(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/347 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
G01D5/347 110L
(21)【出願番号】P 2018004923
(22)【出願日】2018-01-16
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 博和
(72)【発明者】
【氏名】松下 昌輝
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-124909(JP,A)
【文献】特開2005-303358(JP,A)
【文献】特開2008-234569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/347
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を発する発光部と、
前記発光部が発した光の少なくとも一部を通過させる、それぞれパターンが異なる複数のトラックを有するスケールと、
前記複数のトラックのそれぞれを介して受けた光の強度に応じ
た電流に変換された光
電流信号を出力する複数の受光素子を有する受光部と、
複数の前記光電流信号
に基づく複数の電気信号の波形を調整する波形調整部と、
前記波形調整部を制御するための制御データを受信する通信処理部と、
を備え、
前記通信処理部は、
前記制御データを受信する受信部と、
前記受信部が受信した前記制御データを前記制御データの周期よりも短い周期のサンプリングクロックでサンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリングクロックにおける互いに隣接する複数の遷移タイミングで前記サンプリング部が前記制御データをサンプリングして得られる複数のサンプリング値が一致することを条件として、前記複数のサンプリングクロックの直前のサンプリングクロックでサンプリングして得られた第1サンプリング値と異なる第2サンプリング値を出力するデジタルフィルタ部と、
前記通信処理部が前記制御データを受信する第1モードと、前記通信処理部が前記複数の電気信号を多重化したシリアル信号を送信する第2モードとを切り替える制御部と、
を有する測定装置。
【請求項2】
前記デジタルフィルタ部は、
前記サンプリングクロックに同期して前記制御データを遅延させた複数の遅延信号を出力するシフトレジスタと、
前記複数の遅延信号の値が一致している場合に、出力値を前記複数の遅延信号の値に変化させ、前記複数の遅延信号の値が一致していない場合に、出力値を前記複数の遅延信号の値に変化させない一致検出部と、
を有する、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記デジタルフィルタ部は、複数のクロックから前記サンプリングクロックを選択するクロック選択部をさらに有する、
請求項1又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記クロック選択部は、第1クロックと、前記第1クロックを分周した第2クロックとを含む前記複数のクロックから前記サンプリングクロックを選択する、
請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記クロック選択部は、前記受信部を介して受信した前記制御データに基づいて、前記複数のクロックから前記サンプリングクロックを選択する、
請求項3又は4に記載の測定装置。
【請求項6】
前記制御データを送信し、かつ前記シリアル信号に含まれる前記複数の
電気信号に基づいて前記スケールと前記受光部との位置関係を特定する位置特定部をさらに有する、
請求項
1から5のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記位置特定部は、前記シリアル信号を取得するタイミングを示すクロックとして機能するクロック用データの周期よりも短い周期の第2サンプリングクロックで前記クロック用データをサンプリングする第2サンプリング部と、
前記第2サンプリングクロックにおける互いに隣接する複数の遷移タイミングで前記第2サンプリング部が前記シリアル信号をサンプリングして得られる複数のサンプリング値が一致することを条件として、前記複数のサンプリングクロックの直前のサンプリングクロックでサンプリングして得られた第1サンプリング値と異なる第2サンプリング値を出力する第2デジタルフィルタ部と、
を有する、
請求項
