(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】消音換気構造、及び消音性能評価方法
(51)【国際特許分類】
F24F 7/04 20060101AFI20220126BHJP
F24F 13/02 20060101ALI20220126BHJP
F24F 13/24 20060101ALI20220126BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20220126BHJP
G10K 15/00 20060101ALI20220126BHJP
H04Q 9/00 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
F24F7/04 B
F24F13/02 H
F24F13/24 242
G10K11/16 100
G10K15/00 L
H04Q9/00 311J
(21)【出願番号】P 2018204127
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】大津 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】菅原 美博
(72)【発明者】
【氏名】山添 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】白田 真也
(72)【発明者】
【氏名】奥山 崇
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-164229(JP,A)
【文献】特開2003-130410(JP,A)
【文献】特開2007-192262(JP,A)
【文献】特開平08-210298(JP,A)
【文献】特開2015-152583(JP,A)
【文献】実開平05-064897(JP,U)
【文献】特開2014-055726(JP,A)
【文献】特開2015-148420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/04
F24F 13/02
F24F 13/24
G10K 11/16
G10K 15/00
H04Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの空間を隔てる壁を貫通して設けられる環状部材と、
前記環状部材に設置され、前記環状部材の貫通孔と連通する貫通孔、及び吸音材を有する消音器と、
前記2つの空間の少なくとも一方に設置される少なくとも1つの音圧計測機器、及び無線通信を介して前記音圧計測機器を遠隔操作可能である独立した電子機器から構成され
、前記少なくとも1つの音圧計測機器で測定された計測データから前記消音器の前記吸音材の状態を評価する消音評価システムと、を備えていることを特徴とする消音換気構造。
【請求項2】
前記吸音材は、前記消音器の内壁の周囲、及び/又は内部に配置される請求項1に記載の消音換気構造。
【請求項3】
前記消音器は、更に前記吸音材を固定する枠体を備える請求項1、又は2に記載の消音換気構造。
【請求項4】
前記吸音材は、前記消音器の貫通孔を形成する請求項1~3のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項5】
前記消音器は、前記2つの空間の一方の空間に配置される請求項1~4のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項6】
前記消音器の貫通孔と、前記環状部材の貫通孔とは、同一孔径である請求項1~5のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項7】
前記音圧計測機器の少なくとも1つは、前記2つの空間のうち前記消音器が設置される側の一方の空間に設置されている請求項1~6のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項8】
前記消音評価システムは、前記一方の空間に設置された前記音圧計測機器で測定された前記計測データから前記消音器の前記
吸音材の状態を評価する請求項7に記載の消音換気構造。
【請求項9】
前記音圧計測機器を2つ以上備え、そのうちの少なくとも1つは、前記2つの空間のうちの前記消音器が設置されていない側の他方の空間に設置されている請求項7、又は8に記載の消音換気構造。
【請求項10】
前記消音評価システムは、前記一方の空間に設置された前記音圧計測機器で測定された前記計測データと、前記他方の空間に設置された前記音圧計測機器で測定された前記計測データとの比率から前記消音器の前記
吸音材の状態を評価する請求項9に記載の消音換気構造。
【請求項11】
前記音圧計測機器は、前記消音換気構造の1次もしくは2次の共鳴モードの周波数のみを測定する請求項1~10のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項12】
前記音圧計測機器の前記無線通信の通信リンク方式として、WiFiダイレクト、又はBluetooth(登録商標)技術を利用している請求項1~11のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項13】
前記音圧計測機器は、前記独立した電子機器との通信が一定の時間行われない場合に、自動で電源が切れる機能を備える請求項1~12のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項14】
前記音圧計測機器は、前記独立した電子機器との通信による遠隔操作によって電源がオンオフされる請求項1~12のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項15】
前記消音評価システムは、前記計測データを格納するメモリ、又はデータ保持機構を備える請求項1~14のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項16】
前記消音評価システムは、吸音性能計測用システムを備える請求項1~15のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項17】
前記消音評価システムは、REF(参照基準)吸音性能がデータとして実装されている請求項1~16のいずれか1項に記載の消音換気構造。
