(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】キャブタイヤケーブル、キャブタイヤケーブル用絶縁電線及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20220207BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20220207BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20220207BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220207BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220207BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20220207BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20220207BHJP
C08K 5/5425 20060101ALI20220207BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
H01B7/04
C08J3/24 A
C08J3/22
H01B7/02 Z
H01B7/18 H
C08L23/16
C08L53/02
C08K5/5425
C08K3/36
(21)【出願番号】P 2019062724
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100198328
【氏名又は名称】田中 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
(72)【発明者】
【氏名】松村 有史
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-199783(JP,A)
【文献】特開2012-113828(JP,A)
【文献】特開2015-086385(JP,A)
【文献】特開2004-335263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
C08J 3/24
C08J 3/22
H01B 7/02
H01B 7/18
C08L 23/16
C08L 53/02
C08K 5/5425
C08K 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁電線の外周をシースで被覆してなるキャブタイヤケーブルであって、
前記絶縁電線が、導体と、前記導体の外周を被覆する内側絶縁層と、前記内側絶縁層の外周を被覆する外側絶縁層とを有し、
前記内側絶縁層が、ポリオレフィン樹脂を含んでなり、
前記外側絶縁層が、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなり、
前記シースが、下記シラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物からなる、キャブタイヤケーブル。
〔シラン架橋性組成物J〕
含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対して、無機フィラー(Q)1~200質量部と、前記ベース樹脂(B)とグラフト化反応したシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下と、シラノール縮合触媒(Y)とを含有するシラン架橋性組成物J
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びポリプロピレンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含有する、請求項1に記載のキャブタイヤケーブル。
【請求項3】
前記外側絶縁層が、下記シラン架橋性組成物Iのシラノール縮合硬化物からなる、請求項1又は2に記載のキャブタイヤケーブル。
〔シラン架橋性組成物I〕
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、無機フィラー(P)1~400質量部と、前記ベース樹脂(A)とグラフト化反応したシランカップリング剤(E)1~15.0質量部と、シラノール縮合触媒(X)とを含有するシラン架橋性組成物I
【請求項4】
前記ベース樹脂(B)が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルと可塑剤とを含有する請求項1~3のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブル。
【請求項5】
導体と、前記導体の外周を被覆する内側絶縁層と、前記内側絶縁層の外周を被覆する外側絶縁層とを有するキャブタイヤケーブル用絶縁電線であって、
前記キャブタイヤケーブルが下記シラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物からなるシースを有しており、
前記内側絶縁層がポリオレフィン樹脂を含んでなり、前記外側絶縁層がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなる、キャブタイヤケーブル用絶縁電線。
〔シラン架橋性組成物J〕
含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対して、無機フィラー(Q)1~200質量部と、前記ベース樹脂(B)とグラフト化反応したシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下と、シラノール縮合触媒(Y)とを含有するシラン架橋性組成物J
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びポリプロピレンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含有する、請求項5に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線。
【請求項7】
前記外側絶縁層が、下記シラン架橋性組成物Iのシラノール縮合硬化物からなる、請求項5又は6に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線。
〔シラン架橋性組成物I〕
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、無機フィラー(P)1~400質量部と、前記ベース樹脂(A)とグラフト化反応したシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とシラノール縮合触媒(X)とを含有するシラン架橋性組成物I
【請求項8】
前記ベース樹脂(B)が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルと可塑剤とを含有する請求項5~7のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線。
【請求項9】
導体と、前記導体の外周を被覆する、ポリオレフィン樹脂を含む内側絶縁層と、前記内側絶縁層の外周を被覆する、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含む外側絶縁層とを有する絶縁電線の外周をシースで被覆してなるキャブタイヤケーブルの製造方法であって、
前記内側絶縁層、前記外側絶縁層、及び前記シースを下記工程(1)、工程(2)及び工程(k)~(n)によりそれぞれ形成する、キャブタイヤケーブルの製造方法。
工程(1):前記導体の外周をポリオレフィン樹脂で被覆して前記内側絶縁層を形成する工程
工程(2):前記内側絶縁層の外周を、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方で被覆し、前記エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を硬化させて、前記外側絶縁層を形成する工程
工程(k):含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対して、有機過酸化物(D)0.003~0.3質量部と、無機フィラー(Q)1~200質量部と、前記ベース樹脂(B)とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下とを溶融混合して、前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂(B)とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂Hを含むシランマスターバッチLを調製する工程
工程(l):前記シランマスターバッチLとシラノール縮合触媒(Y)とを溶融混合してシラン架橋性組成物Jを得る工程
工程(m):前記シラン架橋性組成物Jで、前記絶縁電線の外周を被覆してシース前駆体を形成する工程
工程(n):前記シース前駆体を水分と接触させて前記シースを形成する工程
【請求項10】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びポリプロピレンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含有する、請求項
9に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項11】
前記工程(2)の前記被覆後に、前記内側絶縁層が前記ポリオレフィン樹脂の融点
+60℃を超える温度に加熱されない、請求項
9又は10に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項12】
前記工程(2)を下記工程(a)~(d)により行う請求項
9~11のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
工程(a):エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、有機過酸化物(C)0.01~0.6質量部と、無機フィラー(P)1~400質量部と、前記ベース樹脂(A)とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とを溶融混合して、前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂(A)とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂Gを含むシランマスターバッチKを調製する工程
工程(b):前記シランマスターバッチK及びシラノール縮合触媒(X)を溶融混合してシラン架橋性組成物Iを得る工程
工程(c):前記シラン架橋性組成物Iで前記内側絶縁層の外周を被覆して外側絶縁層前駆体を形成する工程
工程(d):前記外側絶縁層前駆体を水と接触させて前記外側絶縁層を形成する工程
【請求項13】
前記ベース樹脂(A)の一部を前記工程(a)において溶融混合し、前記ベース樹脂(A)の残部を前記工程(b)において溶融混合する、請求項
12に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項14】
前記ベース樹脂(B)が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルと可塑剤とを含有する請求項
9~13のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項15】
前記ベース樹脂(B)の一部を前記工程(k)において溶融混合し、前記ベース樹脂(B)の残部を前記工程(l)において溶融混合する、請求項
9~14のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項16】
前記ベース樹脂(B)の残部がクロロプレンゴムを含有する、請求項
9~15のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項17】
前記無機フィラー(Q)がシリカを2質量部以上含有する請求項
9~16のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項18】
前記工程(k)における、前記無機フィラー(Q)の混合量が3~60質量部である請求項
9~17のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項19】
前記工程(k)の溶融混合が、密閉型のミキサーで行われる請求項
9~18のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
【請求項20】
導体と、前記導体の外周を被覆する、ポリオレフィン樹脂を含む内側絶縁層と、前記内側絶縁層の外周を被覆する、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含む外側絶縁層とを有
し、請求項9~19のいずれかに記載の、キャブタイヤケーブルの製造方法の工程(k)~(n)に供されるキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法であって、
前記内側絶縁層及び前記外側絶縁層を、それぞれ、下記工程(1)及び(2)により形成する、キャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
工程(1):前記導体の外周をポリオレフィン樹脂で被覆して前記内側絶縁層を形成する工程
工程(2):前記内側絶縁層の外周を、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方で被覆し、前記エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を硬化させて、前記外側絶縁層を形成する工程
【請求項21】
前記工程(2)の前記被覆後に、前記内側絶縁層が前記ポリオレフィン樹脂の融
点+60℃を超える温度に加熱されない、請求
項20に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
【請求項22】
前記工程(2)を下記工程(a)~(d)により行う請求項
20又は21に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
工程(a):エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、有機過酸化物(C)0.01~0.6質量部と、無機フィラー(P)1~400質量部と、前記ベース樹脂(A)とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とを溶融混合して、前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂(A)とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂Gを含むシランマスターバッチKを調製する工程
工程(b):前記シランマスターバッチK及びシラノール縮合触媒(X)を溶融混合してシラン架橋性組成物Iを得る工程
工程(c):前記シラン架橋性組成物Iで前記内側絶縁層の外周を被覆して外側絶縁層前駆体を形成する工程
工程(d):前記外側絶縁層前駆体を水と接触させて前記外側絶縁層を形成する工程
【請求項23】
前記ベース樹脂(A)の一部を前記工程(a)において溶融混合し、前記ベース樹脂(A)の残部を前記工程(b)において溶融混合する、請求項22に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャブタイヤケーブル、これに用いるキャブタイヤケーブル用絶縁電線、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャブタイヤケーブルは、導体の外周にゴム系絶縁層及びシースを有し、シースとして機械的強度の大きい天然ゴムあるいはポリクロロプレンゴム組成物を被覆したものである。キャブタイヤケーブルは、主に建設現場での給電用電線などとして広く使用されている。
キャブタイヤケーブルの結線には、通常、ケーブルの端部における絶縁層(内側絶縁層を含む)及びシースを部分的に取り除いて、電源や別のケーブル等と電気的に接続させる。しかし、キャブタイヤケーブル中の絶縁電線から絶縁層を除去する際に、除去対象部分の絶縁層の一部がむきとれずに導体上に残存し、又は、除去非対象部分の絶縁層の切断端面から延びるひげ(絶縁層を厚さ方向に切断できずに絶縁層の切断端面に残存する(切断端面から延在する)、絶縁層に由来する線状体(毛状体))が生じ、絶縁層の皮むき性に劣る場合や、絶縁層と導体が接着しているために導体自体が伸びてしまう場合があった。そこで、内側絶縁層(いわゆるセパレータ層)を絶縁層の内側に設けることで、絶縁層と導体間の密着の度合いを下げ、絶縁層の皮むき性の改良、導体の延伸を防止する方法が採られてきた。例えば、特許文献1及び特許文献2には、導体上にセパレータ層を有し、その外周を絶縁層で被覆したキャブタイヤケーブルが記載されている。
このセパレータ層としては、例えば、紙、及びポリエチレンテレフタレート等の樹脂を用いた層が使用されてきた。例えば、特許文献3には、セパレータ層として、クロスもしくはフィルムの少なくとも一方の面にゴムコーティングを施した複合テープを用いる技術が提案されている。また、特許文献4には、セパレータ層としてポリエステル製のテープやナイロン製のテープを使用してもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公昭58-38931号公報
【文献】実開平7-16325号公報
【文献】特開昭61-27008号公報
【文献】特開2016-95994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャブタイヤケーブルは、配線、特に、工作機器の移動部分の電気的接続に使用され、作業現場などにおいて通電状態のまま移動される。その際に、多数回にわたって、さらには機械的に、屈曲及び延伸が繰り返されるため、キャブタイヤケーブルには、優れた屈曲耐久性(多数回の屈曲によっても断線しにくい性質)が求められる。
