(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】炭素系微細構造物、及び炭素系微細構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/158 20170101AFI20220207BHJP
C01B 32/16 20170101ALI20220207BHJP
C01B 32/176 20170101ALI20220207BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220207BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220207BHJP
【FI】
C01B32/158
C01B32/16
C01B32/176
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2017087057
(22)【出願日】2017-04-26
【審査請求日】2020-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 克則
(72)【発明者】
【氏名】坂井 徹
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-159209(JP,A)
【文献】特開2006-335604(JP,A)
【文献】特開2005-330175(JP,A)
【文献】特開2008-100869(JP,A)
【文献】特開2011-128349(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128349(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/092787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 30/00
B82Y 40/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブが当該カーボンナノチューブの軸方向に沿って複数集合したカーボンナノチューブバンドルが、前記軸方向と垂直な方向に複数集合した、シート状の炭素系微細構造物であって、
前記シート状の炭素系微細構造物の炭素純度が、99.99%以上であり、
前記カーボンナノチューブが、
励起波長632.8nmで得られるラマンスペクトルにおいて、波数1580cm
-1付近に出現するグラファイト構造に起因するピークであるGバンドに出現するピークの強度I
Gと、波数1360cm
-1付近に出現する各種欠陥に起因するピークであるDバンドに出現するピークの強度I
Dとの比(G/D)が、0.1~0.5の範囲である結晶欠陥を1以上有する、シート状の炭素系微細構造物。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブのいずれか一方の端部と前記端部から50μmの部分との間のいずれかに前記結晶欠陥を有する、請求項1に記載の炭素系微細構造物。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブのいずれか一方の端部に前記結晶欠陥を有する、請求項1又は2に記載の炭素系微細構造物。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの長さが、50μm以上、1000μm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の炭素系微細構造物。
【請求項5】
化学気相合成法を用い、表面に金属触媒が設けられた基材に対して原料ガスを含むガスを供給し、前記金属触媒を起点として前記基材の表面上にカーボンナノチューブを成長させる第1工程と、
前記
基材に対する前記ガスの供給量を前記第1工程における供給量よりも減少させて、前記カーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する第2工程と、
導入した前記結晶欠陥の部位で前記カーボンナノチューブを切断して、シート状の炭素系微細構造物を形成しながら基材から分離する第3工程と、を備える、炭素系微細構造物の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程を2以上備える、請求項5に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程を2以上備える、請求項5又は6に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
【請求項8】
