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  • 特許-加熱炉 図1
  • 特許-加熱炉 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】加熱炉
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/014 20060101AFI20220207BHJP
   C03B 5/425 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C03B37/014 Z
C03B5/425
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019055697
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020152624
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 稔之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕志
【審査官】松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124252(JP,A)
【文献】特開昭60-059084(JP,A)
【文献】特開2018-203567(JP,A)
【文献】国際公開第2005/000752(WO,A1)
【文献】特開平09-250737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00-37/16
C03B 5/425
C03B 8/00- 8/04
C03C 1/00-14/00
F23L 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ用母材を脱水またはガラス化する加熱炉であって、
休転時に加熱炉の内部の金属表面の近傍の相対湿度を、金属表面に形成される塩化物の吸湿が進む相対湿度未満に保持する調整機構を有し、
前記加熱炉は、上下方向に延びる炉心管と、前記炉心管の外周に設けられたヒータと、前記ヒータの外周に設けられた断熱機構と、前記断熱機構の外周に設けられ、冷却水が循環する冷却水系統と、前記調整機構と、前記炉心管と、前記ヒータと、前記断熱機構と、前記冷却水系統を収容する炉体とからなり、
前記調整機構は、前記冷却水系統と接続されており、前記調整機構は、冷水または温水を循環させる循環機構で、前記冷却水系統を介して前記加熱炉内部の温度を調整することにより、前記加熱炉内部の金属表面の近傍の雰囲気の相対湿度を、金属表面に形成している塩化物の潮解性によって吸湿が進行しない相対湿度未満に保持することを特徴とする加熱炉。
【請求項2】
光ファイバ用母材を脱水またはガラス化する加熱炉であって、
前記加熱炉は、上下方向に延びる炉心管と、前記炉心管の外周に設けられたヒータと、前記ヒータの外周に設けられた断熱機構と、前記炉心管と、前記ヒータと、前記断熱機構を収容する炉体と、前記加熱炉内で前記炉心管の外側の領域に、露点調整した空気を送風する温度調整・送風部とからなり、
前記温度調整・送風部は、第1の送風量調整弁を設けたダクトと接続しており、前記温度調整・送風部から前記ダクトと前記第1の送風量調整弁を介して少なくとも前記炉体内部に露点調整した空気を送風し、前記加熱炉内部の金属表面の近傍の雰囲気の相対湿度を、金属表面に形成している塩化物の潮解性によって吸湿が進行しない相対湿度未満に保持することを特徴とする加熱炉。
【請求項3】
前記ダクトは、分岐部を介して分岐され第2の送風量調整弁を介して前記炉心管上部に設置された開閉部と、前記開閉部を覆う簡易フードに接続されており、前記温度調整・送風部から前記ダクトと前記第2の送風量調整弁を介して前記開閉部に露点調整した空気を送風することを特徴とする請求項2に記載の加熱炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉の腐食防止方法および加熱炉に関し、特に光ファイバ用母材を脱水またはガラス化する加熱炉の腐食防止方法および加熱炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ製造の際に光ファイバ用母材を脱水・ガラス化する加熱炉が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この加熱炉の内部表面は通常、ステンレス鋼等の金属で構成されている。
【0003】
一方、腐食性ガスに接触する金属表面の腐食を防止する一般的な手法として、例えば特許文献2に記載のものが知られている。この特許文献2は、金属表面が結露しないように金属表面の温度を雰囲気の露点温度以上に維持するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-256415号公報
