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特許7016080活性炭を含有する焼結体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】活性炭を含有する焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/52 20060101AFI20220128BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20220128BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220128BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220128BHJP
   C01B 32/354 20170101ALI20220128BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20220128BHJP
   F04B 37/02 20060101ALI20220128BHJP
   F04B 37/16 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C04B35/52
B01J20/20 B
B01J20/20 D
B01J20/28 Z
B01J20/30
C01B32/354
C04B35/645
F04B37/02 Z
F04B37/16 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018178743
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020050531
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2019-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000221889
【氏名又は名称】東邦金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 尊則
(72)【発明者】
【氏名】本島 厳
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 友宏
(72)【発明者】
【氏名】小樋 誠二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北垣 慎二
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-239723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/52
C04B 35/645
C01B 32/354
B01J 20/20
B01J 20/30
B01J 20/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭からなる焼結体であって、
三次元網目構造を形成する複数のメソ孔領域の細孔を有し、且つ、BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で、少なくとも4.0nmに半値幅が2nm以上であるピークを有する、焼結体。
【請求項2】
気孔率が70%以上である、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
熱伝導率が0.2W/mK以上である、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
JIS R 1601: 2008に準拠して測定した曲げ強さが2.0MPa以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼結体。
【請求項5】
活性炭及び金属からなる焼結体であって、
BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で、少なくとも3.0nmに半値幅が2nm以上であるピークを有する、焼結体。
【請求項6】
前記焼結体の総量を100質量%として、活性炭を40~90質量%、金属を10~60質量%含有する、請求項5に記載の焼結体。
【請求項7】
熱伝導率が0.5W/mK以上である、請求項5又は6に記載の焼結体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項の焼結体を含有する、クライオポンプ用吸着材。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の焼結体又は請求項8に記載のクライオポンプ用吸着材の製造方法であって、
活性炭粉末を含有する原料粉末を放電プラズマ焼結処理する工程
を備え、
前記活性炭粉末は、三次元網目構造を形成する複数のメソ孔領域の細孔を有する、製造方法。
【請求項10】
BJH法によるメソ孔分布における、±0.5nmの許容範囲で4.0nmのピークにおいて、得られる焼結体の細孔容積の極大値が、原料となる前記活性炭粉末の細孔容積の極大値の70~100%である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
