(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220208BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220208BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220208BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220208BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2017244432
(22)【出願日】2017-12-20
【審査請求日】2020-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】金田 治輝
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 亮三
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-055778(JP,A)
【文献】特開2015-201431(JP,A)
【文献】特開2013-026199(JP,A)
【文献】特開2012-230898(JP,A)
【文献】特開2007-188878(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0292763(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105591099(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li
z
Ni
1-x-y
Co
x
M
y
O
2+α
(0<x≦0.35、0<y≦0.07、0.85≦z≦1.10、x+y≦0.20、0≦α≦0.5、元素Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、および前記一次粒子が凝集した二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粒子と、
前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の前記二次粒子の表面、及び前記一次粒子の表面に配置され、Li、及びMoを含有する酸化物を含むリチウム-モリブデン含有酸化物の粒子であるリチウム-モリブデン含有酸化物粒子とを有し、
含有する総炭素量が0.035質量%未満であ
り、
Warder法によって求められる溶出リチウム量と、比表面積とを用いて、以下の式(1)により算出される粒子表面リチウム量が0.035質量%・g/m
2
以上である非水系電解質二次電池用正極活物質。
粒子表面リチウム量(質量%・g/m
2
)=(溶出リチウム量(質量%))/(比表面積(m
2
/g)) ・・・(1)
【請求項2】
前記リチウム-モリブデン含有酸化物がLi
2MoO
4、およびLi
4MoO
5から選択された1種類以上を含む請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
Li、Ni、Co、及び添加元素M(ただし、添加元素Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選択される少なくとも1種の元素)を含むリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、および前記一次粒子が凝集した二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粒子と、水とを含む母材原料の水分率を調整する水分率調整工程と、
前記母材原料と、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子とを混合し、原料混合物を調製する混合工程と、
前記原料混合物を、非還元雰囲気において熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記水分率調整工程において前記母材原料の水分率を0.1質量%以上20質量%以下にする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記水分率調整工程において前記母材原料の水分率を0.1質量%以上15質量%以下にする請求項
3に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、Co、及び添加元素Mの原子数に対する、添加する前記リチウム-モリブデン含有酸化物粒子に含まれるMoの原子数の割合が、0.02at.%以上2.0at.%以下となるように、前記リチウム-モリブデン含有酸化物粒子を添加する請求項
3または請求項
4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程における熱処理温度が100℃以上600℃以下である請求項
3~請求項
5のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項
1または請求項
2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備えた非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及にともない、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。このような二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の負極材料には、リチウム金属やリチウム合金、金属酸化物、あるいはカーボン等が用いられている。これらの材料は、リチウムを脱離・挿入することが可能な材料である。
【0003】
正極材料についても各種検討がなされている。これまで主に提案されている正極材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)やコバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0004】
このうちリチウムニッケル複合酸化物およびリチウムコバルト複合酸化物は、サイクル特性に優れ、正極活物質と電解液界面の抵抗である電荷移動抵抗(以下、正極抵抗と表記する)が低いため高出力が得られる材料として注目されている。また一方で、近年では高出力化に必要な正極抵抗の低減(低抵抗化)が重要視されている。
【0005】
上記低抵抗化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種以上の元素が、Mn、Ni及びCoの合計モル量に対して、0.1モル%以上、5モル%以下の割合で含有されていることを特徴とするリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案されている。
【0007】
特許文献1においては、Mo、W、Nb、Ta、Reのいずれか1種以上の元素を含有する化合物をリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物の焼成前駆体に微細かつ均一になるように添加した後、高温下で熱処理を施すことにより、焼成時の粒成長や焼結を抑制する効果を発揮し、かつ、活物質粒子表面に濃化するとともに粒子表面から深さ方向に非直線的な濃度勾配をもって分布する連続的組成傾斜構造を有することによって、出力特性を大幅に向上させる効果をも発揮することを見出したとされている。
【0008】
係るリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体によれば、リチウム二次電池正極材料として用いた場合、低コスト化及び高安全性化と高負荷特性、粉体取り扱い性向上の両立を図ることができるとされている。
【0009】
また、特許文献2には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、該一次粒子のアスペクト比が所定の範囲内であり、該粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を備える化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0010】
係る非水電解質二次電池用正極活物質によれば、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、導電性が向上すると考えられるとされている。また、これにより熱安定性、負荷特性および出力特性の向上を損なうことなく、初期特性が向上するとされている。
【0011】
