(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】農業用組成物、粒剤および徐放性粒剤
(51)【国際特許分類】
C05G 3/40 20200101AFI20220208BHJP
C05G 5/12 20200101ALI20220208BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220208BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20220208BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20220208BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220208BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20220208BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C05G3/40
C05G5/12
A01N25/00 101
A01N25/10
A01N25/12
A01P3/00
A01P7/04
A01P13/00
(21)【出願番号】P 2017533992
(86)(22)【出願日】2017-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2017022846
(87)【国際公開番号】W WO2018003627
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2016130268
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
(72)【発明者】
【氏名】万代 修作
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-295990(JP,A)
【文献】特開昭54-119372(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104072686(CN,A)
【文献】特開2003-183091(JP,A)
【文献】特開2001-327854(JP,A)
【文献】特開平04-334539(JP,A)
【文献】特開昭48-008860(JP,A)
【文献】国際公開第2007/142097(WO,A1)
【文献】特開2005-035868(JP,A)
【文献】ハンガリー国工業所有権公報第184446号(HU 184446 B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00 - 21/00
C05C 1/00 - 13/00
C05D 1/00 - 11/00
C05F 1/00 - 17/993
C05G 1/00 - 5/40
A01N 1/00 - 65/48
A01P 1/00 - 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン変性ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤との架橋物、および農薬活性成分または肥料を含有
し、前記架橋剤がポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂であることを特徴とする農業用組成物。
【請求項2】
前記アニオン変性ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、農業用組成物全体に対して、1~80重量%であることを特徴とする請求項1に記載の農業用組成物。
【請求項3】
前記アニオン変性ポリビニルアルコール系樹脂が、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の農業用組成物。
【請求項4】
更に無機フィラーを含有することを特徴とする請求項1~
3いずれかに記載の農業用組成物。
【請求項5】
請求項1~
4いずれかに記載の農業用組成物を含有することを特徴とする粒剤。
【請求項6】
請求項
5に記載の粒剤からなることを特徴とする徐放性粒剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用組成物、粒剤および徐放性粒剤に関し、詳細には農薬活性成分または肥料を含有する農業用組成物、この農業用組成物を含有し、農業に用いられる粒剤、およびこの粒剤からなる徐放性粒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
環境や安全性への配慮、農家の省力化のため、農薬や肥料の使用量の低減、および散布回数の低減が求められている。かかる課題に対しては農薬活性成分や肥料の徐放化が効果的であり、それによって薬効の長期間持続や適量使用が可能となる。
【0003】
散布した農薬から農薬活性成分や肥料を徐々に溶出させる徐放化技術としては、ポリビニルアルコール(PVA)などの水溶性高分子化合物と、金属アルコキシドなどの無機化合物とから形成された有機・無機複合体、および農薬活性成分を含有する徐放性農薬組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
かかる有機・無機複合体では、特定化合物の重縮合物である無機高分子の三次元網目中にPVAの分子鎖が絡み合ったセミIPN(相互侵入高分子網目)構造が形成されており、農薬活性成分はそのマトリックス中に閉じ込められ、これが水中におかれると、かかるマトリックスから農薬活性成分が水中に溶出することにより徐放性が得られるというものである。このとき、PVAは吸水・膨潤によってセミIPNの三次元網目を拡げ、農薬活性成分の溶出を助けているものと推測される。
【0005】
しかしながら、かかるセミIPNの三次元網目は剛直で柔軟性に乏しいので、PVAの吸水・膨潤によってかかる網目が広げられたとしても、その程度はわずかであると推測される。したがって、かかる従来の徐放性農薬組成物では、農薬活性成分の徐放性の点で、更なる改善の余地があった。
農薬活性成分の徐放性を更に改善するために、PVA系樹脂の架橋物を含有する徐放性農薬組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-199630号公報
