(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】抗アレルギー剤及びアレルギー疾患の予防又は治療用食品組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/23 20060101AFI20220202BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220202BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220202BHJP
【FI】
A61K36/23
A61P37/08
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2017139846
(22)【出願日】2017-07-19
【審査請求日】2020-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000116297
【氏名又は名称】ヱスビー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】恩田 浩幸
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-010488(JP,A)
【文献】特開2012-012386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0160686(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103127383(CN,A)
【文献】J Med Food,2014年07月,Vol.17, No.8,pp.862-868
【文献】Shipin Yu Fajiao Gongye,2014年,Vol.40, No.4,pp.155-161
【文献】J Med Food,2014年07月,Vol.17, No.8,pp.862-868
【文献】Shipin Yu Fajiao Gongye,2014年,Vol.40, No.4,pp.155-161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/23
A61P 37/08
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリアンダーの
葉の粉砕物又は
水性溶媒若しくは水性溶媒と有機溶媒との混合物による抽出物を含む、I型アレルギー(但し、食物アレルギーを除く)に対する抗アレルギー剤。
【請求項2】
請求項
1に記載の抗アレルギー剤と飲食品とを含むアレルギー疾患の予防又は治療用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤に関する。本発明の抗アレルギー剤によれば、アレルギー疾患を予防、緩和、又は治療することができる。また、本発明はアレルギー疾患の予防又は治療用食品組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギーとは、免疫システムが通常は無害である抗原に対して応答し、結果として人体に悪影響を及ぼすことを意味する。アレルギー疾患には、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症、及び食物アレルギーなどがあり、日本人の30%以上が何らかのアレルギーを有しているとも言われている。
【0003】
花粉症に代表されるI型アレルギーは、リンパ球の一種であるB細胞が産生するIgEが原因となり、発症する。花粉症の場合、花粉をアレルゲン(抗原)として認識し、特異的に結合するIgEが体内で産生されるとIgEはIgE受容体(FcεRI)を介して好塩基球やマスト細胞表面に結合する。そして、アレルゲンである花粉が体内に侵入すると、IgEと結合し、これが刺激となって好塩基球やマスト細胞の細胞内にシグナルが伝達され、ヒスタミンなどのアレルギー症状を引き起こす物質を保持している顆粒が細胞から放出される。この現象を脱顆粒と呼ぶ。脱顆粒により細胞外に放出されたヒスタミンが粘膜を刺激し、アレルギー症状が発症する。従って、アレルギー症状を予防又は治療するためには、好塩基球やマスト細胞による顆粒の放出を抑制することが重要である。
【0004】
アレルギーを抑制及び治療するために、種々の研究活動が行われている。その中でも、食品に由来する成分は安全性に優れており、抗アレルギー効果を有する様々な成分が報告されている。例えば、特許文献1には、アポラクトフェリンを含む抗アレルギー剤が記載されている。また、特許文献2には、酒粕を含む抗アレルギー剤が記載されている。しかしながら、所望の抗アレルギー効果を十分に有しており、食品又は医薬品として実際に使用できる安全な物質の開発は未だなされていない現状にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-236623号公報
