(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】揚物の質感評価方法及び揚物の質感評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20220127BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20220127BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20220127BHJP
G06T 7/42 20170101ALI20220127BHJP
A47J 37/12 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
G06T7/00 130
A23L5/10 D
G01N33/02
G06T7/42
A47J37/12
(21)【出願番号】P 2016036493
(22)【出願日】2016-02-28
【審査請求日】2019-01-10
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第17回 日本感性工学会大会予稿集
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】小山 慎一
(72)【発明者】
【氏名】大矢 明子
(72)【発明者】
【氏名】須永 智伸
(72)【発明者】
【氏名】三堀 忍
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亜紀
【合議体】
【審判長】五十嵐 努
【審判官】千葉 輝久
【審判官】川崎 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-063420(JP,A)
【文献】特開平11-101618(JP,A)
【文献】加藤 邦人、“天ぷらのおいしさ評価のための画像処理技術の開発”、科学研究費助成事業 研究成果報告、平成26年6月16日、
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T7/00
A23L5/10
G01N33/02
G06T7/40
A47J37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座標データ及び当該座標データに対応した輝度データを含む天ぷらの揚物画像データに対し空間周波数解析処理を行い、
前記座標データ及び前記輝度データに基づき前記空間周波数解析によりパワー値データを求め、
前記パワー値データと、予め記録してあるパワー値データベースを参照して見た目の質感評価値データを定める天ぷらの見た目の質感評価方法。
【請求項2】
コンピュータに、
座標データ及び当該座標データに対応した輝度データを含む天ぷらの揚物画像データに対し空間周波数解析処理を行わせ、
前記座標データ及び前記輝度データに基づき空間周波数解析によりパワー値データを求め、
前記パワー値データと、予め記録してあるパワー値データベースを参照して見た目の質感評価値データを定める天ぷらの見た目の質感評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚物の質感評価方法及び揚物の質感評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
食事の満足度は味が大きく寄与するものであり、食品を販売する者にとって味の向上が何より大切である。
【0003】
一方で、味は実際に食品を食べて初めて分かるものであるため、消費者に対しては、食品を食べる前、具体的には食品購入時において、如何においしくできているか(食材であれば如何においしくできるのか)を嗅覚や視覚において感じさせることも重要である。特に、視覚の観点では、例えば下記非特許文献1において、実際の食事の際に視覚が食事の満足度に少なからず寄与しているといった報告がなされている。
【0004】
これに対し、視覚を介して食品の状態を把握しようとする技術が、例えば下記非特許文献2に記載されている。当該文献では、生鮮食品画像における輝度分布情報を用いて鮮度判断を行おうとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】http://www.fruitnet.com/fpj/article/165945/way-salad-presented-can-push-price-up-three-times-higher