【文献】特開2012-6881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2の開示技術においても徐放性効果は充分ではなく、更なる改善が望まれるものである。
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、徐放性に優れた農業用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の実情に鑑みて鋭意研究した結果、アニオン変性ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤との架橋物、および農薬活性成分または肥料を含有する農業用組成物が徐放性に優れることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の農業用組成物は、アニオン変性ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤との架橋物、および農薬活性成分または肥料を含有することを特徴とするものである。
本発明の農業用組成物は、アニオン変性ポリビニルアルコール系樹脂が架橋剤により架橋された架橋物に農薬活性成分または肥料が含有されることによって、またカルボキシル基などによるアニオンの親水性と、架橋物の耐水性との相互作用によって、農薬活性成分または肥料の徐放性に優れた効果を有すると推測される。
【0010】
本発明においては、アニオン変性ポリビニルアルコール系樹脂がカルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましく、また架橋剤がポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の農業用組成物は、更に無機フィラーを含有することが好ましく、これにより農薬活性成分または肥料の徐放性がより優れたものとなり得る。
【0012】
更に、本発明の農業用組成物を含有する粒剤は、農薬活性成分または肥料の徐放性がより優れた徐放性粒剤となり得る。
【0013】
なお、本発明において「農業」とは、土地を利用して有用な植物を育成し、生産物を得る活動のことであり、本発明における「農業」には、野菜、観賞用の花、果物、庭木などを栽培する園芸農業、木材を生産する林業が含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の農業用組成物は、農薬活性成分または肥料の徐放性が優れており、特に粒剤を形成することにより優れた徐放性粒剤となり得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の農業用組成物は、アニオン変性ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコール系樹脂をPVA系樹脂とも表記する。)と架橋剤との架橋物、農薬活性成分または肥料を含有することを特徴とする。
かかる架橋物としては、アニオン変性された各種PVA系樹脂が架橋剤によって架橋されたものを用いることができる。特に、アニオン変性PVA系樹脂としてカルボキシル基含有PVA系樹脂を用い、架橋剤としてポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を用いて得られた架橋物が好ましく用いられる。
【0016】
<アニオン変性PVA系樹脂>
本発明に用いられるアニオン変性PVA系樹脂は、アニオン性基を有する構造単位を有するPVA系樹脂である。アニオン性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基などが好適であるが、これらの中でも架橋しやすさの点でカルボキシル基が特に好ましい。
【0017】
アニオン変性PVA系樹脂の製造方法としては、例えば、(1)アニオン性基を有する不飽和単量体およびビニルエステル系化合物から重合体を得た後、該重合体をケン化する方法、(2)アニオン性基を有するアルコールやアニオン性基を有し、かつアルデヒドあるいはチオールなどの官能基を有する化合物を連鎖移動剤として共存させてビニルエステル系化合物を重合した後に、アルカリ金属水酸化物などの触媒でケン化する方法などが挙げられるが、(1)の方法が樹脂の製造面、性能面から実用的である。
以下、(1)の方法について具体的に説明する。
【0018】
ビニルエステル系化合物としては、炭素数3~30、好ましくは炭素数3~20のビニルエステル系化合物が挙げられる。例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどが挙げられ、実用性の点で特に酢酸ビニルが好ましい。これらビニルエステル系化合物の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
【0019】
本発明においては、アニオン性基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物との重合の際に、上記の如きアニオン性基を有する単量体およびビニルエステル系化合物以外に、上記単量体またはビニルエステル系化合物と重合し得る他の単量体を共存させてもよい。
かかる他の単量体としては、例えば、飽和カルボン酸のアリルエステル(例えば、ステアリン酸アリル、ラウリン酸アリル、ヤシ油脂肪酸アリル、オクチル酸アリル、酪酸アリル、など)、α-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、α-ヘキセン、α-オクテン、α-デセン、α-ドデセン、α-ヘキサデセン、α-オクタデセン、など)、アルキルビニルエーテル(例えば、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、テトラデシルビニルエーテル、ヘキサデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、など)、アルキルアリルエーテル(例えば、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル、オクチルアリルエーテル、デシルアリルエーテル、ドデシルアリルエーテル、テトラデシルアリルエーテル、ヘキサデシルアリルエーテル、オクタデシルアリルエーテル、など)、更には、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アリルスルホン酸塩、エチレン性不飽和スルホン酸塩、スチレン、塩化ビニルなどが挙げられる。これら他の単量体の重合成分全体に対する含有量は、好ましくは20モル%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
