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特許7016962ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された射出成形品
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  • 特許-ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された射出成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された射出成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20220131BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220131BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220131BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20220131BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K3/013
C08K3/22
C08K5/053
C08K7/14
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020536876
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 KR2019015566
(87)【国際公開番号】W WO2020130365
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】10-2018-0164012
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヒョン-チン
(72)【発明者】
【氏名】ハム、ミョン-チョ
(72)【発明者】
【氏名】キム、スンイン
(72)【発明者】
【氏名】イ、オン-ソク
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/130972(WO,A1)
【文献】特開2006-233101(JP,A)
【文献】特開2008-266616(JP,A)
【文献】特開2004-091685(JP,A)
【文献】特表2017-512853(JP,A)
【文献】特開2014-074161(JP,A)
【文献】特開2018-053334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリフェニレンスルフィド樹脂を95重量%以上含むベース樹脂25~75重量%と、b)LDS添加剤0.1~10重量%と、c)めっきシード生成促進剤0.1~5重量%と、d)ガラス繊維10~60重量%と、e)ミネラル充填剤0~40重量%とを含み、
前記b)LDS添加剤は、Cu(Cr,Mn) 2 4 であり、
前記c)めっきシード生成促進剤は、ヒドロキシ基を4個以上含有するエーテルポリオールであることを特徴とする、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記d)ガラス繊維は、エポキシシラン系化合物で表面処理されたガラス繊維であることを特徴とする、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記d)ガラス繊維は、平均直径が5~20μmであり、平均長さが1~10mmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記e)ミネラル充填剤は5~40重量%であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記e)ミネラル充填剤は、ガラスビーズ、カオリン、タルク、マイカ、粘土、炭酸カルシウム、カルシウムシリケート、シリコンカーバイド、アルミニウムオキシド及びマグネシウムオキシドからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記a)ポリフェニレンスルフィド樹脂はリニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、難燃剤;酸化防止剤;光安定剤;鎖延長剤;反応触媒;離型剤;顔料;染料;帯電防止剤;抗菌剤;加工助剤;金属不活性化剤;フッ素系滴下防止剤;ガラス繊維とミネラル充填剤を除いた無機充填剤;及び耐摩擦耐摩耗剤;からなる群から選択された1種以上を0.1~5重量%含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
a)ポリフェニレンスルフィド樹脂を95重量%以上含むベース樹脂25~75重量%と、b)LDS添加剤0.1~10重量%と、c)めっきシード生成促進剤0.1~5重量%と、d)ガラス繊維10~60重量%と、e)ミネラル充填剤0~40重量%とを溶融混練及び押出するステップを含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含むことを特徴とする、射出成形品。
【請求項10】
前記射出成形品は導電性パターン層を含むことを特徴とする、請求項に記載の射出成形品。
【請求項11】
