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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】構造体の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20220202BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20220202BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
H01L21/308 A
H01L21/306 Q
H01L21/68 N
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020150666
(22)【出願日】2020-09-08
(62)【分割の表示】P 2020041622の分割
【原出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021129100
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2020-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)環境省、平成31年度未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業(高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証)に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
(72)【発明者】
【氏名】福原 昇
【審査官】田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】特許第6625260(JP,B1)
【文献】特開2018-056158(JP,A)
【文献】特開2006-032673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
H01L 21/306
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を容器に収容する工程と、
前記容器にペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液を注入し、前記処理対象物を前記エッチング液中に浸漬する工程と、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域を光電気化学エッチングする工程と、
前記光電気化学エッチングの後、前記エッチング液を前記容器から排出する工程と、
前記光電気化学エッチングの後、前記容器に前記エッチング液とは異なる後処理液を注入し、前記処理対象物に対して後処理を行う工程と、
を有し、
前記エッチング液を前記容器から排出する工程では、前記容器を回転させて、前記エッチング液を、前記容器の外周側に排出させる、構造体の製造方法。
【請求項2】
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を容器に収容する工程と、
前記容器にペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液を注入し、前記処理対象物を前記エッチング液中に浸漬する工程と、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域を光電気化学エッチングする工程と、
前記光電気化学エッチングの後、前記エッチング液を前記容器から排出する工程と、
前記光電気化学エッチングの後、前記容器に前記エッチング液とは異なる後処理液を注入し、前記処理対象物に対して後処理を行う工程と、
を有し、
前記後処理を行う工程では、前記容器を回転させつつ、前記処理対象物に前記後処理液を供給し、前記後処理液を、前記処理対象物の上面上で移動させ、前記容器の外周側に排出させる、構造体の製造方法。
【請求項3】
前記後処理を行う工程では、前記光電気化学エッチングにおける前記所定温度よりも低い温度の前記後処理液を前記容器に注入し、前記後処理は、前記処理対象物を冷却する工程を兼ねる、請求項1または2に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
前記後処理を行う工程では、20℃未満に冷却した前記後処理液により前記後処理を行う、請求項に記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を収容する容器と、
前記容器にペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液を注入し、前記処理対象物を前記エッチング液中に浸漬させる、エッチング液注入装置と、
前記エッチング液を加熱するヒータと、
前記被エッチング領域に光を照射する光照射装置と、
を有し、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域を光電気化学エッチングし、前記光電気化学エッチングの後、前記エッチング液を前記容器から排出させる、構造体の製造装置であって、
前記光電気化学エッチングの後、前記容器に前記エッチング液とは異なる後処理液を注入し、前記処理対象物に対して後処理を行う、後処理液注入装置、
をさらに有し、
前記容器は、
回転可能に保持され、
前記容器を回転させて、前記エッチング液を、前記容器の外周側に排出させること、が可能に構成されている、構造体の製造装置。
【請求項6】
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を収容する容器と、
前記容器にペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液を注入し、前記処理対象物を前記エッチング液中に浸漬させる、エッチング液注入装置と、
前記エッチング液を加熱するヒータと、
前記被エッチング領域に光を照射する光照射装置と、
を有し、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域を光電気化学エッチングし、前記光電気化学エッチングの後、前記エッチング液を前記容器から排出させる、構造体の製造装置であって、
前記光電気化学エッチングの後、前記容器に前記エッチング液とは異なる後処理液を注入し、前記処理対象物に対して後処理を行う、後処理液注入装置、
をさらに有し、
前記容器は、
回転可能に保持され、
前記容器を回転させつつ、前記処理対象物に前記後処理液を供給し、前記後処理液を、前記処理対象物の上面上で移動させ、前記容器の外周側に排出させること、が可能に構成されている、構造体の製造装置。
【請求項7】
前記後処理液注入装置は、前記光電気化学エッチングにおける前記所定温度よりも低い温度の前記後処理液を前記容器に注入し、前記後処理は、前記処理対象物を冷却する処理を兼ねる、請求項5または6に記載の構造体の製造装置。
【請求項8】
前記後処理液注入装置は、20℃未満に冷却した前記後処理液を前記容器に注入する、請求項7に記載の構造体の製造装置。
【請求項9】
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を容器に収容する工程と、
前記容器にペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液を注入し、前記処理対象物を前記エッチング液中に浸漬する工程と、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域を光電気化学エッチングする工程と、
前記光電気化学エッチングの後、前記エッチング液を前記容器から排出する工程と、
前記光電気化学エッチングの後、前記容器に前記エッチング液とは異なる後処理液を注入し、前記処理対象物に対して後処理を行う工程と、
を有し、
前記処理対象物は、前記被エッチング領域を有する層上にさらに、前記被エッチング領域を構成する前記III族窒化物よりも広いバンドギャップを有するIII族窒化物で構成された上層部を有し、
前記光電気化学エッチングする工程では、前記上層部を透過し前記被エッチング領域で吸収される波長の光を、前記上層部を透過させて前記被エッチング領域に照射することで、前記光電気化学エッチングにより前記被エッチング領域を前記上層部に対して選択的に除去し、前記上層部を前記処理対象物から分離させる、構造体の製造方法。
【請求項10】
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を容器に収容する工程と、
前記容器にペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液を注入し、前記処理対象物を前記エッチング液中に浸漬する工程と、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域を光電気化学エッチングする工程と
を有し、
前記処理対象物は、前記被エッチング領域を有する層上にさらに、前記被エッチング領域を構成する前記III族窒化物よりも広いバンドギャップを有するIII族窒化物で構成された上層部を有し、
前記光電気化学エッチングする工程では、前記上層部を透過し前記被エッチング領域で吸収される波長の光を、前記上層部を透過させて前記被エッチング領域に照射することで、前記光電気化学エッチングにより前記被エッチング領域を前記上層部に対して選択的に除去し、前記上層部を前記処理対象物から分離させる、構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物は、発光素子、トランジスタ等の半導体装置を製造するための材料として用いられている。また、III族窒化物は、微小電気機械システム(MEMS)の材料としても注目されている。
【0003】
GaN等のIII族窒化物に各種構造を形成するためのエッチング技術として、光電気化学(PEC)エッチングが提案されている(例えば非特許文献1参照)。PECエッチングは、一般的なドライエッチングと比べてダメージが少ないウェットエッチングであり、また、中性粒子ビームエッチング(例えば非特許文献2参照)、アトミックレイヤーエッチング(例えば非特許文献3参照)等のダメージの少ない特殊なドライエッチングと比べて装置が簡便である点で好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Murata et al., “Photo-electrochemical etching of free-standing GaN wafer surfaces grown by hydride vapor phase epitaxy”, Electrochimica Acta 171 (2015) 89-95
【文献】S. Samukawa, JJAP, 45(2006)2395.
【文献】T. Faraz, ECS J. Solid Stat. Scie.&Technol., 4, N5023 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、III族窒化物のPECエッチングにおける、エッチングレート等のエッチング条件の制御性を向上させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を容器に収容する工程と、
前記容器にペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液を注入し、前記処理対象物を前記エッチング液中に浸漬する工程と、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域を光電気化学エッチングする工程と、
前記光電気化学エッチングの後、前記エッチング液を前記容器から排出する工程と、
前記光電気化学エッチングの後、前記容器に前記エッチング液とは異なる後処理液を注入し、前記処理対象物に対して後処理を行う工程と、
を有する、構造体の製造方法
が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を収容する容器と、
前記容器にペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液を注入し、前記処理対象物を前記エッチング液中に浸漬させる、エッチング液注入装置と、
前記エッチング液を加熱するヒータと、
前記被エッチング領域に光を照射する光照射装置と、
を有し、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域を光電気化学エッチングし、前記光電気化学エッチングの後、前記エッチング液を前記容器から排出させる、構造体の製造装置であって、
前記光電気化学エッチングの後、前記容器に前記エッチング液とは異なる後処理液を注入し、前記処理対象物に対して後処理を行う、後処理液注入装置、
をさらに有する、構造体の製造装置
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