重合方法としては特に制限はなく、公知の重合方法が任意に用いられるが、通常は、メタノールあるいはエタノールなどの低級アルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。
なお、(メタ)アクリルはアクリルまたはメタクリルを、(メタ)アクリロニトリルはアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを、(メタ)アリルはアリルまたはメタリルをそれぞれ表す。
【0020】
かかる方法において単量体の仕込み方法としては、任意の手段を用いることができる。例えば、まずビニルエステル系化合物の全量と前記アニオン性基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、重合を開始し、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的にまたは分割的に添加する方法、あるいはビニルエステル系化合物および前記アニオン性基を有する不飽和単量体を一括仕込みする方法などが挙げられる。
重合反応は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行なわれる。また、反応温度は50℃~使用する溶媒の沸点程度の範囲から選択される。
【0021】
上記の如くして得られた重合体は、次にケン化されてアニオン変性PVA系樹脂となる。
ケン化に際しては、重合体をアルコールや酢酸エステルまたはこれらの混合溶媒に溶解し、ケン化触媒の存在下でケン化が行なわれる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノールなどの炭素数1~6のアルコールなどが挙げられ、また、酢酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチルなどが挙げられる。溶媒中の重合体の濃度は通常20~50重量%の範囲から選ばれる。ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラートなどのアルカリ金属の水酸化物またはアルコラートの如きアルカリ触媒が挙げられる。かかる触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して通常1~100ミリモル当量である。
【0022】
かくしてアニオン変性PVA系樹脂が得られる。アニオン変性PVA系樹脂におけるアニオン性基の含有量は、0.1~20モル%が好ましく、特には0.5~10モル%、更には1~5モル%が好ましい。かかるアニオン性基の含有量が少なすぎると耐水性が低下する傾向があり、逆に多すぎると製造し難くなる傾向がある。
また、アニオン変性PVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726準拠)は通常70~100モル%、好ましくは75~99.9モル%、特に好ましくは80~99.8モル%である。かかるケン化度が小さすぎると造粒がし難くなる傾向がある。
また、アニオン変性PVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726準拠)は通常200~4000、好ましくは300~3000、特に好ましくは500~2000である。かかる平均重合度が大きすぎると撹拌時に粘度が上昇する傾向があり、小さすぎると耐水性が低下する傾向がある。
これらアニオン変性PVA系樹脂の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
【0023】
〔カルボキシル基含有PVA系樹脂〕
上記アニオン変性PVA系樹脂のうち、特にアニオン性基がカルボキシル基であるカルボキシル基含有PVA系樹脂について詳細に説明する。
カルボキシル基含有PVA系樹脂は、カルボキシル基を有する構造単位を有するものであり、カルボキシル基含有PVA系樹脂の中でも、ビニルエステル系単量体と重合性が高い点でマレイン酸変性PVA系樹脂、イタコン酸変性PVA系樹脂が好ましく、更には取扱いの点でマレイン酸変性PVA系樹脂が好ましい。
【0024】
カルボキシル基含有PVA系樹脂の製造方法としては、カルボキシル基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物との共重合体をケン化する方法が、製造面、性能面から実用的である。
【0025】
カルボキシル基を有する不飽和単量体としては、例えば、ビニル基の横にカルボキシル基を直接持つものである。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのカルボキシル基含有不飽和化合物;これらのカルボキシル基が、アルカリ化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、など)などの塩基によって、全体的あるいは部分的に中和されたもの;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、フマル酸モノメチル、マレイン酸モノメチルなどの上記カルボキシル基含有不飽和化合物のモノアルキルエステル;フマル酸ジエチル、マレイン酸ジエチルなどの上記カルボキシル基含有不飽和化合物のジアルキルエステル;などが挙げられる。これらのエステルにおけるアルキル基の炭素数は、経済性と実用性の点から通常、1~20、特には1~10が好ましく、更には1~4が好ましい。
中でも、マレイン酸モノメチルが共重合性の点で好ましい。
これらカルボキシル基を有する不飽和単量体のうち1種を単独で用いても良く、複数種を同時に用いても良い。
【0026】
ビニルエステル系化合物としては、炭素数3~30、好ましくは炭素数3~20のビニルエステル系化合物が挙げられる。例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどが挙げられ、実用性の点で特に酢酸ビニルが好ましい。これらビニルエステル系化合物の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
