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特許7017745回路基板、アンテナ素子、及び基板内蔵用ミリ波吸収体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】回路基板、アンテナ素子、及び基板内蔵用ミリ波吸収体
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20220202BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20220202BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
H05K1/02 P
H05K9/00 M
H01Q17/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020572286
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005405
(87)【国際公開番号】W WO2020166628
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2019023945
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】特許業務法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大越 慎一
(72)【発明者】
【氏名】吉清 まりえ
(72)【発明者】
【氏名】生井 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】淺沼 雅行
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 享洋
(72)【発明者】
【氏名】山崎 すみれ
(72)【発明者】
【氏名】上田 直将
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-38834(JP,A)
【文献】特開2017-184106(JP,A)
【文献】特開平8-162559(JP,A)
【文献】米国特許第2812501(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P1/00―11/00
H01Q1/00―25/04
H05K1/00―3/46
H05K9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層された積層基板と、
前記積層基板の内部に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するミリ波吸収体と、
を備え、
前記ミリ波吸収体は、前記積層基板の厚み方向に設けられた柱状のシールドビアであり、
前記シールドビアは、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する柱状の第1支柱部と、金属材料からなる第2支柱部と、を備え、前記第1支柱部と前記第2支柱部とが交互に積層されて柱状に形成されている、
回路基板。
【請求項2】
複数の誘電体層が積層された積層基板と、
前記積層基板の内部に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するミリ波吸収体と、
を備え、
前記ミリ波吸収体は、前記積層基板の厚み方向に設けられた柱状のシールドビアであり、
前記シールドビアは、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する半柱状の第1半体部と、金属材料からなる半柱状の第2半体部と、を備え、前記第1半体部と前記第2半体部とが接合されて柱状に形成されている、
回路基板。
【請求項3】
複数の誘電体層が積層された積層基板と、
前記積層基板の内部に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するミリ波吸収体と、
を備え、
前記ミリ波吸収体は、前記積層基板の厚み方向に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する柱状の支柱部と、前記支柱部の1/3周以上2/3周以下の外周壁に形成された金属壁と、を備える、金属壁付シールドビアである、
路基板。
【請求項4】
前記金属壁付シールドビアは、電磁波が前記支柱部で反射した反射波と、前記電磁波が前記金属壁で反射して戻ってくる反射波とを干渉させ、インピーダンス整合により相殺させる、
請求項に記載の回路基板。
【請求項5】
前記金属壁付シールドビアは、前記支柱部を介在させて前記金属壁の内周壁を給電線に対向させている、
請求項又はに記載の回路基板。
【請求項6】
複数の誘電体層が積層された積層基板と、
前記積層基板の内部に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するミリ波吸収体と、
を備え、
前記ミリ波吸収体は、前記積層基板の内部において壁状に形成された壁部であり、
前記ミリ波吸収体は、金属壁が前記壁部に設けられた金属壁付壁部であり、電磁波が前記壁部で反射した反射波と、前記電磁波が前記金属壁で反射して戻ってくる反射波とを干渉させ、インピーダンス整合により相殺させる、
路基板。
【請求項7】
複数の誘電体層が積層された積層基板と、
前記積層基板の内部に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するミリ波吸収体と、
を備え、
前記ミリ波吸収体は、前記積層基板の面方向に沿って設けられた層状のシールド層であり、
前記シールド層は、前記複数の誘電体層の互いに隣接する誘電体層の間に設けられている、
回路基板。
【請求項8】
前記ミリ波吸収体は、比誘電率を調整する磁性材料と、比透磁率を調整する磁性材料とを混合させた混合材料より形成されている、
請求項1~のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項9】
前記ミリ波吸収体は、透磁性材料としてイプシロン型酸化鉄を含む、
請求項1~のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の回路基板と、
前記回路基板の積層基板内に設けられた給電線と、
前記回路基板の表面に設けられ、前記給電線に接続されたアンテナと、
を備える、アンテナ素子。
【請求項11】
前記回路基板の内部には、前記給電線に沿って複数のミリ波吸収体が設けられている、
請求項10に記載のアンテナ素子。
【請求項12】
複数の誘電体層が積層された積層基板の内部に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する基板内蔵用ミリ波吸収体であって
前記積層基板の厚み方向に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する柱状の支柱部と、前記支柱部の1/3周以上2/3周以下の外周壁に形成された金属壁と、を備える、金属壁付シールドビアである、
基板内蔵用ミリ波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板、アンテナ素子、基板内蔵用ミリ波吸収体、及び、回路基板のノイズ低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や、無線LAN、ETCシステム、高度道路交通システム、自動車走行支援道路システム、衛星放送などの種々の情報通信システムにおいて、ミリ波帯に代表される高周波帯域の電磁波が使用されるようになってきている。しかしながら、上記高周波帯域の電磁波の利用の拡大には、電子部品同士の干渉による通信品質の劣化や電子機器の誤動作等を招く懸念がある。
【0003】
例えば、自動車衝突防止レーダーに搭載されるアンテナ素子では、複数の誘電体層が積層された積層基板を有する回路基板を備えており、この回路基板の表面(基板表面とも称する)に送信アンテナや受信アンテナが設けられている。回路基板は、積層基板の内部に複数の給電線が設けられ、基板表面の送信アンテナ及び受信アンテナに給電線がそれぞれ接続されている。
【0004】
このようなアンテナ素子では、例えば、送信アンテナに接続された給電線に交流電圧を印加することで、送信アンテナから電磁波を送信するが、この際、給電線を放射源とする電磁波(以下、不要電磁波とも称する)が回路基板内に広がるため、送信信号がノイズとして受信信号に混入し、通信品質が劣化してしまうという問題がある。
【0005】
このような問題点を考慮し、従来、支柱状の金属製のビア(以下、金属製シールドビアとも称する)を、回路基板内において不要電磁波の発生源となる給電線を取り囲むようにして所定間隔をおいて多数設けてゆき、これら複数の金属製シールドビアを電磁波の反射壁として機能させ、回路基板内で給電線から拡散する不要電磁波を抑制することが考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4535995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような金属製シールドビアを回路基板内に設けても、給電線から拡散する不要電磁波が金属製シールドビアで反射してしまい、反射した不要電磁波が送信アンテナや受信アンテナにノイズとして戻ってくることがある。
【0008】
また、送信アンテナから電磁波を送信する際に、当該送信アンテナの周囲から発する電磁波が回路基板内などにも不要電磁波として拡散する恐れもあり、場合によっては送信アンテナや受信アンテナの指向性を阻害してしまう恐れもある。
【0009】
そのため、回路基板内で発生する不要電磁波を一段と抑制し、回路基板内のノイズを低減できる回路基板の開発が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来よりも回路基板内のノイズを低減できる、回路基板、アンテナ素子、基板内蔵用ミリ波吸収体、及び、回路基板のノイズ低減方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため本発明による回路基板は、複数の誘電体層が積層された積層基板と、前記積層基板の内部に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するミリ波吸収体と、を備える。
【0012】
また、本発明のアンテナ素子は、上述した回路基板と、前記回路基板の積層基板内に設けられた給電線と、前記回路基板の表面に設けられ、前記給電線に接続されたアンテナと、を備える。
【0013】
また、本発明の基板内蔵用ミリ波吸収体は、複数の誘電体層が積層された積層基板の内部に設けられ、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する。
【0014】
また、回路基板のノイズ低減方法は、複数の誘電体層が積層された積層基板を有する回路基板のノイズ低減方法であって、前記積層基板の内部に、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するミリ波吸収体を設け、前記積層基板の内部で拡散する不要電磁波を前記ミリ波吸収体で吸収し、前記回路基板の内部のノイズを低減する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回路基板の内部に発生した不要電磁波をミリ波吸収体で吸収することができるので、その分、従来よりも回路基板内のノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明によるアンテナ素子の側断面構成を示した概略図である。
