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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】臭気低減剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20220204BHJP
   A23L 3/358 20060101ALI20220204BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220204BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
A61L9/00 C
A23L3/358
A61L9/01 B
B01D53/86 110
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017528683
(86)(22)【出願日】2016-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2016070511
(87)【国際公開番号】W WO2017010472
(87)【国際公開日】2017-01-19
【審査請求日】2019-01-17
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2015141638
(32)【優先日】2015-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】南部 宏暢
(72)【発明者】
【氏名】笠間 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亘
(72)【発明者】
【氏名】福岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】中島 清隆
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】門前 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-289859(JP,A)
【文献】特開2002-119809(JP,A)
【文献】特開平7-270043(JP,A)
【文献】国際公開第2015/027031(WO,A1)
【文献】特開2005-305403(JP,A)
【文献】特開平11-9673(JP,A)
【文献】特開2004-148173(JP,A)
【文献】特開2006-181441(JP,A)
【文献】特開平10-182142(JP,A)
【文献】特開2006-17358(JP,A)
【文献】特開平3-249921(JP,A)
【文献】特開平3-221140(JP,A)
【文献】江川霞,Oxidation and Hydrogenation Reactions over Supported Platinum Catalysts,北海道大学博士論文,2013年 9月25日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00
A23L 3/00
A61L 9/01
B01D53/86
B01J29/035
B01J35/02
B01J35/10
B60H 3/00
B65D81/24
B65D81/28
B65D85/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~15nmの平均細孔直径を有し300~2000m/gの比表面積を有しX線回折のd間隔が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する多孔質シリカに、白金又は白金含有化合物を担持させてなる臭気物質の分解剤であって、前記臭気物質が、アンモニア、トリメチルアミン、及びメチルメルカプタンから選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含み、酸素の存在下、15~-40℃の雰囲気下で使用される、分解剤。
【請求項2】
白金の含有量が0.1~5質量%であり、多孔質シリカに担持された白金又は白金含有化合物が、粒径が0.5~7nmの粒子状である、請求項1記載の分解剤。
【請求項3】
臭気物質と請求項1又は2記載の分解剤とを、酸素の存在下、15~-40℃の雰囲気下で接触させて、前記臭気物質を分解する方法であって、前記臭気物質が、アンモニア、トリメチルアミン、及びメチルメルカプタンから選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含む、分解方法。
【請求項4】
1~15nmの平均細孔直径を有し300~2000m/gの比表面積を有しX線回折のd間隔が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する多孔質シリカに、白金又は白金含有化合物を担持させてなる、臭気物質を分解する消臭剤であって、前記臭気物質が、アンモニア、トリメチルアミン、及びメチルメルカプタンから選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含み、酸素の存在下、15~-40℃の雰囲気下で使用される、消臭剤。
【請求項5】
白金の含有量が0.1~5質量%であり、多孔質シリカに担持された白金又は白金含有化合物が、粒径が0.5~7nmの粒子状である、請求項4記載の消臭剤。
【請求項6】
臭気物質と請求項4又は5記載の消臭剤とを、酸素の存在下、15~-40℃の雰囲気下で接触させて、前記臭気物質を分解して消臭する方法であって、前記臭気物質が、アンモニア、トリメチルアミン、及びメチルメルカプタンから選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含む、消臭方法。
【請求項7】
