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特許7018906フィルムの表面検査装置、およびフィルムの表面検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】フィルムの表面検査装置、およびフィルムの表面検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/30 20060101AFI20220204BHJP
   G01N 21/892 20060101ALI20220204BHJP
   B65H 23/14 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
G01B11/30 A
G01N21/892 A
B65H23/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019046462
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020148634
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神出 美由巳
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-167408(JP,A)
【文献】特開2009-271002(JP,A)
【文献】特開2010-129844(JP,A)
【文献】実開昭59-095047(JP,U)
【文献】特開2014-091601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01N 21/84-21/958
B65H 23/00-23/16
23/24-23/34
27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの長手方向において間隔を空けて配置され、前記フィルムを支持する2本の支持ローラであって、軸方向が、前記長手方向と直交するフィルムの幅方向に沿って延びる2本の支持ローラと、
前記支持ローラのそれぞれと対向して配置され、前記支持ローラとともに前記フィルムの幅方向の端部をニップする複数のニップ部材と、
前記ニップ部材によってニップされた状態の前記フィルムに対してテンションを付与するテンション付与機構であって、2本の前記支持ローラの間に位置する測定箇所に対して前記長手方向のテンションのみを付与するテンション付与機構と、
前記測定箇所の表面形状を測定する測定部とを備えているフィルムの表面検査装置。
【請求項2】
前記ニップ部材は、前記フィルムの全幅が自然長に保たれている状態で前記フィルムをニップする請求項1に記載のフィルムの表面検査装置。
【請求項3】
前記ニップ部材は、前記テンションが付与された場合に、前記フィルムの前記長手方向の伸長に従動して回転可能なローラであり、かつ、前記フィルムの幅方向における位置は固定されている請求項1または2に記載のフィルムの表面検査装置。
【請求項4】
前記ニップ部材は、前記フィルムと接触する接触部分の材質がゴムである請求項1から3のいずれか1項に記載のフィルムの表面検査装置。
【請求項5】
前記ニップ部材は、前記フィルムの幅方向の長さが、前記フィルムの全幅の0.6%以上20%以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルムの表面検査装置。
【請求項6】
前記測定部は、前記フィルムの表面の凹凸を角度または変位量として検出する検出部を備えている請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルムの表面検査装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記フィルムの表面の凹凸を角度として検出する角度検出器であり、
前記測定部は、前記角度検出器が検出した角度データを、前記凹凸の変位量を示す変位量データに変換する変換部を有している請求項6に記載のフィルムの表面検査装置。
【請求項8】
前記角度データには、異なる周期を持つ複数の凹凸を表す複数の周期成分が含まれており、
前記測定部は、前記角度検出器が検出した角度データから、複数の前記周期成分のうちの任意の周期成分を除去する周波数処理部を有している請求項7に記載のフィルムの表面検査装置。
【請求項9】
前記測定部は、少なくとも前記測定箇所について搬送が停止された静止状態で、前記表面形状を測定する請求項8に記載のフィルムの表面検査装置。
【請求項10】
フィルムの幅方向に沿って延びる2本の支持ローラと、複数のニップ部材とによって、前記フィルムの幅方向の両端部をニップする第1ステップと、
2本の前記支持ローラの間に位置する測定箇所に対して、前記フィルムの長手方向のテンションのみを付与する第2ステップと、
前記測定箇所の表面形状を測定する第3ステップとを備えているフィルムの表面検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、フィルムの表面検査装置、およびフィルムの表面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムなどの電気絶縁用途または光学用途に適用される樹脂製のフィルムが知られている。こうしたフィルムの製造時において、フィルムの表面を検査するフィルムの表面検査装置が知られている(特許文献1及び特許文献2に参照)。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に記載のフィルムの表面検査装置は、フィルムの表面に生じる微細な傷を欠陥として検出することを主な目的としている。こうしたフィルムの表面検査装置においては、欠陥を検出するに際して、フィルムの平面性を確保するために、フィルムの長手方向(搬送方向)および幅方向の両方に張力(テンション)を付与するテンション付与機構が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-244024号公報