【文献】特開2009-292785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、日常的に摂取することができ、副作用の心配がなく、優れた効果が期待できる安全な抗アレルギー剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、安全な抗アレルギー剤について鋭意検討した結果、驚くべきことにコリアンダー抽出物が抗アレルギー効果を示すことを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]コリアンダーの粉砕物又は抽出物を含む、抗アレルギー剤、
[2]I型アレルギーに対する抗アレルギー剤である、[1]に記載の抗アレルギー剤、
[3]コリアンダーの粉砕物又は抽出物が、葉の粉砕物又は抽出物である、[1]又は[2]に記載の抗アレルギー剤、
[4]前記抽出物が、水性溶媒又は水性溶媒と有機溶媒との混合物による抽出物である、[1]~[3]のいずれかに記載の抗アレルギー剤、及び
[5][1]~[4]のいずれかに記載の抗アレルギー剤と飲食品とを含むアレルギー疾患の予防又は治療用食品組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗アレルギー剤によれば、アレルギー疾患の発症を予防し、又はその症状を緩和若しくは治療することができる。さらに、本発明の抗アレルギー剤によれば、脱顆粒を抑制することにより抗アレルギー効果を有し、かつ安全性の高い飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】コリアンダー(パクチー)の生葉からリン酸ナトリウム緩衝液を用いて抽出物を調製する方法を示した図である。
【
図2】RBL-2H3細胞の脱顆粒に対するパクチー葉水溶性抽出物の抑制効果を示したグラフ(A)及びパクチー葉水溶性抽出物の細胞毒性を調べたグラフ(B)である。
【
図3】パクチー葉水溶性抽出物(CLE)による細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定したグラフである。
【
図4】A23187刺激による脱顆粒に対するCLEの抑制効果(A)及び細部内カルシウムイオン濃度の変化(B)を示したグラフである。
【
図5】タプシガルギン刺激による脱顆粒に対するCLEの抑制効果(A)及び細部内カルシウムイオン濃度の変化(B)を示したグラフである。
【
図6】脱顆粒シグナル伝達に及ぼすパクチー葉水溶性抽出物の影響をウエスタンブロッティングにより検討した写真及びグラフである。
【
図7】細胞内の脱顆粒シグナル伝達を示した模式図である。
【
図8】スギ花粉症モデルマウスに対するCLEの経口投与の実験プロトコールを示した図である。
【
図9】CLEが経口投与されたスギ花粉症モデルマウスにおけるくしゃみの回数(A)及び鼻の引掻く行動(B)を示したグラフである。
【
図10】CLEが経口投与されたスギ花粉症モデルマウスにおけるトータルIgE及びIgG濃度を示したグラフである。
【
図11】CLEが経口投与されたスギ花粉症モデルマウスにおけるスギ花粉抗原特異的IgE及びIgG濃度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]抗アレルギー剤
本発明の抗アレルギー剤は、コリアンダーの粉砕物又は抽出物を含む。コリアンダーの使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げることができるが、好ましくは、葉又は茎である。コリアンダーは、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
コリアンダーは、タイ語でパクチーとも呼ばれ、特に生食する葉をパクチーと称することがある。
【0011】
《粉砕物》
本発明におけるコリアンダーの粉砕物は、コリアンダーが粉砕された状態のものであれば特に限定されるものではないが、例えば、粉末状、粒状、又はペースト状の粉砕物が挙げられるが、好ましくは粉末である。また、粉末を、例えば、キューブ状、ブロック状、又は顆粒状に成型又は造粒したものも好ましく使用できる。粉砕物に加工するための処理は、特に限定されないが、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、ミキサー、及び石臼などの粉砕用の機器又は器具を用いて、当業者が通常使用する任意の方法により植物体を粉砕する処理が挙げられる。粉砕前に、植物体を乾燥してもよい。乾燥の処理法としては、凍結乾燥、減圧乾燥、送風乾燥又は加熱乾燥が挙げられる。
【0012】
