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特許7018609電池の充電状態又は放電深度を推定する方法及びシステム、及び、電池の健全性を評価する方法及びシステム
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  • 特許-電池の充電状態又は放電深度を推定する方法及びシステム、及び、電池の健全性を評価する方法及びシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】電池の充電状態又は放電深度を推定する方法及びシステム、及び、電池の健全性を評価する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/389 20190101AFI20220204BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20220204BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220204BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
G01R31/389
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 X
H02J7/00 Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017525458
(86)(22)【出願日】2016-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2016068904
(87)【国際公開番号】W WO2016208745
(87)【国際公開日】2016-12-29
【審査請求日】2019-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2015129293
(32)【優先日】2015-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100158469
【弁理士】
【氏名又は名称】大浦 博司
(72)【発明者】
【氏名】田中 康平
(72)【発明者】
【氏名】曽根 理嗣
(72)【発明者】
【氏名】福田 盛介
(72)【発明者】
【氏名】板垣 昌幸
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-135806(JP,A)
【文献】特開2011-158444(JP,A)
【文献】国際公開第2014/076839(WO,A1)
【文献】特開2015-076958(JP,A)
【文献】特開2014-092471(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005141(WO,A1)
【文献】特開2015-081800(JP,A)
【文献】特表2013-537638(JP,A)
【文献】特開2000-019234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/389
H01M 10/44
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電状態又は放電深度が未知である電池に印加される電圧と該電池を流れる電流とを測定する段階と、
前記測定された電圧と電流とから、前記電池の正極負極間での複素インピーダンスを周波数に対応付けて算出する段階と、
複数の周波数の各々に対応付けて算出された各々の前記複素インピーダンスに基づいて、前記電池における未知の充電状態又は放電深度に対応する該複素インピーダンスの周波数依存性を決定する段階と、
前記未知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンスの周波数依存性を、前記電池における既知の充電状態又は放電深度に対応して予め決定された複素インピーダンスの周波数依存性と、10mHzよりも更に低い周波数領域において比較して、前記算出された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線であって10mHzよりも高い第1の周波数領域における傾きと10mHzよりも更に低い第2の周波数領域における傾きとが互いに異なる複素インピーダンス特性曲線10mHzよりも更に低い該第2の周波数領域において異なる充電状態又は放電深度に対応して異なるよう変化した傾きに対応する、該複素インピーダンス特性曲線の10mHzよりも更に低い該第2の周波数領域での充電状態又は放電深度に応じた分離に基づき、該電池における該未知の充電状態又は放電深度を推定する段階と
を備えた、電池の充電状態又は放電深度の推定方法。
【請求項2】
前記電池における既知の充電状態又は放電深度に対応して予め決定された複素インピーダンスの周波数依存性は、該電池において予め測定された複数の直流抵抗の各々と対応づけて各々が決定された、既知の直流抵抗に対応する複数の周波数依存性であり、
前記方法は、
充電状態又は放電深度が未知である前記電池の直流抵抗を測定し、該電池の劣化状態を推定する段階を更に備え、
前記電池における前記未知の充電状態又は放電深度を推定する前記段階は、前記未知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンスの周波数依存性を、該電池における既知の充電状態又は放電深度に対応して予め決定された、前記既知の直流抵抗に対応する複数の周波数依存性のうち、前記充電状態又は放電深度が未知である該電池の該直流抵抗に最も近い直流抵抗に対応する複素インピーダンスの周波数依存性と、10mHzよりも更に低い前記第2の周波数領域において比較して、前記複素インピーダンス特性曲線の10mHzよりも更に低い該第2の周波数領域において異なる充電状態又は放電深度に対応して異なるよう変化した傾きに対応する、該複素インピーダンス特性曲線の10mHzよりも更に低い該第2の周波数領域での充電状態又は放電深度に応じた分離に基づき、該電池における該未知の充電状態又は放電深度を推定する段階である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
推定された前記電池の充電状態又は放電深度に応じて、該電池に接続された充電器による充電を制御するか、又は該電池に接続された負荷の電力消費を制御する段階を更に備えた
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
充電状態又は放電深度が未知である前記電池の微分容量(電圧の変化ΔVに対する電荷Qの変化の比、又は、電位(負極の電位に対する正極の電位としての、正極負極間の電位差)の変化に対する電荷の変化の比)を測定する段階と、
前記測定された微分容量値を、複数の既知の充電状態又は放電深度の各々について各々が予め測定された、前記電池の複数の微分容量値と比較して、該電池における前記未知の充電状態又は放電深度を推定する段階と
を更に備えた、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
充電状態又は放電深度が未知である電池に印加される電圧と該電池を流れる電流とを測定する電圧電流測定部と、
前記測定された電圧と電流とから、前記電池の正極負極間での複素インピーダンスを周波数に対応付けて算出する複素インピーダンス算出部と、
複数の周波数の各々に対応付けて算出された各々の前記複素インピーダンスに基づいて、前記電池における未知の充電状態又は放電深度に対応する該複素インピーダンスの周波数依存性を決定する周波数依存性決定部と、
前記未知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンスの周波数依存性を、前記電池における既知の充電状態又は放電深度に対応して予め決定された複素インピーダンスの周波数依存性と、10mHzよりも更に低い周波数領域において比較して、前記算出された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線であって10mHzよりも高い第1の周波数領域における傾きと10mHzよりも更に低い第2の周波数領域における傾きとが互いに異なる複素インピーダンス特性曲線10mHzよりも更に低い該第2の周波数領域において異なる充電状態又は放電深度に対応して異なるよう変化した傾きに対応する、該複素インピーダンス特性曲線の10mHzよりも更に低い該第2の周波数領域での充電状態又は放電深度に応じた分離に基づき、該電池における該未知の充電状態又は放電深度を推定する周波数依存性比較部と
を備えた、電池の充電状態又は放電深度の推定装置。