【0027】
本発明においては、カルボキシル基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物との重合の際に、上記の如きカルボキシル基を有する不飽和単量体およびビニルエステル系化合物以外に、上記単量体またはビニルエステル系化合物と重合し得る他の単量体を共存させてもよい。
かかる他の単量体としては、例えば、飽和カルボン酸のアリルエステル(例えば、ステアリン酸アリル、ラウリン酸アリル、ヤシ油脂肪酸アリル、オクチル酸アリル、酪酸アリル、など)、α-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、α-ヘキセン、α-オクテン、α-デセン、α-ドデセン、α-ヘキサデセン、α-オクタデセン、など)、アルキルビニルエーテル(例えば、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、テトラデシルビニルエーテル、ヘキサデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、など)、アルキルアリルエーテル(例えば、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル、オクチルアリルエーテル、デシルアリルエーテル、ドデシルアリルエーテル、テトラデシルアリルエーテル、ヘキサデシルアリルエーテル、オクタデシルアリルエーテル、など)、更には、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アリルスルホン酸塩、エチレン性不飽和スルホン酸塩、スチレン、塩化ビニルなどが挙げられる。これら他の単量体の重合成分全体に対する含有量は、好ましくは20モル%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
重合方法としては特に制限はなく、公知の重合方法が任意に用いられるが、通常は、メタノールあるいはエタノールなどの低級アルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。
【0028】
かかる方法において単量体の仕込み方法としては、任意の手段を用いることができる。例えば、まずビニルエステル系化合物の全量と前記カルボキシル基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、重合を開始し、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的にまたは分割的に添加する方法、あるいはビニルエステル系化合物および前記カルボキシル基を有する不飽和単量体を一括仕込みする方法などが挙げられる。
重合反応は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行なわれる。また、反応温度は50℃~使用する溶媒の沸点程度の範囲から選択される。
【0029】
上記の如くして得られた重合体は、次にケン化されてアニオン変性PVA系樹脂となる。
ケン化に際しては、重合体をアルコールや酢酸エステルまたはこれらの混合溶媒に溶解し、ケン化触媒の存在下でケン化が行なわれる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノールなどの炭素数1~6のアルコールなどが挙げられ、また、酢酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチルなどが挙げられる。溶媒中の重合体の濃度は通常20~50重量%の範囲から選ばれる。ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラートなどのアルカリ金属の水酸化物またはアルコラートの如きアルカリ触媒が挙げられる。かかる触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して通常1~100ミリモル当量である。
【0030】
かくしてカルボキシル基含有PVA系樹脂が得られる。カルボキシル基含有PVA系樹脂におけるカルボキシル基の含有量は、0.1~20モル%が好ましく、特には0.5~10モル%、更には1~5モル%が好ましい。かかるアニオン性基の含有量が少なすぎると耐水性が低下する傾向があり、逆に多すぎると製造し難くなる傾向がある。
また、カルボキシル基含有PVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726準拠)は通常70~100モル%、好ましくは75~99.9モル%、特に好ましくは80~99.8モル%である。かかるケン化度が小さすぎると造粒がし難くなる傾向がある。
また、カルボキシル基含有PVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726準拠)は通常200~4000、好ましくは300~3000、特に好ましくは500~2000である。かかる平均重合度が大きすぎると撹拌時に粘度が上昇する傾向があり、小さすぎると耐水性が低下する傾向がある。
これらカルボキシル基含有PVA系樹脂の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
【0031】
<架橋剤>
本発明に用いられる架橋剤は、アニオン変性PVA系樹脂とともに架橋構造を形成し、架橋物となるものであり、例えば、有機系架橋剤、無機系架橋剤などが挙げられる。
有機系架橋剤としては、例えば、ホウ素化合物;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、グルタルジアルデヒドなどのアルデヒド化合物;尿素樹脂、グアナミン樹脂、メラミン樹脂などのアミノ樹脂;エポキシ樹脂、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリンなどのエポキシ系化合物;アジピン酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジドなどのヒドラジド系化合物;酸無水物;ポリイソシアネート、ブロックイソシアネートなどのイソシアネート化合物などが挙げられる。
