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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】光学素子およびセンサー
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220207BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20220207BHJP
   G01D 5/26 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/08 A
G01D5/26 F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020532467
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029226
(87)【国際公開番号】W WO2020022434
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018141370
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528597(JP,A)
【文献】特開2006-113513(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194961(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/030176(WO,A1)
【文献】特開2002-189124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G01D 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を有する光学素子であって、
前記コレステリック液晶層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するものであり、
さらに、前記コレステリック液晶層は、前記光学軸の向きが回転する一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡で観察した断面図において、前記コレステリック液晶相に由来する明線および暗線が不連続な部分を、前記光学軸の向きが回転する一方向に沿って有するものであり、さらに、
前記液晶配向パターンにおいて、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向に、前記光学軸の向きが180°回転する長さを1周期とした際に、前記コレステリック液晶層における、前記コレステリック液晶相に由来する明線および暗線が不連続な部分を挟む領域は、前記1周期の長さが等しいことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記明線および暗線が不連続な部分として、前記明線および前記暗線の角度が異なる部分を有する、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記明線および暗線が不連続な部分では、前記明線および前記暗線が前記コレステリック液晶層の厚さ方向に向かう、請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記明線および暗線が不連続な部分を挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物は、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが等しい、請求項2または3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記明線および暗線が不連続な部分として、前記明線および前記暗線が断線している部分を有する、請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
前記明線および暗線が不連続な部分として、前記明線および前記暗線が、前記光学軸の向きが回転する一方向にズレている部分を有する、請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
前記明線および暗線が不連続な部分を挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物は、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが互いに異なる、請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記明線および暗線が不連続な部分を挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物の、前記液晶化合物由来の光学軸が成す角度が70~90°である、請求項7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記コレステリック液晶層の選択反射波長域において、最も反射率が低い波長をλm[nm]とした際に、前記明線および暗線が不連続な部分の厚さ[nm]が、
30×(λm/550)~150×(λm/550)
である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の光学素子と、前記光学素子が反射した光を検出する光検出器と、を有するセンサー。
【請求項11】
前記光学素子が反射可能な光を出射する光源を有し、
前記光検出器は、前記光源が出射して、前記光学素子が反射した光を検出する、請求項10に記載のセンサー。
【請求項12】
前記光検出器が、ライン状に光を検出する光検出器、または、二次元的に光を検出する光検出器である、請求項10または11に記載のセンサー。
【請求項13】
前記光学素子が受けた刺激を検出する、請求項10~12のいずれか1項に記載のセンサー。
【請求項14】
前記光学素子が受けた刺激として、機械的な刺激、光学的な刺激、化学的な刺激、および、電気的な刺激の、少なくとも1つを検出する、請求項13に記載のセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を反射する光学素子、および、この光学素子を用いるセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を有する光学素子が、各種、提案されている。
コレステリック液晶層は、反射に波長選択性を有し、かつ、特定の旋回方向の円偏光のみを反射する。すなわち、コレステリック液晶層は、例えば、赤色光の右円偏光のみを反射し、それ以外の光を透過する。
このようなコレステリック液晶層を利用することにより、例えば、スクリーンを介して向こう側が視認できる、透明な投影用スクリーンが実現できる。
【0003】
コレステリック液晶層による光の反射は、鏡面反射である。例えば、コレステリック液晶層に法線方向(正面)から入射した光は、コレステリック液晶層の法線方向に反射される。
【0004】
これに対して、特許文献1には、コレステリック液晶層を用いる反射構造体であって、鏡面反射ではなく、鏡面反射に対して所定方向に角度を有して光を反射できる反射構造体が記載されている。
この反射構造体は、各々が所定方向に沿って延びる複数の螺旋状構造体を備えている。また、この反射構造体は、所定方向に交差すると共に、光が入射する第1入射面と、この所定方向に交差すると共に、第1入射面から入射した光を反射する反射面とを有し、第1入射面は、複数の螺旋状構造体のそれぞれの両端部のうちの一方端部を含む。また、複数の螺旋状構造体の各々は、所定方向に沿って連なる複数の構造単位を含み、この複数の構造単位は、螺旋状に旋回して積み重ねられた複数の要素を含む。また、複数の構造単位の各々は、第1端部と第2端部とを有し、所定方向に沿って互いに隣接する構造単位のうち、一方の構造単位の第2端部は、他方の構造単位の第1端部を構成し、かつ、複数の螺旋状構造体に含まれる複数の第1端部に位置する要素の配向方向は揃っている。さらに、反射面は、複数の螺旋状構造体のそれぞれに含まれる少なくとも1つの第1端部を含むものであり、かつ、第1入射面に対して非平行となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/194961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される反射構造体(コレステリック液晶層)は、要するに、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するものである。特許文献1に記載されるコレステリック液晶層は、このような液晶配向パターンを有することにより、第1入射面に対して、非平行な反射面を有する。
そのため、特許文献1に記載される反射構造体は、鏡面反射ではなく、入射した光を、鏡面反射に対して所定の方向に角度を持たせて反射する。例えば、特許文献1に記載されるコレステリック液晶層によれば、法線方向から入射した光を、法線方向に反射するのではなく、法線方向に対して角度を有して反射する。
その結果、特許文献1によれば、コレステリック液晶層を利用する反射構造体の応用範囲を拡張できる。
【0007】
このような特許文献1にも示されるように、コレステリック液晶層を利用することより、様々な光学素子を実現できる。
【0008】
本発明の目的は、コレステリック液晶層によって光を反射する光学素子であって、機械的な刺激等を検出するセンサー等として利用可能な、新規な光学素子、および、この光学素子を用いる新規なセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を有する光学素子であって、
コレステリック液晶層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するものであり、
さらに、コレステリック液晶層は、光学軸の向きが回転する一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡で観察した断面図において、コレステリック液晶相に由来する明線および暗線が不連続な部分を、光学軸の向きが回転する一方向に沿って有することを特徴とする光学素子。
[2] 明線および暗線が不連続な部分として、明線および暗線の角度が異なる部分を有する、[1]に記載の光学素子。
[3] 明線および暗線が不連続な部分では、明線および暗線がコレステリック液晶層の厚さ方向に向かう、[2]に記載の光学素子。
[4] 明線および暗線が不連続な部分を挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物は、液晶化合物由来の光学軸の向きが等しい、[2]または[3]に記載の光学素子。
[5] 明線および暗線が不連続な部分として、明線および暗線が断線している部分を有する、[1]に記載の光学素子。
[6] 明線および暗線が不連続な部分として、明線および暗線が、光学軸の向きが回転する一方向にズレている部分を有する、[1]に記載の光学素子。
[7] 明線および暗線が不連続な部分を挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物は、液晶化合物由来の光学軸の向きが互いに異なる、[6]に記載の光学素子。
[8] 明線および暗線が不連続な部分を挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物の、液晶化合物由来の光学軸が成す角度が70~90°である、[7]に記載の光学素子。
[9] コレステリック液晶層の選択反射波長域において、最も反射率が低い波長をλm[nm]とした際に、明線および暗線が不連続な部分の厚さ[nm]が、