【文献】特開2009-271002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2などの従来のフィルムの表面検査装置では、以下のような問題があった。すなわち、フィルムの表面には、上述の傷の他に、筋状バリ(streaky burr)と呼ばれるシワが発生することがある。筋状バリとは、フィルムの長手方向に沿って筋状に延び、かつ、フィルムの幅方向においては凹凸として現れるシワであり、製造後においても不可逆的に残存するシワをいう。筋状バリは、フィルムの製造時の熱処理において生じる波状のシワに由来し、この波状のシワが、熱処理後の冷却により固化したものである。
【0006】
従来のフィルムの表面検査装置では、検査時に、フィルムの搬送方向と幅方向との両方にテンションが付与される。フィルムの長手方向と幅方向との両方にテンションが付与されると、フィルムが長手方向と幅方向の両方に伸長するため、フィルムの表面に生じる余計なシワを抑制することができる。この方法は、フィルムの表面に生じる傷を検出する場合には有効であるが、筋状バリについては、付与されたテンションによって消失してしまう場合があり、筋状バリを適切に検出することができないという問題があった。
【0007】
本開示の技術は、筋状バリを適切に検出することが可能なフィルムの表面検査装置およびフィルムの表面検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示のフィルムの表面検査装置は、フィルムの長手方向において間隔を空けて配置され、フィルムを支持する2本の支持ローラであって、軸方向が、長手方向と直交するフィルムの幅方向に沿って延びる2本の支持ローラと、支持ローラのそれぞれと対向して配置され、支持ローラとともにフィルムの幅方向の端部をニップする複数のニップ部材と、ニップ部材によってニップされた状態のフィルムに対してテンションを付与するテンション付与機構であって、2本の支持ローラの間に位置する測定箇所に対して長手方向のテンションのみを付与するテンション付与機構と、測定箇所の表面形状を測定する測定部とを備えている。
【0009】
ニップ部材は、フィルムの全幅が自然長に保たれている状態でフィルムをニップすることが好ましい。
【0010】
ニップ部材は、テンションが付与された場合に、フィルムの長手方向の伸長に従動して回転可能なローラであり、かつ、フィルムの幅方向における位置は固定されていることが好ましい。
【0011】
ニップ部材は、フィルムと接触する接触部分の材質がゴムであることが好ましい。
【0012】
ニップ部材は、フィルムの幅方向の長さが、フィルムの全幅の0.6%以上20%以下であることが好ましい。
【0013】
測定部は、フィルムの表面の凹凸を角度または変位量として検出する検出部を備えていることが好ましい。
【0014】
検出部は、フィルムの表面の凹凸を角度として検出する角度検出器であり、測定部は、角度検出器が検出した角度データを、凹凸の変位量を示す変位量データに変換する変換部を有していることが好ましい。
【0015】
角度データには、異なる周期を持つ複数の凹凸を表す複数の周期成分が含まれており、測定部は、角度検出器が検出した角度データから、複数の周期成分のうちの任意の周期成分を除去する周波数処理部を有していることが好ましい。
【0016】
測定部は、少なくとも測定箇所について搬送が停止された静止状態で、表面形状を測定することが好ましい。
【0017】
本開示の技術に係るフィルムの表面検査方法は、フィルムの幅方向に沿って延びる2本の支持ローラと、複数のニップ部材とによって、フィルムの幅方向の両端部をニップする第1ステップと、2本の支持ローラの間に位置する測定箇所に対して、フィルムの長手方向のテンションのみを付与する第2ステップと、測定箇所の表面形状を測定する第3ステップとを備えている。
【発明の効果】
【0018】
本開示の技術によれば、筋状バリの検査を適切に行うことが可能なフィルムの表面検査装置およびフィルムの表面検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】フィルムの表面検査装置の概要図である。
図2】筋状バリSBの説明図である。
図3】フィルムのニップ状態およびテンションの付与方向を示す平面図である。
図4】ニップローラがニップ位置と退避位置との間を移動する様子を示す説明図である。
図5】フィルムに対するテンションの付与方向を示す側面図である。
図6】検出部のフィルムに対するスキャン方向を示す説明図である。
図7】角度検出器の構成図である。
図8】表面の凹凸に応じた反射光軸の角度変化を示す説明図である。
図9】角度データを示すグラフである。
図10】データ処理部の説明図である。
図11】角度データに対するデータ処理の説明図である。
図12】フィルムの表面形状の検査の全体の流れを示すフローチャートである。
図13】表面形状測定のサブルーチンを示すフローチャートである。
図14】本例のフィルムの支持方法の説明図である。
図15】比較例1のフィルムの支持方法の説明図である。
図16】比較例2のフィルムの支持方法の説明図である。
図17】フィルムの幅方向の弛みの説明図である。
図18】ゴム製のニップローラの説明図である。
図19】金属製のニップローラの説明図である。
図20】変位量検出器の説明図である。
図21】ニップローラの変形例である。
図22】第2実施形態の検査装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
図1に一例として示すように、フィルムの表面検査装置(以下、単に検査装置という)10は、フィルム11の表面形状を検査する装置である。フィルム11は、一例として、ポリエステルフィルムなどの電気絶縁用途または光学用途に適用される樹脂製のフィルムである。
【0021】
