(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、表示素子、照明装置、及び表示装置
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220126BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220126BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220126BHJP
G02F 1/13357 20060101ALI20220126BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
H05B33/22 D
H01L27/32
H05B33/14 A
G09F9/30 365
G09F9/30 308Z
G02F1/13357
C08G61/12
(21)【出願番号】P 2018564601
(86)(22)【出願日】2018-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2018002126
(87)【国際公開番号】W WO2018139487
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/002655
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉成 優規
(72)【発明者】
【氏名】本名 涼
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 広貴
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-111719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0329497(US,A1)
【文献】特開2010-155985(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125560(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/175975(WO,A2)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0041124(KR,A)
【文献】ZUNIGA, Carlos A. et al.,Crosslinking Using Rapid Thermal Processing for the Fabrication of Efficient Solution‐Processed Phosphorescent Organic Light-Emitting Diodes,Adv. Mater.,2013年03月25日,Vol.25,pp.1739-1744
【文献】MA, Biwu et al.,New Thermally Cross-Linkable Polymer and Its Application as a Hole-Transporting Layer for Solution Processed Multilayer Organic Light Emitting Diodes,Chem. Mater.,2007年08月25日,Vol.19,pp.4827-4832
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H01L 27/32
G09F 9/30
G02F 1/13357
C08G 61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含み、
前記有機エレクトロニクス材料が、電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを含み、
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、分岐構造を有し、下記式(1)で表される架橋性基を少なくとも2個の末端部に有し、
前記分岐構造が、少なくとも1つの分岐部と、該少なくとも1つの分岐部の1つに結合する3個以上の鎖とを有し、前記3個以上の鎖のそれぞれに、別の少なくとも1つの分岐部と、該別の少なくとも1つの分岐部の1つに結合する別の2個以上の鎖とを更に有する多重分岐構造を含
み、
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、2価の構造単位Lと、下記式(1)で表わされる架橋性基を含む1価の構造単位T1とを少なくとも含み、構造単位Lが、置換又は非置換の芳香族アミン構造である構造単位、及び、置換又は非置換のカルバゾール構造である構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位であり、構造単位T1が、下記式(1)で表わされる構造、及び、下記式(1)で表わされる架橋性基が2価の有機基を介して結合している置換又は非置換の芳香環構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造である構造単位であり、前記2価の有機基が、脂肪族有機基、及び、置換又は非置換の芳香族有機基からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む基であり、
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、更に、3価以上の構造単位B、及び、下記式(1)で表わされる架橋性基を持たない1価の構造単位T2からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、構造単位Bが、置換又は非置換の芳香族アミン構造、置換又は非置換のカルバゾール構造、及び、置換又は非置換の縮合多環式芳香族炭化水素構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造である構造単位であり、構造単位T2が置換又は非置換の芳香環構造である構造単位である、インク組成物。
【化1】
【請求項2】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、3個以上の末端部を有し、その3個以上の末端部の少なくとも2個が式(1)で表わされる架橋性基を有するものである、請求項1に記載の
インク組成物。
【請求項3】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、電荷輸送性を有する構造単位を含むモノマーと、式(1)で表される架橋性基を含むモノマーとを少なくとも含むモノマーの共重合体である、請求項1又は2に記載の
インク組成物。
【請求項4】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する構造単位を含むモノマーと、式(1)で表される架橋性基を含むモノマーとを少なくとも含むモノマーの共重合体である、請求項1~3の何れか1項に記載の
インク組成物。
【請求項5】
前記構造単位Lが、置換又は非置換の芳香族アミン構造である構造単位、及び、置換又は非置換のカルバゾール構造である構造単
位である、請求項1~4の何れか1項に記載の
インク組成物。
【請求項6】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが
、3価以上の構造単位B、及び、式(1)で表わされる架橋性基を持たない1価の構造単位T
2を含
む、請求項
1~5の何れか1項に記載の
インク組成物。
【請求項7】
隣り合う構造単位同士が、一方の構造単位の芳香環上の炭素原子と他方の構造単位の芳香環上の炭素原子との間の単結合によって結合している、請求項
1~6の何れか1項に記載の
インク組成物。
【請求項8】
重合開始剤を更に含有する、請求項1~7の何れか1項に記載
のインク組成物。
【請求項9】
請求項1
~8の何れか1項に記載のインク組成物を成膜して形成された、有機層。
【請求項10】
請求項9に記載の有機層を少なくとも1層備える、有機エレクトロニクス素子。
【請求項11】
1対の陽極及び陰極、並びに、前記陽極及び前記陰極の間に配置された前記有機層を少なくとも含む、請求項10に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項12】
請求項9に記載の有機層を少なくとも1層備える、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項13】
少なくとも基板、陽極、発光層及び陰極を積層してなり、前記発光層が請求項9に記載の有機層である、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項14】
少なくとも基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び陰極を積層してなり、前記正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の少なくとも1つの層が請求項9に記載の有機層である、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項15】
少なくとも基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及び陰極を積層してなる、請求項13又は14に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項16】
基板がフレキシブル基板である、請求項12~15の何れか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項17】
基板が樹脂フィルム基板である、請求項12~16の何れか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項18】
請求項12~17の何れか1項記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
【請求項19】
請求項12~17の何れか1項記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【請求項20】
請求項19記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(「有機EL素子」ともいう。)、表示素子、照明装置、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、例えば、白熱ランプ又はガス充填ランプの代替えとなる大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0003】
有機EL素子は、使用される有機材料から、低分子型有機EL素子及び高分子型有機EL素子の2つに大別される。高分子型有機EL素子では、有機材料として高分子化合物が用いられ、低分子型有機EL素子では、低分子化合物が用いられる。一方、有機EL素子の製造方法は、主に真空系で成膜が行われる乾式プロセスと、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、インクジェット等の無版印刷などにより成膜が行われる湿式プロセスの2つに大別される。簡易成膜が可能であるため、湿式プロセスは、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な方法として期待されている。
【0004】
このため、湿式プロセスに適した材料の開発が進められている。例えば、重合性基を有する化合物を利用して有機薄膜(有機層)の多層構造を形成する検討が行われており、ベンゾシクロブテンを架橋性基に用い、分子内及び/又は分子間で架橋させることにより、上記有機層を硬化させることができる高分子化合物が提案されている(特許文献1及び特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-106241号公報
【文献】特開2010-215886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の高分子化合物は硬化性の観点から湿式プロセスでの成膜性に改善の余地がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の高分子化合物は、主鎖上の末端部以外のユニット(構造単位)が架橋性基を有することから、架橋性基の導入量を変えた場合、それに応じて高分子化合物により形成される有機薄膜(有機層)の導電性も変わってしまう。つまり、架橋性基の導入量の変化に伴い主鎖の組成が大きく変わり、電荷(ホール)の輸送性も大きく変わってしまう。そうすると、発光位置(正孔と電子の再結合位置)は、本来の理想的な場所からずれる(例えば発光層の中心部から正孔輸送層側にずれる)ので、短寿命化してしまう問題がある。
【0008】
そこで本発明は、上記に鑑み、湿式プロセスでの成膜性及び有機エレクトロニクス素子の寿命特性の向上に適した、有機エレクトロニクス材料及びインク組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、有機エレクトロニクス素子の寿命特性の向上に適した有機層を提供すること、更に寿命特性に優れる有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の構造を有する電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを少なくとも含む有機エレクトロニクス材料が、有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子の寿命特性の向上に有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の[1]~[21]に関する。