30×(λm/550)~150×(λm/550)
である、[1]~[8]のいずれかに記載の光学素子。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の光学素子と、光学素子が反射した光を検出する光検出器と、を有するセンサー。
[11] 光学素子が反射可能な光を出射する光源を有し、光検出器は、光源が出射して、光学素子が反射した光を検出する、[10]に記載のセンサー。
[12] 光検出器が、ライン状に光を検出する光検出器、または、二次元的に光を検出する光検出器である、[10]または[11]に記載のセンサー。
[13] 光学素子が受けた刺激を検出する、[10]~[12]のいずれかに記載のセンサー。
[14] 光学素子が受けた刺激として、機械的な刺激、光学的な刺激、化学的な刺激、および、電気的な刺激の、少なくとも1つを検出する、[13]に記載のセンサー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コレステリック液晶を用いる光学素子であって、機械的な刺激等を検出するセンサー等として利用可能な、新規な光学素子、および、この光学素子を用いる新規なセンサーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の光学素子の一例を概念的に示す図である。
図2図2は、図1に示す光学素子のコレステリック液晶層を説明するための概念図である。
図3図3は、図1に示す光学素子のコレステリック液晶層の平面を概念的に示す図である。
図4図4は、図1に示す光学素子のコレステリック液晶層の作用を説明するための概念図である。
図5図5は、図1に示す光学素子の配向膜を露光する露光装置の一例の概念図である。
図6図6は、通常のコレステリック液晶層の反射特性を概念的に示す図である。
図7図7は、図1に示す光学素子のコレステリック液晶層の反射特性を概念的に示す図である。
図8図8は、本発明の光学素子の別の例を概念的に示す図である。
図9図9は、本発明の光学素子の別の例を概念的に示す図である。
図10図10は、図1に示す光学素子のコレステリック液晶層の断面SEM画像を概念的に示す図である。
図11図11は、図8に示す光学素子のコレステリック液晶層の断面SEM画像を概念的に示す図である。
図12図12は、図9に示す光学素子のコレステリック液晶層の断面SEM画像を概念的に示す図である。
図13図13は、本発明の光学素子に用いられるコレステリック液晶層の別の例の平面を概念的に示す図である。
図14図14は、本発明のセンサーの一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の光学素子およびセンサーについて、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0013】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
本明細書において、「同一」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、本明細書において、「全部」、「いずれも」および「全面」などというとき、100%である場合のほか、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
【0014】
本明細書において、選択反射中心波長とは、対象となる物(部材)における透過率の極小値をTmin(%)とした場合、下記の式で表される半値透過率:T1/2(%)を示す2つの波長の平均値のことを言う。
半値透過率を求める式: T1/2=100-(100-Tmin)÷2
【0015】
<光学素子>
本発明の光学素子は、入射した光を反射する光反射素子であって、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を有する。
本発明の光学素子において、コレステリック液晶層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する。
さらに、本発明の光学素子において、コレステリック液晶層は、光学軸の向きが回転する一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡で観察した際に、コレステリック液晶相に由来する明線および暗線が不連続な部分を、光学軸の向きが回転する一方向に沿って有する。
後に詳述するが、本発明の光学素子は、このような構造を有することにより、入射した光を、鏡面反射に対して所定の方向に角度を持たせて反射することができ、さらに、コレステリック液晶層の選択反射波長域内に、反射率が急激に低下する波長(波長域)を有し、かつ、外部からの刺激によって、反射率が急激に低下する波長が変動する、新規な光学素子である。このような本発明の光学素子は、機械的な刺激等を検出するセンサー等に好適に利用可能である。
【0016】
図1に、本発明の光学素子の一例を概念的に示す。
図示例の光学素子10は、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層26を有する、特定の波長域の光を選択的に反射する光学素子であって、図中下方から、支持体20と、配向膜24と、コレステリック液晶層26と、を有する。
また、コレステリック液晶層26は、第1領域26aと、第2領域26bと、不連続部26cとを有する。コレステリック液晶層26において、不連続部26cは、第1領域26aと第2領域26bとに挟まれている。コレステリック液晶層26では、第1領域26a側が、支持体20側となる。
【0017】
なお、図示例において、各層および領域等の厚さおよび大きさ等は、本発明の構成を明確に示すために、適宜、調節しており、実際の本発明の光学素子とは、異なる。
また、以下の説明では、支持体20側を下方、コレステリック液晶層26(第2領域26b側)を上方、とも言う。従って、コレステリック液晶層26、および、コレステリック液晶層26の第1領域26a、不連続部26cならびに第2領域26bにおいては、支持体20側の面を下面、逆側を上面とも言う。
【0018】
<<支持体>>
光学素子10において、支持体20は、配向膜24およびコレステリック液晶層26を支持するものである。なお、本発明の光学素子は、支持体20を有さなくてもよい。
【0019】
支持体20は、配向膜24およびコレステリック液晶層26を支持できるものであれば、各種のシート状物(フィルム、板状物)が利用可能である。
支持体20は、透明でも不透明でもよい。
【0020】
支持体20の厚さには、制限はなく、光学素子10の用途および支持体20の形成材料等に応じて、配向膜24およびコレステリック液晶層26を保持できる厚さを、適宜、設定すればよい。
支持体20の厚さは、1~1000μmが好ましく、3~250μmがより好ましく、5~150μmがさらに好ましい。
【0021】
支持体20は単層であっても、多層であってもよい。
単層である場合の支持体20としては、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、および、ポリオレフィン等からなる支持体20が例示される。多層である場合の支持体20の例としては、前述の単層の支持体のいずれかなどを基板として含み、この基板の表面に他の層を設けたもの等が例示される。
【0022】
<<配向膜>>
光学素子10において、支持体20の表面(上面)には配向膜24が形成される。
配向膜24は、光学素子10のコレステリック液晶層26(第1領域26a)を形成する際に、液晶化合物30を所定の液晶配向パターンに配向するための配向膜である。
【0023】
後述するが、本発明の光学素子10において、コレステリック液晶層26(第1領域26aおよび第2領域26b)は、液晶化合物30に由来する光学軸30Aの向きが、面内の一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する(図3参照)。
液晶配向パターンにおける、光学軸30Aの向きが連続的に回転しながら変化する一方向(後述する矢印X方向)において、光学軸30Aの向きが180°回転する長さを1周期(光学軸の回転周期)とする。光学素子10は、好ましい態様として、コレステリック液晶層26の第1領域26aと第2領域26bとは、液晶配向パターンにおける1周期の長さが等しい。
さらに、光学素子10は、好ましい態様として、コレステリック液晶層26の第1領域26aおよび第2領域26bは、コレステリック液晶層26の液晶配向パターンにおける、光学軸30Aの回転方向、および、光学軸30Aが回転しながら変化する方向が、共に同じである。
光学素子10は、このような構成を有することにより、同じ色(波長)の光であれば、コレステリック液晶層26の第1領域26aおよび第2領域26bが、入射した光を同じ方向に反射する。
【0024】
以下の説明では、『液晶化合物30に由来する光学軸30A』を単に『光学軸30A』とも言う。また、『光学軸30Aの向きが回転』を単に『光学軸30Aが回転』とも言う。
【0025】
配向膜は、公知の各種のものが利用可能である。
例えば、ポリマーなどの有機化合物からなるラビング処理膜、無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、ならびに、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチルなどの有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB(Langmuir-Blodgett:ラングミュア・ブロジェット)膜を累積させた膜、等が例示される。
【0026】
ラビング処理による配向膜は、ポリマー層の表面を紙または布で一定方向に、数回、擦ることにより形成できる。
配向膜に使用する材料としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-97377号公報、特開2005-99228号公報、および、特開2005-128503号公報記載の配向膜等の形成に用いられる材料が好ましい。
【0027】
本発明の光学素子10においては、配向膜24は、光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜が好適に利用される。すなわち、本発明の光学素子10においては、配向膜24として、支持体20上に、光配向材料を塗布して形成した光配向膜が、好適に利用される。
偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向または斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0028】
本発明に利用可能な光配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号公報および特許第4151746号公報に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報および特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号および特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報および特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミドおよび光架橋性ポリエステル、ならびに、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、国際公開第2010/150748号、特開2013-177561号公報および特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物およびクマリン化合物等が、好ましい例として例示される。