1~15nmの平均細孔直径を有し300~2000m/gの比表面積を有しX線回折のd間隔が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する多孔質シリカに、白金又は白金含有化合物を担持させてなる、臭気物質を分解する飲食品又は花卉の鮮度保持剤であって、前記臭気物質が、アンモニア、トリメチルアミン、及びメチルメルカプタンから選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含み、酸素の存在下、15~-40℃の雰囲気下で使用される、鮮度保持剤。
【請求項8】
白金の含有量が0.1~5質量%であり、多孔質シリカに担持された白金又は白金含有化合物が、粒径が0.5~7nmの粒子状である、請求項7記載の鮮度保持剤。
【請求項9】
臭気物質と請求項7又は8記載の鮮度保持剤とを、酸素の存在下、15~-40℃の雰囲気下で接触させて、前記臭気物質を分解して飲食品又は花卉の鮮度を保持する方法であって、前記臭気物質が、アンモニア、トリメチルアミン、及びメチルメルカプタンから選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含む、鮮度保持方法。
【請求項10】
請求項1又は2記載の分解剤、請求項4又は5記載の消臭剤、又は請求項7又は8記載の鮮度保持剤を備える、物品。
【請求項11】
袋、容器、フィルター、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナ、空調機、車両、船舶、又は航空機である、請求項10記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気物質の分解剤、消臭剤、鮮度保持剤、及びこれらを備えた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、硫黄化合物、窒素化合物、アルデヒド、炭化水素、低級脂肪酸など、様々な臭気物質が問題となっている。例えば、飲食品の輸送や保存に際しては、魚、肉等の鮮度低下に伴い、アセトアルデヒド、メチルメルカプタン、トリメチルアミンなどの臭気物質が発生することがある。これらの臭気物質の消臭には、活性炭等による吸着や、光触媒を利用した酸化分解などが行われている。
【0003】
特許文献1には、活性炭に、臭素、硫酸、およびアルカリ金属ハロゲン化物を均一に担持させてなる下水処理場の脱臭用吸着剤が開示されている。
【0004】
特許文献2には、基材上に、酸化チタンおよび酸化亜鉛の少なくとも2種の光触媒粒子を含有する層が形成されており、前記酸化チタンの50%粒子径よりも酸化亜鉛の50%粒子径のほうが大きいことを特徴とする室内空間用脱臭材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許3766771号公報
【文献】特開2003-126234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の発明は、吸着能が経時的に低下してしまい、長期間の使用が困難である。特許文献2記載の発明は、光を照射する装置が必要であるため、簡易にその実施をすることができず、また、臭気物質の分解能も十分なものではない。
【0007】
本発明の課題は、簡易に使用することができ、優れた分解能を有する、臭気物質の分解剤及び該分解剤を用いた分解方法、消臭剤及び該消臭剤を用いた消臭方法、飲食品の鮮度保持剤及び該鮮度保持剤を用いた飲食品の鮮度保持方法、並びにこれらを備えた物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
[1]多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる臭気物質の分解剤であって、前記臭気物質が、アルデヒド類、脂肪酸類、硫黄化合物、及び窒素化合物から選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含み、酸素の存在下、80~-40℃の雰囲気下で使用される、分解剤、
[2]臭気物質と[1]記載の分解剤とを、酸素の存在下、80~-40℃の雰囲気下で接触させて、前記臭気物質を分解する方法であって、前記臭気物質が、アルデヒド類、脂肪酸類、硫黄化合物、及び窒素化合物から選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含む、分解方法、
[3]多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる、臭気物質を分解する消臭剤であって、前記臭気物質が、アルデヒド類、脂肪酸類、硫黄化合物、及び窒素化合物から選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含み、酸素の存在下、80~-40℃の雰囲気下で使用される、消臭剤、
[4]臭気物質と[3]記載の消臭剤とを、酸素の存在下、80~-40℃の雰囲気下で接触させて、前記臭気物質を分解して消臭する方法であって、前記臭気物質が、アルデヒド類、脂肪酸類、硫黄化合物、及び窒素化合物から選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含む、消臭方法、
[5]多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる、臭気物質を分解する飲食品又は花卉の鮮度保持剤であって、前記臭気物質が、アルデヒド類、脂肪酸類、硫黄化合物、及び窒素化合物から選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含み、酸素の存在下、80~-40℃の雰囲気下で使用される、鮮度保持剤、
[6]臭気物質と[5]記載の鮮度保持剤とを、酸素の存在下、80~-40℃の雰囲気下で接触させて、前記臭気物質を分解して飲食品又は花卉の鮮度を保持する方法であって、前記臭気物質が、アルデヒド類、脂肪酸類、硫黄化合物、及び窒素化合物から選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含む、鮮度保持方法、及び