[1]下記式(1)で表される架橋性基を、少なくとも2個の末端部に有する電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを含む、有機エレクトロニクス材料。
【0011】
【0012】
[2]前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、3個以上の末端部を有し、その3個以上の末端部の少なくとも2個が式(1)で表わされる架橋性基を有するものである、[1]に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0013】
[3]前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、電荷輸送性を有する構造単位を含むモノマーと、式(1)で表される架橋性基を含むモノマーとを少なくとも含むモノマーの共重合体である、[1]又は[2]に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0014】
[4]前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する構造単位を含むモノマーと、式(1)で表される架橋性基を含むモノマーとを少なくとも含むモノマーの共重合体である、[1]~[3]の何れかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0015】
[5]前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、2価の構造単位Lと、式(1)で表わされる架橋性基を含む1価の構造単位T1とを少なくとも含み、構造単位Lが、置換又は非置換の芳香族アミン構造である構造単位、及び、置換又は非置換のカルバゾール構造である構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位であり、構造単位T1が、式(1)で表わされる構造、及び、式(1)で表わされる架橋性基が2価の有機基を介して結合している置換又は非置換の芳香環構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造である構造単位であり、前記2価の有機基が、脂肪族有機基、及び、置換又は非置換の芳香族有機基からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む基である、[1]~[4]の何れかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0016】
[6]前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、更に、3価以上の構造単位B、及び、式(1)で表わされる架橋性基を持たない1価の構造単位T2からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、構造単位Bが、置換又は非置換の芳香族アミン構造、置換又は非置換のカルバゾール構造、及び、置換又は非置換の縮合多環式芳香族炭化水素構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造である構造単位であり、構造単位T2が置換又は非置換の芳香環構造である構造単位である、[5]に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0017】
[7]隣り合う構造単位同士が、一方の構造単位の芳香環上の炭素原子と他方の構造単位の芳香環上の炭素原子との間の単結合によって結合している、[5]又は[6]に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0018】
[8]前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、分岐構造を有し、前記分岐構造が、少なくとも1つの分岐部と、該少なくとも1つの分岐部の1つに結合する3個以上の鎖とを有し、前記3個以上の鎖のそれぞれに、別の少なくとも1つの分岐部と、該別の少なくとも1つの分岐部の1つに結合する別の2個以上の鎖とを更に有する多重分岐構造を含む、[1]~[7]の何れかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0019】
[9]上記[1]~[8]の何れかに記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物。
【0020】
[10]上記[1]~[8]の何れかに記載の有機エレクトロニクス材料、又は[9]に記載のインク組成物を成膜して形成された、有機層。
【0021】
[11]上記[10]に記載の有機層を少なくとも1層備える、有機エレクトロニクス素子。
【0022】
[12]1対の陽極及び陰極、並びに、前記陽極及び前記陰極の間に配置された前記有機層を少なくとも含む、[11]に記載の有機エレクトロニクス素子。
【0023】
[13]上記[10]に記載の有機層を少なくとも1層備える、有機エレクトロルミネセンス素子。
【0024】
[14]少なくとも基板、陽極、発光層及び陰極を積層してなり、前記発光層が[10]に記載の有機層である、有機エレクトロルミネセンス素子。
【0025】
[15]少なくとも基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び陰極を積層してなり、前記正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の少なくとも1つの層が[10]に記載の有機層である、有機エレクトロルミネセンス素子。
【0026】
[16]少なくとも基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及び陰極を積層してなる、[14]又は[15]に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0027】
[17]基板がフレキシブル基板である、[13]~[16]の何れかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0028】
[18]基板が樹脂フィルム基板である、[13]~[17]の何れかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0029】
[19]上記[13]~[18]の何れかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
【0030】
[20]上記[13]~[18]の何れかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【0031】
[21]上記[20]に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【0032】
本願の開示は、2017年1月26日に出願されたPCT/JP2017/002655に記載の主題と関連しており、その開示内容は引用によりここに援用される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、湿式プロセスでの成膜性及び有機エレクトロニクス素子の寿命特性の向上に適した、有機エレクトロニクス材料及びインク組成物を提供することができる。また、本発明によれば、有機エレクトロニクス素子の寿命特性の向上に適した有機層を提供すること、更に寿命特性に優れる有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態である有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態について説明する。
<有機エレクトロニクス材料>
本実施形態の有機エレクトロニクス材料は、式(1)で表される架橋性基を、少なくとも2個の末端部に有する電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを含む。この有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを、1種のみ含有しても、又は、2種以上含有してもよい。電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーは、低分子化合物と比較し、湿式プロセスにおける成膜性に優れるという点で好ましい。
【0036】
[電荷輸送性ポリマー又はオリゴマー]
本実施形態における電荷輸送性ポリマー又はオリゴマー(以下の記載において、電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを、まとめて「電荷輸送性ポリマー」とも記す。)は、末端部に式(1)で表される架橋性基を含み、電荷を輸送する能力を有するポリマー又はオリゴマーである。式(1)で表される架橋性基は、電荷輸送性ポリマー1分子あたり、少なくとも2個の末端部にあればよい。電荷輸送性ポリマーは、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。電荷輸送性ポリマーは、好ましくは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含み、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bを更に含んでもよい。電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」~「3価以上」の結合部位において互いに結合している。構造単位L、構造単位B及び構造単位Tは、いずれも、共重合反応による各構造単位の導入に用いられるモノマー由来の構造単位である。
【0037】
本実施形態において、「末端部」とは、電荷輸送性ポリマーを構成する構造単位のうち、後述する構造単位Tにより構成される構造単位のことをいう。この末端部(構造単位T)は、電荷輸送性ポリマーを構成する構造単位L(後述)又は構造単位B(後述)に直接結合し、主鎖又は側鎖の一部を構成する。「主鎖」とは、構造単位Lと構造単位B(任意に含まれる単位)と構造単位Tとにより構成される構造単位の繋がりをいう。「主鎖」は、電荷輸送性ポリマーに含まれる最も長い繋がりである。「側鎖」とは、構造単位Bによって主鎖から分岐した部分をいい、好ましくは構造単位Lと構造単位B(任意に含まれる単位)と構造単位Tとにより構成される構造単位の繋がりをいう。また、「構造単位」とは、電荷輸送性ポリマーの構造において、電荷輸送性ポリマーを合成する際に用いる、それぞれのモノマー毎の構造(モノマー単位の構造)に由来する構造をいう。したがって、末端部を構成する構造単位Tの構造を有するモノマーが式(1)で表される架橋性基を有する場合、このモノマーを用いて合成された電荷輸送性ポリマーは、末端部(構造単位T)に式(1)で表される架橋性基を有することになり、末端部に式(1)で表される架橋性基を含む電荷輸送性ポリマーに該当する。一方、末端部を構成する構造単位Tの構造を有するモノマーが式(1)で表される架橋性基を有しない場合、構造単位Lの構造を有するモノマーが式(1)で表される架橋性基を有していても、これらのモノマーを用いて合成された電荷輸送性ポリマーは、末端部(構造単位T)には式(1)で表される架橋性基を有しないことになり、末端部に式(1)で表される架橋性基を含む電荷輸送性ポリマーに該当しない。電荷輸送性ポリマーは、末端部に式(1)で表される架橋基を有することにより、十分な硬化性を得ることと、電荷輸送性ポリマーの導電性に与える影響を抑えることとの両立が可能となる。
【0038】
本実施形態における電荷輸送性ポリマーは、その少なくとも2個の末端部に、式(1)で表される架橋性基を含む。すなわち、上記の「末端部を構成する1価の構造単位T」の少なくとも一部は、式(1)で表される架橋性基、又は、式(1)で表わされる架橋性基を有する構造単位である。
すなわち、本実施形態における電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を有する構造単位を含むモノマーと、式(1)で表される架橋性基を含むモノマーとを少なくとも含むモノマーの共重合体である。また、本実施形態における電荷輸送性ポリマーは、正孔輸送性を有する構造単位を含むモノマーと、式(1)で表される架橋性基を含むモノマーとを少なくとも含むモノマーの共重合体であることが好ましい。
【0039】
好ましい実施形態によれば、電荷輸送性ポリマーは分岐構造を有し、分岐構造は、少なくとも1つの分岐部と、該少なくとも1つの分岐部の1つに結合する3個以上の鎖を有する。より好ましくは、分岐構造は、少なくとも1つの分岐部と、該少なくとも1つの分岐部の1つに結合する3個以上の鎖とを有し、更に、前記3個以上の鎖のそれぞれに、別の少なくとも1つの分岐部と、該別の少なくとも1つの分岐部の1つに結合する別の2個以上の鎖とを有する多重分岐構造を含む。ここで、「鎖」とは、少なくとも構造単位Lを含む構造単位の繋がりであり、好ましくは構造単位Lと構造単位B(任意に含まれる単位)と構造単位Tとにより構成される構造単位の繋がりである。
