IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-格納容器 図1
  • 特許-格納容器 図2
  • 特許-格納容器 図3
  • 特許-格納容器 図4
  • 特許-格納容器 図5
  • 特許-格納容器 図6
  • 特許-格納容器 図7
  • 特許-格納容器 図8
  • 特許-格納容器 図9
  • 特許-格納容器 図10
  • 特許-格納容器 図11
  • 特許-格納容器 図12
  • 特許-格納容器 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】格納容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
C12M1/34 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019023791
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020129981
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2020-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 淳一
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123663(WO,A1)
【文献】特開2012-157267(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196204(WO,A1)
【文献】特開2011-128019(JP,A)
【文献】特開2017-063744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被格納物を格納する格納ウェルが所定の基板表面に複数形成された基板からなる格納容器であって、
前記格納ウェルは、
前記基板表面に開口する開口部を形成し、前記開口部の内壁に、前記基板表面から前記格納ウェルの深さ方向下側に傾斜する傾斜面を有する開口形成部と、
前記開口形成部よりも前記格納ウェルの深さ方向下側に、前記基板表面に対して垂直な方向に延在する側壁面を有し、前記開口部を介して前記基板表面上の領域と通じる有底の格納部と、
前記格納部と連通し、前記格納部に流入した液体を前記格納部の外部に流出させる液体流出部と、
を備え、
前記傾斜面の下端は、前記格納部の前記側壁面と稜線を形成して連続し、
前記液体流出部は、円柱状の空間を形成するように設けられている、
ことを特徴とする格納容器。
【請求項2】
前記傾斜面は、前記開口部の内壁全周に亘って形成されることを特徴とする請求項1に記載の格納容器。
【請求項3】
前記開口形成部は、前記格納部の側壁面よりも前記格納ウェルの深さ方向上側に、前記基板表面に対して垂直な方向に延在する上部側壁面を有し、
前記傾斜面は、前記開口部の開口中心軸に対して前記上部側壁面とは反対側に偏って形成されることを特徴とする請求項1に記載の格納容器。
【請求項4】
前記開口形成部は、ジルコニアが添加された石英ガラスからなり、
前記格納部は、意図せず含まれる不純物の濃度が0.1mol%以下である純石英ガラスからなることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の格納容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、格納容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞等の微細な被格納物を個別に格納するためのウェル(格納ウェル)を複数備える格納容器が知られている。例えば、対象とする被格納物が細胞である場合、格納ウェルの配置数に比べて1.5~2.0倍以上の数の細胞を含んだ液体(懸濁液)が格納容器の表面に流され、これにより、複数の格納ウェルの各々に細胞が液体とともに投入される。このような格納ウェルとして、例えば、特許文献1には、逆角錐形の開口部と円筒形の有底穴とを組み合わせた形状のマイクロウェルが開示されている。また、特許文献2には、イムノチャンバーに複数形成された逆錐台形のウェルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4148367号公報
【文献】特開2014-110785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載される従来の格納ウェルでは、格納した細胞から分泌される抗体を載せるための平坦面が開口部の傾斜面とウェル側壁面との間に存在するので、細胞等の被格納物をウェル内に流し入れる際、この平坦面と側壁面とが繋がる角部に被格納物が接触して傷つく恐れがある。
【0005】
また、上述した特許文献2に記載される従来の格納ウェルでは、ウェル内壁面が開口端から底面に向かって下方に傾斜しているので、被格納物をウェル内へ流し入れやすい反面、一旦ウェル内に格納された被格納物が、液体の流れ等に伴ってウェル内から意図せず脱離する恐れがある。