[7][1]記載の分解剤、[3]記載の消臭剤、又は[5]記載の鮮度保持剤を備える、物品、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易に使用することができ、優れた分解能を有する、臭気物質の分解剤及び該分解剤を用いた分解方法、消臭剤及び該消臭剤を用いた消臭方法、飲食品の鮮度保持剤及び該鮮度保持剤を用いた飲食品の鮮度保持方法、並びにこれらを備えた物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
活性炭等による吸着や、光触媒を利用した酸化分解以外の消臭方法として、白金触媒などを使用する触媒燃焼法が挙げられる。この方法により150~350℃の高温下において、特定の臭気物質(例えば、アセトアルデヒド、メチルメルカプタン、トリメチルアミンなどの揮発性有機化合物)を酸化分解し得ることが知られている。しかし、白金触媒などを使用して、低温下においてこれらを分解する技術は知られていない。
【0011】
ところが、前記の課題解決について検討したところ、特定の臭気物質と、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させたものとを接触させると、驚くべきことに、150℃未満の温度(例えば、室温や、-40℃のような低温下)においても、これらの臭気物質を分解できることを新たに見出した。
【0012】
本発明者らは、かかる知見に基づき鋭意研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の一態様として、臭気物質の分解剤が挙げられる。この分解剤は、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる。
【0014】
本発明の一態様として、臭気物質と、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる分解剤とを接触させて、臭気物質を分解する方法が挙げられる。これにより、臭気物質を除去することができる。
【0015】
この分解剤及び分解方法は、臭気物質を分解すると有益となる種々の用途に使用することができる。
【0016】
本発明の一態様として、臭気物質を分解する消臭剤が挙げられる。この消臭剤は、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる。
【0017】
本発明の一態様として、臭気物質と、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる消臭剤とを接触させて、臭気物質を分解して消臭する方法が挙げられる。これにより、臭気物質を除去することができる。
【0018】
この消臭剤及び消臭方法は、特に限定されるものではないが、例えば、飲食品の輸送や保存に際して発生する臭気物質、ゴミから発生する臭気物質、工場から発生する臭気物質、動物の遺体から発生する臭気物質などを分解して消臭することができる。
【0019】
本発明の一態様として、臭気物質を分解する飲食品等の鮮度保持剤が挙げられる。この鮮度保持剤は、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる。
【0020】
本発明の一態様として、臭気物質と、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなる鮮度保持剤とを接触させて、臭気物質を分解して飲食品又は花卉の鮮度を保持する方法が挙げられる。また、これにより、臭気物質が除去される。
【0021】
この鮮度保持剤及び鮮度保持方法は、特に限定されるものではないが、例えば、飲食品又は花卉の輸送や保存に際して発生する臭気物質を分解して鮮度を保持することができる。なお、飲食品とは、飲料と固形食品の両方を含むものを指す。
【0022】
本発明の一態様として、これらの分解剤、消臭剤、鮮度保持剤(以下、「分解剤等」ともいう)を備える、物品が挙げられる。
【0023】
この物品としては、特に限定されるものではないが、例えば、袋、容器、フィルター、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナ、空調機、車両、船舶、航空機などが挙げられる。
【0024】
例えば、冷蔵庫や冷凍庫の場合、庫内に保存される魚や肉など(被保存物)からメチルメルカプタンやトリメチルアミンなどの臭気物質が発生し、これらは庫内の臭気の原因となる。本態様の冷蔵庫や冷凍庫を使用すれば、庫内の被保存物から発生する臭気物質を分解するため、臭気を低減することができる。
【0025】
また、被保存物に、臭気物質の分解時に生じる炭酸ガスを作用させるなどして被保存物の表面を弱酸性にすると、タンパク質を分解する酵素などの働きを抑えることや、細菌類の増加を抑えることにより鮮度を維持することができる。しかし、被保存物の周囲に臭気物質がある程度残存していると、被保存物に炭酸ガスを作用させることが臭気物質により阻害され、鮮度維持が困難となる。本態様の冷蔵庫や冷凍庫を使用すれば、臭気物質の分解能が高いため、この臭気物質による阻害が少なく、好適に被保存物の鮮度を維持することができる。
【0026】
前記の各態様は、酸素の存在下、80~-40℃の雰囲気下で使用される。例えば、冷蔵庫の場合には15~0℃、冷凍庫の場合には-5~-25℃などで使用されてもよい。
【0027】
以下、前記各態様における各要素について説明する。
【0028】
臭気物質は、アルデヒド類、脂肪酸類、硫黄化合物、及び窒素化合物から選択される少なくとも1種の揮発性化合物を含む。
【0029】
アルデヒド類は、アルデヒド基を持つ化合物であれば特に限定するものではないが、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、ヘキサナール、ノネナールなどが挙げられる。
【0030】
脂肪酸類は、カルボキシ基を持つ鎖状の有機酸であれば特に限定するものではないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸などが挙げられる。
