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特許7016119金属酸化物多孔体、金属酸化物多孔体の製造方法
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  • 特許-金属酸化物多孔体、金属酸化物多孔体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】金属酸化物多孔体、金属酸化物多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/00 20060101AFI20220128BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220128BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220128BHJP
【FI】
C01G45/00
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018009500
(22)【出願日】2018-01-24
(65)【公開番号】P2019127409
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 淳子
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 遼太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 能之
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-531083(JP,A)
【文献】特開2003-261333(JP,A)
【文献】特開2010-158618(JP,A)
【文献】特開2001-354419(JP,A)
【文献】特表2011-518742(JP,A)
【文献】特開2003-200051(JP,A)
【文献】Synthesis of 2D-hexagonally ordered mesoporous niobium and tantalum mixed oxide,J. Mater. Chem.,12,2002年,1480-1483.
【文献】Y. Takahara et al.,Synthesis and application for overall water splitting of transition metal-mixed mesoporous Ta oxide,Solid State Ionics,Elsevier Science B.V.,2002年11月,Vol.151, No.1-4,pp.305-311
【文献】P. Yang et al.,Block Copolymer Templating Syntheses of Mesoporous Metal Oxides with Large Ordering Lengths and Semicrystalline Framework,Chemistry of Materials,米国,American Chemical Society,1999年,Vol.11,pp.2813-2826
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00 - 47/00,49/10-99/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格部と、二次元ヘキサゴナル構造のメソ孔とを有し、
前記骨格部は、マンガンとタンタルとを含む非晶質の酸化物を含有し、
BET比表面積が100m/g以上である金属酸化物多孔体。
【請求項2】
中性ブロック共重合体と水と塩化マンガンと塩化タンタルとがエタノールに溶解したエタノール溶液を調製する、エタノール溶液調製工程と、
前記エタノール溶液中の溶媒と水とを乾燥させて乾燥物を得る乾燥工程と、
前記乾燥物を、酸素を含む雰囲気下、450℃以上600℃以下にて焼成する焼成工程と、を有し、
前記エタノール溶液中の、
前記中性ブロック共重合体の前記エタノールに対する質量比である中性ブロック共重合体/エタノールが0.09以上0.11以下、
前記水の前記エタノールに対する質量比である水/エタノールが0.00より大きく0.015以下、
前記塩化マンガンの前記エタノールに対する質量比である塩化マンガン/エタノールが0.020以上0.030以下、
