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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】架空送電線の表面改質システム
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20220207BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
H02G1/02
H01B13/00 501N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018044918
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019161833
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】天沼 成一
【審査官】須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭61-048325(JP,B2)
【文献】特開2016-135046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0200530(US,A1)
【文献】特開昭58-026407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/02
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空送電線に対する表面改質施工を行うための架空送電線の表面改質システムであって、
飛行体と、前記飛行体と一体化された表面改質装置とを備え、
前記飛行体は、前記表面改質装置を上空から前記架空送電線に装着させ、
前記表面改質装置は、前記架空送電線に沿って自走しながら前記架空送電線に対する表面改質施工を行い、
前記飛行体は、前記表面改質装置を上空に持ち上げて前記架空送電線から取り外すことを特徴とする架空送電線の表面改質システム。
【請求項2】
前記飛行体は、前記架空送電線の位置を認識するための装置を備えていることを特徴とする請求項1に記載の架空送電線の表面改質システム。
【請求項3】
前記表面改質装置は、前記架空送電線の表面に付着した油を除去する脱脂装置であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の架空送電線の表面改質システム。
【請求項4】
前記表面改質装置は、前記架空送電線の表面に対して撥水施工と親水施工のいずれかを行い、又は撥水施工と親水施工のいずれも行うことが可能な表面形成装置であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の架空送電線の表面改質システム。
【請求項5】
前記表面改質装置は、前記架空送電線の表面に付着した油を除去する脱脂装置と、前記架空送電線の表面に対して撥水施工と親水施工のいずれかを行い、又は撥水施工と親水施工のいずれも行うことが可能な表面形成装置とが連結された装置であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の架空送電線の表面改質システム。
【請求項6】
前記表面改質装置は、前記架空送電線の表面に付着した油を除去する脱脂施工と、前記架空送電線の表面に対して撥水施工又は親水施工と、を行うことが可能な装置であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の架空送電線の表面改質システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線の表面改質システムに関する。
【背景技術】
【0002】
架空送電線(以下、単に送電線という場合がある。)の表面に油が付着していると、例えば降雨時に送電線に付着した雨粒が、送電線の表面で水滴になり、その水滴からコロナ放電が発生する場合がある。そして、コロナ放電が生じると、送電効率が低下したり、送電線周辺へのコロナ騒音が発生するなど、種々の障害が発生し得る。
そのため、例えば特許文献1に記載された電線洗浄機等の装置を用い、送電線に沿って自走させながら脱脂施工を行わせる等して、送電線の表面に付着した油が除去される場合がある。
【0003】
また、送電線に予め撥水処理や親水処理を施しておき、送電線に雨粒が付着した際に、それを送電線の表面で弾いて落下させてしまうか(撥水)、逆に送電線の表面上に拡がるようにし(親水)、送電線の表面に水滴ができないようにしてコロナ放電が生じないようにする処理が行われる場合もある(例えば特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭61-48325号公報
【文献】特開2002-75060号公報
【文献】特公昭61-23603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、送電線の表面に撥水処理や親水処理が施しても、鉄塔間に送電線を張る際に金車を通過させるため、金車の油分が送電線の表面に付着してしまう。そのため、撥水処理や親水処理の効果が低下する。また、送電線を張った後、時間が経てば、送電線表面の撥水効果や親水効果が劣化してしまう。
そのため、通常、送電線を張った後も、上記の脱脂施工の場合と同様に送電線に沿って自走する装置を用いる等して送電線に対する撥水施工や親水施工が行われる。
【0006】
そして、上記のような装置を用いて送電線の脱脂施工や撥水施工、親水施工等(以下、これらをまとめて表面改質施工という。)を行う場合、作業者が鉄塔に登り、装置を引き上げて送電線に装着しなければならず、作業が面倒なものになっていた。
また、作業を行う際、作業者が感電しないようにするために、送電線の送電を停止させなければならないという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、送電線が活線状態のままで、送電線に対する表面改質施工を楽にかつ的確に行うことが可能な架空送電線の表面改質システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
