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特許7017744サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末及びその製造方法並びにサマリウム-鉄-窒素系磁石及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末及びその製造方法並びにサマリウム-鉄-窒素系磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20220202BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220202BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20220202BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220202BHJP
   H01F 1/06 20060101ALI20220202BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
H01F1/059 160
B22F1/00 Y
B22F1/14 600
B22F3/00 C
B22F3/00 F
H01F1/06
H01F41/02 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020509237
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013316
(87)【国際公開番号】W WO2019189440
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2018065356
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍司
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 靖
(72)【発明者】
【氏名】岡田 周祐
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-207678(JP,A)
【文献】特開2015-098623(JP,A)
【文献】特開2015-142119(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
H01F 1/06
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サマリウムと、鉄を含む主相と、
サマリウムと、鉄と、ジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素とを含み、鉄族元素に対する希土類元素の原子数比が、前記主相の鉄族元素に対する希土類元素の原子数比よりも大きい副相を有し、
前記主相の表面の少なくとも一部が前記副相により被覆されていることを特徴とするサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末。
【請求項2】
前記副相による前記主相の表面の被覆率が10%以上であることを特徴とする請求項1に記載のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末。
【請求項3】
前記副相は、鉄族元素に対する希土類元素の原子数比が0.50以上であることを特徴とする請求項1に記載のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末。
【請求項4】
サマリウムと、鉄を含む主相と、
サマリウムと、鉄と、ジルコニウム、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素とを含み、鉄族元素に対する希土類元素の原子数比が、前記主相の鉄族元素に対する希土類元素の原子数比よりも大きい副相を有することを特徴とするサマリウム-鉄-窒素系磁石。
【請求項5】
請求項1に記載のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を製造する方法であって、
サマリウム-鉄系合金の前駆体粉末を不活性ガス雰囲気下で還元拡散して、サマリウム-鉄系合金粉末を作製する工程と、
該サマリウム-鉄系合金粉末と、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、バナジウム化合物、タングステン化合物及びチタン化合物からなる群より選択される一種以上の化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下で還元拡散して、副相を形成する工程と、
該副相が形成されたサマリウム-鉄系合金粉末を窒化する工程を含み、
前記副相が形成されたサマリウム-鉄系合金粉末又は前記窒化されたサマリウム-鉄系合金粉末を、カルシウム化合物を溶解させることが可能な溶媒で洗浄する工程をさらに含むことを特徴とするサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を用いて、サマリウム-鉄-窒素系磁石を製造することを特徴とするサマリウム-鉄-窒素系磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末、サマリウム-鉄-窒素系磁石、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の製造方法及びサマリウム-鉄-窒素系磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サマリウム-鉄-窒素磁石は、キュリー温度が477℃という高い値であること、磁気特性の温度変化が小さいこと、保磁力の理論値とされる異方性磁界が20.6MA/mという非常に高い値であることから、高性能磁石として期待されている。
【0003】
ここで、高性能磁石を作製するためには、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を焼結させる必要がある。
【0004】
しかしながら、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、分解温度である620℃より低い温度で熱処理しても、保磁力が低下するという問題がある。
【0005】