【0031】
硫黄化合物は、メチルメルカプタン,メルカプトエタノールなどが挙げられる。
【0032】
窒素化合物は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、エチレンジアミン、アンモニアなどが挙げられる。
【0033】
本明細書において多孔質シリカとは、多孔質構造を持つケイ素酸化物を主成分とする物質を意味する。
【0034】
多孔質シリカの平均細孔直径は、分解反応の進行を促進する観点から、0.5nm以上が好ましく、白金を粒子状で担持する観点から、15nm以下が好ましい。これらの観点から、多孔質シリカの平均細孔直径は、好ましくは0.5~15nm、より好ましくは0.5~10nm、さらに好ましくは0.5~7nm、さらに好ましくは0.5~5nmである。本明細書における多孔質シリカの平均細孔直径は、窒素吸脱着によるNL-DFT法により算出することができる。
【0035】
多孔質シリカの比表面積は、白金の担持量を高める観点から、300m/g以上が好ましく、製造が実現可能である観点から、2000m/g以下が好ましい。これらの観点から、多孔質シリカの比表面積は、好ましくは300~2000m/g、より好ましくは600~1500m/gである。本明細書における多孔質シリカの比表面積は、窒素吸脱着によるBET法により算出することができる。
【0036】
さらに、多孔質シリカは、X線回折のd間隔が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有することが好ましい。X線回折ピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。従って、2.0nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が2.0nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。このように規則的に配列した細孔をもつ多孔質シリカを、本明細書においては、メソポーラスシリカともいう。d間隔は、好ましくは2.0~25nm、より好ましくは3.0~20nmである。多孔質シリカのX線回折パターンは粉末X線回折装置により測定することができる。
【0037】
多孔質シリカの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば次のようにして製造できる。まず、無機原料と有機原料を混合し、反応させることにより、有機物を鋳型としてそのまわりに無機物の骨格が形成された有機物と無機物の複合体を形成させる。次いで、得られた複合体から有機物を除去することにより、多孔質シリカが得られる。
【0038】
無機原料としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のアルコキシシラン、ケイ酸ソーダ、カネマイト(kanemite、NaHSi・3HO)、シリカ、シリカ-金属複合酸化物等が挙げられる。これらの無機原料はシリケート骨格を形成する。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
鋳型として使用される有機原料は、特に限定されるものではないが、例えば界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム(好ましくはアルキル基の炭素数が8~18のアルキルトリメチルアンモニウム)、アルキルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウムの塩化物、臭化物、ヨウ化物又は水酸化物の他、脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
無機原料と有機原料を混合する場合、適当な溶媒を用いることができる。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物等が挙げられる。
【0041】
無機物と有機物の複合体の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、有機原料を溶媒に溶解後、無機原料を添加し、所定のpHに調製した後に、反応混合物を所定の温度に保持して縮重合反応を行う方法が挙げられる。縮重合反応の反応温度は使用する有機原料や無機原料の種類や濃度によって異なるが、0~100℃程度が好ましく、より好ましくは35~80℃である。
【0042】
縮重合反応の反応時間は、特に限定されるものではないが、1~24時間が好ましい。また、前記の縮重合反応は、静置状態、撹拌状態のいずれで行ってもよく、またそれらを組み合わせて行ってもよい。
【0043】
縮重合反応後に得られる複合体から有機原料を除去することによって、多孔質シリカが得られる。有機物と無機物の複合体からの有機物の除去は、400~800℃で焼成する方法、水やアルコール等の溶媒で処理する方法等の方法により行うことができる。
【0044】
多孔質シリカは、細孔容積の観点から、細孔が規則的に配列したメソポーラスシリカであることが好ましい。メソポーラスシリカは、例えば、珪酸ソーダを、界面活性剤を含む水溶液中に分散させ、加熱撹拌しながら塩酸を添加して分散液のpHを調整し、得られた固形生成物を洗浄・乾燥した後、400~800℃程度で焼成することにより得られる。
【0045】
多孔質シリカに担持される白金含有化合物としては、塩化白金、酸化白金、水酸化白金、塩化白金酸塩のほかに、その他金属との合金等が挙げられる。
【0046】
多孔質シリカに担持された白金又は白金含有化合物の粒子は、触媒活性の観点から、好ましくは0.5~7nmであり、より好ましくは1~4nmである。
【0047】
分解剤等における白金又は白金含有化合物の含有量は、触媒活性の観点から、0.1質量%以上が好ましく、製造コストの観点から、5質量%以下が好ましい。これらの観点から、白金又は白金含有化合物の含有量は、分解剤等中、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.1~3質量、さらに好ましくは0.1~2質量%である。