【0040】
好ましい実施形態によれば、電荷輸送性ポリマーは分岐構造を有し、分岐構造は、少なくとも1つの構造単位Bと、該少なくとも1つの構造単位Bの1つに結合する3個以上の構造単位Lを有する。好ましくは、分岐構造は、少なくとも1つの構造単位Bと、該少なくとも1つの構造単位Bの1つに結合する3個以上の構造単位Lとを有し、更に、前記3個以上の構造単位Lのそれぞれにつき、該構造単位Lに結合する別の構造単位Bと、該別の構造単位Bに結合する別の2個以上の構造単位Lとを有する多重分岐構造を含む。
【0041】
(構造)
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、例えば、以下の構造が挙げられる。電荷輸送性ポリマーは、以下の部分構造を有するものに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。本明細書において式中の「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0042】
【0043】
【0044】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニレン構造、ターフェニレン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0045】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位Lは、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。
【0046】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Lは、以下に限定されない。
【0047】
【0048】
【0049】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。好ましくは、Rは、それぞれ独立に、-R1、-OR2、-SR3、-OCOR4、-COOR5、-SiR6R7R8、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択される。R1~R8は、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基;又は、炭素数2~30個のアリール基又はヘテロアリール基を表す。アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。アルキル基は、更に、炭素数2~20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、更に、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアルキル置換アリール基である。Arは、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0050】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。1価の構造単位Tで構成される末端部の、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの数は、特に制限はないが、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。ただし、本実施形態における電荷輸送性ポリマーは、末端部を構成する1価の構造単位Tとして、式(1)で表わされる架橋性基を有する1価の構造単位を、1分子あたり、少なくとも2個の末端部に有する。後述するように、電荷輸送性ポリマーが、式(1)で表わされる架橋性基が位置する末端部に加えて、更に他の重合性官能基を有する末端部を有する場合、その末端部を構成する構造単位Tは重合可能な構造(すなわち、例えば、ピロール-イル基等の重合性官能基)であってもよい。
すなわち、電荷輸送性ポリマーは、3個以上の末端部を有し、その3個以上の末端部の少なくとも2個が式(1)で表わされる架橋性基を有するものであることが好ましい。
【0051】
構造単位Tの少なくとも一部は、式(1)で表される架橋性基を有する構造単位(以下、これを「構造単位T1」とも記す。)である。本実施形態における電荷輸送性ポリマーは、1分子あたりに少なくとも2個の末端部に構造単位T1を有すれば、それ以外の構造単位T(以下、これを「構造単位T2」とも記す。)の数及び種類は特に限定されない。
【0052】
(構造単位T1)
構造単位T1は、置換基を有していてもよく、また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。また、構造単位T1は、芳香環を有し、脂肪族有機基及び/又は芳香族有機基を介し、式(1)で表される架橋性基が芳香環を置換していてもよい。
構造単位T1は、式(1)で表される架橋性基が脂肪族有機基及び/又は芳香族有機基等を介して芳香環を置換している場合、芳香環上に結合部位を持つ構造となる。すなわち、構造単位T1は、例えば、式(1)で表わされる構造単位であってもよく、あるいは、式(1)で表わされる架橋性基が2価の有機基、例えば、2価の脂肪族有機基及び/又は芳香族有機基等を介して結合している置換又は非置換の芳香環構造を有していてもよい。上記の芳香環構造が置換基を有する場合、置換基としては、構造単位Lについて例示した置換基Rなどが挙げられる。
【0053】
「芳香環」とは、芳香性を示す環をいう。芳香環は、例えばベンゼンのような単環構造のものであってもよく、例えばナフタレンのように環が互いに縮合した縮合環構造のものであってもよい。
芳香環は、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、又はフェナントレン等の芳香族炭化水素であってもよく、ピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン、フラン、ピロール、チオフェン、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、又はベンゾチオフェン等の芳香族複素環であってもよい。
芳香環は、例えば、ビフェニル、ターフェニル、又はトリフェニルベンゼンのように、独立した単環及び縮合環から選択される2個以上が結合した構造であってもよい。
【0054】
構造単位T1としては、例えば、下記式(2)又は(3)で表わされるものを挙げることができる。
【0055】
【0056】
【0057】
式(3)中、a~eは整数を表し、aは0~1、bは0~20、cは1~5、dは0~3、eは1~5である。
【0058】
構造単位T1の具体例を下記に示すが、以下の具体例に限定されるものではない。なお、以下に示す「*」は結合部位を表す。
【0059】
【0060】
電荷輸送性ポリマーにおける式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、対応するモノマーの仕込み量比(モル比)により求めることができる。すなわち、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの式(1)で表される架橋性基の数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、式(1)で表される架橋性基を有するモノマーの仕込み量、その他の各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、式(1)で表される架橋性基を有する末端部の数は、電荷輸送性ポリマーの1H-NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける式(1)で表される架橋性基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出することもできる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部以外の末端部の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)も、対応するモノマーの仕込み量比(モル比)により、同様にして求めることができる。
【0061】
(構造単位T2)
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、末端部の構造単位Tとして、上記構造単位T1に加え、構造単位T1以外の、すなわち式(1)で表される架橋性基を有しない構造単位(以下、これを「構造単位T2」とも記す。)を含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーは、構造単位T2を、1種のみ有してもよいし、2種以上有してもよい。
【0062】
構造単位T2は、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む芳香環構造から選択される。一実施形態において、構造単位T2は、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、構造単位T2は、構造単位Lと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。ただし、構造単位T2が構造単位Lと同じ構造を有する場合、構造単位Lを1価に変更して構造単位T2とする。
また、他の実施形態において、後述するように、電荷輸送性ポリマーが、式(1)で表わされる架橋性基に加えて、更に他の重合性官能基を有する場合、構造単位T2はこの重合性官能基を有する構造(すなわち、例えば、ピロール-イル基等の重合性官能基)であってもよい。上記の各構造が置換基を有する場合、置換基としては、構造単位Lについて例示した置換基Rなどが挙げられる。
【0063】
構造単位T2の具体例として、例えば以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
【0065】
上記式の構造単位T2中、Rは、構造単位LにおけるRと同様である(ただし、ヘテロアリール基及びヘテロアリーレン基が式(1)を含むものを除く。)。電荷輸送性ポリマーが末端部に式(1)で表わされる架橋性基に加えて更に他の重合性官能基を有する場合、好ましくは、Rの何れか少なくとも1つが、重合性官能基を含む基である。
【0066】
電荷輸送性ポリマーの全構造単位Tにおける構造単位T1の割合は、硬化性を付与する観点から、全構造単位Tの合計数を基準として、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、更に好ましくは5%以上である。上限は特に限定されず、100%以下である。全構造単位Tにおける割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、構造単位Tに対応するモノマーの仕込み量比(モル比)により求めることができる。
【0067】
電荷輸送性ポリマーが構造単位T2を有する場合、全構造単位Tの合計数における構造単位T2の割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点から、全構造単位Tの合計数を基準として、好ましくは99%以下、より好ましくは97%以下、更に好ましくは95%以下である。下限は特に限定されないが、後述する重合可能な置換基の導入、成膜性、ぬれ性等の向上のための置換基の導入などを考慮すると、例えば、5%以上とすることができる。
【0068】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。上記の各構造が置換基を有する場合、置換基としては、構造単位Lについて例示した置換基Rなどが挙げられる。
【0069】
構造単位Bの具体例として、例えば、以下が挙げられる。構造単位Bは、以下に限定されない。
【0070】
【0071】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2~30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子の何れかを表す。構造単位中、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、構造単位LにおけるRが挙げられる。
【0072】
(重合性官能基)
一実施形態において、重合反応により硬化させ、溶剤への溶解度を変化させる観点から、電荷輸送性ポリマーは、式(1)で表される架橋性基を含む構造以外の重合性官能基を少なくとも1つ以上有していてもよい。「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基をいう。以下、式(1)で表される架橋性基を含む構造以外の重合性官能基を、重合性官能基zと称する。
【0073】
重合性官能基zとしては、炭素-炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。重合性官能基zを含む場合は、特に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、及びオキセタン基が好ましく、反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましい。電荷輸送性ポリマーへの影響を考慮すると、一実施形態によれば、電荷輸送性ポリマーは炭素-炭素多重結合を有する基を有さず、さらに、一実施形態によれば、電荷輸送性ポリマーは重合性官能基zを有しない。