本例の検査装置10は、検査対象のフィルム11の搬送を停止した静止状態で、フィルム11の表面形状を検査する。検査装置10は、製造時にフィルム11の表面に生じた凹凸を検査する装置である。凹凸としては、特に筋状バリSBを好適に検査することができる。上述したとおり、筋状バリSBとは、図2に示すように、フィルム11の長手方向(Y方向)に沿って筋状に延び、かつ、フィルム11の幅方向(X方向)においては凹凸として現れるシワであり、製造後においても不可逆的に残存するシワをいう。
【0022】
図1および図3において、検査装置10は、2本の支持ローラ12と、4つのニップローラ13と、テンション付与機構14と、測定部16とを備えている。支持ローラ12およびニップローラ13は、例えば、テーブル17の天板17A上に設置される。
【0023】
支持ローラ12は、断面が円形のシャフト状の部材である。支持ローラ12は、軸方向がフィルム11の幅方向(X方向)に沿って延びている。支持ローラ12の長さは、フィルム11の全福W0以上の長さを有している。支持ローラ12は、一例として金属製である。支持ローラ12の両端にはホルダ18が設けられている。ホルダ18は、天板17Aに固定されており、支持ローラ12を回転自在に保持する。
【0024】
ニップローラ13は、各支持ローラ12のそれぞれと対向して配置される。ニップローラ13は、支持ローラ12とともにフィルム11の幅方向の端部をニップする。ニップローラ13は、1本の支持ローラ12に対して2つずつ設けられており、支持ローラ12が2本有るため、合計4つ設けられている。
【0025】
ニップローラ13は、ニップ部材の一例であり、断面が円形のローラである。ニップローラ13は、フィルム11を支持ローラ12に向けて、予め設定された押圧力で押圧する。この押圧により、フィルム11は支持ローラ12とニップローラ13との間で挟持される。
【0026】
フィルム11において、2本の支持ローラ12の間に位置する部分が、表面形状の測定箇所MA(図3参照)となる。フィルム11は、支持ローラ12およびニップローラ13に支持されることによって、フィルム11の測定箇所MAは、天板17Aから浮いた状態で支持される。
【0027】
ニップローラ13は、フィルム11と接触する接触部分の材質がゴムである。ニップローラ13は、フィルム11の幅方向の長さである幅LN(図3参照)が、例えば、フィルム11の全幅W0(図3参照)の0.6%以上20%以下であることが好ましい。幅LNの範囲の下限値は、検査の際に必要なニップ圧を確保することを考慮した値であり、上限値はフィルム11に対するニップ痕を抑制することを考慮した値である。シャフト19は、ニップローラ13を支持する。シャフト19の両端は、支持ローラ12と同様にホルダ18に回転自在に保持される。
【0028】
図4に示すように、ニップローラ13は、フィルム11の長手方向(Y方向)と交差する方向、本例では、フィルム11の厚み方向(Z方向)に移動自在に設けられている。ニップローラ13は、ニップ位置と解除位置(図4において破線で示す)との間で移動する。ニップ位置は、フィルム11の裏面と接触して支持ローラ12とともにフィルム11をニップする位置である。解除位置は、ニップ位置からZ方向に移動することにより、フィルム11から離間してニップを解除する位置である。ニップローラ13の移動により、フィルム11のニップおよびニップの解除が行われる。
【0029】
検査装置10には、ニップローラ13に対するフィルム11の幅方向(X方向)の位置を案内するガイド部材(図示せず)が設けられている。フィルム11は、ニップローラ13が解除位置にある状態で、支持ローラ12とニップローラ13との隙間に挿通させることにより、検査装置10にセットされる。この際に図示しないガイド部材に案内されることにより、フィルム11の幅方向(X方向)の位置が位置決めされる。これにより、フィルム11がセットされた状態では、フィルム11の幅方向(X方向)の両端にニップローラ13が位置する。この状態で、ニップローラ13を解除位置からニップ位置に移動すると、フィルム11がニップされる。
【0030】
図1および図3に示すように、フィルム11は、テンション付与機構14によって長手方向(Y方向)の両側にテンションTYが付与される。これにより、2本の支持ローラ12の間に位置するフィルム11の測定箇所MAは長手方向に伸長する。ニップローラ13は、長手方向(Y方向)にテンションTYが付与された場合のフィルム11の伸長に従動して回転可能である。
【0031】
また、ニップローラ13は、フィルム11の幅方向(X方向)の位置が固定されている。ニップローラ13は、フィルム11の幅が自然長に保たれている状態でフィルム11をニップする。ここで、自然長とは、フィルム11に外力が加わっていない無負荷の状態の長さをいう。フィルム11の全幅W0は、無負荷の状態のフィルム11の幅方向の自然長である。なお、フィルム11は検査装置10にセットされる以上、フィルム11に対して完全に負荷が掛らないことは実際にはあり得ない。例えば、検査装置10において、フィルム11を支持するための外力は必然的に加わる。そのため、ここでいうフィルム11の自然長とは、フィルム11に対して積極的に幅方向(X方向)のテンションを付与していない状態の幅であり、完全に無負荷状態のフィルム11の幅に対して、±5%程度の誤差を含む概念である。
【0032】
ニップローラ13は、フィルム11の幅方向に対するテンションTX(図16参照)は付与しない。より具体的には、ニップローラ13は、フィルム11の幅を拡張する方向に対するテンションTX(図16参照)も付与せず、また、フィルム11の幅を狭める方向に対するテンションも付与しない。
【0033】
また、ニップローラ13と支持ローラ12とによるフィルム11のニップ力は、フィルム11の長手方向(Y方向)にテンションが付与された場合でも、フィルム11の幅方向(X方向)の収縮力に抗してニップ状態を維持し、フィルム11の幅方向(X方向)の収縮を抑制することができる程度の力である。
【0034】