前記塩化タンタルの前記エタノールに対する質量比である塩化タンタル/エタノールが0.130以上0.190以下である金属酸化物多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記中性ブロック共重合体が、ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖-ポリエチレンオキサイド(EO)鎖-ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖のトリブロックコポリマーである請求項2に記載の金属酸化物多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物多孔体、金属酸化物多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラス構造の材料はその細孔の均一性から、選択性の良い触媒等、種々の物理化学的な機能を有する材料として期待されている。また、多孔質材料のナノ構造の細孔は量子効果を発現するため、メソポーラス構造の材料は、係る観点からも種々の分野で注目されている。
【0003】
メソポーラス構造の材料としてメソポーラス酸化物があるが、メソポーラス酸化物はシリカを中心に開発が行われてきた。メソポーラスシリカは高表面積であることから、様々なガス、液体および毒性重金属の吸着に有効である。メソポーラスシリカ等のメソポーラス構造の材料を吸着剤として利用する場合、例えば水からの汚染物質の除去や、二酸化炭素や水素、酸素、メタン、二酸化硫黄などのガス吸着、生体物質や医薬品の分離などに利用されている。しかし、メソポーラスシリカは、物質がシリカであるために触媒作用などの機能はない。
【0004】
一方、遷移金属酸化物の粉末は様々な触媒特性を有するものが多い。遷移金属酸化物は、ルイス酸点、ルイス塩基点、ブレンステッド酸点、ブレンステッド塩基点を有しており、様々な触媒機能を発揮する活性点となっている。しかし、その性能の多くは粉末の表面積に大きく依存する。一般に、酸化物の表面積が大きいほど、これらの活性点は多くなり、単位質量当たりの触媒機能は高くなるため価値は高くなる。
【0005】
そこで、非シリカ系メソポーラス酸化物についても検討が行われてきた。
【0006】
例えば特許文献1には、少なくともテンプレート剤が存在する有機溶媒の溶液にドープする金属の酸化物を添加し、前記添加した溶液を撹拌して前記金属酸化物を均一に分散させ、前記分散液にゾル-ゲル法によりメソポーラス構造酸化物を形成する遷移金属化合物またはメソポーラス構造酸化物を形成する遷移金属化合物および酸を加え前記ドープ金属酸化物を可溶化する酸性条件にする工程を含むことを特徴とするゾル-ゲル法により前記金属酸化物由来の金属を原子レベルの均一性で存在させた金属ドープ型メソポーラス遷移金属酸化物の合成方法が提案されている。特許文献1では、Feドープメソポーラス酸化ニオブを調製した例等が開示されている。
【0007】
特許文献2には、光導波路の表層に設置された光増幅層の表面を、メソポーラス金属酸化物薄膜で被覆したことを特徴とするメソポーラス金属酸化物複合光導波路センサーが提案されている。特許文献2では、メソポーラス金属酸化物WOを調製した例等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-250277号公報
【文献】特開2006-098284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2等において提案されているように、非シリカ系の、遷移金属酸化物を含むメソポーラス構造を有する材料について各種検討がなされてきた。
【0010】
しかしながら、近年ではメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体について、触媒だけではなく、ナノデバイス等の各種用途に用いることが検討されている。そして、構造規則性に優れた金属酸化物多孔体が求められていた。
【0011】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の一側面では、
骨格部と、二次元ヘキサゴナル構造のメソ孔とを有し、
前記骨格部は、マンガンとタンタルとを含む非晶質の酸化物を含有し、
BET比表面積が100m/g以上である金属酸化物多孔体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】二次元ヘキサゴナル構造の説明図。
図2】実施例2で得られた金属酸化物多孔体のTEM観察画像。
図3】比較例1で得られた試料のTEM観察画像。
図4】比較例2で得られた試料のTEM観察画像。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[金属酸化物多孔体]
以下、本実施形態の金属酸化物多孔体について説明する。
【0016】
本実施形態の金属酸化物多孔体は、骨格部と、二次元ヘキサゴナル構造のメソ孔とを有し、骨格部は、マンガンとタンタルとを含む非晶質の酸化物を含有し、BET比表面積は100m/g以上とすることができる。
【0017】
本実施形態の金属酸化物多孔体は、骨格部と、二次元ヘキサゴナル構造のメソ孔とを有することができる。
【0018】
本実施形態の金属酸化物多孔体の骨格部は、マンガンとタンタルとを含む非晶質の酸化物を含有することができる。なお、本実施形態の金属酸化物多孔体の骨格部は、マンガンとタンタルとを含む非晶質の酸化物から構成することもできる。本発明の発明者らの検討によれば、従来検討されていなかったマンガンとタンタルとを含む非晶質の酸化物を含有する骨格部を備えた金属酸化物多孔体とすることで、二次元ヘキサゴナル構造のメソ孔を形成し易くなる。このため、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体とすることができる。
