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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合用ツール
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
B23K20/12 344
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017053546
(22)【出願日】2017-03-17
(65)【公開番号】P2018153847
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-02-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特許第5204928(JP,B1)
【文献】特開2000-033484(JP,A)
【文献】特開2006-088173(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156362(WO,A1)
【文献】特開2008-296285(JP,A)
【文献】特開2015-223617(JP,A)
【文献】特開2002-18580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツールに前進角を設けた状態で前記ツールのショルダ部を被接合材の裏面側に当接させ、前記ツールの前記ショルダ部及びプローブ部を引き上げながら、前記被接合材の前記裏面側から摩擦攪拌接合を施すためのツールであり、
前記ツールは、円板状の前記ショルダ部と、当該ショルダ部の表面の略中心から同軸状に突出した前記プローブ部と、を有し、
前記プローブ部の先端に、前記ツールを摩擦攪拌接合装置の回転部に固定するための締結部を有し、
前記摩擦攪拌接合において前記被接合材と当接する前記プローブ部の表面に螺子加工が施されていないこと、
を特徴とする反転摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項2】
前記プローブ部が突出する前記ショルダ部の表面が凹状の曲面となっていること、
を特徴とする請求項1に記載の反転摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項3】
前記プローブ部の長さが4mm以上であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の反転摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項4】
前記プローブ部の直径Dpと前記ショルダ部の直径Dsの比率(Dp/Ds)が0.4~0.6であること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の反転摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項5】
前記プローブ部の表面に多面カット加工が施されていること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の反転摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項6】
前記ショルダ部及び前記プローブ部が工具鋼製であること、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載の反転摩擦攪拌接合用ツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦攪拌接合用ツールに関し、より具体的には、被接合材を裏面側から摩擦攪拌接合するための反転摩擦攪拌接合用ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の代表的な固相接合方法として、摩擦攪拌接合(FSW:Friction stir welding)が知られている。摩擦攪拌接合では、接合しようとする金属材を接合部において対向させ、回転ツールの先端に設けられたプローブを被接合部に挿入し、被接合界面に沿って回転ツールを回転させつつ移動させて、摩擦熱及び回転ツールの攪拌力により金属材を材料流動させることによって、2つの金属材を接合する。
【0003】
しかしながら、一般的な摩擦攪拌接合では、対向させた金属材の表面側のみから回転ツールのプローブを接合部に挿入するため、金属材の裏面側に金属材同士の未接合部であるキッシングボンドが生じてしまうという欠点が存在する。
【0004】