前記第2工程では、前記ガスの供給量を前記第1工程における供給量の0%以上10%以下に減少させる、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程では、前記ガス中の原料ガスの供給量を前記第1工程における供給量の0%以上10%以下に減少させる、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
【請求項10】
前記第2工程では、前記ガス又は前記原料ガスの供給量を減少させる時間を連続的に設ける、請求項8又は9に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程では、前記ガス又は前記原料ガスの供給量を減少させる時間を断続的に設ける、請求項8又は9に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系微細構造物、及び炭素系微細構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、平面基板にカーボンナノチューブのマトリックス(フォレスト)を形成した後、引き出し具によってカーボンナノチューブ束(バンドル)を引き出すことで、引き出す方向に沿って形成されたカーボンナノチューブのロープが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、基板上に配向形成された複数のカーボンナノチューブの集合(バンドル)が、当該配向方向に対して直角方向にも集合してシート状に形成された炭素系微細構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3868914号公報
【文献】特許第4512750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献に記載された炭素系微細構造物では、基板に塗布した触媒成分が不純物となり、基板から引き出したカーボンナノチューブバンドルに含有されるため、ロープやシート等の炭素系微細構造物中には不純物が多く含まれていた。このように、不純物が多く含まれた炭素系微細構造物では、これを原料として炭素系繊維や積層シート等に利用した際、性能劣化の原因になるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高純度の炭素系微細構造物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
[1] 高配向カーボンナノチューブバンドルが複数集合した、シート状の炭素系微細構造物。
[2] 前記高配向カーボンナノチューブバンドルを構成するカーボンナノチューブが、
励起波長632.8nmで得られるラマンスペクトルにおいて、波数1580cm-1付近に出現するグラファイト構造に起因するピークであるGバンドに出現するピークの強度IGと、波数1360cm-1付近に出現する各種欠陥に起因するピークであるDバンドに出現するピークの強度IDとの比(G/D)が、0.1~0.5の範囲である結晶欠陥を1以上有する、[1]に記載の炭素系微細構造物。
[3] 前記カーボンナノチューブのいずれか一方の端部と前記端部から50μmの部分との間のいずれかに前記結晶欠陥を有する、[2]に記載の炭素系微細構造物。
[4] 前記カーボンナノチューブのいずれか一方の端部に前記結晶欠陥を有する、[2]に記載の炭素系微細構造物。
[5] 前記カーボンナノチューブの長さが、50μm以上、1000μm以下である、[2]乃至[4]のいずれか一項に記載の炭素系微細構造物。
[6] 化学気相合成法を用い、表面に金属触媒が設けられた基材に対して原料ガスを含むガスを供給し、前記金属触媒を起点として前記基材の表面上にカーボンナノチューブを成長させる第1工程と、
前記基板に対する前記ガスの供給量を前記第1工程における供給量よりも減少させて、前記カーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する第2工程と、
導入した前記結晶欠陥の部位で前記カーボンナノチューブを切断して、炭素系微細構造物を形成ながら基材から分離する第3工程と、を備える、炭素系微細構造物の製造方法。
[7] 前記第1工程を2以上備える、[6]に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
[8] 前記第2工程を2以上備える、[6]又は[7]に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
[9] 前記第2工程では、前記ガスの供給量を前記第1工程における供給量の0%以上10%以下に減少させる、[6]乃至[8]のいずれか一項に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