【請求項6】
前記複素インピーダンス算出部と前記周波数依存性決定部とは同一のハードウェアによって実現される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記周波数依存性決定部と前記周波数依存性比較部とは同一のハードウェアによって実現される、請求項5に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の充電状態又は放電深度を推定し、制御にフィードバックしつつ、安全な充放電を行うための方法及びシステムに関する。また本発明は、電池の健全性を評価し、制御にフィードバックしつつ、安全な運用を行うための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、家庭用定置型蓄電装置、電気自動車用電源、パーソナルコンピュータ、人工衛星等に幅広く用いられている。その一方で、過充電による液漏れや、過放電による故障などが知られており、適切な充電状態や放電深度を認識した上での運用が求められる。また一次電池においても、放電深度を認識した上で運用することは、交換タイミングの判断等において有効である。
【0003】
電池の充電状態の管理には、通電あるいは開放状態にある電池の電圧を計測する方法が一般的であった(特許文献1)。従来の電池の電圧は放電とともに徐々に低下する傾向にあり、到達している電圧から放電状態を認識することが可能であったためである。一方で、電圧のみから放電状態を推定することが困難な電池も存在する。
【0004】
近年、電池の開発が進み、高い安全性を求める動きが加速している。特に安全性を重視した電池としては、電解液にイオン液体を使用した電池や、電極材料に酸素発生の抑制がかかる材料を使用した電池などが知られる。これらにおいても、過充電による液漏れや、過放電による故障を避けるべく、適切な充電状態や放電深度を認識した上での運用が求められる。
【0005】
また、電池の運用においては、充電状態や放電深度に加えて電池の健全性も適切に認識した上で運用することが求められる。健全性が悪化した電池を運用し続けた場合、発火や爆発等、重大なアクシデントが発生する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-291754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の手法からは電池の充放電状態を推定不可能な場合であっても、充放電状態を推定することを可能とするための方法及びシステムを提供すること、及び、電池の健全性を適切に認識するための方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するべく、本発明は新たな手法として、電池の内部抵抗に着目した充電状態、放電深度の推定方法、推定されたこれら充放電状態に基づく充放電の制御方法、及び関連するシステムを提案する。本発明は、電池についてオンボード(自動車や人工衛星などの移動体に搭載された状態。あるいは、その他任意の状況で電池が使用されている状態。)で取得される内部抵抗に関わるデータをもとにした充放電状態解析を可能にし、また解析結果を制御にフィードバックする手法を提供する。
【0009】
本発明は、オンボード装着された交流インピーダンス計測機能やパルス負荷に対する応答特性として得られる交流インピーダンス情報、そして直流抵抗から電池の充電状態を理解し、制御にフィードバックする充放電管理手法及びシステムを教示する。
【0010】
電流を積算し、充電状態を計算により求める方法(以下、「電流積算法」)により充電状態(以下、「SOC」)を管理することは可能であるが、本発明の提案するインピーダンスを利用する手法は、電流積算法が使用できない環境において、あるいは電流積算法を補完し精度を向上させる手法として使用することができる。
【0011】
具体的に本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する段階と、決定された複素インピーダンスのうちワールブルグインピーダンスの周波数依存性を、電池の既知の充電状態又は放電深度に対応するワールブルグインピーダンスの周波数依存性と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する段階とを備えた方法を提供する。
【0012】
上記本発明の方法においては、ワールブルグインピーダンスの周波数依存性の比較に加えて、ワールブルグインピーダンスの周波数領域よりも更に低い周波数領域においても、決定された複素インピーダンスの周波数依存性を、既知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンスの周波数依存性と比較することにより、充電状態又は放電深度の推定を行うよう構成することができる。
【0013】
本発明者は、電池の複素インピーダンス測定において、拡散が支配する低周波数領域のワールブルグインピーダンス(Warburg Impedance)、及び、ワールブルグインピーダンスの周波数領域よりも更に低い周波数領域における複素インピーダンスが、異なる充電状態(SOC:State of Charge:満充電時の充電電荷量に対する現在の充電電荷量の割合。)及び放電深度(DOD:Depth of Discharge:放電可能な電荷量に対する現在の放電電荷量の割合。)において異なる周波数依存性を示すことを見出した。この現象を利用すれば、測定された複素インピーダンスの周波数依存性に基づいて電池の充電状態及び放電深度を推定することが可能となる。典型的には、既知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンスの周波数依存性を予め測定し、測定結果をカタログとして保存した上で、充電状態又は放電深度が未知である電池について測定した複素インピーダンスの周波数依存性を、当該カタログと、ワールブルグインピーダンスの周波数領域、及び更に低い周波数領域で比較することにより、電池の充電状態又は放電深度を推定することが可能である。
【0014】
ワールブルグインピーダンス、及び更に低周波数領域における複素インピーダンスの周波数依存性が充電状態又は放電深度に応じて変化するという現象は、後述の実施例で例示する特定の電池だけではなく、任意の電池においても同様に起こると推定される。なぜなら、当該インピーダンスの特徴的な応答は、充電状態が高い領域あるいは低い領域において、容量の変化に伴う電位変動が大きくなる電池放電カーブに由来する現象であり、一般的な電池全般で類似の現象が生じると考えられるからである。したがって本発明は任意の電池(二次電池のみならず一次電池も含む。)に適用可能である。一次電池においては、放電開始初期には不活性な場合があり、インピーダンスの決定が困難な場合がある。その一方で、放電末期にかけては、上記と同様に充電状態とインピーダンスの相関を定めることが可能になる。また、特に二次電池においては、充電状態に応じた電圧変化が安定に推移するのでより効果が期待される。
【0015】
上記本発明の方法には、電池の直流抵抗を決定し、電池の劣化状態を推定する段階を更に備えることができ、電池の充電状態又は放電深度を推定する段階は、決定された複素インピーダンスの周波数依存性を、推定した劣化状態に対応する電池の既知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンスの周波数依存性と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する段階とすることができる。
【0016】
複素インピーダンスの周波数依存性は電池の劣化状態に応じて変化しうるため、既知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンスの周波数依存性を表わすカタログとしては、可能な限り、充電状態又は放電深度が未知の電池について複素インピーダンス測定を行う直前に作成したカタログを用いることが好ましい。あるいは、当該電池の直流抵抗値から推定される各々の劣化状態に応じて、或る既知の充電状態又は放電深度に対応するカタログを各々作成しておけば、充電状態又は放電深度が未知の電池について直流抵抗を測定し、直流抵抗から推定される劣化状態に対応するカタログを用いることにより、充電状態又は放電深度の推定精度を向上させることができる。
【0017】
上記本発明の方法には、推定された電池の充電状態又は放電深度に応じて、電池に接続された充電源による充電を制御するか、又は電池に接続された電力消費要素の電力消費を制御する段階を更に備えることができる。一例として、推定された充電状態が所定レベルを超えている場合には充電源による充電を停止する制御を行うことにより過充電を防止できるし、あるいは、推定された放電深度が所定レベルを超えている場合には、電池からの電力で動作する機器等、電力消費要素と当該電池の接続を遮断する等の制御を行うことにより過放電を防止できる。