【0048】
多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させた分解剤等は、例えば、白金原子を含む白金化合物、白金錯体等の白金原料と多孔質シリカとの混合物を還元することにより得られる。具体的には、例えば、白金原料を含む水溶液を調製し、多孔質シリカを含浸させ、乾燥した後、還元して、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させた分解剤等を得ることができる。
【0049】
白金原料としては、塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金、硝酸テトラアンミン白金等が挙げられる。
【0050】
白金原料を含む水溶液に含浸した多孔質シリカを乾燥させるための温度条件は、特に限定されるものではないが、50~200℃程度が好ましい。
【0051】
還元方法としては、還元剤、熱、光等で処理する方法を用いることができ、白金原料が分解して白金粒子を生成する条件を適宜設定する。過度の処理は生成した白金粒子のシンタリングによる粒子径の増大の可能性があるため、適当な条件の設定が必要である。
【0052】
例えば、塩化白金酸を用いた場合、還元剤として水素を使用し、100~400℃の温度条件下で、処理することが好ましい。
【0053】
白金又は白金含有化合物は、これらが粒子成長により粗大な粒子となると触媒活性が低下するため、多孔質シリカの細孔外よりも細孔内に担持されていることが好ましい。細孔外に担持(付着)した白金又は白金粒子は、流水等により洗浄除去することができる。
【0054】
前記した各態様の分解剤等によれば、従来の金属触媒による臭気物質の分解が、150℃以上の高温下で行われるのが当業者の技術常識であるのに対し、室温や、氷点を下回る温度域でも、臭気物質を分解することができる。
【実施例
【0055】
分解剤の調製 実施例1、2
表1に示す担体1.0gを50mLの水に懸濁させ、Pt担持量1.0質量%になるように塩化白金酸水溶液[HPtCl aq.]を滴下し、その水溶液を室温にて一晩撹拌した。エバポレータを用いて50℃に加熱して溶媒を留去し、得られた粉末を60℃で16~18時間真空乾燥させ、水素ガスを、30mL/minで流通させながら、150℃で2時間の還元処理をすることによって担体に白金を担持させた分解剤を得た。
【0056】
分解剤の調製 実施例3
表1に示す担体1.0gを50mLの水に懸濁させ、Pt担持量1.0質量%になるようにジニトロジアンミン白金硝酸水溶液[(NO(NHPt・HNO aq.]を滴下し、その水溶液を室温にて一晩撹拌した。エバポレータを用いて50℃に加熱して溶媒を留去し、得られた粉末を60℃で16~18時間真空乾燥させ、水素ガスを、30mL/minで流通させながら、300℃で2時間の還元処理をすることによって担体に白金を担持させた分解剤を得た。
【0057】
分解剤の調製 比較例1
表1に示す担体にPtを担持させることなく、そのままのものを分解剤とした。
【0058】
実施例1~3及び比較例1で使用した担体の、窒素吸脱着測定より得られた吸着等温線を用いてBET法により比表面積(SBET)及び全細孔容積(Vtot)を、NL-DFT法により平均細孔直径(Dmeso)を得た。結果を表1に示す。
【0059】
また、各担体の粉末X線回折を行ったところ、いずれも担体も、X線回折のd間隔が実施例1、比較例1で使用した担体は9.4nm、5.8nm、4.9nmに、実施例2、3で使用した担体は4.9nm、2.9nm、2.5nm、1.9nmに、それぞれピークを有していた。
【0060】
また、実施例1~3で得られた分解剤に関してそれぞれ粉末X線回折及び窒素吸脱着測定を行った。粉末X線回折より得られた回折ピークからシェラー式を用いてPt粒子径(結晶子径,DPt)を算出した。また、担体と同様に、窒素吸脱着測定より得られた吸着等温線を用いてBET法により比表面積(SBET)及び全細孔容積(Vtot)を、NL-DFT法により平均細孔直径(Dmeso)を得た。結果を表1に示す。
【0061】
比較例1を除き、いずれの分解剤も、白金担時前後で構造特性に大きな変化が見られなかった。また、いずれの分解剤からもXRDパターンから白金由来の回折ピークが観測された。
【0062】
【表1】
【0063】
試験例1 アルデヒド分解試験
実施例1~3で得られた分解剤を用いて下記のアルデヒド分解試験を行った。表2に記載の量のアルデヒド(アセトアルデヒド)を含む反応ガス(アセトアルデヒド濃度、約100ppm;酸素、20体積%;窒素、残部:バランスガス)2.5Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤500mgを投入し、4℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのアルデヒド(アセトアルデヒド)濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0064】
試験例2 アンモニア分解試験
実施例1~3で得られた分解剤を用いて下記のアンモニア分解試験を行った。表2に記載の量のアンモニアを含む反応ガス(アンモニア濃度、約65ppm;酸素、20体積%;窒素、残部:バランスガス)2.5Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤500mgを投入し、4℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのアンモニア濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0065】
試験例3 トリメチルアミン分解試験