[10] 前記第2工程では、前記ガス中の原料ガスの供給量を前記第1工程における供給量の0%以上10%以下に減少させる、[6]乃至[8]のいずれか一項に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
[11] 前記第2工程では、前記ガス又は前記原料ガスの供給量を減少させる時間を連続的に設ける、[9]又は[10]に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
[12] 前記第2工程では、前記ガス又は前記原料ガスの供給量を減少させる時間を断続的に設ける、[9]又は[10]に記載の炭素系微細構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭素系微細構造物、及び炭素系微細構造物の製造方法によれば、高純度の炭素系微細構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に適用するカーボンナノチューブの製造方法を説明するための図であり、CVD法におけるガス流量の時間経過を示す図である。
【
図2】本実施形態に適用する配向カーボンナノチューブ付き基材を示す図である。
【
図3】配向カーボンナノチューブ付き基材から、ロープ状の炭素系微細構造物を取り出す際の模式図である。
【
図4】配向カーボンナノチューブ付き基材から、シート状の炭素系微細構造物を取り出す際の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した一実施形態である炭素系微細構造物の構成について、その製造方法と併せて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0011】
<炭素系微細構造物の製造方法>
先ず、本発明を適用した一実施形態である炭素系微細構造物の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、炭素系微細構造物の一例としてカーボンナノチューブシートの場合を説明する。
本実施形態のカーボンナノチューブシート(炭素系微細構造物)の製造方法は、化学気相合成法を用い、表面に金属触媒が設けられた基材に対して原料ガスを含むガスを供給し、金属触媒を起点として基材の表面上にカーボンナノチューブを成長させる第1工程と、基板に対するガスの供給量を第1工程における供給量よりも減少させて、カーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する第2工程と、導入した結晶欠陥の部位でカーボンナノチューブを切断して、カーボンナノチューブシートを形成ながら基材から分離する第3工程とを備えて、概略構成されている。
【0012】
(第1工程)
第1工程では、先ず、基板(基材)上にカーボンナノチューブを成長させるための触媒層を形成する。
基板としては、特に限定されるものではないが、複数の触媒粒子から構成される触媒層を支持可能な基板であることが好ましく、触媒が流動化・粒子化する際にその動きを妨げない平滑度を有する基板であることが好ましい。また、基板の材質としては、特に限定されるものではないが、触媒金属に対する反応性が低い材料であることが好ましい。このような基板としては、具体的には、例えば、平滑性や価格の面、耐熱性の面で優れた単結晶シリコン基板が挙げられる。
【0013】
なお、基板として単結晶シリコン基板を用いる場合、基板の表面に化合物が形成されることを防止するために、基板の表面を酸化処理、又は窒化処理することが好ましい。※3これにより、単結晶シリコン基板の表面には、シリコン酸化膜(SiO2膜)、又はシリコン窒化膜(Si3N4膜)が形成される。また、単結晶シリコン基板の表面に、反応性の低いアルミナ等の金属酸化物からなる被膜を形成した後、この被膜上に触媒層を形成してもよい。
【0014】
触媒層を構成する触媒粒子としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ニッケル、コバルト、鉄等の金属粒子を用いることができる。また、触媒粒子としては、一種の金属からなる単一触媒(金属触媒)を用いることが好ましく、鉄一元系を用いることがより好ましい。これにより、高純度のカーボンナノチューブを形成することが可能となる。
【0015】
触媒層の厚さは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、0.5~100nmの範囲で設定することが好ましく、0.5~15nmの範囲で設定することがより好ましい。ここで、触媒層の厚さが0.5nm以上であれば、基板の表面に均一な厚さの触媒層を形成することができる。また、触媒層の厚さが15nm以下であれば、800℃以下の加熱温度によって粒子化することができる。
【0016】