中でも、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミド、光架橋性ポリエステル、シンナメート化合物、および、カルコン化合物は、好適に利用される。
【0029】
配向膜の厚さには制限はなく、配向膜の形成材料に応じて、必要な配向機能を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
配向膜の厚さは、0.01~5μmが好ましく、0.05~2μmがより好ましい。
【0030】
<<配向膜の形成方法>>
配向膜の形成方法には、制限はなく、配向膜の形成材料に応じた公知の方法が、各種、利用可能である。一例として、配向膜を支持体20の表面に塗布して乾燥させた後、配向膜をレーザ光によって露光して、配向パターンを形成する方法が例示される。
【0031】
図5に、配向膜を露光して、配向パターンを形成する露光装置の一例を概念的に示す。
図5に示す露光装置60は、レーザ62を備えた光源64と、レーザ62が出射したレーザ光Mを光線MAおよびMBの2つに分離する偏光ビームスプリッター68と、分離された2つの光線MAおよびMBの光路上にそれぞれ配置されたミラー70Aおよび70Bと、λ/4板72Aおよび72Bと、を備える。
なお、図示は省略するが、光源64は直線偏光P0を出射する。λ/4板72Aおよび72Bは、互いに直交する光学軸を備えている。λ/4板72Aは、直線偏光P0(光線MA)を右円偏光PRに、λ/4板72Bは直線偏光P0(光線MB)を左円偏光PLに、それぞれ変換する。
【0032】
配向パターンを形成される前の配向膜24を有する支持体20が露光部に配置され、2つの光線MAと光線MBとを配向膜24上において交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜24に照射して露光する。
この際の干渉により、配向膜24に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これにより、配向膜24において、配向状態が周期的に変化する配向パターンが得られる。
露光装置60においては、2つの光線MAおよびMBの交差角αを変化させることにより、配向パターンの周期を調節できる。すなわち、露光装置60においては、交差角αを調節することにより、液晶化合物30に由来する光学軸30Aが一方向に向かって連続的に回転する配向パターンにおいて、光学軸30Aが回転する1方向における、光学軸30Aが180°回転する1周期の長さを調節できる。
このような配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する配向膜上に、コレステリック液晶層を形成することにより、後述するように、液晶化合物30に由来する光学軸30Aが一方向に向かって連続的に回転する液晶配向パターンを有する、コレステリック液晶層26を形成できる。
また、λ/4板72Aおよび72Bの光学軸を、それぞれ、90°回転することにより、光学軸30Aの回転方向を逆にすることができる。
【0033】
なお、本発明の光学素子において、配向膜は、好ましい態様として設けられるものであり、必須の構成要件ではない。
例えば、支持体20をラビング処理する方法、支持体20をレーザ光等で加工する方法等によって、支持体20に配向パターンを形成することにより、コレステリック液晶層26が、液晶化合物30に由来する光学軸30Aの向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する構成とすることも、可能である。
【0034】
<<コレステリック液晶層>>
光学素子10において、配向膜24の表面には、コレステリック液晶層26が形成される。また、コレステリック液晶層26は、第1領域26a、不連続部26cおよび第2領域26bを有する。
なお、図1においては、図面を簡略化して光学素子10の構成を明確に示すために、コレステリック液晶層26の第1領域26aおよび第2領域26bは、コレステリック液晶相における液晶化合物30の捩じれ配向の180°回転分(螺旋構造の1/2ピッチ)のみを概念的に示している。しかしながら、コレステリック液晶層26の第1領域26aおよび第2領域26bは、図2に第1領域26aを例示して概念的に示すように、通常のコレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層と同様に、液晶化合物30が、厚さ方向の螺旋軸に沿って、螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有し、液晶化合物30が螺旋状に1回転(360°回転)して積み重ねられた構成を螺旋の周期1ピッチとして、螺旋状に旋回する液晶化合物30が、複数ピッチ、積層された構造を有する。
この点に関しては、後述する図8および図9に示す光学素子も、同様である。
【0035】
コレステリック液晶層26(第1領域26aおよび第2領域26b)は、コレステリック液晶相を固定してなるものである。すなわち、コレステリック液晶層26は、コレステリック構造を有する液晶化合物30(液晶材料)からなる層である。
【0036】
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。選択反射の中心波長(選択反射中心波長)λcは、コレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλc=n×Pの関係に従う。そのため、この螺旋構造のピッチを調節することによって、選択反射中心波長を調節することができる。コレステリック液晶相のピッチは、コレステリック液晶層の形成の際、液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、またはその添加濃度に依存するため、これらを調節することによって所望のピッチを得ることができる。
なお、ピッチの調節については富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載の方法を用いることができる。
【0037】
コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
コレステリック液晶層26において、第1領域26aと第2領域26bは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向が等しい。従って、第1領域26aと第2領域26bは、同じ旋回方向の円偏光を反射する。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類および/または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0038】
また、選択反射を示す選択反射波長域(円偏光反射波長域)の半値幅Δλ(nm)は、コレステリック液晶相のΔnと螺旋のピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射波長域(選択的な反射波長域)の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。Δnは、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類およびその混合比率、ならびに、配向固定時の温度により調節できる。
反射波長域の半値幅は、光学素子10の用途に応じて調節され、例えば10~500nmであればよく、好ましくは20~300nmであり、より好ましくは30~100nmである。
【0039】
コレステリック液晶層26(第1領域26aおよび第2領域26b)において、選択反射中止波長および選択反射波長域には、制限はなく、光学素子10の用途に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、コレステリック液晶層26を構成する第1領域26aおよび第2領域26bは、選択反射中心波長あるいはさらに選択反射波長域は、一致しているのが好ましいが、本発明は、これに制限はされない。すなわち、第1領域26aおよび第2領域26bは、選択反射波長域の一部が重複していれば、不連続部26cの厚さ等に応じて後述する反射光の干渉が生じるので、本発明の光学素子10の効果を得られる。
【0040】
コレステリック液晶層26(第1領域26aおよび第2領域26b)は、コレステリック液晶相を層状に固定して形成できる。
コレステリック液晶相を固定した構造は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている構造であればよく、典型的には、重合性液晶化合物をコレステリック液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射、加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、外場または外力によって配向形態に変化を生じさせることない状態に変化した構造が好ましい。
なお、コレステリック液晶相を固定した構造においては、コレステリック液晶相の光学的性質が保持されていれば十分であり、コレステリック液晶層において、液晶化合物30は液晶性を示さなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、液晶性を失っていてもよい。
【0041】
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層26の形成に用いる材料としては、一例として、液晶化合物を含む液晶組成物が挙げられる。液晶化合物は重合性液晶化合物であるのが好ましい。
また、コレステリック液晶層の形成に用いる液晶組成物は、さらに界面活性剤およびキラル剤を含んでいてもよい。
【0042】
--重合性液晶化合物--
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよい。
コレステリック液晶相を形成する棒状の重合性液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類等が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0043】
重合性液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、およびアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基がより好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。重合性液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~3個である。
重合性液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、米国特許第5622648号明細書、米国特許第5770107号明細書、国際公開第95/22586号、国際公開第95/24455号、国際公開第97/00600号、国際公開第98/23580号、国際公開第98/52905号、特開平1-272551号公報、特開平6-16616号公報、特開平7-110469号公報、特開平11-80081号公報、および、特開2001-328973号公報等に記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0044】
また、上記以外の重合性液晶化合物としては、特開昭57-165480号公報に開示されているようなコレステリック相を有する環式オルガノポリシロキサン化合物等を用いることができる。さらに、前述の高分子液晶化合物としては、液晶を呈するメソゲン基を主鎖、側鎖、あるいは主鎖および側鎖の両方の位置に導入した高分子、コレステリル基を側鎖に導入した高分子コレステリック液晶、特開平9-133810号公報に開示されているような液晶性高分子、および、特開平11-293252号公報に開示されているような液晶性高分子等を用いることができる。