この欠点を改善するために、例えば、特許文献1(特開2003-181654号公報)に開示されているように、ボビンツールと呼ばれる回転ツールにより金属材の表面及び裏面の両方の側から摩擦攪拌接合を行う方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、ボビンツールを用いる場合、プローブで連結された上下一対のショルダ部を回転させることから、上下片方のショルダ部を回転ツールの移動方向の側に傾けると、もう片方のショルダ部は回転ツールの移動方向とは反対方向の側に傾いてしまう。このため、ボビンツールを金属材に対していずれかの方向に傾斜させることができず、ボビンツールを金属材の表面の法線に対して垂直にすることが必要となる。そのため、ボビンツールを用いる摩擦攪拌接合ではツール前進角を設定することができず、良好な接合部を得るための接合条件の範囲が狭いという欠点がある。
【0006】
これに対し、本願発明者は被接合材裏面からの接合が可能であると共に、ツール前進角を設けることができる摩擦攪拌接合方法を提案している。具体的には、特許文献2(特開2014-61542号公報)において、金属材の被接合部に攪拌軸(プローブ部)を挿入し、裏面に攪拌軸先端のショルダ部を当接させ、表面に表板を当接させ、ショルダ部と表板との間に金属材を挟み込み、ショルダ部及び攪拌軸を回転させつつ被接合界面に沿って移動させて金属材同士を接合する摩擦攪拌接合方法(以後、反転摩擦攪拌接合と称する。)を開示している。
【0007】
上記特許文献2に記載の反転摩擦攪拌接合方法では、ツールに前進角を設けた状態で被接合部の裏面から摩擦攪拌接合を行うことができるため、接合部にキッシングボンドのような未接合部を生じさせずに、良好な接合部を得ることが可能な接合条件の範囲を拡大させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-181654号公報
【文献】特開2014-61542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2に開示されている反転摩擦攪拌接合方法では、ツールに大きな引張応力が印加されることに加え、特にプローブの根元部(プローブとショルダの境界部)に大きなトルクが発生するため、厚板や強度が高い金属板等を接合する場合にはツールが容易に破断してしまう。
【0010】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、厚板や高強度金属板に対しても反転摩擦攪拌接合を施すことが可能なツールであって、反転摩擦攪拌接合中に破断し難いことに加え、攪拌部における欠陥の形成を効果的に抑制することができる反転摩擦攪拌接合用ツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく、反転摩擦攪拌接合用ツールの形状等について鋭意研究を重ねた結果、プローブにおける応力集中部を排除し、被接合材に当接するショルダ面に凹形状の曲面を設けること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
被接合材の裏面側から摩擦攪拌接合を施すためのツールであり、
前記ツールは、円板状のショルダ部と、当該ショルダ部の表面の略中心から同軸状に突出したプローブ部と、を有し、
前記プローブ部の先端に、前記ツールを摩擦攪拌接合装置の回転部に固定するための締結部を有し、
前記摩擦攪拌接合において前記被接合材と当接する前記プローブ部の表面に螺子加工が施されていないこと、
を特徴とする反転摩擦攪拌接合用ツール、を提供する。
なお、本願明細書において「被接合材の裏面」とは、摩擦攪拌接合によって製造された接合構造体の内側となる面を意味する。
【0013】
反転摩擦攪拌接合中に生じるツールの破断状況を鋭意観察したところ、プローブ部に大きな引張応力が印加されると共に、プローブ部の根元に大きなトルクが発生する反転摩擦攪拌接合では、殆どの場合において螺子加工が施されたプローブ部から破断することが明らかとなった。
【0014】
これに対し、本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールにおいては、接合中に被接合材と当接するプローブ部の表面に螺子加工が施されていないことを特徴としており、厚板や鋼等の高強度材を被接合材とし、ツールに大きな応力が印加される場合であっても破断が抑制され、良好な攪拌部を形成することができる。
【0015】