【文献】特許第3209913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、光ファイバ製造を中断する休転時には、加熱炉内部表面は筐体を循環している冷却水(20℃~30℃)により冷却水温度近傍まで低下する。そして、外部雰囲気と接触するが、その雰囲気は15℃から25℃、40%RHから60%RH(露点温度1.5~16.7℃)に調整されているため、通常であれば結露しない。しかしながら、加熱炉内部の金属表面はプロセス中は高温に曝されている状態で腐食性ガス(特に塩素および塩化水素)と接触することで塩化物(特に塩化鉄)を形成しているため、休転時に表面近傍の雰囲気が露点温度以上に保たれていても、その潮解性により吸湿し、腐食が進行するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、休転時の加熱炉内の腐食を防ぐことのできる加熱炉の腐食防止方法および加熱炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る加熱炉の腐食防止方法は、光ファイバ用母材を脱水またはガラス化する加熱炉の腐食を防止するための方法であって、加熱炉の内部の金属表面の近傍の相対湿度を、金属表面に形成される塩化物の吸湿が進む相対湿度未満に保持することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の加熱炉の腐食防止方法は、上述した発明において、金属表面の雰囲気の相対湿度を40%未満に調整することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の加熱炉の腐食防止方法は、上述した発明において、金属表面の雰囲気の相対湿度を40%未満に調整するために、露点を調整した空気を供給することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る加熱炉は、光ファイバ用母材を脱水またはガラス化する加熱炉であって、休転時に加熱炉の内部の金属表面の近傍の相対湿度を、金属表面に形成される塩化物の吸湿が進む相対湿度未満に保持する調整機構を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の加熱炉は、上述した発明において、調整機構は、温水を循環させる循環機構であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る加熱炉の腐食防止方法によれば、光ファイバ用母材を脱水またはガラス化する加熱炉の腐食を防止するための方法であって、加熱炉の内部の金属表面の近傍の相対湿度を、金属表面に形成される塩化物の吸湿が進む相対湿度未満に保持するので、休転時の加熱炉内の腐食を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る加熱炉の腐食防止方法および加熱炉の実施の形態1を示す概略構成図である。
図2図2は、本発明に係る加熱炉の腐食防止方法および加熱炉の実施の形態2を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る加熱炉の腐食防止方法および加熱炉の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
図1に示すように、本実施の形態1に係る加熱炉10は、ガラス体(光ファイバ用母材)を脱水またはガラス化するためのものである。この加熱炉10は、上下方向に延びる炉心管12と、炉心管12の外周に設けられたヒータ14と、ヒータ14の外周に設けられた断熱機構16と、断熱機構16の外周に設けられ、冷却水が循環する冷却水系統18と、これらを収容する炉体20と、冷却水系統18と接続した金型温調機22(調整機構)とを備える。
【0016】
炉体20は、例えばステンレス鋼等の金属により形成されており、炉心管12は、例えば石英ガラスにより形成されており、ヒータ14および断熱機構16は、例えばグラファイト等のカーボン材料により形成されている。
【0017】
炉心管12の上部には、ガラス体を挿入、取り出すための投入口24とこれを開閉する上蓋26が設けられている。また、炉心管12の下端には、導入口28が設けられ、上蓋26には、排出管30が設けられている。そして、この導入口28を介して炉心管12内へのガスの導入(吸気)が行われ、排出管30を介して炉心管12内からのガスの排出(排気)が行われる。炉心管12の上端の外周には、冷却水系統18Aが設けられている。この冷却水系統18Aと炉心管12の上端は、簡易フード32に覆われている。冷却水系統18Aは金型温調機22と接続している。
【0018】
金型温調機22は、冷却水系統18、18Aに冷水または温水を循環させる循環機構として機能する。金型温調機22は、冷却水系統18、18Aを介して、加熱炉10内部の金属表面の近傍の雰囲気の相対湿度を、金属表面に形成している塩化物が潮解性によって吸湿が進行しない相対湿度未満に保持可能である。例えば、金属表面に形成される塩化物として主に塩化鉄が想定される場合には、塩化鉄が潮解性を示す相対湿度40%を下回るように金属表面の温度を保持する。こうすることで、光ファイバ製造を中断する休転時に金属表面の腐食が進行するのを防止することができる。
【0019】
上記の構成の動作および作用について説明する。