図1および図5に示すように、テンション付与機構14は、支持ローラ12とニップローラ13とによってニップされた状態のフィルム11に対して、長手方向(Y方向)のテンションTYのみを付与する。つまり、テンション付与機構14も、幅方向(X方向)のテンションTXを付与しない。上述のとおり、テンション付与機構14は、2本の支持ローラ12の間に位置する、フィルム11の表面形状の測定箇所MAに対して、フィルム11の長手方向(Y方向)のテンションTYのみを付与する。テンション付与機構14は、フィルム11の長手方向(Y方向)の両側に1つずつ設けられている。テンション付与機構14は、検査装置10において搬送が停止された静止状態のフィルム11に対してテンションTYを付与する。
【0035】
テンション付与機構14は、端部側ローラ21と重り22とを含んで構成される。テンション付与機構14は、支持ローラ12およびニップローラ13とともに、テーブル17の天板17A上に設置されている。テンション付与機構14は、2組設けられており、フィルム11の測定箇所を基準として、支持ローラ12よりもさらに長手方向の両側にそれぞれ配置される。
【0036】
端部側ローラ21は、支持ローラ12とほぼ同様であり、軸方向の長さは、フィルム11の全福W0以上の長さを持つ。端部側ローラ21は、ホルダ18と同様のホルダ23によって回転自在に保持される。フィルム11は、端部側ローラ21の周面に対して、フィルム11の測定箇所MAとなる表面とは反対側の裏面が接する状態で巻きかけられる。フィルム11の長手方向の端部は、端部側ローラ21からテーブル17の下方に向けて垂れ下がる。
【0037】
重り22は、一例としてローラ形状をしている。重り22は、端部側ローラ21から垂れ下がるフィルム11の長手方向の両端部にそれぞれ設けられる。重り22は、フィルム11に対して適切なテンションTYを付与するのに必要な重さを有している。筋状バリSBを適切に検出するためのテンションTYの好ましい範囲としては、一例として、0.45MPa~1.1MPaであり、より好ましくは、0.6MPa~0.78MPaの範囲である。
【0038】
図1に示すように、測定部16は、検出ユニット26と制御ユニット27とを含んで構成される。検出ユニット26は、検出部26A、移動機構26B、および収容筐体26Cを有する。検出器制御部27A、データ処理部27B、およびディスプレイ27Cを有する。
【0039】
検出ユニット26において、収容筐体26Cは、テーブル17の天板17Aの上方においてフィルム11の幅方向(X方向)に延びる梁と、梁の両端を支持する支柱とを有する。収容筐体26Cは、2本の支持ローラ12の間の測定箇所MAの上方に検出部26Aが配置されるように検出部26Aを保持する。移動機構26Bは、収容筐体26Cに内蔵されており、検出部26Aを幅方向(X方向)に移動する。移動機構26Bの動作は、制御ユニット26によって制御される。
【0040】
図6に示すように、検出部26Aは、フィルム11の幅方向(X方向)に移動しながら、フィルム11の表面を光学的にスキャンすることにより、フィルム11の表面の凹凸を検出する。
【0041】
図7に示すように、検出部26Aは、光源261と受光部262とを備えている。光源261は、フィルム11の表面にレーザ光を照射するレーザ光源である。光源261は、フィルム11の法線Hに対して、入射するレーザ光の入射光軸IAを傾けた姿勢で配置されている。受光部262は、フィルム11の表面に照射されたレーザ光の反射光を受光する。
【0042】
図8に示すように、フィルム11の表面に凹凸があると、レーザ光の反射角が変化する。そうすると、反射光の反射光軸RAの角度も変化する。受光部262は、例えば、フォトダイオードなどの受光素子がライン状に複数個配列されたラインセンサである。反射光軸RAの角度が変化すると、受光部262における反射光の受光位置が変化する。検出部26Aは、受光位置の変化に基づいて、フィルム11の表面の凹凸を角度として検出する角度検出器260である。
【0043】
例えば、フィルム11の表面に凹凸が無い場合の入射光軸IAと反射光軸RAとの角度を基準角度θ0とする。そして、反射光軸RAは、凹凸によって反射光軸RA1またはRA2というように変化する。例えば、入射光軸IAと、反射光軸RA1およびRA2のそれぞれとの角度をθ1およびθ2とする。検出部26Aは、基準角度θ0と、各角度θ1およびθ2などとの差分(例えば、+2°、+1°、0°、-1°、-2°など)を、凹凸を表す角度として検出する。検出部26Aは、フィルム11の表面を幅方向(X方向)にスキャンすることにより、検出結果として、フィルム11の表面のX方向における凹凸を示す角度データを出力する。
【0044】
図9は、角度データの一例である。図9において、横軸は、フィルム11の幅方向(X方向)の一端を基準とした他端までの距離(単位はmm:millimeter)である。図9は、約1400mmの全幅W0を持つフィルム11の角度データの例である。縦軸は、基準角度θ0に対する差分の角度である。図9に示す角度データの例では、フィルム11の一端から約1000mmから1400mm付近において、Y方向に延びる筋状の複数本のシワが発生していることが分かる。また、この角度データは、複数本の微細なシワに相当する短周期成分の他に、約100mmから約800mmまでの範囲において、比較的長い周期の全体的なうねりに相当する長周期成分を含んでいる。このように、角度データには、異なる周期を持つ複数の凹凸を表す複数の周期成分が含まれている。
【0045】
検出部26Aは、フィルム11の幅方向(X方向)に1ライン分スキャンすると、1ライン分の角度データを出力する。フィルム11と検出部26Aとの長手方向(Y方向)における相対的な位置を変化させながら、検出部26AがX方向のスキャンを繰り返すことで、測定箇所MAの2次元平面の凹凸を示す角度データが得られる。フィルム11と検出部26Aとの長手方向における相対位置の変化は、例えば、検出器ユニット26をフィルム11に対して1ライン分ずつ移動させるか、あるいは、フィルム11を長手方向に1ライン分ずつ搬送させることにより行われる。
【0046】
図10に示すように、制御ユニット27において、検出器制御部27Aは、検出部26Aの動作を制御し、かつ、検出部26Aから出力される角度データを取得する。検出器制御部27Aは、取得した角度データをデータ処理部27Bに出力する。
【0047】