【0045】
--円盤状液晶化合物--
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報および特開2010-244038号公報等に記載のものを好ましく用いることができる。
【0046】
また、液晶組成物中の重合性液晶化合物の添加量は、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、75~99.9質量%であるのが好ましく、80~99質量%であるのがより好ましく、85~90質量%であるのがさらに好ましい。
【0047】
--界面活性剤--
コレステリック液晶層を形成する際に用いる液晶組成物は、界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤は、安定的にまたは迅速にプレーナー配向のコレステリック液晶相とするために寄与する配向制御剤として機能できる化合物が好ましい。界面活性剤としては、例えば、シリコ-ン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤が好ましく例示される。
【0048】
界面活性剤の具体例としては、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物、特開2012-203237号公報の段落[0031]~[0034]に記載の化合物、特開2005-99248号公報の段落[0092]および[0093]中に例示されている化合物、特開2002-129162号公報の段落[0076]~[0078]および段落[0082]~[0085]中に例示されている化合物、ならびに、特開2007-272185号公報の段落[0018]~[0043]等に記載のフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、などが挙げられる。
なお、界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
フッ素系界面活性剤として、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物が好ましい。
【0049】
液晶組成物中における、界面活性剤の添加量は、液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%がさらに好ましい。
【0050】
--キラル剤(光学活性化合物)--
キラル剤(カイラル剤)はコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル剤は、化合物によって誘起する螺旋の捩れ方向または螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
キラル剤としては、特に制限はなく、公知の化合物(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(twisted nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)、イソソルビド、および、イソマンニド誘導体等を用いることができる。
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。キラル剤と液晶化合物とがいずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であるのが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であるのが好ましく、不飽和重合性基であるのがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であるのがさらに好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0051】
キラル剤が光異性化基を有する場合には、塗布、配向後に活性光線などのフォトマスク照射によって、発光波長に対応した所望の反射波長のパターンを形成することができるので好ましい。光異性化基としては、フォトクロッミック性を示す化合物の異性化部位、アゾ基、アゾキシ基、または、シンナモイル基が好ましい。具体的な化合物として、特開2002-80478号公報、特開2002-80851号公報、特開2002-179668号公報、特開2002-179669号公報、特開2002-179670号公報、特開2002-179681号公報、特開2002-179682号公報、特開2002-338575号公報、特開2002-338668号公報、特開2003-313189号公報、および、特開2003-313292号公報等に記載の化合物を用いることができる。
【0052】
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、液晶化合物の含有モル量に対して0.01~200モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましい。
【0053】
--重合開始剤--
液晶組成物が重合性化合物を含む場合は、重合開始剤を含有しているのが好ましい。紫外線照射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。
光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、米国特許第2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、米国特許第2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、ならびに、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
液晶組成物中の光重合開始剤の含有量は、液晶化合物の含有量に対して0.1~20質量%であるのが好ましく、0.5~12質量%であるのがさらに好ましい。
【0054】
--架橋剤--
液晶組成物は、硬化後の膜強度向上、耐久性向上のため、任意に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、紫外線、熱、および、湿気等で硬化するものが好適に使用できる。
架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレートおよびエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]および4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネートおよびビウレット型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ならびに、ビニルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物などが挙げられる。また、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いることができ、膜強度および耐久性向上に加えて生産性を向上させることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋剤の含有量は、液晶組成物の固形分質量に対して、3~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、架橋密度向上の効果が得られやすく、コレステリック液晶相の安定性がより向上する。
【0055】
--その他の添加剤--
液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学的性能等を低下させない範囲で添加することができる。
【0056】
液晶組成物は、コレステリック液晶層を形成する際には、液体として用いられるのが好ましい。
液晶組成物は溶媒を含んでいてもよい。溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有機溶媒が好ましい。
有機溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、および、エーテル類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が好ましい。
【0057】
コレステリック液晶層26(第1領域26aおよび第2領域26b)を形成する際には、コレステリック液晶層の形成面に液晶組成物を塗布して、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態に配向した後、液晶化合物を硬化して、コレステリック液晶層とするのが好ましい。
すなわち、配向膜上にコレステリック液晶層を形成する場合には、配向膜に液晶組成物を塗布して、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態に配向した後、液晶化合物を硬化して、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を形成するのが好ましい。
液晶組成物の塗布は、インクジェットおよびスクロール印刷等の印刷法、ならびに、スピンコート、バーコートおよびスプレー塗布等のシート状物に液体を一様に塗布できる公知の方法が全て利用可能である。
【0058】
塗布された液晶組成物は、必要に応じて乾燥および/または加熱され、その後、硬化され、コレステリック液晶層を形成する。この乾燥および/または加熱の工程で、液晶組成物中の液晶化合物がコレステリック液晶相に配向すればよい。加熱を行う場合、加熱温度は、200℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
【0059】
配向させた液晶化合物は、必要に応じて、さらに重合される。重合は、熱重合、および、光照射による光重合のいずれでもよいが、光重合が好ましい。光照射は、紫外線を用いるのが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2~50J/cm2が好ましく、50~1500mJ/cm2がより好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下または窒素雰囲気下で光照射を実施してもよい。照射する紫外線の波長は250~430nmが好ましい。
【0060】
コレステリック液晶層の厚さには、制限はなく、光学素子10の用途、コレステリック液晶層に要求される光の反射率、および、コレステリック液晶層の形成材料等に応じて、必要な光の反射率が得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
【0061】
本発明の光学素子10において、コレステリック液晶層26(第1領域26aおよび第2領域26b)は、コレステリック液晶相を形成する液晶化合物30に由来する光学軸30Aの向きが、コレステリック液晶層の面内において、一方向に連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
なお、液晶化合物30に由来する光学軸30Aとは、液晶化合物30において屈折率が最も高くなる軸、いわゆる遅相軸である。例えば、液晶化合物30が棒状液晶化合物である場合には、光学軸30Aは、棒形状の長軸方向に沿っている。
【0062】
図3に、コレステリック液晶層26の平面図を概念的に示す。
なお、平面図とは、図1において、光学素子10を上方から見た図であり、すなわち、光学素子10を厚さ方向(=各層(膜)の積層方向)から見た図である。
また、図3では、本発明の光学素子10の構成を明確に示すために、液晶化合物30は配向膜24の表面の液晶化合物30のみを示している。
【0063】