また、上記のようなセパレータ層を有するキャブタイヤケーブルについては、皮むきの際に内側絶縁層(セパレータ層)がむきとれずに導体上に残ってしまう等、絶縁層(内側絶縁層及び外側絶縁層)の皮むき性になお改善の余地があった。
さらに、シースについても、皮むきの際に、シース部分を剥ぎとることができない等、シースの皮むき性にもなお改善の余地があった。
【0005】
本発明は、優れた屈曲耐久性と、絶縁層及びシースの優れた皮むき性とを兼ね備えたキャブタイヤケーブル、これに用いる、皮むき性に優れた絶縁層を有するキャブタイヤケーブル用絶縁電線を提供すること、を課題とする。また、本発明は、上記キャブタイヤケーブル及びキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、導体の外周を被覆する絶縁層としてポリオレフィン樹脂を含んでなる絶縁層と、その外周を被覆する絶縁層としてエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなる絶縁層とを有するキャブタイヤケーブル用絶縁電線の外周に、特定のシラン架橋性組成物のシラノール縮合硬化物のシースを有するキャブタイヤケーブルが優れた屈曲耐久性と、絶縁層及びシースの優れた皮むき性とを兼ね備えることを見出した。本発明者らはこの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
〔1〕
絶縁電線の外周をシースで被覆してなるキャブタイヤケーブルであって、
前記絶縁電線が、導体と、前記導体の外周を被覆する内側絶縁層と、前記内側絶縁層の外周を被覆する外側絶縁層とを有し、
前記内側絶縁層が、ポリオレフィン樹脂を含んでなり、
前記外側絶縁層が、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなり、
前記シースが、下記シラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物からなる、キャブタイヤケーブル。
〔シラン架橋性組成物J〕
含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対して、無機フィラー(Q)1~200質量部と、前記ベース樹脂(B)とグラフト化反応したシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下と、シラノール縮合触媒(Y)とを含有するシラン架橋性組成物J
〔2〕
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びポリプロピレンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含有する、〔1〕に記載のキャブタイヤケーブル。
〔3〕
前記外側絶縁層が、下記シラン架橋性組成物Iのシラノール縮合硬化物からなる、〔1〕又は〔2〕に記載のキャブタイヤケーブル。
〔シラン架橋性組成物I〕
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、無機フィラー(P)1~400質量部と、前記ベース樹脂(A)とグラフト化反応したシランカップリング剤(E)1~15.0質量部と、シラノール縮合触媒(X)とを含有するシラン架橋性組成物I
〔4〕
前記ベース樹脂(B)が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルと可塑剤とを含有する〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブル。
〔5〕
導体と、前記導体の外周を被覆する内側絶縁層と、前記内側絶縁層の外周を被覆する外側絶縁層とを有するキャブタイヤケーブル用絶縁電線であって、
前記内側絶縁層がポリオレフィン樹脂を含んでなり、前記外側絶縁層がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなる、キャブタイヤケーブル用絶縁電線。
〔6〕
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びポリプロピレンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含有する、〔5〕に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線。
〔7〕
前記外側絶縁層が、下記シラン架橋性組成物Iのシラノール縮合硬化物からなる、〔5〕又は〔6〕に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線。
〔シラン架橋性組成物I〕
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、無機フィラー(P)1~400質量部と、前記ベース樹脂(A)とグラフト化反応したシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とシラノール縮合触媒(X)とを含有するシラン架橋性組成物I
〔8〕
導体と、前記導体の外周を被覆する、ポリオレフィン樹脂を含む内側絶縁層と、前記内側絶縁層の外周を被覆する、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含む外側絶縁層とを有する絶縁電線の外周をシースで被覆してなるキャブタイヤケーブルの製造方法であって、
前記内側絶縁層、前記外側絶縁層、及び前記シースを下記工程(1)、工程(2)及び工程(k)~(n)によりそれぞれ形成する、キャブタイヤケーブルの製造方法。
工程(1):前記導体の外周をポリオレフィン樹脂で被覆して前記内側絶縁層を形成する工程
工程(2):前記内側絶縁層の外周を、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方で被覆し、前記エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を硬化させて、前記外側絶縁層を形成する工程
工程(k):含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対して、有機過酸化物(D)0.003~0.3質量部と、無機フィラー(Q)1~200質量部と、前記ベース樹脂(B)とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下とを溶融混合して、前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂(B)とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂Hを含むシランマスターバッチLを調製する工程
工程(l):前記シランマスターバッチLとシラノール縮合触媒(Y)とを溶融混合してシラン架橋性組成物Jを得る工程
工程(m):前記シラン架橋性組成物Jで、前記絶縁電線の外周を被覆してシース前駆体を形成する工程
工程(n):前記シース前駆体を水分と接触させて前記シースを形成する工程
〔9〕
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びポリプロピレンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含有する、〔8〕に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔10〕
前記工程(2)の前記被覆後に、前記内側絶縁層が前記ポリオレフィン樹脂の融点以上の温度に加熱されない、〔8〕又は〔9〕に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔11〕
前記工程(2)を下記工程(a)~(d)により行う〔8〕~〔10〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
工程(a):エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、有機過酸化物(C)0.01~0.6質量部と、無機フィラー(P)1~400質量部と、前記ベース樹脂(A)とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とを溶融混合して、前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂(A)とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂Gを含むシランマスターバッチKを調製する工程
工程(b):前記シランマスターバッチK及びシラノール縮合触媒(X)を溶融混合してシラン架橋性組成物Iを得る工程
工程(c):前記シラン架橋性組成物Iで前記内側絶縁層の外周を被覆して外側絶縁層前駆体を形成する工程
工程(d):前記外側絶縁層前駆体を水と接触させて前記外側絶縁層を形成する工程
〔12〕
前記ベース樹脂(A)の一部を前記工程(a)において溶融混合し、前記ベース樹脂(A)の残部を前記工程(b)において溶融混合する、〔11〕に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔13〕
前記ベース樹脂(B)が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルと可塑剤とを含有する〔8〕~〔12〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔14〕
前記ベース樹脂(B)の一部を前記工程(k)において溶融混合し、前記ベース樹脂(B)の残部を前記工程(l)において溶融混合する、〔8〕~〔13〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔15〕
前記ベース樹脂(B)の残部がクロロプレンゴムを含有する、〔8〕~〔14〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔16〕
前記無機フィラー(Q)がシリカを2質量部以上含有する〔8〕~〔15〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔17〕
前記工程(k)における、前記無機フィラー(Q)の混合量が3~60質量部である〔8〕~〔16〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔18〕
前記工程(k)の溶融混合が、密閉型のミキサーで行われる〔8〕~〔17〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブルの製造方法。
〔19〕
導体と、前記導体の外周を被覆する、ポリオレフィン樹脂を含む内側絶縁層と、前記内側絶縁層の外周を被覆する、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含む外側絶縁層とを有するキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法であって、
前記内側絶縁層及び前記外側絶縁層を、それぞれ、下記工程(1)及び(2)により形成する、キャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
工程(1):前記導体の外周をポリオレフィン樹脂で被覆して前記内側絶縁層を形成する工程
工程(2):前記内側絶縁層の外周を、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方で被覆し、前記エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を硬化させて、前記外側絶縁層を形成する工程
〔20〕
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びポリプロピレンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含有する、〔19〕に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
〔21〕
前記工程(2)の前記被覆後に、前記内側絶縁層が前記ポリオレフィン樹脂の融点+60℃を超える温度に加熱されない、〔19〕又は〔20〕に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
〔22〕
前記工程(2)を下記工程(a)~(d)により行う〔19〕~〔21〕のいずれか1項に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
工程(a):エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、有機過酸化物(C)0.01~0.6質量部と、無機フィラー(P)1~400質量部と、前記ベース樹脂(A)とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とを溶融混合して、前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂(A)とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂Gを含むシランマスターバッチKを調製する工程
工程(b):前記シランマスターバッチK及びシラノール縮合触媒(X)を溶融混合してシラン架橋性組成物Iを得る工程
工程(c):前記シラン架橋性組成物Iで前記内側絶縁層の外周を被覆して外側絶縁層前駆体を形成する工程
工程(d):前記外側絶縁層前駆体を水と接触させて前記外側絶縁層を形成する工程
〔23〕
前記ベース樹脂(A)の一部を前記工程(a)において溶融混合し、前記ベース樹脂(A)の残部を前記工程(b)において溶融混合する、〔22〕に記載のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法。
【0008】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のキャブタイヤケーブルは、優れた屈曲耐久性と、絶縁層及びシースの優れた皮むき性とを兼ね備えている。本発明のキャブタイヤケーブル用絶縁電線は、絶縁層の皮むき性に優れており、上記キャブタイヤケーブルに好適に用いることができる。さらに、本発明のキャブタイヤケーブルの製造方法及びキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法によれば、上記優れた特性を有する、キャブタイヤケーブル及びキャブタイヤケーブル用絶縁電線を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のキャブタイヤケーブルの一態様の構造を表す端面図である。
【
図2】本発明のキャブタイヤケーブルの別の一態様の構造を表す端面図である。
【
図3】本発明のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の一態様の構造を表す端面図である。
【
図4】屈曲耐久性試験に用いる装置の概略を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔〔キャブタイヤケーブル及びキャブタイヤケーブル用絶縁電線〕〕
本発明のキャブタイヤケーブルは、キャブタイヤケーブル用絶縁電線の外周をシースで被覆してなるケーブルである。このキャブタイヤケーブルが有するキャブタイヤケーブル用絶縁電線(以下、単に絶縁電線という)は、導体と、導体の外周を被覆する内側絶縁層と、内側絶縁層の外周を被覆する外側絶縁層とを有し、内側絶縁層がポリオレフィン樹脂を含んでなり、外側絶縁層がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなる。また、このキャブタイヤケーブルが有するシースは、後述する特定のシラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物からなる。
キャブタイヤケーブル及び絶縁電線の構成は、上記以外は特に限定されず、通常のキャブタイヤケーブル及び絶縁電線の構成とすることができる。
本発明において、外周を被覆するとは、外周を直接被覆する態様と、外周を他の層又は部材を介して間接被覆する態様との両態様を包含する。外周を直接被覆するとは、導体の外周面に接した状態に所定の層を設けることを意味し、換言すると、外周面と所定の層との間に他の層や構造物が介在していないことを意味する。
【0012】
絶縁電線中の導体は、1本でもよく、複数本でもよい。複数本である場合には、撚りあわされ、もしくは並べられて、集合体を形成していることが好ましい。導体としては、絶縁電線に通常用いられるものを特に制限されずに用いることができ、軟銅の単線又は撚り線等を用いることができる。また、導体としては銅、銅合金、アルミ、アルミ合金などの裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆を有するものを用いることもできる。導体の外径は、用途等に応じて適宜に設定することができる。
【0013】
内側絶縁層は導体の外周を被覆する。内側絶縁層は、導体の外周を直接被覆していることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で介在物を有していてもよい。内側絶縁層が導体の外周を被覆する態様は、複数本の導体の集合体を用いる場合には、一体となった集合体の外周を被覆していればよく、集合体を形成する各導体の外周を覆っている必要はない。また、内側絶縁層は、導体との間に、一部空間を有するように配されていてもよい。すなわち、導体又は集合体の外周面が凹凸を有する場合には、内側絶縁層は凹凸形状に追従して(凹凸表面に接して)いなくてもよい。
内側絶縁層の厚さは、用途等に応じて適宜に決定することができる。例えば、内側絶縁層の平均厚さは、好ましくは0.1~0.5mmであり、より好ましくは0.4~0.5mmである。ここで、内側絶縁層の平均厚さは、絶縁電線から導体を引き抜いて得られた管状片の、管状片の軸線に対して垂直な任意の断面を顕微鏡で観察した際の、任意の点を起点(0度)として、周方向に、中心角0度、90度、180度、及び270度の4箇所で測定された厚さの平均値である。また、複数本の導体の集合体を用いる場合には、上記任意の断面において、内側絶縁層(X)の厚さが最も薄い部分を起点として、周方向に、中心角0度、90度、180度、及び270度の4箇所で測定した厚さの平均値である。
