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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】スポール防止用繊維強化樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20220202BHJP
   B32B 13/12 20060101ALI20220202BHJP
   B32B 13/14 20060101ALI20220202BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20220202BHJP
   C04B 41/83 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
E04H9/14 E
B32B13/12
B32B13/14
B29C70/06
C04B41/83 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018025232
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019138124
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山口 信
(72)【発明者】
【氏名】片山 隆
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/126058(WO,A1)
【文献】特開昭63-310777(JP,A)
【文献】特開2006-257669(JP,A)
【文献】特開2017-014835(JP,A)
【文献】特開2008-240202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0290473(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
B32B 13/00 - 13/14
B29C 70/06
C04B 41/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリエステル繊維とマトリックス樹脂とを含み、鉄筋コンクリート版に積層してスポールを防止するために用いられる繊維強化樹脂シートであって、JIS A 1191:2004に準拠して測定した引張強度が1,600N/mm以上である、繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂シートを裏面に積層した厚さ100mmの鉄筋コンクリート版の表面中央部に、200gのSEP爆薬〔密度:1.30g/cm、爆速:6900m/秒、ベンスリット:パラフィン=65:35(質量比)〕を設置して接触爆発させた際の、2ms後の繊維強化樹脂シートのたわみは、裏面中央部において80mm以下である、請求項1に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂シートを裏面に積層した厚さ100mmの鉄筋コンクリート版の表面中央部に、200gのSEP爆薬〔密度:1.30g/cm、爆速:6900m/秒、ベンスリット:パラフィン=65:35(質量比)〕を設置して接触爆発させた際の、繊維強化樹脂シートの剥離面積は、繊維強化樹脂シート全体の面積の50~99%である、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項4】
前記液晶性ポリエステル繊維は、織物、編物、不織布およびチョップドストランドマットからなる群から選択される1以上の形態で含まれる、請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートが鉄筋コンクリート版に積層された積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート版に積層してスポールを防止するために用いられる繊維強化樹脂シートに関する。本発明はまた、そのような繊維強化樹脂シートが鉄筋コンクリート版に積層された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
爆発による鉄筋コンクリート版(以下において「RC版」と称することもある)の破壊を考えるとき、爆発荷重を受けたRC版面だけでなく、その裏面も部分的に破損され得る。裏面の破損、特にコンクリートの裏面剥離(スポール)に伴って、破砕した破片(スポール片)が飛散し、その周囲に存在する物や人等に甚大な被害が生じ得る。そのような二次被害を防ぐため、スポール片の飛散を防止または抑制することは、安全上、重要である。
【0003】
文献1には、コンクリート等の構造材表面に接着することで、構造材に対して補強効果を発揮できる、高強度・高弾性率繊維からなる布帛の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂からなる弾性層を積層一体化してなる、建築土木資材補強用複合シートが記載されている。高強度・高弾性率繊維の例としては、アラミド繊維、LCP(液晶ポリマー)繊維および炭素繊維等が挙げられている。スポール片の飛散防止については記載されていない。