図1B】送信用給電線の周囲に設けられたシールドビアを上方から見たときの断面構成を示した概略図である。
図2】積層基板の内部に設けたシールドビアの構成を説明するための概略図である。
図3図2に示す積層基板を上方から見たときの送信用給電線とシールドビアの配置位置を示した概略図である。
図4A】本発明のシールドビアの断面構成を示した概略図である。
図4B】金属壁付シールドビアの断面構成を示した概略図である。
図4C】従来の金属製シールドビアの断面構成を示した概略図である。
図4D図3に示した積層基板に対して金属壁付シールドビアを最適な状態で設けたときの構成を示した概略図である。
図5A】積層基板に貫通孔を形成したときの概略図である。
図5B】金属メッキ処理を行ったときの概略図である。
図5C】シルクスクリーン版を設けたときの概略図である。
図6A】貫通孔の内周壁に金属メッキ層を形成したときの概略図である。
図6B】貫通孔の内周壁に金属壁を形成したときの概略図である。
図6C】積層基板の貫通孔に、電磁波吸収材料で支柱部を形成したときの概略図である。
図7】シミュレーションにより用いたパルス波の時間波形(1)を示したグラフである。
図8A】比較例についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電磁界解析結果を示した画像である。
図8B】実施例1についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電磁界解析結果を示した画像である。
図8C】実施例2についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電磁界解析結果を示した画像である。
図9図8A図8B及び図8Cの解析結果から、それぞれ同じ5箇所の測定場所で電界強度を測定した測定結果をまとめた表である。
図10A】比較例についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像(1)である。
図10B】実施例1についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像(1)である。
図10C】実施例2についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像(1)である。
図11A】比較例についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像(2)である。
図11B】実施例1についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像(2)である。
図11C】実施例2についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像(2)である。
図12】FDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの解析結果を示した画像において、電界強度を測定する測定場所を示した画像である。
図13A図12で示した3箇所の測定場所で、比較例について電界強度を時系列に測定した測定結果をまとめた表である。
図13B図12で示した3箇所の測定場所で、実施例1について電界強度を時系列に測定した測定結果をまとめた表である。
図13C図12で示した3箇所の測定場所で、実施例2について電界強度を時系列に測定した測定結果をまとめた表である。
図14A】他の実施形態におけるシールドビアの構成(1)を示した概略図である。
図14B】他の実施形態におけるシールドビアの構成(2)を示した概略図である。
図14C】他の実施形態におけるシールドビアの構成(3)を示した概略図である。
図15】積層基板内において形成される他のシールドビアの構成を示した概略図である。
図16】他の実施形態におけるシールド層の一例を示した概略図である。
図17】積層基板の内部に設けた金属壁付壁部の構成を示した概略図である。
図18A図17における積層基板を上方から見たときの構成を示した概略図である。
図18B】シミュレーションにより用いたパルス波の時間波形(2)及び周波数依存性を示したグラフである。
図19】比較例1、比較例2及び実施例3についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電磁界解析結果を示した画像である。
図20図19で示した3箇所の測定場所で、比較例1、比較例2及び実施例3について電界強度を測定した測定結果をまとめた表である。
図21A】比較例2についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像である。
図21B】実施例3についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像である。
図22】対向させた金属壁付壁部を、受信ポート及び送信ポートを有する積層基板内に設けたときの構成を示した概略図である。
図23A】受信ポート及び送信ポートを有する積層基板についてFDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像である。
図23B図23Aに示した積層基板の内部に、対向させた金属壁付壁部を設けた構成について、FDTD法によるシミュレーション試験を行ったときの電界強度の時間依存性を示した画像である。
図24A】他の実施形態による金属壁付壁部の構成(1)を示した概略図である。
図24B】他の実施形態による金属壁付壁部の構成(2)を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0018】
(1)<本発明のアンテナ素子の概要>
図1Aは、本発明のアンテナ素子1の側断面構成を示した概略図である。アンテナ素子1は、回路基板2と無線周波数集積回路(RFIC:Radio Frequency Integrated Circuit)3と受信アンテナ4と送信アンテナ5を有している。本実施形態の場合、回路基板2には、例えば、プリント配線基板などの積層基板2bが基材2a上に設けられており、この積層基板2b上にRF(Radio Frequency)基板2cが設けられている。積層基板2bは、複数の誘電体層2eが積層された構成を有する。
【0019】
基材2aの材料は特に限定されないが、高周波信号の減衰を抑圧するため低誘電損失性の誘電体板と高導電率性の導体箔の交互積層からなる回路基板が好ましい。しかしながら、導体の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、金属材料であることが好ましい。金属材料としては、アルミニウム、チタン、SUS、銅、真鍮、銀、金、白金などが好ましい。
【0020】
また、回路基板2には、アンテナとして受信アンテナ4と送信アンテナ5とがRF基板2cの表面に設けられ、これら受信アンテナ4と送信アンテナ5と信号ビア(受信用給電線7aと送信用給電線7b)を介して電気的に接続された無線周波数集積回路3が基材2aの表面に設けられている。
【0021】
誘電体層2eの材料として使用される誘電体は、アンテナ素子1において、絶縁等の目的で使用されている種々の誘電体から適宜選択される。かかる誘電体の好適な例としてはPTFE、及びガラス繊維含有エポキシ樹脂などが挙げられる。なお、誘電体層2eの各層には、RFIC用の電源回路、デジタル回路、ベースバンド信号用のアナログ回路などの、周波数帯、信号処理方法が異なる複数の回路群が形成されている。
【0022】
本実施形態の場合、回路基板2の内部には、基材2a、積層基板2b及びRF基板2cの厚みを貫通して受信用給電線7aと送信用給電線7bが信号ビアとして設けられている。受信用給電線7aは、一端が受信アンテナ4に接続され、他端が接合部8aを介して無線周波数集積回路3に接続されており、受信アンテナ4によりミリ波帯域の電磁波を受信すると、当該受信アンテナ4から無線周波数集積回路3に受信信号を出力する。
【0023】
一方、送信用給電線7bは、一端が送信アンテナ5に接続され、他端が接合部8bを介して無線周波数集積回路3に接続されており、無線周波数集積回路3で生成されたミリ波帯域の送信信号を送信アンテナ5に出力する。これにより、送信アンテナ5は、ミリ波帯域の電磁波を外界に向かって送信する。なお、ここで、本実施形態におけるミリ波帯域とは、30~300GHz帯域を示し、本実施形態による受信アンテナ4及び送信アンテナ5は、30~300GHz帯域(ミリ波帯域)内に最大の電波ピークを有する電磁波を送受信可能な構成を有する。
【0024】
かかる構成に加えて、回路基板2には、ミリ波吸収体として円柱状のシールドビアVa,Vbが内部に設けられている。本実施形態の場合、シールドビアVa,Vbは、軸方向が、積層基板2b及びRF基板2cの厚みを貫通するように回路基板2内に形成されており、送信用給電線7bに並走するように配置されている。
【0025】
ここで、図1Bは、送信用給電線7bの周囲に設けられたシールドビアVa,Vb,Vcを上方から見たときの断面構成を示した概略図である。図1Bに示すように、送信用給電線7bの周囲には、送信用給電線7bを取り囲むようにして、送信用給電線7bから所定距離離れた位置に、同一構成のシールドビアVa,Vb,Vcが設けられている。これらシールドビアVa,Vb,Vcは、アンテナ素子1で使用するミリ波帯域に合わせて、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有しており、回路基板2の内部で発生した不要電磁波を吸収し得る。
【0026】
ここで、不要電磁波とは、30~300GHz帯域内に最大の電波ピークを有する電磁波を送信アンテナ5から送信する際、無線周波数集積回路3から送信用給電線7bに印加される交流電圧によって、送信用給電線7bから回路基板2内に拡散される、30~300GHz帯域内の電磁波である。
【0027】
このように、回路基板2内で拡散する不要電磁波は、意図しない電磁波であり、受信アンテナ4など他の電子部品に影響を与える恐れがあるため、従来、特許文献1に示すように、金属製シールドビアを電磁波の反射壁として回路基板内に設け、回路基板内で拡散する不要電磁波を金属製シールドビアで反射減衰させることで抑制する形態が考えられている。
【0028】
しかしながら、本発明者らは、このような従来の金属製シールドビアを回路基板の内部に設けても、回路基板内で送信用給電線7bから拡散される不要電磁波は、金属製シールドビアなどに反射した後、所定時間の間、回路基板内で定在波として残留し続けることを確認した。このように、回路基板内において、不要電磁波が定在波として残留し続けると、例えば、送信アンテナ5から連続して電磁波を送信した際に、不要電磁波が送信アンテナ5などに影響を与え、ノイズが発生する恐れもある。そのため、回路基板内で発生した不要電磁波は短時間で低減させることが望ましい。
【0029】
そこで、本実施形態では、シールドビアVa,Vb,Vcを単なる電磁波の反射壁として設けるだけでなく、不要電磁波が回路基板2内で拡散した際に、シールドビアVa,Vb,Vcにおいて不要電磁波のミリ波帯域で自然共鳴を生じさせ、自然共鳴によりミリ波を吸収させるようにした。これにより、回路基板2では、不要電磁波が定在波として残留することを抑制でき、回路基板2内で拡散する不要電磁波を短時間で低減させることができる。
【0030】
このように、回路基板2では、回路基板2内で拡散する不要電磁波を短時間で低減させることができるので、送信アンテナ5から連続的に電磁波を送信する場合でも、送信アンテナ5から電磁波を送信した後に、次の電磁波を送信アンテナ5から送信するまでの短時間の間に不要電磁波の強度を低減させることができる。
【0031】