6に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダを有する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スケールと受光素子との位置関係を特定することにより被測定物の位置や変位量を測定する測定装置として光学式エンコーダが知られている。特許文献1には、スケールに設けられたトラックを介して受けた光の強さに対応する光信号を出力する光学式エンコーダが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光信号のオフセットや振幅を良好な状態にするために、CPU(Central Processing Unit)が出力する制御データに基づいて光信号の波形を調整する必要がある。トラックを介して光を受ける受光部の近傍にCPUを搭載すると、CPUが発する熱が受光部の特性に影響を及ぼすという問題が生じる。そこで、CPUと受光部とをケーブルで接続することにより、CPUと受光部との間の距離を大きくすることが考えられる。
【0005】
しかしながら、CPUと受光部とをケーブルで接続すると、外来ノイズの影響により、CPUが出力する制御データにデータ誤りが発生してしまうという問題が生じてしまう。制御データにデータ誤りが発生すると、光信号の波形が乱れてしまい、光信号に基づく被測定物の位置の測定精度が低下してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、エンコーダを有する測定装置における位置の測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の測定装置は、光を発する発光部と、前記発光部が発した光の少なくとも一部を通過させる、それぞれパターンが異なる複数のトラックを有するスケールと、前記複数のトラックのそれぞれを介して受けた光の強度に応じた光信号を出力する複数の受光素子を有する受光部と、前記複数の光信号の波形を調整する波形調整部と、前記波形調整部を制御するための制御データを受信する通信処理部と、を備える。
【0008】
前記通信処理部は、前記制御データを受信する受信部と、前記受信部が受信した前記制御データを前記制御データの周期よりも短い周期のサンプリングクロックでサンプリングするサンプリング部と、前記サンプリングクロックにおける互いに隣接する複数の遷移タイミングで前記サンプリング部が前記制御データをサンプリングして得られる複数のサンプリング値が一致することを条件として、前記複数のサンプリングクロックの直前のサンプリングクロックでサンプリングして得られた第1サンプリング値と異なる第2サンプリング値を出力するデジタルフィルタ部と、を有する。
【0009】
前記デジタルフィルタ部は、前記サンプリングクロックに同期して前記制御データを遅延させた複数の遅延信号を出力するシフトレジスタと、前記複数の遅延信号の値が一致している場合に、出力値を前記複数の遅延信号の値に変化させ、前記複数の遅延信号の値が一致していない場合に、出力値を前記複数の遅延信号の値に変化させない一致検出部と、を有してもよい。前記デジタルフィルタ部は、複数のクロックから前記サンプリングクロックを選択するクロック選択部をさらに有してもよい。
【0010】
前記クロック選択部は、第1クロックと、前記第1クロックを分周した第2クロックとを含む前記複数のクロックから前記サンプリングクロックを選択してもよい。また、前記クロック選択部は、前記受信部を介して受信した前記制御データに基づいて、前記複数のクロックから前記サンプリングクロックを選択してもよい。
【0011】
測定装置は、前記通信処理部が前記制御データを受信する第1モードと、前記通信処理部が前記複数の光信号を多重化したシリアル信号を送信する第2モードとを切り替える制御部をさらに有してもよい。
【0012】
また、測定装置は、前記制御データを送信し、かつ前記シリアル信号に含まれる前記複数の光信号に基づいて前記スケールと前記受光部との位置関係を特定する位置特定部をさらに有してもよい。
【0013】
前記位置特定部は、前記シリアル信号を取得するタイミングを示すクロックとして機能するクロック用データの周期よりも短い周期の第2サンプリングクロックで前記クロック用データをサンプリングする第2サンプリング部と、前記第2サンプリングクロックにおける互いに隣接する複数の遷移タイミングで前記第2サンプリング部が前記シリアル信号をサンプリングして得られる複数のサンプリング値が一致することを条件として、前記複数のサンプリングクロックの直前のサンプリングクロックでサンプリングして得られた第1サンプリング値と異なる第2サンプリング値を出力する第2デジタルフィルタ部と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エンコーダを有する測定装置における位置の測定精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】信号生成部が出力するシリアル信号とクロックとのタイミング関係を示す図である。