本発明の抗アレルギー剤に含まれるコリアンダーが粉砕物である場合、限定されるものではないが、例えば、コリアンダー粉砕物の平均最長径が、0.01~2mm、好ましくは、0.01~1.5mm、より好ましくは0.01~1mm、さらに好ましくは0.01~0.75mm、最も好ましくは0.01~0.5mmのものを使用することができる。また、コリアンダー粉砕物の90重量%以上が、0.01~2mm、好ましくは、0.01~1.5mm、より好ましくは0.01~1mm、さらに好ましくは0.01~0.75mm、最も好ましくは0.01~0.5mmの最長径を有するものを使用することができる。また、コリアンダー粉砕物の90重量%以上が、JIS試験篩いメッシュ換算表において、8.6メッシュ(2mm)、10メッシュ(1.7mm)、16メッシュ(1mm)、又は30メッシュ(0.5mm)を通過するものを使用することができる。コリアンダー粉砕物の最長径が2mm以下であると、本発明の抗アレルギー効果が向上することから、最長径が2mm以下のものを使用することが好ましい。コリアンダーの平均最長径の計測は、粒径を計測するための公知の機器を使用して行うことができる。また、コリアンダーの粉砕物の中から任意で100個を選択して、それらの最長径を実体顕微鏡を用いて測定し、それらの平均を計算することで算出することもできる。
【0013】
《抽出物》
有効成分を含む抽出物は、植物に由来する成分の抽出に用いられる通常の抽出方法によって抽出することができる。抽出法としては、限定されるものではないが、溶剤抽出法、水蒸気蒸留法、圧搾法(直接、高温、若しくは低温)、又は超臨界抽出法が挙げられる。また、これらの抽出法の組み合わせ、例えば圧搾した後に溶剤抽出する方法を用いてもよいが、好ましくは溶媒抽出である。抽出に用いるコリアンダーは、生のまま用いてもよく、又は乾燥させたものを用いてもよい。また、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工してから抽出してもよい。
【0014】
(溶剤抽出法)
溶剤抽出法で用いられる抽出溶媒は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されるものではない。例えば、有機溶媒、水性溶媒、又は有機溶媒及び水性溶媒の混合物を使用することができるが、好ましくは水性溶媒、又は有機溶媒及び水性溶媒の混合物であり、より好ましくは水性溶媒である。
【0015】
水性溶媒としては、水を含んでいる限りにおいて限定されるものではなく、例えば水、生理食塩水、又は緩衝液などを使用することができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、及びトリス緩衝液などが挙げられる。好ましい水性溶媒は、リン酸ナトリウム緩衝液である。前記水性溶媒のpHは、特に制限されない。
【0016】
有機溶媒としては、例えばアルコール、アセトン、ベンゼン、エステル、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、又はジエチルエーテルが挙げられる。アルコールとしては、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びブチルアルコール等の炭素数1~5の一価アルコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びグリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールが挙げられる。
【0017】
本発明の抗アレルギー剤に用いる抽出物は、有機溶媒と水性溶媒との混合物により抽出することができる。抽出溶媒中に含まれる水性溶媒の量は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、抽出溶媒の全体量に対して水性溶媒の含有量は、例えば、50重量%以上、70重量%以上、又は90重量%以上であることができる。
【0018】
前記抽出物を溶剤抽出法で抽出する場合、抽出温度は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることのできる温度である限り、特に限定されるものではないが、-50℃~100℃であることが好ましく、-25℃~50℃であることがより好ましく、-25℃~25℃であることがさらに好ましく、-10℃~10℃であることがさらに好ましく、0℃~10℃であることが最も好ましい。
【0019】
また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、根、茎、葉、花、果実、又は種子などの使用部分に応じて適宜決定することができる。また、抽出時間は、コリアンダーの状態、すなわち、生若しくは乾燥物であるか、又は破砕物若しくは粉体の状態に加工した場合にはその加工状態に応じて適宜決定することができる。さらに、抽出時間は、抽出液の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無などの抽出条件に応じて、適宜決定することができる。抽出時間は、通常、1分~72時間であり、1時間~48時間であることが好ましく、12時間~36時間であることが最も好ましい。