特許文献1には、SmFe17合金粉末の表面にZrを被覆し、熱処理して粉末の表面にZrFe層を形成した後、磁場中で窒化処理し、SmFe17合金粉末とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-142119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ZrFe層が表面に形成されているSmFe17合金粉末は、熱処理した後の保磁力が低い。
【0008】
本発明の一態様は、熱処理した後の保磁力が高いサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末において、サマリウムと、鉄を含む主相と、サマリウムと、鉄と、ジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素とを含み、鉄族元素に対する希土類元素の原子数比が、前記主相の鉄族元素に対する希土類元素の原子数比よりも大きい副相を有し、前記主相の表面の少なくとも一部が前記副相により被覆されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、熱処理した後の保磁力が高いサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石の一例を示す模式図である。
図2図1のサマリウム-鉄-窒素系磁石の製造に用いられるサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を示す模式図である。
図3】実施例1のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末の断面のFE-SEM反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることが可能である。
【0013】
[サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末]
本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、サマリウムと、鉄を含む主相と、サマリウムと、鉄と、ジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素とを含み、鉄族元素に対する希土類元素の原子数比が、主相の鉄族元素に対する希土類元素の原子数比よりも大きい副相を有し、主相の表面の少なくとも一部が副相により被覆されている。このため、本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、熱処理した後の保磁力が高い。
【0014】
なお、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末とは、サマリウム、鉄及び窒素を含む磁石粉末を意味する。
【0015】
副相の鉄族元素に対する希土類元素の原子数比は、副相の非磁性化の面から、0.15以上であることが好ましいが、SmFe軟磁性相が析出しにくくなることから、0.20以上であることが好ましい。また、副相の鉄族元素に対する希土類元素の原子数比は、熱処理した後の保磁力がさらに向上することから、0.50以上であることが好ましく、1.00以上であることがさらに好ましい。
【0016】
ここで、副相は、後述するように、サマリウムリッチ相にジルコニウムが添加されることで、耐酸化性が向上するため、熱処理した後の保磁力が向上すると考えられる。この理由は定かではないが、ジルコニウムは、反応性が低く、不動態を形成する元素であるためであると考えられる。なお、熱処理した後の保磁力が高いサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を用いると、高性能磁石を作製することができる。
【0017】
なお、ジルコニウム以外の不動態を形成する元素としては、アルミニウム、クロム等が知られているが、これらの元素を用いても、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の熱処理した後の保磁力は向上しない。これは、サマリウムリッチ相以外の金属間化合物等が形成されること、融点が高いため、均一な副相が形成されないことが影響していると考えられる。
【0018】
また、サマリウムとジルコニウム、鉄とジルコニウムの状態図は、共晶型の一種であり、サマリウム、鉄、ジルコニウムを含む液相は、混合しやすい状態にあると考えられる。ジルコニウムが副相に適した元素であることは、このような化学的性質によるものと考えられる。
【0019】
さらに、ジルコニウムの代わりに、又は、ジルコニウムと共に、モリブデン、バナジウム、タングステン、チタンを副相に添加しても、熱処理した後の保磁力が向上する効果が得られる。
【0020】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、コア・シェル構造を有する、即ち、主相を含むコアの表面の少なくとも一部に、シェルとしての副相が存在する。
【0021】
副相の厚さは、通常、1nm~100nm程度である。
【0022】
副相による主相の表面の被覆率は、10%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。副相による主相の表面の被覆率が10%以上であると、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の熱処理した後の保磁力がさらに向上する。
【0023】
副相は、サマリウム、鉄、ジルコニウム以外の元素が含まれていてもよいが、その比率は、サマリウム、鉄、ジルコニウムの各元素の比率より小さいことが好ましい。
【0024】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の主相の結晶構造は、ThZn17型構造及びTbCu型構造のいずれであってもよいが、ThZn17型構造であることが好ましい。これにより、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の熱処理した後の保磁力がさらに向上する。
【0025】
また、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、副相以外の相をさらに含んでいてもよい。
【0026】
ここで、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、軟磁性を示す鉄を多く含むと、磁気特性が低下するため、製造時にサマリウムを量論比よりも過剰に加える。