無機系架橋剤としては、例えば、テトラアルコキシチタネートなどのチタン化合物;硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物;亜リン酸エステル、ビスフェノールA変性ポリリン酸などのリン化合物;アルコキシ変性シリコーン、グリシジル変性シリコーンなどの変性シリコーン;クロロヒドロキシオキソジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニルなどのジルコニウム化合物などが挙げられる。中でも架橋しやすさの点でエポキシ系化合物が好ましく、特にはポリアミドポリアミン・エピハロヒドリンが好ましい。
【0032】
〔ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂〕
本発明で用いられるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂としては、例えば、ポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリンやポリアミドポリアミン・エピブロムヒドリン、ポリアミドポリアミン・メチルエピクロロヒドリンなどが挙げられるが、中でも反応しやすさの点で、ポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリンが好ましい。
【0033】
本発明で用いられるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は、例えば、ポリアルキレンポリアミン類とジカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミドポリアミンに、エピハロヒドリン類を反応させることにより得ることができる。
【0034】
ポリアルキレンポリアミン類としては、分子中に少なくとも2個以上、好ましくは2~10個のアルキレン基と、少なくとも2個以上、好ましくは2~10個のアミノ基またはイミノ基とを有するものを用いることができる。例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどが挙げられ、中でもジエチレントリアミンが好ましい。これらポリアルキレンポリアミン類の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
また、ポリアルキレンポリアミン類の一部に代えて、エチレンジアミン、プロピレンジアミンまたはヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン;ε-アミノカプロン酸などの炭素数1~6のアミノカルボン酸;ε-カプロラクタムなどの炭素原子数1~6のアミノカルボン酸のラクタムなどを使用することもできる。
【0035】
ジカルボン酸類としては、分子中に2個のカルボキシル基を有する炭素数が3以上、好ましくは3~30のものを用いることができる。例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、ドデカン二酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの飽和または不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;上記各酸の酸無水物;上記各酸と炭素数1~5、特に炭素数1~3の低級アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール)とのエステルなどのジカルボン酸誘導体が挙げられる。これらの中でもグルタル酸、アジピン酸、グルタル酸メチルエステル、アジピン酸メチルエステルなどが好ましい。これらジカルボン酸類の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
【0036】
ポリアルキレンポリアミン類とジカルボン酸類とを反応させてポリアミドポリアミンを合成するに際しては、ジカルボン酸類1.0モルに対して、ポリアルキレンポリアミン類0.8~1.5モルとなる反応モル比が好ましい。かかるポリアルキレンポリアミン類の反応量が多すぎると増粘する傾向があり、少なすぎるとポリアミドポリアミンの生成量が少なくなる傾向がある。
ポリアルキレンポリアミン類とジカルボン酸類との反応については、生成するポリアミドポリアミンが、固形分50重量%水溶液の25℃における粘度基準で、100~1000mPa・sの範囲内の粘度に達するまで続けることが好ましい。
【0037】
ポリアルキレンポリアミン類が有するアミノ基と、ジカルボン酸類が有するカルボキシル基とを反応させるときは、原料仕込み時に発生する反応熱を利用するか、あるいは外部から加熱することによって、脱水および/または脱アルコール反応を行う。反応温度は、ジカルボン酸類が遊離酸であるか、無水物やエステルなどの誘導体であるかに依存するが、通常110~250℃、好ましくは120~180℃である。この際、重縮合反応の触媒として、例えば、硫酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類や、リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸などのリン酸類、その他公知の触媒の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。その使用量は、ポリアルキレンポリアミン類1モルに対して、好ましくは0.005~0.1モル、特に好ましくは0.01~0.05モルである。
【0038】
本発明で使用されるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は、前記のポリアミドポリアミンにエピハロヒドリン類を反応させることにより得ることができる。
エピハロヒドリン類としては、例えば、エピハロヒドリン、炭素数1~10のアルキル基またはアルキレン基を有するエピハロヒドリンが挙げられる。エピハロヒドリンにおけるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。具体的には、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリン、およびメチルエピクロロヒドリンなどが挙げられる。また、これらを2種以上混合して用いることもできる。これらのエピハロヒドリン類の中でも、エピクロロヒドリンが特に好ましい。
