IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明治の特許一覧

<>
  • 特許-サイトカイン産生制御剤 図1
  • 特許-サイトカイン産生制御剤 図2
  • 特許-サイトカイン産生制御剤 図3
  • 特許-サイトカイン産生制御剤 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】サイトカイン産生制御剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20220202BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20220202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
A61K35/74 Z
A61K35/747
A61P43/00 105
A61P31/12
A61K31/715
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017084318
(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公開番号】P2018177740
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-04-16
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10741
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100195419
【弁理士】
【氏名又は名称】矢後 知美
(72)【発明者】
【氏名】北澤 春樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 聖也
(72)【発明者】
【氏名】狩野 宏
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】牧野聖也,Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1が産生する多糖体の免疫賦活効果,Milk Science,Vol.64, No.3,2015年,p.271-277,p.271右欄第2,3段落、p.274左欄第1段落~右欄第3段落、p.276左欄第2段落
【文献】牧野聖也,菌体外多糖を産生する乳酸菌で発酵したヨーグルトの免疫賦活作用,腸内細菌学雑誌,2015年,Vol.29,p.163-167,p.164左欄第2段落~右欄第3段落
【文献】牧野聖也、ほか5名,Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1の免疫調節作用,日本農芸化学会大会講演要旨集,2011年,p.55,Abstract No.2J14a15
【文献】松崎千秋、ほか5名,Leuconostoc mesenteroides NTM048株由来の菌体外多糖の免疫賦活能について,日本農芸化学会大会講演要旨集,公益社団法人日本農芸化学会,2015年,講演番号:2G41p12
【文献】Int. Immunopharmacol.,2006年,Vol.6,pp.8-13,Abstract
【文献】Mol. Nutr. Food Res.,2014年,Vol.58,pp.2080-2093,Figure 2
【文献】Enzyme Microb. Technol.,2014年,Vol.55,pp.113-120,Abstract, Fig.6
【文献】J. Food Sci.,2016年,Vol.81, No.5,pp.M1167-M1176,Tables 1-4
【文献】Int. Immunopharmacol., 2011, Vol.11, No.12, pp.2246-2250
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 - 35/768
A61K 31/00 - 31/80
A61P 1/00 - 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
さらに、抗ウイルス性のサイトカインの産生を上昇するための、請求項1に記載のサイトカイン産生制御剤。
【請求項3】
抗ウイルス性のサイトカインが、インターフェロンα、インターフェロンβのいずれかまたは両方である、請求項に記載のサイトカイン産生制御剤。
【請求項4】
有効成分であるEPSの摂取量が、1mg/kg/日以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のサイトカイン産生制御剤。
【請求項5】
有効成分であるEPSの摂取量が、5mg/kg/日以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のサイトカイン産生制御剤。
【請求項6】
有効成分であるEPSの摂取量が、10mg/kg/日以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のサイトカイン産生制御剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトカイン産生制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザ等の病原性ウイルスは、人類が常に直面している脅威であるといえる。ウイルスの脅威への対処については、生体内へのウイルスの侵入や増殖を最前線で防ぐ自然免疫系が重要であり、これには、インターフェロン等のサイトカインが関与していることが知られている。このような事情から、これまでに、サイトカインの産生を制御できる物質が、様々な分野で探索されている。