【
図4】入力データにノイズが重畳された状態を示す図である。
【
図5】デジタルフィルタの一例であるデジタルフィルタの構成を示す図である。
【
図6】デジタルフィルタの動作について説明するための図である。
【
図7】第2実施形態に係るデジタルフィルタの構成を示す図である。
【
図8】第3実施形態に係るデジタルフィルタの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[測定装置Sの概要]
図1は、測定装置Sの構成を模式的に示す図である。測定装置Sは、インクリメンタル方式及びアブソリュート方式を用いて、被測定物の位置を測定するための装置である。インクリメンタル方式は、動作開始後に設定された初期位置に対するスケールの相対位置を連続して特定し続けることにより位置の測定を行う方式である。アブソリュート方式は、動作開始前から予め定められている測定基準位置に対するスケールの絶対位置を特定することにより位置の測定を行う方式である。
【0017】
測定装置Sは、光源1と、レンズ2と、光学格子3と、スケール4と、受光ユニット5と、ケーブル6と、処理装置7とを備える。光源1、レンズ2、光学格子3、スケール4及び受光ユニット5は、位置検出エンコーダとして機能する。ケーブル6は、受光ユニット5が送信するシリアル信号を伝送する伝送路として機能する。処理装置7は、伝送路としてのケーブル6を介して、受光ユニット5を制御するための制御データを含むシリアル信号を送信する。また、処理装置7は、受光ユニット5から受信したシリアル信号に含まれる複数の光信号に基づいて、スケール4と受光ユニット5との位置関係を特定する位置特定部として機能する。
【0018】
測定装置Sは、ケーブル6を介して処理装置7から送信されるシリアル信号にノイズが重畳された場合に、受光ユニット5がシリアル信号に含まれる制御データを誤認識しないように、受光ユニット5には、シリアル信号に重畳されたノイズを除去するためのデジタルフィルタが設けられている。デジタルフィルタの詳細については後述する。
【0019】
[測定装置Sの構成]
光源1は、光を発する発光部として機能するデバイスであり、例えばLED(Light Emitting Diode)である。光源1は、レンズ2に向けて光を発する向きに設けられている。
【0020】
レンズ2は、光源1が発した光がスケール4の所定の領域を照明するように、光源1から入射した光の向きを変える。具体的には、レンズ2は、光源1が発した光が、スケール4に形成された複数のトラックを通過して受光ユニット5に到達するように、光源1が発した光を平行光線に変換する。レンズ2において平行光線に変換された光は、光学格子3に入射する。
【0021】
光学格子3は、レンズ2を介して入射した光の照度を均一化させる。具体的には、光学格子3は、レンズ2から入射される平行光線の照度分布が、受光ユニット5内の光を検知する領域において均一になるようにする。なお、レンズ2から発せられる平行光線の照度分布が十分に均一である場合、測定装置Sに光学格子3が設けられていなくてもよい。
【0022】
スケール4は、光源1が発した光の少なくとも一部を通過させる、それぞれパターンが異なる複数のトラックを有するパネルである。スケール4は、長手方向に、光を透過する領域と光を透過しない領域とが順次配置された第1トラック41、第2トラック42及び第3トラック43を有する。スケール4は、第1トラック41、第2トラック42及び第3トラック43において、光学格子3を介して入射した光を部分的に透過させて、受光ユニット5内の位置によって強度が異なる透過光を発生させる。
【0023】
第1トラック41及び第3トラック43は、アブソリュート方式で被測定物の位置を特定するために用いられるアブソリュートスケールパターン(以下、ABSパターンという)である。第1トラック41のパターンの周期は、第3トラック43のパターンの周期と異なる。
【0024】
第2トラック42は、インクリメンタル方式で被測定物の位置を特定するために用いられるインクリメンタルスケールパターン(以下、INCパターンという)である。第2トラック42のパターンの周期は、第1トラック41のパターンの周期及び第3トラック43のパターンの周期よりも短い。