III族窒化物のPECエッチングにおける、エッチングレート等のエッチング条件の制御性を向上させることができる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態による構造体の製造装置(処理装置)を例示する概略断面図である。
図2図2(a)~図2(c)は、一実施形態によるPECエッチング工程を例示する概略断面図である。
図3図3(a)および図3(b)は、一実施形態による後処理工程を例示する概略断面図である。
図4図4(a)は、第1例の処理対象物を示す概略断面図であり、図4(b)は、第1例の処理対象物に対してPECエッチングを施すエッチング工程を示す概略断面図である。
図5図5(a)は、第2例の処理対象物を示す概略断面図であり、図5(b)は、第2例の処理対象物に対してPECエッチングを施すエッチング工程を示す概略断面図である。
図6図6(a)および図6(d)は、それぞれ、第1変形例および第2変形例による撹拌装置を示す概略断面図である。
図7図7は、変形例による固定装置を示す概略断面図である。
図8図8は、ペルオキソ二硫酸カリウム水溶液の透過率の波長依存性を示すグラフである。
図9図9は、水酸化カリウム水溶液とペルオキソ二硫酸カリウム水溶液との混合溶液を、加熱した場合のpH変化を示すグラフである。
図10図10は、水酸化カリウム水溶液とペルオキソ二硫酸カリウム水溶液との混合溶液を、加熱した場合のpH変化を示すグラフである。
図11図11は、図10に係る実験から得られた結果をまとめた表である。
図12図12は、実験例における、エッチング液の温度およびpHの時間変化を示すグラフである。
図13図13は、実験例における、エッチング温度とエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<一実施形態>
本発明の一実施形態による、構造体の製造技術について説明する。本実施形態では、III族窒化物の光電気化学(PEC)エッチングにおいて、エッチング液の加熱を用いる技術(加熱PECエッチング)を提案する。
【0011】
まず、本実施形態によるIII族窒化物のPECエッチングの機構について説明する。ここでは、PECエッチングされるIII族窒化物の例として窒化ガリウム(GaN)を挙げる。以下、III族窒化物のPECエッチングを、単に、エッチングともいう。
【0012】
PECエッチング処理の対象物を、処理対象物と称する。処理対象物は、少なくともエッチング対象物を有し、エッチング対象物は、III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する。処理対象物の詳細については、図4(a)~図5(b)を参照して後述する。
【0013】
PECエッチングは、ウェットエッチングであり、処理対象物がエッチング液に浸漬された状態で行われる。エッチング液としては、被エッチング領域を構成するIII族窒化物が含有するIII族元素の酸化物を生成するために用いられる酸素を含み、さらに、電子を受け取る酸化剤を含む、アルカリ性または酸性のエッチング液が用いられる。
【0014】
当該酸化剤として、ペルオキソ二硫酸イオン(S 2-)が好ましく用いられ、エッチング液としては、(少なくとも)ペルオキソ二硫酸イオン(S 2-)の塩を所定濃度で水に溶解させた水溶液が用いられる。当該酸化剤は、より具体的には、S 2-から生成された硫酸イオンラジカル(SO -*)が、電子を受け取って硫酸イオン(SO 2-)に変化する態様で、機能する。
【0015】
本実施形態のPECエッチングにおける反応は、(化1)のようにまとめることができる。
【化1】
【0016】
(化1)に示されるように、III族窒化物に、当該III族窒化物のバンドギャップに対応する波長以下の光(本例ではGaNのバンドギャップに対応する365nm以下の光)が照射されることで、III族窒化物中にホール(h)と電子(e)とが生成される。ホールの生成によりIII族窒化物(本例ではGaN)がIII族元素の陽イオン(本例ではGa3+)と窒素ガス(Nガス)とに分解され、III族元素の陽イオンが水(HO)に含まれる酸素と結合することでIII族元素の酸化物(本例ではGa)が生成される。III族元素の酸化物が、アルカリ性または酸性のエッチング液に溶解されることで、III族窒化物がエッチングされる。III族窒化物中に生成された電子は、SO -*と結合してSO 2-を生成することで、消費される。PECエッチングの進行に伴い、水素イオン(H)濃度が増加し、これにより、エッチング液のpHは減少する。
【0017】
エッチング液中に含まれるS 2-は、エッチングの進行に伴い消費されるため、エッチング液中のS 2-濃度は、時間的に変化する(減少する)。S 2-濃度の規定を明確化するため、エッチング液が調製される時点のS 2-濃度である調製時濃度(つまり、エッチング液を調製するためのレシピにより定まるS 2-の仕込み濃度、初期濃度)を、エッチング液の基準的なS 2-濃度として規定する。以下、エッチング液(、および、図8図11を参照して説明する実験で用いる水溶液または混合溶液)におけるS 2-の調製時濃度を、単に、S 2-濃度ということがある。
【0018】
なお、S 2-は、SO -*を介して最終的にSO 2-に変化するが、S 2-、SO -*およびSO 2-を合わせた成分を、S 2-に換算した濃度、あるいは、SO 2-に換算した濃度は、時間的に一定となる。
【0019】
エッチング液に含まれるS 2-からSO -*を生成させる反応は、(化2)で示される。つまり、S 2-を加熱すること、および、S 2-に光を照射すること、の少なくとも一方により、SO -*を生成させることができる。以下、加熱によりSO -*を生成させることを、熱ラジカル生成ということもあり、光照射によりSO -*を生成させることを、光ラジカル生成ということもある。
【化2】
【0020】
ここで「加熱」とは、加熱の対象物の温度を、少なくとも室温(25±5℃、20℃以上30℃以下)よりも高い温度である30℃超の温度とすることをいい、30℃以下の当該対象物を30℃超の温度に上昇させることだけでなく、30℃超の当該対象物を30℃超の温度に維持することも含む。
【0021】
本実施形態によるPECエッチングでは、エッチング液が酸化剤として含むS 2-により(より具体的にはS 2-から生成されたSO -*により)、III族窒化物に対する光照射でホールとともに生成された電子を、消費させることで、PECエッチングを進行させることができる。つまり、処理対象物からエッチング液中に直接的に(外部の配線を介さずに)電子を放出する態様で、PECエッチングを行うことができる。
【0022】
これに対し、このような酸化剤を用いないPECエッチングの技術として、III族窒化物中に生成された電子を、エッチング液の外部に延在する配線を介して、エッチング液に浸漬されたカソード電極からエッチング液中に放出する態様のPECエッチングがある。このようなカソード電極を用いる有電極PECエッチングに対し、本実施形態によるPECエッチングは、このようなカソード電極を設ける必要のない、無電極(コンタクトレス)PECエッチングである。
【0023】
本実施形態では、さらに、詳しくは後述の実験例で説明するように、SO -*の生成方法として熱ラジカル生成を用いるPECエッチングを提案する。これにより、光ラジカル生成(のみ)を用いるPECエッチングではできなかった各種態様のPECエッチング、例えば、エッチングレートを効率的に向上させること、また例えば、所定の被エッチング領域を選択的にエッチングすること、等を行うことが容易となる。熱ラジカル生成を利用するPECエッチングを、加熱PECエッチングともいう。
【0024】
なお、PECエッチングは、例示したGaN以外のIII族窒化物に対しても行うことができる。III族窒化物が含有するIII族元素は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)のうちの少なくとも1つであってよい。III族窒化物におけるAl成分またはIn成分に対するPECエッチングの考え方は、Ga成分について(化1)を参照して説明した考え方と同様である。つまり、III族窒化物への光照射によりホールを生成させることで、Alの酸化物またはInの酸化物を生成させ、これらの酸化物をアルカリ性または酸性のエッチング液に溶解させることで、PECエッチングを行うことができる。照射する光の波長は、エッチングの対象とするIII族窒化物の組成に応じて、適宜変更されてよい。GaNのPECエッチングを基準として、Alを含有する場合は、より短波長の光を用いればよく、Inを含有する場合は、より長波長の光も利用可能となる。つまり、エッチングしたいIII族窒化物の組成に応じて、当該III族窒化物がPECエッチングされるような波長の光を、適宜選択して用いることができる。
【0025】
光ラジカル生成について、さらに説明する。図8は、ペルオキソ二硫酸カリウム(K)水溶液の透過率の波長依存性を示すグラフである。図8に、S 2-濃度を0.01mol/Lから0.175mol/Lまで変化させた場合の透過率を示し、併せて水の透過率を示す。本実験で用いた試料セルの透過長さは10mmであり、つまり、光を透過させた水溶液の厚さは、10mmである。
【0026】
2-濃度によって透過率の波長依存性はある程度変化するが、図8より、概ねの傾向として、S 2-は、310nm未満の光を大きく吸収することが理解される。光ラジカル生成では、このような光吸収により、S 2-からSO -*が生成される。なお、波長200nm未満では、水による光吸収が大きくなる。したがって、光ラジカル生成は、波長が200nm以上310nm未満の光照射によって、効率的に進行する。
【0027】
熱ラジカル生成について、さらに説明する。図9および図10は、水酸化カリウム(KOH)水溶液とペルオキソ二硫酸カリウム(K)水溶液との混合溶液を、加熱した場合のpH変化を示すグラフである。単独のK水溶液は酸性であるが、K水溶液をKOH水溶液と混合することで、混合溶液のpHはアルカリ性とすることができる。
【0028】
図9に係る実験では、0.01mol/L(M)のKOH水溶液と0.05mol/L(M)のK水溶液とを1:1で混合した混合溶液(つまり、S 2-濃度が0.025mol/Lである混合溶液)を、70℃に加熱した。図9の内側領域に示す2つのグラフは、それぞれ、混合溶液の温度の時間変化、および、混合溶液のpHの時間変化を示すグラフである。図9の外側領域に示す、白抜きの円で表されたグラフは、図9の内側領域に示す2つのグラフを、混合溶液の温度とpHとの関係として1つのグラフにプロットし直したグラフである。図9の外側領域に示す、破線で表されたグラフは、温度20℃において混合溶液と等しいpHを有する水溶液の、水のイオン積の温度変化のみに起因するpH変化を、参考として示すグラフである。
【0029】
図9の内側の2つのグラフに示されるように、温度がほぼ70℃に上昇した後の25分から30分あたりで、pHが、アルカリ性から酸性へ急激に低下している。このことから、混合溶液を70℃に加熱することにより、S 2-からSO -*が生成され、さらにSO -*からSO 2-が生成されることがわかる。
【0030】
なお、図9の外側の破線のグラフに示されるように、温度上昇により水のイオン積が変化することに起因してもpHは低下する。図9の外側の白抜きの円のグラフに示されるように、混合溶液のpHは、破線のグラフから下方に解離しており、この解離は、熱ラジカル生成に起因するpH低下が生じていることを表す。熱ラジカル生成に起因するpH低下は、35℃あたりから観察され、温度が高くなるほど大きくなる傾向がある。また、70℃付近において顕著になる事がわかる。
【0031】
図10に係る実験では、0.01mol/L(M)のKOH水溶液と0.05mol/L(M)のK水溶液とを1:1で混合した混合溶液(つまり、S 2-濃度が0.025mol/Lである混合溶液)、0.01mol/L(M)のKOH水溶液と0.10mol/L(M)のK水溶液とを1:1で混合した混合溶液(つまり、S 2-濃度が0.05mol/Lである混合溶液)、および、0.01mol/L(M)のKOH水溶液と0.15mol/L(M)のK水溶液とを1:1で混合した混合溶液(つまり、S 2-濃度が0.075mol/Lである混合溶液)、のそれぞれを、70℃に加熱した。なお、本実験では、70℃に昇温するまでの誤差を小さくするため、予め70℃に加熱したKOH水溶液に、所定量のK粉末を溶解させることで、各混合溶液を調製した。
【0032】
これらの混合溶液において、S 2-濃度が高いほど、早い時刻においてpHのアルカリ性から酸性への低下が見られる。このことから、S 2-濃度が高いほど、高い(速い)レートでSO 2-が(つまりSO -*が)生成されることがわかる。
【0033】
SO -*からSO 2-が生成される反応は、より詳細には、アルカリ性水溶液においては(化3)で示すことができ、酸性水溶液においては(化4)で示すことができる。(化3)および(化4)に基づき、アルカリ性領域および酸性領域のそれぞれについて、エッチング液のpHの時間変化率(つまり、水素イオンの生成レート)を算出することで、SO -*の生成レートを算出することができる。
【化3】
【化4】
【0034】
図11は、図10に係る実験から得られた結果をまとめた表である。「by heat at 70℃」の欄に、図10に係る実験から得られた熱ラジカル生成の結果を示す。「y」は、熱ラジカル生成に係る各混合溶液の調製に用いたK水溶液の濃度を示す。図11に、併せて、「by UVC at RT」の欄に、光ラジカル生成の結果を示す。
【0035】