【0020】
(水蒸気蒸留法)
本発明の抗アレルギー剤に含まれるコリアンダーの抽出物は、水蒸気蒸留法により抽出することができる。水蒸気蒸留法とは、カラムに充填した原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法である。蒸留手段として、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、及び減圧水蒸気蒸留のいずれかを採用することができる。
【0021】
(圧搾法)
圧搾法とは、コリアンダーに物理的に圧力をかけて、抽出物を抽出する方法である。常温で行う直接圧搾法、高温で行う高温圧搾法、及び低温で行う低温圧搾法がある。本発明の抗アレルギー剤に含まれる抽出物は、いずれの圧搾法を用いても抽出可能である。
【0022】
(超臨界抽出法)
本発明の抗アレルギー剤に含まれる抽出物は、超臨界抽出法を用いて抽出可能である。超臨界抽出法とは、超臨界状態にある物質を用いて特定の植物から抽出物を抽出する方法である。超臨界状態にある物質としては、例えば二酸化炭素を用いることができる。超臨界状態にある二酸化炭素は、強力な溶解力を有するため、コーヒーの脱カフェイン、又は植物などの天然原料からの香料及び医薬品成分抽出にも一般に用いられている。
【0023】
《有効成分》
本発明の抗アレルギー剤に含まれる有効成分は、コリアンダーから抽出される抽出物に含まれている。したがって、コリアンダーは抗アレルギー効果を有する成分を含んでおり、コリアンダーの粉砕物も、抽出物に含まれる有効成分を含んでいる。従って、コリアンダーの粉砕物も抗アレルギー剤として使用可能である。
コリアンダー抽出物に含まれる有効成分としては、コリアンダー抽出物から分画した活性成分を含む画分、又は精製した活性成分でもよい。
【0024】
《アレルギー》
本発明の抗アレルギー剤が対象とするアレルギーは、特に限定されるものではないが、I型アレルギーが挙げられる。I型アレルギーとしては、例えばアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症、じんましん、食物アレルギー、動物アレルギー、アレルギー性結膜炎、アナフィラキシーショック、又はアレルギー性胃腸炎が挙げられる。本発明の本発明の抗アレルギー剤は、アレルギー疾患を発症した又は発症する可能性がある対象に対して、アレルギー疾患の発症を予防するか、又は発症したアレルギー疾患を緩和若しくは治療する効果を有する。
【0025】
I型アレルギー反応には、抗原特異的なIgE抗体とIgE特異的な高親和性IgE受容体FcεRIを有する肥満細胞及び好塩基球とが関与している。FcεRIを介して肥満細胞又は好塩基球の表面に結合しているIgEが抗原によって架橋されると、FcεRIが活性化されることでその下流へとシグナルが伝達され、ヒスタミン、ロイコトリエンC4、PAF、又は好酸球走化因子などの細胞内顆粒内容物が放出される。この現象を脱顆粒と呼ぶ。脱顆粒が生じた各組織において平滑筋収縮、血管透過性亢進、又は腺分泌亢進などが起こり、アレルギー症状が出現する。脱顆粒には、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇もまた関与している。本発明の抗アレルギー剤は、IgE抗体と抗原との抗原抗体反応を阻害することができる。本発明の抗アレルギー剤は、細胞内カルシウムイオン濃度上昇を抑制することができる。また、本発明の抗アレルギー剤は、脱顆粒シグナル伝達を阻害することができる。本発明の抗アレルギー剤は、これらの効果のうちの1つを有してもよく、又は2つ以上を有してもよい。
【0026】
本発明の抗アレルギー剤の投与剤型としては、特には限定がなく、経口剤及び非経口剤を挙げることができるが、経口剤が好ましい。前記経口剤は、例えば、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、及び丸剤等の固形状又は粉末状製剤、並びに懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、及びエキス剤等の液状製剤を挙げることができる。非経口剤としては、例えば、注射剤を挙げることができる。
【0027】
本発明の抗アレルギー剤は、コリアンダー粉砕物又はコリアンダー抽出物から成るものでもよく、またコリアンダー粉砕物又はコリアンダー抽出物を含むものでもよい。本発明の抗アレルギー剤が、コリアンダー粉砕物又はコリアンダー抽出物を含むものである場合、他の添加剤を含むことができる。
【0028】