【0018】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する段階と、決定された複素インピーダンスのうち、約100mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性を、電池の既知の充電状態又は放電深度に対応する、約100mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する段階とを備えた方法を提供する。ここで、電池の充電状態又は放電深度を推定する段階は、決定された複素インピーダンスのうち、約10mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性を、電池の既知の充電状態又は放電深度に対応する、約10mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する段階とすることができる。
【0019】
後述の実施例において図3図4のグラフ等の実験結果を示すとおり、電池の複素インピーダンスにおける充電状態又は放電深度に応じた違いは、特に100mHz(望ましくは10mHz)以下の周波数領域において大きくなることがある。したがって、そのような電池の充電状態又は放電深度を推定するにあたっては、100mHz以下、特に10mHz以下の周波数領域に着目することが有効である。
【0020】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する段階と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線における実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも低周波数側において、複素インピーダンス特性曲線を、電池の既知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンス特性曲線と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する段階とを備えた方法を提供する。
【0021】
後述の実施例において図3図4のグラフ等の実験結果を示すとおり、充電状態又は放電深度に応じた複素インピーダンス特性曲線の変化は、横軸値を複素インピーダンス実数部、縦軸値を複素インピーダンス虚数部とした複素インピーダンス特性曲線が下降から上昇へと転じる点(図3図4中、P点)よりも低周波数側において顕著となる。このような周波数領域において複素インピーダンス特性曲線を上述のカタログと比較すれば、電池の充電状態又は放電深度を高精度で推定できる。
【0022】
また本発明は、電池の微分容量を決定する段階と、決定された微分容量と、電池の微分容量の充電状態又は放電深度への依存性とを比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する段階とを備えた方法を提供する。複素インピーダンスの周波数依存性を利用した上述の手法とは独立に、微分容量の充電状態又は放電深度への依存性のみに基づいて当該充電状態又は放電深度を推定することが可能である。また、複素インピーダンスの周波数特性のみからは充電状態又は放電深度を正確に推定することが困難な場合であっても、微分容量を利用することで推定の正確性を向上させることもできる。
【0023】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する段階と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線のうちワールブルグインピーダンスの周波数依存性を示す部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を用いて、電池の健全性を評価する段階とを備えた方法を提供する。一例においては、上記虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部の経時的変化に基づき、電池の健全性を評価することが可能である(以下の方法、システムにおいても同様)。
【0024】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する段階と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線のうち約100mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性を示す部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を用いて、電池の健全性を評価する段階とを備えた方法を提供する。
【0025】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する段階と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線のうち、実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも低周波数側の部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を用いて、電池の健全性を評価する段階とを備えた方法を提供する。
【0026】
本発明が教示する電池の健全性を評価する方法において上記のとおり決定される複素インピーダンスの実数部は電池の内部抵抗の総和に対応すると考えられるため、これを知ることにより、電池における健全性を評価することが可能となる。これら方法における電池の健全性を評価する段階は、一例において、上記複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部が低下したことに基づいて電池の健全性が悪化したと判定する段階を含むことができる。上記複素インピーダンスの実数部の低下は当該電池内部でのショート(短絡)の兆しであると判断されるため、上記実数部が以前よりも低下した場合には電池の健全性が悪化したと判定することができる。本来増加し続ける複素インピーダンス実数部が減少傾向を示した場合に、その状況を「健全性が悪化した」、「ショートの傾向が出た」との判断に結び付けて、安全を確保する(運用を止める、あるいは電池を交換する等)ことが可能となる。
【0027】
上記電池の健全性を評価するための情報と同等の情報は、複素インピーダンスに対して、電池内部を模擬する等価回路を構築してこの回路によりインピーダンス情報をフィッティングさせ電池内部の抵抗成分として計算により求めることも可能である。
【0028】
また、複素インピーダンスを実数部と虚数部とからなる図として表記した際に得られる半円弧状部分をフィッティングし、延長することで得られる線上の虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を元にして得ることも可能である。
【0029】
すなわち本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する段階と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線のうち、実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも高周波数側の部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を用いて、電池の健全性を評価する段階とを備えた方法を提供する。また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する段階と、決定された複素インピーダンスに対して、電池内部を模擬する等価回路を構築し、等価回路を用いることによりインピーダンス情報をフィッティングさせて計算することにより求めた電池内部の抵抗成分を用いて、電池の健全性を評価する段階とを備えた方法を提供する。
【0030】
本発明が教示する電池の健全性を評価する方法においては、評価された電池の健全性に応じて電池の運用を制御する段階を更に備えることができる。一例として、上述のとおり複素インピーダンスの実数部が低下して健全性が悪化したと判定された場合に、ショートを未然に防止するべく電池の運用を中止することが有効である。