特許文献3には、負極,正極,リチウム塩を含む非水電解質からなる可逆的に複数回の充放電が可能な電池に関し、該正極における正極活物質の周りにTi,Al,Sn,Bi,Cu,Si,Ga,W,Zr,B,Moから選ばれた少なくとも1種を含む金属及びまたはこれらの複数個の組み合わせにより得られる金属間化合物、及びまたは酸化物を被覆したものを使用することを特徴とする正極およびそれを用いた電池が提案されている。
【0012】
係る電池によれば、発火,爆発の要因となる酸素ガスを吸収させることで安全性を確保できるため、従来難しいとされてきた安全性試験の中でも特に、1.5~2.5℃の低電圧で発火する過充電や、低温での過充電,圧壊,釘さし,火中投棄などで効果を発揮できるとされている。
【0013】
特許文献4には、LiaNixCoyAlzO2で平均組成が表される複合酸化物粒子にタングステン酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15重量%以下である正極活物質が提案されている。
【0014】
係る正極活物質によれば、非水電解液等の分解によるガス発生を抑制することができるとされている。または、正極活物質中自身からのガス発生を抑制することができるとされている。
【0015】
特許文献5には、Liイオンの吸蔵および放出が可能なリチウム複合酸化物粉末の表面に、MoおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とLiとを含む表面層を有するリチウム二次電池用正極活物質が提案されている。
【0016】
係るリチウム二次電池用正極活物質によれば、高い初期放電容量を維持したまま、従来の正極活物質に比べて、充電状態での熱的な安定性の向上した正極活物質を得ることができ、安全性が向上した高エネルギー密度のリチウム二次電池を得ることができるとされている。
【0017】
特許文献6には、充放電可能な正極、充放電可能な負極、および非水電解液を有し、前記正極は、活物質粒子を含み、前記活物質粒子は、リチウム複合酸化物を含み、前記活物質粒子の表層部には、モリブデン酸化物が存在する、リチウムイオン二次電池が提案されている。
【0018】
係るリチウムイオン二次電池によれば、間欠サイクル特性が飛躍的に向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2009-289726号公報
【文献】特開2005-251716号公報
【文献】特開平11-16566号公報
【文献】特開2010-40383号公報
【文献】特開2002-75367号公報
【文献】特開2007-188878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、非水系電解質二次電池用正極活物質では、大気中の水分等と反応し、結晶内部からリチウムの引き抜きが起きることで容量低下や正極抵抗の増加の原因となる大気劣化が生じる場合がある。そして、例えば製造過程等において、非水系電解質二次電池用正極活物質が大気と接触する場合もあり、このように大気に接触した場合でも非水系電解質二次電池とした場合に十分に高い電池性能を発揮することが求められていた。すなわち耐候性を高めることが求められていた。
【0021】
しかしながら、上述の特許文献においては、このような大気劣化については認識されておらず、耐候性を高めることについて何ら検討されていなかった。
【0022】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、大気に曝露した場合でも、初期放電容量が高く、正極抵抗を低く維持できる耐候性に優れた非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
一般式Li
z
Ni
1-x-y
Co
x
M
y
O
2+α
(0<x≦0.35、0<y≦0.07、0.85≦z≦1.10、x+y≦0.20、0≦α≦0.5、元素Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、および前記一次粒子が凝集した二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粒子と、
前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の前記二次粒子の表面、及び前記一次粒子の表面に配置され、Li、及びMoを含有する酸化物を含むリチウム-モリブデン含有酸化物の粒子であるリチウム-モリブデン含有酸化物粒子とを有し、
含有する総炭素量が0.035質量%未満であり、
Warder法によって求められる溶出リチウム量と、比表面積とを用いて、以下の式(1)により算出される粒子表面リチウム量が0.035質量%・g/m
2
以上である非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
粒子表面リチウム量(質量%・g/m
2
)=(溶出リチウム量(質量%))/(比表面積(m
2
/g)) ・・・(1)
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、大気に曝露した場合でも、初期放電容量が高く、正極抵抗を低く維持できる耐候性に優れた非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例、比較例で電池評価に使用したコイン型電池の概略説明図。
【
図2】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図。
【
図3】実施例で作製した正極活物質の断面SEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質]
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一構成例について説明する。
【0027】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、および一次粒子が凝集した二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粒子と、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子とを有することができる。
【0028】
リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウムニッケル複合酸化物は、Li(リチウム)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、及び添加元素Mを含むことができる。添加元素Mは、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Mg(マグネシウム)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)およびAl(アルミニウム)から選択される少なくとも1種の元素とすることができる。
【0029】
リチウム-モリブデン含有酸化物粒子は、Li、及びMoを含有する酸化物を含むことができる。
【0030】
リチウム-モリブデン含有酸化物粒子は、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面、および一次粒子の表面に配置することができる。また、本実施形態の正極活物質は、含有する総炭素量を0.035質量%未満とすることができる。
【0031】
本実施形態の正極活物質は、上述の様にリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、および該一次粒子が凝集した二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粒子を有することができる。
【0032】
係るリチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウムニッケル複合酸化物は、Li(リチウム)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、及び添加元素Mを含むことができる。該リチウムニッケル複合酸化物の組成は特に限定されないが、例えば一般式LizNi1-x-yCoxMyO2+αで表されることが好ましい。なお、係る一般式中、xは0<x≦0.35、yは0<y≦0.07、0.85≦z≦1.10、x+y≦0.20、0≦α≦0.5、を満たすことが好ましい。また、元素Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0033】
リチウムニッケル複合酸化物粒子が含有するリチウムニッケル複合酸化物が、上記一般式で表される場合、特に高い充放電容量を得ることができるため好ましい。