これに起因して、複数の格納ウェルの各々に被格納物が格納される確率、すなわち、格納容器に設けられている全ての格納ウェルのうち、被格納物が格納されている格納ウェルの割合(以下、格納効率という)が低下する場合がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、格納の際に被格納物が傷つくことを抑制するとともに、複数の格納ウェルにおける被格納物の格納効率を向上させることができる格納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る格納容器は、被格納物を格納する格納ウェルが所定の基板表面に複数形成された基板からなる格納容器であって、前記格納ウェルは、前記基板表面に開口する開口部を形成し、前記開口部の内壁に、前記基板表面から前記格納ウェルの深さ方向下側に傾斜する傾斜面を有する開口形成部と、前記開口形成部よりも前記格納ウェルの深さ方向下側に、前記基板表面に対して垂直な方向に延在する側壁面を有し、前記開口部を介して前記基板表面上の領域と通じる有底の格納部と、を備え、前記傾斜面の下端は、前記格納部の前記側壁面と稜線を形成して連続することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る格納容器は、上記の発明において、前記傾斜面は、前記開口部の内壁全周に亘って形成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る格納容器は、上記の発明において、前記開口形成部は、前記格納部の側壁面よりも前記格納ウェルの深さ方向上側に、前記基板表面に対して垂直な方向に延在する上部側壁面を有し、前記傾斜面は、前記開口部の開口中心軸に対して前記上部側壁面とは反対側に偏って形成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る格納容器は、上記の発明において、前記格納部と連通し、前記格納部に流入した液体を前記格納部の外部に流出させる液体流出部をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る格納容器は、上記の発明において、前記開口形成部は、ジルコニアが添加された石英ガラスからなり、前記格納部は、意図せず含まれる不純物の濃度が0.1mol%以下である純石英ガラスからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、格納の際に被格納物が傷つくことを抑制するとともに、複数の格納ウェルにおける被格納物の格納効率を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る格納容器の一構成例を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態1に係る格納容器の格納ウェルの一構成例を示す図である。
図3図3は、図2に示す格納ウェルのA-A線断面の構成を模式的に示す断面模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態1に係る格納ウェルの製造方法の一例を示す図である。
図5図5は、本発明の実施形態2に係る格納容器の格納ウェルの一構成例を示す図である。
図6図6は、図5に示す格納ウェルのB-B線断面の構成を模式的に示す断面模式図である。
図7図7は、本発明の実施形態2に係る格納ウェルの製造方法の一例を示す図である。
図8図8は、本発明の実施形態3に係る格納容器の格納ウェルの一構成例を示す図である。
図9図9は、図8に示す格納ウェルのC-C線断面の構成を模式的に示す断面模式図である。
図10図10は、本発明の実施形態3の変形例1に係る格納ウェルの一構成例を示す図である。
図11図11は、本発明の実施形態3の変形例2に係る格納ウェルの一構成例を示す図である。
図12図12は、本発明の実施形態4に係る格納容器の格納ウェルの一構成例を示す図である。
図13図13は、本発明の実施形態4に係る格納ウェルの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明に係る格納容器の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0015】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る格納容器について説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る格納容器の一構成例を示す図である。本実施形態1に係る格納容器1は、細胞等の微細な被格納物を格納するための容器であり、図1に示すように、所定の基板表面2aに格納ウェル群5が形成された基板2からなる。基板2は、例えば、石英ガラス(SiO)等のガラス材からなるガラス基板である。格納ウェル群5は、被格納物を格納する複数の格納ウェルからなる。これら複数の格納ウェルは、基板2における所定の基板表面2a(図1では上面)に、格子状等の所定のパターンに配列されるよう形成されている。
【0016】
図2は、本発明の実施形態1に係る格納容器の格納ウェルの一構成例を示す図である。図2には、本実施形態1に係る格納容器1の格納ウェル群5から抜き出した一部の格納ウェルをその開口側から見たもの(上視図)が図示されている。図3は、図2に示す格納ウェルのA-A線断面の構成を模式的に示す断面模式図である。
【0017】
本発明においては、格納ウェルの深さ方向が、例えば図3に示すように、深さ方向F1として定義される。深さ方向F1では、格納ウェルの開口側(基板表面2a側)が上側であり、格納ウェルの底側(基板表面2aとは反対側)が下側である。また、格納ウェルの深さ方向F1に対して垂直な方向が、例えば図3に示すように、幅方向F2として定義される。幅方向F2については、説明の便宜上、図面に向かって右側が正側とし、左側が負側としている。
【0018】
図2、3に示すように、本実施形態1に係る格納ウェル10は、格納ウェル10の開口部を形成する開口形成部11と、この開口部を介して被格納物9を出し入れ可能に格納する格納部12とを備える。本実施形態1において、開口形成部11および格納部12は、互いに同じガラス材(例えば石英ガラス)からなる。
【0019】
開口形成部11は、格納ウェル10のうち、格納部12よりも深さ方向F1の上側部分を構成する。詳細には、図2、3に示すように、開口形成部11は、格納ウェル10の開口部として、基板表面2aに開口する開口部11aを形成する。また、開口形成部11は、開口部11aの内壁に傾斜面11bを有する。傾斜面11bは、図3に示すように、基板表面2aから格納ウェル10の深さ方向F1の下側に傾斜する面である。本実施形態1において、傾斜面11bは、開口部11aの内壁全周に亘って形成されている。すなわち、開口部11aの幅方向F2の寸法(以下、開口寸法と適宜いう)は、基板表面2aから格納ウェル10の深さ方向F1の下側に向かうに伴って連続的に減少する。このような開口部11aの形状として、例えば、逆円錐台形状または逆角錐台形状等が挙げられる。図2、3には、開口部11aの形状の一例として、逆円錐台形状が示されている。なお、逆円錐台形状とは、円錐台の上下を逆にした形状である。同様に、逆角錐台形状とは、角錐台の上下を逆にした形状である。