【0039】
ポリアミドポリアミンに対するエピハロヒドリン類の反応比は、ポリアミドポリアミンのアミノ基1モルに対して、好ましくは0.01~2.0モル、特に好ましくは、0.05~1.5、更に好ましくは0.05~1モルである。エピハロヒドリン類のモル比が多すぎると、エピハロヒドリン類の副生物として低分子の有機ハロゲン化合物の生成量が多くなる傾向がある。エピハロヒドリン類のモル比が少なすぎると、得られる樹脂の耐水性が低下する傾向がある。
【0040】
ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリン類との反応は、反応液の濃度を固形分15~80重量%、反応温度を5~90℃で行うことが好ましい。特に、ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリン類との反応効率を上げるため、ポリアミドポリアミンにエピハロヒドリン類を投入する場合の温度を5~45℃の範囲で実施し、その後の反応では温度を45~90℃とし、得られるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を高分子量化して所定の粘度まで増加させることが好ましい。
【0041】
ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリン類との反応に際しては、得られるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、固形分15重量%水溶液の25℃における粘度基準で、好ましくは10~100mPa・s、特に好ましくは15~80mPa・sの範囲内の粘度を有するまで反応を続けることにより、耐水性に優れた樹脂が得られるようになる。反応液の粘度がこの粘度範囲内となった後、反応液に水を加えて冷却するなどして反応を停止させ、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の水溶液を得ることができる。
【0042】
本発明で用いられるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の重量平均分子量は、通常、500~30000であり、好ましくは800~20000、特に好ましくは1000~10000である。かかる重量平均分子量が大きすぎると粘度が上昇し作業性が低下する傾向があり、小さすぎると耐水性が低下する傾向がある。
なお、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)法により測定される。
【0043】
<農薬活性成分>
本発明で用いられる農薬活性成分としては、例えば、カーバメイト系化合物、合成ピレスロイド系化合物、有機リン系化合物、有機塩素系化合物などの殺虫剤;N-ヘテロ環系エルゴステロール阻害剤、カルボキシアミド系化合物、ジカルボキシイミド系化合物、ポリハロアルキルチオ系化合物、硫黄系化合物などの殺菌剤;スルホニル尿素系化合物、トリアジン系化合物、ジニトロアニリン系化合物などの除草剤などが挙げられる。
これら農薬活性成分の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
【0044】
<肥料>
本発明で用いられる肥料しては、例えば、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム(石灰)、マグネシウムなどが挙げられる。これら肥料の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
また、農薬活性成分と肥料とを併せて用いてもよい。
【0045】
<農業用組成物>
本発明の農業用組成物は、アニオン変性PVA系樹脂と架橋剤との架橋物、および農薬活性成分または肥料を含有する組成物である。
【0046】
アニオン変性PVA系樹脂と架橋剤との架橋物において、架橋剤の含有量は、アニオン変性PVA系樹脂100重量部に対して、通常、1~25重量部、好ましくは5~20重量部、特に好ましくは10~15重量部である。かかる架橋剤の含有量が多すぎると架橋に関与しない架橋剤が増える傾向があり、少なすぎると耐水性が低下する傾向がある。
また、農薬活性成分の含有量は、アニオン変性PVA系樹脂100重量に対して、好ましくは20~500重量部、特に好ましくは30~300重量部、更に好ましくは50~200重量部である。かかる含有量が多すぎると徐放性が低下する傾向があり、少なすぎると散布量が多くなる傾向がある。
肥料の含有量は、アニオン変性PVA系樹脂100重量に対して、好ましくは20~500重量部、特に好ましくは30~300重量部、更に好ましくは50~200重量部である。かかる含有量が多すぎると徐放性が低下する傾向があり、少なすぎると散布量が多くなる傾向がある。
【0047】
また、本発明においては、嵩増しの点で無機フィラーを含有することが好ましい。無機フィラーとしては、例えば、クレー、カオリン、セリサイト、ベントナイト、酸性白土、軽石、珪砂、炭酸カルシウム、ゼオライト、パーライト、パーミキュライトなどが挙げられる。
無機フィラーを含有する場合、無機フィラーの含有量は、アニオン変性PVA系樹脂100重量に対して、好ましくは50~10000重量部、特に好ましくは100~5000重量部、更に好ましくは200~1000重量部である。無機フィラーの含有量が上記の範囲内である場合には、架橋物の強度がより好適となり、農薬活性成分または肥料の徐放性がより良好なものとなる。
農薬活性成分または肥料と、アニオン変性PVA系樹脂と、架橋剤と、場合により無機フィラーとの合計量、即ち農業用組成物全体に対して、アニオン変性PVA系樹脂の含有量は、好ましくは1~80重量%、特に好ましくは2~50重量%、更に好ましくは5~20重量%である。アニオン変性PVA系樹脂の含有量が少なすぎると徐放性が発現しにくくなる傾向があり、多すぎると農業用組成物を調製し難くなる傾向がある。
【0048】
かかる農業用組成物には、結合剤、崩壊剤、分散剤、吸収剤、その他成分を必要に応じて含有していてもよい。
