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特許7016111手術対象部位モニターシステム及び手術対象部位モニターシステムの作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】手術対象部位モニターシステム及び手術対象部位モニターシステムの作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20220128BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20220128BHJP
   A61B 6/12 20060101ALI20220128BHJP
   A61B 34/20 20160101ALI20220128BHJP
【FI】
A61B1/00 552
A61B6/03 360G
A61B6/03 360J
A61B6/12
A61B34/20
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018541940
(86)(22)【出願日】2017-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2017026242
(87)【国際公開番号】W WO2018061423
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2016192395
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091546
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 正美
(72)【発明者】
【氏名】魯 健
(72)【発明者】
【氏名】前田 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】張 嵐
(72)【発明者】
【氏名】廣島 洋
(72)【発明者】
【氏名】大河内 信弘
(72)【発明者】
【氏名】倉田 昌直
(72)【発明者】
【氏名】奥田 洋一
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-113018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B1/00-1/32、6/00-6/14、34/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の手術対象部位が、生成した3次元の人工磁場空間内に配置されるように人工磁場を生成する人工磁場生成装置と、
前記患者の前記手術対象部位の予め定められた複数の場所のそれぞれに装着され、前記装着された場所の前記人工磁場空間内の位置を検出するための複数の磁気センサと、
前記複数の磁気センサからの出力情報を互いに識別可能に取得する表示制御装置と、
を備え、
前記表示制御装置は、
表示画面を備えるモニター部と、
前記患者の手術対象部位の3D画像のデータを記憶すると共に、前記磁気センサの前記患者の前記手術対象部位に対する装着場所の位置情報を、前記手術対象部位の前記3D画像に対する装着場所の位置情報として記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記3D画像のデータと、前記磁気センサの前記手術対象部位の前記3D画像に対する装着場所の位置情報と、前記複数の磁気センサの出力情報に基づいて、前記モニター部の表示画面に、前記患者の手術対象部位の3D画像を、前記患者の前記手術対象部位の前記人工磁場空間内における存在状態に対応するように表示画面に表示するように制御する制御部と、
を備えることを特徴とする手術対象部位モニターシステム。
【請求項2】
前記表示制御装置の前記制御部は、
前記磁気センサが装着された場所の前記人工磁場空間内の位置が変化したときには、その検出した位置の変化に応じて、前記表示画面に表示されている前記患者の手術対象部位の画像を変化させる
ことを特徴とする請求項1に記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項3】
前記手術は、低侵襲手術である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項4】
前記患者の手術対象部位は臓器である
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項5】
前記表示制御装置は、前記複数の前記磁気センサのそれぞれの前記出力情報を接続線を介して取得ための複数個の端子を備え、
前記表示制御装置は、前記複数の磁気センサのそれぞれの出力情報を、前記複数個の端子のいずれの端子を通じて受け取ったかにより、互いに識別可能に取得する
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項6】
前記複数の前記磁気センサと、前記表示制御装置とは無線で接続されており、前記磁気センサのそれぞれは、自センサを識別する識別情報を、前記出力情報に付加して送信し、
前記表示制御装置は、前記複数の磁気センサのそれぞれの出力情報を、前記識別情報により、互いに識別可能に取得する
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項7】
前記表示制御装置は、前記人工磁場生成装置で生成される前記人工磁場空間の各位置と、当該位置における磁場の強さ及び磁場の向きとの対応テーブルを備え、
前記制御部は、前記磁気センサの出力情報から磁場の強さ及び磁場の向きとを検出し、その検出結果により前記対応テーブルを参照することで、対応する前記人工磁場空間における前記磁気センサの位置を検出する
ことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項8】
前記表示制御装置は、前記患者の前記手術対象部位に装着された前記磁気センサの既定座標軸方向と、前記人工磁場空間の3次元座標軸方向とのずれを校正するための校正用データを取得するためのキャリブレーションを行う機能を備え、
前記制御部は、前記校正用データを用いて、前記磁気センサの前記人工磁場空間内での出力情報を校正する
ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項9】
前記キャリブレーションは、前記患者の前記手術対象部位に装着された前記磁気センサに対して、前記人工磁場生成装置による前記人工磁場空間を停止した状態で、磁場の向きが所定の方向で互いに平行な磁場を印加し、その時の前記磁気センサの出力を校正用データとして記憶することにより行い、