光ラジカル生成の結果は、図10に係る実験と別の実験から得られた結果であり、室温において、0.01MのKOH水溶液と0.05MのK水溶液とを1:1で混合した混合溶液(つまり、S 2-濃度が0.025mol/Lである混合溶液)に対して測定された結果である。
【0036】
図11において、「pHinitial」は、初期時刻におけるpHである。ここで、初期時刻とは、70℃のKOH水溶液にK粉末を溶解させた時刻である。「t(min)」は、初期時刻から中和される時刻までの時間を分単位で示し、「x in base」および「x in acid」は、それぞれ、アルカリ性領域および酸性領域での水素イオンの生成レート(d[H]/dt)を、(mol/L)/分単位で示す。ここで、水素イオンの生成レートは、(化1)から理解されるようにSO 2-の生成レートと等しく、また、SO 2-の生成レートは、(短寿命である)SO -*の生成レートと等しいと考えられるため、水素イオンの生成レートは、SO -*の生成レートと等しいといえる。SO -*の生成レートを、以下、ラジカル生成レートということもある。
【0037】
(70℃、つまり45℃以上における)熱ラジカル生成の結果において、アルカリ性領域および酸性領域のそれぞれのラジカル生成レートは、S 2-濃度が高いほど、高くなっている。(室温、つまり45℃未満における)光ラジカル生成で達成されるラジカル生成レート(アルカリ性領域での光ラジカル生成で達成される、高い方のラジカル生成レート。以下これを、光によるラジカル生成レートともいう。)は、1.54×10-4(mol/L)/分である。
【0038】
アルカリ性領域における熱ラジカル生成では、S 2-濃度が0.025mol/L(y=0.05M)のラジカル生成レートである1.93×10-4(mol/L)/分、S 2-濃度が0.05mol/L(y=0.10M)のラジカル生成レートである3.53×10-4(mol/L)/分、および、S 2-濃度が0.075mol/L(y=0.15M)のラジカル生成レートである6.28×10-4(mol/L)/分、のいずれも、光によるラジカル生成レートである1.54×10-4(mol/L)/分を超える、1.6×10-4(mol/L)/分以上の高いラジカル生成レートとなっている。
【0039】
また、酸性領域における熱ラジカル生成では、S 2-濃度が0.075mol/L(y=0.15M)のラジカル生成レートである1.71×10-4(mol/L)/分が、光によるラジカル生成レートである1.54×10-4(mol/L)/分を超える、1.6×10-4(mol/L)/分以上の高いラジカル生成レートとなっている。
【0040】
次に、実施形態による構造体の製造装置について説明する。図1は、実施形態による構造体の製造装置(処理対象物100の処理装置)200(以下、処理装置200ともいう)を例示する概略断面図である。
【0041】
処理装置200は、内側容器210と、外側容器215と、光照射装置220と、ヒータ230と、注入装置240と、温度計250と、撹拌装置260と、固定装置270と、制御装置280と、を有する。
【0042】
内側容器210は、処理対象物100、および、エッチング液310等の処理液300、を収容する。内側容器210を、以下単に、容器210ともいう。外側容器215は、容器210を収容する。光照射装置220は、処理対象物100に光225を照射する。ヒータ230は、エッチング液310を加熱する。注入装置240は、容器210に、エッチング液310等の処理液300を注入する。温度計250は、エッチング液310の温度を測定する。撹拌装置260は、容器210に収容されたエッチング液310を撹拌する。固定装置270は、容器210に収容された処理対象物100を、容器210に対して固定する。制御装置280は、光照射装置220、ヒータ230、撹拌装置260等の各装置を、所定の動作を行うように、制御する。制御装置280は、例えば、パーソナルコンピュータを用いて構成される。
【0043】
処理液300は、容器210に注入され、処理対象物100に対する各種態様の処理に用いられる処理液である。各種態様の処理に用いられる処理液を、どのような処理に用いられるか特には区別しない場合に、処理液300と称する。処理液300は、例えば、後述のエッチング工程で施されるPECエッチング処理に用いられるエッチング液310であり、また例えば、後述の後処理工程で施される後処理に用いられる後処理液320である。
【0044】
容器210は、撹拌装置260を兼ねるように設けられた回転装置261に、回転可能に保持されている。回転装置261は、容器210を、所定のタイミングにおいて、所定の方向および速さで回転させる。
【0045】
光照射装置220は、光源221を有し、光源221は、処理対象物100の被エッチング領域20を構成するIII族窒化物中にホールを生成する波長成分を少なくとも含む光225を出射する。光225は、(200nm以上)310nm未満の波長成分(つまり、光ラジカル生成を生じさせる波長成分)を、必要に応じ、含んでもよいし、含まなくてもよい。光照射装置220は、必要に応じ、所定範囲の波長成分を減衰させる(または透過させる)フィルタ222を有してもよい。
【0046】
ヒータ230は、エッチング液310を加熱する各種態様のヒータである。各種態様で設けられるヒータを、どのような態様のヒータであるか特には区別しない場合に、ヒータ230と称する。ヒータ230は、例えば、容器210に注入される(収容される)前のエッチング液310を加熱する注入前ヒータ230Aであり、また例えば、容器210に注入された(収容された)後のエッチング液310を加熱する注入後ヒータ230Bである。
【0047】
本実施形態で例示する処理装置200は、注入前ヒータ230Aとして、注入装置ヒータ233を有する。注入装置ヒータ233は、エッチング液注入装置241(図2(a)参照)に設けられ、加熱されたエッチング液310がエッチング液注入装置241から容器210に注入されるように、エッチング液310を加熱する。
【0048】
本実施形態で例示する処理装置200は、注入後ヒータ230Bとして、容器ヒータ231およびランプヒータ232を有する。容器ヒータ231は、容器210に設けられ、容器210を加熱することで、容器210内のエッチング液310を加熱する。ランプヒータ232は、例えば外側容器215に設けられ、容器210内のエッチング液310に赤外線235を照射することで、エッチング液310を加熱する。なお、必要に応じ、容器ヒータ231およびランプヒータ232のうちの一方が省略されてもよい。
【0049】
注入装置240は、容器210に処理液300を注入する各種態様の注入装置である。各種態様で設けられる注入装置を、どのような態様の注入装置であるか特には区別しない場合に、注入装置240と称する。注入装置240は、例えば、処理液300として容器210にエッチング液310を注入するエッチング液注入装置241(図2(a)参照)であり、また例えば、処理液300として容器210に後処理液320を注入する後処理液注入装置242(図3(a)参照)である。
【0050】
処理装置200は、必要に応じ、注入装置240の、処理液300の注入を行う先端(注入口)部243を、移動させる移動装置を有してもよい。当該移動装置は、例えば、処理液300の注入時には、先端部243を容器210の内側の上方に移動させ、処理液300の注入後には、先端部243を容器210の外側の上方に(被エッチング領域20への光照射を阻害しない位置に)移動(退避)させる。
【0051】
処理装置200は、注入装置240の先端部243に供給される処理液300を溜めておくタンク245を有してよい。タンク245から配管246を介して、注入装置240の先端部243に処理液300が供給される。
【0052】
エッチング液310用のタンク245等に、注入前ヒータ230Aとして、注入装置予備ヒータ234が設けられてもよい。注入装置ヒータ233は、注入装置予備ヒータ234よりも下流側(先端部243側)に配置され、例えば、注入装置予備ヒータ234により加熱されたエッチング液310を、さらに高い温度に加熱する。
【0053】
温度計250としては、各種態様の温度計が用いられてよく、例えば熱電対が用いられてよい。温度計250は、温度計250の光225による影が、被エッチング領域20に映らない位置に(つまり、被エッチング領域20への光照射を阻害しない位置に)配置されることが好ましい。熱電対を用いた温度計250は、具体的には例えば、容器210の底部に配置される。温度計250は、エッチング液310の温度を直接的に測定するものであってもよいし、処理対象物100、容器210等の温度を測定することで、エッチング液310の温度を間接的に測定するものであってもよい。
【0054】
なお、容器210の(少なくとも)エッチング液310と接触する内面部分、および、処理対象物100は、容器210に収容されたエッチング液310の温度の均一性を保つために、エッチング液310の加熱に伴い、エッチング液310と等しい温度に加熱されることが好ましい。
【0055】
撹拌装置260は、容器210に収容されたエッチング液310を撹拌する各種態様の撹拌装置である。各種態様で設けられる撹拌装置を、どのような態様の撹拌装置であるか特には区別しない場合に、撹拌装置260と称する。撹拌装置260は、例えば、容器210を動かすことによりエッチング液310を撹拌する態様のものであり、また例えば、エッチング液310中で撹拌部材を動かすことによりエッチング液310を撹拌する態様のものである。
【0056】
本実施形態で例示する処理装置200は、容器210を動かすことによりエッチング液310を撹拌する態様の撹拌装置260として、回転装置261を有する。具体的には、回転装置261を、回転方向が所定期間ごとに反転するように駆動させること、または、一方向への回転を間欠的に繰り返すように駆動させること、により、回転装置261が、撹拌装置260として用いられる。
【0057】
固定装置270としては、各種態様の固定装置が用いられてよく、例えば、処理対象物100の外周部に、処理対象物100の周方向に離散的に、複数の鉤状の固定部材を配置することで、処理対象物100の径方向および厚さ方向(上方向)への移動を抑制する態様のものが用いられてよい。
【0058】
次に、実施形態による構造体の製造方法について説明し、また、処理装置200についてさらに説明する。本実施形態による構造体の製造方法は、少なくとも、PECエッチングを用いるエッチング工程を有し、好ましくはさらに、当該エッチング工程の後に行われる後処理工程を有する。
【0059】
まず、エッチング工程について説明する。図2(a)~図2(c)は、本実施形態のエッチング工程を例示する概略断面図である。本実施形態のエッチング工程では、まず、図2(a)に示す工程のように、処理対象物100を、エッチング液310中に浸漬された状態で容器210に収容する。より具体的には、処理対象物100が収容された容器210に、エッチング液注入装置241からエッチング液310を注入することで、処理対象物100をエッチング液310中に浸漬させる。
【0060】
エッチング液310の表面から処理対象物100の上面までの距離L(図1参照。以下、配置深さLという。)は、例えば、1mm以上100mm以下とすること(例えば10mm程度とすること)が好ましい。配置深さLが過度に小さいと、エッチング液310の蒸発、撹拌に伴うエッチング液310の動き、等により、処理対象物100の上面がエッチング液310中に浸漬された状態が維持されなくなる懸念がある。このため、配置深さLは、例えば、1mm以上とすることが好ましく、5mm以上とすることがより好ましい。また、配置深さLが過度に大きいと、容器210に収容するエッチング液310の量が無駄に多くなるため、エッチング液310を効率的に利用できなくなる。このため、配置深さLは、例えば100mm以下とすることが好ましい。
【0061】
次に、図2(b)に示す工程のように、エッチング液310の所定温度への加熱により、エッチング液310中にSO -*を生成させ、処理対象物100の被エッチング領域20への光225の照射により、被エッチング領域20を構成するIII族窒化物中にホールを生成させることで、被エッチング領域20をエッチングする。当該所定温度(エッチングの際のエッチング液310の温度、つまりエッチング温度)は、45℃以上(例えば70℃)とする。エッチング液310の温度を、以下、液温ともいう。加熱PECエッチングにおける好ましい条件の詳細は、後述の実験例で説明する。
【0062】
液温を45℃以上としつつ、被エッチング領域20への光照射を行うことで、本実施形態によるPECエッチングが開始される。エッチング時の液温を45℃以上とする方法として、例えば、以下の第1例の方法が挙げられる。第1例の方法では、注入装置ヒータ233等の注入前ヒータ230Aにより45℃以上としたエッチング液310を、容器210に注入する(図2(a)参照)。容器210への注入後、エッチング時(光照射時)の液温を45℃以上に維持するために、容器ヒータ231等の注入後ヒータ230Bによる加熱を行ってもよい。なお、エッチング時(光照射時)に、液温が(45℃以上は維持されつつ)低下してもよい場合は、注入後ヒータ230Bによる加熱を行わなくともよい。
【0063】