【0003】
例えば、特開2006-124382号公報(特許文献1)には、冬虫夏草の抽出物を有効成分とする樹状細胞活性化剤が記載されており、樹状細胞の活性化によるインターフェロンγの産生増強作用も記載されている。特開2009-256312号公報(特許文献2)には、インターフェロンγやインターロイキン-6の産生を誘導する作用を有する、クレモリス菌が産生する多糖類が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-124382号公報
【文献】特開2009-256312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、サイトカインの産生を制御できる様々な物質が探索されている。しかし、必ずしも十分な産生制御効果を得ることができなかったり、特定のサイトカインしか評価や検討されていないこともあった。
【0006】
そこで、本発明では、安全かつ簡便に摂取することができ、一方で十分なサイトカイン産生の制御作用を有するサイトカイン産生制御剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、乳酸菌に着目し、乳酸菌そのものの生理活性や、乳酸菌の代謝物の活用方法について、改めて詳細に検討した。そして、その結果として、所定の乳酸菌が菌体外に産生する多糖類(菌体外多糖(EPS))に、優れたサイトカイン産生制御の作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
[1]菌体外多糖(EPS)を有効成分とする、サイトカイン産生制御剤。
[2]抗ウイルス性のサイトカインの上昇作用を有する、[1]に記載のサイトカイン産生制御剤。
[3]炎症性のサイトカインの低下作用を有する、[1]に記載のサイトカイン産生制御剤。
[4]抗ウイルス性のサイトカインの上昇作用を有し、かつ炎症性のサイトカインの低下作用を有する、[1]に記載のサイトカイン産生制御剤。
[5]抗ウイルス性のサイトカインが、インターフェロンα、インターフェロンβのいずれかまたは両方である、[2]又は[4]のいずれかに記載のサイトカイン産生制御剤。
[6]炎症性のサイトカインが、インターロイキン-6である、[3]又は[4]のいずれかに記載のサイトカイン産生制御剤。
[7]Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが産生するEPSを有効成分とする、[1]~[6]のいずれか1つに記載のサイトカイン産生制御剤。
[8]有効成分であるEPSの摂取量が、1mg/kg/日以上である、[1]~[7]のいずれか1つに記載のサイトカイン産生制御剤。
【0009】
また、本発明には、以下の発明も包含される。
[a]Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、[7]又は[8]のいずれかに記載のサイトカイン産生制御剤。
[b-1]菌体外多糖(EPS)を用いることを特徴とする、サイトカイン産生の制御方法。
[b-2]菌体外多糖(EPS)を用いることを特徴とする、抗ウイルス性のサイトカイン産生の上昇方法。
[b-3]菌体外多糖(EPS)を用いることを特徴とする、炎症性のサイトカイン産生の低下方法。
[b-4]菌体外多糖(EPS)を用いることを特徴とする、抗ウイルス性のサイトカイン産生を上昇させ、かつ炎症性のサイトカイン産生を低下させる、方法。
[b-5]抗ウイルス性のサイトカインが、インターフェロンα、インターフェロンβのいずれかまたは両方である、[b-2]又は[b-4]のいずれかに記載の方法。
[b-6]炎症性のサイトカインが、インターロイキン-6である、[b-3]又は[b-4]のいずれかに記載の方法。
[b-7]EPSが、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが産生するEPSである、[b-1]~[b-6]のいずれか1つに記載の方法。
[b-8]Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、[b-7]に記載の方法。
[c-1]サイトカイン産生制御剤の製造における、菌体外多糖(EPS)の使用。
[c-2]抗ウイルス性のサイトカインの上昇作用を有する、サイトカイン産生制御剤の製造における、菌体外多糖(EPS)の使用。
[c-3]炎症性のサイトカインの低下作用を有する、サイトカイン産生制御剤の製造における、菌体外多糖(EPS)の使用。
[c-4]抗ウイルス性のサイトカインの上昇作用を有し、かつ炎症性のサイトカインの低下作用を有する、サイトカイン産生制御剤の製造における、菌体外多糖(EPS)の使用。
[c-5]抗ウイルス性のサイトカインが、インターフェロンα、インターフェロンβのいずれかまたは両方である、[c-2]又は[c-4]のいずれかに記載の使用。
[c-6]炎症性のサイトカインが、インターロイキン-6である、[c-3]又は[c-4]のいずれかに記載の使用。
[c-7]EPSが、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが産生するEPSである、[c-1]~[c-6]のいずれか1つに記載の使用。
[c-8]Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、[c-7]に記載の使用。