【請求項18】
2つの空間を隔てる壁を貫通して設けられる環状部材と、前記環状部材に設置され、前記環状部材の貫通孔と連通する貫通孔、及び吸音材を有する消音器と、前記2つの空間の少なくとも一方に設置される少なくとも1つの音圧計測機器、及び無線通信を介して前記音圧計測機器を遠隔操作可能である独立した電子機器から構成される消音評価システムと、を備えている消音換気構造において、前記電子機器および前記音圧計測機器によって消音性能を評価するための評価方法であって、
前記電子機器から無線送信して前記音圧計測機器を計測可能な状態にして前記音圧計測機器によって音圧を計測し、
前記音圧計測機器によって計測された音圧を無線通信して前記電子機器に受信し、
前記電子機器において、前記消音器の消音性能を評価し、前記吸音材の状態を評価するに際し、
少なくとも前記消音換気構造の、1次もしくは2次の共鳴モードを生じる周波数の音圧を計測することを特徴とする消音性能評価方法 。
【請求項19】
前記計測する音として1次もしくは2次の共鳴モードの周波数のみを計測する請求項18に記載の消音性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消音器を備えた換気スリーブ等の消音換気構造、及びこれを用いる消音性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
換気口、空調用ダクトなど、室内と室外とを隔てる壁に設けられた、室内と室外とを貫通する換気スリーブにおいて、室外からの騒音が室内に伝わるのを抑制するため、あるいは室内からの騒音が外部に伝わるのを抑制するために、換気スリーブ内にウレタン、ポリエチレン等からなる多孔質の吸音材を設置することが行なわれている。
また、このような多孔質吸音材を用いる場合、吸収率、特に低周波音の吸収率を大きくするためには体積を大きくすることが必要であるが、換気スリーブ内に体積の大きな多孔質吸音材を設置すると通気性が低下するため、換気スリーブの外側に多孔質吸音材を配置して通気性と防音性能とを両立することも行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、消音容器と減音装置とから構成される消音換気装置が開示されている。ここで、消音容器は、内面に、吸音材を貼り付け、高低差を設けて設置された屋外側換気口及び屋内側換気口を備える中空の容器である。減音装置は、外壁の貫通孔の内面に取り付けられたスリーブに挿入される給気筒と、給気筒の消音容器側の端に取り付けられ、給気筒と略同一内径の筒状空洞部を備える共鳴音吸音材とから構成される。
特許文献1に開示の消音換気装置では、管内で生じる400~700Hz帯域音の共鳴現象を減音装置の共鳴音吸音材で吸収するので、高い消音性能を確保でき、圧力損失や空気流量の減少などの相反する性能を大きく低下させることなく設置可能であるとしている。また、高低差を設けて設置した外壁側換気口、屋内側換気口、および、両者間に設けられた消音容器によって、全周波数帯域に渡り高い遮音性能を有するとしている。
【0004】
一方、特許文献2には、遠心ファンの吸込口側に配置されるダクト状の能動消音装置を有する送風機が開示されている。能動消音装置は、筒状の小風路に音波を検知するリファレンスマイクロホン、エラーマイクロホンと音波を放出するスピーカを備えている。また、小風路の流出口と遠心ファンの吸込口をつなぐ通風路の内壁面と小風路の外壁面のうち、遠心ファンの吸込口に対向する部分に吸音材を備えている。
特許文献2に開示の送風機では、圧力損失と能動消音装置の消音効果の定在波による低下とを抑制しながらも、コンパクト化を実現した送風機を提供することができるとしている。また、吸音材により、遠心ファンの吸込口から放出された音波の一部が壁面に反射して能動消音装置に入射し、これにより平面波の形成を阻害するため、消音効果が低下することを抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-164229号公報
【文献】特開2015-143520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示の消音換気装置の消音装置、及び減音装置、及び一般の換気スリーブ等の消音器では、上述した多孔質吸音材が消音の重要な役目を担っているが、空気中の湿度又は温度等の影響で、経時に伴い劣化してしまい、結果として、消音性能が著しく低減してしまうことがある。
このように、消音器を備えた換気スリーブ等の従来の消音換気構造においては、使用環境に応じて、高音、又は低温、音量の大きい、又は小さい音を含む高温、又は低温、かつ多湿、又は乾燥の空気等、様々な温度、及び湿度の空気が通過するため、多孔質吸音材は、これらの空気の影響を受けて、長年使用していると、経年変化が生じ、消音性能が劣化してしまう。
【0007】
このような場合には、消音器中の吸音材を新しいものにその都度交換する必要があるが、その使用(外部)環境によって、消音性能の劣化の速度が異なってくるので、吸音材の交換の時期は、環境異存が大きい。即ち、吸音材の交換の時期は、使用環境(湿度や温度等の環境条件)により大きく異なる。こういう構造であるので、吸音材はその外観、及び/又は色等の変化から消音性能の劣化の度合いを推定できる場合もある、しかしながら、消音換気構造に用いられる吸音材は、通常、消音換気構造に内部に入ってしまっており、視認できない箇所に設置されているため、その色など外観から消音性能の劣化度合いを推定することは一般ユーザからすると困難であり、分解して視認する必要がある等、非常に手間が掛かる等の問題がある。
このため、交換時期の目安として、消音換気構造の消音性能が劣化してきたら、そこで交換すると言うのが最も合理的である。即ち、消音能力低下を以て、吸音材の交換を行うのが最も合理的である。しかしながら、消音換気構造は、一般の住宅環境に用いられていることから、一般の住宅(家庭)で、一般のユーザが計測機器等を持ち込んで消音性能を計測するということは現実的ではないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示の送風機では、通風路の内壁面と能動消音装置の小風路の外壁面のうち、遠心ファンの吸込口に対向する部分に吸音材を用い、消音効果の低減を抑制しているが、吸音材の吸音性能の劣化は、上述した従来の消音換気構造の場合と同様に生じるし、同様な問題がある。