【文献】増田知尋ら,“生鮮食品画像の輝度分布情報を用いた鮮度判断モデルの検討”,日本視覚学会2015年冬季大会プログラム,3p21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品には様々な見た目の特徴があるが、上述したとおり、食品の見た目は、第一印象として消費者の購買意欲を高める要素の一つとなりうる。特に、揚げ物のし好性は、その食感に大きく影響される。そのため、揚げ物の見た目から推測される食感(質感)は、商品の価値に大きく影響する。例えば天ぷらであれば、サクサクとした食感が好まれ、しっとりした食感は好まれない。そのため、見た目から推測される食感として、サクサク感が強い商品が好まれる。揚げ物の質感を、より客観的に評価するための技術が求められている。
【0007】
しかしながら、上記非特許文献2に記載の技術は、あくまで生鮮食品の鮮度を対象とするものであり、天ぷら等の揚物の質感を対象としたものではなく、また、輝度分布情報を用いるものであり、輝度だけでは、明るさ等の撮影時の状態に大きく依存してしまい判断の安定性に欠くといった課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、安定性に優れた天ぷら等の揚物の質感を評価することのできる、揚物の質感評価方法及び揚物の質感評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題について本発明者らは、天ぷら等の揚物においては、揚げた衣の空間周波数が見た目から推測される食感(質感)と大きな相関を有していることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一観点に係る揚物の質感評価方法は、揚物画像データに対し空間周波数解析処理を行うものである。
【0011】
また、本発明の他の一観点に係る揚げ物の質感評価プログラムは、コンピュータに、揚物画像データに対し空間周波数解析処理を行わせるためのものである。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、安定性に優れた天ぷら等の揚物の質感を評価することのできる、揚物の質感評価方法及び揚物の質感評価プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本評価方法を実行するコンピュータの概略構成を示す図である。
【
図2】天ぷらの場合の揚物画像の例を示す図である。
【
図3】サクサク感が強い状態とサクサク感が弱い状態の空間周波数分析結果を示す図である。
【
図4】ザクザク感が強い状態とザクザク感が弱い状態の空間周波数分析結果を示す図である。
【
図5】しっとり感が強い状態と弱い状態の空間周波数分析結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示に限定されるものではない。
【0015】
(揚げ物の質感評価方法)
まず、本実施形態に係る揚物の質感評価方法(以下「本評価方法」という。)は、揚物画像データに対し空間周波数解析処理を行うことを特徴とする。
【0016】
上記のとおり、本方法では、まず、揚物画像データを処理対象とする。ここで「揚物画像データ」とは、揚物を撮影した結果得られる揚物の情報を含む画像データであって、例えばデジタルカメラやデジタルカメラ機能を有するスマートフォン等の画像取得装置によって取得される画像データである。揚物画像データは、デジタルカメラ等の画像取得装置によって取得される場合、その内部に設けられるハードディスク等の記録装置、又は、それに外部記録装置として接続されるフラッシュメモリ、CD-ROMやDVD-ROM等に記録され、後述のように処理される。
【0017】
揚物画像データは、電子的に読み取り可能なデータ(以下「電子データ」という。)としてコンピュータにより記録、処理される。本評価方法を実現するコンピュータとしては、限定されるわけではないが、例えば中央演算装置(CPU)と、ハードディスクやフラッシュメモリ等、電子データを比較的長期に記録することのできる記録装置、RAM等一時的に電子データを記録するメモリ装置、キーボードやマウス等使用者の指示を入力するための入力装置、処理した電子データに基づき情報を表示するためのモニタ等の表示装置、更には、上記CPU、記録装置、メモリ装置、CD-ROMやフラッシュメモリ等の外部記録装置を読み取るための読取装置、入力装置及び表示装置等を電気的に接続するバス等を備えていることが好ましい。
図1に、本評価方法を実現するコンピュータの構成の概略を示しておく。なおコンピュータの態様としては、いわゆるデスクトップ型であってもノート型であっても、タブレット型であってもよい。更には、上記構成を備えている携帯電話、いわゆるスマートフォンであってもよい。
【0018】
更に具体的に説明すると、本評価方法は、ハードディスク等の記録装置に本評価方法を実行するためのプログラムを予め記録しておき、使用者の操作に基づき、メモリ装置にプログラムを一時的に記録しつつCPUによる処理を経て実現できる。なお、今までの記載からも明らかなように、本評価方法を実行するための揚物の質感評価プログラムは、コンピュータに、揚物画像データに対し空間周波数解析処理を行わせるためのものである。