データ処理部27Bは、周波数処理部271、変換部272、およびメモリ273を備えている。周波数処理部271は、角度データから、複数の周期成分のうちの任意の周期成分を除去する。周波数処理部271は、例えば、角度データをフーリエ変換して、角度データに含まれる異なる周期成分(周波数成分)の分布を表す周波数スペクトルを得る。
【0048】
周波数処理部271は、周波数スペクトルから、フィルム11の全体的なうねりまたはフィルム11の弛みに相当する長周期成分など、筋状バリSBの周期成分とは異なる周期成分を除去する。筋状バリSBの周期は、例えば、約30mm~約80mm程度である。周波数処理部271は、筋状バリSBの周期成分とは異なる周期成分として、例えば、約100mm以上の周期成分を角度データから除去する。周波数処理部271は、こうして一部の周期成分が除去された周波数スペクトルを、逆フーリエ変換して、角度データに戻す。そして、周波数処理部271は、この補正済みの角度データを、変換部272に出力する。
【0049】
変換部272は、角度データを、凹凸の変位量を示す変位量データに変換する。凹凸の変位量は、フィルム11の表面の凹凸の高低差を示すため、変位量データの山谷は、目視で確認する表面の凹凸の状態とほぼ一致する。このように変位量データは、目視の印象と相関が高いため、直感的に把握しやすい。
【0050】
変換部272は、変換後の変位量データをメモリ273に格納する。この変位量データおよび変位量データに基づいて加工された加工データを含むデータが、フィルム11の表面形状を表す測定結果として、ディスプレイ27Cに表示される。
【0051】
図11は、データ処理部27Bが実行する処理の一例である。図11Aに示す角度データは、図9に示した角度データと同様であり、検出部26Aから検出器制御部27Aが取得する角度データである。上述したとおり、この角度データには、筋状バリSBの凹凸を表す周期成分が含まれている。この角度データが周波数処理部271に入力される。周波数処理部271は、この角度データから、筋状バリSBの周期成分よりも周期が長い長周期成分を除去する。そうすると、例えば、図11Bに示すような補正済み角度データが得られる。図11Bに示す補正済み角度データでは、長周期成分が除去されているため、図11Aに示す角度データに見られるような長周期のうねりが除去されている。これにより、筋状バリSBに対応する周期成分が顕在化される。
【0052】
変換部272は、図11Bに示す補正済み角度データを、図11Cに示す変位量データに変換する。図11Bに示す補正済み角度データにおいても、筋状バリSBに対応する凹凸が顕在化されている。しかし、角度データは凹凸を、変位量に応じた高低差ではなく、角度として検出しているため、目視で確認できる凹凸の状態と比較すると、見た目の印象が一致しない。例えば、目視で確認できる凹凸の山谷は変位量に応じた高低差と一致するが、角度データの場合は急峻な角度変化がある場所がピークとなり、このピークは変位量の一番高い部分と一致しない。図11Cに示す変位量データに変換することで、目視で確認できる状態と相関が高いデータが得られる。
【0053】
制御ユニット27において、検出器制御部27Aおよびデータ処理部27Bは、例えばCPU(Central Processing Unit)およびCPUによって実行される作動プログラムによって実現される。
【0054】
以下、上記構成による作用について、図12および図13のフローチャートを参照しながら説明する。ステップS1100において、検査装置10には、例えば製造ラインから移送されたフィルム11がセットされる。ステップS1200において、まず、2本の支持ローラ12と4つのニップローラ13とによって、フィルム11の幅方向(X方向)の両端をニップする。ニップローラ13は、フィルム11の幅が自然長W0に保たれている状態、すなわち、無負荷状態のフィルム11の幅方向(X方向)の両端部をニップする。ニップローラ13は、固定されており、フィルム11に対して幅方向のテンションTXを付与しない。ステップS1200は、第1ステップに相当する。
【0055】
次に、ステップS1300において、重り22を設置するなど、テンション付与機構14を用いて、ニップローラ13によってニップされた状態のフィルム11に対して、フィルム11の長手方向(Y方向)にテンションTYを付与する。より具体的には、2本の支持ローラ12の間に位置する測定箇所MAに対して長手方向(Y方向)にテンションTYを付与する。ステップS1300は第2ステップに相当する。
【0056】
そして、フィルム11の幅方向がニップされ、かつ、フィルム11の長手方向に対してテンションTYが付与された状態で、ステップS1400において、検査装置10は、フィルム11の表面形状を測定する。ステップS1400は第3ステップに相当する。
【0057】
図13に示すように、ステップS1410において、検出部26Aがフィルム11の幅方向(X方向)に沿ってフィルム11の表面をスキャンすることにより、表面の凹凸を角度として検出する。検出部26Aは検出した角度データを制御ユニット27に出力する。検出部26Aとフィルム11との長手方向(Y方向)の相対位置を変化させながら、測定箇所MAの角度データの取得が繰り返される。
【0058】
制御ユニット27は、図11において示したとおり、ステップS1420において、角度データから長周期成分を除去する。そして、ステップS1430において、長周期成分を除去した補正済みの角度データを変位量データに変換する。
【0059】
そして、検査装置10は、図12に示すステップS1500において、変位量データを測定結果として出力する。この測定結果は、メモリ273に格納され、かつ、ディスプレイ27Cに表示される。ユーザは、ディスプレイ27Cの測定結果を見ながら、フィルム11の筋状バリSBの発生状況を確認して、検査の合否を決めるなど、フィルム11の表面形状を評価する。
【0060】
本開示の技術に係る検査装置10および検査装置10を用いたフィルム11の表面検査方法の要点をまとめると、図14のようになる。すなわち、上述したとおり、検査装置10は、表面形状の測定に際して、2本の支持ローラ12と4つのニップローラ13とによって、フィルム11の幅方向(X方向)の両端部をニップする。そして、ニップされた状態のフィルム11の測定箇所MAに対して長手方向(Y方向)にのみテンションTYを付与する。