【0027】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、ネオジム、プラセオジム等のサマリウム以外の希土類元素、コバルト等の鉄以外の鉄族元素をさらに含んでいてもよい。なお、全希土類元素中のサマリウム以外の希土類元素の含有量、全鉄族元素中の鉄以外の鉄族元素の含有量は、異方性磁界や磁化の面から、それぞれ30at%未満であることが好ましい。
【0028】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の平均粒径は、1.0μm以下であることが好ましい。サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の平均粒径が1.0μm以下であると、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の比表面積が大きくなるため、副相の効果が得られやすくなり、その結果、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の熱処理した後の保磁力がさらに向上する。
【0029】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、後述するように、不活性ガス雰囲気下で還元拡散して、副相が形成されているため、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末中の酸素含有量は、通常、1.2質量%以下となる。
【0030】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末は、後述するように、カルシウム化合物を溶解させることが可能な溶媒で洗浄されているため、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末中の酸素含有量は、通常、0.8質量%以上となる。副相が、ジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素を含む場合、これらの元素が不動態を形成することで、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の耐酸化性が向上し、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末中の酸素含有量を適切な範囲にすることができる。
【0031】
[サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の製造方法]
本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の製造方法は、サマリウム-鉄系合金の前駆体粉末を不活性ガス雰囲気下で還元拡散して(以下、第一の還元拡散という)、サマリウム-鉄系合金粉末を作製する工程と、サマリウム-鉄系合金粉末と、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、バナジウム化合物、タングステン化合物及びチタン化合物からなる群より選択される一種以上の化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下で還元拡散して(以下、第二の還元拡散という)、副相を形成する工程と、副相が形成されたサマリウム-鉄系合金粉末を窒化する工程と、窒化されたサマリウム-鉄系合金粉末(サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物)を、カルシウム化合物を溶解させることが可能な溶媒で洗浄する工程を含む。ここで、サマリウム-鉄系合金粉末を窒化する前に副相を形成することで、主相の分解や磁気特性の低下を抑制することができる。また、不活性ガス雰囲気下で還元拡散して、副相を形成することで、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末中の酸素含有量が少なくなり、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の熱処理した後の保磁力が向上する。
【0032】
不活性ガスとしては、アルゴン等が挙げられる。ここで、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の窒化量を制御するために、還元拡散する際に窒素ガスを使用しないことが好ましい。
【0033】
また、ガス精製装置等を用いて、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度を1ppm以下に制御することが好ましい。
【0034】
以下、本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の製造方法を具体的に説明する。
【0035】
〔サマリウム-鉄系合金の前駆体粉末〕
サマリウム-鉄系合金の前駆体粉末としては、還元拡散することにより、サマリウム-鉄系合金粉末を生成することが可能であれば、特に限定されないが、サマリウム-鉄系酸化物粉末、サマリウム-鉄系水酸化物粉末等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0036】
以下、サマリウム-鉄系酸化物粉末及び/又はサマリウム-鉄系水酸化物粉末を、サマリウム-鉄系(水)酸化物粉末という。
【0037】
なお、サマリウム-鉄系合金粉末とは、サマリウム及び鉄を含む合金粉末を意味する。
【0038】
サマリウム-鉄系(水)酸化物粉末は、共沈法により作製することができる。具体的には、まず、サマリウム塩と鉄塩を含む溶液にアルカリ等の沈澱剤を添加することで、サマリウム-鉄系化合物(主に水酸化物)の沈澱を析出させた後、ろ過、遠心分離等により沈殿を回収する。次に、沈殿を洗浄した後、乾燥させることで、サマリウム-鉄系(水)酸化物が得られる。さらに、サマリウム-鉄系(水)酸化物をブレードミル等で粗粉砕した後に、ビーズミル等で微粉砕することで、サマリウム-鉄系(水)酸化物粉末が得られる。
【0039】
サマリウム塩及び鉄塩における対イオンとしては、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の無機イオン、アルコキシド等の有機イオン等が挙げられる。
【0040】
サマリウム塩と鉄塩とを含む溶液に含まれる溶媒としては、水、エタノール等の有機溶媒等が挙げられる。