内側絶縁層は、通常の絶縁層として機能すればよく、さらに、いわゆるセパレータとして、導体と外側絶縁層との密着性制御する機能を有する層として機能してもよい。
【0014】
外側絶縁層は内側絶縁層の外周を被覆する。外側絶縁層は、1層でも複数層でもよく、複数層の場合には少なくとも外側絶縁層の1層は、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなる層である。内側絶縁層の外周を直接被覆する外側絶縁層がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなる層であることが好ましい。残りの外側絶縁層は、通常、キャブタイヤケーブル又は絶縁電線に使用される絶縁層を特に制限されることなく使用することができる。
外側絶縁層(エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなる層)の厚さは、用途等に応じて適宜に決定することができる。外側絶縁層の平均厚さは、好ましくは0.2~1.8mmであり、より好ましくは0.4~1.4mmである。複数層の場合の総厚は、特に制限されず、適宜に決定される。外側絶縁層の平均厚さは、内側絶縁層(X)の平均厚さと同じ方法で測定でき、上記と同じ方法で特定された4箇所で測定された厚さの平均値である。
【0015】
以下の説明においては、内側絶縁層と外側絶縁層とを併せて絶縁層ということがある。
【0016】
キャブタイヤケーブルにおいて、シース内に配置される絶縁電線は、1本でもよく、複数本でもよい。複数本配置する場合には、複数本の絶縁電線は撚りあわされていてもよく、並べられていてもよい(1本の絶縁電線、又は複数本の絶縁電線の集合体を、ケーブルコアと呼ぶことがある。)。
【0017】
シースは絶縁電線(ケーブルコア)の外周を被覆する。シースが絶縁電線の外周を被覆する態様は、複数本の絶縁電線の集合体を用いる場合には、一体となった集合体の外周を被覆していればよく、集合体を形成する各絶縁電線個々の絶縁電線を覆っている必要はない。また、シースは、絶縁電線との間に、一部空間を有するように配されていてもよい。
シースの厚さは、用途等に応じて適宜に決定することができる。シースの平均厚さは、好ましくは0.3~6.0mmであり、より好ましくは0.5~3.0mmである。ここで、シースの平均厚さは、キャブタイヤケーブルから絶縁電線を引き抜いて得られた管状片の、管状片の軸線に対して垂直な任意の断面を顕微鏡で観察した際の、任意の点を起点(0度)として、周方向に、中心角0度、90度、180度、及び270度の4箇所で測定された厚さの平均値である。ケーブルコアを用いる場合には、上記任意の断面において、シースの厚さが最も薄い部分を起点として、周方向に、中心角0度、90度、180度、及び270度の4箇所で測定した厚さの平均値である。
外側絶縁層とシースの間には、タルク等を含有する離型剤層を有していてもよい。
【0018】
キャブタイヤケーブルは、分類によっては、定格電圧に基づいて、キャブタイヤケーブルとキャブタイヤコードとに区別される場合があるが、本発明のキャブタイヤケーブルはこれらのいずれをも包含する。本発明のキャブタイヤケーブルは、上記区分におけるキャブタイヤケーブルであることが好ましい。
【0019】
本発明のキャブタイヤケーブル及び絶縁電線について、好ましい実施形態を図を参照して、説明する。
図1に端面図を示した本発明のキャブタイヤケーブルの一実施態様は、1本の導体11と、導体11の外周を被覆する内側絶縁層21と、内側絶縁層21の外周を被覆する外側絶縁層31からなる1本の絶縁電線と、外側絶縁層31の外周を被覆するシース41を有するキャブタイヤケーブル101である。
図2に端面図を示した本発明のキャブタイヤケーブルの別の実施態様は、1本の導体12と、導体12の外周を被覆する内側絶縁層22と、内側絶縁層22の外周を被覆する外側絶縁層32からそれぞれなる3本の絶縁電線と、絶縁電線の外周を被覆するシース42を有するキャブタイヤケーブル102である。
図2に示すキャブタイヤケーブルは、絶縁電線が3本使用されている以外は
図1に示すキャブタイヤケーブルと同様である。
キャブタイヤケーブルの好ましい形態は上記
図1及び
図2に示したものに限らず、上述のとおり、ケーブルコアとして、2本の絶縁電線を有していてもよいし、4本以上の絶縁電線を有していてもよい。
図3に端面図を示した本発明の絶縁電線の一実施態様は、1本の導体1と、導体1の外周を被覆する内側絶縁層2と、内側絶縁層2を被覆する外側絶縁層3からなる絶縁電線10である。この絶縁電線10は
図1及び
図2に示すキャブタイヤケーブルがそれぞれ有する絶縁電線と同じである。
絶縁電線の好ましい形態は、上記
図3に示したものに限られず、上述のとおり、複数の導体を有してもよい。
【0020】
内側絶縁層と外側絶縁層とは、後述する絶縁層の皮むき試験において容易に分離(剥離)しない程度の密着力で接していることが好ましい。
【0021】
本発明のキャブタイヤケーブル及び絶縁電線の各層について、その成分を含めてさらに詳細に説明する。
【0022】
〔内側絶縁層〕
内側絶縁層は、ポリオレフィン樹脂を含んでなる。内側絶縁層は、ポリオレフィン樹脂の、後述するシラン架橋法によるシラノール縮合硬化物を含有していてもよい。シラン架橋法による硬化物としては、後述するポリオレフィン樹脂の内、ポリエチレン樹脂又はエチレン-α-オレフィン共重合体を、シラン架橋法により硬化させたものが好ましい。
内側絶縁層は、電線、電気ケーブル、電気コード等において、一般的に使用されている各種の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。
【0023】
- ポリオレフィン樹脂 -
【0024】
ポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物(通常、アルケン)を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば、特に限定されない。従来、電線及びケーブルに使用されている公知のポリオレフィン樹脂を使用することができる。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の重合体からなる樹脂、これら重合体のゴム又はエラストマー等(エチレンゴム及びスチレン系エラストマーを除く)が挙げられる。
内側絶縁層は、ポリオレフィン樹脂を1種単独で、又は2種以上を含有していてもよい。
内側絶縁層を形成する樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂25~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましい。
【0025】
ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられる。なかでも、直鎖型低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、及び高密度ポリエチレンが好ましい。
【0026】
ポリプロピレン樹脂は、プロピレンの単独重合体のほか、共重合体としてランダムポリプロピレン等のエチレン-プロピレン共重合体及びブロックポリプロピレンの樹脂を包含する。なかでも、ランダムポリプロピレンが好ましい。
【0027】
エチレン-α-オレフィン共重合体からなる樹脂としては、エチレン-ブチレン共重合体、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン-α-オレフィン共重合体等からなる樹脂が挙げられる。
【0028】
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体からなる樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(好ましくは炭素数1~12)共重合体等からなる各樹脂が挙げられる。なかでも、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体が好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂は、通常用いられる不飽和カルボン酸又はその誘導体等で酸変性されていてもよい。
【0030】
ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びポリプロピレンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含有することが好ましい。
【0031】
また、ポリオレフィン樹脂は、架橋性のものでもよく、例えば、ポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤をグラフト反応させた、シラングラフトポリオレフィン樹脂(シラン架橋性ポリオレフィン樹脂)であってもよい。シラングラフトポリオレフィン樹脂に用いるポリオレフィン樹脂としては、上記ポリオレフィン樹脂例えば、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体等の樹脂を用いることができる。
内側絶縁層が、ポリオレフィン樹脂のシラノール縮合硬化物層である場合には、内側絶縁層は、市販のシラングラフト樹脂をさらに硬化させて形成してもよく、ポリオレフィン樹脂に加えて、シランカップリング剤、有機過酸化物、及びシラノール縮合触媒を用いて形成してもよい。シランカップリング剤、有機過酸化物、及びシラノール縮合剤としては、後述するシラン架橋性組成物Iの成分として記載したシランカップリング剤(E)、有機過酸化物(C)及びシラノール縮合剤(X)を使用することができる。また、ポリオレフィン樹脂を、これらに加えて他の樹脂成分等を含む混合物とし、この混合物を用いて内側絶縁層を形成してもよい。
【0032】
〔外側絶縁層〕
外側絶縁層は、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化物を含んでなる。
また、さらなる屈曲耐久性向上、さらには、柔軟性や耐熱性の付与、の観点からは、外側絶縁層は、エチレンゴムの硬化物を含んでなることが好ましい。
【0033】
外側絶縁層は、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の化学架橋法による硬化物を含有してもよく、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方のシラン架橋法による硬化物を含有してもよい。また、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の電子線架橋法による硬化物を含有してもよい。屈曲耐久性の観点からはシラン架橋法による硬化物を含有することが好ましい。ここで、化学架橋法とは、熱を加えることにより有機過酸化物等を分解させて生じるラジカルによって重合体同士を直接架橋反応させる方法(有機過酸化物架橋法)をいう。また、シラン架橋法とは、有機過酸化物の存在下で不飽和基を有するシランカップリング剤を重合体にシラングラフト化反応(単に、グラフト化反応ともいう。)させてシラングラフト重合体を得た後に、所望により成形し、次いで、好ましくはシラノール縮合触媒の存在下で、シラングラフト重合体を水分と接触させることにより、シランカップリング剤を介して架橋した重合体を得る方法をいう。シランカップリング剤を架橋剤として使用するシラン架橋法は化学架橋法の一種であるが、本発明において、化学架橋という場合、重合体同士を直接架橋させる、上記有機過酸化物架橋法をいう。
【0034】
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーは、架橋反応が可能な部位(例えば、炭素鎖の不飽和結合部位、水素原子を有する炭素原子)を主鎖中又はその末端に有しているものであれば特に限定されない。シラン架橋の可能なもの、すなわち、後述する有機過酸化物から発生したラジカルの存在下において、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位(例えば、炭素鎖の不飽和結合部位、水素原子を有する炭素原子)を主鎖中又はその末端に有しているものが好ましい。エチレンゴム及びスチレン系エラストマーとしては、後述するシラン架橋性組成物Iの成分として記載したものを使用することができる。
【0035】
外側絶縁層を構成する樹脂成分100質量%中、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの合計含有率及びそれぞれの好ましい含有率は、後述する、ベース樹脂(A)についての説明として記載したものと同様である。外側絶縁層を構成する樹脂成分は、非芳香族有機油及び他の樹脂成分を含んでいてもよく、これらの種類及び含有率は、ベース樹脂(A)についての説明として記載したものと同様である。
【0036】
硬化物を、化学架橋法により形成する場合には、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方に加えて、有機過酸化物を用いる。架橋剤(例えば、シランカップリング剤、ただし、シラノール縮合触媒とは併用しない)をさらに用いてもよい。有機過酸化物及びシランカップリング剤としては、後述するシラン架橋性組成物Iの成分として記載した有機過酸化物(C)及びシランカップリング剤(E)を使用することができる。
硬化物を、化学架橋法により形成する場合、外側絶縁層は、上記成分を含有する組成物の硬化物であることが好ましい。この組成物において、有機過酸化物の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、1.5~4質量部が好ましい。シランカップリング剤を用いる場合には、シランカップリング剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.5~2質量部が好ましい。
【0037】
硬化物を、シラン架橋法により形成する場合には、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方に加えて、シランカップリング剤、有機過酸化物、及びシラノール縮合剤を用いる。シランカップリング剤、有機過酸化物、及びシラノール縮合剤としては、後述するシラン架橋性組成物Iの成分として記載したシランカップリング剤(E)、有機過酸化物(C)及びシラノール縮合剤(X)を使用することができる。また、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーを、これらに加えて他の樹脂成分等を含む混合物(好ましくは後述するベース樹脂(A))とし、この混合物を用いて外側絶縁層を形成してもよい。
【0038】
外側絶縁層は、シラン架橋法による硬化物の中でも、下記〔シラン架橋性組成物i〕のシラノール縮合硬化物からなることが好ましい。
〔シラン架橋性組成物i〕
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方と、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方とグラフト化反応したシランカップリング剤とを含有し、さらにシラノール縮合触媒を含有する外側絶縁層用シラン架橋性組成物i
シランカップリング剤、有機過酸化物、及びシラノール縮合剤としては、後述するシラン架橋性組成物Iの成分として記載したシランカップリング剤(E)、有機過酸化物(C)及びシラノール縮合剤(X)を使用することができる。
外側絶縁層用シラン架橋性組成物iは、後述する工程(2a)及び(2b)により調製することができる。
シラン架橋性組成物i中の各成分の好ましい含有量は、後述する工程(2a)~(2d)を有する絶縁電線の製造方法における各成分の配合量と同じであり、好ましい範囲も同様である。
【0039】
外側絶縁層は、シラン架橋法による硬化物の中でも、特定量の無機フィラーを含有する、下記〔シラン架橋性組成物I〕のシラノール縮合硬化物からなることがより好ましい。
〔シラン架橋性組成物I〕
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、無機フィラー(P)1~400質量部と、ベース樹脂(A)とグラフト化反応したシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とを含有し、さらにシラノール縮合触媒(X)を含有するシラン架橋性組成物I
シラン架橋性組成物Iは、後述する工程(a)及び(b)により調製することができる。
シラン架橋性組成物I中の各成分の好ましい含有量は、後述する工程(a)~(d)を有する絶縁電線の製造方法における各成分の配合量と同じであり、好ましい範囲も同様である。
【0040】
外側絶縁層は、内側絶縁層に用いるポリオレフィン樹脂の融点に近い加工温度(好ましくは、内側絶縁層に用いるポリオレフィン樹脂の融点+20℃以上かつ内側絶縁層に用いるポリオレフィン樹脂の融点+100℃以下の温度、より好ましくは内側絶縁層に用いるポリオレフィン樹脂の融点+60℃以上かつ内側絶縁層に用いるポリオレフィン樹脂の融点+100℃以下の温度)で、上記各種の外側絶縁層形成用の組成物のいずれかを内側絶縁層の外周に被覆して、形成されたものが好ましい。外側絶縁層形成用の組成物を、内側絶縁層に用いるポリオレフィン樹脂の融点に近い加工温度で被覆することで、内側絶縁層と外側絶縁層とを接着させたり、これらの層を同時に成形したりすることが可能となる。
【0041】
以下、シラン架橋性組成物Iの成分、及びその調製に用いる材料について説明する。
【0042】
<ベース樹脂(A)>
ベース樹脂(A)は、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有する。エチレンゴム及びスチレン系エラストマーは、後述する有機過酸化物から発生したラジカルの存在下において、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位(例えば、炭素鎖の不飽和結合部位、水素原子を有する炭素原子)を主鎖中又はその末端に有している。ベース樹脂(A)がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有することにより、屈曲耐久性に寄与する外側絶縁層を形成することができる。