ここで、一般的な摩擦攪拌接合においては、細いプローブ部からツールが被接合材に圧入されるため、プローブ部に対して軸方向に印加される応力はそれ程大きくならない。加えて、軸方向には圧縮応力が印加されることから、材料流動を促進する目的でプローブ部に螺子加工を施しても、ツールの破断に及ぼす影響は小さい。なお、一般的な摩擦攪拌接合においても、ツールが移動する際にはプローブ部に横からの応力が印加されるため、螺子加工を施した場合は螺子加工が無い場合と比較して破断し易くなるが、アルミニウム材等の軽金属材を被接合材とする場合は深刻な問題とはならない。
【0016】
また、本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記プローブ部が突出する前記ショルダ部の表面が凹状の曲面となっていること、が好ましい。本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールではプローブ部に螺子加工が施されていないため、材料流動不足によって攪拌部に欠陥が形成され易くなる。これに対し、接合中に被接合材に当接するショルダ部の表面が凹状の曲面となっていることで攪拌力が増大し、プローブ部の攪拌力不足を補うことができる。なお、ショルダ部には、一般的な摩擦攪拌接合用ツールに攪拌力を向上させるために採用されている形状を付することができ、例えば、ショルダ部の表面にスクロール状の溝を形成させて攪拌力を向上させることができる。
【0017】
従来の摩擦攪拌接合用ツールにおいても、ショルダ部を凹状とするものが存在するが、当該形状はバリの発生を抑制する目的で形成されており、攪拌力の増大については着目されていなかった。これに対し、本願発明者はプローブ部とショルダ部を別駆動できる摩擦攪拌接合用ツール及び摩擦攪拌接合装置を用い、攪拌部形成に及ぼすツール部位の影響について鋭意研究した結果、プローブ部による攪拌力が十分でない場合、ショルダ部を凹状とすることで当該攪拌力不足を補填できることが明らかとなった。なお、凹形状の曲率は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、被接合材の厚さ及び強度等に応じて適宜設定すればよく、攪拌部に欠陥が形成されないように調整すればよい。
【0018】
また、本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記プローブ部の長さが4mm以上であること、が好ましい。被接合材が薄板の軽金属板材の場合はツールに印加される応力はそれ程大きくならないが、軽金属板材であっても板厚が4mm以上となると、プローブ部からのツール破断が顕著になる。これに対し、本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールではプローブ部からの破断が効果的に抑制されているため、長さが4mm以上のプローブ部を有する反転摩擦攪拌接合用ツールを用いることで、厚板に対しても安定した反転摩擦攪拌接合を施すことができる。
【0019】
また、本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記プローブ部の直径Dpと前記ショルダ部の直径Dsの比率(Dp/Ds)が0.4~0.6であること、が好ましい。直径Dpを大きくするとプローブ部の強度を高くすることができるが、プローブ部の通過に起因する空隙が大きくなるため、攪拌部に欠陥が形成され易くなる。また、直径Dsを大きくすることで攪拌力を向上させることができるが、プローブ部に印加されるトルクが大きくなる。ここで、これらの作用効果をバランスさせ、Dp/Dsを0.4~0.6とすることで、接合中の破断及び攪拌部における欠陥の形成を共に抑制することができる。なお、プローブ部の根本を太くし、プローブ部全体をテーパー形状とすることで、プローブ部の根元からの破断を抑制することができる。更には、当該テーパー角度を大きく設定し、ショルダ部を設けないツール(プローブ部の先端がショルダ部として機能する)を用いることもできる。即ち、プローブ部の太さはプローブ部の長さ方向に対して一定とする必要はない。
【0020】
また、本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記プローブ部の表面に多面カット加工が施されていること、が好ましい。プローブ部の表面に多面カット加工を施すことで、プローブに起因する材料流動を促進することができる。本発明の効果を損なわない限りにおいて、プローブ部に形成させる平面の数は特に限定されないが、例えば、3面~8面とすることが好ましい。また、多面カット加工を施したプローブ部全体を捩じることで、材料流動をより促進することができる。
【0021】