前記射出成形品は内蔵アンテナであることを特徴とする、請求項10に記載の射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2018年12月18日付の韓国特許出願第10-2018-0164012号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された射出成形品に関し、より詳細には、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の耐熱性、難燃性及び寸法安定性が低下せず、しかも、めっき密着力及びめっき精度などに優れ、誘電損失率が低いLDS用ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された射出成形品に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、レーザー直接構造化(以下、「LDS」という)技術が注目されている。このようなLDS技術は、LDS添加剤を含む射出成形品の表面にレーザーを照射して活性化させた後、活性化された部分にめっきを施して導電性パターン層を形成する技術である。
【0004】
前記射出成形品は、通常、熱可塑性樹脂とLDS添加剤とを混合し、押出工程及び射出工程を経て製造され、レーザーでパターニング(patterning)された領域にのみめっきシードが形成されて、めっきが施され、最終製品はアンテナあるいは回路などとして使用される。
【0005】
前記熱可塑性樹脂として汎用エンジニアリングプラスチックを適用する場合、高温での製品の使用時に、変形などの問題により、めっきされた部分に容易に途切れ現象が発生してしまい、その機能が失われるという問題がある。
【0006】
また、前記熱可塑性樹脂としての耐熱性などに優れるポリフェニレンスルフィド樹脂は、スルホン基によるめっきシードの形成の妨げにより、LDS素材として開発するのに多くの制約がある。このような問題を解決するために、ポリフェニレンスルフィド樹脂をポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、液晶高分子などの他の樹脂と混合してアロイ素材を開発したが、このようなアロイ素材は、めっきシードは形成されるが、ポリフェニレンスルフィド樹脂固有の特性が大きく低下し、誘電損失率が高くなるという問題がある。また、周辺温度が大きく変化すると、樹脂間のガラス転移温度、溶融温度及び収縮率の差により変形してしまい、めっき部の途切れ現象が発生するという問題がある。
【0007】
したがって、ポリフェニレンスルフィド樹脂本来の特性が妨げられないと共に、めっきシードの生成が良好に行われ、めっき部の途切れ現象が発生しないLDS素材の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第2017-0024455号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の耐熱性、難燃性及び寸法安定性などが低下せず、しかも、めっき密着力及びめっき精度に優れ、誘電損失率が低いLDS用ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された射出成形品を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の上記目的及びその他の目的は、以下で説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、a)ポリフェニレンスルフィド樹脂を95重量%以上含むベース樹脂25~75重量%と、b)LDS添加剤0.1~10重量%と、c)めっきシード生成促進剤0.1~5重量%と、d)ガラス繊維10~60重量%と、e)ミネラル充填剤0~40重量%とを含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、a)ポリフェニレンスルフィド樹脂を95重量%以上含むベース樹脂25~75重量%と、b)LDS添加剤0.1~10重量%と、c)めっきシード生成促進剤0.1~5重量%と、d)ガラス繊維10~60重量%と、e)ミネラル充填剤0~40重量%とを含んで溶融混練及び押出するステップを含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含む射出成形品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の耐熱性、難燃性及び寸法安定性などが低下せず、しかも、めっき密着力及びめっき精度などに優れ、異種の樹脂を含まないか又は少量含むことで、めっき部の途切れ現象が発生せず、誘電損失率が低い、LDS用ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された射出成形品を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーザー直接構造化(LDS)技術によって射出成形品の表面にめっきが形成される工程を概略的に示す工程図である。
図2】実施例において、“◎:めっきされる、○:一部めっきされる、X:めっきされない”と評価された基板をそれぞれ1つずつ撮影した写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された射出成形品を詳細に説明する。
【0017】