ベース樹脂(A)は、上記ゴム又はエラストマー以外の成分を含有していてもよく、含有していてもよい成分としては、例えば、非芳香族有機油、他の樹脂が挙げられる。
このベース樹脂(A)は、各成分の合計が100質量%となるように、各成分の含有率が下記範囲内から選択される。
【0043】
- エチレンゴム -
エチレンゴムは、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィンとの共重合体、エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムが挙げられる。三元共重合体のジエン構成成分は、共役ジエン構成成分であっても非共役ジエン構成成分であってもよく、非共役ジエン構成成分が好ましい。
【0044】
α-オレフィン構成成分としては、炭素数3~12の各α-オレフィン構成成分が好ましく、具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の各構成成分が挙げられる。共役ジエン構成成分の具体例としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の各構成成分が挙げられ、ブタジエン構成成分等が好ましい。非共役ジエン構成成分の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等の各構成成分が挙げられ、エチリデンノルボルネン構成成分が好ましい。
【0045】
エチレンとα-オレフィンとの共重合体からなるゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴム等が挙げられる。エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム等が挙げられる。
なかでも、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-ブテンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴムが好ましく、エチレン-プロピレンゴム及びエチレン-プロピレン-ジエンゴムがより好ましい。
【0046】
- スチレン系エラストマー -
スチレン系エラストマーとしては、分子内に芳香族ビニル化合物を構成成分とする重合体からなるものをいう。
スチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等からなるものが好ましい。
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、水素化SIS、水素化スチレン・ブタジエンゴム(HSBR)、水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム(HNBR)等からなるものを挙げることができる。
【0047】
- 非芳香族有機油 -
非芳香族有機油は、芳香族環を構成する炭素原子数が全炭素数に対して30%未満のものをいい、樹脂組成物に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。非芳香族有機油としては、パラフィン鎖を構成する炭素原子数が全炭素数に対して50%以上であるパラフィン系オイル、及びナフテン環を構成する炭素原子数が全炭素数に対して30~40%であり、パラフィン鎖を構成する炭素原子数が全炭素数に対して50%未満であるナフテン系オイルが挙げられ、パラフィン系オイルが好ましい。非芳香族有機油は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
- 他の樹脂成分 -
ベース樹脂(A)は上記以外の樹脂成分(他の樹脂成分)を含んでいてもよい。他の樹脂成分は、特に制限されず、グラフト化反応可能な部位を有していてもいなくてもよい。このような樹脂成分として、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、上記[内側絶縁層]で説明したポリオレフィン樹脂を用いることができる。
【0049】
ベース樹脂(A)は、上述の成分の他に、後述する添加剤を含有していてもよい。
【0050】
ベース樹脂(A)中の、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの合計含有率は、0質量%を越える限り特に制限されず、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、85質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
ベース樹脂(A)中の、エチレンゴムの含有率は、上記合計含有率を満たす範囲内で適宜に設定される。ベース樹脂(A)中の、エチレンゴムの含有率は、0~85質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~35質量%がさらに好ましい。
ベース樹脂(A)中の、スチレン系エラストマーの含有率は、上記合計含有率を満たす範囲内で適宜に設定される。ベース樹脂(A)中の、スチレン系エラストマーの含有率は、0~55質量%が好ましく、0~40質量%がより好ましく、0~35質量%がさらに好ましい。
ベース樹脂(A)中の、非芳香族有機油の含有率は、特に制限されないが、0質量%~エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの合計量と同量以下、好ましくは3質量%からエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの合計量の80%以下が好ましい。
ベース樹脂(A)中の、ポリオレフィン樹脂の含有率は、特に限定されないが、10~95質量%が好ましく、25~80質量%がより好ましく、15~50質量%がさらに好ましい。
【0051】
<有機過酸化物(C)>
有機過酸化物(C)は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤(E)のベース樹脂(A)へのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤(E)のグラフト化反応部位とベース樹脂(A)のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。
有機過酸化物(C)としては、上記機能を有し、ラジカル重合又は従来のシラン架橋法に用いられるものを特に制限されずに用いることができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(DCP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
有機過酸化物(C)の分解温度は、80~195℃が好ましく、125~180℃が特に好ましい。本発明において、有機過酸化物(C)の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物(C)を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
有機過酸化物(C)は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
【0052】
<無機フィラー(P)>
本発明において、無機フィラー(P)は、その表面に、シランカップリング剤(E)のシラノール基等の反応部位と水素結合等が形成できる部位もしくは共有結合による化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この無機フィラー(P)における、シランカップリング剤(E)の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水もしくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
無機フィラー(P)としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基あるいは結晶水を有する化合物のような金属水和物や、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛を使用することができる。
無機フィラー(P)は、これらのなかでも、シリカ、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムの少なくとも1種が好ましい。
無機フィラー(P)は、1種類を単独で配合してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
無機フィラー(P)の平均粒径は、0.2~10μmが好ましく、0.3~8μmがより好ましく、0.4~5μmがさらに好ましく、0.4~3μmが特に好ましい。平均粒径は、アルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0054】
無機フィラー(P)は、シランカップリング剤等で表面処理した無機フィラーを使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理金属水和物として、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学社製等)や水酸化アルミニウムなどが挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば、2質量%以下である。
【0055】
<シランカップリング剤(E)>
シランカップリング剤(E)は、シラン架橋性組成物Iにおいては、ベース樹脂(A)とグラフト化反応している。ベース樹脂(A)とグラフト化反応したシランカップリング剤(E)(シラングラフト樹脂)は、市販品を用いることもできるが、後述する方法で調製したものが物性(耐熱性と強度との両立等)の点で、好ましい。
上記シラングラフト樹脂の調製に用いる、シランカップリング剤(E)としては、有機過酸化物(C)の分解により生じたラジカルの存在下で、ベース樹脂(A)のグラフト化反応可能な部位にグラフト化反応しうる部位(基又は原子)と、シラノール縮合可能な加水分解性シリル基とを有するものであれば、特に限定されない。このようなシランカップリング剤(E)としては、従来のシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
シランカップリング剤(E)としては、不飽和基を有するシランカップリング剤が挙げられ、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン、(メタ)アクリロキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
シランカップリング剤(E)は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
シランカップリング剤(E)は、そのままの形態で用いてもよいし、溶剤で希釈した形態で用いてもよい。
【0056】
<シラノール縮合触媒(X)>
シラノール縮合触媒(X)は、ベース樹脂(A)にグラフトされたシランカップリング剤(E)の加水分解性シリル基を水分の存在下で縮合反応(促進)させる働きがある。このシラノール縮合触媒(X)の働きに基づき、シランカップリング剤(E)を介して、ベース樹脂(A)同士が架橋される。
このようなシラノール縮合触媒(X)としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
シラノール縮合触媒(X)は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
【0057】
<キャリア樹脂(CA)>
本発明に用いられるシラノール縮合触媒(X)は、所望により樹脂に混合される。このような樹脂(キャリア樹脂(CA)ともいう)としては、特に限定されないが、ベース樹脂(A)以外の樹脂又はベース樹脂(A)の一部を用いることができる。
キャリア樹脂(CA)としては、ポリオレフィン樹脂が好ましく、シラノール縮合触媒(X)と親和性がよく耐熱性を付与できる点で、ポリエチレンが特に好ましい。
【0058】
<添加剤>
外側絶縁層は、電線、電気ケーブル、電気コード等において、一般的に使用されている各種の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。このような添加剤として、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、又は、充填剤(難燃(助)剤を含む。)等が挙げられる。
【0059】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又は硫黄酸化防止剤等が挙げられ、フェノール酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤は、ベースゴム100質量部に対して、好ましくは0.1~15.0質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部で加えることができる。
【0060】
〔シース〕
シースは、後述するシラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物からなる。シラン架橋法を採ることで、シースの形成時においても化学架橋管で高温高圧力にさらされないため、内側絶縁層及び外側絶縁層がつぶれにくい。その結果、シースの皮むき性に優れる。また、内側絶縁層及び外側絶縁層が導体の断面形状と同形状を維持でき、例えば、ケーブルコアの断面が円形である場合、導体の外周で断面円形状態を維持することができ、内側絶縁層及び外側絶縁層の皮むき性にも非常に優れたものとすることができる。また、シース押出時に内側絶縁層及び外側絶縁層に過度の圧力が加わらないため、導体との密着力を低く制御することができ、屈曲耐久性及び絶縁層の皮むき性に優れるものとできる。
〔シラン架橋性組成物J〕
含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対して、無機フィラー(Q)1~200質量部と、前記ベース樹脂(B)とグラフト化反応したシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下とを含有し、さらにシラノール縮合触媒(Y)とを含有するシラン架橋性組成物J
シラン架橋性組成物J中の各成分の好ましい含有量は、後述する工程(k)~(n)を有するキャブタイヤケーブルの製造方法における各成分の配合量と同じであり、好ましい範囲も同様である。
以下、シラン架橋性組成物Jの成分、及びその調製に用いる材料について説明する。
【0061】
<ベース樹脂(B)>
ベース樹脂(B)は、ハロゲン原子を含有する樹脂又はゴムである含ハロゲン樹脂を含有する。含ハロゲン樹脂は、上述したグラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有している。
【0062】
含ハロゲン樹脂としては、特に限定されるものではなく、従来、ハロゲン含有樹脂もしくはハロゲン含有ゴム組成物に使用されている通常のものを使用することができる。
含ハロゲン樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0063】
含ハロゲン樹脂は、主鎖又は側鎖にハロゲン原子を含有する樹脂又はゴムが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましい。含ハロゲン樹脂として、例えば、塩素原子を含有する塩素含有樹脂もしくはゴム、フッ素原子を含有するフッ素樹脂もしくはゴム等が挙げられる。
【0064】
含ハロゲン樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、クロロプレンゴム、スルホン化クロロプレンゴム、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体からなる樹脂もしくはゴム、塩化ビニルとウレタンの共重合体からなる樹脂もしくはゴム、ハロゲン原子を有する材料等の塩素含有樹脂もしくはゴム、又は、フッ素ゴム等のフッ素樹脂もしくはゴム等が挙げられる。
他にも、ポリ塩化ビニルの共重合体、ポリ塩化ビニリデン又はその共重合体、塩素化ポリエチレンの共重合体、クロロスルホン化ゴム等の塩素含有樹脂もしくはゴム、フッ素樹脂等のフッ素含有樹脂もしくはゴム等が挙げられる。
【0065】
塩素含有樹脂もしくはゴムとしては、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニルの共重合体が好ましい。
フッ素ゴムとしては、特に限定されるものではないが、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン-フッ化(例えばヘキサフルオロ)プロピレン共重合体ゴム、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル共重合体ゴム(FFKM)、フッ化ビニリデンゴム(FKM、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体ゴム)、又は、これらと塩素系ゴム例えばクロロプレンとの共重合体ゴム等が挙げられる。
【0066】
本発明において、含ハロゲン樹脂としては、塩素含有樹脂もしくはゴム、又は、フッ素樹脂もしくはゴムが好ましく、塩素含有樹脂もしくはゴムがより好ましい。
【0067】
含ハロゲン樹脂におけるハロゲン原子の含有量(含ハロゲン樹脂全量に対するハロゲン原子の質量割合、ハロゲン含有量という)は、特には限定されず、目的に応じて適宜に設定できる。
【0068】
ベース樹脂(B)は、含ハロゲン樹脂の他に、他の樹脂、オイル成分や可塑剤を含有していてもよい。
他の樹脂は、特に限定されないが、熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、上記ベース樹脂(A)で説明したものを使用することができる。
オイル成分は、特に限定されないが、有機油又は鉱物油が挙げられる。有機油又は鉱物油として、大豆油、パラフィンオイル、ナフテンオイルが挙げられる。