前記制御部は、前記記憶した校正用データを用いて、前記磁気センサの前記人工磁場空間内での出力情報を校正する
ことを特徴とする請求項8に記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項10】
前記平行な磁場は、地球磁場である
ことを特徴とする請求項9に記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項11】
前記平行な磁場は、人工磁場である
ことを特徴とする請求項9に記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項12】
前記キャリブレーションは、手術台に載せられた前記患者の前記手術対象部位に装着された前記磁気センサの既定座標軸方向からのずれをマグネティックジャイロセンサーを用いて検出することで行う
ことを特徴とする請求項8に記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項13】
前記人工磁場生成装置は、前記手術対象部位の位置における磁場の強さと磁場の向きとが互いに異なる複数通りの人工磁場空間を、切り替えて生成し、
前記表示制御装置は、前記複数通りの人工磁場空間のそれぞれにおける前記磁気センサの出力情報に基づいて、前記磁気センサの前記人工磁場空間における位置を算出する
ことを特徴とする請求項1~請求項12のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項14】
前記人工磁場空間の前記複数の前記磁気センサが配設されている空間部分に対して、前記患者の外部から外部磁界を印加する手段を設けた
ことを特徴とする請求項1~請求項13のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項15】
手術用具の先端に装着された磁気センサが前記表示制御装置に接続され、前記表示制御装置では、前記手術用具の先端に装着された前記磁気センサの出力情報と、前記手術対象部位に装着あれた複数の磁気センサの出力情報とは識別可能に構成されており、
前記表示制御装置は、前記手術用具の先端に装着された磁気センサに基づいて、前記患者の前記手術対象部位の前記3D画像に対する前記手術用具の先端の位置を、前記表示画面に表示する
ことを特徴とする請求項1~請求項14のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステム。
【請求項16】
人工磁場生成装置が、予め定められた複数の場所のそれぞれに磁気センサが装着された患者の手術対象部位が、生成した3次元の人工磁場空間内に配置されるように人工磁場を生成する人工磁場生成工程と、
複数の前記磁気センサからの出力情報を互いに識別可能に取得する表示制御装置が、記憶部に記憶されている前記患者の手術対象部位の3D画像のデータ、及び前記手術対象部位の前記3D画像に対する装着場所の位置情報として記憶されている前記磁気センサの前記患者の前記手術対象部位に対する装着場所の位置情報と、前記複数の前記磁気センサの出力情報とに基づいて、モニター部の表示画面に、前記患者の手術対象部位の3D画像を、前記患者の前記手術対象部位の前記人工磁場空間内における存在状態に対応するように表示画面に表示する第1の表示制御工程と、
を有することを特徴とする手術対象部位モニターシステムの作動方法
【請求項17】
前記表示制御装置が、前記磁気センサが装着された場所の前記人工磁場空間内の位置が変化したことを検出したときに、その検出した位置の変化に応じて、前記表示画面に表示されている前記患者の手術対象部位の3D画像を変化させるように制御する第2の表示制御工程を有する
ことを特徴とする請求項16に記載の手術対象部位モニターシステムの作動方法。
【請求項18】
人工磁場生成工程で前記人工磁場空間を生成するに先立ち、前記患者の前記手術対象部位に装着された前記磁気センサの既定座標軸方向と、前記人工磁場空間の3次元座標軸方向とのずれを校正するための校正用データを取得するためのキャリブレーション工程を有し、
前記キャリブレーション工程で取得した前記校正用データを用いて、前記磁気センサの前記人工磁場空間内での出力情報を校正する
ことを特徴とする請求項16または請求項17に記載の手術対象部位モニターシステムの作動方法
【請求項19】
手術用具の先端に装着された磁気センサが前記表示制御装置に接続され、前記表示制御装置では、前記手術用具の先端に装着された前記磁気センサの出力情報と、前記手術対象部位に装着されている前記複数の前記磁気センサの出力情報とは識別可能に構成されており、
前記表示制御装置は、前記手術用具の先端に装着された前記磁気センサに基づいて、前記患者の前記手術対象部位の前記3D画像に対する前記手術用具の先端の位置を、前記表示画面に表示する第3の表示制御工程を有する
ことを特徴とする請求項16~請求項18のいずれかに記載の手術対象部位モニターシステムの作動方法
【請求項20】
患者の手術対象部位が、生成した3次元の人工磁場空間内に配置されるように人工磁場を生成する人工磁場生成装置と、前記患者の前記手術対象部位の予め定められた複数の場所にそれぞれ装着され、前記装着された場所の前記人工磁場空間内の位置を検出するための複数の磁気センサと、前記複数の磁気センサからの出力情報を互いに識別可能に取得する表示制御装置とを備える手術対象部位モニターシステムにおける前記表示制御装置が備えるコンピュータに、
前記患者の手術対象部位の3D画像のデータと共に、前記磁気センサの前記患者の前記手術対象部位に対する装着場所の位置情報が、前記3D画像の前記手術対象部位に対する装着場所の位置情報として記憶されている記憶部に記憶されている前記3D画像のデータと、前記1以上の磁気センサの出力情報に基づいて、モニター部の表示画面に、前記患者の手術対象部位の3D画像を、前記患者の前記手術対象部位の前記人工磁場空間内における存在状態に対応するように表示画面に表示する第1の表示制御工程を実行させるためのプログラム。
【請求項21】
請求項20に記載のプログラムにおいて、
前記コンピュータに、さらに、
前記磁気センサが装着された場所の前記人工磁場空間内の位置が変化したことを検出したときに、その検出した位置の変化に応じて、前記表示画面に表示されている前記患者の手術対象部位の3D画像を変化させるように制御する第2の表示制御工程を実行させる