【0025】
受光ユニット5は、受光部51と、信号生成部52と、通信部53とを有する。
受光部51は、第1トラック41を通過した光に基づいて、それぞれ位相が異なる複数の第1光信号を出力する。受光部51は、第2トラック42を通過した光に基づいて、それぞれ位相が異なる複数の第2光信号を出力する。受光部51は、第3トラック43を通過した光に基づいて、それぞれ位相が異なる複数の第3光信号を出力する。
【0026】
受光部51は、それぞれ位相が異なる複数の光信号を出力するために、第1トラック41、第2トラック42及び第3トラック43のそれぞれを介して受けた光の強度に応じた光信号を出力する複数の受光素子を有する。複数の受光素子は、例えば、光を電流に変換する光電素子である。
【0027】
第1トラック41を介して光を受ける複数の第1受光素子は、第1トラック41に形成されたABSパターンの1周期内に4個の割合でスケール4の長手方向に配列されている。第2トラック42を介して光を受ける複数の第2受光素子は、第2トラック42に形成されたINCパターンの1周期内に4個の割合でスケール4の長手方向に配列されている。第3トラック43を介して光を受ける複数の第3受光素子は、第3トラック43に形成されたABSパターンの1周期内に4個の割合でスケール4の長手方向に配列されている。
【0028】
スケール4に形成されたパターンの1周期内に4個の受光素子が入れてされているので、4個の受光素子は、それぞれ90度ずつ位相が異なる4つの光信号を出力する。本明細書においては、それぞれ位相が異なる4つの光信号を、A信号、AB信号、B信号及びBB信号という。B信号は、A信号に対して位相が90度遅れている。AB信号は、A信号に対して位相が180度遅れている。BB信号は、A信号に対して位相が270度遅れている。
【0029】
受光部51は、第1トラック41、第2トラック42及び第3トラック43のそれぞれに対応するA信号、AB信号、B信号及びBB信号を生成する。すなわち、受光部51は、第1トラック41、第2トラック42及び第3トラック43のそれぞれを介して受けた光に基づいて12の光信号を生成し、生成した光信号を信号生成部52に入力する。
【0030】
信号生成部52は、受光部51から入力された複数の光信号を時分割多重化してシリアル信号を生成する。信号生成部52は、生成したシリアル信号を、ケーブル6を介して処理装置7に送信する。信号生成部52の構成例の詳細については後述する。
【0031】
通信部53は、ケーブル6を介して処理装置7との間でクロック及び制御データを送受信する。通信部53は、例えばSPI(Serial Peripheral Interface)に対応する通信用デバイスであり、処理装置7からクロックSK及び入力データDIを受信し、処理装置7に対して出力データDOを送信する。
以下、信号生成部52の詳細について説明する。
【0032】
[信号生成部52の構成]
図2は、信号生成部52の構成を示す図である。信号生成部52は、入力アンプ521と、信号選択部522と、出力アンプ523(523-1、523-2)と、DAコンバータ524(524-1、524-2)と、制御部525とを有する。信号生成部52は、例えばデジタル回路とアナログ回路とが混在した集積回路である。
【0033】
入力アンプ521は、受光部51から入力された光電流信号を電圧信号に変換する。
図2に示す例において、信号生成部52は、12個の入力アンプ521を有する。なお、
図2におけるM1AからM1BBまでの信号は、第1トラック41に対応するA信号、AB信号、B信号及びBB信号である。同様に、M2AからM2BBまでの信号及びM3AからM3BBまでの信号は、それぞれ第2トラック42及び第3トラック43に対応するA信号、AB信号、B信号及びBB信号である。
【0034】
信号選択部522は、複数の光信号のうちの1つの光信号を選択信号として出力する。具体的には、信号選択部522は、複数の入力アンプ521のそれぞれの出力端子に一端が接続され、他端が出力アンプ523-1又は出力アンプ523-2のいずれかの入力端子に接続された複数のスイッチを有する。
図2に示す例においては、A信号及びB信号に対応するスイッチの他端は出力アンプ523-1に接続されており、AB信号及びBB信号に対応するスイッチの他端は出力アンプ523-2に接続されている。
【0035】
信号選択部522は、制御部525の制御に基づいて、同一の出力アンプ523に他端が接続されている複数のスイッチのうち一個のスイッチを導通状態とし、他のスイッチを非導通状態とすることができる。このようにすることで、信号選択部522は、複数のA信号及びB信号のうちの1つの光信号を出力アンプ523-1に入力し、複数のAB信号及びBB信号のうちの1つの光信号を出力アンプ523-2に入力することができる。
