好ましくは1000℃以上であり、また例えば1400℃以下、好ましくは1350℃以下、より好ましくは1300℃以下である。熱処理温度が900℃以上であれば、原料化合物の反応が充分に促進される。また熱処理温度が1400℃以下であれば、原料化合物又は熱処理物の溶融が抑制され、また原料化合物の一部が揮散することによる得られる熱処理物における組成の変動が抑制される。
【0025】
熱処理の時間は例えば0.5時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは6時間であり、また例えば20時間以下、好ましくは16時間以下、より好ましくは12時間以下である。熱処理時間が0.5時間以上であれば、原料化合物の反応が充分に促進される。また熱処理時間が20時間以下であれば、原料化合物又は熱処理物の溶融が抑制され、また原料化合物の一部が揮散することによる得られる熱処理物における組成の変動が抑制される。
【0026】
熱処理は、混合物を所定温度の熱処理炉に投入して所定時間行ってもよく、また例えば常温状態から所定温度にまで昇温し、所定温度を所定時間維持して行ってもよい。所定温度まで昇温して熱処理する場合、昇温速度は例えば2.5℃/分以上20℃/分以下である。
【0027】
熱処理の雰囲気は、酸素を含む大気雰囲気であっても、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であってよい。熱処理の雰囲気は、例えば生産性の観点から、大気雰囲気が好ましい。得られる熱処理物には、必要に応じて解砕処理、粉砕処理、分級処理、洗浄処理等を行ってもよい。
【0028】
マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体
マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体は、酸化マグネシウム(MgO)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化ゲルマニウム(GeO)及びマンガンを含む組成を有する。前記組成は、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種である第一金属成分と、カルシウム、ストロンチウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である第二金属成分とを更に含む。前記第一金属成分の含有率が0.5モル%以上25モル%以下であり、前記第二金属成分の含有率が2モル%以上110モル%以下である。
【0029】
マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体が、MGF蛍光体の基本組成に加えて、第一金属成分と、第二金属成分とをそれぞれ所定の含有率で更に含むことで、蛍光体の励起波長350nmから500nmにおける発光効率が向上し、また赤色領域における反射率が向上する。マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体の最適励起波長は、例えば350nm以上500nm以下の範囲にあり、好ましくは400nm以上470nm以下の範囲であり、より好ましくは410nm以上460nm以下の範囲である。また発光ピーク波長は、例えば650nm以上665nm以下の範囲にあり、好ましくは655nm以上665nm以下の範囲である。さらに発光スペクトルにおける主発光ピークの半値幅は、例えば10nm以上35nm以下であり、好ましくは15nm以上30nm以下である。
【0030】
マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体は、例えば下式で表される基本組成を有する。
sMgO・tMgF・uGeO:vMn4+
式中、s、t、u及びvは、2.8≦s≦3.8、0.2≦t≦1.0、0.9≦u≦1.0、0.005≦v≦0.03、3.5≦s+t≦4.2を満たし、好ましくは3≦s≦3.7、0.3≦t≦0.9、0.95≦u≦0.99、0.01≦v≦0.02、3.7≦s+t≦4.2を満たす。
【0031】
リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種である第一金属成分は、例えば第一フラックスに由来する金属成分であり、カルシウム、ストロンチウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である第二金属成分は、例えば第二フラックスに由来する金属成分である。
【0032】
マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体における第一金属成分の含有率は、0.5モル%以上であるが、好ましくは0.65モル%以上、より好ましくは0.8モル%以上である。また第一金属成分の含有率は25モル%以下であるが、好ましくは15モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0033】
マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体における第二金属成分の含有率は、2モル%以上であるが、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上である。また第二金属成分の含有率は110モル%以下であるが、好ましくは80モル%以下、より好ましくは50モル%以下である。
【0034】
マグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体は、例えば既述の製造方法によって効率的に製造することができる。またマグネシウムフルオロジャーマネート蛍光体は、例えば350nmから500nmの範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と組み合わせて、高効率な深赤色発光の発光装置、さらに他の蛍光体と組み合わせて白色系を含む混色光を発する発光装置に適用することができる。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
<実施例1>