本実施形態において、シールドビアVaは、受信用給電線7aと送信用給電線7bとの間に設けられており、例えば、送信用給電線7bから、隣接する受信用給電線7aに向かって拡散する不要電磁波や、他から反射してきた不要電磁波を吸収する。また、シールドビアVbは、送信用給電線7bを挟んでシールドビアVaと対向する位置に設けられており、例えば、受信用給電線7aから離れる方向に向かって拡散する不要電磁波や、他から反射してきた不要電磁波を吸収する。さらに、シールドビアVcは、シールドビアVa,Vbの間に設けられており、送信用給電線7bから拡散する不要電磁波や、他から反射してきた不要電磁波を吸収する。
【0032】
本実施形態では、シールドビアVa,Vb,Vcの断面円の直径(以下、ビア直径と称する)は数百μm(79GHz帯では特に100~200μmが望ましい)であり、シールドビアVa,Vb,Vcが配置される間隔(以下、ビア間隔と称する)は約400μm程度(特に回路基板2内での電磁波伝搬波長の1/4未満であることが望ましい)であるが、これらビア直径や、ビア間隔は、不要電磁波のミリ波帯域などにより選定することが望ましい。
【0033】
(2)<シールドビア>
次に、上述したシールドビアVa,Vb,Vcについて説明する。この場合、シールドビアVa,Vb,Vcを構成する電磁波吸収材料としては、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する材料であれば、特に限定されないが、特にイプシロン型酸化鉄を用いることが望ましい。シールドビアVa,Vb,Vcは材料の組成に応じて、例えば、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有することができる。
【0034】
(2-1)<イプシロン型酸化鉄>
次に、シールドビアVa,Vb,Vcを構成する電磁波吸収材料として用いられるイプシロン型酸化鉄について以下説明する。なお、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体としてのシールドビアVa,Vb,Vcは同一構成でなるため、以下、シールドビアVaに着目して説明する。
【0035】
イプシロン型酸化鉄としては、一般式がε-Fe、ε-AFe2-x(AはFeを除く元素、xは0<x<2の範囲)、ε-BFe2-y-z(ここでのB及びCは、A及びFeを除く元素であり、かつ互いに異なる元素、yは0<y<1の範囲、zは0<z<1の範囲)、ε-DFe2-U-V-W(ここでのD、E及びFは、A及びFeを除く元素であり、かつ互いに異なる元素、Uは0<U<1の範囲、Vは0<V<1の範囲、Wは0<W<1の範囲)で表される結晶のいずれかであることが望ましい。
【0036】
ε-AFe2-xは、結晶系と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Aで置換されたものである。ε-Feの結晶構造を安定に保つため、Aとしては、3価の元素を用いることが好ましい。さらにAとしては、Al,Sc,Ti,V,Cr,Ga,In,Y及びRhから選択される1種の元素を挙げることができる。
【0037】
Aは、これらの中では、In、Ga、Al及びRhが好ましい。AがAlである場合、ε-AFe2-xで表される組成において、xは例えば0以上0.8未満の範囲内であるのが好ましい。AがGaである場合、xは例えば0以上0.8未満の範囲内であるのが好ましい。AがInである場合、xは例えば0以上0.3未満の範囲内であるのが好ましい。MがRhである場合、xは例えば0以上0.3未満の範囲であるのが好ましい。
【0038】
ε-BFe2-y-zは、結晶系と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部が、Fe以外の2種の元素B,Cで置換されたものである。ε-Feの結晶構造を安定に保つため、Bとしては4価の元素、Cとしては2価の元素を用いることが好ましい。さらに、BとしてはTi、Cとしては、Co,Ni,Mn,Cu及びZnから選択される1種の元素を挙げることができる。
【0039】
ε-DFe2-U-V-Wは、結晶系と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部が、Fe以外の3種の元素D,E,Fで置換されたものである。ε-Feの結晶構造を安定に保つため、Dとしては3価の元素、Eとしては4価の元素、Fとしては2価の元素を用いることが好ましい。Dとしては、Al,Sc,Ti,V,Cr,Ga,In,Y,Rhから選択される1種の元素を挙げることができる。また、EとしてはTi、Fとしては、Co,Ni,Mn,Cu及びZnから選択される1種の元素を挙げることができる。
【0040】
なお、上述したA、B、C、D、E及びFからFeを除くのは、ε-FeのFe3+イオンサイトの一部を、1種類、又は、互いに異なる2種類、3種類の元素で置換するためである。ここでイプシロン型酸化鉄の粒径は特に限定されないが、例えば、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測した平均粒径が5~200nmの範囲であることが望ましく、また、平均粒径が100nm以下であることがより望ましく、50nm以下であることがより望ましく、20nm以下であることがより望ましい。
【0041】
以上説明したイプシロン型酸化鉄を電磁波吸収材料としてシールドビアVaに採用する場合、例えば、30~300GHz帯域内、好ましくは35~270GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するシールドビアVaを実現できる。電磁波吸収量が最大となる周波数は、上述したA、B、C、D、E及びFの種類及び置換量の少なくとも一方を調整することにより調整できる。
【0042】
ここで、イプシロン型酸化鉄の保磁力Hcは、上述したA、B、C、D、E及びFの置換元素による置換量に応じて変化する。つまり、イプシロン型酸化鉄におけるA、B、C、D、E及びFの置換元素による置換量を調整することで、イプシロン型酸化鉄の保磁力Hcを調整することができる。
【0043】
具体的には、例えば、ε-AFe2-xで表される組成の置換元素Aとして、AlやGa等を用いた場合には、置換量が増えるほど、イプシロン型酸化鉄の保磁力Hcが低下する。一方、Rh等を置換元素Aとして用いた場合には、置換量が増えるほど、イプシロン型酸化鉄の保磁力Hcは増大する。
【0044】
置換元素Aによる置換量に応じてイプシロン型酸化鉄の保磁力Hcを調整しやすい点からは、置換元素Aとして、Ga、Al、In及びRhが好ましい。そして、この保磁力Hcの低下に伴い、イプシロン型酸化鉄における電磁波吸収量の最大ピークの周波数も低周波数側あるいは高周波数側にシフトする。つまり、置換元素Aの置換量により電磁波吸収量の最大ピークの周波数をコントロールすることができる。
【0045】
なお、一般的に電磁波吸収体として使用される金属酸化物磁性材料は、磁気異方性が小さく、ミリ波のような高い周波数の電磁波を吸収することはできないが、上述したイプシロン型酸化鉄は磁気異方性が大きく、例えば182GHzという自然共鳴周波数を示し、既存の金属酸化物磁性材料の約3倍もの高い周波数の電磁波を吸収することができる。
【0046】
また、一般的に用いられている金属酸化物磁性材料の場合、電磁波が入射する角度や周波数が設計した値から外れてしまうと吸収量がほとんどゼロになる。これに対し、イプシロン型酸化鉄を用いた場合、少し値が外れても、広い周波数範囲及び電磁波入射角度で電磁波吸収を呈する。このため、本発明によれば、幅広い周波数帯域の電磁波を吸収可能なシールドビアVaを提供することができる。
【0047】
これらイプシロン型酸化鉄は、公知のものである。Feサイトの一部を、Fe以外の1種の元素A、2種類の元素B、C、3種の元素D、E、Fでそれぞれ置換した、ε-AFe2-x、ε-BFe2-y-z、又はε-DFe2-U-V-Wのいずれかの結晶からなるイプシロン型酸化鉄は、例えば、逆ミセル法及びゾル-ゲル法を組み合わせた工程と、焼成工程とによって合成することができる。また、特開2008-174405号公報に開示されるように、直接合成法及びゾル-ゲル法を組み合わせた工程と、焼成工程とによって合成することができる。
【0048】
なお、より具体的な製造方法については、例えば、公知文献である「Jian Jin,Shinichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto,ADVANCED MATERIALS 2004,16,No.1、January 5,p.48-51」や、「Shin-ichi Ohkoshi,Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,97,10K312(2005)」などに開示されているため、ここではその説明は省略する。
【0049】
シールドビアVaを構成する材料におけるイプシロン型酸化鉄の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。イプシロン型酸化鉄の含有量は、典型的には、シールドビアVaを構成する材料の質量に対して、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましく、60~91質量%が最も好ましい。
【0050】
(2-2)<比誘電率調整方法>
イプシロン型酸化鉄を含むシールドビアVaは、その比誘電率が、1~150であり、1~100であるのが好ましく、1~90であるのがより好ましい。シールドビアVaの比誘電率を調整する方法は特に限定されない。シールドビアVaの比誘電率の調整方法としては、シールドビアVaを構成する材料に誘電性材料(比誘電率を調整する磁性材料)を含有させ、かつ、誘電性材料の含有量を調整する方法が挙げられる。
【0051】
誘電性材料の好適な例としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、及び二酸化チタンが挙げられる。シールドビアVaは、複数の種類の誘電性材料を組み合わせて含んでいてもよい。
【0052】
誘電性材料を用いてシールドビアVaの比誘電率を調整する場合、シールドビアVaの比誘電率が所定の範囲内である限り、誘電性材料の使用量は特に限定されない。誘電性材料の使用量は、典型的には、シールドビアVaを構成する材料の質量に対して、0~20質量%が好ましく、5~10質量%がより好ましい。
【0053】
また、シールドビアVaにカーボンナノチューブを含有させることで、シールドビアVaの比誘電率を調整することができる。電磁波吸収能が優れるシールドビアVaを得やすい点からは、カーボンナノチューブをシールドビアVaに含有させるのが好ましい。カーボンナノチューブは、上述した誘電性材料の粉末と併用してもよい。
【0054】
シールドビアVaを構成する材料へのカーボンナノチューブの配合量は、シールドビアVaの比誘電率が上記の所定の範囲内である限り特に限定されない。ただし、カーボンナノチューブは導電性材料でもあるため、カーボンナノチューブの使用量が過多であると、シールドビアVaによりもたらされる電磁波吸収特性が損なわれる場合がある。
【0055】
カーボンナノチューブの使用量は、典型的には、シールドビアVaを構成する材料の質量に対して、0~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0056】
(2-3)<比透磁率調整方法>
シールドビアVaの比透磁率は特に限定されないが、1.0~2.0であるのが好ましい。シールドビアVaの比透磁率を調整する方法は特に限定されない。シールドビアVaの比透磁率の調整方法としては、上述したように、透磁性材料(比透磁率を調整する磁性材料)としてイプシロン型酸化鉄における置換元素A、B、C、D、E及びFの選択やその置換量を調整する方法や、シールドビアVaにおけるイプシロン型酸化鉄の含有量を調整する方法が挙げられる。