本発明者らは、LDS用樹脂として汎用エンジニアリングプラスチックを採択する場合、高温での使用時に、変形などの問題により、めっきされた部分に途切れ現象が発生してしまい、その機能が失われ、このような問題を解決するために、耐熱性の良いポリフェニレンスルフィド樹脂を採択する場合、そのスルホン基がめっきシードの形成を妨げ、めっきが良好に施されないか、またはポリフェニレンスルフィド樹脂固有の特性が低下するという問題が発生し、これを解決するために鋭意研究した結果、ポリフェニレンスルフィド樹脂を95%以上含むベース樹脂に、所定のLDS添加剤、めっきシード生成促進剤及びガラス繊維などを一定の組成比で混合する場合、上記のような問題が全て解決されることを確認し、さらに研究に邁進して本発明を完成するようになった。
【0018】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、a)ポリフェニレンスルフィド樹脂を95重量%以上含むベース樹脂25~75重量%と、b)LDS添加剤0.1~10重量%と、c)めっきシード生成促進剤0.1~5重量%と、d)ガラス繊維10~60重量%と、e)ミネラル充填剤0~40重量%とを含むことを特徴とする。このような場合に、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の耐熱性、難燃性及び寸法安定性などが低下せず、しかも、めっき密着力及びめっき精度などに優れ、誘電損失率が低く、周辺温度の変化にもめっき部の途切れ現象がないLDS用ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供することができる。
【0019】
以下、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を構成する各成分をそれぞれ詳細に説明すると、次の通りである。
【0020】
<a)ベース樹脂>
本発明に係るベース樹脂は、一例として、ポリフェニレンスルフィド樹脂を95重量%以上含むことができ、好ましくは98重量%以上含むものであり、より好ましくは、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量%からなるものであり、このような場合に、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の特性が良好に発現され、誘電損失率が低く、周辺温度の変化にもめっき部の途切れ現象がないという利点がある。
【0021】
前記ベース樹脂は、一例として、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に対して25~75重量%、40~70重量%、50~60重量%、または52~56重量%含まれてもよく、この範囲内で、ポリフェニレンスルフィド樹脂本来の優れた耐熱性、機械的物性などを維持しながらも、めっき性、めっき密着性、めっき精度などに優れるという効果がある。
【0022】
前記a)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、一例として、リニア型(linear type)または架橋型(branched type;cross linked type)ポリフェニレンスルフィド樹脂であってもよく、好ましくはリニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂であり、この場合に、めっき性がより優れるという効果がある。
【0023】
前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂は、一例として、重合過程中に加熱硬化(heat curing)工程を経て製造されてもよく、前記リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂は、架橋型とは異なり、加熱硬化工程を経ずに重合反応の改善を通じて製造されてもよい。但し、前記リニア型又は架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂はそれぞれ、一般的に本発明の属する技術分野でリニア型又は架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂と称されるものであれば、特に制限されない。
【0024】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融指数は、一例として、ASTM D1238に従い、315℃/5kgで100~2,000g/10min、250~1,850g/10min、または350~1,750g/10minであってもよく、この範囲内で、耐熱性や機械的物性のみならず、めっき性、めっき密着性、めっき精度などがいずれも優れるという効果がある。
【0025】
前記ベース樹脂は、一例として、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、サーモトロピック液晶高分子、ポリエーテルイミド、及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選択された1種以上を、必要に応じて、前記ベース樹脂の残量として含むことができる。
【0026】
前記ポリスチレンは、一例として、シンジオタクチックポリスチレンであってもよい。
【0027】
<b)LDS添加剤>