JH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で得られる焼結体の3.0nmのピークの細孔容積の極大値が、原料となる前記活性炭粉末の4.0nmのピークの細孔容積の極大値の15~50%である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載のクライオポンプ用吸着材を用いたクライオポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭を含有する焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、真空容器内に極低温面を設置し、これに容器内の気体分子を凝縮又は吸着させて捕捉し、排気するポンプである。クライオポンプの特徴としては、水分子に対する排気速度が大きく、清浄な真空を簡単な操作で得られることから、真空蒸着やスパッタ装置等の高品質な薄膜を生成する真空装置に広く使用されている。
【0003】
このクライオポンプには、通常、吸着材として活性炭材料が使用される。一般に、活性炭が有するメソ孔領域の細孔は、吸着物質をミクロ孔へと導く運搬経路の役割を担うため、この領域の細孔容積がクライオポンプの排気性能に影響を及ぼす。一般に、クライオポンプ用吸着材としては、細孔分布において、2~50nm(特に2~10nm)の範囲にピークを有することが必要とされている。
【0004】
ところで、クライオポンプでは、吸着材である活性炭材料は、通常、銅板等の金属板に貼り付けることで使用される。このため、通常、ハンドリング性等の観点から、粉末状の活性炭をそのまま使用するのではなく、活性炭粉末を板状に固形化して使用される。この際、従来から、活性炭粉末をバインダー樹脂により固形化する方法が採用されているが、この場合の接着強度が十分ではなく、活性炭粉末が経時的に脱落してクライオポンプの排気性能が低下してしまう。
【0005】
一方、活性炭を固形化する手法としては、放電プラズマ焼結法も知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、通常の活性炭を放電プラズマ焼結法により焼結した場合、活性炭が有する細孔が潰れてしまい、細孔分布において上記2~50nm(特に2~10nm)の範囲にピークを有さないことからクライオポンプの排気性能は低いことが想定され、クライオポンプ用吸着材としては不適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-239723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、クライオポンプ用吸着材として好適な、固形化された活性炭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、細孔分布において特定の位置に特定のピークを有する活性炭からなる焼結体が、クライオポンプ用吸着材として好適であることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、完成したものである。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.活性炭からなる焼結体であって、
三次元網目構造を形成する複数のメソ孔領域の細孔を有し、且つ、BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で、少なくとも4.0nmに半値幅が2nm以上であるピークを有する、焼結体。
項2.気孔率が70%以上である、項1に記載の焼結体。
項3.熱伝導率が0.2W/mK以上である、項1又は2に記載の焼結体。
項4.JIS R 1601: 2008に準拠して測定した曲げ強さが2.0MPa以上である、項1~3のいずれか1項に記載の焼結体。
項5.活性炭及び金属からなる焼結体であって、
BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で、少なくとも3.0nmに半値幅が2nm以上であるピークを有する、焼結体。
項6.前記焼結体の総量を100質量%として、活性炭を40~90質量%、金属を10~60質量%含有する、項5に記載の焼結体。
項7.熱伝導率が0.5W/mK以上である、項5又は6に記載の焼結体。
項8.項1~7のいずれか1項の焼結体を含有する、クライオポンプ用吸着材。
項9.項1~7のいずれか1項に記載の焼結体又は項8に記載のクライオポンプ用吸着材の製造方法であって、
活性炭粉末を含有する原料粉末を放電プラズマ焼結処理する工程
を備え、
前記活性炭粉末は、三次元網目構造を形成する複数のメソ孔領域の細孔を有することを特徴とする、製造方法。
項10.BJH法によるメソ孔分布における、±0.5nmの許容範囲で4.0nmのピークにおいて、得られる焼結体の細孔容積の極大値が、原料となる前記活性炭粉末の細孔容積の極大値の70~100%である、項9に記載の製造方法。
項11.BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で得られる焼結体の3.0nmのピークの細孔容積の極大値が、原料となる前記活性炭粉末の4.0nmのピークの細孔容積の極大値の15~50%である、項9に記載の製造方法。
項12.項8に記載のクライオポンプ用吸着材を用いたクライオポンプ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クライオポンプ用吸着材として好適な固形化された活性炭を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1及び2で使用した活性炭粉末(実施例1(サンプル1):通常粉;実施例2(サンプル2):粉砕粉)の粉末SEM像(二次電子像)である。