【0019】
なお、本実施形態の金属酸化物多孔体について、例えば透過型電子顕微鏡を用いた電子線回折を測定した場合に、骨格部に含まれる酸化物がハローパターンを示すことで、マンガンとタンタルとを含む酸化物が非晶質であることを確認することができる。
【0020】
二次元ヘキサゴナル構造は、メソ孔が、メソ孔の長手方向と垂直な断面において、ヘキサゴナル状に配列した構造をいう。図1に、メソ孔11の長手方向と垂直な断面を模式的に示した図を示す。二次元ヘキサゴナル構造は、図1に示す様にメソ孔11が、ヘキサゴナル状、すなわち点線12で示した六角形状に規則配置された構造を意味する。二次元へキサゴナル構造を有することで、比表面積が大きく、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体とすることができる。
【0021】
なお、金属酸化物多孔体について、低角X線回折測定を行い、メソ孔の規則配列の骨格構造に起因した回折ピークの有無により、二次元ヘキサゴナル構造を有するかを判定することができる。また、透過型電子顕微鏡を用いた観察等によっても、金属酸化物多孔体のメソ孔が二次元ヘキサゴナル構造を有するかを判定することができる。
【0022】
そして、本実施形態の金属酸化物多孔体は、BET比表面積が100m/g以上であることが好ましい。これはBET比表面積を100m/g以上とすることで、例えば触媒や、ナノデバイス等の各種用途において特に優れた特性を発揮することができるからである。
【0023】
BET比表面積は大きいほど好ましいことからその上限は特に限定されないが、例えば200m/g以下とすることが、金属酸化物多孔体の機械的強度を発揮する観点から好ましい。
【0024】
BET比表面積は、例えば窒素吸着法による吸脱着等温線測定を行い、等温線から算出することができる。なお、窒素吸着法による吸脱着等温線がIUPACのIV型に帰属される形状を有することで、測定に供した金属酸化物多孔体がメソ孔を有することを確認することもできる。
【0025】
以上に説明した本実施形態の金属酸化物多孔体によれば、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体とすることができる。
[金属酸化物多孔体の製造方法]
次に、本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法について説明する。なお、本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法により、既述の金属酸化物多孔体を製造することができる。このため、既に説明した事項の一部については説明を省略する。
【0026】
本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0027】
中性ブロック共重合体と水と塩化マンガンと塩化タンタルとがエタノールに溶解したエタノール溶液を調製する、エタノール溶液調製工程。
前記エタノール溶液中の溶媒と水とを乾燥させて乾燥物を得る乾燥工程。
前記乾燥物を、酸素を含む雰囲気下、450℃以上600℃以下にて焼成する焼成工程。
そして、エタノール溶液調製工程で調製するエタノール溶液中の各成分は、以下の割合を充足することが好ましい。
【0028】
中性ブロック共重合体のエタノールに対する質量比である中性ブロック共重合体/エタノールが0.09以上0.11以下。
水のエタノールに対する質量比である水/エタノールが0.00以上0.015以下。
塩化マンガンのエタノールに対する質量比である塩化マンガン/エタノールが0.020以上0.030以下。
塩化タンタルのエタノールに対する質量比である塩化タンタル/エタノールが0.130以上0.190以下。
【0029】
本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法では、ゾル-ゲル法により、メソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体、具体的には骨格部と、二次元ヘキサゴナル構造のメソ孔とを有する金属酸化物多孔体を製造することができる。
【0030】
従来から、メソポーラス構造遷移金属酸化物などの合成にゾル-ゲル法は用いられていた。従来のメソポーラス構造遷移金属酸化物の合成において使用される基本材料としては、例えばゲル化の過程で自己組織化し、メソポーラス構造遷移金属酸化物の、メソポーラス構造の鋳型となる界面活性剤、特に中性ブロック共重合体のようなテンプレート剤が挙げられる。また、テンプレート剤を溶解する有機溶媒、特にアルコール類、及びメソポーラス構造遷移金属酸化物を形成する遷移金属の塩、例えば塩化物、酸化物、硝酸塩、アルコキシドなどが挙げられる。
【0031】