ポリフェニレンスルフィド樹脂内のLDS添加剤がレーザーに露出される場合、金属元素が放出または活性化されて金属核が形成される。このような金属核は、レーザーのような電磁波が照射された領域に微細なサイズで埋め込まれ、めっき工程において結晶成長に対するシード(seed)として作用する。
【0028】
前記めっき工程は、一般的にLDS用樹脂成形品に適用可能なめっき工程であれば、特に制限されないが、一例として、銅めっき、金めっき、ニッケルめっき、銀めっき、亜鉛めっき、または錫めっきなどの工程であってもよい。
【0029】
本発明に係るLDS添加剤は、一般的にLDS添加剤として使用される金属化合物であれば、特に制限されないが、好ましくは、銅を含む酸化物であってもよく、より好ましくは、銅とクロムを含むスピネル構造の酸化物であってもよく、この場合に、ポリフェニレンスルフィド樹脂固有の特性を阻害しないながらも、めっき特性に優れるという効果がある。
【0030】
前記銅とクロムを含む酸化物は、一例として、Sb、Pb、Ni、Fe、Sn、Mn、Ag、Au及びCoからなる群から選択された1種以上の金属をさらに含むことができ、より好ましくは、Mnを含むCu(Cr,Mn)24タイプの化合物であってもよく、このような場合に、レーザー敏感性が増大して金属核の形成が促進されるという効果がある。
【0031】
前記LDS添加剤は、一例として、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に対して0.1~10重量%、1~10重量%、2~8重量%、または3~7重量%含まれてもよく、この範囲内で、ベース樹脂固有の特性を阻害しないと共に、レーザー敏感性及びめっき特性に優れるという効果がある。
【0032】
<c)めっきシード生成促進剤>
本発明に係るめっきシード生成促進剤は、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の性質である耐熱性、難燃性及び寸法安定性などを維持するのに役に立ち、誘電損失率を減少させ、周辺温度の変化によるめっき部の途切れ現象を防止する利点を有する。
【0033】
本発明に係るめっきシード生成促進剤は、めっきシードの生成を促進する物質であって、一例として、ポリオール系めっきシード生成促進剤であってもよく、好ましくは、ヒドロキシ基を4個以上、4個~20個、4個~10個、または6個~8個含有するポリオールであってもよく、この場合に、めっきシードの生成が大きく促進され、オキシド基を除去して金属イオンが活性化されるという効果がある。
【0034】
前記ポリオールは、一例として、エーテルポリオールであってもよく、この場合に、めっきシードの生成が大きく促進され、オキシド基を除去して金属イオンが活性化されるという効果がある。
【0035】
本記載において、ポリオールは、炭化水素の一部の水素がヒドロキシ基で置換された多価アルコールと、エーテル基を含むエーテルポリオールと、エステル基を含むエステルポリオールとに区分することができるが、本発明に係るめっきシード生成促進剤としては、前記多価アルコールまたはエーテルポリオールが好ましく、より好ましくは前記エーテルポリオールであり、この場合に、シードの生成が大きく促進され、オキシド基を除去して金属イオンが活性化されるという効果がある。
【0036】
前記めっきシード生成促進剤は、一例として、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に対して0.1~5重量%、0.2~3重量%、0.3~2重量%、または0.5~1重量%含まれてもよく、この範囲内で、シードの生成が大きく促進されることで、めっき性に優れるという効果がある。
【0037】
<d)ガラス繊維>
本発明に係るガラス繊維は、好ましくは、エポキシシラン系化合物で表面処理されたガラス繊維であってもよく、この場合に、ポリフェニレンスルフィド樹脂との相溶性を向上させることで、ポリフェニレンスルフィド樹脂固有の物性を阻害しないながらも、強度が大きく向上するという効果がある。
【0038】
前記エポキシシラン系化合物は、一例として、表面処理されたガラス繊維の合計100重量%を基準として0.1~0.5重量%の範囲内で表面処理に使用されることが、相溶性の向上の観点から好ましい。
【0039】
前記エポキシシラン系化合物は、一般的にガラス繊維のコーティングに使用されるエポキシシラン系化合物であれば、特に制限されず、一例として、下記化学式1で表される化合物であってもよい。
【0040】
【化1】
【0041】
前記化学式1において、R1は、少なくとも1つのエポキシ基を有する基であり、Xは、ヒドロキシ基、または水と反応してヒドロキシ基を生成することができる置換基であってもよく、前記aは、1~3の整数であり、前記bは、1~3の整数であり、a+b=4を満たす。
【0042】
他の例として、前記エポキシシランは、下記化学式2で表される化合物であってもよい。
【0043】
【化2】
【0044】
前記化学式2において、R’Oは、メトキシ、エトキシまたはアセトキシであり、Rは、結合または炭素数1~5のアルキレン基であり、Xは、エポキシ基である。
【0045】
前記ガラス繊維は、一例として、平均直径が5~20μmであり、平均長さが1~10mmであってもよく、他の例として、平均直径が8~15μmであり、平均長さが2~5mmであってもよく、この範囲内で、樹脂組成物の強度に優れながらも、射出成形品の表面粗さが良好であるという利点がある。
【0046】
本記載において、ガラス繊維の平均直径及び平均長さは、この技術分野で通常測定される方法によるものであれば、特に制限されず、一例として、SEM電子顕微鏡で50個のガラス繊維を測定して平均した値である。