【0074】
重合性官能基zの自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、電荷輸送性ポリマーの主骨格と重合性官能基zとが、アルキレン鎖で連結されていることが好ましい。また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO(Indium Tin Oxide)等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていることが好ましい。更に、重合性官能基zを導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、電荷輸送性ポリマーは、アルキレン鎖及び/又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と重合性官能基zとの連結部、及び/又は、これらの鎖と電荷輸送性ポリマーの骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。前述の「重合性官能基を含む基」とは、重合性官能基それ自体、又は、重合性官能基zとアルキレン鎖等とを合わせた基を意味する。重合性官能基zを含む基として、例えば、国際公開第WO2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0075】
重合性官能基zが導入されている場合、電荷輸送性ポリマーの主鎖の末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、主鎖の末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、主鎖の末端部と末端部以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも主鎖の末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、主鎖の末端部のみに導入されていることが好ましい。
また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、重合性官能基zは、電荷輸送性ポリマーの主鎖の末端部以外に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖の末端部以外と側鎖の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも主鎖及び/又は側鎖の末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、主鎖及び/又は側鎖の末端部のみに導入されていることが好ましい。
【0076】
重合性官能基zは、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基zの含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0077】
例えば、十分な溶解度の変化を得る観点から、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基zの数は、式(1)で表される架橋性基の数との合計が3個以上となる数が好ましく、4個以上となる数がより好ましい。また、電荷輸送性を保つ観点から、重合性官能基zの数は、式(1)で表される架橋性基の数との合計が、1,000個以下となる数が好ましく、500個以下となる数がより好ましい。
【0078】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基zの数と、式(1)で表される架橋性基の数との合計は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、重合性官能基zの仕込み量(例えば、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量)、式(1)で表される架橋性基の仕込み量(例えば、式(1)で表される架橋性基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基zの数と、式(1)で表される架橋性基の数との合計は、電荷輸送性ポリマーの1H-NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける式(1)で表される架橋性基及び重合性官能基zに由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0079】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上が更に好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。
【0080】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。
【0081】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて下記の条件で測定することができる。
送液ポンプ :L-6050 株式会社日立ハイテクノロジーズ製
UV-Vis検出器:L-3000 株式会社日立ハイテクノロジーズ製
カラム :Gelpack(登録商標) GL-A160S/GL-A150S 日立化成株式会社製
溶離液 :THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業株式会社製
流速 :1mL/min
カラム温度 :室温
分子量標準物質 :標準ポリスチレン
【0082】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
【0083】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0084】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0085】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基zを有する場合、重合性官能基zの割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、式(1)で表される架橋性基を含む構造単位の割合との合計として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基zの割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、式(1)で表される架橋性基を含む構造単位の割合との合計として、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基zの割合」とは、重合性官能基zを有する構造単位の割合をいう。
【0086】
また、電荷輸送性ポリマーが重合性官能基zを有していない場合、式(1)で表される架橋性基を含む構造単位の割合は、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、式(1)で表される架橋性基を含む構造単位の割合は、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0087】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1~70が好ましく、100:3~50がより好ましく、100:5~30が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10~200:10~100が好ましく、100:20~180:20~90がより好ましく、100:40~160:30~80が更に好ましい。
【0088】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーの1H-NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0089】
電荷輸送性ポリマーが正孔輸送性材料であるとき、高い正孔注入性及び正孔輸送性を得る観点から、芳香族アミン構造を有する単位及び/又はカルバゾール構造を有する単位を主要な構造単位として有する化合物であることが好ましい。この観点から、電荷輸送性ポリマー中の全構造単位数(但し、末端部の構造単位を除く。)に対する芳香族アミン構造を有する単位及び/又はカルバゾール構造を有する単位の全数の割合は、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましい。芳香族アミン構造を有する単位及び/又はカルバゾール構造を有する単位の全数の割合を100%とすることも可能である。
【0090】
好ましい実施形態によれば、電荷輸送性ポリマーは、2価の構造単位Lと、式(1)で表わされる架橋性基を含む1価の構造単位T1とを少なくとも含み、構造単位Lが、置換又は非置換の芳香族アミン構造である構造単位、及び、置換又は非置換のカルバゾール構造である構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位であり、構造単位T1が、式(1)で表わされる構造、及び、式(1)で表わされる架橋性基が2価の有機基を介して結合している置換又は非置換の芳香環構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造である構造単位であり、前記2価の有機基が、脂肪族有機基、及び、置換又は非置換の芳香族有機基からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む基である。電荷輸送性ポリマーは、更に、3価以上の構造単位B、及び、式(1)で表わされる架橋性基を持たない1価の構造単位T2からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよく、構造単位Bが、置換又は非置換の芳香族アミン構造、置換又は非置換のカルバゾール構造、及び、置換又は非置換の縮合多環式芳香族炭化水素構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造である構造単位であり、構造単位T2が置換又は非置換の芳香環構造である構造単位であることが好ましい。
【0091】
(製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。隣り合う構造単位同士が、一方の構造単位の芳香環上の炭素原子と他方の構造単位の芳香環上の炭素原子との間の単結合によって結合を形成できる方法が好ましい。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、薗頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0092】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0093】
[ドーパント]
有機エレクトロニクス材料は、ドーパントを更に含有してもよい。ドーパントは、有機エレクトロニクス材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得る化合物であればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングではドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングではドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。
正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。有機エレクトロニクス材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、1種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0094】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、例えば、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、FeCl3、PF5、AsF5、SbF5、BF5、BCl3、BBr3等;プロトン酸としては、HF、HCl、HBr、HNO5、H2SO4、HClO4等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1-ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl4、ZrCl4、HfCl4、NbF5、AlCl3、NbCl5、TaCl5、MoF5;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF6
-(ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF4
-(テトラフルオロホウ酸イオン)、PF6