【0004】
文献2には、コンクリートの表面に強固に結合されて、物理的な外力に対し高い強度を発揮することのできるコンクリート用補強パネルであって、熱硬化性樹脂からなる母材に強化繊維を加えて成形されたFRP層と、前記FRP層の片側全面に積層された、耐アルカリ性繊維からなるアンカー繊維層とを具備する補強パネルが記載されている。強化繊維の例としては、ガラス繊維、アラミド繊維および炭素繊維等が挙げられている。スポール片の飛散防止については記載されていない。
【0005】
文献3には、耐衝撃性に優れ、強い衝撃を受けた場合であっても、材料の飛散を抑制する効果の高い積層成形体であって、熱硬化性樹脂および硬質補強繊維で少なくとも構成された硬質複合体と、樹脂および軟質補強繊維で少なくとも構成された軟質複合体とを積層一体化した積層成形体が記載されている。硬質補強繊維の例としては、炭素繊維およびガラス繊維が挙げられ、軟質補強繊維としては、サーモトロピック液晶ポリマー繊維を含む繊維が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-014835号公報
【文献】特開2015-189065号公報
【文献】国際公開第2010/035453号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
RC版のスポール防止方法としては、衝撃エネルギー吸収性に優れた材料による裏面補強が有効であると考えられるが、補強作業の迅速化等の観点から、重機等を用いない簡単な施工が可能な補強技術が望まれる。
従って、本発明の課題は、簡単な施工が可能なスポール片飛散防止性に優れる繊維強化樹脂シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために、RC版に積層してスポールを防止するために用いられる繊維強化樹脂シートについて詳細に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕液晶性ポリエステル繊維とマトリックス樹脂とを含み、鉄筋コンクリート版に積層してスポールを防止するために用いられる繊維強化樹脂シートであって、JIS A 1191:2004に準拠して測定した引張強度が1,600N/mm以上である、繊維強化樹脂シート。
〔2〕前記繊維強化樹脂シートを裏面に積層した厚さ100mmの鉄筋コンクリート版の表面中央部に、200gのSEP爆薬〔密度:1.30g/cm、爆速:6900m/秒、ベンスリット:パラフィン=65:35(質量比)〕を設置して接触爆発させた際の、2ms後の繊維強化樹脂シートのたわみは、裏面中央部において80mm以下である、前記〔1〕に記載の繊維強化樹脂シート。
〔3〕前記繊維強化樹脂シートを裏面に積層した厚さ100mmの鉄筋コンクリート版の表面中央部に、200gのSEP爆薬〔密度:1.30g/cm、爆速:6900m/秒、ベンスリット:パラフィン=65:35(質量比)〕を設置して接触爆発させた際の、繊維強化樹脂シートの剥離面積は、繊維強化樹脂シート全体の面積の50~99%である、前記〔1〕または〔2〕に記載の繊維強化樹脂シート。
〔4〕前記液晶性ポリエステル繊維は、織物、編物、不織布およびチョップドストランドマットからなる群から選択される1以上の形態で含まれる、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シート。
〔5〕前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートが鉄筋コンクリート版に積層された積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維強化樹脂シートは、簡単に施工でき、スポール片飛散防止性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】接触爆発試験に用いる異形鉄筋コンクリート版の内部断面の模式図である。
図2】接触爆発試験装置の模式図である。
図3】200gのSEP爆薬を用いた接触爆発試験後の実施例1の積層体表面の画像である。
図4】200gのSEP爆薬を用いた接触爆発試験後の実施例1の積層体裏面の画像である。
図5】200gのSEP爆薬を用いた接触爆発試験後の実施例2の積層体表面の画像である。
図6】200gのSEP爆薬を用いた接触爆発試験後の実施例2の積層体裏面の画像である。
図7】200gのSEP爆薬を用いた接触爆発試験後の比較例1の異形鉄筋コンクリート版表面の画像である。
図8】200gのSEP爆薬を用いた接触爆発試験後の比較例1の異形鉄筋コンクリート版裏面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態である、鉄筋コンクリート版に積層してスポールを防止するために用いられる繊維強化樹脂シートは、液晶性ポリエステル繊維とマトリックス樹脂とを含んでなる。この繊維強化樹脂シートの、JIS A 1191:2004に準拠して測定した引張強度は、1,600N/mm以上である。