【0036】
信号選択部522は、制御部525から入力される選択信号に基づいて、導通状態にするスイッチを選択する。選択信号は、信号選択部522が有するスイッチの数に対応するビット幅(例えば6ビット)のデータである。信号選択部522は、例えば選択信号の下位3ビットが000、001、010、011、100、101の場合に、それぞれM1A信号、M1B信号、M2A信号、M2B信号、M3A信号、M3B信号を出力アンプ523-1に入力するためのスイッチを導通状態にする。また、信号選択部522は、選択信号の上位3ビットが000、001、010、011、100、101の場合に、それぞれM1AB信号、M1BB信号、M2AB信号、M2BB信号、M3AB信号、M3BB信号を出力アンプ523-1に入力するためのスイッチを導通状態にする。
【0037】
出力アンプ523は、信号選択部522を介して入力された光信号の波形を調整する波形調整部として機能する。具体的には、出力アンプ523は、入力された光信号のオフセットを変化させたり、光信号を増幅させたりすることにより調整した後の光信号をケーブル6へと出力する。出力アンプ523は、処理装置7から制御データを受信した制御部525の制御に基づいて増幅率を多段階で切り替えることができる。出力アンプ523-1は、増幅後の光信号をOUT1端子から出力し、出力アンプ523-2は、増幅後の光信号をOUT2端子から出力する。
【0038】
DAコンバータ524は、制御部525の制御に基づいて、出力アンプ523が有する増幅器のオフセットキャンセル電圧を発生する。DAコンバータ524は、例えば、増幅器のオフセット成分をキャンセルするためのオフセットキャンセル電圧を出力する。DAコンバータ524-1は、出力アンプ523-1に入力されるオフセットキャンセル電圧を発生し、DAコンバータ524-2は、出力アンプ523-2に入力されるオフセットキャンセル電圧を発生する。
【0039】
制御部525は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を有する。制御部525は、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより、通信部53と連携して通信処理部として機能する。制御部525は、通信部53を介して、信号生成部52の各部(例えば、出力アンプ523及びDAコンバータ524)を制御するための制御データを受信する。制御部525は、制御データに基づいて出力アンプ523及びDAコンバータ524を制御することで、光信号のオフセットを調整したり、光信号の振幅を調整したりする。
【0040】
また、制御部525は、信号選択部522が出力アンプ523-1又は出力アンプ523-2に入力する1つの光信号を選択するための選択信号を生成する選択信号生成部として機能する回路を有する。制御部525は、ケーブル6を介して処理装置7から受信したクロックSKに同期して選択信号を生成する。
【0041】
制御部525は、受光部51から入力される複数の光信号の周期よりも短い周期で切り替わる選択信号を生成する。ここで、測定装置Sの仕様で規定されている最大変位速度でスケール4が移動した場合に生じる第2トラック42に対応する光信号の周期をT1とする。また、光信号の多重数、すなわち、出力アンプ523-1又は出力アンプ523-2に入力される光信号の数をMとする。この場合、制御部525が生成する選択信号の切り替わり時間間隔T2は、T2≦T1÷2÷Mとなるように設定されている。
【0042】
上記の条件を満たすようにT2が設定されていることにより、複数の光信号のそれぞれは、各光信号の周波数の2倍以上の周波数(すなわち、ナイキスト周波数以上の周波数)でサンプリングされ、時分割多重化されたシリアル信号として処理装置7へと出力される。したがって、処理装置7は、シリアル信号に含まれている光信号に基づいて、受光部51が出力した光信号を再生することができる。
【0043】
図3は、信号生成部52が出力するシリアル信号とクロックSKとのタイミング関係を示す図である。入力データDIは、処理装置7が出力するデータであり、信号生成部52がシリアル信号を送信可能な期間を示すデータである。制御部525は、処理装置7がシリアル信号に含まれる複数の光信号を取得するタイミングを規定するタイミング信号を生成するタイミング信号生成部としても機能する。具体的には、制御部525は、入力データDIがロウレベルになったことを検出すると、処理装置7が光信号の取得に使用するタイミング信号として、クロックSKを時間t
