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特許7019584芽胞形成細菌の培養方法および有用物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】芽胞形成細菌の培養方法および有用物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220207BHJP
   C12P 21/04 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12P21/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018543985
(86)(22)【出願日】2017-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2017036433
(87)【国際公開番号】W WO2018066686
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2016199429
(32)【優先日】2016-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 康行
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-129778(JP,A)
【文献】特開2002-176993(JP,A)
【文献】MONTEIRO S.M.S. et al.,Advances in Microbiology,2014年,4,p.444-454
【文献】BASALP A. et al.,CURRENT MICROBIOLOGY,1992年,Vol.24,pp.129-135
【文献】OCHI K. et al.,Journal of General Microbiology,1983年,129,p.3709-3720
【文献】TAKAHASHI I. et al.,Can. J. Microbiol.,1982年,vol.28,p.80-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1~0.3ppmのリンコマイシン及び0.1~0.2ppmのエリスロマイシンから選択される芽胞形成阻害物質を培地中に添加してバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)40~80時間培養する工程を含むバチルス・ズブチリスの培養方法であって
、前記培地は炭素含量が9.1g/L以上であることを特徴とする、バチルス・ズブチリスの培養方法。
【請求項2】
5.0~10.0ppmのリンコマイシン、2.0ppmのクロラムフェニコール及び0.05ppmのエリスロマイシンから選択される芽胞形成阻害物質を培地中に添加してバチルス・チューリン ジェンシス(Bacillus thuringiensis)40~80時間培養する
工程を含むバチルス・チューリンジェンシスの培養方法であって、前記培地は炭素含量が9.1g/L以上であることを特徴とする、バチルス・チューリンジェンシスの培養方法。
【請求項3】
0.3~0.5ppmのリンコマイシンを炭素含量が9.1g/L以上である培地中に添加してバチルス・ズブチリスを5~70時間培養した後に、前記培地に乳酸アンモニウム及び酢酸アンモニウムからなる群より選ばれる芽胞形成促進物質を2000~4000ppmの濃度で添加してさらに培養する工程を含む、バチルス・ズブチリスの培養方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の培養方法を用いて、有用物質を生成させることを特徴とする、有用物質の製造方法。
【請求項5】
前記有用物質が前記バチルス属細菌の芽胞である、請求項に記載の有用物質の製造方法。
【請求項6】
前記有用物質が前記バチルス属細菌の代謝物である、請求項に記載の有用物質の製造方法。
【請求項7】
前記代謝物が環状リポペプチドである、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記環状リポペプチドが、イツリン、サーファクチン、プリパスタチン、フェンジシン、バシロマイシン、リチェニシン、クルスタキン、マイコサブチリン、コリスチン、フザリシジン、パエニバクテリン、ポリミキシンおよびピュミラシジンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芽胞形成細菌の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス属等の芽胞形成細菌は、酵素や有用物質の生産、発酵食品の生産、有機物の分解、整腸剤、微生物農薬や微生物肥料等、種々の分野に利用されている。
整腸剤や微生物農薬、微生物肥料として芽胞形成細菌を利用する際、生きた菌体を有効成分として製品に加える必要があるが、耐久力に優れた芽胞状態の菌体を利用するのが一般的である。そのため、芽胞をより高効率に生産する方法が求められている。
芽胞形成細菌は、増殖に適した環境に置かれることで増殖し、芽胞形成に適した環境に置かれることで栄養細胞中に芽胞を形成する。芽胞の数がもともとの栄養細胞の数を上回ることはありえないため、芽胞の生産性向上には、栄養細胞の培養生産性の向上と、栄養細胞からの芽胞形成率の向上という、少なくとも2つの側面が存在する。