しかしながら、従来のメソポーラス構造遷移金属酸化物の製造方法では、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体を製造することは困難であった。
【0032】
そこで、本発明の発明者らは鋭意検討を行い、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体を製造できる金属酸化物多孔体の製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0033】
以下、本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法の反応メカニズムについて説明しつつ、各工程について詳述する。
【0034】
エタノール溶液調製工程では、金属酸化物多孔体の原料となる成分を混合し、エタノール溶液を調製することができる。具体的には、エタノール溶液調製工程では、エタノールに、中性ブロック共重合体と、水と、塩化マンガンと、塩化タンタルとを混合し、エタノール溶液を調製できる。なお、エタノールや、金属塩に水分が含まれている場合があるため、エタノール等に含まれている水分により十分な量の水を供給できる場合には、エタノール溶液を調製する際に水を添加しないこともできる。
【0035】
エタノール溶液調製工程において調製したエタノール溶液を、乾燥工程において乾燥させ、溶媒と水を乾燥させていくと、中性ブロック共重合体はミセルを形成し、ロッド状に配列する。ロッド状に配列したミセルは、分子間力で引き合って二次元ヘキサゴナル構造に規則配列する。
【0036】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、タンタル源として塩化タンタルを用いることで、上述の様にロッド状に配列したミセルが二次元ヘキサゴナル構造に規則配列することができる。このため、本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法によれば、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体を再現性よく製造できる。
【0037】
また、エタノール溶液に含まれる塩化マンガンと塩化タンタルとは、エタノール溶液に溶解した時点で塩酸を発生し、塩化物イオンの一つがエトキシドに置換され、金属化合物モノマーとなる。本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法において、マンガン源に塩化マンガンを用いているのはこのように金属化合物モノマーを得るためである。そして、エタノール溶液調製工程や、後述する乾燥工程において熟成されている間に、金属化合物モノマーは少量の水によって加水分解され、さらに加水分解によってモノマーに生じた水酸基同士が脱水縮合してモノマー間での架橋反応が起こる。以上の加水分解と、脱水縮合が繰り返されることで無機相が形成される。
【0038】
このように、エタノール溶液内での有機相であるミセルの形成、自己組織化、すなわち二次元ヘキサゴナル構造の配列の形成と、無機相の形成とのタイミングが合致することで、無機相のマトリックスの中に自己組織化された有機相が含まれる状態となる。
【0039】
そして、後述する乾燥工程により、上記形態を維持した乾燥物が得られ、さらに後述する焼成工程を実施することで有機相が焼き飛ばされ、無機相がその形を維持して非晶質(アモルファス)酸化物となる。このため、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体とすることができる。
【0040】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、エタノール溶液中の各成分がエタノールに対して所定の割合で含まれていることが、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体を得る上で重要である。
【0041】
具体的には、上述の様に、中性ブロック共重合体のエタノールに対する質量比、すなわちエタノール溶液に添加した中性ブロック共重合体の質量割合をエタノールの質量割合で除した値である中性ブロック共重合体/エタノールが0.09以上0.11以下であることが好ましい。
【0042】
これは、中性ブロック共重合体/エタノールを0.09以上とすることで、無機相に対する有機相の割合を十分に大きくすることができ、隣り合うロッド状のミセル間の距離の分子間力を十分に働かせ、二次元ヘキサゴナル構造に自己配列できるからである。なお、中性ブロック共重合体/エタノールを0.09未満とした場合、メソ孔は形成されるが二次元ヘキサゴナル構造を有しない金属酸化物多孔体が形成される場合あり、好ましくない。
【0043】
また、中性ブロック共重合体/エタノールの質量比を0.11以下とすることで、二次元ヘキサゴナル構造に自己配列したロッド状のミセル間に十分な量の無機相を供給することができ、所望の骨格構造を有する金属酸化物多孔体とすることができる。
【0044】
また、水のエタノールに対する質量比、すなわちエタノール溶液に添加した水の質量割合をエタノールの質量割合で除した値である水/エタノールが0.00以上0.015以下であることが好ましい。