dだけ遅延させた出力データDOを生成し、生成した出力データDOを通信部53に出力させる。
【0044】
クロックSKの立ち下がりタイミングに同期して選択信号の値が切り替わることにより、クロックSKの立ち下がりタイミングに同期して、OUT1端子から出力される第1シリアル信号であるOUT1信号が、順次M1A信号、M1B信号、M2A信号、M2B信号、M3A信号及びM3B信号に切り替わっている。同様に、OUT2端子から出力される第2シリアル信号であるOUT2信号が、順次M1AB信号、M1BB信号、M2AB信号、M2BB信号、M3AB信号及びM3BB信号に切り替わっている。OUT1信号は第1位相の複数の光信号が時分割多重化されており、OUT2信号は、第1位相と180度の位相差がある第2位相の複数の光信号が時分割多重化されている。
【0045】
処理装置7は、ケーブル6を介して受信したOUT1信号に含まれている光信号を、出力データDOの立ち上がりタイミングで取得する。処理装置7は、例えば出力データDOの立ち上がりタイミングで割り込み処理を実行することにより、OUT1信号及びOUT2信号を取得する。出力データDOは、クロックSKに対して時間tdだけ遅延しているので、OUT1信号及びOUT2信号が変化しないタイミングで立ち上がる。したがって、処理装置7は、OUT1信号及びOUT2信号の値が安定したタイミングで、OUT1信号及びOUT2信号を取得することができるので、データ誤りが発生する確率が低い。
【0046】
処理装置7は、OUT1信号及びOUT2信号に含まれているM1A信号、M1B信号、M1AB信号及びM1BB信号に基づいて、第1トラック41に形成されているABSパターンの1周期内の位置を特定する。また、処理装置7は、OUT1信号及びOUT2信号に含まれているM3A信号、M3B信号、M3AB信号及びM3BB信号に基づいて、第3トラック43に形成されているABSパターンの1周期内の位置を特定する。
【0047】
そして、処理装置7は、特定した第1トラック41に形成されているABSパターンの1周期内の位置、及び第3トラック43に形成されているABSパターンの1周期内の位置の組合せに基づいて位相合成することで、スケール4に対する受光ユニット5の絶対位置を特定する。処理装置7は、OUT1信号及びOUT2信号に含まれているM2A信号、M2B信号、M2AB信号及びM2BB信号に基づいて、基準位置に対する相対位置をさらに特定してもよい。
【0048】
[通信部53の動作モード]
信号生成部52は、通信部53を介して処理装置7から受信する制御データに基づいて、通信部53を介してシリアル信号として送信する光信号のオフセットや振幅を調整する。通信部53は、処理装置7から送信されるクロックSKに同期して制御データを含む入力データDIを取得し、取得した入力データDIを制御部525に通知する。また、通信部53は、クロックSKに同期して制御部525が生成した出力データDOを処理装置7に送信する。
【0049】
制御部525は、制御データを受信する処理と出力データDOを送信する処理とを並行して実施することができるが、外部からの指示に基づいて、制御データを受信する動作モードと出力データDOを送信する動作モードとを切り替えてもよい。制御部525がこのように動作モードを切り替えることで、出力データDOを送信する処理を実行中の負荷を軽減できるので、ソフトウェアにより処理を実現しやすくなる。
【0050】
[デジタルフィルタ54の第1実施形態]
制御部525は、処理装置7から受信した入力データDIに重畳されたノイズの影響で制御データを誤認識しないように、入力データDIに重畳されたノイズを除去するデジタルフィルタ54を有する。
図4は、入力データDIにノイズが重畳された状態を示す図である。
図4に示すように、クロックSKの立ち下がりタイミングにおいて入力データDIにノイズが重畳されると、制御部525は、制御データを誤認識するおそれがあるので、制御部525は、デジタルフィルタ54によってノイズを除去する。
【0051】
図5は、第1実施形態に係るデジタルフィルタ54aの構成を示す図である。デジタルフィルタ54aは、サンプリングクロックに同期して制御データを遅延させた複数の遅延信号を出力するシフトレジスタと、一致検出回路544とを有する。
図5に示す例において、縦続接続された複数のフリップフロップ(フリップフロップ541,542,543)はシフトレジスタを構成し、通信部53が受信した制御データを、制御データの周期よりも短い周期のサンプリングクロックであるクロックSCLKでサンプリングするサンプリング部として機能する。