【0020】
格納部12は、開口部11aを介して基板表面2a上の領域と通じる有底の凹状部分である。詳細には、図2、3に示すように、格納部12は、開口形成部11よりも格納ウェル10の深さ方向F1の下側に、格納部12の内周全域に亘って側壁面12aを有する。側壁面12aは、基板表面2aに対して垂直な方向に延在するように形成されている。側壁面12aの形状として、例えば、円柱側壁状の形状または角柱側壁状の形状等が挙げられる。図2、3には、側壁面12aの形状の一例として、円柱側壁状の形状が示されている。また、格納部12は、側壁面12aの下端に連続する底部13を有する。底部13は、例えば図3に示すように、上述した傾斜面11bに対応して、側壁面12aとの接続部分に傾斜を有する。
【0021】
また、格納部12の側壁面12aは、図2、3に示すように、上述した開口部11aの傾斜面11bと連続している。詳細には、開口部11aの傾斜面11bの下端は、格納部12の側壁面12aと稜線14を形成して連続している。本実施形態1において、傾斜面11bの下端と側壁面12aの上端とは稜線14で一致しており、傾斜面11bの下端と側壁面12aの上端との間には、これらの傾斜面11bおよび側壁面12a以外の面(例えば基板表面2aに平行な水平面等)は存在していない。
【0022】
また、図3に示すように、格納部12は、側壁面12aおよび底部13によって囲まれる内部空間に、被格納物9を格納する。この内部空間を形成する格納部12の深さHaおよび幅Waは、被格納物9を個別に格納するに適した寸法に設定される。格納部12の深さHaは、格納部12の側壁面12aの上端から底部13の下端までの深さ方向F1の長さである。格納部12の幅Waは、格納部12の幅方向F2に対向する側壁面12a間の長さである。例えば、格納部12の深さHaは、被格納物9の高さHb(深さ方向F1の長さ)をもとに、Hb<Ha<2×Hbの条件を満たす値等、適切な値に設定される。格納部12の幅Waは、被格納物9の幅Wb(幅方向F2の長さ)をもとに、Wb<Wa<2×Wbの条件を満たす値等、適切な値に設定される。
【0023】
なお、被格納物9としては、例えば、細胞や細胞以外の粒子等、微細なものが挙げられる。また、被格納物9の形状は、図3に示すような球形状に限定されず、所望の形状であってもよい。
【0024】
上述した開口形成部11および格納部12によって構成される格納ウェル10には、以下に示す手法によって被格納物9が格納される。具体的には、図1に示した格納容器1の格納ウェル群5に含まれる格納ウェル10の配置数よりも多い数(例えば格納ウェル10の配置数の1.5~2.0倍以上)の被格納物9を含んだ液体を準備し、この液体が、格納ウェル群5に向けて格納容器1の基板表面2aに流される。これにより、複数の被格納物9は、基板表面2aから格納ウェル群5の各々に液体とともに格納される。この際、1つの格納ウェル10について、1つの被格納物9が、図3の破線矢印に示されるように、基板表面2aから開口部11aを通り、傾斜面11bを下って、格納部12の内部に液体とともに流れ込む。
【0025】
このように格納ウェル10に一旦格納された被格納物9は、格納部12の側壁面12aによって流れ(動き)を抑止される。この結果、被格納物9は、格納ウェル10から意図的に取り出そうとしない限り、格納ウェル10から脱離し難くなる。たとえ、基板表面2a上に余分に残った被格納物9を洗浄液によって除去する洗浄工程が行われたとしても、格納ウェル10内の被格納物9は、この洗浄液によって格納ウェル10の外部に流されることなく、格納ウェル10内に留まる。
【0026】
つぎに、本発明の実施形態1に係る格納ウェル10の製造方法について説明する。図4は、本発明の実施形態1に係る格納ウェルの製造方法の一例を示す図である。格納容器1の格納ウェル群5の各々は、この格納ウェル10と同様の製造方法によって形成される。
【0027】
図4に示すように、格納ウェル10の製造方法では、まず、基板2上にレジスト101をパターニングする工程ST1が行われる。この工程ST1において、レジスト101は、フォトリソグラフィ技術により、基板2のうち格納ウェル10が形成される部分を露出させるパターンをなすように、基板2上に成膜される。
【0028】
工程ST1を実行後、基板2のうち格納ウェル10の開口部11aの内壁となる部分に、エッチングによって傾斜面11bを形成する工程ST2が行われる。この工程ST2においては、上述したレジスト101がマスクとなり、基板2のうちレジスト101で覆われていない部分がウェットエッチングされる。これにより、基板2の当該部分には、図4に示すように、内壁に傾斜面11bを有する凹状部102が形成される。この傾斜面11bは、基板2のうちレジスト101にマスクされた表面部分から凹状部102の底面に向かって下るように傾斜している。
【0029】
工程ST2を実行後、レジスト101を除去する工程ST3が行われる。この工程ST3において、レジスト101は、所定のレジスト剥離処理により、基板2上から除去される。これにより、基板2には、内壁に傾斜面11bを有する凹状部102が形成される。
【0030】
工程ST3を実行後、凹状部102を有する基板2上にレジスト101をパターニングする工程ST4が行われる。この工程ST4において、レジスト101は、フォトリソグラフィ技術により、基板2のうち、凹状部102の傾斜面11bを除く部分(具体的には凹状部102の底面)を露出させるパターンをなすように、基板2上に成膜される。
【0031】