【0034】
なお、リチウムニッケル複合酸化物粒子は、上記一般式で表されるリチウムニッケル複合酸化物から構成することもできる。ただし、この場合においても製造過程等で混入する不可避成分を含むことを排除するものではない。
【0035】
本実施形態の正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、後述するリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を含んでいる。このため、該正極活物質の組成分析を行った場合に、リチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の組成を規定することは困難な場合がある。このような場合には、本実施形態の正極活物質を調製する際に用いた、原料となるリチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の組成を、本実施形態の正極活物質のリチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の組成とすることができる。
【0036】
本実施形態の正極活物質は、さらにLi、及びMoを含有する酸化物を含むリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を含有することができる。係るリチウム-モリブデン含有酸化物粒子は、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面と二次粒子内部に存在する一次粒子の表面に配置することができる。このように、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面、および一次粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置することで、本実施形態の正極活物質を、非水系電解質二次電池に用いた場合に、正極抵抗を低減できる。このため、係る非水系電解質二次電池の出力特性を向上させ、充放電容量を向上させることができる。
【0037】
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物のもつ高容量という長所が消されてしまうと考えられている。
【0038】
しかし、本実施形態の正極活物質においては、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物を含む粒子を配置しているにも関わらず、配置していない場合と比較してリチウムイオン伝導度が高くなり、リチウムイオンの移動を促すことができる。このため、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置することで、電解液との界面でリチウムイオンの導電パスを形成でき、正極活物質表面の正極抵抗を低減して出力特性を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態の正極活物質では、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面と二次粒子内部に存在する一次粒子の表面をリチウム-モリブデン含有酸化物粒子で被覆している。このように、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面、および二次粒子内部に存在する一次粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置することで、活性なリチウムニッケル複合酸化物の耐候性を高めることができる。すなわち、本実施形態の正極活物質を大気に曝露した場合でも、初期放電容量を高く、正極抵抗を低く維持することができる。また、長期間にわたり、正極活物質の劣化に伴う電池特性の低下を抑制することができる。すなわち、正極活物質の耐久性を高めることができる。
【0040】
ここで、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面を、粒状物を含まない、層状物のみで被覆した場合には、その被覆厚みに関わらず比表面積の低下が起こる。このため、被覆物が高いリチウムイオン伝導度(リチウムイオン伝導率)を有していたとしても、電解液との接触面積が小さくなってしまい、それによって充放電容量の低下や、正極抵抗の上昇を招きやすい。しかし、本実施形態の正極活物質においては、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に、粒状物であるリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置しており、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、充放電容量を高め、正極抵抗を低減させることができる。
【0041】
なお、本実施形態の正極活物質において、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面には、比表面積を高める観点から、粒子状であるリチウム-モリブデン含有酸化物粒子のみが配置されていることが好ましいが、その一部が膜状(シート状)になっていても良い。
【0042】
本実施形態の正極活物質において、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に配置するリチウム-モリブデン含有酸化物粒子の粒子径は特に限定されるものではない。リチウム-モリブデン含有酸化物粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上200nm以下であることが好ましい。これは、平均粒子径1nm以上とすることで、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子について、特に優れたリチウムイオン伝導度を発揮することができるからである。また、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子の平均粒子径を200nm以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に特に均一にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置することができ、正極抵抗を特に低減することができ、好ましいからである。
【0043】
また、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子の平均粒子径を上記範囲とすることで、非水系電解質二次電池とした場合に、正極活物質と、電解液との接触面積を十分に高め、リチウムイオン伝導度を特に高めることができる。このため、充放電容量を特に高め、正極抵抗を抑制できるため好ましい。
【0044】
なお、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子の平均粒子径の算出方法は特に限定されないが、例えばまず断面加工した正極活物質の試料を作製する。そして、作製した正極活物質の試料の電界放射型走査電子顕微鏡像から、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子50個の粒子径を、画像処理装置を用いて測定し、その平均値を算出することで、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子の平均粒子径を求めることができる。
【0045】
そして、既述の様に本実施形態の正極活物質において、電解液との接触は、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面で起こるため、一次粒子表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子が配置されていることが重要である。ここでの一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面と二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
【0046】
正極活物質と、電解液との接触は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、二次粒子の表面近傍および内部の空隙、さらには不完全な粒界でも生じる。このため、一次粒子表面にもリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが好ましい。従って、一次粒子表面全体にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置することで、リチウムニッケル複合酸化物粒子の正極抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0047】