【0041】
アルカリとしては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア等が挙げられる。
【0042】
なお、沈殿剤の代わりに、尿素等の熱等の外的作用で分解して沈澱剤となる沈殿剤の前駆体を用いてもよい。
【0043】
洗浄した沈殿を乾燥させる際には、熱風オーブンを用いてもよいし、真空乾燥機を用いてもよい。
【0044】
なお、サマリウム-鉄系合金の前駆体粉末を作製した後、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末が得られるまでの工程は、グローブボックス等を用いて、大気に曝すことなく、実施される。
【0045】
[予還元〕
サマリウム-鉄系合金の前駆体粉末が酸化鉄又は鉄化合物を含む場合は、サマリウム-鉄系合金の前駆体粉末を還元拡散する前に、予還元し、酸化サマリウム-鉄系粉末にすることが好ましい。これにより、サマリウム-鉄系合金粉末の粒径を小さくすることができる。
【0046】
なお、酸化サマリウム-鉄系粉末とは、酸化サマリウム及び鉄を含む粉末を意味する。
【0047】
サマリウム-鉄系合金の前駆体粉末を予還元する方法としては、特に限定されないが、水素等の還元性雰囲気中、400℃以上の温度でサマリウム-鉄系合金の前駆体粉末を熱処理する方法等が挙げられる。
【0048】
例えば、平均粒径が1.0μm以下のサマリウム-鉄系合金粉末を得るためには、500℃~800℃でサマリウム-鉄系(水)酸化物粉末を予還元する。
【0049】
[第一の還元拡散]
酸化サマリウム-鉄系粉末を不活性ガス雰囲気下で還元拡散する方法としては、特に限定されないが、カルシウム又は水素化カルシウムと、酸化サマリウム-鉄系粉末を混合した後、カルシウムの融点以上の温度(約850℃)に加熱する方法等が挙げられる。このとき、カルシウムにより還元されたサマリウムがカルシウム融液中を拡散し、鉄等と反応することで、サマリウム-鉄系合金粉末が生成する。
【0050】
還元拡散する温度とサマリウム-鉄系合金粉末の粒径との間には相関があり、還元拡散する温度が高い程、サマリウム-鉄系合金粉末の粒径が大きくなる。
【0051】
例えば、平均粒径が1.0μm以下のサマリウム-鉄系合金粉末を得るためには、酸化サマリウム-鉄系粉末を、不活性ガス雰囲気下、850℃~950℃で1分間~2時間程度還元拡散する。
【0052】
酸化サマリウム-鉄系粉末は、還元拡散の進行に伴って結晶化が進行し、ThZn17型構造又はTbCu型構造を有する主相が形成される。このとき、主相の表面に、サマリウム、鉄を含み、鉄に対するサマリウムの原子数比が主相よりも大きいサマリウムリッチ相が形成される。
【0053】
[第二の還元拡散]
サマリウム-鉄系合金粉末と、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、バナジウム化合物、タングステン化合物及びチタン化合物からなる群より選択される一種以上の化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下で還元拡散する方法としては、特に限定されないが、カルシウム又は水素化カルシウムと上記混合物とを混合した後、カルシウムの融点以上の温度(約850℃)に加熱する方法等が挙げられる。このとき、カルシウムにより還元されたジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素がカルシウム融液中を拡散し、サマリウムリッチ相と反応することで、副相が形成される。
【0054】
なお、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、バナジウム化合物、タングステン化合物及びチタン化合物からなる群より選択される一種以上の化合物に加えて、サマリウム化合物、鉄化合物を還元して、副相を形成してもよい。
【0055】
ジルコニウム化合物としては、例えば、塩化ジルコニウム、硫化ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0056】
モリブデン化合物としては、例えば、塩化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、酸化モリブデン等が挙げられる。
【0057】
バナジウム化合物としては、例えば、塩化バナジウム、バナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム等が挙げられる。
【0058】
タングステン化合物としては、例えば、塩化タングステン、タングステン酸アンモニウム、酸化バナジウム等が挙げられる。
【0059】
チタン化合物としては、例えば、酸化チタン、チタンアルコキシド、塩化チタン等が挙げられる。
【0060】
サマリウム-鉄系合金粉末と、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、バナジウム化合物、タングステン化合物及びチタン化合物からなる群より選択される一種以上の化合物との混合物の作製方法としては、例えば、上記化合物を溶媒に溶解させた後、サマリウム-鉄系合金粉末にコーティングする方法等が挙げられる。
【0061】
溶媒としては、上記化合物を溶解することが可能であれば、特に限定されないが、2-プロパノール等が挙げられる。
【0062】
[窒化]
サマリウム-鉄系合金粉末を窒化する方法としては、特に限定されないが、アンモニア、アンモニアと水素の混合ガス、窒素、窒素と水素の混合ガス等の雰囲気下、300℃~500℃でサマリウム-鉄系合金粉末を熱処理する方法等が挙げられる。
【0063】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の主相の組成は、磁力を高くするために、SmFe17が最適である。
【0064】
なお、アンモニアを用いる場合、サマリウム-鉄系合金粉末を短時間で窒化することが可能であるが、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末中の窒素含有量が最適値よりも高くなる可能性がある。この場合は、サマリウム-鉄系合金粉末を窒化した後に、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を水素中でアニールすることで、過剰な窒素を結晶格子から排出させ、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末中の窒素含有量を適正化することができる。