図3に示すように、配向膜24の表面において、コレステリック液晶層26を構成する液晶化合物30は、下層の配向膜24に形成された配向パターンに応じて、矢印Xで示す所定の一方向、および、この一方向(矢印X方向)と直交する方向に、二次元的に配列された状態になっている。
以下の説明では、矢印X方向と直交する方向を、便宜的にY方向とする。すなわち、図1図2および後述する図4では、Y方向は、紙面に直交する方向となる。
また、コレステリック液晶層26を形成する液晶化合物30は、コレステリック液晶層26の面内において、矢印X方向に沿って、光学軸30Aの向きが、連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有する。図示例においては、液晶化合物30の光学軸30Aが、矢印X方向に沿って、時計回り方向に連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有する。
液晶化合物30の光学軸30Aの向きが矢印X方向(所定の一方向)に連続的に回転しながら変化しているとは、具体的には、矢印X方向に沿って配列されている液晶化合物30の光学軸30Aと、矢印X方向とが成す角度が、矢印X方向の位置によって異なっており、矢印X方向に沿って、光学軸30Aと矢印X方向とが成す角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで、順次、変化していることを意味する。
なお、矢印X方向に互いに隣接する液晶化合物30の光学軸30Aの角度の差は、45°以下であるのが好ましく、15°以下であるのがより好ましく、より小さい角度であるのがさらに好ましい。
【0064】
一方、コレステリック液晶層26を形成する液晶化合物30は、矢印X方向と直交するY方向、すなわち、光学軸30Aが連続的に回転する一方向と直交するY方向では、光学軸30Aの向きが等しい。
言い換えれば、コレステリック液晶層26を形成する液晶化合物30は、Y方向では、液晶化合物30の光学軸30Aと矢印X方向とが成す角度が等しい。
【0065】
本発明の光学素子10においては、このような液晶化合物30の液晶配向パターンにおいて、面内で光学軸30Aが連続的に回転して変化する矢印X方向において、液晶化合物30の光学軸30Aが180°回転する長さ(距離)を、液晶配向パターンにおける1周期の長さΛとする。
すなわち、矢印X方向に対する角度が等しい2つの液晶化合物30の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。具体的には、図3に示すように、矢印X方向と光学軸30Aの方向とが一致する2つの液晶化合物30の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。以下の説明では、この1周期の長さΛを『1周期Λ』とも言う。
本発明の光学素子10において、コレステリック液晶層の液晶配向パターンは、この1周期Λを、矢印X方向すなわち光学軸30Aの向きが連続的に回転して変化する一方向に繰り返す。
【0066】
コレステリック液晶層26は、面内において、矢印X方向(所定の一方向)に沿って光学軸30Aが連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有する。
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層は、通常、入射した光(円偏光)を鏡面反射する。
これに対して、上述のような液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層26は、入射した光を、鏡面反射に対して矢印X方向に角度を有した方向に反射する。例えば、コレステリック液晶層26は、法線方向から入射した光を、法線方向に反射するのではなく、法線方向に対して矢印Xに傾けて反射する。法線方向から入射した光とは、すなわち正面から入射した光であり、主面に対して垂直に入射した光である。主面とは、シート状物の最大面である。
以下、図4を参照して説明する。
【0067】
前述のように、コレステリック液晶層26は、赤色光、緑色光および青色光など、所定の波長域の光を選択的に反射するコレステリック液晶層である。また、コレステリック液晶層26は、右円偏光または左円偏光を選択的に反射する。
なお、コレステリック液晶層26を形成する第1領域26aおよび第2領域26bは、好ましい態様として、基本的に、同じ色の、同じ円偏光を反射する。
従って、コレステリック液晶層26が、例えば、緑色光の右円偏光を反射するものである場合には、コレステリック液晶層26は、緑色の右円偏光のみを反射して、それ以外の光は透過する。以下の説明では、一例として、コレステリック液晶層26は、所定の色の右円偏光Rを反射するとする。
【0068】
コレステリック液晶層26(第1領域26aおよび第2領域26b)に入射した右円偏光Rは、コレステリック液晶層26によって反射される際に、各液晶化合物30の光学軸30Aの向きに応じて絶対位相が変化する。
ここで、コレステリック液晶層26では、液晶化合物30の光学軸30Aが矢印X方向(一方向)に沿って回転しながら変化している。そのため、光学軸30Aの向きによって、入射した右円偏光Rの絶対位相の変化量が異なる。
さらに、コレステリック液晶層26に形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンである。そのため、コレステリック液晶層26に入射した右円偏光Rには、図4に概念的に示すように、それぞれの光学軸30Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Qが与えられる。
また、液晶化合物30の光学軸30Aの矢印X方向に対する向きは、矢印X方向と直交するY方向の液晶化合物30の配列では、均一である。
これによりコレステリック液晶層26では、右円偏光Rに対して、XY面に対して矢印X方向に傾いた等位相面Eが形成される。
そのため、右円偏光Rは、等位相面Eの法線方向(等位相面Eと直交する方向)に反射され、反射された右円偏光Rは、XY面(コレステリック液晶層26の主面)に対して矢印X方向に傾いた方向に反射される。
【0069】
ここで、一方向(矢印X方向)に向かって液晶化合物30の光学軸30Aが連続的に回転するコレステリック液晶層による光の反射角度は、反射する光の波長によって、角度が異なる。具体的には、長波長の光ほど、入射光に対する反射光の角度が大きくなる。すなわち、長波長の光ほど、鏡面反射に対して大きな角度で反射される。
一方、一方向に向かって、液晶化合物30の光学軸30Aが連続的に回転するコレステリック液晶層による光の反射角度は、光学軸30Aが180°回転する液晶配向パターンの1周期の長さΛ、すなわち、1周期Λによって異なる。具体的には、1周期Λが短いほど、入射光に対する反射光の角度が大きくなる。
【0070】
本発明の光学素子10において、コレステリック液晶層26の配向パターンにおける1周期Λには、制限はなく、光学素子10の用途等に応じて、適宜、設定すればよい。ただし、コレステリック液晶層26を形成する第1領域26aと第2領域26bとは、1周期Λの長さは、等しいのが好ましい。
また、コレステリック液晶層26を形成する第1領域26aと第2領域26bとは、光学軸30Aが回転しながら連続的に変化する方向が等しいのが好ましい。すなわち、第1領域26aと第2領域26bとは、光学軸30Aが回転する1方向である矢印X方向が、一致しているのが好ましい。
また、コレステリック液晶層26を形成する第1領域26aと第2領域26bとは、矢印X方向に向かう光学軸30Aの回転方向は、等しいのが好ましい。すなわち、矢印X方向に向かう光学軸30Aの回転方向が、第1領域26aが時計回りの場合には、第2領域26bも時計回りであるのが好ましい。
これにより、コレステリック液晶層26では、同じ波長の光であれば、第1領域26aと第2領域26bとで、同じ方向に光を反射できる。
【0071】
<<<明線および暗線の不連続部>>>
上述のように、コレステリック液晶層26は、下から、第1領域26a、不連続部26c、および、第2領域26bを有する。
第1領域26aおよび第2領域26bは、共に、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層である。これに対して、不連続部26cは、コレステリック液晶層26の中で、厚さ方向の途中の第1領域26aと第2領域26bとの間に位置する、第1領域26aおよび第2領域26bとは異なる性状を有する、いわば欠陥部(欠陥層)とも言うべき部分である。
一例として、図1に示す光学素子10の不連続部26cは、面方向には、第1領域26aおよび第2領域26bと同様に、液晶化合物30の光学軸30Aが、面内の一方向(矢印X方向)に向かって回転しているが、厚さ方向には、螺旋状に旋回しない、光学軸30Aが同方向の液晶化合物30が積み重なった液晶層(水平配向液晶層)である。
【0072】
周知のように、コレステリック液晶層は、走査型電子顕微鏡(SEM(Scanning Electron Microscope))によって観察される断面(断面SEM画像)において、明線(明部)と暗線(暗部)との縞模様を与える。
通常のコレステリック液晶層の場合には、この明線と暗線との縞模様は、面方向(図中横方向)に長尺で、厚さ方向に積み重なった縞模様である。
これに対して、本発明の光学素子におけるコレステリック液晶層26のように、液晶化合物30の光学軸30Aが、面内の一方向(矢印X方向)に向かって回転する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層では、明線および暗線の縞模様は、厚さ方向および面方向に対して傾いた状態となる(後述する図10図12参照)。
【0073】
本発明の光学素子10において、不連続部26cとは、具体的には、コレステリック液晶層26を、光学軸30Aの向きが回転する一方向(矢印X方向)に沿って厚さ方向に切断した断面を、SEMで観察した断面図において、コレステリック液晶相に由来する明線および暗線が不連続な部分であり、断面図において、光学軸30Aの向きが回転する一方向に沿って観察される。
図示例の不連続部26cのように、厚さ方向には液晶化合物30が螺旋状に旋回せず、面方向のみに光学軸30Aが回転する液晶層の場合には、第1領域26aおよび第2領域26bとは明線と暗線との角度が異なる領域として観察され、具体的には、図10に概念的に示すように、不連続部26cでは、明線と暗線がコレステリック液晶層26の厚さ方向に沿って形成される。
【0074】
<<<コレステリック液晶層の作用>>>
本発明の光学素子10は、コレステリック液晶層26が、厚さ方向の途中に、このような不連続部26cを有する新規な光学素子であり、このような構成を有することにより、受けた刺激に応じて、光の反射特性が変化する。
【0075】
図6に、一般的なコレステリック液晶層の反射特性を示す。図6よび後述する図7において、横軸は波長で、縦軸は反射率を規格化した値である。
上述のように、コレステリック液晶層は、反射に波長選択性を有し、図6に示すように、選択反射中心波長の周辺の波長域の光を、ほぼ一様に高い反射率で反射する。
一方、本発明の光学素子10において、コレステリック液晶層26は、厚さ方向の途中にコレステリック液晶相になっていない不連続部26cを有する。そのため、コレステリック液晶層26では、第1領域26aと第2領域26bとが、それぞれ、独立して所定の波長域の光を反射する。
その結果、不連続部26cを有するコレステリック液晶層26では、第1領域26aが反射した光と、第2領域26bが反射した光とが干渉して、光の反射特性に、図7に示すように、急激に反射率が低下する波長(波長域)が生じる。
しかも、この反射率が急激に低下する波長は、コレステリック液晶層26が、機械的な応力などの刺激などを受けると、例えば、長波長側に移動する。
【0076】
これを利用して、本発明の光学素子10は、例えば、後述する、応力等の刺激を検出するセンサーとして利用可能である。