ただし、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子は完全に一次粒子の全表面を覆うように配置されている必要はなく、点在している状態でもよい。点在している状態でも、リチウムニッケル複合酸化物粒子の外面および内部の空隙に露出している一次粒子表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子が形成されていれば、正極抵抗を十分に低減することができる。
【0048】
このようなリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面の性状は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡で観察することにより評価することができる。
【0049】
本実施形態の正極活物質においては、既述の様にリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面、具体的には一次粒子、および二次粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子が配置されていることが好ましい。この際、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子は、既述の様に点在等していてもよく、分散の均一性の程度については特に限定されない。
【0050】
ただし、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子が均一に分散されていることが好ましい。これは、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子が均一に分散されていることで、特定の粒子に負荷がかかることを抑制できるため、サイクル特性を高め、特に正極抵抗を抑制できるからである。
【0051】
また、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子がリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に均一に分散されていることで、露出した活性なリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面を減少させ、正極活物質の劣化を抑制できるため、耐候性を特に高める観点からも好ましい。
【0052】
リチウム-モリブデン含有酸化物粒子は、一般式LiaMobOc(0<a≦4、0<b≦5、0<c≦17)で表されるモリブデン酸リチウムを含有する粒子であることが好ましい。
【0053】
なお、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子は、上記一般式で表されるモリブデン酸リチウムからなる粒子とすることもできるが、この場合も製造過程等で混入する不可避成分を含有する場合を排除するものではない。
【0054】
特に、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム-モリブデン含有酸化物粒子が含有するリチウム-モリブデン含有酸化物は、Li2MoO4、およびLi4MoO5から選択された1種類以上を含むことが好ましく、Li2MoO4、およびLi4MoO5から選択された1種類以上であることがより好ましい。
【0055】
リチウム-モリブデン含有酸化物粒子が含有するリチウム-モリブデン含有酸化物の組成の評価方法は特に限定されないが、例えば本実施形態の正極活物質について、X線回折を行い、相同定を行うことで評価することができる。
【0056】
リチウム-モリブデン含有酸化物粒子が含有するリチウム-モリブデン含有酸化物が、Li2MoO4、およびLi4MoO5から選択された1種類以上を含む場合、リチウムイオン伝導度を特に高めることができる。このため、係る正極活物質を非水系電解質二次電池に用いた場合に、正極抵抗を特に抑制でき、好ましいからである。
【0057】
リチウム-モリブデン含有酸化物粒子に由来して本実施形態の正極活物質含まれるモリブデン量は特に限定されないが、リチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、Co、およびMの原子数の合計に対して、0.001at.%以上6.0at.%以下であることが好ましい。リチウム-モリブデン含有酸化物粒子に由来して本実施形態の正極活物質含まれるモリブデン量は、リチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、Co、およびMの原子数の合計に対して、0.02at.%以上2.0at.%以下であることがより好ましく、0.05at.%以上1.0at.%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
これは、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子に由来して本実施形態の正極活物質に含まれるモリブデン量が、リチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、Co、およびMの原子数の合計に対して0.001at.%以上の場合、特に高い出力特性を発揮できるからである。また、上記モリブデン量を6.0at%以下とすることで、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子が過剰に配置されることを確実に防止し、リチウムニッケル複合酸化物粒子と電解液との間のリチウムイオン伝導度を高め、充放電容量を向上させることができるからである。
【0059】
なお、耐候性については、正極活物質が含有するリチウム-モリブデン含有酸化物粒子の増加に伴い向上する傾向が見られる。そして、正極活物質の出力特性と、充放電容量と、耐候性とが特に優れることから、上記モリブデン量は、既述の様に、0.05at.%以上1.0at.%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
正極活物質全体のリチウム量は特に限定されないが、正極活物質中のLi以外の金属、すなわちNi、Co、添加元素M、及びリチウム-モリブデン含有酸化物粒子に由来するMoの原子数の和(Me)とLiの原子数との(Li/Me比)が、0.85以上1.10以下であることが好ましい。Li/Meを0.85以上とすることで、該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極抵抗を十分に抑制できるため、電池の出力を高めることができ、好ましいからである。また、Li/Meを1.10以下とすることで、該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池の初期放電容量を十分に高めるとともに、正極抵抗を抑制でき、好ましいからである。
【0061】
本実施形態の正極活物質は、Warder法によって求められる溶出リチウム量と、比表面積とを用いて、以下の式(1)により算出される粒子表面リチウム量が0.035質量%・g/m2以上であることが好ましい。
【0062】
粒子表面リチウム量(質量%・g/m2)=(溶出リチウム量(質量%))/(比表面積(m2/g)) ・・・(1)
溶出リチウム量は、例えば中和滴定法の一つであるWarder法により評価することができる。そして、評価結果から、水酸化リチウム(LiOH)と炭酸リチウム(Li2CO3)量を算出し、これらのリチウム量の和を溶出リチウム量とすることができる。
【0063】
また、比表面積は例えば窒素吸着法により求めることができる。
【0064】
得られた溶出リチウム量と比表面積の値から、上記式(1)に従って、粒子表面リチウム量(質量%・g/m2)を算出できる。
【0065】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、粒子表面リチウム量が0.035質量%・g/m2以上の場合、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面が十分にモリブデン酸リチウム粒子に被覆されており、表面活性が抑制され、特に耐候性を高められる。このため、上述のように粒子表面リチウム量は0.035質量%・g/m2以上であることが好ましい。
【0066】
なお、粒子表面リチウム量の上限値は特に限定されないが、本実施形態の正極活物質の粒子表面リチウム量は、例えば0.120質量%・g/m2以下であることが好ましい。