【0065】
例えば、アンモニア-水素混合気流下、サマリウム-鉄系合金粉末を350℃~450℃で10分~2時間熱処理した後、水素気流下に切り替え、350℃~450℃で30分~2時間アニールする。
【0066】
[洗浄]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物は、酸化カルシウム、未反応の金属カルシウム、金属カルシウムが窒化した窒化カルシウム、水素化カルシウム等のカルシウム化合物を含むため、カルシウム化合物を溶解させることが可能な溶媒で洗浄する。
【0067】
カルシウム化合物を溶解させることが可能な溶媒としては、特に限定されないが、水、アルコール等が挙げられる。これらの中でも、コストやカルシウム化合物の溶解性の点で、水が好ましい。
【0068】
例えば、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を水に加え、撹拌及びデカンテーションを繰り返すことで、カルシウム化合物を除去することができる。
【0069】
なお、サマリウム-鉄系合金粉末を窒化する前に、カルシウム化合物を溶解させることが可能な溶媒でサマリウム-鉄系合金粉末を洗浄してもよい。
【0070】
[真空乾燥]
洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物は、カルシウム化合物を溶解させることが可能な溶媒を除去するために、真空乾燥させることが好ましい。
【0071】
洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を真空乾燥させる温度は、常温~100℃であることが好ましい。これにより、洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物の酸化を抑制することができる。
【0072】
なお、洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物をアルコール類等の揮発性が高く、水と混和することが可能な有機溶媒で置換した後、真空乾燥させてもよい。
【0073】
[脱水素]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を洗浄する際に、結晶格子に水素が侵入する場合がある。この場合、洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を脱水素することが好ましい。
【0074】
洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を脱水素する方法としては、特に限定されないが、真空中又は不活性ガス雰囲気中で、洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を熱処理する方法等が挙げられる。
【0075】
例えば、アルゴン気流下、洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を150℃~450℃で0~1時間熱処理する。
【0076】
[解砕]
洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を解砕してもよい。これにより、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の残留磁化及び最大エネルギー積が向上する。
【0077】
例えば、ジェットミル、乾式及び湿式のボールミル、振動ミル、媒体撹拌ミル等を用いて、粉砕より弱い条件で、洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を解砕する。ここで、粉砕より弱い条件とは、洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を粉砕しない条件を意味する。例えば、ジェットミルを用いる場合、ガス流量や流速を制御する。
【0078】
なお、洗浄されたサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の粗生成物を解砕する代わりに、サマリウム-鉄系合金粉末を解砕してもよい。
【0079】
ここで、サマリウム-鉄系合金粉末を作製した後、粉砕しないことが好ましい。例えば、主相の表面にサマリウムリッチ相が形成されているサマリウム-鉄系合金粉末を粉砕すると、粒子の表面の一部が破断面となり、サマリウムリッチ相による主相の表面の被覆率が低下する。
【0080】
[サマリウム-鉄-窒素系磁石の製造方法]
本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石は、本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を用いて、製造することができる。
【0081】
例えば、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を所定の形状に成形した後、焼結すると、サマリウム-鉄-窒素系焼結磁石が得られる。
【0082】
[成形]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を成形する際に、磁場を印加しながら、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を成形してもよい。これにより、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の成形体が特定方向に配向するため、磁気特性の高い異方性磁石が得られる。
【0083】
[焼結]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の成形体を焼結すると、サマリウム-鉄-窒素系磁石が得られる。
【0084】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の成形体を焼結する方法としては、特に限定されないが、放電プラズマ法、ホットプレス法等が挙げられる。
【0085】
なお、同一の装置を用いて、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の成形と、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の成形体の焼結を実施することもできる。
【0086】
[サマリウム-鉄-窒素系磁石]