【0031】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する、複素インピーダンス特性決定部と、決定された複素インピーダンスのうちワールブルグインピーダンスの周波数依存性を、電池の既知の充電状態又は放電深度に対応するワールブルグインピーダンスの周波数依存性と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する、複素インピーダンス特性比較部とを備えたシステムを提供する。
【0032】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する、複素インピーダンス特性決定部と、決定された複素インピーダンスのうち、約100mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性を、電池の既知の充電状態又は放電深度に対応する、約100mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する、複素インピーダンス特性比較部とを備えたシステムを提供する。複素インピーダンス特性比較部は、決定された複素インピーダンスのうち、約10mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性を、電池の既知の充電状態又は放電深度に対応する、約10mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定するよう構成されたものであってよい。
【0033】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する複素インピーダンス特性決定部と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線における実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも低周波数側において、複素インピーダンス特性曲線を、電池の既知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンス特性曲線と比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する、複素インピーダンス特性比較部とを備えたシステムを提供する。
【0034】
また本発明は、電池の微分容量を決定する微分容量決定部と、決定された微分容量と、電池の微分容量の充電状態又は放電深度への依存性とを比較して、電池の充電状態又は放電深度を推定する、微分容量比較部とを備えたシステムを提供する。
【0035】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する、複素インピーダンス特性決定部と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線のうちワールブルグインピーダンスの周波数依存性を示す部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を用いて、電池の健全性を評価する、健全性評価部とを備えたシステムを提供する。
【0036】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する、複素インピーダンス特性決定部と、決定された複素インピーダンスの実数部と、虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線のうち約100mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性を示す部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を用いて、電池の健全性を評価する、健全性評価部とを備えたシステムを提供する。
【0037】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する、複素インピーダンス特性決定部と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線のうち、実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも低周波数側の部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を用いて、電池の健全性を評価する、健全性評価部とを備えたシステムを提供する。
【0038】
また本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する、複素インピーダンス特性決定部と、決定された複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線のうち、実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも高周波数側の部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における複素インピーダンスの実数部を用いて、電池の健全性を評価する、健全性評価部とを備えたシステムを提供する。さらに本発明は、電池の正極負極間での、複数の周波数に対する複素インピーダンスを決定する、複素インピーダンス特性決定部と、決定された複素インピーダンスに対して、電池内部を模擬する等価回路を構築し、等価回路を用いることによりインピーダンス情報をフィッティングさせて計算することにより求めた電池内部の抵抗成分を用いて、電池の健全性を評価する、健全性評価部とを備えたシステムを提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、電圧測定値に基づく手法等、従来の手法からは電池の充放電状態を推定不可能な場合であっても、複素インピーダンスの低周波数領域における周波数依存性や微分容量に基づいて充放電状態を推定することが可能となる。
【0040】
電池の充放電状態を適切に管理することは、モバイルコンピュータ、電気自動車、定置型蓄電装置、宇宙機等、さまざまな機器、システムにおける共通の課題であり、本発明による方法、システムは産業用途において広く市場性を有する技術として発展性が大きい。
【0041】
また本発明によれば、複素インピーダンス特性曲線を利用して電池の健全性を評価することが可能となる。これにより、電池内部で生じているショート等の健全性の悪化を早期に検出し、発火、爆発等のアクシデントを未然に防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】電池の複素インピーダンスを決定する複素インピーダンス特性決定部の回路構成(測定に直接関わる要素以外は省略。)を概略的に示した回路図。
図2】電池の複素インピーダンス特性に基づいて充放電動作を制御するシステムの構成概略図。
図3】リチウムイオン二次電池を充電し、周波数を変えながら複素インピーダンスを測定して得られる複素インピーダンス特性曲線を各SOCについて描いたグラフ。
図4】リチウムイオン二次電池を放電し、周波数を変えながら複素インピーダンスを測定して得られる複素インピーダンス特性曲線を各DODについて描いたグラフ。
図5】リチウムイオン二次電池を放電させながら微分容量を測定したときの、DODと微分容量との関係を描いたグラフ。
図6a図3に示したグラフ中、SOC20%の複素インピーダンス特性曲線について、約100mHz以下の周波数に対応する部分を延長したときの横軸との交点を示したグラフ。
図6b図3に示したグラフ中、SOC20%の複素インピーダンス特性曲線について、実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも高周波数側の部分を延長したときの横軸との交点を示したグラフ。
図7】電池の複素インピーダンス特性曲線を用いて電池の健全性を評価し、電池の運用を制御するシステムの構成概略図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
これより図面を用いて、電池の充電状態又は放電深度を推定し、充放電動作をフィードバック制御するための本発明に係る方法及びシステム、及び、複素インピーダンス特性曲線を利用して電池の健全性を評価し、電池の運用を制御するための方法及びシステムを説明する。但し、本発明に係る方法、システムは、各図面を用いて説明される特定の具体的構成へと限定されるわけではなく、本発明の範囲内で適宜変更可能である。例えば、電池の複素インピーダンスを決定する装置や手法は後述のものに限らず任意であるし、複素インピーダンス特性に基づいて電池を制御するシステムの構成も、後述の図2図7の構成に限らず任意である(図2図7のシステムにおいて充放電動作や運用状態をフィードバック制御しない場合、充放電制御部や運用制御部は不要である。)。また以下の実施例では電池として主に二次電池を用いた例を説明するが、既に述べたとおり本発明の方法、システムは一次電池を含む任意の電池に適用可能であり、放電深度の推定や電池の健全性の評価、及びこれらに基づく制御を同様の原理で実施可能である。