【0067】
また、本実施形態の正極活物質は、総炭素量が0.035質量%未満であることが好ましく、0.030質量%以下であることがより好ましい。これは、本実施形態の正極活物質の総炭素量を0.035質量%未満とすることで、含有する炭素量が十分に抑制されており、例えば大気雰囲気下に曝露された場合でも、総炭素量の増加による性能低下の程度を抑制できるからである。すなわち、耐候性を高めることができるからである。
【0068】
なお、本実施形態の正極活物質の総炭素量の下限値は特に限定されないが、炭素は含まれていなくてもよい成分であるため、本実施形態の正極活物質の総炭素量は、例えば0以上とすることができる。
【0069】
ここまで、本実施形態の正極活物質について説明した。本実施形態の正極活物質においては、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置することで、耐候性を高めることができる。すなわち、大気に曝露した場合でも、初期放電容量が高く、正極抵抗を低く維持できる。また、本実施形態の正極活物質を非水系電解質二次電池に用いた場合に、正極抵抗を抑制し、充放電容量を十分に高めることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一構成例について説明する。なお、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により、既述の非水系電解質二次電池用正極活物質を製造することができる。このため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0070】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0071】
Li、Ni、Co、及び添加元素M(ただし、添加元素Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選択される少なくとも1種の元素)を含むリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、および前記一次粒子が凝集した二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粒子と水とを含む母材原料の水分率を調整する水分率調整工程。
【0072】
母材原料と、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子とを混合し、原料混合物を調製する混合工程。
【0073】
原料混合物を、非還元雰囲気において熱処理する熱処理工程。
【0074】
以下、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)を工程ごとに詳細に説明する。
(水分率調整工程)
水分率調整工程では、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粒子と水とを含む母材原料の水分率を調整することができる。
【0075】
この際、後述する混合工程において添加する、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子を溶解させることができるように、母材原料に含まれる水分率を調整することが好ましい。
【0076】
リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を形成させる際に、リチウムニッケル複合酸化物粒子を含む母材原料の水分率が適度に高い方が、リチウムニッケル複合酸化物粒子内部にまでリチウム-モリブデン含有酸化物が入り込みやすくなる。このため、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に均一にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置するため、水分率調整工程を実施し、母材原料を十分にウェットな状態にすることが好ましい。
【0077】
水分率調整工程において、母材原料の水分率は特に限定されず、例えば得られる正極活物質に要求される、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子の分散の程度等に応じて任意に選択することができる。
【0078】
例えば水分率調整工程においては、母材原料の水分率を0.1質量%以上20質量%以下となるように調整することが好ましく、0.1質量%以上15質量%以下となるように調整することがより好ましく、1質量%以上10質量%以下となるように調整することがさらに好ましい。
【0079】
母材原料の水分率を0.1質量%以上とすることで、混合工程において、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子を十分に溶解させることができ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面により均一にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を分散させることができる。このため、得られた正極活物質の正極抵抗を十分に抑制し、耐候性を特に向上させることができるからである。
【0080】
また、母材原料の水分率を20質量%以下とすることで、結晶構造からLiが抜け出すことを特に抑制できる。このため、得られた正極活物質を非水系電解質二次電池に用いた場合に、電池特性を高めることができ、好ましいからである。
【0081】
母材原料の水分率を制御する方法は特に限定されないが、例えば、リチウムニッケル複合酸化物粒子を純水に浸漬させ、適度に撹拌した後にろ過する際に、ろ過時間により制御する方法が挙げられる。
【0082】
また、リチウムニッケル複合酸化物粒子に対して、所望の水分率となる様に純水を滴下する方法や、上述のろ過や純水の滴下後に適度な温度にて乾燥させ、水分率を制御する方法などが挙げられる。
【0083】
水分率調整工程においては、リチウムニッケル複合酸化物粒子中の余剰Liが大気中の二酸化炭素と反応し、炭酸リチウムを形成しないように、脱炭酸雰囲気下、あるいは不活性ガス、例えば窒素によるパージを実施した不活性ガス雰囲気下にて作業することが好ましい。
【0084】
これは、炭酸リチウムの形成が起こると、充放電に寄与するLi量が減少し、充放電容量の低下や正極抵抗の増大を招く可能性があるからである。
(混合工程)
混合工程では、水分率調整工程により得られた母材原料と、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子とを混合し、原料混合物を調製することができる。
【0085】
リチウム-モリブデン含有酸化物粒子としては特に限定されないが、例えば一般式LiaMobOc(0<a≦4、0<b≦5、0<c≦17)で表されるモリブデン酸リチウムの粒子を好ましく用いることができる。特に、入手のしやすさや反応性、リチウムニッケル複合酸化物中に容量、サイクル特性の低下を招く不純物の混入を避けるという観点から、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子は、モリブデン酸リチウムとしてLi2MoO4、およびLi4MoO5から選択された1種類以上を含む粒子であることがより好ましい。
【0086】
リチウム-モリブデン含有酸化物粒子の添加量は特に限定されず、目標組成に応じて添加することができる。例えば、混合工程においては、リチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、Co、及びMの原子数に対する、添加するリチウム-モリブデン含有酸化物粒子に含まれるMoの原子数の割合が、0.001at.%以上6.0at.%以下となるように、リチウム-モリブデン含有酸化物粉末を添加することが好ましい。特に、リチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、Co、及びMの原子数に対する、添加するリチウム-モリブデン含有酸化物粒子に含まれるMoの原子数の割合が、0.02at.%以上2.0at.%以下となるように添加することがより好ましく、0.05at.%以上1.0at.%以下となるように添加することが更に好ましい。
【0087】
リチウムニッケル複合酸化物粒子と、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子とを混合する手段は特に限定されない。ウェットなリチウムニッケル複合酸化物粒子とリチウム-モリブデン含有酸化物粒子との反応性は良いため、概ね均一に混合できるものであればよい。混合手段としては例えば、シェーカーミキサーや小型混合機などを用いることができる。
(熱処理工程)