図2】実施例1及び2の活性炭焼結体の外観写真である。
図3】実施例1及び2の活性炭焼結体の表面及び破面のSEM像(二次電子像)である。
図4】実施例1の活性炭焼結体と、参考例1の活性炭粉末の窒素ガス吸着等温線である。
図5】実施例1の活性炭焼結体と、参考例1の活性炭粉末のBJH法によるメソ孔分布である
図6】実施例1の活性炭焼結体について、三点曲げ試験における破壊時の外観写真である。
図7】実施例1及び2の活性炭焼結体と、実施例3及び4の活性炭・金属焼結体の窒素ガス吸着等温線である。左図が実施例1及び2、右図が実施例3及び4である。
図8】実施例1及び2の活性炭焼結体と、実施例3及び4の活性炭・金属焼結体のBJH法によるメソ孔分布である。左図が実施例1及び2、右図が実施例3及び4である。
図9】実施例1及び2の活性炭焼結体と、実施例3及び4の活性炭・金属焼結体のNLDFT法による細孔分布である。左図が実施例1及び2、右図が実施例3及び4である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。さらに、本明細書において、細孔径が2nm未満の細孔をミクロ孔、細孔径が2~50nmの細孔をメソ孔と称する。
【0012】
1.活性炭からなる焼結体及びそれを用いたクライオポンプ
本発明の活性炭からなる焼結体(以下、「活性炭焼結体」と言うこともある)は、BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で、少なくとも4.0nmに半値幅が2nm以上であるピークを有する。この本発明の活性炭焼結体は、活性炭からなる焼結体であり、バインダー樹脂により固形化せずとも十分な強度で固形化することが可能である。このため、本発明の活性炭焼結体は、活性炭のみからなる構成とすることも可能である。
【0013】
この本発明の活性炭焼結体においては、原料となる活性炭粉末のメソ孔構造が維持されている。つまり、後述の製造方法により本発明の活性炭焼結体を得る場合は、本発明の活性炭焼結体を構成する活性炭は、三次元網目構造を形成する複数のメソ孔領域の細孔、つまり細孔径が2~50nmの細孔を有する。このように、三次元網目構造を形成していることにより、且つ真空容器内の気体分子を効率的に吸着・脱離するメソ孔径を有していることから、孔同士がつながっており、対象気体を取り込む際に運搬経路となり得ることから高いガス輸送速度を有しており内部の孔にも対象気体を吸着させることが可能であるため、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に優れ、クライオポンプの排気性能にも優れる。また、この本発明の活性炭焼結体においては、原料となる活性炭粉末のメソ孔構造が維持されていることが好ましいことから、本発明の活性炭焼結体の比表面積及び全細孔容積については、原料となる活性炭粉末と同程度であることが好ましく、その数値範囲は後述する製造方法において使用する活性炭粉末の数値範囲を採用し得る。また、本発明の活性炭焼結体の、BJH法によるメソ孔分布における、±0.5nmの許容範囲で4.0nmのピーク(3.5~4.5nmに存在するピーク)における細孔容積の極大値については、後述のように原料となる活性炭粉末の細孔容積の極大値の70~100%であることが好ましい。
【0014】
本発明の活性炭焼結体は、BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で、少なくとも4.0nmに半値幅が2nm以上のピークを有するため、クライオポンプ用吸着材として有効な吸着・脱離性能を有しており、クライオポンプの排気性能を向上させることが可能である。上記の4.0nmにおけるピークの半値幅は、クライオポンプの排気性能の観点から、3~8nmが好ましく、4~7nmがより好ましい。また、この4.0nmにおけるピークの細孔容積は、クライオポンプの排気性能の観点から、アルゴンガスを吸着・脱離させる場合にはその極大値は1.0cc/g以上が好ましく、1.5cc/g以上がより好ましく、2cc/g以上がさらに好ましい。なお、上記の4.0nmにおけるピークの細孔容積の極大値の上限値は特に制限されず、通常10cc/gである。このBJH法によるメソ孔分布における、±0.5nmの許容範囲で4.0nmのピーク(3.5~4.5nmに存在するピーク)における細孔容積の極大値については、アルゴンガスを吸着・脱離させる場合には後述のように原料となる活性炭粉末の細孔容積の極大値の70~100%であることが好ましいことから、原料となる活性炭粉末の細孔容積の極大値の70~100%が維持されたものとすることができる。このように、本発明の活性炭焼結体は、既存の活性炭を用いた成形品と比較すると、半値幅が大きく、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に優れ、クライオポンプの排気性能にも優れるものである。なお、活性炭の細孔のサイズは、平均1nm程度と云われていることから、本発明の活性炭焼結体は、通常の活性炭よりも大きなサイズの細孔を多く有することができ、それによりクライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能をさらに向上させ、クライオポンプの排気性能をさらに向上させることができる。なお、BJH法とは、Barrett,Joyner,Halendaによって提唱された、メソ孔の分布を求める方法である(E.P.Barrett、L.G.Joyner and P.P.Halenda、J,Am.Chem.Soc.,73、373、(1951))。