触媒層の形成方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、スパッタ法や真空蒸着法等によって基板上に金属を堆積させる方法や、基板上に触媒溶液を塗布して塗布層を形成後に加熱し乾燥させる方法が挙げられる。
【0017】
なお、触媒溶液としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄等の金属のうちの1種、またはニッケル、コバルト、鉄等の金属錯体の化合物のうちの1種を含んだ触媒溶液を用いることができる。
【0018】
また、触媒溶液を基板上に塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコーター法、インクジェット法、スリットコータ法等が挙げられる。
【0019】
塗布層の加熱は、例えば、空気中大気圧下、減圧下または非酸化雰囲気下で、500℃~1000℃の温度範囲で行うことが好ましく、650~800℃の温度範囲で行うことがより好ましい。これにより、直径が0.5~50nm程度の、複数の触媒粒子から構成される触媒層を形成することができる。
【0020】
次に、CVD法により、高温雰囲気中で原料ガスとキャリアガスとを含む混合ガス(ガス)を触媒層が形成された基板に供給し、触媒粒子を核としてカーボンナノチューブを成長させる。この際、複数のカーボンナノチューブは、基板に対して垂直配向するように形成される。カーボンナノチューブの形成温度は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、500℃~1000℃の範囲とすることが好ましく、650~800℃の範囲とすることがより好ましい。
【0021】
ここで、カーボンナノチューブ1本の長さは、原料ガスの供給量、合成圧力、CVD装置のチャンバー内での反応時間によって調整することができる。CVD装置のチャンバー内での反応時間を長くすることにより、カーボンナノチューブの長さを数mm程度まで伸ばすことができる。
【0022】
カーボンナノチューブの合成・成長に使用する原料ガスとしては、例えば、アセチレン、メタン、エチレン等の脂肪族炭化水素のガスを用いることができる。これらのうち、アセチレンガスが好ましく、さらにアセチレン濃度が99.9999%以上の超高純度のアセチレンガスがより好ましい。
【0023】
なお、原料ガスとしてアセチレンガスを用いると、核となる触媒粒子から多層構造で直径が0.5~50nmの複数のカーボンナノチューブが、基板に対して垂直、かつ一定方向に配向成長する。また、原料ガスとして超高純度のアセチレンガスを用いることで、品質の良いカーボンナノチューブを成長させることができる。
【0024】
原料ガスを搬送させるキャリアガスとしては、例えば、He、Ne、Ar、N2、H2などが挙げられる。これらのうち、He,N2,Arが好ましく、Heがより好ましい。
【0025】
原料ガスとキャリアガスとを含む混合ガスの総量に対して、原料ガスの含有量は、5~100体積%であることが好ましく、10~100体積%であることがより好ましい。原料ガスの含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であると、CNTを密に合成することができ、工程3においてカーボンナノチューブシートを容易に取り出すことができる。
【0026】
(第2工程)
上述した第1工程において、カーボンナノチューブを充分に成長させた後、第2工程に移行する。第2工程では、基板に対するガスの供給量を第1工程における供給量よりも減少させて、カーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する。
【0027】
本実施形態のカーボンナノチューブシートの製造方法において、ガスの供給量を減少させるとは、下記(1)及び(2)の場合をいう。
(1)ガスの供給量を第1工程における供給量の0%以上10%以下とする。
すなわち、第1工程における原料ガスとキャリアガスとの比率を維持したまま、ガスの供給量の全体を上記第1工程時の流量の10%以下(0%を含む)に低下させることをいう。
【0028】
(2)ガス中の原料ガスの供給量を第1工程における供給量の0%以上10%以下とする。
すなわち、第1工程におけるキャリアガスの供給量を維持したまま、原料ガスの供給量を上記第1工程時の流量の10%以下(0%を含む)に低下させることをいう。
【0029】
上述したガスの供給量を減少させる時間は、連続的に設けられていてもよいし、断続的に設けられていてもよい。
【0030】
本実施形態のカーボンナノチューブシートの製造方法は、上述したようにガスの供給量を減少させる時間(すなわち、第2工程)を設けることにより、第1工程によって成長させたカーボンナノチューブの端部に結晶欠陥を導入することができる。
【0031】