増殖に適した環境とはすなわち、その菌株にとって、増殖に必要な栄養成分が十分あり、水分量、浸透圧、温度、pH、酸素濃度等が増殖可能な範囲内である。
また酵素や有用物質の生産においては、目的となる代謝物をより高効率に生産する方法が求められている。酵素や有用物質の生産性向上には、目的となる物質を高生産する代謝状態への誘導と、その状態を長時間維持するという、少なくとも2つの側面が存在する。
従来、栄養細胞の培養生産性向上や代謝物を高生産する代謝状態の維持は、上述のような各種条件の最適化、とりわけ培地組成の改良とその濃度の向上によって達成されてきた。
【0003】
バチルス属細菌の芽胞高生産技術に関して、たとえば非特許文献1~3に例示するように多数の報告がなされているが、いずれも培地の組成や濃度を改良するという手法を用いている。これらのうち非特許文献3は、最も高い生産性を報告しているものの一つであるが、この文献によると、培地1Lあたりに使用される糖の量は約100g/L(流加分含む)であり、非常に高濃度の糖を含む培地を使用している。しかし、これ以上濃度を上げていくと、酸素要求量の増大に培養装置の酸素供給能力が追い付かなくなったり、栄養成分が培地中に長期間残留するため芽胞形成率が低下したり、培養に要する時間が長期化する等の弊害が生じる。また糖等の栄養成分自体が、高濃度となることで増殖阻害作用を示す恐れがある。さらに、培養中の栄養細胞濃度が向上すると、自身の濃度を検知して代謝を切り替える機構「クオラムセンシング」によって芽胞形成誘導がかかるため、栄養成分をいくら濃くしてもある一定レベル以上には栄養細胞が増殖しないような現象が生じうる。
以上のように、培地中に添加する栄養成分の濃度を濃くして培養生産性を上げる従来の手法には、限界があった。
【0004】
一方、特許文献1において、栄養細胞の増殖後に溶存酸素濃度を低下させることで芽胞形成させる方法が示されている。また特許文献2において、炭素源を消費し尽したのちに長時間培養を継続することで芽胞形成させる方法が示されている。さらに特許文献3において、培養液のリン酸塩濃度の範囲および培養条件として酸素供給量、撹拌速度の範囲を規定することで芽胞を生産する方法が示されている。しかし、これらの技術はいずれも栄養細胞が芽胞形成する際に適した条件を与えるものであり、抜本的に芽胞の生産性を向上させるために必須な「栄養細胞の高濃度増殖」には寄与しないものであった。
また非特許文献4において、増殖阻害濃度より低濃度の抗生物質を使用してバチルス属細菌培養中の芽胞化を抑制しうること、そこにデコイニンを加えることで芽胞化の抑制効果を打ち消しうることが示されている。しかし非特許文献4で使用された低濃度の培地(グルコース濃度1%、培地中の炭素含量4.0g/L)においては、添加する抗生物質の濃度依存的に、形成される芽胞の濃度が低下することが示されており、芽胞の高生産に寄与しうる技術とは言えなかった。
バチルス属細菌による有用物質生産技術に関して、たとえば特許文献4~5に例示するように複数の報告がなされているが、いずれも培地組成や培養条件を改良するという手法が記載されている。しかし前述のように酸素要求量の増大、栄養成分による増殖阻害、クオラムセンシングによる芽胞形成誘導などのため、培地成分の濃度を濃くして培養生産性を上げる手法には限界があった。
また同特許文献には、形質転換体や突然変異によって目的の代謝物を高生産する菌株を取得する方法が記載されているが、野生型株の遺伝的形質を変化させることになるため、その他の有用な性質が失われたり弱まったりする可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-236286号公報
【文献】特開2000-217567号公報
【文献】特開2007-195542号公報
【文献】特許第3635638号
【文献】特許第4338080号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Biotechnology progress 2005, 21, 4, 1026-1031
【文献】Curr Microbiol 2013,66,279-285
【文献】Advances in Microbiology 2014, 4, 444-454
【文献】Journal of General Microbiology 1983, 129, 3709-3720
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、培地濃度の向上によって芽胞形成細菌の芽胞生産性や代謝物などの有用物質の生産性を高めるという従来の手法には限界があるため、本発明では、新たなアプローチで培養中の栄養細胞増殖効率を向上させることで、効率的に芽胞や代謝物などの有用物質を生産できる新規な培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、炭素源を高濃度で含む培地を用い、芽胞形成阻害物質の存在下で栄養細胞を増殖させ、その後、芽胞形成を誘導することで、芽胞形成阻害物質を添加しなかった場合に比べて大幅に芽胞や代謝物などの有用物質の生産性を向上させられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は以下のとおりである。
[1] 芽胞形成阻害物質を培地中に添加して芽胞形成細菌を培養する工程を含む芽胞形成細菌の培養方法であって、前記培地は炭素含量が9.1g/L以上であることを特徴とする、芽胞形成細菌の培養方法。