【0015】
この本発明の活性炭焼結体の気孔率は、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能の観点から、70%以上が好ましく、75~90%がより好ましい。本発明の活性炭焼結体の気孔率は、本発明の活性炭焼結体の体積及び質量から実測の密度を算出し、それと炭素の理論値から算出した理論上の密度と対比することにより算出する。この範囲は、通常の活性炭を用いた焼結体では気孔率が60%程度に過ぎないのと比較すると大きく、対象気体をより多く吸着・脱離することができることから、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に特に優れ、クライオポンプの排気性能にも特に優れる。
【0016】
この本発明の活性炭焼結体の熱伝導率は、クライオポンプ用吸着材としての有用性の観点から、0.2W/mK以上が好ましく、0.25~0.5W/mKがより好ましい。本発明の活性炭焼結体の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定する。この範囲は、既存の活性炭を用いた成形品では熱伝導率が0.14W/mK程度に過ぎないのと比較すると大きいものである。クライオポンプにより排気する際には、極低温で吸着材に対象気体分子を吸着・脱離させる。この際、吸着材の熱伝導率が高いと、冷却時間が短くなり、結果的に高真空に到達する時間も短くなり経済的である。このような観点から、本発明の活性炭焼結体の熱伝導率を上記範囲にした場合には、クライオポンプ用吸着材として特に優れる。
【0017】
この本発明の活性炭焼結体のJIS R 1601: 2008に準拠して測定した曲げ強さは、クライオポンプ用吸着材としての耐久性の観点から、2.0MPa以上が好ましく、2.5~5.0MPaがより好ましい。本発明の活性炭焼結体の曲げ強さは、JIS R1601: 2008に準拠して三点曲げ試験により測定する。この曲げ強さの範囲は、樹脂バインダーを用いた既存の吸着材の曲げ強さが弱過ぎて測定すらできないのと比較すると大きく耐久性に優れていることから、本発明の活性炭焼結体の曲げ強さを上記範囲とした場合はクライオポンプ用吸着材として特に優れる。
【0018】
この本発明の活性炭焼結体の電気抵抗率は、スパッタ装置を併用する場合には、スパッタ装置を起動させる際にプラズマを発生させるためクライオポンプにもアークが飛ぶこととなり、その場合の活性炭焼結体の損傷をより抑制するためには電気抵抗率は低いことが好ましく、8.0×10-2Ωcm以下が好ましく、3.0×10-2~7.0×10-2Ωcm以下がより好ましい。本発明の活性炭焼結体の電気抵抗率は、JIS K 7194に準拠して測定する。
【0019】
この本発明の活性炭焼結体の大きさについては特に制限されず、適用されるクライオポンプにあわせて適宜調整することができるが、ハンドリング性の観点からは、厚みは1~100mmが好ましく、2~50mmがより好ましい。この範囲とすることで、ハンドリング性をさらに向上させることができ、厚みを上記範囲とした場合にはクライオポンプ用吸着材として特に優れる。
【0020】
このような本発明の活性炭焼結体は、クライオポンプにおいて対象としている気体分子を好適に吸着・脱離することができ、且つ、樹脂バインダーを使用せずとも強固に固形化されており活性炭が脱落しにくいことから、クライオポンプ用吸着材として有用である。なお、クライオポンプ用吸着材として使用する場合、本発明の活性炭焼結体により吸着・脱離する対象となる気体分子は、例えば、水素分子、ヘリウム分子、アルゴン分子、ネオン分子、二酸化炭素分子、窒素分子、水分子等が挙げられる。
【0021】
また、本発明のクライオポンプは、本発明の活性炭焼結体を用いること以外は従来から知られているクライオポンプと同様とすることができる。
【0022】
2.活性炭及び金属からなる焼結体及びそれを用いたクライオポンプ
本発明の活性炭及び金属からなる焼結体(以下、「活性炭・金属焼結体」と言うこともある)は、BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で、少なくとも3.0nmに半値幅が2nm以上であるピークを有する。この本発明の活性炭・金属焼結体は、活性炭及び金属からなる焼結体であり、バインダー樹脂により固形化せずとも十分な強度で固形化することが可能である。このため、本発明の活性炭・金属焼結体は、活性炭及び金属のみからなる構成とすることも可能である。
【0023】