本実施形態のカーボンナノチューブシートの製造方法は、第3工程の前であれば、上述した第2工程の後に再び第1工程を行ってもよい。ガスの供給量を再び第1工程の条件に戻すことにより、導入した結晶欠陥に連続するように、結晶欠陥のないカーボンナノチューブを再び成長させることができる。これにより、基板表面から所定の高さとなるようにカーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入することができる。
【0032】
ここで、
図1及び
図2を参照しながら、本実施形態のカーボンナノチューブシートの製造方法における、第1工程及び第2工程について説明する。
図1は、本実施形態に適用するカーボンナノチューブの製造方法を説明するための図であり、CVD法におけるガス流量の時間経過を示す図である。また、
図2は、本実施形態に適用する配向カーボンナノチューブ付き基材を示す図である。
【0033】
図2に示すように、表面に金属触媒2が設けられた基材1を準備し、図示略のCVD装置内に設置する。
図1に示すように、時刻T1において、CVD装置内にキャリアガスの供給を開始する。ここで、キャリアガスは、所定の流量Q2である。また、原料ガスは遮断状態にある。
【0034】
次に、時刻T2において、CVD装置内に原料ガスの供給を開始する。ここで、原料ガスは瞬時に所定の流量Q1となる。また、キャリアガスの流量は、Q2-Q1となるため、CVD装置内に供給するガスの総量は、時刻T1~T2の間と変化していない。この状態を時刻T2~T3の間、継続する。
【0035】
すなわち、時刻T2~T3の間が、第1工程である。
図2に示すように、この第1工程において、金属触媒2を起点としてカーボンナノチューブ3(3A部分)が成長する。
【0036】
次に、
図1に示すように、時刻T3において、キャリアガス及び原料ガスの流量を減少(停止)する。このガス流量の減少により、触媒基体面に対して垂直に配向して成長するカーボンナノチューブには結晶欠陥が発生する。この状態を時刻T3~T4の間、継続する。
【0037】
すなわち、時刻T3~T4の間が、第2工程である。
図2に示すように、この第2工程において、カーボンナノチューブ3(3A部分)の端部に結晶欠陥4が導入される。
【0038】
次に、
図1に示すように、時刻T4において、再びガスの供給量を時刻T2~T3時と同じ状態とする。この状態をT4~T5の間、継続する。
【0039】
すなわち、時刻T4において、再び第1工程を行う。
図2に示すように、この第1工程において、導入された結晶欠陥4から連続するように、再びカーボンナノチューブ3(3B部分)が成長する。
【0040】
次に、
図1に示すように、時刻T5において原料ガスの供給を遮断する。この状態をT5~T6の間継続して、CVD反応を終了する。以上のようにして、
図2に示すように、結晶欠陥4が導入されたカーボンナノチューブ3(配向カーボンナノチューブ付き基材10)が得られる。
【0041】
(第3工程)
次に、第3工程では、導入した結晶欠陥の部位でカーボンナノチューブを切断することにより、カーボンナノチューブと基材とを分離する。カーボンナノチューブと基材とを分離する際、当該カーボンナノチューブの一部を引き出してカーボンナノチューブシートを形成する。
【0042】
ここで、
図3は、基材からロープ状の炭素系微細構造物を取り出す際の模式図である。
図3に示すように、カーボンナノチューブ3同士がファンデルワールス力により引きあう程度に密集している場合、基材1の表面上に形成されたカーボンナノチューブ3の一部をピンセット等で引き上げると、引き上げたカーボンナノチューブ3の束にその周辺にある一部のカーボンナノチューブ3が追従して、カーボンナノチューブ3の束が連なるロープ状の炭素系微細構造物30を形成することができる。
【0043】
すなわち、カーボンナノチューブ3に導入した結晶欠陥4がロープ状の炭素系微細構造物30を成すファンデルワールス力に負けて切断されながら基材1から分離される。そのため、金属触媒(触媒粒子)2は基材1に残留し、基材1から分離したカーボンナノチューブ3(3A)は金属触媒2を全く含まないロープ状の炭素系微細構造物30として取り出すことができる。この方法により、精製の工程及び設備を要することなく、高純度の炭素系微細構造物を提供することができる。
【0044】
図4は、基材からカーボンナノチューブシート(シート状の炭素系微細構造物)を取り出す際の模式図である。
図4に示すように、引き出されたカーボンナノチューブシート50は連続的に引出やすくなり、帯のようになって配向カーボンナノチューブ付き基材10から分離され、ローラー20等を用いて容易に回収することができる。このように、カーボンナノチューブシート50として回収されたカーボンナノチューブは、二次電池の電極材料、電気二重層キャパシタ用シート材料、燃料電池の電極触媒材料、樹脂パーツへの導電性付与添加剤として利用することができる。