【0047】
前記ガラス繊維は、一例として、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に対して10~60重量%、20~50重量%、25~45重量%、または30~40重量%含まれてもよく、この範囲内で、ベース樹脂固有の特性を阻害しないと共に、強度に優れるという効果がある。
【0048】
<e)ミネラル充填剤>
前記ミネラル充填剤は、一例として、ガラスビーズ、カオリン、タルク、マイカ、粘土、炭酸カルシウム、カルシウムシリケート、シリコンカーバイド、アルミニウムオキシド及びマグネシウムオキシドからなる群から選択された1種以上であってもよく、この場合に、強度及び耐熱性を高く維持しながらも、製品の歪みを防止し、誘電率に優れるという効果がある。
【0049】
前記ミネラル充填剤は、表面処理剤でコーティングされたものが好ましく、この場合に、強度及び耐熱性を高く維持しながらも、製品の歪みを防止し、誘電率に優れるという効果がある。
【0050】
前記表面処理剤は、ミネラル充填剤に通常使用される表面処理剤であれば、特に制限されず、一例として、脂肪酸、アミノシラン、シラン化合物、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などであってもよい。
【0051】
前記ミネラル充填剤は、一例として、粒子サイズが1~10μm、または3~8μmであってもよく、この場合に、製品の歪みを防止し、誘電率に優れるという効果がある。
【0052】
本発明において、ミネラル充填剤の粒子サイズ(particle size)は、この技術分野で通常測定される方法によるものであれば、特に制限されず、一例として、顕微鏡観察法を通じて測定された値であり、具体的には、SEM電子顕微鏡で50個の粒子を測定して平均した値である。
【0053】
前記ミネラル充填剤は、一例として、球状であってもよく、このような球状のミネラル充填剤は、本発明の属する技術分野で球状のミネラル充填剤として分類される物質であれば、特に制限されず、簡便に球状のミネラル充填剤として市販中の製品を使用することができる。
【0054】
前記ミネラル充填剤は、一例として、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に対して0~40重量%、1~40重量%、5~20重量%、または5~15重量%含まれてもよく、この範囲内で、ベース樹脂固有の特性を阻害しないと共に、レーザー敏感性及びめっき特性に優れるという効果がある。
【0055】
<その他の添加剤>
本発明に係るその他の添加剤は、一例として、難燃剤;酸化防止剤;光安定剤;鎖延長剤;反応触媒;離型剤;顔料;染料;帯電防止剤;抗菌剤;加工助剤;金属不活性化剤;フッ素系滴下防止剤;ガラス繊維とミネラル充填剤を除いた無機充填剤;及び耐摩擦耐摩耗剤からなる群から選択された1種以上であり、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に対して0.1~5重量%、0.1~2重量%、または0.2~1重量%含まれてもよく、この範囲内で、本発明が目的とする効果を阻害しないながらも、当該効果を発現させるという利点がある。
【0056】
<ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、a)ポリフェニレンスルフィド樹脂を95%以上含むベース樹脂25~75重量%と、b)LDS添加剤0.1~10重量%と、c)めっきシード生成促進剤0.1~5重量%と、d)ガラス繊維10~60重量%と、e)ミネラル充填剤0~40重量%とを含んで溶融混練及び押出するステップを含むことを特徴とする。このような場合に、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の耐熱性、難燃性及び寸法安定性などが低下せず、しかも、めっき密着力及びめっき精度に優れ、誘電損失率が低いLDS用ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供することができる。
【0057】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、一例として、前記a)~d)成分、またはa)~e)成分などをミキサーまたはスーパーミキサーを用いて一次混合した後、二軸押出機(twin-screw extruder)、一軸押出機(single-screw extruder)、ロールミル(roll-mills)、ニーダ(kneader)、またはバンバリーミキサー(banbury mixer)などの様々な配合加工機器のうち1つを用いて溶融混練及び押出するステップを含むことができる。
【0058】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、一例として、押出後、押出物をペレタイザで切断してペレットを収得するステップと、前記ペレットを除湿乾燥機又は熱風乾燥機で乾燥するステップとを含むことができ、この場合に、以降の射出ステップで加工が容易であるという効果がある。
【0059】
前記溶融混練及び押出は、一例として、285~330℃、または290~320℃;及び150~500rpm、または200~400rpmの条件で行うことができ、この範囲内で、成分物質の分解がないと共に、加工が容易であるという効果がある。
【0060】
<射出成形品>