結合剤としては、例えば、でんぷん類、アラビアゴム、CMC(カルボキシメチルセルロース)、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)、リグニンスルホン酸塩類、PEG(ポリエチレングリコール)、流動パラフィンなどが挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化カリウム、食塩、その他カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの塩化物などが挙げられる。
分散剤としては、例えば、アニオン系、ノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
吸収剤としては、例えば、ホワイトカーボン、含水ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、無水芒硝、微結晶セルロース、プラスチック、塩化ビニルなどが挙げられる。
その他成分として、例えば、メタノールや塩化メチレン、その他の高沸点溶剤、潤滑剤、安定剤などが挙げられる。
【0049】
〔農業用組成物の形状〕
本発明の農業用組成物の形状としては、粒状、フィルム状、粉末状などの形状が挙げられる。
【0050】
フィルム状(シート状)の農業用組成物の厚さは、通常、1~10000μmであり、特に10~8000μm、更に100~5000μmであることが好ましい。
フィルム状(シート状)の農業用組成物は、製造方法が特に限定されず、例えば、アニオン変性PVA系樹脂、架橋剤、農薬活性成分または肥料、必要に応じてその他の配合成分を含有する水性液を基板上に流延し、加熱して架橋するとともに水を蒸発させる方法により製造することができる。加熱温度条件は、通常、0~180℃であり、特に5~150℃、更に10~120℃が好ましい。
かかる方法で得られたフィルム状(シート状)の農業用組成物は、所望の大きさに裁断されて使用される。
【0051】
粉末状の農業用組成物は、粒径が、通常、0.01~10000μmであり、特に0.1~8000μm、更に1~5000μmのものが好ましく用いられる。粉末状の農業用組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、アニオン変性PVA系樹脂、架橋剤、農薬活性成分または肥料、水、必要に応じてその他の配合成分を含有する混合物を混練機(ニーダー、押出機、など)にて混練し、粉砕・整粒、あるいはペレット化して、乾燥させる方法が採られる。なお、詳細な製造条件については、例えば、国際公開第95/31900号の第9頁第4行~第13頁第13行を参照することができる。
【0052】
〔粒剤〕
本発明の農業用組成物の形状としては粒状が好ましく、以下に、本発明の農業用組成物を含有し、形状が粒状である粒剤について詳細に説明する。
本発明の農業用組成物を含有する粒剤は、球状、円柱状などの形状で用いられる。
粒剤が球状である場合は、直径が、通常、100~12000μmであり、特に200~10000μm、更に300~7000μmであるものが好ましく用いられる。
粒剤が円柱状である場合は、直径が、通常、100~2000μmであり、特に200~1500μm、更に300~1000μmであるものが好ましく用いられる。また、円柱の高さが、通常、100~12000μmであり、特に200~10000μm、更に300~7000μmであるものが好ましく用いられる。なお、本明細書における「円柱」には、正円柱のみならず、楕円柱も含まれる。
これら、球状の直径、円柱状の直径または高さが大きすぎると散布性が低下する傾向があり、小さすぎると飛散して人体内に吸入され、人体に悪影響が出易くなる傾向がある。
【0053】
本発明の農業用組成物を含有する粒剤の製造方法は、特に限定されないが、例えば下記の方法が挙げられる。
(i)アニオン変性PVA系樹脂粉末と、農薬活性成分または肥料とを混合し、架橋剤および溶媒を添加して成型(造粒)、乾燥する方法
(ii)アニオン変性PVA系樹脂溶液と架橋剤溶液と農薬活性成分または肥料とを混合して成型(造粒)、乾燥する方法
(iii)アニオン変性PVA系樹脂、農薬活性成分または肥料、架橋剤のそれぞれを粉末状で混合し、溶媒を加えて成型(造粒)する方法
これらの方法の中でも、加工の容易さの理由から(i)の方法が好ましい。
【0054】
以下に本発明の粒剤の製造方法について詳細に説明する。
本発明の粒剤は、各種成分を秤量し、それを篩過/粉砕し、均一に混合して混合粉末を得、得られた混合粉末は、乾燥状態のまま打錠する直接粉末圧縮法により、または湿式造粒法もしくは乾式造粒法により、造粒して未架橋又は架橋された粒剤を製造することができる。
【0055】
各種成分を溶液として用いる場合には、水、溶剤、または水および溶剤を含有する混合溶媒が用いられる。溶剤としては、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1~6のアルコールが挙げられ、好ましくはイソプロピルアルコールが用いられる。かかる溶剤は水との混合溶媒であってもよく、有効成分の性質によって、適宜選択することができる。中でもPVA系樹脂の溶解性の点から水を用いることが好ましい。
また、造粒の際にも溶媒を配合することができ、同様に水、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1~6のアルコールなどの溶剤、または水および前述の溶剤を含有する混合溶媒が使用される。中でもPVA系樹脂の溶解性の点から水が好ましい。
【0056】
上記のアニオン変性PVA系樹脂溶液の濃度は、好ましくは1~50重量%であり、特に好ましくは5~30重量%、更に好ましくは10~20重量%である。
また、架橋剤溶液の濃度は、好ましくは1~50重量%であり、特に好ましくは5~30重量%、更に好ましくは10~20重量%である。
アニオン変性PVA系樹脂溶液および架橋剤溶液の濃度が高すぎると増粘して成型し難くなる傾向があり、低すぎると乾燥に時間がかかり不効率となる傾向がある。
【0057】
粒剤の成形には、粒剤の製造に用いられる何れの造粒機をも用いることができる。例えば、押出し造粒機(例えば、筒井理化学機械製ミクロ顆粒製造機、ダルトン社製バスケットリューザー)、撹拌造粒機(例えば、GemPharmaMachineries社製「RapidMixerGranulator」、株式会社パウレック製「バーチカルグラニュレーター」)、流動層造粒機(例えば、株式会社パウレック製「転動流動コーティング装置-MP-01」)、噴霧冷却造粒機、乾式造粒機などを用いることができる。
【0058】