可塑剤は、特に限定されず、含ハロゲン樹脂又は含ハロゲンゴムに通常用いられる各種のものが挙げられる。例えば、トリメリット酸トリアルキル(C8、C10)、ピロメリット酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられる。
【0069】
ベース樹脂(B)が、含ハロゲン樹脂以外の成分を含有する場合、含ハロゲン樹脂、他の樹脂、オイル成分や可塑剤等の各成分の総計が100質量%となるように、各成分の含有率が適宜に決定され、好ましくは下記範囲内から選択される。
例えば、含ハロゲン樹脂の、ベース樹脂(B)中の含有率は、30~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、50~89質量%がさらに好ましい。
オイルの含有率は、特に限定されないが、ベース樹脂(B)100質量%中、0~75質量%が好ましく、0~60質量%がより好ましい。
可塑剤の含有率は、特に限定されないが、ベース樹脂(B)100質量%中、0~75質量%が好ましく、0~45質量%がより好ましく、11~21質量%がさらに好ましい。
【0070】
ベース樹脂(B)は、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルと可塑剤とを含有することが好ましい。
【0071】
<有機過酸化物(D)>
有機過酸化物(D)としては、上述の〔外側絶縁層〕で説明した有機過酸化物(C)を使用することができる。好ましい範囲等についても同様である。
【0072】
<無機フィラー(Q)>
無機フィラー(Q)としては、上述の〔外側絶縁層〕で説明した無機フィラー(P)を使用することができる。好ましい範囲等についても同様である。
無機フィラー(Q)としては、ハイドロタルサイト、水酸化マグネシウム、シリカ、及び炭酸カルシウムの少なくとも1種が好ましい。
【0073】
<シランカップリング剤(F)>
シランカップリング剤(F)は、シラン架橋性組成物Jにおいては、ベース樹脂(B)とグラフト化反応している。シランカップリング剤(E)と同様に、ベース樹脂(B)とグラフト化反応したシランカップリング剤(F)として、市販品を用いてもよい。
シランカップリング剤(F)としては、上述の〔外側絶縁層〕で説明したシランカップリング剤(E)を使用することができる。好ましい範囲等についても同様である。
【0074】
<シラノール縮合触媒(Y)>
シラノール縮合触媒(Y)としては、上述の〔外側絶縁層〕で説明したシラノール縮合触媒(X)を使用することができる。好ましい範囲等についても同様である。
【0075】
<キャリア樹脂(CB)>
キャリア樹脂(CB)は、上述の〔外側絶縁層〕で説明したキャリア樹脂(CA)に対応する。
キャリア樹脂(CB)としては、ベース樹脂(B)の一部を用いることができる。キャリア樹脂(CB)は、塩素化ポリエチレン及び/又はポリ塩化ビニルが好ましい。また、キャリア樹脂(CB)として、クロロプレンゴムを用いることも好ましい。
【0076】
<添加剤>
シースは、上述の〔外側絶縁層〕で説明した添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。添加剤の好ましい範囲等については、上述のものと同様である。
【0077】
シラン架橋性組成物Jは、後述する工程(k)及び(l)により調製することができる。
【0078】
〔〔キャブタイヤケーブルの製造方法及びキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法〕〕
本発明のキャブタイヤケーブルの製造方法及びキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法について説明する。
本発明のキャブタイヤケーブル用絶縁電線の製造方法は、導体の外周を、ポリオレフィン樹脂で被覆して内側絶縁層を形成する工程(1)と、内側絶縁層の外周を、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方で被覆し、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を硬化させて、外側絶縁層を形成する工程(2)とを行う。
また、本発明のキャブタイヤケーブルの製造方法は、上記工程(1)と工程(2)とを少なくとも行い、その後、得られた絶縁電線の外周をシースで被覆する工程(k)~(n)を行う。
【0079】
工程(1)は、ポリオレフィン樹脂で導体の外周を被覆できればよく、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた射出成形、その他の成形機を用いた成形法が挙げられる。本発明においては、導体とポリオレフィン樹脂とを共押出する押出成形が好ましい。押出成形を行う場合には、被覆後に水槽等で冷却してもよい。
工程(1)は、本発明のキャブタイヤケーブルの好ましい形態に応じて、行うことができる。例えば、導体を1本用いる場合には、導体の外周にポリオレフィン樹脂を被覆して、内側絶縁層を形成する。導体を複数本用いる場合には、この複数本の導体の集合体の外周にポリオレフィン樹脂を被覆して、内側絶縁層を形成する。
【0080】
内側絶縁層がポリオレフィン樹脂のシラン架橋法によるシラノール縮合硬化物を含有する場合、工程(1)は、導体の外周を、シラングラフトポリオレフィン樹脂で被覆し、シラングラフトポリオレフィン樹脂をシラノール縮合触媒により硬化させて、内側絶縁層を形成する工程(1a)であることが好ましい。上記被覆及び硬化は、通常の方法により行うことができ、用いる樹脂及び被覆の対象が異なる以外は、後述する、外側絶縁層をシラン架橋法により形成する場合を参照して同様に行うことができる。
【0081】
工程(2)における、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方で、内側絶縁層の外周を被覆する方法、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を硬化する方法は、通常の方法によって行うことができる。上記硬化は上記被覆と同時に行ってもよく、上記被覆後に行ってもよい。上記硬化は、化学架橋法によって行ってもよく、シラン架橋法によって行ってもよい。
【0082】
工程(2)における、上記エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の被覆(内側絶縁層の外周への配置)は、上記各種の成形方法で行うことができるが、押出成形により行うことが好ましい。外側絶縁層と内側絶縁層とを接着させる観点、及び/又はこれらの層を同時に形成する観点からは、上記被覆は、内側絶縁層に用いるポリオレフィン樹脂の融点より高い温度(好ましくは、内側絶縁層に用いるポリオレフィン樹脂の融点+(20~100)℃の温度)で行うことがより好ましい。内側絶縁層の表面が溶融する又は軟化することにより、外側絶縁層と内側絶縁層とが接着すると考えられる。
【0083】
工程(2)における被覆後に、内側絶縁層が内側絶縁層に含有されるポリオレフィン樹脂の融点+60℃を超える温度に加熱されないことが好ましい。また、その温度に長い時間、例えば10秒以上、好ましくは5秒以上、さらに好ましくは3秒以上曝されないことが好ましい。すなわち、上記工程(2)における被覆後、工程(2)における硬化の際に、内側絶縁層がポリオレフィン樹脂の融点+60℃を超える温度に10秒以上加熱されないことが好ましい。
本発明において、「内側絶縁層が内側絶縁層に含有されるポリオレフィン樹脂の融点+60℃を超える温度に加熱されない」とは、内側絶縁層が、上記ポリオレフィン樹脂の融点+60℃以下の温度(高温)に維持されて(温度環境下で)工程(2)以降の工程が行われる態様と、本発明の効果を損なわない時間で上記ポリオレフィン樹脂の融点+60℃を越える温度環境下(例えば160~220℃程度)で工程(2)以降の工程が行われる態様との両態様を包含する。ここで、本発明の効果を損なわない時間は、ポリオレフィン樹脂の種類、内側絶縁層の厚さ、冷却工程までの時間等の変化により変動するので一義的ではないが、例えば、内側絶縁層の全体が軟化若しくは溶融しない程度の時間をいう。本発明においては、内側絶縁層に与えられた熱は、導体に移行しやすく、また通常、被覆後に冷却工程を有する場合は得られた絶縁電線は被覆後にすみやかに水槽等で冷却されるため、内側絶縁層全体が上記高温に曝される時間は短く、被覆時の加熱により、内側絶縁層の表面が熱の影響を受けることはあっても、内側絶縁層の全体が軟化若しくは溶融することないと考えられる。後述する、シースの被覆においても同様である。
一方、化学架橋により硬化物を形成する場合には、押出成形後の絶縁電線は架橋管又は窯に導入され比較的長時間(数十秒から数分)加熱及び加圧されるため、絶縁電線全体が高温に曝され、内側絶縁層全体に熱の影響が及ぼされる傾向があるとともに、内側絶縁層が圧力で変形しやすい傾向にある。
【0084】
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化を、電子線架橋法により行う場合には、以下のようにして行うことができる。例えば、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方で、内側絶縁層の外周を被覆し、電子線を照射して架橋させる工程により行うことができる。電子線架橋の条件としては、通常照射量は5~40Mradが好ましい。
【0085】
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化を、化学架橋法によって行う場合には、以下のようにして行うことができる。例えば、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方と、有機過酸化物とを含む組成物を調製し、組成物で内側絶縁層の外周を被覆し、加熱して有機過酸化物を分解して化学架橋させる工程により行うことができる。加熱の際に加圧してもよい。
上記組成物の被覆は、上記各種の成形方法で行うことができるが、押出成形により行うことが好ましい。
加熱条件は、有機過酸化物が分解する条件であれば特に限定されないが、130~220℃に加熱することが好ましく、押出後連続加熱架橋してもよく、一度巻き取った後に釜に入れて架橋してもよい。加圧する場合には、1~3気圧の圧力をかけることが好ましい。
【0086】
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方の硬化をポリオレフィン樹脂の融点+60℃以下の温度で行う観点からは、シラン架橋法により硬化を行うことが好ましい。
【0087】
シラン架橋法を採用する場合、工程(2)を、以下の一連の工程により行うことがより好ましい。
工程(2a):エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方と、グラフト反応化部位を有するシランカップリング剤とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶融混合して、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方とシランカップリング剤のグラフト化反応部とを反応させてシラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチiを調製する工程
工程(2b):シランマスターバッチi及びシラノール縮合触媒を溶融混合してシラン架橋性組成物iを得る工程
工程(2c):シラン架橋性組成物iで内側絶縁層の外周を被覆して外側絶縁層前駆体を形成する工程
工程(2d):外側絶縁層前駆体を水と接触させて外側絶縁層を形成する工程
上記において、外側絶縁層前駆体はシラン架橋性組成物iの(成形)層である。また、外側絶縁層は、シラン架橋性組成物iのシラノール縮合硬化物の層であり、また、外側絶縁層前駆体の硬化物の層である。
【0088】
工程(2a)~(2d)は、使用する成分と配合量が異なる以外は、後述する工程(a)~(d)と同様に行うことができる。工程(2a)~(2d)では、無機フィラーを用いないので、後述する工程(a)~(d)に関する説明中、無機フィラーに関連する説明は工程(2a)~(2d)に適用しない。
工程(2a)において、シランカップリング剤の配合量は、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、2~15質量部が好ましく、2.5~6質量部がより好ましい。
工程(2a)において、有機過酸化物の配合量は、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、0.3~6質量部が好ましく、0.5~2質量部がより好ましい。
【0089】
このようにして、工程(2a)~(2d)が実施され、内側絶縁層の外周にエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方のシラノール縮合硬化物を含んでなる外側絶縁層が形成される。すなわち、内側絶縁層の外周に上記特定の外側絶縁層を有する絶縁電線が得られる。
上記シラノール縮合硬化物は、エチレンゴム又はスチレン系エラストマーに対してシランカップリング剤がグラフト化反応したシラングラフト樹脂について、シラングラフト樹脂に結合したシランカップリング剤の加水分解性基をシラノール縮合により架橋させたものである。このシラングラフト樹脂は、シラノール結合(シロキサン結合)を介して縮合した架橋樹脂を含んでいる。
よって、この硬化物層は、シラングラフト樹脂の架橋硬化物を含有している。シラングラフト樹脂の架橋硬化物は、エチレンゴム構成成分及びスチレン系エラストマー構成成分の少なくとも一方、シランカップリング剤構成成分を有している。架橋硬化物中の各成分の含有量は、反応条件、反応率等に応じて変動するが、好ましくは上記配合量の範囲内である。より詳細には、この架橋硬化物は、シラングラフト樹脂にグラフトしたシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シラングラフト樹脂同士がシランカップリング剤を介して架橋したシラン架橋樹脂を少なくとも含む。
【0090】
シラン架橋法を採用する場合、工程(2)は、下記工程(a)~(d)により行うことがより好ましい。
工程(a):エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有するベース樹脂(A)100質量部に対して、有機過酸化物(C)0.01~0.6質量部と、無機フィラー(P)1~400質量部と、ベース樹脂(A)とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とを溶融混合して、グラフト化反応部位とベース樹脂(A)とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂Gを含むシランマスターバッチKを調製する工程
工程(b):シランマスターバッチK及びシラノール縮合触媒(X)を溶融混合してシラン架橋性組成物Iを得る工程
工程(c):シラン架橋性組成物Iで内側絶縁層の外周を被覆して外側絶縁層前駆体を形成する工程
工程(d):外側絶縁層前駆体を水と接触させて外側絶縁層を形成する工程
【0091】
工程(a)~(d)について説明する。
【0092】
工程(a)において、有機過酸化物(C)の配合量は、ベース樹脂(A)100質量部に対して、0.01~0.6質量部であり、0.03~0.25質量部が好ましい。
【0093】
工程(a)において、無機フィラー(P)の配合量は、ベース樹脂(A)100質量部に対して、1~400質量部であり、3~100質量部が好ましい。
【0094】
工程(a)において、シランカップリング剤(E)の配合量は、ベース樹脂(A)100質量部に対して、1~15.0質量部であり、1.5~8質量部が好ましく、さらには2~6質量部が好ましい。
【0095】
工程(b)において、シラノール縮合触媒(X)の配合量は、特に限定されず、好ましくは、ベース樹脂(A)100質量部に対して、0.01~0.4質量部、より好ましくは0.03~0.2質量部である。
【0096】
工程(a)において、各成分の混合順は、特に制限されず、どのような順で混合してもよい。
本発明においては、工程(a)においてベース樹脂(A)の全部を溶融混合することもできるが、工程(a)においてベース樹脂(A)の一部を溶融混合し、残部を後述する工程(b)において溶融混合することが好ましい。
本発明においては、各成分を一度に溶融混錬することもできるが、上記各成分を、下記工程(a-1)及び(a-2)により、(溶融)混合することが好ましい。
工程(a-1):少なくとも無機フィラー(P)及びシランカップリング剤(E)を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):工程(a-1)で得られた混合物と、ベース樹脂(A)の全部又は一部とを、有機過酸化物(C)の存在下で有機過酸化物(C)の分解温度以上の温度において、溶融混合する工程
【0097】
工程(a-1)において、無機フィラー(P)とシランカップリング剤(E)を混合する方法としては、特に限定されないが、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。本発明においては、無機フィラー(P)、好ましくは乾燥させた無機フィラー(P)中にシランカップリング剤(E)を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理が好ましい。このようにして前混合されたシランカップリング剤(E)は、無機フィラー(P)の表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部が無機フィラー(P)に吸着又は結合する。これにより、後の工程(a-2)での溶融混合の際にシランカップリング剤(E)の揮発を低減できる。混合温度としては、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温(25℃)で、数分~数時間程度の条件に設定できる。この混合は、通常用いられる混合機、例えば、工程(a-2)で説明する混練装置を用いることができる。
【0098】
工程(a-1)の混合においては、有機過酸化物(C)が存在していてもよい。有機過酸化物(C)を混合する方法としては、特に限定されず、上記混合物とベース樹脂(A)とを溶融混合する際に、存在していればよい。また、有機過酸化物(C)は、他の成分と混合させたものでもよいし、単体でもよい。