第1例の方法において、注入装置予備ヒータ234により、45℃未満であってある程度高い温度(例えば35℃以上、また例えば40℃以上の温度)まで予備的に加熱されたエッチング液310を、注入装置ヒータ233により45℃以上に(エッチング温度に)さらに加熱して、容器210に注入するようにしてもよい。注入装置ヒータ233で加熱される前のエッチング液310を、注入装置予備ヒータ234により予備的に加熱しておくことで、注入装置ヒータ233により液温を速やかに45℃以上へ上昇させることができる。
【0064】
エッチング時の液温を45℃以上とする方法として、また例えば、以下の第2例の方法が挙げられる。第2例の方法では、まず、注入装置ヒータ233等の注入前ヒータ230Aにより45℃未満であってある程度高い温度(例えば35℃以上、また例えば40℃以上の温度)まで予備的に加熱されたエッチング液310を、容器210に注入する(図2(a)参照)。その後、容器ヒータ231等の注入後ヒータ230Bにより、液温を、45℃以上に(エッチング温度に)上昇させるととともに45℃以上に維持する。容器210への注入時のエッチング液310を、予備的に加熱しておくことで、注入後に液温を速やかに45℃以上へ上昇させることができる。
【0065】
なお、液温が45℃以上であっても、光225が照射されなければPECエッチングは進行しないので、SO -*が無駄に消費されることとなる。このため、SO -*を効率的に利用してPECエッチングを行う観点からは、液温を45℃以上とした後、光225の照射を速やかに開始することが好ましい。
【0066】
このような観点からは、注入装置ヒータ233は、エッチング液注入装置241の先端部243の近傍に設けられることが好ましい。これにより、(第1例の方法において、)エッチング液310が注入装置ヒータ233により加熱されてからエッチングに用いられるまでの時間間隔が、無駄に長くなることを抑制できる。注入装置ヒータ233は、例えば、エッチング液注入装置241の先端部243が移動装置により移動可能に保持されている態様において、当該移動装置により移動される部材(先端部243近傍の部材)に設けられることが好ましい。注入装置ヒータ233は、また例えば、エッチング液310用のタンク245とエッチング液注入装置241の先端部243とを接続する配管246に設けられることが好ましい。
【0067】
なお、本例では、説明をわかりやすくするために、図2(a)に示す工程で容器210にエッチング液310を注入した後に、図2(b)に示す工程で光225の照射を開始することにより、エッチングを行う態様を説明したが、必要に応じ、容器210にエッチング液310を注入しながら、光225を照射することで、エッチングを行ってもよい。ただしこの場合、エッチング液注入装置241の光225による影が被エッチング領域20に映らない位置に、エッチング液注入装置241および光照射装置220が配置されることが好ましい。
【0068】
ヒータ230は、温度計250により測定された液温に基づいて、制御されることが好ましい。これにより、エッチング時におけるエッチング液310の温度を、安定的に制御することができる。
【0069】
また、エッチング時において、つまり、エッチング液が加熱される際に、容器210に収容されたエッチング液310は、回転装置261により撹拌されることが好ましい。これにより、エッチング時におけるエッチング液310の温度の均一性を向上させることができる(位置による温度ムラを抑制できる)。撹拌は、エッチング液310の容器210への注入時から行ってもよい。回転装置261を撹拌に用いる場合は、撹拌時に容器210からエッチング液310があふれない程度の勢いで容器210が回転するように、回転装置261を駆動させることが好ましい。
【0070】
(化1)等から理解されるように、PECエッチングでは、Nガス等のガスによる気泡が発生する。本実施形態による加熱PECエッチングでは、後述の実験例で説明するように、高いエッチングレートが得られ、これに伴い、気泡の発生が顕著となる。このため、気泡発生に起因する処理対象物100の移動が生じやすく、このような移動に起因するエッチング条件の時間的変動が問題となりやすい。なお、処理対象物100のこのような移動に起因するエッチング条件の時間的変動は、光ラジカル生成のみを用いるこれまでのPECエッチングでは問題とならなかった。
【0071】
そこで、本実施形態では、固定装置270により処理対象物100を容器210に固定した状態で、PECエッチングを行うことが好ましい。これにより、上述のような、気泡発生に起因する処理対象物100の移動を抑制することができるため、安定した条件でPECエッチングを進行させることができる。
【0072】
次に、図2(c)に示す工程のように、エッチング液310を容器210から排出する。本実施形態の処理装置200では、回転装置261により容器210を回転させてエッチング液310を外周側に飛散させることで、エッチング液310を容器210から排出する。飛散されたエッチング液310は、外側容器215内に回収される。以上説明したように、本実施形態によるエッチング工程が行われる。
【0073】
図2(a)~図2(c)に示す一連の工程は、1回行われてもよいし、必要に応じ複数回繰り返して行われてもよい。例えば、深い凹部を形成するために長時間のエッチングを行う等のために、当該一連の工程を、複数回(つまり、エッチング液310を取り換えながら複数回)行ってもよい。
【0074】
次に、後処理工程について説明する。図3(a)および図3(b)は、本実施形態の後処理工程を例示する概略断面図である。図3(a)および図3(b)は、それぞれ、第1例および第2例の後処理工程を示す。
【0075】
後処理工程は、エッチング工程の後に行われる処理工程であって、処理対象物100が収容された容器210に、後処理液320を注入することで行われる工程である。後処理工程は、例えば洗浄工程である。洗浄工程では、後処理液(洗浄液)320として例えば水を用いて、処理対象物100を洗浄する。
【0076】
後処理工程は、また例えば平坦化エッチング工程である。被エッチング領域20を構成するIII族窒化物結晶は転位を含み、転位では、ホールのライフタイムが短いため、PECエッチングが生じにくい。このため、転位に対応する位置には、PECエッチングの溶け残り部分として、凸部が形成されやすい。平坦化エッチング工程では、当該凸部を除去する(当該凸部を低くする)エッチングを行う。平坦化エッチングを行う際の後処理液(平坦化エッチング液)320としては、例えば、塩酸(HCl)水溶液、塩酸(HCl)と過酸化水素(H)との混合水溶液(塩酸過水)、硫酸(HSO)と過酸化水素(H)との混合水溶液(ピラニア溶液)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液、フッ化水素水溶液(フッ酸)、水酸化カリウム(KOH)水溶液、等が用いられる。平坦化エッチング工程では、より具体的には、例えば、30%のHClと30%のHとを1:1で混ぜた塩酸過水を用い、10分間のエッチング処理を行う。なお、平坦化エッチング工程の後に、さらなる後処理工程として、洗浄工程を行ってもよい。なお、平坦化エッチング処理では、光照射装置220からの光225の照射は不要である。
【0077】
図3(a)に示す第1例の後処理工程では、後処理液注入装置242から容器210に後処理液320を注入するとともに、回転装置261により容器210を回転させて後処理液320を排出する態様で、後処理工程を行う。より具体的には、後処理液320を、処理対象物100の上面上の中央に供給し、遠心力により、処理対象物100の上面上を外周側に広がるように移動させ、さらに、容器210の外周側に排出させる。
【0078】
図3(b)に示す第2例の後処理工程では、後処理液320を、後処理液注入装置242から容器210に、処理対象物100の上面より高くまで注入することで、後処理液320に処理対象物100を浸漬させる(沈める)態様で、後処理工程を行う。後処理中、後処理液320が容器210からすべては排出されない程度に、回転装置261を駆動させることで、後処理液320の撹拌を行ってもよい。後処理が終了したら、図2(c)を参照して説明したエッチング液310の排出と同様にして、後処理液320を外周側に飛散させることで容器210から排出する。
【0079】
本実施形態の後処理工程において、加熱されていない(つまり30℃以下の温度である)後処理液により、処理対象物100に後処理を施すことが好ましい。これにより、エッチング工程で(例えば70℃に)加熱された処理対象物100を、(好ましくは30℃以下に)速やかに冷却することができ、処理対象物100の容器210からの取り出し作業等を容易にすることができる。つまり、後処理工程は、処理対象物100を冷却する冷却工程を兼ねることが好ましい。このために、後処理液注入装置242は、加熱されていない後処理液320を容器210に注入することが好ましい。なお、後処理液を、20℃未満(室温未満)に積極的に冷却して用いてもよい。以上説明したように、本実施形態による後処理工程が行われる。
【0080】
次に、処理対象物100について、さらに説明する。処理対象物100は、少なくともエッチング対象物10を有し、エッチング対象物10は、III族窒化物で構成された被エッチング領域20を有する。
【0081】
図4(a)は、第1例の処理対象物100を示す概略断面図である。第1例の処理対象物100は、エッチング対象物(ウエハ)10と、マスク50と、を有する。エッチング対象物10は、エッチング対象物10の(少なくとも)上面部分に、III族窒化物で構成された被エッチング領域20を有する。マスク50は、エッチング対象物10の上面に形成され、被エッチング領域20を画定する開口を有する。マスク50は、例えば、金属等の導電性材料で形成され、また例えば、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO)、レジスト、等の非導電性材料で形成される。
【0082】
エッチング対象物10は、例えば、全厚さが導電性の部材である。このようなエッチング対象物10としては、例えば、GaN基板等のIII族窒化物の自立基板が挙げられ、また例えば、このような自立基板上にGaN層等のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させた積層基板が挙げられる。
【0083】
エッチング対象物10は、また例えば、エッチング対象物10の上面側が導電性であり、下面側(裏面側)が半絶縁性である部材(以下、裏面側が非導電性の部材、ともいう)である。このようなエッチング対象物10としては、例えば、サファイア基板、半絶縁性の炭化シリコン(SiC)基板、等の基板上にGaN層等のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させた積層基板が挙げられる。
【0084】
エッチング対象物10が、裏面側が非導電性の部材で構成されるとともに、マスク50が、非導電性材料で形成されている場合、処理対象物100は、カソードパッド(導電性部材)30をさらに有していることが好ましい。
【0085】
カソードパッド30は、金属等の導電性材料で形成された導電性部材であって、被エッチング領域20と電気的に接続された、エッチング対象物10の導電性領域の表面の少なくとも一部と接触するように設けられている。カソードパッド30は、PECエッチング時に、カソードパッド30の少なくとも一部、例えば上面が、エッチング液310と接触するように、設けられている。
【0086】
PECエッチングが生じる被エッチング領域20は、ホールが消費されるアノード領域として機能すると考えられる。これに対し、被エッチング領域20と電気的に接続された導電性部材であるカソードパッド30の、エッチング液310と接触する表面は、電子が消費される(放出される)カソード領域として機能すると考えられる。エッチング対象物10が、裏面側が非導電性の部材で構成されるとともに、マスク50が、非導電性材料で形成されている場合、カソードパッド30が形成されていないと、電子が消費されるカソード領域を確保することが困難となる。このような場合であっても、カソードパッド30を形成することにより、カソード領域を確保することが容易となるため、PECエッチングを促進させることができる。
【0087】
エッチング対象物10が、全厚さが導電性の部材で構成されている場合は、マスク50が非導電性材料で形成されている場合であっても、エッチング対象物10の下面(裏面)または側面を、好ましくは大面積である下面を、カソード領域として利用することができる。このため、カソードパッド30は省略されてもよい。エッチング対象物10の下面をカソード領域として利用する場合は、エッチング対象物10の下面がエッチング液310と接触するように、処理対象物100が配置されることが好ましい。このような態様について、詳細は図7を参照して後述する。
【0088】
また、エッチング対象物10が、全厚さが導電性の部材で構成されている場合であっても、裏面側が非導電性の部材で構成されている場合であっても、マスク50が導電性材料で形成されている場合は、マスク50の上面をカソード領域として利用することができる。このため、カソードパッド30は省略されてもよい。
【0089】
図4(b)は、第1例の処理対象物100に対してPECエッチングを施すエッチング工程を示す概略断面図である。エッチング液310中で被エッチング領域20に光225を照射することにより、被エッチング領域20をエッチングする。本例では、実線の太い矢印で示すように、エッチング対象物10の上面側から下面側に向けて、厚さ方向にエッチングを進行させる。
【0090】