光ファイバ製造時にヒータ14を発熱させると、炉心管12が昇温し、炉心管12の内部に挿入された被加熱物であるガラス体を所望の温度に加熱する。一方、光ファイバ製造を中断する休転時には、金型温調機22が冷却水系統18、18Aを介して加熱炉10内部の温度を調整することにより、加熱炉10内部の金属表面の近傍の雰囲気の相対湿度を、金属表面に形成している塩化物が潮解性によって吸湿が進行しない相対湿度未満に保持する。
【0020】
本実施の形態1によれば、休転時における加熱炉10内部の金属表面の近傍の雰囲気の相対湿度が、塩化物の潮解性によって吸湿しない相対湿度未満に保持されるので、加熱炉10内の腐食を防ぐことができる。腐食による設備劣化が防げるので光ファイバ製造コストの上昇を回避することができる。
【0021】
[実施例1]
本発明の実施例1について説明する。
加熱炉10近傍の雰囲気が20℃60%RHで管理されている状態で加熱炉10を休転したところ、加熱炉10内部の表面温度が22℃まで低下し、表面が湿潤状態になり、腐食が進行した。この雰囲気の場合、相対湿度40%未満となる温度は27℃である。一方、図1に示すように、冷却水系統18に金型温調機22を接続し、40℃設定の温水を循環させたところ、表面温度は35℃で保持され、腐食が進行することはなかった。また、雰囲気を20℃35%RHに調整したところ、表面温度は同様に22℃まで低下したが、腐食は進行しなかった。
【0022】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図2に示すように、本実施の形態2に係る加熱炉100は、上記の実施の形態1の加熱炉10において、金型温調機22の代わりに温度調整・送風部34を設けたものである。
【0023】
温度調整・送風部34は、加熱炉100内で炉心管12の外側の領域に、露点調整した空気を送風するためのものである。温度調整・送風部34は、ダクト35と接続しており、このダクト35には送風量調整弁36、38が設けられている。温度調整・送風部34は、ダクト35と送風量調整弁36を介して炉体20内部に露点調整した空気を送風する一方、ダクト35と送風量調整弁38を介して簡易フード32内部に露点調整した空気を送風する。送風は炉心管12の開閉部分(上蓋26の周囲)を重点的に行うように構成されている。送風する空気は、加熱炉100内部の金属表面の近傍の雰囲気の相対湿度を、金属表面に形成している塩化物が潮解性によって吸湿が進行しない相対湿度未満に保持可能なように露点を調整した空気である。例えば、金属表面に形成される塩化物として主に塩化鉄が想定される場合には、温度調整・送風部34は、塩化鉄が潮解性を示す相対湿度40%を下回るように露点を調整した空気を供給する。こうすることで、光ファイバ製造を中断する休転時に金属表面の腐食が進行するのを防止することができる。
【0024】
本実施の形態2では、特に腐食が発生しやすい上蓋26の周囲に多くの空気が流れるように、温度調整・送風部34からの送風系統を炉心管12の上蓋26とそれ以外で2系統に分けるとともに、各系統の送風量が調整できる送風量調整弁36、38を設けることで、できるだけ加熱炉100内部の開放部分に多くの流量が流れるようにしている。
【0025】
また、本実施の形態2では、上蓋26の部分を簡易フード32で囲い、この内部で効果的に空気の循環ができるようにしている。これにより、より効果的に腐食を防止できるようになる。
【0026】
上記の構成の動作および作用について説明する。
光ファイバ製造を中断する休転時に、温度調整・送風部34がダクト35、送風量調整弁36、38を介して温度調整された空気を加熱炉100内部に送風し、内部の温度を調整することにより、加熱炉100内部の金属表面の近傍の雰囲気の相対湿度を、金属表面に形成している塩化物が潮解性によって吸湿が進行しない相対湿度未満に保持する。
【0027】
本実施の形態2によれば、休転時における加熱炉100内部の金属表面の近傍の雰囲気の相対湿度が、塩化物の潮解性によって吸湿しない相対湿度未満に保持されるので、加熱炉100内の腐食を防ぐことができる。腐食による設備劣化が防げるので光ファイバ製造コストの上昇を回避することができる。
【0028】
[実施例2]
本発明の実施例2について説明する。
加熱炉100近傍の雰囲気が上記の実施例1と同じく20℃60%RHで管理されている状態で、腐食を防止するために相対湿度が40%未満になるには温度は27℃必要である。これに対し、温度調整・送風部34で38℃に設定した空気を送風したところ、表面温度は33℃で保持され腐食の進行はなかった。
【0029】
以上説明したように、本発明に係る加熱炉の腐食防止方法によれば、光ファイバ用母材を脱水またはガラス化する加熱炉の腐食を防止するための方法であって、加熱炉の内部の金属表面の近傍の相対湿度を、金属表面に形成される塩化物の吸湿が進む相対湿度未満に保持するので、休転時の加熱炉内の腐食を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0030】
10,100 加熱炉
12 炉心管
14 ヒータ
16 断熱機構
18,18A 冷却水系統
20 炉体
22 金型温調機(調整機構)
24 投入口
26 上蓋
28 導入口
30 排出管
32 簡易フード
34 温度調整・送風部(調整機構)
35 ダクト
36,38 送風量調整弁
図1
図2