また、特許文献2に開示の送風機に用いられる能動消音装置では、小風路の入口側に設置されたリファレンスマイクロホンによって小風路内を伝播する音波を検知し、騒音を検出すると共に、リファレンスマイクロホンによって検出された騒音とは逆位相の音をスピーカによって放出することによって小風路内を伝播する騒音を減衰させ、エラーマイクロホンによってスピーカから放出された音によって減衰した騒音を検出して確認している。
しかしながら、特許文献2に開示の送風機では、吸音材が用いられているのは、能動消音装置の小風路の外側であるので、小風路内の2つのマイクロフォンでは、吸音材の消音性能を計測することはできないという問題がある。また、特許文献2においては、吸音材の消音性能を全く考慮していない。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、家庭でも簡易に消音器の吸音材の消音性能を評価可能な消音性能評価システムを備えた消音換気構造、及びこれを用いた消音性能評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る消音換気構造は、2つの空間を隔てる壁を貫通して設けられる環状部材と、環状部材に設置され、環状部材の貫通孔と連通する貫通孔、及び吸音材を有する消音器と、2つの空間の少なくとも一方に設置される少なくとも1つの音圧計測機器、及び無線通信を介して音圧計測機器を遠隔操作可能である独立した電子機器から構成される消音評価システムと、を備えていることを特徴とする。
【0011】
ここで、吸音材は、消音器の内壁の周囲、及び/又は内部に配置されることが好ましい。
また、消音器は、更に吸音材を固定する枠体を備えることが好ましい。
また、吸音材は、消音器の貫通孔を形成することが好ましい。
また、消音器は、2つの空間の一方の空間に配置されることが好ましい。
また、消音器の貫通孔と、環状部材の貫通孔とは、同一孔径であることが好ましい。
また、音圧計測機器の少なくとも1つは、2つの空間のうち消音器が設置される側の一方の空間に設置されていることが好ましい。
また、消音評価システムは、一方の空間に設置された音圧計測機器で測定された計測データから消音器の吸音材の状態を評価することが好ましい。
また、音圧計測機器を2つ以上備え、そのうちの少なくとも1つは、2つの空間のうちの消音器が設置されていない側の他方の空間に設置されていることが好ましい。
また、消音評価システムは、一方の空間に設置された音圧計測機器で測定された計測データと、他方の空間に設置された音圧計測機器で測定された計測データとの比率から消音器の吸音材の状態を評価することが好ましい。
【0012】
また、音圧計測機器は、消音換気構造の1次もしくは2次の共鳴モードの周波数のみを測定することが好ましい。
なお、消音換気構造の共鳴モードは、好ましくは、吸音材が新品の場合において、環状部材の貫通孔の一方から他方(一方の換気口から他方の換気口)に向って音を流した場合(
図4に示す計算モデルのシミュレーションに相当)における透過してくる音圧の透過強度のピークのうち、低周波のものから順に1次、2次、・・・と定義する。
また、音圧計測機器の無線通信の通信リンク方式として、WiFiダイレクト、又はBluetooth(登録商標)技術を利用していることが好ましい。
また、音圧計測機器は、独立した電子機器との通信が一定の時間行われない場合に、自動で電源が切れる機能を備えることが好ましい。
また、音圧計測機器は、独立した電子機器との通信による遠隔操作によって電源がオンオフされることが好ましい。
また、消音評価システムは、計測データを格納するメモリ、又はデータ保持機構を備えることが好ましい。
また、消音評価システムは、吸音性能計測用システムを備えることが好ましい。
また、消音評価システムは、REF(参照基準)吸音性能がデータとして実装されていることが好ましい。
【0013】
また、上記目的を達成するために、本発明の第2の態様に係る消音性能評価方法は、2つの空間を隔てる壁を貫通して設けられる環状部材と、環状部材に設置され、環状部材の貫通孔と連通する貫通孔、及び吸音材を有する消音器と、2つの空間の少なくとも一方に設置される少なくとも1つの音圧計測機器、及び無線通信を介して遠隔操作可能である独立した電子機器から構成される消音評価システム、とを備えている消音換気構造において、電子機器および音圧計測機器によって消音性能を評価するための評価方法であって、電子機器から無線送信して音圧計測機器を計測可能な状態にして音圧計測機器によって音圧を計測し、音圧計測機器によって計測された音圧を無線通信して電子機器に受信し、電子機器において、消音器の消音性能を評価し、吸音材の状態を評価するに際し、少なくとも消音換気構造の、1次もしくは2次の共鳴モードを生じる周波数の音圧を計測することを特徴とする。
ここで、計測する音として1次もしくは2次の共鳴モードの周波数のみを計測することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、家庭でも簡易に消音器の吸音材の消音性能を評価可能な消音性能評価システムを備えた消音換気構造、及びこれを用いた消音性能評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る消音換気構造の一例を概念的に示す断面模式図である。
【
図3A】本発明の他の実施形態に係る消音換気構造の一例を概念的に示す断面模式図である。
【
図3B】本発明の他の実施形態に係る消音換気構造の一例を概念的に示す断面模式図である。
【
図4】本発明の実施例において用いた基本計算モデルを示す説明図である。
【
図5】
図4に示す基本計算モデルの部分拡大図である。
【
図6】実施例1の周波数に対する計測音圧の流れ抵抗による変化を示すグラフである。
【
図7】実施例2の周波数に対する透過強度の流れ抵抗による変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る消音換気構造を添付の図面に示す好適実施形態に基づいて以下に詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「直交」および「平行」とは、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、「直交」および「平行」とは、厳密な直交あるいは平行に対して±10°未満の範囲内であることなどを意味し、厳密な直交あるいは平行に対しての誤差は、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。