[2]前記芽胞形成阻害物質が酵素阻害剤である、[1]に記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[3]前記芽胞形成阻害物質がリンコマイシン、エリスロマイシン、リファンピシン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カフェイン、コーヒー酸、アクチノマイシン、フシジン酸、リピアマイシン、ピューロマイシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、チオストレプトンからなる群より選ばれる1種類以上である、[1]または[2]に記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[4]前記芽胞形成阻害物質の濃度が前記芽胞形成細菌に対する増殖阻害濃度以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[5]前記芽胞形成阻害物質の濃度が15ppm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[6]前記培地に芽胞形成促進物質を添加する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[7]前記芽胞形成促進物質を培養開始から5~70時間後に培地中に添加する、[6]に記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[8]前記芽胞形成促進物質が、核酸塩基類縁体、有機酸、アミノ酸、アンモニウム化合物、硝酸化合物、亜硝酸化合物またはミネラルである、[6]または[7]に記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[9]前記芽胞形成促進物質がデコイニン、ミゾリビン、マイコフェノール、6-アザウラシル、乳酸とその塩、酢酸とその塩、酪酸とその塩、マンガン、アンモニウム、カルシウム、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、乳酸アンモニウム、酢酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種類以上である、[6]~[8]のいずれかに記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[10]前記芽胞形成促進物質が10~10,000ppmの濃度で培地に添加される、[6]~[9]のいずれかに記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[11]前記芽胞形成細菌がバチルス属細菌である、[1]~[10]のいずれかに記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[12]バチルス属細菌がバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・シンプレックス(Bacillus simplex)、バチルス レンタス(Bacillus lentus)、バチルス ラテロスポルス(Bacillus laterosporus)、バチルス アルベイ(Bacillus alvei)、バチルス・ポピリエ(Bacillus popilliae)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alcalophilus)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バチルス・サイアメンシス(Bacillus siamensis)、バチルス ロータス(Bacillus lautus)、バチルス クラウジイ(Bacillus clausii)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・チューリンジェンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・ファーマス(Bacillus firmus)、バチルス・ベレゼンシス(Bacillus velezensis)、バチルス・ピチノティ(Bacillus pichinotyi)、バチルス・アシドカルダリウス(Bacillus acidocaldarius)、バチルス・アルカリコラ(Bacillus alkalicola)、バチルス・アゾトフォーマンス(Bacillus azotoformans)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・バディウス(Bacillus badius)、バチルス・バタビエンシス(Bacillus bataviensis)、バチルス・シクロヘプタニカス(Bacillus cycloheptanicus)、バチルス・ アネウリニリティカス(Bacillus aneurinilyticus)、バチルス・ミグラヌス(Bacillus migulanus)、バチルス・アビッサリス(Bacillus abyssalis)、バチルス・アエスツアリイ(Bacillus aestuarii)、バチルス・ポリミグザ(Bacillus polymyxa)、およびバチルス・エスピー(Bacillus sp.)から選択される、[11]に記載の芽胞形成細菌の培養方法。
[13][1]~[12]のいずれかに記載の培養方法を用いて、有用物質を生成させることを特徴とする、有用物質の製造方法。