【0061】
図15に比較例1を、図16に比較例2を示す。図15に示す比較例1は、フィルム11の幅方向(X方向)の両端部のニップを行わない状態で、フィルム11の測定箇所MAに対して長手方向(Y方向)のテンションTYを付与する。この場合、フィルム11にテンションTYが付与されることにより、フィルム11が幅方向(X方向)に収縮することになる。具体的には、フィルム11の幅が、無負荷状態の幅W0よりも狭い幅W1に収縮する。フィルム11が幅方向に収縮すると、筋状バリSBとは別に、収縮に起因する帯状のシワSLが発生する。シワSLは、筋状バリSBとは異なり、収縮時にのみ生じるシワである。こうしたシワSLが発生すると、筋状バリSBとの区別がしにくく、シワSLが筋状バリSBと誤検出されるおそれがある。
【0062】
図14に示す本開示の技術に係る検査装置10においては、フィルム11の幅方向(X方向)の両端部をニップした状態で、フィルム11の測定箇所MAに長手方向(Y方向)のテンションTYを付与するため、図15に示すようなシワSLの発生が抑制される。シワSLの発生が抑制されることにより、シワSLの誤検出も抑制されるため、検査装置10によれば、筋状バリSBを適切に検出することができる。
【0063】
また、図16に示す比較例2は、検査装置10と同様に、フィルム11の幅方向(X方向)の両端部を、ニップローラ13を用いてニップする。その状態で、フィルム11の長手方向(Y方向)のテンションTYを加えて、フィルム11の幅方向(X方向)のテンションTXも付与する。この場合、フィルム11の幅W0が、幅W0よりも広い幅W2に拡張される。フィルム11の幅が拡張されると、フィルム11の測定箇所MAが幅方向(X方向)に伸長することによって、筋状バリSBが消失するおそれがある。
【0064】
図14に示す本開示の検査装置10においては、フィルム11の測定箇所MAに対して、フィルム11の幅方向(X方向)にはテンションTXを付与せずに、フィルム11の長手方向(Y方向)のテンションTYのみを付与する。このため、測定箇所MAが幅方向(X方向)に伸長することはなく、筋状バリSBが消失する懸念はない。そのため、筋状バリSBを適切に検出することができる。
【0065】
また、フィルム11は搬送が停止された静止状態で、表面形状が測定されるため、フィルム11の搬送の際に生じる振動等の外乱の影響が少ない。そのため、測定結果においては、外乱に起因するノイズの混入が抑制されるので、精度の高い表面形状の測定が可能となる。
【0066】
また、図11および図13のステップS1420に示したように、検査装置10において、データ処理部27Bの周波数処理部271は、検出部26Aが取得した角度データから、筋状バリSBの周期よりも長い長周期成分を除去している。上述したとおり、このような処理を行うことで、測定結果において、筋状バリSBを顕在化させることができる。
【0067】
特に、検査装置10は、フィルム11に対して幅方向(X方向)のテンションTXを付与しない。そのため、例えば、図17に示すように、フィルム11の幅方向(X方向)の中央部分のギャップCに示すように、フィルム11の自重による弛みが生じやすい懸念もある。こうした弛みは、検出部26Aが検出した角度データにおいては長周期成分のノイズに相当する。長周期成分を除去する周波数処理部271は、本開示の技術に係る検査装置10のように、フィルム11に対して幅方向(X方向)のテンションTXを付与しない場合に特に有効な構成である。
【0068】
また、本例の検査装置10においては、ニップローラ13は、テンションTYが付与された場合に、フィルム11の長手方向(Y方向)の伸長に従動して回転し、かつ、フィルム11の幅方向の位置は固定されている。こうした構成により、ニップローラ13は、長手方向(Y方向)のフィルム11の伸長によって生じる摩擦力によって回転する。そのため、テンション付与機構14によるテンションTYを測定箇所MAに伝達することができるので、測定箇所MAの平面性が確保される。また、テンションTYが付与された場合でも、ニップローラ13の幅方向(X方向)の位置は固定されているため、ニップローラ13が幅方向(X方向)に移動することはなく、筋状バリSB以外のシワの発生が抑制される。これにより、筋状バリSBのみが顕在化されやすく、筋状バリSBを適切に検出することができる。
【0069】
なお、ニップローラ13は、ニップ部材の一例であるが、ニップ部材としては、ローラの形状でなくてもよい。例えば断面形状が多角形等でもよいし、回転しなくてもよい。もちろん、ニップ部材を回転可能なニップローラ13とすることで、上述のメリットがあるため、ニップ部材としては、ニップローラ13であることが好ましい。
【0070】
また、本例の検査装置10において、支持ローラ12は、フィルム11の全幅W0以上の長さを有する。支持ローラ12が全幅W0以上の長さを有することで、支持ローラ12がフィルム11の幅方向(X方向)の全域に渡って接触するため、テンションTYがフィルム11の幅方向(X方向)の全域に均等に作用しやすい。そのため、フィルム11の測定箇所MAの平面性が確保されやすく、平面性確保の結果、筋状バリSBに対しては長周期成分となる凹凸が生じにくく、筋状バリSBを検出しやすい。
【0071】
また、本例の検査装置10においては、1本の支持ローラ12に対して、その両端部に1つずつニップローラ13が設けられている。2つのニップローラ13の幅LNを合計しても、合計した幅は、フィルム11の全幅W0よりも狭い。このように、本例の検査装置10においては、幅LNの合計が、フィルム11の全幅W0に満たない2つのニップローラ13でフィルム11の両端部をニップする。このため、支持ローラ12と同様に、フィルム11の全幅W0以上の幅LNを有する1つのニップローラ13を用いる場合、または幅LNの合計がフィルム11の全幅W0以上有る2つのニップローラ13を用いる場合と比べて、フィルム11とニップローラ13との接触面積が減るため、ニップ痕の発生を抑制することができる。