【0057】
比透磁率を調整する磁性材料としては、イプシロン型酸化鉄の他、Srフェライト、Baフェライトなどの六方晶フェライト及びその金属置換体(複数金属置換も含む)、Coフェライト、マグネタイト、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライトなどのスピネルファイライト及びその金属置換体(複数金属置換も含む)、イットリウム鉄ガーネットなどのガーネットフェライト及びその金属置換体(複数金属置換も含む)、FePt、CoPt、FePdなどの磁性合金及びその金属置換体(複数金属置換も含む)などが挙げられる。
【0058】
(2-4)<ポリマー>
イプシロン型酸化鉄などをシールドビアVa中に均一に分散させることを容易にするために、シールドビアVaはポリマーを含んでいてもよい。シールドビアVaがポリマーを含む場合、ポリマーからなるマトリックス中に、イプシロン型酸化鉄などの成分を容易に分散させることができる。
【0059】
ポリマーの種類は、本発明の目的を阻害しないものであって、支柱状のシールドビアVaが形成可能なものであれば特に限定されない。ポリマーは、エラストマーやゴムのような弾性材料であってもよい。また、ポリマーは、熱可塑性樹脂であっても硬化性樹脂であってもよい。ポリマーが硬化性樹脂である場合、硬化性樹脂は、光硬化性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。
【0060】
ポリマーが熱可塑性樹脂である場合の好適な例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレートなど)、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR-ポリプロピレン、セルロース樹脂、(メタ)アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートなど)、及びポリスチレンなどが挙げられる。
【0061】
ポリマーが熱硬化性樹脂である場合の好適な例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキド樹脂などが挙げられる。光硬化性樹脂としては、種々のビニルモノマーや、種々の(メタ)アクリル酸エステルなどの不飽和結合を有する単量体を光硬化させた樹脂を用いることができる。
【0062】
ポリマーが弾性材料である場合の好適な例としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、及びポリウレタン系エラストマーなどが挙げられる。
【0063】
後述するペーストを用いてシールドビアVaを形成する場合、ペーストが分散媒とポリマーとを含んでいてもよい。この場合、ポリマー中にイプシロン型酸化鉄などを均一に分散させやすいことから、ポリマーが分散媒に対して可溶であるのが好ましい。
【0064】
シールドビアVaを構成する材料がポリマーを含有する場合、ポリマーの含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ポリマーの含有量は、典型的には、シールドビアVaを構成する材料の質量に対して、5~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。
【0065】
(2-5)<分散剤>
イプシロン型酸化鉄や、比誘電率及び比透磁率を調整するために添加される物質をシールドビアVa中で良好に分散させる目的で、シールドビアVaは分散剤を含んでいてもよい。シールドビアVaを構成する材料に分散剤を配合する方法は特に限定されない。分散剤は、イプシロン型酸化鉄やポリマーとともに均一に混合されてもよい。シールドビアVaを構成する材料がポリマーを含む場合、分散剤はポリマー中に配合されてもよい。また、分散剤により予め処理された、イプシロン型酸化鉄や、比誘電率及び比透磁率を調整するために添加される物質を、シールドビアVaを構成する材料に配合してもよい。
【0066】
分散剤の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。従来から種々の無機微粒子や有機微粒子の分散用途で使用されている種々の分散剤の中から、分散剤を選択できる。
【0067】
分散剤の好適な例としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤、及びアルミネートカップリング剤などが挙げられる。
【0068】
分散剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。分散剤の含有量は、シールドビアVaを構成する材料の質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、1~10質量%が特に好ましい。
【0069】
(2-6)<その他の成分>
イプシロン型酸化鉄を含むシールドビアVaを構成する材料は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記の成分以外の種々の添加剤を含んでいてもよい。シールドビアVaを構成する材料が含み得る添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、及び界面活性剤などが挙げられる。これらの添加剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、それらが従来使用される量を勘案して使用される。
【0070】
(2-7)<シールドビアを形成する際に用いるペースト>
シールドビアVaは、切削器具やレーザなどにより回路基板2に形成された貫通孔に、例えば、イプシロン型酸化鉄を含むペーストを流し込み、硬化させることで形成することが好ましい。
【0071】
ペーストは、例えば、イプシロン型酸化鉄を含有する他、上述したような比誘電率や比透磁率の調整のために添加される物質や、ポリマー及びその他の成分などを含有させ、誘電性材料と透磁性材料とを混合させた混合材料より形成してもよい。なお、ポリマーが硬化性樹脂である場合、ペーストは、硬化性樹脂の前駆体である化合物を含む。この場合、ペーストには、硬化剤、硬化促進剤、及び重合開始剤などが必要に応じて含有される。
【0072】
ペーストでは、上述したイプシロン型酸化鉄を含有したシールドビアVaを形成する場合、比誘電率が、上述した所定範囲内の値になるように、その組成を決定される。ペーストは、通常、分散媒を含む。しかし、ペーストが、液状のエポキシ化合物のような液状の硬化性樹脂の前駆体を含有する場合、必ずしも分散媒は必要ない。
【0073】
分散媒としては、水、有機溶剤、及び有機溶剤の水溶液を用いることができる。分散媒としては、有機成分を溶解させやすい点や、蒸発潜熱が低く乾燥による除去が容易であること等から、有機溶剤が好ましい。
【0074】
分散媒として使用される有機溶剤の好適な例としては、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;n-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系アルコール類;酢酸-n-ブチル、酢酸アミルなどの飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類;乳酸エチル、乳酸-n-ブチルなどの乳酸エステル類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、2-メトキシブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、4-メトキシブチルアセテート、2-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-エチル-3-メトキシブチルアセテート、2-エトキシブチルアセテート、4-エトキシブチルアセテート、4-プロポキシブチルアセテート、2-メトキシペンチルアセテートなどのエーテル系エステル類などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0075】
ペーストの固形分濃度は、回路基板2の貫通孔にペーストを充填する方法などに応じて適宜調整される。典型的にはペーストの固形分濃度は、3~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。なお、ペーストの固形分濃度は、分散媒に溶解していない成分の質量と、分散媒に溶解している成分の質量との合計を固形分の質量として算出されるものである。
【0076】
(3)<シールドビアの配置位置>
図2及び図3は、上述した、図1の実施形態とは異なる他の実施形態を示しており、以下、図2及び図3を用いてシールドビアの配置位置について説明する。なお、図2及び図3では、図1で示した送信用給電線7bに変えて、積層基板2b内に引き回された送信用給電線11と信号ビア13を設けた例を示している。
【0077】
図2は、積層基板2b内に形成された送信用給電線11と、この送信用給電線11を取り囲むようにして配置された12個のシールドビアV~V12に着目した概略図であり、その他の構成については省略している。また、図3は、図2の積層基板2bを上方から見たときの送信用給電線11とシールドビアV~V12の配置位置を示した概略図である。
【0078】
この場合、送信用給電線11は、積層基板2bの内部に設けられており、積層基板2bの所定高さ位置において、積層基板2bの端部から所定の経路を経て積層基板2bの中央付近までに引き回されている。
【0079】
積層基板2bの端部に位置する送信用給電線11の一端には、無線周波数集積回路15が設けられている。なお、無線周波数集積回路15としては例えば受動フィルターが接続されたアンテナが好適である。また、積層基板2bの中央付近に位置する送信用給電線11の他端には、積層基板2bの厚みを貫通した信号ビア13が設けられている。なお、好適な構成としては、図3において積層基板2bの下面側にある信号ビア13の端部に、無線周波数集積回路3が接続される。
【0080】
かかる構成に加えて、積層基板2bには、積層基板2b内に引き回されている送信用給電線11の経路に沿って、当該送信用給電線11を両側から挟むようにしてシールドビアV~V12が配置されている。なお、図2及び図3中、14は、シールドビアV~V12に形成されたランドを示す。
【0081】
具体的には、この場合、6個のシールドビアV~Vが送信用給電線11の一方の側面側において、送信用給電線11から所定距離離れた位置で送信用給電線11の経路に沿って配置されている。また、残り6個のシールドビアV~V12が送信用給電線11の他方の側面側において、送信用給電線11から所定距離離れた位置で送信用給電線11の経路に沿ってシールドビアV~Vと対向するように配置されている。
【0082】
以上の構成において、このような積層基板2bでは、図3において積層基板2bの下面側にある信号ビア13の端部に交流電圧が印加されると、交流電圧が送信用給電線11を経由して無線周波数集積回路15まで伝播するうちに、信号ビア13の端部や信号ビア13のランド、および送信用給電線11の屈曲部から、不要電磁波が積層基板2bの内部に拡散される。
【0083】
この際、シールドビアV~V12は、積層基板2b内で拡散する不要電磁波のミリ波帯域で自然共鳴を生じさせ、自然共鳴によりミリ波を吸収する。これにより、シールドビアV~V12は、積層基板2b内で拡散する不要電磁波を低減させることができる。
【0084】
(4)<金属壁付シールドビア>
(4-1)<金属壁付シールドビアの構成>