[14]前記有用物質が前記芽胞形成細菌の芽胞である、[13]に記載の有用物質の製造方法。
[15]前記有用物質が前記芽胞形成細菌の代謝物である、[13]に記載の有用物質の製造方法。
[16]前記代謝物が環状リポペプチドである、[15]に記載の製造方法。
[17]前記環状リポペプチドが、イツリン、サーファクチン、プリパスタチン、フェンジシン、バシロマイシン、リチェニシン、クルスタキン、マイコサブチリン、コリスチン、フザリシジン、パエニバクテリン、ポリミキシンおよびピュミラシジンからなる群から選択される少なくとも1種である、[16]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
芽胞形成細菌は栄養分枯渇の感知やクオラムセンシングにより、栄養細胞状態での増殖から芽胞形成に代謝をスイッチする。本発明の方法では、培地濃度の向上という従来の手法に頼らず、芽胞形成に向かう代謝切替えを阻害することで通常よりも栄養増殖する期間を長く保ち、結果的に高い栄養細胞濃度および代謝物濃度を得ることができる。その上で芽胞形成促進物質の添加や阻害物質の除去を行ったり、十分に長い培養期間を確保したりすることで芽胞を形成させ、最終的な芽胞生産性や代謝物などの有用物質の生産性を抜本的に増加させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の芽胞形成細菌の培養方法は、芽胞形成阻害物質を培地中に添加して芽胞形成細菌を培養する工程を含む芽胞形成細菌の培養方法であって、前記培地は炭素含量が9.1g/L以上であることを特徴とする。
本発明の芽胞形成細菌の培養方法を用いることにより、芽胞形成細菌の芽胞や代謝物などの有用物質を良好な生産性で得ることができる。
【0012】
本発明において、芽胞形成細菌の種類は特に制限されないが、バチルス属細菌、パエニバチルス属細菌、ジオバチルス属細菌、クロストリジウム属、スポロサルシナ属が例示される。
【0013】
バチルス属細菌としてはバチルス属に分類される細菌であれば特に制限されないが、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・シンプレックス(Bacillus simplex)、バチルス レンタス(Bacillus lentus)、バチルス ラテロスポルス(Bacillus laterosporus)、バチルス アルベイ(Bacillus alvei)、バチルス・ポピリエ(Bacillus popilliae)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alcalophilus)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バチルス・サイアメンシス(Bacillus siamensis)、バチルス ロータス(Bacillus lautus)、バチルス クラウジイ(Bacillus clausii)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・チューリンジェンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・ファーマス(Bacillus firmus)、バチルス・ベレゼンシス(Bacillus velezensis)、バチルス・ピチノティ(Bacillus pichinotyi)、バチルス・アシドカルダリウス(Bacillus acidocaldarius)、バチルス・アルカリコラ(Bacillus alkalicola)、バチルス・アゾトフォーマンス(Bacillus azotoformans)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・バディウス(Bacillus badius)、バチルス・バタビエンシス(Bacillus bataviensis)、バチルス・シクロヘプタニカス(Bacillus cycloheptanicus)、バチルス・ アネウリニリティカス(Bacillus aneurinilyticus)、バチルス・ミグラヌス(Bacillus migulanus)、バチルス・アビッサリス(Bacillus abyssalis)、バチルス・アエスツアリイ(Bacillus aestuarii)、バチルス・ポリミグザ(Bacillus polymyxa)、またはバチルス・エスピー(Bacillus sp.)が挙げられる。
【0014】
パエニバチルス属細菌としては、パエニバチルス・マセランス(Paenibacillus macerans)、パエニバチルス・アミロリティカス(Paenibacillus amylolyticus)、パエニバチルス・ペオリアテ(Paenibacillus peoriate)、パエニバチルス・エルギー(Paenibacillus elgii)などが挙げられる。
【0015】
ジオバチルス属細菌としては、ジオバチルス・サーモグルコシダシアス(Geobacillus thermoglucosidasius)、ジオバチルス・カルドキシロシチリカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)などが挙げられる。
【0016】