なお、図2図7に示すシステム構成は一例にすぎず、本発明の教示する充電状態又は放電深度の推定や健全性の評価、及びこれらに基づく制御のために行われる1以上の任意の機能を、1以上の任意の要素に任意に分担させることが可能である。
【0044】
複素インピーダンス決定
図1に、リチウムイオン二次電池等、二次電池の複素インピーダンスを決定する複素インピーダンス特性決定部の回路構成の一例を概略的に示す。二次電池(充放電動作中であってもよい。その場合に二次電池に接続される充電源や負荷等は不図示。)に対して周波数可変の交流電源から一定周波数の交流電流を流しつつ、交流電圧計と交流電流計により、当該二次電池に印加される交流電圧と流れる交流電流を測定し、電圧、電流の測定値から複素インピーダンスを算出する。交流電源からの交流電流の周波数を変えつつ同様に交流電圧、交流電流を測定して複素インピーダンスを算出する作業を繰り返すことにより、複素インピーダンスの周波数依存性が決定される。
【0045】
なお、交流電圧、交流電流測定値からの複素インピーダンスの算出は、一例として以下の計算により行うことができる。
【0046】
二次電池に印加される交流電圧の複素数表示を
【数1】
(V0は交流電圧の振幅、δVは初期位相、ωは角周波数、tは時刻、iは虚数単位)
とし、二次電池に流れる交流電流の複素数表示を
【数2】
(I0は交流電流の振幅、δIは初期位相)
とする。
【0047】
測定される交流電圧、交流電流は上式(1),(2)の実数部である、V0cos(ωt+δV)とI0cos(ωt+δI)であり、これらの測定波形から、V0,I0,ω,δV,δIが決定される。各角周波数ωにおける複素インピーダンスは、
【数3】
と算出される。
【0048】
複素インピーダンス特性曲線
上式(3)から、複素インピーダンスの実数部Z’,虚数部Z’’はそれぞれ、
【数4】
【数5】
と表わされる。2次元平面に座標点(Z’,Z’’)をプロットし、様々な(角)周波数について同様に複素インピーダンスを算出して座標点(Z’,Z’’)をプロットすることで、複素インピーダンスの実数部と虚数部との相関関係を表わす複素インピーダンス特性曲線が得られる。
【0049】
二次電池の充電状態又は放電深度の推定
本発明者は、上記複素インピーダンス特性曲線が、異なる充電状態又は放電深度において異なる曲線となり、特にワールブルグインピーダンスの周波数領域や更なる低周波数領域において差異が顕著になることを見出した。したがって、既知の充電状態又は放電深度において予め同一の二次電池の複素インピーダンス測定を行い、複素インピーダンス特性曲線をカタログとして作成しておけば(後述の図3図4参照)、充電状態又は放電深度が未知の二次電池についての複素インピーダンス測定により得られた複素インピーダンス特性曲線を、ワールブルグインピーダンスの周波数領域、及び更なる低周波数領域でカタログと照合することにより、当該未知の充電状態又は放電深度を推定することができる。具体的な照合の手法としては、充電状態又は放電深度が未知の二次電池について測定により得られた複素インピーダンス特性曲線を、カタログに含まれる個々の複素インピーダンス特性曲線と比較し、測定により得られた複素インピーダンス特性曲線と最も「類似した」複素インピーダンス特性曲線をカタログから抽出して(類似判断は、例えば同一の横軸値における両曲線の縦軸値の差の、全ての横軸値に亘る二乗平均が小さい程に両曲線が「類似している」と判断したり、あるいは任意の画像認証により判断したりと、任意の手法により行ってよい。)、当該抽出された複素インピーダンス特性曲線に対応する充電状態又は放電深度を、未知の充電状態又は放電深度の推定値とする(あるいは類似度の高い複数の複素インピーダンス特性曲線に対応する充電状態又は放電深度の加重平均を推定値とする等、具体的な解析手法は任意。)、等の手法がある。
【0050】
二次電池の劣化状態を考慮した推定
なお、既に述べたとおり複素インピーダンスの周波数依存性(複素インピーダンス特性曲線)は二次電池の劣化状態に応じて変化しうるため、カタログとしては、可能な限り、充電状態又は放電深度が未知の二次電池について複素インピーダンス測定を行う直前に作成したカタログを用いることが好ましい。あるいは、当該二次電池の各々の劣化状態に応じてカタログを各々作成しておけば、劣化状態をも考慮したカタログ照合により充電状態又は放電深度の推定精度を向上させることができる。具体的には、カタログを作成するときに当該二次電池の直流抵抗も測定しておき、直流抵抗と図3図4のようなカタログをセットで保存しておく。当該二次電池を長時間使用により劣化させた上で直流抵抗を測定しカタログを作成するという作業を繰り返すことにより、さまざまな直流抵抗と対応するカタログのセットが得られる。充電状態又は放電深度が未知の二次電池についてこれらを推定するにあたっては、当該二次電池の直流抵抗を測定した上で、この直流抵抗測定値と最も近い直流抵抗に対応するカタログを用いて照合を行うことにより推定精度を更に向上できる。
【0051】
直流法による複素インピーダンスの決定
上述のとおり、例えば図1に示す交流形式の測定回路構成により複素インピーダンスを直接測定することも可能であるが、直流負荷に対する解析から複素インピーダンスを決定することも可能である。具体的には、二次電池を負荷に接続して使用している間に、外部回路から一定パターンの電流を重畳したり、突然負荷の接続を遮断したりして、二次電池に流れる電流にパルスを発生させる。このとき、当該二次電池においては負荷が突然変化することとなるため、その電圧も時間変化する。二次電池においてパルス状に時間変化する電流と、その応答として上述のとおり時間変化する電圧とを記録し、電流と電圧を各々フーリエ級数展開等の解析手法により周波数ごとに分解すれば、周波数ごとに上式(1),(2)のような電圧と電流の波形が得られる。各々の周波数ごとに波形を解析して電圧、電流の振幅や初期位相を決定すれば、上式(3)~(5)を用いる等して各々の周波数に対する複素インピーダンスが算出される。算出された複素インピーダンスに対応する座標点(Z’,Z’’)を2次元平面にプロットすれば、複素インピーダンス特性曲線が得られる。長周期の負荷変動等から直流抵抗を測定して二次電池の劣化状態を推定し、当該劣化状態に対応する(測定された直流抵抗と最も近い直流抵抗に対応する)カタログと照合することにより、充電状態又は放電深度の推定精度は更に向上する。
【0052】
推定された充電状態又は放電深度に基づく充放電制御
上述のとおり推定した充電状態又は放電深度に基づき二次電池の充放電制御を行えば、過充電や過放電を防止しつつ安全に二次電池を使用することができる。リチウムイオン二次電池等、二次電池の充電状態又は放電深度を推定し、推定値をフィードバックして充放電を制御するためのシステムの一例について、構成概略図を図2に示す。なお、一次電池用のシステムを同様に構成する場合、充電器は不要である。
【0053】
二次電池には、スイッチ切り替えにより、負荷(電力を消費する任意の機器等)又は充電器(太陽電池システム等、任意の充電用外部電源)が接続されており(スイッチ制御用の回路等は不図示)、オンボードの放電又は充電動作が行われている。
【0054】
また二次電池に対しては、一例としては図1に示す接続態様で複素インピーダンス特性決定部が接続されている。複素インピーダンス特性決定部は、図1に示すとおり交流電源、交流電圧計、交流電流計の機能を備え、また測定された交流電流値、交流電圧値から上述のとおり複素インピーダンスを算出する等、各種データ処理を行うプロセッサ、データを記憶するメモリ、下記機能を制御するための制御回路、他の回路部と通信するための通信回路等を備えている(プロセッサ、メモリ、制御・通信回路等については、複素インピーダンス特性比較部、充放電制御部も同様に備えている。以下、それらについては記載を省略する。)。複素インピーダンス特性決定部により、上述のとおり周波数を変えつつリチウムイオン二次電池の複素インピーダンスが測定される。なお、既に述べたとおり複素インピーダンス特性は直流法によっても決定可能であり、上述のとおり負荷の接続を遮断等する制御回路、フーリエ解析を行うプロセッサ、メモリ等からなる処理回路等を用いて複素インピーダンス特性決定部を構成してもよい。また劣化状態をも考慮した推定を行う場合には、交流電源から長周期の交流電流を流して複素インピーダンスを測定する等して直流抵抗を測定する。
【0055】