-(ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして前記プロトン酸の共役塩基を有する塩など;ハロゲン化合物としては、Cl2、Br2、I2、ICl、ICl3、IBr、IF等;π共役系化合物としては、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)等が挙げられる。また、特開2000-36390号公報、特開2005-75948号公報、特開2003-213002号公報等に記載の電子受容性化合物を用いることも可能である。好ましくは、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等である。
【0095】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、例えば、Li、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;LiF、Cs2CO3等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩;金属錯体;電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0096】
有機層の溶解度の変化を容易にするために、ドーパントとして、重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質として、例えば、前記イオン化合物が挙げられる。
【0097】
[他の任意成分]
有機エレクトロニクス材料は、他のポリマー等を更に含有してもよい。
【0098】
[含有量]
電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーの含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。100質量%とすることも可能である。
【0099】
ドーパントを含有する場合、その含有量は、有機エレクトロニクス材料の電荷輸送性を向上させる観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0100】
[重合開始剤]
本実施形態の有機エレクトロニクス材料は、重合開始剤を含有しない場合でも十分に重合反応は進行するが、必要に応じて重合開始剤を含有してもよい。重合開始剤を含有する場合、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。ドーパントとしての機能も備えた重合開始剤として、例えば、前記イオン化合物が挙げられる。イオン化合物の例として、例えば、前記パーフルオロアニオンを有する塩が挙げられるが、この例として、例えば、パーフルオロアニオンとヨードニウムイオンまたはアンモニウムイオンとの塩(例えば、下記の化合物)が挙げられる。
【0101】
【0102】
本実施形態の有機エレクトロニクス材料が重合開始剤を含有する場合、重合開始剤の含有量は、ポリマー質量を基準として、0.1~10.0質量%とすることが好ましく、0.2~5.0質量%とすることがより好ましく、0.5~3.0質量%とすることが更に好ましい。
【0103】
<インク組成物>
有機エレクトロニクス材料は、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料と該材料を溶解又は分散し得る溶媒とを含有するインク組成物として用いてもよい。インク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成できる。
【0104】
[溶媒]
溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテル等である。
【0105】
[添加剤]
インク組成物は、更に、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0106】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量が更に好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、20質量%以下となる量が好ましく、15質量%以下となる量がより好ましく、10質量%以下となる量が更に好ましい。
【0107】
<有機層>
本発明の実施形態である有機層は、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料を成膜して形成された層である。前記実施形態の有機エレクトロニクス材料は、インク組成物として用いてもよい。インク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好に形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0108】
光照射、加熱処理等により電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させてもよい。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。重合反応を開始又は進行させる手段としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加等、重合可能な置換基を重合させる手段であれば特に限定はされないが、光照射及び/又は加熱処理が好ましく加熱処理がより好ましい。光照射は、不溶化反応が充分に起こるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。加熱処理は、本発明の効果を著しく損なわない限り、電荷輸送膜用組成物(インク組成物)に用いた溶媒の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下、より好ましくは125℃以上350℃以下、更に好ましくは130℃以上250℃以下で加熱することが好ましい。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0109】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
【0110】
本実施形態における有機層は、塗布法により形成される層の下層として適している。本実施形態における有機層上に、インク組成物を用いることによって、有機層を溶解させることなく上層を良好に形成できる。
【0111】
<有機エレクトロニクス素子>
本発明の実施形態である有機エレクトロニクス素子は、前記実施形態の有機層を少なくとも1層有する。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、少なくとも一対の電極(陽極及び陰極)の間に有機層が配置された構造を有する。また、好ましい実施形態によれば、有機エレクトロニクス素子は、前記実施形態の有機層を少なくとも1層と、前記少なくとも1層上に、該1層に接する他の有機層を有し、他の有機層が塗布法により形成された層である。
【0112】
[有機EL素子]
本発明の実施形態である有機EL素子は、前記実施形態の有機層を少なくとも1層有する。有機EL素子は、通常、基板、陽極、発光層及び陰極を積層して備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層(必要に応じ、更に電子注入層)等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、好ましくは、有機層を発光層又は他の機能層として有し、より好ましくは機能層として有し、更に好ましくは正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有する。
【0113】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、前記実施形態の有機層からなる正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。以下、各層について説明する。
図1では、正孔注入層3及び正孔輸送層6が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層であるが、本発明の実施形態の有機ELはこのような構造に限らず、他の有機層が上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層であってもよい。
【0114】
有機エレクトロルミネセンス素子の例を以下に列挙する。
・少なくとも基板、陽極、発光層及び陰極を積層してなり、前記発光層が前記実施形態の有機層である、有機エレクトロルミネセンス素子
・少なくとも基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び陰極を積層してなり、前記正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の少なくとも1つの層が前記実施形態の有機層である、有機エレクトロルミネセンス素子
・少なくとも基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及び陰極を積層してなり、前記正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層の少なくとも1つの層が前記実施形態の有機層である、有機エレクトロルミネセンス素子
【0115】
[発光層]
発光層に用いる材料として、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。ポリマーは、溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0116】
蛍光材料として、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクリドン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物等が挙げられる。
【0117】
燐光材料として、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)3(ファク トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)2Ir(acac)(ビス〔2-(2′-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C3〕イリジウム(アセチル-アセトネート))、Ir(piq)3(トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行うPtOEP(2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-フォルフィンプラチナ)等が挙げられる。
【0118】
発光層が燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、更にホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4′-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(9-カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4′-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2′-ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が、ポリマーとしては、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0119】
熱活性化遅延蛍光材料としては、例えば、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009);Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011);Chem. Comm., 48, 9580 (2012);Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012);J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012);Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013);J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013);Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013);Chem. Comm., 49, 10385 (2013);Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0120】
[正孔輸送層、正孔注入層]
図1では、正孔注入層3及び正孔輸送層6が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層であるが、本発明の実施形態の有機ELはこのような構造に限らず、他の有機層が上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層であってもよい。上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一方として使用することが好ましく、少なくとも正孔輸送層として使用することが更に好ましい。例えば、有機EL素子が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された層を正孔輸送層として有し、更に正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。また、例えば、有機EL素子が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔注入層として有し、更に正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。