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内視鏡手術などの低侵襲外科手術において、手術対象部位をモニタリングする際に用いて好適な手術対象部位モニターシステム及び手術対象部位モニターシステムの作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の外科手術においては、手術を的確に、また、短時間で行えるようにするために、センサ技術やテレビモニターを補助的に用いることが多くなってきている。例えば特許文献1(米国特許明細書No.6,633,773B1)には、例えば心臓などの臓器の表面の組織の再編成の手術に関する発明が開示されている。この特許文献1においては、手術台の下部に人工磁場を発生する電磁石(コイル)を配置すると共に、患者の手術対象部位としての臓器の、手術に関連する特定の位置には参照磁気センサを設けておき、その位置をモニター画面に表示するようにする。
【0003】
また、特許文献1においては、手術用具としてのカテーテルの先端に磁気センサを装着しておくことで、当該カテーテルを患者の体内の臓器のところまで挿入する際に、その先端の位置を磁気センサで検出し、その検出した位置をモニター画面に表示できるようにする。そして、手術を実行する医師は、モニター画面において、参照磁気センサの位置及びカテーテルの先端に装着されている磁気センサの位置を確認しながら、参照磁気センサの位置を頼りに、臓器のところまでカテーテルを挿入して、必要な手術をするようにしている。
【0004】
この特許文献1の発明によれば、医師は、参照磁気センサの位置を頼りに、カテーテルを的確に、また、比較的短時間で、目的とする臓器のところまで挿入することができて非常に便利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許明細書No.6,633,773B1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近の外科手術としては、患者の負担を軽減するために、内視鏡手術などの低侵襲外科手術が用いられるようになっている。これは、内視鏡(腹腔鏡などを含む)で見える範囲の部位をモニター画面に表示しながら、メスなどの手術用具を用いて手術を行うものである。この内視鏡手術においても、上述した特許文献1の技術を適用することで、内視鏡手術用の手術用具を、より的確に、また、より迅速に、手術対象の臓器の目的とする位置に挿入することが可能になる。
【0007】
ところが、内視鏡の視野の範囲は狭く、臓器全体を把握しながらの手術は困難である。しかし、従来、臓器全体を把握しながら内視鏡手術などの手術をするための技術は提供されていない。
【0008】
この発明は、以上の点に鑑み、臓器などの手術対象部位の全体を把握しながら、必要な手術部位のおける手術を可能とすることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、
患者の手術対象部位が、生成した3次元の人工磁場空間内に配置されるように人工磁場を生成する人工磁場生成装置と、
前記患者の前記手術対象部位の予め定められた複数の場所のそれぞれに装着され、前記装着された場所の前記人工磁場空間内の位置を検出するための複数の磁気センサと、
前記複数の磁気センサからの出力情報を互いに識別可能に取得する表示制御装置と、
を備え、
前記表示制御装置は、
表示画面を備えるモニター部と、
前記患者の手術対象部位の3D画像のデータを記憶すると共に、前記磁気センサの前記患者の前記手術対象部位に対する装着場所の位置情報を、前記手術対象部位の前記3D画像に対する装着場所の位置情報として記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記3D画像のデータと、前記磁気センサの前記手術対象部位の前記3D画像に対する装着場所の位置情報と、前記複数の磁気センサの出力情報に基づいて、前記モニター部の表示画面に、前記患者の手術対象部位の3D画像を、前記患者の前記手術対象部位の前記人工磁場空間内における存在状態に対応するように表示画面に表示するように制御する制御部と、
を備えることを特徴とする手術対象部位モニターシステムを提供する。
【0010】
そして、請求項2の発明は、請求項1に記載の手術対象部位モニターシステムにおいて、前記表示制御装置の前記制御部は、
前記磁気センサが装着された場所の前記人工磁場空間内の位置が変化したことを検出したときには、その検出した位置の変化に応じて、前記表示画面に表示されている前記患者の手術対象部位の3D画像を変化させることを特徴とする。
【0011】
上述の構成の請求項1の発明による手術対象部位モニターシステムにおいては、患者の手術対象部位の予め定められた場所(位置)には、複数の磁気センサが装着される。そして、人工磁場生成装置により、患者の手術対象部位が、生成した3次元の人工磁場空間内に配置されるように人工磁場が生成される。この人工磁場空間のそれぞれの位置(3次元位置)の磁場の強さと磁場の向きとのペアは、その位置特有の値を有し、磁場の強さと磁場の向きを磁気センサで検出することで、その検出した位置が、人工磁場空間のいずれの位置であるかを特定することができる。
【0012】
また、請求項1の発明による手術対象部位モニターシステムにおいては、記憶部に、予め、患者の手術対象部位の3D画像のデータが記憶されていると共に、複数の磁気センサの患者の手術対象部位に対するそれぞれの装着場所の位置情報が、手術対象部位の3D画像に対する装着場所の位置情報として記憶されている。
【0013】
表示制御装置は、この記憶部に記憶している患者の手術対象部位の3D画像のデータ及び磁気センサの手術対象部位の3D画像に対する装着場所の位置情報と、複数の磁気センサの出力情報とを用いて、モニター部の表示画面に、患者の手術対象部位の人工磁場空間内における存在状態に対応するように、患者の手術対象部位の3D画像を表示する。すなわち、表示制御装置は、複数の磁気センサの出力情報から、人工磁場空間内における複数の磁気センサのそれぞれの位置を検出し、患者の手術対象部位の3D画像の磁気センサの装着場所の位置が、その検出した位置となるようにして、表示画面に3D画像を表示する。これにより、モニター部の表示画面には、患者の手術対象部位の3D画像が、実際の患者の手術対象部位の人工磁場空間内における存在状態と対応するように表示される。
【0014】
したがって、手術を担当する医師は、モニター部の表示画面に表示されている3D画像を観ることで、例えば手術台上に仰臥している患者の手術対象部位の向きなどを容易に把握することができ、これを参照することで外科手術を的確、また、迅速に行うことができるようになる。
【0015】