クロストリジウム属細菌としては、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)、クロストリジウム・クリベリ(Clostridium kluyveri)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・アミノブチリカム(Clostridium aminobutyricum)、クロストリジウム・ベイジェリンキー(Clostridium beijerinckii)、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum)、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)などが挙げられる。
【0017】
スポロサルシナ属細菌としては、スポロサルシナ・パステウリ(Sporosarcina pasteurii)、スポロサルシナ・ウレアエ(Sporosarcina ureae)、スポロサルシナ・サイクロフィラ(Sporosarcina psychrophila)、スポロサルシナ・サーモトレランス(Sporosarcina thermotolerans)などが挙げられる。
【0018】
バチルス属細菌等の芽胞形成細菌は非遺伝子組み換え細菌でもよいし、遺伝子組み換え細菌でもよいが、抗生物質耐性遺伝子を含まない細菌であることが好ましい。
【0019】
本発明において、有用物質とは、動植物生育促進作用、殺菌・静菌作用、遺伝子活性化作用等の生理活性を示す物質、各種酵素、乳酸、アミノ酸など産業上活用しうる物質、納豆やヨーグルトなど食品等として用いられる発酵物そのものを意味し、具体的には、芽胞形成細菌の芽胞や、バチルス属細菌の代謝物が挙げられる。バチルス属細菌の代謝物は、培養により生産される生菌以外の有効成分であり、抗菌性や界面活性作用を有する環状ペプチドや、プロテアーゼ、リパーゼといった酵素が挙げられる。
バチルス属細菌の代謝物である環状リポペプチドとしては、イツリン、サーファクチン、プリパスタチン、フェンジシン、バシロマイシン、リチェニシン、クルスタキン、マイコサブチリン、コリスチン、フザリシジン、パエニバクテリン、ポリミキシンおよびピュミラシジンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0020】
培養に用いる液体培地は炭素源および窒素源を含むが、バチルス属細菌等の芽胞形成細菌が異化しうる炭素源として、バチルス属細菌等の芽胞形成細菌が異化しうる糖(でんぷん、グルコース、ラクトース、グリセロール、アラビノース、リボース、キシロース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、セロビオース、マルトース、スクロース、トレハロース、キシリトールなど)もしくは糖源原料、アルコール、有機酸、有機酸塩、アルカンまたは他の一般的な炭素源が例示され、バチルス属細菌等の芽胞形成細菌が異化しうる窒素源して、大豆由来成分、酵母由来成分、コーン由来成分、動植物タンパク質およびその分解物、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩、アンモニア、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、尿素等が例示される。
【0021】
本発明において使用される液体培地においては、炭素含量は9.1g/L以上であり、好ましくは10.2g/L以上であり、より好ましくは15g/L以上が良い。さらに好ましくは18g/L以上であることが好ましい。
なお培地成分のうち天然系原料の炭素含量は、それぞれ全糖量の40%重量、全タンパク質量の50%重量として概算できる。全糖量は、酸中で100℃、2.5時間加水分解を行うことで、ソモギー法にて還元糖濃度として定量できる。全タンパク質量はまずケルダール法による全窒素量の定量後、換算係数6.25を乗じることでタンパク質量を概算できる。
培地の炭素源濃度が低い場合、炭素源の枯渇に伴って芽胞形成が開始される。この場合、芽胞形成阻害(遅延)物質を添加すると、栄養細胞状態の菌体が長期間、栄養成分枯渇下に晒されることになる。そのため芽胞形成阻害物質非添加時よりも栄養細胞の死滅が早まり、結果的にその培養生産性が下がる(非特許文献4は、このケースに該当すると考えられる)。一方、培地の炭素源濃度が十分に高い場合、栄養細胞の増殖に伴い、クオラムセンシング等によって芽胞形成が開始される。この場合、芽胞形成阻害物質を添加すると、栄養増殖期間が芽胞形成阻害物質非添加時よりも長くなる。通常ではクオラムセンシング等によって芽胞化してしまう菌体密度を大幅に超えて栄養細胞が増殖し、結果的に菌体や代謝物の培養生産性が上がることになる。
一方、液体培地における炭素含量の上限は特に制限されないが、例えば、炭素含量は100g/L以下が好ましく、72g/L以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明において、培養にはC/N比(炭素含量と窒素含量の重量比)が3~12である液体培地を用いることが好ましい。
C/N比は以下の通り算出される。
C/N比=各培地成分に含まれる炭素含量の合計÷各培地成分に含まれる窒素含量の合計。
【0023】
その他の培地成分としては、芽胞形成や目的代謝物の生産性に悪影響を及ぼさない限り、バチルス属細菌等の芽胞形成細菌の培養に通常使用される微量金属塩等の培地成分を添加してもよく、さらに、必要に応じて、アミノ酸またはビタミン等を添加することができる。
【0024】