本明細書において、「同一」、「同じ」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、本明細書において、「全部」、「いずれも」または「全面」などというとき、100%である場合のほか、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
【0017】
[消音換気構造]
本発明の消音換気構造の構成について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る消音換気構造の一例を概念的に示す断面模式図である。
図2は、
図1のB-B線断面図である。
図1に示すように、消音換気構造10は、円筒状の換気スリーブ12と、消音器14と、音圧計測機器16とを有する。なお、消音換気構造10には、
図1に示すように、ガラリ18と、レジスタ20が設けられていても良い。
図1に示す消音換気構造10は、2つの空間22、及び24を隔てる壁26と、壁26を貫通する換気スリーブ12と、壁26から所定距離離間して、壁26に平行に設けられた化粧板28と、換気スリーブ12の貫通孔12aと連通する貫通孔14aを備え、壁26と化粧板28の間の空間に配置される消音器14と、化粧板28の外側に設置される音圧計測機器16と、化粧板28と反対側である、換気スリーブ12の端部に設けられるガラリ18と、化粧板28の側に設けられるレジスタ20とを有する。
【0018】
[換気スリーブ]
換気スリーブ12は、
図1に示すように、貫通孔12aを備える本発明の環状部材であり、第1の空間22、及び第2の空間24よりなる2つの空間を隔てる壁26を貫通して設けられる。
壁26が、例えば、マンションのような住宅の壁のような場合には、第1の空間22は、屋外であり、第2の空間24は、屋内である。
図1に示す例では、屋外である第1の空間22には、換気スリーブ12の貫通孔12aの一方の端面に対向してガラリ18が設けられている。また、屋内である第2の空間24には、換気スリーブ12の貫通孔12aの他方の端面には消音器14、及び化粧板28が設置されている。
【0019】
換気スリーブ12は、例えば、換気口および空調用ダクト等の換気スリーブである。
なお、換気スリーブ12は、換気口および空調用ダクト等に限定はされず、各種機器に用いられる一般的なダクトであってもよい。
本発明の消音換気構造10は、例えば、マンションのような住宅の壁のような壁の換気スリーブに好適に適用することができる。なお、住宅の壁は、例えば、コンクリート壁、石膏ボード、断熱材、化粧板、および、壁紙等の壁材を有して構成されており、これらを貫通して換気スリーブが設けられている。なお、
図1に示す例では、本発明における壁26は、コンクリート壁に相当するものと言うことができ、その他の、壁材の図示は省略されている。
【0020】
なお、換気スリーブ12の断面形状は、円形状に限定はされず、四角形状、三角形状等の種々の形状であってもよい。
また、住宅用の換気スリーブ12の場合には、換気スリーブの直径(円相当直径)(外径)は、70mm~160mm程度である。
なお、換気スリーブ12の内径(貫通孔12aの孔径)は、分解能を1mmとして測定する。換気スリーブの断面形状が、円形ではない場合は、その面積を円相当面積として直径に換算して内径を求めることが好ましい。1mm未満の凹凸等の微細構造を有する場合には、これを平均化することが好ましい。
換気スリーブ12の材料としては、特に制限的ではないが、金属であることが好ましく、例えば、アルミニウム、銅、ブリキ、チタン、及びステンレス等を挙げることができる。
【0021】
[消音器]
消音器14は、換気スリーブ12の貫通孔12aと連通する貫通孔14aを備え、第2の空間24であって、壁26と化粧板28との間の空間に配置される。
図1に示すように、消音器14は、2つの空間の一方の第2の空間24に配置されることが好ましい。
消音器14は、挿入部30a、空洞部30bを形成する枠本体30c、及び係止部30dを備え、貫通孔14aを形成する枠体30と、枠体30の空洞部30b内に配置され、貫通孔14aを形成する吸音材32とを有する。
図1、及び
図2に示すように、枠体30は、換気スリーブ12の貫通孔12aと連通し、且つ同軸、かつ略同径である貫通孔14aを形成すると共に、貫通孔14aの外側の周面の全周に空洞部30bを有する。
【0022】
枠体30の挿入部30aは、円筒状を成し、枠本体30cから外側に突出しており、円筒状の換気スリーブ12の貫通孔12a内に挿入されて、枠体30を換気スリーブ12に固定するためのものである。したがって、挿入部30aの外径は、換気スリーブ12の貫通孔12aの孔径に略等しい(圧入できる程度に少し大きくても良い)。一方、挿入部30aの内径は、換気スリーブ12の貫通孔12aの孔径に略等しいが、厳密には、挿入部30aの部材の厚みの分だけ小さい。挿入部30aの内側の開口部分は、消音器14の貫通孔14aを形成する。したがって、消音器14の貫通孔14aと、換気スリーブ12の貫通孔12aとは、同一孔径であることが好ましい。ここで、同一孔径とは、-10%~+10%の範囲の孔径のずれを含むものである。
枠本体30cは、吸音材32を収容して固定する円環形状の空洞部30bを形成するためのものである。空洞部30bは、消音器14の貫通孔14aの外側周方向に形成され、貫通孔14aと連通している空間である。
【0023】
係止部30dは、円筒状を成し、空洞部30bに一部を覆うように枠本体30cから内側に突出しており、空洞部30bに収納された吸音材32を空洞部30b内に固定できるように係止するためのものである。ここで、
図1に示す例では、係止部30dの外径、及び内径は、それぞれ挿入部30aの外径、及び内径に等しい。係止部30dの内側の開口部分は、挿入部30aの開口部分と同様に消音器14の貫通孔14aを形成する。
ここで、
図2に示す例では、消音器14の枠体30(空洞部30b)は、消音器14の貫通孔14aの外周面の全周に沿った略環状としたが、これに限定はされず、空洞部を有する各種の立体形状であればよい。例えば、半環形状であってもよいし、直方体形状であってもよい。