なお、III族窒化物の+c面(例えばGaNのGa面)をエッチングすることは、難しいことが知られているが、PECエッチングは、III族窒化物を結晶方位によらずエッチングできるため、+c面であってもエッチングできる。このため、被エッチング領域20の被エッチング面(上面)が+c面である場合に、PECエッチングを用いたエッチングを行うことは、特に有用である。なお、PECエッチングは、ウェットエッチングであるため、エッチングに起因するIII族窒化物結晶へのダメージが少ないという利点も有する。
【0091】
図5(a)は、第2例の処理対象物100を示す概略断面図である。第2例の処理対象物100は、エッチング対象物(ウエハ)10のみで構成されており、マスク50を有しなくてよい。エッチング対象物10は、下層11と、下層11上に配置された中間層12と、中間層12上に配置された上層13と、を有する。
【0092】
中間層12は、III族窒化物で構成され、中間層12の全体が、被エッチング領域20を構成する。上層13は、中間層12を構成するIII族窒化物よりも広いバンドギャップを有することにより光225を透過させるIII族窒化物で構成されている。より具体的には、例えば、下層11は、サファイア基板、SiC基板等の成長用下地基板であり、中間層12は、下層11(成長用下地基板)上に成長された窒化インジウムガリウム(InGaN)層であり、上層13は、中間層12(InGaN層)上に成長されたGaN層である。以下、このような積層構造を例として説明を進める。なお、本例では、上層13の上面を、カソード領域として利用できる。なお、必要に応じ、下層11と中間層12との間に他の層を介在させてもよく、中間層12と上層13との間に(光225を透過させる)他の層を介在させてもよい。なお、成長用下地基板は、シリコン(Si)基板等の導電性基板であってもよく、このような場合は、下層11の下面も、カソード領域として利用できる。
【0093】
図5(b)は、第2例の処理対象物100に対してPECエッチングを施すエッチング工程を示す概略断面図である。光225を、上層13を透過させて、被エッチング領域20である中間層12に照射することで、上層13に対し中間層12を選択的にエッチングする。本例で、光225の波長は、GaNで構成された上層13は透過させるように365nm超であって、InGaNで構成された中間層12では吸収されてホールを生成させるような範囲の波長とする。
【0094】
本例のPECエッチングでは、また、中間層12の端面をエッチング液310に接触させた状態で、エッチングを行う。このようにして、実線の太い矢印で示すように、エッチング対象物10の端面側から内部側に向けて、厚さ方向と直交する方向に(面内方向に)、中間層12のエッチングを進行させる。中間層12の全体をエッチングにより除去することで、下層11と上層13とを分離させる。このようにして、本例では、PECエッチングを用いて、下層11から上層13を分離させるリフトオフを行うことができる。
【0095】
リフトオフを、つまり、上層13に対する中間層12の選択的なエッチングを、PECエッチングにより行う場合は、加熱PECエッチングを用いることが好ましい。リフトオフのPECエッチングを、光ラジカル生成を利用するPECエッチングで行おうとすると、以下のような困難が生じる。光ラジカル生成を行うためには、エッチング液310に波長310nm未満の波長の光を照射することとなる。しかし、光225に波長310nm以下の成分が含まれると、中間層12(InGaN層)においてだけでなく、上層13(GaN層)においても光吸収(ホール生成)が生じるため、上層13もエッチングされてしまう。したがって、光ラジカル生成を用いると、中間層12の選択的なエッチングを行うことができない。
【0096】
このように、PECエッチングを例えばリフトオフに応用する際は、被エッチング領域20を構成する(、バンドギャップに対応する波長が少なくとも310nm以上である、)III族窒化物におけるホール生成は生じさせるとともに、エッチング液310における光ラジカル生成は抑制するような、光225を、光照射装置220から照射することが好ましい。つまり、光照射装置220は、少なくとも、波長310nm未満の短波長成分がカット(減衰)された光225を出射するように構成されていることが好ましい。
【0097】
このような光照射装置220は、以下のように構成されてよい。例えば、光照射装置220の光源221として、バンドギャップに対応する波長が310nm以上である半導体材料で構成された半導体発光素子を用いる。これにより、波長310nm未満の短波長成分が光源221から出射することを抑制できる。
【0098】
また例えば、光照射装置220に、波長310nm未満の短波長成分を減衰させるフィルタ222を設ける。これにより、高圧ハロゲンランプ等のように発光波長が広範囲に及ぶ光源221を用いる場合であっても、光照射装置220から出射される光225に、波長310nm未満の短波長成分が含まれることを抑制できる。
【0099】
なお、光225においてカット(減衰)される短波長成分は、波長310nm未満の短波長成分に限らず、必要に応じて、所定波長(波長310nm以上の範囲に含まれる所定波長)以下の短波長成分であってよい。例えば、上述のリフトオフの例においては、波長365nm以下の短波長成分がカットされた光225が用いられる。つまりここで、光225は、少なくとも波長310nm未満の短波長成分がカットされた光ということができる。
【0100】
<変形例>
次に、上述の実施形態の変形例による処理装置200について説明する。図6(a)および図6(b)は、それぞれ、第1変形例および第2変形例の撹拌装置260を示す概略断面図である。
【0101】
図6(a)に示す第1変形例の撹拌装置260は、上述のような回転装置261を有し、さらに、容器210に設けられた凸部(フィン)262を有する。凸部262は、容器210内の側面または底面から容器210内に突出する部材である。回転装置261の撹拌時の駆動(回転方向の反転、または、一方向への間欠的な回転)において、容器210の回転を中断させた際に、エッチング液310は、慣性により移動を続けようとする。本変形例の撹拌装置260は、慣性により移動を続けようとするエッチング液310の流れを、凸部262により乱すことで、より効率的にエッチング液310を撹拌することができる。第1変形例の撹拌装置260は、容器210を動かすことによりエッチング液310を撹拌する撹拌装置260の例である。
【0102】
図6(b)に示す第2変形例の撹拌装置260は、容器210に設けられたスターラ263を有し、エッチング液310中で撹拌部材を動かすことによりエッチング液310を撹拌する撹拌装置260の例である。なお、スターラ263は、容器210からのエッチング液310の排出時に、エッチング液310とともに排出されないように、容器210に取り付けられていることが好ましい。
【0103】
図7は、変形例による固定装置270を示す概略断面図である。本変形例の固定装置270は、容器210内の底面から処理対象物100の下面(の少なくとも一部)を離した状態で、処理対象物100を固定する態様の固定装置270である。本変形例の固定装置270は、例えば、処理対象物100の下面と容器210内の底面との間に挟まれる部分を有することで、容器210内の底面から処理対象物100の下面を離す。
【0104】
図4(a)を参照して説明したように、エッチング対象物10が、全厚さが導電性の部材で構成されている場合、つまり、処理対象物100の下面(光225が照射される表面と反対側の面)が、被エッチング領域20と電気的に接続された導電性の面である場合は、本変形例の固定装置270が好ましく用いられる。これにより、被エッチング領域20、および、処理対象物100の下面が、エッチング液310と接触した状態で、PECエッチングを行うことができる。つまり、処理対象物100の下面を、カソード領域として利用することができる。
【0105】
<実験例>
次に、加熱PECエッチングに係る実験例について説明する。本実験例では、ホットプレート(ヒータ)上に、ビーカを配置し、ビーカ内にエッチング液と処理対象物とを収容し、ホットプレートでエッチング液を加熱しつつ、処理対象物に光を照射することで、PECエッチングを行った。
【0106】
処理対象物は、図4(a)に示した構造と同様な、エッチング対象物(ウエハ)とマスクとを有するものである。ただし、カソードパッドは形成していない。エッチング対象物として、GaN自立基板上にGaN層をエピタキシャル成長させた積層基板を用いた。マスクは、酸化シリコンで形成した。
【0107】
具体的には、以下のようにして処理対象物を準備した。ボイド形成剥離(VAS)法で作製された直径2インチのn型GaN自立基板上に、有機金属気相成長(MOVPE)により、厚さ2μmでn型層であるGaN層(中間層)を成長させ、GaN層(中間層)上に、厚さ13μmでSi濃度が0.9×1016/cmのGaN層(ドリフト層)を成長させることで、積層基板を作製した。GaN層(ドリフト層)上に、厚さ330nmの酸化シリコン層を堆積し、酸化シリコン層をパターニングすることで、マスクを形成した。マスクが形成された積層基板を、約6mm角の小片に切り分け、当該小片を、処理対象物とした。
【0108】
エッチング液としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH)水溶液を用いた。エッチング液中のS 2-濃度(調製時濃度)を、以下単に、濃度ということもある。本実験例では、0.025mol/L(M)および0.25mol/L(M)の2種類の濃度のエッチング液を用いた。
【0109】
エッチング液中における処理対象物の配置深さLは、10mmとした。また、処理対象物の下面をエッチング液と接触させてカソード領域として利用するために、処理対象物の下面とビーカ内の底面との間に厚さ0.4mmのサファイア片を挟み、ビーカ内の底面から処理対象物の下面を離した状態で、処理対象物を配置した。
【0110】
ホットプレートにより、ビーカ内のエッチング液を加熱した。エッチング液の温度を熱電対で測定し、熱電対の測定結果に基づいて、ホットプレートを制御した。また、エッチング液の温度ムラを抑制するために、ビーカ内に配置したスターラにより、エッチング液を200rpmで撹拌した。
【0111】
直径4インチ用の手動のマスクアライナ装置(ユニオン光学、PEM-800)を用いて、上方から光照射を行った。光源としては、高圧水銀ランプ(ウシオ電機、USH-350D)を用いた。エッチング液の表面における照射強度(パワー密度)は、波長365nmにおいて15.9mW/cmであり、波長254nmにおいて2.13mW/cmであった。
【0112】
エッチング液のpHの時間的な変化を、pHメータ(堀場製作所、LAQUAtwin)により測定した。また、エッチング深さを、表面プロファイラ(Sloan、Dektak3 ST)を用いて測定した。
【0113】
図12は、本実験例における、エッチング液の温度およびpHの時間変化を示すグラフである。図12に示す例では、液温を室温から70℃に加熱している。なお、70℃近傍で液温の揺らぎが大きいのは、本実験例で用いたエッチング液の量が少なかったためであると考えられる。
【0114】
(NH水溶液は、濃度に依存せず室温で酸性である。濃度が0.025Mおよび0.25Mの2種類のエッチング液のいずれも、液温が室温から70℃に上昇するにつれ、また、液温が70℃でほぼ一定となった後も、pHが低下している(酸性が増している)。液温が70℃となった後において、pHが低下していることから、70℃においてSO -*が生成されていることがわかる。
【0115】
本実験例では、濃度が0.025Mおよび0.25Mの2種類のエッチング液のそれぞれについて、液温(エッチング温度)を様々に変えて、エッチングレートを測定した。液温が所定温度に達した後、被エッチング領域への光照射が開始された時点(液温が所定温度であること、および、被エッチング領域に光照射されること、の両方が満たされることで、PECエッチングが開始された時点)から5分間のPECエッチングを行い、エッチング深さを測定した。測定されたエッチング深さに基づき、5分間の平均的なエッチングレートを求めた。このように、本明細書では、開始から5分間のPECエッチングに対して、エッチングレートが規定される。
【0116】
図13は、本実験例における、エッチング液の温度(エッチング温度)とエッチングレートとの関係を示すグラフである。濃度0.025Mにおけるエッチングレートを、円のプロットで示し、濃度0.25Mにおけるエッチングレートを、四角のプロットで示す。
【0117】
なお、本実験例で処理対象物(およびエッチング液)に照射される光には、波長254nmの成分が2.13mW/cmの強度で含まれる。このため、本実験例では、熱ラジカル生成によるPECエッチングがほとんど生じない低い温度範囲であっても、光ラジカル生成によるPECエッチングが生じる。光ラジカル生成によるPECエッチングを、光ラジカルPECエッチングと称することもある。
【0118】
濃度0.25Mでのエッチングレートは、液温が高くなるほど増加する傾向を示す。これに対し、濃度0.025Mでのエッチングレートは、液温が高くなっても増加しない傾向を示し、30℃(室温)でのエッチングレートと比べ、45℃、53℃および70℃でのエッチングレートは、むしろ減少している。
【0119】