更に、本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記ショルダ部及び前記プローブ部が工具鋼製であること、が好ましい。ツール材質には、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)からなる超硬合金、コバルト(Co)基合金、タングステン(W)合金、イリジウム(Ir)等の高融点金属及びその合金、またはSiや多結晶c-BN等のセラミックスからなるものとすることができるが、ショルダ部及びプローブ部を工具鋼製とすることで、ツールの強度と靭性を両立することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、厚板や高強度金属板に対しても反転摩擦攪拌接合を施すことが可能なツールであって、反転摩擦攪拌接合中に破断し難いことに加え、攪拌部における欠陥の形成を効果的に抑制することができる反転摩擦攪拌接合用ツールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】反転摩擦攪拌接合の一態様を示す模式図である。
図2】本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールの一態様を示す概略図である。
図3】本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールを用いた反転摩擦攪拌接合の一態様を示す模式図である。
図4】本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールの別の態様を示す概略図である。
図5】実施例1で用いた反転摩擦攪拌接合用ツールの概観写真である。
図6】実施例1で用いた表板の概観写真である。
図7】実施例1で得られた継手の表面及び裏面の概観写真である。
図8】実施例1で得られた継手攪拌部の断面マクロ写真である。
図9】被接合材の端部側面からツールを被接合部に当接させる接合条件で得られた攪拌部の断面マクロ写真である。
図10】実施例2で得られた継手の表面及び裏面の概観写真である。
図11】実施例2で得られた継手攪拌部の断面マクロ写真である。
図12】実施例3で得られた継手の表面及び裏面の概観写真である。
図13】実施例3で得られた継手攪拌部の断面マクロ写真である。
図14】実施例4で得られた継手の表面及び裏面の概観写真である。
図15】実施例4で得られた継手攪拌部の断面マクロ写真である。
図16】比較例1におけるプローブ部破断後の被接合材裏面側からの概観写真である。
図17】比較例2におけるプローブ部破断後の被接合材裏面側からの概観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールの代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0025】
(1)反転摩擦攪拌接合
図1に、反転摩擦攪拌接合の模式図を示す。被接合材2,4の被接合部6にプローブ部8を挿入し、被接合材2,4の裏面にショルダ部10を当接させる。一般的には、被接合材2,4と当接するプローブ部8の表面には螺子加工が施されている。被接合材2,4の表面には表板12を当接させ、ショルダ部10と表板12との間に被接合材2,4を挟み込み、ショルダ部10及びプローブ部8を回転させつつ被接合界面14に沿って移動させて被接合材2,4同士を接合する。なお、接合の制御方法は特に限定されず、従来公知の種々の制御方法を用いることができ、例えば、ツール位置一定制御、荷重一定制御及びトルク一定制御を用いることができる。
【0026】
ここで、ショルダ部10と表板12との間隔を一定に固定することで、位置制御による反転摩擦攪拌接合を行うことができる。また、ショルダ部10及びプローブ部8を引き上げながら摩擦攪拌接合を行うことで、荷重制御による反転摩擦攪拌接合を行うことができる。なお、荷重制御による反転摩擦攪拌接合は板厚の変化に容易に追随することができる。なお、図1では突合せ接合について示しているが、重ね接合としてもよい。
【0027】
表板12には、プローブ部8を通すための貫通孔を有する貫通孔部が設けられている。反転摩擦攪拌接合では、プローブ部8をツール前進角に合わせて傾斜させる必要があるため、表板12の貫通孔も、当該傾斜に対応できる形状となっている。例えば、プローブ部8の直径よりも大きな貫通孔としてもよく、貫通孔をプローブ部8の傾斜角に合わせて傾斜させてもよい。また、当該貫通孔は、表板12の一端に開口部を有するU字形状としてもよい。なお、表板12の形状は特に限定されず、例えば、四角形状、円盤状、楕円形状及び多角形状等とすることができる。
【0028】