【0045】
<炭素系微細構造物>
次に、上述したカーボンナノチューブシートの製造方法によって得られるカーボンナノチューブシート(シート状の炭素系微細構造物)の構成の一例について説明する。
図4に示すように、本実施形態のカーボンナノチューブシート50は、高配向カーボンナノチューブバンドルが複数集合したものである。そして、高配向カーボンナノチューブバンドルは、上述したカーボンナノチューブの製造方法によって得られるカーボンナノチューブから構成されたものである。
【0046】
(カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブシートを構成するカーボンナノチューブの長さは、特に制限はないが、カーボンナノチューブの平均長さが30~5000μmであることが好ましく、生産性の観点から50~600μmであることがより好ましい。ここで、カーボンナノチューブの平均長さが上記好ましい範囲であると、種々の用途においてカーボンナノチューブの特性を充分に発揮することができるために好ましい。
【0047】
また、カーボンナノチューブの径(直径)は、カーボンナノチューブの層数に大きく依存するものであるが、平均径が1~80nmであることが好ましく、4~20nmであることがより好ましい。これらの中でも、平均径が4nm以上とすることにより、折れにくいという効果が得られる。
【0048】
また、カーボンナノチューブの結晶性は、良いことが好ましい。具体的には、カーボンナノチューブの結晶性の指標である「G/D」が0.8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。ここで、上記「G/D」が12以上のカーボンナノチューブは、その構造中に欠陥となる5員環や7員環が少ないため、折損等を低減することができるため、好ましい。
【0049】
上記「G/D」は、例えば、励起波長632.8nmで得られるラマンスペクトルにおいて、波数1580cm-1付近に出現するグラファイト構造に起因するピークであるGバンドに出現するピークの強度IGと、波数1360cm-1付近に出現する各種欠陥に起因するピークであるDバンドに出現するピークの強度IDとの比である。また、上記「G/D」は、市販のラマン分光分析装置を用いて算出することができる。なお、カーボンナノチューブでは、上記Gバンドのピークの分裂が観測されることがあるが、この場合、ピーク強度IGとして高い方のピーク高さを採用すればよい。
【0050】
図2に示すように、上述したカーボンナノチューブの製造方法によって基材1上に設けられたカーボンナノチューブ3は、任意に一部を強く屈曲させた結晶欠陥4を1つ以上有している。この結晶欠陥4は、上述したように、CVD反応時に原料ガスを遮断あるいは低濃度化することによって結晶成長が不安定になり、いびつに成長することで発生する。なお、結晶欠陥4は、上記「G/D」が、0.1~0.5の範囲である。
【0051】
基材1から取り出されたカーボンナノチューブ3は、上述した結晶欠陥4を有していてもよいし、有していなくてもよい。カーボンナノチューブ3を種々の用途に用いる場合、当該カーボンナノチューブの性能を発揮させる観点から、結晶欠陥4を有さないほうが好ましい。
【0052】
カーボンナノチューブ3が結晶欠陥4を有する場合、当該カーボンナノチューブのいずれか一方の端部に結晶欠陥4を有していてもよい。上述したカーボンナノチューブの製造方法において、導入した結晶欠陥4の部位でカーボンナノチューブ3を切断することにより、カーボンナノチューブ3(3A部分)と基材1とを分離する際、カーボンナノチューブ3Aの端部に結晶欠陥4の一部が残存する場合があるためである。
【0053】
基材1から分離した後のカーボンナノチューブ3Aの長さは、特に制限されないが、種々の用途にカーボンナノチューブを用いる観点から、50μm以上、1000μm以下であることが好ましく、50μm以上、600μm以下であることがより好ましい。分離後のカーボンナノチューブ3Aの長さが上記好ましい範囲であると、当該カーボンナノチューブの性能を充分に発揮させることができる。
【0054】
(不純物の濃度)
本実施形態のカーボンナノチューブシート50は、これを構成するカーボンナノチューブにおける金属触媒の含有量が少ないため、従来の製造方法で得られたカーボンナノチューブシートよりも高純度である。本実施形態のカーボンナノチューブシートは、炭素純度が99.99%以上であり、99.999%以上であることが好ましい。
【0055】
