(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】AlInN膜とその製造方法および2次元フォトニック結晶共振器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/18 20210101AFI20220203BHJP
H01S 5/323 20060101ALI20220203BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20220203BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20220203BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
H01S5/18
H01S5/323 610
H01L21/205
C30B29/38 C
C23C16/34
(21)【出願番号】P 2020129257
(22)【出願日】2020-07-30
(62)【分割の表示】P 2019502976の分割
【原出願日】2018-02-26
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2017036446
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康文
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 智宏
【審査官】淺見 一喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-120848(JP,A)
【文献】特許第6788301(JP,B2)
【文献】特開2011-109151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0003458(US,A1)
【文献】国際公開第2014/006813(WO,A1)
【文献】Berger, C. et al.,Growth of AlInN/GaN distributed Bragg reflectors with improved interface quality,Journal of Crystal Growth,NL,ELSEVIER,2015年03月15日,Vol.414,pp.105-109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 21/205
C30B 29/38
C23C 16/34
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IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元フォトニック結晶共振器のエアクラッド層の形成に使用される犠牲層として、基板上に形成されたGaNエピタキシャル膜上に設けられるAlInN膜であって、
AlInN層が積層されて形成されており、
積層された前記AlInN層の間に、厚み0.1~10nmのGaN製、AlN製またはAlGaN製のキャップ層が設けられて、超格子構造が形成されており、
総厚みが200nmを超えていると共に、二乗平均平方根高さRMSが3nm以下であることを特徴とするAlInN膜。
【請求項2】
前記超格子構造における前記AlInN層の各々の厚みが、200nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のAlInN膜。
【請求項3】
前記AlInN層の表面におけるInのドロップレットの数が5×10
6個/cm
2以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のAlInN膜。
【請求項4】
前記AlInN層の表面にInのドロップレットが存在しないことを特徴とする請求項3に記載のAlInN膜。
【請求項5】
前記積層されたAlInN層が、Al
xIn
1-xN(x=0.75~0.90)
で示されるAlInN層であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のAlInN膜。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のAlInN膜の製造方法であって、
基板上に形成されたGaNエピタキシャル膜上に、有機金属気相成長法、分子線エピタキシー法、スパッタ法のいずれかの方法を用いて、700~850℃の雰囲気下、AlInN層を厚み200nm以下にエピタキシャル成長させて形成するAlInN層形成工程を複数回繰り返して、所定の厚みとなるまで、AlInN層を成長させることを特徴とするAlInN膜の製造方法。
【請求項7】
前記AlInN層形成工程を複数回繰り返すに際して、先行する前記AlInN層形成工程と後続する前記AlInN層形成工程との間に、雰囲気温度をAlInNの成長温度よりも低い温度に維持して、所定時間、AlInN層の成長を中断させるAlInN層形成中断工程を設けることを特徴とする請求項6に記載のAlInN膜の製造方法。
【請求項8】
前記AlInN層形成工程を複数回繰り返すに際して、先行する前記AlInN層形成工程と後続する前記AlInN層形成工程との間に、先行する前記AlInN層形成工程において形成された前記AlInN層の上に、前記AlInN層形成工程と同じ温度雰囲気下、厚み0.1~10nmのGaN製、AlN製またはAlGaN製のキャップ層を形成させるキャップ層形成工程、および、前記キャップ層が形成された前記AlInN層をさらに昇温させると共に、AlInN層形成工程と同じ温度雰囲気まで降温させる昇温降温工程を設けることを特徴とする請求項6に記載のAlInN膜の製造方法。
【請求項9】
前記昇温降温工程において所定の温度まで昇温した時点で、前記キャップ層形成工程において形成されたキャップ層の上に第二キャップ層を形成することを特徴とする請求項8に記載のAlInN膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のAlInN膜を犠牲層として2次元フォトニック結晶共振器を製造する2次元フォトニック結晶共振器の製造方法であって、