工程(a-1)の混合においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、ベース樹脂(A)が存在していてもよい。この場合、ベース樹脂(A)とともに無機フィラー(P)及びシランカップリング剤(E)を上記温度で混合(工程(a-1))した後に溶融混合することが好ましい。
【0099】
本発明の製造方法においては、次いで、得られた混合物と樹脂の全部又は一部と、工程(a-1)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物(C)の存在下で有機過酸化物(C)の分解温度以上の温度に加熱しながら、溶融混練する(工程(a-2))。
工程(a-1)を有機過酸化物(C)の存在下で行わない場合には、有機過酸化物(C)は工程(a-2)において混合される。
【0100】
工程(a-2)において、上記成分を溶融混合(溶融混練、混練りともいう)する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物(C)の分解温度+(25~110)℃の温度である。この分解温度は樹脂成分が溶融してから設定することが好ましい。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物(C)が分解、作用して必要なシラングラフト反応が工程(a-2)において十分に進行する。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置は、例えば無機フィラー(P)の配合量に応じて適宜に選択される。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。樹脂成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
ベース樹脂(A)の混合方法は、特に限定されない。例えば、ベース樹脂(A)を予め調製して用いてもよく、各成分、例えばエチレンゴム等の樹脂成分、非芳香族有機油等を、それぞれ別々に混合してもよい。
【0101】
本発明において、上記各成分を一度に溶融混合する場合、溶融混合の条件は、特に限定されないが、工程(a-2)の条件を採用できる。この場合、溶融混合時にシランカップリング剤(E)の一部又は全部が無機フィラー(P)に吸着又は結合する。
【0102】
工程(a)、特に工程(a-2)においては、シラノール縮合触媒(X)を実質的に混合せずに上述の各成分を混練することが好ましい。これにより、シランカップリング剤(E)の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤(E)のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a-2)において、シラノール縮合触媒は、ベース樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0103】
工程(a)においては、上記成分の他に用いることができる他の樹脂や上記添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。
工程(a)において、上記添加剤、特に酸化防止剤や金属不活性剤は、いずれの工程で又は成分に混合されてもよいが、無機フィラー(P)に混合されたシランカップリング剤(E)の樹脂へのグラフト反応を阻害しない点で、キャリア樹脂に混合されるのがよい。
工程(a)、特に工程(a-2)において、架橋助剤は実質的に混合されないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混合中に有機過酸化物(C)により樹脂成分同士の架橋反応が生じにくく、外観が優れたものになる。また、シランカップリング剤(E)のベース樹脂(A)へのグラフト反応が生じやすく、耐熱性が優れたものになる。ここで、実質的に混合されないとは、不可避的に存在する架橋助剤をも排除するものではなく、上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。
【0104】
このようにして、工程(a)を行い、ベース樹脂(A)とシランカップリング剤とをグラフト化反応させることにより、シラングラフト樹脂が合成され、反応組成物としてこのシラングラフト樹脂を含むシランマスターバッチK(シランMBKともいう)が調製される。このシランMBKは、後述の工程(c)により成形可能な程度にシランカップリング剤(E)がベース樹脂(A)にグラフトしたシラン架橋性樹脂G(ベース樹脂(A)由来のシラン架橋性樹脂ともいう)を含有している。
上記工程(a)、特に上程(a-1)において、シランカップリング剤は、その加水分解性シリル基で、無機フィラーの化学結合しうる部位と結合又は吸着する。さらに、このシランカップリング剤は、調製工程(a)、特に工程(a-2)において、そのグラフト化反応部位で、エチレンゴム、スチレン系エラストマー又はポリオレフィン系樹脂のグラフト化反応可能な部位とグラフト化反応する。工程(a)において、シランカップリング剤がベース樹脂にグラフト化反応する態様としては、少なくとも次のものが挙げられる。すなわち、無機フィラーと弱い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤が無機フィラーから脱離してベース樹脂にグラフト化反応する態様である。また、無機フィラーと強い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤が無機フィラーとの結合を保持した状態でベース樹脂にグラフト化反応する態様である。シランカップリング剤について、無機フィラーとの弱い結合としては、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷もしくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が挙げられる。また、無機フィラーとの強い結合としては、無機フィラー表面の化学結合しうる部位との化学結合等が挙げられる。
【0105】
本発明の製造方法において、次いで、工程(a)で得られたシランMBKとシラノール縮合触媒(X)とを溶融混合する工程(b)を行う。
工程(b)においては、上記工程(a)(工程(a-2))で樹脂の一部を溶融混合した場合、ベース樹脂(A)の残部とシラノール縮合触媒(X)とを溶融混合し、触媒マスターバッチM(触媒MBMともいう)を調製して、この触媒MBMを用いる。なお、ベース樹脂(A)の残部に加えて他の樹脂を用いることもできる。
【0106】
キャリア樹脂(CA)としての上記ベース樹脂(A)の残部とシラノール縮合触媒(X)との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(a)における上記配合量を満たすように、設定される。工程(b)でベース樹脂(A)の残部が配合される場合、ベース樹脂(A)は、工程(a-2)において、好ましくは80~99質量%、より好ましくは85~95質量%が配合され、工程(b)において、好ましくは1~20質量%、より好ましくは5~15質量%が配合される。
キャリア樹脂(CA)とシラノール縮合触媒(X)との混合は、均一に混合できる方法であればよく、ベース樹脂(A)の溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a-2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、80~250℃、より好ましくは100~240℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
このようにして調製される触媒MBMは、シラノール縮合触媒(X)及びキャリア樹脂(CA)、所望により添加されるフィラーの混合物である。
【0107】
一方、工程(a-2)でベース樹脂(A)の全部を溶融混合する場合、工程(b)においては、シラノール縮合触媒(X)そのもの、又は、他の樹脂とシラノール縮合触媒(X)との混合物を用いる。他の樹脂とシラノール縮合触媒(X)との混合方法は、上記触媒MBMと同様である。
他の樹脂の配合量は、工程(a-2)においてグラフト反応を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい点で、ベース樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1~60質量部、より好ましくは2~50質量部、さらに好ましくは2~40質量部である。
【0108】
工程(b)において、無機フィラーを用いてもよい。この場合、無機フィラーの配合量は、特には限定されないが、キャリア樹脂(CA)100質量部に対し、350質量部以下が好ましい。
【0109】
本発明の製造方法においては、シランMBKと、シラノール縮合触媒(X)(シラノール縮合触媒(X)そのもの、準備した触媒MBM、又は、シラノール縮合触媒(X)と他の樹脂との混合物)とを溶融混合する。このようにして得られた混合物を、シラン架橋性組成物Iという。
溶融混合方法は、ベース樹脂の溶融下で行う方法であればよく、例えば、工程(a-2)の溶融混合と基本的に同様である。溶融温度は、樹脂又はキャリア樹脂(CA)の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~240℃である。その他の条件、例えば混合(混練)時間は適宜設定することができる。
工程(b)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBKとシラノール縮合触媒(X)が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
シラン架橋性組成物Iの一態様は、スチレン系エラストマーと、エチレンゴム及び非芳香族有機油の少なくとも一方とを含有するベース樹脂(A)100質量部に対し、無機フィラー(P)1~400質量部と、ベース樹脂(A)とグラフト化反応したシランカップリング剤(E)1~15.0質量部とを含有し、さらにシラノール縮合触媒(X)を含有している。
【0110】
本発明においては、シランMBKとシラノール縮合触媒(X)とを溶融混合する前に、ドライブレンドすることができる。ドライブレンドの方法及び条件は、特に限定されず、例えば、工程(a-1)での乾式混合及びその条件が挙げられる。
【0111】
本発明において、上記工程(a)及び工程(b)の混合は、同時又は連続して行うことができる。
【0112】
このようにして、シランMBKとシラノール縮合触媒(X)(又は触媒MBM)との溶融混練物であるシラン架橋性組成物Iが得られる。このシラン架橋性組成物Iは、シラン架橋性樹脂Gとシラノール縮合触媒とを含有している。このシラン架橋性組成物I(シラン架橋性樹脂G)は、シランカップリング剤由来の加水分解性シリル基がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、調製工程(b)の溶融混練により、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、後述する工程(c)での成形性が保持されたものとすることが好ましい。
【0113】
本発明の製造方法において、次いで、工程(b)で得られたシラン架橋性組成物Iを、内側絶縁層の外周に被覆して外側絶縁層前駆体を形成する工程(c)を行う。
工程(c)は、シラン架橋性組成物Iを内側絶縁層に被覆できればよく、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた射出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。本発明においては、内側絶縁層を形成した導体とシラン架橋性組成物Iとを共押出する押出成形が好ましい。工程(c)において、内側絶縁層が内側絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂の融点より著しく高い温度に曝されない(おおむね、内側絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂の融点+100℃以下、好ましくは内側絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂の融点+60℃以下の温度に維持される)ことが好ましい。工程(c)は内側絶縁層を、内側絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂の融点以上(例えば、内側絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂の融点+60℃)で加熱することで、内側絶縁層の表面を溶融又は軟化させることがより好ましい。
【0114】
また、工程(c)は工程(b)と同時に又は連続して実施することができる。例えば、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒(又は触媒マスターバッチ)とを被覆装置内で溶融混練し、次いで、内側絶縁層の外周に押出被覆して成形する一連の工程を採用できる。
【0115】
本発明のキャブタイヤケーブルの製造方法においては、工程(c)で得られた外側絶縁層前駆体(未架橋体)を水と接触させる工程(d)を行う。これにより、シランカップリング剤(E)の加水分解性の基を加水分解してシラノールとし、シラン架橋性組成物I中に存在するシラノール縮合触媒(X)により、シラノールの水酸基同士が縮合して架橋反応が起こる。このようにして外側絶縁層前駆体が架橋した外側絶縁層(シラン架橋性組成物Iのシラノール縮合硬化物の層)を、内側絶縁層外周に形成することができる。
【0116】
工程(d)は、通常の方法によって行うことができる。上記縮合反応はシラノール縮合触媒の存在下では常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(d)において、外側絶縁層前駆体を水に積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、外側絶縁層前駆体を水分と接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0117】
このようにして、工程(a)~(d)が実施され、内側絶縁層の外周にシラン架橋性組成物Iのシラノール縮合硬化物からなる外側絶縁層が形成される。すなわち、内側絶縁層の外周に上記特定の外側絶縁層を有する絶縁電線が得られる。
シラン架橋性組成物Iのシラノール縮合硬化物は、エチレンゴム又はスチレン系エラストマーを含むベース樹脂に対して特定量のシランカップリング剤がグラフト化反応したシラングラフト樹脂と特定量の無機フィラーとを含むシラン架橋性組成物について、シラングラフト樹脂に結合したシランカップリング剤の加水分解性基をシラノール縮合により架橋させたものである。このシラングラフト樹脂は、シラノール結合(シロキサン結合)を介して縮合した架橋樹脂を含んでおり、無機フィラーはシラングラフト樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。
よって、この硬化物層は、シラングラフト樹脂の架橋硬化物と無機フィラーとを含有している。シラングラフト樹脂の架橋硬化物は、ベース樹脂構成成分(エチレンゴム構成成分、スチレン系エラストマー構成成分、ポリオレフィン構成成分)、無機フィラー構成成分、シランカップリング剤構成成分を有している。架橋硬化物中の各成分の含有量は、反応条件、反応率等に応じて変動するが、好ましくは上記配合量の範囲内である。より詳細には、この架橋硬化物は、シラングラフト樹脂がシランカップリング剤により無機フィラーに結合又は吸着して、無機フィラー及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋樹脂と、シラングラフト樹脂にグラフトしたシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シラングラフト樹脂同士がシランカップリング剤を介して架橋したシラン架橋樹脂とを少なくとも含む。また、架橋樹脂及びシラン架橋樹脂は、それぞれ、無機フィラー及びシランカップリング剤を介した結合(架橋)と、シランカップリング剤を介した架橋とが混在していてもよい。
上述のようにして、本発明の絶縁電線を製造できる。
【0118】
本発明のキャブタイヤケーブルの製造方法においては、さらに、絶縁電線の外周を被覆するシースを形成する工程を行う。この工程により、絶縁電線(ケーブルコア)の外周にシースが被覆され、本発明のキャブタイヤケーブルを得ることができる。
複数の絶縁電線を用いる場合には、上記工程の前に複数の絶縁電線を並べる又は撚りあわせる工程を含むことができる。
【0119】
シースの形成は、下記工程(k)~(n)により、行う。
工程(k):含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対して、有機過酸化物(D)0.003~0.3質量部と、無機フィラー(Q)1~200質量部と、ベース樹脂(B)とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下とを溶融混合して、グラフト化反応部位とベース樹脂(B)とをグラフト化反応させることにより、ベース樹脂(B)由来のシラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチLを調製する工程
工程(l):シランマスターバッチLとシラノール縮合触媒(Y)とを混合してシラン架橋性組成物Jを得る工程
工程(m):シラン架橋性組成物Jで、絶縁電線の外周を被覆してシース前駆体を形成する工程
工程(n):シース前駆体を水分と接触させてシースを形成する工程
工程(k)~(n)は、使用する材料、その配合量等が異なる以外は、工程(a)~(d)と同様にそれぞれ行うことができる、好ましい態様についても同様である。
以下に、工程(k)~(n)について、工程(a)~(d)と異なる点を中心に説明する。
上記において、シース前駆体はシラン架橋性組成物Jの層である。また、シースは、シラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物の層であり、また、シース前駆体の硬化物である。
【0120】
工程(k)において、有機過酸化物(D)の配合量は、ベース樹脂(B)100質量部に対して、0.003~0.3質量部であり、0.01~0.15質量部が好ましい。