消音器14の枠体30の材料としては、換気スリーブ12の材料と同様な材料を用いれば良い。
【0024】
吸音材32は、枠体30の空洞部30b内の全体に配置されている。従って、吸音材32は、円環形状であり、その内側の開口部分は、消音器14の貫通孔14aを形成する。したがって、消音器14の貫通孔14aは、挿入部30aの内側の開口部分、吸音材32の内側の開口部分、及び係止部30dの内側の開口部分によって形成される。
周知のとおり、吸音材は、内部を通過する音の音エネルギーを熱エネルギーに変換することで吸音するものである。
吸音材32としては、多孔質吸音材であることが好ましいが、特に限定はなく、従来公知の吸音材が適宜利用可能である。例えば、発泡ウレタン、軟質ウレタンフォーム、木材、セラミックス粒子焼結材、フェノールフォーム等の発泡材料および微小な空気を含む材料;グラスウール、ロックウール、マイクロファイバー(3M社製シンサレートなど)、フロアマット、絨毯、メルトブローン不織布、金属不織布、ポリエステル不織布、金属ウール、フェルト、インシュレーションボードおよびガラス不織布等のファイバーおよび不織布類材料;木毛セメント板;シリカナノファイバーなどのナノファイバー系材料;石膏ボード;種々の公知の吸音材が利用可能である。
【0025】
なお、
図1、及び
図2に示す例では、吸音材32は枠体30の空洞部30b内の全体に配置される構成としたが、これに限定はされず、空洞部30b内の少なくとも一部に配置される構成とすればよい。あるいは、吸音材32は、消音器14の貫通孔14aの少なくとも一部を覆うように配置される構成としてもよい。
なお、化粧板28は、第2の空間24である住宅等の屋内灯において、コンクリート壁等の壁26がむき出しにならないように、壁26を覆うためのものである。化粧板28は、消音器14の貫通孔14aと連通する開口28aを備える。化粧板28の開口28aは、消音器14の貫通孔14aと同軸、かつ同径である。化粧板28としては、従来公知の化粧板を用いることができる。
【0026】
音圧計測機器16は、2つの空間22、及び24の内、消音器14が設置される側の第2の空間24にある化粧板28の外側に設置される。
ここで、音圧計測機器16は、マイクロフォン34を有する。したがって、マイクロフォン34は、第2の空間24にある消音器14の外側に設置される化粧板28に外側、かつその開口28aの近傍に設置される。
マイクロフォン34は、電子機器36によって遠隔操作される無線通信機能付マイクロフォンである。
【0027】
マイクロフォン34は、消音評価システムによって電子機器36からの無線通信によって遠隔操作されて電源オンの状態にされ、音圧を計測可能な状態にされる。次に、マイクロフォン34は、第1の空間22で発生して、ガラリ18を通過し、換気スリーブ12に入り、換気スリーブ12内を通過し、第2の空間24に設置されている消音器14に入り、消音器14で消音された騒音の音圧を計測する。続いて、マイクロフォン34は、無線通信機能によって計測した計測データを電子機器36に無線送信する。マイクロフォン34は、無線送信終了後、消音評価システムによって電子機器36からの無線通信によって遠隔操作されて、又は自動的に、電源オフの状態にされる。こうすることにより、マイクロフォン34の電源の消費を減らし、長期間に係る使用を可能にすることができる。
【0028】
したがって、マイクロフォン34は、設置された第2の空間24の騒音、特に消音器14を通過し、その貫通孔14aから漏れ出す騒音の音圧を計測して音圧の計測データを取得する機能と、計測された騒音の音圧の計測データを電子機器36に向けて無線通信する機能と、マイクロフォン34から独立した電子機器36からの無線通信を介した遠隔操作によって、騒音を計測する機能を稼働させるためにマイクロフォン34の電源をオンさせる機能とを有する。なお、マイクロフォン34は、音圧の計測、及び計測データの送信が終了した後、電子機器36との通信が一定の時間行われない場合に、自動で電源が切れる(オフされる)機能を備えることが好ましい。又は、マイクロフォン34は、音圧の計測、及び計測データの送信が終了した後、電子機器36からの無線通信による遠隔操作によってマイクロフォン34の電源をオフの状態にさせる機能を有していても良い。
【0029】
即ち、マイクロフォン34は、消音評価システムによって電子機器36からの電源オンの遠隔操作信号を無線受信するとその電源をオンし、騒音の音圧を計測して音圧の計測データを取得し、取得した音圧の計測データを電子機器36に無線送信し、その後、一定時間経過後、自動的にその電源がオフされ、もしくは、電子機器36からの電源オフの遠隔操作信号を無線受信するとその電源をオフする。
その結果、マイクロフォン34は、消音器14の音圧を長時間に亘って適切に計測し、長い時間かかって劣化していく吸音体32の消音状態を適切に評価することができる。
【0030】
マイクロフォン34は、消音評価システムによって円筒状の換気スリーブ12、及び消音器14からなる消音換気構造10の1次、もしくは2次の共鳴モードの周波数のみを測定することが好ましい。
ここで、消音換気構造の共鳴モードは、好ましくは、吸音材が新品の場合において、環状部材の貫通孔の一方から他方(一方の換気口から他方の換気口)に向って音を流した場合(
図4に示す計算モデルのシミュレーションに相当)における透過してくる音圧の透過強度のピークのうち、低周波のものから順に1次、2次、・・・と定義する。
円筒状の換気スリーブ12、及び消音器14からなる消音換気構造10は、ある長さの筒体を構成するので、ある長さの共鳴構造を構成し、1次から高次の共鳴モードの周波数、共鳴周波数を持つ。本発明者らは、後述する
図6、及び
図7に示すように、吸音材32の劣化が顕著に表れる音圧の周波数が、その共鳴モードの周波数に対応していることを知見した。その結果、全部の周波数を計測することなく、特定の共鳴モードの周波数のみを計測することで、短時間、かつ容易に、吸音材32の劣化を評価することができる。
【0031】
電子機器36は、マイクロフォン34から独立して配置されており、消音評価システムを備えている。電子機器36は、消音評価システムによって、マイクロフォン34を無線通信によって遠隔操作して、その電源をオンして、マイクロフォン34に音圧を計測させ、マイクロフォン34から計測された無線送信させ、無線送信された音圧の計測データを無線受信し、出力する。更に、電子機器36は、消音評価システムによって、マイクロフォン34を無線通信によって遠隔操作して、その電源をオフしても良い。