[d-1]サイトカイン産生制御剤の製造に使用するための、菌体外多糖(EPS)。
[d-2]抗ウイルス性のサイトカインの上昇作用を有する、サイトカイン産生制御剤の製造に使用するための、菌体外多糖(EPS)。
[d-3]炎症性のサイトカインの低下作用を有する、サイトカイン産生制御剤の製造に使用するための、菌体外多糖(EPS)。
[d-4]抗ウイルス性のサイトカインの上昇作用を有し、かつ炎症性のサイトカインの低下作用を有する、サイトカイン産生制御剤の製造に使用するための、菌体外多糖(EPS)。
[d-5]抗ウイルス性のサイトカインが、インターフェロンα、インターフェロンβのいずれかまたは両方である、[d-2]又は[d-4]のいずれかに記載の菌体外多糖(EPS)。
[d-6]炎症性のサイトカインが、インターロイキン-6である、[d-3]又は[d-4]のいずれかに記載の菌体外多糖(EPS)。
[d-7]EPSが、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが産生するEPSである、[d-1]~[d-6]のいずれか1つに記載の菌体外多糖(EPS)。
[d-8]Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、[d-7]に記載の菌体外多糖(EPS)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた効果を有するサイトカイン産生制御剤を提供できる。特に、本発明のサイトカイン産生制御剤は、有益な抗ウイルス性のサイトカインの産生を上昇させ、炎症反応等に関与し有害な炎症性のサイトカインの産生を低下させる効果を有するので、効果的にサイトカインの産生を制御できる。また、本発明の有効成分である菌体外多糖は、乳酸菌に由来するものであり、その安全性は長い食経験により十分に裏付けられたものであるから、本発明のサイトカイン産生制御剤は、安全かつ簡便に摂取できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例において、「Poly (I:C)」群のインターフェロンαの遺伝子発現量を1としたときの、「EPS」群及び「Control」群のインターフェロンα遺伝子発現量の相対値を示すグラフである。*印は、t検定において、「Poly (I:C)」群に対して危険率5%未満で有意差があることを示す。
図2】実施例において、「Poly (I:C)」群のインターフェロンβの遺伝子発現量を1としたときの、「EPS」群及び「Control」群のインターフェロンβ遺伝子発現量の相対値を示すグラフである。*印は、t検定において、「Poly (I:C)」群に対して危険率5%未満で有意差があることを示す。**印は、t検定において、「Poly (I:C)」群に対して危険率1%未満で有意差があることを示す。
図3】実施例において、「Poly (I:C)」群のインターロイキン6の遺伝子発現量を1としたときの、「EPS」群及び「Control」群のインターロイキン6遺伝子発現量の相対値を示すグラフである。*印は、t検定において、「Poly (I:C)」群に対して危険率5%未満で有意差があることを示す。
図4】実施例において、「Poly (I:C)」群のトール様受容体3の遺伝子発現量を1としたときの、「EPS」群及び「Control」群のトール様受容体3遺伝子発現量の相対値を示すグラフである。*印は、t検定において、「Poly (I:C)」群に対して危険率5%未満で有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、菌体外多糖(EPS)を有効成分とする、サイトカイン産生制御剤である。菌体外多糖とは、ある種の乳酸菌等が産生し、その菌体外へ産生する多糖類である。例えば、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1(FERM BP-10741)株は、中性多糖体と、中性多糖体にリン酸基が付加した酸性多糖体を産生することが知られている。また、その他に、Lactococcus lactis subsp. cremoris等も中性多糖体を産生する株があることが知られている。本発明に用いられる菌体外多糖は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば酸性多糖体と中性多糖体を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明に用いられる菌体外多糖は、菌体外多糖を含む乳酸菌の培養物をそのまま精製せずに用いてもよいし、例えば特開2000-247895号に記載された方法等をもちいて、菌体外多糖を含む乳酸菌の培養物から単離もしくは必要に応じてさらに精製された菌体外多糖を用いてもよい。また、例えば乳酸菌の培養物を、当該培養物の濃縮物、ペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、媒体に分散させた液状物、希釈物、乾燥物を破砕した破砕物などの、処理工程を得た被処理物として用いてもよい。
【0014】
本発明のサイトカイン産生制御剤は、ヒトをはじめとする哺乳動物に摂取されることによって、その機能を発揮する。なお、ここにいう「摂取」とは、ヒトの体内に入るものであれば投与経路に限定はなく、例えば、経口投与、経管投与、経腸投与など、公知の投与方法の全てによって実現され得る。このとき、典型的には、消化管を経由する経口摂取、経腸摂取が挙げられるが、経口摂取が好ましく、飲食による摂取がより好ましい。
【0015】