この本発明の活性炭・金属焼結体においては、活性炭マトリクス中に金属が分散している構造であることが好ましい。このように、金属が含まれていることにより、原料となる活性炭粉末のメソ孔構造と比較すると、比表面積及び全細孔容積については減少するものの、クライオポンプ用吸着材として使用するのに十分な特性を維持することが可能である。そのうえで、熱伝導率を飛躍的に向上させることが可能である。ただし、メソ孔構造については原料となる活性炭粉末のメソ孔構造が維持されていることが好ましく、後述の製造方法により本発明の活性炭・金属焼結体を得る場合は、本発明の活性炭・金属焼結体を構成する活性炭は、三次元網目構造を形成する複数のメソ孔領域の細孔、つまり細孔径が2~50nmの細孔を有することが好ましい。このように、三次元網目構造を形成していることにより、且つ真空容器内の気体分子を効率的に吸着・脱離するメソ孔径を有していることから、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に優れ、クライオポンプの排気性能にも優れる。ただし、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能及びクライオポンプの排気性能の観点からは上記した本発明の活性炭焼結体のほうが特に優れている。また、BJH法によるメソ孔分布では、原料となる活性炭粉末では4.0nm近傍にピークを有していたのと比較すると、金属の存在により、ピーク位置は3.0nm近傍に若干小さくなるとともに、このピークにおける細孔容積の極大値も、金属の存在により活性炭の含有割合が少なくなる結果若干小さくなる。このような観点から、本発明の活性炭・金属焼結体の±0.5nmの許容範囲で3.0nmのピーク(2.5~3.5nmに存在するピーク)における細孔容積の極大値については、後述のように原料となる活性炭粉末の±0.5nmの許容範囲で4.0nmのピーク(3.5~4.5nmに存在するピーク)における細孔容積の極大値の15~50%であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の活性炭・金属焼結体に含有される金属としては、特に制限はなく、種々様々なものを使用することができる。特に、クライオポンプの排気性能を要求特性以上とし得る程度の吸着・脱離性能を備えつつも、熱伝導率を特に飛躍的に向上させることができ、冷却時間が特に短くなるために高真空に到達する時間を特に短くし特に経済的である観点から、銅、銀、アルミニウム等が好ましい。これらの金属は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0025】
本発明の活性炭・金属焼結体では、クライオポンプの排気性能を要求特性以上とし得る程度の吸着・脱離性能を備えつつも、熱伝導率を特に飛躍的に向上させることができ、冷却時間が特に短くなるために高真空に到達する時間を特に短くし特に経済的である観点から、本発明の活性炭・金属焼結体の総量を100質量%として、活性炭を40~90質量%(特に60~80質量%)含むことが好ましく、金属を10~60質量%(特に20~40質量%)含むことが好ましい。
【0026】
本発明の活性炭・金属焼結体は、BJH法によるメソ孔分布において、±0.5nmの許容範囲で、少なくとも3.0nmに半値幅が2nm以上のピークを有するため、クライオポンプ用吸着材として有効な吸着・脱離性能を有しており、クライオポンプの排気性能を向上させることが可能である。上記の3.0nmにおけるピークの半値幅は、クライオポンプの排気性能の観点から、3~8nmが好ましく、4~7nmがより好ましい。また、この3.0nmにおけるピークの細孔容積は、クライオポンプの排気性能の観点から、その極大値が0.6cc/g以上が好ましく、0.7cc/g以上がより好ましい。なお、上記の3.0nmにおけるピークの細孔容積の極大値の上限値は特に制限されず、通常5cc/gである。このBJH法によるメソ孔分布における、±0.5nmの許容範囲で3.0nmのピーク(2.5~3.5nmに存在するピーク)における細孔容積の極大値については、後述のように原料となる活性炭粉末の±0.5nmの許容範囲で4.0nmのピーク(3.5~4.5nmに存在するピーク)における細孔容積の極大値の15~50%であることが好ましいことから、金属の存在により活性炭の存在割合が少なくなるために細孔容積は若干少なくなっているものの、原料となる活性炭粉末の細孔容積の極大値の15~50%が維持されたものとすることができる。このように、本発明の活性炭・金属焼結体は、既存の活性炭を用いた成形品と比較するとメソ孔径が大きく、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に優れ、クライオポンプの排気性能にも優れるものである。なお、活性炭の細孔のサイズは、平均1nm程度と云われていることから、本発明の活性炭・金属焼結体は、通常の活性炭よりも大きなサイズのメソ孔を多く有することができ、それによりクライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能をさらに向上させ、クライオポンプの排気性能をさらに向上させることができる。なお、BJH法とは、Barrett,Joyner,Halendaによって提唱された、メソ孔の分布を求める方法である(E.P.Barrett、L.G.Joyner and P.P.Halenda、J,Am.Chem.Soc.,73、373、(1951))。
【0027】
本発明の活性炭・金属焼結体の比表面積は特に制限されず、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能及びクライオポンプの排気性能の観点から、200~1200m2/gが好ましく、300~1000m2/gがより好ましい。後述のように、本発明の活性炭・金属焼結体の比表面積は、原料となる活性炭粉末の比表面積の20~60%程度となる。また、本発明の活性炭・金属焼結体の比表面積は、BET法により測定する。
【0028】