【0012】
[液晶性ポリエステル繊維]
本発明における「液晶性ポリエステル繊維」は、液晶性ポリエステルを溶融紡糸することにより製造できる。液晶性ポリエステルは、例えば芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本発明が目的とするスポール防止用繊維強化樹脂シートが得られる限り、前記反復構成単位は、その化学的構成について特に限定されない。また、本発明が目的とするスポール防止用繊維強化樹脂シートが得られる限り、液晶性ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでもよい。
【0013】
例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【表1】
【0014】
ここで、Yは、1~芳香族環において置換可能な最大数の範囲の個数存在し、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)およびアラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等)からなる群から選択される。
【0015】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3および表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示し得る構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
【表4】
【0019】
表2、3および4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、;YおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等)等であってよい。これらのうち、好ましいYとしては、水素原子、塩素原子、臭素原子またはメチル基が挙げられる。
【0020】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【化1】
【0021】
好ましい液晶性ポリエステルは、好ましくは、二種以上のナフタレン骨格を構成単位として有する。特に好ましくは、液晶性ポリエステルは、ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)およびヒドロキシナフトエ酸由来の構成単位(B)の両方を含む。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)が挙げられ、溶融成形性を向上しやすい観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってよい。
【0022】
【化2】
【化3】
【0023】
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である液晶性ポリエステルが好ましい。
【0024】
本発明で好適に用いられる液晶性ポリエステルの融点は、好ましくは250~360℃、より好ましくは260~320℃である。ここで、融点とは、JIS K7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC;メトラー社製「TA3000」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、前記DSC装置に、サンプルを10~20mgとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとしての窒素を100cc/分で流通させ、20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、50℃/分の昇温速度で予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで昇温し、その温度で3分間完全に溶融した後、-80℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、しかる後に20℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0025】
なお、上記液晶性ポリエステルには、本発明が目的とするスポール防止用繊維強化樹脂シートが得られる限り、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、およびフッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。また、酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0026】