そして、請求項2の発明によれば、表示制御装置の制御部は、磁気センサが装着された場所の人工磁場空間内の位置が変化したことを検出したときには、その検出した位置の変化に応じて、前記表示画面に表示されている前記患者の手術対象部位の3D画像を変化させる。これにより、例えば手術台に仰臥している患者の体が動いたときであっても、モニター部の表示画面に表示されている手術対象部位の3D画像は、その動きに対応して変化するので、医師は、その変化を的確に把握することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、モニター部の表示画面には、患者の手術対象部位の人工磁場空間内における存在状態と対応するように、患者の手術対象部位の3D画像が表示されるので、医師は、これを参照することで外科手術を的確、また、迅速に行うことができるようになるという顕著な効果を奏する。
【0017】
また、この発明によれば、手術台に仰臥している患者の体が動いたときであっても、モニター部の表示画面に表示されている手術対象部位の3D画像は、その動きに対応して変化するので、医師は、その変化を的確に把握することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態の全体の概要を示す図である。
図2】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態の要部を説明するために用いる図である。
図3】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態における磁気センサの手術対象部位への装着位置の例を示すである。
図4】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態で用いる磁気センサを説明するために用いる図である。
図5】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態における表示制御装置の制御装置のハードウエア構成例を示すブロック図である。
図6】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態における磁気センサのキャリブレーション処理を説明するために用いる図である。
図7】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態の改良例を説明するための図である。
図8】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態の改良例を説明するために用いる図である。
図9】この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態の改良例を説明するために用いる図である。
図10】この発明による手術対象部位モニターシステムの他の実施形態の全体の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明による手術対象部位モニターシステム及び手術対象部位モニターシステムの作動方法の実施形態を、手術対象部位が肝臓の場合を例に取って、図を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、この発明による手術対象部位モニターシステムの実施形態の全体の概要を示す図である。この実施形態の手術対象部位モニターシステムは、人工磁場生成装置10と、複数個の磁気センサ21~2n(nは2以上の整数)と、表示制御装置30とからなる。
【0021】
人工磁場生成装置10は、患者1が仰臥する手術台2の近傍に配置される複数個の電磁石、図1の例では、6個の電磁石11~16と、コイル電流供給装置17とからなる。電磁石11~16のそれぞれは、磁性体コアにコイルが巻回されたもので、コイル電流供給装置17は、電磁石11~16のそれぞれのコイルに磁場発生用の電流を供給する。
【0022】
この場合に、人工磁場生成装置10は、患者の手術対象部位、この例では、肝臓の全体が、生成した人工磁場の3次元空間(以下、人工磁場空間という)内に入るように人工磁場を生成するようにする。そのような人工磁場空間を得るためには、人工磁場生成装置10では、図2に示すように、電磁石は、手術台2に仰臥している患者1を挟んだ2個の位置に設ければよいので、最低2個を設ければよい。図2の例では、電磁石12と電磁石15とを設けた場合を示している。
【0023】
生成された人工磁場空間内の各位置における磁場の強さと磁場の向きとのペアの値は、各位置毎に異なっている。すなわち、例えば図2において、実線上の位置においては、磁場の強さは同じであるが、磁場の向きが位置毎に異なる。また、図2において、点線上の位置においては、磁場の向きが同じであるが、磁場の強さが位置毎に異なる。したがって、人工磁場空間内の或る位置において磁場の強さと磁場の向きとのペアの値を検出すれば、その位置が、人工磁場空間内のいずれの位置であるかを検出することができる。
【0024】
したがって、人工磁場空間内において磁場の強さと磁場の向きを、磁気センサにより検出することができるようにすることが肝要であるが、2個の電磁石のみで生成した人工磁場空間では、磁場の強さが弱く、その検出が困難な位置が生じる恐れがあるので、この実施形態では、2個以上の電磁石、この例では6個の電磁石11~16を配設して、いずれの位置においても、磁気センサによって、感度良く、磁場の強さ及び磁場の向きを検出することができるようにしている。
【0025】
そして、この実施形態においては、図1に示すように、6個の電磁石11~16の内の3個の電磁石11~13は、手術台2に仰臥している患者1の左側に配置され、残りの3個の電磁石14~16は、患者1の右側に配置される。そして、6個の電磁石11~16のそれぞれは、磁性体コアに巻回されているコイルの巻回中心線方向が患者1の体と交差する方向となるように配置して、N極またはS極の一方の磁極が発生する磁性体コアのコイルの巻回中心線方向の端面が患者1の体と対向するようにする。そして、患者1の左側に配置された3個ずつの電磁石11~13と、患者1の右側に配置された3個の電磁石14~16とでは、それぞれの磁性体コアの患者1の体側と対向する端面側に、互いに異なる磁極が発生するように、コイル電流供給装置17から、各電磁石11~16に電流を供給するようにする(図2参照)。図1及び図2に示す例では、患者1の左側に配置した電磁石11~13の磁性体コアの患者1の体側と対向する端面側にはS極が発生し、患者1の右側に配置した電磁石14~16の磁性体コアの患者1の体側と対向する端面側にはN極が発生するようにされている。
【0026】
なお、6個の電磁石11~16の配置位置は、2次元平面上であってもよいが、好ましくは、3次元的に配置される状態とされる。また、6個の電磁石11~16は、手術台2に対して固定的に取り付けるようにしてもよいし、別途の取付台などにより、手術台2の周囲の固定位置に取り付けるようにしてもよい。なお、設置された後は(特に手術中は)、6個の電磁石11~16は、手術台2に対して固定された位置とされといる。