菌体外多糖を有効成分とする本発明のサイトカイン産生制御剤の投与量は、投与経路、年齢、体重、症状などの種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。本発明のサイトカイン産生制御剤の投与量は、特に限定されないが、有効成分である菌体外多糖の量として、好ましくは1mg/kg/日以上、より好ましくは5mg/kg/日以上、特に好ましくは10mg/kg/日以上である。しかし、長期間にわたって摂取する場合には、上記の好ましい量より少量であってもよい。また、本発明で用いられる有効成分は、十分な食経験がある乳酸菌に由来するものであり、安全性の面で問題がないので、本発明のサイトカイン産生制御剤の投与量は、有効成分である菌体外多糖の量として、上記の量を大きく超える量(例えば、100mg/kg/日以上)でもよい。
【0016】
本発明のサイトカイン産生制御剤の単位包装あたりの重量は特に限定されないが、例えば、その重量は10g以上500g以下の範囲内であることが好ましく、25g以上250g以下の範囲内であることがより好ましく、50g以上200g以下の範囲内であることがさらに好ましく、75g以上150g以下の範囲内であることが最も好ましい。また、上記の単位包装とは、袋、箱、容器当たりの単位包装のみならず、それらに含まれる一回あたりの単位包装であってもよいし、一日当たりの単位包装であってもよい。なお、複数の日数、例えば1週間分の摂取に適切な数量をまとめて包装したもの、または複数の個包装を含むもの等とすることもできる。
【0017】
本発明のサイトカイン産生制御剤は、好ましくは3週間以上、より好ましくは5週間以上、さらに好ましくは8週間以上で継続して摂取することが好ましい。なお、本発明のサイトカイン産生制御剤は安全に摂取できるため、摂取期間は特に限定されず、永久的に継続することができる。十分に有効なサイトカイン制御効果が得られる観点から、摂取期間は8週間を目安とすることが好ましい。
【0018】
本発明のサイトカイン産生制御剤は、飲食品として使用することができる。その飲食品は、サイトカイン産生制御効果を有する点で有用であり、例えば、抗ウイルス作用を有する飲食品として使用することができる。さらに、本発明のサイトカイン産生制御剤は、保健機能食品や病者用食品とすることもできる。保健機能食品制度は、内外の動向、従来からの特定保健用食品制度との整合性を踏まえて、通常の食品のみならず錠剤、カプセル等の形状をした食品を対象として設けられたものである。そして、同制度では、特定保健用食品(個別許可型)と栄養機能食品(規格基準型)の2種類の類型が規定されている。本発明のサイトカイン産生制御剤を、特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として、ヒト等の動物に投与することにより、例えば、各種の感染に対する予防が可能となる。
【0019】
本発明のサイトカイン産生制御剤に、その用途、効能、機能、有効成分の種類、機能性成分の種類、摂取方法などの説明を表示することが好ましい。ここにいう「表示」は、医薬品、医薬部外品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、一般食品、健康補助食品、健康食品、サプリメント、経腸栄養剤、口腔化粧品、および飼料それぞれにおいて適した表示とすべきである。また、ここにいう「表示」には、需要者に対して上記説明を知らしめるための全ての表示が含まれる。この表示は、上述の表示内容を想起・類推させ得るような表示であればよく、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体などの如何に拘わらない全てのあらゆる表示を含み得る。例えば、製品の包装・容器に上記説明を表示すること、製品に関する広告・価格表もしくは取引書類に上記説明を表示して展示もしくは頒布すること、またはこれらを内容とする情報を電磁気的(インターネットなど)方法により提供することが挙げられる。
【0020】
本発明のサイトカイン産生制御剤を飲食品とする場合、飲食品の種類は特に限定されない。飲食品は、例えば、牛乳、加工乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、その他の乳製品、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、乳幼児用粉乳等食品、妊産婦・授乳婦用粉乳等食品、栄養食品等であってよい。このような飲食品の製造にあたっては、本発明のサイトカイン産生制御剤の有効成分である菌体外多糖をそのまま使用したり、他の飲食品ないし食品成分と混合したりするなど、通常の食品組成物における製法を利用することができる。また、飲食品の形状についても特に限定されず、通常用いられる飲食品の形状であればかまわない。例えば、固体状(粉末、顆粒状を含む)、ペースト状、液状、懸濁状などのいずれの形状でもよく、またこれらに限定されない。このとき、乳飲料、発酵乳、清涼飲料、ゼリー飲料、タブレット、粉末食品がより好ましく、ヨーグルトは特に好ましい。
【0021】
本発明のサイトカイン産生制御剤は、抗ウイルス性のサイトカインの発現量を上昇させる作用を有する。抗ウイルス性のサイトカインとして、例えば、インターフェロンαやインターフェロンβが挙げられるが、本発明ではそれらに限定されない。また、本発明のサイトカイン産生制御剤は、炎症性のサイトカインの発現量を低下させる作用を有する。抗ウイルス性のサイトカインとして、例えば、インターロイキン-6が挙げられるが、本発明ではそれらに限定されない。本発明のサイトカイン産生制御剤は、ヒトにとって有益な抗ウイルス性のサイトカインの産生を上昇させ、炎症反応等に関与しヒトにとって有害な炎症性のサイトカインの産生を低下させる効果を有するので、効果的にサイトカインの産生を制御できる。