本発明の抗アレルギー剤が経口剤である場合、他の添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、又は懸濁化剤を挙げることができ、具体的には、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどであることができる。
【0029】
本発明の抗アレルギー剤が非経口剤である場合、他の添加剤としては、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを挙げることができる。
【0030】
本発明の抗アレルギー剤は、コリアンダー粉砕物又は抽出物を、90重量%以上、50重量%以上、10重量%以上、又は1重量%以上含むことができる。
【0031】
本発明の抗アレルギー剤の投与量又は摂取量は、製剤形態、並びに使用する対象の年齢、性別、体重及びアレルギー症状の程度などに応じて適宜調整することができるが、当該抗アレルギー剤を投与又は摂取することで、アレルギー疾患の発症を予防するか、又は発症したアレルギー疾患を緩和若しくは治療することができる量であることが好ましい。具体的には、コリアンダー水性溶媒抽出物の添加量に換算して、0.01~1000mg/kg体重/日、好ましくは、0.1~750mg/kg体重/日、より好ましくは1~500mg/kg体重/日、さらに好ましくは5~400mg/kg体重/日、さらに好ましくは10~300mg/kg体重/日、さらに好ましくは15~200mg/kg体重/日、又は最も好ましくは20~150mg/kg体重/日であることができる。もちろん、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへの抗アレルギー剤の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0032】
本発明の抗アレルギー剤は、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物であってもよく、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びリス等のペット;牛及び豚等の家畜;マウス、ラット等の実験動物;並びに、動物園等で飼育されている動物等が挙げられる。
【0033】
本発明の抗アレルギー剤は、アレルギー予防又は治療用医薬組成物であることができる。前記医薬組成物には、医薬品及び医薬部外品が含まれる。医薬品としては、例えば、生薬製剤及び漢方製剤などを挙げることができる。医薬部外品としては、例えば、栄養ドリンク及び生薬含有保健薬などを挙げることができる。
【0034】
[2]抗アレルギー用食品組成物
本明細書において、食品組成物とは、本発明の抗アレルギー剤と食品又は飲料とを含むものを意味する。本発明の食品組成物は、本発明の抗アレルギー剤を含み、したがって、アレルギー予防又は治療用食品組成物として使用できる。
【0035】
食品としては、具体的には、サラダなどの生鮮調理品;ステーキ、ピザ、ハンバーグなどの加熱調理品;野菜炒めなどの炒め調理品;トマト、ピーマン、セロリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、及びアスパラガスなどの野菜及びこれら野菜を加工した調理品;クッキー、パン、ビスケット、乾パン、ケーキ、煎餅、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム類、チューインガム、クラッカー、チップス、チョコレート及び飴等の菓子類;うどん、パスタ、及びそば等の麺類;かまぼこ、ハム、及び魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品;チーズ、クリーム、及びバターなどの乳製品;みそ、しょう油、ドレッシング、ケチャップ、マヨネーズ、スープの素、麺つゆ、カレー粉、みりん、ルウ等の調味料類;豆腐などの大豆食品;ふりかけ、佃煮、シリアル等の農水産加工品;並びにこんにゃくなどを挙げることができる。
【0036】
飲料としては、例えば、コーヒー飲料;ココア飲料;前記の野菜から得られる野菜ジュース;グレープフルーツジュース、オレンジジュース、ブドウジュース、及びレモンジュース等の果汁飲料;緑茶、紅茶、煎茶、及びウーロン茶等の茶飲料;ビール、ワイン(赤ワイン、白ワイン、又はスパークリングワインなど)、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、及びリキュール類等のアルコール飲料;乳飲料;豆乳飲料;流動食;並びにスポーツ飲料などを挙げることができる。
【0037】
食品又は飲料には、動物に対する飼料及び飲料が含まれる。対象となる動物は、例えば、ヒトなどの霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、又はマウス等が挙げられる。
【0038】