ここで、上述した実施形態においては、ミリ波吸収体として、図4Aに示すように、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する電磁波吸収材料を柱状に形成し、電磁波吸収材料のみで全体を形成したシールドビアVを適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。
【0085】
例えば、図4Bに示すように、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する電磁波吸収材料により円柱状に形成された支柱部18aと、支柱部18aの外周壁に設けられた金属壁18bとからなる金属壁付シールドビアV21を適用してもよい。
【0086】
この場合、金属壁付シールドビアV21は、支柱部18aの1/3周以上2/3周以下の外周壁に金属壁18bが形成されており、不要電磁波が入射波として支柱部18aに入射すると、不要電磁波のミリ波帯域において支柱部18aで自然共鳴を生じさせ、自然共鳴により不要電磁波を吸収するとともに、吸収しきれない入射波が金属壁18bに反射して入射波側に戻ってくる。
【0087】
ここで、金属壁付シールドビアV21は、支柱部(吸収部)18aの表面で反射する反射波(以下、表面反射波とも称する)と、入射波が金属壁(反射部)18bで反射して戻ってくる反射波(以下、金属壁反射波とも称する)とを干渉させて、インピーダンス整合により相殺するように、支柱部18aを構成する電磁波吸収材料の比誘電率及び比透磁率と、支柱部18aのビア直径とが調整されていることが望ましい。これにより、金属壁付シールドビアV21は、支柱部18aを小型化しつつ、不要電磁波を一段と低減できる。
【0088】
なお、支柱部18aにおいて表面反射波と金属壁反射波とを干渉させてインピーダンス整合により相殺させるために比誘電率及び比透磁率を調整する場合には、上述した「(2-2)<比誘電率調整方法>」や「(2-3)<比透磁率調整方法>」に従って行うことができる。例えば、79GHz帯に対して、比誘電率1~150、比透磁率1~2などが特定の関係を満たした場合に、インピーダンス整合が起こる。
【0089】
(4-2)<金属壁付シールドビアの金属壁の配置位置>
次に、図3に示した積層基板2bにおいて、上述した金属壁付シールドビアV21を設置する場合、金属壁18bをどのような位置に配置させるかについて、図4Dを用いて以下説明する。ここで、図4Dは、図3に示した積層基板2bに対して、12個の金属壁付シールドビアV21~V32を最適な状態で設けたときの構成を示した概略図である。
【0090】
図4Dに示すように、これら金属壁付シールドビアV21~V32は、送信用給電線11から所定距離離れた位置で送信用給電線11の経路に沿って送信用給電線11を囲むようにして配置されている。また、各金属壁付シールドビアV21~V32は、金属壁18bが形成されていない支柱部18aの外周壁を送信用給電線11側に配置し、支柱部18aを介在させて金属壁18bの内周壁を送信用給電線11に対向させている。
【0091】
これにより、各金属壁付シールドビアV21~V32は、送信用給電線11から各金属壁付シールドビアV21~V32に向けて拡散し始めた不要電磁波を、入射波として支柱部18aに入射させ、支柱部18aで減衰させることができる。各金属壁付シールドビアV21~V32は、ミリ波帯において支柱部18aで自然共鳴を生じさせ、自然共鳴によりミリ波帯不要電磁波を効果的に吸収できる。
【0092】
また、各金属壁付シールドビアV21~V32は、支柱部18aで反射する反射波(表面反射波)と、支柱部18aで吸収しきれない入射波が金属壁18bで反射して戻ってくる反射波(金属壁反射波)とを干渉させて、インピーダンス整合により相殺するように、支柱部18aを構成する電磁波吸収材料の比誘電率及び比透磁率と、支柱部18aの直径とを調整することで、送信用給電線11から各金属壁付シールドビアV21~V32に向けて拡散し始めた最初の不要電磁波を吸収し得、回路基板2内のノイズを迅速に低減させることができる。
【0093】
なお、上述した実施形態においては、金属壁18bが形成されていない支柱部18aの外周壁を送信用給電線11側に配置し、支柱部18aを介在させて金属壁18bの内周壁を送信用給電線11に対向させるように配置した金属壁付シールドビアV21~V32について説明したが、本発明はこれに限らず、金属壁18bを送信用給電線11に対して種々の角度で配置させてもよい。
【0094】
(4-3)<金属壁付シールドビアの製造方法>
次に、図4Bに示すような金属壁付シールドビアV21の製造方法について以下説明する。この場合、図5Aに示すように、図示しない切削器具やレーザなどにより、積層基板2bの厚み方向に貫通孔21を形成した後、図5Bに示すように、当該積層基板2bの表面に金属メッキ処理を行う。これにより、図6Aに示すように、貫通孔21内の内周壁に金属メッキ層22aを形成する。なお、この際、図6Aに示すように、積層基板2bに形成した貫通孔21の内周壁に金属メッキ層22aを膜状に形成して貫通孔23を形成してもよく、また、積層基板2bに形成した貫通孔21を金属メッキ層22aで閉塞させてもよい。
【0095】
次いで、図示しない切削器具やレーザなどにより、貫通孔21内の金属メッキ層22aを削ってゆき、図6Bに示すように、積層基板2bの貫通孔21内に、貫通孔21の内周壁の1/3周以上2/3周以下の領域に金属メッキ層22aを金属壁18bとして残存させる。
【0096】
次いで、図5Cに示すように、積層基板2bの貫通孔21に対応して形成した開口部25aを有するシルクスクリーン版25を、積層基板2bに設置した後、開口部25aから積層基板2bの貫通孔21内に、例えばイプシロン型酸化鉄を含むペーストを流し込み、硬化させる。
【0097】
これにより、図6Cに示すように、積層基板2bの貫通孔21内に、電磁波吸収材料で形成された支柱部18aの一部外周壁に金属壁18bを有する金属壁付シールドビアV21を形成することができる。
【0098】
(5)<シミュレーション試験>
次に、図4Aに示すような水平断面形状を有する本発明のシールドビアVと、図4Bに示すような水平断面形状を有する本発明の金属壁付シールドビアV21と、図4Cに示すような水平断面形状を有する従来の金属製シールドビア100とについて、それぞれ時間領域差分法(以下、FDTD法:Finite-difference time-domain methodと称する)によるシミュレーション試験を行い、電磁界解析を行った。
【0099】
この場合、図4Aに示すシールドビアVは、電磁波吸収材料として、ε-GaFe2-x(x=0.45)を60質量%、カーボンナノチューブを5質量%、セルロース系樹脂を35質量%含有させた電磁波吸収材料を用いて円柱状に形成し、79GHz帯に電磁波吸収量の最大ピークを有するものを想定した。
【0100】
また、図4Bに示す金属壁付シールドビアV21は、上述したシールドビアVと同じ電磁波吸収材料を用いて形成した支柱部18aに、支柱部18aの1/2周の外周壁に金、銀、銅、アルミニウム、鉄などの伝導性金属材料からなる金属壁18bを形成したものを想定した。さらに、図4Cに示す従来の金属製シールドビア100は、金、銀、銅、アルミニウム、鉄などの伝導性金属材料を用いて円柱状に形成したものを想定した。
【0101】
FDTD法によるシミュレーション試験は、REMCOM社製のFDTD法解析シミュレータ(XFdtd)を用い、図2及び図3に示した構造体を疑似的に定義した。具体的には、3.500mm×3.000mm×1.344mmの立方体空間を疑似の積層基板2bとして定義し、図2及び図3に示したような経路を有する送信用給電線11及び信号ビア13を、この立方体空間内に定義した。
【0102】
実施例1では、さらに、図2及び図3において示したシールドビアV~V12のうち、シールドビアV~Vの5箇所の位置にそれぞれ疑似のシールドビアV~Vを定義し、残りの7箇所のシールドビアV~V12の位置には従来の金属製シールドビア100をそれぞれ定義した。そして、このように、シールドビアV~V及び金属製シールドビア100を定義した疑似構造体で、FDTD法によるシミュレーション試験を行った。
【0103】
実施例2では、図2及び図3において示したシールドビアV~V12のうち、シールドビアV~Vの5箇所の位置にそれぞれ疑似の金属壁付シールドビアV21~V25図4D)を定義し、残りの7箇所のシールドビアV~V12の位置には従来の金属製シールドビア100をそれぞれ定義した。そして、金属壁付シールドビアV21~V25及び金属製シールドビア100を定義した疑似構造体で、FDTD法によるシミュレーション試験を行った。なお、金属壁付シールドビアV21~V25の金属壁18bは、図4Dと同様に、送信用給電線11に対して、支柱部18aを介在させて対向するように規定した。
【0104】
そして、比較例では、図2及び図3に示したシールドビアV~V12の位置にそれぞれ従来の金属製シールドビア100を定義した。そして、金属製シールドビア100を定義した疑似構造体で、FDTD法によるシミュレーション試験を行った。
【0105】
なお、FDTD法によるシミュレーション試験では、疑似のシールドビアV~V、疑似の金属壁付シールドビアV21~V25、疑似の金属製シールドビア100を、ビア直径Hが175μm、高さが644μmの円柱状の構造体としてそれぞれ定義した。金属製シールドビア100は完全導体とし、シールドビアV~Vは比誘電率21.7、比透磁率1.20、金属壁付シールドビアV21~V25は比誘電率21.7、比透磁率1.20とした。
【0106】
そして、実施例1、実施例2及び比較例では、図7に示すような波形で、おおよそ79GHz帯にピークを有するパルス波を送信用給電線11に入射し、送信用給電線11から積層基板2b内にミリ波の電磁波を放射してから約0.623ns経過するまでに取得した、積層基板2b内での79GHzの電界強度分布を求めた。
【0107】
その結果、比較例では、図8Aに示すような電界強度分布となり、実施例1では、図8Bに示すような電界強度分布となり、実施例2では、図8Cに示すような電界強度分布となった。ここで、図8Aにおける黒丸S~S12は、図2及び図3で示したシールドビアV~V12の位置に相当するものであり、比較例では、黒丸S~S12が金属製シールドビア100を示している。また、黒丸S13は信号ビア13の位置を示している。なお、図8B及び図8Cにおいても、図8Aと同様に、表記されている黒丸はビア設置位置を示している。
【0108】
これら、比較例、実施例1及び実施例2の電界強度の評価については、解析結果として得られた図8A図8B及び図8Cの配色により行った。なお、図8A図8B及び図8Cは、実際にはカラー画像であり、電界強度は、赤>橙>黄>緑>青の順に高く示され、暖色系が、電磁波が大きいことを表すものとなる。
【0109】
図8A図8B及び図8Cでは、いずれも送信用給電線11の配置位置において色が濃く示されているが、実際にはこの領域は赤や橙などの暖色系となっており、電磁波が大きいことを示していた。実施例1では、図8Bにおいて、黒丸S1~S5の位置(図8A参照)に、電磁波吸収材料で形成したシールドビアV~Vを設けたが、図8Bの左側領域(すなわち、シールドビアV~Vを設けた領域側)では、電界強度の低い領域が比較例よりも大きくなっていることが確認できた。これにより、実施例1では、積層基板2bに拡散する不要電磁波を従来よりも低減できることが確認できた。
【0110】
また、実施例2では、図8Cにおいて、黒丸S1~S5の位置(図8A参照)に、金属壁付シールドビアV21~V25を設けたが、図8Cの左側領域(すなわち、金属壁付シールドビアV21~V25を設けた領域側)では、電界強度の低い領域が実施例1及び比較例よりも大きくなっていることが確認できた。これにより、実施例2では、積層基板2bに拡散する不要電磁波を一段と低減できることが確認できた。