GaNエピタキシャル膜が形成された基板上に、前記AlInN膜および発光層を形成させた後、
前記AlInN膜をウェットエッチングしてエアクラッド層を形成させることを特徴とする2次元フォトニック結晶共振器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlInN膜とその製造方法および2次元フォトニック結晶共振器の製造方法に関し、より詳しくは、厚膜のAlInN膜とその製造方法および前記AlInN膜を犠牲層(最終的に除去される層)に用いてエアクラッドを形成させた2次元フォトニック結晶共振器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)などの窒化物半導体は、青色発光デバイスを構成する半導体材料として注目されており、近年では、GaNにインジウム(In)を高濃度添加することにより、緑色さらには赤色発光デバイスを実現できると期待されている。しかし、高In組成になるに従い結晶性の劣化が発生し、また、ピエゾ電界効果による発光効率の低下を招くため、In組成制御による赤色発光デバイスの実現は困難となっている。
【0003】
このような状況下、本発明者は、世界に先駆けて、有機金属気相エピタキシャル(OMVPE)法によってEu添加GaN(GaN:Eu)を用いた発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を作製して、発光遷移確率を高めることにより、100μWを超える光出力の赤色発光ダイオードを得ることに成功している(特許文献1)。
【0004】
そして、このような赤色発光ダイオードの実現により、既に開発されている青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードと併せて、同一基板上に窒化物半導体を用いた光の三原色の発光ダイオードを集積化することが可能となるため、小型で高精細なフルカラーディスプレイや、現在の白色LEDには含まれていない赤色領域の発光が加えられたLED照明などの分野への応用が期待されている。
【0005】
一方、近年、発光ダイオードやレーザダイオード(LD:Laser Diode)等の半導体発光デバイスが広く用いられるようになっている。例えばLEDは、各種表示デバイス、携帯電話を初めとする液晶ディスプレイのバックライト、白色照明等に用いられ、一方、LDは、ブルーレイディスク用光源としてハイビジョン映像の録画再生、光通信、CD、DVD等に用いられている。
【0006】
また、最近では、携帯電話用MMIC(monolithic microwave integrated circuit:モノリシックマイクロ波集積回路)、HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)等の高周波デバイスや、自動車関連向けのインバーター用パワートランジスタ、ショットキーバリアダイオード(SBD)等の高出力デバイスの用途が拡大している。
【0007】
しかしながら、これらのデバイスに上記したGaN系の発光素子を使用するためには、さらなる発光効率の増大が求められており、様々な工夫が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献2においては、2次元フォトニック結晶構造を形成させることにより、発光効率の増大を図っている。また、特許文献3、4においては、AlInN層をGaN層上に成長させることにより反射鏡構造を形成させて発光効率の増大を図っている。
【0009】
このAlInN層は、In組成を0.18程度とすることで、GaNと格子整合することが知られており(例えば、非特許文献1、2)、成膜時に転位等の結晶欠陥が混入しにくくなり、結晶性の高いヘテロ接合構造を得ることができる。そして、このようなAlInN層はニトリロ三酢酸などによりウェットエッチングが可能であるため、AlInNを犠牲層として、容易に2次元フォトニック結晶構造を形成させることができる(例えば、非特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5896454号公報
【文献】特許第5300078号公報
【文献】特開2015-056483号公報
【文献】特開2015-160752号公報
【0011】
【文献】小塚 祐吾他6名、「高成長速度AlInNによる窒化物半導体多層膜反射鏡」、第61回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集(2014)15-135
【文献】J.-F.Carlin他6名、「Progresses in III-nitride distributed Bragg reflectors and microcavities using AlInN/GaN materials」、phys.stat.sol.(b)242,No.11,2326-2344(2005)/DOI 10.1002/pssb.200560968
【文献】D Simeonov et al.,「High quality nitride based microdisks obtained via selective wet etching of AlInN sacrificial layers」、APPLIED PHYSICS LETTERS 92,171102(2008)
【文献】M.Bellanger et al.,「Highly Reflective GaN-Based Air-Gap Distributed Bragg Reflectors Fabricated Using AlInN Wet Etching」Appl.Phys.Express 2,12003(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記した従来の技術では、未だ、十分に発光効率を増大できているとは言えず、さらなる改良が望まれている。
【0013】