電子機器36としては、消音評価システムによってマイクロフォン34を無線通信によって遠隔操作して騒音の音圧の計測データを取得できれば特に制限的ではなく、例えば、パソコン(パーソナルコンピュータ)、及びスマートフォン、タブレット端末、及びスマートスピーカー等を挙げることができる。
ここで、マイクロフォン34と、電子機器36との間の無線通信の通信リンク方式として、WiFiダイレクト、又はBluetooth(登録商標)技術を利用することが好ましい。こうすることにより、マイクロフォン34と、電子機器36との間の無線通信を、効率よく行うことができる。
【0032】
即ち、電子機器36は、消音評価システムによって、マイクロフォン34を無線通信によって遠隔操作して、その電源をオンして、マイクロフォン34に騒音の音圧を計測させ、マイクロフォン34から計測された無線送信させる機能と、マイクロフォン34において計測された騒音の音圧の計測データをマイクロフォン34から無線受信する機能と、マイクロフォン34から無線受信した音圧の計測データを表示装置、又は紙媒体に出力する機能とを有する。電子機器36は、単に、無線受信した音圧の計測データを出力するのみならず、消音評価システムによって、音圧の計測データを解析して、計測データから消音器14の吸音材32の状態、即ち劣化状態を評価する機能を有することが好ましい。また、電子機器36は、消音評価システムによって、マイクロフォン34を無線通信によって遠隔操作して、その電源をオフする機能を有していても良い。
即ち、本発明の消音評価システムは、マイクロフォン34と電子機器36と電子機器36に格納されているソフトウェア(アプリケーション)とで構成されるシステムであり、マイクロフォン34側の評価システムは、電子機器36によって遠隔操作されて音圧を計測して計測データを取得し、電子機器36に送信するものであり、電子機器36側の評価システムは、マイクロフォン34を遠隔操作して音圧の計測データを取得して、得られた計測データ用いて消音を評価し、吸音材の状態を評価するものである。
【0033】
また、マイクロフォン34、及び/又は電子機器36の消音評価システムは、マイクロフォン34によって計測された騒音の音圧の計測データを格納するメモリ、又はデータ保持機構を備えることが好ましい。
消音評価システムにおいて、マイクロフォン34によって計測された騒音の音圧の計測データを解析して、消音器14の消音を評価し、吸音材32の劣化状態を評価するためには、吸音材32がフレッシュな場合の吸音能力を測定し、データとして保持しておく必要がある。このデータが、REF(参照基準)データとなり、後の透過損失の劣化、即ち吸音材32の劣化状態を見積もる基準データとなる。
本発明の消音評価システムにおいては、このデータを保持するためのメモリが存在することが好ましい。
このメモリは、遠隔操作側の電子機器36にあっても良いし、マイクロフォン34に実装されていてもよいし、クラウド上に保存される形となっていても良い。この場合には、クラウドは、消音評価システムの一部を構成する。
このように、REF(参照基準)データをメモリに格納しておくことにより、吸音材32の劣化状態を正確に評価することができる。
【0034】
また、本発明の消音評価システムは、吸音性能計測用システム、即ち、吸音性能計測用ソフトウェアアプリケーションを備えることが好ましい。
消音評価システムにおいては、吸音性能計測用システムとして、REFデータとの差分を計算する簡易アプリケーションが備わっていることが好ましい。吸音性能計測用システムを稼働させることにより、吸音材32の劣化状態をより正確に評価することができる。
REFデータをREF(参照基準)として登録できる、或いはREFデータが予めソフトウェアアプリケーションに登録されていることが好ましい。
また、消音評価システムは、REF(参照基準)吸音性能がデータとして実装されていることが好ましい。こうすることにより、REFデータを測定しなくても、吸音材32の劣化状態を正確に評価することができる。
なお、本発明の消音換気構造10の設置当初から、消音器14を透過した騒音の音圧の計測データを多数蓄積することを続けて行くことにより、また、音圧データ以外にも、温度、及び湿度、又は消音換気構造10の換気スリーブ12の貫通孔12、及び消音器14の貫通孔14aを通過する空気の風速、風量をも計測しておくことにより、これらの多数の計測データをデータセットとしてAI(人工知能: Artificial Intelligence)技術を用いて、消音換気構造10の消音器14の吸音材32の劣化状態をより正確に評価することができる。
【0035】
ガラリ18は、第1の空間22において、化粧板28と反対側である、換気スリーブ12の端部に設けられるカバー部材である。ガラリ18は、換気スリーブ12の外側に換気口12aを覆うように設置される。このようなカバー部材は、換気口、及び/又は空調用ダクト等に設置される従来公知の、ルーバー、ガラリ等を挙げることができる。
レジスタ20は、第2の空間24において、化粧板28の側に設けられる従来公知の風量調整部材である。レジスタ20は、その先端部が、化粧板28の開口28aから消音器14の貫通孔14aに挿入されることにより、消音器14、及び化粧板28に取り付けられる。
【0036】
本発明の消音換気構造10は、換気スリーブ12のいずれか一方の端面側に設置されるガラリ18等のカバー部材、及び他方の端面側(消音器14側)に設置されるレジスタ20等の風量調整部材の少なくとも一方を有していてもよい。
また、カバー部材および風量調整部材は、換気スリーブの消音器が設置された側の端面側に設置されてもよいし、消音器が設置されていない側の端面側に設置されてもよい。
なお、消音換気構造10が、ガラリ18等のカバー部材、及びレジスタ20等の風量調整部材を有する場合には、換気スリーブ12、及び消音器14内に生じる第一共鳴は、カバー部材、及び風量調整部材を含む消音換気構造10における換気スリーブ12、及び消音器14内に生じる第一共鳴である。
図1、及び2に示す本発明の消音換気構造10は、基本的に以上のように構成される。
【0037】