複素インピーダンスの測定結果、及び必要であれば直流抵抗測定値を表わす信号は、複素インピーダンス特性決定部から複素インピーダンス特性比較部へと送信される。複素インピーダンス特性比較部には、既に述べたとおり、二次電池における既知の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンスの周波数依存性を予め測定した結果から作成されたカタログ(ここでは後述の図3図4のようなグラフ形式とするが、各周波数の複素インピーダンス値を記録したデータ形式であってもよい。)が、そのメモリに保存されている。複素インピーダンス特性比較部は、複素インピーダンス特性決定部から受信した、二次電池における現在の複素インピーダンス測定値から複素インピーダンス特性曲線を作成し、これを、カタログに含まれる種々の充電状態又は放電深度に対応する複素インピーダンス特性曲線と比較して(劣化状態をも考慮した推定を行う場合には、複素インピーダンス特性決定部から受信した直流抵抗値から劣化状態を推定し(さまざまな累積使用期間の二次電池における直流抵抗値データを予め保持しておき、複素インピーダンス特性決定部から受信した直流抵抗値データに最も近い直流抵抗値データに対応する累積使用期間に基づいて劣化状態を推定する等)、当該受信した直流抵抗値と最も近い直流抵抗値に対応するカタログを用いる。)、二次電池の現在の充電状態又は放電深度を推定する(二次電池が負荷に接続されている場合は、放電中であるとして、複素インピーダンス測定値から作成した複素インピーダンス特性曲線を、図4のような各放電深度について作成されたカタログと比較し、二次電池が充電器に接続されている場合は、充電中であるとして、複素インピーダンス測定値から作成した複素インピーダンス特性曲線を、図3のような各充電状態について作成されたカタログと比較する。二次電池が負荷と充電器のどちらに接続されているかは、例えばその接続を切り替えるスイッチ制御回路から複素インピーダンス特性比較部に送信される信号により通知される。)。上記カタログを用いた複素インピーダンスの周波数特性の比較は、既に述べたとおりワールブルグインピーダンスの周波数領域、及び更なる低周波数領域で行うことが有効である。一例としては、約100mHz以下、特に好ましくは約10mHz以下の周波数領域で行うことが有効であり、あるいは、複素インピーダンス特性曲線における実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも低周波数側において行うことが考えられる。
【0056】
充電状態又は放電深度の推定結果を表わす信号は、複素インピーダンス特性比較部から充放電制御部へと送信される。充放電制御部は、この推定結果に基づいて、負荷による放電又は充電器による充電を制御する。一例としては、負荷による放電中である場合に放電深度が所定の基準値を超えている場合には、二次電池と負荷との接続を遮断したり、あるいは制御信号により負荷の消費電力を低下させたりする(負荷がインバータを備えている場合に消費電力を低下させたり、複数の電力消費要素を含んでいる場合に一部の要素への電力供給を遮断する等)等して、負荷による電力消費を制御し(一次電池を用いる場合も同様)、また充電器による充電中である場合に充電状態が所定の基準値を超えている場合には、過充電を防ぐために充電器と二次電池の接続を遮断する等して、充電器による充電を制御する。
【0057】
このように、電池の複素インピーダンスを測定して充電状態又は放電深度を推定し、その結果をフィードバックして充放電を制御することにより、充電状態又は放電深度を適切な値へと導くことが可能となる。
【0058】
なお、ここでは複素インピーダンス特性比較部が複素インピーダンス特性曲線を作成するとしたが、この処理は複素インピーダンス特性決定部で行ってもよい。その他のデータ処理やデータの保存等も、上述のフィードバック制御と同様のフィードバック制御を実施可能であれば、どの回路部によって行ってもよい。また各回路部は複数の回路部により構成されていてもよいし、統合された1つの装置として構成されていてもよい。あるいは、複素インピーダンス特性決定部と複素インピーダンス特性比較部が統合されるなど、複数の回路部が1つの装置として統合されていてもよい。
【実施例1】
【0059】
正極材料にオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を、負極材料にグラファイトカーボンを用い、有機電解液と、ポリエチレンのセパレータとを用いて作製された市販の巻回型リチウムイオン二次電池について、周波数を変えつつ複素インピーダンスを測定することにより複素インピーダンス特性曲線を作成した。なお、インピーダンス測定は、NF回路設計(株)製のELECTROCHEMICAL ANALYZER As-510-ECAと、SARVO ANALYZER FRA5014を用いて行った。
【0060】
実験の手順としては、まずリチウムイオン二次電池の充電状態が50%の状態で周波数を変えつつ複素インピーダンスを測定した後に、充電状態90%までリチウムイオン二次電池を充電し、その状態から10%ずつ放電して、各放電深度において周波数を変えつつ複素インピーダンスを測定し、これを放電深度が80%となるまで行った(図4)。次に、休止状態を挟んで、リチウムイオン二次電池を再び10%ずつ、90%の充電状態まで充電しつつ、各充電状態においては周波数を変えながら複素インピーダンスを測定した(図3)。最後に放電深度を50%に戻してインピーダンスを再度計測した。
【0061】
図3に充電状態20%,40%,60%,80%の複素インピーダンス測定結果グラフを,図4に放電深度10%,30%,50%,70%の複素インピーダンス測定結果グラフを、それぞれ示す(横軸が実数部、縦軸が虚数部。単位はmΩ)。グラフの左側が高周波側に、右側が低周波側に対応する。グラフから明らかなとおり、複素インピーダンスの実数部が概ね40mΩを超えたあたりから、複素インピーダンス特性曲線が、充電状態又は放電深度によって分離していることがわかる。複素インピーダンス特性曲線は、実数部が概ね40mΩ程度までは半円状のグラフとなり、これを超えるとワールブルグインピーダンスの周波数領域(概ね100mHz以下)に入って単調に増加するグラフとなっており、この単調増加部分において、異なる充電状態又は放電深度における複素インピーダンス特性曲線の分離が顕著である。10mHz,1mHzという、ワールブルグインピーダンスの周波数領域よりも更に低周波数の領域(図3図4からわかるとおり、約10mHz以下の周波数領域において、複素インピーダンス特性曲線の傾きが変わっている。)において、複素インピーダンス特性曲線の分離は更に顕著となる。またグラフの形状に着目すれば、複素インピーダンス特性曲線における実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも低周波数側において、複素インピーダンス特性曲線が、充電状態又は放電深度によって顕著に分離していることがわかる。
【0062】
測定により得られた複素インピーダンスの実数部、虚数部データのうち、主な周波数におけるデータを以下の表1(各充電状態について、周波数を変えつつ測定した複素インピーダンス実数部のデータ。図3に対応),表2(各充電状態について、周波数を変えつつ測定した複素インピーダンス虚数部のデータ。図3に対応),表3(各放電深度について、周波数を変えつつ測定した複素インピーダンス実数部のデータ。図4に対応),表4(各放電深度について、周波数を変えつつ測定した複素インピーダンス虚数部のデータ。図4に対応)に示す(複素インピーダンス実数部、虚数部の単位は全てmΩ)。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0063】
表1~表4からわかるとおり、1000Hz~100Hz程度の高周波数領域における複素インピーダンスの実数部、虚数部の値は、充電状態又は放電深度が異なっても大きく変化しないが、1Hz~100mHz程度の周波数(表1,表3から分かるとおり、複素インピーダンスの実数部が概ね40mΩを超える周波数)から、充電状態又は放電深度に応じて虚数部の値が大きく変わり始め、特に周波数10mHz以下においては、その違いが顕著である。したがって、概ね100mHz以下、好ましくは10mHz以下の周波数領域での複素インピーダンス特性を比較することにより、充電状態又は放電深度を精度良く推定できると考えられる。図3図4のようなグラフ形式、又は表1~表4のようなデータ形式のカタログと照合することにより、未知の充電状態又は放電深度を決定できるし、これらカタログを、複素インピーダンス測定時点の直流抵抗値(二次電池の劣化状態に対応)と対応付けて記録しておけば、充電状態又は放電深度が未知の二次電池についても直流抵抗を測定し、測定値と最も近い直流抵抗値に対応するカタログを用いて照合することにより、更に高精度で充電状態又は放電深度を推定できる。
【0064】
微分容量に基づく充電状態又は放電深度の推定