本発明のスポール防止用繊維強化樹脂シートに含まれる液晶性ポリエステル繊維は、常法により上記液晶性ポリエステルを溶融紡糸して製造できる。液晶性ポリエステルの融点よりさらに10℃以上高い紡糸温度(かつ溶融液晶を形成している温度範囲内)で、剪断速度10sec-1以上、紡糸ドラフト20以上の条件で紡糸することが好ましい。かかる剪断速度および紡糸ドラフトで紡糸することにより、分子の配向化が進行し、優れた強度等の性能を得ることができる。剪断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔当たりのポリマーの吐出量をQ(cm/sec)とするときr=4Q/πrで計算される。ノズル横断面が円でない場合には、横断面積と同値の面積を有する円の半径をrとする。
【0027】
液晶性ポリエステル繊維の単繊維繊度は0.1~50dtexであることが好ましく、1~20dtexであることがより好ましい。単繊維繊度が上記範囲内であると、製造中に繊維の切断が起こり難く、樹脂との十分な接着性(即ち、スポール片飛散防止性)が得られやすい。
【0028】
「液晶性ポリエステル繊維」として、市販品を使用することができる。そのような市販品として、例えば、クラレ社製ベクトラン HT黒(商品名)、クラレ社製ベクトラン HT(商品名)、東レ社製シベラス(商品名)、およびKBセーレン社製ゼクシオン(商品名)等を例示することができる。
【0029】
液晶性ポリエステル繊維は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0030】
液晶性ポリエステル繊維は、スポール片飛散防止性に優れる繊維強化樹脂シートが得られやすい観点から、織物、編物、不織布およびチョップドストランドマットからなる群から選択される1以上の形態で含まれることが好ましく、中でも、繊維強化樹脂シートの耐久性および機械的強度の観点から液晶性ポリエステル繊維を含んでなる織物の形態で含まれることがより好ましく、液晶性ポリエステル繊維からなる織物の形態で含まれることが特に好ましい。織物、編物、不織布またはチョップドストランドマットは1枚で使用してよいが、2枚以上(例えば、2枚、3枚、4枚または5枚)を重ねて使用してもよい。2枚以上使用する場合、それらの形態は互いに同じでも異なっていてもよい。枚数が多い程、スポール片飛散防止性は向上する一方で、製造コストは上昇し、生産性および設計自由度は低下する。上記枚数は、これらの影響を考慮しつつ、積層するRC版の厚さに応じて選択される。
【0031】
織物は、一方向性織物、二方向性織物、三軸織物、多軸織物およびノンクリンプドファブリックからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。これらのうち、軽量化とスポール片飛散防止性とを両立させやすい観点から、一方向性織物、二方向性織物およびノンクリンプドファブリック(一方向シート、ユニダイレクショナルも含む)が好ましい。一方向性織物または一方向シートを用いる場合には、繊維方向が互いに一致しないように2枚以上のシートを重ねて使用することが好ましい。また、織物は、液晶性ポリエステル繊維のみを織糸として形成してもよいし、液晶性ポリエステル繊維とその他の繊維(例えば、金属繊維、無機繊維および有機繊維等)とをそれぞれ織糸として形成してもよい。前記有機繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエステルケトン、ポリウレタンまたはフッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーから形成された繊維等が挙げられ、これらの繊維は、単独でまたは組み合わせて用いてよい。織物は、公知または慣用の方法で製造することができる。
【0032】
織物の目付は、例えば50~500g/m程度であってよく、100~400g/m程度が好ましい。目付が上記範囲内であると、樹脂との十分な接着性(即ち、スポール片飛散防止性)が得られやすい。また、織物の厚さは、例えば0.05~2mm程度であってよく、0.07~1.5mm程度が好ましい。厚さが上記範囲内であると、スポール片飛散防止性に優れる繊維強化樹脂シートが得られやすい。
【0033】
[マトリックス樹脂]
本発明のスポール防止用繊維強化樹脂シートは、液晶性ポリエステル繊維に加えて、マトリックス樹脂も含む。マトリックス樹脂は、スポール防止用繊維強化樹脂シートにおいて繊維強化材(例えば、液晶性ポリエステル繊維からなる織物)を結合している母材樹脂である。マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であってよい。マトリックス樹脂は、本発明の目的を損なわない程度で、各種添加剤、例えば、相溶化剤、フィラー、染料または顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤および光安定剤等を含有してよい。
【0034】