そこで、本発明は、従来よりも飛躍的に発光効率の増大を図ることができる半導体発光素子の製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載する各発明により上記課題が解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0015】
請求項1に記載の発明は、
2次元フォトニック結晶共振器のエアクラッド層の形成に使用される犠牲層として、基板上に形成されたGaNエピタキシャル膜上に設けられるAlInN膜であって、
AlInN層が積層されて形成されており、
積層された前記AlInN層の間に、厚み0.1~10nmのGaN製、AlN製またはAlGaN製のキャップ層が設けられて、超格子構造が形成されており、
総厚みが200nmを超えていると共に、二乗平均平方根高さRMSが3nm以下であることを特徴とするAlInN膜である。
【0016】
請求項2に記載の発明は、
前記超格子構造における前記AlInN層の各々の厚みが、200nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のAlInN膜である。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
前記AlInN層の表面におけるInのドロップレットの数が5×106個/cm2以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のAlInN膜である。
【0018】
請求項4に記載の発明は、
前記AlInN層の表面にInのドロップレットが存在しないことを特徴とする請求項3に記載のAlInN膜である。
【0019】
請求項5に記載の発明は、
前記積層されたAlInN層が、AlxIn1-xN(x=0.75~0.90)で示されるAlInN層であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のAlInN膜である。
【0020】
請求項6に記載の発明は、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のAlInN膜の製造方法であって、
基板上に形成されたGaNエピタキシャル膜上に、有機金属気相成長法、分子線エピタキシー法、スパッタ法のいずれかの方法を用いて、700~850℃の雰囲気下、AlInN層を厚み200nm以下にエピタキシャル成長させて形成するAlInN層形成工程を複数回繰り返して、所定の厚みとなるまで、AlInN層を成長させることを特徴とするAlInN膜の製造方法である。
【0021】
請求項7に記載の発明は、
前記AlInN層形成工程を複数回繰り返すに際して、先行する前記AlInN層形成工程と後続する前記AlInN層形成工程との間に、雰囲気温度をAlInNの成長温度よりも低い温度に維持して、所定時間、AlInN層の成長を中断させるAlInN層形成中断工程を設けることを特徴とする請求項6に記載のAlInN膜の製造方法である。
【0022】
請求項8に記載の発明は、
前記AlInN層形成工程を複数回繰り返すに際して、先行する前記AlInN層形成工程と後続する前記AlInN層形成工程との間に、先行する前記AlInN層形成工程において形成された前記AlInN層の上に、前記AlInN層形成工程と同じ温度雰囲気下、厚み0.1~10nmのGaN製、AlN製またはAlGaN製のキャップ層を形成させるキャップ層形成工程、および、前記キャップ層が形成された前記AlInN層をさらに昇温させると共に、AlInN層形成工程と同じ温度雰囲気まで降温させる昇温降温工程を設けることを特徴とする請求項6に記載のAlInN膜の製造方法である。
【0023】
請求項9に記載の発明は、
前記昇温降温工程において所定の温度まで昇温した時点で、前記キャップ層形成工程において形成されたキャップ層の上に第二キャップ層を形成することを特徴とする請求項8に記載のAlInN膜の製造方法である。
【0024】
請求項10に記載の発明は、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のAlInN膜を犠牲層として2次元フォトニック結晶共振器を製造する2次元フォトニック結晶共振器の製造方法であって、
GaNエピタキシャル膜が形成された基板上に、前記AlInN膜および発光層を形成させた後、
前記AlInN膜をウェットエッチングしてエアクラッド層を形成させることを特徴とする2次元フォトニック結晶共振器の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来よりも飛躍的に発光効率の増大を図ることができる半導体発光素子の製造技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る2次元フォトニック結晶共振器の構造を模式的に示す斜視図である。
【
図2】2次元フォトニック結晶共振器におけるエアクラッド層の厚みとQ値との関係を示す図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係るAlInN膜の構造を説明する図である。
【
図4】成膜途中のAlInN膜の表面AFM像である。
【
図5】本発明の一実施の形態における成長シーケンスを説明する図である。
【
図6】本発明の一実施例におけるAlInN膜の表面AFM像である。
【
図7】連続成長させて作製されたAlInN膜の表面AFM像である。
【
図9】本発明の一実施例における2次元フォトニック結晶の作製工程を説明する図である。
【
図10】本発明の一実施例における2次元フォトニック結晶の構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[1]本発明における検討経過
最初に、本発明における検討経過について説明し、その後、具体的な実施の形態について説明する。なお、以下では、Eu添加GaN(GaN:Eu)を用いた赤色発光半導体を例に挙げて説明するが、GaN系の青色発光半導体、緑色発光半導体に対しても、同様に考えることができる。
【0028】
1.発光効率の増大化について