電池の充電状態又は放電深度を推定するにあたっては、上述の複素インピーダンスにおける周波数依存性に加えて、例えば微分容量の充電状態又は放電深度に対する依存性を利用することもできる。図5に、リチウムイオン二次電池を放電させながら微分容量を測定したときの、放電深度(DOD)と微分容量(電圧の変化量ΔVに対する電荷Qの変化量(グラフでは電流Iで表示)の比I/ΔV。単位はファラド(F))との関係を描いたグラフを示す。ただし、微分容量の特性は一般に電池の劣化等によって変化するため、異なる充放電サイクル数(0サイクル、100サイクル、500サイクル)における微分容量特性をそれぞれグラフとしてプロットした。なお、実験に用いた電池は、正極材料にオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を、負極材料にグラファイトカーボンを用い、有機電解液と、ポリエチレンのセパレータとを用いて作製された市販の巻回型リチウムイオン二次電池である。
【0065】
電池の微分容量は一般に充電状態又は放電深度に依存して変化するため、微分容量の測定値から充電状態又は放電深度を推定することが可能である。したがって、複素インピーダンスの周波数依存性のみからでは充電状態又は放電深度を推定することが困難な場合であっても、微分容量の値を用いて充電状態又は放電深度を正確に推定できる場合がある。例えば、既に説明した容量の変化に伴う電位変動の電池放電カーブの傾きが、2つの異なる充電状態又は放電深度において類似している場合、複素インピーダンスの周波数依存性のみではその2つの異なる充電状態又は放電深度を区別することが困難な場合があるが、この場合には、2つの異なる充電状態又は放電深度のうち、微分容量の測定値から推定される充電状態又は放電深度に近いものを推定値として採用することができる。
【0066】
図2のシステムに上記微分容量を利用した充電状態、放電深度の推定を採用する場合は、複素インピーダンス特性決定部(以下、微分容量決定部として機能する。)において電圧計、電流計等の測定機器により微分容量を測定すればよい。一例においては、図5に示すようなさまざまな放電深度、又は充電状態における微分容量値を予め測定しておいた測定結果を微分容量のカタログとして複素インピーダンス特性比較部(以下、微分容量比較部として機能する。)のメモリに保存しておく。微分容量の測定値をこのカタログと照合することで、電池の充電状態又は放電深度を推定することができる(微分容量の測定値に最も近い微分容量値を有するカタログ中の点を特定し、その点における充電状態又は放電深度の値を推定値とする等)。このとき好ましくは、電池の直流抵抗値から推定される各々の劣化状態に応じて、さまざまな放電深度又は充電状態における微分容量値を予め測定しておいた測定結果を、微分容量のカタログとして各々作成しておく。具体的には、微分容量のカタログを作成するときに当該電池の直流抵抗も測定しておき、直流抵抗と図5中のグラフのような微分容量のカタログをセットで保存しておく(図5は、異なる劣化状態に応じた3つのカタログを含んでいる。)。当該電池を長時間使用により劣化させた上で直流抵抗を測定し微分容量のカタログを作成するという作業を繰り返すことにより、さまざまな直流抵抗と対応する微分容量のカタログのセットが得られる。充電状態又は放電深度が未知の二次電池について、微分容量からこれらを推定するにあたっては、当該電池の直流抵抗を測定した上で、この直流抵抗測定値と最も近い直流抵抗に対応する微分容量のカタログを用いて照合を行うことにより推定精度を更に向上できる。
【0067】
図2のシステムによって充電状態又は放電深度を推定する際、複素インピーダンス特性決定部が電池の現在の微分容量値を測定し、測定結果を複素インピーダンス特性比較部へと送信する。複素インピーダンス特性比較部は、そのメモリに保存された微分容量のカタログに含まれる、種々の充電状態又は放電深度に対応する微分容量値と、受信した現在の微分容量測定値とを比較して、電池の現在の充電状態又は放電深度を推定する。劣化状態をも考慮した推定を行う場合には、複素インピーダンス特性決定部から受信した直流抵抗測定値から劣化状態を推定し(さまざまな累積使用期間の電池における直流抵抗値データを予め保持しておき、複素インピーダンス特性決定部から受信した直流抵抗値データに最も近い直流抵抗値データに対応する累積使用期間に基づいて劣化状態を推定する等)、当該受信した直流抵抗値と最も近い直流抵抗値に対応する微分容量のカタログを用いる。なお、図2に関連して既に述べたとおり、電池が負荷に接続されている場合は、放電中であるとして、現在の微分容量値を、図5のような放電深度について作成された微分容量のカタログと比較し、電池が充電器に接続されている場合は、充電中であるとして、現在の微分容量を、充電状態について同様に作成された微分容量のカタログと比較する。
【0068】
複素インピーダンス特性比較部は、このようにして微分容量の測定値からも充電状態又は放電深度を推定できる。既に説明した複素インピーダンスの周波数依存性に基づいて推定した充電状態又は放電深度を、そのように微分容量の測定値から推定した充電状態又は放電深度と比較することにより、充電状態又は放電深度を更に正確に推定できる。微分容量の測定値からの充電状態又は放電深度の推定は、複素インピーダンスの周波数依存性に基づく充電状態又は放電深度の推定と組み合わせるのではなく、単独で行ってもよい。すなわち、微分容量への依存性のみからも充電状態又は放電深度を推定することが可能である。なお、図5のグラフ中で概ねDOD30%~40%付近に現れる微分容量のピークは、電池の劣化状態(サイクル数)に応じて変動しており、この微分容量のピークが変動することを管理することで,劣化具合の診断が可能であると推定される。
【0069】
複素インピーダンス特性に基づく電池の健全性評価
図3図4に例を示す複素インピーダンス特性曲線を利用して、電池の健全性を評価することも可能である。図6aは、図3に示したグラフ中、SOC20%の複素インピーダンス特性曲線について、約100mHz以下の周波数に対応する部分(ワールブルグインピーダンスの周波数領域に対応し、またグラフの形状に着目すれば、複素インピーダンス特性曲線における実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも低周波数側に対応する。)を延長したときの横軸との交点を示したグラフであり、健全性評価の原理を示している。
【0070】
上記延長部分上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点(横軸との交点A)における複素インピーダンスの実数部は、既に述べたとおり電池の内部抵抗の総和に対応すると考えられるため、多数の充放電サイクルを繰り返した二次電池や何らかの理由で健全性が悪化した一次電池において、上記A点が以前よりも左側(複素インピーダンスの実数部が低くなる側)に移動した場合、電池内部で何らかの要因により内部抵抗が低下したと推定される。内部抵抗が低下する一因としては電池内部でのショートが挙げられるのであり、すなわちA点における複素インピーダンス実数部の低下は電池内部でのショートの兆しと捉えることができる。そのように健全性が悪化した電池の運用を続ければ、ショートによる電池の発火、爆発等、重大なアクシデントの恐れがあるため、上記実数部の低下が検知された場合には電池の健全性が悪化したと判定して直ちに電池の運用を停止する、あるいは大幅に制限する等の制御を行うことが好ましい。
【0071】
図6bに、複素インピーダンス特性曲線を利用して電池の健全性を評価するための別の原理を示す。図6bにおいては、図3に示したグラフ中、SOC20%の複素インピーダンス特性曲線について、実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも高周波数側の部分を延長したときの横軸との交点が示されている。複素インピーダンス特性曲線における半円弧状部分をフィッティングし、延長することで得られる線上の虚数部がゼロとなる点(横軸との交点B)における複素インピーダンスの実数部も、上記A点における実数部と同様に電池内部でのショート等により低下すると考えられ、すなわちB点における複素インピーダンス実数部の低下も電池内部でのショートの兆しと捉えることができる。フィッティングを用いる手法の一例としては、決定された複素インピーダンスに対して、電池内部を模擬する等価回路を構築し、等価回路を用いることによりインピーダンス情報をフィッティングさせて計算することにより電池内部の抵抗成分を求めて、この抵抗成分を上記B点の実数部と同様に健全性評価に用いることも可能である。
【0072】
図7に、そのような電池の健全性評価、及び運用制御をするためのシステムの構成概略図を示す。図2と同様に二次電池用のシステムとして示されており、一次電池用のシステムを同様に構成する場合には充電器は不要である。なお、図2のシステムと同様の構成については適宜説明を省略する。