【0027】
複数個の磁気センサ21~2nは、手術を実行するに先立ち、患者1の手術対象部位の例である肝臓に装着される。複数個の磁気センサ21~2nの、患者1の手術対象部位における装着個数及び装着場所(位置)は、予め手術対象部位毎に定められた個数及び特定の複数の場所とされる。図3は、人の肝臓の模式図であり、この例の肝臓の場合には、例えば図3に示すように、7個の装着場所(図3では括弧付数字位置)が予め設定され、例えば内視鏡手術と同様の手法により、手術前に、肝臓の前記7個の装着場所に装着される。なお、図1などにおいては、図面の作成の便宜上、3個の磁気センサしか示していないが、この例では、肝臓には7個の磁気センサが装着されているものである。
【0028】
この例で用いられる磁気センサ21~2nは、大きさが例えば1mm程度の小型のもので、図4に示すように、検出した磁場の強さ及び磁場の方向に応じた、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の3軸の出力情報を出力するものである。そして、この実施形態では、磁気センサ21~2nは、接続ケーブルを通じて、表示制御装置30の後述する制御装置31のコネクタ端子部309に接続されている。
【0029】
なお、磁気センサ21~2nのそれぞれが、肝臓の特定の装着場所に正しく装着されたかどうかは、例えばX線撮影や、CT(Computerized Tomography)などを用いて確認することができる。
【0030】
表示制御装置30は、この実施形態では、制御装置31と、当該制御装置31にケーブル33を通じて接続されているモニター装置32とからなる。なお、表示制御装置30は、この例のように制御装置31とモニター装置32とが別々の装置の構成とされていてもよいし、制御装置31とモニター装置32とが一体の装置として構成されていてもよい。
【0031】
モニター装置32は、例えばLCD(Liquid Crystal Display;液晶ディスプレイ)からなる表示画面を備える。
【0032】
制御装置31は、コンピュータ装置と同様の構成を備え、患者1の手術対象部位の3D(3Dimension;3次元)画像、この例では、肝臓の3D画像のデータを記憶する記憶部を備えると共に、モニター装置32の表示画面に表示する表示画像を生成する制御部を備える。
【0033】
図5は、この例の制御装置31のハードウェア構成例を示すブロック図である。この例の制御装置31は、コンピュータを搭載して構成されている制御部301に対して、システムバス300を通じて、外部入力I/F302と、モニター装置インターフェース(以下、インターフェースはI/Fと記す)303と、3D画像情報記憶部304と、人工磁場空間テーブル情報メモリ305と、磁気センサ位置算出部306と、校正データメモリ307と、表示画像生成部308と、が接続されて構成されている。
【0034】
外部入力I/F302には、複数個のコネクタジャック309Jを備えている入力コネクタ端子部309が接続されている。そして、この例では、入力コネクタ端子部309の各コネクタジャック309Jには、磁気センサ21~2nの接続ケーブルの端部に設けられているコネクタプラグが挿入されて、磁気センサ21~2nが、制御装置31に電気的に接続されるようにされる。
【0035】
モニター装置I/F303には、モニター装置32がケーブル33を通じて接続されており、表示画像生成部308で生成された表示画像情報が、このモニター装置I/F303を通じてモニター装置32に供給される。
【0036】
3D画像情報記憶部304には、予め、患者1の手術対象部位、この例では肝臓の3D画像のデータが記憶されている。この肝臓の3D画像のデータは、この実施形態では、手術前に患者1の肝臓をCTスキャンして得た画像データを基に作成するようにする。この場合に、磁気センサ21~2nを装着した後の肝臓をCTスキャンすることで、その3D画像には装着された磁気センサ21~2nも含まれる。そこで、生成した3D画像を表示画面に表示することで、前述したように、磁気センサ21~2nが、肝臓の目的とする適切な位置に装着されたか否かの確認ができる。
【0037】
そして、この実施形態では、磁気センサ21~2nのそれぞれの肝臓の3D画像上での位置情報が、例えば、肝臓をCTスキャンして得た画像データを基に求められる。そして、その求められた位置情報が、前述した磁気センサ21~2nのそれぞれを識別するための情報に対応して、3D画像情報記憶部304に記憶される。
【0038】
この場合に、患者1の手術対象部位である肝臓に装着された磁気センサ21~2nのそれぞれと、患者1の手術対象部位である肝臓の3D画像上の磁気センサ21~2nの位置のそれぞれとの対応付けをしておくようにする必要がある。
【0039】
このため、この例では、磁気センサ21~2nのそれぞれを識別するための情報としては、入力コネクタ端子部309のコネクタジャック309Jのそれぞれに付されたコネクタ番号が用いられる。そして、この例では、磁気センサ21~2nのそれぞれのコネクタプラグには、予め、例えばコネクタ番号に対応する番号等が付されており、肝臓のいずれの位置に装着するかが定められている。そして、それぞれの磁気センサ21~2nのケーブルの端部のコネクタプラグが、制御装置31の入力コネクタ端子部309の対応する番号のコネクタジャック309Jに接続される。
【0040】
これにより、患者1の手術対象部位である肝臓に装着された磁気センサ21~2nのそれぞれと、患者1の手術対象部位である肝臓の3D画像上の磁気センサ21~2nの位置のそれぞれとが正しく対応付けられるものである。
【0041】
なお、以上説明した、患者1の手術対象部位である肝臓に装着された磁気センサ21~2nのそれぞれと、患者1の手術対象部位である肝臓の3D画像上の磁気センサ21~2nの位置のそれぞれとの対応付けの方法は、一例であり、その他種々の方法を用いることができることは言うまでもない。
【0042】
例えば、図3に示した肝臓の(1)の位置に磁気センサ21~2nの一つを装着した後、当該磁気センサのケーブルの端部のコネクタジャックを、制御装置31の入力コネクタ端子部309の任意のコネクタジャック309Jに接続する。その際に、制御装置31は、その接続したコネクタジャック309Jに得られる磁気センサの出力情報が、3D画像上のいずれの番号位置の磁気センサの出力情報であるかの入力を促す画面を、モニター装置32の表示画面に表示して、その入力を受け付ける。例えば、磁気センサの装着作業者は、この場合には,3D画像における装着位置(1)の磁気センサである旨を入力することになる。すると、制御装置31では、当該磁気センサの出力信号に含まれる識別情報と、3D画像における装着位置(1)とを対応付けて記憶する。他の磁気センサの装着時にも、同様の作業をすることで、制御装置31には、それぞれの磁気センサの出力信号に含まれる識別情報と、3D画像における装着位置(1)とを対応付けた対応付け情報が記憶される。