【0045】
これは、水/エタノールを0.015以下とすることで、塩化物イオンの一つについて、水酸化物の生成を抑制し、より確実にエトキシドに置換し、金属化合物モノマーを得ることができるためである。このため、ロッド状のミセル間に十分な量の無機相を供給し、メソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体とすることができる。なお、水/エタノールが0.015を超えると、メソ孔が形成されずに通常のナノ粒子の集合体しか形成されない場合があり好ましくない。
【0046】
なお、水はエタノール溶液を調製する際に添加した水に限られず、例えばエタノールに含まれる水や、金属塩に含まれる水分を含めて、水/エタノールが上記範囲を満たすことが好ましい。
【0047】
塩化マンガンのエタノールに対する質量比、すなわちエタノール溶液に添加した塩化マンガンの質量割合をエタノールの質量割合で除した値である塩化マンガン/エタノールは0.020以上0.030以下であることが好ましい。また、塩化タンタルのエタノールに対する質量比、すなわちエタノール溶液に添加した塩化タンタルの質量割合をエタノールの質量割合で除した値である塩化タンタル/エタノールが0.130以上0.190以下であることが好ましい。
【0048】
これは、塩化マンガン/エタノールを0.020以上、塩化タンタル/エタノールを0.130以上とすることで、配列したロッド状ミセル間に十分な量の無機相を供給することができる。このため、焼成工程後に、骨格構造が維持できずにメソ孔が形成されず、通常のナノ粒子の集合体となることをより確実に防ぐことができる。
【0049】
塩化マンガン/エタノールを0.030以下、塩化タンタル/エタノールを0.190以下とすることで、有機相に対する無機相の割合が過剰に大きくなることを防ぎ、隣り合うロッド状のミセル間の距離の分子間力を十分に働かせ、二次元ヘキサゴナル構造に自己配列できるからである。このため、焼成工程後に、メソ孔は形成されるが二次元ヘキサゴナル構造が得られない金属酸化物多孔体となることを確実に防ぐことができる。
【0050】
中性ブロック共重合体としては特に限定されないが、ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖-ポリエチレンオキサイド(EO)鎖-ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖のトリブロックコポリマー((PO)(EO)(PO))であることが好ましい。
【0051】
なお、ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖は、(CHCH(CH)O)で表され、「PO」とも記載する。また、ポリエチレンオキサイド(EO)鎖は、(CHCHO)で表され、「EO」とも記載する。
【0052】
上記式中のx、yは特に限定されないが、xは5以上110以下であることが好ましく15以上20以下であることがより好ましい。また、yは15以上70以下であることが好ましく、50以上70以下であることがより好ましい。
【0053】
このようなトリブロックコポリマーとしては、例えば、(EO)(PO)70(EO)、(EO)13(PO)30(EO)13、(EO)20(PO)30(EO)20、(EO)26(PO)39(EO)26、(EO)17(PO)56(EO)17、(EO)17(PO)58(EO)17、(EO)20(PO)70(EO)20、(EO)80(PO)30(EO)80等が挙げられる。特に(EO)20(PO)70(EO)20を好ましく用いることができる。
【0054】
そして、本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法では、さらに乾燥工程、焼成工程を実施することができる。
【0055】
乾燥工程ではエタノール溶液中の溶媒と水とを乾燥させて乾燥物を得ることができる。なお、溶媒としてはエタノール等が挙げられる。
【0056】
この際の乾燥条件は特に限定されないが、特に得られる金属酸化物多孔体の構造規則性を高める観点から、急激に乾燥を進行させないことが好ましい。このため、乾燥工程における乾燥は、例えば20℃以上80℃以下の環境下で実施することが好ましい。また、エタノール溶液を入れた容器の開口部にラップ等の蓋を配置し、該蓋部に孔を複数開けて、乾燥速度を調整することが好ましい。
【0057】
焼成工程では、乾燥工程で得られた乾燥物を、酸素を含む雰囲気下、例えば大気雰囲気下、450℃以上600℃以下にて焼成することができる。
【0058】
以上に説明した本実施形態の金属酸化物多孔体の製造方法によれば、所定のエタノール溶液を用いることにより、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体を、再現性良く安定して製造することができる。
【実施例
【0059】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法について)