正孔注入層及び正孔輸送層に用いることができる材料として、例えば、芳香族アミン系化合物(例えば、N,N′-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N′-ジフェニル-ベンジジン(α-NPD)などの芳香族ジアミン)、フタロシアニン系化合物、チオフェン系化合物(例えば、チオフェン系導電性ポリマー(例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)等)等が挙げられる。
【0121】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、例えば、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体(例えば、2,2′,2″-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(TPBi))、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体(例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノレート)-4-(フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq))等が挙げられる。また、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料も使用できる。
【0122】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0123】
[陽極]
陽極材料としては、例えば、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0124】
[基板]
基板として、ガラス、プラスチック等を使用できる。基板は、透明であることが好ましく、また、フレキシブル性を有することが好ましい。石英ガラス、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。
【0125】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0126】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0127】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0128】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されないが、青色、緑色及び赤色の3つの発光極大波長を含有する組み合わせ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組み合わせなどが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0129】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本発明の実施形態である表示素子は、前記実施形態の有機EL素子を備えている。例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0130】
また、本発明の実施形態である照明装置は、本発明の実施形態の有機EL素子を備えている。更に、本発明の実施形態である表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えている。例えば、表示装置は、バックライトとして本発明の実施形態である照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置とできる。
【実施例】
【0131】
[合成例]
以下に、式(1)で表される架橋性基を有するモノマーの合成例を示すが、本発明は以下の合成例に限定されるものではない。
【0132】
(合成例1)
以下の方法によって、下記構造を有するモノマーT1-2を合成した。詳細には、下記の経路により合成した。
【0133】
【0134】
窒素雰囲気下、300mLの3つ口フラスコ中で5-ブロモ-1-ペンテン(7.45g,50mmol)とTHF(20ml)を混合し、得られた溶液に0.5Mの9-BBN/THF溶液(100ml)を1時間かけて滴下した後、12時間室温で攪拌した。得られた反応溶液に、モノマーT1-1(3.66g,20mmol)、(ジフェニルホスフィノフェロセン)パラジウムジクロリド(0.82g)、及びTHF(32ml)と3Mの水酸化ナトリウム水溶液(27ml)を混合し、4時間還流させた。反応終了後、得られた溶液を室温まで冷却しヘキサン(40ml)を加えた後、氷冷しながら、そこに過酸化水素水(6ml)をゆっくりと滴下し、1時間攪拌した。反応溶液を分液した後、有機層をイオン交換水(50ml)で5回洗浄した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、展開溶媒にヘキサン、充填剤にシリカゲルを用いて、カラムクロマトグラフィーにより精製することにより、中間体Aを得た(3.80g,15mmol)。
【0135】
窒素雰囲気下、50mlの2口フラスコ中で中間体A(3.80g,15mmol)、4-ブロモフェノール(3.89g,22.5mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(0.16g,0.5mmol)、50%水酸化カリウム水溶液(6.7g)、トルエン(20ml)を混合し6時間還流させた。反応終了後、得られた溶液をイオン交換水(10ml)で3回洗浄した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、展開溶媒にヘキサン/酢酸エチル(95/5)混合溶媒、充填剤にシリカゲルを用いて、カラムクロマトグラフィーにより精製することにより、モノマーT1-2を得た(4.14g,12mmol)。
【0136】
(合成例2)
以下の方法によって、下記構造を有するモノマーT1-3を合成した。詳細には、下記の経路により合成した。
【0137】
【0138】
5-ブロモ-1-ペンテン(7.45g,50mmol)の代わりに10-ブロモ-1-デセン(10.96g,50mmol)を用いたこと以外は合成例1と同様の手順で合成し中間体Bを得た(4.53g,14mmol)。
【0139】
中間体A(3.80g,15mmol)の代わりに中間体B(4.53g,14mmol)を用い、当量比を調整したこと以外は同様の手順でモノマーT1-3を得た(4.99g,12mmol)。
【0140】
(合成例3)
以下の方法によって、下記構造を有するモノマーT1-4を合成した。詳細には、下記の経路により合成した。
【0141】
【0142】
合成例1と同様に中間体Aを得た(3.80g,15mmol)。
【0143】
窒素雰囲気下、200mLの3つ口フラスコ中1,4-ジブロモベンゼン(3.54g,15mmol)とエーテル(30ml)を混合し、得られた溶液を-78℃に冷却し、そこへ1.6Mのnブチルリチウム/ヘキサン溶液(9.4ml)を30分かけて滴下した後、-78℃で2時間攪拌した。その後、中間体A(3.80g,15mmol)を滴下し、-78℃で30分攪拌した。その後室温にもどし12時間攪拌した。得られた溶液を分液処理し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、展開溶媒にヘキサン、充填剤にシリカゲルを用いて、カラムクロマトグラフィーにより精製することにより、モノマーT1-4を得た(2.96g,9mmol)。
【0144】
(合成例4)
以下の方法によって、下記構造を有するモノマーT1-5を合成した。詳細には、下記の経路により合成した。
【0145】
【0146】
中間体A(3.80g,15mmol)の代わりに中間体B(4.99g,12mmol)を用い、当量比を調整したこと以外は合成例3と同様にして、モノマーT1-5(2.40g,6mmol)を得た。
【0147】
(合成例5)
以下の方法によって、下記構造を有するモノマーL-4を合成した。詳細には、下記の経路により合成した。
【0148】
【0149】
窒素雰囲気下、200mLの3つ口フラスコ中モノマーT1-4(5.69g,17.3mmol)、ジフェニルアミン(2.92g,17.3mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0.37g,0.4mmol)、トリt-ブチルホスフィン(0.32g,1.6mmol)、ナトリウムt-ブトキシド(3.8g,40mmol)、トルエン(100ml)を混合し、110℃で6時間攪拌した。その後、得られた溶液を分液処理し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、展開溶媒にヘキサン/酢酸エチル混合溶媒、充填剤にシリカゲルを用いて、カラムクロマトグラフィーにより精製後、公知のブロモ化、ホウ素化を経てモノマーL-4を得た(6.03g,9mmol)。
【0150】
[実施例]
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15ml)を加え、30分間攪拌した。同様に、サンプル管にトリス(t-ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5ml)を加え、5分間攪拌した。これらの溶液を混合し、室温で30分間攪拌して、触媒とした。全ての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後、使用した。
【0151】
<電荷輸送性ポリマー1の合成>
三口丸底フラスコに、下記モノマーL-1(5.0mmol)、下記モノマーB-1(2.0mmol)、下記モノマーT2-1(2.0mmol)、下記モノマーT2-2(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を加えた。全ての溶媒は30分以上、窒素バブルにより脱気した後、使用した。この混合物を2時間、加熱還流した。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。
【0152】
【0153】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール-水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノール-水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過により回収し、トルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」、沈殿物100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、金属吸着剤と不溶物とをろ過して取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮液をトルエンに溶解した後、メタノール-アセトン(8:3)から再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノール-アセトン(8:3)で洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、電荷輸送性ポリマー1を得た。
【0154】
得られた電荷輸送性ポリマー1の数平均分子量は5,200、重量平均分子量は41,200であった。電荷輸送性ポリマー1は、構造単位L-1、構造単位B-1、構造単位T2-2、及びオキセタン基を有する構造単位T2-1を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。電荷輸送性ポリマー1は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー1は、式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部を有していない。構造は下記式に示す(左記は、括弧内が各々構造単位で、添えた数字は、各繰り返し単位のモル比を表す。右記は、連結したポリマーの部分構造である。以下に述べる電荷輸送性ポリマー2~8についても同様に表す。)。
【0155】
【0156】
数平均分子量及び重量平均分子量は、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。測定条件は以下のとおりである。
送液ポンプ :L-6050 株式会社日立ハイテクノロジーズ製
UV-Vis検出器:L-3000 株式会社日立ハイテクノロジーズ製
カラム :Gelpack(登録商標) GL-A160S/GL-A150S 日立化成株式会社製
溶離液 :THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業株式会社製
流速 :1mL/min
カラム温度 :室温
分子量標準物質 :標準ポリスチレン
【0157】