この本発明の活性炭・金属焼結体の気孔率は、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能の観点から、65%以上が好ましく、68~80%がより好ましい。本発明の活性炭・金属焼結体の気孔率は、本発明の活性炭・金属焼結体の体積及び質量から実測の密度を算出し、それと炭素及び金属の理論値から算出した理論上の密度と対比することにより算出する。この範囲は、通常の活性炭を用いた焼結体では気孔率が60%程度に過ぎないのと比較すると大きく、対象気体をより多く吸着・脱離することができることから、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に特に優れ、クライオポンプの排気性能にも特に優れる。
【0029】
本発明の活性炭・金属焼結体の熱伝導率は、金属を含んでいることにより本発明の活性炭焼結体と比較すると熱伝導率が飛躍的に向上している。この本発明の活性炭・金属焼結体の熱伝導率は、クライオポンプ用吸着材としての有用性の観点から、0.5W/mK以上が好ましく、0.6~1.5W/mKがより好ましく、0.7~1.3W/mKがさらに好ましい。本発明の活性炭・金属焼結体の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定する。この範囲は、既存の活性炭を用いた成形品では熱伝導率が0.14W/mK程度に過ぎないのと比較すると大きいものである。クライオポンプにより排気する際には、極低温で吸着材に対象気体を吸着・脱離させる。この際、吸着材の熱伝導率が高いと、冷却時間が短くなり、結果的に真空に到達する時間も短くなり経済的である。このような観点から、本発明の活性炭・金属焼結体の熱伝導率を上記範囲にした場合には、クライオポンプ用吸着材として特に優れる。
【0030】
この本発明の活性炭・金属焼結体の電気抵抗率は、スパッタ装置を併用する場合には、スパッタ装置を起動させる際にプラズマを発生させるためクライオポンプにもアークが飛ぶこととなり、その場合の活性炭・金属焼結体の損傷をより抑制するためには電気抵抗率は低いことが好ましく、3.0×10-2Ωcm以下が好ましく、5.0×10-4~5.0×10-3Ωcm以下がより好ましい。本発明の活性炭・金属焼結体の電気抵抗率は、JIS K 7194に準拠して測定する。
【0031】
この本発明の活性炭・金属焼結体の大きさについては特に制限されず、適用されるクライオポンプにあわせて適宜調整することができるが、ハンドリング性の観点からは、厚みは1~100mmが好ましく、2~50mmがより好ましい。この範囲とすることで、ハンドリング性をさらに向上させることができ、厚みを上記範囲とした場合にはクライオポンプ用吸着材として特に優れる。
【0032】
このような本発明の活性炭・金属焼結体は、クライオポンプにおいて対象としている気体分子を好適に吸着・脱離することができ、且つ、樹脂バインダーを使用せずとも強固に固形化されており活性炭及び金属が脱落しにくいことから、クライオポンプ用吸着材として有用である。なお、クライオポンプ用吸着材として使用する場合、本発明の活性炭・金属焼結体により吸着・脱離する対象となる気体分子は、例えば、水素分子、ヘリウム分子、アルゴン分子、ネオン分子、二酸化炭素分子、窒素分子、水分子等が挙げられる。
【0033】
また、本発明のクライオポンプは、本発明の活性炭・金属焼結体を用いること以外は従来から知られているクライオポンプと同様とすることができる。
【0034】
3.焼結体の製造方法
本発明の焼結体の製造方法は、特に制限はなく、例えば、
活性炭粉末を含有する原料粉末を放電プラズマ焼結処理する工程
を備える。
【0035】
原料粉末は、活性炭粉末を含有する。原料粉末として活性炭粉末のみを使用した場合は本発明の活性炭焼結体を得ることができ、原料粉末として活性炭粉末及び金属粉末を使用した場合は本発明の活性炭・金属焼結体を得ることができる。
【0036】
活性炭粉末は、三次元網目構造を形成する複数のメソ孔領域の細孔、つまり細孔径が2~50nmの細孔を有することが好ましい。この三次元網目構造が本発明の焼結体でも維持されていれば、クライオポンプで対象とする気体分子を効果的に吸着・脱離させることができる。
【0037】
一般に、クライオポンプ用吸着材としては、細孔分布において、2~50nmの範囲にピークを有することが必要とされている。したがって、クライオポンプへの適用を考えた場合はメソ孔が重要となる。
【0038】
活性炭粉末の比表面積は特に制限されず、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能及びクライオポンプの排気性能の観点から、1000~2000m2/gが好ましく、1200~1800m2/gがより好ましい。活性炭粉末のみを使用して活性炭焼結体を得る場合は上記の比表面積がほとんど維持され、活性炭粉末及び金属粉末を使用して活性炭・金属焼結体を得る場合は上記の比表面積の20~60%程度となる。また、活性炭粉末及び金属粉末の比表面積は、BET法により測定する。
【0039】
活性炭粉末としては、適宜製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、クノーベル(登録商標)(東洋炭素株式会社製)等が挙げられる。このような活性炭粉末をそのまま用いることもできるし、常法で粉砕してから用いることもできる。なお、熱伝導率の観点からは、活性炭粉末を粉砕せずにそのまま用いることが好ましく、気孔率の観点からは、活性炭粉末を粉砕して用いることが好ましい。
【0040】