以下の実施例、比較例で作製した試料について以下の評価を行った。
(1)窒素吸脱着等温線の形、BET比表面積
各実施例、比較例で作製した試料について、比表面積・細孔分布測定装置(Beckman Coulter社製 型式:SA3100)を用いて、窒素吸着法による吸脱着等温線測定を行い、等温線がメソポーラス構造を有している場合に見られるIUPACのIV型の形を有しているか調べた。IUPACのIV型の形を有していた場合には、表1の「窒素吸脱着等温線の形」の欄に「IUPACのIV型」と記載し、それ以外の場合には×と記載している。なお、IUPACのIV型の形を有する場合には、該試料はメソ孔を有することになる。
【0060】
また、この際得られた等温線からBET法による比表面積を見積もった。表1には「BET比表面積」の欄に評価結果を記載している。
(2)メソ孔の規則配列の骨格構造に起因した低角X線回折ピークの有無
各実施例、比較例で作製した試料について、X線回折装置(Rigaku社製 型式:RINT2100、CuKα線)を用いて低角X線回折測定を行い、メソ孔の規則配列の骨格構造に起因した回折ピークの有無を調べた。係る回折ピークが観察された場合には、メソ孔が二次元ヘキサゴナル構造を有していることになる。このため、表2において「メソ孔の規則配列の骨格構造に起因した低角X線回折ピークの有無」の欄が「有」となっている試料は、メソ孔が二次元ヘキサゴナル構造を有していることになる。該欄が「無」となっている試料は、メソ孔の規則配列の骨格構造に起因した回折ピークが確認できず、二次元ヘキサゴナル構造に配置されたメソ孔を有さないことになる。
(3)TEM観察による二次元ヘキサゴナル構造を有するメソ孔の有無
各実施例、比較例で得られた試料について、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)(日本電子社製 型式:JEOL JEM2010)によるメソ孔形成の観察も行った。表2において「TEM観察による二次元ヘキサゴナル構造を有するメソ孔の有無」が「有」となっている試料は、TEMで観察した場合に、メソ孔が二次元ヘキサゴナル構造を有していることを確認できたことを意味する。該欄が「無」となっている試料は、TEM観察した場合に二次元ヘキサゴナル構造を有していることを確認できず、二次元ヘキサゴナル構造に配置されたメソ孔を有さないことになる。
【0061】
また、電子線回折から、全ての酸化物はハローパターンを示したことから、非晶質構造を有していることを確認した。
[実施例1]
以下の手順により、金属酸化物多孔体の製造、評価を行った。
【0062】
テフロン(登録商標)製ビーカーに溶媒としてエタノール(超脱水、99.5%)を10g秤取した。次いで、上記エタノールに、HO(CHCHO)20(CHCH(CH)O)70(CHCHO)20Hで表される中性ブロック共重合体P123(アルドリッチ社製)1gを入れてマグネチックスターラーにて撹拌して完全に溶解させた。
【0063】
そして、エタノールに中性ブロック共重合体を溶解させた溶液に、塩化マンガンと塩化タンタル(高純度化学社製)を添加して撹拌して完全に溶解させてエタノール溶液を調製した(エタノール溶液調製工程)。
【0064】
なお塩化マンガンには、塩化マンガン(II)無水物(STREM CHEMICALS, INC)を用いた。
【0065】
エタノール溶液中の中性ブロック共重合体、水、塩化マンガン、塩化タンタルのエタノールに対する質量比、具体的には中性ブロック共重合体/エタノール、水/エタノール、塩化マンガン/エタノール、塩化タンタル/エタノールを表1に示す。表1中の水/エタノールを算出する際の水の量は、エタノール中の水に由来している。なお、エタノール中の水は、純度から算出しており、0.5%として計算を行っている。
【0066】
調製したエタノール溶液を直径100mmのビーカーに移し、適度に溶媒が揮発するよう針で均等に20箇所だけ小穴を開けたラップで覆い、40℃の恒温槽に入れて1週間、乾燥させた(乾燥工程)。
【0067】
乾燥工程で得られた乾燥物をシャーレから剥がし取り、坩堝に入れて電気炉にセットし、大気中にて550℃で30時間加熱、焼成して酸化物を得た(焼成工程)。
【0068】
この酸化物に対し、既述の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0069】
また、得られた金属酸化物多孔体についてICP発光分析装置(島津製作所製 型式:ICPS-800)を用い、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光法で定量分析し、マンガンとタンタルはほぼ仕込み通りの組成比になっていることを確認した。
[実施例2~実施例5]
エタノール溶液調製工程において、各原料の質量比が表1に示した値となるようにした点以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物多孔体を調製し、既述の評価を行った。
【0070】