なお、カーボンナノチューブシート中に含まれる、鉄等の触媒粒子の濃度は、市販のICP質量分析装置(サーモエレクトロン社製、「X seriesII」等)を用いたICP質量分析によって測定することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態のカーボンナノチューブシートの製造方法によれば、カーボンナノチューブを製造する際、基板に対するガスの供給量を減少させてカーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する工程を含む。このため、カーボンナノチューブシートとして基板から取り出す際に導入した結晶欠陥を起点としてカーボンナノチューブと基板とを容易に分離することができる。その際、基板上に金属触媒が残留するため、容易にカーボンナノチューブシートの純度を高めることができる。
【0057】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。上述した実施形態におけるカーボンナノチューブの製造方法では、
図1及び
図2に示すように、第1工程及び第2工程を行った後、再び第1工程を行う構成を一例として説明したが、これに限定されない。
例えば、第1工程及び第2工程を行った後、再び第1工程を行わない構成としてもよい。これにより、
図2中に示すカーボンナノチューブ3B部分の成長を省略することができる。
【0058】
また、上述した実施形態において、2回目の第1工程を行った後、再び第2工程を行って、2つ目の結晶欠陥を導入する構成としてもよい。すなわち、第1工程及び第2工程をそれぞれ2以上備える構成であってもよい。
【0059】
以下、本発明の効果について、実施例及び比較例によって詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の内容に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
図1に示す条件を用いてカーボンナノチューブを合成した。
シリコンウェハ(基材)に硝酸鉄から成る触媒溶液を塗布し、基材の表面に金属触媒からなる触媒層を形成した。当該基材を反応室に挿入し、CVD法でCNTの合成を実施した。
図1中に示す原料ガスの流量(Q1)は、100sccmとした。キャリアガスの流量(Q2-Q1)は900sccm、総流量(Q2)は1000sccmとした。また、
図1中に示す時間は、T1~T2を100sec、T2~T3を540sec、T3~T4を30sec、T4~T5を30sec、T5~T6を100secとした。さらに、T3~T4の間の原料ガスの流量は0sccmとし、キャリアガスの流量も0sccmを継続した。なお、反応室内の温度は700℃とし、圧力は大気圧(1×10
5Pa)とした。
【0061】
上記条件によってCNTを合成することで、カーボンナノチューブシートが作成可能な配向CNTを得た。
【0062】
合成したCNTアレイの結晶欠陥の部分と、結晶欠陥の無い部分のG/Dを測定する為、顕微ラマン分光光度計により、ラマンスペクトル測定を行った。G-bandピーク(1590cm-1付近)とD-bandピーク(1350cm-1付近)の強度比から、G/Dを算出した。その結果、結晶欠陥のある部分では、G/D=0.4、結晶欠陥の無い部分ではG/D=1.1となっており、結晶欠陥のある部分はG/Dが低いことを確認した。
【0063】
次に、得られた配向CNTをカーボンナノチューブシートとしてローラーに取り出して、サンプルとした。
【0064】
次に、得られたカーボンナノチューブシートをマイクロ波分解装置により、硝酸、フッ酸及び過塩素酸の混酸中に溶解した。この分解液を20倍に希釈し、ICP質量分析装置(サーモエレクトロン社製、「X seriesII」)を用いたICP質量分析により、触媒粒子である鉄の濃度を測定した。(測定質量数[m/z]:Fe:56[Rh:103(CCT)])結果を表1に示す。
【0065】
<比較例1>
上述した実施例1において、T3~T4の時間を0secとして結晶欠陥を作らずに取り出したカーボンナノチューブシート50mgを同様の方法で溶解し、同様の方法で鉄の濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1に示すように、実施例1は、触媒である鉄の濃度が10ppm(検出下限値)以下であった。したがって、実施例1は、高温処理や酸処理をすることなく炭素純度99.999%以上という高純度のカーボンナノチューブシートが得られることを確認した。
【0068】
これに対して、比較例1は、触媒である鉄の濃度が30ppmであった。したがって、比較例1の方法では、高純度のカーボンナノチューブシートが得られないことを確認した。
【符号の説明】
【0069】
1・・・基材(基板)
2・・・金属触媒(触媒粒子)
3・・・カーボンナノチューブ(配向カーボンナノチューブ)
4・・・結晶欠陥
10・・・配向カーボンナノチューブ付き基材
20・・・ローラー
30・・・ロープ状の炭素系微細構造物
50・・・カーボンナノチューブシート(シート状の炭素系微細構造物)