【0043】
これにより、制御装置31は、入力コネクタ端子部309を通じて入力される磁気センサの出力信号に含まれる識別情報を認識し、その認識した識別情報により、記憶した対応付け情報を参照することにより、その識別情報の磁気センサが、3D画像におけるいずれの装着位置の磁気センサであるかを認識することができる。
【0044】
人工磁場空間テーブル情報メモリ305には、人工磁場生成装置10により生成された人工磁場空間の各位置と、その位置における磁場の強さと磁場の向きとのペアとの対応テーブル情報が格納されている。対応テーブル情報は、人工磁場空間内の各位置の実測値に基づいて生成するようにしてもよいし、人工磁場生成装置10を構成する電磁石11~16の取り付け位置と、当該電磁石11~16のコイルに供給する電流値などから、計算により人工磁場空間内の各位置の磁場の強さ及び磁場の向きを求めて、生成するようにしてもよい。
【0045】
この場合に、3次元の人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向は、所定の方向に定められる。3次元の人工磁場空間の例えばZ軸方向は、手術台2の患者1が仰臥する台面に対して直交する方向とし、X軸方向は、仰臥している患者1の身長方向とし、Y軸方向は、仰臥している患者1の身長方向に直交する方向とする。
【0046】
なお、3D画像情報記憶部304に記憶される3D画像のX,Y,Zの各座標軸方向は、この例では、人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向と同様とされている。したがって、モニター装置32の表示画面に直交する方向をZ軸方向として手術対象部位の肝臓を表示する場合には、医師が、手術台2上に仰臥している患者1を、その上方から見ているときの当該肝臓が表示画面に表示される。
【0047】
磁気センサ位置算出部306は、入力コネクタ端子部309を通じて入力される各磁気センサ21~2nの出力情報から、それぞれの磁気センサの位置における磁場の強さと磁場の向きを検出する。そして、その検出した磁場の強さと磁場の向きのペアにより、人工磁場空間テーブル情報メモリ305を参照して、対応する人工磁場空間内の位置を検出するようにする。
【0048】
この場合に、手術対象部位の例である肝臓に装着された各磁気センサ21~2nの、図4に示したX,Y,Zの各座標軸方向が、人工磁場空間テーブル情報メモリ305に記憶されている対応テーブル情報を得る際の人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向が一致していれば、磁気センサ位置算出部306で、各磁気センサ21~2nの出力情報のそれぞれから検出した磁場の強さと磁場の向きのペアをそのまま、人工磁場空間テーブル情報メモリ305の参照用情報として用いることができる。
【0049】
しかしながら、平面ではない肝臓に装着された磁気センサ21~2nのそれぞれのX,Y,Zの各座標軸方向が、人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向と一致することは殆どなく、ずれた方向となっている。そのため、磁気センサ21~2nのそれぞれのX,Y,Zの各座標軸方向と、人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向とのずれを考慮した校正を、磁気センサ21~2nのそれぞれについて行う必要がある。
【0050】
この実施形態では、手術を実行する前に、磁気センサ21~2nについてのキャリブレーション処理を行い、磁気センサ21~2nのそれぞれについての校正のためのデータ(校正データ)を生成する。そして、生成した校正データを、校正データメモリ307に記憶するようにする。
【0051】
このキャリブレーション処理の一例について説明する。この実施形態では、手術を開始する前に、人工磁場生成装置10による電磁石11~16のコイルに対する電流の供給を停止して、人工磁場を停止する。すると、この状態では、地球磁場のみが、磁気センサ21~2nのそれぞれが肝臓に装着され、手術台2に仰臥している患者1に対して印加されることになる。この地球磁場は、図6で点線で示すように、磁場の強さ及び磁場の方向が同じ平行磁場空間である。図6の例では、患者1の頭部が南を向いていると共に、足が北を向いているとした例である。
【0052】
このとき、磁気センサ21~2nのそれぞれからは、患者の肝臓に対する装着状態に応じた当該地球磁場についての3軸出力が得られる。このときに得られた磁気センサ21~2nのそれぞれの3軸出力は、磁気センサ21~2nの地球磁場の方向に対するずれに対応しており、地球磁場の大きさ及び向きは、既知であるので、地球磁場に基づく校正データを生成することができる。
【0053】
もしも、この地球磁場の方向と、人工磁場生成装置10で生成する人工磁場空間の地球磁場に対応する方向、この例ではY軸方向(患者1の頭部と足とを結ぶ方向)とが一致していれば、このキャリブレーション処理時に得られた磁気センサ21~2nのそれぞれの3軸出力から求められた校正データにより、人工磁場空間とのずれを校正することができるものとなる。
【0054】
しかし、実際的には、手術台2は必ずしも水平とはなっておらず、また、患者1の頭部と足とを結ぶ方向を、南北に一致させることは困難な状況もある。そのため、この実施形態では、予め人工磁場生成装置10で生成する人工磁場空間の3軸方向と、地球磁場の方向とのずれを求めておき、その求めておいたずれを考慮して、キャリブレーション処理により得られた磁気センサ21~2nの3軸出力から、磁気センサ21~2nの出力情報について、人工磁場空間の3軸方向に対するずれを校正するための校正データを生成する。そして、生成した校正データを、校正データメモリ307に記憶しておく。校正データは、磁気センサ21~2n毎に算出され、磁気センサ21~2nのそれぞれの識別情報に対応付けられて、校正データメモリ307に記憶されている。
【0055】
なお、例えば手術室が磁気シールドされている等の理由で、地球磁場が得にくい場合には、人工磁場として、地球磁場と同様に磁場の強さと磁場の方向が同じであるキャリブレーション用の人工磁場空間(平行磁場空間)を生成し、このキャリブレーション用の人工磁場空間において、上述したようなキャリブレーション処理を行うようにしても勿論よい。
【0056】