工程ST4を実行後、基板2のうち凹状部102の傾斜面11b以外の部分をエッチングする工程ST5が行われる。この工程ST5においては、上述した工程ST4によるレジスト101がマスクとなり、凹状部102のうちレジスト101で覆われた部分(傾斜面11b等)以外の部分がドライエッチングされる。これにより、基板2の凹状部102は、図4に示すように、傾斜面11bを維持して更に深く形成される。
【0032】
工程ST5を実行後、レジスト101を除去する工程ST6が行われ、本処理が完了する。この工程ST6において、レジスト101は、所定のレジスト剥離処理等により、基板2上から除去される。これにより、図4に示すように、開口部11aおよび傾斜面11bを有する開口形成部11と、側壁面12aを有する有底の格納部12とからなる格納ウェル10が基板2に形成される。
【0033】
以上、説明したように、本発明の実施形態1では、基板表面2aに複数形成された格納ウェル10が、開口形成部11による開口部11aの内壁(例えば内壁全周)に、基板表面2aから格納ウェル10の深さ方向F1の下側に傾斜する傾斜面11bを有し、且つ、開口形成部11よりも格納ウェル10の深さ方向F1の下側に、開口部11aを介して基板表面2a上の領域と通じる有底の格納部12を有するようにし、格納ウェル10において、格納部12の側壁面12aは、基板表面2aに対して垂直な方向に延在し、傾斜面11bの下端は、格納部12の側壁面12aと稜線14を形成して連続している。
【0034】
このため、開口部11aの内壁の傾斜面11bと格納部12の側壁面12aとの間に、被格納物9を傷つける恐れのある角部や突起部が存在しないことから、基板表面2a上の目的とする被格納物9を、開口部11aから傾斜面11bに沿って格納部12の内部へ円滑に案内して、格納部12の内部に容易に格納することができる。これに加え、格納部12の内部に一旦格納した被格納物9の流れを、格納部12の垂直な側壁面12aによって抑止することができる。この結果、格納ウェル10からの意図せぬ被格納物9の脱離を抑制することができる。以上より、格納の際に被格納物9が傷つくことを抑制するとともに、複数の格納ウェル10における被格納物9の格納効率を向上させることができる。
【0035】
(実施形態2)
つぎに、本発明の実施形態2に係る格納容器について説明する。図5は、本発明の実施形態2に係る格納容器の格納ウェルの一構成例を示す図である。図5には、本実施形態2に係る格納容器の格納ウェル群から抜き出した一部の格納ウェルをその開口側から見たものが図示されている。図6は、図5に示す格納ウェルのB-B線断面の構成を模式的に示す断面模式図である。図5、6に示すように、本実施形態2に係る格納ウェル20は、上述した実施形態1に係る格納ウェル10の開口形成部11に代えて開口形成部21を備え、格納部12に代えて格納部22を備える。特に図示しないが、本実施形態2に係る格納容器は、基板2における所定の基板表面2aの格納ウェル群5(図1参照)に含まれる格納ウェルとして、上述した実施形態1の格納ウェル10に代えて本実施形態2の格納ウェル20を備える。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0036】
開口形成部21は、格納ウェル20のうち、格納部22よりも深さ方向F1の上側部分を構成する。詳細には、図5、6に示すように、開口形成部21は、格納ウェル20の開口部として、基板表面2aに開口する開口部21aを形成する。また、開口形成部21は、開口部21aの内壁に傾斜面21bを有する。
【0037】
傾斜面21bは、図6に示すように、基板表面2aから格納ウェル20の深さ方向F1の下側に傾斜する面である。本実施形態2において、図5、6に示すように、傾斜面21bは、開口部21aの開口中心軸CLに対して後述の上部側壁面21cとは反対側に偏って形成されている。すなわち、開口部21aの開口寸法は、傾斜面21bの上端から下端までの範囲において、基板表面2aから格納ウェル20の深さ方向F1の下側に向かうに伴い連続的に減少する。このような開口部21aの形状として、例えば、逆円錐台形状と円柱形状とを互いに偏心するように組み合わせた形状、または、逆角錐台形状と角柱形状とを互いに偏心するように組み合わせた形状等が挙げられる。図5、6には、開口部21aの形状の一例として、逆円錐台形状と円柱形状とを互いに偏心するように組み合わせた形状が示されている。
【0038】
また、開口形成部21は、格納部22の側壁面12aよりも格納ウェル20の深さ方向F1の上側に、上部側壁面21cを有する。図6に示すように、上部側壁面21cは、開口部21aの内壁のうち開口中心軸CLに対して傾斜面21bとは反対側に偏った部分に、基板表面2aに対して垂直な方向に延在するよう形成されている。本実施形態2において、上部側壁面21cは、格納部22の側壁面12aと同一面をなして一体的に連続している。
【0039】
格納部22は、開口部21aを介して基板表面2a上の領域と通じ、開口部21aを介して被格納物9を出し入れ可能に格納する有底の凹状部分である。詳細には、図5、6に示すように、格納部22は、開口形成部21よりも格納ウェル20の深さ方向F1の下側に、上述した実施形態1と同様の側壁面12aを有する。また、格納部22は、側壁面12aの下端に連続する底部23を有する。底部23は、例えば図6に示すように、開口部21aの開口中心軸CLに対して傾斜面21bとは反対側に偏って形成された傾斜を側壁面12aとの接続部分に有する。
【0040】
また、格納部22の側壁面12aは、図5、6に示すように、上述した開口部21aの傾斜面21bと連続している。詳細には、開口部21aの傾斜面21bの下端は、格納部22の側壁面12aと直接的に稜線14を形成して連続し、且つ、上部側壁面21cを介して格納部22の側壁面12aと間接的に稜線14を形成して連続している。本実施形態2において、格納部22の側壁面12aは上部側壁面21cと同一面をなして一体的に連続しているため、これら傾斜面21bの下端と側壁面12aの上端との間には、これらの傾斜面11b、側壁面12aおよび上部側壁面21c以外の面(例えば基板表面2aに平行な水平面等)は存在していない。