架空送電線に対する表面改質施工を行うための架空送電線の表面改質システムであって、
飛行体と、前記飛行体と一体化された表面改質装置とを備え、
前記飛行体は、前記表面改質装置を上空から前記架空送電線に装着させ、
前記表面改質装置は、前記架空送電線に沿って自走しながら前記架空送電線に対する表面改質施工を行い、
前記飛行体は、前記表面改質装置を上空に持ち上げて前記架空送電線から取り外すことを特徴とする。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項1に記載の架空送電線の表面改質システムにおいて、前記飛行体は、前記架空送電線の位置を認識するための装置を備えていることを特徴とする。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1又は請求項に記載の架空送電線の表面改質システムにおいて、前記表面改質装置は、前記架空送電線の表面に付着した油を除去する脱脂装置であることを特徴とする。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項1又は請求項に記載の架空送電線の表面改質システムにおいて、前記表面改質装置は、前記架空送電線の表面に対して撥水施工と親水施工のいずれかを行い、又は撥水施工と親水施工のいずれも行うことが可能な表面形成装置であることを特徴とする。
【0014】
請求項に記載の発明は、請求項1又は請求項に記載の架空送電線の表面改質システムにおいて、前記表面改質装置は、前記架空送電線の表面に付着した油を除去する脱脂装置と、前記架空送電線の表面に対して撥水施工と親水施工のいずれかを行い、又は撥水施工と親水施工のいずれも行うことが可能な表面形成装置とが連結された装置であることを特徴とする。
【0015】
請求項に記載の発明は、請求項1又は請求項に記載の架空送電線の表面改質システムにおいて、前記表面改質装置は、前記架空送電線の表面に付着した油を除去する脱脂施工と、前記架空送電線の表面に対して撥水施工又は親水施工と、を行うことが可能な装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、飛行体と表面改質装置とが連携し合いながら作業者の操作によらず自律的に送電線の表面改質施工を行うため、従来のように作業者が鉄塔に登ったり表面改質装置を引き上げたりする必要がない。そのため、送電線に対する表面改質施工を楽に行うことが可能となる。
また、飛行体や表面改質装置は自らの処理や施工を適切に行うため、送電線に対する表面改質施工を的確に行うことが可能となる。さらに、送電線に対する表面改質施工を表面改質装置が行い、作業者が鉄塔に登る等の必要がないため、送電線が活線状態のまま表面改質施工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る架空送電線の表面改質システムにおける飛行体や表面改質装置の動作を表すイメージ図である。
図2】飛行体の構成を表すブロック図である。
図3】構成例1に係る表面改質装置の構成を表すブロック図である。
図4】表面改質装置の一例を表す(A)正面図であり、(B)左側面図である。
図5】本実施形態に係る架空送電線の表面改質方法の各工程を示すフローチャートである。
図6】構成例3に係る表面改質装置の構成を表すブロック図である。
図7】構成例4に係る表面改質装置の構成を表すブロック図である。
図8】架空送電線の表面改質システムにおける一体化された装置の動作を表すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本実施形態に係る架空送電線の表面改質システム及び架空送電線の表面改質方法について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態や図示例に限定するものではない。
【0021】
[架空送電線の表面改質システムの基本構成]
本実施形態に係る、架空送電線に対する表面改質施工を行うための架空送電線の表面改質システム(以下、単に表面改質システムという場合がある。)の基本構成について説明する。図1は、表面改質システムにおける飛行体や表面改質装置の動作を表すイメージ図である。
【0022】
表面改質システム1は、飛行体2と、表面改質装置3とを備えている。そして、図1に示すように、GPS(Global Positioning System)衛星や準天頂衛星等の人工衛星40からの信号に基づいて、飛行体2が表面改質装置3を吊り下げて搬送して上空から送電線50に装着させ、表面改質装置3が送電線50に沿って自走しながら表面改質施工を行い、飛行体2が表面改質装置3を上空に持ち上げて送電線50から取り外して、次の施工対象の送電線50や次の現場等に移動する。
本実施形態では、このようにして架空送電線50に対する表面改質施工が行われるようになっている。
なお、図1において、51は鉄塔を、52は腕金を、53は碍子をそれぞれ表し、架空地線等の図示が省略されている。また、図1では図示を省略したが、送電線50は、例えば、鉄塔51の両側にそれぞれ上下3本ずつ計6本架設されている。
【0023】
[飛行体]
以下、表面改質システム1の具体的な構成について詳しく説明する。
飛行体2は、図1ではドローンである場合が示されているが、例えばヘリコプター型等であってもよい。図2は、飛行体2の構成を表すブロック図である。
飛行体2は、図2に示すように、制御部21と、メモリ22と、駆動制御部23、衛星信号受信部24、無線通信部25、センサ類26のほか、撮影装置27や、表面改質装置3と連結ための連結材28Aや連結部28B等を備えて構成されている。
【0024】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)等を備えるコンピュータで構成されており、飛行体2の全般的な制御を行うようになっている。
メモリ22は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等で構成されており、各種の制御プログラム22A等が記憶されている。また、メモリ22には、鉄塔51や送電線50等の位置(緯度、経度、標高等)の情報が割り当てられた地図情報22Bや、鉄塔51の番号や鉄塔間に張られている送電線50の種類(弛度等の情報も含む。)等の情報である番号種類情報22C等も記憶されている。