図6および図7は、横軸に波長を取っているが、コレステリック液晶層26を液晶回折素子とすると、横軸は、回折角度に変換される。
上述したように、光学軸30Aが一方向に向かって回転する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層26は、光を、鏡面反射に対して光学軸30Aが回転する方向(または逆)に傾けて反射する。すなわち、光学軸30Aが一方向に向かって回転する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層26は、液晶回折素子として作用する。
ここで、上述したように、この入射角に対する反射角の角度すなわち回折角度は、光の波長が長くなるほど、大きくなる。従って、コレステリック液晶層26が刺激を受けて、反射率が急激に落ち込む波長が長くなると、刺激を受ける前に比して、反射率が急激に落ち込む波長の反射角度(回折角度)が、大きくなる。
すなわち、後述する図14に示すように、光学素子10からの反射光を光検出器で検出した状態では、反射率が急激に落ち込む波長の反射角に対応する画素の出力が、周辺に比べ、非常に小さくなっている。この状態から、光学素子10に刺激を与えると、反射率が急激に落ち込む波長が長くなり、反射率が低い波長の反射角が異なる角度となるので、刺激を与える前に出力強度が低かった画素の出力が向上し、別の画素の出力が低下する。従って、刺激を受ける前に出力が小さい画素の出力強度変化を検出することで、光学素子10が刺激を受けたことが検出できる。
【0077】
<<<コレステリック液晶層の厚さ>>>
本発明の光学素子10において、選択反射波長域において、反射率が急激に落ち込む波長(波長域)の出現、および、反射率が急激に落ち込む波長は、不連続部26cの形成材料の屈折率および厚さに大きく影響され、例えば、不連続部26cの形成材料の屈折率および厚さを用いて、シミュレーションできる。
ここで、不連続部26cの形成材料は、有機物である場合が多く、屈折率は概ね1.55程度であり、大きく外れることはない。この点を考慮すると、コレステリック液晶層26の反射特性は、不連続部26cの厚さに影響される。
【0078】
本発明者らの検討によれば、コレステリック液晶層26(光学素子10)の選択反射波長域において、反射率が急激かつ最大に落ち込む波長が550nmの場合には、不連続部26cの厚さは、30~150nmが好ましく、50~130nmがより好ましく、70~110nmがさらに好ましく、90nmが最適である。
ここで、コレステリック液晶層26の選択反射波長域において、反射率が急激かつ最大に落ち込む波長が変わった場合には、不連続部26cの好ましい厚さは、波長に比例して変わる。例えば、反射率が最大に落ち込む波長が940nmの場合には、不連続部26cの好ましい厚さは、上述の値に940/550を乗じることで、算出できる。具体的には、反射率が最大に落ち込む波長が940nmの場合には、不連続部26cの厚さは、51~256nmが好ましく、85~222nmがより好ましく、120~188nmがさらに好ましく、154nmが最適である。
【0079】
すなわち、本発明の光学素子10においては、コレステリック液晶層26の不連続部26cの厚さ[nm]は、選択反射波長域において、反射率が急激かつ最大に落ち込む波長をλm[nm]とした際に、
30×(λm/550)~150×(λm/550)
の範囲とするのが好ましい。
【0080】
本発明の光学素子10において、コレステリック液晶層26の第1領域26aおよび第2領域26bの厚さにも、制限はない。第1領域26aおよび第2領域26bの厚さは、それぞれの領域で、目的とする光の反射を行える厚さを、選択反射中心波長すなわちコレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP等に応じて、適宜、設定すればよい。
従って、第1領域26aおよび第2領域26bは、厚さが、互いに異なってもよい。ただし、例えば、第1領域26a側が光の入射側である場合に、第1領域26aが厚すぎると、第1領域26aにおいて、全ての光または大部分の光を反射してしまい、第2領域26bに十分な光が到達しなくなる。その結果、光の干渉が生じずに、選択反射波長域において、反射率が急激に低下する波長が生じなくなってしまう。
従って、第1領域26aおよび第2領域26bの厚さは、この点を考慮して、設定する必要が有る。
【0081】
<<コレステリック液晶層の形成方法>>
上述のように、光学素子10のコレステリック液晶層26において、第1領域26aおよび第2領域26bは、面内の一方向に光学軸30Aが回転するコレステリック液晶層である。これに対して、光学素子10のコレステリック液晶層26において、不連続部26cは、面内において光学軸30Aが同様に回転するが、厚さ方向には、螺旋状に旋回しない液晶層である。
このようなコレステリック液晶層26は、一例として、以下のように形成できる。
【0082】
まず、上述したように、支持体20の表面に、例えば、光配向材料を含む組成物を塗布、乾燥して、図5に示す露光装置60で露光して、必要に応じて紫外線照射等によって硬化することで、配向パターンを形成した配向膜24を形成する。
次いで、上述したように、配向膜24の上に、重合性液晶化合物、キラル剤および重合開始剤等を含む液晶組成物を塗布し、加熱および紫外線照射による硬化等を行って、コレステリック液晶層である第1領域26aを形成する。
【0083】
次いで、キラル剤を含有しない以外は、第1領域26aと同じ液晶組成物を、第1領域26aの上に塗布し、加熱および紫外線照射による硬化等を行って不連続部26cを形成する。
液晶層の上に、液晶層を形成すると、上層の液晶層の液晶化合物の配向は、下層の液晶層の表面の液晶化合物の配向を踏襲する。また、不連続部26cを形成する液晶組成物は、キラル剤を含有しないので、液晶化合物は、厚さ方向に螺旋状にねじれ配向されない。
そのため、不連続部26cにおいて、液晶化合物は、面方向には第1領域26aの上面と同じ液晶配向パターンに配向され、厚さ方向には、捩じれ配向されずに、同じ方向に配向された液晶化合物が積層される。
【0084】
次いで、不連続部26cの上に、第1領域26aと同様にして、第2領域26bを形成する。液晶層の上に、液晶層を形成すると、上層の液晶層の液晶化合物の配向は、下層の液晶層の表面の液晶化合物の配向を踏襲する。
そのため、第2領域26bは、下面が、不連続部26cの上面と同様の液晶配向パターンとなり、かつ、厚さ方向には、液晶化合物30が螺旋状に旋回するコレステリック液晶層となる。
【0085】
従って、光学素子10のコレステリック液晶層26においては、図1に示すように、第1領域26aの上面と不連続部26cの下面とが、同じ液晶配向パターンとなり、また、不連続部26cの下面と上面とが、同じ液晶配向パターンとなり、さらに、不連続部26cの上面と第2領域26bの下面とが、同じ液晶配向パターンとなる。
従って、第1領域26aの上面と、第2領域26bの下面とは、同じ液晶配向パターンとなり、不連続部26cを挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物30は、光学軸30Aの向きが同じ方向になる。
【0086】
図1に示す光学素子10のコレステリック液晶層26において、不連続部26cを構成する液晶化合物30は、厚さ方向に旋回せずに、同方向を向いて積層されるが、本発明は、これに制限はされない。
すなわち、コレステリック液晶層26においては、不連続部26cを構成する液晶化合物30が、厚さ方向に沿って螺旋状に旋回していてもよい。この際には、不連続部26cの断面SEM画像の明線および暗線は、図10に示すようなコレステリック液晶層26の厚さ方向に沿う線ではなく、厚さ方向および面方向に対して傾き、かつ、第1領域26aおよび第2領域26bの明線および暗線とは、角度が異なる明線および暗線となる。
また、不連続部26cを構成する液晶化合物30が、厚さ方向に沿って螺旋状に旋回する場合には、螺旋構造のピッチPが、第1領域26aおよび第2領域26bとは異なるのが好ましく、さらに、不連続部26cは光を反射しない厚さ(螺旋構造のピッチ数)とするのがより好ましい。
【0087】
<光学素子の他の態様>
図1に示す光学素子10は、不連続部26cが液晶層すなわち光学異方性層であるが、本発明は、これに制限はされず、光学軸30Aが回転する一方向に沿って切断した断面SEM画像において、明線と暗線とが不連続となる不連続部が光学軸30Aが回転する一方向に沿って観察されるものであれば、各種の構成が利用可能で有る。
一例として、図8に概念的に示す構成が例示される。なお、図8に示す光学素子40は、上述した光学素子10と同じ部材を、複数、用いるので、同じ部材には同じ符号を付し、以下の説明は、異なる部位を主に行う。この点に関しては、図9に示す光学素子も同様である。
【0088】
図8に示す光学素子40は、コレステリック液晶層26Aにおいて、第1領域26aと第2領域26bとの間に設けられる不連続部26dとして、液晶層ではなく、等方層を有している。
すなわち、等方層である不連続部26dも、コレステリック液晶層26Aの中で、厚さ方向の途中で第1領域26aと第2領域26bとの間に位置する、第1領域26aおよび第2領域26bとは異なる性状を有する、いわば欠陥部(欠陥層)となる。
従って、この構成であっても、第1領域26aで反射された光と第2領域26bで反射された光とが干渉する、図1に示す光学素子10と同様の作用効果を生じる。その結果、図8に示す光学素子40も、コレステリック液晶層の選択反射波長域に、急激に反射率が低下する波長(波長域)が生じ、かつ、外部からの刺激を受けると、急激に反射率が低下する波長が変化する。
【0089】
このような不連続部26dを有するコレステリック液晶層26Aを、液晶化合物の光学軸30Aが回転する一方向に切断した断面SEM画像を、図11に概念的に示す。図11に示すように、コレステリック液晶層26Aは、厚さ方向および面方向に対して傾いた明線および暗線が、第1領域26aと第2領域26bとの間の不連続部26dにおいて断線する部分が、光学軸30Aが回転する一方向に沿って生じたような状態となる。
【0090】
このようなコレステリック液晶層26Aは、コレステリック液晶層26の形成において、液晶層である不連続部26cに変えて、等方層である不連続部26dを形成することで、作成できる。
等方層となる不連続部26dは、アクリル、変性セルロース、ポリアミド、エポキシ、ポリアセタール、アクリル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、および、ポリアルキレングリコール等の公知の等方性の材料を用い、材料に応じた公知の方法で形成すればよい。
【0091】
なお、不連続部26dは、第2領域26bの液晶化合物30を、上述した液晶配向パターンに配向するための配向膜として作用してもよい。または、不連続部26dが、等方層と、等方層の上層に設けられる、第2領域26bの液晶化合物30を上述した液晶配向パターンに配向するための配向膜と、を有してもよい。
【0092】
図9に、本発明の光学素子の別の例を概念的に示す。
図1に示す光学素子10、および、図8に示す光学素子40は、共に、第1領域26aと第2領域26bとの間に、層状の不連続部を有している。これに対して、図9に示す光学素子42は、第1領域26aと第2領域26bとにおいて、螺旋状の液晶化合物30の旋回が非連続的になっており、両領域の界面が不連続部26eとなっている。すなわち、第1領域26aと第2領域26bとの間に、厚さ方向への液晶化合物30の旋回が連続しない欠陥部が存在する。
従って、この構成であっても、第1領域26aで反射された光と第2領域26bで反射された光とが干渉する、図1に示す光学素子10と同様の作用効果を生じる。その結果、図9に示す光学素子42も、コレステリック液晶層の選択反射波長域に、急激に反射率が低下する波長(波長域)が生じ、かつ、外部からの刺激を受けると、急激に反射率が低下する波長が変化する。
【0093】