熱処理工程では、原料混合物を、非還元雰囲気において熱処理することができる。
【0088】
熱処理工程を実施することで、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子を、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子の表面と二次粒子内部に存在する一次粒子の表面に形成できる。
【0089】
熱処理温度は特に限定されないが、例えば60℃以上600℃以下であることが好ましく、100℃以上600℃以下であることがより好ましく、100℃以上400℃以下であることがさらに好ましく、100℃以上200℃以下であることが特に好ましい。
【0090】
これは熱処理温度を100℃以上とすることで、原料混合物内の水分を蒸発させることができ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に、十分な量のリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を形成させることができ、好ましいからである。また、100℃以上とすることで、水分除去の時間を短縮させ、正極活物質の炭酸化が進行することをより確実に抑制し、該正極活物質を用いた電池の特性を特に高めることができ、好ましいからである。
【0091】
また、熱処理温度を600℃以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子間に焼結が生じたり、添加したモリブデン成分が、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に層状に固溶したりすることをより確実に防ぐことができる。このため、電池の充放電容量を十分に高くすることができ、好ましい。
【0092】
熱処理時の雰囲気は、非還元雰囲気であれば良いが、雰囲気中の水分や炭酸と、正極活物質との反応を避けるため、酸素雰囲気等の酸化性雰囲気あるいは真空雰囲気とすることが好ましい。
【0093】
熱処理時間は、特に限定されないが、水分を十分に蒸発させてリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を形成するために5時間以上15時間以下とすることが好ましい。
[非水系電解質二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池の一構成例について説明する。
【0094】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備えた構成を有することができる。
【0095】
以下、具体的に説明する。
【0096】
本実施形態の非水系電解質二次電池(以下、単に「二次電池」とも記載する)は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態の二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本実施形態の二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0097】
以下に、本実施形態の二次電池が含む構成部材について説明する。
(a)正極
本実施形態の二次電池は、既述の正極活物質を含む正極を備えることができる。
【0098】
具体的には既述の正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして、本実施形態の二次電池の正極を作製することができる。
【0099】
まず、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0100】
その正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下とし、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下とし、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることが望ましい。
【0101】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもできる。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合材や正極合材ペーストをプレス成型した後、真空雰囲気下で乾燥すること等で製造することもできる。
【0102】
正極の作製にあたって、導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0103】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0104】
なお、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することもできる。溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
(b)負極
負極は例えば以下の手順により調製できる。
【0105】
まず、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、溶剤を加えてペースト状にした負極合材を調製する。そして、負極合材を銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成できる。
【0106】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0107】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種類を単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。
【0108】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
【0109】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
(e)電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液を有する本実施形態の二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
【0110】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、二次電池とすることができる。
(f)特性
既述の正極活物質は、耐候性に優れている。このため、既述の正極活物質を用いた本実施形態の二次電池は、安定して初期放電容量が高く、正極抵抗が抑制された電池とすることができる。すなわち、高容量で高出力な二次電池とすることができる。
【0111】
既述の正極活物質を用いた正極を備えた本実施形態の二次電池は、例えば、2032型コイン型電池とした場合に、初期放電容量が150mAh/g以上であることが好ましく、165mAh/g以上であることがより好ましい。
【0112】
また、既述の正極活物質は、耐候性に優れることから、安定した特性を示し、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0113】
本実施形態の二次電池は、その用途は特に限定されないが、上述のように安定した特性を示すことから、常に高容量を要求される、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末等の小型携帯電子機器の電源に好適に用いることができる。また、高出力が要求される電気自動車用電池にも好適に用いることができる。
【0114】
また、本実施形態の二次電池は、優れた安全性を有し、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電池として好適に用いることができる。なお、本実施形態の二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例】
【0115】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)初期放電容量、正極抵抗比
各実施例、比較例で製造した正極活物質を用いて、
図1に示す2032型コイン型電池11(以下、コイン型電池と称す)を製造し、その電池特性を評価した。
【0116】
図1に示すように、コイン型電池11は、ケース12と、このケース12内に収容された電極13とから構成されている。
【0117】