磁気センサ位置算出部306は、各磁気センサ21~2nの出力情報から、それぞれの磁気センサの位置における磁場の強さと磁場の向きを検出したら、校正データメモリ307の磁気センサ21~2nのそれぞれの校正データにより、検出した磁場の強さと磁場の向きを校正する。そして、各磁気センサ21~2nのそれぞれの校正した磁場の強さと磁場の向きのペアにより、人工磁場空間テーブル情報メモリ305を参照して、対応する人工磁場空間内の位置をそれぞれ検出するようにする。そして、磁気センサ位置算出部306は、算出した磁気センサ21~2nのそれぞれの人工磁場空間内の位置情報を、表示画像生成部308に転送する。
【0057】
表示画像生成部308は、人工磁場生成装置10で生成される人工磁場の3元座標空間に、3D画像情報記憶部304に記憶されている3D画像データから、手術対象部位の例の肝臓の3D画像を描画するようにして、モニター装置32の表示画面に表示するための表示画像情報を生成する。その際に、表示画像生成部308は、3D画像情報記憶部304に記憶されている磁気センサ21~2nのそれぞれの肝臓の3D画像上における装着場所の位置が、磁気センサ位置算出部306で算出された人工磁場空間内の磁気センサ21~2nのそれぞれの位置となるように、肝臓の3D画像の表示画像情報を生成する。
【0058】
そして、表示画像生成部308は、生成した2次元表示画像情報を、モニター装置I/F303を通じてモニター装置32に供給する。したがって、モニター装置32の表示画面に表示される患者1の肝臓の3D画像(2次元表示画像)は、手術台2に仰臥している患者1の手術対象部位の例の肝臓の、その時に人工磁場空間内における存在状態と対応している状態となっている。
【0059】
したがって、医師は、このモニター装置32の表示画面に表示されている手術対象部位の例の肝臓の全体画像を観ながら、内視鏡手術を施すことが可能になり、手術を的確、また、迅速に行えるようになる。
【0060】
そして、この実施形態では、磁気センサ21~2nのそれぞれの出力情報は、手術中においても、常に、制御装置31に供給されており、制御装置31の磁気センサ位置算出部306は、磁気センサ21~2nのそれぞれの人工磁場空間内の位置を検出している。そして、磁気センサ位置算出部306は、常に表示画像生成部308に、磁気センサ21~2nのそれぞれの人工磁場空間内における位置情報を供給している。
【0061】
表示画像生成部308は、この磁気センサ位置算出部306からの磁気センサ21~2nの位置情報に基づいて、肝臓の3D画像の表示画像情報を生成して、モニター装置32に供給し続ける。このため、患者1が動いたり、手術用のメスにより肝臓をカットしたりして、磁気センサ21~2nの位置が人工磁場空間内で移動したときには、モニター装置32の表示画面に表示されている肝臓の3D画像(2次元表示画像)は、その移動に応じて変化する。したがって、患者1が動いて、手術対象部位の例の肝臓の人工磁場空間内における存在状態が変化しても、医師は、モニター装置32の表示画面に表示されている手術対象部位の例の肝臓の画像を観ることで、その変化を検知することができるという顕著な効果を奏する。
【0062】
なお、磁気センサ位置算出部306は、常に、表示画像生成部308に、算出した磁気センサ21~2nの位置情報を供給するのではなく、磁気センサ21~2nのいずれかの位置が、所定の閾値よりも移動したか否か判別し、移動したと判別したときに、磁気センサ21~2nのそれぞれの移動後の位置情報を、表示画像生成部308に供給するようにしてもよい。その場合には、磁気センサ21~2nの位置の移動が検出される前までには、表示画像生成部308は、同じ表示画像情報を、モニター装置32に送出出力付けるだけで良い。なお、磁気センサ21~2nのいずれかが移動したか否かの所定の閾値は、例えば、モニター装置32の表示画面上で動いたことが感得できる程度の距離に対応した値とする。
【0063】
[上述の実施形態の変形例]
<磁気的なノイズの軽減>
上述の実施形態では、人工磁場生成装置10は、固定的な一つの人工磁場空間を生成するようにした。しかし、手術室などの部屋内の人工磁場空間においては、一般的に磁気的なノイズが存在しており、磁気センサ21~2nの出力情報が、そのノイズの影響を受ける。このノイズの影響を軽減する方法の一例を説明する。
【0064】
この例では、手術対象部位を含む人工磁場空間として、互いに異なる複数の人工磁場空間を時分割的に切り替えて生成する。そして、その複数の人工磁場空間のそれぞれの磁気センサ21~2nの出力情報に基づいて、当該人工磁場空間における磁気センサ21~2nの位置を検出する。そして、求めた磁気センサ21~2nのそれぞれの位置を、特定の座標空間における位置に換算し、その換算した磁気センサ21~2nの位置の例えば平均値を求めるようにする。
【0065】
例えば、人工磁場空間が、図2に示したように2個の電磁石12,15により形成される場合、磁気センサ21~2nの位置を検出するタイミングになったら、先ず、図7において点線で示す2個の電磁石12,15により、図2と同様の人工磁場空間を生成して、その人工磁場空間における磁気センサ21~2nの出力情報に基づいて、当該2個の電磁石12,15による人工磁場空間における磁気センサ21~2nのそれぞれの位置を検出する。
【0066】
次に、人工磁場空間を生成する電磁石を、図7において実線で示すように、この例では、2個の電磁石12,15から、2個の電磁石11,14に切り替えて、この2個の電磁石11,14により、図7に示すような、図2の場合とは異なる人工磁場空間を生成する。そして、その生成した人工磁場空間における磁気センサ21~2nの出力情報に基づいて、当該2個の電磁石11,14による人工磁場空間における磁気センサ21~2nのそれぞれの位置を検出する。
【0067】
そして、求めた磁気センサ21~2nのそれぞれの位置を、特定の座標空間における位置として検出する。この特定の座標空間は、各磁気センサ21~2nの位置を、手術対象部位の3D画像における位置として検出するのに都合の良いものとする方が良い。そして、この特定の座標空間における2個の人工磁場空間から得た磁気センサ21~2nの位置の平均値を、求める磁気センサ21~2nの位置とする。
【0068】
この場合に、複数の人工磁場空間が切り替えられる短時間においては、手術対象部位における磁気センサ21~2nの位置は変化しないので、もしも、磁気的なノイズが存在しないとすれば、この特定の座標空間の位置として検出された、異なる人工磁場空間における磁気センサ21~2nの位置は同一となる。しかし、実際的には、磁気的なノイズが存在するので、その2個の人工磁場空間における磁気センサ21~2nの出力情報から算出された位置は、異なる。磁気的なノイズは、2個の人工磁場空間で同一に存在しているので、2個の人工磁場空間における磁気センサ21~2nの位置の平均値を求めれば、磁気的なノイズは1/2になり、軽減される。