上記したように、本発明は発光効率(発光強度)の増大化を図るものであり、そのための方策として、発光遷移確率の向上と光取り出し効率の向上が考えられる。
【0029】
(1)発光遷移確率
この内、発光遷移確率の向上について、本発明者は、前記したように、Eu添加GaN(GaN:Eu)を用いた赤色発光半導体において発光遷移効率を向上させて、100μWを超える光出力を得ている。
【0030】
この発光遷移効率は、発光寿命の逆数で示すことができ、発光寿命を短くすることにより、発光遷移効率のさらなる向上を図ることができるが、現状、GaN中の発光寿命は約280μsと長く、十分とは言えない。
【0031】
(2)光取り出し効率
一方、光取り出し効率の向上については、光は臨界角以下の光しか空気中に取り出せないため、現状、上記した赤色発光半導体の発光波長である622nmにおけるGaNからの光取り出し量は約4%と低い水準に留まっており、さらなる光取り出し効率の向上が望まれている。
【0032】
2.発光効率の増大化の方策についての検討
そこで、本発明者は、光の出射方向を制御して、GaN発光層の垂直方向へ光を出射させることができれば、光取り出し量を増加させることができ、光取り出し効率を向上できると考え、レーザダイオードなどで適用されている共振器分布ブラッグ反射器(共振器DBR:Distributed Bragg Reflector)を用いた共振器に思い至った。
【0033】
即ち、GaN発光層に対して垂直方向が共振方向となるような微小共振器を用いた場合、光は垂直方向のモードへの結合定数が増大する一方で、伝搬モードへの結合定数が減少するため、臨界角以下の光であっても高い効率で空気中に取り出すことができる。また、このような微小共振器を用いた場合、共振器内では光の状態密度が変調されて発光寿命が短くなるため、共振波長の発光遷移確率を増大させることができる。これらの結果、微小共振器により、発光強度を増大化させて、発光効率の向上を図ることができる。
【0034】
上記した共振器DBRの形成には一般的に2次元フォトニック結晶が用いられる。2次元フォトニック結晶は、誘電体からなる母材内に母材と屈折率の異なる領域が2次元周期的に設けられてエアクラッド(air clad)層が形成されているものであり、これにより結晶内に光が伝播できないフォトニックバンドギャップが形成されるため、発光層から出た光は周期構造の面内を伝播していくことができずエアクラッド層内に閉じ込められて、垂直方向にのみ伝播されていく。
【0035】
このような2次元フォトニック結晶共振器を評価する指標として、共振器Q値(以下、単に「Q値」ともいう)があり、Q値が大きいほど光の閉じ込めが大きくなり、発光特性が改善されて、発光効率が向上する。
【0036】
本発明者は、高Q値の2次元フォトニック結晶を得るためには、どの程度の厚みが必要か、有限差分時間領域法(FDTD)によって検討を行った。具体的には、
図1に示す構造の2次元フォトニック結晶共振器において、エアクラッド層の厚みを変化させて、それぞれQ値を算出した。なお、
図1において、上側のGaNは発光層となる活性層であり、両サイドのAlInNはエアクラッド層のブリッジ部である。
【0037】
結果を
図2に示す。なお、
図2において、∞は基板がない場合を示している。
【0038】
図2より、このような構造の2次元フォトニック結晶共振器では、Eu添加GaN層の発光波長の約1波長分に相当する600nmの厚みが少なくとも確保されたエアクラッド層が形成されていると、高いQ値が得られることが分かった。そして、この発光波長の約1波長分に相当する厚みを超えると高いQ値が得られることは、Eu添加GaN層の赤色発光だけでなく、前記した青色GaN層、緑色GaN層についても同様であることが分かった。
【0039】
この結果は、2次元フォトニック結晶共振器において、発光する各色の波長の約1波長分に相当する厚み(例えば、波長が短い紫色の発光の場合には約200nmの厚み)にエアクラッド層を形成すれば高いQ値が得られることを示しているが、各発光色毎にエアクラッド層の厚みを変えることは、製造上、効率的とは言えない。そこで、最も長い波長の発光波長の約1波長分に相当する厚みを超えて1種類の厚みでエアクラッド層を形成させることが好ましく、具体的には、最も波長が長い赤色発光に合わせて600nmを超える厚みにエアクラッド層を形成することが好ましい。このようなエアクラッド層を形成することにより、それ以下の波長の発光に対しても、高いQ値を得ることができ、製造上、効率的である。
【0040】
3.エアクラッド層の形成についての検討
2次元フォトニック結晶構造におけるエアクラッド層を形成する技術として、従来より、GaN層上にAlInN層を犠牲層として形成した後、ウェットエッチングする技術が提案されている。
【0041】
しかしながら、従来のAlInN層の形成技術においては、AlInN層の厚みが100nmを超えると、AlInN層表面にInのドロップレットが析出して、表面状態が悪化することが避けられず、200nm程度が限度となっていた(S Zhang et al.,「Glowth mechanism of vertical compositional inhomogeneities in AlInN films」、J.Phys.D:Appl.Phys.44(2011)075405(4pp)参照)。即ち、従来技術においては、上記したような発光波長にして約1波長分に相当する600nmの厚みにAlInN層を形成させることができなかった。
【0042】
このような状況下、本発明者は、AlInN層の形成に際して、厚み200nm程度に成長するまでの間では、Inのドロップレットの析出が少なく、表面状態を殆ど悪化させていないことに気付き、このようなAlInN層を積層することにより、600nmの厚みであっても表面状態が良好なAlInN層が形成できると考え、種々の実験と検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0043】
[2]実施の形態
以下、実施の形態に基づいて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0044】
1.AlInN膜