【0072】
また、本例においては、ニップローラ13の幅LNは、フィルム11の全幅W0の0.6%以上20%以下である。幅LNを全幅W0の0.6%以上とすることにより、検査の際に、フィルム11に対して長手方向(Y方向)のテンションTYが付与された場合でも、ニップローラ13がフィルム11を保持可能なニップ圧を確保することができる。これにより、テンションTYが付与された場合でも、ニップローラ13からフィルム11が外れてしまうことがないため、フィルム11の幅方向の収縮を抑制することが可能となる。また、幅LNを全幅W0の20%以下とすることにより、ニップローラ13に起因するフィルム11に対するニップ痕の発生を抑制することができる。
【0073】
また、本例においては、ニップローラ13は、フィルム11と接触する接触部分の材質がゴムである。こうした構成の効果について、図18および図19を用いて説明する。図19に示すニップローラ33は金属製である。
【0074】
図18に示すように、ゴム製のニップローラ13とした場合、ニップローラ13をフィルム11に押圧接触させた場合に、ゴムがつぶれるため、接触部分13Aは、幅方向(X方向)に延びる線状になる。
【0075】
これに対して、図19に示すように、ニップローラ33を金属製とした場合、ゴム製の場合と比較すると、接触部分33Aは、点状になりやすい。このように接触部分33Aが点状の場合は、ニップローラ33とフィルム11との接触が局所的な接触となりやすい。そうすると、点状の各接触部分33A間にテンションが作用し、テンションTY以外の方向に余計な力が加わることになる。この場合は、筋状バリSB以外の余計なシワが生じやすい。
【0076】
図18に示すように、接触部分13Aが線状の場合は、図19に示す点状の接触部分33Aと比較して、ニップローラ13とフィルム11との接触状態が安定する。そのため、測定箇所MAに対して、テンションTYの方向と異なる余計な力が加わりにくく、余計なシワが生じにくい。テンションTYも、図19の例と比較して、測定箇所MAの幅方向(X方向)のほぼ全域に渡って均等に作用する。このため、測定箇所MAの幅方向(X方向)において、条件が均等になるため、図19の例と比較して、適正に測定できる適正範囲の幅が広がる。図18の例では、適正範囲は、フィルム11の幅方向のほぼ全域に広がっている。
【0077】
また、図18に示すゴム製のニップローラ13は、図19に示す金属製のニップローラ33と比較して、静止摩擦係数が高いので、金属製と比較して少ない力でフィルム11をニップすることができる。これにより、ニップ痕も抑制される。
【0078】
なお、本例においてはゴム製のニップローラ13を使用した例で説明したが、検査装置10に対して、金属製のニップローラ33を使用してもよい。もちろん、上述のとおり、金属製と比較して、ゴム製のニップローラ13の方が、メリットが多いので、ゴム製のニップローラ13を使用することが好ましい。
【0079】
また、本例においては、検出部26Aとして、図7に示すように、フィルム11の表面の凹凸を角度として検出する角度検出器260を使用した例で説明したが、検出部26Aとしては、角度検出器260の代わりに、図20に示すような変位量検出器460を使用してもよい。変位量検出器460は、光源461、受光センサ462および集光レンズ463を備えており、例えば、三角測距法に基づいて、対象物との距離を測定する。光源461が照射する光は、集光レンズ463を介してフィルム11の表面に照射され、その反射光が集光レンズ464を介して受光センサ462に入射する。
【0080】
フィルム11を対象物として捉えると、フィルム11の距離がD1からD2に変化すると、物体距離が変化するため、集光レンズ464による結像位置が変化する。具体的には、物体距離が短くなるほど、結像の公式に基づいて、結像位置は集光レンズ464から遠ざかる。例えば、物体距離がD1からD2のように短くなると、反射光の受光位置P1がP2に変化する。フィルム11の表面に凹凸がある場合は、凹凸の位置によって物体距離が変化していると捉えることができる。このように、変位量検出器460は、受光センサ462における反射光の受光位置に基づいて、表面の凹凸を変位量として検出することができる。
【0081】
検出部26Aとしては、こうした変位量検出器460を用いてもよいが、図7で説明した上述の角度検出器260の方が好ましい。角度検出器260の方が、変位量検出器460と比較して、表面の凹凸に関して、S/N(Signal/Noise)比を高く検出できるためである。というのも、変位量検出器460の場合は、物体距離に対して、検出対象となる凹凸の高低差が小さすぎるため、検出対象の信号がノイズに埋もれてしまいやすい。
【0082】
これに対して、角度検出器260は、表面の凹凸における局所的な角度変化を信号として検出するため、変位量検出器460と比較して、S/N比が高くなる。また、角度検出器260は、S/N比が高いため、変位量検出器460よりも、フィルム11の全体的な弛みなど長周期成分を検出しやすい。
【0083】
また、図21に示すように、支持ローラ12およびニップローラ13の配置については、図1および図5に示す例とは異なり、ニップローラ13を上方に、支持ローラ12を下方に配置してもよい。図21に示す例では、必ずしも端部側ローラ21(図1および図5参照)を設けなくてもよい。
【0084】
また、ニップローラ13として、1本の支持ローラ12に対して2つずつ設けた例で説明したが、ニップローラ13としては、例えば、1本の支持ローラ12に対して1本ずつでもよい。この場合には、支持ローラ12が2本であるため、ニップローラ13は、合計2つになる。この場合のニップローラ13は、1本でフィルム11の幅方向の両端部を支持する必要があるため、支持ローラ12と同程度の長さを持つ。もちろん、上記例のように、ニップローラ13は、1本の支持ローラ12に対して2つずつ設けた方が好ましい。というのもニップローラ13とフィルム11との接触面積が減り、その結果ニップ痕が抑制されるためである。
【0085】
「第2実施形態」