<電荷輸送性ポリマー2の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、下記モノマーB-2(2.0mmol)、下記モノマーT1-1(2.0mmol)、下記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー2の合成を行った。
【0158】
【0159】
得られた電荷輸送性ポリマー2の数平均分子量は10,600、重量平均分子量は66,400であった。電荷輸送性ポリマー2は、構造単位L-1、構造単位B-2、構造単位T1-1、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。電荷輸送性ポリマー2は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー2の式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、54個(モノマーの仕込み量からの計算値)であり、構造単位Tの合計数の50%であった。
式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部(ここでは、構造単位T1-1)の数は、具体的には、以下のようにして計算した。
まず、構造単位T1-1をx個とすると、構造単位の割合(モル比)から、B-2:x個、T1-1:x個、T2-3:x個、L-1:2.5x個である。
次に、各構造単位の分子量は、L-1:299.42g/mol、B-2:240.29g/mol、T1-1:103.14g/mol、T2-3:133.21g/molであり、重量平均分子量は66,400であることから、
299.42(2.5x)+240.29x+103.14x+133.21x=66,400
を解くことにより、x=54個(小数点以下は四捨五入)を算出した(後述する電荷輸送性ポリマー3~9、12、13についても同様)。
なお、構造は下記式に示す。
【0160】
【0161】
<電荷輸送性ポリマー3の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-2(2.0mmol)、下記モノマーT1-2(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー3の合成を行った。
【0162】
【0163】
得られた電荷輸送性ポリマー3の数平均分子量は15,600、重量平均分子量は67,600であった。電荷輸送性ポリマー3は、構造単位L-1、構造単位B-2、構造単位T1-2、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。電荷輸送性ポリマー3は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー3の式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部(ここでは、構造単位T1-2)の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、49個(モノマーの仕込み量からの計算値)であり、構造単位Tの合計数の50%であった。構造は下記式に示す。
【0164】
【0165】
<電荷輸送性ポリマー4の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-2(2.0mmol)、下記モノマーT1-3(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー4の合成を行った。
【0166】
【0167】
得られた電荷輸送性ポリマー4の数平均分子量は15,300、重量平均分子量は61,500であった。電荷輸送性ポリマー4は、構造単位L-1、構造単位B-2、構造単位T1-3、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。電荷輸送性ポリマー4は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー4の式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部(ここでは、構造単位T1-3)の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、42個(モノマーの仕込み量からの計算値)であり、構造単位Tの合計数の50%であった。構造は下記式に示す。
【0168】
【0169】
<電荷輸送性ポリマー5の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-2(2.0mmol)、下記モノマーT1-4(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー5の合成を行った。
【0170】
【0171】
得られた電荷輸送性ポリマー5の数平均分子量は13,500、重量平均分子量は60,000であった。電荷輸送性ポリマー5は、構造単位L-1、構造単位B-2、構造単位T1-4、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。電荷輸送性ポリマー5は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー5の式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部(ここでは、構造単位T1-4)の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、44個(モノマーの仕込み量からの計算値)であり、構造単位Tの合計数の50%であった。構造は下記式に示す。
【0172】
【0173】
<電荷輸送性ポリマー6の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-2(2.0mmol)、下記モノマーT1-5(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー6の合成を行った。
【0174】
【0175】
得られた電荷輸送性ポリマー6の数平均分子量は13,500、重量平均分子量は60,000であった。電荷輸送性ポリマー6は、構造単位L-1、構造単位B-2、構造単位T1-5、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。電荷輸送性ポリマー6は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー6の式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部(ここでは、構造単位T1-5)の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、42個(モノマーの仕込み量からの計算値)であり、構造単位Tの合計数の50%であった。構造は下記式に示す。
【0176】
【0177】
<電荷輸送性ポリマー7の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(1.0mmol)、下記モノマーL-2(2.0mmol)、下記モノマーL-3(2.0mmol)、前記モノマーB-1(2.0mmol)、前記モノマーT1-2(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー7の合成を行った。
【0178】
【0179】
得られた電荷輸送性ポリマー7の数平均分子量は14,500、重量平均分子量は63,900であった。電荷輸送性ポリマー7は、構造単位L-1、構造単位L-2、構造単位L-3、構造単位B-1、構造単位T1-2、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、9.1%、18.2%、18.2%、18.2%、18.2%、18.2%であった。電荷輸送性ポリマー7は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー7の式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部(ここでは、構造単位T1-2)の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、45個(モノマーの仕込み量からの計算値)であり、構造単位Tの合計数の50%であった。構造は下記式に示す。
【0180】
【0181】
<電荷輸送性ポリマー8の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(1.0mmol)、前記モノマーL-2(2.0mmol)、前記モノマーL-3(2.0mmol)、前記モノマーB-1(2.0mmol)、前記モノマーT1-2(3.2mmol)、前記モノマーT2-3(0.8mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー8の合成を行った。
【0182】
得られた電荷輸送性ポリマー8の数平均分子量は13,500、重量平均分子量は64,000であった。電荷輸送性ポリマー8は、構造単位L-1、構造単位L-2、構造単位L-3、構造単位B-1、構造単位T1-2、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、9.1%、18.2%、18.2%、18.2%、29.1%、7.3%であった。電荷輸送性ポリマー8は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー8の式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部(ここでは、構造単位T1-2)の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)68個(モノマーの仕込み量からの計算値)であり、構造単位Tの合計数の80%であった。構造は下記式に示す。
【0183】
【0184】
<電荷輸送性ポリマー9の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-2(2.0mmol)、前記モノマーT1-2(3.2mmol)、前記モノマーT2-3(0.8mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー9の合成を行った。
【0185】
得られた電荷輸送性ポリマー9の数平均分子量は16,600、重量平均分子量は68,200であった。電荷輸送性ポリマー9は、構造単位L-1、構造単位B-2、構造単位T1-2、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、29.1%、及び7.3%であった。電荷輸送性ポリマー9は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー9の式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部(ここでは、構造単位T1-2)の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、74個(モノマーの仕込み量からの計算値)であり、構造単位Tの合計数の80%であった。構造は下記式に示す。
【0186】
【0187】
<電荷輸送性ポリマー10の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-2(2.0mmol)、前記モノマーT2-1(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー10の合成を行った。
【0188】
得られた電荷輸送性ポリマー10の数平均分子量は16,300、重量平均分子量は62,600であった。電荷輸送性ポリマー10は、構造単位L-1、構造単位B-2、構造単位T2-3、及びオキセタン基を有する構造単位T2-1を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。電荷輸送性ポリマー10は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー10は、式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部を有していない。構造は下記式に示す。
【0189】
【0190】
<電荷輸送性ポリマー11の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-2(2.0mmol)、下記モノマーT2-4(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー11の合成を行った。
【0191】
【0192】
得られた電荷輸送性ポリマー11の数平均分子量は14,500、重量平均分子量は53,900であった。電荷輸送性ポリマー11は、構造単位L-1、構造単位B-2、ビニル基を有する構造単位T2-4、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。電荷輸送性ポリマー11は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー11は、式(1)で表わされる架橋性基を有する末端部を有していない。構造は下記式に示す。
【0193】
【0194】
<電荷輸送性ポリマー12の合成>