最初に、本実施の形態に係るAlInN膜について説明する。本実施の形態に係るAlInN膜は、基板上に形成されたGaNエピタキシャル膜上に設けられるAlInN膜であって、AlInN層が積層されて形成されており、積層されたAlInN層の間に、厚み0.1~10nmのGaN製、AlN製またはAlGaN製のキャップ層が設けられて、超格子構造が形成されており、総厚みが200nmを超えていると共に、二乗平均平方根高さRMSが3nm以下であることを特徴としている。
【0045】
二乗平均平方根高さRMS(Root Mean Square)が3nm以下と優れた表面状態のAlInN膜は、2次元フォトニック結晶共振器を形成するための犠牲層として好適に用いることができ、例えば、AlInN膜の上に発光GaN層を形成した後、ニトリロ三酢酸をエッチング液として用い選択的ウェットエッチングすることにより、容易にAlInN膜を溶解除去して、エアクラッド層を形成させることができる。
【0046】
このとき、AlInN膜の厚みが発光層から出射される光の1波長に相当する厚み以上であると、前記したように、少なくとも発光1波長に相当する厚みが確保されたエアクラッド層を有する2次元フォトニック結晶構造を形成することができるため、より高いQ値の共振器を提供することができる。
【0047】
本実施の形態に係るAlInN膜は、例えば、Inのドロップレットの析出が少ないAlInN層、具体的には厚み200nm以下、好ましくは100nm以下のAlInN層が積層されて形成されていることが好ましく、Inのドロップレットが存在しないことがより好ましい。Inのドロップレットの析出が少ないAlInN層は表面状態が悪化していないため、積層して200nmを超える厚みとした場合でも表面状態が悪化しない。なお、ここで、「Inのドロップレットの析出が少ない」とは、AlInN膜の表面におけるInのドロップレットの数が5×106個/cm2以下であることを指している。
【0048】
また、本実施の形態に係るAlInN膜は、積層されたAlInN層の間に、厚み0.1~10nmのGaN製、AlN製またはAlGaN製のキャップ層が設けられて、超格子構造が形成されている。AlInN層の間にキャップ層が設けられていることにより、AlInN層からInが脱離することを防止すると共に、AlInN層の表面にInのドロップレットが形成されることをより抑制することができるため、優れた表面状態のAlInN膜を提供することができる。そして、このキャップ層は、最表層にも設けられているとさらに好ましい。
【0049】
本実施の形態において膜として形成されるAlInNは、AlxIn1-xN(x=0.75~0.90)であることが好ましく、AlxIn1-xN(x=0.75~0.85)であるとより好ましく、AlxIn1-xN(x=0.82)であるとさらに好ましい。
【0050】
AlxIn1-xN(x=0.75~0.90)であると、基板であるGaNとの格子不整合度が小さくなるため、歪などを生じさせることなく、AlInN膜を成長させることができる。そして、AlxIn1-xN(x=0.82)であるとGaNとの格子不整合度はほぼ0%となるため、さらに好ましい。
【0051】
なお、AlInN膜を成長させる基板としては、従来のように高価なGaNバルク基板に替えて、安価なサファイヤ基板上にGaN膜を形成させた基板を用いることができるため、製造コストの低減を図ることができる。なお、本実施の形態においては、GaN基板、Si基板などを成長基板として用いることも差し支えない。
【0052】
2.AlInN膜の製造
上記した本実施の形態に係るAlInN膜は、基板上に形成されたGaNエピタキシャル膜上に、有機金属気相成長法を用いて、700~850℃、好ましくは780~850℃の雰囲気下、AlInN層を厚み200nm以下、好ましくは100nm以下にエピタキシャル成長させて形成するAlInN層形成工程を複数回繰り返して、所定の厚みとなるまで、AlInN層を成長させることにより製造することができる。
【0053】
前記したように、AlInN層を700~850℃の雰囲気下で厚み200nm程度まで成長させた場合には、Inのドロップレットの析出が少なく、表面状態が殆ど悪化しないため、このようなAlInN層形成工程を複数回繰り返して所定の厚みとなるまで積層することにより、表面状態が良好なAlInN層を形成させることができる。
【0054】
具体的な製造方法としては、例えば、以下に記載する2つの製造方法を採用することができるが、これらは、態様を例示しただけであり、表面状態が殆ど悪化していないAlInN層を積層する方法である限り、他の方法を採用してもよい。
【0055】
(1)AlInN層形成工程とAlInN層形成中断工程との組み合わせ
第1の製造方法は、AlInN層形成工程を複数回繰り返すに際して、先行するAlInN層形成工程と後続するAlInN層形成工程との間に、雰囲気温度を700~850℃に維持して、所定時間、AlInN層の成長を中断させるAlInN層形成中断工程を設ける方法である。
【0056】
有機金属気相成長法を用いて、700~850℃の雰囲気下、AlInN層を厚み200nm以下にエピタキシャル成長させて形成した場合、Inのドロップレットの析出が少なく、表面状態が殆ど悪化しないが、このままその温度を維持していると、AlInN層の形成が進行して、さらなるInのドロップレットの析出を招いてしまい、表面状態の悪化を招いてしまう。
【0057】
そこで、200nm以下の所定の厚みまでAlInN層の形成を行った後は、雰囲気温度をAlInNの成長温度よりも低い温度に維持して、所定時間、AlInN層の成長を中断させる。これにより、Inのドロップレットが殆ど析出していない状態のAlInN層が固定されるため、その後、AlInN層形成工程を再開しても、Inのドロップレットが殆ど析出しない状態でAlInN層を形成させて積層することができる。この結果、200nmを超えて600nmの厚みとなるまでAlInN層を形成させても、表面状態が良好なAlInN層を形成することができる。
【0058】