本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石は、サマリウムと、鉄を含む主相と、サマリウムと、鉄と、ジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素とを含み、鉄族元素に対する希土類元素の原子数比が、主相の鉄族元素に対する希土類元素の原子数比よりも大きい副相を有する。
【0087】
本実施形態のサマリウム-鉄-窒素系磁石は、焼結磁石及びボンド磁石のいずれであってもよい。
【0088】
図1に、サマリウム-鉄-窒素系磁石の一例として、サマリウム-鉄-窒素系焼結磁石を示す。
【0089】
サマリウム-鉄-窒素系焼結磁石10は、サマリウムと、鉄を含む主相11と、サマリウムと、鉄と、ジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素とを含み、鉄族元素に対する希土類元素の原子数比が、主相11の鉄族元素に対する希土類元素の原子数比よりも大きい副相12を有する。ここで、隣接する主相11の境界領域に、副相12が存在する。
【0090】
なお、サマリウム-鉄-窒素系焼結磁石10は、主相11の表面が副相12により被覆されているサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末20(図2参照)を用いて、製造することができる。
【実施例
【0091】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[実施例1]
(サマリウム-鉄(水)酸化物粉末の作製)
硝酸鉄九水和物65g及び硝酸サマリウム六水和物13gを水800mlに溶解させた後、撹拌しながら、2mol/L水酸化カリウム水溶液120mlを滴下し、室温下で一晩撹拌し、懸濁液を作製した。懸濁液をろ過し、濾物を洗浄した後、熱風乾燥オーブンを用いて、空気中、120℃で一晩乾燥させ、サンプルを作製した。サンプルを、ブレードミルにより粗粉砕した後、ステンレスボールを用いる回転ミルにより、エタノール中、微粉砕した。次に、遠心分離した後、真空乾燥させ、サマリウム-鉄(水)酸化物粉末を作製した。
【0093】
以下の工程は、グローブボックスの中で、アルゴン雰囲気下、大気に曝すことなく、実施した。
【0094】
(予還元)
サマリウム-鉄(水)酸化物粉末を、水素気流中、700℃で6時間熱処理することにより予還元し、酸化サマリウム-鉄粉末を作製した。
【0095】
(第一の還元拡散)
酸化サマリウム-鉄粉末5gとカルシウム2.5gを鉄製るつぼに入れた後、900℃で1時間加熱することにより還元拡散し、主相の表面にサマリウムリッチ相が形成されているサマリウム-鉄合金粉末を作製した。ここで、サマリウム-鉄合金粉末中に、次工程の還元拡散に必要なカルシウムが残留するように、カルシウムが添加されている。
【0096】
(第二の還元拡散)
塩化ジルコニウム(ZrCl)91mgが2-プロパノール15mlに溶解している溶液にサマリウム-鉄合金粉末1gを入れて、30分間撹拌した後、真空乾燥させた。次に、塩化ジルコニウムとサマリウム-鉄合金粉末の混合物を鉄るつぼに入れ、850℃で加熱することにより還元拡散し、副相を形成した。
【0097】
(窒化)
サマリウム-鉄合金粉末を常温まで冷却した後、水素雰囲気に置換し、380℃まで昇温した。次に、体積比が1:2のアンモニア-水素混合気流に切り替え、420℃まで昇温し、1時間保持することで、サマリウム-鉄合金粉末を窒化し、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の粗生成物を作製した。さらに、水素中、420℃で1時間アニールした後、アルゴン中、420℃で0.5時間アニールすることで、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の窒素含有量を適正化した。
【0098】
(洗浄)
サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の粗生成物を純水で5回洗浄し、カルシウム化合物を除去した。
【0099】
(真空乾燥)
洗浄されたサマリウム-鉄-窒素磁石粉末の粗生成物に残留する水を2-プロパノールで置換した後、常温で真空乾燥させた。
【0100】
(脱水素)
乾燥したサマリウム-鉄-窒素磁石粉末の粗生成物を、真空中、200℃で3時間脱水素し、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0101】
[実施例2、3]
第二の還元拡散において、塩化ジルコニウムの添加量を、それぞれ45mg、227mgに変更した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0102】
[実施例4]
サマリウム-鉄(水)酸化物粉末の作製において、硝酸鉄九水和物65gの代わりに、硝酸鉄九水和物58g、硝酸コバルト六水和物5gを用いた以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0103】
[比較例1]
第二の還元拡散を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0104】
[比較例2]
第一の還元拡散の後、サマリウム-鉄合金粉末を純水で洗浄し、カルシウム化合物を除去した。次に、洗浄されたサマリウム-鉄合金粉末をpH5.5の酢酸水溶液で15分間の洗浄し、サマリウムリッチ相を除去した。
【0105】
第二の還元拡散において、サマリウムリッチ相が除去されたサマリウム-鉄合金粉末を用い、カルシウムを添加した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0106】
[比較例3、4]
第二の還元拡散において、塩化ジルコニウムの代わりに、塩化アルミニウム(AlCl)52mg、塩化クロム(CrCl)62mgを用いた以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0107】
[比較例5]
第二の還元拡散の代わりに、以下の処理を実施した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0108】
ジルコニウム粉末36mgとサマリウム-鉄合金粉末1gを、ボールミルにより、2-プロパノール中、6時間混合した後、真空乾燥させた。次に、ジルコニウム粉末とサマリウム-鉄合金粉末の混合物を鉄るつぼに入れた後、730℃で熱処理し、副相を形成した。