【0025】
駆動制御部23は、制御部21の制御に従って、ブレードやプロペラ等の回転翼23Aを回転させる図示しないモータ等の駆動装置を制御して飛行体2を適切に飛行させる。
衛星信号受信部24は、人工衛星40からの衛星信号を受信して制御部21に送信する。なお、制御部21は、常時あるいは適宜のタイミングで衛星信号を受信して自らの現在位置を把握するように構成される。
また、飛行体2は、表面改質装置3との間で無線通信を行うようになっており、そのための無線通信モジュール等の無線通信部25を備えている。
【0026】
また、飛行体2には、風速センサや温度センサ、日射計等のセンサ類26が取り付けられている。
さらに、後述するように、飛行体2は、その周囲(特に下方)を撮影して送電線50や表面改質装置3の位置を認識するように構成されており、飛行体2には、送電線50や表面改質装置3の位置を認識するための装置としてカメラ等の撮影装置27が取り付けられている。
【0027】
また、飛行体2は、表面改質装置3をロープ等で構成された連結材28Aで連結して吊り下げたり、表面改質装置3との連結を解除して切り離したりすることができるようになっている。そのため、飛行体2には、連結材28Aの下端に表面改質装置3との連結部28Bが設けられている。
連結部28Bは、例えば表面改質装置3と磁力で連結するための電磁石や、表面改質装置3と物理的に係合して連結するためのフックなど、表面改質装置3と確実に連結し、連結を解除することができるものであれば、どのような形態のものでも用いることができる。また、例えば電磁石のオン/オフ制御のように制御が必要な場合には、飛行体2の制御部21がその制御を行うように構成することができる。
【0028】
なお、図示を省略するが、飛行体2には、このほか、バッテリーやエンジン等の必要な装置等が搭載されている。
また、上記のように、飛行体2と表面改質装置3とを連結したり連結を解除したりすることができるように構成することも可能であるが、連結を解除せずに飛行体2と表面改質装置3とが常に連結されている状態とすることも可能である。
この場合、前述したように表面改質装置3が送電線50に沿って自走しながら表面改質施工を行う間は、飛行体2はそれと並走するように飛行するように構成される。また、例えば、飛行体2が、バッテリーの充電や、エンジン搭載型である場合には給油等のために基地に戻る際には、その度に表面改質装置3を送電線50から取り外して表面改質装置3とともに基地に戻ることになる。
【0029】
[表面改質装置]
次に、表面改質装置3について説明する。
以下では、表面改質装置3が送電線50の表面に付着した油を除去する脱脂装置である場合について説明する。表面改質装置3が、送電線50の表面に対して撥水施工や親水施工(撥水施工と親水施工をまとめて表面形成施工という。)を行う表面形成装置である場合などについては後で説明する。
また、表面改質装置3が有する機能としては、上記の脱脂や表面形成以外にも種々の形態があり、表面改質装置3が有する機能に応じて飛行体2が行うべき制御のしかた(特に後述する自走施工工程(後述する図5のステップS3)における制御のしかた)も変わってくるため、以下、いくつかの構成例に分けて説明する。
【0030】
[構成例1]
図3は、本実施形態の構成例1に係る表面改質装置3の構成を表すブロック図である。
構成例1では、表面改質装置3は、送電線50の表面改質施工を行う機能や送電線50に沿って自走する機能を有しているが、それ以外については飛行体2と無線通信しながら飛行体2の制御に従って動作するように構成されていることが想定されている。
【0031】
表面改質装置3は、図3に示すように、制御部31と、メモリ32、無線通信部33のほか、駆動輪等の車輪34や飛行体2と連結するための連結部35、表面改質施工(この場合は脱脂施工)を行うための各種の施工部36、センサ類37等を備えて構成されている。
【0032】
制御部31は、コンピュータで構成されていてもよく、専用の制御装置等で構成されていてもよい。また、制御部31は、車輪34(後述する駆動輪34A)を回転させる図示しないモータ等の駆動装置を制御して、表面改質装置3を送電線50に沿って自走させる。
メモリ32には、各種の制御プログラム32Aが記憶されている。
なお、構成例1では、メモリ32には、飛行体2で説明したような地図情報や番号種類情報等は記憶されていない。また、構成例1では、表面改質装置3は、衛星信号受信部は有していない。
【0033】
表面改質装置3は、飛行体2との間で無線通信を行うようになっており、そのための無線通信モジュール等の無線通信部33を備えている。
また、表面改質装置3には、前述した飛行体2の連結部28Bと連結する連結部35が設けられている。例えば、軽量化のために表面改質装置3がアルミニウムで形成されている場合、鉄等の強磁性体で連結部35を形成し、飛行体2の電磁石で形成された連結部28Bと磁力で連結するように構成することが可能である。
【0034】
なお、飛行体2の連結部28Bとの連結は物理的な係合によるものであってもよく、また、磁力等による連結と物理的な係合による連結等を組み合わせて連結させるように構成することも可能である。
すなわち、飛行体2と表面改質装置3とを適切に連結したり、連結を適切に解除できるものであればよく、飛行体2の連結部28Bや表面改質装置3の連結部35の構成は、特定の構成に限定されない。
【0035】
一方、表面改質装置3は、前述したように、表面改質施工(この場合は脱脂施工)を行うための各種の施工部36(後述する洗浄液3eやノズル3f、洗浄ブラシ3h等)を備えている。この施工部36を含め、表面改質装置3の一例を示して、より具体的に説明する。
図4(A)は表面改質装置3の一例を表す正面図であり、図4(B)は左側面図である。
【0036】
表面改質装置3は、3つの車輪34を備えている。このうち前方上側の車輪34Aが駆動輪とされており、図示しない電動モータの駆動により回転して表面改質装置3を送電線50に沿って自走させるようになっている。図4(A)では、表面改質装置3は図中左向きに走行する。
前方下側の車輪34Bは、アーム3aの自由端に取り付けられており、アーム3aは軸3bに揺動自在に取り付けられている。表面改質装置3を送電線50に装着する際には、アーム3aが下向きに揺動された状態とされている。