ケース12は、中空かつ一端が開口された正極缶12aと、この正極缶12aの開口部に配置される負極缶12bとを有している。そして、負極缶12bを正極缶12aの開口部に配置すると、負極缶12bと正極缶12aとの間に電極13を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0118】
電極13は、正極13a、セパレータ13cおよび負極13bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極13aが正極缶12aの内面に集電体14を介して接触し、負極13bが負極缶12bの内面に集電体14を介して接触するようにケース12に収容されている。正極13aとセパレータ13cとの間にも集電体14が配置されている。
【0119】
なお、ケース12はガスケット12cを備えており、このガスケット12cによって、正極缶12aと負極缶12bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット12cは、正極缶12aと負極缶12bとの隙間を密封してケース12内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0120】
コイン型電池11は、以下のようにして製作した。
【0121】
まず、各実施例、比較例で作製した正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成型して、正極13aを作製した。作製した正極13aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0122】
この正極13aと、負極13b、セパレータ13cおよび電解液とを用いて、上述したコイン型電池11を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0123】
なお、負極13bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒子径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ13cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0124】
製造したコイン型電池11の性能を示す初期放電容量、正極抵抗比は、以下のように評価した。
【0125】
初期放電容量は、コイン型電池11を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0126】
また、正極抵抗は以下のようにして評価した。
【0127】
コイン型電池11を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定すると、
図2(A)に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき
図2(B)に示した等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0128】
なお、実施例1での作製直後の正極活物質の正極抵抗を100とし、実施例1の耐候性試験後の正極抵抗や、他の実施例、比較例の正極抵抗は、実施例1の作製直後の正極活物質の正極抵抗に対する比、すなわち正極抵抗比として示している。
(2)水分率
水分率調整工程後の水と、リチウムニッケル複合酸化物粒子とを含む母材原料を1g秤量し、120℃で重量が減少しなくなるまで加熱し、加熱前後の母材原料の重量変化から水分率を算出した。
(3)粒子表面リチウム量
各実施例、比較例で作製した正極活物質の溶出リチウム量は、中和滴定法の一つであるWarder法により評価した。評価結果から、水酸化リチウム(LiOH)と炭酸リチウム(Li2CO3)量を算出し、これらのリチウム量の和を溶出リチウム量とした。また、正極活物質の比表面積は窒素吸着法により求めた。得られた溶出リチウム量と比表面積の値から、粒子表面リチウム量(質量%・g/m2)=(溶出リチウム量(質量%))/(比表面積(m2/g))を算出した。
(4)総炭素量
各実施例、比較例で作製した正極活物質、もしくは耐候性試験後の正極活物質の炭素含有量については、高周波燃焼-赤外線吸収法により分析した。具体的には炭素硫黄同時分析計(LECO社製 型式:CS600型)を用いて測定を行った。
(5)組成
各実施例、比較例で作製した正極活物質の組成について、ICP発光分析装置(VARIAN社製、725ES)を用いて、ICP発光分析法により分析した。
【0129】
以下に、実施例、比較例の具体的な条件について説明する。なお、以下の実施例、比較例では、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
(実施例1)
まず、原料となるNiを主成分とする酸化物粉末と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.030Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子を用意した。なお、複数のリチウムニッケル複合酸化物粒子の集合体である、リチウムニッケル複合酸化物粉体として準備した。
【0130】
このリチウムニッケル複合酸化物粒子の平均粒子径は12.0μmであり、比表面積は0.3m2/gであった。なお、平均粒子径はレーザー回折散乱法における体積積算平均値を用い、比表面積は窒素ガス吸着によるBET法を用いて評価した。
【0131】
また、係るリチウムニッケル複合酸化物粒子は、断面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、一次粒子と、該一次粒子が凝集した二次粒子を有することが確認できた。
(1)水分率調整工程
水分率調整工程において、母材原料の水分率の制御を次のように行った。
【0132】
具体的にはまず、100mLの純水に、75gのリチウムニッケル複合酸化物粒子(Li1.030Ni0.91Co0.06Al0.03O2)を添加し、15分間水洗を行った。その後、脱炭酸エアー雰囲気の下で、吸引ろ過を3分間行い、水分率を制御した母材原料を調製した。
【0133】
吸引ろ過後の母材原料を1g秤量し、120℃で重量が減少しなくなるまで加熱し、加熱前後の重量から水分率を算出した。このときの水分率は3質量%であった。
(2)混合工程
水分率を調整した母材原料のリチウムニッケル複合酸化物粒子中のNi、Co、Alに対してMoが0.2at.%となるようにリチウム-モリブデン含有酸化物粒子として、市販のモリブデン酸リチウム粒子(粉末)を添加し、窒素雰囲気下、5分間混合し、原料混合物を調製した。なお、モリブデン酸リチウム粒子としてはLi2MoO4からなる粒子を用い、該粒子の集合体であるモリブデン酸リチウム粉末を原料に用いている。
(3)熱処理工程
熱処理工程として、混合工程で得た原料混合物を190℃で12時間、真空乾燥を行った。
【0134】
熱処理工程終了後、目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、リチウム金属酸化物の二次粒子の表面と二次粒子内部に存在する一次粒子の表面にMoおよびLiを含む粒子、すなわちモリブデン酸リチウム粒子を有するLi0.98Ni0.908Co0.06Al0.03Mo0.002O2で表される正極活物質を得た。
【0135】
得られた正極活物質のモリブデン含有量およびLi/Meを上記と同様に分析したところ、モリブデン含有量は0.2at.%であり、Li/Meは、0.980であることを確認した。さらに正極活物質の作製直後の総炭素量、および粒子表面リチウム量を算出した。また、耐候性試験として、3日間大気雰囲気(湿度40%、温度25℃)で静置後の総炭素量を分析した。得られた正極活物質の作製直後の総炭素量は、0.021質量%であり、耐候性試験後の総炭素量は0.060質量%であった。
【0136】
得られた正極活物質の作製直後の粒子表面リチウム量は、0.049質量%・g/m2であった。
【0137】
また、作製直後の正極活物質、及び耐候性試験後の正極活物質を用いて作製された正極を有する
図1に示すコイン型電池11の電池特性を評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例2)
水分率調整工程において、母材原料の水分率が8質量%となるように調整した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(実施例3)
熱処理工程における熱処理を、酸素雰囲気下で温度を300℃とした点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(実施例4)
混合工程において、Ni、Co、Alに対してMoが1.0at.%となるように、モリブデン酸リチウム粒子を添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(実施例5)