【0019】
なお、上記の記載から明らかであるが、本評価方法の処理対象となる揚物画像データは、画像取得装置で取得された場合、有線ケーブル若しくは無線による通信によるデータの送受信、又は、接続された外部記録装置等を画像取得装置から取り外してコンピュータの読取装置によって記録装置に記録させることができる。もちろん、画像取得装置自体がスマートフォン等コンピュータとしての機能を備えている装置である場合、画像取得装置そのもので本評価方法を実行させてもよい。
【0020】
本評価方法において、揚物とは、具材に衣をつけて熱した油により揚げる料理をいい、上記のように天ぷらが好ましい一例であるが、これに限定されず例えばコロッケ、フライ、カツ、唐揚げ、竜田揚げ等を対象とすることも可能である。なお、天ぷらの例における揚物画像のイメージ図を
図2に示しておく。
【0021】
また本方法において、「空間周波数解析」とは、空間的な周期を有する構造の解析をいい、本評価方法において、具体的な空間周波数解析処理としては、限定されるわけではないが、例えばウェーブレット変換処理、フーリエ解析処理等を例示することができる。
【0022】
また本方法における空間周波数解析は、具体的には、揚物画像データに含まれる座標データ(x座標データ、y座標データ)及びその座標データに対応した輝度データに基づき解析を行い、空間周波数値データとその空間周波数値データに対応したパワー値データを求める。そして、このパワー値データと、予め記録してあるパワー値データベースを参照して質感評価値データを定める。
【0023】
ここで「パワー値データ」とは、空間周波数に対するパワー値を示すデータをいい、このパワー値データには、この値に対応する空間周波数の値を示す「空間周波数値データ」が対応付けられている。ここで、空間周波数値データの単位は、特に限定されるわけではないが、cpi(cycle/image)を用いることが好ましい一例である。なお、このcpiによる空間周波数評価の場合は、ある程度撮影条件を一定にすれば十分な評価が可能である一方、撮影した画像によっては撮影対象の拡大・縮小の画像となっている可能性もあるため、撮影対象の幅の長さ及び撮影距離を考慮したcpd(cycle/degree)を用いても良い。
【0024】
また本評価方法において「パワー値データベース」は、予め記録してあるパワー値データの集合であって、質感評価値データを定める基準となるものである。本方法では、特定の質感に有意差のある画像群に対し、それぞれ空間周波数の分析を行い、統計的な処理により有意差があった範囲をその質感をあらわす周波数帯とし、印象、周波数帯、パワー値を関連付けてデータベースとしておくことで、質感を評価することができるようになる。原理的には印象に差があり、空間周波数においても有意な差が見られるのであればどのような質感でも評価することが可能となる。
【0025】
本評価方法ではパワー値データは、上記の通り様々な質感に対して用いることができ、限定されるわけではないが、例えば揚物、より具体的に天ぷらの場合、一般の消費者が揚物を見た場合に、「サクサク感」を強く感じる場合のパワー値データ及びこれに対応する空間周波数値データ、「ザクザク感」を強く感じる場合のパワー値データ及びこれに対応する空間周波数値データ、「しっとり感」を強く感じる場合のパワー値データ及びこれに対応する空間周波数値データをそれぞれ備え、特定の空間周波数値データに対応した上記求めたパワー値データと比較し、どの程度消費者がサクサク感、ザクザク感、しっとり感を感じているのか評価することを例示することができる。そしてこの結果、どの程度揚物の質感を消費者が感じているのかを示すデータを、質感評価値データとして、作成、出力する。すなわち質感評価値データとは、揚物画像を見た者がその揚物画像に対しどのような質感を、どの程度感じているのかを評価することのできるデータをいう。
【0026】
なお本評価方法におけるパワー値データベースで記録されるパワー値データは、評価対象となる揚物の空間周波数解析の結果得られるパワー値データのどの空間周波数領域でも評価できるように、解析を行った空間周波数領域全体のパワー値データを格納しておくこととしてもよいが、記憶容量を削減すること及び計算速度を向上させる観点から、各質感評価種類において、特定の空間周波数領域のパワー値データのみを保持させておくこととしてもよい。たとえば、天ぷらの場合、空間周波数で0~90cpi、230~250cpiの範囲のパワー値データを質感評価種類ごとに保持しておくことが好ましく、より具体的には、サクサク感の強い画像では0~50cpi程度の空間周波数帯、ザクザク感の強い画像では更に0~60cpi程度の空間周波数帯も考慮し、一方、しっとり感の強い画像では0~90cpi、240cpi程度の空間周波数帯のパワー値データを保持しておくことがより好ましい。