【0041】
また、図6に示すように、格納部22は、側壁面12aおよび底部23によって囲まれる内部空間に、被格納物9を格納する。この内部空間を形成する格納部22の深さHaおよび幅Waは、上述した実施形態1と同様に、被格納物9を個別に格納するに適した寸法に設定される。
【0042】
上述した開口形成部21および格納部22によって構成される格納ウェル20には、実施形態1と同様の手法によって被格納物9が格納される。例えば、複数の被格納物9を含む液体(図示せず)が、基板表面2aに沿って所定方向F3(図6参照)に流される。これにより、複数の被格納物9は、基板表面2aから格納ウェル群5(図1参照)の各々に液体とともに格納される。この際、1つの格納ウェル20について、1つの被格納物9が、図6の破線矢印に示されるように、基板表面2aから開口部21aを通り、傾斜面21bを下って、格納部22の内部に液体とともに流れ込む。
【0043】
このように格納ウェル20に一旦格納された被格納物9は、格納部22の側壁面12aおよび上部側壁面21cによって流れ(動き)を抑止される。この被格納物9の流れに対する抑止効果は、側壁面12aのみの場合に比べ、側壁面12aの上側に上部側壁面21cが設けられることによって向上する。この結果、被格納物9は、格納ウェル20から意図的に取り出そうとしない限り、格納ウェル20から一層脱離し難くなる。たとえ、基板表面2a上に余分に残った被格納物9を洗浄液によって除去する洗浄工程が行われたとしても、格納ウェル20内の被格納物9は、この洗浄液(特に所定方向F3に流れる洗浄液)によって格納ウェル20の外部に流されることなく、格納ウェル20内に留まる。
【0044】
つぎに、本発明の実施形態2に係る格納ウェル20の製造方法について説明する。図7は、本発明の実施形態2に係る格納ウェルの製造方法の一例を示す図である。本実施形態2に係る格納容器の格納ウェル群5の各々は、この格納ウェル20と同様の製造方法によって形成される。
【0045】
図7に示すように、格納ウェル20の製造方法では、まず、基板2上にレジスト101をパターニングする工程ST11が行われる。この工程ST11において、レジスト101は、フォトリソグラフィ技術により、基板2のうち格納ウェル20が形成される部分を露出させるパターンをなすように、基板2上に成膜される。
【0046】
工程ST11を実行後、基板2のうち格納ウェル20の開口部21aの内壁となる部分に、エッチングによって傾斜面113を形成する工程ST12が行われる。この工程ST12においては、上述したレジスト101がマスクとなり、基板2のうちレジスト101で覆われていない部分がウェットエッチングされる。これにより、基板2の当該部分には、図7に示すように、内壁に傾斜面113を有する凹状部112が形成される。この傾斜面113は、基板2のうちレジスト101にマスクされた表面部分から凹状部112の底面に向かって下るように傾斜している。
【0047】
工程ST12を実行後、レジスト101を除去する工程ST13が行われる。この工程ST13において、レジスト101は、所定のレジスト剥離処理により、基板2上から除去される。これにより、基板2には、内壁に傾斜面113を有する凹状部112が形成される。
【0048】
工程ST13を実行後、凹状部112を有する基板2上にレジスト101をパターニングする工程ST14が行われる。この工程ST14において、レジスト101は、フォトリソグラフィ技術により、基板2のうち、凹状部112の底面と傾斜面113の一方側(図7では紙面右側)の部分とを露出させ且つこれら以外の部分(傾斜面113の他方側の部分を含む)を覆うパターンをなすように、基板2上に成膜される。
【0049】
工程ST14を実行後、基板2のうち凹状部102等の露出部分をエッチングする工程ST15が行われる。この工程ST15においては、上述した工程ST14によるレジスト101がマスクとなり、凹状部112のうちレジスト101で覆われた部分(図7では傾斜面113の紙面左側の部分等)以外の部分がドライエッチングされる。これにより、基板2の凹状部112は、図7に示すように、傾斜面113のマスクされた部分を維持して更に深く形成される。
【0050】
工程ST15を実行後、レジスト101を除去する工程ST16が行われ、本処理が完了する。この工程ST16において、レジスト101は、所定のレジスト剥離処理等により、基板2上から除去される。これにより、図7に示すように、開口部21a、傾斜面21bおよび上部側壁面21cを有する開口形成部21と、側壁面12aを有する有底の格納部22とからなる格納ウェル20が基板2に形成される。
【0051】
以上、説明したように、本発明の実施形態2では、格納ウェル20の開口形成部21による開口部21aの内壁のうち、格納部22の側壁面12aよりも格納ウェル20の深さ方向F1の上側の部分に、基板表面2aに対して垂直な方向に延在する上部側壁面21cが形成されており、開口部21aの開口中心軸CLに対して上部側壁面21cとは反対側に偏った部分に、基板表面2aから格納ウェル20の深さ方向F1の下側に傾斜する傾斜面21bが形成されており、その他は実施形態1と同様に構成している。
【0052】
このため、上述した実施形態1の場合と同様の作用効果を享受するとともに、格納ウェル20の内部に一旦格納された被格納物9の流れの抑止効果を上部側壁面21cによって高めることができるから、格納ウェル20への被格納物9の格納し易さ(流入し易さ)を維持しながら、格納ウェル20からの意図せぬ被格納物9の脱離をより強く抑制して、複数の格納ウェル20における被格納物9の格納効率をより向上させることができる。
【0053】
(実施形態3)