【0069】
以上の説明は、2個の人工磁場空間を時分割的に切り替え生成する場合であるが、3個以上のm固であれば、磁気的なノイズは、1/mに更に軽減される。例えば、図7の例であれば、2個の電磁石の組み合わせとして、電磁石12、15、電磁石12、14、電磁石11、14、電磁石11、15のそれぞれの組の合計4組を時分割的に切り替えるようにしてもよい。
【0070】
<人工磁場空間内の位置による感度低下の改善>
手術中は、一般に患者は、手術台2に仰臥している状態であるので、図8(A)に示すように、人工磁場空間を生成する電磁石11~13,電磁石14~16の配置位置は、手術台2の両側の2か所になり易い。すると、図8(A)に示すような磁力線の状況となり、発生磁界の強さと、手術台の平面方向の位置(手術台の中央位置を0とする)との関係を示すと、図8(B)の実線42で示すような特性になる。
【0071】
この図8(B)の特性から分かるように、患者1の手術対象部位の部分では、発生磁界の強さが、手術台の平面方向の位置の変化に関わらず殆ど変化せず、磁気センサ21~2nの位置の検出感度が低下してしまう恐れがある。
【0072】
この問題を改善するために、図9(A)に示すように、手術台2の、仰臥している患者の背中側に、電磁石や永久磁石などの外部磁界発生手段18を設ける。このようにすれば、この外部磁界発生手段18により、図9(B)の実線42で示すように、手術台2の中央位置の近傍においても、発生磁界の強さが、手術台の平面方向の位置の変化に応じて変化するものとなり、磁気センサ21~2nの位置の検出感度が低下してしまうのを回避することができる。
【0073】
[その他の実施形態及び変形例]
上述の実施形態では、磁気センサ21~2nのそれぞれのX,Y,Zの各座標軸方向と、人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向とのずれを考慮した校正を行うために、地球磁場などの平行磁場を用いてキャリブレーション処理を行うようにしたが、キャリブレーション処理は、これに限られるものではない。
【0074】
例えば、磁気センサ21~2nのそれぞれに、人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向に対する磁気センサ21~2nの手術対象部位への装着時のずれ(傾き)を検出するためのジャイロセンサ(磁気ジャイロセンサ)を設けておく。例えば、人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向を、例えばX軸方向及びY軸方向を、手術台2の患者が仰臥する面に平行な方向であって患者の体側方向及び頭部の方向とし、Z軸方向を、手術台2の患者が仰臥する面に垂直な方向とした場合に、磁気センサ21~2nのそれぞれに、ジャイロセンサの機能を搭載する、あるいは、磁気センサ21~2nのそれぞれに、ジャイロセンサを装着するようにする。
【0075】
このようにすれば、磁気センサ21~2nのそれぞれを、手術対象部位に装着したとき、その装着時における人工磁場空間のX,Y,Zの各座標軸方向に対する磁気センサ21~2nの手術対象部位への装着時のずれ(各座標軸に対する傾き)を、それぞれのジャイロセンサにより検出し、その検出したずれ(各座標軸に対する傾き)に基づいて校正データを生成し、校正データメモリ307に記憶するようにする。そして、上述した実施形態と同様に、その校正データメモリ307に記憶されている校正データを用いて、磁気センサ21~2nのそれぞれの出力情報を校正するようにする。
【0076】
この例のように、ジャイロセンサを用いて磁気センサのキャリブレーションを行う場合には、医師が手術中に使用する内視鏡手術用の手術用具に、同様の構成のジャイロセンサ付の磁気センサを装着したものを用いることで、当該手術用具の手術対象部位に対する位置をモニター装置32の表示画面に表示することもできる。
【0077】
図10の例においては、医師3が所持する内視鏡手術用の手術用具4の先端に、ジャイロセンサ付の磁気センサ5が装着されている。そして、その磁気センサ5は、接続ケーブル6を通じて表示制御装置30の制御装置31の入力コネクタ端子部309のコネクタジャック309Jの一つに接続されている。
【0078】
この図10の例では、制御装置31では、磁気センサ21~2nの出力情報を校正データメモリ307に記憶されている校正データを用いて校正して、磁気センサ21~2nの位置を検出し、その検出した位置に基づいて、手術対象部位の3D画像を、モニター装置32の表示画面に表示する。この場合に、校正データメモリ307に記憶される校正データは、前述した平行磁場を用いて取得したものであってもよいし、ジャイロセンサからのずれ(各座標軸に対する傾き)を用いて取得したものであってもよい。
【0079】
そして、制御装置31は、入力コネクタ端子部309のコネクタジャック309Jの一つに接続されている手術用具4に装着されている磁気センサ5の出力情報を、その出力情報に含まれるジャイロセンサ出力を用いて校正することで、当該磁気センサ5の人工磁場空間内の位置を検出し、その検出した位置に基づいて、手術対象部位の3D画像に対する手術用具4の先端位置を、モニター装置32の表示画面に表示する。図10では、矢印ARとして、手術用具4の先端位置を表示している。
【0080】
以上の実施形態の説明においては、磁気センサと表示制御装置30の制御装置31との接続は、ケーブルを通じて行うようにしたが、磁気センサのそれぞれに無線通信機能を搭載すると共に、制御装置31に磁気センサからの出力情報を受信する無線通信機能を備えておくことにより、両者の間を無線で接続するようにすることができる。なお、その場合には、各磁気センサは、自分のセンサを識別するための識別情報を、無線信号に含めて、送信するようにする。制御装置31は、各磁気センサの識別情報と、手術対象部位における装着位置とを対応付けて記憶しておくのは、上述の例と同様である。
【符号の説明】
【0081】
1…患者、2…手術台、3…医師、4…手術用具、5…磁気センサ、10…人工磁場生成装置、11~16…電磁石、21~2n…磁気センサ、30…表示制御装置、31…制御装置、32…モニター装置、33…接続ケーブル、301…制御部、304…3D画像情報記憶部、305…人工磁場空間テーブル情報メモリ、306…磁気センサ位置算出部、307…校正データメモリ、308…表示画像生成部、309…入力コネクタ端子部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10