本発明の方法においては、芽胞形成阻害(遅延)物質を培地中に添加して芽胞形成細菌を培養する。芽胞形成阻害物質としてはバチルス属細菌等の芽胞形成細菌の芽胞形成を阻害できる物質であればよいが、酵素阻害剤が挙げられ、具体的には、リンコマイシン、エリスロマイシン、リファンピシン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カフェイン、コーヒー酸、アクチノマイシン、フシジン酸、リピアマイシン、ピューロマイシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、チオストレプトンが利用できる。
これらの多くは、ある濃度では栄養細胞の増殖阻害効果を示すが、それよりもごく低濃度で用いた場合、栄養細胞の増殖にはほとんど阻害的効果を示さないまま、芽胞形成を阻害する。
【0025】
本発明の方法において、培地に添加する芽胞形成阻害物質の濃度は、前記芽胞形成細菌に対する増殖阻害濃度以下であることが好ましく、例えば、15ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。一方、濃度の下限は芽胞形成阻害作用を発揮できる濃度であればよいが、0.01ppm以上であることが好ましい。
例えば、リンコマイシンは0.05~15ppmであることが好ましい。さらに好ましくは0.05~1ppm、より好ましくは0.05~0.75ppmである。エリスロマイシンは0.05~1ppmであることが好ましく、リファンピシンは5~10ppmであることが好ましく、クロラムフェニコールは0.1~2ppmであることが好ましく、ストレプトマイシンは5~15ppmであることが好ましく、カフェインは5~10ppmであることが好ましく、コーヒー酸は5~10ppmであることが好ましく、アクチノマイシンは0.1~10ppmであることが好ましく、フシジン酸は0.1~10ppmであることが好ましく、リピアマイシンは0.1~10ppmであることが好ましく、ピューロマイシンは0.1~10ppmであることが好ましく、スペクチノマイシンは0.1~10ppmであることが好ましく、テトラサイクリンは0.1~10ppmであることが好ましく、チオストレプトンは0.1~10ppmであることが好ましい。
【0026】
芽胞形成阻害物質は、培地に培養開始時から含有させてもよいが、培養途中に添加してもよい。培養途中に添加する場合、例えば、培養開始から0~10時間の間に添加することが好ましい。
芽胞形成阻害物質を添加した状態で、バチルス属細菌等の芽胞形成細菌を菌体濃度が高濃度、例えば、1×108/ml以上になるまで培養することが好ましく、具体的には5~80時間培養することが好ましい。
【0027】
なお、芽胞形成阻害物質の存在する条件下で長期間を培養することで、芽胞形成を促進できる場合もある。例えば、リンコマイシンの場合、0.05~0.5ppmを添加し、40~80時間培養することで、芽胞形成を促進できる。クロラムフェニコールの場合、0.1~0.5ppmを添加し、40~80時間培養することで、芽胞形成を促進できる。エリスロマイシンの場合、0.05~0.2ppmを添加し、40~80時間培養することで、芽胞形成を促進できる。
【0028】
本発明の方法においては、芽胞形成阻害物質の存在する条件下で栄養細胞を高濃度に培養した後に、芽胞形成促進剤を添加する操作を行ってもよい。これにより、芽胞形成を促進することができる。
【0029】
ここで、芽胞形成促進物質としてはバチルス属細菌等の芽胞形成細菌の芽胞形成を促進できる物質であればよいが、核酸塩基類縁体、有機酸、アミノ酸、アンモニウム化合物、硝酸化合物、亜硝酸化合物、ミネラルなどが挙げられる。より具体的には、デコイニン、ミゾリビン、マイコフェノール、6-アザウラシル、乳酸とその塩、酢酸とその塩、酪酸とその塩、マンガン、アンモニウム、カルシウム、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、乳酸アンモニウム、酢酸アンモニウムが例示される。
【0030】
芽胞形成促進物質は、栄養細胞の増殖中または増殖後に添加することが効果的であるため、菌体濃度が1×108/ml以上のときに添加することが好ましく、例えば、芽胞形成阻害物質の存在下で5~70時間培養した後に添加することが好ましく、例えば、培養開始から5~70時間後に添加することが望ましい。
そして、芽胞形成促進物質を添加した状態で、例えば、10~30時間培養することで高濃度の芽胞を得ることができる。
【0031】
芽胞形成促進物質の濃度は、例えば、デコイニンは10~1,000ppmであることが好ましく、ミゾリビンは10~1,000ppmであることが好ましく、マイコフェノールは10~1,000ppmであることが好ましく、6-アザウラシルは10~1,000ppmであることが好ましく、乳酸は500~10,000ppmであることが好ましく、酢酸は500~10,000ppmであることが好ましく、酪酸は500~10,000ppmであることが好ましく、マンガンは100~1,000ppmであることが好ましく、アンモニウムは500~10,000ppmであることが好ましく、カルシウムは100~1,000ppmであることが好ましく、アラニンは500~10,000ppmであることが好ましく、アルギニンは500~10,000ppmであることが好ましく、アスパラギンは500~10,000ppmであることが好ましく、アスパラギン酸は500~10,000ppmであることが好ましく、システインは500~10,000ppmであることが好ましく、グルタミンは500