【0052】
フリップフロップ541には、入力データDIとクロックSCLKとが入力されている。フリップフロップ541は、クロックSCLKの立ち上がりタイミングにおける入力データDIをラッチして、ラッチしたデータをフリップフロップ542及び一致検出回路544に出力する。
【0053】
フリップフロップ542には、フリップフロップ541から入力されたデータとクロックSCLKとが入力されている。フリップフロップ542は、クロックSCLKの立ち上がりタイミングにおけるデータをラッチして、ラッチしたデータをフリップフロップ543及び一致検出回路544に出力する。
【0054】
同様に、フリップフロップ543には、フリップフロップ542から入力されたデータとクロックSCLKとが入力されている。フリップフロップ543は、クロックSCLKの立ち上がりタイミングにおけるデータをラッチして、ラッチしたデータを一致検出回路544に出力する。
【0055】
一致検出回路544は、クロックSCLKにおける互いに隣接する複数の遷移タイミングでフリップフロップ541,542,543が制御データをサンプリングして得られる複数のサンプリング値が一致することを条件として、複数のサンプリングクロックの直前のサンプリングクロックでサンプリングして得られた第1サンプリング値と異なる第2サンプリング値を出力する。複数の遷移タイミングは、例えばクロックSCLKの立ち上がりタイミングである。
【0056】
一致検出回路544は、フリップフロップ541,542,543のそれぞれが出力する複数の遅延信号の値が一致している場合に、出力値を複数の遅延信号の値に変化させる。また、一致検出回路544は、複数の遅延信号の値が一致していない場合に、出力値を複数の遅延信号の値に変化させないようにする。換言すると、フリップフロップ541、フリップフロップ542及びフリップフロップ543から入力された全てのデータが一致しているか否かを判定し、全てのデータが一致している場合に、一致した値を出力する。
【0057】
図6は、
図5に示したデジタルフィルタ54aの動作について説明するための図である。
図6(a)は、入力データDIがロウレベル(論理値0)からハイレベル(論理値1)に変化した状態を示している。黒丸は、クロックSCLKにより入力データDIがサンプリングされるタイミングを示している。
図6におけるクロックSCLKの周期はt
fである。
【0058】
図6(b)における実線は、
図6(a)に示す入力データDIがデジタルフィルタ54aに入力された場合に一致検出回路544が出力するデータを示している。
図6(b)において破線で示す入力データDIに対して遅延したタイミングでロウレベルからハイレベルに変化している。
【0059】
図6(c)は、入力データDIにノイズが重畳された状態を示している。
図6(d)における実線は、
図6(c)に示す入力データDIがデジタルフィルタ54aに入力された場合に一致検出回路544が出力するデータを示している。
図6(d)に示すように、デジタルフィルタ54aが有するシフトレジスタにおける遅延時間よりも短い長さのノイズが除去されることが確認できる。
なお、
図6においては、入力データDIがロウレベル(論理値0)からハイレベル(論理値1)に変化した状態を示したが、入力データDIがハイレベルからロウレベルに変化する場合にも、デジタルフィルタ54aは、同様にノイズを除去することができる。
【0060】
[デジタルフィルタ54の第2実施形態]
図7は、第2実施形態に係るデジタルフィルタ54bの構成を示す図である。デジタルフィルタ54bは、複数のクロックからサンプリングクロックとして用いるクロックを選択するクロック選択部545をさらに有する点で、
図5に示したデジタルフィルタ54aと異なり、他の点で同じである。
【0061】
クロック選択部545は、第1クロックと、第1クロックを分周した第2クロックとを含む複数のクロックからサンプリングクロックとして用いるクロックを選択する。
図7に示す例において、クロック選択部545には、第1クロックとしてのクロックSCLKと、クロックSCLKを8分周した第2クロックと、クロックSCLKを16分周した第3クロックと、クロックSCLKを32分周した第4クロックとが入力されている。クロック選択部545は、例えば制御部525のCPUの制御により、通信部53を介して受信した制御データに基づいて、入力された複数のクロックから1つのクロックを選択し、選択したクロックをフリップフロップ541,542,543に入力する。
【0062】