【0109】
[実施例5]
第二の還元拡散において、2-プロパノールを用いず、900℃で加熱した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0110】
[実施例6]
第二の還元拡散において、撹拌時間を60分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0111】
[実施例7]
第二の還元拡散において、塩化ジルコニウムとサマリウム-鉄合金粉末を鉄るつぼに入れ、900℃で加熱した以外は、実施例2と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0112】
[実施例8]
サマリウム-鉄(水)酸化物粉末の作製において、硝酸鉄九水和物、硝酸サマリウム六水和物の添加量を、それぞれ65g、11gに変更した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0113】
[実施例9]
サマリウム-鉄(水)酸化物粉末の作製において、硝酸鉄九水和物、硝酸サマリウム六水和物の添加量を、それぞれ65g、10gに変更した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0114】
次に、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の主相及び副相を分析した。
【0115】
[主相]
実施例1~9、比較例1~5のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末の一部を採取し、X線回折(XRD)スペクトルを測定したところ、いずれの粉末も主相がThZn17型構造を有することを確認した。また、XRDスペクトルのピーク位置から、実施例1~9、比較例1~5のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、いずれの粉末も主相の格子定数が適切である、即ち、主相の窒化量が適切であることを確認した。
【0116】
[副相]
サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の一部を採取し、熱硬化性エポキシ樹脂と混錬し、熱固化した後、集束イオンビーム(FIB)を照射してエッチング加工することにより、断面を露出させ、試料を作製した。走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、試料を観察した。具体的には、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により、主相と副相の組成を分析した。ここで、主相と副相は、FE-SEM反射電子像又はEDSマッピングにより、区別することができる。なお、副相が特に薄い場合には、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いる必要があるが、本実施例では、その必要は無かった。ここで、主相と副相の組成は、各試料について、点分析を20点実施し、サマリウム、鉄、ジルコニウムの組成比を平均値として算出した。なお、主相中のジルコニウムの含有量は、0.1at%以下となり、ジルコニウムは、主相中に実質的に存在しなかった。
【0117】
図3に、実施例1のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末の断面のFE-SEM反射電子像を示す。図3から、実施例1のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、主相をコア、副相をシェルとするコア・シェル構造を有することがわかる。ここで、図3において、灰色部が主相であり、白色部が副相である。
【0118】
なお、副相による主相の表面の被覆率は、FE-SEM反射電子像で観察されたサマリウム-鉄-窒素磁石粉末の断面における、主相の周囲の長さと、表面に副相が存在している主相の周囲の長さの比とし、20個のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末の平均値として算出した。なお、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末同士が粒子間焼結している場合は、粒子間焼結しているサマリウム-鉄-窒素磁石粉末を1個のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末として、副相による主相の表面の被覆率を算出した。
【0119】
また、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の表面のFE-SEM2次電子像から無作為に選択した50個の粒子の円相当径の算術平均値、即ち、平均粒径を求めたところ、0.95μmであった。
【0120】
表1に、実施例1~9、比較例1~5のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末の副相の組成として、Sm[at%]、Fe+Co[at%]、Zr[at%]、Sm/(Fe+Co)を、主相の組成として、Sm[at%]、Fe+Co[at%]、Sm/(Fe+Co)をまとめた。また、副相による主相の表面の被覆率[%]、500℃で熱処理した後の保磁力[kA/m]も合わせて記載した。
【0121】
次に、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の500℃で熱処理した後の保磁力を測定した。
【0122】
[500℃で熱処理した後の保磁力]
グローブボックスの中に設置した熱処理装置を用いて、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の一部を採取し、真空雰囲気下、500℃で5分間熱処理した後、熱可塑性樹脂と混合し、1592kA/mの磁場中で配向させ、ボンド磁石を作製した。次に、振動試料型磁力計(VSM)を用いて、温度27℃、最大印加磁場7162kA/mの条件で、磁化容易軸方向にボンド磁石を設置し、保磁力を測定した。
【0123】
表1に、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の500℃で熱処理した後の保磁力の測定結果を示す。
【0124】
【表1】
表1から、実施例1~9のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、500℃で熱処理した後の保磁力が700kA/m以上であることがわかる。