~10,000ppmであることが好ましく、グルタミン酸は500~10,000ppmであることが好ましく、グリシンは500~10,000ppmであることが好ましく、ヒスチジンは500~10,000ppmであることが好ましく、イソロイシンは500~10,000ppmであることが好ましく、ロイシンは500~10,000ppmであることが好ましく、リシンは500~10,000ppmであることが好ましく、メチオニンは500~10,000ppmであることが好ましく、フェニルアラニンは500~10,000ppmであることが好ましく、プロリンは500~10,000ppmであることが好ましく、セリンは500~10,000ppmであることが好ましく、トレオニンは500~10,000ppmであることが好ましく、トリプトファンは500~10,000ppmであることが好ましく、チロシンは500~10,000ppmであることが好ましく、バリンは500~10,000ppmであることが好ましい。
【0032】
その他の、培養容器、培地組成や濃度、温度、pH、酸素濃度等の各種条件については、通常のバチルス属細菌等の芽胞形成細菌の液体培養に使用される条件であればよいが、例えば、20~40℃で、好気条件(例えば、酸素濃度15~50%)で、撹拌しつつ培養する条件が例示される。培地のpHは6.5~8.5が好ましく、7.0~8.0がより好ましい。
【0033】
このようにして、高い芽胞化率(例えば、50%以上、好ましくは80%以上)のバチルス属細菌等の芽胞形成細菌の菌体やバチルス属細菌の代謝物が得られる。このような高い芽胞化率のバチルス属細菌等の芽胞形成細菌の菌体やバチルス属細菌の代謝物は、適宜、培地の濃縮または除去、乾燥等の操作を行ったうえで、所望の目的に使用することができる。
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
<芽胞形成阻害による高濃度増殖(バチルス・ズブチリス)>
500mL三角フラスコ(バッフル付)を用い、表1に記載の培地をそれぞれ100mLずつ作成し、オートクレーブ滅菌を行った。なおメイラード反応を避けるため、グルコースは別途滅菌の上、無菌的に混合した。
なお培地成分のうちグルコース、脱脂大豆粉、コーンスティープリカー、酵母エキスの炭素含量は、それぞれ全糖量の40%重量および全タンパク質量の50%重量として算出した。全糖量は、酸中で100℃、2.5時間加水分解後、ソモギー法にて還元糖濃度として定量した。全タンパク質量はまずケルダール法による全窒素量の定量後、換算係数6.25を乗じることで算出した。
【0036】
【表1】
【0037】
表2に記載の通り、試験区を設定した。各試験区の条件に従い、フィルター滅菌した芽胞形成阻害物質水溶液を、無菌的に培地へ添加した。普通寒天培地上に生育させたバチルス・ズブチリスMBI-600のコロニーより1白金耳を取って植菌した後、30℃、150rpmで64時間振とう培養を行った。
【0038】
得られた培養液について、滅菌水で10倍に希釈したのち、光学顕微鏡および細菌用セルカウンターを用いて、菌体濃度(栄養細胞および芽胞)および芽胞形成率(芽胞濃度÷菌体濃度)を計測した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
リンコマイシン濃度が0.1ppmの試験区では芽胞形成への阻害効果は見られなかったが、1ppmの試験区では芽胞形成への阻害効果が見られた。一方、菌体濃度はリンコマイシン濃度に応じて高くなる傾向を示した。
同様に、エリスロマイシン濃度が0.1ppmの試験区では芽胞形成への阻害効果は見られなかったが、1ppmの試験区では芽胞形成への阻害効果が見られた。また、菌体濃度はエリスロマイシン濃度に応じて高くなる傾向を示した。
またストレプトマイシン濃度が12.5ppmの試験区では芽胞形成への阻害効果は見られなかったが、15.0ppmの試験区では芽胞形成への阻害効果が見られた。一方、菌体濃度はストレプトマイシン濃度に応じて高くなる傾向を示した。
【0041】
(実施例2)
<芽胞形成阻害による栄養細胞の高濃度増殖と芽胞形成誘導による芽胞高生産(バチルス・ズブチリス)>
500mL三角フラスコ(バッフル付)を用い、表1に記載の培地をそれぞれ100mLずつ作成し、オートクレーブ滅菌を行った。なおメイラード反応を避けるため、グルコースは別途滅菌の上、無菌的に混合した。
表3に記載の通り、試験区を設定した。各試験区の条件に従い、フィルター滅菌した芽胞形成阻害物質水溶液を、無菌的に培地へ添加した。各試験区の条件に従い、普通寒天培地上に生育させたバチルス・ズブチリスMBI-600のコロニーより1白金耳を取って植菌した後、30℃、150rpmで振とう培養を行った。
【0042】
培養開始から16時間経過後、各試験区の条件に従って芽胞形成促進物質を添加したのち、培養を継続した。培養開始から45時間経過後、培養を停止した。
得られた培養液について、滅菌水で10倍に希釈したのち、光学顕微鏡および細菌用セルカウンターを用いて、菌体濃度(栄養細胞および芽胞)および芽胞形成率(芽胞濃度÷菌体濃度)を計測した。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
リンコマイシン濃度が0.3ppmの試験区では芽胞形成への阻害効果は見られなかったが、0.5ppm以上の試験区では芽胞形成への阻害効果が見られた。一方、菌体濃度はリンコマイシン濃度に応じて高くなる傾向を示した。