【0121】
工程(k)において、無機フィラー(Q)の配合量は、ベース樹脂(B)100質量部に対して、1~200質量部であり、3~60質量部が好ましい。無機フィラー(Q)は、ベース樹脂(B)100質量部に対して、シリカを2質量部以上含有していることが好ましい。シリカの配合量の上限は、上記無機フィラー(Q)の配合量の範囲内であれば特に限定されないが、ベース樹脂(B)100質量部に対して、80質量部以下が好ましい。
【0122】
工程(k)において、シランカップリング剤(F)の混合量は、ベース樹脂(B)100質量部に対して、2質量部を越え15.0質量部以下であり、1.5~8質量部が好ましい。
【0123】
工程(l)において、シラノール縮合触媒(Y)の配合量は、特に限定されず、好ましくは、ベース樹脂(B)100質量部に対して、0.01~0.25質量部、より好ましくは0.02~0.2質量部である。
【0124】
工程(k)におけるシランマスターバッチLの調製は、上記ベース樹脂(B)、有機間酸化物(D)、無機フィラー(Q)、シランカップリング剤(F)を上記配合量で使用する以外は、上記工程(a)におけるシランマスターバッチKの調製と同様に行うことができる。
工程(a)と同様に、工程(k)においてベース樹脂(B)の全部を溶融混合することもできるが、工程(k)においてベース樹脂(B)の一部を溶融混合し、残部を後述する工程(b)において溶融混合することが好ましい。
工程(k)の溶融混合は、密閉型ミキサーで行われることが好ましい。
工程(a)と同様、工程(k)においても、無機フィラー(Q)は、シランカップリング剤(F)と混合して用いることが好ましい。すなわち、本発明においては、上記各成分を、下記工程(k-1)及び(k-2)により、(溶融)混合することが好ましい。
工程(k-1):少なくとも無機フィラー(Q)及びシランカップリング剤(F)を混合して混合物を調製する工程
工程(k-2):工程(k-1)で得られた混合物と、ベース樹脂(B)の全部又は一部とを、有機過酸化物(D)の存在下で有機過酸化物(D)の分解温度以上の温度において、溶融混合する工程
上記工程(k-1)及び(k-2)は、上記工程(a-1)及び(a-2)と同様に行うことができる。
ここで、工程(l)でベース樹脂(B)の残部が配合される場合、ベース樹脂(B)は、工程(k-2)において、好ましくは80~99質量%、より好ましくは85~95質量%が配合され、工程(l)において、好ましくは1~20質量%、より好ましくは5~15質量%が配合される。
上記工程(k-1)においては、無機フィラー(Q)及びシランカップリング剤(F)に加えて、有機過酸化物(D)を混合することが好ましい。
【0125】
工程(k)においては、ベース樹脂(B)とシランカップリング剤(F)とをグラフト化反応させることにより、シラングラフト樹脂が合成され、反応組成物としてこのシラングラフト樹脂を含むシランマスターバッチL(シランMBLともいう)が調製される。このシランMBLは、後述の工程(m)により成形可能な程度にシランカップリング剤(F)がベース樹脂(B)にグラフトしたシラン架橋性樹脂H(ベース樹脂(B)由来のシラン架橋性樹脂ともいう)を含有している。
【0126】
工程(l)におけるシランマスターバッチLとシラノール縮合触媒(Y)の溶融混合は、工程(b)のシランマスターバッチKとシラノール縮合触媒(X)を、シランマスターバッチLとシラノール縮合触媒(Y)に置き換える以外は、上記工程(b)と同様に行うことができる。
工程(l)においては、工程(b)と同様、シラノール縮合触媒(Y)は、触媒MBNとし、シランMBLと混合するのが好ましい。
工程(l)により、シランMBLとシラノール縮合触媒(Y)(又は縮合触媒MBN)との溶融混合物であるシラン架橋性組成物Jが得られる。このシラン架橋性組成物J(シラン架橋性樹脂)は、シランカップリング剤由来の加水分解性シリル基がシラノール縮合していない未架橋体である。
シラン架橋性組成物Jの一態様は、含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対し、無機フィラー(Q)1~200質量部と、ベース樹脂(B)とグラフト化反応したシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下とを含有し、さらにシラノール縮合触媒(Y)を含有するシラン架橋性組成物Jを含有している。
【0127】
工程(m)において、工程(l)において得られたシラン架橋性組成物Jで、絶縁電線が有する外側絶縁層の外周を被覆してシース前駆体を形成する。工程(m)は、工程(c)におけるシラン架橋性組成物Iと内側絶縁層を、シラン架橋性組成物Jと絶縁電線にそれぞれ置き換える以外は、工程(c)と同様に行うことができる。工程(m)により、工程(c)の外側絶縁層前駆体に代えて、シース前駆体が、絶縁電線の外側絶縁層の外周に形成される。工程(m)は内側絶縁層を、内側絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂の融点以上(例えば、内側絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂の融点+60度)で加熱することで、内側絶縁層の表面を溶融又は軟化させることが好ましい。
工程(m)は、具体的には、シラン架橋性組成物Jを、絶縁電線の外側絶縁層の外周に、成形して、好ましくは押出成形して、シース前駆体を形成する。
工程(m)は、ケーブルコアの外周にシラン架橋性組成物Jを被覆する工程であり、本発明のキャブタイヤケーブルの好ましい形態に応じて、ケーブルコアを選択して用いる。例えば、絶縁電線を単数用いる場合(
図1参照。)には、絶縁電線の外周にシラン架橋性組成物Jを被覆して、シース前駆体を形成する。絶縁電線を複数本用いる場合(
図2参照。)には、この複数本の絶縁電線の集合体の外周にシラン架橋性組成物Jを被覆して、シース前駆体を形成する。
【0128】
工程(n)において、工程(m)において得られたシース前駆体を、水分と接触させて架橋させる。工程(n)は、工程(d)の外側絶縁層前駆体を、シース前駆体に置き換える以外は、工程(d)と同様にして行うことができる。工程(n)により、工程(d)における外側絶縁層に代えて、シースが、外側絶縁層の外周、すなわち絶縁電線の外周に得られる。
【0129】
このようにして、工程(k)~(n)が実施され、絶縁電線の外周にシラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物からなるシースが形成される。
シラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物は、含ハロゲン樹脂を含むベース樹脂に対して特定量のシランカップリング剤がグラフト化反応したシラングラフト樹脂と特定量の無機フィラーとを含むシラン架橋性組成物について、シラングラフト樹脂に結合したシランカップリング剤の加水分解性基をシラノール縮合により架橋させたものである。このシラングラフト樹脂は、シラノール結合(シロキサン結合)を介して縮合した架橋樹脂を含んでおり、無機フィラーはシラングラフト樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。
【0130】
本発明のキャブタイヤケーブルを、工程(1)、(2)(工程(a)~(d))、工程(k)~(n)により製造する場合には、工程(1)、(2)(工程(a)~(d))を行った後に、連続して工程(k)~(n)を行うのが好ましい。ここで「連続して」とは、工程の順が連続していればよく、各工程が時間等の点で連続している必要はなく、異なる場所で行われてもよいことを意味する。例えば、工程(1)、(2)(工程(a)~(d))で外側絶縁層を形成した絶縁電線を倉庫で保管しておき、後日、シースを被覆してキャブタイヤケーブルとしてもよい。各連続して行う工程間の関係についても同じである。
【0131】
本発明のキャブタイヤケーブルは、優れた屈曲耐久性、優れた絶縁層の皮むき性、及びシースの皮むき性を兼ね備える。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の絶縁電線においては、内側絶縁層にポリオレフィン樹脂を用い、その外周にエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも1つの硬化物を含んでなる外側絶縁層を有することにより、内側絶縁層と導体との間の密着力が必要以上に強固なものとならず、導体に対して内側絶縁層がある程度の滑り性を有していると考えられる。本発明のキャブタイヤケーブルは、このような絶縁電線をシースで被覆する構成とした結果、多数回にわたってさらには繰り返し屈曲されても導体が断線されにくい。また、絶縁層の皮むきの際には、内側絶縁層と外側絶縁層との密着力が、紙等によるセパレータと外側絶縁層との密着力に対して高いため、内側絶縁層と外側絶縁層とを一体にむきとりやすく、さらに外側絶縁層が硬化物であることにより絶縁層の過度の伸びが抑制されているため、絶縁層の切断端面にひげが生じにくいと考えられる。さらに、シースが特定のシラノール縮合硬化物で形成されているため、シースの過度の伸びが抑制されて切断端面にひげが生じにくく、また、絶縁電線に対する過度の締め付けが抑制されて外側絶縁層とシースとの間に離形剤を含有する離形剤層を設けなくても、皮むき加工により良好にシースを皮むきすることが可能である。通常のキャブタイヤケーブルにおいては、外側絶縁層とシースとの界面にタルク、金属石けん、シリコーン等を含有する離形剤を塗布することで、外側絶縁層とシースとの間の密着力を低下させて、シースの皮むき性を改善している。これに対し、本発明のキャブタイヤケーブルでは、これらの離形処方を施してもよいが、外側絶縁層とシースとの間に離形剤を塗布しなくてもシースの高い皮むき性を確保できる。
このように、本発明の絶縁電線は、上記キャブタイヤケーブルに好適に用いることができる。
【0132】
また、外側絶縁層を内側絶縁層の外周に直接被覆する好ましい態様においては、内側絶縁層と外側絶縁層との間が適度に密着しているため、皮むき性により優れる。
さらに、外側絶縁層をシラン架橋により形成する好ましい態様においては、化学架橋の場合と異なり、外側絶縁層による内側絶縁層に対する過度の締め付けや、内側絶縁層の溶融が抑制されるため、導体と内側絶縁層との間の滑り性により優れる。このため、屈曲耐久性をさらに高めることができる。また、無機フィラーを用いたシラン架橋性組成物Iを用いてシラン架橋を行う好ましい態様においては、外側絶縁層の架橋がより複雑になって、外側絶縁層の柔軟性及び強靭性がさらに高まると考えられる。その結果、屈曲耐久性をさらにいっそう高めることができる。
通常、キャブタイヤケーブルのゴム系絶縁層やシースの化学架橋は150~230℃程度の高温及び高圧下で行われるため、内側絶縁層としてポリオレフィン樹脂層を有する絶縁電線は、上記化学架橋によってポリオレフィン樹脂が溶融し層状を維持できないことを理由に、キャブタイヤケーブルに用いられていなかった。しかし、外側絶縁層の架橋方法をシラン架橋法とした、本発明の好ましい態様によれば、ポリオレフィン樹脂層を層状に維持でき、導体と外側絶縁層との間の滑り性がポリオレフィン樹脂が溶融した場合に対して高く、キャブタイヤケーブルに好適に用いることが可能である。
【実施例】
【0133】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表1において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。
【0134】
実施例及び比較例は、下記成分を用いて、それぞれの諸元を表1に示す条件に設定して実施し、表1に後述する評価結果を併せて示した。
【0135】
表1中に示す各成分として下記化合物を使用した。
【0136】
--内側絶縁層用成分--
ポリオレフィン樹脂として
「NUC7540」(商品名、日本ユニカー社製、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE))
「UBEC-180」(商品名、宇部丸善石油化学社製、中密度ポリエチレン
「ハイゼックス5305」(商品名、プライムポリマー社製、高密度ポリエチレン)
「PB222A」(商品名、サンアロマー社製、ランダムポリプロピレン)
「NUC6520」(商品名、日本ユニカー社製、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA))
比較用セパレータとして
「雁皮紙」(一般名、後藤紙業社製、紙、厚さ:30μm)
「PETテープ」(一般名、三祐化工社製、ポリエチレンテレフタレート、厚さ:20μm)
【0137】
--外側絶縁層用成分--
<ベース樹脂(A)>
エチレンゴムとして
「三井3092EPM」(商品名、三井化学社製、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM))
「EP21P」(商品名、JSR社製、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM))
スチレン系エラストマーとして
「セプトン4077」(商品名、クラレ社製、スチレン系エラストマー(SEEPS))
非芳香族有機油として
「ダイアナプロセスPW90」(商品名、出光興産社製、パラフィンオイル)
ポリオレフィン樹脂として
「エボリューSP0540」(商品名、プライムポリマー社製、直鎖状メタロセンポリエチレン(LLDPE))
「PB222A」(商品名、サンアロマー社製、ランダムポリプロピレン)
「UE320」(日本ポリエチレン社製、ノバテックPE(商品名)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE))
「EV360」(商品名、三井デュポンポリケミカル社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA))
「NUC7540」(商品名、日本ユニカー社製、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE))
「NUC6520」(商品名、日本ユニカー社製、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA))
【0138】
<有機過酸化物(C)>
「パーヘキサ25B」(商品名、日本油脂社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度149℃)
「パークミルD」(商品名、日油社製、ジクミルパーオキサイド、分解温度151℃)
<無機フィラー(P)>
水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5、協和化学工業株社製、平均粒径0.8μm)
シリカ(商品名:アエロジル200、日本アエロジル社製)
<シランカップリング剤(E)>
「KBM-1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
<シラノール縮合触媒(X)>
「アデカスタブOT-1」(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウリレート)
<酸化防止剤(ヒンダードフェノール酸化防止剤)>
「イルガノックス1076」(商品名、BASF社製、フェノール酸化防止剤、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
「イルガノックス1010」(商品名、BASF社製、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
【0139】
--シース用成分--
<ベース樹脂(B)>
含ハロゲン樹脂として
「エラスレン401A」(商品名、昭和電工社製、塩素化ポリエチレン)
「エラスレン402NA-X5」(商品名、昭和電工社製、塩素化ポリエチレン)
「スカイプレンE-33」(商品名、東ソー社製、クロロプレンゴム)
「ZEST 1400」(商品名、新第一塩ビ社製、ポリ塩化ビニル(PVC))
可塑剤として
「アデカサイザーC-9N」(商品名、ADEKA製、トリメリット酸系可塑剤)
<有機過酸化物(D)>
「パーヘキサ25B」(商品名、日本油脂社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度149℃)
「パークミルD」(商品名、日油社製、ジクミルパーオキサイド、分解温度151℃)
<無機フィラー(Q)>
「DHT4A」(商品名、協和化学工業社製、ハイドロタルサイト)
「キスマ5L」(商品名、協和化学工業社製、シランカップリング剤前処理水酸化マグネシウム)
「クリスタライト5X」(商品名、龍森社製、結晶性シリカ)
「ソフトン2200」(商品名、備北粉化工業社製、炭酸カルシウム)
「アエロジル200」(商品名、日本アエロジル社製、親水性フュームドシリカ、非結晶性シリカ)
<シランカップリング剤(F)>
「KBM-1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
<酸化防止剤(ヒンダードフェノール酸化防止剤)>
「イルガノックス1010」(商品名、BASF社製、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
<シラノール縮合触媒(Y)>
「アデカスタブOT-1」(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウリレート)
【0140】
絶縁コンパウンドA
表1に示す配合量で、有機過酸化物とシランカップリング剤とを混合し、得られた混合物を無機フィラーに加え、ヘンシェルミキサーを用いて30℃で10分間攪拌を行って、無機フィラー混合物を調製した。次に、この無機フィラー混合物を、ベース樹脂(エチレンゴム、スチレン系エラストマー、非芳香族有機油、及びポリオレフィン樹脂)と共にバンバリーミキサーに加え、190℃で混練を10分間行い、200℃で排出して、シランマスターバッチ(絶縁コンパウンドA)を得た(工程(a))。排出後、フィーダールーダーを介し、ホットカットでペレットを得た。
【0141】
絶縁コンパウンドB
表1に示す配合量で、ベース樹脂(ポリエチレン樹脂)、シラノール縮合触媒、及び酸化防止剤をバンバリーミキサーに加え、180℃で混練を10分間行い、190℃で排出して、触媒MB(絶縁コンパウンドB)を得た(工程(b))。排出後、フィーダールーダーを介し、ホットカットでペレットを得た。