【0111】
次に、図8A図8B及び図8Cの各解析結果において、図8Aに示した測定(計算)場所Pa1,Pa2,Pa3,Pa4,Pa5の5箇所の位置での具体的な電界強度をそれぞれ計算したところ、図9に示すような結果が得られた。なお、図9において、例えば、測定場所Pa1に示す「5.782,18.0,0.752」の数値は、図8A図8B及び図8C中のPa1の位置(x座標、y座標、z座標)を示す。
【0112】
図9の結果からも、実施例1及び実施例2は、比較例よりも電界強度が低くなることが確認でき、さらに実施例2は、実施例1よりも電界強度がさらに低くなることが確認できた。このことからも、シールドビアV~V及び金属壁付シールドビアV21~V25は、積層基板2b内で拡散する不要電磁波を吸収して、積層基板2b内の不要電磁波を低減できることが確認でき、また、金属壁付シールドビアV21~V25は、さらに不要電磁波を吸収して一段と不要電磁波を低減できることが確認できた。
【0113】
次に、比較例、実施例1及び実施例2について、上述したFDTD法によるシミュレーション試験を行った際の電界強度の時間依存性について調べた。その結果、比較例では、図10A及び図11Aに示すような結果が得られ、実施例1では、図10B及び図11Bに示すような結果が得られ、実施例2では、図10C及び図11Cに示すような結果が得られた。
【0114】
図10A図10B及び図10Cは、図7に示すような波形で、おおよそ79GHz帯にピークを有するパルス波を送信用給電線11に入射した後から0.125ns、0.249ns、0.374ns、0.498nsが経過したときの電界強度を示している。
【0115】
図11Aは、比較例において、さらに0.623ns、0.747ns、0.872ns、0.996nsが経過したときの電界強度を示している。図11Bは、実施例1において、パルス波を送信用給電線11に入射した後から0.623nsが経過したときの電界強度を示し、図11Cは、実施例2において、パルス波を送信用給電線11に入射した後から0.623nsが経過したときの電界強度を示している。
【0116】
図10A及び図11Aの結果から、比較例では、パルス波を送信用給電線11に入射した後から0.996nsが経過するまでの間、積層基板2b内に電磁波が残留し、積層基板2b内で電磁波が低減するまで0.996nsかかることが確認できた。一方、実施例1では、図10B及び図11Bの結果から、積層基板2b内に電磁波が残留している時間が比較例よりも短く、0.623nsで積層基板2b内の電磁波が低減することが確認できた。
【0117】
また、実施例2でも、図10C及び図11Cの結果から、積層基板2b内に電磁波が残留している時間が比較例よりも短く、0.623nsで積層基板2b内の電磁波が低減することが確認できた。さらに、実施例2では、実施例1よりも、電磁波が低減されている領域が広く、一段と電磁波が低減されていることが確認できた。
【0118】
次に、図10A及び図11Aに示した比較例の解析結果と、図10B及び図11Bに示した実施例1の解析結果と、図10C及び図11Cに示した実施例2の解析結果とにおいて、図12に示した測定(計算)場所Pb1,Pb2,Pb3の3箇所の位置での具体的な電界強度をそれぞれ計算したところ、図13に示すような結果が得られた。
【0119】
図13の結果からも、実施例1及び実施例2は、電界強度が低くなるまでの時間が比較例よりも短く、短時間で電磁波を低減できることが確認できた。さらに、実施例2は、実施例1よりも電界強度がさらに短時間で低くなることが確認できた。このことからも、シールドビアV~V及び金属壁付シールドビアV21~V25は、積層基板2b内で拡散する不要電磁波を吸収することで、比較例よりも短時間に、積層基板2b内の不要電磁波を低減できることが確認できた。
【0120】
(6)作用及び効果
以上の構成において、本発明による回路基板2では、複数の誘電体層2eが積層された積層基板2bの内部に、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有するシールドビアV~V12を設けるようにした。これにより、回路基板2では、回路基板2の内部に発生した不要電磁波を、単にシールドビアV~V12で反射させて低減させるだけでなく、シールドビアV~V12により吸収することができるので、その分、従来よりも回路基板2内のノイズを低減することができる。
【0121】
そして、本実施形態では、このように積層基板2bの内部にシールドビアV~V12を設けることで、積層基板2bの内部で拡散する不要電磁波をシールドビアV~V12で吸収し、回路基板2の内部のノイズを低減するノイズ低減方法を実現できる。
【0122】
また、回路基板2の内部に設けるミリ波吸収体として、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する支柱部18aの1/3周以上2/3周以下の外周壁に金属壁18bを設けた金属壁付シールドビアV21~V25を設けることで、例えば、電磁波が支柱部18aで反射する反射波と、入射波が金属壁18bで反射して戻ってくる反射波とを干渉させ、インピーダンス整合により相殺させることもできる。これにより、金属壁付シールドビアV21~V25の小型化を図りつつ、従来よりも回路基板2内のノイズを低減することができる。
【0123】
ところで、従来の基板加工プロセスでは、高周波信号を遮蔽するのに十分な密度で金属製シールドビアを配置することは難しいことから、金属製シールドビアの間から送信信号が基板内層に若干漏洩してしまうことがある。一般に送信信号は大強度の高周波信号であり、受信信号は微弱な高周波信号である。そのため、僅かな割合の送信信号が漏洩しても一旦受信信号に混入すれば、通信機器全体の通信品質が大きく損なわれてしまう。
【0124】
また、十分密に金属製シールドビアを配置可能な特殊プロセス(例えば、低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics)やマイクロマシニング技術)を用いて、回路基板内に金属製シールドビアを密に配置することも考えられるが、製造コストが増大し、通信機器自体の大幅な価格上昇を招く恐れもある。
【0125】
これに対して、回路基板2では、シールドビアV~V12が不要電磁波を吸収し、回路基板2内のノイズを低減させるようにしたことから、従来の基板加工プロセスを用いて、十分な密度でシールドビアV~V12を配置できなくても、回路基板2内のノイズを低減させることができる。よって、回路基板2では、従来の基板加工プロセスに大きな変更を加えることなく、回路基板2内で発生する不要電磁波を一段と抑制し、回路基板2内のノイズを低減させることができる。
【0126】
また、本実施形態では、十分密にシールドビアV~V12を配置することができる、高価な特殊プロセスを用いずに、従来の安価な基板加工プロセスをそのまま用いて回路基板2内のノイズを低減させることができるので、製造プロセスの変更による製造コストの増大を防ぎ、通信品質の高い通信機器や通信システムを安価に供給することができる。
【0127】
(7)他の実施形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態では、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として、円柱状のシールドビア及び金属壁付シールドビアについて説明したが、本発明はこれに限らず、楕円形支柱や四角形柱状、多角形柱状など、種々の支柱状に形成されたシールドビア及び金属壁付シールドビアであってもよい。
【0128】
また、他のミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体としては、図14A及び図14Bに示すように、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する電磁波吸収材料により柱状に形成された第1支柱部28aと、金属材料により支柱状に形成された第2支柱部28bとを備え、これら第1支柱部28aと第2支柱部28bとが交互に積層されて柱状に形成されたシールドビアV35,V36であってもよい。なお、第2支柱部28bは、電磁波の反射特性の点から、例えば、アルミニウム、チタン、SUS、銅、真鍮、銀、金、白金などの金属材料であることが好ましい。
【0129】
さらに、他のミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体としては、図14Cに示すように、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する半円柱状の第1半体部29aと、金属材料からなる半円柱状の第2半体部29bとを備え、これら第1半体部29aと第2半体部29bとを接合して円柱状に形成されたシールドビアV37であってもよい。なお、これら第1半体部29aと第2半体部29bは、半円柱状以外にも半楕円柱状や半四辺柱状などの種々の半柱状に形成し、これら第1半体部29aと第2半体部29bとを接合して種々の柱状に形成されるシールドビアであってもよい。なお、第2半体部29bは、電磁波の反射特性の点から、例えば、アルミニウム、チタン、SUS、銅、真鍮、銀、金、白金などの金属材料であることが好ましい。このようなシールドビアV37でも、金属壁付シールドビアV21と同様に、例えば、電磁波が第1半体部(吸収部)29aで反射する反射波と、入射波が第2半体部(反射部)29bで反射して戻ってくる反射波とを干渉させ、インピーダンス整合により相殺させることもできる。
【0130】
また、上述した実施形態において、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として、例えば、図15に示すように、積層基板2bを構成する誘電体層2b~2bを全層貫通するシールドビアV38について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、積層基板2bの表面側に位置する誘電体層2b,2bのみ貫通し、積層基板2bの表面と内層を貫通するシールドビアV39,V41であってもよい。
【0131】
さらに、他のミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体としては、図15に示すように、積層基板2bの内層である誘電体層2bのみを貫通し、積層基板2bの表面から外部に露出しないシールドビアV40であってもよい。このような構成であっても、回路基板2の内部に発生した不要電磁波を、シールドビアV39,V40,V41により吸収することができるので、その分、従来よりも回路基板2内のノイズを低減することができる。なお、上述したシールドビアV39,V40,V41を金属壁付シールドビアとしてもよい。
【0132】
また、上述した実施形態においては、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として、柱状のシールドビアや金属壁付シールドビアについて説明したが本発明はこれに限らず、図16に示すように、30~300GHz帯域内に電磁波吸収量の最大ピークを有する電磁波吸収材料を、積層基板2bの面方向に沿って設けた層状のシールド層2bとしてもよい。このような構成であっても、例えば、回路基板2の内部に発生した不要電磁波を、シールド層2bにより吸収することができるので、その分、従来よりも回路基板2内のノイズを低減することができる。
【0133】
なお、図16では、送信用給電線7bを囲むようにして送信用給電線7bの両側にシールド層2bを設けた構成とし、送信用給電線7bから拡散する不要電磁波を、両側のシールド層2bにより吸収する構成としている。この場合、図16に示すシールド層2bは一層としているが、例えば、複数のシールド層2bを所定間隔で積層して複数層とした構成としてもよい。また、このようなシールド層2bに加えて、上述した電磁波吸収材料により形成した本発明のシールドビアVを同時に設けるようにしてもよく、また、金属壁付シールドビアと組み合わせた構成としてもよい。