実施例1~3で得られた分解剤を用いて下記のトリメチルアミン分解試験を行った。表2に記載の量のトリメチルアミンを含む反応ガス(トリメチルアミン濃度、約3ppm;酸素、20体積%;窒素、残部:バランスガス)2.5Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤500mgを投入し、4℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのトリメチルアミン濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0066】
試験例4 メチルメルカプタン分解試験
実施例1~3で得られた分解剤を用いて下記のメチルメルカプタン分解試験を行った。表2に記載の量のメチルメルカプタンを含む反応ガス(メチルメルカプタン濃度、約1.5ppm;酸素、20体積%;窒素、残部:バランスガス)2.5Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤500mgを投入し、4℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのメチルメルカプタン濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0067】
試験例5 アンモニア分解試験(室温)
実施例1、2で得られた分解剤を用いて下記のアンモニア分解試験を行った。表2に記載の量のアンモニアを含む反応ガス(アンモニア濃度、約50ppm;酸素、20体積%;ヘリウム、残部:バランスガス)2Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤500mgを投入し、25℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのアンモニア濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0068】
試験例6 メチルメルカプタン分解試験(室温)
実施例1、2及び比較例1で得られた分解剤を用いて下記のメチルメルカプタン分解試験を行った。表2に記載の量のメチルメルカプタンを含む反応ガス(メチルメルカプタン濃度、約15ppm;酸素、20体積%;ヘリウム、残部:バランスガス)2Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤400mgを投入し、25℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのメチルメルカプタン濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0069】
試験例7 脂肪酸分解試験(室温)
実施例1~3で得られた分解剤を用いて下記の脂肪酸分解試験を行った。表2に記載の量の脂肪酸(酢酸)を含む反応ガス(酢酸濃度、約50ppm;酸素、20体積%;窒素、残部:バランスガス)2.5Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤500mgを投入し、25℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースの脂肪酸(酢酸)濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0070】
試験例8 アルデヒド分解試験(室温)
実施例1~3及び比較例1で得られた分解剤を用いて下記のアルデヒド分解試験を行った。表2に記載の量のアルデヒド(ホルムアルデヒド)を含む反応ガス(ホルムアルデヒド濃度、約100ppm;酸素、20体積%;窒素、残部:バランスガス)2.5Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤500mgを投入し、25℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのアルデヒド(ホルムアルデヒド)濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。また、25℃で21時間静置後のにおい袋内のヘッドスペースの二酸化炭素の発生量をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表3に示す。
【0071】
試験例9 アルデヒド分解試験(-20℃)
実施例2で得られた分解剤を用いて下記のアルデヒド分解試験を行った。表2に記載の量のアルデヒド(アセトアルデヒド)を含む反応ガス(アセトアルデヒド濃度、約50ppm;酸素、20体積%;窒素、残部:バランスガス)2.5Lを入れた「におい袋」(袋容量:3L、袋サイズ:250×250mm、材質:ポリエステルフィルム/アズワン株式会社製)に分解剤500mgを投入し、-20℃で21時間静置後、におい袋内のヘッドスペースのガスのみを別の「におい袋」に移送し、常温に戻したのちアルデヒド(アセトアルデヒド)濃度をガス検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
実施例1~3より、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させると、臭気物質を分解できることがわかる。一方で、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させていない比較例1においては、表3から、臭気物質の分解能がないことがわかる。なお、表2の試験例8において、比較例1のホルムアルデヒド残留濃度が初期濃度と比較して低下しているが、吸着によるものと推定される。
【0075】
本発明は、前記の実施態様及び実施例によりなんら限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の実施態様を取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、魚や肉から放出される揮発性の臭気物質などの分解において有用である。