なお、1回当たりのAlInN層形成工程において形成するAlInN層の厚みは、Inのドロップレットが殆ど析出していない状態であれば特に限定されないが、薄い場合には積層回数が多くなり、AlInN層形成工程とAlInN層形成中断工程とを頻繁に切り替えなければならず、生産性の低下を招く恐れがある。このため、1回のAlInN層形成工程において形成するAlInN層の厚みは、75~100nmであることが好ましく、より確実にInのドロップレットの析出を抑制するという観点からは75nm程度が特に好ましく、この場合には8回の成膜で厚み約600nmのAlInN層を形成することができる。
【0059】
なお、上記においては、有機金属気相成長法を用いてAlInN層を形成しているが、分子線エピタキシー法、スパッタ法などを用いてもよい。
【0060】
(2)AlInN層形成工程と、キャップ層形成工程および昇温降温工程との組み合わせ
第2の製造方法は、AlInN層形成工程を複数回繰り返すに際して、先行するAlInN層形成工程と後続するAlInN層形成工程との間に、先行するAlInN層形成工程において形成されたAlInN層の上に、AlInN層形成工程と同じ温度雰囲気下、厚み0.1~10nm、好ましくは1~10nmのGaN製、AlN製またはAlGaN製のキャップ層を形成させるキャップ層形成工程、および、キャップ層が形成されたAlInN層をさらに昇温させると共に、AlInN層形成工程と同じ温度雰囲気まで降温させる昇温降温工程を設ける方法である。
【0061】
前記したように、AlInN層形成工程とAlInN層形成中断工程とを繰り返して、AlInN層を積層することにより、表面状態が良好なAlInN層を形成することができるが、AlInN層形成中断工程には長い時間が必要であり、生産性を十分に向上させることができない。また、AlInN層の形成を中断している間に、AlInN層からInが脱離する恐れがある。
【0062】
そこで、本方法においては、このようなAlInN層形成中断工程に替えて、上記したようなキャップ層形成工程を設けている。このようなキャップ層を設けることにより、AlInN層の表面におけるInのドロップレットの析出を抑制すると共に、AlInN層からInが脱離することを防止することができる。
【0063】
そして、キャップ層を形成した後、キャップ層が形成されたAlInN層をさらに昇温(900℃以上、好ましくは、1000℃程度)させると共に、AlInN層形成工程と同じ温度雰囲気(700~850℃)まで降温させる昇温降温工程を設けている。このとき、一旦、昇温することにより、Inのドロップレットを蒸発させて取り除いて、AlInN層およびキャップ層を平滑化することができる。
【0064】
この結果、AlInN層形成工程を再開した際には、平滑化されたAlInN層およびキャップ層の上にAlInN層が形成されることになり、厚膜であっても、より良好な表面状態のAlInN膜を得ることができる。
【0065】
なお、このキャップ層の形成は1層だけの形成であってもよいが、昇温降温工程において所定の温度まで昇温した時点で、キャップ層形成工程において形成されたキャップ層(第一キャップ層)の上に第二キャップ層を形成する2段階形成がより好ましい。具体的には、第一キャップ層の形成はAlInN層の形成と同じ温度雰囲気(800℃程度)で行い、その後、200℃程度高い温度(1000℃程度)まで昇温させてその温度雰囲気で第二キャップ層の形成を行う。このとき、昇温に伴って、Inのドロップレットが蒸発するため、より表面平坦性の良い第二キャップ層を形成することができる。このように表面平坦性の良い第二キャップ層を設けた後、AlInN層の形成温度まで降温してAlInN層形成工程を再開することにより、より良好な表面状態のAlInN膜を得ることができる。
【0066】
なお、上記したAlInN膜の製造に当たっては、Al、In、Nの原料としては、例えば、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、アンモニア(NH3)を用いることができる。また、基材を構成するGaN生成用のGa原料としては、例えば、トリメチルガリウム(TMGa)が用いられ、AlInN膜を形成させる際のキャリアガスとしては、例えば水素(H2)が用いられる。
【0067】
3.2次元フォトニック結晶共振器
次に、2次元フォトニック結晶共振器について説明する。2次元フォトニック結晶共振器は、一般的に超小型で光閉じ込め率が高いことを特徴としている。本実施の形態の2次元フォトニック結晶共振器は、エアクラッド層を備えており、エアクラッド層の厚みが200nmを超え、好ましくは発生対象の光の1波長に相当する長さ以上の厚みを有しており、これにより、Q値を一層向上させている。
【0068】
本実施の形態においては、
図1に示す2次元フォトニック共振器におけるエアクラッド層の厚みは200nmを超え、例えば、発光層が赤色光を発生する活性層の場合には、その1波長に相当する長さ600nm以上の厚みを有している。
【0069】
このようなエアクラッド層は、以下の方法により製造される。最初に、基板上(サファイヤ基板上にGaN層を形成)に、所定の厚みのAlInN層を上記した方法を用いて犠牲層として形成させ、その後、AlInN層の上に発光層(GaN:Eu層)を形成させる。ここで、発光層(GaN:Eu層)は、本発明者が特許文献1などで既に提案した方法に基づいて、Euを1×1017~5×1021cm-3、より好ましくは1×1019~5×1020cm-3添加して形成させる。なお、Euに替えてPrを添加して、GaN:Pr層としてもよい。
【0070】
次に、電子ビーム描画やナノインプリントなどの方法を用いて、発光層の上面にナノサイズのパターンを作製する。
【0071】
次に、誘導結合性プラズマエッチング装置や反応性イオンエッチング装置などを用いて、パターンに合わせてナノサイズの円孔を形成する。
【0072】
その後、形成された円孔内に水酸化カリウムとニトリロ三酢酸との混合液を注ぎ込んで電気分解する方法や、熱硝酸を用いてウェットエッチングを行うことにより、犠牲層を除去してエアクラッド層を形成する。
【0073】
4.半導体発光素子