混合工程において、Ni、Co、Alに対してMoが0.05at.%となるようにモリブデン酸リチウム粒子を添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(実施例6)
熱処理工程において、熱処理を酸素雰囲気下で温度を700℃にした点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(実施例7)
熱処理工程において、熱処理温度を60℃にした点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(実施例8)
水分率調整工程において、母材原料の水分率が20質量%となる様に調整した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(実施例9)
混合工程において、Ni、Co、Alに対してMoが0.01at.%となるようにモリブデン酸リチウム粒子を添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(実施例10)
混合工程において、Ni、Co、Alに対してMoが5.0at.%となるようにモリブデン酸リチウム粒子を添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製し、評価を行った。製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1で母材として用いたリチウムニッケル複合酸化物粒子をそのまま正極活物質とし、評価を行った。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にモリブデン酸リチウム粒子を形成しなかった。
【0138】
製造工程の条件、および評価結果を表1に示す。
(比較例2)
実施例1で母材として用いたリチウムニッケル複合酸化物粒子と、Mo量が0.2at.%となるように市販のLi2MoO4と粉末を混合した。なお、この際、得られた混合物の水分率は0となる。そして、酸素雰囲気中、720℃で1時間熱処理した。得られた正極活物質の評価結果を表1にそれぞれ示す。
(比較例3)
実施例1で母材として用いたリチウムニッケル複合酸化物を、モリブデン酸二ナトリウム二水和物を溶解させた溶液に分散させ、25℃で3時間撹拌した。その後、ろ過を行い、100℃で2時間乾燥させた。このとき、溶液におけるモリブデン酸二ナトリウム二水和物の溶解量は、リチウムニッケル複合酸化物に対して0.2mol%とした。得られたMo担持リチウム複合酸化物に、モル比がMo/Li=2/1となるように、水酸化リチウムを添加し、酸素雰囲気で750℃の温度で10時間焼成した。得られた正極活物質の評価結果を表1に示す。
【0139】
【表1】
ここで、
図3に実施例1で得られた正極活物質の断面SEM観察結果の一例を示す。
図3(A)はモリブデンの分布をマッピングしたものであり、
図3(B)は、断面SEM観察画像に、
図3(A)に示したモリブデンの分布のマッピング結果を重ね合せたものである。
【0140】
図3(A)、
図3(B)に示したように、リチウムニッケル複合酸化物粒子32は、一次粒子、及び一次粒子が凝集した二次粒子を含むことが確認できた。また、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子31は、リチウムニッケル複合酸化物粒子32の二次粒子の表面、及び一次粒子の表面に配置されていることを確認できた。
【0141】
なお、得られた正極活物質が、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子を含むことは、X線回折分析の結果から確認された。また、リチウム-モリブデン含有酸化物としてLi2MoO4を含むことも、上記X線回折の結果から確認できた。
【0142】
実施例2~10においても同様に、断面SEM観察を行ったところ、リチウムニッケル複合酸化物粒子が一次粒子、及び一次粒子が凝集した二次粒子を含むことを確認できた。また、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子が、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面、及び一次粒子の表面に配置されていることを確認できた。さらに、実施例2~10においても、X線回折の結果から、リチウム-モリブデン含有酸化物としてLi2MoO4を含むことも確認できた。
【0143】
そして、表1に示すように、実施例1~実施例10の正極活物質は、比較例1~比較例3に比べて総炭素量が低い正極活物質となっていることも確認できた。総炭素量は、正極活物質が有する炭酸リチウム量に依存する指標であり、総炭素量が低いと、すなわち炭酸リチウム量が少ないと、充放電に寄与するLi量の減少を抑制できていることを意味し、電池特性に優れているといえる。
【0144】
そして、実施例1~実施例10においては、耐候性試験後も初期放電容量が高く、正極抵抗比を小さいことが確認できた。すなわち耐候性に優れていることを確認できた。
【0145】
これは、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面、及び一次粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子を配置したことで、露出した活性なリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面を減少させ、大気曝露した際の正極活物質の劣化を抑制できたためと考えられる。
【0146】
また、実施例1~実施例10の正極活物質は、上述のように総炭素量が低いため、大気曝露された場合でも、総炭素量を低く維持することができ、総炭素量の増加による性能低下の程度を抑制できたためと考えられる。
【0147】
これに対して、比較例1は、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子が形成されていない。このため、実施例1~実施例10と比較して、製造直後においても正極抵抗比が大幅に高く、さらに耐候性試験後においては、初期放電容量が低く、正極抵抗比も高いことを確認できた。このため、耐候性も充分ではないことを確認できた。
【0148】
比較例2では、水分を含まないリチウムニッケル複合酸化物粒子と、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子との混合物を、焼成して正極活物質としている。
【0149】
このように、水分を含まない原料混合物の焼成を行ったことでカチオンミキシングが進行している。また、比較例2で作製した正極活物質について、断面SEM観察を行ったところ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウム-モリブデン含有酸化物粒子がほぼ存在していないことを確認できた。これは、熱処理を行った際に、添加したリチウム-モリブデン含有酸化物粒子が拡散し、粒子として残存しなかったためと考えられる。
【0150】
このため、実施例1~実施例10と比較して、耐候性試験後の初期放電容量は低く、正極抵抗比が高くなっており、耐候性に劣ることを確認できた。
【0151】
比較例3では、リチウムニッケル複合酸化物粒子をモリブデン酸二ナトリウム二水和物を溶解させた溶液に分散させた後、さらにリチウム原料を添加してから焼成を行い正極活物質を調製している。
【0152】
このため、乾燥時間が長くなり、総炭素量が0.035質量%と高くなっている。その結果、耐候性試験後の正極抵抗比が高くなっており、耐候性に劣ることを確認できた。
【0153】
なお、リチウム-モリブデン含有酸化物粒子を、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に配置する処理を行っていない比較例1の粒子表面リチウム量と、該処理を行った場合の粒子表面リチウム量との差が、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に位置するリチウム-モリブデン含有酸化物粒子の量の指標になると考えられる。
【0154】
そして、比較例2、3においては粒子表面リチウム量が、比較例1とほぼ同じになっており、添加したモリブデンの大部分は、リチウムニッケル複合酸化物粒子の内部に固溶しているものと推認される。
【0155】
以上の結果より、実施例1~実施例10の正極活物質は耐候性に優れ、該正極活物質を正極に用いた電池は、安定して初期放電容量が高く、正極抵抗も低いものとなることが確認できた。このため、実施例1~実施例10の正極活物質を用いて作製した電池は優れた特性を有する電池となることが確認できた。
【符号の説明】
【0156】
11 コイン型電池
13a 正極