そして、表面改質装置3の前方上側の車輪34Aと後方の車輪34Cが送電線50と係合すると、制御部31は、アーム3aを上方に揺動させて車輪34Bを送電線50に下側から係合させて表面改質装置3を送電線50に装着させる。そして、このように、送電線50を駆動輪34Aと車輪34Bで上下から挟むことで、駆動輪34Aの回転駆動が送電線50に的確に伝わるようになり、表面改質装置3が送電線50に沿って滑ることなく確実に自走するようになる。
【0037】
また、表面改質装置3の本体部3c内には、液槽3dが設けられており、液槽3d内に、界面活性剤等を含む洗浄液3eが充填されている。そして、液槽3d内の洗浄液3eは図示しないポンプで上方に設けられたノズル3fに供給され、ノズル3fから送電線50に噴射される。そして、流れ落ちた洗浄液3eは受皿3gで受け止められて液槽3dに回収されるようになっている。
なお、このように洗浄液3eを送電線50に噴射するように構成する代わりに、洗浄液3eを送電線50に塗布したり、送電線50を洗浄液3eの中を潜らせるようにする等して、洗浄液3eを送電線50に付与するように構成することも可能である。
【0038】
また、表面改質装置3の本体部3c内には、洗浄ブラシ3hが、送電線50に上下及び左右から接することが可能な位置にそれぞれ配置されている。各洗浄ブラシ3hは、アーム3iの自由端に取り付けられており、アーム3iは軸3jにそれぞれ揺動自在に取り付けられている。
表面改質装置3を送電線50に装着する際には、各洗浄ブラシ3hは、装着される送電線50から離れるように配置されている。そして、表面改質装置3が送電線50に装着されると、制御部31は、各アーム3iを軸3j周りにそれぞれ揺動させて各洗浄ブラシ3hを送電線50に当接させるとともに、図示しない電動モータを駆動させて各洗浄ブラシ3hを回転させる。
【0039】
その際、各洗浄ブラシ3hは図示しないばね等で付勢されているため、送電線50に密接する。また、各洗浄ブラシ3hは、送電線50との摩擦力で従動して回転する方向とは逆方向に回転される。
そのため、洗浄液3eを噴き付けられた送電線50が、上下左右から密接する各洗浄ブラシ3hで擦られる状態になる。このようにして、表面改質装置3は送電線50に沿って自走しながら送電線50を的確に洗浄して脱脂することが可能となる。
また、図4(A)では図示を省略するが、表面改質装置3の本体部3c内には、各洗浄ブラシ3hの後方に送電線50を加熱して、洗浄後の送電線50を乾燥させるための装置が配置されている。
【0040】
また、図4(B)に示すように、表面改質装置3の本体部3cには、側面に開口部3kが設けられている。そのため、前述したように飛行体2が表面改質装置3を吊り下げて搬送して上空から送電線50に装着させる際に(図1参照)、送電線50を表面改質装置3の本体部3cの開口部3kから進入させて、表面改質装置3の前方上側の車輪34Aと後方の車輪34Cとを送電線50に的確に係合させることが可能となる。
なお、図4(B)では、前方下側の車輪34B等の図示が省略されている。また、開口部3kには、制御部31の制御により開閉するカバー3lが設けられており、表面改質装置3の不使用時等には開口部3kは、カバー3lで被覆されるようになっている。
【0041】
そして、表面改質装置3には、前方上側の車輪34Aや後方の車輪34Cと送電線50との係合を検知するセンサや、液槽3d内の洗浄液3eの液量を検知するセンサや、カバー3lの開閉を検知するセンサ等のセンサ類37(図3参照)が配置されており、表面改質装置3の制御部31は、それらのセンサ類37からの情報に基づいて表面改質装置3の状態等を把握するようになっている。
【0042】
[飛行体と表面改質装置の動作及び架空送電線の表面改質方法]
次に、構成例1に係る送電線表面改質システム1における飛行体2と表面改質装置3の動作について説明する。また、架空送電線に対する表面改質施工を行うための架空送電線の表面改質方法についてもあわせて説明する。
架空送電線の表面改質方法には、図5に示す各工程が含まれており、その流れに従って説明する。
【0043】
なお、自走施工工程(ステップS3)における表面改質装置3等の動作が、構成例ごとに異なるが、自走施工工程(ステップS3)以外の各工程は、各構成例で基本的に共通している。
また、前述したように、飛行体2と表面改質装置3とが連結を解除せず、常に連結された状態で施工を行う場合には、図5の連結解除工程(ステップS2)と連結工程(ステップS4)は行われない。
【0044】
[装置装着工程]
装置装着工程(ステップS1)は、送電線50に対する表面改質施工を行うために、飛行体2が、搬送してきた表面改質装置3を上空から送電線50に装着させる工程である。
この工程では、まず、作業現場付近の基地(例えば飛行体2と表面改質装置3を運んできた車両等)で作業者らにより飛行体2の連結部28Bと表面改質装置3の連結部35とが連結される。また、作業者らにより、飛行体2に、施工を行う対象の送電線50の情報(例えば送電線50の両端を支持する各鉄塔51の番号等。さらに詳しくは1号線、2号線、上相、中相、下相等)を入力する。なお、これらの処理を事前に行っておいてもよい。
【0045】
飛行体2の制御部21は、メモリ22から番号種類情報22Cを読み出して、入力された施工対象の送電線50の種類を認識する。また、メモリ22から地図情報22Bを読み出して、衛星信号受信部24が受信した人工衛星40からのGPS信号等の衛星信号に基づいて自らの現在位置を割り出すとともに、施工対象の送電線50の位置を認識する。
そして、制御部21は、駆動制御部23を制御して回転翼23Aを回転させて、飛行体2を、表面改質装置3を吊り下げた状態で、施工対象の送電線50の端部を支持する鉄塔51の近傍(鉄塔51には触れない位置)まで飛行させる。このようにして飛行体2は施工対象の送電線50の上空に表面改質装置3を搬送する(図1参照)。
【0046】
なお、作業者が目視しながら飛行体2を送電線50の上空まで飛行させるように構成することも可能である。また、以下の各工程においても、作業者が適宜、飛行体2や表面改質装置3をコントロールすることができるように構成してもよい。