本発明の射出成形品は、上述したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含むことを特徴とする。このような場合に、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の耐熱性、難燃性及び寸法安定性をそのまま維持しながらも、めっき密着力及びめっき精度に優れ、誘電損失率が低いLDS射出成形品を提供するという利点がある。
【0061】
前記射出成形品は、一例として、先に製造されたポリフェニレンスルフィド樹脂またはそのペレットを射出加工して製造することができる。
【0062】
前記射出加工は、一例として、前記ペレットを50~150rpmで混練した後、290~320℃及び30~200barの射出条件下で行うことができる。このとき、金型の温度は、一例として、100~140℃、または110~130℃であってもよい。
【0063】
前記射出成形品は、一例として、レーザー直接照射による導電性パターン層を含むことができ、一例として、内蔵アンテナであってもよい。
【0064】
<めっき工程>
本発明に係る射出成形品の表面に導電性パターン層を形成するめっき工程を、下記の図1を参照して説明する。
【0065】
下記図1は、レーザー直接構造化技術によって射出成形品の表面にめっきを形成する工程を概略的に示す。ここにおいて、射出成形品は、内部にLDS添加剤が均一に分布されている平坦な基板であるが、必ずしも平坦な基板である必要はなく、一部又は全部が曲面形状を有することができる。
【0066】
下記図1の1番目の図を参照すると、導電性パターンを形成しようとする基板の所定の領域に、レーザーなどの電磁波を照射することができる。このように電磁波を照射すると、下記図1の2番目の図のように、照射された部分に限定してLDS添加剤から金属核が形成される。このような金属核は、めっき時に、より高い接着性を有する接着活性表面、すなわち、接着性表面を形成する。このような接着性表面が、電磁波が照射された一定の領域でのみ選択的に形成されることによって、後述する還元又はめっき工程を行うと、接着性表面に導電性金属イオンなどが化学的に還元され、下記図1の3番目の図のように、導電性金属層、即ち導電性パターン層が、電磁波が照射された部分に選択的に形成される。
【0067】
一方、上述した金属核発生ステップにおいて、電磁波の中でも近赤外線領域のレーザー電磁波が照射され得、例えば、1000nm~1200nm、1060nm~1070nm、または1064nmの波長を有するレーザー電磁波が、1~20W、または3~10Wの平均パワーで照射されてもよい。このような範囲にレーザーなどの電磁波の照射条件が制御されることによって、LDS添加剤から、金属核及びこれを含む接着性表面などがさらに良好に形成され得、これによって、より良好な導電性パターンの形成が可能になる。
【0068】
一方、上述した金属核発生ステップを行った後は、下記図1の3番目の図に示したように、前記金属核を発生させた領域を化学的に還元又はめっきさせて導電性金属層を形成するステップを行うことができる。このような還元又はめっきステップを行った結果、前記金属核及び接着性表面が露出された所定の領域で選択的に導電性金属層が形成され得、残りの領域では、化学的に安定したLDS添加剤、すなわち非導電性金属化合物がそのまま非導電性を維持できるようになる。これによって、基板上の所定の領域にのみ選択的に微細な導電性パターンが形成される。
【0069】
前記還元又はめっきステップでは、一例として、前記金属核を発生させた基板を、還元剤を含む酸性又は塩基性溶液で処理することができ、このような溶液は、還元剤として、一例として、ホルムアルデヒド、次亜リン酸塩、ジメチルアミンボラン(DMAB)、ジエチルアミンボラン(DEAB)及びヒドラジンからなる群から選択された1種以上を含むことができる。
【0070】
他の例として、前記還元又はめっきステップでは、前記金属核を発生させた樹脂製品又は樹脂層を、還元剤及び導電性金属イオンを含む無電解めっき溶液などで処理することもできる。このような還元又はめっきステップを行うことによって、前記金属核に含まれた金属イオンが還元されるか、または前記金属核が形成された領域で、これをシード(seed)として前記無電解めっき溶液に含まれた導電性金属イオンが化学的に還元されることで、電磁波が照射された領域に選択的に良好な導電性パターンが形成される。このとき、前記金属核及び接着性表面は、前記化学的に還元される導電性金属イオンと強い結合を形成する。
【0071】
上述した導電性パターン層が形成された基板は、携帯電話、タブレットPC、自動車部品などの内蔵アンテナとして使用することができる。
【0072】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、以下の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然である。
【0073】
[実施例]
以下、実施例及び比較例で使用された成分物質は、次の通りである。
【0074】
(A-1)ポリフェニレンスルフィド:リニア型(Linear type)であって、溶融指数が、ASTM D1238に従って315℃/5kgで750g/10minであるものを使用した。
(A-2)ポリフェニレンスルフィド:架橋型(Branched(Cross)type)であって、溶融指数が、ASTM D1238に従って315℃/5kgで450g/10minである樹脂を使用した。