本発明の農業用組成物は、上記の造粒の乾燥または加熱する工程により架橋が進行して架橋物を形成する。乾燥または加熱時の温度としては、例えば、0~180℃、好ましくは5~150℃、特に好ましくは10~120℃であり、乾燥または加熱時の時間としては、例えば、10分~3時間、好ましくは30分~2時間である。
以上の造粒、架橋の各工程を経て、本発明の農業用組成物を含有する粒剤が得られる。
本発明の粒剤は、下記実施例からも明らかなように、農薬活性成分または肥料の徐放性に優れており、徐放性粒剤と換言することもできる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の「%」および「部」は質量基準を意味する。
【0060】
〔マレイン酸変性PVA系樹脂の調製〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル100部、メタノール26部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で60℃まで上昇させてから、重合触媒としてt-ブチルパーオキシネオデカノエートを0.001モル%(酢酸ビニル総量に対して)投入し、重合を開始した。重合開始直後にマレイン酸モノメチル2.2部(酢酸ビニル総量に対して2モル%)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート0.008モル%(酢酸ビニル総量に対して)を重合速度に合わせて連続追加し、酢酸ビニルの重合率が73%となった時点で、4-メトキシフェノールを0.01部および希釈・冷却用メタノールを58部添加して重合を終了した。重合終了時における残存活性触媒量は、反応液総量に対して2ppmであった。
続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0061】
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度40%に調整して水酸化ナトリウムの4%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して30ミリモルとなる割合で混合し、温度を40~50℃にて25分間ケン化反応を行った。ケン化反応により固化した樹脂をカットし、ケン化度94モル%、平均重合度1800、変性率2.0モル%のマレイン酸変性PVA系樹脂を得た。
【0062】
<実施例1>
〔粒状農業用組成物(粒剤)の調製〕
農薬のモデル物質としてビスフェノールAを5部、上記で得られたマレイン酸変性PVA系樹脂を10部、無機フィラーとしてクレー(ネオライト興産社製、WTクレー)を85部、ポリエチレン製の袋に入れて、3分間振り混ぜた。
ミルに上記の粉体混合物50部を入れ、架橋剤としてポリアミド・ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製、WS4002) の4%水溶液15部を加えてミルで混合し、押出し造粒し未架橋の粒剤を得た。得られた粒剤を80℃で1時間乾燥することにより架橋させて架橋物としての粒状農業用組成物(粒剤)を得た。
得られた粒剤について下記の溶出率測定を行なった。その結果を表1に示す。
【0063】
〔溶出率測定〕
粒剤0.5部を脱イオン水250mL中にいれて浸水させた。25℃で保管し、1日後、3日後、7日後の各時点で、上澄み液を1000μL取り出し、フィルターにかけて下記測定条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてビスフェノールAの溶出率(%)を測定した。
【0064】
(HPLC測定条件)
装置:AgilentHP-1100シリーズ
カラム:C18ODS
カラム温度:40℃
移動相:水/CH3CN=95/5(0min) 50/50(5min)
50/50(6min) 95/5(7min) 95/5(20min)
流量:1mL/min
注入量:10μL
検出器:PDA(200, 225nm)
【0065】
〔PVAフィルム溶出試験〕
上記のマレイン酸変性PVA系樹脂を用いて10%PVA系樹脂水溶液を調製し、固形分でマレイン酸変性PVA系樹脂100部に対して、架橋剤(上記のポリアミド・ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂)を10部添加して、厚さが100μmのキャストフィルムを作製した。
得られたフィルムを23℃、50%RHで3日間、更に70℃で5分間乾燥し、その後、23℃の水に1時間浸漬して、マレイン酸変性PVA系樹脂の溶出率(PVAフィルム溶出率)を測定した。その結果を表1に示す。
なお、マレイン酸変性PVA系樹脂の溶出率(%)は、水からとり出したフィルムを乾燥して、(浸漬後フィルム乾燥重量/浸漬前フィルム乾燥重量)×100より計算した。
【0066】
<実施例2、3、比較例1>
変性PVAの含有量、変性の種類、架橋剤を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、粒剤およびキャストフィルムを得た。得られた粒剤およびキャストフィルムについて、実施例1と同様に、溶出率測定を行なった。その結果を表1に示す。
なお、無機フィラーの配合量は、変性PVAの配合量に合わせて、組成物合計が100部になるように適宜変更した。
【0067】
【0068】
※エピクロ:ポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製、WS4002)
【0069】
表1に示すように、アニオン変性PVA系樹脂の架橋物を用いた実施例1~3では、アニオン変性ではない変性PVA系樹脂の架橋物を用いた比較例1に比して、ビスフェノールAの溶出率が低いことから、優れた徐放性粒剤であることが分かる。
また、実施例1~3は、フィルム溶出率については比較例1に比べて高いにも関わらず、ビスフェノールAの徐放性には優れるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の農業用組成物、粒剤および徐放性粒剤は、農薬活性成分または肥料の徐放性に優れるので、園芸農業や林業などの農業に好適に利用することができる。
【0071】
〔関連出願〕
本願は、2016年6月30日出願の日本国特許出願(特願2016-130268)に基づく優先権の利益を享受するものであり、その全ての内容が参照によりここに組み込まれる。