被接合材2,4の裏面から摩擦攪拌接合するため、例えばツールの攪拌軸(プローブ部8)に傾斜を設けない場合(ツール前進角0°)であっても、被接合材2,4の裏面にキッシングボンドのような未接合部が生じない。加えて、ツールの攪拌軸(プローブ部8)を傾斜させることができ、摩擦攪拌接合時にツール前進角を付与することができる。当該前進角により材料流動が円滑に進むため、接合可能条件が拡大し、接合不良を防止することが可能となる。なお、当該ツール前進角は0°超7°以下であることが好ましい。
【0029】
また、従来のボビンツールのように接合部周辺の被接合材2,4の両面に回転する部材が当接されず、被接合材2,4の表面には表板12の起伏が転写されるため、平滑な表面を有する表板12を当接させることにより、接合部周辺の被接合材2,4それぞれの表面に摩擦攪拌接合後の痕を生じさせず、良好な接合表面を得ることが可能となる。
【0030】
更に、反転摩擦攪拌接合では被接合材2,4の表面側のみから回転ツールのプローブを接合部に挿入しつつ裏面側に裏当板を当接させる従来の摩擦攪拌接合方法のように、被接合材2,4の表面及び裏面の両方から作業を行う必要がなく、ほとんどの作業を被接合材2,4の表面側のみから行うことができる。従って、機器や車両のシャーシ等の閉じた構造の構造物に対しても、外部からのみの作業で容易に被接合材2,4の接合を行うことができる。
【0031】
(2)反転摩擦攪拌接合用ツール
本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールの概略図を図2に示す。また、本発明の反転摩擦攪拌接合用ツールを用いた反転摩擦攪拌接合の状況を模式的に図3に示す。
【0032】
本発明の反転摩擦攪拌接合用ツール20は、円板状のショルダ部10と、ショルダ部10の表面の略中心から同軸状に突出したプローブ部8と、を有している。プローブ部8の先端には反転摩擦攪拌接合用ツール20を摩擦攪拌接合装置の回転部30に固定するための締結部22を有し、摩擦攪拌接合において被接合材2,4と当接するプローブ部8の表面には螺子加工が施されていない。
【0033】
締結部22と回転部30を連結することで反転摩擦攪拌接合用ツール20を回転させることができると共に、摩擦攪拌接合装置によって反転摩擦攪拌接合用ツールの位置及び引き上げ荷重等を制御することができる。なお、締結部22の構造は特に限定されず、反転摩擦攪拌接合用ツール20と回転部30とを強固に連結できればよい。図2においては、締結部22と回転部30を当接させた状態でボルト締結するための構造が示されている。
【0034】
また、プローブ部8に螺子加工を施していないことで、厚板や鋼等の高強度材を被接合材2,4とし、プローブ部8に大きな引張応力及び/又はトルクが印加される場合であっても破断が抑制され、良好な攪拌部を形成することができる。
【0035】
また、プローブ部8が突出するショルダ部10の表面は凹状の曲面となっていることが好ましい。反転摩擦攪拌接合用ツール20ではプローブ部8に螺子加工が施されていないため、材料流動不足によって攪拌部に欠陥が形成され易くなる。これに対し、接合中に被接合材2,4に当接するショルダ部10の表面が凹状の曲面となっていることで攪拌力が増大し、プローブ部8の攪拌力不足を補うことができる。凹形状の曲率は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、被接合材の厚さ及び強度等に応じて適宜設定し、攪拌部に欠陥が形成されないように調整すればよい。
【0036】
なお、ショルダ部10の凹状の曲率を示す角度である図2のθは、5°~15°とすることが好ましく、8°~12°とすることがより好ましい。θを5°以上とすることでショルダ部10による攪拌力を効果的に増大させることができ、θを15°以下とすることでショルダ部10外縁部に印加される応力が大きくなり過ぎることによるツール破断を抑制することができる。また、θを8°以上12°以下とすることで、これらの効果をより顕著にすることができる。
【0037】
また、プローブ部8の長さは4mm以上であることが好ましい。被接合材2,4が薄板の軽金属板材の場合はプローブ部8に印加される応力はそれ程大きくならないが、軽金属板材であっても板厚が4mm以上となると、プローブ部8からのツール破断が顕著になる。これに対し、反転摩擦攪拌接合用ツール20ではプローブ部8からの破断が効果的に抑制されているため、プローブ部8の長さを4mm以上とすることで当該厚板に対しても安定した反転摩擦攪拌接合を施すことができる。
【0038】