なお、実施例3では、塩化マンガンとして、塩化マンガン(II)無水物に替えて、塩化マンガン(II)四水和物(特級、和光純薬工業株式会社)を用いた。このため、水/エタノールを算出する際の水の量は、エタノール中の水と、塩化マンガン(II)四水和物に由来する水とを合算して算出している。
【0071】
評価結果を表2に示す。
【0072】
また、得られた金属酸化物多孔体についてICP発光分光法で定量分析し、マンガンとタンタルはほぼ仕込み通りの組成比になっていることを確認した。
[比較例1~比較例5]
エタノール溶液調製工程において、各原料の質量比が表1に示した値となるようにした点以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物多孔体を調製し、既述の評価を行った。
【0073】
なお、比較例3では、塩化マンガンとして、塩化マンガン(II)無水物(STREM CHEMICALS, INC)に替えて、塩化マンガン(II)四水和物(特級、和光純薬工業株式会社)を用い、イオン交換水を滴下してエタノール溶液を調整した。このため、水/エタノールを算出する際の水の量は、エタノール中の水と、塩化マンガン(II)四水和物に由来する水と、滴下したイオン交換水とを合算して算出している。
【0074】
評価結果を表2に示す。
【0075】
また、得られた金属酸化物多孔体についてICP発光分光法で定量分析し、マンガンとタンタルはほぼ仕込み通りの組成比になっていることを確認した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
表2に示したように、実施例1~実施例5では、骨格部と、二次元ヘキサゴナル構造のメソ孔とを有し、骨格部は、マンガンとタンタルとを含む非晶質の酸化物を含有し、BET比表面積が100m/g以上である金属酸化物多孔体を得られることが確認できた。
【0078】
これはエタノール溶液内の各成分を所定の質量比となるように混合することで、エタノール溶液内で、有機相であるミセルの形成、自己組織化、すなわち二次元ヘキサゴナル構造配列の形成が生じ、有機相間に十分な無機相を供給できたためと考えられる。そして、乾燥工程により、上記形態を維持した乾燥物が得られ、さらに焼成工程を実施することで有機相が焼き飛ばされ、無機相がその形を維持して非晶質(アモルファス)酸化物となったため、構造規則性に優れたメソポーラス構造を有する金属酸化物多孔体とすることができたと考えられる。
【0079】
また、TEM観察の結果から、実施例1~実施例5では、細孔径は約3.9nm~4.5nm、壁の厚みが3.3nm~3.8nmの二次元ヘキサゴナル構造のメソ孔が形成されていることも確認できた。
【0080】
TEM写真の例として図2に、実施例2のTEM写真を示す。図2に示すように、メソ孔21が二次元ヘキサゴナル構造となるように配列された、構造規則性に優れたメソポーラス金属酸化物多孔体が得られていることを確認できた。なお、ここでは、実施例2のTEM画像のみを示しているが、他の実施例1、実施例3~5においても同様の構造を有することが確認できている。
【0081】
一方比較例1は、メソ孔は形成されていたが二次元ヘキサゴナル構造は見られなかった。これはエタノール溶液中の金属塩化物の質量割合が多かったためであり、界面活性剤のミセルが分子間力によって規則配列しなかったことによると考えられる。
【0082】
比較例1で得られた試料のTEM観察画像を図3に示す。図3に示すようにメソ孔は確認されるものの、構造規則性は確認できなかった。
【0083】
比較例2は窒素吸脱着等温線の形がIUPACのIV型ではなくメソ孔が形成されてない。これはエタノール溶液中の金属塩化物の質量割合が小さかったことから、焼成時にミセルが焼き飛ばされたときに無機相の骨格が消失してしまったことによるものと考えられる。
【0084】
比較例2で得られた試料のTEM観察画像を図4に示す。
【0085】
比較例3で得られた試料は、比表面積が小さく窒素吸脱着等温線の形がIUPACのIV型ではなかった。これはエタノール溶液中の水の量が多かったため、金属塩化物の加水分解が早すぎて、水酸化物の沈殿が生成されてしまったことによるものと考えられる。
【0086】
比較例4で得られた試料はIUPACのIV型の窒素吸脱着等温線が得られており、メソ孔が形成されていることが確認できた。しかしながら、低角X線回折、TEM観察結果から、メソ孔が二次元ヘキサゴナル構造に配列していないことが確認できた。これは、エタノール溶液中の中性ブロック共重合体の質量割合が小さく、相対的に金属塩化物量の質量割合が大きかったことにより、界面活性剤のミセルが分子間力によって規則配列しなかったことによるものと考えらえる。
【0087】
比較例5で得られた試料は、窒素吸脱着等温線の形がIUPACのIV型ではなくメソ孔が形成されてないことが確認できた。これは、エタノール溶液中の中性ブロック共重合体の質量割合が大きすぎ、相対的に金属塩化物の質量割合が小さすぎて、焼成時にミセルが焼き飛ばされたときに無機相の骨格が消失してしまったことによるものと思われる。
【符号の説明】
【0088】
11、21 メソ孔
図1
図2
図3
図4