【0022】
本発明のサイトカイン産生制御剤は、医薬品として使用することができる。この場合、当該医薬品における、本発明のサイトカイン産生制御剤の投与量は、特に限定されないが、例えば、有効成分である菌体外多糖の量として、好ましくは1mg/kg/日以上、より好ましくは5mg/kg/日以上、特に好ましくは10mg/kg/日以上である。また、長期間に亘って予防目的で摂取する場合には、上記量よりも少量であってもよい。
【0023】
上記医薬品の剤型は、本発明のサイトカイン産生制御剤を腸内に到達させるため、経口投与が可能な剤型が好ましい。本発明による医薬品の好ましい剤型の例としては、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、トローチ剤等を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬である菌体外多糖に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの、医薬の製剤技術分野において通常使用しうる補助剤を混ぜ合わせることによって製剤化することができる。
【0024】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【0025】
[実施例]
以下の実施例において、菌体外多糖(EPS)は、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)をスターターとして調製したヨーグルトを原料とし、J. Dairy Sci. 99、915-923に記載されている方法で精製したものを用いた。ここで、「Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1」は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号FERM BP-10741(寄託日:2006年11月29日)で寄託されている。
【0026】
Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-General Subjects,1780(2),134-144.に記載の方法にしたがって、ブタ腸管上皮細胞を得た。得られた細胞を、タイプIコラーゲンでコーティングされた12ウェルプレート上で、3日間培養して単層化した。培地は、10% fetal calf serum、100mg/mL penicillin、100 U/mL streptomycinを添加したDMEM培地を用いた。培養後、単層化した細胞にEPSを100 μg/mLの濃度で添加し、37℃、5%CO条件下で48時間作用させた後、新鮮な培地を用いて細胞を3回洗浄して、余分なEPSを除いた。その後、ウイルス感染を想定して、当該細胞を10μg/mLのPoly (I:C)(Sigma Aldrich社製)で6時間又は12時間刺激した。作用時間が6時間の時点で、ブタ腸管上皮細胞でのトール様受容体3(TLR3)の遺伝子発現を、また、12時間の時点でインターフェロンα(IFN-α)、インターフェロンβ(IFN-β)、インターロイキン6(IL-6)のそれぞれの遺伝子発現をRT-PCR法で評価した。上記のように事前にEPSでの刺激を与えたものを「EPS」群とし、事前にEPSによる刺激を与えずに、それ以外は同様の条件でPoly (I:C)の刺激だけを与えたものを「Poly (I:C)」群とした。さらに、EPSによる刺激も、Poly (I:C)による刺激も与えなかったものを「Control」群とした。結果は、「Poly (I:C)」群の遺伝子発現量を1とした相対値で示した。
【0027】
IFN-αの遺伝子発現量の結果を図1に示した。結果から、EPSを事前に作用させることで、Poly (I:C)刺激12時間後に、抗ウイルス性のサイトカインであるIFN-αの遺伝子発現量が、EPSを作用させなかった場合に比べて有意に上昇することが明らかとなった。したがって、EPSがIFN-αの産生促進作用を有することが示された。
【0028】
IFN-βの遺伝子発現量の結果を図2に示した。結果から、EPSを事前に作用させることで、Poly (I:C)刺激12時間後に、抗ウイルス性のサイトカインであるIFN-βの遺伝子発現量が、EPSを作用させなかった場合に比べて有意に上昇することが明らかとなった。したがって、EPSがIFN-βの産生促進作用を有することが示された。
【0029】
IL-6の遺伝子発現量の結果を図3に示した。結果から、EPSを事前に作用させることで、Poly (I:C)刺激12時間後に、炎症性のサイトカインであるIL-6の遺伝子発現量が、EPSを作用させなかった場合に比べて有意に低下することが明らかとなった。したがって、EPSがIL-6の産生抑制作用を有することが示された。
【0030】
TLR3の遺伝子発現量の結果を図4に示した。結果から、EPSを事前に作用させることで、Poly (I:C)刺激6時間後に、TLR3の遺伝子発現量が、EPSを作用させなかった場合に比べて有意に上昇することが明らかとなった。TLR3はPoly (I:C)のレセプターであり、Poly (I:C)刺激によるIFN-αやIFN-βの産生は、TLR3を介して行われている。したがって、EPSはTLR3の発現を増加させることで、Poly (I:C)に対する感受性を高め、結果としてIFN-αやIFN-βの産生促進作用を発揮することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4