また、反転摩擦攪拌接合用ツール20においては、プローブ部8の直径Dpとショルダ部10の直径Dsの比率(Dp/Ds)が0.4~0.6であることが好ましい。直径Dpを大きくするとプローブ部8の強度を高くすることができるが、プローブ部8の通過に起因する空隙が大きくなるため、攪拌部に欠陥が形成され易くなる。また、直径Dsを大きくすることで攪拌力を向上させることができるが、プローブ部8に印加されるトルクが大きくなる。ここで、これらの作用効果をバランスさせ、Dp/Dsを0.4~0.6とすることで、接合中の破断及び欠陥の形成を共に抑制することができる。
【0039】
また、反転摩擦攪拌接合用ツール20においては、プローブ部8の表面に多面カット加工が施されていることが好ましい。プローブ部8の表面に多面カット加工を施すことで、プローブに起因する材料流動を促進することができる。プローブ部8に多面カット加工を施したツールの一例を図4に示す。図4に示すツールはプローブ部に3面カット加工が施されており、当該平面部が存在することにより大きな攪拌力を発現することができる。なお、多面カット加工は6面カットや8面カットとしてもよい。形成させる面数を増加させると円柱状に近づくことから接合中にプローブ部8に印加されるトルクを低減することができるが、攪拌力は低下することになる。ここで、3面カットとする場合、プローブ部8の中心軸から平面までの長さを、当該中心軸からプローブ部8の最外周までの長さの70~80%とすることが好ましい。
【0040】
反転摩擦攪拌接合用ツール20の材質は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の材質を用いることができる。ツール材質には、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)からなる超硬合金、コバルト(Co)基合金、タングステン(W)合金、イリジウム(Ir)等の高融点金属及びその合金、またはSiや多結晶c-BN等のセラミックスからなるものとすることができるが、ショルダ部及びプローブ部を工具鋼製とすることで、ツールの強度と靭性を両立することができる。
【0041】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0042】
≪実施例1≫
被接合材に100mm×50mm×4mmのA6061-T6アルミニウム合金(Al-Mg-Si合金)板を用い、当該アルミニウム合金板同士を反転摩擦攪拌接合によって接合した。用いた反転摩擦攪拌接合用ツール及び表板の概観写真を図5及び図6にそれぞれ示す。プローブ部の直径はφ6mm、長さは15mmであり、表面に螺子加工は施していない。また、ショルダ部の直径はφ15mmであり、プローブ部を有する面は平面となっている(凹形状としていない)。
【0043】
表板にはU字状の貫通孔が設けられており、反転摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部を当該貫通孔に挿入した状態で摩擦攪拌接合装置の回転部に連結した。なお、接合条件はツール回転速度500rpm、ツール移動速度250mm/min、ツール前進角3°とした。また、被接合材を挟み込むようにショルダ部を引き上げ、ショルダ部と表板とのギャップを3.8mmで固定して位置一定制御にて接合を行った。
【0044】
また、被接合領域にφ6mmの貫通孔を設け、当該貫通孔にプローブ部を挿入する態様でツールの初期位置を設定した。これにより、接合開始位置においてショルダ部の全面が被接合材に当接し、十分に摩擦熱を発生させた状態で接合を開始した。
【0045】
得られた継手の表面及び裏面の概観写真を図7に示す。表板が当接する継手表面は滑らかな形状となっており、回転するショルダ部が当接する継手裏面には典型的な攪拌部の凹凸形状が観察される。
【0046】
得られた継手攪拌部の断面マクロ写真を図8に示す。一般的な摩擦攪拌接合で形成される攪拌部と上下が反転した攪拌部が形成されており、反転摩擦攪拌接合によって良好な攪拌部が形成されている。攪拌部にトンネル状の欠陥は形成してらず、キッシングボンドも発生していない。なお、被接合材表面から深さ1mmにおける攪拌部の幅は6.3mmとなっている。一方で、被接合材の端部側面からツールを被接合部に当接させて接合を開始した場合(接合開始時にショルダ部の全面が被接合材に当接していない場合)は、プローブ部の攪拌力不足をショルダ部で補うことができず、攪拌部の表面近傍に欠陥が形成された。当該接合条件で得られた攪拌部の断面マクロ写真を図9に示す。
【0047】
≪実施例2≫
プローブ部を有するショルダ部の表面を凹形状の曲面(図2に記載のθ:10°)としたこと以外は実施例1と同様にして、反転摩擦攪拌接合を施した。得られた継手の表面及び裏面の概観写真を図10に、攪拌部の断面マクロ写真を図11にそれぞれ示す。
【0048】