第1実施形態の検査装置10は、フィルム11の製造ラインとは独立している例で説明したが、図22に示す第2実施形態の検査装置101のように、フィルム11の製造ラインに組み込まれたインラインタイプでもよい。製造ラインには、フィルム11の製造装置41が有り、検査装置101は、製造ライン内において、製造装置41の後段に配置されている。また、製造装置41と検査装置101との間には、アキューム装置42が配置されている。
【0086】
アキューム装置42は、製造装置41側のフィルム11の送り側速度と、検査装置10の後段に配置された、フィルム11を巻き取る巻き取りロール43の巻き取り速度との速度差を吸収する。アキューム装置42は、例えば、Z方向に移動してフィルム11の弛み量を調節するダンサーローラ42Aを有している。アキューム装置42は、ダンサーローラ42Aの移動により、フィルム11の弛み量を調節することで、フィルム11の送り側速度と巻き取り速度との速度差を吸収する。
【0087】
検査装置101は、製造装置41から供給されるフィルム11に対して、フィルム11の表面形状を検査する。アキューム装置42を用いて、フィルム11の弛み量を多くすることで、検査装置101に供給されるフィルム11について、少なくとも、2本の支持ローラ12の間のフィルム11の測定箇所MAの搬送を停止させることができる。これにより、測定箇所MAを静止状態にして、フィルム11の表面形状を測定することができる。
【0088】
検査装置101は、静止状態の測定箇所MAについてニップローラ13と支持ローラ12でニップを行う。そして、検査装置101は、フィルム11をニップした状態で、フィルム11の長手方向の両側から測定箇所MAに対してテンションTYを付与する。テンションTYは、例えば、巻き取りロール43の回転力、およびアキューム装置42のダンサーローラ42Aの移動量を調節することによって付与される。すなわち、第2実施形態においては、巻き取りロール43およびアキューム装置42が、テンション付与機構として機能する。このように、本開示の技術に係る検査装置は、第1実施形態のように製造ラインから独立して設けてもよいし、第2実施形態のように製造ラインに組み込むことも可能である。
【0089】
なお、フィルム11を搬送させながら検査を行ってもよい。ただし、フィルム11を搬送させると振動等により表面の凹凸の検出が困難になるため、上記各実施形態のように、静止状態で行うことが好ましい。
【0090】
上記各実施形態において、例えば、検出器制御部27A、データ処理部27Bといった各種の処理を実行する処理部(Processing Unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(Processor)を用いることができる。各種のプロセッサには、ソフトウェアを実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)に加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device :PLD)、及び/又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0091】
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせ、及び/又は、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0092】
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0093】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【0094】
本明細書において、「A及び/又はB」は、「A及びBのうちの少なくとも1つ」と同義である。つまり、「A及び/又はB」は、Aだけであってもよいし、Bだけであってもよいし、A及びBの組み合わせであってもよい、という意味である。また、本明細書において、3つ以上の事柄を「及び/又は」で結び付けて表現する場合も、「A及び/又はB」と同様の考え方が適用される。
【0095】
以上に示した記載内容および図示内容は、本開示の技術に係る部分についての詳細な説明であり、本開示の技術の一例に過ぎない。例えば、上記の構成、機能、作用、および効果に関する説明は、本開示の技術に係る部分の構成、機能、作用、および効果の一例に関する説明である。よって、本開示の技術の主旨を逸脱しない範囲内において、以上に示した記載内容および図示内容に対して、不要な部分を削除したり、新たな要素を追加したり、置き換えたりしてもよいことはいうまでもない。また、錯綜を回避し、本開示の技術に係る部分の理解を容易にするために、以上に示した記載内容および図示内容では、本開示の技術の実施を可能にする上で特に説明を要しない技術常識等に関する説明は省略されている。
【符号の説明】
【0096】
10、101 検査装置(フィルムの表面検査装置)
11 フィルム
12 支持ローラ
13 ニップローラ
13A 接触部分
14 テンション付与機構
16 測定部
17 テーブル
17A 天板
18 ホルダ
19 シャフト
21 端部側ローラ
23 ホルダ
26 検出器ユニット
26 検出ユニット
26A 検出部
26B 移動機構
26C 収容筐体
27 制御ユニット
27A 検出器制御部
27B データ処理部
27C ディスプレイ
33 ニップローラ
33A 接触部分
41 製造装置
42 アキューム装置
42A ダンサーローラ
260 角度検出器
261 光源
262 受光部
271 周波数処理部
272 変換部
273 メモリ
460 変位量検出器
461 光源
462 受光センサ
463、464 集光レンズ
θ0 基準角度
θ1、θ2 角度
C ギャップ
H 法線
IA 入射光軸
LN 幅
MA 測定箇所
P1、P2 受光位置
RA、RA1、RA2 反射光軸
SB 筋状バリ
SL シワ
TY 長手方向のテンション
TX 幅方向のテンション
W0、W1、W2 幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22