濃度0.25Mにおいて、エッチングレートが増加しだす液温は、45℃程度である。また、濃度0.025Mにおいて、45℃程度以上で、30℃(室温)のエッチングレートからのエッチングレートの減少が観察される。これらの結果を総合的に勘案すると、液温が45℃以上の温度範囲において、熱ラジカル生成のエッチングレートへの影響が顕著となり、これに対し、液温が45℃未満の温度範囲において、エッチングレートは実質的に光ラジカル生成により定まっている、と理解される。つまり、加熱PECエッチングに好ましい、液温の温度範囲は、45℃以上であると理解される。45℃以上の温度範囲(図13に「by heat」と示す温度範囲)を、加熱PECエッチング領域と称することがあり、45℃未満の温度範囲(図13に「by UVC」と示す温度範囲)を、光ラジカルPECエッチング領域と称することがある。
【0120】
30℃(室温)における、光ラジカル生成によるエッチングレートを、基準エッチングレートと称する。濃度0.025Mでの基準エッチングレートは、3nm/分であり、濃度0.25Mでの基準エッチングレートは、5nm/分である。
【0121】
濃度0.025Mでは、加熱によって、基準エッチングレートに対するエッチングレートの増加が得られておらず、むしろエッチングレートが減少する傾向が見られる。この理由は明確でないが、このことから、エッチング液の濃度が低すぎることは、加熱によりエッチングレートを高めるという観点からは好ましくないといえる。
【0122】
基準エッチングレートに対するエッチングレートの増加が加熱によって得られないことを、(エッチング液の)失活と称する。加熱によりエッチングレートを高める観点からは、エッチング液の濃度は、失活を生じさせない高い濃度(つまり、加熱によりエッチングレートを増加させる濃度)であることが好ましい。
【0123】
濃度0.25Mでは、加熱によって、基準エッチングレートに対するエッチングレートの増加が得られている。つまり、濃度0.25Mは、失活を生じさせない高い濃度となっている。濃度0.25Mで得られた温度依存性の傾向より、30℃における基準エッチングレートが5nm/分であるのに対し、50℃で6nm/分、60℃で10nm/分、70℃で15nm/分、75℃で20nm/分、80℃で25nm/分の高いエッチングレートが得られるといえる。
【0124】
上述のように、濃度0.025Mおよび0.25Mのエッチングレートの温度依存性を総合的に勘案すると、熱ラジカル生成のエッチングレートへの影響が顕著となる境界的な温度は、45℃と考えられる。加熱PECエッチングにおける液温は、45℃以上とし、(失活しない濃度において)エッチングレートを高める観点からは、50℃以上とすることが好ましい。また、濃度0.25Mのエッチングレートの温度依存性に着目すると、エッチングレートの増加が顕著となるのは、60℃以上である。このため、エッチングレートをより高める観点からは、加熱PECエッチングにおける液温は、60℃以上とすることがより好ましく、70℃以上とすることがさらに好ましい。
【0125】
なお、エッチング液の蒸発または沸騰を抑制する観点から、液温は100℃未満とすることが好ましく、95℃以下とすることがより好ましい。
【0126】
失活を生じさせない高い濃度は、より具体的には以下のように規定される。失活を生じさせない高い濃度は、当該濃度を有し50℃以上に(または60以上に、または70℃以上に)加熱されたエッチング液を用いて行うエッチングにおけるエッチングレートが、当該濃度を有し30℃(室温)のエッチング液を用いて行うエッチングにおけるエッチングレートよりも、高くなるような(高い)濃度である。
【0127】
濃度0.25Mのエッチングでは、30℃における基準エッチングレートとして5nm/分が得られており、50℃以上への加熱により、基準エッチングレートを超える6nm/分以上(好ましくは10nm/分以上、より好ましくは15nm/分以上、さらに好ましくは20nm/分以上、さらに好ましくは25nm/分以上)のエッチングレートが得られている。このことから、エッチングレートを高めるのに好ましい高い濃度は、以下のように規定されてもよい。エッチングレートを高めるのに好ましい高い濃度は、当該濃度を有し50℃以上に加熱されたエッチング液を用いて行うエッチングにおける、エッチングレートが、6nm/分以上(好ましくは10nm/分以上、より好ましくは15nm/分以上、さらに好ましくは20nm/分以上、さらに好ましくは25nm/分以上)となるような(高い)濃度である。
【0128】
なお、加熱PECエッチングにより、例えば少なくとも6nm/分以上(好ましくは10nm/分以上、より好ましくは15nm/分以上、さらに好ましくは20nm/分以上、さらに好ましくは25nm/分以上)のエッチングレートを得ることが可能であることは、本願発明者により新たに得られた知見である。また、加熱PECエッチングにより、例えば0.025Mの低い濃度では、6nm/分以上のエッチングレートを得ることができないことも、本願発明者により新たに得られた知見である。
【0129】
濃度0.025Mは、失活を生じさせる低い濃度であり、失活を抑制するためには、濃度を0.025M超とすることが好ましい。ここで、図11を参照して説明した実験では、上述のように、酸性領域でのラジカル生成レート(x in acid)について、S 2-濃度が0.075mol/Lでの70℃における熱によるラジカル生成レート(1.71×10-4(mol/L)/分)が、S 2-濃度が0.025mol/Lでの室温における光によるラジカル生成レート(1.54×10-4(mol/L)/分)を超えている。このことも勘案すると、濃度を例えば0.075mol/L以上とすることで、失活を抑制できることが期待される。加熱PECエッチングによりエッチングレートを高める観点から、エッチング液の濃度(S 2-濃度)は、0.075mol/L(M)以上とすることが好ましく、0.1mol/L(M)以上とすることがより好ましく、0.15mol/L(M)以上とすることがさらに好ましく、0.2mol/L(M)以上とすることがさらに好ましく、0.25mol/L(M)以上とすることがさらに好ましい。
【0130】
本実験例では、処理対象物に照射される光に、波長310nm未満(具体的には波長254nm)の成分も(例えば0.5mW/cm以上の強度で、また例えば1mW/cm以上の強度で)含まれているため、光ラジカルPECエッチングも生じている。濃度0.25Mのエッチングの基準エッチングレートである5nm/分は、光ラジカルPECエッチングによるものといえる。
【0131】
光ラジカルPECエッチングによりエッチングレートを高めることは、以下に説明するように容易ではない。光ラジカルPECエッチングによるエッチングレートを高めるために、例えば、波長310nm未満の波長成分の照射強度を増加することが考えられる。しかし、当該波長成分の照射強度を増加しても、処理対象物の近傍における光ラジカル生成を増加させることは容易ではない。これは、当該波長成分の光は処理対象物に至るまでに透過するエッチング液で吸収されて減衰するため、処理対象物の近傍における照射強度を高めることが難しいためである。
【0132】
光ラジカルPECエッチングによるエッチングレートを高めるために、また例えば、エッチング液の濃度を高めることが考えられる。しかし、上述のようなエッチング液による光吸収は、エッチング液の濃度を高めるほど大きくなるため、エッチング液の濃度を高めても、処理対象物の近傍における照射強度を高めることは難しい。
【0133】
例えば、濃度0.25Mは濃度0.025Mの10倍の濃度であるが、光ラジカルPECエッチングが支配的と考えられる30℃において、濃度0.25Mのエッチングレートは、濃度0.025のエッチングレートの2倍に満たない。
【0134】
このように、45℃未満の光ラジカルPECエッチング領域では、照射強度を高めること、または、エッチング液の濃度を高くすること、により、エッチングレートを高めるという方法は、効率的でないといえる。つまり、光ラジカルPECエッチング領域では、高い濃度のエッチング液が潜在的に有するSO -*の生成能力を効率的に引き出すことが難しく、これに起因して、エッチングレートを高めることが難しい。
【0135】
これに対し、45℃以上の加熱PECエッチング領域では、高い濃度のエッチング液が潜在的に有するSO -*の生成能力を効率的に引き出すことができるため、エッチングレートを高めることが容易である。これは、処理対象物の近傍における照射強度を高めることでSO -*の生成を増加させることと比べて、処理対象物の近傍における液温を高めることでSO -*の生成を増加させることの方が、効率的であるためと考えられる。濃度0.25Mのエッチングでは、例えば、80℃において基準エッチングレートの5nm/分の5倍に達する25nm/分程度の高いエッチングレートが得られている。
【0136】
光ラジカルPECエッチングと比べて、加熱PECエッチングにより効率的に高いエッチングレートが得られていることの目安は、例えば以下のように規定される。光ラジカルPECエッチングと比べて、加熱PECエッチングにより効率的に高いエッチングレートが得られているとは、エッチングレートのうち、波長(200nm以上)310nm未満の波長成分の照射によるSO -*の生成に起因するエッチングレート(基準エッチングレート)よりも、エッチング液の加熱によるSO -*の生成に起因するエッチングレートが大きいことをいう。
【0137】
換言すると、加熱PECエッチングによって、光ラジカルPECエッチングの(基準エッチングレートの)2倍超のエッチングレートが得られていることを、光ラジカルPECエッチングと比べて、加熱PECエッチングにより効率的に高いエッチングレートが得られていること、ということもできる。同一濃度のエッチング液を用い、光ラジカルPECエッチングによって、基準エッチングレートの2倍超のエッチングレートを得ようとするならば、照射強度を高めることとなるが、上述のように照射強度の増加によりエッチングレートを高めることは非効率である。このため、基準エッチングレートの2倍超に達する高いエッチングレートを、加熱PECエッチングによって得られている状況は、光ラジカルPECエッチングと比べて、加熱PECエッチングにより効率的に高いエッチングレートが得られていることの一つの目安となる。
【0138】
例えば、濃度0.25Mでは、60℃を超える液温でのエッチングにおいて、10nm/分を超えるエッチングレートが得られるといえる。このエッチングレートの、光ラジカルPECエッチングによる基準エッチングレートである5nm/分との差分は、「エッチング液の加熱によるSO -*の生成に起因するエッチングレート」といえる。当該差分は、5nm/分超であり、「波長(200nm以上)310nm未満の波長成分の照射によるSO -*の生成に起因するエッチングレート(基準エッチングレート)」である5nm/分よりも大きい。このため、濃度0.25Mの60℃を超える液温での加熱PECエッチングにおいて、光ラジカルPECエッチングと比べて、効率的に高いエッチングレートが得られている、ということができる。
【0139】
加熱PECエッチングを行う際、処理対象物(およびエッチング液)に照射される光に、波長(200nm以上)310nm未満の成分は、含まれてもよいし、含まれなくてもよい。加熱PECエッチングによれば、当該成分を含まない光を用いても、PECエッチングを行うことが可能となる。加熱PECエッチングでは、エッチング液に照射される光の、波長(200nm以上)310nm未満の範囲に含まれる所定波長における照射強度が、3mW/cm以下であってよい。本実験例では、エッチング液に照射される光の波長254nmにおける照射強度が2.13mW/cmである。
【0140】
加熱PECエッチング領域では、上述のように、高い濃度のエッチング液が潜在的に有するSO -*の生成能力を効率的に引き出すことができるため、エッチングレートを高めることが容易である。ただし、被エッチング領域に照射される光の強度が一定であれば、ホールの生成レートは一定となる。したがって、ホールがSO -*に対して不足するほどに、SO -*の生成レートが高くなった場合、エッチングレートをそれ以上高めることはできないと考えられる。このようなエッチングレートの最大値を、ホール律速エッチングレートと称する。
【0141】
加熱PECエッチング領域において、エッチングレートがホール律速エッチングレートに達すると、エッチング液の濃度を高くしても、エッチングレートはそれ以上高くならないと考えられる。ホール律速エッチングレートに近い、高いエッチングレートが得られるような高い濃度は、ホールを効率的に利用できる濃度ということができる。
【0142】
ただし、加熱PECエッチング領域におけるエッチングレートは、低温側では低く高温側で高いため、ホール律速エッチングレートは、ある程度の高温において到達されると考えられる。ここでは、70℃でほぼホール律速エッチングレートに達するような、高い濃度を、ホールを効率的に利用できる濃度と考える。当該高い濃度のエッチングでは、70℃以上の温度、例えば80℃におけるエッチングレートが、70℃におけるエッチングレートと同程度、例えば1.2倍以下にとどまるといえる。
【0143】
このような考察を踏まえ、加熱PECエッチングにおいて、ホール律速エッチングレートに近い、高いエッチングレートが得られるような、エッチング液の高い濃度(ホールを効率的に利用できる濃度)は、例えば以下のように規定される。ホールを効率的に利用できる濃度は、当該濃度を有し80℃に加熱されたエッチング液を用いて行うエッチングにおけるエッチングレートが、当該濃度を有し70℃のエッチング液を用いて行うエッチングにおけるエッチングレートに対し、1.2倍以下となるような(高い)濃度である。