これらの食品又は飲料には、所望により、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品添加物及び食品素材を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。これらの食品素材及び食品添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜決定することができる。
【0039】
これらの食品又は飲料は、例えば、レトルト及びオートクレーブなどの加熱加圧滅菌、バッチ式殺菌、プレート殺菌、通電加熱殺菌、マイクロ波加熱殺菌、並びに、インジェクション及びインフュージョンなどのスチーム殺菌などの一般的な殺菌処理を行うことができる。
【0040】
食品及び飲料には、機能性食品(飲料)及び健康食品(飲料)が含まれる。本明細書において「健康食品(飲料)」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品又は飲料を意味し、「機能性食品(飲料)」とは、前記「健康食品(飲料)」の中でも、生体調節機能(すなわち、アレルギー症状の発症の予防、又はアレルギー症状の緩和若しくは治療の機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品又は飲料を意味する。機能性食品及び健康食品は、顆粒状、固形状、液状、カプセル状、ゲル状、又は錠剤状であることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
《調製例1》
本調整例では、コリアンダー(パクチー)の生葉からリン酸ナトリウム緩衝液を用いて抽出物を調製した。調整方法を
図1に纏めた。
パクチーの生葉を刻み凍結乾燥することによって、粉末化した。パクチー葉凍結乾燥粉末を0.05g/mLとなるように、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(NaPB;pH7.4)に懸濁し、4℃で24時間抽出した。その後、遠心により不溶物を除去し、0.45μmのフィルターを用いて濾過滅菌した。
サンプル中の内在性酵素が抗アレルギー効果の試験に影響することを防ぐため、100℃、5分間の加熱処理により、内在性酵素を失活させた。得られたパクチー葉水溶性抽出物をCLEと称することがある。
【0043】
《実施例1:脱顆粒試験》
本実施例では、得られたCLEの脱顆粒試験を行った。
ラット好塩基球細胞株RBL-2H3細胞を、96穴培養プレート内の5%FBS-DMEM培地中で、2×105細胞/mLの細胞濃度で18時間前培養した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を1回洗浄した。次に、ジニトロフェニル(DNP)特異的IgEで2時間感作した。Tyrode緩衝液で細胞を2回洗浄した。Tyrode緩衝液で希釈したクミン水溶性抽出物サンプルを200μL/ウェルで添加して10分培養した。10分後、Tyrode緩衝液で希釈したパクチー葉水溶性抽出物サンプル溶液を吸引廃棄し、Tyrode緩衝液を200μL/ウェルで添加した。続いて抗原であるDNPを添加して30分間培養することで脱顆粒を誘導した後、上清を回収した。
【0044】
抗原刺激によって放出される顆粒中に含まれるβ-ヘキソサミニダーゼの放出量を指標として、CLEの脱顆粒抑制効果を評価した。具体的には、上清を回収した後、細胞を0.1%のTriton X-100を含む改良Tyrode緩衝液130μL中で、氷上で5秒間超音波処理し細胞を溶解した。上記で回収した上清と上記で得られた細胞溶解物の両方を、新しい96穴(50μL/ウェル)のマイクロプレートの各ウェルに移し、37℃で5分間インキュベートした。その後、0.1Mのクエン酸塩緩衝液(pH4.5)に溶解した3.3mM 4-ニトロフェニル2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド(基質液)100μLを各ウェルに添加し、さらに37℃で25分間インキュベートした。酵素反応は、2Mのグリシン緩衝液(pH10.4)を100μL添加することで停止した。反応液の吸光度を、マイクロプレート・リーダ(SH-8000Lab、コロナ・エレクトリック社)を使用して、波長405nmで測定した。脱顆粒の指標としてβ-ヘキソサミニダーゼ放出率(%)を、下式に従って算出した。
β-ヘキソサミニダーゼ放出率(%)=[(A上清-A上清のブランク)/{(A上清-A上清のブランク)+(A細胞溶解物-A細胞溶解物のブランク)}]×100
A:各ウェルの波長405nmでの吸光度
タンパク質濃度はローリー法に従って測定した。具体的には、Bio-Rad社のDCプロテインアッセイキットを用いて定量した。
【0045】
図2(A)に示すように、パクチー葉水溶性抽出物は、濃度依存的にRBL-2H3細胞の脱顆粒を抑制した。