また、例えば、中相や下相の送電線50の上空に飛行体2を飛行させる際、その上方には上相や中相の送電線50が存在するが、各相の送電線50の間隔は十分にあるため、飛行体2や表面改質装置3を小型に形成したり、飛行体2の連結材28Aが長くなり過ぎないように構成すること、及び送電線50に水平方向から接近することにより、送電線50の上空を飛行する飛行体2がその上側の送電線50に触れたり衝突したり、絶縁離隔を保てなくなることはない。
さらに、中相や下相の送電線50に施工する場合、あらかじめ設定された上相の送電線50までの距離情報に基づいて、飛行体2が当該上相の送電線50への接触を回避するような制御を行ってもよい。
【0047】
そして、飛行体2の制御部21は、衛星信号に基づいて割り出した自らの現在位置と標高や、風速センサが測定した風速、温度センサや日射計の計測値から算出される気温に基づく送電線50の弛度、番号種類情報22Cから割り出した施工対象の送電線50の種類(低風圧電線であるか否か等)などに基づいて送電線50の3次元的な位置を算出する。そして、その位置を撮影装置27で撮影する。
なお、送電線50が低風圧電線(低風音低風圧電線の場合を含む。)である場合、同じ風速であっても受ける風圧が少なくなって、他の送電線50に比べて送電線50の変位(揺れ)が少なくなる。このような場合を想定して、風速に基づいて送電線50の位置を算出する場合は、風速に対する送電線50の変位を表す係数(抗力係数)が送電線50の種類により異なる値を用いて算出を行うようにしてもよい。これにより、送電線50が低風圧電線である場合は、より小さな抗力係数が設定され風速に対する送電線50の変位が少ないものとして制御を行い、風速変動に対する飛行体2の制御を一般的な送電線の場合に比べて安定させて、表面改質装置3の装着をより一層確実にできるという特徴を有する。
【0048】
一方、制御部21は、飛行体2と送電線50の3次元的な各位置に基づいて飛行体2(撮影装置27)と送電線50との距離を算出する。そして、その距離に基づいて、送電線50との距離が当該距離である場合に撮影画像中に送電線50がどのような太さ(画素数)で撮影されるかを算出する。そして、撮影装置27が撮影した画像を画像解析して、その画像中からその太さ(画素数)に合致する直線状の像(すなわち送電線50の像)を抽出して、送電線50の実際の位置を認識する。
なお、撮影装置27で撮影した画像に基づく送電線50の位置認識は、上記のようにして算出した位置の確認のためであるため、必ずしも撮影による位置認識を行う必要はなく、上記のように算出した位置に基づいて以下の表面改質装置3の送電線50への装着動作を行うように構成することも可能である。
【0049】
そして、飛行体2の制御部21は、搬送してきた表面改質装置3の制御部31に無線通信して、開口部3kのカバー3lを開放させるなど、送電線50への装着に向けて準備をさせる。
そして、飛行体2を下降させる等して移動させて、上記のようにして位置を算出したり位置認識したりした送電線50が表面改質装置3の開口部3kから進入して表面改質装置3の前方上側の車輪34Aと後方の車輪34Cと係合するように表面改質装置3を移動させる。
【0050】
そして、表面改質装置3の前方上側の車輪34Aと後方の車輪34Cが送電線50と係合すると、表面改質装置3の制御部31は、飛行体2に対して送電線50に装着されたことを示す信号を送信する。
そして、制御部31は、アーム3aを上方に揺動させて車輪34Bを送電線50に下側から係合させたり、各洗浄ブラシ3hを送電線50に密接させる等して、表面改質施工に向けて態勢を整える。また、それとともにカバー3lを閉じて開口部3kを被覆させて、万が一車輪34と送電線50との係合が外れた場合でも、送電線50が開口部3kを通り抜けて表面改質装置3が送電線50から落下する等の事故が生じることを防止する。
装置装着工程(ステップS1)では、このようにして表面改質装置3を送電線50に装着させるようになっている。
【0051】
[連結解除工程]
以上のようにして装置装着工程(ステップS1)が行われ、飛行体2が表面改質装置3を上空から送電線50に装着させると、続いて、飛行体2と表面改質装置3との連結を解除する連結解除工程(ステップS2)が行われる。
この工程は、飛行体2の連結部28Bと表面改質装置3の連結部35との連結を解除して表面改質装置3を飛行体2から切り離す工程である。
飛行体2が単独で連結部28B、35の連結を解除するか、あるいは表面改質装置3が単独で解除するか、あるいは飛行体2と表面改質装置3が協働して解除するかは、飛行体2の連結部28Bや表面改質装置3の連結部35の構成によって決まる。
【0052】
例えば、飛行体2の連結部28Bが電磁石を有しており、さらに表面改質装置3の連結部35が飛行体2の連結部28Bと係合するフックを有していて、連結部28B、35が磁力と物理的な係合の両方で係合している場合、表面改質装置3は、飛行体2から連結解除信号を受信すると、フックを解除して連結部28B、35の物理的な係合を解除する。そして、飛行体2にフックを解除したことを示す信号を送信する。
そして、飛行体2は、その信号を受信すると、電磁石を停止させて連結部28B、35の磁着を解除する。そして、表面改質装置3に連結の解除が完了したことを示す信号を送信する。
この場合は、このようにして飛行体2と表面改質装置3とが協働して連結部28B、35の連結を解除することで、表面改質装置3が飛行体2から切り離される。
連結解除工程(ステップS2)では、このようにして飛行体2と表面改質装置3との連結が解除されるようになっている。
【0053】
[自走施工工程]
以上のようにして連結解除工程(ステップS2)が行われると、続いて、表面改質装置3が、送電線50に沿って自走しながら送電線50に対する表面改質施工(この場合は脱脂施工)を行う自走施工工程(ステップS3)が行われる。
なお、表面改質装置3による送電線50に沿った自走や、洗浄液3eの付与、洗浄、乾燥等については上記で説明したため、ここでは説明を省略する。また、表面改質装置3は、飛行体2から自走や施工の開始を指示する信号(以下、作業開始信号という。)を受信すると、自走や表面改質施工を開始する。
【0054】
構成例1では、前述したように、表面改質装置3は、送電線50の表面改質施工を行う機能や送電線50に沿って自走する機能を有しているが、それ以外の機能は有していない。