耐久性、機械的強度および施工性の観点から、マトリックス樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂およびメラミン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの熱硬化性樹脂のうち、強化繊維との接着性(即ち、樹脂補強性またはスポール片飛散防止性)等の観点から、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびビニルエステル樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。
マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、対応する硬化剤も用いられ、場合により硬化促進剤を用いてもよい。
【0035】
エポキシ樹脂、対応する硬化剤、および場合により使用される硬化促進剤としては、繊維強化樹脂シートに通常使用されるエポキシ樹脂、対応する硬化剤および硬化促進剤を使用できる。市販品を使用することもでき、市販のエポキシ樹脂としては、例えばFFダインD-90(前田工繊株式会社)等が挙げられる。
【0036】
本発明の繊維強化樹脂シートにおいて、マトリックス樹脂100質量部に対する液晶性ポリエステル繊維の割合は、含まれる液晶性ポリエステル繊維の形態に応じて30~300質量部程度の幅広い範囲から選択でき、50質量部~200質量部であることが好ましい。上記割合が上記範囲内であると、スポール片飛散防止性に優れる繊維強化樹脂シートが得られやすい。
【0037】
[繊維強化樹脂シート]
本発明の繊維強化樹脂シートの、JIS A 1191:2004に準拠して測定した引張強度は、1,600N/mm以上である。特に明記されていない限り本明細書全体において、上記引張強度は、測定に用いる試験片に含まれる連続繊維シートを1枚としたときの値である。上記引張強度が1,600N/mm未満であると、スポール片飛散防止性に優れる繊維強化樹脂シートを得ることはできない。上記引張強度は、好ましくは1,800N/mm以上であり、より好ましくは2,000N/mm以上である。上記引張強度が上記下限値以上であると、スポール片飛散防止性に優れる繊維強化樹脂シートが得られやすい。上記引張強度の上記下限値以上への調整は、例えば、先に記載した液晶性ポリエステル繊維およびマトリックス樹脂を用いて繊維強化樹脂シートを製造することにより達成できる。上記引張強度の上限値は特に限定されないが、通常は3,000N/mmである。
【0038】
先に記載したように、繊維強化樹脂シートは、液晶性ポリエステル繊維を含む織物、編物、不織布またはチョップドストランドマットを2枚以上含んでよい。
【0039】
繊維強化樹脂シートが、液晶性ポリエステル繊維を含む織物、編物、不織布またはチョップドストランドマットを2枚以上含む場合の総目付は、好ましくは100~1,000g/m、より好ましくは200~800g/mである。総目付が上記範囲内であると、スポール片飛散防止性と、製造コスト、生産性および設計自由度とが両立した繊維強化樹脂シートが得られやすい。
【0040】
本発明の好ましい一実施形態において、本発明の繊維強化樹脂シートを裏面に積層した厚さ100mmの鉄筋コンクリート版の表面中央部に、200gのSEP爆薬を設置して接触爆発させた際の、2ms後の繊維強化樹脂シートのたわみは、裏面中央部において、好ましくは80mm以下、より好ましくは60mm以下、特に好ましくは40mm以下である。爆発による衝撃エネルギーは、繊維強化樹脂シートがたわむことにより吸収される。上記たわみが小さい程、繊維強化樹脂シートの破断が起こり難く、その結果、スポール片の飛散が防止されやすいため、好ましい。しかし、上記たわみが上記上限値より僅かしか小さくない場合であっても、たわみに加えて、例えば繊維強化樹脂シートのRC版からの剥離等によって衝撃エネルギーが吸収される場合等は、繊維強化樹脂シートの破断が起こり難くなり、その結果、スポール片の飛散が防止されやすいため、好ましい。上記たわみは、後述の実施例に記載の方法により測定される。上記たわみの上記上限値以下への調整は、例えば、先に記載した液晶性ポリエステル繊維およびマトリックス樹脂を用いて繊維強化樹脂シートを製造することにより達成できる。
【0041】
本発明の好ましい一実施形態において、本発明の繊維強化樹脂シートを裏面に積層した厚さ100mmの鉄筋コンクリート版の表面中央部に、200gのSEP爆薬を設置して接触爆発させた際の、繊維強化樹脂シートの剥離面積は、繊維強化樹脂シート全体の面積の、好ましくは50~99%、より好ましくは55~98%、特に好ましくは60~97%である。爆発による衝撃エネルギーは、繊維強化樹脂シートがRC版から剥離することにより吸収される。その結果、繊維強化樹脂シートの破断が抑制され、スポール片飛散防止性が発揮される。繊維強化樹脂シートの剥離面積が50%より小さい場合、衝撃エネルギーが繊維強化樹脂シートの剥離により充分吸収されず、スポール片の飛散を招く繊維強化樹脂シートの破断が起こり得る。一方、繊維強化樹脂シートの剥離面積が99%より大きい場合、例えば繊維強化樹脂シートが全て剥離した場合(繊維強化樹脂シートの剥離面積が100%の場合)、スポール片飛散は防止されない。繊維強化樹脂シートの剥離面積が上記範囲内であると、スポール片の飛散が防止されやすいため、好ましい。上記繊維強化樹脂シートの剥離面積は、後述の実施例に記載の方法により測定される。上記繊維強化樹脂シートの剥離面積の上記範囲内への調整は、例えば、先に記載した液晶性ポリエステル繊維およびマトリックス樹脂を用いて繊維強化樹脂シートを製造することにより達成できる。