【0073】
二次電池には、図2のシステムと同様にスイッチ切り替えにより負荷又は充電器が接続されており、オンボードの放電又は充電動作が行われている。二次電池に対しては図2のシステムと同様に複素インピーダンス特性決定部が接続されており、既に説明したとおり周波数を変えつつ二次電池の複素インピーダンスが測定される。複素インピーダンス特性は直流法で決定してもよいことや、複素インピーダンス特性決定部の具体的構成も、図2に関連して既に説明したとおりである。
【0074】
複素インピーダンスの測定結果は、複素インピーダンス特性決定部から健全性評価部(図2の複素インピーダンス特性比較部と同様に、プロセッサ、メモリ、制御・通信回路等を適宜備えている。以下、それらについての記載は省略する。)へと送信される。
【0075】
図6aを用いて説明した原理に基づく場合、健全性評価部は、複素インピーダンス特性決定部から受信した、二次電池における現在の複素インピーダンス測定値から複素インピーダンス特性曲線を作成し、そのワールブルグインピーダンスの周波数領域に対応する部分(一例においては、約100mHz以下の周波数における複素インピーダンスの周波数依存性を示す部分。あるいは、複素インピーダンス実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも低周波数側の部分)を延長することで得られる線上の、複素インピーダンス虚数部がゼロとなるA点(図6a参照)における複素インピーダンスの実数部を決定する。一方で健全性評価部のメモリには、当該二次電池について過去に同様の方法で決定された複素インピーダンスの実数部が保存されている。健全性評価部は、現在の複素インピーダンス測定値から得られる複素インピーダンス特性曲線において上記のとおり決定された実数部と、当該二次電池について上記のとおり過去に決定された実数部とを比較することにより、当該二次電池の健全性を評価する。
【0076】
一方、図6bを用いて説明した原理に基づく場合、健全性評価部は、複素インピーダンス特性決定部から受信した、二次電池における現在の複素インピーダンス測定値から複素インピーダンス特性曲線を作成し、実数部の上昇に伴う虚数部の変化が下降から上昇へと転じる周波数よりも高周波数側の部分を延長することで得られる線上の、複素インピーダンスの虚数部がゼロとなる点B(図6b参照)における複素インピーダンスの実数部を決定する。一方で健全性評価部のメモリには、当該二次電池について過去に同様の方法で決定された複素インピーダンスの実数部が保存されている。健全性評価部は、現在の複素インピーダンス測定値から得られる複素インピーダンス特性曲線において上記のとおり決定された実数部と、当該二次電池について上記のとおり過去に決定された実数部とを比較することにより、当該二次電池の健全性を評価する。フィッティングを用いる手法の一例としては、既に述べたとおり等価回路を用いる手法を挙げることができ、等価回路を用いたフィッティングにより計算で求めた抵抗成分を健全性評価に用いてもよい。この場合、健全性評価部のメモリには過去に同様の方法で決定された抵抗成分が保存されており、現在の抵抗成分と過去の抵抗成分とを比較することにより二次電池の健全性を評価する。B点における複素インピーダンス実数部と同様に上記等価回路を用いたフィッティングにより計算で求めた抵抗成分を用いることができる点は以下においても同様であり、以下では説明を適宜省略する。
【0077】
なお、上記A点又はB点の位置(あるいは上記等価回路を用いたフィッティングにより計算で求めた抵抗成分)は、二次電池のSOCやDODによっても一般に変動しうると考えられるため、現在のA点又はB点における複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)と過去に決定された実数部(あるいは上記抵抗成分)とを比較するにあたっては、同じSOC又はDODにおける実数部(あるいは上記抵抗成分)を比較することが好ましい。この場合、健全性評価部のメモリには、当該二次電池のさまざまなSOC及びDODの値(本発明の推定手法、あるいは従来の手法を含む、任意の手法で予め決定する。)と、当該SOC又はDODにおける過去のA点又はB点での複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)(予め、図7のシステムを用いる等して決定しておく。)と、をセットでカタログとして保存しておく。(現在の)二次電池の健全性を評価するにあたって、健全性評価部は、当該二次電池における現在のSOC又はDOD(本発明の推定手法、あるいは従来の手法を含む、任意の手法で予め決定する。例えば図2のシステムで決定し、健全性評価部にデータとして予め送信されていてもよいし、健全性評価部が図2の複素インピーダンス特性比較部としても機能することにより、自らSOC又はDODを推定してもよい。健全性評価部が自ら推定する場合には、図2のシステムと同様に、二次電池が負荷と充電器のどちらに接続されているかは、例えばその接続を切り替えるスイッチ制御回路から健全性評価部に送信される信号により通知される。)と等しい、あるいは最も近いSOC又はDODに対応する、カタログ中の過去のA点又はB点における複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)を、現在の複素インピーダンス測定値から得られる複素インピーダンス特性曲線において上記のとおり決定されたA点又はB点の複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)と比較することにより、当該二次電池の健全性を評価する。
【0078】
健全性評価の具体例としては、A点又はB点における複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)が過去のものよりも低下した場合に電池の健全性が悪化したと判定し、A点又はB点における複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)が過去と同様であれば健全性に変化がないと判定することが可能である。また、未使用の電池において決定された、上記A点又はB点における複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)(予め健全性評価部のメモリに保存されているとする。)と比較して、現在の当該実数部(あるいは上記抵抗成分)が一定割合以上低下していた場合には、特にショートの危険性が高く健全性が大幅に悪化したと判定する等、具体的な健全性評価の態様は任意である。
【0079】
健全性の判定結果を表わす信号は、健全性評価部から運用制御部(プロセッサ、メモリ、制御・通信回路等からなる。)へと送信される。運用制御部は、この判定結果に基づいて二次電池の運用を制御する。一例として、上記A点又はB点における複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)が低下して健全性が悪化したとの判定結果を運用制御部が受信した場合、運用制御部は二次電池と負荷又は充電器との接続を切断して二次電池の運用を中止する。あるいは、上記A点又はB点における複素インピーダンス実数部(あるいは上記抵抗成分)が一定割合以上低下したことを示す判定結果を受信した場合に限り二次電池の運用を中止し、上記実数部(あるいは上記抵抗成分)の低下が上記一定割合未満であった場合には、一部の負荷又は充電器のみとの接続を切断して運用を制限する等の制御も可能である。
【0080】
このように、電池の健全性を評価し、判定結果に応じて電池の運用を制御することにより、ショートを未然に防止する等、安全な電池の運用が可能となる。
【0081】
なお、ここでは健全性判定部が複素インピーダンス特性曲線を作成するとしたが、この処理は複素インピーダンス特性決定部で行ってもよい。その他のデータ処理やデータの保存等も、上述のフィードバック制御と同様のフィードバック制御を実施可能であれば、どの回路部によって行ってもよい。また各回路部は複数の回路部により構成されていてもよいし、統合された1つの装置として構成されていてもよい。あるいは、複素インピーダンス特性決定部と健全性評価部が統合されるなど、複数の回路部が1つの装置として統合されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
電池の充電状態や健全性の悪化傾向を正確に把握し、これを制御に反映させること、及び電池の安全な運用が、長く産業界から要望されていた。エネルギー利用効率を向上させた社会を実現し、人類のサステイナビリティを向上させるために、本発明の技術は広く利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7