また、パクチー葉水溶性抽出物の細胞毒性をWST-8法により測定したところ、
図2(B)に示すように、パクチー葉水溶性抽出物は脱顆粒を抑制する濃度で、細胞毒性を示さなかった。
また、パクチー葉水溶性抽出物を分画分子量14,000及び500の透析膜を用い透析し、脱顆粒の抑制効果を測定した。その結果、14,000及び500の透析膜による処理によって、活性が低下した。従って、分子量500以下の低分子画分に、脱顆粒を抑制する成分の少なくとも一部がある可能性が示唆された。
【0046】
《実施例2》
本実施例では、パクチー葉水溶性抽出物(CLE)による細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定した。タンパク質濃度4000μg/mLのCLEを、RBL-2H3細胞に添加し、ジニトロフェニル(DNP)特異的IgEによる刺激前後での細胞内カルシウムイオン濃度を経時的に測定した。その結果、
図3に示したように、CLEの添加により細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が抑制された。
【0047】
《実施例3》
本実施例では、A23187刺激による脱顆粒に対するCLEの抑制効果を検討した。
ジニトロフェニル(DNP)特異的IgEによる刺激に代えて、A23187による刺激(1μM)を行った以外は、実施例1の操作を繰り返した。
図4(A)に示すように、CLEは、A23187刺激による脱顆粒を濃度依存的に抑制した。
また、ジニトロフェニル(DNP)特異的IgEによる刺激に代えて、A23187刺激としたこと、及びCLEのタンパク質濃度を1000μg/mL、2000μg/mL、及び4000μg/mLとしたことを除いては、実施例2の操作を繰り返し、細胞内カルシウム濃度を測定した。
図4(B)に示すように、CLEはA23187刺激による細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制した。
【0048】
《実施例4》
本実施例では、タプシガルギン刺激による脱顆粒に対するCLEの抑制効果を検討した。
A23187刺激に代えて、タプシガルギンによる刺激(1μM)を行った以外は、実施例3の操作を繰り返した。
図5(A)及び(B)に示すように、CLEは、タプシガルギン刺激による脱顆粒を濃度依存的に抑制し、そして細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制した。
【0049】
《実施例5》
本実施例では、脱顆粒シグナル伝達に及ぼすパクチー葉水溶性抽出物の影響を検討した。
CLE(4000μg/mL)を添加してRBL-2H3細胞を培養した後、細胞破砕液を調製し、SDS-PAGEゲル電気泳動した。電気泳動後、ウエスタンブロッティングにより泳動タンパク質をPVDF膜に転写した。転写したPVDF膜をスキムミルクでブロッキングした後、各シグナル因子特異的抗体(Cell Signaling Technology社製)を用い反応させた。ペルオキシダーゼ標識した抗IgG抗体を反応させた後、基質液を反応させ、バンドを検出した。
その結果、
図6に示したように、CLEが、PI3Kタンパク質のリン酸化による活性化を抑制することが分かった。また、
図7に示すようにPLCγ及びAktは、PI3Kの下流因子であるが、PI3Kのリン酸化が抑制されることにより、PLCγ及びAktの活性化も抑制されていると考えられた(
図6)。
これらの結果から、CLEはPK3Iの活性化レベルを抑制することで、Ca
2+濃度依存的経路及び非依存的経路の両方を阻害しているのではないかと推察された。
【0050】
《実施例7》
本実施例では、スギ花粉症モデルマウスに対するCLEの効果を検討した。
スギ花粉症抗原(Cryj1及びCryj2)で抗原感作し、スギ花粉症を発症したマウスに対してCLEの経口投与による効果を検討した。実験プロトコールを
図8に示す。2.0μgのスギ花粉高原で7日連続して、計7回刺激した。7日間の抗原刺激中に、CLEを50mg/kg体重/day(低用量)及び250mg/kg体重/day(高用量)の2つの濃度で経口投与し、症状に対する効果を検討した。また血中抗体を測定した。
【0051】
最後の抗原刺激後15分間のくしゃみの回数を計測し結果、高用量投与群において顕著に症状改善効果が認められた(
図9A)。一方、同様に鼻の引掻く行動を計測した結果、有意差はなかったものの、高用量投与群において非感作群と同程度まで症状が緩和されることが明らかになった(
図9B)。
【0052】
また、血中の抗原非特異的IgE及びIgG1濃度を測定した結果、IgE及びIgGともに顕著に抑制されることが明らかになった(
図10)。また、スギ花粉抗原特異的な血中IgE及びIgG1を測定した結果、有意ではないものの、IgE濃度は抑制傾向が認められ、IgG濃度については、低用量投与群で顕著に抑制された(
図11)。