【0042】
本発明の繊維強化樹脂シートの厚さは、例えば0.8~3.0mm程度であってよく、1.0~2.5mm程度が好ましい。厚さが上記範囲内であると、スポール片飛散防止性と、製造コスト、生産性および設計自由度とが両立した繊維強化樹脂シートが得られやすい。
【0043】
[繊維強化樹脂シートの製造方法]
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法としては、例えば、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、SMC法、BMC法、RTM法またはプレス法等が挙げられる。これらのうち、現場での施工性の観点からは、ハンドレイアップ法またはRTM法が好ましく用いられる。また、後述するように、マトリックス樹脂を用いて繊維強化材(例えば、液晶性ポリエステル繊維からなる織物)をRC版に積層することにより、積層体の一部として繊維強化樹脂シートを製造することもできる。
【0044】
これらの製造方法において、先に記載した液晶性ポリエステル繊維およびマトリックス樹脂を用い、公知または慣用の手順で、本発明の繊維強化樹脂シートを製造できる。
【0045】
[積層体]
本発明の繊維強化樹脂シートは、建造中または建造後の構造物におけるRC版に積層することで、RC版にスポール片飛散防止性を付与することができる。或いは、本発明の繊維強化樹脂シートをRC版に積層した積層体を建築土木資材とすることもでき、このような建築土木資材はスポール片飛散防止性を有する。
従って、本発明の一実施形態は、本発明の繊維強化樹脂シートが鉄筋コンクリート版に積層された積層体である。上記繊維強化樹脂シートのスポール片飛散防止性を最大限に発揮する観点から、繊維強化樹脂シートは鉄筋コンクリート版に直接接するように積層することが好ましい。
【0046】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体は、重機等を用いない簡単な方法により、例えば、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、SMC法、BMC法、RTM法またはプレス法等で製造した本発明の繊維強化樹脂シートを接着剤でRC版と接着する方法により製造できる。具体的には、接着剤を繊維強化樹脂シートおよび/またはRC版に塗布した後、或いは繊維強化樹脂シートとRC版との間に接着剤を注入した後に、繊維強化樹脂シートをRC版と接着させることにより製造できる。接着剤としては、汎用のコンクリート用接着剤を使用できる。
【0047】
本発明の積層体はまた、例えば、液晶性ポリエステル繊維を含む1枚または2枚以上の繊維強化材(例えば、液晶性ポリエステル繊維からなる織物)を、ハンドレイアップ法またはスプレイアップ法等により、接着剤およびマトリックス樹脂を用いてRC版に積層することにより、製造することもできる。上記接着剤としても、汎用のコンクリート用接着剤を使用できる。この場合は、積層体の一部として繊維強化樹脂シートが製造される。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一実施形態にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
[液晶性ポリエステル繊維シートおよび繊維強化樹脂シート]
JIS A 1191:2004に準拠して作製したA形試験片の引張強度が1600N/mm以上である繊維強化樹脂シートを得るために、まず、液晶性ポリエステルのマルチフィラメント(総繊度1670dtex、単繊維繊度5.6dtex)を用いて、縦横2方向に編みこんだ平織の液晶性ポリエステル繊維シートを作製した(目付:185.3g/m、公称厚さ:0.131mm)。次いで、上記液晶性ポリエステル繊維シートに、マトリックス樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸・硬化させ、繊維強化樹脂シートを作製した。該繊維強化樹脂シートの、JIS A 1191:2004に準拠して作製したA形試験片の引張強度は、2190N/mmであった。
【0050】
実施例1
図1に示すような内部断面を有する異形鉄筋コンクリート版〔縦:600mm、横:600mm、厚さ:100mm、レディーミクストコンクリート(普通-30-18-20-N)、スランプ値:16.0cm、気乾単位体積重量:21.6kN/m、圧縮強度:38.9MPa、ヤング係数:27.3GPa、異形鉄筋:SD295AD10、格子状異形鉄筋の縦横のピッチ:120mm〕の裏面をディスクグラインダにより研磨し、市販のエポキシ樹脂系プライマーおよびエポキシ樹脂系パテを塗布して不陸調整をした後、上記液晶性ポリエステル繊維シート2枚および市販のエポキシ樹脂を用いて、RC版に繊維強化樹脂シート(厚さ:1.19mm)を積層した。