つぎに、本発明の実施形態3に係る格納容器について説明する。図8は、本発明の実施形態3に係る格納容器の格納ウェルの一構成例を示す図である。図8には、本実施形態3に係る格納容器の格納ウェル群から抜き出した一部の格納ウェルをその開口側から見たものが図示されている。図9は、図8に示す格納ウェルのC-C線断面の構成を模式的に示す断面模式図である。図8、9に示すように、本実施形態3に係る格納ウェル30は、上述した実施形態1に係る格納ウェル10と同様の構成に加え、さらに、液体流出部35を備える。特に図示しないが、本実施形態3に係る格納容器は、基板2における所定の基板表面2aの格納ウェル群5(図1参照)に含まれる格納ウェルとして、上述した実施形態1の格納ウェル10に代えて本実施形態3の格納ウェル30を備える。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0054】
液体流出部35は、格納ウェル30の内部に溜まった液体を外部に逃がすためのものである。詳細には、図8、9に示すように、液体流出部35は、基板表面2aから格納部12の底部13に至る深さを有する断面スリット状の空間を形成し、格納ウェル30の格納部12から開口部11aの外側の部分まで延在するように、基板2(図1参照)に所望数、設けられている。例えば、本実施形態3において、液体流出部35は、格納ウェル30の深さ方向F1の中心軸周りに所定の間隔をあけて、複数(図8では4つ)設けられている。
【0055】
また、液体流出部35における格納部12側、開口部11aの内壁側(すなわち傾斜面11b側)および基板表面2a側の各部分は、互いに連続し且つ開口した状態となっている。この液体流出部35の各開口部分の開口寸法は、被格納物9の寸法(幅や高さ等)に比べて小さい。このような液体流出部35は、格納ウェル30の格納部12と連通し、開口部11aから格納部12に流入した液体を格納部12の外部に流出させることができる。また、液体流出部35の内部へは、被格納物9は流入し得ない。
【0056】
上述した液体流出部35は、例えば、図4に示した工程ST4~ST5において、基板2のうち液体流出部35を形成する部分等を露出させるようにレジスト101をパターニングし、この部分を凹状部102とともにエッチングすることにより、形成することができる。
【0057】
本実施形態3に係る格納ウェル30には、実施形態1と同様の手法によって被格納物9が格納される。例えば、複数の被格納物9を含む液体(図示せず)が、格納ウェル群5(図1参照)に向けて基板表面2aに流される。これにより、複数の被格納物9は、基板表面2aから格納ウェル群5の各々に液体とともに格納される。この際、1つの格納ウェル30について、1つの被格納物9が、図9の破線矢印に示されるように、基板表面2aから開口部11aを通り、傾斜面11bを下って、格納部12の内部に液体とともに流れ込む。
【0058】
このように格納ウェル30に一旦格納された被格納物9は、上述した実施形態1の場合と同様に、格納部12の側壁面12aによって流れ(動き)を抑止されることから、格納ウェル30から意図的に取り出そうとしない限り、格納ウェル30から脱離し難くなる。たとえ、基板表面2a上に余分に残った被格納物9を洗浄液によって除去する洗浄工程が行われたとしても、格納ウェル30内の被格納物9は、この洗浄液によって格納ウェル30の外部に流されることなく、格納ウェル30内に留まる。
【0059】
一方、格納ウェル30への被格納物9の格納に際して、格納ウェル30の内部(特に格納部12の内部)には、被格納物9を流し込むための液体が、被格納物9よりも先に流入して充満した状態となっている場合がある。仮に、上述した液体流出部35を備えていない格納ウェルに被格納物9を格納する場合、既に液体によって充満された格納ウェルの内部へ被格納物9を流入させるためには、格納ウェルの側壁面と被格納物9の外表面との間の隙間から当該液体を外部に流出させる必要がある。この場合、上記隙間は極めて微小(例えばミクロンオーダの寸法)であることから、当該液体を外部に流出させながら被格納物9を格納ウェルの内部へ流入させることは、困難となる可能性がある。
【0060】
これに対し、上述した液体流出部35を備えている格納ウェル30では、開口部11aから格納部12の内部に向かって被格納物9が流れ込むとともに、この格納部12内を充満していた液体は、図8、9中の二点鎖線矢印に示されるように、格納部12内から液体流出部35内を通って格納ウェル30の外部の基板表面2aに流出する。これにより、格納部12内への被格納物9の流入(格納)は、格納部12内の液体によって阻害され難くなる。
【0061】
以上、説明したように、本発明の実施形態3では、格納ウェル30の格納部12と連通する液体流出部35を設け、格納部12に流入した液体を液体流出部35から格納部12の外部に流出させるようにし、その他を実施形態1と同様に構成している。このため、上述した実施形態1の場合と同様の作用効果を享受するとともに、格納部12の内部に溜まっている液体を液体流出部35から外部へ流出させながら、開口部11aから格納部12の内部へ被格納物9を流入させることができる。この結果、格納部12内への被格納物9の流入が当該液体によって阻害され難くなることから、たとえ格納部12が液体で充満された状態であっても、格納部12内に被格納物9を容易に格納することができる。
【0062】
(実施形態3の変形例1)
つぎに、本発明の実施形態3に係る格納ウェルの変形例1について説明する。図10は、本発明の実施形態3の変形例1に係る格納ウェルの一構成例を示す図である。図10には、本変形例1に係る格納ウェル30Aをその開口側から見たものが図示されている。
【0063】
上述した液体流出部35は、図8、9に示した断面スリット状の空間を形成するものに限定されず、その他の形状のものであってもよい。例えば、図10に示すように、本変形例1に係る格納ウェル30Aは、円柱状の空間を形成する液体流出部35を備えている。本変形例1における液体流出部35は、側壁面12aの一部分において格納部12の深さ方向全域に亘り開口し、この開口を通じて格納部12と連通している。また、液体流出部35の上端は、開口形成部11における傾斜面11bから開口部11aの外部に至る範囲に亘り開口し、この開口から格納ウェル30Aの外部に通じている。このような液体流出部35は、格納部12との開口寸法を上述の断面スリット状のものと同程度にしながら、格納部12と連通させる内部空間の容積を上述の断面スリット状のもの単独の容積よりも大きくすることができる。