図1、及び2に示す消音換気構造10においては、第2の空間24の消音器14の外側の化粧板28の外側に1つの音圧計測機器16であるマイクロフォン34が設置されているが、本発明はこれに限定されず、2つの空間22、及び24のどちらか一方の空間に配置されていても良いし、複数の音圧計測機器16であるマイクロフォン34が2つの空間22、及び24の少なくとも一方に設置されていても良い。即ち、同じ側の空間に1つ、又は複数の音圧計測機器16が設置されていても良いし、2つの空間22、及び24にそれぞれ、1つ、又は複数の音圧計測機器16が設置されていても良い。
【0038】
例えば、複数の音圧計測機器16の内の少なくとも1つは、
図1に示すように、2つの空間22、及び24のうち消音器14が設置される側の一方の第2の空間24に設置されていることが好ましい。
この場合には、消音評価システムは、後述する
図6に示すように、一方の第2の空間24に設置された音圧計測機器16(マイクロフォン34)で測定された騒音の音圧の計測データから消音器14の
吸音材32の状態を評価することが好ましい。
【0039】
一方、複数の音圧計測機器16(マイクロフォン34)の内の他の少なくとも1つは、
図3Aに示す消音換気構造11のように、2つの空間22、及び24のうち消音器14が設置されていない側の他方の第1の空間22に設置されていることが好ましい。
図3Aに示す消音換気構造11では、消音器14が設置されている側の一方の第2の空間22(消音器14の外側の化粧板28の外側表面)に音圧計測機器16a(マイクロフォン34a)が設置されているのに加え、消音器14が設置されていない側の他方の第1の空間22(壁26の外側表面)に音圧計測機器16b(マイクロフォン34b)が設置されている。
図3Aに示す消音換気構造11は、これらの点以外では、
図1に示す消音換気構造10と同様の構成を有する。
この場合には、消音評価システムは、後述する
図7に示すように、一方の第2の空間24に設置された音圧計測機器16a(マイクロフォン34a)で測定された音圧の計測データと、他方の第1の空間22に設置された音圧計測機器16b(マイクロフォン34b)で測定された音圧の計測データとの比率から消音器14の
吸音材32の状態を評価することが好ましい。
【0040】
図1に示す消音換気構造10においては、本発明においては消音器14の吸音材32は、吸音材32の内孔が換気スリーブ12の貫通孔12aと略同径である消音器14の貫通孔14aとなるように、枠体30の空洞部30bに保持されているが、本発明はこれに限定されない。
図3Bに示す消音換気構造10Aのように、消音器14の枠体を、内径が換気スリーブ12の貫通孔12aと略同径である円筒管状の管体40で構成し、管体40の内部、即ち内壁の周囲(内周面)に配置するようにしても良い。
【0041】
また、本発明は、2つの空間を隔てる壁を貫通して設けられる環状部材と、環状部材に設置され、環状部材の貫通孔と連通する貫通孔、及び吸音材を有する消音器と、2つの空間の少なくとも一方に設置される少なくとも1つの音圧計測機器、及び無線通信を介して音圧計測機器を遠隔操作可能である独立した電子機器から構成される消音評価システムと、を備えている消音換気構造において、電子機器および音圧計測機器によって消音性能を評価するための評価方法であって、電子機器から無線送信して音圧計測機器の電源をオン状態にして音圧計測機器によって音圧を計測し、音圧計測機器によって計測された音圧を無線通信して電子機器に受信し、電子機器において、消音器の消音性能を評価し、吸音材の状態を評価するに際し、少なくとも消音換気構造の、1次もしくは2次の共鳴モードを生じる周波数の音圧を計測する消音性能評価方法を提供するものであっても良い。
ここで、計測する音として1次もしくは2次の共鳴モードの周波数のみを計測することが好ましい。
また、電子機器は、音圧計測機器によって計測された音圧を無線通信によって受信した後、無線送信して音圧計測機器の電源をオフ状態にすることが好ましい。
また、本発明は、上記消音性能評価方法の各々のステップをコンピュータに実行させるためのプログラムであってもよい。このプログラムは、電子機器に格納されるものであって良い。
また、本発明は、上記消音性能評価方法の各々のステップをコンピュータに実行させるためのプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体であっても良い。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の消音換気構造を実施例に基づいて詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
図4に示す音響モデルを用いて、2次元円筒軸対称のシミュレーションを行った。シミュレーションソフトとしてはCOMSOL MultiPhysics5.3aの音響モジュールを用いた。
図4に示すように、シミュレーションにおいて、換気スリーブ12の貫通孔12aの半径は5cmとし、換気スリーブ12の貫通孔12aと消音器14の貫通孔14aの合計長さは20cmとし、貫通孔14aの出口開口の半径は6cmとした。
また、
図5に、
図4に示す音響モデルの消音換気構造10近傍の拡大図を示す。
図5に示すように、シミュレーションにおいて、消音器14の筐体30の吸音体32を内包する枠本体30cの長さは、56cmとし、貫通孔14aと連通する開口部分は、40cmとし、厚みは、45cmとした。
【0043】
図4、及び
図5に示すシミュレーションモデルを用いて、壁で仕切られた一方の(下側)第1の空間22の1/4球状の面(半径50cm)の外側から音波を入射させた。その入射音波を消音換気構造10の換気スリーブ12の貫通孔12aの一方の開口端を通して換気スリーブ12内に入射させた。次に、換気スリーブ12の貫通孔12a内に入射した音波を消音器14の貫通孔14a内を通過させ、消音器14の貫通孔14aの他方の開口端から他方の(上側)第2の空間24に出射させた。その結果として、この第2の空間24の1/4球状の面(半径50cm)に到達する音波を検出した。
なお、第1の空間22、及び第2の空間24の1/4球状の面に到達した音波は、反射して消音換気構造に再び戻ることがないように、球面波境界に設定した。
図4、及び
図5に示すように、計測ポイントとして、入射側の第1の空間22では、換気スリーブ12の貫通孔12aの外側近傍に音圧計測機器16b(マイクロフォン34b)が設置され、出射側の第2の空間24では、消音器14の貫通孔14aの外側近傍に音圧計測機器16(マイクロフォン34)、又は音圧計測機器16a(マイクロフォン34a)が設置できるようになっている。