そのため、構成例1では、表面改質装置3は送電線50に沿って自走しながら送電線50の表面改質施工を行うが、自走や表面改質施工をどのタイミングで終了すればよいか分からない。そこで、構成例1では、飛行体2が、表面改質装置3が自走や表面改質施工を終了するタイミング等を判断し、表面改質装置3に自走及び表面改質施工(以下、自走及び表面改質施工を作業という。)の終了を指示してそれらを終了させるように構成される。そして、これを実現するための方法には、いくつかの方法があり得る。
【0055】
[方法1]
例えば、飛行体2の制御部21が、番号種類情報22C、特に送電線50の長さ(すなわち当該送電線50の両端を支持する各鉄塔51の距離)に基づいて表面改質装置3が自走すべき距離を算出し、表面改質装置3の速度から表面改質装置3が作業終了地点に到達するまでの時間を算出する。
そして、飛行体2は、表面改質装置3に作業開始信号を送信すると、送信後の経過時間を計測し、上記の算出した時間が経過した時点(すなわち表面改質装置3が作業終了地点に到達した時点)で表面改質装置3に作業を終了することを指示する信号(以下、作業終了信号という。)を送信して作業を終了させるように構成することが可能である。
なお、この場合、飛行体2は、表面改質装置3と無線通信可能な位置にいればよく、必ずしも表面改質装置3と並走するように飛行する必要はない。
【0056】
[方法2]
一方、飛行体2の制御部21は、地図情報22Bに基づいて表面改質装置3の作業終了地点を割り出し、表面改質装置3に作業開始信号を送信した後、撮影装置27で表面改質装置3を撮影して、表面改質装置3を追跡するように構成することも可能である。
この場合も、飛行体2は、撮影装置27が撮影した画像を画像解析して、その画像中から表面改質装置3を抽出して表面改質装置3の位置を認識しながら追跡していく。そのため、この場合は、飛行体2は、表面改質装置3と所定の距離をとりながら表面改質装置3と並走するように飛行することになる。
そして、飛行体2は、表面改質装置3が作業終了地点に到達した時点で表面改質装置3に作業終了信号を送信して作業を終了させるように構成することが可能である。
【0057】
なお、上記以外の方法で、表面改質装置3が作業終了地点に到達した時点で飛行体2が表面改質装置3に作業終了信号を送信して作業を終了させるように構成することも可能である。
また、この構成例1では、例えば、飛行体2のバッテリーの充電や給油等のために基地に戻る等して、表面改質装置3や送電線50の近傍から離れる場合は、表面改質装置3の作業を中断して送電線50上で自走を停止させ、飛行体2が表面改質装置3や送電線50の近傍に戻った時点で表面改質装置3に作業を再開させるように構成される。
さらに、表面改質装置3における自走の停止と表面改質施工の停止は必ずしも同時である必要はなく、それらのタイミングは適宜決められる。
【0058】
構成例1の自走施工工程(ステップS3)では、以上のようにして、飛行体2からの作業開始信号に従って表面改質装置3が送電線5に沿って自走しながら表面改質施工を行い、飛行体2が表面改質装置3に作業終了信号を送信して表面改質装置3に作業を終了させるように構成される。
【0059】
[連結工程]
以上のようにして自走施工工程(ステップS3)が行われ、表面改質装置3による作業すなわち自走及び送電線50に対する表面改質施工が終了すると、続いて、飛行体2と表面改質装置3とを連結する連結工程(ステップS4)が行われる。
この場合、飛行体2は、作業終了地点に向けて飛行してその上空でホバリングし、撮影装置27で下方を撮影して上記と同様にして表面改質装置3の位置を認識する。なお、その際、表面改質装置3の位置が認識できない場合(例えば上記の[方法1]の場合に表面改質装置3が作業終了地点に到達していないような場合)は、飛行体2は表面改質装置3と無線通信を行いながら表面改質装置3を探す等の処理を行うことになる。
【0060】
連結工程では、上記の連結解除工程の場合と同様に、飛行体2が単独で飛行体2の連結部28Bと表面改質装置3の連結部35を連結するか、あるいは表面改質装置3が単独で連結するか、あるいは飛行体2と表面改質装置3が協働して連結するかは、飛行体2の連結部28Bや表面改質装置3の連結部35の構成によって決まる。
【0061】
例えば、上記の連結解除工程で例示した構成(すなわち飛行体2の連結部28Bが電磁石を有しており表面改質装置3の連結部35がフックを有している構成)の場合には、飛行体2は、電磁石を起動させて連結部28Bを表面改質装置3の連結部35に磁着させて、表面改質装置3に連結信号を送信する。
そして、表面改質装置3は、連結信号を受信すると、フックを飛行体2の連結部28Bに物理的に係合させて、飛行体2に連結が完了したことを示す信号を送信する。
この場合は、このようにして飛行体2と表面改質装置3とが協働して連結部28B、35を連結することで、表面改質装置3が飛行体2に連結される。
連結工程(ステップS4)では、このようにして飛行体2と表面改質装置3とが連結されるようになっている。
【0062】
[装置取り外し工程]
以上のようにして連結工程(ステップS4)が行われると、続いて、飛行体2が表面改質装置3を上空に持ち上げて送電線50から取り外す装置取り外し工程(ステップS5)が行われる。
【0063】
装置取り外し工程では、飛行体2は、表面改質装置3に無線通信して、各洗浄ブラシ3hを送電線50から遠ざけたり、開口部3kのカバー3lを開放させたり、車輪34Bを送電線50から離させるなど、送電線50からの取り外しに向けて準備をさせる。
そして、表面改質装置3を吊り上げながら、表面改質装置3の車輪34A、34Cを送電線50から外すとともに、送電線50が表面改質装置3の開口部3kを通って外に出て行くように表面改質装置3を移動させる。
【0064】
なお、その際、表面改質装置3が、送電線50が開口部3kから外に出たことを検知してそれを飛行体2に知らせるように構成してもよく、また、飛行体2が例えば撮影装置27で撮影してそれを認識するように構成することも可能である。
そして、飛行体2は、送電線50が表面改質装置3の開口部3kから外に出ると、表面改質装置3にカバー3lを閉じさせる。
【0065】
装置取り外し工程(ステップS5)では、このようにして表面改質装置3が送電線50から取り外されるようになっている。
この後、飛行体2は、次に表面改質施工を行うべき送電線50があれば、再び装置装着工程(ステップS1)からの各工程を行う。また、飛行体2は、全ての作業を終えると、自動的に(又は作業者の操作によって)基地に戻るように構成される。