【0051】
実施例2
液晶性ポリエステル繊維シートの枚数を2枚から3枚に変更したこと以外は実施例1と同様にして、RC版に繊維強化樹脂シート(厚さ:1.78mm)を積層した。
【0052】
比較例1
液晶性ポリエステル繊維シートを積層しなかったこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0053】
[接触爆発試験]
各実施例で製造した積層体を、図2に示す通り繊維強化樹脂シート面(裏面)を下にして配置し、鉄筋コンクリート版面(表面)の中央部に、表5に記載の量のSEP爆薬〔密度:1.30g/cm、爆速:6900m/秒、ベンスリット:パラフィン=65:35(質量比)〕をポリエチレンフィルムで作製した円筒容器に充填して設置し、その上面から6号電気雷管を挿入して、接触爆発させた。比較例の異形鉄筋コンクリート版についても同様に設置し、接触爆発させた。各実施例および比較例について、以下に従って評価した。
【0054】
[接触爆発試験体の破壊性状]
接触爆発試験体の表面および裏面を撮影し、破壊性状を観察した。図3~8に、200gのSEP爆薬を用いた場合の実施例1の積層体(図3:表面、図4:裏面)、実施例2の積層体(図5:表面、図6:裏面)および比較例1の異形鉄筋コンクリート版(図7:表面、図8:裏面)の画像を示す。なお、これらの画像における支承位置は左右両端である。
【0055】
[たわみの評価方法]
上記接触爆発試験の際、高速度カメラを用いて積層体側面を図2の手前から撮影し、2ms後の裏面中央部における繊維強化樹脂シートのたわみを測定した。結果を表5にまとめる。なお、比較例については、接触爆発により裏面から飛翔したスポール片の飛翔距離を測定した。
【0056】
[繊維強化樹脂シートの剥離面積の評価方法]
上記の通り接触爆発させた各積層体の裏面の測定点(間隔50mmのグリッドの交点)における繊維強化樹脂シート剥離を、剥離診断器を用いて非破壊的に診断した。具体的には、剥離診断器のハンマーで測定点に打撃を加えた際の振動音を検出・解析し、剥離状況を青(健全)、黄(剥離の虞あり)、赤(剥離)の三色ランプで確認した。なお、この剥離診断器は、本来モルタルまたはタイルの剥離を診断するための機器であるが、繊維強化樹脂シートの付着剥離も精度よく検出可能であることが確認されている。
繊維強化樹脂シートの剥離面積は、測定点における診断結果を、測定点を中心とする50mm四方の範囲の診断結果の代表値と見做して算出した。積層体の裏面と接している2本の角材の距離は510mmに設定したため、繊維強化樹脂シート全体の面積は306,000mm(=510mm×600mm)であり、これに対する繊維強化樹脂シートの剥離面積を算出した。結果を表5にまとめる。
【0057】
図3および図4から分かるように、実施例1では、鉄筋コンクリート版面(表面)には爆発によるクレータ状破壊および放射状ひび割れが観察されたものの、繊維強化樹脂シート面(裏面)には僅かな表面隆起しか観察されず、スポール片は飛散しなかった。また、図5および図6から分かるように、実施例2では、鉄筋コンクリート版面(表面)には爆発によるクレータ状破壊および放射状ひび割れが観察されたものの、繊維強化樹脂シート面(裏面)には爆発による影響は観察されず、スポール片は飛散しなかった。
一方、図7および図8から分かるように、比較例1では、鉄筋コンクリート版面の表面にも裏面にも爆発によるクレータ状破壊および放射状ひび割れが観察され、スポール片の飛散が確認された。
【0058】
【表5】
【0059】
表5から分かるように、実施例1および2におけるたわみは80mmより顕著に小さく、繊維強化樹脂シートの剥離面積は50~99%の範囲内である一方で、比較例1ではスポール片の飛翔が確認された。従って、本発明の繊維強化樹脂シートがスポール片飛散防止性に優れ、また、簡単に施工できることが確認された。
【0060】
さらに、液晶性ポリエステル繊維シート枚数が3枚の実施例2では、液晶性ポリエステル繊維シート枚数が2枚の実施例1より、たわみは小さく、繊維強化樹脂シートの剥離面積はやや大きかった。このことから、液晶性ポリエステル繊維シートの枚数が多いと、繊維強化樹脂シートの曲げ剛性がより高くなるため、たわみがより小さくなる一方で、爆発による押圧の反力がより大きくなるためコンクリートにより大きい引張破壊が生じ、その結果、繊維強化樹脂シートの剥離面積がより大きくなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の繊維強化樹脂シートは、RC版に簡単に施工することが可能であり、スポール防止用補強材として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 積層体
2 繊維強化樹脂シート
3 鉄筋コンクリート版
4 異形鉄筋
5 角材
6 合板
7 6号電気雷管を挿入したSEP爆薬
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8