【0134】
なお、上述した実施形態において、給電線として、送信用給電線7bの周囲にシールドビア又は金属壁付シールドビアを設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、受信アンテナに接続された受信用給電線の周囲にシールドビア又は金属壁付シールドビアを設けるようにしてもよい。
【0135】
また、回路基板の内部に設けられる従来の金属製シールドビアのうち、1つ以上を、本実施形態におけるシールドビアや金属壁付シールドビア、シールド層に変えるだけでもよく、この場合でも、従来に比して、回路基板2内の電磁波を低減させることができる。
【0136】
(8)<他の実施形態における金属壁付壁部>
(8-1)<金属壁付壁部の構成>
なお、上述した実施形態においては、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として、柱状のシールドビアV~V12や金属壁付シールドビアV21、積層基板2bの面方向に沿って設けた層状のシールド層2b等を、積層基板2b内に設けた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、図2と同一部分について同一符号を付した図17と、図3と同一部分について同一符号を付した図18Aのように、壁状に形成された金属壁付壁部32を、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として積層基板2b内に設けるようにしても良い。
【0137】
図17及び図18Aに示すように、金属壁付壁部32は、上述した実施形態と同じ電磁波吸収材料で壁状に形成された壁部34と、壁部34の長手方向に沿って伸びる第1側面36aに壁状に形成された金属壁(反射部)35とを有しており、これら壁部34及び金属壁35とが積層基板2bの厚みを貫通するように設けられている。壁部34は、金属壁35が設けられた第1側面36aと対向する第2側面36bに金属壁35が設けられておらず、壁部34の第2側面36bが積層基板2b内に露出している。
【0138】
なお、この積層基板2bでは、金属製で支柱状に形成された従来のビアVを、送信用給電線11を囲むように、送信用給電線11の経路に沿って配置し、電磁波吸収材料で形成された壁部34を有した金属壁付壁部32を設けるようにしたが、本発明はこれに限らない。例えば、金属壁付壁部32に加えて、上述した電磁波吸収材料でなるシールドビアV~V12や金属壁付シールドビアV21、層状のシールド層2b等を設けるようしてもよい。
【0139】
この場合、金属壁付壁部32は、金属壁35が形成されていない、壁部34の第2側面36bを送信用給電線11側に配置し、壁部34を介在させて金属壁35を送信用給電線11に対向させている。
【0140】
金属壁付壁部32は、送信用給電線11から金属壁付壁部32に向けて拡散する不要電磁波を、入射波として壁部34に入射させ、壁部34で減衰させることができる。金属壁付壁部32は、ミリ波帯において壁部34で自然共鳴を生じさせ、自然共鳴によりミリ波帯不要電磁波を効果的に吸収できる。
【0141】
また、金属壁付壁部32は、壁部34を構成する電磁波吸収材料の比誘電率及び比透磁率と、壁部34の厚さH1とを調整することで、壁部34の第2側面36bで反射する反射波(表面反射波)と、壁部34で吸収しきれない入射波が金属壁35に反射して戻ってくる反射波(金属壁反射波)とを干渉させて、インピーダンス整合により相殺させることができる。このように、金属壁付壁部32は、36bでの表面反射波と金属壁反射波とを干渉させて、インピーダンス整合により相殺させることで、送信用給電線11から金属壁付壁部32に向けて拡散する不要電磁波を吸収し得、積層基板2b内のノイズを一段と迅速に低減させることができる。
【0142】
なお、上述した実施形態においては、金属壁35が形成されていない壁部34の第2側面36bを送信用給電線11側に配置し、壁部34を介在させて金属壁35の内壁を送信用給電線11に対向させるように配置した金属壁付壁部32について説明したが、本発明はこれに限らず、金属壁付壁部32を送信用給電線11に対して種々の位置に配置させてもよい。また、金属壁付壁部32は、積層基板2bの内部に垂直に配置させたが、本発明はこれに限らず、積層基板2bの厚み方向に対して所定角度を設けて、斜め方向等の傾斜を設けて積層基板2b内に設けるようにしてもよい。
【0143】
本実施形態では、金属壁付壁部32の壁部34の厚さH1は数百μm(79GHz帯では特に100~200μmが望ましい)とすることが望ましいが、壁部34の厚さH1は、不要電磁波のミリ波帯域などにより選定することが望ましい。
【0144】
なお、このような金属壁付壁部32は、例えば、上述した「(4-3)<金属壁付シールドビアの製造方法>」に従って、同様に、積層基板2b内に作製することができる。
【0145】
(8-2)<シミュレーション試験>
ここで、図19は、構成が異なる比較例1、比較例2及び実施例3について、FDTD法によるシミュレーション試験を行い、電磁界解析を行った解析結果を示す画像である。
【0146】
比較例1は、図17に示した構成と同様に、積層基板2b内に従来の金属製のビアVや送信用給電線11等を定義し、金属壁付壁部32ついては設けない擬似構成体とした。比較例2は、図17の構成と同様に、従来の金属製のビアVや送信用給電線11等を積層基板2b内に定義し、さらに、金属壁付壁部32の替わりに、金属製の金属壁37を、金属壁付壁部32と同じ位置に定義した擬似構成体とした。実施例3は、図17に示すように、積層基板2b内に従来の金属製のビアVや送信用給電線11等を定義するとともに、積層基板2b内に金属壁付壁部32を定義した擬似構成体とした。
【0147】
FDTD法によるシミュレーション試験において、ビアVのビア直径Hを175μm、高さを644μmの円柱状の構造体としてそれぞれ定義した。金属製のビアV及び金属壁37,35は完全導体とし、金属壁付壁部32の壁部34は比誘電率21.7、比透磁率1.20とした。
【0148】
また、比較例2では、金属壁37の厚さを175μmと定義した。実施例3では、壁部34の厚さを175μm、金属壁35の厚さを0μmと定義(すなわち、厚み無しの金属面として定義)した。
【0149】
そして、比較例1、比較例2及び実施例3では、図18Bに示したような波形で、おおよそ79GHz帯にピークを有するパルス波を送信用給電線11に入射し、送信用給電線11から積層基板2b内にミリ波の電磁波を放射してから約2ns経過するまでに取得した、積層基板2b内での80GHzの電界強度分布を求めた。
【0150】
その結果、比較例1では、図19の19A(図中、「壁:なし」と表記)に示すような電界強度分布となり、比較例2では、図19の19B(図中、「壁:完全導体」と表記)に示すような電界強度分布となり、実施例3では、図19の19C(図中、「壁:ミリ波吸収体」と表記)に示すような電界強度分布となった。
【0151】
比較例1、比較例2及び実施例3の電界強度の評価については、図19の各画像内の配色により行った。なお、図19は、実際はカラー画像であり、電界強度は、赤>橙>黄>緑>青>紫の順に高く示され、暖色系が、電磁波が大きいことを表すものとなる。
【0152】
図19では、いずれも送信用給電線11の配置位置において色が濃く示されているが、実際にはこの領域は赤や橙などの暖色系となっており、電磁波が大きいことを示していた。図19の19A、19B及び19Cの各解析結果において、それぞれ同じ測定(計算)場所Pc1,Pc2,Pc3で具体的な電界強度をそれぞれ計算したところ、図20に示すような結果が得られた。なお、図20において、例えば、測定場所Pc1に示す「6.11,19.6,0.752」の数値は、図19中のPc1の位置(x座標、y座標、z座標)を示す。
【0153】
測定場所Pc1は、図19の19B及び19Cにおいて、送信用給電線11と対向した金属壁35及び金属壁付壁部32で、送信用給電線11の配置領域を金属壁35及び金属壁付壁部32で区切った領域の所定位置を示す。測定場所Pc2は、図19の19B及び19Cにおいて、送信用給電線11を囲む所定のビアVと金属壁35(金属壁付壁部32)とで挟まれた領域の所定位置を示す。測定場所Pc3は、図19の19B及び19Cにおいて、金属壁35及び金属壁付壁部32で遮蔽されていない、送信用給電線11及びビアVの上方位置を示す。
【0154】
図19の19A及び図20に示したように、ビアVのみを設けた比較例1では、ビアVに囲まれた領域内で電磁波が大きく、ビアVが設けられていない送信用給電線11の下方領域で左右に向けて電磁波が広がっていることが確認できた。
【0155】
また、図19の19B及び図20に示したように、金属壁37を設けた比較例2では、送信用給電線11の配置領域を金属壁37で区切った領域にある測定場所Pc1で電磁波が低くなっており、金属壁37で電磁波が遮蔽できることが確認できたが、その一方で、送信用給電線11と金属壁37との間の領域にある測定場所Pc2で、比較例1よりも電磁波が大きくなった。従って、比較例2では、送信用給電線11からの電磁波が金属壁37で反射し、反射した電磁波が再びビアVで反射するなどして、送信用給電線11と金属壁37との間に電磁波が篭もってしまい、測定場所Pc2で比較例1よりも電磁波が大きなってしまうことが確認できた。
【0156】
これに対して、金属壁付壁部32を設けた実施例3では、図19の19C及び図20に示したように、送信用給電線11の配置領域を金属壁37で区切った領域にある測定場所Pc1で電磁波が低く、さらに、送信用給電線11と金属壁37との間の領域にある測定場所Pc2でも電磁波が低くなることが確認できた。これにより、実施例3では、積層基板2b内で拡散する不要電磁波を、金属壁付壁部32によって吸収して、積層基板2b内の不要電磁波を低減できることが確認できた。
【0157】
次に、比較例2及び実施例3について、上述したFDTD法によるシミュレーション試験を行った際の電界強度の時間依存性について調べた。その結果、比較例2では、図21Aに示すような結果が得られ、実施例3では、図21Bに示すような結果が得られた。
【0158】
図21Aでは、図18Bに示すような波形で、おおよそ79GHz帯にピークを有するパルス波を送信用給電線11に入射した後から30s、40s、44s、53sが経過したときの比較例2での電界強度を示している。一方、図21Bでは、同じく図18Bに示すような波形で、おおよそ79GHz帯にピークを有するパルス波を送信用給電線11に入射した後から30s、40s、44sが経過したときの実施例3での電界強度を示している。
【0159】
図21Aの結果から、比較例2では、パルス波を送信用給電線11に入射した後から53sが経過しても、積層基板2b内で送信用給電線11と金属壁37との間の領域に、電磁波が残留し続けることが確認できた。一方、実施例3では、図21Bの結果から、積層基板2b内に電磁波が残留する時間が比較例2よりも短く、44sが経過したときには既に、積層基板2b内の電磁波が残留していないことが確認できた。
【0160】
以上より、図21Bの結果からも、実施例3は、電界強度が低くなるまでの時間が比較例2よりも短く、短時間で電磁波を低減できることが確認できた。このことから、金属壁付壁部32は、積層基板2b内で拡散する不要電磁波を吸収して、単に金属壁37を設けた比較例2よりも短時間に、積層基板2b内の不要電磁波を低減できることが確認できた。
【0161】
(9)<2つの金属壁付壁部を対向配置させた実施形態>
(9-1)<対向配置させた金属壁付壁部の構成>