そして、上記した2次元フォトニック結晶共振器を用いて製造された半導体発光素子は、発光1波長に対応した厚みにエアクラッド層が形成されているため、十分高いQ値を確保して発光強度の増大化を図ることができ、従来よりも飛躍的に発光効率の増大させることができる。
【0074】
5.2次元フォトニック結晶共振器の異なる利用
上記においては、2次元フォトニック結晶共振器を半導体発光素子に利用しているが、発光層に替えて吸光層を設けた場合には、吸光された光が2次元フォトニック結晶共振器内に閉じ込められて外に逃げることができないため、吸光効率を大きく向上させることができる。このため、このような2次元フォトニック結晶共振器を太陽電池に使用した場合には、光の電気への変換効率を大きく上昇させて高効率な太陽電池を提供することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
【0076】
1.AlInN膜の作製
最初に、AlInN膜の作製について、
図3を参照しながら説明する。なお、
図3は、本実施の形態におけるAlInN膜の構造を説明する図である。
【0077】
(1)基板の準備
まず、サファイヤ基板100を有機金属気層成長装置の反応炉内に載置する。その後、反応炉内にアンモニアと水素を流した雰囲気状態で反応炉内を昇温して、サファイヤ基板100の表面をサーマルクリーニングする。
【0078】
次に、反応炉内にキャリアガスである水素と共に、原料ガスであるTMGa(トリメチルガリウム)およびアンモニアを供給し、温度雰囲気を通常のGaNの成長温度(1000℃前後)よりも低い温度(500℃程度)とすることにより、サファイヤ基板100の表面にGaN低温堆積緩衝層101を30nm程度の厚さに結晶成長させる。
【0079】
このようなGaN低温堆積緩衝層101を設けることにより、サファイヤ基板100と、GaN低温堆積緩衝層101の上に形成されるGaNエピタキシャル成長層102との間の格子定数差を緩和させることができ好ましい。
【0080】
次に、反応炉内の温度雰囲気(基板温度)を、例えば1000℃程度の高温に昇温する。これにより、GaN低温堆積緩衝層101上に、サファイヤ基板100と格子不整合を起こすことなく、+c軸に配向した高品質なGaNエピタキシャル成長層102が、成長していく。そして、所定の厚み、例えば、約2000nmまで成長させる。以上により、AlInN膜形成前の基板の準備が完了する。
【0081】
(2)AlInN膜の形成
次に、反応炉内の温度雰囲気(基板温度)を800℃程度まで降温し、反応炉内に、キャリアガスである窒素、窒素原料であるアンモニア、III族原料のTMA(トリメチルアルミニウム)とTMIn(トリメチルインジウム)を供給する。
【0082】
これにより、GaNエピタキシャル成長層102上にAlxIn1-xN層103(x=0.75~0.90)が成長していく。そして、所定の厚み、例えば、約75nmまで成長させる。
【0083】
図4に、この時点で、Al
xIn
1-xN層103の成長を中断して反応炉から取り出したAlInN膜の表面AFM像(原子間力顕微鏡による表面像)を示す。
【0084】
図4より、丸で囲まれた部分など複数の箇所に、Inのドロップレットの突起物が形成されていることが分かる。このようなInのドロップレットは膜厚が厚くなるにつれて多く形成されるため、約75nmの膜厚ではInのドロップレットの析出が少なく、さほど表面状態が悪化していなくても、厚膜化したAlInN膜では表面状態の悪化を招いてしまう。なお、このような表面状態の悪化は、過剰なIn元素の供給によって、成長表面に滞在する実質的なIn元素の濃度が高くなって、表面平坦性の悪化を引き起こしていると考えられる。
【0085】
(3)キャップ層の形成
そこで、本実施例においては、Inのドロップレットの析出がまだ少なくAlInN膜の表面状態が悪化しているとは言えない膜厚、具体的には、100nm程度までの膜厚で、AlxIn1-xN層103の成膜を一時中断する。
【0086】
そして、AlInN膜の形成温度の雰囲気下、TMAl、TMGaおよびアンモニアを供給して、AlxIn1-xN層103の表面に、AlxGa1-xNキャップ層104(x=0.0~1.0)(第一キャップ層)を数nm堆積する。その後、成長温度を1000℃程度まで昇温する。この昇温に伴って、前記したように、Inのドロップレットが蒸発して、取り除かれる。その後、昇温後の温度で再度AlxGa1-xNキャップ層105(x=0.0~1.0)(第二キャップ層)を数nm堆積する。第二キャップ層の形成が完了した後は、AlxIn1-xN層の成長温度まで降温して、AlxIn1-xN層103の形成を再開する。
【0087】
(4)AlInN膜の形成とキャップ層の形成の繰り返し
以下、総厚が所望する厚みとなるまで、AlInN膜の形成とキャップ層の形成とを繰り返す。この間、キャップ層の形成時、Inのドロップレットが取り除かれるため、AlInN膜およびキャップ層を積層させて厚膜化しても、表面状態の悪化を招くことがない。
【0088】
上記の工程を、成長シーケンスとして
図5に示す。なお、
図5においてA~Fに示された各シーケンスはそれぞれ以下の通りである
A:サファイヤ基板のサーマルクリーニング
B:GaN低温堆積緩衝層の形成
C:GaNエピタキシャル成長層の形成
D:Al
xIn
1-xN層の形成
E:Al
xIn
1-xN層と同じ成長温度でのAl
xGa
1-xNキャップ層(第一キャップ層)の形成
F:昇温後の温度で成長するAl
xGa
1-xNキャップ層(第二キャップ層)の形成
【0089】
なお、第二キャップ層を形成するシーケンスFでは、昇温の過程においてInのドロップレットを蒸発させて取り除くことができるため、表面平坦性の高いAlxGa1-xNキャップ層105を第二キャップ層として形成することができる。
【0090】
なお、上記したキャップ層の形成に変えて、以下の方法を採用しても、Inのドロップレットが少ない状態でAlInN層を形成させることができる。即ち、雰囲気温度をAlInNの成長温度よりも低い温度に維持して、所定時間、AlInN層の成長を中断させる。これにより、Inのドロップレットが少ない状態のAlInN層が固定されるため、その後、AlInN層形成工程を再開しても、Inのドロップレットが少ない状態でAlInN層を形成させて積層することができる。