【0142】
絶縁コンパウンドC
表1に示す配合量で、ベース樹脂(エチレンゴム及びポリオレフィン樹脂)、有機過酸化物、酸化防止剤、及びシランカップリング剤をヘンシェルミキサーに導入し、30℃で10分間攪拌を行って、樹脂混合物を調製した。次に、この樹脂混合物を直径90mmの単軸ストレーナーに加え、温度190℃で押出機より排出し、ストランドを水冷後、水を除去し、丸ペレタイザーでカットしてペレットを得た。
【0143】
絶縁コンパウンドD
表1に示す配合量で、ベース樹脂(ポリオレフィン樹脂)、有機過酸化物、酸化防止剤、及びシランカップリング剤を混合し、タンブラーを用いて30℃で10分間攪拌を行って、樹脂混合物を調製した。次に、この樹脂混合物を、直径65mmの単軸押出機(シリンダー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入し、ストランド状に押出を行い、このストランドを冷却した後、丸ペレタイザーでカットしてペレットを得た。
【0144】
シースコンパウンドA
表1に示す配合量で、有機過酸化物とシランカップリング剤とを混合し、得られた混合物を無機フィラー成分に加えヘンシェルミキサーを用いて30℃で10分間攪拌を行って、無機フィラー混合物を調製した。次に、この無機フィラー混合物を、ベース樹脂(塩素化ポリエチレン、クロロプレンゴム、及びポリ塩化ビニル)及び可塑剤と共に、表1に示す質量比でバンバリーミキサーに加え、180℃で混練を10分間行い、195℃で排出して、シランマスターバッチ(シースコンパウンドA)を得た(工程(k))。排出後、フィーダールーダーを介し、ホットカットでペレットを得た。
【0145】
シースコンパウンドB
表1に示す配合量で、ベース樹脂(塩素化ポリエチレン及びポリ塩化ビニル)、可塑剤、シラノール縮合触媒、及び酸化防止剤を、バンバリーミキサーに加え、180℃で混練を10分間行い、190℃で排出して、触媒MB(シースコンパウンドB)を得た(工程(l))。排出後、フィーダールーダーを介し、ホットカットでペレットを得た。
【0146】
シースコンパウンドC
表1に示す配合量で、有機過酸化物、ベース樹脂(塩素化ポリエチレン及びクロロプレンゴム)、無機フィラー、及びシランカップリング剤をニーダーに加え、最大温度100℃で8分間混練し、100℃で排出して、シースコンパウンドCを得た。排出後、ロールに通し、ステアリン酸を塗りつつリボンを得た。
【0147】
実施例1~13
以下のようにして、導体として撚り線を使用した以外は
図3に示す構成の絶縁電線を製造し、これを用いて
図2に示す構成のキャブタイヤケーブルを製造した。
- 絶縁電線の作製 -
37/0.26導体(外径1.8mm)の外側に、表1に示すポリオレフィン樹脂を、L/D23mmの直径25mmの押出機で、外径2.1mmで押出被覆して内側絶縁層付導体を形成した。
実施例1から11については絶縁コンパウンドAとBとを表1に示す配合比で、室温(25℃)にて、ドライブレンドし、ドライブレンド物をシリンダー温度165℃、ヘッド温度190℃に設定した直径65mmの押出機に導入し、上記内側絶縁層付導体の外周を外径3.5mmとなるように押出被覆した(工程(c))。得られた被覆導体を常温(25℃)で4日間放置した(工程(d))。このようにしてシラン架橋法により外側絶縁層を形成し、絶縁電線を得た。
実施例12及び13についてはコンパウンドCを、ヘッド温度(油温度)で90℃に設定したゴム用の直径75mmの押出機に導入し、上記内側絶縁層付導体の外周を外径3.5mmとなるように押出被覆した後、連続で200℃1.2気圧の水蒸気で加熱された架橋管を通し、冷却して絶縁電線を得た。
- ケーブルの製造 -
作成した絶縁電線を3本撚りあわせてケーブルコアを作成した。
次に、シースコンパウンドA及びBを表に示す配合比で、室温にて、ドライブレンドし、ドライブレンド物をシリンダー温度130℃、ヘッド温度150℃に設定した直径90mmの押出機に導入し、ケーブルコアの外周を押出被覆(標準肉厚0.8mm)し(工程(m))、常温で4日間放置した(工程(n))。このようにしてシラン架橋法によりシースを形成し、外径11.2mmの、キャブタイヤケーブルを得た。なお一部のサンプルにはケーブルコア外周上にタルクを塗布した後に、シースを形成して、キャブタイヤケーブルを得た(タルクを塗布したものについては、表1のタルク塗布欄に「あり」と表記して示す。)
【0148】
比較例1及び2
- 絶縁電線の作製 -
絶縁コンパウンドA及びBを表1に示す配合比で、室温にて、ドライブレンドし、ドライブレンド物をシリンダー温度165℃、ヘッド温度190℃に設定した直径65mmの押出機に導入し、37/0.26導体(外径1.8mm)の導体の外周を外径3.5mmとなるように押出被覆した。被覆の際には、雁皮紙又はPETテープを導体の外周に添えつつ上記ドライブレンド物を押し出した。得られた被覆導体は常温で4日間放置した。このようにしてシラン架橋法により絶縁層を形成し、絶縁電線を得た。
- ケーブルの製造 -
作成した絶縁電線を3本撚りあわせてケーブルコアを作成した。
次に、シースコンパウンドA及びBを表に示す配合比で、室温にて、ドライブレンドし、ドライブレンド物をシリンダー温度130℃、ヘッド温度150℃に設定した直径90mmの押出機に導入し、ケーブルコアの外周に押出被覆(標準肉厚0.8mm)し(工程(m))、常温で4日間放置した(工程(n))。このようにしてシラン架橋法によりシースを形成し、外径11.2mmの、キャブタイヤケーブルを得た。
【0149】
比較例3、4、6
- 絶縁電線の作製 -
絶縁コンパウンドA及びBを表1に示す配合比で、室温にて、ドライブレンドし、ドライブレンド物を、シリンダー温度165℃、ヘッド温度190℃に設定した直径65mmの押出機に導入し、37/0.26導体(外径1.8mm)の導体の外周を外径3.5mmとなるように押出被覆した。得られた被覆導体は常温で4日間放置した。このようにしてシラン架橋法により絶縁層を形成し、絶縁電線を得た。
- ケーブルの製造 -
作成した絶縁電線を3本撚りあわせてケーブルコアを作成した。
次にシースコンパウンドCをシリンダー温度80℃に設定した直径90mmの化学架橋用押出機に導入し、ケーブルコアの外周に外径11.2mmで被覆し、その後250℃に設定された水蒸気架橋装置に連続的に通すことで、化学架橋法によりシースを形成し、キャブタイヤケーブルを得た。なお比較例3及び6ではケーブルコア外周上にタルクを塗布した後に、キャブタイヤケーブルを作成した。
【0150】
比較例5
- 絶縁電線の作製 -
絶縁コンパウンドCをシリンダー温度(油温度)110℃に設定した直径90mmの化学架橋用押出機に導入し、37/0.26導体(外径1.8mm)の導体の外周を外径3.5mmとなるように押出被覆した。その後、200℃1.2気圧に設定された水蒸気架橋装置に連続的に通すことで化学架橋法により架橋ゴム絶縁電線を得た。
- ケーブルの製造 -
作成した絶縁電線を3本撚りあわせてケーブルコアを作成した。
ケーブルコア外周上にタルクを塗布した。
次に、シースコンパウンドA及びBを表に示す配合比で、室温にて、ドライブレンドし、ドライブレンド物を、シリンダー温度130℃、ヘッド温度150℃に設定した直径90mmの押出機に導入し、タルクを塗布したケーブルコアの外周に外径11.2mmで被覆し、常温で4日間放置した。このようにしてシラン架橋法によりシースを形成し、キャブタイヤケーブルを得た。
【0151】
比較例7
- 絶縁電線の作製 -
絶縁コンパウンドCを、ヘッド温度(油温度)で90℃に設定したゴム用の直径75mmの押出機で、37/0.26導体(外径1.8mm)の導体の外周を外径3.5mmとなるように押出被覆した。その後、連続で200℃1.2気圧の水蒸気で加熱された架橋管を通し、冷却することで化学架橋法により架橋ゴム絶縁電線を得た。
- ケーブルの製造 -
作成した絶縁電線を3本撚りあわせてケーブルコアを作成した。
ケーブルコア外周上にタルクを塗布した。
次にシースコンパウンドCをシリンダー温度80℃に設定した直径90mmの化学架橋用押出機に導入し、タルクを塗布したケーブルコアの外周を外径11.2mmとなるように押出被覆し、その後200℃に設定された水蒸気架橋装置に連続的に通すことで、化学架橋法によりシースを形成し、キャブタイヤケーブルを得た。
【0152】
比較例8、9
- 絶縁電線の作製 -
37/0.26導体(外径1.8mm)の外側に、表1に示すポリオレフィン樹脂を、L/D23mmの直径25mmの押出機で、外径2.1mmで押出被覆して内側絶縁層付導体を形成した。
絶縁コンパウンドDをシリンダー温度120℃に設定した直径90mmの化学架橋用押出機に導入し、内側絶縁層付導体の外周を外径3.5mmとなるように押出被覆した。その後、200℃1.2気圧に設定された水蒸気架橋装置に連続的に通すことで化学架橋法により架橋絶縁電線を得た。
- ケーブルの製造 -
作成した絶縁電線を3本撚りあわせてケーブルコアを作成した。
ケーブルコア外周上にタルクを塗布した。
次に、シースコンパウンドA及びBを表に示す配合比で、室温にて、ドライブレンドし、ドライブレンド物を、シリンダー温度130℃、ヘッド温度150℃に設定した直径90mmの押出機に導入し、ケーブルコアの外周に外径11.2mmで被覆し、常温で4日間放置した。このようにしてシラン架橋法によりシースを形成し、キャブタイヤケーブルを得た。
【0153】
比較例10
以下のようにして、作製した本発明の絶縁電線の外周に、本発明で規定するシラン架橋性組成物J以外の樹脂組成物の架橋物で形成した、比較例10のキャブタイヤケーブルを製造した。
- 絶縁電線の作製 -
37/0.26導体(外径1.8mm)の外周に、表1に示すポリオレフィン樹脂を、L/D23mmの直径25mmの押出機で、外径2.1mmで押出被覆して内側絶縁層付導体を形成した。
絶縁コンパウンドA及びBを表1に示す配合比で、室温にて、ドライブレンドし、ドライブレンド物を、シリンダー温度165℃、ヘッド温度190℃に設定した直径65mmの押出機に導入し、内側絶縁層付導体の外周を外径3.5mmとなるように押出被覆した。得られた被覆導体は常温で4日間放置した。このようにしてシラン架橋法により絶縁層を形成し、絶縁電線を得た。
- ケーブルの製造 -
作成した絶縁電線を3本撚りあわせてケーブルコアを作成した。
次にシースコンパウンドCをシリンダー温度80℃に設定した直径90mmの化学架橋用押出機に導入し、ケーブルコアの外周に外径11.2mmで被覆し、その後250℃に設定された水蒸気架橋装置に連続的に通すことで、化学架橋法によりシースを形成し、キャブタイヤケーブルを得た。
【0154】
得られたキャブタイヤケーブルについて、以下の試験を行った
【0155】
1)屈曲耐久性試験
図4は、本試験に用いる装置の概略を、マンドレルの軸方向から見た概略図である。
図4に示すように、水平かつ互いに平行に配置された2本のマンドレル51、52間及び揺れ防止用の押え61、62間に、キャブタイヤケーブル102を鉛直方向に通し、キャブタイヤケーブル102の下方におもり7を取り付けた。この状態で、キャブタイヤケーブル102の上端を左右のマンドレル51又は52の上側外周に交互に接するように(左右交互に繰り返し)屈曲させた。屈曲回数は、キャブタイヤケーブル102を左右のマンドレル51、52のいずれかの外周に接するように屈曲させた場合を1回として、カウントした。なお、試験条件は、マンドレル径20mm、左右曲げ角度90°、速度60屈曲/分で行い、おもりは500g、キャブタイヤケーブルとマンドレルとのクリアランスは1mmとし、キャブタイヤケーブル102の上方の側面が各マンドレルの上方外周に接するように、屈曲させる長さを調製して、25℃の雰囲気で、試験を行った。キャブタイヤケーブルの絶縁電線をループ状に直列につないで通電し、いずれかの絶縁電線の導体の断線が生じるまでの屈曲回数を測定した。結果を表1に示す。
本試験においては、断線が生じるまでの屈曲回数が15000回以上であれば「A」、10000回以上15000回未満は「B」、7000回以上~10000回未満を「C」とし。7000回未満はDとした。屈曲回数の判定はC以上では合格とするが、B以上の場合、さらにはA以上の場合が好ましい。
【0156】
2)シースの皮むき試験
得られたキャブタイヤケーブルについて、穴径8.0mmのワイヤーストリッパーを用いて端部から50mm皮むきを行った。
本試験においては、ワイヤーストリッパーで皮むきできたもの(シース部分を完全に剥ぎ取ってケーブルコアを露出させることができたもの)を合格、シース部分が剥ぎ取れなかった又はワイヤーストリッパーでケーブル全周方向への切断時に一部が切れずに残ってしまったものを不合格とした。
【0157】
3)絶縁層の皮むき試験1
絶縁層(内側絶縁層及び外側絶縁層)の皮むき性を、本試験により確認した。
得られたキャブタイヤケーブルからシースを取り除いてケーブルコアを露出させた。ケーブルコアの3本の絶縁電線の撚りを解き、その内、1本の絶縁電線の絶縁層を穴径1.9mmのワイヤーストリッパーを用いてむき取り、観察した。
切断面のひげの長さが2.5mm以下のものを合格、ひげの長さが2.5mmを超えるものやむけなかったもの(内側絶縁層、又は内側絶縁層と外側絶縁層と、が導体上に残ってしまったもの)を不合格とした。
【0158】
上記以外にも、以下の特性について評価した。これらの試験には、必ずしも合格が必須ではない。
【0159】
4)絶縁層の皮むき試験2
絶縁層(内側絶縁層及び外側絶縁層)の皮むき性を、本試験により確認した。
得られたキャブタイヤケーブルからシースを取り除いてケーブルコアを露出させた。ケーブルコアの3本の絶縁電線の撚りを解き、その内、1本の絶縁電線の絶縁層を穴径2.0mmのワイヤーストリッパーを用いてむき取り、観察した。
切断面のひげの長さが2.5mm以下のものを合格、ひげの長さが2.5mmを超えるものやむけなかったもの(内側絶縁層、又は内側絶縁層と外側絶縁層と、が導体上に残ってしまったもの)を不合格とした。本試験は、皮むきの際に導体に傷をつけないために、刃を絶縁層深部まであまり入れないで被覆を除去する場合を想定した、より高度の過酷試験である。
【0160】
5)加熱後の絶縁層の皮むき試験1
得られたキャブタイヤケーブルを80℃で168時間放置し、その後、シースを取り除いてケーブルコアを露出させた。ケーブルコアの3本の絶縁電線の撚りを解き、その内、1本の絶縁電線の絶縁層を穴径2.0mmのワイヤーストリッパーを用いてむき取り、観察した。
本試験においては、切断面のひげの長さが2.5mm以下のものを合格、ひげの長さが2.5mmを超えるものやむけなかったものを不合格とした。本試験は、キャブタイヤケーブルが輸送されたり、倉庫で保管されたりすることを想定した試験であり、海上等での輸送時又は夏場の保管時に高温に曝されることにより、導体と内側絶縁層との密着力が過度なものとなって皮むき性が低下することを考慮して、加熱後にも優れた皮むき性を維持しているかを評価する促進過酷試験である。
【0161】
6)加熱後の絶縁層の皮むき試験2
得られたキャブタイヤケーブルを80℃で168時間放置し、その後、シースを取り除いてケーブルコアを露出させた。ケーブルコアの3本の絶縁電線の撚りを解き、その内、1本の絶縁電線の絶縁層を穴径2.4mmのワイヤーストリッパーを用いてむき取り、観察した。
切断面のひげの長さが4mm以下のものを合格、ひげの長さが4mmを超えるものやむけなかったものを不合格とした。本試験は、加熱後の絶縁層の皮むき試験1と同様に、キャブタイヤケーブルが海上等で輸送されたり、夏場に倉庫で保管されたりすることを想定した試験であるが、皮むきの際に刃を絶縁層深部まであまり入れないで被覆を除去する場合を想定した、より高度の促進過酷試験である。
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
紙又はポリエチレンテレフタレートテープが導体の外周を被覆している絶縁電線を用いた比較例1及び2のキャブタイヤケーブルは、絶縁層の皮むき性試験1に不合格であった。
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーのシラン架橋による硬化物を含む絶縁層1層が導体の外周を被覆している絶縁電線を使用し、かつ化学架橋による硬化物からなるシースを有する比較例3、4、及び6のキャブタイヤケーブルは、いずれもシースの皮むき性に劣っていた。
エチレンゴムの化学架橋による硬化物を含む絶縁層1層が導体の外周を被覆している絶縁電線を使用した比較例5のキャブタイヤケーブルは、屈曲耐久性及び絶縁層の皮むき性試験1に不合格であった。
エチレンゴムの化学架橋による硬化物を含む絶縁層1層が導体の外周を被覆している絶遠電線を使用し、かつ化学架橋によるシースを有する比較例7のキャブタイヤケーブルは、屈曲耐久性、シースの皮むき性及び絶縁層の皮むき性に劣った。
エチレンゴム又はスチレン系エラストマーを含有しない、化学架橋による、外側絶縁層を有する絶遠電線を用いた比較例8及び9のキャブタイヤケーブルは、屈曲耐久性に劣っていた。
化学架橋によるシースを有する比較例10のキャブタイヤケーブルは、屈曲耐久性及びシースの皮むき性に劣っていた。
これに対し、本発明のポリオレフィン樹脂を含んでなる内側絶縁層とエチレンゴム及び/又はスチレン系エラストマーの硬化物を含んでなる外側絶縁層を有する絶遠電線を用い、特定のシラン架橋性組成物Jのシラノール縮合硬化物からなるシースを有する実施例1~13のキャブタイヤケーブルは、屈曲耐久性、絶縁層の皮むき性、及びシースの皮むき性に優れていた。このため、電気的接続の際の皮むき作業が容易であり、多数回の屈曲によっても断線しにくいことが分かる。また、実施例1~5、8~13は、絶縁層の皮むき試験2に合格していることから、絶縁層の皮むき試験1よりもひげの発生しやすい状況下においても、優れた皮むき性を示すことが分かる。さらに、実施例1~6、8~13は、加熱後の絶縁層の皮むき試験1及び2に合格していることから、輸送や保管等によっても、絶縁層の皮むき性が劣化しにくいことが分かる。
また、本発明のポリオレフィン樹脂を含んでなる内側絶縁層とエチレンゴム及び/又はスチレン系エラストマーの硬化物を含んでなる外側絶縁層を有する絶縁電線を用いた実施例1~13及び比較例10は、いずれも、絶縁線の皮むき性に優れていた。
【符号の説明】
【0166】
101、102 キャブタイヤケーブル
1、11、12 導体
2、21、22 内側絶縁層
3、31、32 外側絶縁層
41、42 シース
51、52 マンドレル
61、62 揺れ防止用の押え
7 おもり
10 キャブタイヤケーブル用絶縁電線