(B-1)ポリフタルアミド:PA6T/66樹脂であって、溶融温度(melting temperature)が305~310℃であり、固有粘度(inherent viscosity)が、ASTM D5225に従って0.90dl/gである樹脂を使用した。
(B-2)ポリアミド:PA6樹脂であって、25℃で96%硫酸溶液に溶解させて測定した相対粘度が2.0~5.5であり、Mn20,000~500,000g/molである製品を使用した。
(B-3)ポリアミド:PA66樹脂でって、25℃で96%硫酸溶液に溶解させて測定した相対粘度が2.0~5.5であり、Mn20,000~500,000g/molである製品を使用した。
(B-4)ポリエチレンテレフタレート:ポリエステル樹脂JSB599製品を使用した。
(B-5)ポリブチレンテレフタレート:結晶化時間(t1/2)が750秒を超える半-芳香族(semi-aromatic)であって、TH6082製品を使用した。
(c)相溶化剤:グリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)がグラフトされたエチレン(ethylene)ゴムを使用した。
(D)LDS添加剤:Cu(Cr,Mn)24を使用した。
(E)めっきシード生成促進剤:ジ-ペンタエリスリトール(Di-pentaerythritol)を使用した。
(F)ガラス繊維:平均直径10~13μm、平均長さ3~4mmのエポキシシラン(eopxy silane)系化合物で表面処理されたガラス繊維を使用した。
(G)ミネラル充填剤:粒子サイズ(particle size)5~6μmの球状の炭酸カルシウムを使用した。
【0075】
<実施例1~8及び比較例1~10>
下記表1及び表2に記載された成分及び含量でスーパーミキサーに投入し、これに加えて、添加剤(酸化防止剤及び滑剤を含む)を、全体組成物100重量%を基準として0.4重量%混合した。この混合物を、二軸押出機を使用して320℃で溶融混練させた後、押出し、ペレタイザを用いて、押出物をペレットとして収得した。このペレットを、120℃で4時間以上乾燥させた後、射出温度310℃、金型温度120℃の条件下で射出成形して、100mm×100mm×2mmのサイズの基板を製造した。
【0076】
前記製造された基板に対して、SPI社のG4装置を用いて、40kHz、1、2、3~10Wの条件下で1064nmの波長帯のレーザーを照射して表面を活性化させた。そして、前記レーザー照射によって表面が活性化された基板に対して、次のように無電解めっき工程を行った。
【0077】
めっき溶液は、(株)MSCから提供されるMSMID-70を用いて製造され、製造工程は、次の通りである。
【0078】
Cu溶液(MSMID-70A)40ml、錯化剤(MSMID-70B)120ml、補助錯化剤(MSMID-70C)3.5ml、安定剤(MSMID-70D)2mlを、700mlの脱イオン水に溶解させてCuめっき溶液を製造した。製造されたCuめっき溶液1Lに、25%NaOH45ml、37%ホルムアルデヒド12mlを添加して、最終めっき溶液を製造した。
【0079】
前記レーザーで表面が活性化された基板を、前記めっき溶液に3~5時間浸漬させた後、蒸留水で洗浄した。
【0080】
[試験例]
前記実施例1~8及び比較例1~10で無電解めっき処理されて導電性パターン層が形成されたポリフェニレンスルフィド組成物基板の特性を、下記の方法により測定し、その結果を、下記表1及び表2に示した。
【0081】
*めっきの有無(めっき性):基板にめっきされた状態を目視で観察し、“◎:めっきされる、○:一部めっきされる、X:めっきされない”と評価し、それぞれに該当する場合の例を1つずつ実際に写真撮影して、下記図2に示した。
*めっき密着力:めっきされた基板を10mm×10mmの面積でめっきし、2mmの間隔で25等分して、3Mテープを貼り付けた後、除去したとき、剥がれた個数を目視で観察し、“◎:優秀、○:普通、X:悪い”と評価した。
*めっき精度:レーザーが照射された面以外にめっきされた程度を目視で観察し、“◎:照射された領域にのみめっき、○:照射された領域以外の表面の粗い面めっき、X:照射された領域以外の表面の滑らかな表面めっき”と評価した。
*誘電率(Dk)及び誘電損失率(Df):内側面に直径3cmの銀ペースト(silver paste)を塗布し、130℃で硬化させた試片を準備する。HP社のIMPEDANCE ANALYZER 4194A誘電率測定器を使用して、Cp値及びD値を測定した後、Dk、Dfを計算した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
前記表1に示したように、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含む射出成形品(実施例1~8)は、本発明に従わない射出成形品(比較例1~10)と比較して、ポリフェニレンスルフィド樹脂の固有の耐熱性、難燃性及び寸法安定性が低下せず、しかも、めっき密着力及びめっき精度に優れ、誘電損失率が低いことが確認できた。具体的に説明すると、前記(E)めっきシード生成促進剤であるジ-ペンタエリスリトール(Di-pentaerythritol)が含まれない場合、めっきがなされず、他の樹脂とアロイ(alloy)する場合、めっきがなされるとしても、選択的部位にのみめっきがなされるものではなく、周辺部や表面が粗い面まで一部めっきが施される問題が発生し、また、誘電率及び/又は誘電損失率が高くなるという問題まで発生した。
図1
図2