活性炭粉末の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、三次元網目構造を有する筋材と、炭素材料形成源としての有機物質とを成形して炭化させた後、酸又はアルカリで前記筋材を溶解する方法等が挙げられる。この場合、前記筋材を溶解した痕が三次元網目構造を形成する複数のメソ孔となり、意図的に形成することができる。
【0041】
筋材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、金属酸化物、金属塩、金属含有有機物等が挙げられる。これらの中でも、酸又はアルカリに可溶性のものが好ましい。
【0042】
有機物質としては、炭化させることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、有機物質は、炭化時に揮発性物質を放出するため、放出痕としてミクロ孔が形成されるため、ミクロ孔が全く存在しない活性炭粉末を製造することは難しい。
【0043】
金属粉末を構成する金属の種類は、上記したものを採用できる。また、金属粉末の粒度は特に制限されず、放電プラズマ焼結処理により、特に強固に固形化できる観点から、メジアン径D50は13~100μmが好ましく、25~50μmがより好ましい。金属粉末の粒度は、レーザー回折式粒度分布測定装置によりメジアン径D50を測定する。
【0044】
活性炭粉末と金属粉末の使用量は特に制限されない。本発明の活性炭焼結体を得ようとする場合は活性炭を100質量%使用することが好ましいし、本発明の活性炭・金属焼結体を得ようとする場合は活性炭粉末及び金属粉末の合計量を100質量%として活性炭粉末を40~90質量%(特に60~80質量%)、金属粉末を10~60質量%(特に20~40質量%)使用することが好ましく、必要に応じて常法により混合して混合粉末とすることもできる。
【0045】
上記した原料粉末を用いて、放電プラズマ焼結処理(以下、「SPS処理」と言うこともある)を施すことにより、本発明の焼結体を得ることができる。
【0046】
SPS処理を施すにあたり、原料粉末を加熱させることが好ましい。この場合の加熱温度は、原料となる上記活性炭粉末が有するメソ孔構造をより維持し、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に特に優れ、クライオポンプの排気性能に特に優れる観点から、1100℃以下が好ましく、900~1050℃がより好ましい。また、昇温速度については同様の理由から5~50℃/分が好ましく、8~20℃/分がより好ましい。
【0047】
SPS処理を施すにあたり、加圧下に行うことが好ましい。この場合の圧力は、特に制限はなく、原料粉末をより強固に固形化させる観点から、5~50MPaが好ましく、10~30MPaがより好ましい。
【0048】
SPS処理の雰囲気は特に制限されないが、原料粉末をより強固に固形化させる観点から、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気が好ましい。その他、真空下等の減圧下にSPS処理を行うこともできる。
【0049】
SPS処理の時間は特に制限されないが、原料粉末をより強固に固形化させる観点から、5~20分が好ましく、8~15分がより好ましい。
【実施例
【0050】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0051】
[比表面積及び全細孔容積]
各試料の比表面積及び全細孔容積は、窒素ガス吸着等温線を用いたBET法により測定した。
【0052】
[メソ孔径]
各試料のメソ孔径は、BJH法によるメソ孔分布を用いて測定した。
【0053】
[ミクロ孔容積]
各試料のミクロ孔容積は、NLDFT法(非局在化密度汎関数法)による細孔分布を用いて測定した。
【0054】
[熱伝導率]
各試料の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定した。
【0055】
[曲げ強さ]
試料の曲げ強さは、JIS R 1601: 2008に規定される三点曲げ試験により測定した。
【0056】
[電気抵抗率]
JIS K 7194に準拠して、測定装置として(株)三菱ケミカルアナリテック製のMCP-T610 BSPプローブを使用して測定した。
【0057】
[実施例1:活性炭焼結体;通常粉]
東洋炭素株式会社製のクノーベルMH-10を用いたSPS処理により、実施例1の活性炭焼結体を得た。具体的には、以下の処理を行った。クノーベルMH-10粉末を秤量後、黒鉛ダイス型に充填し、上下パンチ型で挟み込んだ状態で装置チャンバーへ設置した。ロータリーポンプを用いてチャンバー内部を10-1Paの真空雰囲気とし、その後20MPaの圧力をクノーベルMH-10粉末に掛けながら、室温~1000℃まで昇温速度10℃/分にて通電加熱し、最高温度1000℃にて10分間保持後、負荷圧力の開放及び炉冷を行い、300℃以下に達した時点でチャンバー内部を大気圧へ開放し活性炭焼結体の取出しを行った。なお、加熱温度は黒鉛ダイス型に設置した熱電対を用いて測温した。
【0058】
[実施例2:活性炭焼結体;粉砕粉]
東洋炭素株式会社製のクノーベルMH-10を粉砕してメジアン径D50を2μmとして使用したこと以外は実施例1と同様に、活性炭焼結体を得た。
【0059】
[実施例3:活性炭・金属焼結体;75C-25Cu]