原料化合物として、MgO(純度98%)が3.5モル当量、MgF(純度98%)が0.5モル当量、GeO(純度96%)が1モル当量、及びMnCO(純度92%)が0.015モル当量の配合比となるように精確に秤量し、羽根撹拌式混合機で混合した。次いで第一フラックスとしてLiF(純度98%)を原料化合物の総量に対して0.5重量%と、第二フラックスとしてCaCl(純度95%)を原料化合物の総量に対して3重量%とを原料化合物に添加して更に羽根撹拌式混合機で混合して、混合物を得た。得られた混合物を大気雰囲気下、1150℃で6時間熱処理して、熱処理物として実施例1のMGF蛍光体を得た。
【0037】
<実施例2から12、比較例1から6>
第一フラックス及び第二フラックスの種類及び添加量(重量%)を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして混合物を調製し、これを同様に熱処理して実施例2から12及び比較例1から6のMGF蛍光体を得た。
【0038】
<評価>
上記で得られた蛍光体について、以下のような評価をおこなった。
<発光スペクトルの測定>
実施例6で得られたMGF蛍光体、比較例1で得られたMGF蛍光体、参考例としてのCASN蛍光体(組成式:CaAlSiN:Eu2+)について、量子効率測定システム:QE-2000(大塚電子株式会社製)を用いて、励起波長450nmにおける発光スペクトルを測定した。CASN蛍光体の最大発光強度で規格化した発光スペクトルを図1に示す。
【0039】
<反射スペクトルの測定>
実施例6で得られたMGF蛍光体及び比較例1で得られたMGF蛍光体について、分光蛍光光度計:F-4500(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、波長380nm以上730nm以下の範囲における反射スペクトルを測定した。結果を図2に示す。
【0040】
<平均粒径>
実施例1から12及び比較例1から6で得られたMGF蛍光体について、空気透過法を基本原理とするFisher Sub-Sieve Sizer Model95(Fisher Scientific社製)を用いてF.S.S.S.N.を測定し、これを平均粒径とした。結果を表1に示す。
【0041】
<粉体輝度の測定>
実施例1から12及び比較例1から6で得られたMGF蛍光体について、粉体の発光スペクトルを量子効率測定システム:QE-2000(大塚電子株式会社製)を用い、励起光の波長を450nmとして測定した。比較例2で得られたMGF蛍光体の発光スペクトルのエネルギー値を100%とする各実施例及び比較例の発光スペクトルの相対エネルギー値(相対ENG)として粉体輝度を求めた。結果を表1に示す。なお、エネルギー値は発光スペクトルにおける波長460nm以上830nm以下の範囲における積分値である。結果を表1に示す。
【0042】
<反射率の測定>
分光蛍光光度計:F-4500(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、波長659nmにおける反射率を、リン酸水素カルシウム(CaHPO)を基準とした相対反射率として測定した。結果を表1に示す。
【0043】
<蛍光体の組成>
実施例1から12及び比較例1~6で得られたMGF蛍光体について、ICP分析(誘導結合プラズマ発光分析)装置及びアルフッソン吸光光度法によるフッ素分析装置を用いて、MGF蛍光体に含まれる元素の組成比を分析した。結果を表2に示す。表2では、ゲルマニウム(Ge)とマンガン(Mn)の組成比の合計が1となるようにして各元素の組成比をモル基準で算出した。更に表2の結果を元に、検出されたフッ素元素がMgFに由来するとして、蛍光体の基本組成を算出した。結果を表3に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
実施例1から12では、MGF蛍光体を製造するのに用いる通常の原料成分に加えて、特定の第一フラックス及び第二フラックスをそれぞれ特定量用いている。これにより、実施例1から12で得られたMGF蛍光体は、比較例1から6で得られたMGF蛍光体に比べて相対ENGが大きいか、赤色領域における反射率が高くなっている。特に、第二フラックスのみを用いた比較例3のMGF蛍光体は、赤色領域における反射率が実施例及び比較例の中で最も低かった。ここで比較例1はフラックス成分を添加していない製造例であり、比較例2及び3は一方のフラックス成分のみを添加した製造例であり、比較例4及び5はフラックス成分の添加量が規定の範囲外の製造例であり、比較例6は第二フラックスとは異なるフラックス成分(BaF)を添加した製造例に相当する。
【0048】
図1は、比較例1のMGF蛍光体(点線)と、実施例6のMGF蛍光体(実線)と、参考例としてのCASN蛍光体(破線)とについての発光スペクトルを示す図である。図1に示されるように、実施例6のMGF蛍光体は、波長350nm以上500nm以下の光により励起されて、600nm以上670nm以下の波長領域の光を発光した。また、実施例6のMGF蛍光体は、CASN蛍光体よりも発光スペクトルの半値幅が狭い光を発光していた。
【0049】
図2は、比較例1のMGF蛍光体(点線)と、実施例6のMGF蛍光体(実線)についての反射スペクトルを示す図である。図2に示されるように、フラックスとしてLiFを0.1重量%に加えてCaFを10重量%添加した実施例6のMGF蛍光体では、波長410nm以上470nm以下の範囲の反射率が低下して吸収が大きくなっていることが分かる。そのため、実施例6のMGF蛍光体で測定した波長450nm励起における相対ENGも大きくなっていると考えられる。また実施例6のMGF蛍光体では、480nm以上の波長範囲で、比較例1のMGF蛍光体よりも反射率が向上しており、特に610nm以上の赤色領域における反射率がより向上していることが分かる。
【0050】
図3は、0.5重量%のLiFと、所定量のCaFを組み合わせた実施例1、3、4、7及び10並びに比較例2及び5について、CaF添加量に対する450nm励起での相対ENG(%)の関係を模式的に示す図である。図3に示されるように、LiF添加のみの場合よりも所定量のCaFと組み合わせて添加することで相対ENGは大きくなるが、CaFが過剰になり過ぎると、相対ENGが著しく低下することが分かる。これは例えば、CaFが過剰になると蛍光体の焼結が促進され過ぎて、溶融状態となり、MGF蛍光体の粒子形状が悪化する影響と考えられる。また、蛍光体の組成に入らない過剰分のCaFが未反応の状態で非発光成分として残留することで、MGF蛍光体全体としての相対ENGが低下しているとも考えられる。
図1
図2
図3