【0064】
本変形例1に係る格納ウェル30Aにおいても、格納部12に流入した液体を液体流出部35から格納部12の外部に流出させることができるため、上述した実施形態3の場合と同様の作用効果を享受する。
【0065】
(実施形態3の変形例2)
つぎに、本発明の実施形態3に係る格納ウェルの変形例2について説明する。図11は、本発明の実施形態3の変形例2に係る格納ウェルの一構成例を示す図である。図11には、本変形例2に係る格納ウェル30Bをその開口側から見たものが図示されている。
【0066】
上述した液体流出部35の配置数は、図8に示した4つに限定されず、また、複数の液体流出部35の各外側端は、互いに連通していてもよい。例えば、図11に示すように、本変形例2に係る格納ウェル30Bは、実施形態3と同様の構成を有する複数(図11では8つ)の液体流出部35と、これら複数の液体流出部35の各外側端を互いに連通する環状溝部36とを備えている。環状溝部36は、開口形成部11および格納部12を囲む環状をなす有底の溝部であり、基板表面2a(図8参照)側に開口し、この開口から格納ウェル30Bの外部に通じている。また、環状溝部36は、複数の液体流出部35の各外側端に対応する各部分に開口を有し、これらの開口を介して複数の液体流出部35と連通している。このような環状溝部36は、複数の液体流出部35の全体の容積を、各液体流出部35の大きさや形状を維持しながら増大させることができる。
【0067】
本変形例2に係る格納ウェル30Bにおいても、格納部12に流入した液体を複数の液体流出部35および環状溝部36から格納部12の外部に流出させることができるため、上述した実施形態3の場合と同様の作用効果を享受する。
【0068】
(実施形態4)
つぎに、本発明の実施形態4に係る格納容器について説明する。図12は、本発明の実施形態4に係る格納容器の格納ウェルの一構成例を示す図である。図12には、本実施形態4に係る格納容器の格納ウェル群から抜き出した一部の格納ウェルの側断面が図示されている。図12に示すように、本実施形態4に係る格納ウェル40は、上述した実施形態1に係る格納ウェル10の開口形成部11に代えて開口形成部41を備える。特に図示しないが、本実施形態4に係る格納容器は、基板2における所定の基板表面2aの格納ウェル群5(図1参照)に含まれる格納ウェルとして、上述した実施形態1の格納ウェル10に代えて本実施形態4の格納ウェル40を備える。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0069】
開口形成部41は、格納部12とは異なるガラス材によって構成されている。例えば、格納部12は、純石英ガラスからなる。本発明において、純石英ガラスは、意図せず含まれる不純物の濃度が0.1mol%以下である石英ガラスをいう。なお、石英ガラスに意図的に不純物が添加される場合、純石英ガラスにおいて、この意図的に添加される不純物の濃度は、1.0mol%以上25mol%以下である。一方、開口形成部41は、所定の添加材料が添加された石英ガラス、例えば、ジルコニア(ZrO)が添加された石英ガラス(以下、ジルコニア添加ガラスと適宜いう)からなる。開口形成部41を構成するジルコニア添加ガラス中のジルコニアの添加率(含有率)は、対象とする石英ガラス全体の質量または体積に対して数mol%以下である。開口形成部41は、上記のように格納部12と材質が異なること以外、上述した実施形態1における開口形成部11と同様であり、図12に示すように、基板表面2aに開口する開口部11aを形成し且つ開口部11aの内壁に傾斜面11bを有する。なお、開口形成部41を構成する石英ガラスの添加材料としては、上記のジルコニアの他に、例えば、ハフニア(HfO)やアルミナ(Al)等が挙げられるが、ジルコニアが特に好ましい。
【0070】
このように互いに材質が異なる格納部12および開口形成部41を備えた格納ウェル40が格納ウェル群5の1つとして複数形成されている基板2(図1参照)は、本実施形態4において、石英ガラス等のガラス材からなるガラス基板の上にジルコニア添加ガラスからなるガラス膜(ジルコニア添加ガラス膜)が成膜された積層基板である。すなわち、本実施形態4において、図12に示す基板表面2aは、開口形成部41が設けられているジルコニア添加ガラス膜の表面となる。
【0071】
つぎに、本発明の実施形態4に係る格納ウェル40の製造方法について説明する。図13は、本発明の実施形態4に係る格納ウェルの製造方法の一例を示す図である。本実施形態4に係る格納容器の格納ウェル群5の各々は、この格納ウェル40と同様の製造方法によって形成される。なお、以下では、開口形成部41を構成する石英ガラスとしてジルコニア添加ガラスを例示し、本実施形態4に係る格納ウェルの製造方法を説明するが、本製造方法は、当該石英ガラスの添加材料がジルコニア以外(例えばハフニアやアルミナ等)である場合も同様である。
【0072】
図13に示すように、格納ウェル40の製造方法では、まず、純石英ガラスからなるガラス基板121上に形成されたジルコニア添加ガラス膜122の表面に、レジスト101をパターニングする工程ST21が行われる。この工程ST21において、レジスト101は、フォトリソグラフィ技術により、ジルコニア添加ガラス膜122のうち格納ウェル40が形成される部分を露出させるパターンをなすように、ジルコニア添加ガラス膜122上に成膜される。
【0073】
工程ST21を実行後、レジスト101のパターン状にジルコニア添加ガラス膜122をエッチングする工程ST22が行われる。この工程ST22においては、工程ST21によるレジスト101がマスクとなり、ジルコニア添加ガラス膜122のうちレジスト101で覆われていない部分がドライエッチングされる。これにより、ジルコニア添加ガラス膜122の当該部分には、図13に示すように、内壁に傾斜面11bを有する凹状部102が形成される。この傾斜面11bは、ジルコニア添加ガラス膜122のうちレジスト101にマスクされた表面部分から凹状部102の底面に向かって下るように傾斜している。また、この工程ST22の段階において、凹状部102は、ジルコニア添加ガラス膜122のドライエッチングによって露出したガラス基板121の露出面を底面としている。