【0125】
これに対して、比較例1、3、4のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、ジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン及びチタンからなる群より選択される一種以上の元素を含まない副相が形成されているため、500℃で熱処理した後の保磁力が低い。
【0126】
また、比較例2、5のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、副相の鉄に対するサマリウムの原子数比が主相よりも小さいため、500℃で熱処理した後の保磁力が低い。ここで、比較例5のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、500℃で熱処理した後の保磁力が特に低いが、これは、副相のFe、Zrの組成比から、軟磁性相であるZrFe相が析出したことが原因であると考えられる。
【0127】
[実施例10~13]
第二の還元拡散において、塩化ジルコニウムの代わりに、それぞれ塩化モリブデン(MoCl)266mg、塩化バナジウム(VCl)153mg、塩化タングステン(WCl)386mg、酸化チタン(TiO)78mgを用いた以外は、実施例7と同様にして、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を作製した。
【0128】
表2に、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の500℃で熱処理した後の保磁力の測定結果を示す。なお、表2中、Mは、Mo、V、W又はTiを意味する。
【0129】
【表2】
表2から、実施例10~13のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末も、500℃で熱処理した後の保磁力が700kA/m以上であることがわかる。
【0130】
次に、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)により、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の一部(0.1g程度)を採取し、酸素含有量を測定した。
【0131】
表3に、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の酸素含有量の測定結果を示す。
【0132】
【表3】
表3から、実施例3、10~13のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、酸素含有量が低いことがわかる。
【0133】
これに対して、比較例1のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、第二の還元拡散を実施していないため、酸素含有量が高い。
【0134】
次に、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末を用いて、サマリウム-鉄-窒素焼結磁石を作製した。
【0135】
[サマリウム-鉄-窒素焼結磁石の作製]
本実施例では、等方性のサマリウム-鉄-窒素焼結磁石を作製した。具体的には、グローブボックスの中で、サマリウム-鉄-窒素磁石粉末0.5gを大きさ5.5mm×5.5mmの超硬合金製直方体型のダイに充填した後、大気に暴すことなく、サーボ制御型プレス装置による加圧機構を備えた放電プラズマ焼結装置内に設置した。次に、放電プラズマ焼結装置内を真空(圧力2Pa以下及び酸素濃度0.4ppm以下)に保持した状態で、圧力1200MPa、温度500℃の条件で、1分間の通電焼結し、サマリウム-鉄-窒素焼結磁石を作製した。次に、不活性ガスで大気圧に戻した後、温度が60℃以下になってから、サマリウム-鉄-窒素焼結磁石を大気中に取り出した。
【0136】
サマリウム-鉄-窒素焼結磁石の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、副相の組成、主相の組成及び副相による主相の表面の被覆率がサマリウム-鉄-窒素磁石粉末と同等であることを確認した。
【0137】
次に、サマリウム-鉄-窒素焼結磁石の保磁力を測定した。
【0138】
[保磁力]
振動試料型磁力計(VSM)を用いて、温度27℃、最大印加磁場7162kA/mの条件で、サマリウム-鉄-窒素焼結磁石の保磁力を測定した。
【0139】
表4に、サマリウム-鉄-窒素焼結磁石の保磁力の測定結果を示す。
【0140】
【表4】
表4から、実施例1、3、12のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末を用いて作製されているサマリウム-鉄-窒素焼結磁石は、保磁力が700kA/m以上であることがわかる。
【0141】
これに対して、比較例1のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末を用いて作製されているサマリウム-鉄-窒素焼結磁石の保磁力が低い。
【0142】
次に、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)により、サマリウム-鉄-窒素焼結磁石の酸素含有量を測定した。
【0143】
表5に、サマリウム-鉄-窒素焼結磁石の酸素含有量の測定結果を示す。
【0144】
【表5】
表5から、実施例3のサマリウム-鉄-窒素磁石粉末を用いて作製されているサマリウム-鉄-窒素焼結磁石は、酸素含有量が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
サマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、ネオジム磁石に対し、キュリー温度が高く、温度に対する保磁力の変化が小さいため、高い磁気特性と耐熱性を併せ持った磁石を製造することが可能である。このような磁石は、例えば、エアコン等の家電製品、生産ロボット、自動車等に搭載され、高い磁性特性と耐熱性が求められるモーター、センサー等に使用される焼結磁石及びボンド磁石の原料として利用することができる。
【0146】
本願は、日本特許庁に2018年3月29日に出願された基礎出願2018-065356号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。
図1
図2
図3