上述した実施形態においては、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として、積層基板2b内に1つの金属壁付壁部32を設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として、積層基板2b内に2つ以上の金属壁付壁部を設けるようにしてもよい。例えば、図22に示すように、送信ポート43a及び受信ポート43bを設けた積層基板2b内に、対向する2つの金属壁付壁部32a,32bを設けた構成としてもよい。
【0162】
この場合、図22に示すように、回路基板41は、送信ポート43aと受信ポート43bとが所定間隔を設けて対向配置されている。なお、本実施形態は、一例として、送信ポート43aと受信ポート43bが左右対称に配置されている構成としている。
【0163】
送信ポート43aは、積層基板2bの端部に送信側の無線周波数集積回路15aが設けられており、当該無線周波数集積回路15aに送信用給電線11aの一端が接続されている。積層基板2b内の所定位置には、積層基板2bの厚みを貫通するように送信用の信号ビア13aが設けられており、この送信用の信号ビア13aに送信用給電線11の他端が設けられている。
【0164】
受信ポート43bは、積層基板2bの端部に受信側の無線周波数集積回路15bが設けられており、当該無線周波数集積回路15bに受信用給電線11bの一端が接続されている。積層基板2b内には、送信用の信号ビア13aと所定間隔を設けて受信用の信号ビア13bが、積層基板2bの厚みを貫通するように設けられており、この受信用の信号ビア13bに受信用給電線11b他端が設けられている。
【0165】
かかる構成に加えて、積層基板2b内には、第1の金属壁付壁部32aと第2の金属壁付壁部32bとが積層基板2bの厚みを貫通して並走して配置され、並走した第1の金属壁付壁部32aと第2の金属壁付壁部32bの間に、送信ポート43aと受信ポート43bとが設けられている。
【0166】
金属壁付壁部32a,32bは、上述した実施形態と同じ電磁波吸収材料で壁状に形成された壁部34a,34bと、壁部34a,34bの長手方向に沿って伸びる第1側面36aに壁状に形成された金属壁35a,35bとを有している。壁部34a,34bは、金属壁35a,35bが設けられた第1側面36aと対向する第2側面36bに金属壁35a,35bが設けられておらず、壁部34a,34bの第2側面36bが積層基板2b内に露出した構成を有する。
【0167】
そして、積層基板2b内に露出した壁部34aの第2側面36bと、同じく積層基板2b内に露出した壁部34bの第2側面36bと間に、送信ポート43aと受信ポート43bとが設けられている。
【0168】
金属壁付壁部32a,32bは、壁部34a,34bで反射する反射波と、壁部34a,34bで吸収しきれない入射波が金属壁35a,35bで反射して戻ってくる反射波とを干渉させて、インピーダンス整合により相殺するように、壁部34a,34bを構成する電磁波吸収材料の比誘電率及び比透磁率と、壁部34a,34bの厚さH1とを調整することで、送信用給電線11a及び受信用給電線11bから金属壁付壁部32a,32bに向けてそれぞれ拡散する不要電磁波を吸収し得、積層基板2b内のノイズを一段と迅速に低減させることができる。
【0169】
(9-2)<シミュレーション試験>
次に、図22に示したように、対向配置した金属壁付壁部32a,32bや送信ポート43a、受信ポート43b等を定義した擬似構成体を実施例4とし、この実施例4について、FDTD法によるシミュレーション試験を行い、電磁界解析を行った。また、図22に示した実施例4の構成のうち、対向配置した金属壁付壁部32a,32bを除いて、金属製のビアVで囲んだ送信ポート43aと受信ポート43bを定義した擬似構成体を、比較例3として、比較例3についても、FDTD法によるシミュレーション試験を行い、電磁界解析を行った。
【0170】
このFDTD法によるシミュレーション試験においても、同様に、ビアVのビア直径Hを175μm、高さを644μmの円柱状の構造体としてそれぞれ定義した。金属製のビアV及び金属壁35a,35は完全導体とし、金属壁付壁部32a,32bの壁部34a,34bは比誘電率21.7、比透磁率1.20とした。また、実施例4では、壁部34の厚さを175μm、金属壁35の厚さを0μmと定義(すなわち、厚み無しの金属面として定義)した。
【0171】
そして、比較例3及び実施例4では、図18Bに示したような波形で、おおよそ79GHz帯にピークを有するパルス波を送信用給電線11aに入射し、電界強度の時間依存性について調べた。その結果、比較例3では、図23Aに示すような結果が得られ、実施例4では、図23Bに示すような結果が得られた。
【0172】
図23A及び図23Bでは、図18Bに示すような波形で、おおよそ79GHz帯にピークを有するパルス波を送信用給電線11aに入射した後から23s、30s、37sが経過したときの比較例3及び実施例4の電界強度をそれぞれ示している。
【0173】
図23Aの結果から、金属壁付壁部32a,32bを設けない比較例3では、パルス波を送信用給電線11aに入射すると、受信ポート43bの周辺領域にも電磁波が広く拡散することが確認できた。一方、金属壁付壁部32a,32bを対向配置させ、これら金属壁付壁部32a,32bの間に送信ポート43aと受信ポート43bとを配置した実施例4では、図23Bの結果から、金属壁付壁部32a,32bによって、積層基板2b内で拡散する不要電磁波を吸収して、積層基板2b内の不要電磁波を低減できることが確認できた。
【0174】
(10)<金属壁付壁部の他の実施形態>
上述した実施形態においては、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として、直線的に伸びた金属壁付壁部32,32a,32bを積層基板2b内に設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図22と同一箇所に同一符号を付した図24Aのように、V字状に屈曲した金属壁付壁部52や、円弧状に曲がった金属壁付壁部55を、ミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体として、積層基板2b内に設けるようにしてもよい。また、その他の実施形態としは、円環状や、四辺状、三角形状、波線状、W次状等に形成した金属壁付壁部を適用してもよく、これら異なる形状の金属壁付壁部を組み合わせて積層基板2b内に設けるようにしてもよい。
【0175】
この場合、V字状に屈曲した金属壁付壁部52は、上述した実施形態と同じ電磁波吸収材料で壁状に形成された壁部53と、壁部53の長手方向に沿って伸びる第1側面36aに壁状に形成された金属壁54とを有している。金属壁付壁部52は、金属壁54が形成されていない、壁部53の第2側面36bを送信ポート43a及び受信ポート43b側に配置し、壁部53を介在させて金属壁54を送信ポート43a及び受信ポート43bに対向させている。
【0176】
また、円弧状に曲がった金属壁付壁部55は、上述した実施形態と同じ電磁波吸収材料で壁状に形成された壁部56と、壁部56の長手方向に沿って伸びる第1側面36aに壁状に形成された金属壁57とを有している。金属壁付壁部55は、金属壁57が形成されていない、壁部56の第2側面36bを送信ポート43a及び受信ポート43b側に配置し、壁部56を介在させて金属壁57を送信ポート43a及び受信ポート43bに対向させている。
【0177】
以上の構成を有した金属壁付壁部52,55でも、上述した実施形態と同様に、送信用給電線11a等から金属壁付壁部52,55に向けて拡散する不要電磁波を吸収し得、積層基板2b内のノイズを一段と迅速に低減させることができる。
【0178】
また、上述した実施形態においては、積層基板2bの厚みを貫通するように金属壁付壁部32,32a,32b,52,55を設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、積層基板2bの厚みを貫通しない高さの金属壁付壁部32,32a,32b,52,55を積層基板2b内に設けるようにしてもよい。
【0179】
また、上述した実施形態においては、金属壁35,35a,35b,54,57を壁部34,34a,34b,53,56の第1側面36aに設けた金属壁付壁部32,32a,32b,52,55を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、金属壁35,35a,35b,54,57が設けられていない、単なる壁部34,34a,34b,53,56を設けるようにしてもよい。
【0180】
また、その他のミリ波吸収体及び基板内蔵用ミリ波吸収体としては、図22と同一箇所については同一符号を付した図24Bのように、積層基板2b内に壁状に形成された金属壁65aの対向する両側面に、上述した実施形態と同じ電磁波吸収材料で壁状に形成された壁部64a,66aを設けた金属壁付壁部62aを適用してもよい。
【0181】
なお、図24Bでは、一例として、送信ポート43aの信号ビア13aと、受信ポート43bの信号ビア13bの間を避けるように、送信ポート43a及び受信ポート43bの間に2つの金属壁付壁部62a,62bを直列に配置させた構成としている。
【0182】
なお、図24Bにおいては、例えば、送信ポート43aの信号ビア13aと、受信ポート43bの信号ビア13bとの間の領域が小さく、送信ポート43aの信号ビア13aと、受信ポート43bの信号ビア13bとの間に金属壁付壁部62aが配置できない構成であるため、送信ポート43aの信号ビア13aと、受信ポート43bの信号ビア13bとの間の領域を避けて、金属壁付壁部62a,62bを設けている。
【0183】
ここで、金属壁付壁部62a,62bは同一構成でなるため、1つの金属壁付壁部62aに着目して以下説明する。金属壁付壁部62aは、上述した実施形態と同じ電磁波吸収材料で壁状に形成された壁部64a,66aと、壁部64a,66aの長手方向に沿って伸び、かつ並走する壁部64a,66a間に配置された壁状の金属壁65aとを有している。
【0184】
この場合、壁部64a,66aは、第1側面36aに金属壁65aが形成され、第1側面に対向する第2側面36bに金属壁65aが形成されておらず、第2側面36bが積層基板2b内に露出している。金属壁付壁部62aは、壁部64aの第2側面36bを受信ポート43b側に配置し、もう1つの壁部66aの第2側面36bを送信ポート43a側に配置し、壁部64a,66aを介在させて金属壁65aを送信ポート43a及び受信ポート43bに対向させている。
【0185】
以上の構成を有した金属壁付壁部62a,62bでは、送信用給電線11aから金属壁付壁部52,55に向けて拡散する不要電磁波を、壁部66a,66b側で主に吸収し、一方、受信用給電線11bから金属壁付壁部62a,62bに向けて拡散する不要電磁波を、もう1つの壁部66a,66b側で主に吸収し、積層基板2b内のノイズを一段と迅速に低減させることができる。
【符号の説明】
【0186】
1 アンテナ素子
2 回路基板
2a 基材
2b 積層基板
2e 誘電体層
4 受信アンテナ(アンテナ)
5 送信アンテナ(アンテナ)
7a 受信用給電線(給電線)
7b 送信用給電線(給電線)
Va,Vb,Vc,V~V12,V35~V41 シールドビア(ミリ波吸収体、基板内蔵用ミリ波吸収体)
21~V32 金属壁付シールドビア(ミリ波吸収体、基板内蔵用ミリ波吸収体)
2b シールド層(ミリ波吸収体、基板内蔵用ミリ波吸収体)
32,32a,32b,52,55,62a,62b 金属壁付壁部(ミリ波吸収体、基板内蔵用ミリ波吸収体)
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23A
図23B
図24A
図24B