このような不連続部26eを有するコレステリック液晶層26Bを、液晶化合物の光学軸30Aが回転する一方向に切断した断面SEM画像を、図12に概念的に示す。図12に示すように、コレステリック液晶層26Bは、厚さ方向および面方向に対して傾いた明線および暗線が、第1領域26aと第2領域26bとの間の不連続部26eにおいて光学軸30Aが回転する一方向にズレた部分が、光学軸30Aが回転する一方向に沿って生じたような状態となる。
不連続部26eを有するコレステリック液晶層26Bを、液晶化合物の光学軸30Aが回転する一方向に切断した断面SEM画像は、いわば、第1領域26aと第2領域26bとの間で、断層ズレを生じたような状態となる。
【0094】
このような不連続部26eを有するコレステリック液晶層26Bは、一例として、面内において光学軸30Aが一方向に回転する液晶配向パターンを有し、かつ、光学軸30Aが回転する1周期、一方向に向かう光学軸30Aの回転方向、および、コレステリック絵機種相の螺旋構造の1ピッチが等しいコレステリック液晶層を有するフィルムを、2枚、作製し、一方の配向膜24および支持体20を剥離した後、コレステリック液晶層を積層して、圧着することで、作製できる。
【0095】
なお、このような不連続部26eを有するコレステリック液晶層26Bでは、不連続部26eを挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物30における光学軸30Aの向きは、異なっているのが好ましい。すなわち、不連続部26eを有するコレステリック液晶層26Bでは、第1領域26aの上面と、第2領域26bの下面とにおいて、厚さ方向に対面する液晶化合物30における光学軸30Aの向きは、異なっているのが好ましい。
具体的には、第1領域26aの上面と、第2領域26bの下面とにおいて、厚さ方向に対面する液晶化合物30における光学軸30Aは、45~90°で交差するのが好ましく70~90°で交差するのがより好ましく、90°で交差するのがさらに好ましい。
このような構成とすることにより、第1領域26aと第2領域26bとの間の液晶化合物30の旋回が連続しない欠陥を大きくして、好適に、コレステリック液晶層の選択反射波長域に、急激に反射率が低下する波長が生じさせ、かつ、外部からの刺激によって急激に反射率が低下する波長を変化させることができる。
【0096】
<コレステリック液晶層の液晶配向パターンの他の例>
以上のコレステリック液晶層は、いずれも、液晶化合物30に由来する光学軸は、一方向(矢印X方向)に向かって回転する液晶配向パターンを有する。
しかしながら、本発明の光学素子において、コレステリック液晶層の面内における液晶配向パターンは、これに制限はされない。すなわち、本発明の光学素子において、コレステリック液晶層は、液晶化合物30に由来する光学軸が、複数の方向に向かって回転する液晶配向パターンを有してもよい。
【0097】
一例として、図13の平面図に概念的に示すような、液晶配向パターンが、液晶化合物30の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンである、コレステリック液晶層34(第1領域および第2領域)が例示される。
あるいは、同心円状ではなく、液晶化合物30の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向が、コレステリック液晶層34の中心から放射状に設けられた液晶配向パターンも、利用可能である。
【0098】
なお、図13においても、図3と同様、配向膜の表面の液晶化合物30のみを示すが、コレステリック液晶層34においては、図2に示されるように、この配向膜の表面の液晶化合物30から、液晶化合物30が螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有するのは、前述のとおりである。
【0099】
図13に示すコレステリック液晶層34において、液晶化合物30の光学軸(図示省略)は、液晶化合物30の長手方向である。
コレステリック液晶層34では、液晶化合物30の光学軸の向きは、コレステリック液晶層34の中心から外側に向かう多数の方向、例えば、矢印A1で示す方向、矢印A2で示す方向、矢印A3で示す方向…に沿って、連続的に回転しながら変化している。
また、好ましい態様として、図13に示すようにコレステリック液晶層34の中心から放射状に、同じ方向に回転しながら変化するものが挙げられる。図13に示す態様は、反時計回りの配向である。図13中の矢印A1、A2およびA3の各矢印において、光学軸の回転方向は、中心から外側に向かうにつれて反時計回りとなっている。
この液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34に入射した円偏光は、液晶化合物30の光学軸の向きが異なる個々の局所的な領域において、それぞれ、絶対位相が変化する。この際に、それぞれの絶対位相の変化量は、円偏光が入射した液晶化合物30の光学軸の向きに応じて異なる。
【0100】
このような、同心円状の液晶配向パターン、すなわち、放射状に光学軸が連続的に回転して変化する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34は、液晶化合物30の光学軸の回転方向および反射する円偏光の方向に応じて、入射光を、発散光または集束光として反射できる。
すなわち、コレステリック液晶層の液晶配向パターンを同心円状とすることにより、本発明の光学素子は、例えば、凹面鏡または凸面鏡としての機能を発現する。
【0101】
<センサー>
図14に、本発明の光学素子を用いる、本発明のセンサーの一例を概念的に示す。
なお、図14では、本発明の光学素子として、図1に示す光学素子10を用いているが、光学素子10に変えて、図8に示す光学素子40および図9に示す光学素子42を用いた場合、ならびに、図13に示す液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層を備える光学素子を用いた場合も、同様の作用効果を得られる。
【0102】
図14に示すセンサー50は、光源52と、本発明の光学素子10と、光検出器54とを有する。
センサー50では、光源52が出射した光を、光学素子10で反射して、この反射光を光検出器54で検出することで、光学素子10が受けた刺激を検出する。
【0103】
光源52は、少なくとも、光学素子10のコレステリック液晶層26の選択反射波長域における、反射率が急激に落ち込む波長の光を出射可能、好ましくは、コレステリック液晶層26の選択反射波長域を包含する波長の光を出射可能なものであれば、公知の各種の光源が利用可能である。一例として、水銀灯などの電球、蛍光灯、ハロゲンランプ、LED(Light Emitting Diode)、および、半導体レーザなどのレーザ等が例示される。なお、光源52の出射光は、拡散光でも、コリメートされた光ビームのような平行光でもよい。
なお、本発明のセンサーにおいては、光源として、センサーが設置される場所の照明などの環境光等が利用可能である場合には、光源52は設けなくてもよい。
【0104】
光検出器54も、光源52が出射し、光学素子10が反射した光を受光して、測光可能なものであれば、公知の各種の光検出器が利用可能である。一例として、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ、および、CCD(Charge-Coupled Device)センサ等が例示される。
なお、光検出器54は、光学素子10への刺激に応じた画素の出力変動を好適に検出するために、光をライン状に検出する光検出器(ラインセンサー)、または、光を二次元的に検出する光検出器(エリアセンサー)であるのが好ましい。
【0105】
<センサーの作用>
センサー50は、光源52が出射した光を、光学素子10で反射して、この反射光を光検出器54で検出している。
図示例においては、光源52は、光学素子10のコレステリック液晶層26の主面(最大面)に対して、法線方向から、光を入射する。
上述したように、光学素子10は、鏡面反射に対して、光学軸30Aが回転する1方向(矢印X)に傾けて、光を反射する。従って、光学素子10による反射光は、法線方向に対して、矢印X方向に傾けて、光を反射する。
【0106】
ここで、光学素子10による光の反射角度(回折角度)は、波長によって異なり、長波長の光ほど、反射角度が大きい。
例えば、コレステリック液晶層26による選択反射波長域において、或る波長の光は、光検出器54の位置aの画素に入射し、より長波長の光は、より大きな反射角度に対応する光検出器54の位置bの画素に入射し、さらに長波長の光は、さらに大きな反射角度に対応する光検出器54の位置cの画素に入射し、よりさらに長波長の光は、よりさらに大きな反射角度に対応する光検出器54の位置dの画素に入射する。
ここで、光学素子10のコレステリック液晶層26において、選択反射波長域で急激に反射率が落ち込む波長が、波長に応じた反射角度によって、位置bの画素に入射する波長であったとする。この場合には、位置a、cおよびdの画素に比して、位置bの画素の出力は、大幅に小さい。
【0107】
この状態で、光学素子10が刺激Sを受けると、上述したように、選択反射波長域で急激に反射率が落ち込む波長が、長波長側に移動する。これに応じて、反射率が急激に落ち込む波長は、波長に応じた反射角度(回折角度)が大きな波長となる。
従って、光学素子10が刺激Sを受けた状態では、位置bの画素に入射する波長の光は、光学素子10(コレステリック液晶層26)によって反射されるので、位置bの画素の出力は、急激に増大する。また、より長波長の光が入射する画素、反射率が急激に落ち込む波長に応じて、出力が急激に低下する。例えば、より長波長の光が入射する位置dの画素の出力が、急激に低下する。
【0108】
すなわち、本発明のセンサー50によれば、光検出器54において、反射率が急激に落ち込む波長の反射に対応する位置bの画素の出力の強度変化を検出することで、光学素子10が受けた刺激を、高感度に検出できる。
また、刺激Sに応じて出力が低下した画素の位置から、刺激の大きさも検出できる。
【0109】
本発明のセンサー50において、検出する刺激Sには、制限はない。
一例として、押圧および曲げ等による応力などの機械的な刺激(応力センサーなど)、フォトクロミック材料のように受光によって状態が変化する材料を用いる光学的な刺激(光センサーなど)、特定の物質と接触することで化学反応を生じて状態が変化する材料を用いる化学的な刺激(物質センサーなど)、および、電圧、電流および電力等の変化を利用する電気的な刺激(電気センサーなど)、が例示される。
なお、本発明のセンサー50は、複数の刺激を検出するものでもよい。
【0110】
以上、本発明の光学素子およびセンサーについて詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例
【0111】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0112】
[実施例1]
(支持体、および、支持体の鹸化処理)
支持体として、市販されているトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製、Z-TAC)を用意した。
支持体を、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させて、支持体の表面温度を40℃に昇温した。その後、支持体の片面に、バーコーターを用いて下記に示すアルカリ溶液を塗布量14mL(リットル)/m2で塗布し、支持体を110℃に加熱し、さらに、スチーム式遠赤外ヒーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)の下を、10秒間搬送した。