【0066】
以上のように、構成例1に係る架空送電線の表面改質システム1や架空送電線の表面改質方法によれば、飛行体2と表面改質装置3とが連携し合いながら作業者の操作によらず自律的に送電線50の表面改質施工を行う。そのため、従来のように作業者が鉄塔51に登ったり表面改質装置3を引き上げたりする必要がないため、送電線50に対する表面改質施工を楽に行うことが可能となる。
【0067】
また、飛行体2や表面改質装置3は上記のように自らの処理や施工を適切に行うため、送電線50に対する表面改質施工を的確に行うことが可能となる。
さらに、上記のように、送電線50に対する表面改質施工を表面改質装置3が行い、作業者が鉄塔51に登る等の必要がないため、施工対象の送電線50に対する送電を継続したまま、すなわち送電線50が活線状態のまま、当該送電線50に対する表面改質施工を行うことが可能となる。
【0068】
[構成例2]
上記の構成例1では、表面改質装置3が、送電線50の表面改質施工を行う機能や送電線50に沿って自走する機能のみを有している場合について説明したが、構成例2では、さらに、自走した距離を計測する機能を有している場合について説明する。
この場合、表面改質装置3の制御部31は、例えば車輪34の回転数を計測する等して送電線50に沿って自走した距離を計測するように構成される。
【0069】
表面改質装置3がこのように構成されていると、表面改質装置3は、送電線50に沿って走行すべき距離さえ与えられれば、その距離を自走して自ら作業を終了することができる。そのため、自走施工工程(ステップS3)における飛行体2や表面改質装置3の処理が、構成例1とは異なるものになる。
以下、具体的に説明する。
【0070】
連結解除工程(ステップS2)で飛行体2と表面改質装置3との連結が解除されると、地図情報22Bや番号種類情報22C等に基づいて表面改質装置3の現在位置から作業終了地点までの距離を算出する。
そして、飛行体2は表面改質装置3に作業開始信号を送信するとともに、算出した距離の情報も送信する。
【0071】
表面改質装置3は、飛行体2から上記の信号と情報を受信すると、自走や表面改質施工を開始する。そして、送電線50に沿って自走と表面改質施工を行いながら送電線50に沿って自走した距離を計測する。
そして、指定された距離だけ自走すると、表面改質装置3は自走と表面改質施工を停止して作業を終了する。そして、飛行体2に連結を要求する信号(以下、連結要求信号という。)を送信してその場で待機するように構成することができる。
この後は、前述した連結工程(ステップS4)に移行する。
【0072】
以上のように、構成例2に係る架空送電線の表面改質システム1や架空送電線の表面改質方法によれば、第1の実施形態の場合と全く同様の有益な作用効果を得ることができる。
また、構成例2では、表面改質装置3は、指定された距離だけ自走すると停止して待機する。そのため、飛行体2は、表面改質装置3と無線通信可能な位置にいればよく、必ずしも表面改質装置3と並走するように飛行する必要はない。また、表面改質装置3が作業を行っている間に、飛行体2は、バッテリーの充電や給油等のために基地に戻る等の別の作業を行うことが可能となり、システム全体としての作業効率を向上させることが可能となる。
【0073】
[構成例3]
上記の構成例2では、表面改質装置3が、送電線50の表面改質施工を行う機能や送電線50に沿って自走する機能のほか、自走した距離を計測する機能を有している場合について説明したが、構成例3では、さらに、図6に示すように、表面改質装置3が番号種類情報32B(飛行体2が有する番号種類情報22Cと同じ。)を有している場合について場合について説明する。
【0074】
この場合は、表面改質装置3は、飛行体2や作業者から施工対象の送電線50の情報を入手すると、自らのメモリ32に記憶されている番号種類情報32Bに基づいて作業を行う送電線50の情報を得ることができる。
そして、連結解除工程(ステップS2)で飛行体2と表面改質装置3との連結が解除された時点で、飛行体2から表面改質装置3の現在位置の情報が送られてくると、表面改質装置3が自ら現在位置から作業終了地点までの距離を算出する。
【0075】
そのため、構成例3では、構成例2のように飛行体2が表面改質装置3の現在位置から作業終了地点までの距離を算出する必要がなくなる。
そのため、構成例3に係る架空送電線の表面改質システム1や架空送電線の表面改質方法によれば、構成例1や構成例2の場合と全く同様の有益な作用効果を得ることが可能となるとともに、飛行体2における処理の負担を軽減して作業効率を向上させることが可能となる。
【0076】
[構成例4]
また、図7に示すように、表面改質装置3が、さらに、飛行体2と同様に衛星信号受信部38や地図情報32Cを有するように構成することも可能である。
このように構成すれば、飛行体2だけでなく表面改質装置3も人工衛星40からの衛星信号と地図情報32Cに基づいて自らの現在位置を把握しながら作業を行うことが可能となるため、飛行体2と表面改質装置3とが連携をとりながら(無線通信を行いながら)、互いに自律的に動作して自らの処理を行うように構成することが可能となる。
【0077】
そして、構成例4に係る架空送電線の表面改質システム1や架空送電線の表面改質方法によれば、構成例1~3の場合と全く同様の有益な作用効果を得ることが可能となる。
また、それとともに、飛行体2と表面改質装置3とが効率的に連携し合いながらそれぞれ自律的に作業を行うことが可能となるため、システム全体の作業効率をさらに向上させることが可能となる。
【0078】
[変形例1:表面改質装置が表面形成装置である場合]
なお、上記の構成例1~4では、表面改質装置3が送電線50の表面に付着した油を除去する脱脂装置である場合について説明したが、表面改質装置3が、送電線50の表面に対して撥水施工や親水施工を行う表面形成装置である場合にも適用することができる。
この場合、表面改質装置3が、撥水施工と親水施工のいずれか一方のみを行うように構成されていてもよく、また、撥水施工と親水施工のいずれも行うことができるように構成されていてもよい。
【0079】
図4に示した表面改質装置3の構成は、撥水施工や親水施工を行うことができるように必要に応じて適宜変更される。