【0027】
以上、本評価方法により、安定性をもって天ぷら等の揚物の質感を評価することができる。また本評価方法を実現するための揚物の質感評価プログラムを提供することができる。
【0028】
また、上記の評価方法を利用した上で、取得した揚物画像に対して修正を加えることで、修正揚物画像データを作成し、上記質感評価プログラムの検証に用い、データベースの信頼性を向上させることも可能である。
【0029】
具体的には、本方法は、揚物画像データに対し空間周波数解析処理を行いパワー値データを求め、パワー値データを修正して逆空間周波数解析処理を行い、修正揚物画像データを作成する。これにより、上記の通り、修正揚物画像データについて検証を行うことで、蓄積されるパワー値データベースの信頼性をより向上させることができる。
【0030】
また、上記方法を実現するプログラムは、コンピュータに、揚物画像データに対し空間周波数解析処理を行いパワー値データを求め、パワー値データを修正して逆空間周波数解析処理を行い、修正揚物画像データを作成するためのものである。
【0031】
この修正の方法としては、特定の空間周波数におけるパワー値データのみを所望の値の範囲にする、たとえば、処理前は「しっとり感」を強く感じる空間周波数範囲のパワー値データを、「サクサク感」を強く感じるパワー値データに修正する等して質感を向上させることができる。また、揚物画像全体の違和感を抑えるために、上記のようにパワー値データを空間周波数全体で上げる又は下げることで対応してもよい。
【0032】
すなわち、上記のように、本方法及び本プログラムを用いることで、取得した揚物画像データをより所望の感覚に修正した修正揚物画像を作成することで、データベースを充実させ、更なる評価の検証に寄与し、評価の信頼性向上を図ることができるようになる。
【0033】
(原理確認)
ここで、実際に揚物の質感評価プログラムを作成し、揚物の質感評価方法による効果を確認した。
【0034】
まず、全部で29種類の海老の天ぷら画像を準備した。これらの画像は凹凸感と衣細部の丸みの二つの軸において均等に分布していた。なお撮影の際は、約15cmの海老天ぷらを約25cmの距離から撮影し、512×512pixel(解像度72dpi)の大きさに3箇所ずつトリミングし、外見が極めて類似したものを除外し、87枚の揚物画像データを作成した。
【0035】
次に、これらの画像の中から、「サクサク感」、「ザクザク感」、「しっとり感」の強いものと弱いものをそれぞれ5枚ずつ計10枚選択した(重複を含む)。そしてそれぞれの質感に対して選ばれた10枚の画像を用いて一般の消費者として大学生13名を対象とした正規化順位法による並べ替え課題を行い、上位5枚と下位5枚の間に統計的優位さが認められた。具体的には、サクサク感の場合、t(24)=5.498、p<0.05、ザクザク感の場合、t(24)=3.354、p<0.05、しっとり感の場合、t(24)=3.836、p<0.05、がそれぞれ認められた。
【0036】
そして、これらの揚物画像データに対し、空間周波数分析具体的には高速フーリエ変換処理を行い、空間周波数におけるパワー値データの算出にはMATLABを用いて行った。
【0037】
図3は、本原理確認において、サクサク感が強い状態とサクサク感が弱い状態の空間周波数分析結果を示している。この空間周波数におけるパワー値データについて、上位・下位間でt検定を行ったところ、サクサク感が強い状態と弱い状態ではでは0~1、3~6、10~20、24~26、29~31、33~35、52~53、61~62cycle/imageで優位差が見られた。
【0038】
また上記と同様、ザクザク感が強い状態とザクザク感が弱い状態、しっとり感が強い状態と弱い状態の空間周波数分析結果を示している。この結果を
図4、
図5にそれぞれ示しておく。また、
図6は、上記
図3乃至5のまとめを示す図である。
【0039】
この結果、空間周波数分析の結果、サクサク感の強い画像では0~50cpi程度の空間周波数帯で振幅が大きく、ザクザク感の強い画像では0~60cpi程度の空間周波数帯で振幅が大きく、しっとり感の強い画像では0~90cpi、240cpi程度の空間周波数帯で振幅が大きくなっていることを確認した。この結果は、まだ推測の域にはあるが、0~50cpi程度の低~中周波成分が衣表面の密度や連続性の印象に影響を与えたことによりサクサク感やザクザク感を強め、50~60cpi程度のやや高周波の帯域は輪郭の強調に寄与し、衣がしっかりとした印象を生み、ザクザク感を強めたためと考えられる。一方、しっとり感は0~50cpi程度の低~中周波成分の明暗の変化の少なさによって生み出されたと考えられる。