芽胞形成物質として乳酸アンモニウムを添加した試験区において、リンコマイシン濃度に関わらず、いずれも非添加時と比べて芽胞形成率に改善が見られた。特にリンコマイシン濃度0.3ppmおよび0.5ppmで乳酸アンモニウムを添加した試験区では、いずれも無添加の試験区と比べ、芽胞の生産性が大幅に高かった。
リンコマイシン濃度0.5ppmで酢酸アンモニウムを添加した試験区において、酢酸アンモニウムの添加量に応じて、菌体濃度および芽胞形成率が増加する傾向が見られた。いずれも無添加の試験区と比べ、芽胞の生産性が大幅に高かった。
クロラムフェニコール濃度が1.4ppmの試験区では芽胞形成への阻害効果が見られたが、クロラムフェニコールに加えてデコイニンを途中で添加した区では芽胞形成率に改善が見られ、いずれも無添加の試験区と比べ、芽胞の生産性が向上した。
【0045】
(実施例3)
<芽胞形成阻害による栄養細胞の高濃度増殖と芽胞高生産(バチルス・チューリンゲンシス)>
500mL三角フラスコ(バッフル付)を用い、表1に記載の培地をそれぞれ100mLずつ作成し、オートクレーブ滅菌を行った。なおメイラード反応を避けるため、グルコースは別途滅菌の上、無菌的に混合した。
表4に記載の通り、試験区を設定した。各試験区の条件に従い、フィルター滅菌した芽胞形成阻害物質水溶液を、無菌的に培地へ添加した。各試験区の条件に従い、普通寒天培地上に生育させたバチルス・チューリンゲンシスNBRC 101235株のコロニーより1白金耳を取って植菌した後、30℃、150rpmで40時間振とう培養を行った。
【0046】
得られた培養液について、滅菌水で10倍に希釈したのち、光学顕微鏡および細菌用セルカウンターを用いて、菌体濃度(栄養細胞および芽胞)および芽胞形成率(芽胞濃度÷菌体濃度)を計測した。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
リンコマイシン濃度12.5ppmで芽胞形成への阻害効果が認められた。一方、10.0ppm以下の試験区では菌体濃度および芽胞濃度が高くなる傾向を示した。
クロラムフェニコール濃度6.0ppmで増殖および芽胞形成への阻害効果が認められた。一方、2.0ppmの試験区では菌体濃度および芽胞濃度が高くなる傾向を示した。
エリスロマイシン濃度0.1ppmで芽胞形成への阻害効果が認められた。一方、0.05ppmの試験区では菌体濃度および芽胞濃度が高くなる傾向を示した。
一定量の抗生物質を加えることで菌体濃度を向上させ、かつ十分な時間(40時間)培養を行うことで、芽胞化促進物質を加えることなく芽胞の生産性を向上させることができた。
【0049】
(実施例4)
<芽胞形成阻害によるサーファクチンの高生産(バチルス・ズブチリス)>
500mL三角フラスコ(バッフル付)を用い、表5に記載の培地をそれぞれ100mLずつ作成し、オートクレーブ滅菌を行った。なおメイラード反応を避けるため、グルコースは別途滅菌の上、無菌的に混合した。
表6に記載の通り、試験区を設定した。各試験区の条件に従い、フィルター滅菌した芽胞形成阻害物質水溶液を、無菌的に培地へ添加した。各試験区の条件に従い、普通寒天培地上に生育させたバチルス・ズブチリスMBI-600株のコロニーより1白金耳を取って植菌した後、30℃、150rpmで振とう培養を行った。
【0050】
【表5】
【0051】
培養開始から50時間経過後、培養を停止した。
得られた培養液について、冷却遠心機(株式会社トミー精工 MX-307)を用い、10,000rpm、20℃、30分遠心分離を行い、上清を回収した。
固相抽出カラム(日本ウォーターズ株式会社 Oasis HLB 3cc(400mg)LP Extraction Cartridge)に0.1%TFA含有アセトニトリル3mLを加えて通過させたのち、0.1%TFA含有蒸留水3mLを加えて通過させた。回収した培養液遠心上清2mLを加えて通過させ、0.1%TFA含有蒸留水6mL、0.1%TFA含有アセトニトリル/蒸留水(20:80, v/v)3mLを順次通過させて洗浄した。次に0.1%TFA含有アセトニトリル/蒸留水(90:10, v/v)3mLを通過させ、溶出液を回収した。回収液が4mLとなるよう0.1%TFA含有アセトニトリル/蒸留水(90:10, v/v)を加え、以下の条件でHPLC分析を行った。
HPLC: アジレント・テクノロジー株式会社 1260 Infinity
カラム: 日本ウォーターズ株式会社 XBridge C18 5μm 4.6 x 250mm
移動相: A:0.1%TFA含有蒸留水、B:0.1%TFA含有アセトニトリル
0~5分 A 80%/B 20%
5~25分 A 80%/B 20% → B 100%
25~30分 B 100%
30~40分 A 80%/B 20%
流量: 1mL/分
温度: 40℃
検出: UV205nm
注入量: 20μL
標品: Surfactin Sodium Salt(和光純薬工業株式会社)
濃度: 30ppm、120ppm
溶媒: 0.1%TFA含有アセトニトリル/蒸留水(90:10, v/v)
溶出時間27.6分および28.4分に検出されたピーク面積について、標品との比較から、培養液中のサーファクチン濃度を算出した。
結果を表6に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
エリスロマイシン濃度が0.1ppmおよび0.2ppmで芽胞濃度とサーファクチン濃度が高くなる傾向を示した。
一定量の抗生物質を加えることで芽胞だけでなく有用物質であるサーファクチンの生産性を向上させることができた。