【0144】
なお、濃度0.25Mにおいて、80℃のエッチングレートである25nm/分の、70℃のエッチングレートである15nm/分に対する比は、1.7倍である。したがって、上述のように規定される、ホールを効率的に利用できる濃度は、0.25M超の濃度といえる。
【0145】
なお、加熱PECエッチングにおいて、エッチング液の濃度と温度を一定としつつ、ホール生成のための光照射強度を変えることで、エッチングレートを制御してもよい。SO -*の生成レートを、エッチング液の濃度と温度により精密に制御する観点からは、処理対象物(およびエッチング液)に照射される光に、波長(200nm以上)310nm未満の成分は、含まれないことが好ましい。
【0146】
本実験例では、エッチング液を調製するためのS 2-の塩として、ペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH)の水溶液を用いた。(NHの室温における水への溶解度は、1.95mol/L(80g/100mL、MW=228.18g/mol)である。
【0147】
加熱PECエッチングのエッチング液、つまり、エッチング温度に加熱されたエッチング液において、S 2-の塩が析出していない(溶け残っていない)ことは、例えば、析出した(溶け残った)当該塩が被エッチング領域に付着することに起因したエッチングの阻害を抑制するために、好ましい。なお、室温(20℃以上30℃以下)のエッチング液においても、S 2-の塩が析出していない(溶け残っていない)ことは、エッチング液の調製を容易にするために、より好ましい。
【0148】
なお、必要に応じ、エッチング温度に加熱されたエッチング液において、S 2-の塩が析出している(溶け残っている)ようにしてもよい。つまり、当該塩の飽和水溶液を、エッチング液として用いてもよい。これにより、エッチング液の濃度を、時間的に一定に飽和濃度に保つことができる。
【0149】
エッチング液を調製するためのS 2-の塩として、(NHの他の塩、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム(K)を用いてもよく、また例えば、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(Na)を用いてもよい。Kの室温における水への溶解度は、0.18mol/L(5.2g/100mL、MW=270.33g/mol)である。Naの室温における水への溶解度は、1.5mol/L(55.6g/100mL、MW=238.10g /mol)である。
【0150】
例えば半導体装置を製造するための工程の一部として、加熱PECエッチングを用いる際、アルカリ金属元素の残留を避けたい場合がある。このような場合は、KまたはNaのような、アルカリ金属元素を含む塩をエッチング液に用いるよりも、(NHのような、アルカリ金属を含まない塩をエッチング液に用いることが好ましい。(NHを用いることは、また、例えばKと比べて、水への溶解度が高い点からも好ましい。なお、塩の溶解度が大きいことで、後処理工程(冷却工程)での温度低下時に塩が析出しにくいため、析出した塩が洗浄時の残渣となることを抑制することもできる。
【0151】
以上説明したように、III族窒化物に対するPECエッチングの(無電極PECエッチングの)新たな技術である、加熱PECエッチングが提案される。加熱PECエッチングを用いることで、例えば、光ラジカルPECエッチングと比べて、エッチングレートを高めることが容易となる。これにより、PECエッチングによる貫通孔形成等の深堀が容易となる。加熱PECエッチングを用いることで、また例えば、PECエッチングを用いたリフトオフが可能となる。
【0152】
加熱PECエッチングは、ホールの生成を光照射により行わせ、SO -*の生成を加熱により行わせることができる技術である。これにより、ホールの生成と、SO -*の生成と、の制御の独立性を向上させることができるため、エッチングレート等のエッチング条件の制御性を向上させることができる。
【0153】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更、改良、組み合わせ等が可能である。
【0154】
例えば、上述の実施形態では、図2(b)を参照して説明したPECエッチング工程での加熱方法(第1例の方法および第2例の方法)において、予備的な加熱温度を45℃未満とする態様を例示した。しかし、予備的な加熱温度は、45℃未満であることが必須ではなく、(45℃以上に設定される)加熱PECエッチングにおけるエッチング温度よりも、低い温度に適宜設定されてよい。
【0155】
また例えば、上述の実施形態では、図3(a)および図3(b)を参照して説明した後処理工程において、加熱されていない(30℃以下の)後処理液により、冷却工程を兼ねる後処理工程を行う態様を例示した。しかし、冷却工程を兼ねるための後処理液の温度は、30℃以下であることが必須ではなく、(45℃以上に設定される)加熱PECエッチングにおけるエッチング温度よりも、低い温度に適宜設定されてよい。
【0156】
また例えば、上述の実験例では、エッチング液として、調製時から(エッチングの開始時から)酸性である(NH水溶液を用いた。(化1)を参照して説明したように、エッチング液のpHは、PECエッチングの進行に伴い低下する。したがって、エッチング液がエッチングの開始時から酸性である場合、エッチング液は、エッチングの終了時まで酸性を保つ。つまり、上述の実験例では、PECエッチングの期間中にエッチング液が酸性である状態が保たれる態様(これを、酸性領域PECエッチングと称する)を例示した。
【0157】
PECエッチングは、エッチングの期間中にエッチング液がアルカリ性である状態が保たれる態様(これを、アルカリ性領域PECエッチングと称する)で行われてもよい。PECエッチングは、III族元素の酸化物が、アルカリ性または酸性のエッチング液に溶解することで進行する。これに起因して、エッチング液が中性となる期間は、PECエッチングが中断する。また、エッチング液がアルカリ性から酸性に変化する場合、アルカリ性領域でのエッチング条件と、酸性領域でのエッチング条件とが、相互に異なることに起因して、エッチング条件が時間的に変動してしまうことが懸念される。このような観点から、PECエッチングは、上述の実験例のような酸性領域PECエッチングとして行われるか、あるいは、アルカリ性領域PECエッチングとして行われることが好ましい。
【0158】
アルカリ性領域PECエッチングは、例えば以下のように行われる。エッチング液は、図9および図10を参照して説明した実験のように、S 2-の塩の水溶液を、KOH水溶液等のアルカリ性水溶液と混合することで、アルカリ性のエッチング液として調製される。アルカリ性領域PECエッチングを、加熱PECエッチングとして行う場合、エッチング液の加熱によりSO -*を生成させ、被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、PECエッチングを行う。PECエッチングの進行に伴い、エッチング液のpHが低下するため、エッチング液に(必要に応じ)アルカリ性水溶液を追加することで、エッチング液がアルカリ性である状態を保つように(pHの低下を抑制するように)してもよい。なお、例えば、エッチング液に混合されるアルカリ性水溶液の濃度を高くすることにより、また例えば、(同一エッチング液を用いる1回の)エッチング時間を短時間とすることにより、アルカリ性水溶液を追加せずともエッチング液がアルカリ性である状態が保たれるようにしてもよい。
【0159】
熱ラジカル生成において、エッチング液のpHは、9未満となると、その後急激に低下して酸性となる(図10参照)。このため、アルカリ性領域PECエッチングにおいて、エッチング期間中のエッチング液のpHは、9以上に維持されることが好ましい。エッチング液のpHのエッチング開始からの低下幅は(エッチング期間中の最大のpHと最小のpHとの差は)、pHの最大が14であることから、5以下とすることが好ましい。さらに、当該低下幅は、エッチング条件の変動を抑制する観点からは、4以下とすることがより好ましく、3以下とすることがさらに好ましい。エッチング液のpHを酸性にさせにくくする観点からは、加熱PECエッチングを開始する時点におけるpHは、高い方がよく、11以上とすることが好ましく、12以上とすることがより好ましく、13以上とすることがさらに好ましい。
【0160】
なお、例えば、濃度がxmol/L(M)であるKOH水溶液を、濃度が0.05mol/L(M)であるK水溶液と1:1で混合した混合溶液の、室温におけるpHは、以下のようなものである。単独のK水溶液のpHは、3.18である。xが0.001M、0.01M、0.1M、および、1Mの混合溶液のpHは、それぞれ、4.4、11.9、13.0、および、13.9である。
【0161】
図11に示すように、70℃に加熱した混合溶液におけるラジカル生成レートは、アルカリ性領域において、酸性領域よりも高くなっている。この結果から、加熱PECエッチングを、アルカリ性領域PECエッチングとして行うことで、酸性領域PECエッチングとして行う場合よりも、高いエッチングレートが得られることが期待される。
【0162】
エッチング条件の時間的変動を抑制する観点からは、エッチング液がエッチングの期間中に、酸性である状態が保たれること、または、アルカリ性である状態が保たれること、が好ましいが、少なくともエッチング開始近傍の期間におけるエッチングレートを向上させるという観点からは、少なくともエッチング開始時におけるエッチング液を、アルカリ性としてもよい。
【0163】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0164】
(付記1)
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を、ペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液中に浸漬された状態で容器に収容する工程と、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域をエッチングする工程と、
を有する、構造体の製造方法。
【0165】
(付記2)
前記所定温度を、45℃以上(好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上)とする、付記1に記載の構造体の製造方法。
【0166】
(付記3)
前記エッチング液を、前記所定温度よりも低い温度に加熱した後、前記所定温度に加熱する、付記1または2に記載の構造体の製造方法。
【0167】
(付記4)
前記所定温度を、100℃未満(好ましくは95℃以下)とする、付記1~3のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0168】
(付記5)
前記エッチング液は、(少なくとも)ペルオキソ二硫酸イオンの塩を、前記エッチング液が調製される時点でのペルオキソ二硫酸イオンの濃度である調製時濃度が所定濃度となるように、水に溶解させることで調製されたものである、付記1~4のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0169】
(付記6)
前記調製時濃度を、当該調製時濃度を有し50℃以上に加熱された前記エッチング液を用いて行うエッチングにおける、前記被エッチング領域がエッチングされるエッチングレートが、当該調製時濃度を有し30℃の前記エッチング液を用いて行うエッチングにおけるエッチングレートよりも、高くなるような(高い)濃度とする、付記5に記載の構造体の製造方法。
【0170】
(付記7)
前記調製時濃度を、当該調製時濃度を有し50℃以上に加熱された前記エッチング液を用いて行うエッチングにおける、前記被エッチング領域がエッチングされるエッチングレートが、6nm/分以上(好ましくは10nm/分以上、より好ましくは15nm/分以上、さらに好ましくは20nm/分以上)となるような(高い)濃度とする、付記5または6に記載の構造体の製造方法。
【0171】
(付記8)
前記調製時濃度を、0.075mol/L以上(好ましくは0.1mol/L以上、より好ましくは0.15mol/L以上、さらに好ましくは0.2mol/L以上、さらに好ましくは0.25mol/L以上)とする、付記5~7のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0172】
(付記9)
前記調製時濃度を、当該調製時濃度を有し80℃に加熱された前記エッチング液を用いて行うエッチングにおける、前記被エッチング領域がエッチングされるエッチングレートが、当該調製時濃度を有し70℃の前記エッチング液を用いて行うエッチングにおけるエッチングレートに対し、1.2倍以下となるような(高い)濃度とする、付記5~8のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0173】
(付記10)
前記所定温度に加熱された前記エッチング液において、前記塩が析出していない(溶け残っていない)、付記5~9のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0174】
(付記11)