また、撥水施工と親水施工のいずれも行うことができるように構成する場合は、例えば液槽3dを少なくとも2つ設けて撥水処理液と親水処理液とを別々に収容することができるようにするとともに、撥水処理液と親水処理液とが混ざらないようにするための構成が適宜用意される。
【0080】
なお、送電線50の表面に対して撥水施工や親水施工を行う際、送電線50の表面に油が付着している場合、油を除去してから撥水施工や親水施工(すなわち表面形成施工)を行わないと、所定の撥水効果や親水効果が得られない場合がある。
そのため、例えば、作業現場に、飛行体2と、脱脂装置としての表面改質装置3(以下、脱脂装置3という。)と、表面形成装置としての表面改質装置3(以下、表面形成装置3という。)とをそれぞれ持ち込み、施工対象の送電線50に対して、まず、飛行体2で脱脂装置3を搬送して装着して当該送電線50の脱脂施工を行わせて脱脂装置3を取り外し、続いて、飛行体2で表面形成装置3を搬送して装着して当該送電線50の表面形成施工を行わせるように構成することが可能である。
【0081】
[変形例2-1:脱脂装置と表面形成装置を連結して用いる場合]
また、上記のように脱脂装置3と表面形成装置3とを1台ずつ別々に搬送して作業を行わせる代わりに、脱脂装置3と表面改質装置3とを予め連結して1台の表面改質装置3としておき、それを搬送して送電線50に装着するように構成することも可能である。
すなわち、表面改質装置3を、送電線50の表面に付着した油を除去する脱脂装置と、送電線50の表面に対して撥水施工と親水施工のいずれかを行い又は撥水施工と親水施工のいずれも行うことが可能な表面形成装置3とが連結された装置として構成することが可能である。
【0082】
[変形例2-2:1台の表面改質装置で脱脂施工と表面形成施工を行う場合]
また、1台の表面改質装置3で、送電線50の表面に対する脱脂施工と表面形成施工(撥水施工又は親水施工)とを行うことができるように構成することも可能である。
【0083】
そして、表面改質装置3を上記の変形例2-1や変形例2-2のように形成し、飛行体2で吊り下げて搬送して送電線50に装着すれば、送電線50の表面に付着した油を除去(脱脂)して、送電線50の表面に対して撥水施工や親水施工を行うことが可能となり、送電線50に対する撥水施工や親水施工が的確に行われて、所定の撥水効果や親水効果を得ることが可能となる。
また、飛行体2による装置の搬送や送電線50への装着が1回で済むため、送電線50の表面改質施工を効率よく行うことが可能となる。
【0084】
なお、上記の実施形態や各構成例等では、飛行体2が表面改質装置3を吊り下げて搬送する場合について説明したが、このような吊り下げる構成に限定されない。例えば、飛行体2と表面改質装置3とが合体して一体化したり分離したりするようにして連結と連結解除を行うように構成することも可能である。
【0085】
また、図8に示すように、飛行体2と表面改質装置3とを一体化された装置20として構成することも可能である。
上記の実施形態と関連させて説明すれば、この構成は、上記の実施形態での飛行体2の説明の中で例示した、飛行体2と表面改質装置3とが常に連結されている場合に対応するものであり、飛行体2と表面改質装置3とを連結材28Aや連結部28B、35で連結する代わりにそれらを一体化させた場合に相当する。
【0086】
そして、このように飛行体2と表面改質装置3とを一体化された装置20として構成しても、上記の実施形態の場合と全く同様の有益な作用効果を得ることができる。
すなわち、一体化された装置20が、作業者の操作によらず自律的に送電線50の表面改質施工を行う。そのため、従来のように作業者が鉄塔51に登ったり表面改質装置3を引き上げたりする必要がないため、送電線50に対する表面改質施工を楽に行うことが可能となる。また、装置20が自らの処理や施工を適切に行うため、送電線50に対する表面改質施工を的確に行うことが可能となる。
さらに、送電線50に対する表面改質施工をこの装置20が行い、作業者が鉄塔51に登る等の必要がないため、施工対象の送電線50に送電を継続したまま、すなわち送電線50が活線状態のまま、当該送電線50に対する表面改質施工を行うことが可能となる。
【0087】
また、飛行体2と表面改質装置3とを装置20に一体化することで、以下のような有益な作用効果を得ることができる。
すなわち、飛行体2と表面改質装置3が別体の場合には、それぞれに制御部21、31が必要であったが、装置20に一体化することで、制御部を1つにまとめることが可能となる。
また、装置20のうち飛行を受け持つ制御部(飛行体2の制御部21に相当)と表面改質を受け持つ制御部(表面改質装置3の制御部31に相当)を個々に有するように構成する場合でも、それらを有線(ケーブルやハーネス等)で接続することができるため、無線通信部25、33が不要になるといったメリットがある。
【0088】
また、飛行体2と表面改質装置3とを装置20に一体化することで、メモリや制御プログラム等も別々に持つ必要がなくなる。
そのため、装置20で飛行や送電線50の表面改質を行う際の制御構成を、より簡素にすることが可能となる。
【0089】
また、飛行体2と表面改質装置3とを装置20に一体化することで、連結材28Aや連結部28A、35が不要になる。そのため、装置20の軽量化を図ることが可能となる。
なお、飛行体2と表面改質装置3とを装置20に一体化する場合でも、装置20を例えば手動で飛行体2と表面改質装置3とに分離できるように構成することも可能である。
【0090】
さらに、飛行体2と表面改質装置3とを装置20に一体化する場合、装置20が送電線50に装着した後、回転翼23Aを回転させるモータ等を停止させたりアイドル状態にさせるように構成することも可能となる。
このように構成すれば、装置20の電力消費や燃料消費の軽減を図ることが可能となる。
【0091】
なお、本発明が上記の実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0092】
1 架空送電線の表面改質システム
2 飛行体
3 表面改質装置
20 一体化された装置
27 撮影装置(認識するための装置)
50 送電線(架空送電線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8