東洋炭素株式会社製のクノーベルMH-10及び銅粉末(メジアン径D50: 25~50μm)を用いたSPS処理により、実施例3の活性炭・金属焼結体を得た。具体的には、以下の処理を行った。上記クノーベルMH-10粉末と銅粉末を、クノーベルMH-10粉末が75質量%、銅粉末が25質量%となるように秤量し、乳鉢を用いた乾式混合を行い、これを混合粉末とした。上記混合粉末を秤量後、黒鉛ダイス型に充填し、上下パンチ型で挟み込んだ状態で装置チャンバーへ設置した。ロータリーポンプを用いてチャンバー内部を10-1Paの真空雰囲気とし、その後20MPaの圧力を混合粉末に掛けながら、室温~900℃まで昇温速度10℃/分にて通電加熱し、最高温度900℃にて10分間保持後、負荷圧力の開放及び炉冷を行い、300℃以下に達した時点でチャンバー内部を大気圧へ開放し活性炭・金属焼結体の取出しを行った。なお、加熱温度は黒鉛ダイス型に設置した熱電対を用いて測温した。
【0060】
[実施例4:活性炭・金属焼結体;50C-50Cu]
東洋炭素株式会社製のクノーベルMH-10の含有量を50質量%、銅粉末の含有量を50質量%とすること以外は実施例3と同様に、実施例4の活性炭・金属焼結体を得た。
【0061】
[参考例1:活性炭粉末]
東洋炭素株式会社製のクノーベルMH-10を、そのまま参考例1の活性炭粉末として使用した。
【0062】
[評価結果]
活性炭焼結体
実施例1及び2で使用した活性炭粉末(実施例1(サンプル1):通常粉;実施例2(サンプル2):粉砕粉)の粉末SEM像(二次電子像)を図1に示す。また、実施例1及び2の活性炭焼結体の外観写真を図2に示す(左が実施例1、右が実施例2である)。さらに、実施例1及び2の活性炭焼結体の表面及び破面のSEM像(二次電子像)を図3に示す(上が実施例1、下が実施例2である)。
【0063】
次に、実施例1及び2の活性炭焼結体(成形品)の気孔率を測定した。結果を表1に示す。この結果、実施例1及び2の活性炭焼結体(成形品)の気孔率は約80%であり、既存の活性炭を用いた焼結体が60%程度であるのと比較して極めて高く、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に優れ、クライオポンプの排気性能にも優れることが示唆される。なお、原料としては、活性炭粉末を粉砕したほうが、若干気孔率に優れていた。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1の活性炭焼結体(成形品)と、参考例1の活性炭粉末(粉末)の各種物性を測定した。結果を表2に示す。また、窒素ガス吸着等温線を図4に、BJH法によるメソ孔分布を図5に示す。この結果、いずれの物性においても、SPS処理の前後でほとんど同じ値であり、クノーベルMH-10の、三次元網目構造を形成する複数のメソ孔領域の細孔を有する構造がSPS処理によっても維持されていることが理解できる。特に、BJH法によるメソ孔分布では、4.0nmにおけるピークの半値幅は、既存の活性炭を用いた成形品(半値幅約1nm)と比較すると大きく、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に優れ、クライオポンプの排気性能にも優れることが示唆される。
【0066】
【表2】
【0067】
次に、実施例1及び2の活性炭焼結体(成形品)について、熱伝導率を測定した。結果を表3に示す。この結果、既存の活性炭を用いた成形品では熱伝導率は0.14W/mK程度に過ぎなかったのと比較すると、約2倍の熱伝導率が得られ、極低温まで温度を下げるクライオポンプ用吸着材用途として有効であることが示唆された。なお、原料としては、活性炭粉末を粉砕せずにそのまま用いたほうが、若干熱伝導率に優れていた。
【0068】
【表3】
【0069】
次に、実施例1の活性炭焼結体(成形品)について、三点曲げ試験による曲げ強さを測定した。測定は二回行い、その平均値を算出した。破壊時の外観写真を図に示し、結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
次に、実施例1及び2の活性炭焼結体(成形品)と、参考例1の活性炭粉末(粉末)について、電気抵抗率を測定した。結果を表5に示す。この結果、活性炭粉末をSPS処理により活性炭焼結体(成形品)に成形することにより、電気抵抗率を小さくできることが理解できる。原料としては、活性炭粉末を粉砕せずにそのまま用いたほうが、若干電気抵抗率に優れていた。
【0072】
【表5】
【0073】
活性炭・金属焼結体
実施例1及び2の活性炭焼結体と、実施例3及び4の活性炭・金属焼結体(成形品)の各種物性を測定した。実施例3及び4の結果を表6に示す。また、窒素ガス吸着等温線を図に、BJH法によるメソ孔分布を図に、NLDFT法による細孔分布を図に示す。いずれも、左図が実施例1及び2、右図が実施例3及び4である。この結果、実施例3及び4におけるBJH法によるメソ孔分布では、メソ孔領域におけるピークの半値幅いずれも約3nmであり、既存の活性炭を用いた成形品のメソ孔領域におけるピーク(半値幅約1nm)と比較すると大きく、クライオポンプ用吸着材としての吸着・脱離性能に優れ、クライオポンプの排気性能にも優れることが示唆される。
【0074】
【表6】
【0075】
次に、実施例1及び2の活性炭焼結体(成形品)と、実施例3及び4の活性炭・金属焼結体(成形品)について、熱伝導率を測定した。結果を表7に示す。この結果、実施例3及び4のように金属を含ませることで、実施例1及び2と比較しても、熱伝導率を飛躍的に向上させることができ、極低温まで温度を下げるクライオポンプ用吸着材用途として有効であることが示唆された。
【0076】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9