実施例1の場合と同様に、板が当接する継手表面は滑らかな形状となっており、回転するショルダ部が当接する継手裏面には典型的な攪拌部の凹凸形状が観察される。また、良好な攪拌部が形成されており、欠陥は観察されない。ここで、実施例1で得られた継手と比較すると、被接合材の表面近傍まで攪拌部の幅が広くなっている。当該結果はショルダ部の表面を凹形状の曲面としたことに起因しており、ショルダ部による攪拌力が増大していることが分かる。
【0049】
≪実施例3≫
プローブ部を有するショルダ部の表面を凹形状の曲面(図2に記載のθ:10°)とし、プローブ部に対して図4に示す3面カットを施したこと以外は実施例1と同様にして、反転摩擦攪拌接合を施した。得られた継手の表面及び裏面の概観写真を図12に、攪拌部の断面マクロ写真を図13にそれぞれ示す。
【0050】
実施例1の場合と同様に、板が当接する継手表面は滑らかな形状となっており、回転するショルダ部が当接する継手裏面には典型的な攪拌部の凹凸形状が観察される。また、良好な攪拌部が形成されており、欠陥は観察されない。ここで、被接合材表面から深さ1mmにおける攪拌部の幅は7.3mmとなっており、実施例1で得られた継手と比較すると、被接合材の表面近傍まで攪拌部の幅が広くなっている。当該結果はショルダ部の表面を凹形状の曲面としたことに起因しており、ショルダ部による攪拌力が増大していることが分かる。
【0051】
≪実施例4≫
被接合材の端部側面からツールを被接合部に当接させて接合を開始したこと以外は実施例3と同様にして、反転摩擦攪拌接合を施した。得られた継手の表面及び裏面の概観写真を図14に、攪拌部の断面マクロ写真を図15にそれぞれ示す。
【0052】
実施例1の場合と同様に、板が当接する継手表面は滑らかな形状となっており、回転するショルダ部が当接する継手裏面には典型的な攪拌部の凹凸形状が観察される。また、接合開始時にショルダ部全体を被接合材に当接させていない状況においても良好な攪拌部が形成されており、欠陥は観察されない。当該結果は、ショルダ部の表面を凹形状の曲面としたこと及びプローブ部表面に平面領域を形成したことに起因しており、ショルダ部及びプローブ部の攪拌力が増大していることが分かる。
【0053】
≪比較例1≫
プローブ部の表面に螺子加工(螺子山角度:30°,ピッチ:0.5mm,螺子山高さ:0.25mm)を施したこと以外は実施例1と同様にして、反転摩擦攪拌接合を施したところ、ショルダ部を被接合材表面に当接させて保持している間にプローブ部が破断し、継手を得ることができなかった。なお、プローブ部の表面に施した螺子加工は、反転摩擦攪拌接合中の材料流動挙動を明確に促進することができる最低限の寸法及び形状である。
【0054】
図16にプローブ部破断後の被接合材裏面側からの概観写真を示す。反転摩擦攪拌接合用ツールを接合方向に移動させる前にプローブ部が破断しており、ショルダ部が被接合材に留まっている状況を確認することができる。
【0055】
≪比較例2≫
被接合材の端部側面からツールを被接合部に当接させて接合を開始したこと以外は比較例1と同様にして、反転摩擦攪拌接合を施した。接合開始時にショルダ部の全面を被接合材に当接させず、プローブ部に印加されるトルクを低減することでプローブ部破断の抑制を試みたが、比較例1の場合と同様に継手を得ることができなかった。
【0056】
図17にプローブ部破断後の被接合材裏面側からの概観写真を示す。比較例2の場合と同様に、反転摩擦攪拌接合用ツールを接合方向に移動させる前にプローブ部が破断しており、ショルダ部が被接合材に留まっている状況を確認することができる。
【0057】
以上、実施例1~実施例4の結果より、プローブ部に螺子加工を施していない反転摩擦攪拌接合用ツールを用いることで、接合途中にツールが破断することなく反転摩擦攪拌接合を施すことができ、板厚4mmのA6061-T6アルミニウム合金板に関して欠陥のない良好な継手を得ることができることが分かる。また、プローブ部を有するショルダ部の表面を凹形状の曲面とすることで、螺子加工を施していないプローブ部の攪拌力不足を補うことができ、プローブ表面に多面カット加工を施すことで、プローブ部の攪拌力を向上させることができることが分かる。
【0058】
また、比較例1及び比較例2の結果より、プローブ部に最低限の螺子加工を施した場合であっても、板厚4mmのA6061-T6アルミニウム合金板に対して反転摩擦攪拌接合を施すことができず、接合初期にプローブ部が破断することが確認される。
【符号の説明】
【0059】
2,4・・・被接合材、
6・・・被接合部、
8・・・プローブ部、
10・・・ショルダ部、
12・・・表板、
14・・・被接合界面、
20・・・反転摩擦攪拌接合用ツール、
22・・・締結部、
30・・・回転部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17