続いて、同じくバーコーターを用いて、支持体のアルカリ溶液塗布面に、純水を3mL/m2塗布した。次いで、ファウンテンコーターによる水洗およびエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンを10秒間搬送して乾燥させ、支持体の表面をアルカリ鹸化処理した。
【0113】
アルカリ溶液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
水酸化カリウム 4.70質量部
水 15.80質量部
イソプロパノール 63.70質量部
界面活性剤
SF-1:C1429O(CH2CH2O)2OH 1.0質量部
プロピレングリコール 14.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0114】
(下塗り層の形成)
支持体のアルカリけん化処理面に、下記の下塗り層形成用塗布液を#8のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗膜が形成された支持体を60℃の温風で60秒間、さらに100℃の温風で120秒間乾燥し、下塗り層を形成した。
【0115】
下塗り層形成用塗布液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
下記変性ポリビニルアルコール 2.40質量部
イソプロピルアルコール 1.60質量部
メタノール 36.00質量部
水 60.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0116】
【化1】
【0117】
(配向膜の形成)
下塗り層を形成した支持体上に、下記の配向膜形成用塗布液を#2のワイヤーバーで連続的に塗布した。この配向膜形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を60℃のホットプレート上で60秒間乾燥し、配向膜を形成した。
【0118】
配向膜形成用塗布液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
光配向用素材A 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0119】
-光配向用素材A-
【化2】
【0120】
(配向膜の露光)
図5に示す露光装置を用いて配向膜を露光して、配向パターンを有する配向膜P-1を形成した。
露光装置において、レーザとして波長(325nm)のレーザ光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を100mJ/cm2とした。なお、2つのレーザ光およびの干渉により形成される配向パターンの1周期(液晶化合物由来の光軸が180°回転する長さ)は、2つの光の交差角(交差角α)を変化させることによって制御した。
【0121】
(コレステリック液晶層の形成)
<第1領域の形成>
コレステリック液晶層の第1領域を形成する液晶組成物として、下記の組成物A-1を調製した。この組成物A-1は、選択反射中心波長が550nmで、右円偏光を反射するコレステリック液晶層(コレステリック液晶相)を形成する、液晶組成物である。
組成物A-1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
棒状液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
キラル剤Ch-1 5.46質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 268.20質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0122】
棒状液晶化合物L-1
【化3】
【0123】
キラル剤Ch-1
【化4】
【0124】
レベリング剤T-1
【化5】
【0125】
第1領域は、組成物A-1を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。
多層塗布とは、先ず配向膜の上に1層目の組成物A-1を塗布、加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことを指す。多層塗布により形成することにより、液晶層の総厚が厚くなった時でも配向膜の配向方向が液晶層の下面から上面にわたって反映される。
【0126】
先ず1層目は、配向膜P-1上に組成物A-1を塗布して、塗膜をホットプレート上で95℃に加熱し、その後、25℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の1層目の液晶層の膜厚は0.2μmであった。
【0127】
2層目以降は、この液晶層に重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した。このようにして、総厚が2.2μmになるまで重ね塗りを繰り返し、コレステリック液晶層の第1領域を形成した。
第1領域の断面をSEMで確認したところ、コレステリック液晶相は6ピッチであった。また、第1領域の表面は、周期的な液晶配向パターンになっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期は、0.8μmであった。
【0128】
<不連続部の形成>
コレステリック液晶層の不連続部を形成するための液晶組成物として、下記の組成物A-2を調製した。この組成物A-2は、捩れがない異方性層を形成する、液晶組成物である。
組成物A-2
―――――――――――――――――――――――――――――――――
棒状液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 268.20質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0129】
組成物A-2を第1領域上に積層塗布することにより、コレステリック液晶層の不連続部を形成した。不連続部における液晶化合物の配向方向は、下層の第1領域の最上面の配向方向と同じ方向になる。
【0130】
A-2を塗布した後に、塗膜をホットプレート上で95℃に加熱し、その後、25℃に冷却した。
その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化して、不連続部(異方性層)を形成した。不連続部の膜厚は90nmであった。
【0131】
<第2領域の形成>
コレステリック液晶層の第2領域を形成する液晶組成物として、上述した組成物A-1を用いた。
第2領域は、組成物A-1を不連続部の上に多層塗布することにより形成した。その他、形成方法は第1領域と同じとした。第2領域の厚さは2.2μm、ピッチ数は6ピッチであった。
以上により、第1領域、不連続部、および、第2領域が積層された、コレステリック液晶層を作製し、支持体、配向膜、および、コレステリック液晶層を有する光学素子を作製した。
【0132】
(コレステリック液晶層の断面)
コレステリック液晶層の断面をSEM(Scanning Electron Microscope)で確認したところ、図10に示すような、コレステリック液晶相に由来する明線および暗線が不連続な部分を、光学軸の向きが回転する一方向に沿って有する構造が観測された。
また、SEM観察において、不連続な部分を除いて画像をつなぎ合わせると、明線と暗線とが連続に繋がった。このことから、明線および暗線において、不連続な部分を挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物は、液晶化合物由来の光学軸の向きが等しいことが確認できた。
さらに、作製したコレステリック液晶層の第1領域と第2領域とを剥離して、それぞれの螺旋の捩れ方向と選択反射中心波長を確認した。その結果、どちらも捩れ方向は右で、選択反射中心波長は550nmであった。
【0133】
(評価)
光学素子(コレステリック液晶層)の反射特性を反射分光器によって測定した。
鉛直方向からの入射光に対して斜め約45°方向に光が反射し、図7に示すように、550nm付近の波長で反射光の鋭い谷が得られた。また、この鋭い谷の波長に相当する反射角度では反射光が弱く、それより大きな波長はより大きな角度に、小さな波長はより小さい角度に分光されて、共に強く反射していた。
これをイメージセンサで受光することにより、反射光の谷に相当する場所(画素)で反射光が急激に小さくなっていた。また、光学素子に弱い引っ張り応力を与えたところ、反射光が急激に小さくなる画素が別の画素に変わった。すなわち、刺激によって、反射光の谷に相当する波長、すなわち、反射光が急激に小さくなる谷に相当する反射角度が、変化することが確認できた。
【0134】
[実施例2]
実施例1の光学素子の作製において、配向膜を露光する際における2つの光の交差角(交差角α)を変更することで、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期を0.45μmとした。
これ以外は、実施例1と同様にして、支持体、配向膜、および、コレステリック液晶層を有する光学素子を作製した。
【0135】
実施例1と同様に、コレステリック液晶層の断面をSEMで確認した。その結果、図10に示すような、コレステリック液晶相に由来する明線および暗線が不連続な部分を、光学軸の向きが回転する一方向に沿って有する構造が観測された。
また、SEM観察において、不連続な部分を除いて画像をつなぎ合わせると、明線と暗線とが連続に繋がった。このことから、明線および暗線において、不連続な部分を挟んで厚さ方向に対面する液晶化合物は、液晶化合物由来の光学軸の向きが等しいことが確認できた。
さらに、作製したコレステリック液晶層の第1領域と第2領域とを剥離して、それぞれの螺旋の捩れ方向と選択反射中心波長を確認した。その結果、どちらも捩れ方向は右で、選択反射中心波長は550nmであった。
【0136】
次に、作製した光学素子を、屈折率1.5の導光板の主面の端部に貼り付けた。
導光板の光学素子を貼り付けた面と反対の面から測定光を垂直に入射すると、光学素子(コレステリック液晶層)による反射光が、導光板中を伝播する様子が観測された。この反射光の波長領域には、欠陥層に対応する非反射波長が含まれている。また、このような構成にすると、非反射波長の情報を、導光板(導光体)を通して離れた位置まで届けることができる。
【0137】
さらに、光学素子から離れた位置で導光板の端を斜めに切り欠いた形状にすることで、導光板内部で伝播した反射光を導光板の外部に取り出した。
導光板の外部に取り出した反射光の特性を、反射分光器によって実施例1と同様に測定した。また、導光板の外部に取り出した反射光を、実施例1と同様にイメージセンサで受光し、さらに、光学素子に実施例1と同様に引っ張り応力を与えた。
得られた結果は、実施例1と同様であった。
【0138】
以上の結果により、本発明の光学素子が、センサーへの刺激の有無に応じた反射光の部分的な光量変動を利用する用途に、好適に利用可能なことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0139】
機械的な刺激、化学的な刺激、光学的な刺激、および、電気的な刺激を検出するセンサーなど、刺激の有無に応じた反射光の部分的な光量変動を利用する各種の用途に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0140】
10,40,42 光学素子
20 支持体
24 配向膜
26,34 コレステリック液晶層
26a 第1領域
26b 第2領域
26c,26d,26e 不連続部
30 液晶化合物
30A 光学軸
50 センサー
52 光源
54 光検出器
60 露光装置
62 レーザ
64 光源
68 偏光ビームスプリッター
70A,70B ミラー
72A,72B λ/4板
E 等位相面
M レーザ光
MA,MB 光線
Po 直線偏光
R,R右円偏光
L 左円偏光
Q 絶対位相
S 刺激
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14