【0044】
(実施例1)
まず、実施例1のシミュレーションでは、
図1に示すように、計測ポイントとして、出射側の第2の空間24においてのみ、消音器14の貫通孔14aの外側近傍に1つの音圧計測機器16(マイクロフォン34)を設置して、騒音の音圧を計測した。
本シミュレーションでは、流れ抵抗の劣化を吸音材32の劣化と仮定した。吸音材32が劣化した場合、その一部が剥がれたり破壊されたりして、音の媒質流体に対する流れ抵抗が劣化していくためである。
【0045】
まず、本シミュレーションでは、下側の第1の空間22の1/4球状の面(半径50cm)の外側からホワイトノイズ(全周波数で音圧振幅1Pa)を入射した。
計測した音圧をp
0とした場合において、計測音圧20*log10(|p
0|)[dB]を
図6に示す。
図6は、計測ポイントでの音圧、計測音圧を周波数に対してプロットしたグラフである。
なお、実際に計測するケースとしては、例えば24時間の平均音圧を測定する。
【0046】
図6において、流れ抵抗が7010[Pa・s/m
2]である実線の場合は、正常の状態であり、流れ抵抗が2650[Pa・s/m
2]である点線(短破線)の場合、更に流れ抵抗が100[Pa・s/m
2]である長破線の場合のように、流れ抵抗が劣化していくと、計測された音圧が大きくなっていくのが分かる。即ち、吸音材32が劣化した場合に、観測される計測音圧が増加していることが分かる。このことから、出口側の絶対音圧を測定することで、本発明の音圧計測評価システムにより、家庭でも簡易に消音器の吸音材の消音性能を適切に評価できることが分かる。
【0047】
なお、
図6から、周波数が400Hz,及び800Hz近傍に、いずれの流れ抵抗の場合にも、計測音圧がピークを持つことが分かる。これらの計測音圧がピークを持つ周波数400Hz,及び800Hzの近傍において、計測音圧の差分が大きくなっており、吸音材32の劣化状態を観測する上では、有利である。ここで、計測音圧がピークを持つ周波数400Hz,及び800Hzは、換気スリーブ12の貫通孔12a、及び消音
器14の貫通孔14aを合わせた筒体の1次、及び2次の共鳴モードの周波数である。したがって、本発明の音圧計測評価システムでは、音圧計測機器16(マイクロフォン34)は、消音換気構造10の1次、又は2次の共鳴モードの周波数のみを測定すればよいことが分かる。
【0048】
(実施例2)
まず、実施例2のシミュレーションでは、
図2に示すように、計測ポイントとして、出射側の第2の空間24において、消音器14の貫通孔14aの外側近傍に1つの音圧計測機器16a(マイクロフォン34a)を設置すると共に、入射側の第1の空間22において、換気スリーブ12の貫通孔12aの外側近傍にもう1つの音圧計測機器16b(マイクロフォン34b)を設置して、2つのマイクロフォン34a、及び34bによって騒音の音圧を計測した。
実施例2のシミュレーションでも、実施例1のシミュレーションと同様に、流れ抵抗の劣化を吸音材32の劣化と仮定した。
【0049】
まず、本シミュレーションでは、下側の第1の空間22の1/4球状の面(半径50cm)の外側からホワイトノイズ(全周波数で音圧振幅1Pa)を入射した。
入口側の計測ポイントの音圧計測機器16b(マイクロフォン34b)で計測した音圧をp
iとし、出口側の計測ポイントの音圧計測機器16a(マイクロフォン34a)で計測した音圧をp
0とした場合において、音圧の透過強度(入口側の音圧と出口側の音圧との比率)20*log10(|p
i/p
0|)[dB]を
図7に示す。
図7は、入口側の計測ポイントでの音圧と出口側の計測ポイントでの音圧との比率で示される透過強度を周波数に対してプロットしたグラフである。
図7では、透過強度が大きいほうが、消音性能が低いことを意味する。
【0050】
図7に示すように、流れ抵抗が7010[Pa・s/m
2]である実線の場合は、正常の状態であり、流れ抵抗が2650[Pa・s/m
2]である点線(短破線)の場合、更に流れ抵抗が2650[Pa・s/m
2]である長破線の場合のように、流れ抵抗が劣化していくと、透過強度が大きくなっていくのが分かる。
以上より、入口側、及び出口側の計測ポイントの音圧計測機器16a,16bでそれぞれ音圧を計測し、それらから音圧の透過強度を算出したとき、吸音材32が劣化した場合に観測される音圧の透過強度が増加している、即ち、消音性能が低下してくることが分かる。このことから、本発明の音圧計測評価システムにより、家庭でも簡易に消音器の吸音材の消音性能を適切に評価できることが分かる。
【0051】
なお、実施例1の場合と同様に、周波数が400Hz,及び800Hz近傍に、いずれの流れ抵抗の場合にも、音圧の透過強度がピークを持つことが分かる。これらの透過強度がピークを持つ周波数400Hz,及び800Hzの近傍において、透過強度の差分が大きくなっており、吸音材32の劣化状態を観測する上では、有利である。ここで、実施例1の場合と同様に、計測音圧がピークを持つ周波数400Hz,及び800Hzは、換気スリーブ12の貫通孔12a、及び消音器14の貫通孔14aを合わせた筒体の1次、及び2次の共鳴モードの周波数である。したがって、本発明の音圧計測評価システムでは、2つの音圧計測機器16、及び16b(マイクロフォン34a、及び34b)は、消音換気構造10の1次、又は2次の共鳴モードの周波数のみを測定すればよいことが分かる。
【0052】
以上、本発明に係る消音換気構造、及び消音評価方法についての種々の実施形態および実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は、これらの実施形態および実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良、又は変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0053】
10、11 消音換気構造
12 換気スリーブ
12a、12b 貫通孔
14 消音器
16、16a、16b 音圧計測機器
18 ガラリ
20 レジスタ
22 第1の空間
24 第2の空間
26 壁
28 化粧板
30 枠体
30a 挿入部
30b 空洞部
30c 枠本体
30d 係止部
32 吸音材
34、34a、34b マイクロフォン
36 電子機器
40 管体