このように、デジタルフィルタ54bがクロック選択部545を有することにより、デジタルフィルタ54bにより除去可能なノイズの幅や遅延量を制御することが可能になる。例えば、処理装置7は、データ長が短い制御データを送信する必要がある場合、クロックSKの周波数を高くするとともに、クロックSKの周波数に連動して、より高い周波数のサンプリングクロックをクロック選択部545に選択させる。このようにすることで、データ長が短い制御データを送信する場合に、データ長に対して遅延量が大きくなり過ぎることを防止できる。
【0063】
[デジタルフィルタ54の第3実施形態]
図8は、第3実施形態に係るデジタルフィルタ54cの構成を示す図である。デジタルフィルタ54cは、
図5に示したデジタルフィルタ54aにおけるフリップフロップ543を有しておらず、入力データDIがデジタルフィルタ54cに入力されてから一致検出回路544に到達するまでの遅延量が小さい。デジタルフィルタ54cの構成に、デジタルフィルタ54bが有するクロック選択部545を設けてもよい。
【0064】
また、デジタルフィルタ54における遅延量が可変になっていてもよい。例えば、デジタルフィルタ54は、入力段から一致検出回路544までのフリップフロップの数が調整可能になっており、処理装置7から送信される制御データに基づいてフリップフロップの数を切り替えてもよい。このようにすることで、デジタルフィルタ54により除去可能なノイズの幅や遅延量を制御することが可能になる。
【0065】
[変形例1]
以上の説明においては、受光ユニット5がデジタルフィルタ54を有する場合を例示したが、処理装置7がデジタルフィルタを有してもよい。具体的には、位置特定部として機能する処理装置7は、
図5に示したデジタルフィルタ54a、
図7に示したデジタルフィルタ54b、又は
図8に示したデジタルフィルタ54cと同等の構成のデジタルフィルタを有してもよい。
【0066】
換言すると、処理装置7は、シリアル信号を取得するタイミングを示すクロック用データとして機能する出力データDOを、出力データDOの周期よりも短い周期の第2サンプリングクロックでサンプリングする第2サンプリング部を有する。また、処理装置7は、2サンプリングクロックにおける互いに隣接する複数の遷移タイミングで第2サンプリング部がシリアル信号をサンプリングして得られる複数のサンプリング値が一致することを条件として、複数のサンプリングクロックの直前のサンプリングクロックでサンプリングして得られた第1サンプリング値と異なる第2サンプリング値を出力する第2デジタルフィルタ部を有する。
【0067】
この場合、処理装置7は、受光ユニット5が送信する出力データDOを第2サンプリングクロックでサンプリングすることにより、出力データDOに重畳されたノイズを除去することができる。このようにすることで、処理装置7は、複数の光信号が時分割多重化されたシリアル信号を受信した場合に、シリアル信号のサンプリングに用いる出力データDOにノイズが重畳されても、誤ったタイミングでシリアル信号を取り込まない。その結果、測定装置Sによる測定精度を向上させることが可能になる。
【0068】
[変形例2]
以上の説明においては、測定装置Sがインクリメンタル方式及びアブソリュート方式の両方に対応している場合を例示したが、測定装置Sがインクリメンタル方式又はアブソリュート方式のいずれか一方のみを有していてもよい。
【0069】
[変形例3]
以上の説明においては、受光ユニット5と位置特定部としての処理装置7との間の伝送路がケーブル6である場合を例示したが、伝送路はケーブル6に限定されない。受光ユニット5と処理装置7とが同一のプリント基板に設けられており、プリント基板に形成された導電パターンが伝送路として機能してもよい。
【0070】
[変形例4]
以上の説明においては、デジタルフィルタ54が電気回路により実現される場合を例示したが、デジタルフィルタ54をソフトウェアで実現してもよい。例えば、制御部525が有するCPUがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより、上記のデジタルフィルタ54a~54cと同等に機能してもよい。
【0071】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【符号の説明】
【0072】
1 光源
2 レンズ
3 光学格子
4 スケール
5 受光ユニット
6 ケーブル
7 処理装置
51 受光部
52 信号生成部
53 通信部
54 デジタルフィルタ
521 入力アンプ
522 信号選択部
523 出力アンプ
524 DAコンバータ
525 制御部
541、542、543 フリップフロップ
544 一致検出回路
545 クロック選択部