【0091】
(5)AlInN膜の評価
(a)表面状態
図5の成長シーケンスに従って作製されたAlInN膜(実施例)と、連続成長させて作製されたAlInN膜(比較例)について、その表面AFM像(1×1μmの領域)を取得し、その表面粗さの二乗平均平方根(RMS)値を評価した。
図6に実施例のAlInN膜における表面AFM像を、
図7に比較例のAlInN膜における表面AFM像を示す。
【0092】
図6および
図7を比較すると、実施例では比較例に比べて大幅に表面の平坦性が向上していることが分かる。そして、実施例におけるRMSが0.17nmであったのに対して、比較例におけるRMSは7.15nmとはるかに大きく凹凸の大きい表面状態であることが分かる。
【0093】
そして、実施例では
図6に示すように、Inのドロップレットが見当たらず、原子層ステップが確認されるほどに平坦な表面が形成されている。この結果により、上記した成長シーケンスに従って成膜した場合、大幅に表面の平坦性が向上したAlInN膜の形成が可能となることが確認された。なお、このように、Inのドロップレットが見当たらなくなったのは、
図5のシーケンスFにおいて昇温する際に、AlInN成長時に表面に析出しているInドロップレットが蒸発、除去されて、エッチングされたためと考えられる。
【0094】
(b)X線回折測定による結晶性の評価
次に、実施例および比較例のAlInN膜についてX線回折測定を行った。得られたX線回折曲線を
図8に示す。なお、
図8において、(a)は比較例、(b)は実施例であり、それぞれ、横軸は回転角度(2θ)、縦軸はX線回折強度である。
【0095】
図8より、比較例(a)、実施例(b)のいずれも、下地のGaNエピタキシャル成長層102の(0002)回折に起因する強いピーク(各曲線の16.8°付近のピーク)が観測されている。そして、その高角度側に、AlInN結晶層が観測されているが、その様子は異なっている。
【0096】
即ち、比較例(a)においてはAl0.85In0.15NとAl0.8In0.2Nのピークと、その間に幅広いピークが確認される。これは、AlxIn1-xN層103のIn組成に分布があることを示唆している。
【0097】
一方、実施例(b)においてはAlxIn1-xN層103とAlxGa1-xNキャップ層104,105に起因するフリンジが確認されるものの、Al0.82In0.18N以外のIn組成のAlInNのピーク、及びブロードなピークが確認されていない。この結果より、上記した成長シーケンスに従って成膜を行った場合には、In組成の均一性が向上することが確認できる。
【0098】
2.2次元フォトニック結晶の作製
次に、上記で作製されたAlInN膜を用いた2次元フォトニック結晶の作製について説明する。
図9は、この2次元フォトニック結晶の作製工程を説明する図である。
【0099】
(1)薄膜成長(発光層の形成)
まず、
図9のAに示すように、上記において作成されたAlInN膜の上に、発光層であるEu添加GaN層106を形成する。
【0100】
具体的には、
図3に示す構造に作成されたAlInN膜(厚み600nm)の上に、本発明者が特許文献1などで既に提案した方法に基づいて、
図10に示すように、Eu添加GaN層106(厚み300nm)を形成する。なお、このEu添加GaN層106は
図1に示す「GaN」層に対応している。
【0101】
(2)エアクラッド層の形成
次に、AlInN膜を犠牲層として、
図9のB~Dの手順に従って、エアクラッド層を形成する。
【0102】
(a)パターン描画
本実施例においては、電子ビーム描画(EBレジスト)を用いて、Eu添加GaN層にナノサイズのパターンを作製しているが、ナノインプリントの方法を用いてもよい。
【0103】
具体的には、まず、形成されたEu添加GaN層の表面に、電子ビーム用のレジストを塗布する。次に、ホットプレートで全体を加熱して乾燥させる。その後、電子ビーム露光機を用いて、Eu添加GaN層の表面に微細構造を描画し、現像を行う。これにより、Eu添加GaN層の表面にレジストによるナノサイズのパターンが形成される。
【0104】
(b)円孔の形成
次に、
図9のCに示すように、誘導結合性プラズマエッチング装置、もしくは反応性イオンエッチング装置を用いて、Eu添加GaN層からAlInN膜に向けてナノサイズの円孔を形成する。
【0105】
(c)ブリッジの形成
次に、
図9のDに示すように、犠牲層であるAlInN膜をウェットエッチングにより除去して、エアクラッド層を保持するブリッジの形成を行う。
【0106】
具体的には、Eu添加GaN層の表面のレジストを除去した後、水酸化カリウム、ニトリロ三酢酸の混合液を用いた電気分解、もしくは熱硝酸を用いて、側面部をブリッジとして残す他は、ウェットエッチングにより、AlInN膜を除去する。なお、このとき、AlInN層の間に形成されていたキャップ層は、厚みが薄く強度も低いため、AlInN膜の除去に合わせて、自重により剥落して、AlInN膜と共に除去される。
【0107】
これにより、基板とEu添加GaN層との間にエアクラッド層が形成されて、2次元フォトニック結晶の作製が完了して、
図1に示すような2次元フォトニック結晶共振器が作製される。
【0108】
3.半導体素子
次に、上記2次元フォトニック結晶共振器を備えた半導体素子(実施例)を作製して、2次元フォトニック結晶共振器のない従来の半導体素子(比較例)と共に、発光強度を測定して比較することにより、発光効率の増大化を確認した。
【0109】
結果として、実施例の発光強度は比較例に比較して10倍以上と大きくなっていることが分かり、発光効率が飛躍的に増大していることが確認できた。このように発光効率が飛躍的に増大したのは、前記したように、本実施の形態に係る2次元フォトニック結晶共振器を設けたことにより、発光遷移確率が増大し、また、光取り出し効率が向上した結果と考えられる。
【符号の説明】
【0110】
100 サファイヤ基板
101 GaN低温堆積緩衝層
102 GaNエピタキシャル成長層
103 AlxIn1-xN層
104、105 AlxGa1-xNキャップ層
106 Eu添加GaN層