前記所定温度に加熱された前記エッチング液において、前記塩が析出している(溶け残っている)、付記5~9のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0175】
(付記12)
前記塩として、アルカリ金属元素を含まない塩が用いられる、付記5~11のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0176】
(付記13)
前記塩として、ペルオキソ二硫酸アンモニウムが用いられる、付記5~12のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0177】
(付記14)
前記被エッチング領域がエッチングされるエッチングレートが、6nm/分以上(好ましくは10nm/分以上、より好ましくは15nm/分以上、さらに好ましくは20nm/分以上、さらに好ましくは25nm/分以上)である、付記1~13のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0178】
(付記15)
前記被エッチング領域がエッチングされるエッチングレートのうち、前記光に含まれる波長(200nm以上)310nm未満の波長成分の照射による硫酸イオンラジカルの生成に起因するエッチングレートよりも、前記エッチング液の加熱による硫酸イオンラジカルの生成に起因するエッチングレートが大きくなるように、前記エッチングを行う、付記1~14のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0179】
(付記16)
前記所定温度を、45℃以上とし、
硫酸イオンラジカルを、1.6×10-4(mol/L)/分以上のレートで生成させる、付記1~15のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0180】
(付記17)
前記エッチング液に照射される前記光の、波長(200nm以上)310nm未満の範囲に含まれる所定波長における照射強度が、3mW/cm以下である、付記1~16のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0181】
(付記18)
前記被エッチング領域のエッチングを開始する時点において、前記エッチング液を酸性とする、付記1~17のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0182】
(付記19)
前記被エッチング領域のエッチングを開始する時点において、前記エッチング液をアルカリ性とする、付記1~17のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。好ましくは、前記被エッチング領域をエッチングする期間中、前記エッチング液がアルカリ性である(より好ましくはpHが9以上である)状態を保つ。
【0183】
(付記20)
前記エッチング液を、(少なくとも、)ペルオキソ二硫酸イオンの塩の水溶液と、アルカリ性水溶液と、が混合された混合溶液とする、付記19に記載の構造体の製造方法。
【0184】
(付記21)
前記被エッチング領域をエッチングする期間中における、前記エッチング液のpHの低下幅(最大のpHと最小のpHとの差)は、5以下(好ましくは4以下、より好ましくは3以下)である、付記19または20に記載の構造体の製造方法。pHの低下を抑制するために、前記被エッチング領域をエッチングする期間中に、前記エッチング液に、アルカリ性水溶液を追加してもよい。pHを高くするために、前記被エッチング領域のエッチングを開始する時点における、前記エッチング液のpHを、好ましくは11以上(より好ましくは12以上、さらに好ましくは13以上)としてもよい。
【0185】
(付記22)
前記光による影が前記処理対象物の表面に映らない位置に配置される温度計により、前記エッチング液の温度を測定する、付記1~21のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0186】
(付記23)
前記エッチング液を撹拌しながら、前記エッチング液を加熱する、付記1~22のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0187】
(付記24)
前記処理対象物を、前記処理対象物を収容する容器に固定した状態で、前記エッチングを行う、付記1~23のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0188】
(付記25)
前記被エッチング領域をエッチングする工程の後、
前記所定温度よりも低い温度の後処理液により、前記処理対象物に後処理を施す(とともに前記処理対象物を冷却する)工程、
を有する、付記1~24のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0189】
(付記26)
前記処理対象物は、
前記被エッチング領域を有するエッチング対象物と、
前記エッチング対象物の、前記被エッチング領域と電気的に接続された導電性領域の表面の少なくとも一部と接触するように設けられた導電性部材と、
を有し、
前記導電性部材が、前記エッチング液と接触した状態で、前記エッチングを行う、付記1~25のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0190】
(付記27)
前記処理対象物の、前記光が照射される表面と反対側の面が、前記被エッチング領域と電気的に接続された導電性の面であり、
前記被エッチング領域、および、前記反対側の面が、前記エッチング液と接触した状態で、前記エッチングを行う、付記1~26のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0191】
(付記28)
前記処理対象物は、
第1層と、
前記第1層上に配置され、前記被エッチング領域を構成する第2層と、
前記第2層上に配置された第3層と、
を有し、
前記第2層を前記エッチングにより除去することで、前記第1層と前記第3層とを分離する、付記1~27のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【0192】
(付記29)
前記第3層は、前記第2層を構成する前記III族窒化物よりも広いバンドギャップを有することにより前記光を透過させるIII族窒化物で構成されており、
前記光を、前記第3層を透過させて前記第2層に照射し、
前記第2層の端面が、前記エッチング液と接触した状態で、前記第3層に対して前記第2層を選択的にエッチングする、付記28に記載の構造体の製造方法。
【0193】
(付記30)
III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を、ペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液中に浸漬された状態で収容する容器と、
前記エッチング液を加熱する(少なくとも1つの)ヒータと、
前記被エッチング領域に光を照射する光照射装置と、
前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ、前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで、前記被エッチング領域がエッチングされるように、前記ヒータおよび前記光照射装置を制御する制御装置と、
を有する、構造体の製造装置。
【0194】
(付記31)
前記ヒータは、前記容器に注入される(収容される)前の前記エッチング液を加熱する第1ヒータを有する、付記30に記載の構造体の製造装置。
【0195】
(付記32)
前記エッチング液を前記容器に注入するエッチング液注入装置を有し、
前記第1ヒータは、前記エッチング液注入装置に設けられている、付記31に記載の構造体の製造装置。
【0196】
(付記33)
前記ヒータは、前記容器に注入された(収容された)後の前記エッチング液を加熱する第2ヒータを有する、付記30~32のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。
【0197】
(付記34)
前記第2ヒータは、前記容器に設けられている、付記33に記載の構造体の製造装置。
【0198】
(付記35)
前記第2ヒータは、前記エッチング液に赤外光を照射するランプである、付記33または34に記載の構造体の製造装置。
【0199】
(付記36)
前記エッチング液の温度を測定する温度計を有し、
前記温度計は、前記温度計の前記光による影が、被エッチング領域に映らない位置に配置される、付記30~35のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。前記ヒータは、好ましくは、前記温度計により測定された前記エッチング液の温度に基づいて制御される。
【0200】
(付記37)
前記エッチング液を撹拌する撹拌装置を有する、付記30~36のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。
【0201】
(付記38)
前記撹拌装置(回転装置)は、前記容器を動かすことにより、前記エッチング液を撹拌する、付記37に記載の構造体の製造装置。
【0202】
(付記39)
前記容器内の側面または底面に、前記エッチング液を撹拌する凸部(フィン)が設けられている、付記38に記載の構造体の製造装置。
【0203】
(付記40)
前記撹拌装置(スターラ)は、前記エッチング液中で撹拌部材を動かすことにより、前記エッチング液を撹拌する、付記37~39のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。
【0204】
(付記41)
前記処理対象物を前記容器に固定する固定装置を有する、付記30~40のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。
【0205】
(付記42)
前記固定装置は、前記処理対象物の、前記光が照射される表面と反対側の面が、前記容器内の底面から離れて配置されるように、前記処理対象物を固定する、付記41に記載の構造体の製造装置。
【0206】
(付記43)
前記容器は、回転可能に保持され、前記容器を回転させて前記エッチング液を外周側に飛散させることで、前記エッチング液を前記容器から排出可能に構成されている、付記30~42のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。
【0207】
(付記44)
前記所定温度よりも低い温度の後処理液を前記容器に注入する後処理液注入装置を有する、付記30~43のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。
【0208】
(付記45)
前記光照射装置は、前記光を放出する光源として、バンドギャップに対応する波長が310nm以上である半導体材料で構成された半導体発光素子を有する、付記30~44のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。当該光照射装置は、少なくとも波長310nm未満の短波長成分が減衰された光、を出射するように構成された光照射装置の一例である。
【0209】
(付記46)
前記光照射装置は、波長310nm未満の範囲の波長成分を減衰させるフィルタを備える、付記30~45のいずれか1つに記載の構造体の製造装置。当該光照射装置は、少なくとも波長310nm未満の短波長成分が減衰された光、を出射するように構成された光照射装置の他の例である。
【0210】
(付記47)
処理対象物およびエッチング液を収容する容器と、
前記エッチング液を加熱するヒータと、
前記処理対象物に光を照射する光照射装置と、
前記光による影が前記処理対象物の表面に映らない位置に配置され、前記エッチング液の温度を測定する温度計と、
前記ヒータおよび前記光照射装置を制御する制御装置と、
を有し、前記処理対象物に光電気化学エッチングを行うよう構成された、構造体の製造装置。
【0211】
(付記48)
処理対象物およびエッチング液を収容する容器と、
前記エッチング液を加熱するヒータと、
前記処理対象物に光を照射する光照射装置と、
前記処理対象物を前記容器に固定する固定装置と、
前記ヒータおよび前記光照射装置を制御する制御装置と、
を有し、前記処理対象物に(エッチング時に気泡の発生を伴う)光電気化学エッチングを行うよう構成された、構造体の製造装置。
【符号の説明】
【0212】
10…エッチング対象物(ウエハ)、20…被エッチング領域、30…カソードパッド、50…マスク、100…処理対象物、200…構造体の製造装置(処理装置)、210…容器、220…光照射装置、221…光源、222…フィルタ、225…光、230…ヒータ、230A…注入前ヒータ、230B…注入後ヒータ、231…容器ヒータ、232…ランプヒータ、233…注入装置ヒータ、234…注入装置予備ヒータ、240…注入装置、241…エッチング液注入装置、242…後処理液注入装置、243…先端部、245…タンク、246…配管、250…温度計、260…撹拌装置、261…回転装置、262…フィン、263…スターラ、270…固定装置、280…制御装置、300…処理液、310…エッチング液、320…後処理液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13