【0074】
ここで、ジルコニア添加ガラス膜122のうちレジスト101によるパターン状の露出部分に対してドライエッチングが行われた場合、この露出部分のエッチング速度は、この露出部分の中央側からマスク側(レジスト101による被覆側)に近づくに伴い遅くなる傾向にある。すなわち、ジルコニア添加ガラス膜122は、ドライエッチングの際にマスク側から中央側に向かって下る傾斜面を形成し易いという特徴を有している。このため、ジルコニア添加ガラス膜122の露出部分においては、ドライエッチングにより、中央側の部分のエッチング深さが増大するとともに、マスク側の部分には上述した態様の傾斜面11b(図13参照)が形成される。
【0075】
工程ST22に続いて、上述した凹状部102をエッチングする工程ST23が行われる。この工程ST23においては、上述したレジスト101が引き続きマスクとなり、ガラス基板121およびジルコニア添加ガラス膜122のうち、レジスト101からパターン状に露出した部分、すなわち、工程ST22による凹状部102が、さらにドライエッチングされる。これにより、凹状部102は、図13に示すように、ジルコニア添加ガラス膜122の部分に傾斜面11bを残しながら、ガラス基板121のエッチング深さが増大して更に深く形成される。
【0076】
本実施形態4において、上述した工程ST22および工程ST23は、双方とも同じパターンのレジスト101をマスクとして用いたドライエッチングであるため、1度のドライエッチングによって連続的に行われる。
【0077】
工程ST23を実行後、レジスト101を除去する工程ST24が行われ、本処理が完了する。この工程ST24において、レジスト101は、所定のレジスト剥離処理等により、ジルコニア添加ガラス膜122上から除去される。これにより、図13に示すように、ジルコニア添加ガラス膜122の部分に開口部11aおよび傾斜面11bを有する開口形成部41と、ガラス基板121の部分に側壁面12aを有する有底の格納部12とからなる格納ウェル40が基板(ガラス基板121とジルコニア添加ガラス膜122との積層基板)に形成される。
【0078】
以上、説明したように、本発明の実施形態4では、基板表面2aに開口する開口部11aと基板表面2aから深さ方向F1の下側に傾斜する傾斜面11bとを有する開口形成部41を、ジルコニア等の添加材料が添加された石英ガラスによって構成するようにし、その他を実施形態1と同様に構成している。
【0079】
このため、上述した実施形態1の場合と同様の作用効果を享受するとともに、格納ウェル40の開口部11a、傾斜面11bおよび格納部12を1度のドライエッチングによって連続的に形成できるので、格納ウェル40の製造工程から、開口部および傾斜面を形成するためのウェットエッチング工程と、このウェットエッチングを行うためのレジストの成膜工程および除去工程とを省くことができ、この結果、格納ウェル40の製造に掛かる手間を軽減して容易に格納ウェル40を形成することができる。
【0080】
なお、上述した実施形態1~4では、上面視の形状(開口側から見た形状)が円形状の開口部および格納部を備えた格納ウェルを例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、格納ウェルの開口部および格納部の上面視の形状は、円形状、楕円形状、多角形状等、被格納物の形状や用途等に合わせて所望の形状としてもよい。また、これら開口部および格納部の各上面視の形状は、互いに同じ形状であってもよいし、互いに異なる形状であってもよい。
【0081】
また、上述した実施形態2では、開口部21a、傾斜面21bおよび上部側壁面21cを有する開口形成部21の材質を、格納部22と同じ材質(例えば石英ガラス)としていたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、開口形成部21の材質は、上述した実施形態4と同様に、ジルコニア等の添加材料が添加された石英ガラスとし、格納部22の材質とは相異させてもよい。
【0082】
また、上述した実施形態3および変形例1、2では、開口部の内壁全周に亘って傾斜面が形成されている格納ウェルの格納部と連通する液体流出部が例示されていたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、液体流出部は、開口部の内壁に傾斜面および上部側壁面が形成されている格納ウェルの格納部と連通するものであってもよいし、ジルコニアが添加された石英ガラスからなる開口形成部を備えた格納ウェルの格納部と連通するものであってもよい。すなわち、本発明に係る格納ウェルは、実施形態1と実施形態3および変形例1、2とを適宜組み合わせたものであってもよいし、実施形態2と実施形態3および変形例1、2とを適宜組み合わせたものであってもよいし、実施形態4と実施形態3および変形例1、2とを適宜組み合わせたものであってもよい。
【0083】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 格納容器
2 基板
2a 基板表面
5 格納ウェル群
9 被格納物
10、20、30、30A、30B、40 格納ウェル
11、21、41 開口形成部
11a、21a 開口部
11b、21b 傾斜面
12、22 格納部
12a 側壁面
13、23 底部
14 稜線
21c 上部側壁面
35 液体流出部
36 環状溝部
101 レジスト
102、112 凹状部
113 傾斜面
121 ガラス基板
122 ジルコニア添加ガラス膜
CL 開口中心軸
F1 深さ方向
F2 幅方向
F3 所定方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13