三口丸底フラスコに、下記モノマーL-4(1.0mmol)、前記モノマーL-2(2.0mmol)、前記モノマーL-3(2.0mmol)、前記モノマーB-1(2.0mmol)、下記モノマーT2-5(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー12の合成を行った。
【0195】
【0196】
得られた電荷輸送性ポリマー12の数平均分子量は15,000、重量平均分子量は68,500であった。電荷輸送性ポリマー12は、構造単位L-4、構造単位L-2、構造単位L-3、構造単位B-1、構造単位T2-5、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、9.1%、18.2%、18.2%、18.2%、18.2%、18.2%であった。電荷輸送性ポリマー12は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー12の式(1)で表わされる架橋性基を有する構造単位L-4の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、25個(モノマーの仕込み量からの計算値)であった。なお、電荷輸送性ポリマー12は、式(1)で表される架橋性基を、末端部ではなく、構造単位Lに有している。構造は下記式に示す。
【0197】
【0198】
<電荷輸送性ポリマー13の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-4(2.0mmol)、前記モノマーL-2(1.5mmol)、前記モノマーL-3(1.5mmol)、前記モノマーB-1(2.0mmol)、前記モノマーT2-5(2.0mmol)、前記モノマーT2-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー12の合成を行った。
【0199】
得られた電荷輸送性ポリマー13の数平均分子量は14,400、重量平均分子量は66,500であった。電荷輸送性ポリマー13は、構造単位L-4、構造単位L-2、構造単位L-3、構造単位B-1、構造単位T2-5、及び構造単位T2-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、18.2%、13.6%、13.6%、18.2%、18.2%、18.2%であった。電荷輸送性ポリマー13は、多分岐構造を有していた。電荷輸送性ポリマー13の式(1)で表わされる架橋性基を有する構造単位L-4の数(ポリマー1分子あたりの平均個数)は、47個(モノマーの仕込み量からの計算値)であった。なお、電荷輸送性ポリマー13は、式(1)で表される架橋性基を、末端部ではなく、単位構造Lに有している。構造は下記式に示す。
【0200】
【0201】
<残膜率の測定と評価>
[実施例1~8、比較例1~4]
・液状組成物(インク組成物)の調製
電荷輸送性ポリマー2~9(実施例1~8)及び10~13(比較例1~4)をそれぞれトルエンに溶解させることにより、それぞれの電荷輸送性ポリマーについて1質量%の液状組成物(トルエン溶液)を調製した。
【0202】
・ガラス基板上での残膜率の評価
この液状組成物をガラス基板上に滴下し、スピンコーター(商品名:MS-A100型、ミカサ株式会社製)を用い、回転数3000min-1で60秒の条件で成膜した。次いで、窒素置換されたグローブボックス中で、ハイパワーホットプレート(商品名:ND-3H、アズワン株式会社製)を用いて、上記ガラス基板上の膜を230℃、30分ベークした。得られた膜について、分光光度計(商品名:U-3310、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて極大波長の吸光度(Abs.1)を測定した。
次いで、トルエン溶液に10秒間浸した後、常温でトルエンを乾燥した。作製した膜を、分光光度計(商品名:U-3310、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて極大波長の吸光度(Abs.2)を測定した。そして、(Abs.2/Abs.1)×100(%)を残膜率とし、その値を表1に示す。
【0203】
【0204】
式(1)で表される架橋性基を少なくとも2個の末端部に有する電荷輸送性ポリマー2~9を用いた実施例1~8は、式(1)で表される架橋性基を有しない電荷輸送性ポリマー10及び11を用いた比較例1及び2と比較して、高い残膜率を示すことから、高い硬化性を有すると認められた。
また、比較例3で用いた電荷輸送性ポリマー12については、実施例6で用いた電荷輸送性ポリマー7の構造単位L-1に対応する構造をL-4、構造単位T1-2に対応する構造をT2-5としたとき、電荷輸送性ポリマー7と電荷輸送性ポリマー12は、式(1)で表される架橋性基の数(前者が45個、後者が25個)と位置(前者が末端部、後者は構造単位L)以外は同等の組成とみなせる。比較例3と比較して、実施例6は十分な硬化性を有すると認められた。実施例6で用いた電荷輸送性ポリマー7では架橋性基の数が45個であるのに対して、比較例3で用いた電荷輸送性ポリマー3では25個と少ないことから残膜率が低下したと考えられる。
また、比較例4で用いた電荷輸送性ポリマー13は、比較例1~3と比較して十分な硬化性を有しているが、それぞれの電荷輸送性ポリマーの合成の説明で前述したように、電荷輸送性ポリマー7と電荷輸送性ポリマー12とは各構造単位の比率が異なっていることによるものと考えられる。
以上のように、実施例1~8においては湿式プロセスにおける硬化性を確保するのに十分な量の架橋性基が導入されており、湿式プロセスでの成膜性が向上することを確認した。
【0205】
<電荷輸送性評価素子の作製>
[実施例9~12、比較例5、6]
窒素雰囲気下で、電荷輸送性ポリマー1(10.0mg)、下記電子受容性化合物1(0.5mg)、及びトルエン(2.3mL)を混合し、正孔注入層形成用のインク組成物を調製した。ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、前記インク組成物を回転数3,000min-1でスピンコートした後、ホットプレート上で220℃、10分間加熱して硬化させ、正孔注入層(25nm)を形成した。
【0206】
【0207】
次に、表2に示す電荷輸送性ポリマー2~13のいずれか1種(10.0mg)及びトルエン(1.15mL)を混合し、正孔輸送層形成用のインク組成物を調製した。上記で形成した正孔注入層の上に、前記インク組成物を回転数3,000min-1でスピンコートした後、ホットプレート上で230℃、30分間加熱して硬化させ、正孔輸送層(40nm)を形成した。各実施例及び比較例において、正孔注入層を溶解させることなく、正孔輸送層を形成することができた。
【0208】
上記で得た基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、アルミニウム(100nm)を蒸着法で成膜し、封止処理を行って電荷輸送性評価素子を作製した。
【0209】
これらの電荷輸送性評価素子のITOを正極、アルミニウムを陰極として電圧を印加した。電流電圧特性は、微小電流計(ヒューレットパッカード社製「4140B」)で測定し、50mA/cm2通電時の印加電圧を表2に示す。
【0210】
【0211】
表2にあるとおり、実施例9と実施例10を比較すると電荷輸送性ポリマー3及び電荷輸送性ポリマー9が持つ架橋性基の数は各々49個及び74個で大きく異なるが、電荷輸送性は同等の値を示した。また実施例11と実施例12を比較すると、電荷輸送性ポリマー7及び電荷輸送性ポリマー8が持つ架橋性基の数は各々45個及び68個で大きく異なるが電荷輸送性は同等の値を示した。
一方、式(1)で表される架橋性基を末端部ではない構造単位Lに有する電荷輸送性ポリマーを使用した比較例5及び6を比較すると、電荷輸送性ポリマー12及び電荷輸送性ポリマー13が持つ架橋性基の数は各々25個及び47個であるが、電荷輸送性が大きく異なる結果となった。この理由は、それぞれの電荷輸送性ポリマーの合成の説明で前述したとおり、電荷輸送性ポリマー12は電荷輸送性ポリマー7と同等の組成であるが、電荷輸送性ポリマー13は十分な硬化性を持たせるために、電荷輸送性ポリマー12と比較して構造単位の割合を変えたため、架橋性基の導入量の変化に伴って主鎖及び/又は側鎖の組成が大きく変わり、電荷(ホール)の輸送性が大きく変化したと考えられる。
以上のことから、式(1)で表される架橋性基を、少なくとも2個の末端部に有する電荷輸送性ポリマーを含むことによって、架橋性基の導入量を変化させても、電荷輸送性は同等であり、導電性の変化を抑制できることが確認できた。
【0212】
<有機EL素子の作製>
[実施例13~20、比較例7~10]
窒素雰囲気下で、電荷輸送性ポリマー1(10.0mg)、前記電子受容性化合物1(0.5mg)、及びトルエン(2.3mL)を混合し、正孔注入層形成用のインク組成物を調製した。ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、前記インク組成物を回転数3,000min-1でスピンコートした後、ホットプレート上で220℃、10分間加熱して硬化させ、正孔注入層(厚さ25nm)を形成した。
【0213】
次に、表3に示した電荷輸送性ポリマー2~13の何れか1種(10.0mg)及びトルエン(1.15mL)を混合し、正孔輸送層形成用のインク組成物を調製した。上記で形成した正孔注入層の上に、前記インク組成物を回転数3,000min-1でスピンコートした後、ホットプレート上で200℃、10分間加熱して硬化させ、正孔輸送層(厚さ40nm)を形成した。各実施例及び比較例において、正孔注入層を溶解させることなく、正孔輸送層を形成することができた。
【0214】
【0215】
上記で得た基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、CBP:Ir(ppy)3(94:6、厚さ30nm)、BAlq(厚さ10nm)、TPBi(厚さ30nm)、LiF(厚さ0.8nm)、及びAl(厚さ100nm)をこの順に蒸着法で成膜し、封止処理を行って有機EL素子を作製した。各膜の詳細は、下記のとおりである。
CBP:Ir(ppy)3(94:6、厚さ30nm)・・・発光層
BAlq(厚さ10nm)・・・正孔ブロック層
TPBi(厚さ30nm)・・・電子輸送層
LiF(厚さ0.8nm)・・・電子注入層
Al(厚さ100nm)・・・陰極
【0216】
実施例13~20及び比較例7~10で得た有機EL素子に電圧を印加したところ、緑色発光が確認された。初期輝度5,000cd/m2における発光寿命(輝度半減時間)を測定した。測定結果を表4に示す。
【0217】
【0218】
表4に示したとおり、実施例13~20と比較例7~8の比較から、本発明の実施形態である有機エレクトロニクス材料を正孔輸送層に用いることで、長寿命の素子が得られ、寿命特性が向上することが確認できた。
実施例13~20では、電荷輸送性ポリマー2~9を用いるが、このポリマーは主鎖上の末端部以外(側鎖を含む)には架橋性基を有しないため、架橋性基の導入量が変わっても導電性が変わらない。しかも式(1)で表される架橋性基を少なくとも2個の末端部に有するため、十分な硬化性を有している。このため、架橋性基を湿式プロセスでの成膜性(硬化性)を確保するように多く導入したとしても、電荷(正孔)の輸送性は変わらず、発光位置(正孔と電子の再結合位置)は本来の理想的な場所(例えば発光層の中心部)から大きく変化しないことによるものと考えられる。
一方、比較例7及び8では、各々電荷輸送性ポリマー10及び11を用いており、実施例6~10と同様に、このポリマーは主鎖上の末端部以外(側鎖を含む)に架橋性基を有しないため、架橋性基の導入量が変わっても導電性が変わらない。しかし、式(1)で表される架橋性基を有しないため、十分な硬化性を有していない。すなわち、比較例7及び8ではより多くの架橋性基が未架橋の状態で残存していると推察される。未架橋残基がより多く存在することで、有機EL素子駆動中に劣化が促進され、経過時間とともに発光位置(正孔と電子の再結合位置)が本来の理想的な場所からずれ、短寿命化してしまうものと考えられる。
また、電荷輸送性ポリマー12を用いた比較例9では前述のように同等の組成の電荷輸送性ポリマー7を用いた実施例18と同等の寿命特性を有しているが、残膜率で劣っているため、発光層を塗布法で成膜した場合、電荷輸送性ポリマー12が溶け出し、寿命特性が劣る結果となることは容易に予想される。電荷輸送性ポリマー12と同様の構造単位からなるが十分な硬化性を保証するために各々の比率を変えた電荷輸送性ポリマー13を用いた比較例10では、前述のとおり残膜率は維持したものの、短寿命化した。この理由は、表2に示したように電荷輸送性が大きく異なることがわかっており、発光位置が正孔ブロック層側に大きくずれたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0219】
本発明の電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを含む有機エレクトロニクス材料及びインク組成物は、高い硬化性を持ち、湿式プロセスに適し、かつ、有機エレクトロニクス素子の寿命特性の向上に適している。このため、有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置等への適用が可能である。
【符号の説明】
【0220】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板